衆議院

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第12号 平成27年5月12日(火曜日)

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平成二十七年五月十二日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 柴山 昌彦君

   理事 盛山 正仁君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 遠山 清彦君

      大塚  拓君    大見  正君

      門  博文君    菅家 一郎君

      今野 智博君    辻  清人君

      冨樫 博之君    藤原  崇君

      古田 圭一君    宮川 典子君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    山下 貴司君

      若狭  勝君    黒岩 宇洋君

      階   猛君    鈴木 貴子君

      柚木 道義君    重徳 和彦君

      國重  徹君    清水 忠史君

      畑野 君枝君    上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      大澤  裕君

   参考人

   (日本弁護士連合会刑事弁護センター委員)     前田 裕司君

   参考人

   (ジャーナリスト)    江川 紹子君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月十二日

 辞任         補欠選任

  宮川 典子君     大見  正君

同日

 辞任         補欠選任

  大見  正君     宮川 典子君

    ―――――――――――――

四月三十日

 選択的夫婦別姓の導入など民法等の改正を求めることに関する請願(辻元清美君紹介)(第八四八号)

 同(阿部知子君紹介)(第九〇七号)

 国籍選択制度の廃止に関する請願(佐々木隆博君紹介)(第九二四号)

 もともと日本国籍を持っている人が日本国籍を自動的に喪失しないよう求めることに関する請願(佐々木隆博君紹介)(第九二五号)

 外国人住民基本法の制定に関する請願(阿部知子君紹介)(第九三三号)

 選択的夫婦別姓制度導入の民法改正を求めることに関する請願(枝野幸男君紹介)(第九四二号)

 同(階猛君紹介)(第九四五号)

 同(辻元清美君紹介)(第九五〇号)

 同(池内さおり君紹介)(第九八一号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第四一号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、東京大学大学院法学政治学研究科教授大澤裕君、日本弁護士連合会刑事弁護センター委員前田裕司君及びジャーナリスト江川紹子君、以上三名の方々に、お忙しい中、御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、大澤参考人、前田参考人、江川参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず大澤参考人にお願いいたします。

大澤参考人 皆様、おはようございます。東京大学で刑事訴訟法を教えております大澤と申します。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

 裁判員法の一部を改正する法律案でございますが、私は、法律案のもととなりました法務大臣からの諮問が法制審議会の部会で調査審議をされた際に、委員としてその議論に加わっておりました。そこで、本日は、部会における議論も踏まえつつ、法律案について意見を申し上げるということにいたしたいと思います。

 今回の法律案による法改正は、白表紙の法律案要綱第一から第四に示されておりますように、大きく四つの事項に及んでおります。

 このうち、第二の重大な災害に関する裁判員となることについての辞退事由の追加と第三の非常災害時における裁判員候補者等の呼び出しをしない措置、これらは東日本大震災の経験を踏まえた法改正であり、法律案のような規定を設けることについて、法制審議会の部会においても格別の議論はありませんでした。

 部会において議論が集中いたしましたのは、第一に挙げられました長期間の審判を要する事件等の対象事件からの除外についてであり、加えて、第四に挙げられております裁判員等選任手続における被害者特定事項の取り扱いのうち、裁判員候補者に対し、裁判員等選任手続において知った被害者特定事項を公にしてはならない義務を負わせる、この点についても若干の議論がありました。

 そこで、以下では、第一の法改正を中心に意見を述べさせていただき、最後に時間があれば第四の法改正にも一言触れることといたしたいと思います。

 さて、裁判員制度の趣旨でございますけれども、裁判員法の一条は、御案内のとおり、「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」ということを挙げております。その言わんとするところは、裁判員制度導入の基礎となった司法制度改革審議会意見書が述べているところ、すなわち、「一般の国民が、裁判の過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されるようになることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤を得ることができるようになる。」そのように述べているところと異ならないものと思われます。このような趣旨、狙いのもと、裁判員制度は、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい一定の重大犯罪を対象事件として設けられてございます。

 このような趣旨との関係でまず問題となりますことは、長期間の審判を要する事件等を裁判員裁判の対象事件から除外するということは、まさに、今申し上げたような制度趣旨と相入れないのではないかという点です。長期間の審判を要する事件は、一般に、国民の関心が高く、社会的にも影響の大きい重大事件であることが多いといたしますと、そのような事件を対象事件から除外するということは、制度の趣旨と正面から衝突するようにも思われます。

 しかし、裁判員法が定める裁判員制度は、司法参加を通じた国民の司法に対する理解の増進、信頼の向上という制度の積極的な目的と、他方で、裁判員等国民の負担の考慮とのバランスの上に組み立てられた制度と言えるかと思われます。例えば、対象事件の限定もそうでありますし、また、裁判員法三条が定める対象事件からの除外、すなわち、裁判員等の生命、身体、財産に危害が加えられるおそれがある場合等の対象事件からの除外、これも、その基礎には裁判員の負担への考慮が働いているかと思われます。今回の法律案の第一の法改正も、裁判員の負担過重を避けることを主な目的としております。裁判員法は、そのような観点からの例外的な扱いを排除するものではないと思われます。

 また、第一の法改正が条文上に挙げております、裁判員の選任が困難、あるいは裁判員の職務の遂行を確保することが困難である場合とは、除外制度が存在しなければ、当該事件について、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用、実現するという刑事裁判の機能が停止してしまう場合と言え、この法改正には、そのような事態を避けるという趣旨も含まれているかと思われます。

 裁判員制度は、憲法上許された制度ですが、憲法上不可欠とされる制度ではありません。憲法の枠の中でさらによりよい刑事裁判を実現するため、立法政策上設けられた制度です。極めて重要な制度でありますが、刑事裁判をよりよくするための制度であるとすれば、その貫徹のため、そもそも刑事裁判自体を機能停止に陥らせてしまうこと、これは制度の逆立ちだと言わなければなりません。

 このように見ますと、第一の法改正のような対象事件からの除外規定を設けることも、裁判員制度の趣旨に照らし、直ちに許されないことではないと思われます。

 そこで、次に問題となりますのは、第一のような法改正にその必要性があるのかという点です。

 裁判員制度の施行から間もなく六年となりますが、この間、御案内のとおり、裁判員の職務従事期間が百日以上に及ぶ事件も複数あらわれております。しかし、これらの事件を含め、裁判員の選任、職務遂行ができなかった例というのは、これまでのところあらわれておりません。

 このことを踏まえ、部会では、第一の法改正について、それを必要とする立法事実がないのではないかとの問題も提起されました。

 しかし、第一のような法改正は、問題が現実化し、刑事裁判が機能しなくなってからでは遅く、将来、これまでの例を超える長期間の審判を要し、裁判員の選任あるいはその後の職務遂行確保が困難となる事件が出現する、そのような可能性も否定し得ないとすれば、それに対する備えを制度上用意しておく必要性というのは、やはり否定できないように思われます。

 審判が長期間に及べば、選任の時点において、辞退事由に該当すると認められる候補者がふえるということは間違いなく、また、選任後の職務従事期間中において、職務継続を困難にするような不測の事態が生じる危険もまたふえると言わなければなりません。御承知のとおり、インフルエンザにより辞任を申し立てた裁判員が解任をされ、その結果、裁判員が員数不足となり、補充裁判員もいなくなっていたことから、最終的に裁判員全てを解任し、手続をやり直すこととなった水戸地裁の例というものがございますが、これなどは、不測の事故が思いのほか容易に起こることを示す例ではないかと思われます。

 法改正の必要性という点では、長期間の審判を要する事件が生じた場合に裁判員裁判が可能となるよう、現行法上の制度で裁判の迅速化を図ることにより対応することができないのかということも問題となります。

 この点で考えられる具体的方策としては、公判前整理手続において争点、証拠を十分に整理し、絞り込むこと、複数事件の併合審理によって審判の長期化が見込まれる場合には、弁論を併合せず審判すること、複数事件の弁論を併合する場合、区分審理制度を活用することなどが挙げられます。

 しかし、争点、証拠の整理、絞り込みを尽くしても、事案の真相を解明し、刑罰法令を適正に適用実現するため、なお少なからぬ争点について多数の証拠を調べざるを得ず、長期間の審判となることを避け得ない、そのような事例が存在し得ることは、理屈の上で否定できないように思われます。また、複数事件の併合審判は、適正な量刑のため、あるいは正しい事実認定のため、それが必要とされる場合がありますし、証人が繰り返し証言を求められることを避け、その負担を軽減するために必要とされる場合というのも存在します。区分審理制度は、複数事件の弁論を併合しつつ、審判の長期化を避け、裁判員の負担を軽減するための工夫として導入された制度ですが、やはり限界があることは否めません。

 司法参加を通じた国民の司法に対する理解の増進、信頼の向上という制度趣旨のもと、よりよい刑事裁判を行うための制度として裁判員制度というものを設けた以上、その対象事件については、可能な限り、裁判員が参加する合議体による審判が可能となるよう、関係者の努力が求められるということは疑いのないところです。しかし、現行法上存在する方策を用いた努力には限界があるということも否めないように思われます。

 このように、長期間の審判を要する事件等の対象事件からの除外を制度化する必要があるといたしまして、最も問題となるのは、その要件をどのように設定するかです。この点では、法制審議会に諮られた要綱(骨子)案は、部会の議論を通じて修正をされ、今回の法律案はその修正を反映したものとなっております。

 重要な修正の一つは、「審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること」あるいは「公判期日若しくは公判準備が著しく多数に上ること」に「回避することができない」との文言を付加した点です。これは、対象事件からの除外が、公判前整理手続による争点、証拠の整理、絞り込み、弁論の併合、分離の適切な運用、区分審理制度の活用等、可能な努力を尽くした上、それでも審判の長期化を避け得ない場合のやむを得ない措置であることを明らかにする趣旨のものです。

 重要と思われますいま一つの修正は、裁判員等を「選任することが困難な状況にあるとき。」を「裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難」と改めた上で、その判断に当たっての考慮事情として、他の事件における裁判員の選任または解任の状況、法二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過、法四十六条第二項の規定による裁判員及び補充裁判員の選任のための手続の経過、これを明示した点です。

 除外の要件のうち、「審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること」については、それがどの程度の期間を意味するのか、部会でもイメージが議論されましたが、これまで裁判員裁判を行うことができてきた百日程度の期間ではこれに当たらないということは共通の前提に、それでは六カ月ではどうなのか、一年ではどうなのかでは意見が分かれました。

 著しく長期の具体的基準を示すことは、事柄の性質上困難であるばかりでなく、審判に要すると見込まれる期間は審理計画の立て方によって変動し得るということも考慮すれば、著しく長期として仮に一定の数字を立てることができたとしても、その数字で一刀両断的に除外するかどうかを決することには無理が残ります。

 このような中で行われた、先ほど御紹介した二番目の修正は、著しく長期を除外要件の核とし、その具体化を図るというアプローチから、裁判員の選任または職務の遂行を確保することが困難と認められるかどうかを除外要件の核に据え、その判断の考慮事情を明記することで判断に一定の縛りをかけるというアプローチ、そこへの方向転換であったと言えるように思われます。

 裁判員選任の困難、職務遂行確保の困難は、審判に要すると見込まれる期間から直ちに認め得る場合があるということも否定できませんし、対象事件からの除外例が蓄積されたもとでは、他の事件における裁判員の選任または解任の状況から直ちに判断される場合もあり得るとは思われます。しかし、そうでない場合には、当該事件における裁判員等の選任手続の経過が最も確実な判断事情であるということは間違いありません。それを重要な考慮事情に組み込んだこの修正は、除外の判断が全体としてより確実な基礎の上に行われるよう方向づけるものと言え、基本的に妥当なものであるとともに、部会のコンセンサス形成にも決定的役割を果たしたというように思っております。

 最後に第四の点について触れようと思いましたが、時間が来ておりますので、ここまでとさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、前田参考人にお願いいたします。

前田参考人 おはようございます。弁護士の前田裕司でございます。

 私は、この委員会で審議されております裁判員法に関する法案を検討いたしました法制審議会の委員を務めておりました。その前の、法制審議会での議論の整理をいたしました、法務省に設置されました裁判員制度に関する検討会の委員も務めておりました。いずれも、日本弁護士連合会の推薦の形で委員となった者でございます。

 その当時、日本弁護士連合会には裁判員本部という組織ができておりまして、私は、その裁判員本部の副本部長という立場にございました。裁判員制度の見直しが議論されるに当たりまして、裁判員本部の中に三年後検証小委員会という組織を立ち上げたのでございますが、私は、その小委員会の委員長という立場で、日弁連の改革提言の取りまとめをした者でございます。

 そのような立場から、裁判員制度に関する検討会におきましても、日弁連の取りまとめました改革提言を提案いたしました。その内容を一々御説明する時間はございませんので、項目だけ申し上げておきたいというふうに思います。

 一つは、裁判員裁判の対象事件に被告人の請求する否認事件を加えるということです。

 それから、有罪を言い渡す場合の評決要件、現在は裁判官一名を含む裁判官と裁判員総数の過半数ということでございますが、これを裁判員の過半数及び裁判官の過半数というふうに改めること、有罪要件のハードルを高くするということでございました。

