衆議院

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第6号 平成26年10月31日(金曜日)

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平成二十六年十月三十一日(金曜日)

    午前九時四分開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 柴山 昌彦君

   理事 土屋 正忠君 理事 ふくだ峰之君

   理事 盛山 正仁君 理事 柚木 道義君

   理事 井出 庸生君 理事 遠山 清彦君

      安藤  裕君    池田 道孝君

      小田原 潔君    大塚  拓君

      大見  正君    門  博文君

      神山 佐市君    菅家 一郎君

      黄川田仁志君    小島 敏文君

      古賀  篤君    島田 佳和君

      末吉 光徳君    中谷 真一君

      平沢 勝栄君    星野 剛士君

      三ッ林裕巳君    宮澤 博行君

      郡  和子君    階   猛君

      横路 孝弘君    高橋 みほ君

      丸山 穂高君    大口 善徳君

      西田  譲君    鈴木 貴子君

      西村 眞悟君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   政府参考人

   (警察庁長官官房審議官) 塩川実喜夫君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   政府参考人

   (公安調査庁長官)    寺脇 一峰君

   政府参考人

   (公安調査庁次長)    小島 吉晴君

   参考人

   (弁護士)

   (日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会委員長) 山下 幸夫君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      橋爪  隆君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

十月三十一日

 辞任         補欠選任

  黄川田仁志君     島田 佳和君

  今野 智博君     中谷 真一君

同日

 辞任         補欠選任

  島田 佳和君     星野 剛士君

  中谷 真一君     今野 智博君

同日

 辞任         補欠選任

  星野 剛士君     黄川田仁志君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、第百八十三回国会閣法第三〇号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 第百八十三回国会、内閣提出、公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、本案に対し、横路孝弘君外一名から、民主党・無所属クラブ提案による修正案が提出されております。

 提出者から趣旨の説明を聴取いたします。柚木道義君。

    ―――――――――――――

 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案に対する修正案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

柚木委員 ただいま議題となりました修正案につきまして、民主党・無所属クラブを代表し、その提案の理由及び内容の概要を御説明申し上げます。

 政府提出の公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案は、資金以外のいわゆる物質的支援の提供、収集を犯罪化するとともに、テロ行為の実行を容易にする目的でテロ企図者に資金等を提供しようとする者、いわゆる一次協力者による資金等の提供行為の実行を容易にする目的で、当該一次協力者に対し資金等を提供する二次協力者の行為に係る処罰規定等を新設しようとするものであります。

 しかし、テロ企図者に資金等が提供される危険が具体化していないものを独立して処罰することや、テロ行為の実行から遠く離れた行為についてまで処罰対象を広げることは妥当ではありません。仮に、一次協力者からテロ企図者に資金等が提供された場合に、その資金等を一次協力者に提供した二次協力者については、今回の法改正によらずとも、刑法総則の共犯規定により処罰対象となります。また、これまでに現行法で検挙された例はなく、今回の改正で拡大される部分で検挙可能であった例も把握されておりません。

 これらに鑑みれば、政府案が新設しようとする罰則は、その処罰範囲が広範に過ぎるものと考えます。

 そこで、政府案から処罰対象となる主体の範囲を限定するため、この修正案を提出した次第であります。

 以下、この修正案の主な内容について御説明申し上げます。

 一次協力者によるテロ企図者への資金等の提供行為の実行を容易にする目的で、二次協力者が当該一次協力者に対し資金等を提供する行為、一次協力者がみずからのテロ企図者への資金等の提供行為の実行のために利用する目的で資金等を提供させる行為並びにテロ行為の実行のために利用されるものとして資金等を提供する行為及び提供させる行為に係る処罰規定を削除することとしております。

 以上が、この修正案の提案理由及びその内容の概要であります。

 何とぞ、御審議の上、委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

奥野委員長 これにて修正案の趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 本案及び修正案審査のため、本日、参考人として弁護士・日本弁護士連合会国際刑事立法対策委員会委員長山下幸夫君及び東京大学大学院法学政治学研究科教授橋爪隆君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、山下参考人、橋爪参考人の順に、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず山下参考人にお願いいたします。

山下参考人 皆さん、おはようございます。

 ただいま御紹介いただきました日本弁護士連合会の国際刑事立法対策委員会委員長をしております山下でございます。

 きょうは、参考人ということで、日本弁護士連合会のこれまでの、この法律のもとになっている現行法並びにこの改正案に対する意見ないし会長声明を踏まえまして、この改正案のうち、特に政府原案に対する意見を述べさせていただきます。

 今回審議されております公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律の一部を改正する法律案というのは、平成十四年に制定されたこの法律、いわゆるテロ資金提供処罰法と呼ばれている法律でございますが、以下、これを現行法と言わせていただきます、この現行法の改正でございます。

 日本弁護士連合会は、現行法の制定時に、平成十四年四月二十日付の意見書におきまして、その法案に反対する意見を述べております。そこでは、そもそもこの法律は、国連のテロ資金供与防止条約の国内法化のための法律でありますが、条約が求める規制の範囲をはるかに逸脱し、その処罰の範囲を著しく拡大するものであるということ、構成要件が曖昧で不明確であるということ、予備の幇助を独立犯として処罰し、その未遂犯も処罰しようとするもので、刑法の共犯規定の例外を定め、刑事法制に重大な影響を与えるものであるから法制審議会で審議されるべき法案であるのに、その手続を経ないで法案を提出されたということなどを反対の理由として指摘しております。

 本改正案の政府原案は、この問題のあった現行法を改正しようというものでございます。

 本改正案の政府原案に対する改正点は、以下の二つの点でございます。

 まず第一に、現行法においては資金の提供が処罰対象となっておったのですが、この提供の対象を、資金に限らず、その実行に資するその他の利益、すなわち物質的な利益にまで広く拡大するという点でございます。

 第二に、これまで、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとするいわゆるテロ企図者に対して直接資金を提供する行為及びそのような者に資金を提供させる行為を処罰しておりましたが、改正案の政府原案は、いわゆるテロ企図者に対して直接資金等を提供する一次協力者間の提供行為及びその提供を受ける行為、一次協力者に対する二次協力者の資金等の提供行為及びその提供を受ける行為、二次協力者に対するその他協力者の資金等の提供行為及びその提供を受ける行為まで、法定刑を少しずつ軽くしながら、その処罰範囲を拡大しようとしております。

 しかしながら、この改正案の政府原案には、次のような問題点があると考えられます。

 まず、提供の対象を資金から物質的な利益にまで拡大しようとする点については、現行法第二条の「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という曖昧な文言と相まって、提供行為についての構成要件がますます曖昧となり、捜査機関による恣意的な運用がなされるおそれを拡大することになるという問題があります。

 次に、資金等の提供者について、一次協力者に資金等を提供する二次協力者、二次協力者に資金等を提供するその他協力者にまで処罰範囲を拡大しようとする点については、処罰対象者を著しく拡大するものであります。

 現行法であるテロ資金提供処罰法は、公衆等脅迫目的の犯罪行為を実行しようとするいわゆるテロ企図者に対して直接に提供行為を行う予備行為の幇助を独立犯として処罰する規定を設けております。

 そもそも、刑法の解釈論として、予備の幇助が認められるかどうかは一つの論点であり、これを否定する見解もあるところでありますが、現行法では、資金の提供行為に関して、予備行為の幇助を独立犯として処罰する規定を設けたということであります。

 既に述べましたように、日本弁護士連合会の意見書においては、現行法第一条の公衆等脅迫目的の犯罪行為の規定の仕方が曖昧で不明確であるということを指摘しておりました。

 本改正案の政府原案は、いわゆるテロ企図者に対する資金等の提供行為を一次協力者の行為と捉えた上で、さらに、その一次協力者に対する資金等の提供行為を新たに処罰しようとしております。これは、いわば予備行為に対する幇助の幇助を処罰しようとするものであります。

 そもそも、予備行為や幇助行為という概念は、非常に外延が広くて曖昧なものであり、運用次第でその処罰範囲が不当に拡大するおそれがあります。それでも、現行法では資金の提供行為という限定がありましたが、本改正案の政府原案では、これを物質的利益の提供にまで広げようとしておりますので、処罰範囲が広がり過ぎるおそれがあることは否定することができません。

 本改正案は、さらに、一次協力者に対する資金等の提供をする者を二次協力者として、その二次協力者に対するその他協力者の資金等の提供も新たに処罰しようとしています。これは、いわば予備行為に対する幇助の幇助の幇助を処罰しようとするものです。これにより、そもそも予備行為や幇助行為という概念が非常に外延が広く曖昧なものであることと相まって、その処罰範囲はさらに拡大することになります。

 いずれの罪についても、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的」という目的規定や、「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして、」という限定はされていますが、その要件も極めて曖昧であり、適切な限定になっているとは考えられません。

 このように、本改正案の政府原案は、現行刑法の共犯規定と比較して、正犯の行為からはるかに離れた行為を処罰しようとするものであり、その処罰範囲は著しく広範に過ぎると考えられます。本改正案の政府原案が成立すると、構成要件が不明確であり、著しく広範な処罰範囲を定めることから、テロ対策という極めて政治的な判断から、恣意的な不当逮捕、勾留がなされる危険性が増大することになると考えられます。

 テロリズムを予防するための措置の必要性と、国際社会の中で我が国がその役割を果たすことが重要であるということは言うまでもありません。本改正案が、政府間組織であるFATF、金融活動作業部会からの勧告に基づいていることも承知しているところであります。

 しかしながら、テロリズムの予防のためには、市民の基本的自由を侵害することがないよう、基本的人権に十分に配慮し、尊重することが必要であり、テロ対策のための目的と手段のバランスをとることが必要であると考えられます。

 現行法及びその改正案の政府原案は刑事立法であり、その恣意的な運用によって国民の身体の自由が侵害されることがあってはなりませんし、処罰範囲が過度に広範で、不明確な処罰規定が存在すること自体によって、国民の自由な活動が萎縮させられるおそれがあります。テロ対策のための目的と手段のバランスがとれていないという点で、本改正案の政府原案には問題があると言わざるを得ません。

 現行法が成立した後、一件も適用例がないとされています。これは、国内法としての立法事実がないことを示しており、少なくとも、我が国において、本改正案の政府原案のような改正をしなければならないという立法事実は存在していないと考えられます。

 本改正案の政府原案にはこれまでに述べたようなさまざまな問題点があり、本改正案の政府原案には反対せざるを得ないと考えております。

 日本弁護士連合会は、平成二十五年四月十七日付の会長声明において、本改正案に反対し、広く国民の意見を聞いて徹底的に審議を尽くすことを国会に対して求めているところであります。

 以上で私の発言を終わります。ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、橋爪参考人にお願いいたします。

橋爪参考人 ただいま御紹介にあずかりました東京大学の橋爪と申します。専門分野は刑法でございます。

 このように参考人として意見を述べる機会をいただきまして、大変光栄に存じます。本日は、刑法の一研究者の視点から、今回の改正法案の内容につきまして若干の意見を申し上げたいと存じます。A4で一枚の資料をお配りしているかと存じます。それに即しまして、考えるところを簡単に申し述べたいと存じます。

 当委員会におきます議事録を拝見しておりますと、改正法案をめぐっては刑法上の問題点について御指摘があり、活発な御議論があったように理解しております。私は刑法の研究者でございますので、このような刑法上の問題点に限って、きょうは若干の意見を申し上げたいと存じます。

 恐らく、本改正案につきましては、刑法上、二つの観点からの御懸念があったように理解しております。すなわち、第一に、改正法案においては、処罰の主体が拡大されたことによって、現行法と比較して処罰範囲が大幅に拡大しているのではなかろうかという御懸念、さらに、第二に、改正法案の特に三条ないし五条の処罰規定については、その限界が不明確であり、犯罪構成要件としての明確性の要請に十分に対応できていないという御懸念でございます。

 こういった問題点は大変重要な御指摘ではございますが、結論から申し上げますに、刑法理論としては必ずしも深刻な問題ではないように考えております。

 以下、順次その根拠を申し上げます。

 まず、第一の点でございます。

 まず、現行法の処罰範囲を確認しておきたいと思いますが、現行法第二条におきましては、公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行を容易にする目的で資金を提供する行為が処罰されており、これが改正法案三条一項において基本的に引き継がれております。

 そして、改正法案では、三条二項におきまして、三条一項の行為者と同一の目的のもと、資金提供者に対してさらに資金等を提供する行為、以下、これを間接的資金提供行為と申し上げますが、この間接的資金提供行為の処罰、また、第四条第一項では、三条一項の罪の実行を容易にする目的による間接的資金提供行為の処罰が提案されておりまして、これは、一見しますと、処罰範囲の拡張をもたらすようにも見えます。

 しかし、これは、現行法におきましても、実は、資金提供罪の共同正犯や幇助犯として処罰可能な類型でございます。すなわち、改正法案三条二項の行為は、資金提供罪の共同正犯が成立し得る局面、また、改正法案四条一項の罪は、資金提供罪の幇助犯として処罰可能な行為の一部を特別に切り取って、独自の構成要件にしたものと解されます。こういった意味におきまして、処罰範囲に関して決定的な変更が生じているわけではございません。

 ただ、唯一大きな変更点は、間接的資金提供行為の処罰時期の早期化でございます。

 すなわち、現在の判例、通説の理解では、正犯者が実行行為に着手した段階に限って共同正犯、幇助犯は処罰可能であると解されておりますので、現行法では、資金提供罪の犯人が、テロを具体的に企図している者に現実に資金を提供しようとした段階で初めて、間接的な資金提供者は資金提供罪の共同正犯または幇助犯として処罰可能でございます。

 本改正法案は、この問題に関しまして、間接的な資金提供があった段階で処罰が可能とするものでありまして、間接的資金提供の処罰時期の繰り上げを想定したものと評価できます。

 確かに、その意味では処罰範囲が広がっていることは否定できませんが、しかしながら、逆に申し上げますと、間接的資金提供の事実が明らかであるにもかかわらず、資金提供者がテロ犯人に資金等を提供するまでは一切処罰ができないということ自体が、実は合理的な限定ではなかったように思います。

 なお、処罰時期を早期化するためには、その分だけ処罰対象を合理的かつ明確に限定する必要が高いと思われますが、本改正法案は、資金提供罪の共同正犯的な行為、幇助犯的な行為を全て処罰するわけではなく、一定の目的における資金等の提供行為のみを処罰対象にしており、処罰対象を明確かつ合理的な範囲に限定することに十分に成功しているように思います。

