衆議院

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第29号 平成27年7月7日(火曜日)

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平成二十七年七月七日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 盛山 正仁君

   理事 山下 貴司君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      青山 周平君    大塚  拓君

      門  博文君    門山 宏哲君

      神山 佐市君    菅家 一郎君

      今野 智博君    笹川 博義君

      辻  清人君    冨樫 博之君

      中村 裕之君    藤原  崇君

      古田 圭一君    宮川 典子君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    若狭  勝君

      黒岩 宇洋君    階   猛君

      鈴木 貴子君    柚木 道義君

      重徳 和彦君    大口 善徳君

      國重  徹君    浜地 雅一君

      清水 忠史君    畑野 君枝君

      上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣         上川 陽子君

   国務大臣

   (国家公安委員会委員長) 山谷えり子君

   法務副大臣        葉梨 康弘君

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   最高裁判所事務総局刑事局長            平木 正洋君

   政府参考人

   (警察庁長官官房総括審議官)           沖田 芳樹君

   政府参考人

   (警察庁刑事局長)    三浦 正充君

   政府参考人

   (法務省刑事局長)    林  眞琴君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

七月七日

 辞任         補欠選任

  菅家 一郎君     青山 周平君

  冨樫 博之君     神山 佐市君

  宮川 典子君     中村 裕之君

  宮崎 謙介君     笹川 博義君

  大口 善徳君     浜地 雅一君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     菅家 一郎君

  神山 佐市君     冨樫 博之君

  笹川 博義君     宮崎 謙介君

  中村 裕之君     宮川 典子君

  浜地 雅一君     大口 善徳君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 本案審査のため、本日、政府参考人として警察庁長官官房総括審議官沖田芳樹君、警察庁刑事局長三浦正充君及び法務省刑事局長林眞琴君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 次に、お諮りいたします。

 本日、最高裁判所事務総局平木刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 本日は、特に裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化及び証拠開示制度の拡充について質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。浜地雅一君。

浜地委員 おはようございます。公明党の浜地雅一でございます。

 刑事訴訟法の改正につきましては、テーマごとにこの法務委員会で質疑が進められているというふうに聞いております。きょうは、証拠開示そして保釈についてというテーマでございまして、このテーマに沿って行わせていただきたいと思っております。

 大臣にまずお伺いをいたします。

 刑事訴訟法といいますと、対立利益が二つございまして、捜査段階、いわゆる被疑者段階におきましては、被疑者の人権を第一に考えよう、しかし、その反対利益として捜査の必要性があるので、このバランスをとろうというのが刑事手続の大原則でございます。

 その後、起訴されて被告人になりますと、次は、被告人にとっては、防御の利益、どのように自分を防御していくのかというのは、これは当然の権利として保護していかなきゃいけない。しかし、片や、公判を維持しなきゃいけない。やはり国家の刑罰権をしっかりと行使する以上は、公判がしっかり維持されて、かつ、スムーズな審理をしていくということも大事である。この二つの対立利益がいつもぶつかりながらさまざま悩むのがこの刑事訴訟手続だろうと思っております。

 その中で、やはり今回の証拠の開示や保釈という面におきますと、この二つのテーマを見ましたら、主に被疑者もしくは被告人の利益の方に資するような改正が今回は行われているんだなというのが私の第一印象でございます。ですので、全体としては非常に評価できる部分が多いのではなかろうか。ほかのテーマは、さまざまかなりの対立利益がございまして、けんけんがくがくの議論になろうと思いますが、きょうのテーマに沿って言いますと、特に私の出身母体である弁護士会等の意見も取り入れられながら、被疑者及び被告人の利益に資するような制度になっているんじゃないかというのが私の第一印象でございます。

 その中で、まず、証拠の一覧表の交付義務、交付手続というものが創設されました。これも私は非常に評価をしてよろしいと思っています。

 御存じのとおり、平成十六年に公判前整理手続というのが導入されて、本来であれば、刑事手続は、起訴状一本主義といって、裁判官は予断を持ってはいけない、起訴状だけを見て審理を行う、起訴状を見る前に証拠を見てしまうと、さまざまな予断が入って、この人はやはり犯罪を犯したんじゃないかな、そういったことが入らないように行うというのが刑事訴訟法の大原則でございました。その刑事訴訟法の大原則を壊さないような形で、それでも審理の充実や被告人の防御の利益を考えて考え出されたのが、平成十六年改正に導入された公判前整理手続でございます。

 ここでは、類型証拠だったりとか主張関連証拠だったりとか、防御そして主張をするためのさまざまな証拠を、とにかく公判が始まる前に必要なものを取り出そう、また、検察官が持っていて、それが、弁護人にとって大事な証拠があるかどうか、そういったものをチェックしていこうという制度でございます。

 そういった制度がありながら、今回、証拠の一覧表の交付をさらに導入されて、これは私は、被告人の防御の利益に第一義的にかなうのであろうと。そして私、最初に言いました、反対利益の公判のスムーズな進行というところにも資すると思いますが、平成十六年度の証拠開示制度がありながら、今回さらに証拠の一覧表の交付手続を導入することになった経緯、その概要、大臣としての評価をまずお聞きしたいと思っております。

上川国務大臣 ただいま委員から、平成十六年の刑事訴訟法改正において、公判前整理手続において、争点及び証拠の整理、関連づけによって、現行の証拠開示制度が導入されたということで、大変大きな評価をいただいている、こんな御指摘がございました。

 流れとしては、検察官が証明しようとする事実につきましてまず提示をする、そのための証拠の取り調べを請求するということで、それについて、検察官請求証拠についての開示がなされる。

 次に、検察官におきましては、被告人側が検察官の請求証拠の証明力を判断するということで、必要な一定の類型の証拠について、被告人側の請求によって開示をする。先ほど御指摘いただいた類型証拠の提示ということでございます。

 またさらに、検察官は、被告人側が公判で予定している主張を明示した後に、その主張に関連する証拠につきましても被告人側の請求によりまして開示をする。主張関連証拠の提示ということでございます。

 こうした仕組み、制度の導入によりまして、まさに充実した公判審理に向けて、争点及び証拠の整理といったものが適切になされるということで、被告人側の防御の準備という観点からしても、必要かつ十分な証拠の開示がなされるようになったものというふうに考えております。

 そうした前提の上で、今回さらに、検察官の請求証拠の開示後に被告人側から請求があったときは、検察官は、被告人側が証拠開示請求をするための手がかりとして、検察官の保管する証拠の一覧表を交付しなければならないということでございます。

 その意味で、趣旨としては、被告人側が行う類型証拠あるいは主張関連証拠の開示請求につきまして、これを円滑かつ迅速ならしめるということ、そしてそれによって公判前整理手続の円滑かつ迅速な進行に資するものというふうに考えております。より充実した公判審理の実現ということで、大変意義のあるものというふうに考えているところでございます。

浜地委員 今大臣より、証拠開示について、手がかりを与えて、そして被告人の防御の利益、準備に対して円滑に行われ、かつ、それがひいては公判の円滑かつ迅速な進行に資するというお話がございました。

 手がかりという言葉で、実は私、今偉そうに話をしましたが、私も、法曹実務をやっているときに、証拠を探すのが下手でございました。検察官が出した証拠以外に何があるのかというのは、被告人に逐一聞いて、これまでどういった供述をしてきたか、そのときに、何月何日にしゃべったのかということを一つ一つ聞いていかなきゃいけませんので、被疑者段階においての弁護というのは、後に質問しますけれども、被疑者国選もなかなか範囲が限られておりまして、被疑者にとって、また費用についての負担もあったし、また、弁護人の方にも非常に負担があったわけでございます。

 ですので、先ほど手がかりというキーワードが出てきましたが、やはり、どんな証拠があるのか、自分がこれから弁護人として、検察官が手持ちの証拠からどういうものを引き出したいのかという手がかりに資することは大変重要なポイントだろうと思っております。

 かつ、もう一つ言い忘れましたが、今回、公判前整理手続に証拠の一覧表交付手続が導入されました。これまでは、弁護人等は、本人の意見を聞いて、裁判所が公判前整理手続に付すかどうかを判断しておりましたが、これからは弁護人の方からも請求できるというふうになっておる点も非常に評価できるんじゃなかろうかと思っています。

 しかし、私の出身母体の弁護士会からは、やはり手がかりだけじゃなくて、証拠の要旨、もう少し証拠の中身が具体的にわかるように書いてほしいという要望はたくさん寄せられておりました。

 しかし、今回、条文を見ますと、証拠物については品名やその数量、また、供述調書におきましては、書面の標目、作成の年月日、供述者の氏名、証拠書類においても、当該証拠書類の標目、そしてその年月日、作成者の氏名等々といって、いわゆる要旨の記載までには至らなかったんですね。

 この一覧表の要旨の開示まで至らなかった理由についてお答えいただきたいと思っております。

林政府参考人 証拠の一覧表の交付手続でございますけれども、この目的は、やはり証拠開示の請求を円滑、迅速ならしめるためにその手がかりを与えるということにございます。

 その趣旨に鑑みますと、一覧表の記載事項は、その作成から交付という手続が円滑、迅速に行われて、かつ、その一覧表自体の記載内容に関する争いというものが生じないように、したがいまして、作成する個々の検察官の実質的な判断、評価を要しない、一義的に明確なものとする必要がございます。

 この問題につきましては、法制審議会におきましても議論されまして、今申し上げた理由から、一義的、明確なものとするために、要旨というものについては記載事項とせず、本法律案の記載事項とすることになったわけでございます。

 やはり、もし証拠の要旨まで記載しなくてはいけないとなりますと、個々の検察官の実質的な評価、判断を伴うものとならざるを得ません。したがいまして、その内容をめぐってまた紛争が生じるおそれもございますし、また、円滑、迅速な手続の進行というものをかえって妨げてしまう、こういうこともありまして、今回、御指摘のような、要旨までの記載事項とするのは相当でないと考えたものでございます。

浜地委員 今、証拠の一覧表交付の趣旨の一つである円滑、迅速というところをお話しになられまして、その円滑、迅速のためには、個々の検察官の判断ではなく、明確、一義的に行うために、証拠の要旨まで記載せずに標目等でとどまったというお話がございました。私は理解をいたしましたが、今後、この運用が始まる中において、やはり実際の運用の状況を見ながら、それで不十分であればさらに不断の努力をしていただきたい、そのように一言付言を申し上げておきたいと思います。

 次に、保釈関係も重要でございますので、保釈についてお聞きをしたいと思っています。

 刑事訴訟法第九十条に裁量保釈という規定がございまして、これまでは、さまざまな状況を判断して行うというような規定でございました。しかし、今回は、裁量保釈をする上での判断要素が具体的に示されたわけでございます。

 ただ、保釈をされているということは、前提として勾留をされているということです。そうなると、勾留の必要性というのは、犯人が逃亡しないように、もしくは証拠を隠滅しないようにというのが二つの利益であって、この二つが相対的にちょっとなかなか難しいだろう、犯人が逃亡するおそれがあるかもしれない、または罪証隠滅をするおそれがあるかもしれないということで勾留をしているわけでございます。

 その勾留を解くのが保釈手続でございますが、今回の条文を見ますと、当然、先ほど私が言いました勾留の必要性の部分、「被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」をまず見る。その後に「のほか、」と書いてあって、身体の拘束の継続により、健康上だったり経済上だったり社会生活上だったり、または防御の準備上の不利益の程度を勘案して、「適当と認めるときは、」というふうにございます。

 そうなると、後半の、いわゆる被告人が受ける健康上とか経済上、社会生活上、防御の準備上の不利益の程度というのは、私からすると、本来、勾留の必要性とは関係のないところの要件がかかっているわけでございます。

 そうなると、逃亡や罪証隠滅をするおそれの程度と、「のほか、」と続けて、被告人の健康上や経済上や防御の準備上の不利益の程度というのは、これはどんな関係に立つんでしょうか。やはり勾留の必要性がなくなったということを第一義的に考慮して、プラスアルファとして、付随の要素としてそういった健康上の問題等を考慮していくのか、それとも、二つは対等に立って、全部を一つ一つの要素として考えて総合考慮していくのか、この関係について明確にお答えをいただきたいと思っております。

林政府参考人 保釈制度でございますが、勾留されている被告人につきまして、一定の取り消し事由が生じた場合には、保釈の取り消しでありますとか保釈金の没取がなされ得る、こういった心理的な負担を課すことによりまして、逃亡や罪証隠滅の防止という勾留の目的がございますが、それを全うしながら、しかも被告人の身体拘束を解くという制度でございます。

 したがいまして、この法律案九十条の「被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」といいますのは、逃亡や罪証隠滅を防止するという勾留の本来の目的に直接関連する事情でございますので、裁量保釈の判断に当たって判断のベースとなるものとしてまず考慮すべきものと位置づけられます。

 その上で、被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上または防御の準備上の不利益の程度及びその他の事情といいますのは、個々の事案における具体的状況に応じて考慮すべき事情であると位置づけられると考えております。

浜地委員 今の御答弁で、必要性と相当性に分けて、その上でという言葉がございましたので、やはりまずは必要性をしっかり見て、プラスアルファの事情として、「のほか、」と続く被告人の健康上とか経済上とか社会生活上の不利益を考慮していく、そういった御答弁であったと思っております。

 これまで弁護人は、保釈請求書を書くときには、当然、勾留の必要性はない、逃亡するおそれはない、罪証隠滅のおそれはないということをたくさん書いて、その後にだあっといろいろなことを書いておりました。ないことはおかしいんですけれども、あることをとにかくたくさん述べて、とにかく被告人にとっては保釈が必要なんだということをたくさん述べながら、これがどこまで考慮されているんだろうかという不安もやはりありながら私も保釈請求書を書いたわけでございますけれども、これからは、こういった考慮基準というのが明確になるということは、弁護人の弁護活動においてもやはり非常に有用である、そのように私も感じております。

 もう一つ、よく言われることでございます、被告人が否認をしている、自白をしないと勾留手続は解かれずに、保釈されることはないというのが、実は刑事弁護を行う上での大原則のように我々弁護人側は考えておりました。いわゆる人質司法ということで、それも保釈請求書に書くわけでございます。

 もう一度この点を確認したいんですが、今回は、当然、自白か否認かということを考慮事情として条文に書いておりません。ですから、否認しているだけで保釈されないということにはならないというふうに私は信じておりますし、そのような運用を今後もしていただく、そのように思っておりますけれども、その理解でよろしいのか、しっかりとお答えいただきたいと思っています。

林政府参考人 委員御指摘のとおり、本法律案九十条の改正におきましては、自白か否認かということではなくて、「被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」というものを挙げておるわけでございます。

 被告人の供述態度といいますのは、被告人が罪証隠滅や逃亡の意図を抱きやすいかどうかという判断をする上での一つの要素とはなるものでございますけれども、もとより、否認しているだけで保釈されないというものではございません。裁判所におきましては、事案の内容、証拠関係の具体的な事情を総合的に考慮して適切に判断されており、被告人が否認していることをもって直ちに被告人が罪証隠滅するおそれがあると認めるような取り扱いはされていないものと考えております。

浜地委員 その御答弁、捜査当局も含めて、御自分で言われたことでございますので、そのことはしっかりとまた徹底していただきたいと思っております。

 この否認の問題については、当然、捜査当局から見れば嫌疑があって勾留しておりますから、嫌疑があって、しかも裁判所の令状に基づいて勾留しているわけでございますので、否認しているということは、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあるんじゃないかというお考えもわかります。しかし、真実として私はやっていないという被告人にとっては、それはやはり言いがかりの一つでしかないわけでございますので、自白と勾留の問題というのは、しっかりとまた真摯に考えていただきたいというふうに申し上げておきたいと思っております。

 次に、証人の氏名、住所の開示に係る措置についても、このたび制度が新設をされました。

 本来、証人請求する場合には、その証人の氏名、住所を知る機会を与える義務があるのが大原則でございます。証拠物、証拠書類を請求する場合にも、閲覧の機会を与える義務があるというのが大原則でございます。今回は、その例外として、しゃべってしまう証人に対して加害が及ぼされるようなおそれがある場合には氏名等を被告人側に秘匿する措置を創設しておりますが、まず、この制度の概要及び趣旨についてお話をいただきたいと思っております。

林政府参考人 証人を請求する場合に、その氏名、住居を知る機会を与える義務がございますし、また、証拠物、証拠書類を請求する場合には、この閲覧の機会を与える義務がございます。

 現行法においては、証人等に対する加害行為等のおそれがある場合におきましても、弁護人に対して、これらを開示した上で、他に知られないように配慮あるいは秘匿を要請することができることにとどまっております。

 そこで、本法律案におきましては、より実効性のある措置を設けることといたしまして、検察官が請求する証人等や供述調書の供述者に対する加害行為等のおそれがある場合には、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときを除いて、証人等の氏名等を被告人には知らせてはならない旨の条件を付した上で弁護人に開示する措置をとることができます。

