衆議院

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第25号 平成27年6月19日(金曜日)

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平成二十七年六月十九日(金曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 柴山 昌彦君

   理事 盛山 正仁君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      大塚  拓君    門  博文君

      菅家 一郎君    今野 智博君

      辻  清人君    冨樫 博之君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    務台 俊介君

      簗  和生君    山口  壯君

      山下 貴司君    若狭  勝君

      黒岩 宇洋君    階   猛君

      鈴木 貴子君    柚木 道義君

      重徳 和彦君    國重  徹君

      清水 忠史君    畑野 君枝君

      上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十九日

 辞任         補欠選任

  宮川 典子君     務台 俊介君

同日

 辞任         補欠選任

  務台 俊介君     宮川 典子君

    ―――――――――――――

六月十七日

 治安維持法犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(福島伸享君紹介)(第二二一五号)

 同(島津幸広君紹介)(第二三二〇号)

 同(田嶋要君紹介)(第二三二一号)

 同(岡本充功君紹介)(第二四七一号)

 同(階猛君紹介)(第二四七二号)

 同(郡和子君紹介)(第二八三一号)

 別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備に関する請願(伊佐進一君紹介)(第二二一六号)

 裁判所の人的・物的充実に関する請願(若狭勝君紹介)(第二二一七号)

 同(階猛君紹介)(第二四七三号)

 選択的夫婦別姓制度導入の民法改正を求めることに関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第二三二二号)

 同(小宮山泰子君紹介)(第二七〇九号)

 民法・戸籍法の差別的規定の廃止・法改正を求めることに関する請願(清水忠史君紹介)(第二四六九号)

 同(畑野君枝君紹介)(第二四七〇号)

 国籍選択制度の廃止に関する請願(遠山清彦君紹介)(第二七〇七号)

 もともと日本国籍を持っている人が日本国籍を自動的に喪失しないよう求めることに関する請願(遠山清彦君紹介)(第二七〇八号)

同月十八日

 治安維持法犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(阿部知子君紹介)(第二九二一号)

 同(近藤洋介君紹介)(第二九二二号)

 同(田村貴昭君紹介)(第二九二三号)

 同(畑野君枝君紹介)(第二九二四号)

 同(池内さおり君紹介)(第三一三九号)

 同(津村啓介君紹介)(第三二四〇号)

 同(中島克仁君紹介)(第三二四一号)

 選択的夫婦別姓制度導入の民法改正を求めることに関する請願(梅村さえこ君紹介)(第二九二五号)

 同(笠井亮君紹介)(第二九二六号)

 同(畑野君枝君紹介)(第二九二七号)

 同(篠原孝君紹介)(第三一四〇号)

 同(吉川元君紹介)(第三一四一号)

 同(浮島智子君紹介)(第三二四二号)

 同(古屋範子君紹介)(第三二四三号)

 同(山尾志桜里君紹介)(第三二四四号)

 別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備に関する請願(小熊慎司君紹介)(第三〇六三号)

 同(御法川信英君紹介)(第三一四二号)

 同(古屋範子君紹介)(第三二四五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として法務省刑事局長林眞琴君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 本日は、特に証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度等の創設について質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。井野俊郎君。

井野委員 おはようございます。自由民主党の井野俊郎でございます。

 本日は、合意制度、すなわち司法取引についての質問をさせていただきます。どうかよろしくお願いいたします。

 前回の続きということで、前回は主体等についてお話をさせていただきました。今回も引き続き司法取引の制度について確認をしていきたいと思います。

 まず、資料をお持ちさせていただきました。司法取引なんですけれども、いわゆる司法取引の対象犯罪は、AとBの両者が関係するいわゆる組織的な犯罪に対象が限定されるのか、それとも、今回、このAとB以外の、例えばBとCを対象犯罪としてAとBの犯罪の解明を求めるという形での対象犯罪、要は、この二つの対象犯罪が異なってもよろしいのかという点をまず確認させていただきたいと思います。

林政府参考人 合意の対象となる事件につきまして、その対象犯罪というものについて、合意の対象となる被疑者の事件、それから他人の刑事事件、いずれも本法律案による特定犯罪に該当する必要はございますが、そういう意味では、異なっても、法律案の対象とはなり得るということでございます。

井野委員 そうしますと、例えば、B、Cの犯罪、詐欺について不起訴にするから、A、Bの犯罪、贈賄について話せということも可能となるわけでですね。

 その上で、この資料の例で申し上げますと、現金等の授受があって、お金には色がありませんから、これが例えば、単なる政治献金なのか、はたまた賄賂性を持った現金なのかということで、司法取引になってくると、捜査機関としては、現金の授受というものが、ある程度これは賄賂性があったんじゃないかと見込んだ上で司法取引というものを持ちかけるなり持ちかけられるなりということが、当然、今回予想されるわけであります。

 すなわち、私が言いたいことは、検察官はある程度こういうことを見込んで司法取引を持ちかけたり持ちかけられたりということがあるわけですから、供述する側といいましょうか司法取引に応ずる側、Bとしては、検察官のストーリーに乗るといいましょうか、こうだったんじゃないかというような、ある程度、誘導というもののバイアスがかかるのではないかという点が考えられるわけであります。