 なお、改正法案第五条は、一見しますと、かなり広い範囲で資金提供行為一般を処罰対象にしているように見えますが、法案をごらんいただきますと、あくまでも「公衆等脅迫目的の犯罪行為の実行のために利用されるものとして、」すなわち、テロ行為等に利用されることを認識、認容した上で、しかも、テロ行為に利用され得る客観的な危険性が存在する状況において資金を提供する行為のみが処罰対象とされておりますので、処罰範囲が過剰に広範に至るような御心配はないように考えております。

 続きまして、第二の点、すなわち処罰対象の明確性の問題でございます。

 まず初めに申し上げたいことは、本改正案が提案している処罰規定の内容それ自体が明確であることは疑いがない点でございます。すなわち、改正法案は、各犯罪類型ごとに厳格な目的要件を課した上で、さらに、客観的な犯罪行為を資金等の提供行為に限定して規定しております。このような構成要件の内容自体は十分に明確であるように考えております。

 恐らく、先生方の御心配は、三条ないし五条の罪については、主観的な目的の相違によって犯罪類型が区分されており、このような主観面の微妙な相違によって個別犯罪の区別をすることは困難ではないかという点にあるかと存じます。

 確かに、改正法案は、目的といった主観的要件によって構成要件を区別しております。しかし、このように行為者の主観面を重視し、それに見合った刑罰を科すというのは、日本の刑法全般に当てはまる理念でございまして、本改正法案に限った話ではございません。

 また、このように厳格な目的要件を要求し、それを満たす場合に限って処罰をするというのは、処罰範囲を限定する手法として十分な合理性を持つように考えております。

 さらに申しますに、このような主観的目的要件につきましては、あくまでも検察官の方が十分な証拠を収集し、立証活動を行い、また、裁判所が慎重な事実認定によって判決を下すことになりますので、処罰範囲が不明確に広がってしまうとか、あるいは被告人または弁護人の方に過大な負担を課すようなことはあり得ないと考えております。

 私の意見は以上でございます。御清聴まことにありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。柚木道義君。

柚木委員 両参考人の先生方、ありがとうございます。それぞれの御所見を賜りまして、それを踏まえまして質問をさせていただきたいと思っております。

 まず、先ほど、民主党の修正案について私も説明をさせていただいたわけでございます。我々といたしましては、それぞれ先生方から今御所見をお述べいただいたわけではございますが、政府案が新設を企図する罰則規定というのが広範に過ぎるのではないかというふうな判断がございまして、政府案から処罰対象となる主体範囲を限定し、明確にするための修正案を提出しておるところでございます。

 今、御所見をいただいたわけではございますが、それも踏まえまして、この修正案に対しての両参考人よりの御所見をそれぞれ賜れればと思います。お願いします。

山下参考人 それでは、私の方から意見を述べます。

 先ほど私が述べましたとおり、そもそも、二次協力者、それから二次協力者に対するその他協力者に処罰範囲を拡大するというのは、やはり処罰範囲を拡大していると思います。

 先ほど橋爪参考人の方から、これはそもそも、本来、現行法で処罰しているものの共同正犯または幇助と同様のものであるという御説明があったんですが、今回の法案は、わざわざ二次協力者それからその他協力者に対するところについては少しずつ刑を軽くしていっているんですね。もし共同正犯、幇助で対処できるのであれば、刑をわざわざ軽くするのはおかしいわけでありまして、刑をわざわざ軽くしていっているというのは、それだけ範囲を広げている分、その分、要するに軽くなっていると考えられます。したがって、やはり処罰範囲が現行法よりも広がるものである、それをわざわざ規定をつくるわけですので、当然適用範囲が広がると考えられます。

 したがって、今回の修正案につきましては、二次協力者、その他協力者の関与部分を削除するという提案については、私としては大変よい提案であると考えております。

橋爪参考人 お答えいたします。

 ただいまの修正案でございますけれども、私の理解では、三条二項の間接的な資金提供行為に限って処罰をすることとし、第四条また第五条の資金提供行為については処罰をしない趣旨の御提案と理解いたしました。

 結論から申し上げますと、私は、既に申し上げましたように、政府案の第四条、第五条の提供行為につきましても、これはテロ資金を断ち切るという観点からは十分処罰する価値はあるというふうに考えております。

 もっとも、三条の罪と比べた場合、四条、五条の罪につきましての当罰性、可罰性が低いことも、これは否定しようがないと思います。実際、政府案でも、法定刑は、五年、二年と相当低くなっております。

 このように、両者の当罰性、可罰性に相違がある以上、いかなる範囲まで処罰をするかという問題点は、これはすぐれて価値判断、政策決定の問題でございまして、刑法の理屈で片がつく問題ではないと思います。

 こういった次第で、私としましては、原案も修正案も刑法理論としてはあり得る選択であるということは申し上げますが、その当否については、ここでは具体的な個人的意見は差し控えたいというふうに考えます。

柚木委員 両参考人から、それぞれありがとうございます。

 やはり、この政府案に対して、それぞれ、我々の修正案に対する一定の必要性といいますか、あるいは適正性といいますか、そういった部分については、私としては、今いただいた御答弁の中で、やはりこの修正案についてもしっかりと審議をさせていただく必要があるなと受けとめたところでございます。限られたところでございますので、この後、政府案に対する質疑で、それぞれ委員の皆さんからこの点についても深めさせていただけるものと思います。

 次にお伺いをさせていただきたいのが、両参考人にお尋ねをしたいわけですが、これは日本商工会議所の声明で、平成二十六年十月七日にこのようなコメントがなされております。いわゆるFATFから「ハイリスク国として公表されることにより、わが国の国際社会における信用が低下するのみならず、邦銀に対する欧米などの金融当局の監視が強まるほか、邦銀の海外取引に支障が生じ、企業の海外事業活動が多大な影響を受ける可能性を強く懸念」と。よって、速やかな法案成立をということでございまして、経済誌の論調も、政府による説明も同様でございます。

 規制緩和や市場開放で慣例化されてきたいわゆる外圧といいますか、そういった部分がいまだに健在という見方もあるのかもしれませんし、ちょっとうがった見方かもしれませんが、経済優先、人権は二の次という感が正直しないわけでもないというふうに思います。

 本法を含む一連のテロ対策立法も含めまして、刑事立法については、国際標準化として、治安強化の方向で進められてきたというふうに認識をしております。

 その必要性についても私は一定の認識を持っておるわけでございますが、他方で、有事法制もそうだったと思いますし、そういう中で、ただ、その外圧の中にも、私の中ではダブルスタンダードのようなものが存在をして、例えば、どれだけ非難や勧告を受けようとも、私、この間も委員会でも実は質疑させていただいたんですが、例えば我が国における女性差別、人種差別あるいは労働者保護に関する国際条約、規約に係る対応などがなかなか十分に進んでいない。

 そして、刑事立法分野においても、国際人権基準の国内適用は、国際的な批判を受けている、代用監獄における自白強要の根絶や取り調べの可視化なども、まだ十分に進んでいるという状況とは言えない。

 こういった中で、外延が曖昧な本法の適用拡大や、冤罪に対するおそれなどが払拭できない背景には、今申し述べたような状況が実はあるのではないかというふうに考えております。

 そこで伺いたいのが、このような我が国と我が国政府のそういったありようといいますか現状について、それぞれ両参考人よりの御所見、御提言を賜れればと思います。

山下参考人 FATFからの勧告といいますか、これは、四十の勧告、第三次勧告に対する、日本に対する相互審査の結果を踏まえたものでございますが、これは決して今回のテロ資金提供処罰法の改正だけを言っているわけではなくて、FATFは、本来、主としてマネーロンダリングの規制にかかわるところでございまして、テロ対策ももちろんやっておりますが、中心はマネーロンダリング対策でございます。日本はやはりマネーロンダリング対策においてまだまだおくれている、第三次勧告をまだ十分に履行していないということでございます。

 この国会においては、犯罪収益移転防止法の改正案がもう既に提出されておりますので、そこである程度はまだカバーできると思うんですが、要するに、テロ対策だけがFATFの勧告の眼目ではないということ。

 そして、今回も、物質的利益にまで広げるというものでも、それはFATFの勧告を満たすものでありまして、一〇〇%かどうかはともかく、とにかくFATFの勧告に対して対応することが大事であるということ、そしてマネーロンダリング対策が何といっても重要であるということでありまして、刑事関係におけるテロ資金提供処罰法だけを取り上げて、そこだけをとにかく急いでやらなければならないというような勧告がされているわけではないということでございます。

 そして、今御指摘ありましたが、私も、日本政府は、これまで人権関係条約については、ほぼ、何ら法的な国内法の対策をしないで批准をする。これに対して、刑事関係条約については、まず日本国内で対応するための法整備が必要であるといって非常にその法整備を急ぐ、それをしない限り批准しないというような、ダブルスタンダードな対応があったと思います。これは、例えば、いわゆる国際組織犯罪防止条約における共謀罪に関するものとか、そういうことを見ても明らかでございます。

 そのように考えております。

橋爪参考人 お答え申し上げます。

 確かに、今回の改正法案につきましては、FATFの勧告が大きな影響を持っていることは承知しております。

 ただ、そのような外圧が仮にないとしましても、本件テロ資金の対策というのは重要な懸案でありまして、まさしくテロといったものが、日本国民のみならず、世界的な一般大衆の生命身体に重大な危険をもたらすことに鑑みましたら、それは十分に処罰価値があり得るものであると思います。

 そういった意味で、仮に外圧がないとしましても、本法律につきましては、改正し、十分な対策を講ずる必要があるというふうに考えております。

柚木委員 ありがとうございます。

 それぞれの参考人の御所見を賜る中で、やはり政府案に対する必要な論点というものもクリアになってきているというふうに思います。それぞれ御所見をいただいておりまして、ありがとうございます。

 今までお述べいただいた御所見も踏まえて、私自身は、あるいは多分、この場の委員の皆さんもそこは同様だと思うんですが、それぞれ参考人のお二方もそういった趣旨をお述べいただいていると思うんですが、やはりテロというのは当然のことながら犯罪でございまして、厳しく処罰されるべきというのは、これは私もそのように認識をしております。

 同時に、この法案や、あるいは関連のこういった法律的な対応によってのみ、そういったことが防ぎ得るわけでもないというふうに思っておりまして、まさにテロに至るいわば根本原因といいますか、さまざまな要因が当然考えられるわけですが、そのいわば病根のようなものを、まさに政治も含めてさまざまな社会的な変革やアプローチなどによって除去していく、こういったことがなければテロの根絶ということには至らないというふうに考えるところでございます。

 そこで、国際紛争を解決する手段として戦争を永久に放棄している我が国におきましては、まさに、武力、戦争によらないテロ根絶のための国際貢献、そういったものが求められていると思うわけでございますが、それぞれのお立場から御所見、御提言をいただければと思います。

山下参考人 確かに、テロ対策というのは単なる刑事立法をするだけではだめでありまして、やはり、今言われたようなテロの原因を根絶する。そういう意味では、日本においては恐らく貧困問題が大きいと思うんですけれども、そのような貧困問題とか、そういうものを解決する、そしてテロのない社会をつくるということが大事だと思うので、総合的にやるべきであって、何か刑事立法だけすればいいというようなやり方ではやはりだめだと思います。

 そういう意味では、バランスをとった総合的なさまざまな施策を通じて、テロがない社会をつくっていくことが大事であると考えております。

橋爪参考人 私のお答えをいたします。

 ただいまの先生の御指摘、非常に感銘を受けましたが、私はあくまでも刑法の専門家としてきょうは参っておりますので、それ以外の問題につきまして提言等をすることはちょっと分不相応でございますので、そこにつきましてはお答えを控えさせていただきます。

柚木委員 今、それぞれ御所見をお述べいただいたわけですが、やはり社会全般的なアプローチ、先ほどの貧困ということもありましたので、そういったことも含めて取り組んでいくことが、この法案自体が実効性をより高めていくということにつながっていくのではないかというふうに改めて私も思わせていただいているところでございます。

 時間の方がそろそろなくなってまいりましたので、最後の質問にさせていただきたいと思いますが、御承知のように、我が国には、テロ資金対策と同様に、組織犯罪資金対策も国内外より強く求められておるところでございます。これは、昨年のみずほ銀行の、いわゆるジャパニーズ・マフィア・スキャンダルといいますか、こういった問題を初め、依然としてその対策がまだまだ非常におくれているという感を正直否めません。

 さらに、今般、これはそれぞれ委員の先生方にもお考えがおありとは思いますが、例えばカジノの解禁あるいはネット上の仮想通貨などなど、そういった意味では、いろいろ意見を異にするようなテーマも増大しているところでございます。

 テロ資金対策を含めたこれらの組織犯罪資金対策について、御専門でない部分もひょっとしたらおありかもしれませんが、両参考人よりの御所見、御提言をいただければと思います。

奥野委員長 山下参考人。できるだけ簡潔にお願いします。

山下参考人 確かに難しい問題だと思いますが、これはまさにマネーロンダリングの問題として対処する必要があり、我が国は、そういう意味では、先ほど言いましたように、FATFの第三次勧告をまだ完全実施できていないという状況ですので、まずそういう面。そして、とりわけ、銀行などの金融機関におけるマネーロンダリング対策についてはまだまだおくれている面があると思いますので、それについては、単なる法規制だけではなく、運用も含めた対策が必要であると考えております。

橋爪参考人 本法案におきましても客体を資金から利益に拡大しておりますので、そういった意味におきましては、今先生がおっしゃったようなバーチャルな利益につきましても本法案においてカバーできるように考えております。

柚木委員 以上で終わります。どうもありがとうございました。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生です。

 きょうは、山下参考人、橋爪参考人、大変お忙しいところ、ありがとうございます。

 まず教えていただきたいのが、政府案、政府が現行法を改正する法案と、きょう民主党が提出された法案で、一番の違いは、先ほど橋爪参考人も触れられたように、民主党が出された修正案というものは、新三条の三、新四条の一、新五条の一、二を落として、刑法の共同正犯また幇助でやっていく、政府の改正案の方はそれぞれを独立の刑罰を設けてやっていくというところだと思うんです。

 私は、この法律の適用を考えたときに、テロの企図者ですとか一次協力者、その犯行の意図ですね、既遂であれば、当然、共犯、幇助というものが適用になると思いますし、あと、未遂であっても、未遂にも個別のケースがいろいろあると思うんですけれども、ただ、未遂にも至らないような、未遂に結果として至らないようなケースの場合が、この民主党案と政府案で、二次協力者以降が実際として罰せられるかというところが違ってくるかなと思うんです。

 私の至らない頭で考えたときに、例えば、テロ企図者と一次協力者の間でそういうテロに向けた準備がなされていて、二次協力者から資金やその利益に資するものの提供があった。ただ、そのときに、企図者と一次協力者の間で仲間割れがあって、結果として当初の意図がなくなった場合がまずあるかと。あともう一つの例としては、一次協力者がそもそもやる気がなかった、お金だけもらってどこかに行ってしまったと。