 さらに、この条件を付する措置によっては加害行為等を防止できないおそれがあるときは、弁護人にもその氏名等を知らせず、代替的な呼称でありますとか連絡先を開示する措置をとることができることとしております。

浜地委員 今、制度の概要をお答えいただきましたけれども、新しい条文が第二百九十九条の四なんですね。これは、どのように運用されるかということも今後しっかり考慮していただきたいと思っております。

 どういうことかといいますと、この条文を見ると、検察官は、いわゆる加害をするおそれがあると認めるときは、弁護人に対しては住所や氏名を知る機会を与えた上で、それを被告人には知らせてはならないという条件を付して秘匿するということです。ですので、弁護人には、原則として氏名及び住所を知る機会は与えられております。それでもなおだめな場合は、要は、弁護人にも教えないことがあると。

 これに対して、ただし書きとして、被告人その他の関係者との利害関係の有無を確かめることができなくなるとき、要は、実際にこの人間に対して加害行為をするおそれがあるかどうかについては、利害関係を確かめないと実は判断できないわけでございますので、実際にこの制度が始まったときには、不服申し立ての制度もあるというふうに聞いております。ですので、実際にこの条件が付されたときに、どちらが疎明をしていくのか。

 結局、加害をするおそれがあるのはどっちが疎明をし、また、利害関係については、弁護人側なのかそれとも検察側なのか、どちらがそれを疎明していくのかということは、この制度が始まるまでに運用の方針はしっかり決めておかないと、実際の不服申し立ての段になったときに、どっちに疎明責任があるのかということでもめると私は思っておりますので、その点もしっかりと考えていただきたいということを一言申し上げておきたいと思っております。

 先にちょっと言ってしまいました、不服申し立ての制度があるということは先ほど私が言いましたので、もう一度聞きたいと思います。

 証人の氏名、住所を秘匿する権利については、先ほど申し上げました被告人、弁護人側の防御の利益も重要でございます。具体的には、被告人側の防御の権利を損なわないためにどのような不服申し立ての手続を予定されているのかをもう一度お答えください。

林政府参考人 本法律案では、この制度につきまして、被告人の防御に対する配慮、こういったものを手当てしているところでございます。

 具体的には、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、本法律案に掲げられているいずれの措置もとることができないということになっております。この場合に、被告人側は、こういった検察官の措置がなされた場合に、不服があるときには、裁判所に対して措置の取り消しを求めることができます。さらに、裁判所の決定に不服があるときは、即時抗告をすることができます。

 こういった形で、被告人の防御権が不当に損なわれることのないように、措置の要件でありますとか不服申し立て手続を定めているところでございます。

浜地委員 私が冒頭言いました、今回の証拠開示等の手続についてはおおむね被告人側に利益になるような制度改正でありましたけれども、ここについては、先ほど申し上げましたとおり、被告人側には、防御の利益上、不利益になる可能性もあるので、少ししつこく聞いたわけでございます。やはりこの不服申し立ての中で、どっちがどういったことを疎明していかなきゃいけないのかということは、運用上、制度が始まるまでにしっかりと決めておいていただきたい、そのように申し上げたわけでございます。

 もう一つ、被告人側の防御にとって不利益になるんじゃないかという項目がございます。それは、ビデオリンク方式による証人尋問の拡充でございます。

 これまでは、ビデオリンク方式を行う場合は同じ裁判所で行わなければいけなかったわけですが、今回は、別の裁判所に証人に来てもらってもビデオリンク方式ができるようになりました。

 そもそも、平成十二年にこのビデオリンク方式等の証人尋問の制度が始まったわけでございます。その他、証人の保護として、付添人または遮蔽の手続、それに加えて、先ほど私が申し上げました、ビデオリンク方式といって、ビデオで証人の陳述状況を見るという制度なんです。

 これは、まず、そもそも施行後の実施状況はどうなっていますか。非常に有効に使われているかどうかを一点お聞きしたいのと、今回、ビデオリンク方式による証人尋問の拡充を行うことになっております。別の裁判所でもこのビデオリンク方式、証人にそこに来てもらって行うことになるんですが、その必要性についてお答えいただきたいと思います。二点、お答えください。

林政府参考人 まず、現行法上の証人等保護措置の実施件数でございますが、証人等への付き添いによる証人尋問等が行われた人数は、この制度が施行された平成十二年から二十六年までの総数が千六百十八人、平成二十六年に限りますと百八十八人となっております。

 また、証人尋問等の際に遮蔽の措置がとられた人数は、同じく平成十二年から平成二十六年までの総数が一万八千六百二十四人でございますが、平成二十六年に限りますと千八百五十九人となっております。

 最後に、ビデオリンク方式による証人尋問等が行われた証人の数は、平成十二年から平成二十六年までの総数が三千十五人、平成二十六年については二百九十九人となっております。

 それから、本法律案のビデオリンク方式の証人尋問の拡充の必要性でございますけれども、現行では、同じ裁判所の構内におきまして、公判が行われる裁判所に出頭した上で、別室との間をビデオリンクでつないで行うという方法しか認められていないわけでございますが、性犯罪の被害者等が証人となるときなど、公判が行われる裁判所に出頭すること自体によりまして精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる場合がございます。

 また、組織的な犯罪等に関する証人など、公判が行われる裁判所への出頭時に加害行為がなされるおそれ、また、出頭した後に尾行されるなどして、その上で加害行為がなされるおそれがあるという事案がございます。

 また、やはり、証人が遠隔地に居住して、年齢とか職業、健康状態等の事情によって公判が行われる裁判所へ出頭することが著しく困難と認められる場合もございます。

 こういった場合につきまして、証人に対する加害行為等を防止してその負担を軽減する、そういう趣旨で今回のビデオリンク方式の拡充を求めているものでございます。

浜地委員 ありがとうございます。

 最後の質問にしたいと思っています。

 今回、被疑者国選弁護人制度が全ての勾留事件について適用になることがありました。これは非常に大きな一歩だと思っています。

 しかし、被疑者国選については、やはり国庫の負担がかかるわけでございます。勾留案件は全件被疑者国選となりますと、費用の面でもまたしっかりと手当てをする必要があろうかと思っておりますけれども、その点についてどのようにお考えか、最後に聞いて、質問を終わります。

林政府参考人 御指摘のとおり、対象事件の範囲の拡大は公費支出を伴いますので、その合理性、適正性に関しまして国民の理解を得ることが必要でございます。

 例えば、現在、被疑者国選弁護制度の報酬は接見回数を主な要素として算定されている仕組みとされておりますけれども、法制審議会におきましては、この点につきまして、被疑者国選弁護事件数が横ばいの状態にある中で、その予算額が年々増加しているといった問題点を指摘しているところでございます。

 そういったことから、法制審議会の答申におきましては、この対象事件の範囲の拡大に当たりましては、公費支出の合理性、適正性をより担保する措置が講じられることが必要である旨の指摘がなされております。そのために、被疑者国選弁護に従事する弁護人の報酬基準を見直すなど、関係機関とも協議の上で、この弁護活動の内容がより適切、公平に反映される仕組みとすることが考えられるかと思います。

浜地委員 時間になりました。終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、鈴木貴子君。

鈴木(貴)委員 皆様、改めまして、おはようございます。

 きょうは、裁量保釈そして証拠開示、これらについて質問をさせていただきたいと思います。裁量保釈の項目においては、国内だけでなく、時に世界からも指摘を受けている身体拘束、これの現状、そしてまた対応についても質問をさせていただきたいと思っております。

 この委員会もなかなかの長丁場となってまいりましたが、長期拘束と違って、あくまでも限られた時間ですので、ぜひ、建設的な議論ができるよう進めてまいりたいな、このように思っております。

 それでは、まず本質的なところから質問に入らせていただきたいと思います。

 今回の、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化の趣旨を御説明いただけますでしょうか、法務大臣。

上川国務大臣 御質問の刑事訴訟法の第九十条の改正ということでございますけれども、現在の運用につきまして、特定の事実認定、これを前提とするものではなくて、裁量保釈の判断に当たって考慮すべき事情につきまして、実務上確立している解釈を法文に明記するということによりまして、その内容をできる限り明確化し、国民にわかりやすい制度にしよう、こうした趣旨でございます。

鈴木(貴)委員 より明確化し、国民の皆さんにもわかりやすいようにということなんですけれども、保釈という制度自体はもちろん既に現行法でもあるわけなんですね。ということでは、これまではどのように保釈の判断に当たっての事情というものは明確化されてきたんでしょうか。

林政府参考人 これまで、現行法の九十条は、適当と認めるときに保釈をすることができるという形の規定となっておるわけでございますが、今回、これまでも実務上確立している解釈、すなわち、現行法の九十条について実務で行われている解釈というものを法文に明記するということでございます。

 したがいまして、これまでも、今回法文に明記しようとしている事情を考慮して九十条の解釈、保釈の運用がなされてきたものと承知しております。

鈴木(貴)委員 今、刑事局長から御説明をいただいて、というふうに承知をしているということで、現に法文化、明文化されていなかったということでいえば、刑事局長のよく使われる言葉を使えば、運用面で適正に運用がなされていたということだったのかなと思うんです。

 であるならば、これまで適正に運用がなされていたという保証、そしてまた証拠というものはあるんでしょうか。

林政府参考人 これまで、身体拘束の運用についてはさまざまな批判というものがあることは承知しております。

 しかしながら、一般論としては、裁判所におきまして、刑事訴訟法の規定に基づいて、事案の内容や証拠関係等の具体的な事情に応じて適切に判断されてきたものと承知しております。

鈴木(貴)委員 批判がなされてきたことを認めていただいただけでも若干安堵をしているんですけれども、よく答弁でも使われる、一般論で言えばというところで若干理解が難しくなってくるんですね。一般論で言えばそうだけれども、では、一般でないところで適正でない運用があったのか、このようにいろいろと想像も膨らんでいくところなんです。

 今、局長も答弁で批判もあったと言っていただいたように、まさに、国連拷問禁止委員会などからも再三にわたって、一度だけでなく勧告がなされているわけであります。国連拷問禁止委員会、では、この拷問という定義は何なのかと思って私も実際調べてみたんですけれども、肉体的であると精神的であるとを問わず、ある者に対して激しい苦痛を故意に加える行為とされているんです。

 この拷問禁止委員会で勧告がなされている日本の身体拘束、代用監獄とも時に言われますけれども、長期勾留による被疑者、被告人への負担や苦痛というものをどのように考えているか、両大臣にお尋ね申し上げます。

上川国務大臣 ただいま、さまざまな肉体的、心理的御負担ということでございますけれども、勾留そのものについては、勾留の趣旨ということでありますけれども、逃亡及び罪証隠滅を防止するためということで、その目的で身体を拘束するという強制処分ということになるところであります。

 保釈をするということの判断ということにつきましては、この事案の内容や証拠関係などの具体的な事情に応じまして、逃亡や罪証隠滅のおそれの程度でありますとか、あるいは、勾留によりましての身体的拘束を継続することによって被告人が受ける不利益も適切に考慮されるべきものというふうに考えるところでございます。

 この九十条ということでありますけれども、まさに、改正におきまして、勾留によりましての身体拘束を継続すべきかどうか、それとも裁量によりまして保釈すべきか、この判断に当たりまして考慮すべき事情について、実際に実務上確立している解釈を明確化するということであります。その考慮事情の一つとして、身体の拘束の継続によりまして被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上または防御の準備上の不利益の程度を法文化するということで、これを明記するという内容になっているところでございます。

 明確にすることによって、さらに適正な手続になるということに貢献するというふうに思っております。

山谷国務大臣 我が国の刑事司法制度のもとにおいては、限られた期間内に、起訴前被疑者に対する証拠品の提示、取り調べ、引き当たり捜査等所要の捜査を遂げる必要がございます。このため、全国的にきめ細かく設置されている警察の留置施設に被疑者を勾留することは現実的でありまして、現制度下においては、警察の留置施設が重要な役割を果たしていると認識をしております。

 警察においては、捜査と留置の分離を図っておりまして、刑事収容施設法及び犯罪捜査規範にも、捜査と留置の分離の原則が明記されているところであります。この捜留分離の原則は、昭和五十五年に確立されて以来、警察においては十分に浸透し、定着したものとなっているものと認識をしております。

 留置施設における被留置者の処遇については、警察において、被留置者のプライバシーや防御権の行使等、人権に十分配意し、適正に処遇が行われているものと承知をしております。

 また、その趣旨を担保するために、留置施設視察委員会の設置や、不服申し立て制度等による施設運営の透明性の確保が図られているものと承知をしています。

 今後とも、警察の留置施設において人権に配慮した適正な留置管理業務が行われるように、警察を指導してまいりたいと考えます。

鈴木(貴)委員 非常に御丁寧な答弁をありがとうございます。

 今の答弁を伺いながら、逆にいろいろと私の中で新たな疑問も出てきたんです。

 今、両大臣の話を聞きながらも、特に、もちろん身体拘束である、同時に、健康面であるだとか準備上の不利益の程度その他事情を勘案して今回法文にしっかりと明記をしていくんだということなんですけれども、であるならば、勾留をされるということによって受ける不利益というのは、もちろん身体拘束だけでなく、例えば接見、面会ですよね、時には、個別の事件というか人に対してだと思うんですが、接見禁止という判断もなされることがあると思うんですけれども、この接見禁止の判断についてもあわせて明文化をするというのも一つ必要なのではないのかなと今この場で思ったんですけれども、これについていかがお考えでしょうか。

林政府参考人 接見禁止につきましては、刑事訴訟法八十一条におきまして、裁判所は、逃亡し罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときについて、検察官の請求によりまたは職権で接見禁止の措置をとることができるというふうに条文化されております。これに基づいて、実務において裁判所の決定がなされているということでございます。

鈴木(貴)委員 今、私、何でこの点を疑問に思ったかというと、やはり人生は何でも経験しておくべきだなと今思ったんですが、皆さんも御存じのとおり、私の父は戦後最長四百三十七日間の勾留記録を持っているわけなんですけれども、当時、うちの父に接見禁止の処分もかかっていたんですね。その接見禁止は、家族、もちろん当時十五歳、十六歳であった娘の私も接見禁止であるという判断があったんです。

 ただ、皆さんも何となく記憶にあるかと思いますけれども、いわゆるあの宗男事件で、当時十五歳、もしくは事件当時はまだ十歳、十一歳の娘が罪証隠滅のおそれというものに果たしていかほどかかわりが持てるのか。もしくは、逃亡のおそれ。おかげさまで、あの事件で連日連夜報道もしていただきまして、逆に時の総理大臣よりも知名度があるんじゃないかといった、本当に一連の毎日の報道だったわけであります。逃亡のおそれももちろんないわけです。どこに行ったってわかるんですから、あっ、鈴木宗男だと。もしくは、接見禁止。家族にも出ている。当時、まだ中三、高一の私も接見禁止だった。

 それが、今刑事局長の答弁を聞いていると、職権によってその判断をしているというのが何とも不条理でならないんですね。これについて、どういった法的根拠があったのかということをぜひともこの場で伺えるものであれば伺いたいんですが、刑事局長、答弁いただけますでしょうか。

林政府参考人 接見禁止の決定自体につきましては、これは刑事訴訟法八十一条に基づいて、その法的根拠を持って行われているものでございます。

 具体的などのような事情、事案に応じてそのような決定がなされるかということについては、法務当局からはお答えすることはできません。

鈴木(貴)委員 答えることができないというものが全てだなと。正当な理由があるというのであれば、この場においてしっかりと答弁をされるべきであろうと思います。しかしながら、答弁をされないということが、この問題の全てをあらわしているんじゃないのかなと。

 つまり、裁量、検察官、捜査当局の判断に委ねられてしまっている。こういった時点で、このことが、今、日本の刑事司法が抱えている大きな課題の一つだということも逆に明らかになったのではないでしょうか。

 それを踏まえて、建設的な議論もしていきたいなと思っておりまして、例えば、特別部会、私もいろいろと中身も読ませていただきましたけれども、勾留と在宅の間の中間的な処分、こういうものを設けてみてはどうか、いわゆる中間処分案というものであります。

 この中間処分案というものについて、端的に御説明いただけますでしょうか。

林政府参考人 この法制審議会の特別部会におきましては、被疑者、被告人の身体拘束のあり方というものが議論になりました。その中で、中間処分というものを設けること、こういうことの是非につきましても検討が行われたところでございます。

 この中間の処分といいますのは、身柄を拘束するという意味での勾留を行う、あるいは勾留は行わないということで在宅で捜査する、この二つの、勾留と在宅の間の中間的な処分というもの、こういう制度を設けることはいかがか、こういった検討がなされたわけでございます。

 すなわち、勾留はしていない、身柄拘束はしていないけれども、在宅という全く制約が加わっていない形ではなくて、何らかの制約を加えることによってという制度としての中間処分のあり方というものが検討された次第でございます。