 この点については、当然、そういう制度を前提としますので、本当にこの問題は信用性というものが大きく問題になってきますけれども、この点の信用性担保について改めてちょっとお伺いさせていただきたいと思います。

林政府参考人 合意制度におきまして、合意成立後に取り調べというものが行われる場合がございます。その場合についての御質問であろうかと思います。

 まず、本法律案におきまして、合意に基づく供述が他人の公判で用いられる場合には、その合意内容が記載された書面が、当該他人にも、また裁判所にも必ずオープンにされて、その場で供述の信用性が厳しく吟味される仕組みとなっております。そのために、合意に基づく供述というものにつきましては、裏づけ証拠が十分に存在するなど、積極的に信用性を認めるべき事情が十分にある場合でない限り、信用性は肯定されません。仮に、特定の供述に誘導するような方法がとられたことが後の公判で明らかになれば、もともと合意に基づく供述は裁判所において警戒心を持って受けとめられることと相まって、その供述の信用性については回復しがたい疑念を持たれることとなります。

 したがいまして、検察官といたしましては、合意後に取り調べを行うような場合には、その信用性に影響を及ぼすような取り調べとならないよう十分留意して、任意かつ具体的な供述を得た上で、その裏づけ捜査を徹底して行って、供述の信用性を慎重に吟味することが不可欠となります。

 仮に検察官が特定の供述に誘導するようなことをすれば、その供述を契機として裏づけ捜査を行ったといたしましても、信用性を裏づける証拠が得られることが期待できず、そのために、その供述によって初めて解明し得たと言える事実がないことになるなど、合意に基づく供述の信用性を積極的に認めるべき事情を明らかにすることができず、その供述を立証に用いることは困難となります。

 また、協議と合意の過程には弁護人が一貫して関与しておりますので、被疑者、被告人は、取り調べにおいても、遅くとも合意する段階では、弁護人との間で、合意をした場合にどのような供述ができるかなどを十分相談しておくこととなります。したがいまして、合意後の取り調べにおきましては、被疑者、被告人は弁護人に相談したところを供述することとなり、仮に検察官から特定の供述に誘導されるようなことがあれば、まずもって弁護人に相談することとなると考えられます。

 そのために、検察官は、このような意味でも特定の供述に誘導するようなことはできないこととなりますし、また、被疑者、被告人が取り調べにおいて心理的な圧迫というようなものを受けることにもならないと考えられます。

井野委員 先ほど最後の部分で、特定の供述を得る誘導にはならないとおっしゃいましたけれども、果たしてそうなのかなと、私はちょっと疑問に思います。司法取引というものは、何かを得られるであろうという前提に立って取引をするわけでありますから、捜査機関側に見込みというものがあってしかるべきだと私は思うんです。

 そういう特定の供述、誘導まではもちろんいかないにしても、ある程度こういう供述が得られるだろうという見込みは当然あるのではないかと思うんですけれども、その点はどうなんですか。

林政府参考人 まさしく、協議、合意の中で、協議の場合におきましても供述を求めることができておりますので、基本的に、どのような供述をするであろうかということの見込みというものは存在すると考えられます。

 先ほど申し上げたのは、合意後の取り調べにおいて検察官から特定の供述を誘導するというようなことについては、必要もないし、そのようにならないということを申し上げたわけでございます。

井野委員 当然、司法取引というものは、例えば今回の例で言えば、B、C間で詐欺について取引をして、仮に不起訴にするという合意がなされた後、例えば、この現金は賄賂性を持った現金だったろうという供述をしてくれというか、そういう見込みがあっての取引だと思うんですけれども、では、仮にこのBさんが、真実の供述といいましょうか、話をした結果、いや、この現金は本当に単純な政治献金ですという、ある意味見込みとは違った供述が出てくる場合だってもちろんあるわけでありますね。そうすると、当然、Bとしては、変な話、贈賄罪についても不起訴というか、証拠不十分といいましょうか、単なる政治献金でしたということになると不起訴になりますね。その結果、B、C間の詐欺罪についても、結局不起訴になってくるわけですね。

 仮に、こういう、ある意味、検察官にとって見込んだものと実は違ったなという場合、この場合でも、検察官というものは、司法取引、つまりB、Cの詐欺についても、不起訴という利益といいましょうか、それを与えることになるのか。すなわち、ここは、ちょっとテクニカルに言えば、例えば三百五十条の二の第一項第一号イの真実というのは具体的にはどういう真実を言うのか、また、この真実とは誰がどういう基準で判断するのか、教えていただきたいと思います。

林政府参考人 本法律案の刑事訴訟法第三百五十条の二第一項第一号イにおける真実については、これは、自己の記憶に従ったものであることを意味しております。

 検察官は、合意に基づく取り調べにおきまして被疑者、被告人から供述が得られたときは、その徹底した裏づけ捜査を行うこととなりますけれども、その結果、その供述があえて記憶に反したものであると認められたときには、合意違反として、その場合には合意から離脱することができます。したがいまして、あえて記憶に反してなされたものであるかということについての判断は、まずは検察官が関係証拠を踏まえて判断することとなります。

 この問題は、検察官の離脱の要件があるかないかということで争われるわけでございますが、その離脱の適否が争われた場合には、結局、その供述が記憶に従ったものであるか否かについて、裁判所が関係証拠を踏まえて判断することとなります。