 そういうような事例をちょっと考えたときに、民主党案、政府案で何か違いが出てくるのか。忌憚のない御意見をそれぞれの参考人からいただきたいと思います。

山下参考人 なかなか難しい問題ですけれども、恐らく、いずれの事例も、その処罰範囲、処罰されるかどうかは変わるのではないかなというふうには思うんですが、ちょっと、ここは専門家の橋爪参考人の御意見を聞いていただいた方がよろしいかと思います。

橋爪参考人 専門家という御指名をいただきましたけれども、私の理解を申し上げたいと存じます。

 確かに、今御指摘のとおり、仮に三条三項、四条一項、五条を全て撤廃いたしますと、二次協力者につきましては三条二項の共同正犯ないし幇助犯としてのみ処罰可能でございますので、そういった意味におきましては、実際に資金提供が行われようとした段階で初めて処罰ができると存じます。

 そうしますと、例えば、何か仲間割れがあって一次協力者の方からテロ犯人に対し資金提供が行われなかった場合については、修正案ではこれは処罰ができないとなりますが、多分、政府案におきましては、間接的な資金提供の段階で十分な目的と故意があればそれは処罰ができますので、それについても処罰範囲に入ってまいります。(発言する者あり)それがいいかどうかにつきましては、そこは議論の余地があるように考えております。

 また、初めから一次協力者が実は相手をだますつもりで、資金を提供するつもりがないのに資金提供を要求した、それに従って間接的な資金提供が行われたケースにつきましても、私の理解ですと、一定の目的要件を満たせば政府案ではこれは処罰はできるというふうに理解しました、ちょっとそこもまた少し慎重に検討したいと思いますが。修正案におきましては、その問題につきましては、それは処罰対象から除外されております。

 いずれにしましても、私の理解としましては、間接的な資金提供があれば、既にテロを支援する危険性は十分にあるわけですから、その段階で処罰をすること自体に一定の合理性はあるというふうに考えております。

井出委員 今お話があったところで重ねて伺いたいんですが、一次協力者が、そもそも、テロをしないということは結果的にいいことなんですけれども、詐欺的な思いで二次協力者からお金を取ったとき、今、慎重な検討は要するというお話があった上で、政府案ではできるのではないかと御見解を述べられているんです。

 橋爪参考人の最近書かれたものも読ませていただいて、例えば、殺人事件ですとか強盗の共同正犯、そういうものを考えたときに、当初意図していたものを実行する、それに向けて、その途中経過、未遂であった場合は共同正犯というものが成り立つ。ただ、しかしながら、途中で怖くなってやめてしまったとか、邪魔が入ったので本来殺そうとしていた人ではなくて別の人を殺してしまったとか、我々、専門家でない一般の方が考えている共犯の意思ですとか未遂の考え方と、刑法の法律の共犯と未遂というものの考え方というのは、大分開きがあるのかなという思いを持っているんです。

 私は、このテロの法律で言うと、最初から一次協力者がやる気がないのに、二次協力者からそういったものの提供を受けたときに罪に問われるというのは、私のような一般素人の感覚からすると、どうなのかなというところは非常にありまして、共犯というもの、また幇助というものの、素人の考えと法律の専門家の見解、定義というものが違うところを少しわかりやすくというか、改めて御解説をいただきたいんです。

橋爪参考人 お答え申し上げます。

 今の点でございますけれども、まず、共犯と御指摘がございましたけれども、政府案は共犯規定ではなくて独自の罰則をつくっておりますので、その問題が生ずるわけではございません。

 また、確かに、御指摘のとおり、一般に刑法犯というのは、生命、身体と法益の侵害を待って処罰をするわけなんですけれども、場合によっては、より重要な法益がある場合については、具体的な侵害が発生する前、危険性が発生する段階で処罰をすることも正当化できます。

 そうしますと、例えば、具体的な被害は顕在化していないけれども、重要な法益に対して切迫した危険性があれば、その段階で刑罰権を介入することは十分に合理的な判断であるように思います。

 そうしますと、先ほど御指摘のとおり、実際には資金は提供するつもりがないにもかかわらず間接的な資金提供を行った場合に、果たしてそういう今言った具体的な危険性があるだろうかという観点の御質問だというふうに理解いたしました。

 確かに、そこは、先生おっしゃるとおり、危険性が不十分であるという御理解にも十分な理由があると思うのですけれども、例えば、強盗しようと思っている人間に対して、その意図を知った上で包丁を提供していれば、その段階で強盗予備の幇助犯が成立します。後からその者が幾ら翻意しましても、強盗予備についてはもう犯罪が完成していますので、強盗予備の幇助犯は、たとえ後から翻意しようとも、犯罪を構成します。

 そういった意味では、後から翻意があった、その結果、具体的な被害には至っていないということが、必ずしも危険性を遡及的に消滅するものではないというふうに考えております。

井出委員 あくまでも、強盗に例えれば、包丁を提供した段階の意図といいますか、そこが大事である、そういうお話。

 ですから、今回の法律に照らして言いますと、最初から二次協力者をだますつもりであればというところは、先ほどおっしゃられたように、現実の危険性というところは議論はある。一次協力者が途中で翻意する分には、さっきの包丁と一緒の話ということですね。わかりました。ありがとうございます。

 山下参考人に伺いたいのですが、今回の政府案の法律改正は、資金だけでなく利益というところまで広がっていく、テロ対策は国内国外を問わないというようなたてつけになっていると思うんですけれども、一つ、先日、北海道大学の人がイスラム国の戦闘に参加しようとしたときにクローズアップされた私戦予備罪というものがあります。

 私は、私戦予備の私戦というものが、あれは外国政府に限定した話なんですけれども、外国政府を相手にしたものの中には当然テロも一部として含まれている、また、私戦予備罪の予備及び陰謀というものは、資金の提供、または物資や情報の提供も含めてかなり広い解釈があって、政府の改正案と私戦予備罪というところは重なり合うところがあるなと考えております。重なり合うところがあり得るということは、この間、法務省の刑事局長からもそういう答弁をいただいたんです。

 そうして考えたときに、国外のそういった戦闘に対する行為に対しては、テロの改正案と私戦予備罪の両方の法律があって、個別の事情に応じて適用していくことになると思うんですが、国内のそういった事案に対しては、テロの改正案しかない。私戦予備というものは、国内のそういった事態に対してはない。罰則を見たときに、改正案は、一次協力、二次協力という段階もありますけれども、その一番重いものをとったときは、私戦予備罪よりもテロの改正案の方が罰則が重い。

 国外の事態と国内の事態で処罰を可能にする法律のたてつけにそもそも差が出てきてしまうということは、法律家としてどのようなお考えをお持ちになるかをちょっと伺いたいと思います。

山下参考人 私戦予備・陰謀罪というのは、今言ったように、国外といいますか、当然、外国に対して戦争するということについての予備、陰謀でして、この規定は、ほとんど戦後は使われたことがなかったわけです。

 これは、国交に関する罪、要するに、外国に対して、日本政府は何もしていないのに日本人が何か戦争をしかけるというようなことをすると国交に影響するという国交に関する罪なので、もともと、ちょっと立法趣旨が違うと思うんですね。だから、それが国内で云々ということは余り問題にならないし、あの規定は、そもそも別にテロを想定したわけではなく、まさに戦争ということ。

 もちろん、重なる部分は国外ではあるかもしれませんが、今言ったように国交に関する罪であるということを考えると、かなり規定の趣旨が違うと思いますので、それとの関係は、余り国内についてそれを考えるのはちょっと難しいのではないかと思います。

井出委員 立法趣旨は違うんですけれども、国外の場合においては、私戦予備とテロ対策の改正法、罰則の違う二つの法律が適用の対象となり得る。国内の方はテロ法一本しかない。

 ですから、それぞれのケース、個別の事案で、最終的には裁判で法と証拠に照らして罰が決まっていくと思うんですけれども、国外の事案に対しては法律が二本立てで、ですから、検挙するときに二つの選択肢があり得ることもあるんですね。国内の場合は、テロ法一本で検挙するかしないかというのを議論する。

 不公平とまでは私は言わないんですけれども、その差異というものに対して、もう一度短く見解をいただきたいと思います。

山下参考人 今回のテロ資金提供処罰法は、今言ったようにテロ資金とか物質的利益を支援するものに限っているので、さっき言った私戦予備の予備行為というのはもっと、かなり広い、さまざまな行為ですから、そもそも対象が違っていると思うんですね。ですから、国内について、私戦予備との関係を考える意味は余りないのではないか。

 それから、二つの罪がもし国外について成立するとした場合に、それが観念的競合なのか、それとも何か吸収されるのかとか、この辺も今まで議論はなかったと思いますが、その辺はまた議論されるべき点ではないかと思っております。

井出委員 終わります。どうもありがとうございました。

奥野委員長 次に、西田譲君。

西田委員 おはようございます。次世代の党の西田譲と申します。どうぞよろしくお願いします。

 山下参考人、橋爪参考人、きょうは本当にありがとうございます。

 まず、お伺いさせていただきたいと思います。

 山下参考人の方から、先ほど、立法事実がないから改正というのは果たしてどうかという御意見が、これは日弁連の会長声明からの引用ということでおっしゃっていただきました。

 ですけれども、テロ資金に対する処罰法というのは、当然、テロというのは国を隔てず活動が行われるわけでございますから、これを断固許さないということで、国際社会が連携をして一定の対処をしていくわけでございます。ですので、仮に国際社会の連携の中で対処が甘いところがあれば、そこがいわば切れ目となって、そこになだれ込んでくるわけですね。そういったこともありますので、やはり、そういう国際社会との関係の中でしっかりとテロに対処していく、そういった中での政策判断としての立法措置であろうかと思います。

 ですので、立法事実云々といったところでの改正の必要なしというところは、私はちょっと当たらないのではなかろうかというふうに考えるんですが、この点につきまして、山下参考人、そして橋爪参考人にも御意見を頂戴したいと思います。

山下参考人 立法事実の件は、既に現行法が成立をしていることを前提に、さらに改正する立法事実があるかという趣旨で述べたものでございます。

 そして、一件も適用例がない。それは、要するに国内においてそういう例が今までなかったわけですが、その中でさらに処罰範囲を拡張する、広げるというような立法事実というか必要性はないのではないかということで述べさせていただいたところであります。もちろん、テロ対策が必要なことは言うまでもないんですが、これは刑事立法だけではなく、先ほど述べたようにさまざまな施策の中でテロ対策をしていくということなので、現時点において、さらにこれを広げる、現行法からかなり大幅に処罰範囲を広げるようなことをする必要、立法の必要がないという趣旨でございます。

橋爪参考人 確かに本法につきましては十二年間適用例がないわけでございますけれども、適用がないことが処罰の必要性がないことを意味するわけではないというふうに考えております。むしろ、この十二年間適用がなかったことが、要は僥幸と申しますか、本当にそういうことでございますので、むしろ十分な対策を講ずることが肝要ではないかというふうに思います。

 もちろん、処罰範囲が広がることにつきましては慎重に検討する必要がございますけれども、十分な理論的な説明がつき、処罰価値があるならば、それは処罰の必要性はあるように考えております。

西田委員 ありがとうございます。

 この十二年間、適用例がないということでございます。これは、さきの通常国会からずっと議論をしている内容でございますし、適用例がないどころか、捜査したことも実はないというような状況でございます。

 これが果たしてどういった背景なのか。この法律がそもそもでき損ないで、使い物にならないのか。あるいは、法律はあるけれども、それを執行するだけの能力が行政機関にないのか。あるいは、我が国は、そんなテロとは無縁な、平和で安穏とした毎日がこの十二年間ずっと続いてきたのか。あるいは、この法律ができたがゆえに、抑止力となって起こらなかったのか。さまざまな議論が沸き起こってくるわけでございますけれども、これを通常国会で私は政府にお伺いしましたら、お答えするのはとても困難ですと。確かにそうではあろうかと思います。

 この点につきまして、両参考人は、二〇〇二年、平成十四年にできた法律がこれまで適用例がなかった、捜査すらされていないといったことに対しての御感想をどのようにお持ちなのか、お聞かせいただきたいと思います。

山下参考人 私は、もちろんこれはさまざまな事情だと思うんですが、この法律自体が、特に第一条の公衆等脅迫目的の犯罪行為の定義が極めてわかりにくい、非常に適用しづらいものになっていたということもあったと思うんですね。

 だから、そこは実は条約が求めているよりも幅広いものになっているんですが、非常にその書きぶりがわかりにくくなっていまして、適用が難しいという面もあったかと思うので、本来はもう少し限定し、もっと明確な定義をするということはあったと思うんですが、立法段階でかなりこれをわかりづらく書いている。

 そういう意味では、立法技術として若干使いづらいものになっていて、とりわけ、現場の警察の方とかにとっては大変使いづらい法律になっていたのではないかと私は想像しております。

橋爪参考人 私の意見を申し上げますと、私としましては、本法は十分に明確な内容を含んでおりまして、適用は十分可能であるというふうに考えております。

 ただ、あえて想像しますと、恐らく、資金の提供のルートを追跡することは相当困難でございますので、そういった意味で捜査の困難性が生ずることはあり得るかと存じますけれども、構成要件としては、十分適用にたえ得る内容を含んでいるように考えております。

西田委員 ありがとうございます。

 両参考人の意見も若干分かれているところで、我々としても、非常に難しい問題なんだなということを改めて認識するわけでございます。

 一方で、この法律をどう適用していくのか、そしてまた、本来の趣旨であるテロをどうやって未然に防ぐかといったことを考えますときに、これはやはり普通の事件と違いまして、普通の事件であれば、殺人事件が起こってから、強盗事件が起こってから捜査開始ということになるわけでございますが、テロを未然に防ぐといったことであれば、これは情報収集をしっかりと行い、ふだんから捜査員を張りつけておかなければならないわけでございまして、普通の刑法犯に対する捜査のあり方とは全然違うわけでございますね。

 そういったことを考えたときに、今回のこの法律改正、あるいはそもそものこの法律が、そういったテロを未然に防ぐという観点でどこまで実効性があるのか、捜査機関にとって十分な法律となっているのか。

 橋爪参考人は先ほど処罰の早期化につながるということで御評価をいただいておりましたけれども、この点についての御意見を両参考人からいただきたいと思います。

山下参考人 確かに、テロの未然防止のための捜査手法というものは日本にはまだ十分ないというふうに言えます。

 例えば、行政盗聴といって、まさに犯罪のない段階で特定の団体や個人をずっと盗聴するというような行政盗聴の問題とか、あと、例えば組織の中に警察官を入れるという潜入捜査とか、そういうものが現在日本にはないわけでして、捜査手法または捜査手段というものがまだ日本においては十分確立していない。ただ、これをやるに当たっては、人権侵害のおそれもあることですので、かなり慎重を要すると思うんですが、そういう捜査手法が確かにない。