 結果的には、この中間処分というものについては、さまざまな問題点が指摘されて、結局、その答申には盛り込まれなかったわけでございます。

鈴木(貴)委員 今いらっしゃる委員の皆さんも、この中間処分案というのを初めて聞いたという方もいらっしゃるかと思うんですが、この中間処分案、中間処分を受けた被疑者は、身体拘束されず、一、指定住居に居住、二、転居、出国または三日以上の旅行の際は事前の届け出が義務づけられるといった義務事項というものもこのように、中間処分案の中では、建設的議論を推し進める上では、こういった義務づけのことも出ているんですね。

 この刑事訴訟法等一部改正案、何度となく立法趣旨なども伺ってまいりましたが、その中で、新たな時代、そしてまた抜本的な改革、こういった言葉が再三再四使われてまいりました。

 であるならば、特別部会においてこのように建設的な提案があった、しかしながら全くもって採用がされていない、こういった建設的な提案こそ積極的に取り入れていくというものがまさにこの抜本的な改革に資すると思うのですが、大臣、いかがでしょうか。

上川国務大臣 法制審議会の特別部会におきまして、委員御指摘の中間処分案ということで、A案、B案という形で非常に議論がなされたというところでございます。

 先ほど局長の方からも答弁があったところでありますけれども、この中間処分について、想定する対象者の範囲、あるいは取り調べへの出頭の確保のあり方、そうした制度の根幹となる部分につきまして委員の皆様の意見にかなりの隔たりがあったということで、そのことについて、今回の制度に反映するというところまでは議論が至らなかったというふうに伺っているところでございます。

 結果として、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情につきまして明記をするという形の中で意見が収れんするということで答申に盛り込まれた、そうした経緯があったものと承知をしているところでございます。

鈴木(貴)委員 この中間処分案、これをぜひ入れるべきだと言っていたメンバーの中には、参考人で来ていただいた映画監督の周防監督もいらっしゃいました。そしてまた、まさに当事者という形でこの部会に参加をされていた村木さんも、こういった案をぜひとも議論を深めていくべきではないか、このようにおっしゃっていたわけなんですね。

 そして、この村木事件なんですが、皆さんも御承知おきのとおり、否認を続けていた村木さんは何と五カ月超え、百六十日以上も身体拘束をされていた。これだけでも、これだけ長期の身体拘束が果たして本当に必要だったのかという議論にも値すると思うんですが、同時に、ここで頭に入れておかないといけないのは、しかしながら、自白の強制というか誘導、後々、誘導されたということが公判で明らかになりましたが、関係者の皆さんは一様に釈放がされているわけです。

 この点を見ただけでも、そしてまた村木さんが会議でも、勾留が虚偽の自白や供述を得る道具として使われている事実があるということは私の事件でも明らかだと思いますと。つまり、否認をやはり続けていれば、拘束期間というものは非常に長くなる。しかしながら、虚偽自白、もしくは誘導された、向こうの手の上に乗せられて誘導的自白をした場合には、見返りにと言ってはなんですけれども、身体拘束が解かれる、こういったことを指摘されているわけです。

 まさに当事者という立場にもかかわらずこの特別部会のメンバーになっていただいたということは、当事者にしかわからない、そしてまた当事者ゆえに、ほかの人には二度とこんな思いはしてほしくない、そういった思いも含めて、さまざまな意見ですとか提案をしてもらいたい、そういった思いも法務省側にもあったかと思うんですけれども、村木さん、そしてまた広く市井代表というか国民代表で参加をされました周防監督、こういった皆さんの建設的提案というものが反映をされていない、これは私は非常に問題だと思います。

 であるならば、これからも日本の刑事司法を考えていく、また改革を、たゆまぬ努力をしていく上でも、今後、この中間処分案について引き続き議論をしていくべきだと思いますが、大臣、いかがでしょうか。

上川国務大臣 今回の法制審議会の議論の中でも、この問題につきましては大変真剣に御議論をいただいたというふうに、この間の資料を拝見させていただきますと、大変大きな議論があったというふうに思っております。その上で、制度設計のところまで至るに当たりましては、いろいろな意見が収れんすることができないという事情の中で、今回は答申に盛り込まれなかったということでございます。

 制度設計上の課題につきましては、いろいろな御議論があったということでございますので、やはりそうした慎重な検討をする必要があるというふうに思っております。

鈴木(貴)委員 ということは、今後も引き続きの議論の場を設けるという認識でよろしいでしょうか。

上川国務大臣 今回、大変大きな刑事訴訟法の改正をお願いして、それも、大変な御議論を踏まえた上で答申に盛り込んでいただきながら今回の制度設計に至るということで御議論に付しているわけでございまして、ここにつきましては慎重な検討が必要であるという御決定をしていただいている、その答申の中では入れ込まない、その前に慎重な検討が必要である、こうした御議論がなされたということでございます。

 まず、今回の新しい制度の中でしっかりと取り組むということがまず第一だというふうに思います。不断の努力というのをしていかなければいけないということでございますので、この課題につきましても、そういう意味での不断の努力の中での慎重なる検討ということであるというふうに思っております。

鈴木(貴)委員 今後も引き続き議論の場を設けて慎重審議をするか否か、大臣、もう一度答弁いただけますでしょうか。慎重審議が必要だというその重要性については、多分、今もう全員共有できたと思います。今後ともその議論を継続するか否か、この点について答弁いただけますか。

上川国務大臣 今の段階におきましては、法制審議会の答申を踏まえた上での新しい制度もございますし、また、ただいまのように、運用の中でやっていたことを明文化するという形の中で委員の先生方が御議論いただいて合意形成していただいたということでありますので、そういったもののまたさらなる検証をする場もあろうかと思います。そうした不断の努力の過程の中で、今御指摘いただいたようなことにつきましても検討に付すかどうかということにつきましても、また新たな検討が始まるのではないかというふうに思っております。

 今の段階でイエスかノーかというような判断というよりも、これからの取り組みをしっかりと踏まえた上で、しかし、この問題については慎重な検討を要する、こうした御指摘がなされたということを十分に踏まえた上で対処していかなければいけないというふうに考えております。

鈴木(貴)委員 今のところそういったことを考えていらっしゃらないのであれば、それはないとはっきり言っていただければ結構でありまして、こちらとしては、もちろん慎重審議、慎重であればいいということではありませんから、まさに大臣がいつもおっしゃられる、たゆまぬ努力、それを形にするためにも場をしっかりと設けて議論をしていただきたいということを、建設的な提案の一つとして出させていただきたいな、このように思います。

 そして、先ほど山谷国家公安委員長からの答弁の中で、警察組織の中の分離の原則ということをおっしゃっていただいたかと思うんですけれども、いわゆる留置と捜査の分離ということだと思うんですけれども、それぞれは相互に指揮命令を出せるような、そういった構造にあるんでしょうか。

沖田政府参考人 大臣から御答弁のございました捜査と留置の分離につきましては、捜査につきましては、当然、捜査を担当する者が指示をし、留置につきましては、例えば警察署でございますれば留置主任官というものがおりまして、この者が留置について責任を負っているということでございます。(鈴木(貴)委員「指揮命令は」と呼ぶ)

 指揮命令という意味では、ただいま申し上げましたとおり、捜査については例えば捜査主任官が指揮をする、留置については留置主任官が指揮をする、こういう流れでございます。

鈴木(貴)委員 分離の原則というのは、私はこれは非常に重要だと思うんですね。もし分離の原則がなかった場合に、まさに身体拘束というか、被疑者の置かれている立場を逆に利用して、便宜を図るぞという名目でさまざまやりとりができてしまう。それを回避するために捜査と留置、担当官という者は分離をしている、こういった経緯が過去もあったかと思うんです。

 そういった意味で考えれば、まさに、我々も取り調べ室など警察庁も視察させていただきましたが、これは双方に指揮命令というものがはっきりしていないといけないと思うんです。

 つまり、取り調べ官、捜査官が仮に過度な大声を出していたりだとか過度に強圧的な捜査をしているのをもし万が一見たり聞いたりした場合には、その場で、分離原則にのっとって留置担当の人間が、ちょっと待った、それはいかがなものかということでしっかりと手を挙げる。そしてまた、取り調べ、供述の信憑性いかんを問う。そういった双方のチェック・アンド・バランスというか関係が私は非常に重要だと思うんですけれども、そういう意味での指揮命令というものはあるんでしょうか。

沖田政府参考人 捜査についてチェックするという意味では、取り調べ監督制度というのがございまして、これは平成二十一年の四月から運用されておりますけれども、例えば、取り調べ室において調べている状況をのぞき窓等から適宜これを視認するなどして、その取り調べに行き過ぎがないか、そうしたことをチェックし、もしそうしたことがあれば、これは当然指摘して、組織に上げて対処する、こうした制度がつくられております。

鈴木(貴)委員 しっかりとそうした制度をしかるべく運用していただいて、適正な捜査そしてまた留置、そういったものに使っていただきたいな、このように思うところであります。

 そして、ちょっと時間も限られてきましたので、証拠開示制度の拡充についての質問に移らせていただきたいと思います。

 まず、証拠の開示制度拡充の立法の趣旨というものを法務大臣から教えていただけますでしょうか。

上川国務大臣 今回の法律案におきましては、争点そして証拠を整理する公判前整理手続及び証拠開示の手続におきましては、現行の仕組みを前提としながら、検察官が保管する証拠の一覧表を交付する手続を導入する、そして、公判前整理手続及び期日間整理手続の請求権を当事者に、検察官及び弁護人、被告人に認める、いわゆる類型証拠開示の対象を拡充する、こうした改正を行うこととしているところでございます。

 これらの改正の趣旨でございますけれども、充実した公判審理を行うための公判前整理手続及び証拠開示の手続がより機能的に行われるようにする、それによって充実した公判審理の実現に資するということでございます。

鈴木(貴)委員 そういった今の立法趣旨を伺いながら、改めてこれは上川法務大臣と山谷国家公安委員長、両大臣にお伺いをしたいんです。

 これまで私も何度となくこの委員会でも質問をしてまいりましたけれども、捜査当局による証拠の隠蔽であるとか、時に改ざん、捏造が指摘をされての無罪判決が出されたケース、こういったものについて、近年だけでも多々あったかと思うんですけれども、そうしたまさに過去のはっきり言って過ち、二度と起こしてはいけないそういった過去の事例について、両大臣はどのような思いを持って、今回、この刑事訴訟法等の一部改正に挑まれたんでしょうか。

上川国務大臣 捜査当局におきましては、適正に捜査を遂行していく、これはもう大原則になるところでございます。

 しかし、残念なことに、極めて例外的な事案であるとはいうものの、捜査当局によりましての証拠の捏造が発覚した事案もございます。そうした事案については、これはあってはならないというふうに思っておりまして、そうしたことを受けて、捜査当局といたしましても厳正に対処するということで臨んできたところでございます。

 今回の証拠開示制度につきましても、そうした部分の一つの反省、教訓に立って、現在の証拠開示手続、さらにこれを改善するということで提案をさせていただいたということでございます。

山谷国務大臣 冤罪はあってはなりません。捜査機関が犯罪事実の有無等の立証に必要な証拠の存在を意図的に秘したり、これを捏造することはあってはならないものと認識をしております。

 今後とも、証拠の適正な管理等が行われるよう、警察を指導してまいりたいと考えます。

鈴木(貴)委員 これは私、今回のこの法案の審議をする上で非常に大事な原点だと思うので、改めて山谷国家公安委員長にお伺いをします。

 今大臣は、あってはならない、冤罪はあってはならないというふうにおっしゃられましたが、冤罪は過去にあったんじゃないでしょうか。そこはしっかりと真摯に、過去の、もしかしたら例外的な事例だったかもしれませんけれども、しかしながら、それが一つでもあったというのであれば、そこをしっかりと認めて、その上で、二度とこういうことは繰り返さない、そのためにこういったものを出していく、こういうふうに訴えていかれるというのが真摯な議論につながっていくと私は思うんですが、改めて、大臣、答弁願えますでしょうか。

山谷国務大臣 警察においては、富山事件、志布志事件の無罪判決等により、取り調べを含む警察捜査の問題点が指摘され、国民の信頼が揺らいだことを重く受けとめ、捜査の適正確保のための取り組みを推進しているところであります。

 取り調べをめぐる問題の背景には、取り調べや供述調書への過度の依存があるとの指摘がありまして、このような状況を改め、証拠収集手段の適正化、多様化を図るために、今般の刑事訴訟法等改正案が提出されたものと承知しております。

 新たな制度のもとでも適正捜査が徹底されるように、警察を指導してまいりたいと考えます。

鈴木(貴)委員 これはまた、改めて両大臣にぜひお伺いをしたいところなんです。

 ちなみに、山谷国家公安委員長、志布志そしてまた氷見、そしてまた過度な取り調べということも言っていただいたところではありますが、問題にされたのは、過度な取り調べだけでなくて、警察による手持ちの証拠の隠蔽、もしくは過去に証拠の遺棄、破棄というものもあったということもこれまた一つ事実でありますから、こういったところもひとつオープンな議論をしていただくということが、この答弁のといいますか、この委員会の質疑の信憑性にもつながってくることになるのではないのかなと。

 そして、今回のこの法改正案の提出、諮問がなされまして、そしてまた特別部会、それぞれ作業分科会などでもまさに慎重審議がされてきたところであります。

 村木事件でやはり大きな注目となった、もしくは日本の刑事司法が国民から大きな信頼失墜を招く原因となった一つの要因に、やはりフロッピーの証拠改ざんという問題があったかと思うんです。であるならば、今回の改正で、その証拠の改ざんを二度と繰り返さないための方策、立法というものは十分にされていらっしゃるんでしょうか。両大臣の見解、所見を伺います。

上川国務大臣 ただいまの証拠開示制度の拡充につきましても、先ほど申し上げたとおり、例外的な事案であったとはいうものの、捜査当局による証拠の捏造が発覚した事案があった、まさにその事案の大きな一つとして、村木事件におきましての主任検察官による証拠の隠滅事件があったというふうに考えているところでございます。

 こうしたことを踏まえた上で、またさらに証拠開示につきましてもしっかりとオープンにしていく、現在の制度を土台にしながらも、それに対して、さらにそうしたことが起こらないようにしていくためのさまざまな手だてということで、今回お願いをしているところでございます。

山谷国務大臣 先ほども申しましたけれども、捜査機関が犯罪事実の有無等の立証に必要な証拠の存在を意図的に秘したり、これを捏造するということはあってはならないと考えております。

 今後とも、証拠の適正な管理等が行われるように、指導してまいりたいと思います。

鈴木(貴)委員 これは逆に言ったら、山谷大臣のこだわりなのかもしれないですね、あってはならないと。先ほども、あってはならないではなく、しっかりと事実を受けとめるということが重要ではないかというふうに私は申し上げたつもりなんですけれども、今の答弁でも、あってはならないと。その答弁を聞いて、果たしてこれは真摯な議論になるんでしょうか。

 これまでの捜査当局、捜査権力を持つ側による不作為というか、時に証拠の改ざんであったりだとか隠蔽であったりだとか、もしくは過度な取り調べだとか、自白の強要だとか、長期にわたる不当な身体拘束だとか、さまざまな点で人権侵害、そしてまた非常にその個人の人生を、自由を奪ってきたという、ある種、これは捜査当局による犯罪が一つ行われたわけです。袴田巌さんにおいて言えば、約五十年、半世紀にもわたって死刑囚として拘留されていたわけです。志布志事件においても、ようやく無罪判決も出ましたが、その間には一人、自分の無罪の判決を見る前に亡くなられた方もいるんです。

 こういったことに真摯に向き合っていくというのが政治なんじゃないでしょうか。よく個別の問題にはお答えできないだとか、そういった答弁もされますけれども、まさに政治というのは、例外的であったとしても、不当な苦痛を強いられた人たちに、まさに光に当たることができない陰の人たちにいかに光を当てるかというものが政治の、我々のあるべき意義なんじゃないでしょうか。

 そういった意味で、今いただいた大臣の答弁というものがまさにそういった考え、誠実性が十分にあるかというと、私は大きな疑問を、疑念を感じております。もし今の私の発言に対して何か異議がある、もしくは反論したいことがある、もしくは答弁し直したいことがあるというのであれば、改めて答弁いただけますでしょうか。

奥野委員長 ないんじゃない。

 どうぞ質問を続けてください。鈴木君。

鈴木(貴)委員 ということは、発言はないということでよろしいですね。

 では、改めて質問をさせていただきます。

 証拠の改ざんも過去にあった、隠滅もあった、さまざまに指摘をされてきた。今回のこの法案で、そういったことをみずから反省し、内省を尽くした結果が十分にこの法案に反映されていると両大臣はお考えでしょうか。

上川国務大臣 一連のさまざまな事態が起きたことを受けて、今回、刑事訴訟法の改正につきましては、さまざまな視点から、御議論を踏まえた上で、制度の改正をしっかりとし、また、それに基づいて適正な手続のもとで裁判が行われることができるようにしていく、ゆめゆめこうした冤罪などの被害があってはいけない、こうしたもともとの根源にさかのぼってそうした一連の改革をしていこう、こういう中で今御提案をしているところでございます。