 それからもう一つは、死刑という量刑判断をする場合には評決要件を全員一致とすること、これも提案をいたしました。

 また、裁判員の現行の守秘義務を緩和すること。

 それから、裁判員やその経験者の負担軽減の措置を法律において定めること。

 それから、これは公判にかかわるルールでございますが、裁判員に対する刑事裁判のルールに関して、現在は裁判員選任の手続の段階で裁判長が説明いたしますが、これを改めて公判廷においても行うこと、公判における事実認定の手続と量刑の手続とを峻別する手続二分をとること、少年の逆送事件におきましては、少年の立場に配慮した公判における特別の規定を設けることというようなことでございました。

 ただ、残念ながら、裁判員制度に関する検討会で提案をいたしましたけれども、法制審議会での議論の対象とすることはできなかったわけでございます。

 しかし、裁判員制度というのは全く新しい刑事司法制度でございますから、その運用状況をつぶさに検証して、改革すべき課題があれば積極的にその改革を図って、よりよい裁判員制度を実現し、これを真に国民全体に根づかせていくということは非常に重要なことだと考えております。

 したがいまして、今後とも、裁判員裁判の実証的な検証を行って、一定の期間経過後には再度制度を見直すということを法律で明確にしておくということは必要なことではないだろうかというふうに考えております。

 さて、先ほど大澤参考人もお話しになりましたけれども、今回の改正案の中で、法制審議会で最も議論を呼びましたのは、長期の審理期間を要する裁判員裁判の除外規定の問題でございました。

 検討会や法制審議会で議論がなされております時点での裁判員裁判で最も長期の事件は、さいたま地方裁判所で行われました、殺人三件が併合された事件でございまして、その裁判員の職務従事期間が百日でございました。その後、尼崎の事件で、神戸地方裁判所、百三十二日間の職務従事期間というのもございましたし、先月末に東京地方裁判所で判決のありましたオウム真理教関連事件では、実審理日数が四十日を超えるという最長の事件もございました。

 ただ、いずれの裁判員裁判におきましても、裁判員の方を初め、法曹三者の努力によりまして、審理は滞りなく終わっておるわけでございます。したがいまして、現時点で見る限りは、裁判員の方の負担が大き過ぎて、裁判員裁判から除外をしなければ審理ができないような案件はないというのが共通の認識であろうかと思います。

 検討会におきましても、法制審議会におきましても、これまで実施されてきたような長期の審理期間の事件を除外すべきだというような意見は全くございませんでした。そのような意味での、本法案の立法事実はないというのが出発点ではございました。

 しかし、裁判所による裁判員への呼び出し状の送付に関する改正案が別途かかっておりますけれども、そのような法律を新たに設ける契機となりましたのが、東日本大震災でございました。大震災によって長期にわたり郵便の配達もできないというような、立法時には想定しなかったような事態も生じたわけでありまして、それを我々は目の当たりにしたわけでございます。

 そういう事態がございましたので、審理に長期を要する案件に関しましても、法曹三者ができる限りの努力を行いまして審理期間への配慮をしたといたしましても、職業として裁判にかかわるわけではない一般市民の方がそれを担い切るということが到底不可能なような長期の審理案件が全く生じないのかと言われれば、その保証はないわけでございます。

 そういう意味で、そのような万が一の事態に備えて国家としてそのような法整備を図っておく必要があるのではないかと問われれば、これを否定することはできません。したがいまして、そのような趣旨であるとするならば、特に反対すべき理由もありませんので、私も、検討会におきまして、総論的には賛成をしたわけでございます。

 ただ、問題は、それをどのような具体的な要件で規定するのかということでございました。

 そもそも、裁判員制度というのは、司法の国民的基盤を確立するということの重要な方策として採用されたものでございます。その制度趣旨からいたしますと、裁判員裁判の対象事件をふやす方向で検討されることはあっても、一旦対象とされた事件を仮に除外するということになりましても、極力限定的なものにしなければならないということになるのでありまして、これも委員共通の認識だったのではないかというふうに考えております。

 そこで、法制審議会におきまして、どのような具体的な規定になるのかと注目しておりましたところ、当初出されました事務局案は、著しく長期の審理期間または著しく多数の公判日数の事案について、裁判員選任手続に入る前の公判前整理手続の経過または結果によって、裁判所が除外決定をすることができるという規定でございました。

 確かに、著しく長期ですとか著しく多数という用語によりまして、除外事例を限定する趣旨が含まれる表現とはなっておりました。しかし、最終的には、公判前整理手続の結果を踏まえた上で、全てが裁判所の裁量に委ねられるという規定でございました。そのため、法制審議会や検討会では除外すべきではないとされました、現在行われてきたような案件につきましても、当該事件の裁判所が、裁判員に過重な負担をかけるのではないかというふうに考えた場合には、裁判員選任手続を経ないで、公判前整理手続の段階でこれを除外することもできるという規定ぶりになっていたわけでございます。

 また、裁判員としての職務というのは、国民の参政権と同じような一定の権限を国民に与えるものというふうに考えていいかと思いますが、裁判員裁判から事件を除外するということになりますと、その国民の権限行使を制限するという側面が生じるわけでございます。しかし、当初の事務局案のように、裁判員選任手続を経ないで、公判前整理手続の段階で裁判所が除外決定できるという規定でございますと、裁判所が国民の意向を離れて、国民の権限行使を制約するのかという批判を生みかねない内容でございました。

 そこで、私は、法制審議会の一委員として修正案を出したわけでございます。

 それは、一旦必ず裁判員候補者を呼び出して、その選任手続の経過や結果を踏まえて、裁判所が除外するかどうかを判断したらどうかという案でございました。裁判員選任手続に入っても裁判員がなかなか集まらない、あるいは辞退者が続々生じるというような事態が生じまして裁判体を構成できないというような状況が生じたときには、これは、裁判員裁判の対象事件から除外してもいたし方ないだろうということで誰しもが納得せざるを得ないのではないかと考えたからでございます。

 すなわち、私の案は、選任手続に入ることを必要的な要件とするものでございました。

 ただ、この修正案に対しましては、裁判員選任手続を経て除外事例を決定するという事案が集積された段階ではほかの事例を参考にして判断できるのではないか、そういう事態が生じて以降も必ず裁判員選任手続に入る必要があるのかという御意見がありました。確かにそのとおりでございまして、私自身も、そのようなときにまで選任手続にこだわることはないというふうに考えて、その意見を述べました。

 そのような議論経過を経まして出されましたのが、現在の法律案でございます。

 この法律案でも、規定の上では、必ず選任手続に入るという規定にはなっておりません。したがいまして、私の指摘した問題が全て解消されたわけではないのではございますが、法制審議会には、最高裁判所の刑事局長、東京地方裁判所の刑事部所長代行という立場の委員の方もおられまして、その裁判官委員の方々が、現在は除外すべきような事案は生じていないのですから、とにかく、この法律が施行された後は、まずは、裁判員選任手続に入って、その状況を見た上で判断をすることになるでしょう、そのような運用をすることになるでしょうというふうに言明をされました。また、事務当局も、その趣旨の説明をされました。

 そこで、そのような御意見を信頼して、選任手続に入って判断するという裁判所における運用がなされることを前提として、私も最終的には賛成に回った次第でございます。したがいまして、当初からそのような運用上の保証がないということになりますと、私が賛成をしたその基礎が失われるということになるわけでございます。

 いずれにいたしましても、現在は、関係者の皆様方の努力によって、裁判員の負担が大き過ぎて、裁判員裁判から除外しなければならないという案件はないのでございますから、この法律が施行された後、今後、万が一そのような事態が生じましても、とりあえずは、裁判員選任手続に入った上で裁判所が判断をされる、これがこの法律の運用のかなめではないかというふうに考えておる次第でございます。

 私の意見は以上でございます。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、江川参考人にお願いいたします。

江川参考人 おはようございます。江川でございます。

 ちょっと風邪を引いておりまして、お聞き苦しい点がありましたら、申しわけありません。

 先日、一連のオウム裁判で、最後の被告人となりました高橋克也被告の一審判決が出ました。オウム事件では、教団のナンバーツーが殺害されるという残念な事件はありましたけれども、それ以外は最後の一人まで法の裁きにかけた。これは、法治国家として誇っていいことだと思います。

 一連の事件では、たしか百九十二人が起訴されたわけですけれども、そのうち百八十九人については職業裁判官のみで裁判が行われ、刑が確定しました。そして、長年逃走していた三人について、一審が裁判員裁判で行われたわけです。つまり、同じ事件について、職業裁判官の裁判と裁判員裁判が行われました。私は、その両方を傍聴して、取材をしてきました。

 裁判員裁判というのは、確かに見ていてとてもわかりやすかったです。例えば、サリンとはどういうものなのか、それが体にどう作用するのかなど、専門家が図式化して、しかも壁のモニターにそれを映して説明をするということなので、非常にわかりやすかったです。

 傍聴人にもわかりやすく、もちろん裁判員にもわかりやすく、傍聴人にわかりやすいということは、一般国民にわかりやすいということなので大変結構ですし、それに加えて、被告人にもわかりやすい。被告人がそこで何が行われているのかをちゃんと理解して裁判を受けることができるというのは、極めていいことだなというふうに思いました。

 その一方で、裁判員裁判の場合は、できるだけ長期化を防ぎたいということで、さまざまな要素をそぎ落とし、争点を絞った審理が行われます。

 証人尋問も、尋問事項が非常に限られます。高橋被告と同じ地下鉄サリン事件の運転役が証人として出てきたわけですけれども、彼に対する検察側主尋問は、最初の指示、指名をされたところから、犯行の準備、犯行、その後の状況まで含めて、わずか一時間で終わったのには非常に驚きました。効率的ではありますが、もしオウム裁判の最初からこれをやっていたら、この方式でやっていたら、その全体像を裁判を通じて知るということは困難だっただろうというふうに思いました。

 また、過去の職業裁判官による裁判では、法廷と法廷の間に何日間か、一定の日にちがありましたので、証言を聞いた被告人がじっくり考え、反省を深めるなどの様子に接することもありました。一方、裁判員裁判の場合には、連日法廷になりますので、被告人がじっくり考えるというような暇もなかっただろうというふうに思いました。

 さらに、気になったのは、これはオウム裁判に限ったことではないのですけれども、裁判員裁判となりますと、裁判員の負担をふやさないということを考えてでありましょうが、スケジュール重視、もっと言うとスケジュール絶対主義の裁判進行が行われることがある。裁判所は、とにかく時間を気にして、その日の終了時間を最優先にしているようにも見え、裁判長が裁判の間、時計ばかり見ているというふうに感じられるときもないわけではありませんでした。

 時間の問題に限らず、裁判所は、裁判員に気持ちよく帰っていただくということを過剰に重大視しているように思えてなりません。実は、このことをある元裁判員、裁判員経験者に投げかけてみると、自分もそう思うというような反応が返ってまいりました。

 こうした配慮から、殺人事件の遺体の写真をイラストにする、さらにイラストも認めないというケースも出ています。

 当たり前のことですけれども、裁判員制度のために裁判があるわけではないわけです。また、被害者からすれば、裁く側にはこの残虐性こそ知ってもらいたいというケースもあると思います。

 そもそも、事実に争いがなく、残虐性のみが争点になるような事件で、本当に裁判員裁判が適切なのかなと思うこともないわけではありません。例えば、覚醒剤の密輸グループの仲間割れで、一方が一方を生きたまま首をのこぎり引きにして殺したなどというような事件で、被告人はしかも事実を認めているというときに、どこに市民感覚を反映させたらいいのかなというのは、いささか疑問であります。

 また、オウム事件のように、何人もの人がかかわって何件もの事件を引き起こし、その背景には私たちの日常とは全く異なる特異な価値観や人間関係があるなど、理解が難しく、複雑な事件であり、しかも、その社会的影響が大きく、できるだけ全容解明が求められているというようなケースもあるわけです。この場合、裁判員裁判にして、ぎりぎりまで立証をそぎ落とし、争点を絞った立証活動を行うという裁判が果たして適切なのかということは、考えるべきではないでしょうか。

 裁判には真相究明機能は求めないというならば、それはそれでいいのかもしれません。しかし、現実には、被告人は一審が終わるまで接見禁止になることもあり、死刑が確定したらこれまた外部の人とはほとんど会わせない、こういう状況では、いろいろな専門家とかジャーナリストによって真相解明をするということは非常に困難を伴うわけです。そうした前提条件を続けたまま、裁判に真相究明機能を持たせなくていいということに国民が合意しているとは思えません。

 今回、国会では、裁判員の負担を考えて、長期にわたる裁判は裁判員裁判対象事件から外すことが検討されているというふうに伺っております。それ以外に、長期裁判以外に、さきに挙げたような残虐な事件、オウムのような複雑な事件で、ある程度時間をかけた真相解明が求められるケースでは、検察、弁護側双方から意見を聞いた上で、もう少し柔軟に対応できるようにした方がいいのではないかなという気はいたします。

