衆議院

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第4号 平成25年11月5日(火曜日)

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平成二十五年十一月五日(火曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 江崎 鐵磨君

   理事 大塚  拓君 理事 土屋 正忠君

   理事 ふくだ峰之君 理事 盛山 正仁君

   理事 吉野 正芳君 理事 階   猛君

   理事 西田  譲君 理事 遠山 清彦君

      青山 周平君    安藤  裕君

      池田 道孝君    小田原 潔君

      大見  正君    門  博文君

      神山 佐市君    菅家 一郎君

      黄川田仁志君    小島 敏文君

      古賀  篤君    今野 智博君

      末吉 光徳君    橋本  岳君

      鳩山 邦夫君    平口  洋君

      三ッ林裕巳君    宮澤 博行君

      郡  和子君    田嶋  要君

      横路 孝弘君    木下 智彦君

      高橋 みほ君    林原 由佳君

      濱村  進君    椎名  毅君

      鈴木 貴子君    西村 眞悟君

    …………………………………

   法務大臣         谷垣 禎一君

   法務副大臣        奥野 信亮君

   法務大臣政務官      平口  洋君

   最高裁判所事務総局刑事局長            今崎 幸彦君

   政府参考人

   (法務省民事局長)    深山 卓也君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    稲田 伸夫君

   政府参考人

   (法務省矯正局長)    西田  博君

   政府参考人

   (法務省保護局長)    齊藤 雄彦君

   政府参考人

   (法務省人権擁護局長)  萩原 秀紀君

   政府参考人

   (法務省入国管理局長)  榊原 一夫君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 新美  潤君

   政府参考人

   (厚生労働省職業能力開発局長)          杉浦 信平君

   政府参考人

   (農林水産省食料産業局長)            山下 正行君

   政府参考人

   (観光庁次長)      佐藤 善信君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月五日

 辞任         補欠選任

  三ッ林裕巳君     青山 周平君

  林原 由佳君     木下 智彦君

  大口 善徳君     濱村  進君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     三ッ林裕巳君

  木下 智彦君     林原 由佳君

  濱村  進君     大口 善徳君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案(内閣提出、第百八十三回国会閣法第五二号)

 裁判官の配偶者同行休業に関する法律案(内閣提出第一二号)

 裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件


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     ――――◇―――――

江崎委員長 これより会議を開きます。

 第百八十三回国会、内閣提出、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案を議題といたします。

 本案に対する質疑は、去る十一月一日に終局いたしております。

 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 第百八十三回国会、内閣提出、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案について採決をいたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

江崎委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

    ―――――――――――――

江崎委員長 この際、ただいま議決いたしました本案に対し、吉野正芳君外四名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ、日本維新の会、公明党及びみんなの党の共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。階猛君。

階委員 附帯決議。

    自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案に対する附帯決議(案)

  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 一 本法により新たに処罰対象となる罪の趣旨及び内容について、その周知徹底を図ること。

 二 第三条第一項の「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」、及びその本人の認識の程度の評価に関し、民間団体や関係学会・医療関係団体から意見を聴くなどして、その範囲が不当に拡大され、あるいは適用にばらつきが生じることのないよう留意すること。

 三 第三条第二項の危険運転致死傷罪の対象となる「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるもの」を定めるに当たっては、民間団体や関係学会・医療関係団体から意見を聴くなどして、病気及びその症状と、運転技能及び交通事故との関係について吟味・検討した上で定めること。また、当該病気を有する者に対して不当な不利益が生じないよう本罪の趣旨及び内容の周知を徹底し、病気を理由とする差別を助長することがないよう努めること。

 四 無免許運転による加重については、その施行後の適用状況を検証し、悪質な無免許運転による死傷を危険運転致死傷罪に含めることについても検討すること。

 五 無免許運転の態様を把握するため、警察の免許管理システムの変更等を検討すること。

 六 飲酒運転後のひき逃げの防止を強化するため、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の施行後の適用状況の検証を行い、その法定刑等の在り方についての更なる検討を行うこと。

 七 過労運転による重大な死傷事故を防止するため、その処罰の在り方や法技術的な観点も含めた総合的な検討を行うこと。

 八 高齢者が加害者となる死傷事故を減少させるため、抜本的な対策を検討すること。

以上であります。

 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

江崎委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 採決いたします。

 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

江崎委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。

 この際、ただいまの附帯決議につきまして、法務大臣から発言を求められておりますので、これを許します。谷垣法務大臣。

谷垣国務大臣 ただいま可決されました自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案に対する附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

    ―――――――――――――

江崎委員長 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

江崎委員長 異議なしと認めます。そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

江崎委員長 次に、裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政、国内治安、人権擁護に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 各件調査のため、本日、政府参考人として法務省民事局長深山卓也君、法務省刑事局長稲田伸夫君、法務省矯正局長西田博君、法務省保護局長齊藤雄彦君、法務省人権擁護局長萩原秀紀君、法務省入国管理局長榊原一夫君、外務省大臣官房審議官新美潤君、厚生労働省職業能力開発局長杉浦信平君、農林水産省食料産業局長山下正行君及び観光庁次長佐藤善信君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

江崎委員長 異議なしと認めます。そのように決しました。

    ―――――――――――――

江崎委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局今崎刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

江崎委員長 異議なしと認めます。そのように決しました。

    ―――――――――――――

江崎委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。門博文君。

門委員 おはようございます。自由民主党の門博文です。

 本日は、質問の機会を賜りまして、まことにありがとうございます。

 昨年の総選挙で当選をさせていただきまして、国会議員として委員会で質問させていただくのは初めてですので、どうかよろしくお願いいたします。

 私、先日、最高裁判所を見学させていただきました。国会議員に当選させていただいて、立法府の一員となりましたが、立法、司法、行政の三権分立の司法の頂点を見たことがありませんでしたので、無理を言って御案内をいただきました。

 初めて最高裁判所に入りまして、大変大きなホール、それから小法廷、大法廷を拝見いたしまして、ともに共通した印象は、まさに荘厳、そしてまた、私自身は物すごく威圧感とか恐れを感じました。やはり、法に基づいて人が人を裁く、そのことの重大さというか、そういう大切さということを改めて感じましたし、人が人にということを、少なくとも最高裁判所というあの一つの装置としての空気の中でそういう重大な決断がされているんだなというふうに思いまして、大変法律、法の大切さを改めて感じたところであります。

 そこで、この法務行政に携わる谷垣大臣以下皆様ですが、本日は、このたび副大臣に御就任をされました、そしてまた、大臣政務官に御就任をされました、奥野副大臣、平口政務官から、それぞれの法務行政に携わる意気込みをお聞かせいただきたいと思います。まず奥野副大臣、よろしくお願いいたします。

奥野副大臣 意気込みと言われますと大変緊張いたしますが、私は、人生百年とは言いませんが、人生八十年ぐらいで考えてみますと、六十年間、民間企業で働いてまいりました。政治の世界へ入って約十年でありますが、まだまだ政治の世界ではひよこだというふうに自覚しております。

 そうした中で、やはり、法務副大臣という大変な重責でありますから、民間時代に培ったいろいろな考え方、あるいは民間時代のノウハウ、経験というものをうまく駆使しながら、多くの人たちの意見を聞いて、そして国民が納得するような政治運営をしていきたいな、こう思っている次第であります。

 特に、谷垣大臣が安倍総理から就任のときに依頼されております世界一安全な、安心して暮らせる日本、そういったものをつくるためにどう対処するべきなのかということを具体的にこれから積極的に詰めていかなくてはいけないと思っております。

 そういう日本の国の社会をつくるためにどうするべきなのかというのを、先ほど申し上げたような過去の人生経験の中から学んだ教訓というのは、私は、いろいろな人の意見を幅広く自分の体に吸収するということだろうと思っておりますので、そういったことを通じて、皆さん方に納得していただける政治をやっていきたい。意気込みというよりは、そういう考え方で進めてまいりたいと思っております。

門委員 どうもありがとうございました。

 引き続き平口政務官、よろしくお願いいたします。

平口大臣政務官 このたび法務大臣政務官を拝命いたしました平口洋でございます。

 法務大臣政務官として、谷垣法務大臣、奥野副大臣をしっかりとお支えし、また力を合わせて、日本という国が法の支配の行き渡る、社会正義が正しく支配する国になるように励んでまいりたい、このように思っております。

 また、社会全体が決まりを守り、全ての国民が安心して生活を送ることができるように最大限努力をいたす覚悟でございます。よろしくお願いいたします。

門委員 どうもありがとうございました。

 谷垣大臣を先頭に、法務省の皆さん、そして最高裁判所の皆さんともども、安心、安全の日本をおつくりいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 それでは、質問に移らせていただきますけれども、私は、本日、二つのテーマで質問させていただきたいと思っております。時間の配分がうまくとれるかどうかわかりませんけれども、何分初めての経験ですので、どうか御協力よろしくお願いいたします。

 まずは観光立国に関して、そして次に刑務所についてお尋ねをさせていただきたいと思います。お手元には資料をそれぞれお配りさせていただいておりますので、随時御参考にしていただければと思います。

 まずは観光であります。

 私は、国会議員にならせていただく前は、大学を出てずっと二十三年間、民間会社で仕事をしておりまして、それもほとんどが観光事業に携わってまいりました。特に、故松下幸之助さんが昭和二十九年に「観光立国の弁」というのを世に発表されておりますけれども、その松下幸之助さんが自分の意思を実現するために設立をした会社で長らく勤めさせていただきまして、観光は私にとって、立場が変わっても共通のテーマだというふうに今も思っております。

 御承知のように、アジアの諸国が栄えて、いよいよこれから観光が本当にこの国の大きな産業に成長していく兆しが見えてきたと思いますし、またそうしていかなければならないとも思っております。

 そこで、本日は観光庁の方にもお越しいただいておりますが、改めて、日本の観光、特に訪日外国人旅行客の集客の取り組みについて、まずは観光庁から概要について御説明をいただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

佐藤政府参考人 観光庁より、訪日外国人旅行者数について御答弁をさせていただきます。

 門先生が資料を配付されておられますけれども、その後ろから三ページ目ほどに横長のこういった資料がついているかと存じます。それを御参照いただければと存じます。

 まず、これまでの推移でございますけれども、ビジット・ジャパン事業を開始した二〇〇三年には、訪日外国人旅行者数は五百二十一万人でございましたが、二〇一〇年にこれまでの最高である八百六十一万人に達しております。その後、二〇一一年は東日本大震災の影響で六百二十二万人に減少しましたが、昨年、二〇一二年は八百三十六万人まで回復したところでございます。

 次に、本年につきましては、一月から九月までの合計で、前年同期比二二・四%増の七百七十三万人となっております。史上初の年間一千万人の達成が視野に入ってきてはいるものの、引き続き年末まで予断を許さない状況となっていると考えております。

 それから、今後の目標でございますけれども、本年六月に、安倍総理主宰の観光立国推進閣僚会議において決定されました観光立国実現に向けたアクション・プログラムにおきまして、本年、史上初めて訪日外国人旅行者数一千万人を達成し、さらに二千万人の高みを目指すこととされております。

 今後とも、観光立国の実現に向け、政府一丸となり、また民間の御協力も得ながら、訪日促進に積極的に取り組んでまいる所存でございます。

門委員 今御説明をいただきましたとおり、現状も非常に右肩上がりの推移をしておりますし、また、この先、大きな目標を掲げての取り組みであります。これはまさに、観光庁だけではなくて、国を挙げて取り組まなければならないことだと思います。

 そこで、谷垣大臣にお伺いします。

 法務省における観光立国に対する決意、そういうものがありましたら、ぜひお聞かせいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 私は、前に、短い期間ですが国土交通大臣を務めたことがございまして、その国土交通省の政策としても、観光立国は極めて大事であるということでございました。

 今我が省、法務省の政策としても、やはり日本にもっともっと来ていただきたい、そして日本のよさを十分に味わっていただきたい、このように思っております。そのことが日本の国際的な位置も高めることになりますし、人口の減少している中で、人にたくさん来ていただくということが日本経済の活性化にもつながっていく。

 それから、すぐれた歴史と文化を持っている日本の情報発信という意味においても、意味があると考えておりまして、我が省でこれを関与するのは入国管理行政でございますが、まず、日本に来ていただくときに、やはり犯罪を犯すような人に余り来ていただいては困るわけですが、日本に来てよかったなと思っていただけるように入管行政としても努力をしていきたい、このように思っております。

門委員 ありがとうございました。

 先ほど説明のときにも、資料をお手元の方にお配りしていただいておりますけれども、実は、この数字なんですけれども、一般の国民の方がどれほどこのことを今実感しているかということに、私はまだまだ浸透が足りないのではないかなというふうに思っております。一日も早く高い目標を達成していくためにも、国民全体が、この観光立国、外国人旅行客の獲得に強い関心を持って取り組んでいかなければならないと思うんです。

 そこで、出入国管理、入国管理局について御質問させていただきたいと思います。

 現在、外国人の出入国について、その人数、目的などの統計について、どのような数字が整理されているか、簡単にで結構ですけれども、当局から御説明いただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

榊原政府参考人 お答えいたします。

 訪日外国人の出入国に係るデータに関しましては、各空海港での出入国審査の際に、国籍、氏名、性別、生年月日等の情報をデータとして取得することにより把握しており、当該データから日別の外国人出入国者数を把握しております。

 入国管理局といたしましては、このような訪日外国人のデータを的確に把握しており、観光立国の実現に向けた業務運営のためにこれらを活用しております。

 公表しているデータといたしましては、月別の速報値や港別出国日本人数・入国外国人数、国籍・地域別入国外国人数などを公表しているところでございます。

門委員 ありがとうございます。

 いろいろなデータを入国管理の業務の中でおとりいただいておるんですけれども、私が今回の質問で一つお願いをしたいことは、その数字がいつわかるか、いつその数字を発表できるかということなんですが、この暫定数字とかそれから確定数字がどういうタイミングでレポート、報告をされているか、お聞かせいただけますでしょうか。お願いします。

榊原政府参考人 毎年の統計につきましては、毎年末で締め切った後、二、三カ月後に集計したものを公表させていただいております。また、月別のものにつきましても、毎月末で締めまして、翌月または翌々月ぐらいには公表しているところでございます。

 ちょっと日時については、今正確にはお答えできませんので、御容赦ください。

門委員 冒頭私はお話をさせていただきましたけれども、ずっと民間会社で仕事をしておりまして、ホテルの現場でも働いたことがあるんですけれども、例えばホテルでしたら、当日の売り上げというのは夜中のうちに集計されまして、翌日の朝には、そこのホテルの総支配人であり、そして経営幹部にきのうの状況が数字によって報告をされます。また今日、全国チェーンのファストフードとかスーパーマーケットにPOSシステムのようなものが入っていますと、リアルタイムに本部でその数字を把握することができるような状況になっています。

 御承知かどうかわかりませんけれども、民間ではいろいろな決算というのもありまして、年度決算とか月別決算とかいろいろあるんです。

 私は、サラリーマンのときによく叱られたんですけれども、例えば、きょうは十一月五日ですが、十月三十一日に十月度の決算が終わって、それがいつレポートされるかということになって、これが十一月の末とかまた翌月の十二月の頭ぐらいになると、数字の価値が大きく低下している。やはり数字というのはリアルに報告をされて、その数字を受けて適宜何ができるかということを大切にしなければいけないということを、よく当時の上司からも指導をされました。

 今の訪日外国人数というのはそんなにリアリティーを求めなくてもいい数字なのかもわかりませんけれども、ぜひとも、いろいろなコンピューターとかそういうシステムが今配備されていると思いますので、日々の報告ができるように今後御検討をいただけたらと思うんですけれども、その点についてお聞かせいただきたいと思います。

榊原政府参考人 毎日のデータにつきましては、利用者の方から希望されるお声に比べまして作業が膨大なものですから、日別の統計資料を作成、公表することは現在のところ予定しておりません。

 日別でどういった外国人の方がどういった港にどういった船舶や航空機を利用して入国されるかということにつきましては、入国管理局といたしましては、やはり事前に把握いたしまして、人員の配置等に利用させていただいているところでございます。

門委員 ありがとうございます。

 ぜひ少しでも前向きにお取り組みいただけたらと思いますし、私はちょっと突拍子もないことを考えているんですけれども、さっき申しましたように、外国人旅行客が日本に来ているということの実感が一般国民の中に余りないので、できれば今のことを数字でまとめていただいて、例えば、新聞の天気予報の横に、きのう日本に外国人旅行客が何人来日したのかというインジケーターを公表してもらうとか、それから、ニュースでよく株価とか為替の報告がありますけれども、あれと同じようなことで、ビジット・ジャパン、きのう日本に観光客が何人訪れたかということを、何かそんなにコストがかからなくてやれるのであれば、そういう数字を確保してもらって伝えていただくと、もっと裾野から、これから日本は外国人の旅行客もたくさん受け入れて一つの産業にしていくんだという機運が高まってくるようにも思いますので、ぜひともよろしくお願いをいたします。

 次に、同じく入国管理に関連してですけれども、きのう、こういう質問をさせていただくために、私は大阪の南港にあります国際フェリーターミナルの入国審査場を見学させていただいてまいりました。大変熱心に、大変親切に皆さん入国審査の作業をされているところを拝見しまして安心をしたんですけれども、やはり入国審査官というのは、外国の方々が日本へ入ってきたときに初めて出会う日本人である可能性も非常に大きい。もちろん、取り締まりをするということも、さっき大臣もお話をされていましたけれども、来ていただきたくない、入れちゃいけない人たちをそこの水際でいろいろ手だてするということも大事ですけれども、ほとんどの方々は善意で、これから日本へ来て楽しもうよというふうに来られていると思います。そういう方々に、例えば仏頂面で無愛想な対応をしていますと、これは日本の最初の印象がよくなくなると思いますので、その点について、何か今お取り組みされていたり、今後、例えば笑顔の研修をしようとしているとか、そういうようなことがございましたら、ぜひお聞かせいただきたいと思います。よろしくお願いします。