 とりわけ現行の証拠開示の制度につきましては、争点及び証拠の整理を全うしつつ、また、被告人側の防御の準備に必要かつ十分な証拠が開示される仕組みとなっているということで、こちらの方は評価がなされてきたところでございます。

 今回、法制審議会の特別部会におきまして、全員の総意によりましてまとめられました基本構想におきましても、この現行の証拠開示制度につきましては、大幅に証拠開示が拡充されたというふうに評価をされておりますし、また、制度の運用状況を鑑みても、争点及び証拠の整理と連動した形で現在の段階的な証拠開示の制度の枠組みが使われている、こうしたことについては改める必要はないと。

 しかし、その上で、さらにその制度をより有効なものにしていく、こうしたことで証拠開示制度の拡充の改正をお願いしているということでございます。

 こうした一連の取り組みを通じて、やはり正しい真実に基づく供述、あるいは公判におきましてもそうした適正な運用が図られるようにしていくということの趣旨にのっとって、御指摘いただいているようなことが起こらないような、そうした改革をしっかりと進めていくということが今回求められているのではないかというふうに確信をして、そして臨みたいというふうに思っているところでございます。

山谷国務大臣 今、上川法務大臣の御答弁がございましたけれども、考え方としては私も同様でございます。

 現行の証拠開示制度については、争点及び証拠の整理を全うしつつ、被告人側の防御の準備に必要十分な証拠が開示される仕組みとなっておりまして、その枠組みを改める必要はないものと考えております。

 この点については、先ほども上川法務大臣より御説明がございましたけれども、法制審議会の特別部会において、全構成員の総意により取りまとめられた基本構想においても、現行の証拠開示制度については評価をし、また枠組みを改める必要はないとされたところであります。

 そこで、本法律案においては、現行の証拠開示制度の枠組みを前提とした上で、証拠開示制度の拡充の改正を行うということにしたところでございます。

鈴木(貴)委員 今回、一覧表の交付手続の導入ということなんですけれども、私は、この証拠開示においては、先ほど繰り返し質問もさせていただきましたけれども、過去のああいった過ちを防止するという観点、また反省を示すという点でも、一覧表ではなく、証拠というものは全面開示をすべきだと。

 ましてや、この証拠というものは検察が証拠収集をした、検察というのは公益の代表者である、こういった立場である、であるならば、証拠というものも検察の持ち分ではない。そういう観点からも、証拠の開示というものは、私は、一覧表ではなく全面開示というものが本来あるべき姿ではないのかな、また、今後とも引き続き、その可能性、新たな拡充についても検討していただきたいなと思っているんです。

 同時に、今、両大臣の答弁を聞きながら、今回、この一覧表の交付手続が公判前整理手続と期日間整理手続に限られているわけですけれども、この点もやはり私は問題だなと今改めて思ったんです。なぜかというと、公判前整理手続というのは、大臣たちが今おっしゃられたように、裁判員裁判制度を契機に導入された、公判における時間短縮、そしてまた争点整理、証拠の整理というものが土台にあるわけです。

 ここで、両大臣にお尋ねをさせていただきたいんですけれども、今回の証拠開示の拡充というものは、争点整理のために設けられたものなのか、もしくは冤罪の防止という観点から設けられた制度なのか、どちらなんでしょうか。両大臣にお尋ねします。

奥野委員長 ちょっと待って。これは刑事局長。(鈴木(貴)委員「立法趣旨に関することです」と呼ぶ)だから、刑事局長。

林政府参考人 今回の証拠一覧表の交付手続といいますのは、公判前整理手続に付された事件におきまして、被告人側が類型証拠あるいは主張関連証拠の開示請求をするための手がかりとして、それに資するものとしてこれを交付するものでございます。すなわち、充実した公判審理を行うために、公判前整理手続がより円滑、迅速に行われるようにすることにあります。

 そして、この公判前整理手続は、これまでに法定された制度でございますけれども、これは、争点の整理、主張の整理というものと連動する形で証拠開示制度が組み込まれている制度でございます。そういった形で法定化された公判前整理手続の円滑化、迅速化のために、今回、証拠の一覧表の交付手続を行うものでございます。

鈴木(貴)委員 争点整理との連動だというところをもってしてこの答弁を乗り切ろうというか、いこうと思っていらっしゃるんだなというふうに思うんですが、連動ということは、もちろん、争点整理も大事である、これは私も共通認識を持っています。

 と同時に、今回の刑事訴訟法等一部改正案の議論がなされる根本にある、まさに村木事件であったようなああいった冤罪、捜査当局による不当な捜査もしくは証拠収集、こういったものを二度と繰り返さないでおこう、そういった思いが根底にあるということは、この委員会でもたびたび繰り返して確認をさせていただいたわけであります。連動というのであれば、もちろん、争点整理も重要ですけれども、もう一つの方、冤罪防止の観点というものもしっかりと重要視しなくてはいけないわけです。

 今、刑事局長も答弁の中で、この一覧表は手がかりなんだということなんですけれども、この手がかりというのが非常に気になるんですね。つまり、全てでなく、手がかりということは、弁護する人間は、その手がかりをもとにして、ありとあらゆる想像だとかを膨らませて、こういった証拠もあるんじゃないか、こういった証拠を出してほしいということでこの証拠開示請求をするわけですよね。

 であるならば、例えば、弁護人というのは、もちろん、証拠収集をしているその状況というのは知り得ないわけです。ゆえに、想像をめぐらせて、きっとああいった供述調書があるんじゃないだろうか、もしくは現場に残されていた指紋の分析結果を知りたいだとか、そういった形で開示請求を出していくんだと思うんです。

 例えば、目撃供述と整合しない通話記録があった、それが捜査段階で明らかになった。しかし、今のこの一覧表のあくまでも手がかりしかないものであれば、捜査段階で目撃供述と整合しないそういった通話記録が現にあったんだ、アリバイを証明するようなそういった事実もあったんだということが書かれているその捜査報告書というものがどこにあるかというのは、どうやったら弁護側はわかるんでしょうか。

林政府参考人 現行の証拠開示の制度におきましては、類型証拠の開示、さらには主張関連証拠というものの開示、こういった形で段階的に証拠が開示されてまいります。したがいまして、例えば、自分のアリバイに関するような主張がなされた場合には、それに関連する証拠は、その主張関連証拠として最終的には開示される、こういう形で証拠の開示を受けられるものでございます。

 その上で、こういった証拠開示制度、こういう形で段階的に開示がなされていくという証拠開示制度、この制度を円滑かつ迅速に行うための手がかりとして、今回の証拠の一覧表の交付手続というものがあるわけでございます。

 ですから、この一覧表だけでもって、当然その証拠の開示を受けられるわけではございませんので、その後に続く証拠開示の請求、そしてそれを受けた証拠開示というものを円滑、迅速にするための出発点としての手がかりというものとして、今回、交付手続を設けるものでございます。

鈴木(貴)委員 いわゆる証拠一覧リスト、この中には、どういったものが書かれているだとか、誰々の供述が書かれているといったような要旨といったものは記載されるんでしょうか。

林政府参考人 例えば、当該証拠の中身、供述調書であればその要旨等については、今回の交付手続の記載事項とはなっておりません。

鈴木(貴)委員 なっていない理由を端的に教えてください。

林政府参考人 これは、今回、この交付手続を創設するに当たりまして、どのような事項を記載すべきかということで議論がなされたわけでございますけれども、やはり、この交付されるべき証拠の一覧表というものが円滑かつ迅速に作成されて交付されるためには、一つには、検察官において記載する事項というものが一義的に明確である必要がある。それでないと、その中身、内容におきまして、その内容自体で将来の紛議を招くおそれがある。そういったことがもしあるとすれば、円滑、迅速に行うことに資するための交付手続がかえってその後の証拠開示の手続等を妨げることにもなりかねない。

 また、実際に、証拠の内容はさまざまでございますので、どのようにその要旨を記載するかということについて、この作業を検察官にさせた場合には、円滑、迅速にこの交付手続を行うということ、これが非常に困難となる。

 こういったような理由から、今回の記載事項としては、証拠の内容にわたるもの、その要旨等については記載事項としなかったものでございます。

鈴木(貴)委員 まさに証拠物はさまざまであり、内容もさまざまである。だからこそ、非常に限られた、作成者の名前であるとか作成された年月日であるとか、そういったたかだか数件の標目だけだと、果たしていかほどの手がかりになるのかと。確かに手がかりにはなると私も思うんです。ただ、それが十分な手がかりなのかということがまさに議論をすべき点だと思うんですね。

 そういう点でも、証拠について警察に伺いたいんですが、警察が捜査段階で、例えば捜査メモだとか、さまざま手持ちの証拠があると思うんですが、警察のいわゆる手持ち証拠というものは、検察に全て送付されるんでしょうか。

三浦政府参考人 警察におきましては、捜査の過程において、事件との関連性が必ずしも明らかでないものを含めて、膨大かつ多様なものを収集したり、多くの人から情報収集を行うわけでありますけれども、これらのうち、犯罪事実の有無や事案の解明に必要な証拠につきましては、刑事訴訟法第二百四十六条の規定の趣旨に従い、検察官に送致をしているところでございます。

鈴木(貴)委員 事案の解明に必要な証拠というものは、つまりは証拠を収集した警察が判断するということでよろしいですか。つまり、全て警察の裁量に委ねられているという認識でよろしいでしょうか。

三浦政府参考人 捜査状況といいますのは、その性質上、時間の経過とともに変化をするものでありまして、犯罪事実の有無や事案の解明に必要かどうかは捜査の進捗に応じて判断せざるを得ないために、その判断の時期は個別具体のケースに応じて区々でございますけれども、いずれにしても、犯罪事実の有無や事案の解明に必要な証拠と判断をされたものにつきまして速やかに検察官に送致をしている、そういうことでございます。

鈴木(貴)委員 事案の解明にこの証拠は資するか否かということを警察が独断で判断をしているという制度が果たして十分なのか、十分というよりも公正公平なのか。こういった議論は往々にしてあったかと思いますが、それに対してどのような反論といいますか、意見をもってして、このルールを今まで守り抜いてこられたんでしょうか。

三浦政府参考人 捜査といいますのは、まだどういう形で展開をしていくかということが必ずしもわからない段階から、かなり膨大な作業をし、ある意味ではさまざまな無駄の積み重ねも含めまして、いろいろな作業をしながら、その中で徐々に事案が解明をされていく、そういうプロセスをたどるものでございます。そうした中で収集をされる証拠と申しますか捜査資料といいますのは、結果としては、事件と無関係の者に係るものである場合も含めて、その内容はさまざまでありまして、相当な分量にも上るものであります。

 これを一律に送致するといったことは、必ずしもその必要性が乏しいと考えられるほか、場合によっては、関係者のプライバシーの観点でありますとか、捜査の効率性の点からも疑問があるわけであります。

 したがいまして、事案ごとに、犯罪事実の有無や事案の解明に必要な証拠あるいは捜査書面というものを送致している、そうした運用をしているところでございます。

鈴木(貴)委員 であるならば、送致を結局しなかった手持ち証拠の管理、保管というのはどうなっているんでしょうか。

三浦政府参考人 基本的に、当該犯罪事実の有無や事案の解明に必要な証拠につきましては、刑訴法の規定の趣旨に従いまして、検察官に送致をしているところでございます。

 それ以外の捜査資料につきましては、必ずしも一律ではございませんけれども、後々の例えば公判のために、場合によってはその後必要になるかもしれない、そうしたことが考えられるような資料などにつきましては、組織的に保管、管理をする、そうした場合もございます。

 また、もう必要がないということで廃棄をする、そうしたものもございます。

鈴木(貴)委員 過去の事例でも、布川事件などでは、女性が被告人とは違う人間を目撃したという発言が実際にあって、それは捜査メモに残っていたわけなんです。しかしながら、長らくそのメモは伏せられていた。

 この布川事件というのは、被告人だとされた男性が二十のときに逮捕され、何と二十九年間も自由を奪われたんです。二十からの二十九年間、失ったものは、ただただ時間の、年月の長さだけではなかった、想像をも絶する、これは我々が忘れてはならない一つの大きな事件だったと思うんです。

 そういった当時の捜査メモの新たな出現によってようやく再審請求が認められて再審無罪になったというのは、この布川事件だけではなくて、例えば東電OL事件のゴビンダさんだってそうです。証拠開示によってDNA鑑定ができた。言うならば、栃木の足利事件も、同じく証拠開示によって、新たなDNA鑑定の結果、菅家さんは犯人ではないということで再審無罪が言い渡されたわけです。

 今回の法改正で、再審請求における証拠開示の議論というものが全くなされておりません。裏を返せば、これまでのそういった袴田さんしかり、布川事件しかり、東電OL事件、志布志事件、こういった教訓というものを全く生かしていない、全く反省していないということの裏づけだと思うんですが、この点について、大臣、いかがお考えでしょうか。

 証拠開示が再審請求審において適用されていないという今回のこの法改正案、大臣のお考え、その所見のほどを伺わせてください。

上川国務大臣 御指摘がございました再審請求審におきましての証拠開示制度につきましては、これは法制審議会の特別部会におきまして議論が行われたところでございます。

 公判前整理手続におきまして、証拠開示に準じた制度を導入すべきであるという御意見もあった一方で、手続構造が異なるわけでありまして、この再審請求審において通常の証拠開示制度を転用するということにつきましては整合しない、こういう御意見もございました。また、再審請求審における証拠開示につきまして、一般的なルールを設けること自体なかなか難しいのではないか、こうした問題点が指摘されたということでございます。

 その結果、答申におきまして、法整備の対象とされなかったというふうに承知をしているところでございます。

 今回の制度、御指摘いただきました制度につきましては、法制審議会のそうした議論でさまざまな御指摘があった諸問題、問題点があるということでございまして、この法律案におきましては盛り込んでいないという状況でございます。

鈴木(貴)委員 時間が来ましたので終わらせていただきますが、私は、再審請求審においても証拠の開示が絶対であるというもとでまた議論をさせていただきたいと思います。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 民主党の山尾志桜里です。

 ただいま鈴木委員が大変重要な問題提起をして質疑時間を終えましたので、私の方からも、再審請求の証拠開示について、これは私も通告しておりますので、ここからスタートしたいと思います。

 大臣、再審請求の証拠開示というのは、今どういうふうに行われているか御存じですか。再審請求でも証拠開示がなされている例もあれば、なされていない例もあるんですけれども、誰がどのように判断しているか、現状をお答えください。

奥野委員長 現状を大臣は知っていますかということに対して、まず答えてください。(山尾委員「知っていますか、知りませんか。知らなければ局長に答えてもらうので、知っているかどうか、お答えください」と呼ぶ)

上川国務大臣 正確を期す必要があるということでありますので、局長に答弁をさせます。

山尾委員 別に詳しい手続とか条文は要りません。実際、概要どういうふうに行われているか、知っていればお答えください。知らなければ局長に答弁してもらいます。別にそんな細かいことは要らないです。

上川国務大臣 再審請求審におきましては、例えば新たないろいろな証拠が発見されたとかという新たな事情を踏まえた形で、裁判所におきまして判断されるということでございます。

奥野委員長 中身をしっかりと理解するために、局長にも答えてもらいます。林局長。

林政府参考人 再審請求審は、当事者構造ではございませんで、職権主義、職権構造を持っております。

 したがいまして、まず、請求人側が再審事由のいずれに該当するかを積極的に主張して、かつ、みずからの側で証拠物及び証拠書類を提出した上で、裁判所が、主張する再審事由の有無を審理して、その審理に必要な範囲で事実の取り調べを行う、こういった形で再審請求審が行われるわけでございます。

 そういったことで、証拠の取り扱いについても、裁判所の職権に基づいて行われているということでございます。

山尾委員 そうなんですよ、大臣。裁判所の職権なんです。これは、裁判官の個性、担当裁判官が誰で、どういう考えを持っているか、これによって、証拠開示がなされるかなされないか、どこまでなされるか、こういうことが決まってくるんです。私は、再審請求においては、個々の裁判官の裁量に委ねるだけじゃなくて、やはり何らかのルールを設ける必要があると思います。

 なぜなら、例えば袴田事件。これは、二〇一四年の三月二十七日、静岡地裁刑事第一部、第二次再審請求事件で再審開始、ようやく刑の執行停止がなされました。これは、この裁判官が、この再審請求審で六百もの証拠開示を許可してこういうことになっているんです。でも、違う裁判官だったらこうなっていたかどうかはわからない。袴田さんは今も牢屋の中にいたかもわからないんです。

 たくさんあります。東電のOL事件もそうです。証拠開示で出てきた証拠物に対するDNA鑑定が決め手となって、再審で無罪が出たんです。これも、何のルールもない中で、たまたまその裁判体がそういう決定をしたから無罪がわかっただけなんです。

 この個々の裁判官の職権に委ねるという状況でいいと思いますか。今回、大臣は特別部会の議論を読んでいらっしゃると思いますけれども、裁判所から派遣されている委員が、途中ちょっとモードが変わったときもありましたけれども、これはルールが必要だと口を酸っぱくして部会の中で議論していたんですよ。