 ただし、これは、裁判員裁判をできるだけ少なくした方がいいという趣旨では全くございません。私の認識は、むしろ逆であります。

 裁判員制度は非常にすぐれたところのある制度だと思っておりますし、それを現在の限られた対象事件に限定しておくのはもったいない、むしろ拡充した方がいいのではないかと期待しております。

 例えば、乗り物内での痴漢事件で、人間違いなどによって冤罪が起きるケースが少なくないと指摘されております。一審有罪になった被告人が高裁で逆転無罪になったケースも何件かあります。有罪が確定した後も、無実を訴えて再審を求めるというような人もいるわけです。

 裁判員裁判対象事件をよく重大事件と呼ぶ方がいらっしゃいます。しかし、本人にとっては、痴漢事件も、例えば仕事を失い、人生を狂わせるという意味では、重大事件なのであります。しかも、こうした事件は、残虐な殺人事件よりも市民感覚が生かしやすいということも言えると思います。弁護人、検察官のいずれからか希望があった場合に、現在対象になっていない事件でも裁判員裁判で裁く道を開くなど、対象事件の拡大を検討してもいいのではないかというふうに思います。

 この点は、裁判員裁判対象外の事件の状況もよく調べて、先生方にはそれなりの時間をかけて検討していただきたいというふうに思うものであります。

 また、きょうは詳しく触れるつもりはございませんが、冤罪を主張し再審を求めている事件で、裁判をやり直すかどうか、過去の裁判所の判断が誤っているかどうかということを裁判官のみが判断する現行制度よりも、先輩裁判官へのしがらみのない一般市民が加わって判断するなど、裁判員制度のよさを拡充していくことは考えてよいことだというふうに思います。

 裁判員の負担を考えて、長期間にわたる裁判は対象外とすることを検討するということに対して、私は必ずしも反対するものではありません。確かに、長期間の裁判は、裁判員の負担は非常に重いです。

 例えば、今度のオウムの高橋被告の場合は、開かれた公判は三十九回に上り、その裁判員の在任期間は百十三日間でした。会社勤めの方が複数おられました。最初は、朝早くに会社に行ったり、法廷が終わった後に会社に行って、何とか両立をしようとしていたけれども、結局、体力的に無理で、特別休暇をとったという方もいらっしゃいました。

 ただ、それでも、補充裁判員も含め、選任されたのは十二人いらっしゃいましたけれども、そのうち、何と、一人を除く十一人が、これは国民の義務だからということでその役目をやり切ったわけであります。そして、終わった後には、いろいろ改善してほしい問題点はあるし、非常に大変だったけれども、やってよかったということもおっしゃっておりました。

 そういう高い意識と、それから裁判員を支える環境があれば、長いというだけで必ずしも対象から外す必要もないのかもしれません。

 一番大切な問題は、そういう高い意識をどう国民全体に広く育んでいくのかということであり、そして、裁判員が活動しやすい環境をどうつくっていくかということであります。そのための対策を十分にやってきたかということをまずは検討していただきたく、お願い申し上げます。

 例えば、子育て中のお母さんが裁判員を務めた、長期にわたる裁判員を務めたんだけれども、子供を預けるということに非常に苦労されたようで、裁判員には一時的な保育サービスを優先的に受けられるようにしてもらえないかということをおっしゃっていました。あるいは、裁判員の構成によっては、土日の開廷など、従来の裁判所の慣行を変えることも考えた方がいい場合もあるでありましょう。

 制度としての対策は今十分なのか、そこのところを十分に議論していただきたいというふうに思います。

 それから、守秘義務についてであります。

 これは裁判員制度ができるときにも議論されたことでしょうけれども、やはり罰則をかけてまでそれを課すというのはいかがなものかと思います。裁判員の経験をできるだけ多くの人が共有し、よりよい制度にしていくためには、少なくとも守秘義務の範囲縮小が必要ではないか。オウム事件のように多くの証言が必要な複雑な事件で、しかも、時間が大分たっておりますので、証人の記憶が不鮮明で証言の細部が食い違うというようなケースもあるわけです。その場合、裁判官はどのように助言し、説明を尽くしたのか。そのことをちゃんと検証し、よりよい制度に仕上げていくことが必要だと思います。

 それから、証拠の目的外使用についても一言だけ申し上げたいと思います。

 裁判員制度ができる過程で、証拠開示の範囲が広がるのに伴って、被告人や弁護人が証拠を裁判準備以外の目的で使うことを禁じるという条文が刑事訴訟法にできました。被告人については罰則規定もあります。

 確かに、刑事裁判の証拠にはプライバシーにかかわる情報が多くて、その扱いに神経を使うのはよくわかるところであります。しかし、この規定のために、例えば冤罪を訴えている事件で、この事件を取材している記者に、理解を深めるために弁護人が証拠を見せるということもできにくくなっております。これはおかしいと思います。

 証拠というのは税金で集められたもので、いわば公共財であります。にもかかわらず、検察が目的外使用に当たると判断すると、それを適切に活用できないというのは問題があると思います。

 この条文は一旦廃止して、プライバシーへの配慮をした上で、適切に有効活用する方法をぜひ御議論いただきたいと思います。

 最後に、再び裁判員法の問題に戻りたいと思います。

 今、申し上げてきましたように、いろいろな課題がございます。裁判員制度というのはまだまだ発展途上だというふうに思います。

 問題があれば改正できるということではありましょうけれども、やはり、見直し規定というのはぜひ存続をしていただきたいというふうに思います。見直し規定があるからこそ、問題がないかどうかということを意識的に点検するということになるんだというふうに思います。

 特に、先ほども申し上げたように、守秘義務があります。守秘義務が課せられている中では、裁判員の声は出にくいということに御留意いただきたい。よほど意識的に点検しないと、問題があっても顕在化しない場合があります。

 特に、今後、裁判員裁判のもとで下された死刑判決の執行が相次いで行われる時期がやってきます。自分が下した判決で実際に人が死ぬということになったときに、裁判員だった人がどういう状況になるか、今から予測することはできません。

 私も、長くオウム裁判を見てきて、過去に傍聴記で書いたことはよかったのかなと今思うことがあります。裁判員も、同じことを思う人がいてもおかしくありません。ましてや裁判員の場合、私などと違って、その刑に直結する判決にかかわるわけですから、深刻な重荷になるケースも出てくるかもしれません。

 そういうときのことも考えて見直し規定を維持して、声を上げにくい裁判員の声に意識的に耳を傾ける、さらに被告人や被害者の声にも積極的に耳を傾けて、よりよい制度に仕上げていただきたいというふうに願うものであります。

 どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。辻清人君。

辻委員 おはようございます。自民党の辻清人でございます。

 参考人の皆様、本日は、御多忙の中、本当にありがとうございます。

 二十分という限られた時間ですので、早速質問に入らせていただきたいと思います。

 この裁判員制度が施行されて六年目の節目でございますが、国民の司法への参加という大変意義がある法益であるとともに、さまざまな課題があります。その中で、特に私の方からは、今回の法改正のうち、第一部の改正の長期の裁判における裁判員の除外規定に関する部分を含めて、この制度全体に対する参考人の皆様の御意見を賜れればと思います。

 早速でございますけれども、今、三名の参考人の方々から共通としてお話がございましたが、こういった長期の裁判も含めて、裁判員の方々に対する負担の軽減という部分の話がありました。

 裁判員制度が始まってから、実際に裁判員の方々が参加をする裁判においては、実際の審理の時間がかなり短縮はされているんですね。ともすれば、精密司法から核心司法への転換といった意味では、審理に対する時間を気にする余り、本当に重要な部分が、枝葉の部分がそぎ落とされているのではないか、そういった批判も聞こえてきます。

 これは、大澤参考人、前田参考人、江川参考人、それぞれにお聞きしたいんですが、そういった御意見に対して、今回、特にそういった長期の裁判に対する除外規定のこともそうですけれども、裁判員裁判の実際の審理時間、これに余りにも気を使い過ぎて、審理の時間を気にする余り、刑事裁判自体が形骸化されるというおそれについての皆さんの意見をお聞きしたいと思います。

大澤参考人 刑事裁判が裁判員制度によって形骸化するということがあることは、これは許されないことであろうというふうに思います。裁判員裁判というのは、よりよい刑事裁判を実現するために導入された一つの仕組みでありまして、よりよい刑事裁判がそれによって犠牲になるということは、これは逆さまの話であろう。これは江川参考人がおっしゃられたことでもあろうかと思います。

 ただ、その上で、刑事裁判というのは何をするところなのかということは、これは考えてみる必要があろうかと思います。

 起訴された公訴事実について、その犯罪事実が存在するかどうかを明らかにし、刑罰を科する、きちっとした量刑ができるために関係する事情を明らかにする、それが刑事裁判の本来の目的であり、それがきちっとできるようにするということが大事なのだろうと思います。それがきちっとできている以上、それは私は形骸化と呼ぶには当たらないというふうに考えております。

前田参考人 参考人の前田でございます。

 私は、先ほど申し上げましたとおり、日弁連の裁判員本部という組織に所属しておりまして、裁判員裁判における公判前整理手続の実情ですとか実際の公判の実情について、ある程度委員からの報告などを受ける立場にはございますけれども、全てを把握しているわけではございませんので、その範囲でお答えをいたします。

 確かに、今御質問のありましたような、裁判所が、進行の時間にこだわる余り、弁護人の発言を厳しく制約するとか、そういう事例が裁判員裁判が始まった当初におきましては幾つか報告をされたということはございましたけれども、その後、法曹三者のさまざまな意見交換の場等もございまして、裁判員の負担に配慮する余り、進行がそちらに傾き過ぎて、実質的な刑事裁判の目的を損なうような事態が生じているのかというふうに問われると、そういう事態にまでは至っていないし、おおむね、やはり弁護人、検察官のそれぞれの立場で意見を申し上げるわけでございますので、その当事者の意向を踏まえながら裁判所が訴訟の進行をされているというふうに全体的には承っておるところでございます。

江川参考人 先ほどのオウムの事例、オウム三件ですね、その中では、やはり迅速化ということで弁護側の証人が認められなかったりというようなケースもありましたし、実際に先ほど申し上げたような裁判の状況もありました。

 やはり、何をやったのかだけではなく、なぜこんなことをやってしまったのかという部分を解明することが必要な事件もあります。事件によって異なると思うんですね。オウムの場合には、何であんなことをしでかしたのかというようなところが非常に重要で、そのために、かつての裁判では、弁護人によっては、その人の生い立ちなどを本人にじっくり何回もかけて語らせるだけではなくて、その周辺の人たちの話を聞かせるというような場面もありました。

 そういうような、丁寧に立体的に真相解明、なぜやったのかというところの動機、あるいはそのときの精神状態も含めて丁寧に解明をするということになると、裁判員裁判では難しい事件もあるということだと思います。ただ、それがしょっちゅうあるかというと、そうでもないのかなという気はいたします。

辻委員 この裁判員制度自体は、ともすれば調書裁判と言われていた日本の司法の現場において、それがより直接主義的、口頭主義的になったということに関しましては大変評価に値することだと思う一方で、実際、最近の裁判員候補者のうち呼び出しに応じた人の割合が、初年度の四〇%から昨年は二七%まで落ちているという、そういった数字がある。

 江川参考人の方からも、例えば育児中のお母さんは託児所に預けられないとか、そういった部分、あと、会社員の方が会社に有給を申請して参加をしていると。実際、裁判員の方々に聞いてみると、御自身に対して裁判所からフォローはあるけれども、そういったフォローを会社にもしてほしいとか、そういった要望もございます。

 今まで裁判員裁判で一番長い裁判が大体百日程度ということで、そういった裁判は今回の第一の法改正の部分には該当しないだろうというふうに言われておりますが、実際、この二七%という数字を踏まえて、できるだけ多くの方々に裁判員裁判に参加をしてほしい、国民の司法参加といった趣旨にこの数字は全く反する数字になってきております。

 そんな中で、これも三人の参考人それぞれにお聞きしますけれども、実際、今回の法改正というのは裁判員の方々に対する参加率の向上に資するものであるかということを皆さんにお聞きしたいと思っております。

大澤参考人 大変難しい御質問でありまして、しかし、今回の法改正というのは、裁判員制度が国民の負担を十分考慮した制度なんだということを明らかにする意味というのはやはり持っているのだろうと思います。それは、第一の長期間の審理を要する事件を除外するというものもそうでありますし、また、第二、第三の法改正というのもそのような趣旨のものかと思います。

 その点で、国民の負担も十分考慮しながらやっていくんですよというメッセージを示しているという点では、一定のメッセージは持っているのかなというふうに思います。

前田参考人 参考人の前田でございます。

 確かに、裁判員裁判施行当初より裁判員候補者の方の辞退率がふえているというのは統計上明らかではないかと思うんですが、その原因がどこにあるのかというのは、なかなか分析が難しいところがあるのではないかと思っています。