榊原政府参考人 入国管理局におきましては、職員の採用直後の研修など、複数の研修におきまして、カリキュラムに接遇の講義を盛り込み、職員一人一人に接遇の重要性の意識づけと接遇能力の向上を図っております。接遇のカリキュラムでは、外国人に対応する場合の表情、態度、話し方や言葉遣いなど接遇に関する基本的な事項を学ぶこととしており、笑顔の重要性についても取り上げられております。

 今後も、職員の接遇能力の向上を図り、入国審査官が笑顔でホスピタリティーを持って訪日外国人を迎え入れられるように努力してまいります。よろしくお願いいたします。

門委員 ありがとうございました。

 ぜひともその点を柔軟に御対応いただいて、繰り返しになりますけれども、取り締まりをするその審査官という役割は本当に重要なことはわかっているんですけれども、今お話にもありましたように、ホスピタリティー、この間、オリンピックの誘致のときに、まさに、おもてなしと言ったわけですから、その点も含めて、今までの入国管理業務にプラスアルファして、その点、頑張って取り組んでいただきたいと思います。

 そしてまた、きのう行きまして感じたことは、それは仕方がないことなのかもわかりませんけれども、やはり建物とか内装も随分と殺風景です。空港は比較的、海外から入ってくる人たちが入ってきたらすぐ土産物屋があったりとか売店があったりいろいろなことがあるんですけれども、港の風情というのは、やはりどうしても物流が中心になっていますから、殺風景な入り口になっているような気もしました。

 ぜひとも、それは法務省だけの問題じゃなくて、それぞれの機関の協力を得なけりゃいけないでしょうけれども、例えば花を置いてみるとか、内装の色味を明るくしてみるとか、それから、歓迎とかウエルカムとかというようなサインも同時に整備をしていただけたらなというふうに思っております。

 いずれにいたしましても、この法務省の入国管理局のお仕事が、従来のお仕事にプラスアルファして、観光立国の触角、最先端のところにぜひとも触れていただくというふうにしていただきたいと思います。この観光の質問の最後に、改めてまた谷垣大臣から、観光立国の触角、入り口のところの、特に入国管理行政、業務について一言、お言葉をいただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

谷垣国務大臣 先ほど申しましたように、私、かつて国交大臣をやらせていただきまして、ちょうど観光庁ができるころでした。そのころは観光庁は、法務省ないし警察に、もっと人をどんどん、観光客をどんどん入れるような施策、ビザなんかももっと緩やかに出せないかとか、あるいは入国審査なんかもっとスピードアップできないかというようなことの要望を出し、どちらかというと、法務省や警察の方はそれに対して守る立場だったというふうに思います。

 しかし今度、私、この役所に来てみますと、入国管理局におきましても、やはりそういう課題を正面から受けとめなければいけない、そういう雰囲気と申しますか気分が随分高まってきたなと思っております。いろいろ課題もございますが、今委員の御質問の趣旨も踏まえまして、そういういい雰囲気になってきているわけですので、さらにこれを推し進めてまいりたいと思っております。

門委員 どうもありがとうございました。

 少し時間がなくなってきたんですけれども、それでは、次の刑務所について質問を移らせていただきたいと思います。

 さきの通常国会のときに、私はこの委員会の皆さんとともに、栃木の喜連川社会復帰促進センター、そして女子刑務所も見学させていただきました。その後、私の選挙区に和歌山刑務所というのがあります。こちらも女子刑務所ですけれども、前法務委員長の石田代議士と一緒に見学に行かせていただきました。三カ所ですか、見学をさせていただきまして、率直に思いましたのは、外側から思っていた塀の中、刑務所の中というのと、現実はやはり厳しい面が多々あって随分違うなというふうな思いもありました。

 そこで、大臣の所信でもお触れになっておりますが、特に再犯防止について、改めて大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 去年の七月、民主党政権時代でございましたが、犯罪対策閣僚会議で再犯防止に向けた総合対策が決定されまして、政権交代が起こりましたけれども、これを基本としてやっているわけでございます。

 これは、ずっと昭和二十三年以来統計をとってみますと、再犯者が三割を占めている。その三割の人で六割の犯罪が行われているということですから、再犯を防ぐことができるような手だてを講ずると、犯罪の数も少なくなるし、また社会の安心、安全、先ほどおっしゃった世界一安全な国日本というのを取り戻すためには一番有効な手だてではないか、このように思っておりまして、これは政府全体挙げて取り組む必要がございます。

 そういう中で、何が必要かということになりますと、特に申しますと二つ。

 一つは、対象者、犯罪者の特性に応じた指導及び支援の強化、つまりアルコール、薬物犯罪であるとか、あるいは性犯罪であるとか、その人たちに応じたプログラムをきちっとつくっていく。そしてもう一つは、居場所がなきゃなりません、社会に帰った後。それは、住居、どこに住むかということと、それから、やはり仕事がない人はどうしても再犯を犯しやすいということでございますので、この二点、省内のプロジェクトチームにおける検討を踏まえまして、実効性のある施策を推進していかなければならぬと思っているわけでございます。

 これは、とりわけ、政府が頑張るというだけではうまくできないところがございます。関係省庁間の連携ももちろんなんですが、自治体あるいは民間団体、企業、それから地域というものが大事ですね。国民の皆さんの広い御理解のもとにこういうことを進めていきたいと思っておりまして、法務省としては、これをいわば政策の第一順位としてこれからも精進をしたいと思っております。

門委員 ありがとうございました。

 私、きょう、刑務所に関連した質問をさせていただくについて、杉良太郎特別矯正監にちょっとお話をさせていただきまして、お手元にお配りさせていただいた資料の一番後ろの方に、杉さんのことしの夏ごろの産経新聞の記事をコピーさせていただきました。

 ここに書かれているようなことを今御質問させていただこうと思っていたんですが、時間の方ももう少なくなってきました。こちらに書かれていることは、もう我々以上に刑務所の慰問とか刑務所の皆さんにかかわった杉さんの実態を踏まえた意見がここに記載されていますので、ぜひとも皆様方も御参考にしていただいて、そしてまた私たちも参考にしながら、再犯防止に取り組んでいっていただきたい、まいりたいと思います。

 それでは、最後の質問になりますけれども、特に私が感じましたのは、女子刑務所の中の、今度は受刑者じゃなくて、刑務官の皆さんの非常に過酷な労働条件と、それから、勤続年数とか採用とか、なかなかいろいろな問題を抱えているように聞きました。予想以上に高齢者の受刑者も多かったり、外国人の受刑者も予想以上に多かったのも現実に目の当たりにしています。

 地方で、この女子刑務所で、特に働く女性の刑務官の処遇改善について、もう全く時間がなくなってきて恐縮ですけれども、総論的に当局から、概要等、課題、そして今とられている対策等を簡潔にお答えいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

西田政府参考人 お答えいたします。

 まず、刑務官でございますけれども、実は女子刑務所に限りませんで、勤務体制としては非常に過酷な状況にございます。

 具体的に申し上げますと、現場の第一線の交代制勤務の職員でございますけれども、この者たちの年次休暇、いわゆる有給休暇でございますけれども、年間に四・六日しかとれておりません。これは国家公務員の年次休暇の平均の取得日数の十三・三日から比べますと非常に大幅に下回っているという状況にございまして、女子刑務所も実は同じような状況でございます。

 加えまして、女子刑務所につきましては、採用後すぐに離職、退職する職員が多うございます。これも、男子が採用後三年未満に離職する率が一一・九%というものに比べまして、女子の刑務官は三四・三%という状況でございます。

 今、我々、内部もそうでございますし、外からも皆さんからいろいろなアドバイスをいただいておりますので、まず、いろいろな問題が凝縮している女子刑務所の方からいろいろな対策を講じまして、刑務官全体、矯正施設全体の勤務環境の改善に努めていきたいというふうに考えております。

 以上でございます。

門委員 ありがとうございます。

 ぜひとも、現場の状況を改善するためにも、そしてまた地方は、違った言い方からしますと、非常に就職難でもあります。地方の学校を出た人たちが、地元にある刑務所でまた働きたいと思っても、これは現実なかなか、試験もありますから、受けたけれども受からなかったという話もよく聞くので、何かそういう折り合いのつけられるような新しいシステムを含めて御検討いただきたいと思います。

 時間もありませんので、これで質問を終わらせていただきますけれども、ぜひとも、安全、安心、そして幸せな社会をつくるために、そして、先ほど冒頭お聞きしましたけれども、観光についても法務行政の中でまた積極的に取り組んでいただきますようお願いいたしまして、私の質問を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。

江崎委員長 続きまして、郡和子さん。

郡委員 民主党の郡和子でございます。

 私も、入管行政について質問をさせていただきたいというふうに思います。

 まず、途上国への我が国の技術移転、国際貢献を目的に創設をされました外国人研修それから技能実習制度、これを伺いたいというふうに思います。

 国際貢献という建前ですけれども、実は労働力不足対策になっているのではないかとこの間指摘をされ、そしてまた、そのはざまで外国人の研修生、実習生が人権侵害を受けているということもたびたび指摘をされてきたわけでございます。

 改正入管法で新たに技能実習という在留資格を創設することにいたしまして、従来の実務研修段階でも労働法を適用することといたしました。他方、研修資格は公的な研修と非実務のみの研修に限定され、その結果、二〇一二年末の数字ですけれども、外国人研修生は千八百四人に減少した一方、同時点での技能実習生は十五万千四百七十七人にも及んでおります。

 法務省は、この技能実習制度における不正行為について、類型別に認定件数を公表しております。きょう、私の資料をお配りしているかと思いますけれども、資料一にございますけれども、新しい入管法が施行された二〇一〇年七月以降の事案で、旅券、在留カードの取り上げ、保証金の徴収等、暴行、脅迫、監禁、人権を著しく侵害する行為の認定件数、これはゼロと発表されています。

 法務省入管局は、これらの不正行為の実態を把握できていないのではないかというふうに私は思っているところです。いかがでしょうか。また、不正行為を含む不適正な行為に対してどのように対処しているのか、お尋ねします。

榊原政府参考人 お答えいたします。

 法務省入国管理局におきましては、従来より、不適正な受け入れを行っている疑いのある技能実習実施機関や観光団体等に対しましては実地調査を実施いたしまして、不正行為が認められたものにつきましては、その類型別に応じて、最長で五年の受け入れ停止をするなど、厳格に対応しているところでございます。

 先ほど御質問にありましたような不正行為の類型につきましては、御指摘のとおり、現行制度が施行されました平成二十二年七月以降の事案につきましては不正行為を通知したものはございません。

 ただ、技能実習生本人等から暴行、脅迫、監禁のような重大な人権侵害の申し立てが仮にありましたら、警察等に通報するなどして適切に対応するようにしております。

 そのほかの不適正な受け入れに関しまして、何よりもその受け入れを早急に停止することが必要となりますので、詳細な調査をしたわけではありませんが、例えば、御指摘のような、保証金の徴収などを含む複数の違反の疑いがある事案につきましては、調査の過程でそのほかの賃金の不払いなどが証拠書類等によりまして確実に認定されましたならば、その段階で、賃金の不払い等による不正行為を通知いたしまして、直ちに技能実習生の受け入れを停止させるようにしているところでございます。

 すなわち、このように技能実習実施機関の技能実習生のさらなる受け入れを停止させるとともに、人権侵害を受けた技能実習生が、技能実習先を変更するなどして、早期に人権侵害の状況から救い出されることになりますので、技能実習生の救済という目的を優先させているところでございます。

 いずれにいたしましても、技能実習生本人から不適正な受け入れについての相談が地方入国管理局等にございましたら、その内容に応じまして適切に対応するようにしており、今後ともさらに、技能実習生の立場に立って適切に対応してまいります。

郡委員 今、長々御説明ありましたけれども、認定件数はゼロであります。意に反する強制帰国、これも人権を著しく侵害する行為に該当するとされていますけれども、これについてもゼロであります。ですけれども、実際にはございます。

 二〇一一年に妊娠を理由に強制帰国、解雇されたのは無効という判決が富山地裁で出されて、ことしの八月に確定をしております。きょう配った資料の中にも、来日時に、これは研修時代なんですけれども、不当な約束を強いる会社も現存しているわけでございます。

 全く不法行為をカウントできていない、不適正な不法行為がゼロだというふうにおっしゃっていますけれども、これは調査能力の方がゼロだというふうに言えるんじゃないだろうか、私はそう思っています。

 二〇〇九年の改正入管法の採決に当たりまして、この「制度の在り方の抜本的な見直しについて、できるだけ速やかに結論を得るよう、外国人研修生・技能実習生の保護、我が国の産業構造等の観点から、総合的な検討を行うこと。」という附帯決議をつけさせていただいたところです。

 今、そういう中ですけれども、政府の規制改革会議の創業・IT等ワーキング・グループの中で、経済団体などが、この技能実習期間の三年から五年への延長という要望を出されております。私は、衆参で出された附帯決議に鑑みて、技能実習制度の抜本見直しによる制度の適正化による不適正事案の一掃、そしてまた、技能実習生保護の抜本的な強化がないままに期間延長ばかり進めるというのでは、到底認められないというふうに思いますけれども、いかがでしょうか。

榊原政府参考人 技能実習制度の今後のあり方につきましては、法務省におきまして、今後、法務大臣の私的懇談会であります出入国管理政策懇談会の分科会におきまして、技能実習制度のあり方を検討していただくことにしております。

 その制度の見直しに当たりましても、当然、不適正な受け入れの防止の強化を図っていかなければならないと考えております。

郡委員 私は、外国人労働者の導入策については、労働権の保障、それからまた労働市場の健全な機能の確保、これを図りながら制度設計されなければならない、そう思っています。人権侵害が放置されていることに対して国際機関からも懸念の報告書が出され続けているということを真摯に受けとめて、分科会でも検討を進めていただきたいということを御要望いたします。

 次は、送還忌避者の送還についてお尋ねします。

 ことしの法務省の入管予算に、外国人のいわゆる送還忌避者の民間チャーター機による集団国費移送のための予算が計上されました。そして、谷垣法務大臣の記者会見によりますと、去る七月の六日、送還を忌避していたフィリピン人七十五人が本国に送還をされたということでございます。チャーター機による国費送還というのは、日本では初めてのことだというふうに思います。

 個別国費送還者のうちいわゆる送還忌避者は、二〇〇七年から二〇〇九年まで毎年百名を超えていたわけですけれども、二〇一〇年にはこの送還者が二百九十一名中三十二名に激減し、そしてまた、二〇一一年は二百三十一名中ゼロ、昨年も百九十一名中ゼロであります。これも資料に加えさせていただいておりますので、その数字を御確認いただきたいと思います。

 二〇一〇年に送還忌避者が激減をして、おととしと去年は送還忌避者は一人もいなかったわけです。そして、ことし七月に一挙に七十五人に急増したのはなぜでしょうか。

榊原政府参考人 お答えいたします。

 二〇一〇年三月に強制送還中の男性が亡くなられた事案の発生を受けまして、事案の解明や、原因の特定に努めるとともに、送還忌避者を安全かつ確実に送還するため、各種要領の改正や護送、送還担当者の実技訓練等を行いまして、あわせて、チャーター機による集団送還についての検討を重ねてまいりました。その間、護送官つき送還を行わない時期がございましたけれども、調査を終えまして、さまざまな準備も整ったことから、個別の護送官つき送還を再開するとともに、今般の送還忌避者七十五人の集団送還を実施したものであります。

郡委員 今の局長が御説明になった死亡事故、事件といいましょうか、調査が終わったということですけれども、これはまだ民事で争われている最中だというふうに承知をしております。

 国費送還が本来は原則であるわけですけれども、この間の実態を見てみますと、自費出国が通例化しておりまして、九割以上がそのような状況です。自費で帰られるということです。いわば、国費送還は今例外的な措置になっているということだと思うんです。

 今回、七十五人のフィリピン人の忌避者の方々ですけれども、この方々が何で送還を忌避していたのかしっかり調査できていたのかを明らかにしてまいりたいと思っています。

 送還をされるときに、個別の送還では、航空機内で手錠などを使用するんでしょうか。それから、チャーター機を使用した集団国費移送の場合、航空機内で手錠を使用するんでしょうか。七月六日の七十五名の送還の場合はどうだったんですか。

榊原政府参考人 航空機が飛行している最中は、特にその安全確保が求められるものですから、送還忌避者の送還に当たりましては、状況に応じて、個別の送還におきましても安全確保のために手錠を使用しているところでございます。

 今回のチャーター機を使用した集団送還におきましても、被送還者の方々はもともとかたくなに送還を忌避したものでありますから、手錠を外した場合に物理的な抵抗に及ぶ可能性がなくなったわけではありませんので、航空会社の要請もありましたことから、成人男性につきましては安全確保のために手錠を使用しております。また、女性や子供については使用しておりません。また、機長の了解を得た後は、成人男性の方々につきましても手錠を外しております。

郡委員 局長、今の、成人男性については安全の確保のためというのは、これは要するに、安全は、その男性のための安全ではなくて、送る側の安全ですよね。全て男性には手錠をかけたというふうな御説明であったと思います。

 食事の際も、それからトイレに入る際も外さず、トイレの扉も閉じることは許されなかったと聞きました。手錠は、逃走や、今お話しになったように、設備の破壊、自損などを防止するために使用するのだという説明でありましょうけれども、入管の施設を出るところから、成田に着いて、そしてまた飛行機に乗ってマニラに着くまで長時間にわたって手錠をはめられたままです。そして食事やトイレの際も使用し続けるということは、これは、日本も締約国になっております国連の拷問等禁止条約が禁止する、公務員による非人道的または品位を傷つける取り扱いに抵触するのではないでしょうか。