 たくさんの方が言います、当事者主義だからとか、職権主義の再審と合わないとか。でも、私が聞いているのは、まずできない理由を答えるんじゃなくて、何らかのルールが必要じゃありませんか、それを立法府で議論しませんかということなんですけれども、いかがですか、大臣。

上川国務大臣 再審請求審におきまして、先ほど申し上げたとおりでございますが、手続についての構造が違うということで、職権に基づいて行われる、そうした審理でございます。その意味では、裁判所の職権というものが非常に大事なものになるということでございまして、その意味では、今回の部会におきましても多くの御議論がなされたというふうに承知をしているところでございます。

 特別部会の議論の中でも、先ほどお触れいただきましたけれども、さまざまな御議論がありました上で、通常の証拠開示制度を再審請求審に転用することにつきましては整合しないのではないか、あるいは、証拠開示について一般的なルールを決めるということについてはなかなか難しい、こうした御指摘があった上で、答申において最終的に法整備についての対象とされなかったということでございます。

 今回は、そうした問題点があるという御指摘の中で整備をしていないということでありますので、今回の刑事訴訟法の改正におきましては、今のような御指摘があったということではございますけれども、盛り込んでおらないというところでございます。

 しかし、さまざまな問題点があるということでございますし、さまざまな意見があるということでございまして、さらなる慎重な検討が必要ではないかというふうに思っております。

山尾委員 さまざまな意見はそんなにないんです。ルールが必要だということは、多くの方が思っているんです。これに対してできない理由は、この部会の中では二つですよ。一つは、要は、当事者主義の構造と再審の職権構造が違うから、制度が違うからそのまま転用することはできないんだよと。もう一つは、部会で、時間がないからと言われたんですよ。これはどういうふうに委員の皆さんが言っているか、お伝えしましょうか。

 まず一点目の制度が違うからという話ですけれども、第二十三回特別部会、酒巻委員。「当事者訴訟とは全然違う仕掛けなので、」「類型証拠とか、主張関連証拠の開示という仕掛けを転用するというのはおよそ考えがたい」。二番目、時間がないという話。第二十二回特別部会、井上委員。「再審請求事件の証拠開示については、」「別に検討するというなら結構ですけれども、そこまで本部会の手が回るかどうかについては、現実論として疑問だと言わざるを得ません。」

 時間がないのは、司法取引とか傍受を議論しているからですよ。この二点目については話す気にもなりません。だから、一点目について議論を続けます。

 一点目ですけれども、当事者主義をとっていない、再審は職権主義だからだと言います。でも、大臣、再審の前の段階だって、刑事訴訟法自体、例外として職権主義を採用していますよ、職権証拠調べだって、裁判官による釈明だって、裁判所による訴因とか罰条変更の命令権だって。当事者主義の中にも、必要があれば職権主義は採用されている。再審で職権主義が採用されたって、必要があれば当事者主義を採用したっていいんですよ。

 こんな、制度が違うから難しいんだなんという学者の意見だけに惑わされないでほしい。それを超えるのが立法府の、政治家の役割じゃありませんか。どうですか。

上川国務大臣 今委員が、部会の中での御審議について意見を御紹介いただきましたけれども、また同時に、裁判所の判事の委員からの御意見もございまして、先ほど私、二つほど申し上げた一つに、一般的なルールを設けること自体、再審請求審におきましては、証拠開示につきまして、なかなかいろいろ個々の事案があるということでございますので、一般的なルールを設けること自体難しい、そうした発言をしているところでございます。

 その角田委員の御発言ということでありますが、「一口に再審請求審事件といっても、事案の内容とか性質とか、それから再審請求の理由、さらには事件の証拠構造、これらは文字どおり千差万別でありますので、再審請求審における証拠開示について何か一般的なルールを見出そうとしても、非常に困難な作業であることは間違いない、これについては余り異論がないのではないかと思います」「結論的には答申案としては事務局試案のような姿でやむを得ないと思います。」

 こうしたことを裁判官のお立場でみずからがおっしゃっているということにつきましても、議論が行われた上で、今回は答申において法整備の対象とされなかったというふうに理解をしているところでございます。

山尾委員 私の問題提起に全く答えていただけなかったんですけれども、あえて今のことを言えば、異論がなかったなんてとんでもありませんよ。物すごく異論が出ていますよ、これはルールが必要だと。

 今、難しいという理由、ずっと私、一生懸命聞いていましたけれども、なかなかいろいろ難しいとしか聞こえませんでした。これは、一般的なルールをつくるのが難しいと言いますけれども、大臣、武器対等の原則をできる限り保障して、実質的な当事者として被疑者、被告人にもちゃんとした地位を確保すべきだ、こういう正義の要請こそが一般的なルールじゃないんですか。これは、再審であろうとも、その前の段階であろうとも、この一般的なルールは同じじゃないんですか。

 しかも、再審時においては、証拠開示をしても、その前よりもプライバシー権の侵害も少ないとか、捜査への影響も少ないとか、これは一般的にみんな認めているんですよ。

 ただ、それでも、必要性があるのにもかかわらず、やれない、やらない理由は、なかなかいろいろたてつけで難しい、そして最後は、時間がない、この部会では扱えないという井上委員の言葉が全てですよ。

 大臣、今すぐ、具体的にこうやるとかああやるとかいう答弁はさすがに求めません。でも、この問題は、議論をされて結論が出ていない問題、先送りされた問題なんです。だから、大臣の責任においてこれをしっかり早く議論してもらわないと困るんです。

 だから私、提案します。

 私は二つ提案がありますけれども、一つは、たてつけが違うと言いますけれども、例えば、類型証拠については、再審では、確定裁判で有罪の根拠とされた検察官の請求証拠の証明力の判断に重要な証拠を再審における類型証拠と考える、そして、主張関連証拠については、再審請求審の被告人主張に関連する証拠を主張関連証拠として考える、こうやって準用するということだってあり得るんじゃないんですか。

 あるいは、もう一つ提案します。

 それも難しい、それをやるにはやはりもうちょっと厳しい議論が必要だともしおっしゃるなら、せめて努力義務とか協力義務をつくりませんか。例えば、今回の法律の中で、再審の請求を受けた裁判所は、検察官が保有する証拠について、その証拠やあるいは一覧表の提示を求めて事実の取り調べを行うように努めるべきだという努力義務をつくり、一方、捜査機関に対しては、そういった事実の取り調べに関して裁判所に進んで協力をしなければならないというような協力義務をつくる。

 せめてこういった努力義務と協力義務だけでもつくって、これであれば、何も法理論上大きなそごが生じて刑事訴訟法が大変なことになるなんということはありませんから、ちょっと前向きに検討していただけませんか。いかがですか。

上川国務大臣 再審請求審におきましての証拠開示制度、先生が御指摘の、大変大きな、極めて構造的な改革ということでございまして、そのことの問題を受けて、部会の中でもさまざまな議論を踏まえた上で、しかし、最終的な答申の中ではこれが盛り込まれなかったというところでございます。

 その意味では、幾つか申し上げましたけれども、非常に難しい意見の対立があったというふうに思っておりまして、これについて法整備するということにつきましては慎重な検討が必要である、こういう認識に至ったというふうに思っております。

 検討に付された上で、さらに議論を踏まえた上で、今回は答申に盛り込まれなかったということでございますが、それによって、今後検討しないということでは必ずしもないということではございますけれども、ただいまの制度改正の中で、そのことについて十分な検討をしていくということの手続については、やった上での結論ということでございますので、今のところは、提案されている趣旨ということを考えてみますと、再審請求審につきましてはこれを盛り込むことができないというふうに思っております。

山尾委員 苦しい答弁といいますか、要は、この点は議論の俎上から外されたんですよ。必要だけれども、今回やりたいことと違うから、また別の機会にねという話だったんです。

 大臣であれば、せめて、やはりこれはもう一回議論する必要がある、大事な問題だねというふうなところまでは私は言っていただかなきゃいけないと思う。いかがですか。

上川国務大臣 大変重要なテーマであるということについては、私も問題意識を共有しているところでございます。裁判のあり方の根本にかかわることでございますので、これは、そういう意味でも慎重に検討していく必要があると思っております。問題につきましては、私も共有しているところでございます。

山尾委員 慎重な検討ということで、余りやりたくないという答弁と私は受けとめまして、大変残念ですけれども、これは引き続き言っていきます。今回、本当は外されるべきではない論点だったと私は重ねて申し上げたいと思います。

 次に、証拠開示のことについて、それでは引き続きお話しさせていただきます。

 先ほど両大臣から、今回、この証拠開示というのは、争点と証拠の整理に資するのみならず、被告人の防御の利益のため必要十分になっている、こういう趣旨のことがございました。

 山谷国家公安委員長にお伺いします。

 今回、証拠開示は、公判前整理手続等に付された事件が対象になっているわけですけれども、それ以外の事件については対象になっておりません。それでも必要十分だとさっき明確におっしゃった根拠を教えてください。

山谷国務大臣 制度設計にかかわることでございますので、法務大臣が御答弁されるかと思います。

山尾委員 山谷大臣がなぜ必要十分だとおっしゃられたのかという理由は、上川大臣には答えようのない問題です。山谷大臣はなぜ必要十分だというふうにおっしゃられたのか、山谷大臣が理由をお答えください。

山谷国務大臣 法務省の方で検討されたと承知しておりますので、政府参考人の方から御答弁いただけたらと思います。

山尾委員 山谷大臣はその理由がわからないから答えられないということでしょうか、お答えください。それならそれで法務省に聞きます。わからなければ法務省に聞きます。

山谷国務大臣 制度設計で、所管の問題でございますので、法務省の政府参考人から答弁されるのが適当かと存じます。

山尾委員 これ以上時間を無駄にしたくないので、法務省にお伺いをします。

 今、山谷大臣がお答えになれなかった。対象が、公判前整理手続に付されたもの、期日間もありますけれども、対象が限定されているのに、なぜ被告人の防御の利益のため必要十分だと言えるんでしょうか。

林政府参考人 現行法の証拠開示制度というものは、公判前整理手続あるいは期日間整理手続において行われるようになっております。したがいまして、公判前整理手続というものについて、それを利用する必要がある場合、これについては職権において公判前整理手続に付すことが可能でありますし、また、期日間整理手続というものを開始して、そのもとで証拠開示というものをとり行うことが可能となります。

山尾委員 ただ、公判前整理手続について、それに付すべきだという請求は被疑者、被告人側弁護人がやることができるわけですけれども、これが却下されたときの即時抗告がないんですね。

 もし、今の答弁で、こういうたてつけだから公判前整理手続に付されるべきは付されて、その場合は開示がされるんだから必要十分なんだとおっしゃるなら、せめて請求が却下されたときには即時抗告の制度をつけるべきだと思うんですけれども、局長、いかがですか。

林政府参考人 この点につきましても、法制審議会においても議論のあったところでございます。

 しかし、事件を公判前整理手続あるいは期日間整理手続に付すか否かということは、これは第一審の進め方でございます。第一審の裁判所の判断によって定めるべきことでございます。これに対して、不服申し立て、即時抗告を設けて、この第一審自体に関与していない抗告裁判所にその当否を判断させるということは相当でないことから、今回、そういった形での即時抗告というものを認めていないわけでございます。

山尾委員 即時抗告を今回入れなかった制度上の理由を今言っていただきましたが、私の根本的な質問は、もしそういうものすら認めないとすると、被告人の防御の利益にとっては不十分な制度になるのではないですかということを申し上げています。

 防御のためにしっかり証拠開示をしてもらいたい、そしてそのためにも公判前整理手続に付してもらいたい、それを付してくださいという請求権はあるけれども、却下されたら、以後何ら手続はない。それでは、自分の防御のためにしっかり証拠開示をしてもらいたいという被告人の防御にとって不十分な制度になっているのではないですか、これが私の問いかけです。どうぞ。

林政府参考人 そういった形で公判前整理手続に付すか否か、また期日間整理手続を行うかどうかということについては、まさに裁判所が被告人の防御等も勘案しながら適切に判断するものと考えております。

山尾委員 では、どうしても、公判前整理手続に付すかどうかは裁判所の職権なのだというふうにおっしゃるならば、公判前整理手続とこの証拠開示の制度を切り離して、一般的な事件の中で証拠開示をやればよろしいのではないですか。

林政府参考人 我が国において証拠開示の制度をどのように構築するかということについては現行の法制度をつくるときに議論されたところでございまして、この証拠開示については、やはり審理における主張と争点を明確にする、整理する、そういったことと連動させる形で証拠開示制度を設けるのが適当である、このように考えて現行法制度ができているわけでございます。

山尾委員 前につくったからそれを変えたくないのだという御答弁でしたが、立法府ですから、前につくった制度に改善すべき余地があれば、改善したらいいだけの話であります。

 この議論ですけれども、この証拠開示の制度をつくったその当時の方々が、これを変えることにずっとずっとずっと抵抗されております。証拠開示の制度をつくった皆さんには敬意を表しますが、しかし、立法というのは改善していくものです。前にさんざん議論してそう決まったからてこでも変えないなんていう答弁をこの立法府でしないでいただきたいです。

 なぜ連動させなければならないのか。だって、先ほど大臣は、この証拠開示の趣旨というのは、一つは争点や証拠の整理だ、もう一つは被告人の防御の利益だとおっしゃったじゃないですか。前者だけなら連動させるということはわかります。でも、防御の利益も趣旨に入れておっしゃったなら、連動させる必要は何もありません。いかがですか。

林政府参考人 証拠開示制度を構築するに当たりまして、公判審理の迅速的確な運営といったものに資するための証拠開示制度をつくろう、こういうことで法制度ができたものでございます。そういった観点から、平成十六年に、この証拠開示制度と、主張、争点の整理という公判前整理手続が組み合わさる形で手続が構築されました。

 これについて、今回、法制審議会でのさまざまな議論の中でも、この制度自体は、証拠開示と公判前整理手続、その両方において極めて順調に運営されている、それによって結果的に以前に比べて大幅に証拠開示が充実したという評価がなされているところでございます。

 その上で、今回、現行の法制度を基盤とした上で、それをより円滑、迅速になすための手続として証拠一覧表の交付手続というものを設けることとしましたし、あわせて公判前整理手続の請求権というものも設けることとしたわけでございます。

山尾委員 公判審理の迅速、適正という要請とともに、被告人の防御の利益というのが片方にあるんだと思います。そして、改めて、今の答弁は、ほとんど何もお答えになっていないに等しいように私は受けとめました。

 これは何度も言いませんけれども、この証拠開示の制度を最初につくった人たちが、一生懸命、これは変える必要がない、これは順調に運用されていると言い続けて、それが大臣、さっきの、これはもう極めて精緻に我々がつくった証拠開示制度だから再審なんかに準用するのはとんでもない、この仕組みが壊れちゃうじゃないかと言っているんですよ。

 でも、仕組みのために私たちは仕事をしているんじゃないんです。そこの仕組みの中で人権が侵害されている事例が実際にたくさんあるから、ではそれを、どうやって制度を変えて救っていこうかという話をしているんです。今回、ガラス細工、ガラス細工とかと言われていますけれども、仕組みのために制度をつくっているんじゃないんだということを、私は本当に強く大臣に申し上げたいというふうに思います。

 そして、次に、証拠開示について引き続き申し上げますが、供述調書には当たらない検察官の取り調べメモは、証拠開示の一覧表の対象になりますか。

林政府参考人 検察における取り調べメモにつきまして、これが検察官において保管する証拠となる場合においては、今回の証拠の一覧表に記載されるということになります。

山尾委員 今、取り調べメモは一覧表に記載をされるという局長の答弁をいただきました。

 それでは、さらに続いて問います。

 以前、最高検が刑事局長名で、これは現在の刑事局長とは限りません、当時の刑事局長名で、要らない取り調べメモは廃棄するようにという通知を出したことがあるというふうに言っている人もいるんですけれども、ありますか。

林政府参考人 最高検が刑事局長名で指示を出したというようなことはないと思います。

山尾委員 では、聞き方を変えます。

 誰の名前かはともかく、検察庁が、要らない取り調べメモは廃棄をするようにという内容の通知等を出したことはありますか、ありませんか。

林政府参考人 どの時期のどういった通知か等は定かではございませんけれども、いずれにしても、こういったメモにつきましては、組織的に保管していくべきメモというものについてこれを保管することを指示するとともに、それ以外の不要なものについては廃棄するという形での指示がなされているものと考えております。

山尾委員 今の指示については、これは細かく通告していませんでしたから後ほどで結構です、書面を後ほどお出しいただけますか。いつ、誰の名前で、誰に対してそのような指示がなされたのか、明らかにしていただけますか。

林政府参考人 今、この時点でその通知というものがどのものなのかわかりませんので、確実にお出しできるとは言えませんけれども、今後、どういった通知がなされているかについては、調査をさせていただいた上で対応していきたいと思います。