 私、もとより分析できる立場にはございませんけれども、一つは、私が思いますに、裁判所の運用が辞退に対して非常に緩やかといいますか、辞退の申し出があれば、まずほとんどその辞退を認めてきたという現実がございまして、そういう運用の実情を市民の皆さん方がわかってきて、行かなくても特に法律上制裁を受けることはないのではないかというような心理的な状況が生まれていることも一つの要因であるのかもしれません。だからといって、では、裁判所に出席しなかった人に対して何か厳しくやったらいいのかということにも、それは私も消極的な意見ではあるんですけれども、そういう一種のなれが生じてきていることが一つの原因ではないのかというふうに思っております。

 ただ、私自身の個人的な意見を申し上げますと、積極的に裁判員になりたいという方々が多いという状況が果たしていいのかということもございます。刑事裁判というのは、場合によっては、人を死刑にしたり、刑務所に送る作業でございます。誰しも、やりたくないというか、積極的にそれをやりたいと思うような職務ではないと思うのですね。

 ですから、そういう刑事裁判の判断者に立つということ自体は、なかなか、自分がやれと言われてもちゅうちょするけれども、しかし、この制度趣旨がやはりそれなりに民主社会の一つの重要な要素として存在して、そういう立場に立ったものであればその責任をきちんと果たしたい、そういうことで裁判員の職務を担っておられる方々もかなりおられるんだろうと思うんです。

 数字的に、やはりやりたくはないけれども、やってみたら非常によかったという統計数字があるのは、そういう一人一人の国民の皆さんの心理的状況を反映しているのではないかと思っておりまして、私自身は、辞退率が向上しているということについて、やはりちゃんと分析をする必要はあると思いますけれども、余り悲観的には見ていないというのが私の個人的な見解でございます。

江川参考人 辞退率が今回の法改正でどう変わるかというのは余り関係ないんじゃないかなという気がするんですね。

 それよりも、さっき申し上げたような託児の問題とか、それから、先生おっしゃったように、実際、裁判員の中にも、会社との関係が一番大変なんだ、だから、裁判所の方からも会社の方に一言言ってほしいみたいなことをおっしゃっている方もいらっしゃいました。

 そういういろいろな配慮を尽くす。だから、どこが一番つらかったのかというのを裁判員の人たちから聞いて、そこを、制度を改善したり、運用を改善したりするということがやはり大事なんだろうなというふうに思います。

辻委員 ありがとうございます。

 もう時間もあれなので、最後の質問に移らせていただきますけれども、この裁判員制度、六年目を迎えておりますが、今後の展望として、今回の法改正を得て、これから、特に法改正の一部の部分の長期の裁判に対する除外理由、この除外理由を理由に、審理時間に対して、先ほどいろいろ意見陳述があったように、原則としてはその事項に今までは当てはまらないけれども、万が一こういうことがあったときにこういった規定があるということは私は重要なことだと思うんですが、一方で、今後の裁判員裁判のプロセスの中で、本当に国民の興味というか、国民にとって大事な事件で、それなりに裁判にかかる時間が長期化してしまう事件に関して、ただ長期の裁判が予想されるからという理由だけで裁判員制度から除外するということは、私は避けなければいけないことだと思うんですね。

 その部分に関しての、濫用といいますか、そういった部分に関しての懸念について、これも最後に三人の参考人それぞれに、短くで結構ですので、お聞きして、質問を終わらせていただければと思います。

大澤参考人 先ほど申し上げましたけれども、要件の中で、裁判員の選任が困難あるいは裁判員の職務遂行、確保が困難、ここの部分がポイントとなり、そこについて幾つかの考慮事情が挙げられることになりました。そして、これは前田参考人もおっしゃられましたけれども、その中で、特に裁判員選任の経過というのが重要な意味を持つこととなっております。その点では、かなり厳格な運用をせざるを得ない、そういう要件立てになっているというふうに私は理解しております。

前田参考人 前田でございます。

 裁判員の負担に配慮して刑事裁判の本質が損なわれるというのはまさに本末転倒でございますので、十分に審理を尽くすべき事案につきましては、裁判員裁判といえども十分に審理を尽くすべきである。そのために、裁判員の方には負担になるかもしれないけれども、そこは国民の義務として頑張っていただきたいというのが私の正直な気持ちでございます。

 したがいまして、裁判員裁判の意義ということを私自身も高く評価するものでございますので、裁判員の方の負担を前面に出して裁判員裁判の対象から除外するというようなことは、よほどの例外的な事例でなければ、するようなことがあってはならない。そのための一つの手続的な歯どめとして、選任手続に入った上での裁判所の判断というのがこの法律に規定されたのだというふうに理解をしております。

江川参考人 よくわからないんですけれども、とにかく、これ以上の迅速化、迅速化というのはやめてほしいというのが裁判を見ていての感想です。これ以上迅速化しなければいけないんだったら、これ以上迅速化しないと裁判員でできないんだったら、裁判員じゃなくても、普通の裁判官による裁判でもいいから丁寧な審理をやってほしいという事件もあるというふうに思っています。

 そこのバランスのところをどうしたらいいのかは先生方の御専門だと思いますので、よろしくお願いします。

辻委員 以上で質問を終わります。ありがとうございます。

奥野委員長 次に、國重徹君。

國重委員 公明党の國重徹でございます。

 きょうは、三名の参考人の皆様に当委員会までお出ましいただきまして貴重な意見を賜りましたこと、心より感謝と御礼を申し上げます。

 私も弁護士出身でして、刑事裁判もそれなりにやってきたんですけれども、残念ながら、裁判員裁判は一件もやらないまま候補者になり、政治家になりましたので、きょうの参考人の皆様の意見も関心を持って聞かせていただきました。

 まず冒頭、裁判員裁判が導入されたことによって刑事裁判がよくなったと思うのか、悪くなったと思うのか、これについての評価を具体的にお伺いしたいと思います。

 江川参考人は、先ほどの意見陳述の中で、オウム事件を通じて具体的に、いい面、悪い面というのを大分おっしゃっていただきまして、補充的に言うところがあれば言っていただくということで、大澤参考人、前田参考人を中心にお伺いしたいと思います。

大澤参考人 裁判員制度の趣旨としてうたわれていることは、先ほども申しましたように、国民の感覚を裁判に反映し、国民の信頼を向上させ、そして国民的基盤を厚いものにしていくということでございますが、同時に、裁判員制度が導入されたことによりまして、国民にとってわかりやすい裁判をしなければならないということで、従来、調書が多用され、そして調書を、要旨のみ公判廷では告げて、後は、裁判官が裁判官室に持っていってその内容を詳細に読んで心証を形成する、そのような裁判、これは、人によっては調書裁判と批判し、また公判の形骸化などというふうにも呼ばれていたわけですが、それに対して非常に大きな転換を起こした、これはまさに裁判員裁判が入ったからということであろうかと思われます。

 証人の尋問を中心にして、直接主義、口頭主義とよく言われますけれども、そういう形の公判が行われるようになった、このことの意義というのは私は非常に大きいものだと思います。そして、国民が刑事裁判に参加するようになり、国民にわかりやすいものでないといけないということになったということが、その後のさまざまな刑事司法の改革にもつながっている面があるというふうに私は思っております。

前田参考人 前田でございます。

 やはり、裁判に対する国民的な関心が高まったという意味では、裁判員裁判というのは非常に意義のある制度だというふうに思っております。

 弁護士という立場は刑事弁護にかかわりますので、刑事弁護人という立場から裁判員裁判を見た場合についての私の感想を申し上げます。

 刑事弁護人というのは、被疑者、被告人の援助者として、徹底的にその立場に立って、国家における刑事訴訟過程での人権侵害を防止する、それから、著しく不当な重い判決ですとか不公平な判決を防ぐ、間違っても無実の人を有罪としない、被疑者、被告人の援助者としての活動に徹することによってその被疑者、被告人の更生を図ることにも資して、最終的には市民生活の安全を図る、こういうのが刑事弁護人の役割であるというふうに理解をしております。

 そういう立場からいたしますと、裁判員裁判を通じて被疑者、被告人の立場からの人権保障が図られたのかどうかという尺度から我々は見るわけでございますけれども、そういう意味では、捜査段階における取り調べに余りに比重が置かれた今の構造を変えられたか、あるいは裁判における事実認定が適正に行われたのか、こういう角度から検討いたしますと、いずれも、例えば取り調べ過程での録画、録音の導入、取り調べの可視化が図られるという情勢になってきたというのは、大きくはやはりこの裁判員裁判の施行と関係するわけでありまして、捜査過程における適正な運用というものに資する方向で動いていることは間違いありませんし、また、裁判所における事実認定の適正さという角度から見ましても、そういう意識で裁判所が運用されていることは事実であろうかと思いますけれども、さらに、やはり私たちの立場からすると改革すべき課題も多々残っておりますので、それにつきましては、今後検討して改革を図っていく必要があるだろうというふうに思っております。

 ちょっと具体的に述べる時間がございませんで、概要、そういう趣旨の感想を述べさせていただきます。

江川参考人 傍聴人の立場から申しますと、裁判員裁判が始まって劇的に変わったのは検察官であります。かつては、恐らく主戦場が取り調べ室だったということもあるのかもしれませんけれども、証人尋問なんかでも、ただ読んでいるだけという感じの検察官が少なくありませんでしたが、今は、本当に証人と会話をしながらきちっと尋問を行うというような場面が、別に裁判員裁判以外でも、そうやって力量が高まっていますので、よくなってきたということが言えるというふうに思います。ほかの、裁判員裁判以外へのそういう影響も出てきているというふうに思います。

 それから、裁判所全体に対する影響というのは、まだよくわかりません。ただ、今、裁判員裁判のもとで若い裁判官が育っているわけですね。そういう人たちが裁判長として裁判を率いる、こういうようになる時代が来るわけなので、そういう長いスパンで見れば、刑事裁判全体の改善に大きく資する制度だというふうに思っています。

國重委員 それぞれの参考人、ありがとうございました。

 今、江川参考人からも、検察は劇的に変わったんだというような意見がございましたけれども、では、弁護士は、弁護活動はどう変わったんだということで、前田参考人にお伺いしたいと思います。

 裁判員裁判が導入されたことによって、捜査段階の弁護活動も含めて、刑事弁護活動というのは大きく変化した点もあったかと思いますけれども、それを国民の皆様にわかりやすく説明していただければと思います。

前田参考人 刑事弁護にかかわる立場からお話を申し上げたいと思います。

 裁判員裁判によって弁護活動も大きく変わりました。公判における弁護活動は、裁判員の方が判断者に加わられるわけでございますので、裁判員の方にわかりやすい法廷活動をしなきゃいけないということがございますので、法廷における弁護技術活動の活性化というか、力量を高めるというか、そういうことをやってまいりました。

 ただ、先ほど江川参考人がお話しになりましたとおり、検察は組織として総体の力量を上げているということはございますけれども、残念ながら、弁護士の場合には、個々の弁護士がそれぞれ個々の事業をやっているという関係で、必ずしも全体的なレベルアップが図られていないということがありまして、裁判員の皆様からは、この間、弁護人の弁護活動がわかりにくいという評価をいただいてきてはおりますけれども、日弁連を初め、法廷での弁護技術を高めようという努力はしてきているわけでございます。

 それから、捜査でございますけれども、裁判員裁判の導入と並行いたしまして、被疑者国選弁護が拡大をされまして、被疑者段階から弁護人が弁護活動をするということがふえました。

 また、裁判員裁判は非常に集中的に審理を行いますので、捜査の段階から弁護側の方針をきちんと確立して裁判に臨まなければならないという要請がふえたこともありまして、捜査弁護が活性化したということは間違いなく言えるかと思います。

 そういう意味では、捜査段階における弁護活動というものが、これまでやる弁護士が少なかったわけでありますけれども、非常に総体的に量としてふえておりますし、さまざまな事案に即して、それぞれの工夫をしながら弁護活動に従事しているということで、裁判員裁判が、刑事弁護における捜査段階、それから公判での活動、いずれも活性化させているということは言えるかと思います。

國重委員 ありがとうございます。よくわかりました。

 今、捜査段階の弁護活動についてもお話しいただきました。被疑者国選が拡大したということですけれども、私、ある弁護士に聞きますと、傷害致死罪に関しては、被疑者国選の段階は一人しか国選はつけない、公判段階で初めて複数選任になるというようなことで、例えば、否認事件でこのような傷害致死の案件を弁護士が受けた場合というのは、捜査段階でもかなり活発に動かないといけないので、弁護士にとっては大変な労作業になるかと思います。

 先ほどもお話しされました、検察官は組織で、弁護士は個人なんだと。個人商店のようなもので、しかも、大体の弁護士は、刑事専門以外は、恐らく、民事事件とかを、九割以上の事件数を持っていて、それ以外の一割弱ぐらいを刑事事件を担当しているということで、そのような弁護士が、傷害致死罪に関して、捜査段階で国選弁護一人ということでは負担が重いというような意見も聞いたんですけれども、それについて前田参考人はどのようにお考えか、お伺いします。