 それから、当然、これは捜査する以上、捜査人員の問題、捜査にどれだけの人を配置するのか、いろいろな問題があると思いますので、その辺が全てそろわないと、確かに、法律だけあっても、適用する、またはそれを運用することは難しいと思います。

橋爪参考人 お答え申し上げます。

 ほぼ今の御意見と同旨でございますけれども、刑法としましては、このように間接的な資金提供行為について処罰の早期化をすることについては十分な合理性がありまして、今後も活用できるように考えておりますけれども、やはりあくまでも捜査体制を十分に整備することの方がより重要であるように考えております。

西田委員 ありがとうございます。

 むしろ、これからの、法律をいかに運用していくかといったことの課題については両参考人の御意見が一致をしたということで、非常に勉強になります。

 そういった中で、山下参考人の、この日弁連会長声明で一番懸念されていらっしゃるのは、恣意的な運用、当然、捜査機関の職権濫用であったりとか、確立した国民の自由が不当に侵害されないか、そういったことを御懸念されていらっしゃるわけでございます。

 私は、適用例も捜査事例も一例もない中で、そういった恣意的な捜査の心配をする以前の問題だというふうに実は考えておりまして、いかにして捜査能力を向上させていくのかといったことが非常に大切だと思っています。しかし、そういったことをやっていくに当たって、おっしゃったような御懸念をいかに払拭していくのかといったことも同時に必要な議論でございます。

 こういったことのために、やはりどうやったら、実際にこれから捜査能力を高めていったときに、職権の濫用、恣意的な運用、あるいは国民の人権の不当な侵害をなくす、そういったことができるのか。こういったことについて御意見がございましたら、両参考人にいただきたいと思います。

山下参考人 例えば盗聴といいますか通信傍受については、現在でも捜査については使っているわけですが、それをチェックする体制というのが不十分である。そういう、今言った、捜査が行き過ぎたり恣意的になることをコントロールする、それを担保するということが大事だと思いますので、日本のそういう捜査手法に関してはそれをチェックするような仕組みというものが欠けている部分があると思いますので、そういうものも整備していった上で運用していくということが大事だと思っております。

橋爪参考人 お答え申し上げます。

 私は刑法の専門家でございますので、刑法という観点からこの法案に関してコメントを申し上げますに、この法案は、相当厳格に目的要件を限定した上で、しかも行為態様を限定しております。そういった意味では、恣意的な運用の危険性は基本的には乏しいように考えております。

西田委員 ありがとうございます。

 これから、この立法をする以上、やはりきちんとした運用を求めていかなければならない中にあって、刑事司法手続等々のあり方については、引き続き、日弁連の皆様を筆頭に、貴重な御意見をぜひともお寄せいただきますようお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

奥野委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げる次第であります。

 参考人各位は御退席いただいて結構です。

 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

奥野委員長 それでは、速記を起こしてください。

    ―――――――――――――

奥野委員長 この際、お諮りいたします。

 本案及び修正案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房審議官塩川実喜夫君、法務省刑事局長林眞琴君、公安調査庁長官寺脇一峰君及び公安調査庁次長小島吉晴君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。階猛君。

階委員 民主党の階猛です。

 今行われました参考人質疑で、お二方の参考人、山下さんからは、私どもの提出した修正案は妥当な内容であるという御評価をいただき、また、もう一人の橋爪参考人からは、立法政策としてあり得る選択肢だという御評価をいただきました。

 私も、私どもの修正案というのは非常に妥当な内容になっていると思いますが、提出者にお伺いします。

 私どもの修正案では、二次協力者やその他協力者による資金提供を独立の犯罪とはせず、一次協力者によるテロ企図者への資金の提供罪の幇助犯として処罰することを想定しているということです。

 済みません、ちょっと前後しますが、わかりやすくするために、資料一というのをごらんになってください。

 この図は、政府案の説明の資料でございます。もともと処罰の対象になっていたのは、テロ企図者に対する一次協力者の提供行為であったということなんですが、太い矢印が左側の方に書かれていますけれども、この範囲の収集等も犯罪化するということになったわけです。一次協力者、二次協力者、その他協力者、このあたりの資金等のやりとりも犯罪化する。

 そこで、我々の修正案は、この新しく処罰の対象になった部分のうち、一番上の一次協力者の部分、一番上といいますか二段目ですね、一番上のミシン目と二つ目のミシン目の間の部分、一次協力者相互のやりとり、この部分は処罰対象に含めましょう、しかしそれ以下については処罰はしません、こういう内容であります。

 済みません、それでもとに戻って質問ですけれども、一次協力者が資金提供罪の実行行為に着手していない場合は、我々の修正案では、二次協力者等は、二次協力者以下は独立の犯罪としては処罰していませんので、実行行為に着手していない場合は処罰できなくなるのではないかということが先ほど来指摘されておりますけれども、この点は問題ないかどうかということについて御見解をお伺いします。

横路委員 お答えいたします。

 御指摘のように、修正案によれば、一次協力者が資金提供罪の実行行為に着手していないという場合に、その幇助犯も成立しません。したがって、二次協力者、その他協力者を処罰することはできません。

 そして、一次協力者が資金提供罪の実行行為に着手せず、未遂罪すら成立しない場合に、テロ企図者に資金等が提供される危険がいまだ具体化していない、そういう状況、そういう段階でございまして、その幇助に当たるような行為を罰するということは妥当ではないというように考えました。

 この点で、修正案は、テロ対策として本当に処罰に値する行為のみを処罰対象にして、テロ対策の着実な実施と国民の行動の自由の確保の適切なバランスをとろうとしたものでございます。

階委員 バランスをとるということは、ちょうど先ほど山下参考人も、テロに対する資金提供を処罰するという目的と手段とのバランスが政府案ではとれていないという指摘がありました。その点、我々の修正案は、そこのバランスに配慮しているというふうに承りました。

 それで、二問目に行きます。

 修正案では、二次協力者を、一次協力者によるテロ企図者への資金の提供罪の幇助犯として処罰することを想定しています。しからば、その論理構成はどういうものかということを具体的に説明していただけますか。

横路委員 一次協力者に対して、一次協力者によるテロ企図者への資金等の提供を容易にする目的で資金等を提供する行為、つまり、これは二次協力者による資金等の提供でございますが、提供を受けた一次協力者がその資金をテロ企図者に提供した場合には、これはテロ資金提供罪が成立しますので、その幇助犯として、そしてまた、一次協力者がテロ企図者に対する資金等の提供をするに至らない場合、それでもしかし、実行に着手すれば、テロ資金提供未遂罪の幇助犯としてそれぞれ処罰の対象になります。

 また、一次協力者が資金提供罪の実行行為に着手せず、未遂罪すら成立しない場合は、テロ企図者に資金等が提供される危険がいまだ具体化していないということでもありまして、このような段階でその幇助に当たるような行為を罰するというのは妥当ではないというように考えております。

 以上です。

階委員 ありがとうございます。

 一次協力者が実際にテロ企図者に資金等を渡してしまった場合は提供既遂罪の幇助犯になりますが、渡さなくても実行に着手すれば提供未遂罪の幇助犯になるということで、幇助犯にも二種類あるというふうに承りました。

 そこで、三問目ですけれども、修正案では、二次協力者に資金等を提供するその他協力者という人もまた、一次協力者によるテロ企図者への資金の提供罪の幇助犯として処罰することを想定していると思います。

 しからば、その論理構成はどのようなものかということを、先ほどのように具体的に説明していただけますでしょうか。

横路委員 お答えいたします。

 考え方も全く同じでございまして、もともと、予備罪の幇助犯、その幇助犯、幇助犯と拡大していくと、正犯との間の距離が非常に遠くなって薄くなっていくという者も処罰する必要があるのかどうかということが問題でございまして、先ほどお答えしたのと同じような考え方で私どもの修正案は考えております。

階委員 つまり、まず、一次協力者が実行に着手することは前提として必要である、そのような一次協力者からテロ企図者に資金等が提供されることを認識し、かつ、みずからの行為によって一次協力者によるテロ企図者に対する資金等の提供が容易になることを認識している場合には、それが二次協力者に対する資金等の提供であったとしても、テロ資金提供罪の幇助犯として処罰の対象となるということで理解してよろしいでしょうか。

横路委員 お答えいたします。

 おっしゃるとおりでございます。

階委員 それでは、提出者に最後の質問でございますけれども、我々の修正案によっても、現行法よりも処罰範囲が拡大しているところがあります。そこは、先ほど御説明したとおり、一次協力者間の資金等のやりとりの部分です。

 なぜこの部分については独立罪として処罰しようとしたのか、その趣旨を御説明いただけますか。

横路委員 お答えいたします。

 テロ行為を容易にする目的をみずから有しつつ、同じくテロ行為を容易にする目的を持ってテロ企図者に資金等を提供しようとする一次協力者に資金を提供する行為というのは、いわばテロ行為を容易にするという危険な目的を共有する、そういう仲間の間での資金の受け渡しということになるわけですね。したがって、その危険性や悪質性は極めて高く、独立の処罰に値するものである、このように考えておりまして、一次協力者間の資金の提供や提供を受ける行為も罰することとしたものでございます。

 テロというのは割と組織的に行われる犯罪でございまして、その中で任務分担とかいろいろあると思うんですね。その中で、特にこの一次協力者間のそういうやりとりというのは、やはり責任は重いものだというように考えております。

階委員 ありがとうございました。

 それでは、提出者についてはここまでにしたいと思います。

 ここまでは、修正案の合理性について明らかにする趣旨の質問でございました。他方、政府案については、我々は問題があるというふうに理解しています。その観点から、以下、法務大臣ほかの皆様に御質問をしてまいりたいと思います。

 まず、政府案が定める各種犯罪の構成要件に該当する事実が特定秘密にも当たるのではないかという観点から質問します。

 まず、前提として、憲法三十一条には、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」という規定がなされています。その趣旨は、刑事手続を法律で定めるだけではなく、法定された刑事手続が適正なものでなくてはならない、いわゆるデュープロセスを定めたという理解でいいかどうか、法務大臣、お答え願います。

上川国務大臣 そのように考えております。

階委員 そこで、政府案の三条一項、二項後段、四条一項、すなわち、先ほどの資料一でいいますと、ミシン目が三本ありますけれども、三本目のミシン目の上のところ、二次協力者以上のところの提供罪ということですけれども、この提供罪が成立するためには、資金等を提供する相手方がテロ行為を実行しようとする者であることが必要です。

 提供の相手方がテロ行為を実行しようとする者であるという事実は、構成要件に該当する客観的事実であり、検察官が立証責任を負うという理解でいいかどうか。これは事務方でも結構ですけれども、お答えください。どちらでも結構です。イエス、ノーで結構ですよ。

葉梨副大臣 それで結構でございます。

階委員 他方、ミシン目三つ目の下のところ、その他協力者の提供罪、政府案でいうと五条一項ですけれども、この提供罪が成立するためには、六月十一日の本委員会で林刑事局長が答弁されていましたけれども、客観的な状況として、「提供等の時点において、当該資金等が実行のために利用されるようなテロ行為が現実に実行される可能性が存在することが必要」であるということでした。

 このテロ行為が現実に実行される可能性が存在するという事実も、検察官が立証責任を負うという理解でいいかどうか。これも事務方でも結構です。

葉梨副大臣 五条一項でございますけれども、前の刑事局長の答弁のとおりなんですが、もう階先生御案内のとおり、ここは相手が誰だということが構成要件になっているわけではございませんで、公衆等脅迫目的の犯罪行為があって、その実行のために利用されるという認識、ここのところを立証する必要がございます。

階委員 多分、そこのところを敷衍して林局長が少し詳しく説明されたと思うんですが、確かに、この五条一項の場合は、テロをする人が誰なのかというところまでの認識は要求されていないけれども、答弁を再度引用しますと、「提供等の時点において、当該資金等が実行のために利用されるようなテロ行為が現実に実行される可能性が存在することが必要」であるということですから、テロ行為が現実に実行される可能性が存在するという範囲では、検察官が立証責任を負うということでよろしゅうございますよね。

葉梨副大臣 そのとおりでございます。

階委員 資料二をごらんになっていただければと思います。これは、特定秘密保護法の運用基準から抜粋したものでございます。法務大臣は特定秘密の担当大臣でもいらっしゃいますから、これはよくごらんになっているかと思いますが、引用した中に、別表第四、テロリズムの防止に関する事項ということで、いろいろ書かれております。

 この中の、この資料でいうと左側の下から四分の一ぐらいのところでしょうか、「テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報」という記述があります。

 今、検察官が立証する必要がある事実として、三条一項、二項後段、四条一項については、提供の相手がテロ行為を実行しようとする者であるということ、それから、五条一項については、テロ行為が現実に実行される可能性が存在するということ、これらの立証責任を負うということでしたので、これらの事実について、今の「テロリズムの防止に関し収集した国民の生命及び身体の保護に関する重要な情報又は外国の政府若しくは国際機関からの情報」ということに当たって、特定秘密に指定される場合があるのではないかと思うんですが、この点はいかがでしょうか。検察官が立証すべき先ほどの二つの事実が特定秘密に指定される場合があるのではないかということです。

葉梨副大臣 個別の事案にかかわることですので、なかなかこれを一概にお答えすることは困難かなという気がいたします。

階委員 あり得るかどうかということを聞いていますが、法務大臣、特定秘密担当としてどうでしょうか。

上川国務大臣 副大臣が御答弁した、一概に答えるのはなかなか難しいということではございますが、今おっしゃったようなことにつきまして、特定秘密たり得るというふうに考えます。

階委員 特定秘密たり得る、特定秘密に当たる場合があり得るということを踏まえた上で、次の質問に移ります。

 この政府案が成立したとして、それに基づいて、先ほど来述べている各種犯罪が刑事裁判で争われたとします。その場合に、例えば、一点目、刑訴法二百五十六条三項では、訴状の記載方法について、「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」という定めがあります。

 政府案が定める各種犯罪の起訴状には、先ほどおっしゃられたように、検察官が立証すべき事実が特定秘密に指定されてしまう場合があり得るということなんですけれども、そういう場合に、起訴状にはどの程度具体的に、検察官が立証すべき事実、立証すべき事実というのは、先ほど申し上げた二つの点です。例えば、三条一項等では、相手方がテロ行為を実行しようとする者であるという事実です。それから、五条一項について言えば、テロ行為が現実に実行される可能性が存在するという事実です。これらについては、起訴状にはどの程度具体的に書かれるのかということについてお答えください。