井野委員 そうしますと、一次的には検察官が真実であったかどうかを判断するが、それが争われた場合には、裁判所が関係資料、証拠を精査して判断するという形になるということなのかなと思います。

 先ほどの点なんですけれども、Bとの司法取引の中で、この現金が賄賂性を持ったものだと見込んだんだけれども、いや、単なる政治献金でした、結局、贈賄罪はできませんでした、かつ、B、C間の詐欺罪についても不起訴の合意をしていたから、それについても不起訴になってしまうと。私は、ちょっとこの点、果たしてこれが、国民的理解といいましょうか、結局、Bとしては、二重のお得と言ったらおかしいんですけれども、多大なる利益を得てしまうように私は感じるんですね。当然、Cとしては、被害者でありますから、なぜ私の犯罪まで不起訴になってしまうのかというような、そんな思いを場合によっては持たれる方もいると思うんですね。

 その点について、国民的理解といいましょうか、適正な刑事司法と言えるのかどうなのかというのは、私はちょっと疑問に思うところがあるんですけれども、その点についてはどうなんでしょうか。

林政府参考人 基本的に、今回の合意制度について対象事件を限定したところにつきましては、やはり、犯罪の軽重等を考えまして、組織的な犯罪について適正な刑罰を科すことの必要性、それに資するための行為をした者について何らかの利益を与える、こういった形で一番ふさわしい類型の対象事件は何かということで限定したものでございます。その中では、結果的に双方が不起訴になるというようなことがないわけではないとは思いますけれども、基本的に、そのようなことについて、制度としては、国民の理解が得られ得るものとして対象事件を限定したと考えております。

井野委員 わかりました。

 続いて、刑事免責といわゆる司法取引、ある程度利益を与えて供述を得るという制度が、二つ、今回の改正案で出てきておりますけれども、前回私が、司法取引の場面といわゆる刑事免責に基づく証言についてお伺いしたところ、基本的に重ねて利用することはないんだというような局長からの答弁がございました。

 そうしますと、刑事免責についてはどのような場面、事件での活用を想定しているのか。特に刑事免責においては、対象犯罪も限定していないという点では司法取引とは若干違うし、また、その効果についても、証言の証拠能力を否定するという形になっておりますけれども、この点の違いと、どのような場面での活用を想定しているのか、教えていただきたいと思います。

林政府参考人 刑事免責制度につきましては、裁判所の決定によりまして、証言及びこれに基づいて得られた証拠が証人自身の刑事事件において不利益な証拠とされないという免責を付与することによりまして、証人に対して、本来、自己負罪拒否特権の対象となる事項についても証言を義務づけるという制度でございます。これによりまして、犯罪の組織化、巧妙化等によりまして、組織における下位の者が検挙、訴追されても首謀者等の関与状況を含め事案の解明が困難となっている現状におきまして、下位の者からありのままの証言を得ることによりまして首謀者等を適切に処罰することが可能となり得る、こういった意義を考えております。

 具体的な活用場面といたしましては、例えば、振り込め詐欺事件におきまして、携帯電話機を提供するなどして詐欺に関与した組織の末端である者に事前謀議を含めた犯行状況の証言を求める場面、このような場面で、証人が自己負罪拒否特権に基づいて証言を拒み得る場合にこの刑事免責制度を活用することが想定されます。

 対象犯罪につきましては、合意制度につきましては、今回、この制度の対象とすべき必要性が高く、その利用にも適していて、かつ、被害者を初めとする国民の理解も得られやすいと考えられる一定の類型の犯罪に政策的に限定したわけでございますけれども、刑事免責制度につきましては、その利用に適した事案が限定されるものではない上に、協議、合意という要素を有するものではなく、かつ、付与される免責の内容も、もともと証人が有していた自己負罪拒否特権の範囲の証言をその者に不利益に利用できないこととするにすぎないことから、その証人が免責を受けて証言することに対する国民の理解も得られやすいと考えられます。そのために、刑事免責制度については、対象犯罪を限定しないこととしているものでございます。

井野委員 その上で、刑事免責下での証言に基づいて、先ほどの例で言えば、組織的な詐欺行為が行われていた中で、暴力団ですと、例えば詐欺を働いていた上で親分が殺人もやっていたとか、そういう供述も場合によってはある程度出てくる可能性もあると思います。そういう中で、刑事免責下での証言に基づいて、それをいわゆる捜査の端緒として捜査に着手し、証拠収集することはできなくなるのか、それとも可能なのか。その点、例えば、それに基づいて得られた派生証拠について証拠化できないのかできるのか、この点についてあわせてお聞かせください。

林政府参考人 本制度による免責は、証人が有する自己負罪拒否特権に対応して、証人が自己の証言内容をもとに刑事訴追を受けるおそれがないようにするために、いわゆる派生使用免責というものを付与することとしております。すなわち、証人の証言及びこれに基づいて直接または間接に得られた証拠を、証人自身の刑事事件において不利益な証拠とすることができないこととしておるわけでございます。

 したがいまして、仮に、刑事免責を付与した上で得られた証言に基づいて捜査を行い、証拠を収集したといたしましても、その証拠は、当該証人に対して不利益な証拠とすることはできないこととなります。