山尾委員 先ほど局長が、組織的に保管しておくべきメモは保管をし、不要なものは廃棄をするという指示が出ているというふうにおっしゃいましたね。なので、それがいついかなる形で指示が出されたのかということは、それがどういう形であれ、後ほど責任を持って明らかにしていただきたいと思います。

 そして、その中身についてお聞きをしますけれども、組織的に保管をしておくべき取り調べメモと不要なメモの判断基準は何なのですか。

林政府参考人 基本的に、メモの中で、例えば取り調べメモについて、当該取り調べにおいて供述調書等ができる場合があろうと思います。その場合の供述調書の任意性とか信用性が公判廷で争われることが予想されるような場合には、そうした取り調べメモに記載された被疑者等の言動というものがその後の裁判所における判断に資する場合があろうかと思います。そういった場合については、やはりこれは組織的に保管しておくというのが相当であろうかと思います。

山尾委員 これは、判断するのは取り調べ検察官なのですか。

林政府参考人 基本的に、取り調べメモを作成した検察官であります。

山尾委員 私が申し上げたいことは大体おわかりいただけると思うんですけれども、取り調べメモを組織的に保管しておくべきなのか、それとも廃棄すべきなのか、それを判断するのが取り調べ官であり、その基準は客観的には何も明らかになっていない。

 これは私は常にこの議論のとき思っているんですけれども、性善説に立って運用を信じるわけにはいかない今回の議論だと思っています。もちろん、多くの検察官は適正にその判断をして、残すべきを残す検察官が多いとは思いますけれども、実際にそうじゃない検察官もいるんだということの中で私たちは制度をつくらなければいけないんだというのが、今回の刑訴法改正の大きな大きな根っこのところだろうというふうに思います。

 この取り調べメモの問題については、今おっしゃった指示、要するに、組織的に保管するものは保管し、廃棄するべきは廃棄しろ、この指示が今も生きているということですから、これはもう一度検討なさった方がいいと思います。なぜなら、これは大臣、御存じでしょうか。聞いていただければ結構です。村木さんの冤罪事件の公判で、捜査に当たった検事全員が、参考人の取り調べメモは廃棄した、全員が廃棄したというふうに言ったんです。私が言いたいのはそういうことです。

 これは、本来なら、今の局長の言葉をかりれば、組織的に保管しておくべき取り調べメモだったと思います。それが、全員廃棄した。でも、当然ですよ。今の指示が生きていて、その判断が取り調べをする検察官に委ねられていて、そうしたら、自分にとって不利なメモは廃棄をしますよ。だって、廃棄しなかったら証拠開示のリストに挙がっちゃうんだから。廃棄をすれば挙がりませんから、弁護人の手に行きません。これが、今の指示の中で運用に委ねてはいけないという最大の理由です。

 今の指示について、どういった内容でいつ出されているのかというのは明らかにしていただけるということですので、大臣も把握をいただいて、ちょっと問題点を検討していただきたいと思いますけれども、いかがですか。

上川国務大臣 今回、一覧表の中に取り調べメモが入るということでありますので、そういう意味で、何を取り調べメモとして残すかということについては、これまでの通知も十分に検証させていただいて、私自身、少し問題意識を持って取り組んでまいります。

山尾委員 よろしくお願いします。

 それでは、引き続きですけれども、今度は証拠開示の例外事由について伺います。

 例外事由に、犯罪の証明または犯罪の捜査に支障を生ずるおそれがある場合は、要は例外的に開示の対象外にもなり得ると。この判断をするのは誰なんですか。

林政府参考人 これは検察官が判断をいたします。

山尾委員 この犯罪の証明または犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ、これが一体いかなるものを指すのかということについて、この法文上、何らかの解釈の限定はあるのですか。

林政府参考人 法文上、犯罪の証明または犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ、これが例外の事由となっておりまして、これに対する解釈を検察官が行うということになります。

山尾委員 一〇〇%検察官の裁量という答弁でしたけれども、例えば、無罪方向の証拠があり、当該検察官は有罪を確信しているとすれば、私が検察官であれば、無罪方向の証拠はまさに犯罪の証明に支障が生ずるということになるんですけれども、それは当たらないんだということは何か担保があるんですか。

林政府参考人 この犯罪の証明または犯罪の捜査に支障が生ずるおそれといいますのは、現在ある証拠が加工されたり、偽造されたり、あるいは変造されたり、そういったことによってこういった犯罪の証明または犯罪の捜査に支障が生ずるおそれが生ずるというものでございますので、無罪方向に働く証拠というものがここに当たるわけではございません。

山尾委員 今おっしゃったようなことは法文上のどこに書かれているんですか。

林政府参考人 犯罪の証明または犯罪の捜査に支障を生ずるおそれということにつきましては、証拠に基づいて事実を認定するという作用が害されるというわけでございますので、そこにおきまして、証拠、証明というものが無罪方向であるか有罪方向であるか、そういったことは問わないわけでございます。

 したがいまして、犯罪の証明または犯罪の捜査に支障を生ずるおそれというものについて、無罪方向に働く証拠があるからといって、それについてこれが不記載事由に当たるわけではございません。

山尾委員 そのことは法文上のどこに書かれているんですか。

林政府参考人 すなわち、証明あるいは犯罪の捜査というものにつきましては、これは、積極証拠、消極証拠によって認定されるわけでございまして、したがいまして、積極証拠だけがここに掲げられ、逆に消極証拠については不記載事由になるということではございません。

山尾委員 法文上には一切書かれておらず、刑事局長の解釈ということだと思いますけれども、この制度がない状態でも、先ほどから繰り返し繰り返しこの場で述べられているように、消極証拠、自分の見立てに合わない証拠を隠したりあるいは改ざんしたりということが現実に行われてきて、それが大きな社会的な問題になっているわけです。その社会的な問題を解決するための刑事訴訟法の改正であるにもかかわらず、どうしてさらにその判断を検察官の解釈に委ねるような立法がなされるんでしょうか。

 私は、今刑事局長がおっしゃったことが刑事局長の解釈だとおっしゃるなら、そう読めるようにこの法文をしっかりと書きかえるべきだと思いますが、なぜ書きかえないんですか。

林政府参考人 法文に書かずとも、この法文の解釈として私が申し上げたようなことが解釈されるからでございます。

山尾委員 これは今の安保法制でもずっと問題になっていることですけれども、総理の一解釈だって、では、政権がかわったらどうなるんだと、今、多くの方が不安を持ちながらやっていますよ。私が刑事局長でそう解釈したからなんということで、私たち立法府はこれを通せないんですよ。

 そう解釈したのであれば、なぜそれを法文に書かないのか。書かない理由は何ですか。

林政府参考人 この法文から今申し上げたような解釈が十分にできるゆえに、法文についてはこれ以上のものにするということは必要がないと考えております。

 もとより、一部、証拠の一覧表に載らない場合があったとしても、その証拠自体は存在するわけでございまして、かつ、その後の証拠開示の対象にはなるわけでございますので、この証拠の一覧表に載せる載せないで、消極証拠については載せないようにするというようなことはあり得ないと考えております。

山尾委員 解釈できるがゆえに法文にする必要がない。ちょっと私は、今の答弁は、済みません、理解ができません。そういう解釈もできる、そうじゃない解釈もできる、いろいろな解釈ができる中で刑事局長が言ったような解釈もできる。だから、解釈をちゃんと限定して固定化させましょうよ、立法府として。私たちは立法府ですから。

 なぜ法文に書き込んだらまずいのですか。何か、書き込んで支障があるのですか。もしあるのなら、それを説明してください。

奥野委員長 僕が口を出したら悪いかもしれないけれども、法文に書き込んだら悪いとは言っていないわけでしょう。こういうふうに理解できるからこれでいいんだというのが刑事局長の主張じゃないんですか。

 だから、もしそれがだめならば、理事会で引き取って、あるいは委員会でもう一回別に引き取ってやりましょうよ。こんなに議論していっても同じことだもの。

 山尾君。

山尾委員 委員長も、これ以上刑事局長の前向きな答弁も得られないだろうというお考えがあるのかもしれませんが、私もそう思います。これ以上議論しても何ら前向きな答弁は得られないと思いますが、私は強く申し上げます。刑事局長が、自信を持って私が解釈したからそうなのだと。もし大臣も同じお考えなら、これは法文に書くべきだと思います。今はここで私もとめておきたいと思います。

 次に、この例外に当たったときの効果のことについて伺います。

 先ほど議論になりましたよね。まず第一段階としては、例外に当たった場合でも、要するに弁護人に対してそういった氏名を被告人に知らせないようにというふうに求めるんだと。でも、第二弾として、それでもいろいろなおそれが拭えないときは、氏名そのものをかわりの名前に変えて、弁護人にもその人の氏名を教えないという措置もとるんだと。

 これは、第一弾はまだわかるんです。そういう措置をとるべきときもあるでしょう。でも、第二弾の、弁護人にすら供述者の氏名を教えない、これはどういう場合なんでしょうか。弁護人にも教えない、どういう場面を想定していらっしゃるのか、教えてください。

林政府参考人 まずは、弁護人に対しては証人の氏名、住居を開示するけれども、被告人に対しては伝えてはならない、こういう条件を付して開示するということがございます。それでも足りない場合に、今申し上げた、弁護人にも開示しない、しかしながら、代替的な呼称あるいは連絡先を開示する、こういう制度でございます。

 それでも足りない場合と申しますのは、当該被告人に知られた場合に証人への非常に回復しがたい加害のおそれというようなものが回復しがたい状況で生ずるというような場合には、まず、弁護人が故意をもって被告人に伝えるようなおそれがない場合であっても、過失によって伝えてしまうような場合があります。そういった場合も、これを防いでおかないと回復しがたい問題が生じ得るというのが一つございます。

 また、弁護人との関係で、被告人の側から、いろいろな証人の名前あるいは住居等を知らせてほしいというような形で弁護人にあらかじめ強く言っているような場合もあり得ると思います。そういった場合には、弁護人が積極的に被告人に伝えるつもりが仮になくても、依頼者である被告人との間でやはり伝えざるを得ないような場合もあろうかと思います。こういった場合も、やはり単に被告人に伝えないという条件つきの開示だけでは足りない場合があろうと思います。

 また、最後には、やはり弁護人の中に暴力団組織というものと癒着しているような弁護人も当然あり得るわけでございまして、そういった場合には、条件つきの開示だけでは足りないということになろうかと思います。

山尾委員 私がとても不思議なのは、今、弁護人が暴力団と癒着している場合、あるいは、検察官との間で被告人には知らせないと約束したにもかかわらず、被告人の強い働きかけにより開示してしまうような場合があると。この場面では、弁護人にもピンからキリまでいて、信頼できない弁護人もいるんだということを前提にして制度をつくっていますよね、明らかに。

 でも、思い出してみてください。司法取引のときは、弁護人がいるから大丈夫なんだと。私たちは一生懸命言っていましたよね、弁護人でもいろいろな弁護人がいて、しかも、弁護人の職務的にそれは難しいんじゃないのと。弁護士は、そこは当てにしても困るし、当てにされても困るんじゃないかと。このときは弁護人を信頼するんですね。

 どうして、制度が変わると、弁護人にもピンからキリがある、信頼できる弁護人もいればそうじゃない弁護人も残念ながらいるという前提が、あるようになったり、ないようになったりするんですか。

林政府参考人 被告人に証人等の氏名、住居が知られた場合にどんな深刻な加害行為が発生するか、こういった予想に立って考えた場合に、必ずしも弁護人が、先ほど申し上げた暴力団との癒着が疑われる場合というのはございますけれども、それだけではなくて、例えば、弁護人が故意でなく過失で被告人に知らせてしまうような可能性もないようにしておく。それでないと、そういった事態が起きてからでは、証人等に対する深刻な加害行為が確実に発生するような場合においては回復しがたい問題が生じてしまうので、そういった場合にもそのような可能性がないようにしておく。こういったことも含めたことを想定した制度でございます。

山尾委員 今、答弁を修正されたのかどうか、ちょっと曖昧なんですけれども、要は、三つ言ったうち、二番と三番はともかく、一番の過失の場合があるからね、こういうお話でした。過失で開示されたときに証人に回復しがたい加害が起きたら大変だと。そういうことはあり得ると思いますよ。

 でも、一方で、開示されなくて、無罪を立証するような本当に大事な証拠が手に入らなくて、冤罪で刑務所に入るような回復しがたい損害を受ける被疑者、被告人の側の防御の利益というのがどうしてもう一方のてんびんに入らないのでしょうか。

 両方あると思いますよ。両方あると思うけれども、一方だけをいつもいつも強調して、そもそも防御の利益のために、二つあるうちの一つの趣旨です、証拠開示の。防御の利益のために、今回、せっかくいい制度をつくろうとしているこの例外を、こんなにこんなにこんなにこんなに簡単に認めるんでしょうか。

 私は、三号ですか、犯罪の証明または犯罪の捜査に支障を生ずるおそれというのは、これはもともとやめた方がいいと思いますし、また一方で、一号や二号、加害や畏怖や困惑や、名誉や平穏を害するのところは置くべきだと思います。

 これに当たるときには、やはり第一弾の効果でとめた方がいいと思います。弁護人には開示するけれども、それは被告人には開示しないように、弁護人にしっかりと守ってもらう。そのかわり、開示された証拠の目的外使用の禁止とか適正管理の義務をしっかり法文上位置づけて、義務を課したらいかがですか。どうですか。

林政府参考人 御指摘のような場合を前提としましても、やはり、先ほど申し上げたような深刻な加害行為等がなされることを確実に防ぐ、こういったことが必要な場合があろうかと思います。したがいまして、本法律案のような措置を考えているものでございます。

 ただ、被告人側、弁護側の防御の利益、防御という観点につきましては、この制度は防御というものをまず優越に考えておりまして、防御を不当に損なう場合にはこの措置をとることはできないわけでございます。それについて、裁判所に対して不服申し立てもできるわけでございます。

 また、裁判所において、やはり条件つきの開示で十分ではないか、代替開示では行き過ぎではないかと考えれば、条件つきの開示という措置に裁判所は変更することも可能なわけでございまして、そういった形で、被告人、弁護側の防御の利益というものについては十分に措置がなされている、手当てがなされているものと考えております。

山尾委員 先ほどちょっと委員の中からもお話がありましたけれども、弁護人を信じるならしっかり信じて、被告人に開示されないようにということを貫けばいいと思いますし、弁護人にもいろいろな弁護人がいて必ずしも信用できないのだというなら、司法取引の適正の担保の根拠に弁護人を使うべきではないというふうに思います。

 もう一つ、今回の一覧表の記載内容について話を進めます。

 記載内容なんですけれども、ちょっと一点お伺いします。

 供述調書には、書面の標目と作成年月日と供述者の氏名が書かれることになっています。なぜ供述者の氏名を開示するというふうにしたのでしょうか。供述者の氏名を開示することによっていかなる目的を達成しようとしたのでしょうか、教えてください。

林政府参考人 供述調書につきましては、当該供述者というものが誰であったのかということが非常に重要な証拠の項目でございますので、供述者の氏名を記載するものとしたものでございます。

山尾委員 では、ずばりそのまま聞きますね。

 私が言いたいのは、供述調書じゃなくても、捜査報告書とか実況見分調書とか、供述調書というふうに書面の標目がなっていなくても、供述を内容とする記載がある書面というのがよくあります。こういうものについても、作成者だけではなくて供述者の氏名を一覧表に書くべきだと思いますが、なぜ書かないのでしょうか。

林政府参考人 まず、前提といたしまして、今回の証拠の一覧表の交付手続におきましては、証拠一覧表の作成、交付が円滑、迅速に行われて、一義的に明確な形でその内容が記載されるということが必要であろうかと思います。その観点からこの法律案の記載事項としたわけでございます。

 御指摘の中の供述録取書、供述調書については、先ほど申し上げましたように、供述者というものについての氏名を記載することとしております。他方で、供述録取書以外で、例えば検察官等が作成した書面であって、検察官、作成者以外の者の供述を内容とするもの、こういったものを記載の書面とするかどうか、こういったことは一つの議論があったところでございます。

 しかしながら、こういった、供述調書ではないけれども、何らかの形で何らかの者の供述が、その書面の中にその供述内容が入っているというような場合については、さまざまな書面がございます。例えば、事件現場に臨場した捜査官が事件関係者相互のやりとりを断片的に記載したような場合もございましょうし、また、複数の者から聴取した供述をそのまま記載しているものもございましょう。あるいは、他人の供述を内容とする伝聞供述などを記載したものもございましょう。あるいは、さまざまな書面の中には、幾つかの他の供述録取書における供述内容を引用しまして、それぞれの関係をほかの証拠と照らし合わせて分析、評価した文書というものもございましょう。

 こういうことを考えますと、そこの中に何らかの形で作成者以外の供述が入っていると申しても、多種多様な捜査書類があるわけでございます。こういったものをどのように記載するのか、では誰の氏名を記載するのか、その場合に、誰の供述が入っているということを判断して記載するのかということについて、これを検察官において作成するのだとしますと、極めてそれは、検察官の判断、評価の当否をめぐる紛争を生じますし、また、その作成については、作業的にも非常に困難なものとなって、迅速、円滑にこの手続を進行するということにはそぐわないであろうと。