上川国務大臣 御指摘の、起訴状の記載に係ることについて、特定秘密の内容を起訴状にどのように明示していくのかという御質問でございましょうか。(階委員「はい」と呼ぶ)

 これにつきましては、検察当局におきまして、起訴状に公訴事実を記載する趣旨及び特定秘密を保護する必要性に配慮して適切に対応するというふうに考えております。

 具体的な記載例ということでございますが、例えば、特定秘密の内容全てを記載するというものではないというふうに思っておりまして、審査対象の特定や防御の範囲の明示といった、起訴状に公訴事実を記載する趣旨ということで満たせるものというふうに考えます。

 最終的には、記載が公訴事実の特定として十分であるかどうかということについて、判断は、裁判所によって個別具体で判断されるものというふうに考えます。

階委員 検察官が立証すべき事実が明確に特定されていないと、被告人あるいは弁護人がその事実のありやなしやということを争うときに支障を来すわけですね。そこは明確に記載されないと、刑事手続としては、先ほど三十一条を申し上げました、適正手続の保障という点に照らしていかがなものかということをまず指摘させていただきます。

 その上で、その起訴状が一応有効だとして手続が進んだ場合に、やはり先ほど申し上げたような事実は、防御側というか、弁護人あるいは被告人にとって重要ですから、公判前整理手続を開いて、それを裏づける証拠を出してくれということを請求したいわけですね。

 公判前整理手続というのは、今は裁判員裁判では必要的に開かれますけれども、それ以外の事件、この法律に基づく犯罪についても、必ずしも開かれなくてもいいということになっています。やはりこうした事件について公判前整理手続が行われてしかるべきだと思うんですが、どうなんでしょうか、公判前整理手続は、このような事件について開始されない場合があり得るという理解でいいのかどうか、確認させてください。

葉梨副大臣 公判前整理手続については、開始されない場合も当然あり得ます。

階委員 そこで、今、刑事司法制度の見直しというのが法制審から答申されていますけれども、その中で、ちょっと私も今手元に正確なものがないんですが、公判前整理手続は弁護人の請求があったら開けるようにしましょうというような中身がたしかあったかと思うんです。それは絶対に法制度化すべきだと思うんですが、いかがでしょうか。

葉梨副大臣 ちょっと手元に答申がないので申しわけないんですけれども、答申の内容に沿った内容を法制化することを考えています。

階委員 では、公判前整理手続が仮に行われたとしましょう。公判前整理手続が行われた場合に、被告人や弁護人から検察官に対して、先ほどのような事実に関して、それを裏づける証拠を開示してくれという請求があった場合、検察官としては、特定秘密に指定されていることをもって開示を拒否することができるというのが今の制度ではないでしょうか。

葉梨副大臣 それはそのとおりでございます。

階委員 そこで、検察官が開示請求を拒んだとします。拒んだ場合に、被告人や弁護人からは、裁判所に対して、これは重要だから証拠開示命令を出してくれという請求をします。その際、裁判所は、命令を出すかどうかを判断するに当たって、インカメラ審理というのを行うことができます。

 インカメラ審理を行う場合に、検察官には、裁判所限りで特定秘密が含まれている証拠を出してくれということが言えることになっていますが、この場合であっても、検察官は、特定秘密に指定されていることをもって、裁判所に対しても提示を拒否することができるというふうに読めるのですが、この理解でよろしいですか。インカメラに対する対応です。

葉梨副大臣 特定秘密保護法あるいは運用基準の中で特段そういう記載はございませんので、法律に従って、それを提示しないということはできる場合もあろうかと思います。

階委員 裁判所からの提示命令についても拒否できる場合があり得るということでありました。

 それでは、インカメラ審理をしたにせよしないにせよ、仮に、裁判所が、これは証拠開示命令を出すべきだと判断して、証拠開示命令を発したとします。証拠開示命令を発したとしても、強制力は多分ないので、検察官は、特定秘密に指定されていることをもって開示を拒否することがあり得るのではないかと思いますが、ここは大臣、いかがでしょうか。

上川国務大臣 あり得るものと考えます。

階委員 結局、刑事裁判でこの法律に定める犯罪が争いになった場合に、肝心なところの証拠が特定秘密に指定される場合は、これは弁護人、被告人の方には提示されなくなってしまうという問題があるわけです。

 こういうことが被告人や弁護人に開示されないまま刑事手続が進むということは、冒頭申し上げましたとおり、憲法三十一条に定める適正手続の保障に反すると思うんですが、その点について大臣の見解はいかがですか。

葉梨副大臣 もう階先生御案内のとおり、立証責任は検察官にございますので、検察官がそこで立証不十分ということになれば、有罪とはなりません。

 そして、その上で、立件する以上は、公判において必要な構成要件該当性を示すというのは当然のことだろうと思います。

上川国務大臣 ただいま委員から、憲法の三十一条に照らしてということの中での御質問でございましたけれども、検察官は、立証が不十分ということになりますと、そのことについては起訴することができないということでございますので、その意味では、立証しなければいけないという責務を負っているものというふうに考えます。

階委員 立証が不十分だから起訴できないじゃなくて、起訴はできますけれども、有罪にはならないという趣旨だと理解します。

 ただし、それは、理屈としてはそういうこともあり得るけれども、実際には証拠が出されないまま有罪となる場合もあり得るわけであって、やはり、有罪にならないからいいかどうかという話ではなくて、手続を保障して、被告人側が十分に防御する機会が与えられるということこそが、憲法三十一条の求めている適正手続の保障の根幹だと思うんですね。

 だから、検察官が立証できなくなるから問題ないんじゃないかというのは、私は、憲法三十一条の理解としては足りないんじゃないかと思うんですが、いかがですか。

葉梨副大臣 先ほど答弁の後段で申し上げましたのは、立件して起訴する以上は、公判において必要な構成要件該当性を示さなければいけない、それを立証しなければいけないということですから、それに必要な証拠というのは、当然、公判においても出すということになってまいりますので、今のお話、一部、特定秘密について開示しないということがあっても、必ずしもそれが憲法三十一条に反するというものではないと思います。

階委員 立件して、有罪にしたいから起訴するわけですから、それは重要な証拠は出すでしょう。ただ、重要な証拠は出すんだけれども、そこが恣意的にならないかというところを懸念しているわけですね。検察側に都合のいいところは出します、それで、有罪になるけれども、被告人側の防御に都合のいいところは、特定秘密だということで恣意的に選別されてしまうと、それも問題だと思います。有罪になるべき証拠は全部出すんだから安全だというのは、私はおかしいと思いますよ。やはり、有罪方向の証拠だけではなくて、無罪方向になる証拠も出されなくてはいけない。

 そのためには、特定秘密に指定されているものも、選別して出すんじゃなくて、全部出すような仕組みじゃないと私は問題だと思いますが、それはいかがでしょうか。

葉梨副大臣 当然、弁護側といたしましても、特定秘密だということで開示を拒むということを法廷の場でも強く主張されることになると思います。ですから、それで、特定秘密として開示がされないということで、なかなかこれは立証が不十分であるというふうな判断になれば、先ほど申し上げましたように、これは有罪とならないということでございます。

 あくまで立証責任は検察の側にございますので、御懸念のようなことは、逆に、出さないということで検察側が不利になるということも、相当の場合、あるかと思うんです。ですから、その意味では、そのような御懸念は余り当たらないんじゃないかなという気がいたします。

階委員 ちょっとかみ合わないんですけれども、特定秘密の指定を恣意的にされて、被告人にとって有利な方向、つまり、無罪方向の証拠が、特定秘密だということで法廷に出てこないという事態を心配しています。

 検察側が有罪を立証する上で必要な証拠は、有罪にしたいんだから全部出てくるだろう、これはもう私もそのとおりだと思うんだけれども、無罪にする方向の証拠は、かえって、特定秘密であることをいいことに出てこないんじゃないか、それを懸念しているんです。大臣、いかがですか。

上川国務大臣 ただいまの点に関して、裁判所の裁判ということにおきましては、裁判所が適切に訴訟の指揮をするというふうに思います。検察官も開示決定については尊重すべきものだというふうに思いますので、その限りにおきましては、きちっと適切に判断し、そして開示がされるものというふうに思います。

階委員 先ほど、開示命令に対しても拒否できると大臣は御答弁になりましたけれども、撤回されて、それは拒否できないということですか。今、開示されると言われませんでしたか。検察官は開示されると言いませんでしたか。どちらなんですか。

上川国務大臣 尊重するということでございまして、その限りにおいての開示ということになるということでございます。

階委員 わかりました。尊重するけれども開示しない場合はあり得るということでよろしいですか。

上川国務大臣 尊重するということでございます。(階委員「開示されない場合もあるということですか」と呼ぶ)尊重するということでございますが、それに対して開示をしないこともあり得るということでございます。

階委員 この論点についてはここまでにしますが、この犯罪については、刑事裁判になった場合、特定秘密保護法の運用が大きくかかわってくるということで、法制度上は必ずしも必要な証拠が開示されない。有罪方向の証拠は恐らく全て開示されるんでしょう、特定秘密であろうと。ところが、無罪方向の証拠については、特定秘密であることを理由に開示されないおそれがあるということを私は指摘しておきたいと思います。

 反論がありますでしょうか。なければ次に行きます。

 さて、次の論点ですけれども、今、内閣委員会の方では、国際テロリストの財産凍結法案というものが、これから審議されるのかどうかというところだと思います。この国際テロリストの財産凍結法案と今回の法案とを比べた資料が、私のお配りしている最後のものでございます。

 国際テロリストの財産凍結法案と改正テロ資金提供処罰法案、右、左と書いておりますが、FATF勧告の項目が異なる、あるいは主体が公告国際テロリストかどうか、あるいは行為者の認識が異なる、あるいは行為も少し異なるということであります。

 ただ、この両者は重なり合う部分はあるというのが下の方の具体例で示しているところでありまして、重なり合う部分があるのと同時に、重なり合わずに、この法案が処罰する対象には含まれるけれども、国際テロリストの財産凍結法案では処罰する対象には含まれないという部分もありますし、逆もまたあるということであります。

 問題にしたいのは、国際テロリストの財産凍結法案の方が、犯罪となる財産提供の相手方が、公告国際テロリストということで、客観的に定められています。その意味では、その定め方がどうかという問題はあるけれども、明確であるという点では、今議論している法律よりもまさっているところがあると思います。

 また、刑事罰を科す前に情報提供や行政命令がなされ、それに違反して初めて刑事罰が科されるということですから、提供者の、提供者というのは財産を提供する行為を行った人については、不意打ちにならずに、行動の自由も守られやすいのではないかということで、私は、この二つの法案、いずれもテロリストへの財産提供を未然に防止しようという目的ですから、国際テロリストの財産凍結法案が成立すれば今回の政府案は必要ないのではないかというふうにも思うんですが、この点、大臣の御所見はいかがでしょうか。

上川国務大臣 ただいま委員が御指示になりました資料の三というところの、まさにその関係性についての整理というところに鑑みて考えれば、重なるところと重ならないところがある、この円がちょうど重なったところの部分とそうじゃないところがあるということでありますが、いずれも、それぞれの部分につきましては、FATFの特別勧告の2と3ということで、趣旨、目的が異なるというふうに考えておりまして、この3の勧告に基づいて公告された国際テロリストのみを扱うという、このものが成立すれば、勧告2に基づいてつくられる、ただいま議論されているテロ資金供与の処罰法案が不要になるというふうに考えているものではございません。

階委員 確かに勧告の項目自体が異なりますね。勧告2というのはテロ資金供与の犯罪化、勧告3というのはテロリストの資産の凍結、没収ということで、前者に基づくのが今回の政府案であり、後者に基づくのが国際テロリストの財産凍結法案で、根拠となるFATF勧告の項目が異なるということなんです。

 しかし、そもそもなぜこういうことを規制しようというかというと、テロリストへの財産の移転を未然に防ぐということであるわけだから、目指すべきところは同じだと思うんですね。山の頂上は一緒だけれども登る道が違うというような話だと思うんですけれども、私は、行動の自由ということを考えた場合に、この国際テロリストの財産凍結法案があればいいんじゃないかと思っています。

 ただ、重なり合わない部分について若干申し上げますと、相手方が公告テロリストじゃない場合、仮に非公告国際テロリストと言いますけれども、この非公告テロリストの場合、財産凍結法案だけとした場合、処罰できなくなるだろうと。そういう問題点については、我々も、非公告テロリストのテロ行為を容易にする目的で資金等を提供する一次提供者、それから、先ほど資料一で示した、二つ目の点線の上の部分にある、一次協力者に対して資金等を提供するいわば準一次協力者、こうしたところは処罰対象としているわけですね。

 他方で、我々の修正案では二次協力者以下は処罰していないわけですけれども、こうした人たちは、非公告テロリストの実態をよくわからない場合もあって、刑法の幇助犯など共犯規定で処罰すれば十分だと考えています。

 改めて伺いますけれども、こうした考え方に立って、今回の法案については、我々の修正案が通れば、政府案ほど厳重に、二次とかその他協力者まで処罰対象に含めなくてもいいんじゃないかと思うんですが、この点、御見解を伺います。

上川国務大臣 ただいま委員から、この二つのカテゴリーに関する法案の関係についてのお尋ねだというふうに思いますが、FATFからは、非テロリストによるテロリストのための資金等の収集及び間接的な資金等の提供、収集が犯罪化されていないという指摘を受けているところでございまして、今、貴党が出されていらっしゃいます修正案というところに記載されております処罰対象につきましては、極めて限定的というふうにされておりまして、こうしたFATFの指摘に十分応えるものとはなっていないのではないかという懸念をしているところでございます。

階委員 いや、しかし、法務省も当初は、法律を改正しなくても共犯規定で対応できるんじゃないかということを考えられていたと思います。

 六月十一日の林局長の答弁で、「我が国といたしましては、共犯規定や予備罪の適用により対処できる場合もあるという旨の説明をするなど試みてきたところでございますが、FATFの理解を得るには至らなかったものでございます。」というのがあります。

 結局、FATFの理解を得られなかったというのが最大の立法理由であって、実は、本当は今の法制度でも対応できるというふうに法務大臣、法務省としては考えているんじゃないですか。どうですか。

葉梨副大臣 林局長が答弁されましたのは、間接正犯などの規定が適用できるというようなことを述べていたわけです。

 FATFの規定は、今大臣が申し上げましたとおり、まず、非テロリストがテロのためにお金を収集するということが罰せられないんじゃないか、それから、間接的な資金の提供について不明確じゃないか。特に後段の方につきましては、今までもFATFでそのような説明をしていたわけですけれども、やはり、明確にテロのために非テロリストが収集するというような行為については、確かに新しく法律を起こさなければならないということで今回提案をしているというわけです。