 本年度予算の計画では、これから何人を送還する見込みでしょうか。今年度中にさらに集団国費送還はあり得るのかどうか。それからまた、七月の六日に集団国費送還した七十五名の送還忌避者、どのような基準と手順を経て選考されたのでしょうか。教えていただきたいと思います。

榊原政府参考人 集団送還を今後どのような形で実施するかにつきましては、実施するかどうかも含めまして現在検討中でございますので、今後の見込みについてはお答えすることができません。

 また、今回の集団送還を実施いたしました七十五人につきましては、送還を忌避している理由や収容期間の長さ、家族関係や健康状態等を総合的に判断いたしまして、最終的に法務本省において慎重に選定したものでございます。

郡委員 今、慎重に審査をしたということであります。

 選定基準の一つに挙げられている収容期間、この収容期間については、七十五人のうち、退去強制令書発付から六カ月以内だった人が二十二人おられます。そして、訴訟の準備をされていた方、こういう方も含まれております。そういう皆さんたち、裁判を受ける権利というのはあったんだろうというふうに思うんですよ。

 そして、私自身は、これが特に重要だなというふうに思っているのは、家族関係だと思っています。送還された者の中に、二十年以上にわたって日本で働き、家族を設けるなどして生活基盤を築いてきた人というのもいらしたんじゃないですか。これは、法定婚ではないけれども、いわゆる事実婚の状態にあった人、含まれていませんか。選定基準の家族関係には、事実婚は含まれないのですか。

榊原政府参考人 今回実施しましたチャーター機による集団送還の対象者の中には、法律上の婚姻関係にない交際相手の存在を理由に送還を忌避していた方々もいらっしゃいました。これらの方々につきましては、個々の事情を総合的に勘案した結果、対象者を選定した次第でございます。

 また、事実婚の評価につきましては、一般論といたしましては、具体的な生活実態のいかんによって家族関係のあるものと同等の評価をする場合もあります。

郡委員 一般的にはというふうにおっしゃいましたけれども、今回、そういうふうな方々がおいでであったというふうに聞いております。

 法的な婚姻関係ではないけれども、日本人または正規在留外国人の交際相手が存在することを理由に送還を忌避していた人、これが三十人いた。さらに、相手方との子供があると主張した、そういう男性も七人含まれていた、そういうふうに承知しています。法的な結婚はしていないけれども、家族形成がなされていた送還忌避者が含まれていて、子供が日本にいるままの者もいたわけです。

 これは、国際基準、自由権規約、子どもの権利条約からいいますと、家族の分離に当たります。私自身は、これは人権上の問題があるというふうに考えますけれども、いかがでしょうか。

 それから、さらに詳しく述べれば、国連の自由権規約及び子どもの権利条約はいわゆる家族の結合を保障しておりますけれども、法務省は、子どもの権利条約第九条1は、出入国管理法に基づく退去強制の結果として児童が父母から分離される場合に適用されるものではない、こういう解釈を宣言しておられるのですね。

 しかし、国際人権規約あるいは国際法の人権規約から見ましても、事実婚を家族関係とみなさないかのような考え方、また、子供の権利を認めないような条約解釈、これはぜひ見直されるべきだと考えますけれども、いかがでしょうか。

谷垣国務大臣 退去強制、送還、この基本的な法務省の考え方をまず申し上げたいと思います。

 それは、退去強制手続におきましては、不法滞在等の外国人に対して、在留を特別に許可するかあるいは否かの判断をするわけですが、個々の事案ごとに、家族関係を含む諸般の事情を総合的に勘案しております。先ほど局長が申しましたが、その中で、事実婚は全てだめだというような判断をしているわけではございません。諸般の事情を判断するに当たりまして、事実婚を優先して考えるということはございます。

 それから、法律的に親子関係が証明されないような子でありましても、具体的な生活実態のいかんによっては、家族関係にあるものとして扱っている場合がございます。そのように、種々の事情を勘案して判断をする。

 そして、その上で、退去が決定した者については、日本国内で他の者と法律上の夫婦、親子関係がある場合でも、法令に基づき速やかに送還する、こういう考え方で行っております。

 委員は国際的な基準とおっしゃいました。子どもの権利条約とおっしゃったのは児童の権利条約のことですよね。その児童の権利条約を踏みにじっているとおっしゃいましたが、先ほどのような、事実婚やあるいは法律上の親子関係が必ずしも証明されない場合でも実態的に認めている場合があるということに加えまして、我が国は、児童の権利に関する条約第九条の1については、退去強制の結果として児童が父母から分離される場合があるという解釈宣言を行っておりまして、これを要するに批准、承認しますときに、そういうことを前提に批准、承認をしたわけでございます。

 それから、市民的及び政治的権利に関する国際規約は、締結国の法律に基づく退去強制を排除ないし制約する内容の規定ではございません。

 そういう意味から申しますと、今おっしゃったような国際基準の観点からも、私は、特段の問題は生じない、このように考えております。

郡委員 大臣、認めている場合があるというふうにおっしゃられました。それは役所からのそういうふうな説明なんでしょうけれども、実際の件数をしっかり見ていただきたいと思いますよ。認める場合もある、認めている場合もある、実際の件数、何件あったんですか。

榊原政府参考人 先ほど申し上げました、法律上婚姻関係にない方々で、日本に交際相手がいるというふうな形で主張されていた方の送還の人数は、約三十名というふうに把握しております。

郡委員 今の答弁は私の質問に答えていないじゃないですか。だから、そういう人がいるけれども、送還されたんですよ、その人たち三十人は。

 写真を見てください。私の資料の中の一番最後につけさせていただきました。家族が帰されちゃって、会いたくて会いたくて仕方がなくて、ちょうど訪ねていったときに、民間の団体が調査に入りまして撮った写真です。

 家族保護の条約上の要請はこうです。確かに、御説明されているように、家族が存在しているか否かの判断においては、血のつながりと関係を構築する法的形式に加えて家族の存在が必要不可欠であると考えられており、その際に重要なのは、ともに暮らしていること、経済的つながりまたは集約的な他の形式と定期的なつながりであるとされていて、これを守りなさいというふうに言われているわけです。

 私は、二〇〇九年七月に在留特別許可に係るガイドラインが新しくなったんですけれども、このガイドラインの合法化の対象範囲は非常に不十分です。そのことを申し上げたいんですね。

 余り時間がなくなりましたので、大臣に、七月九日の記者会見でしたか、この七月六日の強制退去忌避者の集団送還の件で記者に問われて、安全かつ確実に送還を実施することができる、また、送還費についても三分の一から四分の一になりますというふうに利点を挙げられた上で、ということからこういう形で実施したというふうに述べられました。そして、退去強制送還が人道的な観点にも配慮した上で適切に執行されなければならないともおっしゃったわけです。

 しかし、果たして送還される人々にとって安全だったんでしょうか。トイレに入る際も手錠はそのまま、食事をする際も手錠はそのまま、長い間手錠を外されることなく、中には御家族で帰された方々、お子さんがお父さんの手錠をはめられる姿も目の当たりにしているわけです。

 人道的に配慮して実施されたのかどうか、人権が守られたのかどうか、これまでの質問を踏まえ、お答えいただきたいと思います。

谷垣国務大臣 私の記者会見の発言で、コストが安くかかるというところを取り上げてお話しになりましたけれども、私はそれだけを強調したわけではありません。

 従来、退去強制が決定しているけれども忌避されている方々、こういう方々には、例えば飛行会社などから、送還を阻止する目的で迷惑行為に及んだりするということがあったものですから、搭乗を拒否されるというような場合がなかったわけではありません。そういうことも考えますと、こういう方法が一つあるではないかということであります。

 それから、もちろん、その際に人道的な配慮をしていくことは当然のことでございまして、例えば一人一人に医師をつけるというのはなかなか難しい場合も場合によっては出てくるかもしれません、その健康状態に十分留意した上で、急病等に備えて機内に医師や看護師等を同行させる、こういったこともやれるメリットがあり、事実、そういうことを行ったわけでございます。

 それから、送還に当たりましては、法令に従うことはもちろんでございますが、送還先の政府、この場合はフィリピンでございますが、帰国後の支援を申し入れまして、フィリピン政府から相応な実施が見込まれることも確認をいたしまして、同行した医師において診療状況の提供が望ましいとされたものには、診療情報を英訳の上、フィリピン政府に提供する等々の配慮もして実施したものであるということは、御理解いただきたいと思っております。

郡委員 不法滞在者がこの国にいるということが望ましくないのは当たり前のことだろうというふうに思いますけれども、私は、なぜ忌避をするに至ったのかというところをもう少し丁寧に聞いていただきたいと思います。

 二十二年間日本で暮らして、定住者の延長申請をうっかりし損なったばっかりに入管に収容されて、まさに退去強制令書の取り消しの裁判を弁護士とともに進めようとしていた、進める準備をしていた。そして、残念ながら、タガログ語も話せない、そういう方も含まれていました。少なからず、家族離散が起きた可能性もあるわけです。

 日本人や正規滞在者と家族的なつながりを持つ者、日本での滞在が長期化して母国でつながりを失った者、迫害のおそれがあって帰国できない難民申請者など、帰るという選択肢をとることができない状況にいる非正規滞在者もいるだろう。排除だけで本当によろしいんでしょうか。

 法務省は、七月の六日に送還された人たちの再度の審査、調査を改めて行うべきだと思いますし、そしてまた、強制送還の実施については慎重にかつ十分に検討することを求めまして、私の質問を終え、残余の時間を同僚議員に譲りたいと思います。

 ありがとうございました。

江崎委員長 それでは、引き続きまして田嶋要委員。

田嶋委員 おはようございます。田嶋要です。よろしくお願いいたします。

 質問に入る前に、先ほど自民党の先生の方から入国管理のお話がございまして、特に観光、私も大変大事だと思っております。

 最近私が経験したことで、近隣の国、どこの町だったか入国したときに、日本では見かけたことのない、あるものをその入国管理の場所で見かけて大変びっくりしました。大臣、どんなものだかわかりますか。(発言する者あり)まあ、わかるわけないですね。

谷垣国務大臣 日本では余り見かけないと言うんですから、何でしょうか。(田嶋委員「今の観光に関連した話です」と呼ぶ)見なれないということになると拳銃等かなと思いましたが、観光に関連するとは思われない、ちょっとわかりません。

田嶋委員 それは、入国管理に押しボタンがありまして、私の対応はよかったですかどうですかというボタンがついていたんですね。私びっくりしました。同じことをやれという意味じゃないですよ。

 ただ、そういうところでも競っているんだなと。それがあったことで私の印象は、やはり、これは入り口だから、第一歩だから、国に入るときにその国の印象は決して悪くはないですよ。それはお金もかかることです。ただ、我々も海外へ行くときに、入り口でどういう印象を受けるかということはやはりポイントだなと。

 先ほどの先生のお話も聞いておりまして、入国管理ですから、もちろん一番大事なことは安全とかそういうこともしっかりですけれども、これからビジット・ジャパンというか、目標を掲げてやっておりますから、日本はまだまだ、これだけすばらしい国なのに世界から来ていない、秘密の国みたいになっちゃっていますね。だから、もっともっとアピールをしていただきたいし、そういうところも法務省として少し御配慮いただきたいと私からも申し上げたいと思います。

 それでは、本論に入らせていただきます。

 きょうは、再犯防止についてやらせていただきたいと思いますが、前回の通常国会から法務委員会で仕事をさせていただきまして、本当に大事な問題、ぜひとも力を合わせて取り組んでいきたいと思います。

 大臣、きょうも、政策の第一順位というふうにおっしゃっていただきました。全くそのとおりだと思います。ぜひ全力で、そしてみんなで知恵を出さなきゃいけない。きょう、新聞にはニューヨークのブルームバーグ市長の話が載っていましたけれども、やはり治安をよくしたということで大変な評価をされておるわけでございます。ぜひ頑張って取り組んでいただきたいと思います。

 まず冒頭に、前回の国会で、受刑者の年金未納の免除手続に関して質疑をさせていただきました。これは、別件の、いわゆる免田法案に取り組む中から見えてきた課題でございますが、附則にも入れていただきまして、私もこの場所で取り上げさせていただきました。

 私、重要だと思っておるのは、国会での質疑の言いっ放し、答弁のしっ放しでは絶対いけないということだと思いますので、これは、この法務委員会にいさせていただく間、定期的にやはりいろいろな形でフォローさせていただきたいというふうに思っております。

 まだその答弁をいただいてから間もないわけでございますが、まずは、やはりこれも再犯防止に間接的には確実につながっていくと信じてございますが、この問題、以来、どのような進捗が今日まであったのか、その御報告をいただきたいと思います。

奥野副大臣 今、田嶋先生がおっしゃったとおりでありまして、前通常国会で免田法案を審議したときに抽出された論点だったと思います。

 この法律、ことしの九月二十四日に施行という方向になりまして、各刑事施設に、とりあえず至急やらなきゃいけないことは、中におられる方たちが年金の免除申請を出すということがまず第一のステップになると思いますけれども、その第一のステップを全刑事施設に展開をしたのが九月二十四日であります。それで、その全体のデータが集まってくるのが今月の末になると思いますけれども、いずれにしても、九月二十四日に手配をして、今月末めどにデータを収集するというプロセスにあります。

 こういうことでありますけれども、事後、おいおい、どういうふうに進んでいるかを含めて、先ほど先生がおっしゃったとおり、国会で決議したことがどういうふうに展開されているかということをフォローしていく一つのひな形になればな、こんなふうに考えている次第であります。

田嶋委員 今おっしゃっていただきましたとおり、九月の二十四日に局長通達を出していただきました。

 前回の質問でも申し上げましたが、新たに刑務所等に入ってくる受刑者への対応はもちろんでありますが、これは、もう既に今刑務所等に入っている、七万人弱ですか、そのぐらいの人数の、すべからくこの手続をもう一度全員にやってもらって、そして、恐らくは多くの方、今は一割もいないわけでございますけれども、免除申請をしっかりやることが、年金制度、二十五年から十年というふうにいわゆる受給資格も今後変更されていく中で、確実に将来の、全くお金がなくてまた犯罪に走るしかないような、そういう境遇に置かれる人を減らすことにつながっていくというふうに思っております。

 そういう意味では、ぜひ、年内はここまでやれる、年度末までにはここまでやれる、そういう目標をいただければというふうに思うわけでございますが、副大臣、御答弁いただけますか。

奥野副大臣 政治の世界というのは、民間と違って、目標を、数値というか日程的なものも含めて、ターゲットデート、そういったものがなかなか決められない、そういう習性があるように私は思っています。そういう意味で、できるだけ数値目標をつくること、それは日程的なものもあるだろうと思います。そういうようなことをしながら政治の信頼を取り戻していくというのが、政治家、政治に携わる者の私は使命だろうと思います。

 そういう意味で、最大の努力をさせていただきます。今おっしゃったことをできるだけ具体的に省内にも展開して、具体的にフォローしていきたいと思っております。

田嶋委員 民間企業で辣腕を振るわれた副大臣でございますので、私は、目標設定というのはやはりこの政治の世界、行政でも大事だと思っております。現に、再犯防止に関しては、再犯率を今回初めて数値目標を決められたというのは安倍政権のポイントの一つでございますので、ぜひとも、私の希望としては、年内にやはり全ての刑務所等でこの手続を行っていただければ、そして、春の通常国会でもう一度質問させていただいて、そのときには、ほぼ一〇〇%そういった手続が完了しておりますという、そういう朗報を聞かせていただきたいというふうに考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 続きまして、同じく再犯防止に関してでございますが、きょうの大臣の答弁は、前回の所信、挨拶の答弁と同じでございました。「円滑な社会復帰を実現するためには、関係省庁間の連携はもとより、自治体、民間団体、企業、そして国民の皆様の御支援、御協力が不可欠です。」この順序なんですね。書かれている順序はやはり意味があると思います。前回も今回もそのようにおっしゃっております。そういう意味で、関係省庁間の連携がまず最初に来る。この一つの例がきょうのこの話だと思っております。

 そういう意味で、五月でございましたか、法務省で初めて未成年の方を非正規で雇われたというふうに聞いておりますが、まず最初にお伺いしますが、その後、どうなっているのか。六カ月というような話を聞いておりますので、そうするとちょうど今週で切れるのではないのかな、メンバー、人を入れかえることも含めてということで、ふやしていく可能性、それからほかの役所との連携、実際に法務大臣が旗を振っていただかなければこれはなかなか進まないと思いますが、まず、関係省庁間の連携はどんなふうに進んできたか、御答弁、大臣からいただければと思います。

齊藤政府参考人 お答え申し上げます。

 さきに、法務省でことしの五月に雇用いたしました保護観察中の少年のことでございます。お尋ねございました。現在、日々仕事をしておりまして、ワープロ業務とかその他の仕事をしております。現在、次の就労に向けて種々の活動をしておりまして、法務省としてもいろいろ支援をしているところでございます。

 関係省庁との連携はもう既に、例えば高齢・障害者のことにつきましては厚生労働省といろいろ連携しておりますし、就労につきましても、御案内のように、厚生労働省と連携して、平成十八年以降、刑務所出所者等総合的就労支援対策というものでいろいろな就労に関する施策を進めているというところでございます。

田嶋委員 具体的に法務省以外での採用のめどは立っているのかどうかを教えていただきたいと思います。

齊藤政府参考人 中央省庁の関係では、今私が承知している範囲では、特にそういうふうなめどが立っているということはないというふうに理解しております。

 ただ、地方公共団体のレベルでは、御案内のように、九月から奈良県が雇用の枠組みをつくられましたし、さらに、先月、京都府の方も始められるということを発表されておられます。