 そういったことから、御指摘のような形で、今回、法律案では、供述録取書においては供述者の氏名を記載するということにとどめているわけでございます。

山尾委員 私、今の答弁を聞いて二つのことを思いました。

 いろいろな中身があるのでということはわかりました。ただ、一番最初に言っていただいた、それこそ、現場における事件関係者の生のやりとりといいますか、それは本当に、多分、捜査機関にとってもあるいは弁護人側にとっても、非常に重要な証拠、供述内容だというふうに思います。そういうものが、捜査機関の手にだけあって、弁護人の手に渡る手がかりとして一覧表に記載をされないということは、私は、これは、そもそもすごくパワーに差のある検察側と弁護人側の武器対等をできるだけ均衡させようという今回の制度趣旨においては、今おっしゃったような部分は、むしろ私は開示されるべきなのではないかなと思いました。

 でも一方で、確かに、伝聞証拠だとか、捜査報告書にいろいろあるような、このことについてAはこう言っている、Bはこう言っている、Cはこう言っているというような引用した書面だとか、そういうものまでいかに記載をすべきかということに問題があることはわかりました。でも、そこは、何らかもうちょっと工夫してもいいんじゃないかと思います。私ももう少し考えたいと思います。

 もう一点思ったのは、これは一律にしたい、定型的にしたい、検察官が書いた書かないの判断の紛争を生じるような、判断の当否をめぐる紛争を生じるのを避けたいとおっしゃるのなら、私、しつこく申し上げますけれども、例外事由がめちゃくちゃ曖昧で、まさに検察官の判断の当否にめちゃくちゃ紛争が生じるおそれを放置しておきながら、これはきちきちしたい、紛争が生じたら嫌だと。やはり何か一貫していないんですよ。これは私、全く用意している原稿じゃありませんから、聞いていてずっとずっと思っているんですけれども、やはりこれはちょっとおかしいんじゃないかなというふうに思うんです。

 でも、あと二分になりましたので、もう一つ、開示のタイミングですけれども、これは、今回の法案では、開示のタイミングはいつ開示がなされるというふうになっておりますか。

林政府参考人 今回は、検察官請求証拠を開示した後に、被告人または弁護人から請求があったとき速やかにというタイミングで、証拠一覧表を交付することとされております。

山尾委員 先ほどから円滑、迅速ということをモットーにしておられるのであれば、私の提案は、被告人または弁護人から請求があったときまで待たずに、検察官が請求証拠の開示をみずからした後、速やかにみずから開示をしたらいいと思うんですけれども、いかがでしょうか。

林政府参考人 今御指摘のお話では、タイミングというよりは、被告人または弁護人から請求がない場合でも一覧表の交付をするということになろうかと思います。それにつきましては、やはり、被告人側において証拠開示請求をするつもりがない場合でありますとか、一覧表を必要としない場合には、手がかりとなるべき一覧表は不要なものでございますので、そういったところまで今回の制度で交付をするということは不要であろうかと思います。

 したがいまして、やはりタイミングとしては、検察官請求証拠を開示した後であります。その際には、後に被告人または弁護人から請求があったとき、これに速やかに対応するという制度としているものでございます。

山尾委員 最後に一言申し上げます。

 暴力団と癒着しているような弁護人がいることを前提としております。あるいは、検察官との約束を破るような弁護人がいることも前提とされておりました。こういう認識の中で、やはり被告人または弁護人の請求があったときだけ開示をするというのは、ちゃんとした弁護人がついて、証拠開示がいかに防御のために必要かということをちゃんと説明を受けているという前提があってこそ、請求が要件になると思います。さっき言ったようないろいろな弁護人がいるという前提では、私は、請求を要件とせずに開示をされた方がいいと思います。

 議論を続けたいと思います。きょうは保釈については行き着けませんでした。申しわけありませんでした。

 終わります。

奥野委員長 本会議散会後直ちに委員会を再開することとし、この際、暫時休憩いたします。

    午前十一時四十三分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時十五分開議

奥野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生です。きょうもよろしくお願いをいたします。

 きょうから、保釈、そして証拠開示の関係、また証人保護の関係ですとか、証人の出頭拒否に関する法定刑を引き上げる、可視化と司法取引と通信傍受以外のテーマということなんですが、以外のといいましても、以外の方もかなりのボリュームがありますので、しっかりと議論をさせていただきたいと思っております。

 私の方から最初に伺いたいのは、まず、保釈の関係であります。

 保釈、勾留ですね、起訴された後の勾留、そして、勾留というものはそもそも、逮捕段階、それから勾留請求、十日、十日の取り調べで二十三日間の身体拘束があるわけですが、まず法務大臣に伺います。

 前回、さきの委員会で、国家公安委員長には伺ったんですが、勾留されるということは、仮に、疑いをかけられての勾留となるケース、冤罪となるケースもあると思うんですが、その人の立場に立って想像した場合、かなりつらいということは想像にかたくないと私は思っておりますし、国家公安委員長からも前回そういうお話をちょっと御答弁いただいたんですけれども、身柄を勾留される、そういうことについての大臣の思いをまず伺いたいと思います。

上川国務大臣 起訴される前であろうと後であろうとということでありますが、逮捕されて勾留をされるということについては、拘束をされるわけでございますので、その意味では、大変さまざまな面で、普通の方から見れば重たいものであるというふうに思っております。

井出委員 ありがとうございます。

 本当におっしゃるとおりだと思いますし、だからこそ、前回、裁判所の平木さんからも、個々の裁判体の方でしっかりと判断をしていただいている、裁判所の中でも、個別の事情をしっかり見て、形式的ではなくてしっかり判断するようにしているんだ、そういうお話をいただいております。

 きょう、勾留の関係でもう一つ、被疑者、被告人にとって非常に重たい、つらい状況の立場に置かれる制度の一つに接見の禁止というものがあって、これについてちょっと伺いたいんです。

 接見の禁止というものは、法律で、被疑者、被告人は、弁護人とはいつでも会えるような仕組みになっている、しかし、接見禁止が完全な形でつくと、弁護人以外、家族であっても何であっても接見禁止が解かれるまでは接見が認められない。

 私も、これは大変つらいという話を勾留された人から聞いております。中には、接見の禁止で誰ともしゃべることがない、そうすると、検事とお話しすることもうれしくなってきてしまう、そういうような状態に置かれる、そういう人もこの間お話をお聞きした人の中でおりました。それだけ、人と話ができない状況というのは大変な状況かなと思うんです。

 まず、接見の禁止の許可も保釈と一緒で裁判所の方で出されると思うんですが、平木さんにまずお尋ねしたいのは、接見の禁止という人に会えない状態ということに、裁判所としてそういったことの想像力が働くかどうか、そして、裁判所の中でそういう議論があるのかないのかを教えていただきたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 お答え申し上げます。

 裁判官の間では、接見等を禁止することは、勾留されているというだけでも相当な精神的苦痛を受けている被疑者、被告人に対し、さらに外部との交通を制限するものであり、その精神的苦痛は極めて大きいものであるとの議論がなされているものと承知しております。

 もとより、個々の事件において接見禁止等決定をするか否かは各裁判体の判断事項でありますが、各裁判体は、そのような被疑者、被告人に与える精神的苦痛の大きさを十分考慮した上で、なお罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると言えるかどうかなどの要件について、慎重に判断しているものと承知しております。

井出委員 ありがとうございます。今お話があったとおりだと思います。

 そして、この接見の禁止というのは勾留、保釈と共通の理由がありまして、法律上、やはり逃走のおそれですとか罪証隠滅のおそれがある、そういうことをもとに接見禁止も判断がなされる、そういうことが書かれているんです。

 保釈の率が上がってきている、そういうようなことはこれまでの委員会で、最高裁の方で分析していただいて、そういう傾向、データというものは私も拝見して、それをもとに議論させていただいているんですが、接見の禁止の件数や割合がどう動いてきているかとか、そういう統計ですとか分析というものをされていらっしゃるかどうか、最高裁に伺います。

平木最高裁判所長官代理者 平成二十六年の統計数値となりますが、全国の地方裁判所において、接見禁止等請求は二万二千七百七十九件あり、それに対し接見禁止等決定がされたのは二万九百五十七件でありますので、決定の数を請求の数で割った認容率は約九二%となっております。

 また、全国の簡易裁判所において、接見禁止等請求は一万七千四百一件あり、それに対し接見禁止等決定がされたのは一万五千二百二十件でありますので、その認容率は約八七・五%であります。

 なお、接見禁止に関する統計数値につきましては、被疑者の勾留段階と被告人の勾留段階とで区別した統計をとっていないことや、同一の被疑者、被告人の同一事件においても、時期を変えて複数の請求や決定がある場合にはそれぞれ一件と数える延べ人員の数値でとっておりますことに御留意いただければと存じます。

 接見等禁止決定をするかしないかは、各裁判体において事案に応じて判断するものでございますが、各裁判体は、刑事訴訟法八十一条の要件について慎重に判断をしているものと承知しております。

井出委員 今、被疑者と被告人の区別がないですとか延べ人数もあります、そういうお話でしたけれども、それを含めても、数字を出していただいたことはよかったなと思います。

 念のためその数字を確認したいのですが、後段に述べられた簡裁では一万七千余りに対して一万五千余り、八七%、地裁では二万二千余りに対して二万九百、九二%。これは接見の禁止が認められたということでよろしいですよね。接見禁止の請求があると、八割、九割認められている、そういう実態かと思います。

 一つ、法務大臣に伺いたいのですが、接見の判断の理由、法律上、刑訴法八十一条で、「裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」と。これは勾留の判断要件と一緒なんです。もちろん、当然ですが、接見というものは、勾留をされている被疑者、被告人に対して接見の禁止があるかないかであって、刑訴法八十一条に、勾留されている人に、さらにまた接見の禁止をするかどうかの理由に逃亡を入れる必要があるのか。

 少なくとも、勾留の段階で逃亡のおそれがあるかどうかを判断して、逃亡のおそれがあるから身体拘束をしている。その人が接見を求めるときに、それは、私も、仮に接見が自由になったら、例えば今後の展開を話し合う、こうなったときはこうしようみたいな、そういう罪証を隠そうとするようなことになる可能性はあるのではないかなと理解はしますが、そもそも勾留で身体を拘束していれば、接見判断の理由に逃亡を入れる必要はないのではないかと思います。

 今回の改革というものは、取り調べの可視化だけでなくて、刑事司法、捜査に新たな捜査手法を入れていく、また被告人の防御権についても配慮をしたり、裁判の充実も含めていく、刑事捜査、司法全体のパッケージで改革案を出されていると私は思っておりますので、そういう意味では、接見の禁止の判断材料、刑訴法八十一条に逃亡をもはや入れておく必要はないんじゃないか、そういうことをぜひ問題提起させていただきたいと思いますが、大臣、いかがでしょうか。

上川国務大臣 今回の勾留に加えて、接見ということの禁止規定をさらに追加すべきではないという御質問でございますけれども、刑事訴訟法におきましては、裁判所が、被疑者または被告人が逃亡しまたは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときに、検察官の請求によりまたは職権で接見を禁じることができるというふうにされているところでございまして、この場合の考慮する事情ということの中の、逃亡しまたは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときとはということでありますけれども、これは、勾留だけでは賄い切れない程度にその危険が予測される場合を想定してということでございます。

 検察官が個別の事件において被疑者または被告人の接見禁止を請求するに当たっては、逃亡しまたは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由の有無につきまして、事案の内容、規模、共犯者の有無、捜査経過、そして供述内容等の諸般の事情というのを考慮して適切に判断していくということでございます。

 こうした制度にのっとって適切な運用が図られているものというふうに考えております。

井出委員 適切な運用が図られているというところで、大臣と私の思いと、そこに違いがあるので議論をさせていただいているんです。

 林刑事局長にもちょっと伺いたいんですけれども、勾留の判断で、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれ、これを判断する必要はあると思います。ただ、勾留することになったその者の接見を判断するときに、そこでももう一度、逃亡のおそれというものを判断する必要があるのか。そもそも身柄を拘束されているんですけれども、この八十一条の書きぶりも新時代の刑事司法何とかというものでは当然検討されてもいいと思うんですけれども、いかがでしょうか。(葉梨副大臣「オウムで実際に奪還計画があったんだ」と呼ぶ)

林政府参考人 八十一条におきまして、接見禁止の決定をする要件としても、「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」というものが掲げられております。

 御指摘のとおり、勾留自体がまず同様の要件においてなされるわけでございます。したがいまして、程度について言えば、接見禁止の場合の「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」というのは、勾留だけでは賄い切れない程度に危険が予想されるという場合をいうことになりまして、まず程度が異なっております。接見禁止の場合の方が、そうした逃亡、罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由が高いということになります。

 その上で、もちろん、勾留した上でも、逃亡するおそれというものについて、これを観念し得ないわけではございません。したがいまして、この「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」という形で並列的に規定はしておりますけれども、もとより、実務において実際の接見禁止決定がなされる場合においては、多くの場合は、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」というところに着目して決定がなされる場合が多いと認識しております。

井出委員 実務においては罪証隠滅に主眼を置くと。

 確かに、おっしゃられるように奪還計画があったりですとか、海外では、接見はもとより、留置場や刑務所の職員と通じて脱走してしまったような、本当に何か映画みたいな話がたまに新聞の国際面なんかにあるわけですので、その可能性はもちろんゼロではないなと思うんです。

 ただ、勾留、保釈の判断、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれ。実際は、きょう、さきの委員の先生方もおっしゃいましたが、被疑者、被告人の供述態度、認めなければ帰さないというのが弁護士の実務の世界の根本原則になっている、そういうお話も午前中あったんです。私は、この接見も、保釈、勾留の判断と一緒で、本当に逃亡のおそれがあるのか、本当に接見を認めれば罪証隠滅のおそれがあるのか、具体的な検討がきちっとなされているのかというところは、先ほど平木さんが言ってくださった、簡裁で八七%、地裁で九二%という数字を見ると、大変疑わしい、議論をしたいところだと思います。

 この接見禁止なんですけれども、私が記者をしていろいろな事件を見てきたときですとか、また、今、新聞報道で事件を見ると、ニュースになるような人が逮捕されて、新聞を見てみる、記者だったら警察署に行ってみる、また、捕まった人の関係者のところに取材に行ったり、新聞に関係者のコメントも出るんですけれども、大体、本人に会えないからわからぬ、逮捕された段階で本人と接触ができないから、本人がどういうつもりでそういうことをやったのか、どういう気持ち、何を言っているのかわからぬ、そういう話は非常に多くの事件で聞く話であります。

 まず、国家公安委員長に伺いたいのですが、容疑者を逮捕したとき、逮捕状を執行して検察庁に送致するまでの四十八時間がある、その後、検察庁に送致をしたら二十四時間ですか、勾留の判断をすると思うんですけれども、その間、そこは私の認識ですと、例えば接見の禁止を申し出るとか、そういう規則はない。私の認識ですと、そこの四十八時間だったら、接見の禁止という制度がないんですから、家族が駆けつけてきたり、本人が会いたいと言えば、捜査機関側がよしとなれば会わせることは制度上可能だと思うんです。

 ただ、実際は、最初にお話ししたように、逮捕直後というものは関係者が接触できたというような事例というのは極めて少ないと私は思っておりまして、逮捕直後の四十八時間というものが、それはもちろん、容疑者にもいろいろな人がいますから、何を考えているかわからない、最初から罪証隠滅を考えていろいろなことを考える人もいれば、要は人に会わせない方がいいというタイプの犯人と、そうではなくて、何かの動機があって犯罪を犯して、本人自身も気持ちが正常な状態でない、罪から逃れたい、ただ、逮捕直後に少なくとも家族に会ったりそういう機会があれば、家族にだけは本当のことを言っておきたいとか、そういうところというものはしっかりと認められていいと思うんです。

 逮捕の後の二日間は、制度にもないんですけれども一切人に会えない、そういう実態があるということについて、国家公安委員長の見解をいただきたいと思います。

三浦政府参考人 逮捕直後といいますのは、一般に四十八時間以内に送致をする、こういうことになるわけでありますけれども、捜査すべき事項が大変多いわけでございますし、また、被疑者から弁解録取を初め一定のいろいろな事情を聞いていかなければならない。また、その間、さまざまな証拠についても短い期間で可能な限り収集をし、そして送致をする準備をしていかなければいけないといったような事情がございます。

 また、まさに初期の段階というのは証拠が非常に散逸しやすいという状況にもございますので、そうした中でどういう措置が被疑者に対して認められるかということはなかなか難しい問題があるのだろうというように考えているところでございます。

 制度上どのようなことであったかというのは、若干突然のお尋ねでもございまして、ちょっと規定上確認をするいとまがなかったのでありますけれども、実際、逮捕直後、また送致をするまでの非常に短い期間に警察、捜査機関としてやるべき事柄が非常に多いということについては御理解をいただきたいと思います。