階委員 間接的な提供というところでいえば、我々も、準一次協力者から一次協力者のところは処罰対象にしているわけですよ。FATF勧告は、二次協力者、その他協力者まで処罰しろと言っているんですか。間接協力者にもいろいろな態様があると思いますから、私らも、準一次協力者の範囲ではこのFATF勧告に応えていると思います。なぜそれではだめなんですか。

葉梨副大臣 今申し上げましたとおり、FATFの勧告というのは、テロの実行のための目的で非テロリストが資金等を収集するという……(階委員「いや、一次も準一次も非テロリストですよ」と呼ぶ)

 いや、一次というのは、御提案されましたとおり、まさにテロ企図者の一次協力者、そしてその一次同士の、先ほど御説明されていましたけれども、まさに仲間の中のやりとりのような役割がそれぞれあるというようなお話を階先生はされていました。

 そうではなくて、やはり非テロリストが収集するということになれば、二次協力者、その他の協力者ということまで網をかけていかなければ、テロの防止、撲滅ということにはなかなか資することにならないのではないかという理解です。

階委員 私は全く見解を異にしまして、要するに、現実的な法益侵害の危険がなければ、間接的な資金提供も処罰すべきではないと思います。準一次、一次のやりとりについては、やはりテロ企図者との関係が直接的ですから、法益侵害の危険も高いと思いますけれども、二次以下についてはそれは弱いわけであって、間接の資金提供であっても、そこは処罰しないのが、やはり国民の行動の自由を確保するという観点からは重要ではないかと思っています。

 そこで、次のテーマですけれども、そもそもこのFATF勧告になぜこれほど拘束されなくちゃいけないのかということなんですね。

 FATFというのは政府間の取り決めだということで、政府が拘束されるというのはわからなくもないです。政府間の契約ですから、契約の当事者である政府が拘束されるというのはわからないでもないんですが、ここも原理原則に戻って考えたいと思います。

 憲法三十一条の適正手続の保障について先ほど申し上げましたけれども、この憲法三十一条は、手続の法定と適正だけではなくて、いわゆる罪刑法定主義、すなわち刑事実体法の法定と適正も要求しているというふうに理解しておりますけれども、この点は間違いないでしょうか。

上川国務大臣 そのとおりと考えております。

階委員 そこで、憲法三十一条は罪刑法定主義も要請しているということなんですが、なぜ罪刑法定主義が求められるのか、その根拠というものを大臣から御説明いただければと思いますが、いかがでしょうか。なぜ罪刑法定主義が求められるのか。

上川国務大臣 法治国家の中で、法律にのっとってしっかりと社会を維持していくという基本の枠組みからすれば、それに反することが何なのかということについてしっかりと法律で法定をし、そしてそれに対して適正に判断をして対応していくということが大事だというふうに思っています。

    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕

階委員 今……(発言する者あり)

柴山委員長代理 速記をとめてください。

    〔速記中止〕

柴山委員長代理 定足数が足りましたので、速記を起こしてください。

 階君。

階委員 今大臣からは、罪刑法定主義の根拠のうち、自由主義に関して述べられたんだと思います。自由主義というのは、どのような行為が犯罪に当たるかを国民にあらかじめ知らせることによって、それ以外の活動が自由であることを保障することが要請されるというものであります。

 ただ、いろいろ教科書とかを見てみますと、罪刑法定主義の根拠としてもう一つあります。それは民主主義によるものです。それは、何を罪とし、その罪に対しどのような刑を科すかについては、国民の代表者で組織される国会によって定め、国民の意思を反映させることが要請されるというものです。

 この民主主義というものも罪刑法定主義の根拠になるという理解でよろしいかどうか、大臣、お願いします。

上川国務大臣 そのとおりだというふうに考えております。

階委員 そこで、民主主義の原理からすると、やはり刑罰をいかに定めるかというのは国会が決めることなんですね。政府がFATFなる取り決めによって勧告を受けました、勧告を受けたから守らなくちゃいけない、それはいいでしょう。しかし、この立法府、国会は、国民の代表者で組織されていますから、国民の立場に立って、政府とは違う対応が当然認められると思いますが、この点についてはいかがでしょうか。

上川国務大臣 ただいま、自由主義と民主主義の基本ということで整理されております後者のことにつきまして鑑みれば、国会において罪刑についてしっかりと法定をしていくということについての御議論をいただくということでございます。

階委員 ですから、やはり、FATFの勧告だからということではなくて、もっと立法府が、これは国民のために必要だから立法しなくちゃいけないという立法事実というか立法の必要性が必要だと思うんですね。

 しかるに、これまで政府からの答弁とかを聞いていますと、FATFの勧告を守らないと何か金融取引に支障が出るというようなことを繰り返すのみで、過去に一件も、現行法においても摘発事例がないし、かつ、もし処罰範囲を拡大しても適用されるべき事例も見当たらないということが、私が六月十一日の質疑のときに明らかにしたことです。

 となると、政府はFATFがあるから対応しなくちゃいけないというのはわかるんですが、立法府が対応しなくちゃいけない理由というのは何なんですか。

    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕

上川国務大臣 今回の、国際的に大変大事な、テロに対していかに取り組むかという大きな課題に対しまして、随時の勧告、指摘を踏まえながら、こうしたことに対して日本としてしっかりと取り組んでいくということについてのこの処罰法案を今まさに御審議いただいているということでございます。

 そうした累次の御指摘については、こうしたことそのものを議論するということを通して結論を出していただくということが大切だというふうに思っております。

階委員 本当にこの法案を通してほしいんだったら、立法府に対して、これは国民の代表である立法府でちゃんと対応すべき必要性があるんだということをもっと説得的に言っていただかないと、なかなか我々も、はい、そうですかというわけにはいかないと思いますよ。

 あるいは、今の御答弁は、この法案を成立させるかどうかは我々が判断することだから、特に政府からはそれ以上頼むことはないという理解でよろしいんですか。どっちなんですか。

 本当に立法が必要だと思うんだったら、もっと説得的な理由を説明してください。あるいは、立法府のことは立法府で考えてくださいということでいいんだったら、そういう御答弁を。どちらかはっきりさせてください。

上川国務大臣 今回のテロ対策に対しまして、今御審議いただいている政府案につきましては、テロの危機に対してどう国際的に取り組むか、また国内的にも取り組むかということについて十分に御議論をいただいた上で、国民の皆さんの命そして財産を守るという趣旨に照らして考えてみますと、こうした政府案につきまして御審議いただきまして、ぜひとも通していただきたいというふうに思います。

階委員 ぜひとも通していただきたいというのはわかるんですが、その理由が私にとってはいま一つ説得的ではないような気がします。

 最後に、では、提出者に、提出者は立法府である衆議院の議長も務められた立場から、今の議論、やりとりを聞いていてどのような御感想を持ったかということで結構ですから、ちょっと御所見を伺います。

横路委員 テロに対応しよう、国際的にみんなで協力しようということで条約ができて、その条約に基づいていろいろな法体制をつくってきたわけですが、こちらの方で法体系を新しくつくるたびにFATFからの勧告を受けて、やり直し、やり直しと。最後には、財務大臣や法務大臣まで向こうの議長から勧告を受けて、ようやく今回の三つの法律の改正案として出てきたわけですね。

 この経過はなかなか明らかにされていません。どういうところが問題になって、犯罪の収益移転防止法などは何度も法改正をして、つい二、三年ほど前にやった法律も、これはだめですよと言われて、今回の法改正になっています。

 そういう意味でいうと、FATFというのは確かに政府間の取り決めに基づいて行われたものでありますけれども、事務局レベルのいろいろな交渉はあったと思いますが、その経緯、経過はほとんど国会に報告されていないということの中で、ぽんと法律が出てきたという印象を非常に強くいたしております。

 そういう意味では、もっとやはり行政の方で、今までの経緯、経過なども含めて、何が本当に問題だったのか、これは必ずしも明らかじゃないんですね。金融機関がどう考えているのか、どこに問題があったのか、あるいは、向こうの方が、非常に細かい指摘になっています、余りにも細か過ぎて現状に合わないのか、そういう内容がどうもはっきりしないということで、そんな意味では非常に残念に思っております。

 もっといろいろな経過で、今回の法律を含めて三本の法律、収益移転防止法とテロの資金凍結法、それから今回の法律というものについて、その経過が明らかになれば、我々ももっと審議がしやすかったのではないかという思いが率直にいたします。

階委員 提出者から率直な感想をいただきました。立法府として、しっかりとした議論、判断をしていきたいと思います。

 きょうはありがとうございました。

奥野委員長 次に、丸山穂高君。

丸山委員 維新の党の丸山穂高でございます。

 この改正テロ資金提供処罰法案につきましても、かなり長い時間審議を、前回の国会も含めてやってきていますが、今回、新たに修正案の提出がされたということで、その比較を含めまして、質問させていただきたいと思います。

 まず、政府案につきましては、二つの点で今回改正をしたいということで、提供の対象を物質的な利益にも広く拡大する、提供の対象を拡大するという点、そして、さらにその処罰範囲を拡大するという点での改正でございます。

 そして、一方で、今回修正案を出されましたが、それに関しては、特に二点目の処罰範囲の拡大についての修正だと認識しております。改めまして、民主党さん提出の修正案についての原案との違いの詳細と、そして、どこに原案は問題があって、どう修正をされるのかという点につきまして、改めて御説明いただけますか。

横路委員 お答えいたします。

 政府原案との違い、それからどこに問題があるのかということでございますが、政府原案は、テロ企図者への資金等の提供がなくても二次協力者及びその他協力者の資金提供行為を罰するものでございます。

 修正案によれば、一次協力者が資金提供罪の実行行為に着手していない場合にはその幇助犯も成立しないことから、二次協力者、その他協力者を処罰することはできないということにいたしております。これは、一次協力者が資金提供罪の実行行為に着手しない、未遂罪すら成立しないという場合、テロの企図者に資金等が提供される危険がいまだ具体化していないということでございまして、このような段階で、その幇助に当たるような行為を罰することは妥当ではないと考えたためでございます。

 そこで、修正案では、政府原案から、一次協力者、すなわちテロ企図者に対しテロの実行を容易にする目的で資金を提供しようとする者による、他者による資金等を収集する行為、それから、一次協力者に対し、一次協力者によるテロ企図者への資金等の提供を容易にする目的で資金等を提供する行為、すなわち二次協力者による資金等の提供、テロの実行のために利用されるものとして資金を提供、収集する行為を除外するものでございます。

丸山委員 先ほど、参考人、両名来ていただきまして、お話をいただいた中で、橋爪参考人の方から、処罰範囲について、今回の改正法の比較のお話がございました。

 一つは、改正法案三条一項の、テロ企図者に対しての直接的な資金提供行為、これは既に現行法の二条の処罰規定と実質的な変更がないという御指摘がありました。そしてまた、三条の二項についても、これはテロの実行を容易にする目的による間接的資金提供行為ですけれども、これも現行法での資金提供罪の共同正犯として処罰可能じゃないか、そしてさらには、改正法案の四条一項の間接的資金提供、これは幇助犯として処罰可能な行為も含まれているという御指摘がございました。

 今、提出者からもお話がありましたけれども、この点、特に一次協力者の部分は一致しているんですけれども、一方で、二次協力者と、そしてさらにはその他の協力者を従犯とするか正犯とするか、共同正犯なのか幇助犯なのかというところもあると思うんですけれども、このあたりの論点が非常に大事な点で、今後もし、政府原案にしても修正案にしても、どちらが可決されても、今後処罰をするかどうかのところの大事な点になってくると思うんですけれども、このあたりの違いについて、修正案提出者からもう少し詳しく、背景や、また参考人のお話もお聞きになっていたと思いますので、お話をお伺いしたいんです。

横路委員 お答えいたします。

 テロの企図者に対する直接の資金等の提供は、テロ行為についての予備の幇助という性格を有しているものでございます。

 政府原案は、その予備の幇助をさらに幇助する行為を新たに独立の構成要件として処罰しようとするものでありまして、現行刑事法の共犯規定と比較しても、正犯の実行行為から遠く離れた行為を独立に処罰するものであって、妥当とは言えないというふうに思っています。

 先ほども御答弁いたしましたけれども、しかし、一次協力者が資金提供罪の実行行為に着手をしていれば、それに対して資金提供した者というのは幇助罪として処罰されることになるわけで、実行に着手して未遂の場合でも同じような措置をとることはできるということで、そういう意味では、我々の修正案でも、本当に必要なテロに対する処罰行為というのはできるものというように考えております。

丸山委員 先ほど、もう一人の参考人、山下参考人のお話でも、非常に興味深いお話がございました。今回、幇助罪ではなくて、独立罪として刑を軽く指定しているということは、より対象範囲を広げるという意図が後ろにあるんじゃないかという話がございまして、この量刑の部分も、修正案と原案で非常に変わってくるところだと思うんです。

 この二次協力者もしくはその他の協力者に幇助罪を適用した場合、幇助罪ですので、減軽するという規定だと思います。政府原案と変わってくると思うんですけれども、このあたりを少し詳しく御説明いただきたいのと、その点についてどのような背景と理解をすればいいかということについてお答えください。

横路委員 お答えいたします。

 幇助犯の刑は、正犯の刑を減軽するものでございまして、刑法の六十三条ですね。正犯である一次協力者への刑が懲役十年または罰金一千万以下でございますので、二次協力者への刑は懲役五年または罰金五百万以下でございまして、ここは政府原案とは変わらないということでございます。

 テロの実行のために利用されるものとして資金等を提供するという行為につきましては、それがいずれ一次協力者からテロ企図者に提供されることを認識し、そして、かつ、みずからの行為によって一次協力者によるテロ企図者に対する資金等の提供が容易になるということを認識している場合には、一次協力者がその資金等をテロ企図者に提供した場合、テロ資金提供罪の幇助犯として処罰の対象になります。その刑は、懲役五年または罰金五百万以下となりまして、懲役二年以下または罰金二百万以下である政府原案とは異なりまして、むしろこれは重くなります。しかし、正犯での寄与度などを柔軟に解釈した量刑が可能でありますので、私どもとして、問題はないというように考えております。

丸山委員 逆に、政府の方にお伺いしたいんですけれども、今の修正案提出者のお話であれば、二次協力の部分は変わらないけれども、その他の協力者については修正案の方が重いというか、つまり、現行法でもこう解釈されるということであれば、現行の方が重いということだと思うんです。

 このあたり、いわゆる政府案の方の新五条一と二で、懲役二年以下または罰金二百万円以下とされておりますが、この量刑の点につきまして、きょうは参考人の方も来られていると思いますので、御担当の方、ここの背景を、今の提出者の話を受けてお伺いしたいんです。