    〔委員長退席、柴山委員長代理着席〕

前田参考人 刑事訴訟法の規定によりまして、複数の弁護人が選任されます被疑者国選の対象事件が法定刑で死刑または無期懲役の事件というふうになっております。傷害致死の場合には有期懲役が最高刑ということになっておりますので、その関係で、被疑者段階では、傷害致死の事件の場合には、裁判員裁判対象事件ではあるんですけれども、複数選任ができないというような事例が生じているということで、弁護人からのその種のさまざまな問題提起はなされているところでございますけれども、これは、法律の改正をきちんとやっていただくということによってしか解決ができないのではないかと思っております。

 したがいまして、傷害致死事件の被疑者国選弁護を受けた方は、被疑者国選弁護をやめまして、みずから私選弁護人として複数でやっているというような事例もないわけではございませんので、これは、法律改正で何とか、裁判員裁判対象事件は少なくとも複数というような形で改正をしていただければいいのではないかというふうに考えているところでございます。

國重委員 よくわかりました。

 では、引き続き前田参考人に焦点を当てて、弁護活動に関してお伺いしたいと思うんです。

 公判前整理手続に付された刑事裁判、裁判員裁判は全てそうですけれども、そういった刑事裁判の記録を謄写しなければならないんです。その際、裁判員裁判における記録の謄写料というのは大体幾らぐらいなんでしょうか。

前田参考人 被疑者国選事件ですと一枚につき四十円で費用が出るということでございますし、争っている事件などでございますと、その枚数につきましては全て謄写料は出されるということになっておりますが、謄写をするのは、私選弁護事件などですと業者の方に依頼をすることが多いわけでございますけれども、その業者の方の費用によって全国さまざま異なっているというのが実情でございます。

 一応、一枚四十円ということが、被疑者国選の段階といいますか、被疑者に限らず被告人国選も含めてですけれども、国選弁護における費用の単価になっております。

國重委員 済みません、ちょっと私の聞き方が悪かったかもしれませんけれども、私もいろいろな弁護士に話を聞きまして、裁判員裁判を経験した弁護士数人に聞きますと、自白事件の裁判員裁判であったとしても、公判前整理手続で大分手続が充実していますので、そこにおいて謄写の枚数が非常に大部になるということで、場合によっては、二十万から三十万かかる場合もざらにある、自白事件でそれぐらいかかる場合もざらにあると。

 ただ、これはもちろん法テラスから後に支払われるとしても、結局は立てかえ払いになってしまうということで、裁判が終わるまで弁護士が持ち出しで謄写しないといけない。特に、今回の裁判員裁判というのは、若手の弁護士が弁護活動をしている場合もあって、結局、何件か裁判員裁判をやると、二十万、三十万、時には五十万とかいうようなことがかかるようになると、実際に、費用がかかるということで、謄写を制限しちゃうというようなこともあるというふうにも聞きました。

 こういった運用、今、法テラスが後で支払うというようなことによって、実質的には弁護活動が制限されているんじゃないかというような意見もありましたけれども、弁護士会、また前田参考人としてはどのようにその点をお考えか、お伺いいたします。

前田参考人 事件によりましては、謄写費用の総体が、二十万、三十万、五十万を超えるような事件があることはもちろん承知しておりますし、私自身もそういう事件は経験しております。

 ただ、法テラスにおける謄写費用の支払いは、全てが後払いということではなくて、一定の金額以上ですと支払いをするとか、一定の期限が来た段階で締めて支払いをするとか、いろいろ工夫はされておるわけでございますけれども、とりあえずは立てかえて支払うということがありますので、そのシステムをどのように変えていったらいいのかというのはなかなか難しい問題であります。

 しかし、謄写費用があるがために弁護活動を制限するというのもこれまた本末転倒でございまして、やはり、必要な謄写があれば、謄写をしなければ十全な弁護活動ができないわけでございますので、謄写費用がかかってもそれを補償するような、そして速やかに填補がなされるような制度をつくっていくということ以外にはないのかというふうに思います。

國重委員 先ほど辻委員の方からも話がありましたけれども、裁判員候補者の選任手続への出席率が年々低下しているというような傾向がございます。これに関して、出席率を上げる方策について、江川参考人から先ほど、二つ、三つ具体的な提案がありました。

 大澤参考人、前田参考人にお伺いいたします。

 裁判員が活動しやすい環境をつくるための具体的な今後の改善施策をどのようにお考えか、裁判員候補者の選任手続への出席率を向上させる方策について考えるところがあればお伺いしたいと思います。

大澤参考人 大学で刑事訴訟法を教えている立場とはなかなかぴたっとこないところで、イメージがつきにくいところもございますけれども、やはり、企業等会社にお勤めの方がより出てこられやすくするとか、江川参考人からお話がありましたような、主婦の方でも出てこられやすくする、そのための環境を整えるということは大事なことであろうと思いますし、また、前田参考人が言われたように、私も、やりたいという人がたくさんふえてくるというのが果たして本当にいいことなのかというと、そこは少し疑問であります。

 ただ、いろいろ、自分の本来の仕事もあり、家庭もあって、そういう中で、しかし、大事な仕事だから出ていくんだと思えるような、そういう意識を育んでいくということは必要であろうかと思われます。時間の長い話でいえば、若い段階からの法教育を充実させていくというようなこともございましょうし、また、我々も、教育の場に携わっている関係から、いろいろできることというのはあり得るのかもしれません。

 大変抽象的なお答えで申しわけありませんが。

    〔柴山委員長代理退席、委員長着席〕

前田参考人 私自身は二〇一〇年の七月に初めて裁判員裁判を経験したわけでございますけれども、そのときの裁判員の方は、六人全てが女性ということになりました。裁判員候補者として出席された方には多数の男性の方もいらっしゃったわけですけれども、当日、仕事を理由として辞退の申し出をされる方が大変多かったわけでございます。

 したがいまして、十日間というその当時ではやや長い期間でございましたので、長期の審理を要する事件については、仕事を持っている方の辞退率はふえるのではないだろうかというふうに懸念をいたしました。

 そういう意味では、やはり職場での理解というか、企業の理解というのがこの点では非常に重要なのではないだろうかというふうに私は認識しておりますし、裁判員裁判についての職場、企業での御理解をぜひいただければ、裁判員候補者の方が辞退をしないで済むというような状況になるのではないだろうかと考えております。

國重委員 時間が参りましたので終わりますけれども、きょうは、三名の参考人から貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。私も、政治家の立場として、きょうの御意見を踏まえて、裁判員裁判のよりよい運営のためにしっかりと頑張ってまいりたいと思います。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、鈴木貴子君。

鈴木(貴)委員 民主党の鈴木貴子です。

 きょうは、貴重なお時間、そしてまた御意見を賜りまして、心から感謝を申し上げます。

 裁判員裁判が導入された平成二十一年なんですけれども、実は、ちょうど私、そのときに社会人一年目を迎えまして、当時は某公共放送で番組制作ディレクターをしておりまして、一番最初の仕事が、傍聴券をもらいに行く、長蛇の列に並びに行くという仕事だったなということも今懐かしく思い返しながら、私なりに質問をさせていただきたいな、このように思っております。

 お三方の参考人の皆さんの話を聞きながら、また各委員の話を聞きながらも、まず、裁判員裁判に対しての理解、そしてまた一定程度の評価というものはあるんだなという点と、そしてまた同時に、裁判員裁判のそもそもの趣旨については共通の理解をしているものと、私も今、確信を得ているところであります。

 あえてこの場で大臣の答弁を引用させていただいて、改めて述べさせていただくと、この趣旨というものは、一般の国民が裁判に参加をすることによって、裁判の内容に国民の健全な社会常識がより反映されること、そして国民の司法に対する理解、支持が深まること、こういったことも大臣もさきの委員会でも述べていただいております。

 そして、私もいろいろ資料などを見ている中で、ちょっとおもしろいものがありました。裁判員制度が始まるに当たってさまざまな啓発、啓蒙活動がありまして、実は、最高裁の方でキャッチフレーズというものを国民の皆さんから募集し、何と一万六千の作品が来たそうなんですね。

 そして、最終的に最優秀賞になったものが、とある鳥取の方なんですが、「私の視点、私の感覚、私の言葉で参加します。」これが最優秀賞。そしてまた優秀賞などでも、「裁判に 深まる理解 高まる信頼」「活かしましょう あなたの良識 裁判に」。こういった非常に多くの、一万六千の応募があったということからも、国民の中でも、確かに不安などもあったかと思いますが、非常に前向きな姿勢の中で裁判員裁判の制度というものが始まったのであろうな、このように思っております。

 そしてまた、最高裁が優秀賞などに選んだキャッチフレーズを見ても、国民感覚、国民が何を司法に求めているのか、こういったことを、どんなときにも、常々制度の中に入れていく、組み込んでいくということの重要性を、我々は今改めてこの改正に当たって考えなくてはいけない、このように思っております。

 そこで、まず、今回の改正案の要所といいますか、肝でもあるかと思うんですけれども、長期事件の除外規定についてお尋ねをさせていただきたいと思います。

 過度な裁判員の負担というものはもちろんいけないことでありますし、これを軽減していくことは非常に必要なことだと思います。しかしながら、先ほど大臣答弁も引用しましたが、そもそもの趣旨と相反してしまっては元も子もない話であるかと思います。そしてまた、事実、これまで裁判員裁判で、長期審理がゆえに除外されたケースもない、こういったことも、参考人の皆さんからも御指摘を賜っているところでもあります。であるならば、選任手続をしっかりと行った上で除外するかどうか、あくまでも選任手続を踏まえて決定するべきだ、私はこのように考えております。

 そこで、大澤参考人と前田参考人、お二方にお伺いをしたいんですけれども、お二方の御意見などを伺いながらも、選任手続を必要要件とすることは何がどう難しいんだろうかと、逆に私は先ほどから疑問に思っております。大澤参考人、前田参考人、それぞれのお立場でお考えの中で、選任手続を必要要件とすることの難しさ、もしくは必要性、そしてまた、今それができていない難しさというものを教えていただけますでしょうか。

大澤参考人 先ほども申し上げましたように、今回の法改正案というのは、裁判員の選任が困難であるというところが一つの要件の核になっているということかと思います。そして、そこから考えますと、一番確実な判断材料はやはり実際に行われた裁判員選任手続である、これは多分、間違いのないところであろうかと思われます。

 しかし、実際にそういうケースがあるかどうかわかりませんけれども、例えば、法制審議会の部会で例に挙げられたような、そもそも審理計画を立てた段階で年を超えるような審理計画になってしまっている、そういった場合に、それでは、あえて裁判員の選任手続を行うのか。選任手続を行う、しかもそれだけの長期の事件ということになれば、それだけの数の裁判員候補者を選定し、呼び出して、そして選任手続を行うということになります。その審理期間から、ほぼ確実に選任することが難しいであろうということがあらかじめ判断がつくような場合について、では、それだけの負担を国民の方に課すのがよいだろうかということは、私は問題になるだろうと思います。

 ですので、そのような場合については、選任手続を経ずに判断できる場合もあるとすると、その可能性というのは法文上残っていてよいのではないか、それが私の考えでございます。

前田参考人 私は、先ほど申し上げましたとおり、選任手続を必要的な要件にしたらどうかという提案をした立場でございますので、鈴木委員と同じ意見ではあるんですけれども、先ほど大澤参考人が御指摘されましたとおり、では、二年も三年もかかる審理計画の事案ができたときに、これを選任手続でやりますかと問われたときには、ややちゅうちょせざるを得ないということもありますし、選任手続に入った上での判断が集積をされた時点において、ほかの事件を参考にして判断することができませんかと言われると、それもできないということはないのではないか。

 ということで、最終的には、集積の事例ができるまでは運用をきちんとやっていくという前提で私は賛成したわけでございますので、そのような運用がなされる限りは、結果的には私が提案したような内容と同じことになってくるでしょうし、必要的要件といたしましても、いずれ集積事例がふえました段階では、改正をして、こういうケースのときには除外していいのではないかというようなことも生じかねないわけでございますので、一応、私の提案の許容の範囲かなとは思いましたが、すっきりするのはやはり必要的要件にすることであろうというふうには考えております。

鈴木(貴)委員 ありがとうございます。

 今、前田参考人から集積というお話もあったかと思うんですけれども、やはり負担の軽減というものを考えたときに、例えば、長期事件の除外規定しかり、今、引き算の議論が多いのではないのかなと。しかしながら、負担軽減の対策においては足し算の議論もできるわけですね。例えば、江川参考人がおっしゃったように、子育て世代の方々が裁判員になるときの託児所であるとか、そういった足し算的な制度であったり、会社の方への理解をより求めていく上でのより具体的な対策であるとか、引き算議論だけではなく、そういった足し算の議論もしっかりと進めていかないといけないのではないのかな、このように、今回の参考人の質疑を聞きながら強く思っているところであります。