田嶋委員 大臣、これはやはり、ここに書いてあるからには、関係省庁間というのは、いろいろペーパーをつくって周りの人にやってくれと頼むだけじゃなくて、まさにみずから始めるということだと思います。隗より始めよと。そういう意味では、法務省がやっていただいたのは私は評価したいと思いますが、そこだけでは全省挙げて安倍内閣としてしっかりやるんだという意気込みはなかなか伝わってこないんじゃないかなというふうに思いますが、大臣、もう一言頂戴したいと思います。ぜひこれは霞が関挙げて、困難な問題ですけれども、避けてはいけないと思います。大臣、御答弁お願いします。

谷垣国務大臣 法務省の関連では、先ほどおっしゃった一人、もうじき期間が終わりますが、今、再就職等に向けていろいろ相談に乗ったりしながらやっている。もう一人、実は法務省関連で雇用しているのがございます。

 私どもはこの経験を踏まえて、どういうところに問題点があったのかというのも多少気づいてきているところがございますので、強力にほかの省庁にもお願いをしてまいりたいと思います。

田嶋委員 ぜひよろしくお願いします。

 私は、この読まれた順序とは裏腹に、この間、半年ぐらいでございますが、この問題の実態をいろいろ勉強させていただいて、栃木の刑務所、PFI刑務所の後に、地元の千葉の刑務所や市原の交通刑務所も見に行かせていただきました。あるいは、協力事業主の方々との意見交換会、それから保護司の方々との意見交換会をやらせていただきました。印象は、むしろ現場の方が意識が高いんじゃないかなという印象なんです。そして、霞が関の方が一番腰が引けているような、そんな印象を私は受けます。そういう意味では、ぜひ大臣が先頭に立って頑張っていただきたいというふうに思います。

 同様に、これは自治体に関しても、同じような話でございますが、私、前回この問題を取り上げてから、地元でも働きかけました。そして、きょうの御報告は、地元で採用が一人決定をいたしました。そういうことで、進展します、やる気になれば進展すると思うんですね。全国の自治体は今どういう状況ですか。

齊藤政府参考人 雇用の関係でございますが、平成二十二年十月に、大阪の吹田市が一番最初に始められまして、市町村レベルの取り組みが今始まっております。(田嶋委員「それは、この間と一緒です」と呼ぶ)はい。市町村レベルが、現在で十ぐらい。

 それから、先ほど申し上げましたように、ことしの九月から奈良県が雇用の取り組みを始められた。さらに、先月から京都府が雇用を始めるということを表明されました。さらに、これは先月だったと思うんですが、三重県の名張市の方も、新たに雇用を始めるということを発表されておられます。

田嶋委員 では、三重県は新たにという情報だと思います。

 大臣、前回の御答弁で、春の通常国会、公務員法の壁のようなお話もされました。それは、私は、法律改正までいくのはなかなか無理かもしれませんが、しかし、物理的に、役所の世界にもそういう方が入って働くということは、やはり困難かもしれないが、避けては通れないと思うんです。そういう意味では、法律の壁はありますけれども、この点はぜひ積極的にいろいろな工夫をしていただきたいということ。そして、今お話もございました。自治体も結果を出しているところが徐々にふえてきているんだということを申し添えたいと思います。

 続きまして、資料の一をごらんください。

 では、今度は、民間はどうなんだということでございます。関係省庁の連携はもとより、自治体、それから民間団体、企業、こういうふうにあるわけでございますが、この資料の一そして二は、法務省から頂戴をいたしました。

 一番上の表、資料一は、規模別協力雇用主数でございます。一番下にその集計があるわけでございますが、会社の規模が一番大きい、千人以上という分類だと、十六社が協力雇用主になっているということが見てとれるわけで、これはでかいから、数は少なくてもやむを得ぬかなと私も思ったわけでございますが、次のページをごらんいただきたいと思います。

 でかいから数が少なくてもやむを得ぬといったって、では、実際にどれだけ採用しているかというと、見事に大企業はゼロであります。そして、目を左の方にやっていただきますと、全国総計で五人から二十九人、要するに、これは中小企業とも言えませんね、小規模企業でしょうか、五人から二十九人の企業が百九十七人全国で雇い入れていただいておりますが、社員数千人以上は、見事にゼロ、その次の規模の五百以上でも、たったの一人でございます。

 こういう状況は、私は本当に残念だというふうに思います。前回、大臣が御答弁をされた中でも、やはり大企業に引っ張っていってもらわなきゃいけないということをおっしゃっておられました。この実際の生データをごらんいただいて、どういう印象を受けられますか。

谷垣国務大臣 今委員がおっしゃるように進めていくには、大企業だけじゃなく、大企業、中堅企業も含むそのあたりが、理解あるいは御協力いただけると進んでいくんだがなという思いは強くございます。

 先般、内閣府が再犯防止対策に関する特別世論調査というのをやりましたが、約五七%の方が、企業や事業主は再犯防止のために積極的に雇用すべきというふうに回答しております。確かに、委員の御指摘のように、なかなか進んでいっていない面もあるんですが、全国就労支援事業者機構と連携を緊密にしながら、多くの企業から刑務所出所者の雇用をしていただけるように、何とか風穴をあけてまいりたいと考えております。

田嶋委員 大事なことは、毎回そういう御答弁になると思うんですけれども、毎回進捗しなきゃおかしいと思うんですよ。僕は、先ほど申しました、半年前に申し上げて、地元で働きかけて結果を出しました。だから、ぜひとも、国の方も、大企業の方も、次にまた質問をしますので、次はこういう進捗があったと。そうじゃないと、委員会の質問というのは余り意味がないと思うんですね。やはり言いっ放し、答弁しっ放しではなくて、結果を出しましょう、一緒に。そのことをぜひお願いしたいと思います。

 今おっしゃっていただいたアンケートも、私、おつけしました。資料四から以下をごらんくださいませ。

 ちょっとつけ忘れたページが、今おっしゃった、およそ六割ぐらいの方が、やはり協力したいとおっしゃっている。私、非常に心強く思いました。もっともっと低いかなと思ったんですけれども、アンケートで千数百人の方が回答されているんですが、協力したいという方がこんなに多いんだと。だから、みんな、臭い物にふた、自分はかかわりたくない、そういう答えじゃなかったのが非常に感動したんですね。

 そして、この資料四は、では地方、国はどういう取り組みを進めるべきと考えるか。いろいろ出ておりますけれども、やはり真ん中に、国や地方公共団体も採用してほしい、三六・七%、こういうふうに出ているわけであります。もちろん、それよりもさらに、犯罪を犯した人たちを採用する企業、事業主を支援する、こういう答えももちろん多いわけでございます。

 それから、次の資料の五をごらんいただきたいと思います。協力雇用主に対してどのような支援をすべきかということでありますが、保護観察官や保護司によるきめ細かなサポート、それから給与の一部助成、雇用奨励金の支給、こういったいろいろな回答が出ております。

 それから、一番最後に、資料の六でございますけれども、非行を犯した者の立ち直りへの協力の意向がしっかりと出ている。これは先ほどつけ忘れたと申しましたけれども、つけてありました。これは、およそ六割の方が協力に前向きである、こういうことがしっかりとアンケート結果にも出ておるわけでございます。

 そこで、資料の三をごらんいただきたいと思います。大臣も、現在の大企業等の取り組みのあり方にはじくじたる思いをお持ちではないのかなと思うわけでございますが、この全国就労支援事業者機構、この機構というのは、前回、大臣の御答弁の中にもございました。これは、今資料をお持ちでございますが、奥田前トヨタの社長様が中心になってつくられた民間団体というふうに承知をいたしております。これが大きく前進していればいいわけでございますが、ちょっと私は活動がまだまだちっちゃいのかなという印象を受けております。

 特に気になりましたのが、この四角囲みの下から四行目に、「自らは対象者を雇用できない大企業等の事業者は、」というふうなくだりがありますが、これはちょっと私は引っかかりを覚えるわけであります。みずからは対象者を事情があって雇用できない事業者はというならわかるんですが、「自らは対象者を雇用できない大企業等の事業者は、」と、大企業というのは何か雇用できないような特別な事情があるのかどうか、そのことをちょっと大臣にお伺いしたいと思います。

齊藤政府参考人 全国就労支援事業者機構の設立趣意の要旨にそのような記載がございます。

 その機構さんの設立趣意につきましては、私どもが御説明するという立場にはないんですが、あえて推察いたしますれば、大企業は雇わないというんじゃなくて、企業によってもいろいろな御事情があると思いますので、仮に雇うことができないところは資金面でいろいろ支援することが社会の利益に増進する、そういうふうな趣旨でこういうふうな文章が入っているのではないかというふうに私どもは拝察しております。

田嶋委員 これはもちろん国の一部ではないわけで、そういう意味では、今の答弁が精いっぱいかと思いますが、前回、大臣も、この機構を、名前を出されて、この機構を通じて大企業等にしっかり働きかけていきたいというふうにおっしゃっておられましたので、恐らく国と一体として力を出していく場所がここの機構なんだろうというふうに思うんですね。

 ただ、ここに、先ほど申しましたけれども、「自らは対象者を雇用できない大企業等の事業者は、」と、事情がある会社はいろいろありますよ、それは大きい会社も小さい会社もあるわけなんだけれども、何でここに大企業等というふうにわざわざ断っておるのか、私はここに何か姿勢が透けて見えるような感じがしてならないんですね。

 そうではなくて、これは私も、協力雇用主の方と地元で懇親会とかもさせていただいて感動したんですけれども、若い方々が結構多いんです。若い経営者、美容院をやっている方、建築の関係の方、介護の方、そういうみずから経営されている方が、やはり自分も何か力になりたいからということで手を挙げている方が大勢いらっしゃって、私は非常に感動しました。だけれども、それは名もない、ちっちゃな規模の組織ばかりですよ。そういう方々は、本当は余裕がないですよね。何かあったら、商売にひどく響いたり、そういうことを考える、一番心配な方々ではないかな。

 むしろ、大企業は、それは確かにブランドは大事ですけれども、しかし、大臣おっしゃった、これはCSRですよ、社会的責任なんで、やはりみんなでやっていく。そして、会社の体力としても、大企業がやはり一番頑張っていかなきゃいけない。前回、枝野委員の方からも、この大企業の問題、指摘がありましたけれども、私はここは本当におかしいと思いますね。

 こういうものをつくって、金額も、これを見ると、お気持ちのある会社からの金額なんで、これで少ないというふうに言うのは申しわけないですけれども、しかし、やはりもっと力を入れてやっていかないと、小さな会社の気持ちだけに頼っている、その実態を私は痛感してなりませんけれども、大臣、その点、改めていかがですか。

谷垣国務大臣 私も、田嶋委員がおっしゃいますように、随分、協力雇用主や、実際に雇っておられる経営者とお会いしたことがあります。自分自身も若いころ、やんちゃやっていて、心理はよくわかるから、何とか、ちょっと支えてやればうまくいく場合もあるんだというようなことをおっしゃって、一生懸命やっておられる方、これは大企業の経営者というよりも、おっしゃるように、零細な企業と言っては失礼かもしれませんが、そういう方の方にそういう熱い方を見出す場合が多くて、私も大変感動しております。

 しかし、そういう方の熱意はもちろん大事ですけれども、そうすると、量的な拡大は必ずしもなかなか簡単ではないなと思います。私も、この就労支援事業者機構に参加していただいている大企業は本当にありがたいと思っておりますが、こういったところの経営者とお目にかかる機会も時々ございますので、さらに強力にお願いをしてまいりたい、御理解を得るように求めてまいりたいと思います。

田嶋委員 それで、私もまだまだ研究不足ではありますけれども、どうやって再犯率を下げられるのかということをいろいろ考えると、現在のあり方に二つギャップというものを感じるんですね。

 一つは、刑務所の中の生活と刑務所を出た後の普通の、ふだんの生活との間の大きなギャップ。いろいろな専門書とかを見ると、やはり余りにもそれがかけ離れているということですね。それが大きなギャップの一つ。

 それからもう一つは、いわゆる刑期で、満期までいる、あるいは仮釈放でもいいですけれども、裁判、司法から下された刑期ということと、その人が再犯をしないだけのしっかり更生をしているかどうかということは事実上無関係なわけでありまして、刑務所の関係や法務省の方に聞いても、例えば満期で出たら、後は、データすら把握できない、人権だから、普通の人だからということになると、再犯が二人に一人行われるのがわかっていて送り出しているというのが現状なんですね。私は、このギャップというのを埋めないと何ともならないと思います。

 夏に、超党派で、奥野信亮先生とも御一緒にアメリカに視察に行かせていただきました。アメリカは、日本の二十倍ぐらいの犯罪件数でしたか、率でしたか、ある。全然比較にならない。しかし、非常に意欲的な取り組みもあったんです。デランシー・ストリート・ファウンデーションというところを最後に訪ねましたけれども、更生するまで、最低二年はそこにいなきゃいけないんですね。そういう仕組みも考えられております。

 日本も、お好み焼き屋のチェーン店の方とか、ファームきくちさんとか、千房さんとか、いろいろ新しい動きも出ていますが、この根本的なところをどうしていったらいいのか。このギャップ、中と外の大きな生活のギャップ、まさに全く無菌状態で突然出て、誘惑がたくさんあって、やはり犯罪に走る人も出てくるんじゃないか。

 それともう一つは、後半申し上げた、刑期という意味と更生するために必要な時間が違う。私は素人ですけれども、満期で出たって、そこからやはり保護観察みたいなことがもっと要るんじゃないか。アメリカの方で何かあるとかという話もちらっと聞いたことがありますけれども、そういう考え方を法務省の専門の方だけで議論せずに、もうちょっと間口を広げて、いろいろなことを考えて、どうやったら、再犯をするのをわかっているのに送り出すような、現場の刑務官が本当に複雑な思いで仕事をされている、こういう状況は変えなきゃいかぬ。

 私はそれに頑張っていきたいと思いますが、法務大臣、いかがですか。

谷垣国務大臣 刑務所の中と、出てからの一般社会生活とのギャップが多過ぎるという点は非常に問題だと思います。

 先ほど、大企業、これは私もちょっと感じただけで、実際に、実態がどうかまだ十分専門家に聞いたわけではありませんが、要するに、刑務所なんかにいますと、大きな組織の中で働くというようなことに対する適性がなくなってしまうというようなことも、あるいは大企業になかなか雇ってもらえない理由なのかもしれないと思ったりもするわけです。

 そういう中で、今委員がおっしゃったことは、もっと社会内処遇というようなことも真剣に考えなきゃいけないんじゃないかと。ああいう一部執行猶予の法案を通していただきましたけれども、それも一つの試みでございます。

 そして、今アメリカの例をおっしゃいましたが、私もこの夏、フランスのソーシャルファームというのを見てまいりましたけれども、長い間刑務所にずっと入れておくのがいいわけじゃない、社会の中で処遇をし、また、実際に出た後でもそういう施設で働きながら適応能力を拡大していくといいますか、そういうようなことも見せていただきました。

 もちろん、これは社会によって、フランス、アメリカの事情がすぐ日本に適用できるかどうかというのはいろいろ考えなきゃならない点もあると思いますが、そういう他国の経験に学ぶことも必要だと思います。

 フランスの司法大臣からは、今まで裁判官、検察官の交流というものはあったけれども、もう少し矯正や保護の関係でもお互いに意見交換をしないかということを向こうのトビラ司法大臣からありまして、私はこれは非常にいいことだと思いまして、すぐにそういうことをもう少しフランスの法務省ともできないかということを今検討させております。

 そういうことを含めまして、日本においてどういう社会内処遇、単に刑務所の中だけでというだけじゃなしにやっていけるのか、大いに研究しなければならないと思っております。

田嶋委員 中も外も大事だと思います。海外のを参考にしながら、例えば、ソフトウエアの技術を刑務所の中で身につけて就職されているという方があるという報告も私は聞いております。一方で、私の地元の千葉刑務所は、そんな、パソコンも一台もありません。だから、希望している人がいても、なかなか手に職をつけることもできない。

 そういうちっちゃなところの改善もぜひやっていただいて、ぜひこの再犯防止を前に進めたいというふうに思います。

 ありがとうございました。

江崎委員長 次に、林原由佳さん。

林原委員 日本維新の会の林原由佳でございます。

 きょうは、性犯罪被害者の刑事裁判手続における保護について質問いたします。

 お手元の資料一をごらんください。

 十月十九日付の日経新聞によれば、児童に対する強制わいせつ事件で、東京地検が被害者情報の保護を理由に起訴を取り消したとのことです。このような事件があったことを法務省刑事局は把握していますでしょうか。

稲田政府参考人 お尋ねがございましたように、東京地方検察庁が、東京地方裁判所に係属中の強制わいせつ被告事件につきまして、本年十月十七日に公訴を取り消したことは承知しているところでございます。

林原委員 この記事によりますと、東京地検は、被害児童の実名を伏せ、起訴状に母親の氏名と続柄を記載いたしました。つまり、私の娘であれば、起訴状に、林原由佳の長女(当時○○歳)というように記載したということです。

 東京地検としては被害者保護を図ったわけですが、被害者側は、たとえこのような記載であっても、被告人側に個人情報を知られてしまうのではないかと危惧し、その不安を受けて東京地検は起訴を取り消した、こういうことでございます。

 被害児童やその親にしてみれば、無理もないことと私は思います。母親の氏名が起訴状に記載されれば、被告人がそこからたどっていってどこの家の子供かを調べることも不可能ではありません。被害を申告したことを報復されるのではないか、また同じようなわいせつ行為をされるのではないか、こういう不安な気持ちになるのは、私も一人の母親として全く同じように思うところでございます。