井野委員 本人に対しては証拠化できないけれども、多分、親分に対して証拠とすることは可能だということではあるかと思うんです。例えば、こうかつなやつがいて、自分は親分から言われて詐欺をやっていたけれども、実は、親分から言われて殺人もやっていました、それぐらい私は親分の言うことには従わざるを得なかったんですみたいな話を刑事免責下で証言する場合、いわゆる余罪について、これを機に何でもかんでも言ってしまえというような、そういう刑事免責に基づく証言をするこうかつなやつがいる場合も考えられるのではないかなと私は思っているんです。

 そういう場合、例えば、殺人まで実行したやつが、自分の証拠として使用できない結果、場合によっては不起訴になる場合ももちろんあるわけでありますから、そういう刑事免責下での証言、ないしはそういうおそれのあることに対しては、司法当局としてどのように対処していくのか、教えていただきたいと思います。

林政府参考人 証人尋問におきまして、証人は、尋問に応じて供述するべき立場にございます。裁判長は、その事件に関係のない事項にわたる尋問や証言がなされたときには、訴訟指揮権に基づいてこれを制限することができるとされております。このような証人の立場に鑑みまして、本制度で免責を付与する等としておりますのは、法律案の中で、証人が尋問に応じてした供述でございます。でありますので、証人が尋問事項とは無関係にした供述については、免責の対象とはなりません。

 仮に、証人が尋問事項と関連性のない証言をしようとした場合にも、裁判長により制限されることになりますし、それでも証言したといたしましても、本制度との関係では、尋問に応じてした供述には当たらず、したがって、それについての免責は付与されないこととなります。

井野委員 尋問に応じてということであります。当然、検察官としては、細心の注意を払って、余罪を話してもらっては困るというような、ある意味、刑事裁判テクニックといいましょうか、そういうのを求めてくると思うんです。

 先ほど若干お話をさせていただきましたけれども、やはり、例えば親分との人間関係を話していく上で、絶対服従の関係にあるんだ、だからこういう犯罪もやってしまったし、こういう犯罪もやってしまったみたいなことを言う場合も私はあるのかなというふうに思っています。その点も含めて、刑事裁判における刑事免責下での証言の取り扱いは、ぜひ注意をしていただきたいなというふうに私は思っております。

 その点に関連して、いわゆる改正法の百五十七条の二の第二項に、刑事免責についての証人尋問決定において、「明らかに認められる場合を除き、」「決定をするものとする。」という書きぶりになっております。

 普通、証拠決定については、刑事訴訟法においては、当事者間の意見を聞いた上で裁判所が決定するという形になっているかと思います。この書きぶりによりますと、恐らく、裁判所の裁量というよりも、むしろ、明らかに認められないから刑事免責下での証言を求める証人決定という形になるのかと思うんです。

 そうすると、私の懸念としては、やはり、裁判所の裁量を認めずに、結局、裁判所は、検察官の請求を受けたら直ちに刑事免責による証人決定という決定をしなければならない形になるかと思うんですね。それが、裁判所の訴訟指揮権とか、そういったものの裁量をある意味狭めることになるのではないか。その点についてはどう考えていらっしゃるんでしょうか。

林政府参考人 本制度の免責は、訴追自体を免責するものではございませんけれども、尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠を証人に不利益な証拠とすることができなくなることによりまして、証人に対する訴追及び処罰が事実上相当程度困難となるわけでございます。

 このような免責の効果を見ますと、やはりこれは、訴追裁量権を有する検察官においてのみ、証言事項に派生使用免責が付与されることによる証人が犯した刑事事件の捜査及び訴追への影響、また、証言事項に派生使用免責を付与することとなったとしても他人の刑事事件について証言を得るべき必要性、こういったことなどを含めまして、本制度を利用してでも証言を得るべき必要性、相当性を判断することが可能となるわけでございます。そのため、裁判所が免責決定の実質的な必要性や相当性というものを審査する仕組みとはしておらず、むしろ裁判所は、検察官の請求が適式かどうか、適式性を審査して免責決定をすることと本制度においてはしているものでございます。

 検察官といたしましても、免責を付与することなくありのままの証言が得られるのであれば、もちろんその方が望ましいわけでございますので、法律案の百五十七条の二第一項に掲げられます証言の重要性でありますとか、関係する犯罪の軽重及び情状などの事情を考慮して、免責を付与することの必要性、相当性を慎重に判断した上で免責決定の請求を行うということになろうかと思います。

井野委員 一応、念のため確認をさせていただきます。

 その明らかに認められる場合というものの判断、当然、弁護人としては意見を言うと思うんですね。いや、これは明らかに認められる場合だという主張をするわけですね。それに対して、裁判所は、ある程度資料に基づいて判断する形になるかと思うんですけれども、これは当然、意見を言って、その上で裁判所が判断するということはできるということでよろしいんでしょうか。

林政府参考人 法律案で定めております検察官の請求が適式であるかどうかの判断は、もちろん、その裁判所において、その場における状況、関係証拠に基づいて判断することとなります。

井野委員 わかりました。

 では、最後に、この司法取引ないしは刑事免責制度、ある意味、組織的犯罪の解明を主な目的として導入するということだというふうに拝察しますけれども、組織的犯罪というと、やはり暴力団犯罪等が主なものになってくるのかなと思います。