 そして、実際にさまざまな世論調査などでも、裁判員を経験した方は、確かに九割がよかったということをアンケートでもおっしゃっている。と同時に、まだ裁判員を経験されていらっしゃらない方、逆に言うと、もっと広くあまねく、多くの分母の方々は、いまだに裁判員制度に対して、社会に定着しているかという問いに対して否定的意見が六五%、そしてまた、制度を評価する声というのが四四%で、二〇〇九年の前回調査よりも一一ポイント下がってしまっている。

 こういった現状を踏まえ、また、先ほども出ましたが、辞退者の率の高どまり、こういったことを鑑みても、この制度が形骸化、また骨抜き制度にならないためにも、しっかりとした見直し規定を盛り込む、国民の声がこの制度にしっかりと反映され続けていくことを担保する上でも、この見直し規定を盛り込むということも明確化、明文化した方がいいのではないか、私はこのように思っております。

 この見直し規定を盛り込むということに関して、お三方から御意見を賜れますでしょうか。

大澤参考人 裁判員制度という重要な制度の運用を随時確認し、見直していくということは、極めて大事なことであり、なされていかなければいけないことだろうと思います。

 見直し規定というのは、恐らく、今回のものは、制度が立案して立ち上がりの時期であり、またいろいろな不測の事態も起こるかもしれない、そういうものを考慮しながら考えていかなければいけないということで、もともとの裁判員法の中に入れられたということかと思います。その意味では、現在六年を経過して、それなりに運用として安定的に行われてきているのではないかということだとしますと、もちろん、問題が出てきたときにいろいろと議論をし、また国会でも動いていただくということは必要かと思いますけれども、見直し規定が必ず必要なのかというところは、私としてはよくわからないところでございます。

 もちろん、入れておくということが確実な方策ということなのかもしれませんし、しかし、何か問題があらわれてくれば、恐らく国会の方でもまた議論をされるということになっていくのかと思いますので、そこのところは、私は、どちらがいいのかということは必ずしもよくわかりません。

前田参考人 今の刑事訴訟法ができましてから六十年を経過した段階で、裁判員裁判という新しい制度が始まったわけでございます。

 そういう意味では、新しい制度につきましては、随時その運用状況を検証して、よりよい制度にしていくということは非常に大事なことでございますので、私は、見直し規定を置いて一定の時期に検証していく、改めるべき課題があれば改めていくということは非常に大切なことではないかというふうに思っております。

江川参考人 私は、先ほど申し上げたように、まだ過渡期だと思っています。これだけ大がかりな、そして重要な裁判のあり方の制度変更ですので、やっていくうちにいろいろなことが出てきて、実際、大震災のようなことが起きて、これはどうしなきゃいけないのかということも今話し合われているわけですね。

 先ほど申し上げたように、これから死刑の執行が相次ぐというような時期になったときにどうなるかとか、そして、これもまた先ほども申し上げましたけれども、裁判員の方は、守秘義務がかけられていることもあり、声を上げにくいという状況ですから、むしろ先生方の方から、随時積極的に情報を集めて、問題はないのかということを点検していただくためにも、やはり見直し規定というのは残していただきたいと思います。

鈴木(貴)委員 せっかく参考人の先生にいらっしゃっていただいているので、大澤参考人に一点だけ、ちょっと確認というか、改めて伺わせていただきたいんです。

 見直し規定に関しては、今、絶対的に入れる必要があるとまでは言い切れないというお話だったかと思うんですけれども、一方で、先ほどの、例えば長期事件の除外規定、これも、今現在六年間やってみて、今までこれで裁判員裁判ができなかった事例は実際問題ないわけですよね。先ほど参考人もお話の中で、しかしながら、どういった重大事件といいますか大きな事件が、また多くの国民の関心事になるような事件が起こるかわからない、だからこそ、先手を打つ意味でもこの除外規定というものの必要性があるのではないかといった御意見を賜ったかと思うんです。

 そうなってくると、長期事件の除外規定の際には、そういった先を見据えた、今現在は存在しないけれども、起こり得る可能性によって除外規定は盛り込むべし、しかしながら、見直し規定に関しては、起こり得る可能性があったとしても入れる必要性はないというところに、ちょっと、整合性といいますか、そういう部分に対しての大澤参考人の御意見を伺えればと思います。

大澤参考人 今回の、長期事件を除外できるようにするかどうかという話、もともと裁判員制度が司法制度改革審議会で議論されていたときにも、そういうものをどうするのかという議論はあったのであろうと思います。そして、施行直前、施行の間際になったところで、この種のこともあろうかということで、いわゆる区分審理制度というものを手当てして、そしてスタートしたわけでありますけれども、区分審理制度も必ずしも使い勝手のよいものではないというところもあり、そしてその中で、今後難しい問題が生じ得るかもしれないということで、今回の改正が出てきたということかと思います。

 確実な節目を置くという意味で、見直し規定を置いておくということもあり得るでしょうし、裁判員制度という枠の中でそれを考えるのか、刑事司法全体の枠の中で考えるのか、いろいろまたあるかと思います。裁判員制度も刑事司法制度の一角であり、また刑事司法制度が大きく動いていくという中でありますので、裁判員制度だけで考えるのがいいのかというところもあろうかと思います。

鈴木(貴)委員 ありがとうございます。

 時間もなくなってきましたので、最後に、刑事手続、捜査のあり方にかかわる制度の改革という視点で、これは前田参考人と江川参考人、お二方にお伺いをさせていただきたいと思います。

 裁判員裁判の導入に当たり、さまざま期待の声がありました。その中の一つとして、疑わしきは被告人の利益に、こういった原則が裁判員によって以前よりも強調されるのではないか、こういった声も実際にあったかと思っております。

 実際に、前田参考人が書かれた、我々が手元にいただいた資料の中でも、「裁判所は「有罪か無罪かを判断するところ」ではなく「有罪であることを確認するところ」となっている現実」、こういったことも書いていらっしゃいますし、また、いわゆる調書裁判からの脱却への期待、こういったことも、先ほどほかの委員からも御指摘があったかと思います。

 そしてまた、その中で私が非常に大事だと思うのは、実際に裁判員としてこの制度を経験された皆さんからの生の声、提言にしっかりと我々は耳を傾けていかなくてはいけないのではないか。例えば、裁判員の皆さんがおっしゃるのは、自分が実際に出した判決への信頼、自信を確固たるものにするためにも、検察が持っている証拠を全て明らかにしてほしい。証拠の開示、そしてまた取り調べの可視化、こういった声が実際に国民の皆さんから提言という形で出されております。

 しかしながら、悲しきかな、威圧的な取り調べのニュースなどがいまだに散見される、これが現実であります。そしてまた、検察官による参考人への一問一答式の想定問答集の存在なども実際に証拠として出されてもおります。

 そういった上で、お二人、前田参考人、江川参考人にお尋ねをさせていただきます。

 捜査のあり方、刑事司法改革というものは、まさに国民お一人お一人の利害にかかわってくる、こういったことも言えるかと思うんですけれども、国民からのこうした提言をしっかりと盛り込んでいくべき、また、我々として、立法側、そしてまた捜査当局、また司法の側で、こういった国民の提言を取り入れる十分な努力をしているものと、江川参考人であれば、実際に市民感覚も代弁していただいて、実際にこの努力が十分なものであるか否か、そしてまた、実務を経験されていらっしゃる前田参考人からも、実際にしていらっしゃるものとして、国民は今、刑事司法を実際に信頼できる制度に、我々はその上に立っているのか、そういった点の御意見を伺わせてください。

前田参考人 今、鈴木委員から御指摘のあった、私の論文の話が出ましたけれども、あそこで私が書きましたのは、私自身の言葉ではございませんで、一九八五年に、当時の刑事法学者の大家でございました平野龍一先生がある本にお書きになった内容を私が引用しただけではございますけれども、一言で言いますと、やはり裁判員裁判の一つの大きな制度改革は、いわゆる調書裁判から公判中心主義の裁判への転換ということであったかと思います。

 そういう意味では、裁判員裁判対象事件に関しましてはそういう方向で動いていることは確かではありますけれども、やはり本当に事実認定の過程において調書自体の比重が軽くなっているのかどうかということは検証しなければなりませんし、その事実認定の経過において市民の健全な常識が反映されたものとなっているのかどうかということについては検証していかなければならないというふうに私は思っております。

 それから、今、公判中心主義というものが刑事手続全体の構造を変えるということにもつながるのではないかという議論がなされまして、私自身もそういうことになってほしいというふうに考えました。

 我が国の刑事司法手続は、ほかの諸外国との比較におきましては、やはり、前の方の、捜査の比重といいますか、検察官のかかわる比重が非常に大きくて、その後の公判よりもむしろ検察官における捜査というのが非常に重視されてきた、そういう刑事司法手続を我が国は持ってきたわけですね。それをやはり少し公判に軸を据えた構造に変えた方がいいのではないかということを私ども刑事弁護人も考えておりましたし、そういう方向に動かす大きな契機に裁判員制度がなってほしいというふうには考えておりました。

 その一つのあらわれとしては、先ほど私が申し上げましたけれども、やはり調書よりも公判での供述に比重を置く、そのことによって公判での供述を軸に事実認定をする、そういう傾向が出ていることは望ましいことですし、捜査過程を可視化していきましょう、特に取り調べの可視化を図りましょうということで、そういう意味では、捜査における徹底した糾問的手続を変えていこうという動きであります。

 そういうことでは、裁判員裁判が一つの契機となって、全体の刑事司法の構造が、前に比重があったものをやはり後ろの裁判所がかかわるところに持ってこよう、そういう傾向は出てきているかと思いますが、まだまだ道半ばであるというのが私の評価でございます。

 以上です。

江川参考人 今、前田さんがおっしゃったように、裁判員裁判が導入されてからいろいろな面が改革されていったと思います。裁判員裁判が行われるということを前提に証拠開示の範囲も拡大されてきたとか、そういうようなことで、司法の最も大事な役割の一つである、冤罪をどう防ぐかということについては大分前進が図られたと思います。

 そして、これからここでまた御審議なさるんだと思いますけれども、取り調べ過程の録音、録画についても、裁判員裁判対象事件については検察段階からやりましょうということになりそうなわけですよね。これもまた期待しているところですけれども、これはまさに途上にあるんだというふうに思います。今までやったことがないからまず裁判員裁判の対象事件でやってみようということであって、これが完成形ということではないと思うんですね。

 やはり司法制度というのは、日々少しずつ問題を改めて前進させていくということになると思うんですね。だから、裁判員裁判の前と今では、確かに前進し、進化しているんだと思うんですね。

 それを言うならば、過去の裁判で裁かれた人たちの中で冤罪を訴えている人たち、そういう人たちは、では、今だったら証拠開示で見られるものが、過去に、たまたま前に起きたために見られなかった人たち、そういう人たちには、せっかく前進した、改善した、進化した制度なんですから、あまねくそれを適用して、例えば再審請求の過程でも証拠開示を広げるとか、そういうような各方面に目配りをした改革というものをやっていただきたいなと期待するところです。

鈴木(貴)委員 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、重徳和彦君。

重徳委員 維新の党の衆議院議員、重徳和彦と申します。

 きょうは、参考人の皆様方、大変お忙しい中をお越しいただきまして、また貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございます。感謝を申し上げます。

 さて、私の方からは、今、鈴木委員からの最後の質問にありました、調書中心から公判中心主義へと移っていくことに関連しまして、事前にいただいております前田参考人の資料、「法律のひろば」昨年四月号の特集記事の中で、まさに今、前田参考人がおっしゃいました平野龍一先生の言葉、「わが国の刑事裁判はかなり絶望的である」と。一九八五年の言葉でありますけれども、これは何を言っているかというと、「我が国の刑事裁判が余りにも捜査に傾きすぎて「検察官司法」の様相を呈し、裁判所は「有罪か無罪かを判断するところ」ではなく「有罪であることを確認するところ」となっている現実」について平野先生は指摘をされていたということでございます。

 この問題意識なんですけれども、法廷における供述が裁判員制度においては非常に重要になってきておりますから、これを公判中心主義と呼ぶということですが、これに対して、従来は、供述調書に過度に依存をしてきた、警察、検察における捜査がそのようなものであったということでございます。

 したがいまして、刑事手続そのものが真相解明に過度に躍起になっているということで、大変厳しい取り調べが行われ、また、時に虚偽の自白を強要するようなこともあり、これが冤罪の要因になっていたということであります。

 この記事の中にもあるのですが、これは全てそうということではないでしょうけれども、公判における証言についても、検察官のつくった調書に基づいて、こう聞いたらこう答えろという打ち合わせが済んでいるというようなことも含めて、判断をするべき裁判官にその調書の内容を全部すり込んでいく、そういうようなことで、結局、検察官の心証イコール、ニアリーイコール裁判官の心証だというようなことが、これまでの、特に裁判官裁判時代では往々にしてあったのではないかというような指摘がなされているわけでございます。

 そこで、まず前田参考人、そして大澤参考人、江川参考人にもその後続いて同じことをお聞きしたいんですが、裁判員制度を前提とした検察官の取り調べの適正化ということについて、どのようにお考えかということであります。