 もしもこの起訴状の記載が、母親の氏名と続柄を記載する方法ではなく、例えば、女子児童(当時○○歳)といったより匿名性の高い記載であれば、この事件の被害児童や親は、不安を感じることなく刑事裁判を続けられたかもしれません。実際、大阪地裁の堺支部では、路上で少女の胸をつかんだ被告人の事件について、女子高校生(当時十七歳)という極めて匿名性の高い起訴状の記載を許可したとのことです。

 確かに、被告人の権利保障、裁判における防御の観点からは、起訴状において、審判の対象となる事実、審判の対象となる犯罪事実を特定していくことは極めて大切です。しかし、性犯罪というのは、皆様も御承知のとおり、ただでさえ被害申告がなされにくく、表に出てこない数が非常に多い犯罪です。被害者の保護を十分にして被害者の不安を払拭し、被害申告がなされやすい状況をつくっていかなければ、性犯罪者を適切に処罰することができず、性犯罪はやった者勝ちの状況、これが続いてしまうことになります。

 全国の各地検は、ストーカー規制法違反事件や性犯罪事件において、被害者保護を図るため、本件以外にも被害者を匿名にする措置をとっていると聞いております。どのような例があるか、教えてください。

    〔委員長退席、土屋(正)委員長代理着席〕

稲田政府参考人 起訴状におけます被害者氏名の記載方法につきましては、検察当局におきまして、個別事案の内容に応じて検討してきているところでございますが、例えば、強姦罪等の性犯罪やストーカー関連事案などにおきまして、被害者の名前にかえまして、その旧姓でありますとか通称名、あるいは氏名を片仮名表記にするでありますとか、今も御指摘ありましたような親権者の氏名とその続柄にする、あるいは姓とその勤務先の組み合わせを用いるなど、さまざまな方法を用いているものと承知しております。

林原委員 今御紹介いただいたように、各地検でいろいろな記載方法を模索されているようですが、それでは、最高検察庁で全国の統一的な指針というのはつくられているのでしょうか。

稲田政府参考人 今御指摘のあります、起訴状における被害者の氏名の記載方法の配慮ということにつきましては、検察当局におきましては、個別事案の内容に応じて、最も適切なものは何かという見地から検討されるものということで運用してきているところでございまして、現時点で、例えば被害者氏名の記載方法を一律に定めるような統一的な指針があるとは承知していないところでございます。

 その上で、現状を申し上げますと、検察当局におきましては、被告人に被害者の氏名が知られていない性犯罪でありますとかストーカー関連事案などにおきましては、被害者保護の観点からの配慮が必要な一定の事案と考えまして、起訴状における被害者の氏名の記載について可能な限り配慮できるようにしているところでありまして、このような取り組みの中で柔軟かつ適切な運用を積み重ねていくことが重要であると考えているところでございます。

林原委員 それでは、最高裁判所では、被害者の匿名化に関する統一指針はつくられているのでしょうか。

今崎最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 被害者を匿名で表記した起訴がされた事件の運用のあり方ということになるかと存じますが、これにつきましては、やはり個々の事案ごとに、例えば事件の性質、内容、あるいは当事者が訴訟に臨むその方針などなど、こういった事案、そういったその時点で判明している具体的な状況に基づきまして、事件を担当する裁判所、受訴裁判所が責任を持って判断すべき判断事項、裁判事項と考えております。

 そういったことから、最高裁など当該裁判所以外の組織がそういった運用指針のようなものをつくるということはやっておりません。

林原委員 要するに、現状は、地検や地裁ごとに個々に判断をしていて、全国で統一したルールはつくられていない、こういうことでございます。

 お手元の資料二をごらんください。十月二十一日付の読売新聞によれば、東京地裁が被害者の匿名を認めるケースについて、その見解を東京地検と東京の三弁護士会に伝えたとのことです。

 それによれば、匿名が認められるのは、起訴状に被害者の実名を記載することによって、被害者に生命や身体への具体的な危険が生じる場合、名誉を著しく傷つけられるおそれがある場合に限られるとのことです。具体的には、被告人によるつきまといがあった場合や、被害者が著名人で、名前がネットなどに流出すると名誉が著しく傷つけられる場合が想定されるとのことです。

 この東京地裁の見解は、被告人の権利保障の観点から被害者の匿名化に歯どめをかけるものですが、果たしてこの見解が妥当か否か、起訴状の記載方法についてさらに議論を深めていくべきだ、このように考えております。

 また、被害者の匿名化は、起訴状の記載にとどまらず、証拠や判決文の取り扱いなど刑事裁判手続全体にかかわるものです。起訴状において被害者を匿名にした場合の、その後の手続全体のあり方を検討していく必要がございます。

 この点、最高裁判所司法研修所において、特別研究会が開かれ議論がなされたと伺っております。起訴状で被害者を匿名にした場合、その後の裁判手続の中で、被告人に対して被害者の名前を伏せたり、公開法廷で被害者の名前を明かさないようにして一般に広がるのを防いだりするその一方で、裁判官や弁護人に対してまで被害者の実名を伏せるべきなのかどうか。このことについては、特別研究会でどのような議論がなされたでしょうか。

今崎最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 ただいま委員御指摘のとおり、ことしの九月十三日に、司法研修所で特別研究会が開催されました。この特別研究会におきましては、再被害防止への配慮が必要とされる事件の起訴状等における被害者の特定の問題と、起訴状に被害者の実名を記載しないまま公判手続を進行させる場合の問題点などについて議論が行われたものと承知しております。

 その議論につきましてですが、まず、起訴状には原則としてやはり被害者の実名を記載すべきではないかということ、ただし、例外として、再被害のおそれが高いような場合には、被告人に被害者の実名を知らせないために実名以外の記載をする必要性が高くなるということについても異論がなかったというふうに聞いております。

 そして、被告人に被害者の実名を知らせるべきでないと考えられる事案におきましては、被害者の実名を記載しないまま公判手続を進行させるということになりますが、その場合であっても、被告人の防御の観点を考えますと、やはり弁護人には被害者の実名を知らせる必要性があると考えますし、したがいまして、証拠上も実名が明らかになることが望ましいという意見で一致したというふうに承知しております。

 なお、その場合には、裁判官も、証拠の内容を検討する際に被害者の実名を知るということが当然の前提になっている、このように聞いております。

 以上でございます。

林原委員 つまり、起訴状で匿名にして、被告人に伏せたり、一般の人に広がらないように伏せたとしても、やはり被告人の権利保障の観点から、防御の観点からは、弁護人は知る必要があるし、また、証拠上、裁判官も知る必要がある、こういうことですね。

 それでは、判決文を匿名にすることについてはどのような議論がなされましたか。

今崎最高裁判所長官代理者 お答えいたします。

 ただいまの特別研究会におきましては、先ほど御説明したとおり、証拠上も被害者の実名が明らかになることが望ましいということについて意見が一致されたわけでございます。このように、証拠によって実名が明らかになるという場合には、判決書にも実名を記載する方がやはり運用上は望ましいという意味では異論がなかったように聞いております。

林原委員 今理由までお答えいただきませんでしたけれども、判決文というのは、二重起訴を防止するためでも、そこで罪となるべき事実がきちんと特定されていなければいけないという考え方がございます。そこも踏まえて実名の方がいいのではないか、こういうことなんだと思います。

 ただ、確かに、二重起訴防止のために罪となるべき事実特定に被害者の実名が入っていた方がいいのではないか、こういう議論はもちろんあるんですけれども、本当に被害者の実名を記載することが特定に必要なのかどうか、ここはもっと詰めた議論が可能だと思いますし、そこをもっと詰めていく必要があるのではないか、このように考えております。

 それでは、証拠や判決文で被害者の実名を明らかにした場合、証拠や判決文の取り扱いについて、現行の刑事訴訟法上、どのような問題点があると指摘されたか、教えてください。

今崎最高裁判所長官代理者 先ほどより申し上げております特別研究会におきましては、起訴状に実名が記載されないだけではなく、その後の手続においても被告人に実名が伝わらないというようにすることが確保されなければ、委員御指摘のとおり、被害者保護の実効性がないということになります。

 現在、刑訴法では、二百九十九条の三あるいは四十六条といった規定がございますが、必ずしも、そのことは完全に担保されているとは言いがたいという議論があったというふうに聞いております。

 若干敷衍して御説明いたしますと、今の刑訴法二百九十九条の三は、検察官が弁護人に対し、証拠書類または証拠物の閲覧の機会を与えるに当たり、被害者特定事項が明らかにされることにより、被害者等の名誉あるいは社会生活の平穏が著しく害されるというおそれがあると認めるとき、または、被害者等の身体や財産に害を加え、もしくはこれらの者を畏怖、困惑させる行為がなされるおそれがあると認められるときには、弁護人に対して、その旨を告げ、被害者特定事項が被告人に知られないようにすることを求めることができる、こうなっております。

 しかし、この検察官の弁護人に対する秘匿要請については、被告人の防御に関し必要がある場合を除く、こういう例外が規定されております。したがいまして、この例外に該当するような場合には、被害者保護の観点からは、被告人に被害者特定事項が知られないということが完全には担保されていないということになるという趣旨と考えられます。

 また、先ほど刑訴法四十六条を申し上げました。これについては、被告人その他の訴訟関係人は、裁判書の謄本の交付を請求することができるとしております。明文上は、裁判所がこれを拒むことができないような規定ぶりのようにも読めないではございません。この点は、解釈上、必ずしも確定しているわけではございません。

 したがいまして、仮に判決書に実名が記載されるとなった場合には、謄本では被害者名をマスキングできませんので、被告人は謄本の交付を受けることができるかのように読めます。この点について、もしそういう解釈であるとすれば、完全には担保されていないということになるわけでございます。

林原委員 つまり、判決文で実名を記載されて、または証拠で実名が記載されて、それを被告人に知られないようにしようと関係当事者が思っても、法文上難しくなることがある、こういうことでございます。

 もう一度簡単に申しますと、二百九十九条の三の証拠調べに関しましては、検察官が弁護人に対して、被害者を特定できる事項を被告人に知らせるな、こういう要求ができるわけでございますが、この条文には例外規定がございます。例外の一文がございます。これが、「被告人の防御に関し必要がある場合を除き、」、被告人の防御に関し必要がある場合は被告人に伝えることができてしまう、こういう条文になっております。

 また、四十六条の判決文の方、裁判書の方なんですが、これも、被告人その他訴訟関係人が謄本または抄本の交付を請求できます。そして、謄本請求されれば、当然、謄本というのは完全なものを指しますから、そこに実名が載っていれば、実名を載せなければいけない。

 私がちょっと伺った話だと、謄本または抄本なので、謄本請求されても、抄本だという理解でマスキングをして返すということも解釈上可能ではあるが、それは条文解釈として妥当なのかどうかというところまではまだ詰められていない。つまり、法文上は、謄本請求されれば出さなければいけない形になってしまっている、こういうことでございます。

 起訴状で被害者を匿名にしましても、今申したような証拠調べや判決文で被害者の実名が被告人に伝わってしまっては全く意味がございません。今の刑事訴訟法では、そこの担保が十分にできていないということです。

 それでは、法務省刑事局は、起訴状で被害者を匿名にした場合の証拠調べや判決文の取り扱いについて、現段階でどのようにお考えでしょうか。

稲田政府参考人 まず、証拠調べの関係から申し上げますと、検察当局におきましては、起訴状において被害者の氏名を記載していない事案にありましては、刑事訴訟法二百九十九条の三、先ほどから出ておりますけれども、これに基づきまして、弁護人に証拠書類を開示するなどの際に、被害者の氏名などが被告人に知られないようにすることを求めたり、刑事訴訟法二百九十条の二に基づきまして、被害者の氏名などを公開の法廷で明らかにしないよう裁判所の決定を求めるなどして、被害者の氏名が被告人に知られないように対応するように努力してきているところでございます。

 また、判決書の記載でございますが、これは、先ほども最高裁判所の方から御答弁がありましたように、個々の裁判体によってなされるものではございますが、刑事訴訟法の三百三十五条の一項は、有罪の言い渡しをするときには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならないと定めているだけでございまして、罪となるべき事実の記載内容は、まさに個々の裁判所の判断に委ねられているところでございます。

 一般論として申し上げれば、起訴状において被害者の氏名を記載していない事案におきまして、当該起訴状の記載が、審判対象の限定でありますとか被告人の防御の観点から適法な起訴状の記載と認められた以上、判決書におきましても同様に被害者の氏名を記載しない取り扱いを行ったとしても、刑事訴訟法上、特段の問題は生じないのではないかと考えております。

林原委員 被害者保護のために刑事裁判手続において被害者の実名をどう取り扱っていくか、これは最近注目され始めたばかりの非常に新しい問題です。これにつきましては、被告人の権利保障と被害者の保護のバランスをどう図っていくか、非常に難しい問題で、私自身も答えが見出せておりません。

 起訴状の匿名の記載方法については、今いろいろお聞きしましたように、現場の検察官がかなり工夫を凝らして知見が集積されつつあります。その様子をもっと見守って、よりよいやり方が出てくるのを待つというのも一つの手かもしれません。

 他方、司法研修所の議論で出てきたように、訴訟手続における証拠や判決文の取り扱いについては、法の穴を埋めるための立法を検討する必要もあるかもしれません。

 ぜひ政府として、この被害者の匿名化の問題について、現場の動向をよく把握し、法制化も含めて真摯に取り組んでいただきたいと思います。法務大臣の御見解を伺います。

谷垣国務大臣 犯罪被害者の保護、支援というのは、政府にとりましても極めて大事な問題でございます。

 そこで、今の、起訴状における氏名をどう表示するか。

 これについては、まず、今検察では、裁判所やあるいは当事者の弁護人の理解も得ながら、柔軟に、この局面で一番適切な対処方法は何なんだという努力をしております。当面、そういう事例が積み重なるということが私は大事ではないかと思っております。

 それで、法制化につきましては、今もいろいろなお話がございました。やはり考えなきゃならないのは、起訴状における訴因特定の趣旨というものと矛盾するようなことになってはいけないということでありますし、それから、不用意に、十分考慮しないで立法をすると、被害者保護を考慮した柔軟な運用もできなくなってしまうおそれもある。ですから、私は、もう少し実例の集積を待ちたいというのが私の今の気持ちでございます。

 他方、現行法上、先ほどから御議論のように、刑訴法二百九十九条のように、被害者を含む証人の氏名、住所については、被告人側に知る機会を与えなければいけないという規定がございます。

 この点につきましては、研修所でもいろいろ御議論をいただいているようでありますが、法制審議会でも、新時代の刑事司法制度特別部会で、ことしの一月に基本構想をつくりました。それに基づきまして、氏名及び住居にかえて何か適切な代替措置があり得るのかどうかというようなことについて議論をしていただいておりますので、そちらの議論も見守っていきたいと思います。

 いずれにしましても、被害者保護、支援というのは大事でございますから、十分その動向を関心を持って見守っていきたいと思っております。

    〔土屋(正)委員長代理退席、委員長着席〕

林原委員 よろしくお願いいたします。

 時間になりましたので終わります。ありがとうございました。

江崎委員長 それでは、続きまして西田譲委員から御発言を求められております。西田譲君。

西田委員 引き続きまして、日本維新の会の西田譲です。本日もどうぞよろしくお願いを申し上げます。

 さて、先輩議員ばかりの前で最初から甚だ恐縮なのでございますが、私たち政治家が常に念頭に置くべきものは我が国の国益である、これは言うまでもないことでありまして、ここで言う我が国の国益というのは、決して今この時代を生きている私たちだけの国益ではなく、先祖の利益であり、そして、まだ見ぬ子孫の利益、つまり、過去、現在、未来にわたっての国益、このような認識がいわゆる保守主義の認識であるというふうに私は思うわけでございます。

 かつてケネディ大統領が尊敬をしていたという上杉鷹山は、自身の政治哲学を伝国の辞の三カ条にまとめていらっしゃいました。その第一条でございますけれども、「国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして我私すべき物にはこれ無く候」、このように記されているわけでございます。まさしく、この伝国の辞に記された上杉鷹山の政治哲学とは、過去、現在、未来をつなぐ垂直的共同体として国家を理解する保守主義の真髄にほかならないというふうに思うわけでございます。

 さて、そういった中で、きょうはジェノサイドについて取り上げさせていただきたいというふうに思っております。

 一民族、人種を地上から抹殺してしまおうという残虐で野蛮な試み、これがジェノサイドであるわけでございます。ポーランドのレムキン博士がこのジェノサイドという言葉をつくったわけでございますけれども、これはもう皆様御承知のとおり、かつてナチス・ドイツが行ったホロコースト、ユダヤ人の大虐殺であるホロコーストという蛮行が大変有名でございます。

 世界各地では、このホロコーストは二度と繰り返してはならない人類の蛮行ということで、世界各地にホロコースト記念館が建設されているわけでございますけれども、ここで、米国のニューヨーク州にあるホロコースト記念館に、何と、旧日本軍の従軍慰安婦の特別展示館を設けよう、そういった動きがことしの春先来からあるやに報道されているわけでございます。

 私は何も、この従軍慰安婦の問題について、直接当委員会で言及しようというふうに思っているわけではございません。大切なのは、果たしてホロコーストと従軍慰安婦が同列に扱われるべき問題なのかということでございます。

 私は、いわゆる従軍慰安婦は、ホロコーストと同列に取り上げられるような問題では決してないというふうに考えるわけでございますけれども、まず最初に、谷垣大臣、この問題についてどのようにお考えでございますか、お聞かせいただければと思います。

谷垣国務大臣 今おっしゃったような展示の企画があるということは、私も仄聞しております。ただ、たびたびこの委員会で同じようなことを述べておりますが、私は、直接自分の任務と関係しないことを法務大臣として国会で発言するのは差し控えるべきだと思っております。