林政府参考人 ただいまの三条一項の提供罪が成立した場合に、それに対して資金供与をした、それに対して幇助犯を適用した場合に、それは減軽がなされて、懲役十年のものが懲役五年という形で減軽がなされます。それは、三条一項の幇助犯というためには、三条一項という形で、その幇助犯の共犯者が、テロ実行企図者に対してテロ実行を容易にする目的でその一次協力者が提供することを認識した上で、それに加功するというものでございます。

 他方で、現在の改正法案で出させていただいております五条の場合には、これは、テロの実行を容易にするという目的でありますとか、あるいはテロの実行企図者が特定されていて、そこに対して資金が提供されるということの認識を必ずしも必要としていない類型での法定刑を定めております。

 したがいまして、そちらは、法定刑は二年以下となっておりまして、これ自体を直接比較することは、類型のまた異なるものを比較した形になるということでございます。

丸山委員 つまり、認識が異なるので、そこに関しては刑の減軽というか、低目に抑えているという理解でよろしいんですよね。わかりました。

 そうなってくると、やはりこの修正案と政府原案の違いの最大のところがこの処罰の仕方、量刑もそうですし、その範囲のところの話なんですけれども、私も、先ほど来、いろいろな委員のお話を聞いていて、修正案の方でも十分に要求を満たしているんじゃないかなという認識でいたんですけれども、一方で、政府の方の、政務関係のお二人の話、そして参考人の話を聞いていると、FATFからの要請に、今まで何度も言ってきたけれども、でもこれは応えてこれなかったというお話があったんです。

 まず、大前提として、もう一度繰り返しになるんですけれども、この民主党提出の修正案ではFATFの要請に応えたものではないのかどうか、政府としてこの民主党提案の修正案をどのように捉えているのか、もう一回お伺いできますか。

林政府参考人 まず、修正案についてのFATFの勧告等との比較におきまして、若干それを満たしていないと思われる点につきましては、一つには、今回のように、その処罰の対象者を、一次協力者、あるいはその仲間としての準一次協力者と言ってもいいかもしれませんが、基本的に一次協力者にその処罰対象をとどめているということについては、これは実際に当罰性のある行為に対して、それを確実に処罰するという形での実効的な対処を行うことに不十分であって、結果的に、国際的なテロ包囲網にほころびを生じさせることになりかねないと考えております。

 また、具体的には、FATFから、非テロリストによるテロリストのための資金等の収集、また間接的な資金等の提供、収集が犯罪化されていないという指摘を受けているところでございまして、この修正案の処罰対象におきますと、その処罰対象は、拡大部分が極めて限定されておりますので、そうしたFATFの指摘に十分に応えるものにはなっていないと考えております。

丸山委員 今のお話だと、非テロリストからテロリストへの資金提供の処罰規定が十分じゃないというところがあったんですけれども、一方で、民主党さんの修正案でも、そもそもの幇助罪等でそのあたりも処罰できると思うんですが、済みません、もう一度そこを詳しく教えていただけますか。

林政府参考人 まず、基本的に、一次協力者以外の協力者については共犯規定で対応可能ではないかという点でございますが、もとより、これまでにも答弁させていただいているように、そういった部分があることは当然でございます。

 他方で、先ほど来の指摘にもございましたが、まず、共犯規定を使う場合には、一次協力者に対して資金が提供されても、そのところで資金がとどまっていて、その後、実際のテロリストに対して資金提供の実行の着手すらないような場合に、結局的に、そのときにはその一次協力者に対して資金を提供した者が不可罰となります。

 これは共犯規定を使えば当然そうであるわけでございますが、今回の改正法案においては、そういった場合においても、資金提供はまだテロリストに至っていない段階、しかしながら一次協力者にまでは資金が提供された段階、これについても、テロ行為を助長、促進するという観点においてはやはり当罰性があるであろう。その当罰性を前提としたときに、共犯規定ではやはりそれはカバーできないものでございますので、そこについては、ここを独立の罪として、一次協力者とその他の協力者との間の提供行為を可罰性のあるものとする必要がある、このように考えている次第でございます。

丸山委員 そのあたりを具体的にお伺いしたいんですけれども、先ほどもうちの維新の党の井出委員からもお話があったように、実際に一次協力者に資金提供等されたけれども、結局、テロの行為が行われなかった、もしくは詐欺とかだまされた行為であったという場合にも、政府原案の方は、もちろん、本人に、そういった提供者の方に意図があればそれは処罰すべきだというお話だったと思うんです。

 一方で、そこに関しても、FATFとの交渉の中で、具体的に政府原案と修正案の違いはまさにそこにあると思うんですけれども、意図せず、要は詐欺等も含めて、結局テロ行為がされなかった資金提供についても、これは処罰しろと明示的に言われたのかどうかというのはどうなんですか、交渉されていて。

林政府参考人 FATFとの関係でそのような、その点に絞った形での交渉があったかどうかは、私は承知はしておりません。

 いずれにいたしましても、今申し上げた、先ほど来若干出ておりました、そもそも、例えば一次協力者自身にテロリストに対して資金提供する意思がないような場合、しかし、その一次協力者に対して資金を提供したその他の協力者はテロ実行に利用されるものとして提供しているような場合、これは、今回の改正法の構成要件からして、提供罪は成立いたしません。

 それは、なぜならば、三条の一項の提供を行おうとする者に対して提供するというのが構成要件でございますので、そもそも、そういう場合には一次協力者は三条の一項の提供しようとする者に当たりませんので、結局、そういった場合には、提供罪自体は成立しません。

 他方で、収集という観点からしますと、一次協力者が、例えば、自分はテロリストに対して資金を提供する計画と意図を当然持っておきながら、その他の者に対して働きかけて資金を提供させたという場合があると思います。その場合には、場合によってはだまして収集する場合もございますし、真の目的を隠して収集するような場合もございます。こういった収集行為については、収集側の一次協力者については、今回、収集させる行為というものは犯罪は成立するという形になっております。

丸山委員 いずれにしても、交渉の中身がわからないということなのでお話のしようがないところなんですけれども、何となく、お話を聞いていても、政府原案の方が、FATFの方の要請をさらに超えて、プラスアルファで過剰につけているんじゃないかなというところも懸念するところでございます。

 そうしたことも踏まえまして、ちょっと時間がなくなってきてしまったので、最後、大臣にお話をお伺いしたいんですけれども、今の議論をお聞きになって、民主党提出の修正案と政府原案の比較の中で、まさに過剰じゃないかというところが論点の最大のところだと思うんですけれども、今のお話をお伺いになって、どのようにお考えですか。

上川国務大臣 ただいま、政府案、そして民主党の方から提出されました修正案ということで累次の御質問がありまして、それを踏まえての御意見ということでありますが、FATFの国際的な要請、つまり、テロそのものをこの地球上から撲滅するという趣旨から考えますと、やはり政府案としてしっかりと取り組んでいくことがそれにかなうものというふうに考えておりますので、その意味で、しっかりと御審議いただいた上で御判断いただきたいというふうに思います。

丸山委員 少し質問とずれているんです。

 でも、いずれにしろ、以前答弁されたように、修正案では満たしていなくて、そして政府案では満たしているという御見解なんだとは思うんですけれども、このあたり、やはり議論が足らないと思うんですね。

 先ほどお話を聞いていて、議長もされました横路委員の見解、すばらしい御見識での見解だと思います。この辺が見えてこないと、結局、FATFに言われたらまた変えなきゃいけない、また変えなきゃいけないという先の見えないお話にもなりかねません。

 やはりここはきちんと明示していただいた上で、引き続き議論いただきますようお願い申し上げまして、私、丸山穂高の質疑を終えさせていただきます。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 委員長、済みません、ちょっと冒頭、この委員会に出席しているメンバーが少ない時間帯がちょっと多いのではないかと思います。

奥野委員長 大体いるんじゃないの、今。途中は少なかったように感じましたが。

井出委員 ただ、私が先ほどとめさせていただいたのは、そのとき初めて気づいたというのではなくて、特にきょうの階先生の前段部分で何回かそういう状態を見て、それで見るに見かねてというところがありまして、こういう状態でこの委員会を続けていっていいのか、甚だ疑問であります。

奥野委員長 今現在はちゃんと定数は充足しているように思います。

 多くの皆さん方も、ほかの委員会とかけ持ちの方もたくさんいると思うんだけれども、できるだけ、最終のステップへ入っていますから、この委員会に出席するように努力してください。

井出委員 前大臣のうちわの質疑をしたときに、それは法務委員会の本来やる本質の議論ではないという御批判、そういう声もあったんですが、そのときは、かなり皆さんいらっしゃったんですよ。私もかなり不規則発言をいただきました。

 本来の政策論争、法案審議をやるという段になって、人がいない、聞いているのか聞いていないのかもわからない。それで一体、与党が法案審議を大事にしているという姿勢が私は全く見えないんですよ。それは極めて遺憾であります。

奥野委員長 今申し上げたとおりでありまして、法案審議にスイッチしているわけですから、ほかの委員の方々もその目的をしっかりと捉えて、この議論に参加していただくように要請します。

井出委員 くれぐれもよろしくお願いいたします。

 では、質問の方に入らせていただきます。

 きょう民主党から修正案が出てきたということで、まず民主党の提出者に伺いたいのですが、政府の改正案との一番の違い、修正案を出すことによるメリットというところをまず端的に伺いたいと思います。

横路委員 お答えいたします。

 修正案では、次の行為を処罰の対象から除外しております。一つ目は、一次協力者、すなわちテロ企図者に対しテロの実行を容易にする目的で資金等を提供しようとする者による、他者に対する資金等を収集する行為。それから二つ目は、一次協力者に対し、一次協力者によるテロ企図者への資金等の提供を容易にする目的で資金等を提供する行為、すなわち二次協力者による資金等の提供。最後に、テロの実行のために利用されるものとして資金等を提供、収集する行為。これらの行為を処罰の対象から除外しております。

 一次協力者による資金等の収集や二次協力者による資金等の提供については、テロの企図者に資金等が提供される危険が具体化されていないという段階で処罰の対象とはすべきではないんじゃないかというように考えております。

 また、テロの実行のために利用されるものとして資金等を提供、収集する行為については、テロ行為の実行から遠く離れたものまで、つまり予備罪の幇助の幇助の幇助、こうなることはやはり問題ではないだろうか、刑法の総則の共犯規定からいってもいかがかということで、今回の修正案になりました。

井出委員 少し偏った見方と申し上げていいのか、うがったと言ったらいいか、ちょっと失礼な聞き方になるかもしれませんが、法律で罪の範囲が必要以上に拡大してはいけないというのは、この委員会でも多くの委員の皆様が指摘されてきたので、そのとおりなんですが、逆に、テロに向かっていくときに、こうした事態に対して残念ながらこの法律ではここまでしか処罰できない、そういうことがあってもまた困るかと思いまして、その部分は私も心配しておるんですが、修正案を作成、立案するに当たって、そのあたりをどのようにお考えになっておるのか、伺いたいと思います。

横路委員 お答えいたします。

 国際条約ができましてすぐ、現行法が条約の三年後ぐらいに制定されているわけです。今日までの長い期間、先ほどから議論されていますように、これは実際に検挙されたケースも捜査したこともないという状況の中で、さらに拡大するわけですね。つまり、立法事実というものが十分にあるのかどうかということが、まず一つ問題になります。

 そして、やはり、犯罪というのはどこまでもどんどん広げていいというものではありません。やはり、立法事実、これがなければ例えばテロという犯罪を抑えることができないとか捜査ができないとかいうようなことが明確になっていれば、今回の改正案というのもそれなりの説得力を持つんだろうと思いますが、そういうことがない中で、一体、ここまで広げていいんだろうかということが一つございます。

 今回の場合、除外された者はいるわけですが、しかし、ではその除外された者が刑罰の対象にならないのかというと、これは、テロ行為の実行を容易にする目的で資金を提供する者、すなわち一次協力者による資金等の収集については、これを独立の犯罪としなくても、テロ企図者に対する提供の実行に着手した場合はテロ資金提供の未遂罪として、提供した場合はテロ資金提供罪として処罰の対象になるわけですね、なるわけですよ。十分処罰することができる。

 多分、テロの実態というのはいろいろあると思うんですけれども、極めて組織的なテロ集団の中でしたら、その場合には役割分担とかいろいろありますので、共謀共同正犯だとか、あるいは予備罪というものを使えば、本当に悪質で、どうしてもそこに対応しなければいけないというものは十分対応できるわけでございます。こういうのを全部独立の犯罪として拡大していくのが本当にいいのかどうかということはやはり非常に大きな疑問がありますので、今回の修正案になった次第でございます。

井出委員 政府案も民主党の修正案も、テロに対して対策をしていくというその思いは同じなのかなと。ただ、その法制化に当たって、その対象者ですとか、そういった者に罰を科すということに対して一歩慎重なところから入っていかれるのが民主党の修正案なのかなと思っております。

 政府案の提出者に、今の民主党の提出者の話、答弁を踏まえて伺いたいのですが、テロに対する思いは同じだと思います。民主党の修正案ではなくて、政府案のような二次協力者、その他協力者に独立で罰則を設ける必要性というものは、今の民主党提出者の話を聞いた上でも、やはりその必要性はありますでしょうか。

林政府参考人 まず、この種のテロ対策、国際的な犯罪に対しての対策を考える場合に、運用面での連携でありますとか、そういった取り組みというのが当然ございます。

 他方で、刑事司法分野での国際的な取り組みの中でもう一つ非常に重要視されているのは、それぞれの国が持っている刑事法制をなるべくスタンダードとして統一する。ある国だけがある犯罪を処罰していたり、あるいはしていなかったりというようなことが起きますと、そこに抜け穴ができます。その抜け穴は、ひとしく国際社会が穴を塞いでおこうという観点に立って取り組みがなされてきております。

 その観点からして、またFATFの方もそういった観点に立って、今回、日本の法制度について審査をし、それに対して一定の勧告をしてきたものと理解しております。

 その上で、今回の、例えばどこまで主体を拡大するのかということを考えた場合に、修正案については、現行の共犯規定において対処するというのを基本にされていて、結局、その処罰対象は一次協力者にとどめられている。それに対して、改正法の方は、一次協力者以外の者についても提供罪あるいは収集罪を定めておるわけでございます。

 一点、先ほど来申し上げております、例えば共犯規定では対処できない事案というものがやはりあるであろうと。

 例えば、テロ犯罪というのは、なかなか、どういう段階で摘発がなされるかはわかりません。たまたま摘発されたときに、一次協力者が大量の資金をもう収集していた、しかしながらまだテロリストに対しては提供していなかった。こういった場合に、これは、収集した一次協力者もそうですが、意図を持ってそこに提供した者もそうですが、いずれも不可罰になってしまう。しかし、それは、テロリストに対してその時点でたまたま提供されていないという一事をもって不可罰とするのがテロ対策として妥当なのかどうか。