 今回の国会でも、取り調べの可視化も一部導入されるという法案が提出をされることになっております。それから、この論文の中でも、前田参考人からは、弁護人の取り調べ立ち会い権を含む、被疑者、被告人が弁護人の援助を受ける権利を保障するなど、システムとして取り調べのあり方そのものを少し変容させていくようなことが、裁判員裁判の導入に伴って、つまり公判中心主義の裁判に伴って必要ではなかろうかという御指摘があるわけなんですが、まず前田参考人から御意見を頂戴したいと思います。

前田参考人 裁判員裁判は、普通の市民の方が判断者として裁判に関与する。かつては、職業裁判官が、検察官の作成した供述調書、これをじっくり法廷外で読み込んで、事実を確認するというか心証を形成する、そういう構造で行われましたが、裁判員裁判ではそういうことはできません。したがって、どうしても、それは、公判廷における供述が証拠の軸とならざるを得ないわけでありまして、そのことが調書に依存しないという形での裁判手続につながっていくのではないかということを申し上げたわけであります。

 やはり検察は訴追する立場でございますし、我が国の検察の起訴した事件の九九%以上が有罪になっているという現実は、検察が一定程度のふるい分けをしてきた、そのふるい分け自体が適正であったがゆえにこういう高い有罪率になっている、こういう説明を一通りすることはできると思いますけれども、その中に、やはり過度に取り調べに依存してというか、取り調べ過程で得られる供述に依存して、それがまさに真実と合致しないものとして作成されてしまって、それが結局裁判所の判断にも影響を与えて、それで無実の人が有罪になってきたというのが我が国の過去の冤罪事件の典型的な事例であったわけで、そういうことが裁判員裁判を契機としてなくなっていくようにしたいという思いが刑事弁護にかかわる我々の立場としてございました。

 そういうことでございますので、やはり、過度に取り調べに依存して、そこで得られた供述、そこでつくられる供述調書に依拠して刑事裁判を動かしていくということを変えることが、冤罪を防ぐためにも必要ですし、取り調べ過程における被疑者の人権を守るという観点からも必要なのではないかというふうに思っているわけでございます。

 裁判員裁判の対象事件というのは、全体の事件数から見ると三%程度でございますので、刑事司法のほかの九七%は裁判員裁判の対象事件ではないわけでございますけれども、対象が重大な事件ということで規定されておりますので、ほかに対する影響力も大きいわけですね。

 ですから、裁判員裁判の、重大事件であるということからくるほかの事件への波及力、影響力ということも考えますと、裁判員裁判の事件におきまして、きちんとした適正な取り調べを行っていくということが、やはり公判中心の、公判における供述が証拠の軸になるというその構造をしっかり本物にしていく重要な要素だろうというふうに私は考えております。

 しかし、検察の方の基本的なスタンスはきちんと訴追する立場にあるので、その責任を果たしていくということで、基本的なスタンス自体を変えているというふうには私自身の目から見ては思えません。調書の作成方法などにつきましては、従前から比べると相当変わってきたなという認識がありますが、やはり、調書、検察官の取り調べによって得られる供述が軸になるというスタンスは相変わらず変わっていないんだろうというふうには思っております。

大澤参考人 刑事手続の捜査と公判の間の比重ということは、先ほど前田先生の論文を引用して御紹介もあったところでありますし、また平野先生が非常に問題意識を持っておられたところかと思います。

 従来の日本の刑事手続というのは、非常に詳細な捜査、しかもそこでは取り調べが中心を占めて、詳密な捜査が行われ、その結果が調書として公判に出ていって、またその調書を精密に検討して公判の審理が進むということでございました。そのような状況を指して、平野先生は絶望的であると呼ばれました。ただ、平野先生はその前に、私の記憶では、陪審制か参審制でも採用しない限りというような留保もつけておられました。

 そして、まさに現在の日本では、裁判員制度という形の国民参加制度が入っているわけでございます。その中で、公判が活性化をしてきた、供述調書中心の公判ということではなくて、証人の取り調べ、そこで直接に話を聞く公判という形に移ってきた、これは間違いのないところでございます。

 そうすると、委員のただいまの御質問でありますけれども、それは捜査の段階にどのように返ってくるのだろうということで、ここは多分一番難しいところであろうかと思います。

 裁判員裁判というのは、公判が始まりますと、一気呵成に進みます。そういう公判手続というものが後ろにあることを考えますと、やはり捜査は詳密にやるんだ、調書はそのまま使えないとしても、捜査は詳密にやって事件の像をきちっと固めておかなければいけないんだというのは、これは一つの行き方でございます。

 しかし、供述調書等を詳密に使わず、公判で証人を取り調べ、公判で直接話を聞くということであるとすると、別の捜査のあり方というのもあり得るところなのかもしれません。

 捜査の段階が変わる一つの可能性としては、裁判員制度が導入されたことに関して言うと私は両様あると思うんですが、その中で、公判段階に一般の国民が入って、一般の国民の目から見て、では今までの捜査というものがどのように見えるのか、それがどういうふうに見えるかによって今後の捜査のあり方というのは変わってくるところだろうと思います。まさにそれがありましたからこそ、取り調べ、供述調書に過度に依存した捜査、公判のあり方の見直しということが法曹三者の間でも共通の課題として認識をされ、録音、録画に向かった動きというのも動いてきているところかと思います。

 その意味では、私は、裁判員制度があったことというのは、そういう動きの一つの重要な背景をなしたというふうに考えています。

江川参考人 気をつけなきゃいけないのは、裁判員裁判を余り過度に絶対視するというのは違うと思うんですね。裁判員だって間違うことはあると思うんですよ。

 私も実際、裁判員裁判を傍聴して、判決を見て、これはかなり検察の組み立てに引っ張られているなというふうに感じたことはあります。そういうときには、一つは検察のプレゼン能力が高いということもあり、あるいは、裁判所がいろいろと、助言とか、それから証拠の整理とか、そういうのをしたのかなというのが全然見えないわけですね。だから、やはり、そういうことをチェックする上でも、守秘義務の問題というのはもう少し緩やかにする必要があるんじゃないかなというふうに思うわけですね。

 つまり、裁判員裁判は絶対ではないし、ましてや国民に間違った裁判をさせるということのないように、いろいろなことをしなきゃいけない。証拠の開示だってそうだと思うし、可視化だってそうだと思うんですよね。ですから、そういう意味で、やはり進化をしていかなきゃいけないし、そういう途上にあるんだろうなというふうに思います。

重徳委員 ありがとうございます。

 もう一点、お三方に質問したいと思います。

 裁判員裁判が導入されてからも、これもまた前田参考人の論文の中にあるんですが、検察官の起訴基準というものは変わっていないんですね。最高検察庁の裁判員裁判における検察の基本方針においては、「的確な証拠によって有罪判決が得られる高度な見込みがある場合、すなわち公判廷において合理的な疑いを超える立証をすることができると判断した場合に限り、適正な訴追裁量の上で、公訴を提起することになる。」と。この部分は変わっていないということなんです。まあ、そうむやみに変えるものでもないんでしょうけれども。

 ただ、現実、この委員会でも指摘をさせていただいているんですけれども、有罪率は裁判員制度になってからも九九%を超えているんですが、検察による起訴をする率が、五、六年前までは五〇%以上、六〇%台ぐらいが基本だったんですが、ここのところ、三〇%程度まで下がっているということもありまして、ありていに言えば、有罪率を確保するために起訴率がどうしても下がってきてしまう、厳しい裁判員による事実認定に耐え得るような、そんなようなことがあるかもしれない、そういう可能性も感じているところなんです。

 この起訴率といったもの、それから、有罪率が裁判員制度になっても今までどおり維持されるべきなのかどうか、このあたりについてのお考えをお聞かせいただきたいと思います。

前田参考人 なかなか難しい御質問で、起訴率の低下の要因がどこにあるのかというのはちょっと私の立場から何とも申し上げかねますけれども、刑事弁護にかかわる立場から申し上げますと、やはり被疑者国選の拡大がございまして、被疑者段階での弁護活動が活性化した、そのことによって、検察官において起訴猶予等をしてもよいという判断をされた事例が、数としてはどのくらいあるかまで把握はしておりませんけれども、一定程度あるのではないかと。起訴率の低下の一つの要因として被疑者弁護活動があるのではないかというふうに、刑事弁護人の立場としては考えているところでございます。

 ただ、検察の起訴基準をどうするかというのは非常に難しい問題でございますけれども、まさに刑事司法手続の全体を、検察を軸に置いた今までのやり方を変えて裁判所に軸を置く、要するに、裁判所でやるべきことが非常にふえるという構造になるわけで、それが全体としてどうなのかというのは非常に難しい問題でございます。ここで私の方で簡単に答えが出るものではないんですけれども、公判中心ということをうたう以上は、従前の、検察官が裁判官に成りかわって有罪か無罪かの判断をした上で、それを裁判所に公訴提起する、そういう構造を変えるということもあっていいのではないだろうかというのが私の個人的な意見ではあります。

 それがまさに裁判所における公判中心主義につながるのかというふうにも考えますが、なかなか難しいところでございまして、何とも答えとしてはすっきりしないというところもございます。

大澤参考人 大変難しく、かつ、刑事司法のあり方を変えていく上での本質にかかわる御質問だというふうに受けとめました。

 それで、まず、従前、有罪率が非常に高かったというのは、これは検察官が起訴の段階で緻密に事件を振り分けて、危ない事件については基本的に起訴しないという運用をかなりしていたというところが一つ大きな影響を持っていたのだろうと思います。

 まさに起訴、不起訴の段階で本当に起訴すべき事件を緻密に振り分けようということだとしますと、その前提として、捜査が非常に詳細に行われなければならないということになります。まさに、従来の取り調べを中心とした詳細な捜査というのは、それを支えていたわけです。

 その点で、先ほど引用された平野先生などは、むしろ、捜査をあっさりさせるとともに、起訴もあっさりさせるべきだということを言われておりました。ただ、起訴をあっさりとするためには、起訴された後、公判に行って無罪になってしまう、それがたくさんふえるということが直ちによいことかというのも、これまた難しい問題でございます。

 そうすると、捜査の段階では必ずしも固まっていなかったけれども、公判の段階で新たにプラスアルファとして出てくるようなものというのがあって、それを期待しつつ起訴をするというような仕組みができてくれば、そのような動きというのもあるのかもしれません。そのあたりとの関係で考えなければいけないところかと思います。

 ただ、全体として、取り調べ、供述調書に過度に依存した捜査のあり方ということについて反省の動きが出てきていますので、起訴の基準、有罪の確信を持てるというラインそのものは変わらないかもしれませんけれども、事件の固まり方自体は少し変わってくるというところがあって、それがまた、弁護側から公判でいろいろと防御活動をしていくことで事件の帰趨が変わっていくというようなことにもつながっていくのかなというふうには思っております。

江川参考人 起訴率が低下しているということについては、その内容はきちっともう少し分析した方がいいと思います。何も、裁判員裁判だから下がっているという問題ではないんじゃないかなと。例えば、殺人で逮捕されたけれども不起訴になった例がふえているかというと、そうでもないんじゃないかなという感じがするんですよね。

 ちょっと思い当たるのは、知的障害者の問題であります。

 刑務所の中にも知的障害者がたくさんいるということで問題になり、そして、取り調べの録音、録画のときに、知的障害のある人たちも対象にしようということを検察が始めた。そういう中で、かつてだったら、刑事司法のライン、捜査、裁判、刑務所、つまり、捜査、司法、矯正のラインをぐるぐる回っていた人が、そうではなくて、むしろ福祉のラインの方に乗せなければいけないんじゃないかというような意識が法務省の方の中にも高まってきて、刑務所の中に社会福祉を入れるとか、あるいは捜査段階でそういった専門の方の助言を得るとか、あるいはそういう施設といろいろ相談をするとか、そういう動きが少しずつ始まってきているんですね。

 やはりこういうことがどんどん広がって、とにかく刑事のラインでぐるぐる回っているというのではなくて、もっと福祉との連携というのができるようになり、そして起訴率が下がっていくということであれば、これは結構なことだと思うんですね。

 ですから、先生方も、ここは法務委員会でしょうけれども、厚生労働関係のことをやっている先生方とも連携して、やはり刑事のラインとそれから福祉のラインの連携というのをもっともっと進めていただきたいなというふうに思います。

重徳委員 ありがとうございました。

 今後もしっかりと審議してまいりたいと思います。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。

 参考人の皆様方におかれましては、御多忙のところ、当委員会まで足をお運びいただきまして、本当にありがとうございます。

 二〇〇九年に裁判員裁判が始まってから六年が経過しようとしております。私は、少し視点を変えて、国民が裁判員裁判にどう理解や支持を広げているのか、さらに深めるためには何が必要かということをテーマにしたいと思っております。