 ただ、今伺っておりまして、ホロコーストと慰安婦という言葉の定義をまずしっかりするところから始められたらいかがでしょうか。

西田委員 ありがとうございます。

 まさしくホロコーストは、私が先ほど申しました、これはジェノサイドの一種でございますね。まさしくジェノサイドそのもの。先ほど申したように、ポーランドのユダヤ人であるレムキン博士が、ジェノ、つまり種族、そして、サイド、殺す、種族の殺害ということでつなぎ合わせた造語でございます。以前は、たしか英国のチャーチル首相が、ホロコーストに対して、名もなき犯罪というふうに言ったわけでございますが、それを受けてつくられた造語だというふうに認識をしているわけでございます。

 特に、ドイツにおきましては、国内で合法化された殺人というふうにも言われたわけでございます。ドイツ人の血と名誉を守る法律であったり帝国市民法によってユダヤ人が迫害されていった結果として、引き起こされたわけでございます。

 そして、きょうこの問題を取り上げなきゃいけないと思ったのは、これは私たちの父祖の名誉にかかわる問題だということなのでございます。

 私たちの父祖は、確かにこのナチス・ドイツと同盟を結びました。私は、これは過ちではなかったかというふうに思うわけでございますけれども、しかし、決して私たちの父祖がジェノサイドに加担したといったことはないわけでございます。まして、ジェノサイドを行ったということもないわけでございます。

 翻って、ホロコースト記念館に慰安婦展示館を設けよう、こういった試みというのはいかがなものでしょうか。私たちが、そして私たちの父祖がまるでジェノサイドに加担したかのような、そういった風潮を国際社会に喧伝する、そのような意図があるというふうに思えてなりません。私は、冒頭、政治家は、過去、そして現在、未来をつなぐ垂直的共同体としての国家の国益を守るべきということを指摘させていただきました。まさしく我が国の国益が損なわれていることにつながるというふうに思うわけでございます。

 我が国は、ナチス・ドイツのようなジェノサイドに手を染めた国家ではない、ましてや加担はしていないといったことをしっかりと宣伝していかなければならないと思います。当然、主権国家として、この国の名誉心、そして矜持を忘却してはなりません。ジェノサイドに関しては断固許さぬ決意を世界に向けて発信することこそ、世界秩序を担う、その一翼を担うという正しい外交であるというふうにも思うわけでございます。

 例えば、ホロコースト以外にもジェノサイドと言われているものはあります。近年によりますと、ノーマン・ネイマーク博士、アメリカの学者さんでございますけれども、例えば、スターリンにおけるあのウクライナの飢餓、大虐殺、もしくは国内の大粛清、こういったものもジェノサイドであるというふうな指摘がなされております。

 それ以外にも、例えば、毛沢東の中国、ポル・ポトのカンボジア、メンギスツのエチオピア、さまざまにジェノサイドではないかという指摘がされているものもあるわけでございます。

 国際社会の場においては、ユーゴスラビアの内紛における民族大虐殺、これは実際にジェノサイド裁判として裁かれたものでもございます。あわせて、ルワンダでございますね、アフリカのルワンダにおける大虐殺、フツ族とツチ族の争いでございますけれども、これもジェノサイドと認定をされ、国際社会において裁判で裁かれているものでございます。

 なお、最近では、中国が武器支援をしているというダルフールの紛争、これもそうでございますね。まだ現在進行中であるとの指摘もあるわけでございますが、決してこのジェノサイドは過去のものではないというふうに思うわけでございます。

 そこで、まず初めに伺いたいと思います。

 このジェノサイド、先ほど大臣からも定義が大事だという御指摘を受けましたけれども、国際社会にあって、ジェノサイドの定義、一九四八年にきちんとジェノサイド条約というものが発案され、そして現在はもう百四十二カ国、英米仏初め百四十二カ国が締結しております。中国も、そして何とびっくり、北朝鮮も締結しているということなんですけれども、この一九四八年のジェノサイド条約、正確に言いますと集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約でございますけれども、我が国はいまだに批准をしていないわけでございます。

 なぜ我が国はジェノサイド条約を批准していないのか、このことについて、きょうは外務省から参考人がお越しでいらっしゃいますので、お尋ねさせていただきたいと思います。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 委員御指摘になりましたように、ジェノサイド条約、正式には集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約でございますが、一九四八年に採択されまして、現在、百四十三カ国が締約しております。御指摘のとおり、日本はまだ締結はしておりません。

 このジェノサイド条約、定義として、ジェノサイドというのは、国民的、民族的、人種的または宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図を持って行われる行為ということで、これらについて、具体的に処罰の対象となる行為を定めて規定しているわけでございます。

 具体的に、この問題につきましては、実は日本はジェノサイド条約には入っておりませんけれども、今申し上げましたような集団殺害犯罪、このように国際社会全体の関心事である重大な犯罪を犯した者が処罰されずに済ませてはならないということはおっしゃるとおりでございまして、こうした犯罪の撲滅と予防に貢献するとの考えのもと、ICCローマ規程の加盟国として、その義務を誠実に履行しているわけでございます。

 他方、日本が二〇〇七年に入っておりますICCローマ規程、この中でも、ジェノサイド、集団殺害犯罪についていろいろ規定をされているわけでございますけれども、これと比べて、今委員御指摘のありましたジェノサイド条約は、締約国に対して、集団殺害の行為等を犯した者を国内法により処罰する義務というものを課しておりまして、また、処罰を対象とする行為については、日本が入っておりますICCのローマ規程において処罰対象とする行為よりも広く規定をしております。

 こういう観点から、今後、ジェノサイド条約の締結を考えるに当たっては、我が国におけるこの条約に入る必要性そして国内法の整備の内容等につき、引き続き慎重に検討を加える必要があるというのが現在の政府の立場でございます。

西田委員 大変御丁寧な答弁、ありがとうございました。

 おっしゃったとおり、ICCローマ規程、二〇〇七年にこれを締結し、そしてあわせて、ローマ規程の協力法もたしか同時に制定をされたというふうに思うわけでございます。

 それで、今御答弁ありましたけれども、ICCローマ規程よりもジェノサイド条約における集団殺害の定義の方が広い意味でというふうにおっしゃいましたけれども、ジェノサイド条約における集団殺害の定義とICCローマ規程における定義、(a)から(e)まで五つたしか定義されておりますけれども、ほとんど全く同じなんでございますね、文言が。唯一違うのは、(e)でたしか子供というふうに条約では定義しておるんですけれども、それがただ、失礼しました、児童と定義されたのが、ICCローマ規程では子供になったぐらいの違いしかなくて、定義そのものは全く同じでございます。

 どこをどう解釈されて、より広い意味でというふうに御答弁されたのか、ここについてまたお聞かせください。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 私の説明がちょっと舌足らずであれば謝らせていただきますけれども、今、私の方から御説明いたしましたジェノサイド条約とICCローマ規程において、ジェノサイドあるいは集団殺害自身についての定義が違うというわけではございませんで、まさに委員御指摘されましたとおり、ジェノサイド条約でも、このICCローマ規程でも、何がジェノサイドに当たるのか、あるいは集団的殺害に当たるのかという点については、定義は同じでございます。

 むしろ、このICC規程ができたときに、ジェノサイド条約の方が先に成立しておりますので、ジェノサイド条約の規定を引っ張ってきて、言いぶりは多少変えてございますけれども、ICC規程に引っ張ってきたというところでございます。

 私が違うと申し上げたのは、むしろ、処罰の対象となる行為でございまして、これは、例えばジェノサイド条約では、処罰すべき行為として、集団殺害の共同謀議、あるいは、直接かつ公然たる扇動、未遂、共犯というような行為類型が与えられておりますが、例えば集団殺害の共同謀議という行為そのものは、ICCローマ規程の方では処罰対象として含まれていないわけでございます。

西田委員 ありがとうございます。

 恐らく、このICCローマ規程を締結されるときには、外務省と法務省刑事局の方で、この国内法との整合性の関係を議論されたというふうに思います。当時、今御答弁された共同謀議であったり集団殺害そのもの、そして、集団殺害の教唆、共犯、共同謀議、未遂、そういったことがいわゆる行為の対象として定められているわけですが、そういったことを国内法で担保できるかできないのか、そういったことを十分に御議論された上でのこのICCローマ規程の締結だったと思います。

 きょうは、刑事局長がお越しでございますので、刑事局長にお伺いしたいと思いますが、当時、このICCローマ規程を締結する際、どのような議論を刑法を所管する刑事局としてなされたのか、教えていただければと思います。

稲田政府参考人 ただいまのお尋ねは、ローマ規程、国際刑事裁判所規程第六条の1に規定する集団殺害犯罪ということが、我が国内法上どういうふうに担保されているのかということだろうと思います。

 ただ、同規程は、国際刑事裁判所の管轄権の範囲内にある対象犯罪のうち、集団殺害犯罪について、同裁判所がその管轄権を行使する際のさまざまな手続について定めているものでございまして、ジェノサイド条約とは異なりまして、加盟国において、当該集団殺害犯罪を国内法で犯罪化することまで義務づけているわけではないわけでございます。

 そういう観点から、私どもとしては、国内法との関係というような整理ということは、特に問題はないというふうに考えていたのではないかと思っております。

西田委員 ありがとうございます。

 そうすると、ジェノサイド条約をこれから仮に締結するとなると、国内法の整備において新たな検討が必要という理解でよろしいんでしょうか。

稲田政府参考人 先ほど外務省から御答弁ございましたように、共同謀議の点について、国内法で担保ができているのかという点につきましては、今後さらに締結の際に必要なものとして検討し、必要であれば、国内法の整備、さらにその内容等についても検討していく必要があると思います。

西田委員 ありがとうございます。

 とはいいながら、国会の議事録を見てみますと、ジェノサイド条約について最初に御答弁をいただいているのは、昭和三十二年、五十六年前なんでございますね。当時、岸外務大臣でございます。御答弁は、研究中と御了承願いますと。その次は、昭和五十四年、三十四年前でございますね。外務省国際連合局長、局長答弁でございますけれども、緊要性が高いということは言えない、しかし、検討は進めてまいりますと。三十二年前もそうですね。局長答弁、同じでございます。慎重ながら検討してまいりたいと。そして、ICCローマ規程締結の際にまた議論の対象になっておりまして、国内法の整備等についても検討していかなければならないと認識していると、当時、麻生外務大臣が御答弁いただいているわけでございます。

 昭和三十二年、五十六年前から研究がされ続けて、はや五十六年でございます。まだ研究を続けていらっしゃるのかということになるわけですが、これはもうお決まりの答弁でございまして、ジェノサイド条約は締結するつもりがないと受けとめられても仕方がないというような状況に既に至っているというふうに思うんですが、外務省、いかがでしょうか。

新美政府参考人 お答え申し上げます。

 今委員から御指摘いただいておりますジェノサイド条約に限らず、日本が多くの条約に入っているわけですけれども、まだ入っていない条約というのはこれ以外にもございます。

 それはもちろん、そのような条約について、基本的には、不断にと申しますか、もうこの条約は入るのはやめようというふうに決めてしまうのではなくて、やはりそれは常に、国際情勢の変化とか日本の国内情勢もございますので、今委員からも御指摘がありまして、たびたび国会でも御質問いただいていますけれども、それは不断の検討というのを進めないといけないと思っております。

 その上で申し上げれば、このジェノサイド条約については、過去の答弁の繰り返しということをおっしゃられるかもしれませんけれども、日本が特に二〇〇七年以降、ICCローマ規程に入っているという前提で、他方、ジェノサイド条約については、まさにこの条約が犯罪化を要求している行為、これが、今共同謀議の話がございましたけれども、不明確なことがある、そして、我が国の実情に鑑みれば、この集団殺害犯罪を設ける実態的な必要性というのが必ずしも非常に大きくないというのが現在の政府の考え方でございまして、現時点ではまだ締結をしていないということでございます。

西田委員 条約等の解釈権というのは一義的に外務省にあるというのは十分承知をしているところであります。よって、条約を締結なさる際に、まず、外務省としてその条約を解釈され、必要な国内法の整備があれば、その所管省庁に対して検討を要請される、このような手順ではなかろうかというふうに思うわけです。

 それでは、いま一度刑事局長、ジェノサイド条約について、外務省から国内法との整合性の検討の要請はあったんでしょうか。

稲田政府参考人 お答え申し上げます。

 せんだって御質問いただきましてから、私どもの方で資料等を確認いたしておりますが、いずれにしましても、それを明示的に示すような資料が残っておりませんので、そういう意味では、私どもの方で依頼を受けたのか否かについてお答えはいたしかねるところでございます。

西田委員 やはりやる気がなかったということが結論なのではないかというふうに思えるわけでございます。

 ちょっと視点を変えたいと思います。

 やはり、このジェノサイド条約のことについて考えるときに、人権であったり基本的人権、そういったことに思いを寄せるわけでございます。これはとても教科書的な質問になってしまうので大変恐縮なんでございますが、国際人権規約を読んでおりますと、第五条でございますか、各国が法律や慣習等によって確立した基本的人権は、この国際人権規約によって狭められるものではない、このように書かれているわけですね。

 つまり、基本的人権というのは、なるほど、それぞれの国がその国の憲法等によって保障した、まさしく我が国は、憲法十一条で、この憲法が保障する基本的人権はとあるわけですが、基本的人権というのはいわゆる国民の権利なんだというふうに私は解釈するわけでございます。そして、いわゆる国際政治上で使われております人権というのは、そうやって各国が基本的人権というものを持っているけれども、そういったことよりもむしろ、例えば生存の保障であったりとか、ある意味根源的な、根本的な権利のような認識を持つわけでございます。

 そこを混同しちゃいけないなというふうに思うわけでございますが、きょうは人権擁護局長にもお越しいただきましたので、ぜひ御答弁をいただきたいと思います。基本的人権と人権の違いということで、どのように認識すればよろしいでしょうか。

萩原政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、人権とは、一般に、人間が人間として生まれながらに持っている権利を意味するものと承知してございます。

 そして、ただいま御質問のありました人権と基本的人権の違いでございますが、これは、さまざまな文脈で用いられる事柄を一概にお答えすることは困難でございますが、法務省による人権擁護行政の取り組みにおきましては、両者とも同様の意味であると理解してございます。

西田委員 ありがとうございます。

 まさしくそのとおりだと思います。先ほど私、国際政治上における人権はというふうに言いましたけれども、国内においては、いわゆる憲法で定めた基本的人権と人権というものを同列のものとして考える、そのとおりではなかろうかと思うわけでございますが、このジェノサイド条約について考えるときの人権は、まさに国際政治上の人権ということに関して考えていかなければならないと思うわけでございます。

 前回の時効の質問のときも引用しましたが、エドマンド・バークが、国際政治上の人権というものに照らして、そんなものは非常にナンセンスだというふうに言っております。国際政治上の人権、これは、人間の権利などというものは存在せず、存在するのは国民の権利だけだ、エドマンド・バークは一八〇〇年代にそのように論破しているわけでございますし、実際、ユダヤ人のハンナ・アーレントでございます、「全体主義の起源」等で有名ですけれども、まさしくナチス・ドイツの迫害を受けて、バークの指摘は正しかったと言っているわけでございます。

 そういった経験を踏まえて、恐らく、第二次世界大戦後の国際秩序の中で、この人権という目標を掲げて国際社会の枠組みをつくっていったのではなかろうかというふうに理解するわけでございます。

 このように、国際政治における人権というのは、本来、基本的人権が保障されているのが正しい姿なのでございますけれども、つまり、国民の権利を喪失してしまったか、あるいはそもそも国民の権利が存在しないか、あるいは国民の権利がまだ生成中、途中にあるような国、そういった国に対して何か道徳的な観点から支援をするということが、私は人権というものの定義ではなかろうかというふうに考えるわけでございます。

 つまり、国民の権利があって、歴史と伝統があって、自由が保障されているような幸せな国が、まだ国民の権利が制定されていなくて、生存の自由すら、生存の保障すらされていないような国に対する支援を行う、まさに、道徳的、倫理の発現としての人権という用いられ方なのではないかというふうに思うわけでございます。

 もう時間がありません。今、私は、この法務委員会でジェノサイド条約をあえて取り上げさせていただきました。冒頭にお話ししましたように、国家として失ってはならない名誉心と、そしてその矜持に思いをはせたときに、やはり正義に当たる行動というものを国家の外交として行っていかなければならないと思います。

 正義と言いましたけれども、正義とは、正義にもとる行動を許さない、ハイエクがこのように論破したことはそのとおりだと思うわけでございますけれども、まさに正義にもとる行動、ジェノサイドを許さないということこそ、日本国における外交の真髄の一つではなかろうか。

 我が国の道徳心、そして倫理性の顕現こそが外交の真髄であるというふうに考える中にあって、やはりこのジェノサイド条約の批准、これは急ぐべき命題であって、昭和三十年以来、棚上げにされるべき問題では決してないというふうに思います。

 最後に、大臣に御見解をお伺いします。ジェノサイド条約、早期批准をすべきだと思います。ぜひ、国内の法の整備が必要とあれば、外務省と協力をして、やっていただく体制をつくっていただきたいというふうに思います。ぜひ御答弁をお願い申し上げます。

谷垣国務大臣 今委員のお話を伺いながら、ハンナ・アーレントが映画になるんだったら、エドマンド・バークも映画になるんじゃないかと思いながら伺っておりました。

 それで、集団殺害犯罪のような国際社会全体の関心事、こういう最も重大な犯罪に対して、一体、日本はどう対処していくのかということは、日本が国際社会の中で生きていく上でも極めて大事なことだと思います。

 そういう観点からいたしますと、ジェノサイド条約というのは、もういわゆる先進国という国はほとんどが加盟している条約でございます。ですから、この条約締結の必要性、それから、その場合に必要な国内立法は何なのかということについては、私は十分検討を加える必要があると思います。