 この暴力団犯罪については、やはり一番の問題は、証言できない理由としては、いわゆるお礼参りといいましょうか、当然、しゃべったら後で組織から仕返しが来るというおそれがあるわけですね。自分の犯罪が軽くなるからしゃべろうというのではなくて、むしろ、後で報復を受けるおそれがあるからしゃべれないということの方がやはり心理的な圧迫としては大きいのかなというふうに思います。

 としますと、場合によっては、当然、こういう組織的犯罪、暴力団等の犯罪については供述が得られない、司法取引等の制度によってもまだまだ十分得られないことも予想されます。その実効性についてはどう考えていらっしゃるでしょうか。

林政府参考人 まさに御指摘のように、暴力団構成員が関与する組織的な犯罪等におきましては、組織による報復を恐れて証言をちゅうちょするということがあり得ると思います。そのためにも、証人の立場や意向等にも応じまして、本法律案において別途整備することとしております犯罪被害者等及び証人を保護するための措置、こういったことをあわせて講じることが必要となる場合もあろうかと思います。

 他方で、暴力団構成員等が関与する犯罪でありましても、その犯罪及びその組織の性質や証人及び共犯者との関係、また、それらの者の犯罪への関与のあり方などは事案によってさまざまでございまして、合意によって証言しようと考える証人や、あるいは、免責決定を受ければ証言せざるを得ないと考える証人も少なからず存するとは考えられます。

 そのために、暴力団犯罪についての御指摘の懸念というものはございますけれども、それを踏まえましても、この合意制度あるいは刑事免責制度の実効性が一般的に損なわれるものではないと考えております。

井野委員 わかりました。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 本日は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案、中でも、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度に関して質疑を行わせていただきます。

 私は、これまでもこの合意制度に関してさまざま質疑がありましたけれども、今後の審議の土台となるような基本的事項、ここを中心に質疑をさせていただきたいと思います。

 今般の法律案の提案理由説明におきまして上川法務大臣は、次のような立法趣旨の説明、すなわち、「刑事手続については、近時、捜査、公判が取り調べ及び供述調書に過度に依存している状況にあるとの指摘がなされています。このような状況を改めて、刑事手続を時代に即したより機能的なものとし、国民からの信頼を確保するため、」という立法趣旨の説明がありました。

 ただ、今回新たに導入するこの合意制度は、取り調べ及び供述調書に過度に依存している状況を改めることとどのような結びつきがあるのか判然としないというような意見もございます。

 そこで、どのような結びつきがあるのか、合意制度の必要性はどこにあるのか、大臣に、わかりやすい答弁を求めます。

上川国務大臣 今回の刑事訴訟法等の一部を改正する法律案におきまして、委員御指摘いただきましたとおり、取り調べ及び供述調書への過度の依存から脱却を図るためには、証拠収集方法の適正化、多様化、また公判審理の充実化を図ることが必要である、こうした認識のもとで、この合意制度につきましては、主として、証拠の収集方法の適正化、多様化に資する方策の一つとして必要なものということでの位置づけでございます。

 組織的な犯罪等におきましては、首謀者等の関与状況を含めました事案の総合的な解明というのが求められるところでございます。その解明に当たりましては、末端の実行者など組織内部の者から供述等を得なければ極めてその解明は困難である、こうした場合が多いという実態がございます。

 しかし、現行法のもとにおきましては、そのような供述等を得るための主な手法は取り調べのみでございまして、他に有効な手法が存在しない。ゆえに、この取り調べ及び供述調書に過度に依存をすることになってしまう、こういうことが要因となっているところでございます。

 また、近時、事案の解明に資する供述を取り調べによって得ることがなかなか難しくなっているということでございまして、取り調べによって供述を得ることが困難な場合において、なお取り調べによって供述を得ようとするという余り、過度に依存することになるということでございます。

 この取り調べ及び供述調書への過度の依存から、まさにこうした事態から脱却するために、組織的な犯罪等におきましては、事案の解明に資する供述等を得ることを可能にする取り調べ以外の方法を導入することが必要であるというふうに考えられるわけでございまして、合意制度はこのような観点から立案をされたものでございます。そして、結果として、証拠収集に占める取り調べの比重そのものを低下させる方法としても導入するものでございます。

國重委員 今、合意制度を導入する必要性についてお話がございました。

 組織犯罪、振り込め詐欺等によって被害を受けている方たちがいらっしゃいます。また、消費者犯罪等は、繰り返しカモにされる高齢者の方もいらっしゃいます。私も、実務家のときに、そういった繰り返しその被害に遭われる、いわゆるカモにされる方の事件を担当したこともございます。

 こういった事件の全容解明ができれば、被害者の方を少しでも減らしていくことができる。手足となって動く下部にいる者たち、こういった人たちだけが処罰をされて、その陰でより責任の重い上部にいる犯罪者がのうのうとのさばっている、こういった現状は変えていかないといけない。これは当然のことだと思います。

 ただ、必要性はあるにしても、適正な方法、適正な捜査でなければならない、また、国民の信頼を失うようなことがあってはならないとも思います。

 一面からいうと、この合意制度というのは、他人を売ることで自分の刑が軽くなる制度とも言えると思います。よく、いわゆる引っ張り込みの危険ということが言われますけれども、私、まだこの合意制度の中身がよくわからないときに、定義だけを聞いたときに、もちろんこのいわゆる引っ張り込みの危険のことも思いましたけれども、直観的に、被害者の方から見てこの合意制度というのは一体どうなのかということを思いました。