 そういったことを考えますと、既に一次協力者に対して資金が提供された段階でテロ行為の実行を助長、促進するという今回の処罰の趣旨が既に現実化していると考えられますので、そこはやはり当罰性があるであろう。当罰性があるにもかかわらず、共犯規定では賄えない部分がそこにあるとすれば、政府提案の改正法によって独立の提供罪あるいは提供させる罪というものをやはり別途設けておく必要がある、こういうふうに考えております。

井出委員 私は、テロ企図者、一次協力者、このあたりの関係の、既遂であっても、未遂であっても、未遂に至らずの場合であっても、二次協力者と一次協力者の考え次第では政府案の場合は二次協力者が罪に問われることがある、民主党の修正案は、既遂、未遂は当然その共犯が成立をする、未遂に至らない場合がそういう共犯や幇助が成り立たないのかなと思っているんですが、林局長の今の答弁を聞いていますと、民主党案は未遂も共犯とか幇助で処罰できないんだよというようなニュアンスに聞こえたんですが、そこは違いますか。ちょっともう一度お願いしたいんです。

林政府参考人 これまで出ている未遂というのは、具体的に言えば、例えば一次協力者からテロリストに対して、ここには既に資金提供罪が犯罪化されておるわけですが、そこに対しての実行の着手があるかないか。これがないと、一次協力者に資金を提供した者は、これは共犯規定では処罰されない。しかし、その場合、実行の着手があれば、当然、共犯規定で、実際に提供は一次協力者からテロリストへの行為が未遂に終わっても、未遂の共犯としてそれは処罰可能であるという理解でございます。

井出委員 その関連で、先ほども出ていた話を伺いたいんです。

 要は、一次協力者が、テロの企図者にそういうお金ですとか利益となり得るものを提供する意思がなくて二次協力者からそういったものを得たときは、先ほど丸山委員に対する答弁ですと、明らかに詐欺のような、はなから意思がなくて、だますようなケースであれば、構成要件を満たさないという御答弁があったかと思います。

 ただ、その次の御答弁で、収集の観点からすれば、真の目的を秘して、だましてやる場合もあると。二次協力者がお金を払う、払わないという意味においては、一次協力者の真の意図、本当に、だましてお金だけ取って、テロを起こす気がなくて逃げていくのか、それとも、テロを起こす気なんだけれども、実際、テロの企図者と何のつながりもなくてということなのか。そこは、二次協力者がお金を支払う、支払わないの段階では、二次協力者からすれば当然見抜けないと思いますし、真の目的を秘すのと、私が言っている詐欺のような行為というのはちょっと判別がつきにくいかなと思うんですが、そのあたりの整理をいただきたいと思います。

林政府参考人 一次協力者に資金を提供する者について限定してお答えしますと、まず、一次協力者に資金を提供する者について提供罪が成立するためには、例えば四条の一項になりますが、これは、結局、三条の一項の罪、すなわち一次提供者からテロリストに対して資金を提供する行為、これを実行しようとする者に対して提供した場合のみ処罰されることになります。

 ということは、その提供の時点で、まさしく一次協力者のような外形をしているけれども、実は、一次協力者にはテロリストに資金を提供する意図など全くないというものについては、三条の一項の罪を実行しようとする者とは言えませんので、その場合には、提供する側からは、四条の罪というのは成立いたしません。

 他方で、先ほど申し上げたのは、収集する側。収集する側となりますと、例えば、一次協力者の提供させる罪を定めているのは三条の三項でございますが、これは、自分自身がテロリストに対して資金を提供しようとする目的を持っていて、それで、その実行のため利用する目的で働きかけて資金等の提供をさせたときには罪になります。この場合においては、提供した相手方は、必ずしも一次協力者の意図というものを知っている必要はございません。

 例えば、実態としてはあり得ると思いますが、一次協力者がいろいろな真の意図を秘して資金を集める、しかし実際はテロリストに渡す。その場合に、集められた、対象となった提供者は、これは全くテロの資金を提供したと思っていないわけでございます。その場合でも、収集、提供させた罪は当然成立します。また、させないと、当罰性のある行為を不可罰とすることになると思います。

 もし、そのような形でだまされて資金を提供してしまった、たまたまテロリストに資金を提供してしまったというような場合には、収集、提供させた側は可罰性がありますけれども、提供した側はそのような意図を知りませんので、罪にはならないということでございます。

井出委員 この議論ですとか、あと、前回私が私戦予備罪との関係でいろいろお話をさせていただいたのは、テロに対して対策を打っていくということは大切だと。しかし、民主党の提出者は特にそういう思いがあると思いますが、テロに対するということで、最初から罰則のたてつけとかが広く重くなり過ぎてはいけない。

 テロに対する思いと罰則の運用は慎重にという思いはみんな一緒かなと私は思っているんですが、特に政府案の方は、これから、この改正案ができたときに、それを運用していくときに、実際、捜査も、任意のものと、強制、身柄をとるものもありますし、また、当然、罰則ですね、法と証拠に照らしてそれぞれで判断ができるように幅広い量刑をとっていると思いますので、そこはぜひ慎重な運用をしていかなければいけないということを思っております。

 そこを政府側の答弁をいただきたいんですが、この法案のまとめの質問でもありますので、大臣にお願いできればと思います。

上川国務大臣 ただいま委員からさまざまな論点につきましての御質問がございまして、その上で、目的につきましては共有しているということ、そしてその上で、今回これを運用するという段階については慎重に適切にするようにということでございまして、まさにそのとおりだというふうに思っております。

 今回の改正案の構成要素につきましては、各種客観証拠、そして、被疑者及び関係者の供述を総合的に考慮することによりまして、その要件を満たしていることを慎重に吟味し、いたずらに国民の権利を侵害することのないよう適切に対処するということでございます。

井出委員 引き続き見守っていきたいと思います。

 終わります。どうもありがとうございました。

奥野委員長 次に、西田譲君。

西田委員 次世代の党の西田譲です。どうぞよろしくお願いいたします。

 さきの通常国会での谷垣元大臣との質疑の際に、この改正案につきまして、一つ、イスラエルのネタニヤフ首相のテロに対するお考えを谷垣元大臣にお贈りさせていただきました。同様に上川大臣にもお贈りさせていただきたいと思います。こうおっしゃっています。

 テロリズムは、受け身や弱気な態度によってぽっかりあいた空白を埋めてどんどん広がっていくという不幸な性格を持っている。逆に、断固とした強い行動に出会えばそれに応じて小さくなっていく。確かなことは、テロリズムに立ち向かうにはそれと闘うしか方法はないということだ。

 まさに我々、拳々服膺しなければならない言葉だと思います。冒頭、まず上川大臣にこれをお贈りさせていただいて、質問に入らせていただきたいというふうに思います。

 立法事実がないという議論が先ほど来ございました。参考人の方々からも、それについての御意見をいただきました。

 適用事例がないということでございますけれども、その背景はこれだということでお答えすることはなかなか難しいということでありますけれども、しかし一方で、さきの質問では、捜査したことも把握をしていらっしゃらないという御答弁を元大臣はされていらっしゃいました。

 適用事例がないというのは納得がいくわけでございますけれども、捜査すらしたことがないということをお聞きしますと、果たしてやる気があるのかといったことを思うわけでございます。

 せんだって我が党の三宅博議員からは、北朝鮮の拉致といったことを題材に上げ、この拉致問題、あるいは拉致問題に深く関与しているとされる朝鮮総連に対してなぜ適用がなされないかと強くただされました。まさしくそのとおりだと思います。

 あるいは、振り返れば、中国人活動家による、我が国の海上保安庁の船への漁船の衝突、尖閣上陸を試みた活動、そういったことに対しても、例えば、これに対して資金の協力、あるいは今後であれば役務の協力、そういったことが疑われれば、これはもうきちんとこの法律を厳正に適用していかなければならないわけでございます。

 そのためにも、まず必要なのは、テロとは断固と闘うという意思があるかどうかといったことでございます。

 国際機関から言われたからとりあえず体裁を繕おうとか、FATFから言われたからとりあえずやっておこうとか、そういったことでは決してだめでございまして、この点に関して、大臣の、テロと断固闘う御意思をお聞かせいただきたいと思います。

上川国務大臣 平成十三年の九月にアメリカで同時多発テロが発生をし、国際社会の中に大変な衝撃が走ったところでございます。

 また、その後もさまざまな事象が大変深刻に発生をするということで、テロに係る事態に対して国際社会でしっかりとした形で取り組んでいくということについては、これはそのとおりであるというふうに思っております。

 その後、我が国におきましては、法務省の中においても緊急テロ対策本部を設置するということで、しっかりとした対応をしていこうということで、具体的な対策についても検討をし、また行動してきたところでございますので、そういったことにしっかりと取り組んでいくという姿勢でこれからもまいりたいというふうに思っております。

西田委員 よろしくお願いを申し上げます。

 刑事局長、お越しでございますので、お伺いをいたします。

 通常国会での私の質問に対して、谷垣大臣も、テロ対策については効果的な法執行機関のあり方を考えていかなければならないといったことで御答弁をいただいております。大臣はそういった法執行機関のあり方についても積極的に御答弁をいただいているわけでございますが、具体的に、何か、こういった検討をしているんだ、そういったことがあれば教えていただきたいというふうに思います。

林政府参考人 テロ対策に向けての運用面あるいは体制面でいかに対応していくのかということでございます。

 私、刑事局長の立場からの答弁というのはまた、例えば、これに対してどのような捜査をしていくのかというようなことになりますと、これ自体は警察等のものになりますし、情報収集といえば、また別の機関がございます。

 したがいまして、全般的にこの問題に対してどのような体制をもって対応していくのかというのは私からはちょっと申し上げる部分がございませんけれども、少なくとも、刑事局長としての立場からすれば、一つには、今回は刑事立法という形での対応でございます。これはまさしく所管しているところでありまして、今審議をお願いしているところがテロ対策の一つでございます。

 また一つ、検察においては、やはり警察等の捜査機関と連携する形で、確実に、このようなテロに対して、犯罪の端緒をしっかりと把握して、立件された場合には、しっかりと、それに対して的確に対処できるようにしていく必要があると考えております。

西田委員 余りまだやはり。当時、大臣は、検討してまいりたい、考えていかなきゃいけないとおっしゃいましたけれども、もういらっしゃらなくなってしまいまして、ぜひ、上川大臣、引き継いでいただきたいというふうに思うわけでございます。

 あわせて、法執行については、テロという性格、側面を考えても、迅速かつ的確に行うことも必要不可欠だというふうな御答弁も前回はいただきました。私、その際に、迅速かつ的確にということであれば、一連の法執行における捜査、逮捕、勾留、そして差し押さえであったり、そういったことについて、やはりテロを未然に防ぐということに関しては、一定の法執行に係る自由度があってもいいんじゃなかろうかという提案をさせていただきました。

 当然、憲法との整合性、憲法の許す範囲内ということになるわけでございますが、そういった法執行における自由度の検討について、必要ではなかろうかと思うわけですが、いかがお考えでしょうか。刑事局長、お願いします。

林政府参考人 委員からは、先般の審議においてもそのような御意見、御指摘をいただいたところでございます。

 その際にも法務大臣から答えたところでもございますけれども、基本的に、こういったテロに対して、捜査、逮捕、そのような刑事手続を迅速に、かつ的確に、かつ適正に執行していく、手続をとっていくということは非常に重要なことである。

 他方で、今、自由度と言われた部分につきまして、やはり刑事手続におきましては、基本的に、さまざまな事前の司法審査でありましたり、あるいは手続に関して法定されている手続がございますので、それ自体はその範囲を十分に踏まえた上で、その中で最大限迅速に、的確に執行をしていくということが重要であろうと考えております。

西田委員 あわせて、先ほど参考人、これは意見の違う両参考人が意見が一致したわけでございますけれども、この法律をきちんと運用していくためには、やはり捜査手法、捜査手段についてある程度広げていく必要があろうと。潜入捜査といった例示もなされました。また、あわせて、人員の拡張、そういったことについては、意見の違うお二人の参考人ですら意見の一致が見られたところでございますし、やはりきちんと検討していただきたいというふうに思いますし、一方で、これはもうある程度検討が進んでいる分野ではなかろうかというふうにも思うわけでございます。

 そういった捜査手法の拡大等について、本法律を運用するに当たっての今後のお考えがございましたら、刑事局長、お答えいただきたいと思います。

林政府参考人 捜査手法の多様化でありますとか新しい捜査手法の問題につきましては、必ずしもテロ対策という観点での検討がなされているわけではございません。

 すなわち、捜査手法となれば、あらゆる犯罪を想定して対応をとるのが捜査手法の問題でございますので、そういった幅広い観点からは、捜査手法における多様化につきましては、さきの法制審議会におきましても一定の議論がなされております。その中では新しい捜査手法についても提言がなされておりまして、また、そこまでの提言に至っていなくても、今後の検討課題というようなものも提示されておりますので、そういったものについて必要なものを法制度化し、あるいは検討を進めてまいりたいと思っております。

西田委員 ありがとうございます。

 また、さきの通常国会での大臣答弁では、法務省として情報収集に積極的に努めてまいるといったことの中で、公安調査庁の能力そして機能を高めてまいりますと断言をされたわけでございます。今後どう機能が高まるのか、教えていただきたいというふうに思います。

小島政府参考人 お答えいたします。

 テロ事件に関しましては、何よりもその発生を未然に防止するということが重要であるというふうに考えておりまして、そうした観点から、公安調査庁といたしましては、国内外の関係機関との協力体制を一層強化するのみならず、国内におきましても、国際テロ組織とのかかわりが疑われる人物や組織の有無及びその動静に関する情報の収集、分析を一層強化していきたいと思っておるところでございます。

 また、その強化を図るためにも今後一層の調査体制の充実強化というものを、二〇二〇年の東京オリンピックを目指して実現していきたいということで、今後、具体的にそれを実現していきたいと考えているところでございます。

西田委員 ありがとうございます。

 警察庁の方でも、さきのアルジェリアのテロを受けて、外事特殊事案対策官の新設であったりとか、国際テロリズム緊急展開班、そういったところの充実を図られているというふうにおっしゃっておりました。

 連携をとおっしゃるんですけれども、大体、連携というと、一方で、縄張り意識で、変な、組織の功名心だとか、そういったものが足を引っ張る部分がございます。ぜひ、そういったことがないように対策に万全を期していただきたいと思います。

 以上で質問を終わります。

奥野委員長 これにて原案及び修正案に対する質疑は終局いたしました。

 次回は、来る十一月四日火曜日委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十九分散会


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