 初めに、江川参考人、そして大澤参考人、前田参考人の順番でお答えいただきたいと思うんですが、最高裁判所が実は毎年、国民の皆さんに意識調査をしておりまして、昨年、二〇一四年、あなたは裁判員裁判に参加したいですかというアンケートを行っております。余り参加したくない、義務であっても嫌だと答えた方が何と八七%いらっしゃるんですね。もちろん、裁判員裁判に参加された方々の中には、やってよかった、満足感、達成感、高揚感というのがある一方、九割近い国民の方々が、裁判員になるのは嫌だ、こう答えているというのも、一方、事実としてあるわけですね。

 なぜ嫌なのか、参加したくないのかということについても項目ごとに見ますと、例えば、自分たちの判決で被告人の運命を決めるなんて、そんな責任を自分が担えるだろうかとか、あるいは素人である自分が裁判官の皆さんと一緒に正しい判断ができるんだろうか、こういう思いがありますし、刑事裁判にはつきものの残虐な証拠、これを見るにたえない、不安があるといった回答があります。

 それで、私は、裁判員裁判に対する国民の理解というよりは、刑事裁判というものがどういうものなのか、このことに対する国民の理解や支持を、まず前提として広げる必要があるんじゃないかなというふうに思っております。

 そういう点で、ちょっと抽象的な言い方かもしれませんが、刑事裁判というものはどういうものなのか、あるいは国民の皆さんが安心して参加するためには何が求められているのか、どういう改善点が果たして必要なのか、ちょっと難しい聞き方かもしれませんけれども、率直な印象で結構ですので、江川参考人、大澤参考人、前田参考人の順番でお話しいただけるでしょうか。

江川参考人 最初にアンケートの結果をおっしゃいましたけれども、自分が裁けるかどうかわからない、こういう謙虚な姿勢がむしろ私は必要なんだと思うんですね。そういう姿勢を裁判所に伝えるというのもやはり裁判員の大事な役割なのかなということを、今伺っていて思いました。

 そして、どう理解を進めるかというのは、これはやはり長い目で見る必要があると思うんですね。ですから、これをやったらすぐ結果が出るというものではないと思います。

 最近、裁判所に行きますと、子供たち、中学生とか高校生の傍聴人というのも結構います。修学旅行で東京に来て、裁判所に傍聴に来たという人に会ったこともありました。そんなふうに若いときに裁判に触れる機会をたくさんつくる、あるいは法教育というものを、憲法から始まってきちっともっと広げていく、そういう地道な努力がやはり大事なのかなというふうに思います。

大澤参考人 まず、意識調査に関してですけれども、やりたいというのと、やりたくはないが義務であれば仕方がない、それから、義務であってもやりたくないなどとありますけれども、例えば、自分がその中で回答しようとしたときに、どれを選ぶだろうと。やりたくないが義務であれば仕方がないというのと、義務であってもやりたくない、義務であってもやりたくないけれども、でも仕方ないというところがあるかもしれませんので、あの選択肢が本当にきれいに切り切れているのかというところは、私もよくわからないところがございます。

 その上で、刑事裁判という被告人の運命を扱うようなことがなかなか難しそうだという感覚というのは、今、江川参考人がおっしゃられたとおり、私は、刑事裁判に参加する上で非常に必要な意識であろうと思います。そのような難しい事柄についても、しかし、国民としての一つの責任としてやっていこうと思えるような状況をどうつくっていくのかということかと思います。

 これについては、先ほどもお話ししましたけれども、若い段階からいろいろと法教育等の場をふやしていくということは一つの大事なことであろうかと思いますし、私など、大学生になってからしか裁判を見たことはありませんでしたけれども、最近は本当に、裁判所に行けば、中学生、高校生も来ております。あるいは、さまざまな、法曹三者が出張講義のようなこともやられております。あるいは、大学生がそういう試みをしていることもございます。

 そういったところで少しずつ意識を育んでいくということが、遠回りであるようですけれども、一つの大事なことではないかなというふうに思います。

前田参考人 先ほども少し述べましたけれども、国民の一人として義務があり、その責任を果たさなければならないというものであれば、嫌だけれども裁判員にはなるというような意識は比較的健全で、私は、そういう方々が裁判員を構成されるということについて特に違和感はないわけでございます。

 ただ、確かに、刑事裁判というものに対する一般市民の皆さん方の理解が深まっていきませんと、やはり裁判員裁判が健全に機能しないという側面もありますので、そういう意味では、我々法律実務家が積極的に、一般市民の方々に対して、刑事裁判の実情を知っていただく努力をしなければならないというふうに考えております。

 先ほど大澤参考人もお話しになりましたけれども、裁判所においても、また弁護士会においても、市民の皆さん方の要望があれば、積極的に現場に入って、いろいろと出張講義などをしてきているという現状はありますけれども、まだまだその範囲が限定的にとどまっていて、皆さん方の理解を得られていないという側面があると思います。

 我々法律実務家がさらに努力を図って、刑事裁判の実際を理解していただき、まさに裁判員裁判の制度趣旨であります、司法が国民的な基盤に根差していく、そういうことを実現していきたいというふうに思っております。

清水委員 ありがとうございます。

 長い目で見て、改善すべきはやはり改善していくということが大事だろうし、教育の場で育んでいくということや、あるいは若いころから裁判を傍聴するというのも親しむ上で必要ではないかということと、もう一つ、やはり、刑事裁判というものがどういうものなのか、またそれが本当に国民の信頼に足るものになっていくのかということでいいますと、裁判員裁判も刑事裁判の中で行われるわけですから、その全般にわたって広く検討、議論されるべきだというふうに私は思っております。

 今回、法改正のもととなりました裁判員制度に関する取りまとめ報告書というものを私は読ませていただきました。検討会の議事録を読ませていただきましたけれども、前田参考人にお伺いしたいというふうに思っております。

 今回は裁判員制度の問題を議論するので、そこから外れるような議論はやめようよ、刑事訴訟にかかわるようなことについては議論の対象にするのはおかしいんじゃないかというような発言をされる委員の方もいらっしゃいました。その中で、前田参考人は、委員として一貫して、例えば、対象事件の拡大だとか、あるいは評決要件の問題、あるいは死刑について、さらには守秘義務、それだけではなくて、公判前整理手続における証拠開示のあり方等々についての意見を述べておられました。

 これは、やはり裁判員裁判の制度をよりよくしていくという点と、刑事裁判の手続をどう改善していくか、刑事司法全般にかかわる問題であるということの御認識をお持ちだったからだというふうに思っております。その辺を、前田参考人の検討会で発言された思いやお気持ちについて、裁判員裁判と刑事司法全般にかかわる問題の中での位置づけについて御意見をお聞かせください。

前田参考人 先ほど大澤参考人もお話しになりましたが、裁判員裁判も刑事裁判の一つでございまして、やはり刑事裁判に共通する課題と裁判員裁判特有の課題とがあったわけでございます。

 検討会では、裁判員裁判に特有な問題について議論をするのか、あるいは刑事裁判にも共通する課題についても議論をするのか、そういう争いがございまして、私は、裁判員裁判も刑事裁判の一つであって、重大事件を対象にし、影響力も大きいということから、やはりあわせて、刑事裁判手続全般にかかわるものも含めて議論をしたらどうかという立場で発言をしたわけでございます。

 したがいまして、今、清水委員がおっしゃいました対象事件とか、これはまさに対象になるのでこれを除外しろという意見はございませんでしたし、守秘義務の問題も、これは裁判員特有の問題でございますので、これを除外して別のところで検討せよということはなかったのでありますけれども、刑事司法改革全般につきましては、検討会の議論が始まりましたときにはまだ設置されておりませんでした、刑事訴訟関連の議論をする刑事司法制度の特別部会が法制審議会に立ち上がったものですから、むしろそちらの方で議論をした方がいいのではないかという意見もありまして、私も、最終的には、そこできちんと議論がなされるのであれば、裁判員裁判の検討会ではまさに運用の問題をきちんと議論したらいいのではないか、そういう立場で発言をした次第でございます。

 しかし、どっちにしても、裁判員裁判であれ、これは刑事裁判の一つの重要な柱になっておりますので、刑事裁判全体にかかわる問題も非常にあります。先ほど私が申し上げました日弁連の改革提言の中でも、公判手続における改革、特に事実認定手続と量刑手続とをきちんと峻別するというようなことは、これは裁判員裁判だけの問題ではないわけでございますので、そういうこともあわせて、やはり今後の裁判員法の運用のときには検証をしていって、改革すべきは改革していったらいいのではないか、そういうスタンスでおるわけでございます。

清水委員 ありがとうございます。

 裁判員裁判が始まって、これで完成ということではなく、発展途上で、長い目で見ていかなければならないし、刑事裁判全般にかかわる問題であるので、引き続き検討していくということが重要だということがよくわかりました。

 江川参考人にお伺いします。

 先ほど、やはり審議を拙速にするがゆえに、問題の本質や事件の性質、あるいは被疑者、被告人の心の内面を掘り下げることをできなくしてしまうということはだめだというお話がありました。それとあわせて、対象事件の問題につきまして、刑事事件の重大事件ということに限らず、例えば痴漢の問題、これは冤罪であるかどうかということについてその人にとっては非常に重要な問題ですから、こうした問題、事件にやはり市民的な感覚を反映させていくということについての思いというのがありましたら、お聞かせいただけますか。

江川参考人 先ほどは痴漢事件を例に挙げましたけれども、例えば窃盗事件などでも、被疑者、被告人が無罪を主張し、そして、いろいろな状況から、一般の人たちに見てもらった方がわかるんじゃないか、こういうふうに弁護人が考えたときに、やはり、そういう市民感覚を生かせるような裁判を受ける機会を、チャンスをつくっておくというのは、私は大事ではないかなというふうに思っています。

 あるいは、さっきも申し上げましたけれども、再審請求事件ですよね。これは、裁判所が、先輩の裁判官が間違ったかもしれないということだと、やはり非常にしがらみがあるので、なかなか変えたくないというふうになるわけですけれども、そうではない一般の人たちは、特に、再審事件はもう事件から随分時間もたっているわけなので、冷静に見ることができるでしょうし、普通の感覚を入れてやるというのはやはり大事かなと。だから、なるべく拡充の方向で考えていただきたい。

 そのために、では、人をどうやって集めるのかとか、いろいろな問題があると思うので、すぐに結論は出ないかもしれませんけれども、方向性としては、裁判員制度はいい制度だからやるわけですから、だから、いい制度を殺人事件とかだけに閉じ込めておく必要は全くないわけで、いい制度はどんどん広げていく方向で御検討いただきたいと思います。

清水委員 最後に、前田参考人にお話をお伺いして、質問を終えたいというふうに思います。

 守秘義務規定についてです。

 裁判員になりますと、一生涯、秘密を漏えいしてはいけないという心理的負担が課せられます。その中には、懲役をもって処罰される内容も含まれております。この間、日弁連の方でも、こうした守秘義務の範囲、あるいは罰則の削除等についていろいろ御意見を述べられてきたわけですし、むしろ、ある程度、評決の内容、評議の内容などについても検証、反映することができるようにならないと、国民的な理解というのもこれまた広がっていかないというふうに思います。

 そこで、前田参考人、この守秘義務規定の問題について御意見をいただけますでしょうか。

前田参考人 我々弁護士の立場からいたしましても、守秘義務が要らない、そういう見解はございません。やはり、守秘義務があることによって、刑事事件の関係者の方々の名誉やプライバシーを守る、それから、何よりも、裁判員の方が参加される裁判官との評議の中における自由な意見の表明を守る、そういう作用があることは間違いございませんので、守秘義務をなくせという意見はないわけでございますけれども、裁判員という新しい制度の経験を広く市民と共有して、制度の改革につなげていく、市民全体に広げていく、裁判員裁判のまさに国民的な基盤の確立をしていく、そういう意味合いでは、やはり裁判員の経験された中身をもっと自由に表明したらいいのではないか、こういうスタンスなんですね。

 そこで、今の制度のたてつけは、評議の中身は全部しゃべってはいけません、こうなっているんです。それはそれで、それなりの理由はあるわけでございますけれども、我々として、その評議の中身のうち、誰がこういう意見を言ったのかを特定できるようなことはやめましょう、しかし、全体の、多少の数でありますとか、評議の経過、これは明らかにしてもいいのではありませんか、そのことによって評議における意見表明の自由が妨げられるということにはならないでしょうと。

 そういう意見を述べたわけでございますけれども、やはり、評議の中身全体を言わないということでなければ自由な意見の表明をすることができないのではないか、そういう一方の意見もございまして、なかなか検討会の中では多数を形成できなかったということではございますけれども、やはり、もう少し守秘義務の中身を緩和して、自由に裁判員裁判の実情について意見交換をし、その経験を共有できるような、そういうことになってほしいというふうに私は思っております。

清水委員 本当はまだまだたくさんお伺いしたいこともあるんですが、時間になりましたのでこれで終わりますけれども、参考人の皆様の御意見をお聞かせいただいて、裁判員裁判の制度をよりよく改善していくために、運用面だけではなく法改正も含めて、今後もしっかりと検討していく必要性があるということはたくさんの方に共有されたのではないかというふうに思います。

 きょうはどうもありがとうございました。

奥野委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 次回は、明十三日水曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時一分散会


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