 私も、刑事事件において、被害者、遺族への謝罪、示談もさせていただきました。少年が少年をあやめたような事件もございました。母子家庭で、そのお母さんのところにも行かせていただきました。

 さまざまな事件、さまざまな被害者がいらっしゃいます。被害に遭って、物すごくお怒りになっている、また傷ついている、心に暴風が吹き荒れて苦しんでいる被害者がいる。また、その家族がいる、遺族がいる。そういった方たちに対する心からの謝罪、真摯な謝罪、また被害弁償もない。それにもかかわらず、合意制度によって加害者である被疑者、被告人の刑が軽くなるとすれば、それは、被害者から見れば、遺族から見れば、到底納得できるものではないと思います。被害者サイドのこともしっかりと考えていかないといけないと思います。

 今般の合意制度は、対象犯罪を特定の犯罪に限定しております。このように対象犯罪を限定した趣旨はどこにあるのか、答弁を求めます。

林政府参考人 合意制度につきましては、協議、合意といった要素を有する証拠収集方法の導入という点で、今回初めてのものであります。そのために、合意制度の対象犯罪につきましては、この制度の対象とすべき必要性が高く、その利用にも適していて、かつ被害者を初めとする国民の理解も得られやすいと考えられる一定の類型の犯罪に政策的に限定することが相当であると考えました。

 このような観点から、対象犯罪として掲げております一定の財政経済犯罪につきましては、組織的な背景を伴って行われることが少なくない上に、その密行性や正当な経済活動との区別を含めた事案解明の困難性からこの制度の対象とする必要性が高く、また、そのように多数の者が関与し得るために、罪を犯した者から他の者について証拠を得るという合意制度の仕組みになじみやすいということが考えられました。

 また、一定の薬物、銃器犯罪につきましては、通常、犯罪組織が関与する密行性の高い犯罪類型でございまして、この制度の対象とする必要性が高く、また、多数の者が関与することや、複数の者の間における禁制品の流通を伴うということから、罪を犯した者から他人の犯罪についての証拠を得るという合意制度の仕組みになじみやすいと考えたわけでございます。

 さらに、こうした財政経済犯罪と薬物、銃器犯罪のいずれにつきましても、直接的な被害者がいないか、あるいは、いたとして、その被害が基本的には財産的、経済的なものにとどまるということに鑑みますと、こういった制度の対象とすることについての国民の理解が得られやすいと考えたものでございます。

 こうしたことから、今回の合意制度の対象事件を定めたものでございます。

國重委員 必要性とともに、被害者等の心情、他方利益、こういったものにも配慮していくバランスが大事になってくると思います。

 次に、いわゆる引っ張り込みの危険についてお伺いいたします。

 合意制度の最大の問題点は、一定の恩典を与えるという約束によって、被疑者、被告人が他人の犯罪について虚偽の供述をして、無実の他人を引っ張り込む、冤罪を引き起こす危険性が増すことにあるというふうに言われております。

 最高裁昭和四十一年七月一日判決は、検察官が起訴猶予にする旨の約束をしたという事案で、自白の任意性に疑いがあるとして、その証拠能力を否定しております。この事案は自白でしたけれども、他人の犯罪事実を明らかにするための供述であっても、虚偽供述が誘発される危険性は高いと考えます。

 そこで、上川大臣、この引っ張り込みの危険に対して本法案ではどのような措置を講じて対処しようとしているのか、答弁を求めます。

上川国務大臣 合意制度につきまして、委員御指摘のとおり、被疑者、被告人が虚偽の供述をして第三者を巻き込む、引っ張り込むというおそれがある、こういう御指摘につきましては、そのようなことが生じないような手続になっているところでございます。

 協議の開始から合意の成立に至るまで、原則として、常に弁護人が関与をするということでございます。また、合意に基づく供述が他人の公判で使われるときにおきましては、合意内容が裁判所におきましてオープンにされる、そのため、検察官といたしましても、十分な裏づけ証拠がある場合でない限り証拠として使えないということでございます。さらに、合意をした者が捜査機関に虚偽の供述等をする場合には、新設の罰則によりまして処罰の対象となるということでございます。

 こうした制度的な手当てをしっかりと配置することによりまして、合意制度そのものの巻き込みの危険性ということにつきましては、適切に対処できるものというふうに考えております。

國重委員 今大臣の方から、御答弁の中で、協議、合意の過程に弁護人が関与することが適正性の担保になる旨の答弁がございました。

 確かに、弁護人が関与することによって、合意制度による取引をしようとする被疑者、被告人の虚偽供述、また捜査機関のミスリード、これを防ぐ一定の効果はあるんだというふうに思います。協議、合意に関与する弁護人が事実をあえて歪曲するような合意をするということも、私は想定しがたいんじゃないかなというふうにも思います。

 ただしかし、合意内容についての供述が真実であるかどうかの判断材料、これは弁護人にとっては十分ではない。そうすると、弁護人としては、手探りの状況になって、被疑者の言葉に重きを置かざるを得ない場合が多くなるんじゃないかというふうに思います。