 若干後ろ向きな答弁だなとお聞きになるかもしれませんが、それは、この法案が必要とされる国内立法というのは、今までの国会のいろいろな御議論から見ると、相当難しい法律である。その場合、もし出すとすれば、法務大臣は答弁しなければならない大臣でございますから、その困難さは私は非常にあるというふうには思っております。

西田委員 ありがとうございます。時間が参りました。

 ジェノサイドは決して過去のものではありません。先ほど言ったダルフールの問題を初め、ジェノサイドではないかと指摘をされるような問題、例えばチベットやウイグルの問題もございます。こういったまさに現在の問題である、そして子孫に対しての義務の問題でもある、このような観点で、ぜひ大臣、難しいという御答弁がありましたけれども、検討をよろしくお願いできればと思います。

 以上で終わります。

江崎委員長 次に、椎名毅君。

椎名委員 おはようございます。みんなの党の椎名毅です。

 本日、一般質疑に三十分、時間をいただきました。毎回のことでございますけれども、本当に感謝を申し上げたいというふうに思います。

 本日、幾つか入管行政についての質疑がありましたけれども、私も、改めて入管行政についての質疑をさせていただければというふうに思います。郡先生から外国人技能実習制度についての御質問がございましたけれども、重なる部分はあるかと思いますが、なるべく異なる観点から質疑をしていきたいなというふうに思っております。

 外国人技能実習制度は、規制改革会議の中でも議論されておりますし、さらには、今週でしたか、出入国管理懇談会の分科会で、外国人技能実習制度の見直しについて審議を進めていくという分科会が立ち上がるということだったと思います。このタイミングで外国人技能実習制度についての見直しというものを議論することは非常に有意義なことかなというふうに思いまして、取り上げさせていただきました。

 現在、途上国から実習生を、最長三年というふうに言われております、最長三年ということで日本に呼ぶわけですけれども、その目的としては、海外への技術移転という名目で行っているわけです。しかし、非熟練労働者の雇用というふうに使われているのではなかろうかという実態、名目と実態が乖離している、そういうことが常態化しているということは、さまざま指摘をされているところだというふうに思います。

 日弁連の問題事例調査というのが行われたわけですけれども、ことしの六月の二十日に意見書が出されています。そこの中にも幾つか指摘されていますが、いろいろな不正事案があります。例えば、違法控除十一件、通帳、旅券取り上げ十六件、実習計画とのそごと飛ばし案件五件、保証金の預かり九件、賃金未払い五十六件、残業代未払い六十五件、労災十八件、こんな形で結構いろいろな問題が指摘されています。新聞なんかでも、さまざまな形で指摘されていると思います。

 技能実習生の受け入れを行っている実習機関でさまざま見つかっているこういった不正行為、特に、労働関係法規、今指摘したような最低賃金違反だったり、ピンはね、長時間労働、それからセクハラ、パワハラというのもございます。今、私の方でも指摘しましたけれども、飛ばしや実習計画違反といった、もともと実習生の方が予定していなかったような事業につかされるというような、そういったことも指摘されているところです。

 こういったところについて、防止策をどのようにとっているか、きょうは厚生労働省からも参考人をお呼びして、いらっしゃっていただいていますので、厚生労働省の方から、そして法務省の方から御意見をいただければというふうに思います。

杉浦政府参考人 お答えいたします。

 技能実習は、お話しのとおり、技能移転を目的とした制度でございますが、適正な労働環境で実習ができますよう、最低賃金法等の労働関係法令が適用されているところでございます。

 このため、厚生労働省といたしましては、公益財団法人国際研修協力機構、JITCOと称しておりますけれども、ここが実習を実施する企業等に対しまして巡回指導をやっておりまして、労働条件を含めて、適正な技能実習が行われているかどうかについて確認をしておるところでございます。また、その際、可能な限り技能実習生と面接を行いまして、技能実習の上で問題がないかどうか直接聴取もしております。

 さらに、JITCOでは、実習生からのフリーダイヤルによる母国語相談を実施しておりまして、相談の内容によっては、巡回指導を行ったり、また関係の行政機関へ情報提供するといったようなことも行っております。

 さらには、監理団体ですとか実習を行う企業に対して労務管理を含めたセミナーを行うなどの事業を行って、労働環境の適正化を図っておるところでございます。

 今後とも、これらの取り組みによりまして、労働関係法令の違反の防止に努めてまいりたいと思っております。

榊原政府参考人 入国管理局におきましては、従来より、不適正な受け入れを行っている疑いのある技能実習実施機関や監理団体に対しまして実地調査を実施しまして、不正行為が認められたものについては、その類型に応じて最長で五年の受け入れ停止をするなど、厳格に対応しているところでございます。

 また、先ほど厚労省からも御説明がありましたように、関係機関との連携強化や監理団体等に対する啓発活動など、適正化のためにさまざまな取り組みを行ってきたところですが、今後も、不適正な受け入れを行っている疑いのある技能実習実施機関、監理団体に対しましては、調査体制を強化いたしまして、さらに積極的に実態解明を行うなど、一層の適正化に努めてまいりたいと考えております。

椎名委員 ありがとうございます。

 今の法務省の御見解、実施機関と監理団体と一緒くたにお話しされているんですけれども、一応分けて話をしなきゃいけないのかなというふうには思います。

 実施機関というのが基本的に外国人技能実習生を雇用する立場にある、労働契約を締結する立場にありまして、平成二十二年の改正入管法から現行の技能実習制度、在留資格ができ上がったわけですけれども、この制度以降、基本的には、入国一年目の技能実習一号という在留資格によって在留している方々に、一定期間の講習の後以降、労働関係法令が適用されるということになります。労働関係法令が適用されるということは、すなわち普通の日本人の労働者と全く同じなわけです。

 しかし、いろいろJITCOを通じて見回り等を行っていますと、厚生労働省からいただきましたけれども、実は、日弁連の不正事例、問題事例なんかを見ると、例えば、ベトナムからの女性の方で、残業代の未払いだったりというようなことをJITCOに指摘をすると、JITCOに連絡したため強制帰国というようなこともあったりします。

 これは、根本的な問題点はどこにあるのかというと、私自身が考えるところなんですけれども、最初に指摘しましたが、入国に際して、まず、実施機関から監理団体を通じて実習計画というようなものが入管の方に提出されるわけですけれども、研修をどのように実施するかという実習計画、これが一番最初の在留資格を取るための大前提になっているわけです。

 基本的には、この実習計画が先にあって、これに従って入国するという前提になっていて、何を意味するかというと、転職の自由が要は基本的にはないんです。実習計画の変更ということになると、また法的な手続をいろいろすることになります。なので、外国人は転職の自由が原則余りないということで、実習計画がうまくいかないと帰国させられるというのが制度の原則なんです。

 そうすると、なかなかJITCOだったり労働基準監督署だったりというところに違反事例をみずから申告するということが難しくなります。先ほど、防止策ということで厚生労働省の方からもいただきましたが、防止策ということではなくて、違反事例が一回起きた後にどう対応するかというと、基本的には労働基準監督署等を通じた労働基準行政によるわけです。ここへの申し出自体がはばかられるというようなこともあります。

 日弁連の調査で出てきたところによると、例えば、セクハラ、パワハラ事案でいうと、社長が胸をさわったり卑わいなことを言う、抵抗すると帰国させられると思い我慢しているみたいな事案もあったりします。こういったようなところにあるのかなというふうに私自身は思います。

 もう一つ、分けて話をしますけれども、監理団体というのは、先ごろの平成二十二年の改正によって、この外国人技能実習制度、最長三年間と先ほど申しましたが、この三年間の外国人が実習を行っている期間、監理団体が責任及び監理をする、技能実習実施機関に対していわゆる監査をするわけです。こういった責任が法的にも認められたわけです。

 監理団体というのはどういう団体かというと、法で定める非営利の団体、例えば、農業等で外国人技能労働の受け入れをしている場合には、要は農協とかです。農協、漁協、中小企業組合、そういった団体です。こういった団体が、加盟している団体について監査をする。実際に実地調査も行っています。

 しかし、実態は、総務省の行政評価報告によると、八十三機関の調査をしたところ、八十一件、不正事例を見逃していた。ニュースにも載りましたけれども、九八%で労働法規違反というものを見落としていたというような指摘もございます。

 監理団体による監査を適正化するためにやはり対応していかなければならないんじゃないかというふうに思いますが、法務省の参考人の方にもう一度伺います。監理団体による監査の適正化のためにどのようなことを今現状行っているか、教えてください。

榊原政府参考人 入国管理局におきましては、監理団体や実習実施機関が技能実習生を受け入れる際の留意点をまとめた技能実習生の入国・在留管理に関する指針を策定して公表しているところでございます。

 今般、先ほど御指摘のような評価を受けまして、同指針を改定して、監査の視点、手順、方法等、さらなる具体化、明確化を行いまして、監理団体による監査の適正化を図ることとしております。

 また、当局におきましても、従来より、不適正な受け入れを行っている疑いのある技能実習実施機関や監理団体への実地調査を実施してきたところでありますけれども、今後、体制をさらに強化いたしまして、積極的に実地調査を行い、適切に対応してまいりたいと考えております。

椎名委員 ありがとうございます。入管の方々が監理団体を実地調査しているということなんだそうです。

 約二千件ほど日本全国で監理団体というものが存在しています。先ほど申し上げたように、漁協や農協、それから中小企業組合、あと商工会、そんなような団体です。

 入管というのは、そもそも、基本的には、外国人が日本にやってくる際にまさに入国管理をする立場の人たちであって、要するに、日本全国に二千あるこういった監理団体、商工会、中小企業組合といった団体、わざわざそういったところに行って実地調査をするということがそもそも想定されていないんじゃないかというふうに思うんですけれども、体制という意味でいうと、どういった状況になっているんですか。

榊原政府参考人 この実地調査のためにどれだけの人員を割いているかという体制については、それだけをやっている部門はありませんので、ちょっと詳しくお答えしにくいんですけれども。

 基本的に、入国審査官が全国の地方官署、地方局等におきまして約二千人おります。そういったことに加えまして、入国警備官が別途おりますけれども、そういった入国警備官につきましても、事実の調査という権限がこの改正のときに付与されましたので、そういった応援も得ながら充実させてまいりたいというふうに考えているところでございます。

椎名委員 なかなか難しいんじゃないかなというふうに思います。

 今いただいたように、今、二千人の入国管理官、こういった方々で日本全国二千件超ある監理団体を一件一件回っていくということをやっていらっしゃるということなので、それはそれで、早急にぜひ実地をごらんに、全部確認していただきたいなというふうに思います。

 ちょっと質疑の順序だけ入れかえさせていただきたいんですけれども、もともと四番というふうに書いてあったところ、これについて質問します。

 外国人技能実習生というのは、我が国に入ってくる前に、事前に、送り出し機関という機関が監理団体と協定を結んだ上で、送り出し機関を通じて我が国に入ってくるわけです。事務手続等、この送り出し機関とそれから監理団体とを通じて書類のやりとりをする、そうやって準備をした上で、空港または港の入国管理局のところで提出するための十分な書類を整えるというのが事前に行われるわけです。

 この送り出し機関というのを、協定によって結んで、窓口として我が国では準備しているわけです。しかし、この送り出し機関が、例えば、楽して大金を稼げるとか、逆に、日本で先端的な農業の技術を学べるとか、こういった甘言と申しましょうか、実態とはずれているような勧誘の言葉なんかを使ったりして外国人技能実習生を勧誘しているということも聞いたことがありますし、さらには、送り出し機関が不正を行っているというようなことも散見されるわけです。送り出し機関が保証金を徴収しているなんという話もよく聞きます。

 こういった不正事案があって、まさに日本にやってくる実習生が日本の外国人技能実習制度というものに対して過度な期待をしていたり、または不十分な能力を持っている人が来たりとか、能力と期待をコントロールできていない状況というのもあるのではないかというふうに思いますが、この送り出し機関に対する不正の防止という観点から、どのような対応をされているか、教えてください。

榊原政府参考人 お答えいたします。

 現行技能実習制度におきましては、関係省令で、送り出し機関等が、名称のいかんを問わず、不当に金銭等を技能実習生本人から徴収することを禁止しております。仮に、そのような事実を隠蔽して受け入れを行っていることが確認された場合には、不正行為に該当し、そのような送り出し機関等が関係する技能実習生の受け入れは、五年間認められないこととなっております。

 法務省入国管理局におきましては、我が国の在外公館を初めとする関係機関などとも情報を共有しながら、そのような疑いのある事案については厳正に対処してまいりたいと考えております。

椎名委員 ありがとうございます。

 今、法務省の参考人の方がおっしゃったのはどういう話かというと、入国してくる外国人は、空港それから港なんかで在留資格認定証明書というのを提出して、それで入国許可をもらうわけです。

 この在留資格認定証明書というものは、これをつくるに当たって、監理団体と入国管理局の間で事前にやりとりをして在留資格認定証明書というのを出した上で、日本に来る外国人の方に事前にお渡しをしておくんですね。この在留資格認定証明書というものを持って入国許可の申し入れを港それから空港等で行うわけです。

 この在留資格認定証明書というものをつくるに当たって、不当な送り出し機関との間で結ばれている協定だったり、そういったものについては在留資格認定証明書を発行しない、そういうような対応をすることによって、事実上、不当な送り出し機関というものを制約しようとしているという意味なんだというふうに思います。しかし、新しい送り出し機関がつくった在留資格認定証明書等であれば、それは基本的にはチェックしようがないわけです。

 そして、やはり大きな問題となるのは、結局、送り出し機関というのは我が国の機関ではありませんで、当然、現地国の現地法人だったりしますから、我が国が主権を行使して、我が国がそちらの国の送り出し機関について何かしらの行政処分等を行うということは、基本的にできないわけでございます。そういった中で、どうしてもこの送り出し機関の不正というのは、なかなか防ぎようが、難しいというのが現状なんだというふうに思います。

 事後的に在留資格認定証明書というものを発行するしないというところで対応するというのが、今現状行われている対応でしょうけれども、当然ですけれども、会社だったり団体であれば、新しく団体をつくり事業譲渡等を行うことは普通にできるわけですから、要するに、新しい送り出し機関というのがどんどんできてきてしまったら、なかなか難しいんじゃないかなというのは、私自身はいつもお話を聞いて思ったところでございます。

 さらに、この外国人技能実習制度、入国までの話を今ちょっとさせていただきましたけれども、その後、入国した後、彼らは一定期間の講習を受けた後に、実際に雇用された上で労働をするわけです。この労働をするというのは、一年目は、基本的には、実習一号という在留資格に基づいて、在留期間最長で一年、実際の実施機関、大体、農家の方だったり普通の中小企業の会社だったりという実施機関との間で雇用契約を結んだ上で、実際に労働をするわけです。

 この一年目から二年目以降に移行するに際しては、一定程度の試験を受けなければならないというふうにされています。技能検定基礎二級という試験を受けなければならないというふうにされています。この試験を受けないと二年目以降滞在できないので、一年目から二年目に移行するに当たっては、こういう試験を受けるという人はいっぱいいるというふうに聞いていますが、二年目以降も同じように技能検定を受けるということが予定されています。制度上は予定されていますけれども、どの程度受験しているのかということです。

 これは、何でこんなことを聞くのかというと、結局、外国人技能実習制度という制度そのものが、技術移転を目的としているというふうに言っていますけれども、実際に技術を移転するということの成果の検証というものがどの程度できているのか。成果の検証というのをこの技能検定という研修で仮に行うとすると、試験を受験し合格するというのは、一つはかる指標にはなるかなというふうに思います。

 もう一個つけ加えますけれども、さらに平成二十二年度から改正して三年たっているわけです。とすると、三年間の実習期間を経て、母国に帰っていらっしゃる方というのが徐々に出てきているということなんだというふうに思いますが、技術移転が実際に達成されて、この目的が達成された上で、きちんと現地で移転された技術を使って仕事をしているという検証というのはできているんでしょうか。法務省の参考人に伺いたいと思います。

榊原政府参考人 ただいま御指摘のありましたように、技能実習制度につきましては、三年間の技能実習終了時に技能検定三級レベルの技能等を習得することを目標として技能実習活動をする制度でございますので、その時点で技能検定を受けることが予定されておりますけれども、三年間の終了時点で技能検定試験を受験する人はごく少数にとどまっております。

 そして、技術移転の成果についてでありますけれども、詳しい調査はできませんけれども、これまで行った調査のベースでお答えいたしますと、技能実習生の技術移転につきましては、これまで、公益財団法人国際研修協力機構、いわゆるJITCOにおいて帰国後の状況について調査しておりまして、その結果によれば、一定程度、技能移転が図られているとの結果が出ていると承知しております。

 いずれにしましても、現在の現行制度のもとで受け入れ三年間の技能実習を終了した者につきましては、平成二十二年の改正以降でございますので、ことしで三年間が終了する状況でございます。こういった人たちにつきましても、同様のアンケート調査が実施されているものと承知しております。法務省入国管理局におきましては、この調査結果も踏まえまして、制度の見直しの中で、技術移転を確実に図るための方策についても検討してまいりたいと考えております。

椎名委員 ありがとうございます。

 局長、ごく少数とおっしゃいましたけれども、パーセンテージでいうと〇・五、六%ということですよね。非常に少ないんです。結局、一年目から二年目に移行するに当たっては、その試験を受けて合格することが在留資格を一号から二号に変更する要件になっているので、みんな試験は受けるんです。そういう意味でいうと、試験勉強ということと、試験に合格するための一定程度の技術というものを、一年目から二年目ぐらいまでにかけてはそれなりにやるんだというふうに思います。