 私も弁護人になったとき、初めに、ある高名な刑事弁護人の方から、弁護人は裁判官になっちゃいけないんだというふうに言われた。被疑者がいろいろなことを弁護人に言ったときに、少々疑わしいと思っても、弁護人はいろいろなチェックはしたとしても、それでも確実にこの人がやったということがわからない限りは、やはりそれは被疑者を全力で守っていかないといけない。そうしないと、捜査機関側が一〇〇%闘志をむき出しにして闘ってくるのに、弁護人が中途半端な姿勢で闘ったら、裁判所に十分な事実と証拠を提供できない。裁判所が料理できる具材を提供することができなくなって、冤罪が発生してしまうというようなことも聞いたことがございます。こういった姿勢で私も弁護活動をやってきました。

 そうしますと、被疑者の言葉が、十分な材料がなくて本当なのかなどうなのかなと思ったとしても、やはりその言葉には重きを置かざるを得ないというようなことになるんだと思います。いろいろな弁護人、スタイルはそれぞれですけれども、私だったらそうなるのかなと思います。

 ここで、念のため確認させていただきたいんですけれども、合意に関与した弁護人は、そのことによって、新たに創設された虚偽供述罪、また偽証罪の共犯に問われることはあるのかないのか。念のため確認させていただきたいと思います。

林政府参考人 合意制度のもとで合意が成立するためには、弁護人の同意が必要であります。また、合意内容書面にも弁護人の連署が必要であります。この場合、合意の内容となるのは、あくまで被疑者、被告人が真実の供述をすることでありまして、弁護人の同意等もこれを前提としたものでございます。

 したがいまして、被疑者、被告人がその合意後に偽証罪でありますとか新設の罰則の罪に当たる行為をしたといたしましても、合意について同意等をしたことを理由として共犯に問われるようなことはないと考えます。

國重委員 安心いたしました、今、確認させていただいて。私が弁護人としてこれから仕事をするかどうかわかりませんけれども、こういった制度が新たに導入されますから、やはり弁護人でも心配される方がいるかもしれません。

 また、我々、法曹になると五年ごとに弁護士倫理研修というのがございますけれども、そのときにも、今回の合意制度について、恐らくテーマになるんじゃないかなと個人的には思っております。

 今おっしゃられたとおり、事後に被疑者、被告人が虚偽供述等をしても、合意制度に関与した弁護人は罪に問われないということが確認できました。

 虚偽供述の巻き込みの危険を防止し、適正な運用を担保するために、協議、合意の過程に弁護人を関与させることは一定の役割を果たすと思いますが、これも先ほど申し上げましたとおり、その弁護人は十分な判断材料があるわけではありませんし、また、合意制度に関与する弁護人は、引っ張り込みが懸念される被疑者、被告人の弁護人ではありませんので、十分な役割まで果たせるのかというと、私はそこまでは難しいんじゃないかなと思います。

 そこで、ほかの対処方法も必要になってまいります。

 先ほど大臣の答弁の中で、合意の内容自体が他人の事件を審理する裁判所にオープンにされることも適正な運用の担保になる旨の答弁がありました。

 では、この合意書面には具体的にどのようなことが書かれるのか。合意書面の具体的な記載内容についてお伺いいたします。

林政府参考人 合意内容書面の具体的な記載内容でございますけれども、一つには、処分の軽減等の対象となりますところの被疑者、被告人の事件を特定する内容、さらに解明の対象となります他人の刑事事件を特定する内容、さらに合意に基づいて被疑者、被告人がすべき行為の内容、例えば証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすることなどでございます、また、さらにはその合意に基づいて検察官がすべき行為の内容、例えば公訴を提起しないことでありますとか特定の求刑をすること、こういったことがそれぞれ具体的な事案に即して記載されることとなると考えます。

國重委員 ありがとうございました。

 条文だけからは必ずしも明らかではないので、今の答弁で少しはっきりした部分が出てきたかと思います。

 この合意制度によって量刑相場からしてどの程度刑が軽減される約束がされていたのか、供述の動機にかかわる部分も含めて、これが裁判所にオープンにされることによって、その内容に応じて、裁判所は、当該証人の証言に対して警戒心を持つようになると思います。このように、合意書面をオープンにすることは、適正な運用のための一つのツールになると思います。

 では、先ほどありましたけれども、これは、今回の御答弁だけではなくて、これまでの委員会の質疑の答弁の中にも出ております、本会議でも出ていたかもしれませんけれども、公判廷で反対尋問にさらされることがなぜ引っ張り込みの危険の防止になると言えるのか、これまで以上により具体的でわかりやすい答弁をお願いいたします。

林政府参考人 合意に基づく供述は自己に有利な取り扱いを受けることを期待してなされるものでありますので、その動機ないし経緯に照らして、必然的に、その信用性の判断に当たりましては慎重な吟味を要することとなります。

 具体的には、当該他人の裁判におきまして、当該他人やその弁護人といたしましては、その供述が一定の有利な取り扱いを受けるという合意を契機としてなされるものであることや、その具体的な内容を十分に把握した上で、反対尋問によりましてその信用性を厳しく吟味することが可能となります。

 また、裁判所といたしましても、そのような事情を十分に把握した上で、警戒心を持ってこの信用性を慎重に判断することとなりますので、裏づけ証拠があるなど積極的に信用性を認めるべき事情が十分にない限り、信用性を肯定できないこととなります。

 また、検察官といたしましても、そのように公判において合意に基づく供述の信用性が厳しく吟味される以上、十分な裏づけ証拠があるなど公判でも十分に信用される場合でない限り、合意に基づく供述というものを立証に用いることはできないこととなろうかと思います。

國重委員 ありがとうございました。

 今の局長の答弁をもとに他の委員からまた質疑があるかもしれませんけれども、まず、土台設定ということで答弁をしていただきました。

 では次に、被疑者、被告人が合意に違反して虚偽の供述を行った場合、これは五年以下の懲役に処せられることになっております。これに関して、次のような意見がございます。

 協議の結果、他人の犯罪について供述することを一旦合意すると、被疑者、被告人が後に引き返すことは極めて困難である。なぜなら、合意に反した供述をすれば、合意は破棄され、恩典は得られなくなり、重い刑罰を受ける可能性があるからである。したがって、協議に応じて刑事裁判で証言する被疑者、被告人は、ターゲットとされた他人からのいかなる反対尋問に対しても、みずからの供述を死守しようとすることは明らかである。こういった意見でございます。

 罰則等によって、後に被疑者、被告人が引き返すことは難しいというこういった意見に対して、法務省としてはどのように考えているのか、これはあくまで一面的な見方にしかすぎないのか、答弁を求めます。

林政府参考人 合意に基づく供述は、裏づけ証拠が存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情が十分にある場合でない限り、信用性は認められないこととなります。

 そこで、検察官としましては、まず、合意後になされた供述については、徹底した裏づけ捜査を行って、その供述が公判でも十分に信用され得るものなのか否かを慎重に判断することとなります。その結果、合意をした被疑者、被告人が虚偽の供述をした場合、それは通常、その裏づけ捜査の過程で明らかになろうかと思います。また、そもそも、裏づけ証拠等を収集できない場合、その供述を公判に顕出することは断念することとなろうかと思います。

 したがいまして、被疑者、被告人が合意後の取り調べで虚偽の供述をいたしまして、それが判明しないまま公判段階に至って真実を述べるか否かについて逡巡する、こういったことになる事態というのは基本的には生じないと考えています。

 その上で、仮に、被疑者、被告人が合意後の取り調べで一旦虚偽の供述をしまして、それが判明しないまま証人尋問を受ける立場になったという場合について申し上げますと、虚偽供述等の罪には自白減免規定というものが設けられております。合意に係る他人の刑事事件の裁判が確定する前で、かつ合意に係る自己の刑事事件の裁判が確定する前に自白した場合には、刑の任意的減免の対象となり得るわけでございます。また、自己の記憶に従って証言する以上は、偽証罪も成立しません。これに対しまして、公判においても虚偽の供述を維持した場合には、この虚偽供述の罪についての今申し上げました刑の任意的減免というものは受けられないばかりか、さらに偽証罪も成立し得ることとなりまして、より重い処罰の対象となるわけでございます。

 したがいまして、一旦した虚偽の供述による処罰を恐れてこれを撤回できないということになるとは考えられません。

國重委員 よくわかりました。

 では最後に、合意制度に関する録音、録画についてお伺いいたします。

 引っ張り込みの危険に対処するために、協議、合意の過程も録音、録画すべきなんじゃないかという意見もございます。

 ただ、私としては、協議、合意の過程については、弁護人が基本的に関与しておりますし、そのときまで録音、録画する必要性というのはどこまであるんだろうか、被疑者、被告人の取り調べとはまたちょっと質が違うんだろうというふうには思います。また、これは、日弁連とかの公式見解ではない、あくまで私の個人的な見解を申しますと、弁護人として関与した交渉過程というのが全て録音、録画されるというのは、若干の抵抗を感じないわけではございません。

 ただ、合意が成立した後における取り調べ、この取り調べにおいて被疑者が虚偽供述をするおそれ、また警察官、検察官によるミスリードがされる懸念はあると考えております。

 今回の協議・合意制度の対象となる特定犯罪は、特捜事件を除いて、基本的には、取り調べの録音、録画が義務づけられるものとはなっておりません。

 そこで、合意に基づく取り調べについては、制度化はともかく、運用として録音、録画していくべきだと私は考えますが、大臣の見解をお伺いいたします。

上川国務大臣 御質問の、合意後の取り調べについての録音、録画については、制度上義務づけることについては必要ないのではないかという御指摘の上で、運用ではどうかということでございます。

 制度上の義務づけにつきましては、既に検察官と被疑者、被告人との間で合意が成立をし、また真実の供述をすることに合意をしていることでございますので、合意後の取り調べを録音、録画しても供述の出現経緯が記録されるわけではないということ、さらに、供述の信用性につきましては大変厳しく吟味をされるということでございまして、その意味で、制度上そのような義務づけをする必要はないというふうに考えているところでございます。

 もっとも、事案によりましては、本法律案における取り調べの録音、録画制度の対象事件となり得るということもありますし、また、検察の運用によるものといたしまして、必要に応じて取り調べの録音、録画は行われ得るものと考えているところでございます。

國重委員 私は、繰り返しになりますが、これに関してはやはり録音、録画した方がいいと思っております。

 以上で質問を終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十時一分散会


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