 しかし他方で、二年目以降は、技能検定三級を受けることを目標としているとおっしゃっていましたが、これはあくまでも目標なので、要するに、この試験を受けることは要件ではないわけです。しかも、三年たったら基本的には帰国する人たちなので、試験なんか受けないわけです。そうすると、技術が移転されたのかどうかというところについては、甚だ、やはり難しいなというふうに考えるわけです。

 先ほど、JITCOを通じたアンケートということをおっしゃっておりましたが、アンケートというのは、基本的にはやはり日本から帰る前にアンケートをするんですよね。しかし、日本から出て母国でどうやって技能を生かしたかというところのアンケートをぜひともとってほしいなというふうに思います。昨今でも、日本で学んだ技術などここでは役に立たないんですみたいな現地での人々の声が新聞報道等でもされていることもあるので、ぜひともそこについては検証していただきたいなというふうに思います。

 本来、人づくりにより国際貢献をするという制度なんですけれども、外国人を受け入れて、農業それから中小企業での工業等に従事してもらうわけですが、一年ほど前ですか、韓国で、日本のレッドパールとかいう非常に高級なイチゴですけれども、こういうイチゴなどの種苗が不正に流出しているなどの事案が報道されたと思います。こういった外国人技能実習制度が、種苗などの知的財産の不正流出につながる可能性というのがゼロではないというふうに思います。

 こういった観点から、外国人技能実習制度を拡充していくに当たって、知的財産の流出防止に対する策ということで、農水省に御意見を伺えればと思います。

山下政府参考人 植物品種保護に関してのお尋ねでございますけれども、東アジアには植物品種保護制度が不十分な国が多く、我が国の植物品種が海外において十分に保護されずに増殖されるおそれがございます。

 このため、農林水産省では、平成二十年度に、日中韓及びASEAN諸国から成る東アジア植物品種保護フォーラムというのを設置いたしまして、意識啓発や人材育成等の協力活動を行っております。こういった活動を通じて、各国における品種保護制度の整備を進めているところでございます。

 御指摘の韓国の事例でございますけれども、これは、韓国の一部生産者に許諾した品種が増殖されて我が国に逆輸入された事例のことと思われます。これは、韓国がイチゴを植物新品種の育成者権の保護の対象とした平成二十四年以前のことでありまして、一時は同国で栽培されているイチゴの大宗を占めていたという情報がございます。その現状の把握を目的とした委託調査を実施したり、担当者を同国に派遣してというような対策を講じております。

 今後は、諸外国における種苗法の整備とあわせまして、我が国の植物新品種の海外での登録を促進し、知的財産の保護、活用による農林水産業の振興を図ってまいりたいと考えております。

椎名委員 ありがとうございます。そういった知的財産の不正流出等につながる可能性もあるので、ぜひとも農水省の方にもいろいろ頑張っていただきたいなというお願いだけさせていただきます。

 最後に、一つだけ大臣にお願いします。

 要は、転職の自由が事実上余りないということで実習計画どおりにする、実際は農業等の勉強をするつもりで来ると単純労働者として働かせている、この実態と現実の乖離というところがやはり問題なのではないかというふうに思います。

 実際、今回のこういった制度、非常に不健全なのではないかというふうに思います。これよりも、単純に、技能研修という形ではなくて、新しい在留資格を設けるなど、外国人単純労働者を受け入れるための制度設計を整えていく、こういった外国人労働者の受け入れということについて積極的に御検討いただきたいなということでお願いを申し上げて、大臣の御見解をいただければと思います。

谷垣国務大臣 外国人労働者の技能実習制度につきましては、平成二十一年度衆参法務委員会の附帯決議で、制度のあり方の抜本的見直しについて総合的に検討することとされております。

 その中で、今月の八日から分科会を設けて第一回の会合を行いますので、そこでいろいろ検討してしていくわけですが、ただ、今までの基本的な考え方は、委員御承知のように、専門的、技術的分野の外国人は我が国の経済社会の活性化に資する観点から積極的に受け入れていこう、しかし、単純作業を行うような外国人労働者の受け入れは認められないという方針に基づいてやってきているわけですね。ここら辺についてはさまざまな御意見があることはよく承知しております。

 したがいまして、今度の議論におきましては、まず、今御指摘のような不適正な受け入れ、これをどうやったら防止できるかという措置、これはしっかり検討していただかなきゃならないことだと思っております。あわせて、優良な受け入れ機関において、より一段レベルの高い技術を習得するためにどうしていったらいいか、技能実習期間を延長することなどができるだろうかというようなことを議論していただく、今のところはそういう考えで進めさせていただこうと考えております。

椎名委員 ありがとうございます。

 時間もなくなりましたのでこれで終わりますが、それ以上に、本当に、適正化するのみならず、単純労働者の受け入れということも、恐らく実業界が内々に考えているからこそ期間の延長ということも要求しているんだと思いますので、ぜひ御検討いただければと思います。よろしくお願いいたします。

 ありがとうございました。

江崎委員長 次に、鈴木貴子さんから発言を求められております。鈴木貴子さん。

鈴木(貴)委員 新党大地の鈴木貴子です。先週に引き続きまして質問のお時間をいただきましたことを感謝申し上げます。

 早速質問に入らせていただきます。

 先週の三十日の質問で、大臣に再審制度のあり方についてお尋ねをさせていただきました。そこで大臣は、「再審というのは、いわゆる三審制のもとで論議をして結論を得たものの、いわば例外と申しますか、非常救済手続として設けられている」と述べられました。大臣のおっしゃる非常救済手続とはどういったものか、御見解をぜひともお尋ねしたいと思います。

谷垣国務大臣 まず、今おっしゃったように、私も答弁したことでありますが、通常は、三審制度のもとで、最高裁までの段階で判断をし、そこで決着をつけるということであります。

 しかし、白鳥事件の最高裁判決にありますように、新たに本人が行為をしたのではないと認められるような証拠が出てきた、こういうような場合には、今までの三審制度でいわゆる既判力ある決定が出ているわけですが、もう一回十分検討する必要がある、そのようなことを非常救済措置という言葉で申し上げました。

鈴木(貴)委員 大臣、ありがとうございます。大臣もお使いになられた例外的ケースであると思います。

 また、言いかえれば、それこそ判決を覆すような新たな証拠が出てきた場合に再審というものがとられるんだと思うんですけれども、この間も何点か述べさせていただきましたが、東電OL事件、足利事件、布川事件、全てこれは無期懲役から無罪になったケースです。また、死刑判決から無罪判決が出た免田事件も有名だと思います。ほかにも、死後、再審無罪が出たケースというものも明らかになっております。服役終了後に真犯人が自白したことによって再審無罪となったケース。

 私自身、調べてみて、こんなにもあるのか、例外というものはこんなにも多いものなのかと正直驚いたというのが率直なところであります。これだけ再審無罪が出ているというこの状態は、それこそ、非常救済手続と大臣はおっしゃいましたが、私は、非常事態ではないか、このように思います。

 こうした事実も含めまして、改めて大臣にお尋ねします。何がこうした再審無罪、俗に言われる冤罪事件というものを生んだと思われますか。

谷垣国務大臣 私も、一々の事件の個別的なことは必ずしもよく承知してはおりません。ただ、やはりその中には、例えば科学的捜査手段が十分でなかったということもあると思います。それから、よく言われることは、いわゆる自白偏重といいますか、自白の中で、自白調書をとることに偏重し過ぎているのではないかというような批判があることも私は承知しております。

 いずれにせよ、刑事裁判で人を裁くということを前提として、もうイロハのイでございますが、法と証拠に基づいてきちっとした捜査を遂げていく、やはりこの初心に返ってやっていくということが基本ではないかと思っております。

鈴木(貴)委員 ありがとうございます。今大臣のお話にもありましたように、自白の偏重ですとか、ゆえに、今法制審議会の方でも検討が進められているという現状だと思います。

 そこで、当事者である捜査当局、稲田局長にぜひともお尋ねをさせていただきたいと思います。

 当事者としても、法制審議会とはまた別に、もちろん信頼の回復に独自に取り組まれているかと思いますが、具体的に当事者としてどのような取り組みをなされているか、お尋ねいたします。

稲田政府参考人 先ほど大臣からお答えを申し上げたとおりでございまして、無罪になったり、あるいは、再審請求が認められて、結果、無罪になった事件というのはいろいろな原因があるわけでございます。それにつきまして、検察当局におきましても、これまでも、それぞれの段階でその内容については真摯に反省し、かつ、その原因は那辺にあったのかというようなことを内部で十分検討してきているところでございます。

 それにもかかわらず同じようなことが起こったという御批判があることも承知はしておりますけれども、他方でやはり、例えば自白に頼らない捜査をするということで客観的証拠を重視していくということは、今検察の第一線においては非常に重視してやってきているところでございまして、そのような反省の上に立って今事件の処理に当たっているものと承知しております。

鈴木(貴)委員 ありがとうございます。

 今、反省という言葉も使われていたと思うんですけれども、具体的にどういった指示が、例えば現場に、どういったことに取り組め、どういったことに反省しろ、そういった具体的指示をぜひとも教えていただきたいと思います。

稲田政府参考人 お答え申し上げます。

 どの段階での、どの指示のことをお尋ねなのかはわかりませんけれども、検察部内におきましてはいろいろな会議、会同等を行っておりまして、その際にも、検事総長、次長検事、担当する最高検の部長、あるいは各高等検察庁から、それぞれの地方検察庁に対して、先ほども申し上げましたような客観的証拠の重視でありますとか科学的捜査についての知見を広めていくようにというようなことは、累次、重ねて指示をしてきているところでございます。

鈴木(貴)委員 今、稲田刑事局長が紙を見ずして、ずっと私の目を見ながらお答えをいただいたということに、非常に感銘といいますか感動いたしております。ありがとうございます。

 きょう、それこそ奥野法務副大臣、また平口法務大臣政務官の御挨拶といいますか答弁の中でもありましたように、全ての国民が安心に暮らせるようにというお話もありました。政治家、そしてまた刑事局長を初め皆さんが、最終的に望んでいるこの国家のあり方というのは同じであると思います。同じ目的、目標を共有する者として、ぜひともお知恵も、また尽力もいただきたいなとお願いをさせていただきたいと思います。

 ここで、刑事訴訟法の四百七十九条についての質問に移らせていただきたいと思います。

 谷垣大臣にお尋ねをいたします。

 以前、ことしの六月二十四日に提出しました質問主意書第一三一号で、袴田巖さんの弁護団が、平成二十年十一月七日法務省を訪問し、その際弁護団より、当時の法務大臣宛ての、袴田さんに関する病院移送及び死刑執行停止の申し入れ書、平成二十年八月一日付で日本精神神経学会法・倫理関連問題委員会、多摩あおば病院の中島医師らによって作成された袴田さんの精神状態に関する意見書、及び、平成十九年十一月七日付で国立精神・神経センター精神保健研究所岡田氏によって作成された鑑定書が法務省職員に手渡されたと承知しております。大臣もその内容を把握されていますかという質問に対しては、質問主意書内で、申し入れ書、意見書及び鑑定書に目を通し、その内容を把握しているといった答弁をいただきました。

 そこで大臣、それら三つの書類に目を通し、内容を把握された後、実際に何か関係部局の方に指示を出されたのか。もちろん、個別案件について具体的な答弁はいただけないことは重々承知しております。ですが、指示を何か出されたのか、それとも把握されただけで終わったのか、お尋ねいたします。

谷垣国務大臣 事務当局からの説明を聞きながら、なるほど、そういうことがあったんだなということは承知しておりますが、それについて特段の指示はしておりません。いずれにせよ、こういう問題に対しては、現場できちっとまず判断をするということが大事であろうと思っております。

鈴木(貴)委員 この刑事訴訟法四百七十九条を大臣にお尋ねしたのも、四百七十九条一項には、これは大臣判断だと明記されているわけです。前回、三十日の質問の際にもちょっとこれにも触れたんですけれども、死刑の執行も職責の一つであるということも存じ上げておりますが、「心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。」という、この行為もまた大臣の職責の一つでないのかな、このように思っております。大臣の見解はいかがでしょうか。

谷垣国務大臣 今おっしゃったように、死刑については、今の問題も含めまして、単に裁判所の判断というだけではなくて、最後は法務大臣の命令によるということになっております。

 もちろん私はその責任を負っているわけでありますが、実務としては、まず、これを専門に担当している検察官が十分審査をして、書類を審査する場合もあるし、いろいろなことがあると思います、十分審査した上で私のところに上申が上がってくるという形をとるのが通常であると思っております。

鈴木(貴)委員 私もそのような認識を持っておりまして、ゆえに、先ほど申し上げた三つの書類、申し入れ書、意見書、鑑定書、それぞれ、その道のプロ、専門医であったり専門家の方が作成された書類であると思っております。そうした専門家が出された書類を、把握されただけで実際に次のステップに移られなかったというのは、逆に言うと、どういう解釈をすべきなのかなと。大臣の見解をお尋ねいたします。

谷垣国務大臣 過去のこういう問題についても報告を受けましたし、私になりましてからの報告も受けております。そのときに、やはりまずよく精査するようにということは申しております。

鈴木(貴)委員 時間も迫ってきましたので、なるべく建設的な質問に移らせていただきたいと思います。

 刑事施設内における成年後見人の申請手続に関しての質問に移ります。

 被収容者のために成年後見制度を利用する際、制度を利用するに当たり、認知症、知的障害、精神障害であるかを見る鑑定を行うとなっております。そもそも成年後見人制度の申し立てを行うということは、認知症、知的障害、精神障害の疑い、すなわち既に、ここからかぎ括弧です、「事理を弁識する能力を欠く常況にある」もしくは「事理を弁識する能力が著しく不十分である」ことが見込まれます。

 被収容者が鑑定人との面会拒否またはそれさえも認識できないような状況下、健康状態にある場合には、果たしてどうやってこの制度を利用することが可能になるのでしょうか。これは西田局長にお尋ね申し上げます。

西田政府参考人 申しわけございません、少し回答しづらいことなんですけれども。

 刑事施設においてそういった手続をする場合には、やはり本人に面会することになろうかと思うんですけれども、本人が面会を承諾しないで拒否する場合は面会をしていただけないことになりますので、一般論ではございますけれども、当方の手続といたしましては、まず面会の承諾が前提になりますので、難しい場面もあろうかというふうに思います。

鈴木(貴)委員 先ほども申し上げたんですが、この成年後見人制度の申し立てということは、もう既にその弁識能力を欠く、著しく不十分であるということにおいて、本人の合意というものはそもそも不必要ということになっているかと思います。その中で、面会を拒否ということでこの制度が利用できないということになりますと、人権の侵害にもこれは抵触するおそれがあるのではないのかなと思うんですが、そこら辺の見解はどうでしょうか。

西田政府参考人 たびたび申しわけございません。当方の刑事施設を所管しているところから申し上げますと、そういった手続というのは、面会があって、面会をされて進められることだろうと思いますので、面会ということでございましたら、やはり本人が承諾しないとなかなか難しいという部分がございますので、その点、御了解いただきたいと思います。

鈴木(貴)委員 私も今の答弁に了解もできないですし、また成年後見手続を申請している皆さんも、今の答弁ではやはり了解も納得もできないというのが事実でなかろうかと思っております。

 また、西田局長は刑務官の御出身ということで、現場の経験もあると私は存じ上げております。そういった現場の声を、また様子を知る局長のお知恵もぜひとも拝借しながら、積極的にこの制度を、必要な改正など、また必要な解釈を考えていただきたいなとお願いを申し上げます。

 時間が参りました。最後に一点だけ、きょう配付をさせていただきました資料について説明をさせていただきたいと思います。

 きょう配付した資料なんですけれども、いわゆる袴田事件についてであります。この事件がどんな事件だったのか、どこで起きたのかということは皆さんよく御存じだと思うんですけれども、どのような根拠を持って再審請求に至っているかという点まで御存じの方はもしかしたら多くはないのかなと思い、このような資料を配らせていただきました。私も全ての……(発言する者あり)はい。私も全てが無罪だと言っているわけではないんですけれども、ぜひともこうした資料にも目を通していただいて、現実をそれぞれの委員の先生にも見ていただきたいと思っております。

 時間をオーバーしまして大変申しわけありませんでした。私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

     ――――◇―――――

江崎委員長 次に、内閣提出、裁判官の配偶者同行休業に関する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。谷垣法務大臣。

    ―――――――――――――

 裁判官の配偶者同行休業に関する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

谷垣国務大臣 裁判官の配偶者同行休業に関する法律案について、その趣旨を御説明いたします。

 政府においては、外国で勤務等をする配偶者と生活をともにすることを希望する有為な国家公務員の継続的な勤務を促進する必要があるという現状に鑑み、一般職の国家公務員について配偶者同行休業の制度を導入するため、国家公務員の配偶者同行休業に関する法律案を提出しているところでありますが、裁判官についても、これと同様の趣旨で配偶者同行休業制度を導入する必要がございます。

 この法律案は、裁判官が外国で勤務等をする配偶者と生活をともにするための休業に関する制度を設けようとするものでありまして、以下、その概要を申し上げます。

 第一に、裁判官が、外国での勤務その他の最高裁判所規則で定める事由により外国に住所または居所を定めて滞在するその配偶者と、当該住所または居所において生活をともにするための休業として、配偶者同行休業を設けることとしております。

 第二に、最高裁判所は、裁判官が配偶者同行休業を請求した場合において、裁判事務等の運営に支障がないと認めるときは、配偶者同行休業をすることを承認することができることとするほか、配偶者同行休業の期間の延長等について必要な事項を定めることとしております。

 このほか、施行期日について規定するとともに、関係法律について必要な規定の整備を行うこととしております。

 以上が、この法律案の趣旨であります。

 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願いいたします。

江崎委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。

 次回は、来る八日金曜日午前九時三十分理事会、午前九時四十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十六分散会


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