井出委員 逮捕の直後ですので、容疑者がどういう人物かわからない、家族がどんな人柄で、またその容疑にかかわっているのかどうかもわからない、ですからそこは慎重な判断が必要だということは理解をするんです。ただ、今の運用が当たり前なのかどうかということについては、今回、刑事司法制度全体を見直す機会でありますので、問題提起をさせていただきたいと思います。

 そして、もう一つ、接見の禁止についてお話をしますと、やはり起訴をされるかされないか、起訴をされて裁判に向かう、お互いの主張もある程度整理されているとか、被告側が捜査側の言うことを一定程度認めている、起訴の後というのは接見禁止の割合も、接見禁止が解除になることも結構あると私は思いますし、関連で保釈について言えば、保釈の率が上がっているという傾向があると思うんです。

 接見の禁止というものは、逮捕して四十八時間たって、勾留請求をするときに一度裁判所にお願いに行く、そして十日間調べをして、もう一度さらに十日間、これも大きい事件は大体みんな二十日間取り調べをするので、これも十日、十日じゃなくて二十日がセットのように認知されていることが私は問題だと思うんですが、その十日と十日の間にももう一度、接見の禁止の継続を求めて、そこで裁判所が判断をする機会があると思うんです。

 ただ、実態として、この二十日間は弁護士以外会えない、接見の禁止がかけられている、そういう実態が、私は、ずっといろいろな事件を見てきて、特にニュースになるような大きい事件、ましてや、保釈と問題意識は一緒なんですけれども、やはり否認しているケースは、送致する段階、十日たった段階できちっと制度上、接見の禁止が正しいかどうか判断する機会があるにもかかわらず、それを十日たったら継続、自動更新のように接見の禁止というものを安易に認めてきている実態があるのではないかと思うんですけれども、平木さんに見解をいただきたいと思います。

平木最高裁判所長官代理者 逮捕に引き続く勾留の裁判をするとともに、接見等の禁止決定をしたという前提のお尋ねでございました。

 その後、検察官におきまして勾留期間の延長を請求して、裁判所において認めた場合には、接見等禁止決定の効力も引き続き継続するということになりますので、勾留期間が延長されるというときに改めて接見等禁止の決定をするという制度にはなっておりません。

井出委員 私が伺いたいのは、接見の禁止の解除を、弁護人ですとかそういうところからお願い、申し立てがあったときはきちっと、今言われたように判断する機会はあると思うんですけれども、今の実態というのは、やはり起訴されるまでは接見禁止というものがもうセットになっている。

 私は弁護士をやったことがないので、刑事司法の弁護士の人の話を聞いたことはありますけれども、やったことがありませんので、私の感覚で、いろいろなニュースを見たり、取材した感覚で申し上げているんですけれども、先ほど、否認をしたら保釈は認めない、実務の立場からすればそういう原則があるというお話があったんですけれども、私も、否認はもちろんですけれども、起訴するかしないかまでいくところまではとりあえず接見禁止がセットのような状態になっている、そういう実態があるんじゃないかと。

 最初に平木さんにお伺いしたいのは、裁判所にも、接見禁止で人に会えない状態というものを恐らくいろいろな裁判官がちゃんと想像していただいていると思うんですね。それも含めて、きちっとした、そういう実態に対する問題意識がおありかどうかというところを伺いたかったんです。

平木最高裁判所長官代理者 先ほども申し上げましたとおり、裁判官の間では、接見等の禁止を決定することは、勾留されているというだけでも相当な精神的苦痛を受けている被疑者、被告人に対し、さらに外部との交通を制限するものであって、その精神的苦痛は極めて大きいものであるという議論がなされておるところでございまして、各裁判官は、そのような精神的苦痛があるということを十分理解した上で、刑事訴訟法八十一条の要件に該当するかどうかを適切に判断しておるものと承知しておるところでございます。

井出委員 接見の問題は、私も、最初にこの改正法案を見て、法制審の審議の議事録なんかも見ていて、途中まで気づかなかったわけですね。それはどうしてかというと、法制審で接見禁止という話題提起はあったんですけれども、それを課題として議論するというところまで今回はいかなかった。

 ですが、保釈、勾留の問題と一緒で、逃亡、証拠隠滅ということを判断基準に、それにふさわしい実態の運用がなされているか、そういうことを考えれば、これから新時代の刑事司法、そういうものの一層の充実を図っていくためには、この接見の状況、運用を見ていく、運用を見直す、実態をちゃんと把握するということはぜひこの機会にやっていただきたい、そういうふうに思うんですけれども、上川大臣、いかがでしょうか。

上川国務大臣 ただいま接見の禁止についての問題意識について、勾留に加えての接見禁止ということになりますと大変厳しい精神的な負担が生じる、こういう問題意識の中での御指摘というふうに考えております。

 今、そうした厳しい要件の中での判断ということでございまして、まさに勾留に加えて、接見禁止の要件については厳格にそれを解し、勾留だけでは賄い切れない程度に逃亡または罪証隠滅の危険が予測される場合にのみ接見禁止の請求を行っており、またその判断を行われているというふうに思っております。

 先ほど認容率ということで、高い認容率ということでありますが、そういう意味では、極めて限定した形で申請を出して、そしてまたそれについて御判断をいただいているというふうに考えております。

井出委員 問題意識は、捜査に係る、起訴する前の、逮捕から勾留、接見の禁止、そこが私は大きい問題だと思っておりますので、国家公安委員長にもお話をさせていただきたいんです。

 村木厚子さんの事件、あれは検察の独自捜査だったんです、警察ではないですね、検察庁の方でやった事件だったんですけれども、村木さんの後々の話を聞くと、あの人は接見を認められていた。御家族、たしかお子さんだったと思うんですけれども、お子さんが大阪まで通った、頻繁に来た、それが自分のやっていないという思いを持ち続ける大きな支えになった。

 人に会えない、身柄の拘束をされる、その状態で取り調べを受けて、いつ何どき、何時何分、こういうことをあなたはしていませんでしたかと。そういうことを聞くのは、検察だけじゃなくて、警察も最初の二十日間で聞くわけですよ。そのときに、余り繰り返し聞かれると、いや、これは本当に、もしかしたら、あのときは自分はこうしていたはずなんだけれども、ひょっとするとみたいな、自分の記憶に自信が持てなくなってくる、そういうことをおっしゃる方もいる。

 私は、この勾留と接見禁止の問題というものは、起訴後の話もあるんですけれども、起訴前の、警察の逮捕から起訴までの二十三日間、ここの方がむしろ、取り調べだっていろいろあるでしょうし、容疑者の方もいろいろと複雑な精神状況もあるでしょうから、ここで、勾留と接見禁止というものが、私が問題提起させていただいたように、裁判所の方でも八割、九割認めるというような話もありましたけれども、安易に一くくりに勾留と接見禁止というものをセットにしてはいけない、そこはよく実態を検証していただきたいですし、もし運用上問題があるとお感じであれば直していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。(葉梨副大臣「セットにしていない」と呼ぶ)

山谷国務大臣 接見禁止が被疑者に与える精神的負担について、もっと被疑者の立場に立って考えてみてはというような問題意識からの御質問かと思いますけれども、被疑者側の立場からいえば、接見交通権が制限され、家族等と面会できない状態が続くということは相当の精神的な負担となると考えられます。

 裁判官による接見禁止の決定は、そのような事情も考慮して、罪証隠滅や逃亡の防止の観点から必要やむを得ない場合に行われるべきものだと考えております。

井出委員 今お話しいただいたとおりにやっていただきたい、また、副大臣おっしゃったように、セットになっていないというお話もありましたけれども、先ほどの裁判所の八七%、九二%、そういう数字はやはり重く受けとめなければいけないと思いますし、また引き続き議論させていただきたいと思います。

 きょうは終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、重徳和彦君。

重徳委員 維新の党の重徳和彦です。

 通告の順序を変えまして、先に裁量保釈について、きょうの本来テーマでありますので、質問をさせていただいて、残りの時間で、前回までで聞き漏らしていた司法取引についての質問をさせていただきます。

 まず初めに、大臣にお伺いします。

 今回、刑訴法九十条が改正となりました。これを読み解くに、私なりに見ると、「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、」とあります。この前段部分は、この九十条には今までなかったですけれども、見てみると条文の随所に出てきた見なれた文言でありまして、ですから、これは確認的かつ勾留のいわば本来目的であろうかと思うので、まさに確認的に書いたような感じがするんですね。その後は、「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、」というのが入ります。これは、今回の改正のまさに趣旨というか、今回新たな改正だということが言えるのではないかと思うんです。

 まず、今の点も含めて、今回の改正の趣旨について改めて御答弁いただきたいと思います。

上川国務大臣 刑事訴訟法の第九十条の改正ということでございますけれども、これは現在の運用についての特定の事実認定を前提とするものではなく、まさに委員御指摘のとおり、裁量保釈の判断に当たって考慮すべき事情について、実務上確立している解釈を法文に明記することによってその内容をできる限り明確化し、また、国民の皆さんにわかりやすい制度とするという趣旨でございます。

 これによりまして、保釈の適正な運用にも資するものというふうに考えております。

重徳委員 実務上確立している解釈ということでございます。

 それを前提としますが、今私が申し上げました前段の被告人の逃亡または罪証隠滅、これはいわば当然のことかなと思うんですが、要は、後段が認められるということは、被告人にとっての不利益の程度を勘案して、これ以上拘束すると健康的に問題が出るとかいうことで保釈をするということでありますから、前段は勾留する理由に当たり、後段は保釈する理由に当たるということで、その両者を勘案してバランス上どっちに重きを置くかというような条文構成になっているように見えるわけでありますが、大臣、実務上確立しているということでありますから、確認的に書いたということであって、これによって、特段、何も変わらないということなんでしょうか。

 実務上はもちろん、午前中に浜地委員が、こういう項目について保釈理由を申し立てればいいんだということが弁護人としてわかりやすいという意味では、なるほどなんて思っていたんですが、ただ、実質的に判断をするに当たっては何も変わらないということなんでしょうか、確認願います。

上川国務大臣 まさに現行法の九十条におきましては、「裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」ということで、この条文のとおりということでございます。

 そして、改正におきまして、保釈の判断に当たっての考慮事情ということで、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、」ということで、「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、」との文言を加えるということにしたところでございます。

 現実に、こうした判断にのっとって、全体的に、総合的に判断をしているということでありますが、保釈を申請する場面におきまして、こうした健康上、経済上、社会生活上または防御の準備上の不利益の程度その他の事情ということについて考慮をしているということそのものを明示するということは大変大きな前進ではないかというふうに思っております。

 これは保釈そのものの適正な運用ということにも資するものというふうに私は考えております。

重徳委員 言葉尻を捉えるわけじゃないですが、この条文を加えることによって適切な運用がなされるということは、今まではいろいろと不適切な場合もあり得た、だからこそ適正化するんだというふうにも捉えられなくはない御答弁なんです。

 一般に、被疑者が逮捕されてから、皆さん御存じのとおり、四十八時間足す二十四時間、七十二時間のうちに勾留請求あるいは釈放するということでありまして、そこから先に、さらに十日、十日というふうに勾留延長がされ、また、起訴されますとそのまま勾留が続くということでありますけれども、本人または弁護人から保釈の請求があった場合には、まさに九十条に基づいて裁判所が保釈を許すかどうかを判断するわけですが、これに対して検察官も意見を述べる、実際上のでしょうか、法律に基づく運用じゃないかもしれませんが、検察官側も意見を述べるということでありまして、そういうことを勘案して、保釈するかどうかを判断するということでございます。

 ここで、林局長にお尋ねしたいんですが、本日も再三話題になっております村木事件において、百六十四日もの勾留が行われた、そして保釈の請求も四度目でようやく認められたというふうに聞いているんですが、保釈の判断が実質的には今回の法文にのっとったような判断をされていたということなのかもしれませんが、でも、結果的に、余りに長い拘束であり、また、その間、村木さんがどうやってそれを耐え、しのいできたかなんていうことがいろいろな文章でも書かれているものを目にするわけなんです。

 この百六十四日もの勾留というのは、客観的に言って、これはえらいことだったな、しかも、結果的には冤罪なんだから大変なことだったというふうに一般的に見受けられるわけですが、この百六十四日間の長期間の勾留というものを問題だというふうに捉えていらっしゃいますか。問題なかったということなんでしょうか。そして、問題だとすれば、それはどこに問題があったと捉えていらっしゃいますでしょうか。

林政府参考人 御指摘の事件につきまして、被告人とされた村木さんは、起訴後四カ月以上にわたって保釈が許可されず、身柄拘束が続けられたものと承知しております。

 この場合の保釈を許可するかどうかについては、その当時の証拠関係等に基づいて裁判所において判断された事柄でございますので、そのこと自体につきましては、法務当局として言及することは差し控えさせていただきたいと思いますけれども、本件につきましては、検察による逮捕、起訴自体が捜査を尽くされないまま行われたことなど、さまざまな問題があったものと承知しております。

 これに鑑みますと、起訴後の身柄拘束が長期間にわたり継続することになったという点に関しましても、その間の保釈請求に対する意見等の検察の対応に問題があったということは否定できないと考えております。

重徳委員 率直に問題があったことは否定できないという御答弁であります。

 今局長がおっしゃったのは、その逮捕、起訴そのものに問題はもちろんあったわけなんですが、あったというふうにお認めの上、保釈請求が認められなかったという部分には余り触れられなかったんです。

 今回、保釈をする判断において、先ほどから繰り返しているように、前段部分はいわば当然の規定であるとした場合、後段の、被告人の「健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」というものは、村木さんの場合どのように勘案されたかなんというような分析といいましょうか理由はどこかで明らかになっているんでしょうか。それとも、それは総合的にやったんだからよくわかりませんということなんでしょうか。

林政府参考人 保釈の請求が数次にわたって却下されたということ自体は、裁判所における判断でございます。裁判所においてどのような考慮過程を経てそのような決定がなされたかということについては、これはつまびらかにされていないところでございます。

 他方で、先ほど申し上げました検察の対応といたしましては、そこの判断に至るまでの間に、検察としては、保釈請求に対する意見というものを求められたわけでございます。そこにおける対応につきましては、本件自体が十分な捜査を遂げないままの起訴がなされたという点を鑑みますと、その対応に問題があったと考えておるわけでございます。

重徳委員 今回、九十条の改正でありますので、この改正条文の文言に沿ってちょっと確認をしたいと思うんです。

 そもそも逮捕、起訴の判断そのものが問題だったとか、村木さんの事件一例を取り上げるのが適切かどうかはちょっとわかりませんけれども、最終的には裁判所の判断なので、これは裁判所における運用の問題かもしれませんが、今回、私がここで確認したいのは、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれだけじゃなくて、せっかく、被告人の健康上、経済上、社会生活上などの事情を考慮するというふうになった以上は、保釈を認める場合であれ認めない場合であれ、その理由というものをこの条文にのっとって何かしらの形で明記、明確にするなんというようなことは、これは裁判所のことだから何とも言えないというお答えになりますか。きょう、裁判所をお呼びしなかったのが私の失敗だということなんでしょうか。

 それとも、検察側も意見を述べるわけですから、そのときも、例えばこの条文にのっとって、この被告人はまだ元気だから健康上も大丈夫だよとか、そういうようなことをやはりはっきりさせなければ、せっかくメルクマールができたのに、何となくだめだとかいいとか言っていてはしようがないように思うんですが、そのあたり、いかがでしょうか。

林政府参考人 今回、保釈請求に対してどのような決定をするかということについて、その場合の決定における理由といいますか考慮過程というものを法的に明示するということが義務づけられているわけではございません。したがいまして、それは個々の裁判においての対応になろうかと思います。

 一方で、検察官が保釈の請求に対してどのような意見を述べるかということについても、その意見の中身で必ずどの部分についてどのようにその意見の理由を書くべきである、こういったことは求められておりません。

 しかしながら、実務におきましては、これは全く事案にはよりますけれども、当然、その保釈請求に対して意見を述べる以上、説得力のある理由を述べる必要がございますので、そういった理由を述べる必要がある場合におきましては、やはり今回の考慮事情に掲げられた事項については触れる形で理由を述べる場合があろうかと思います。

重徳委員 やはり、今まで不明確だったところを明確化するという立法趣旨である以上は、実際やってみて、後で検証も可能なようにしておかなければ条文上書いただけということになってしまいますから、ここはやはり今後の勾留のあり方、ずっと議論がありますけれども、私もこれまでの委員会で指摘をしておりますが、外国から見ると拷問のような取り調べだとか、いろいろな指摘もあるわけです。それから、実際、結果的に冤罪だった、これはあってはならないことでありますけれども、人間のなすことですから、ヒューマンエラーというものはあるかもしれない。だけれども、そういうときにも必ず事後的なチェックがかけられるような運用をしなければ、同じことの繰り返しになりかねないと思います。

 この法律を成立させるとすれば、この部分についての運用についてもきちんとした対応を求めたいと思います。意見を申し上げます。

 それから、もう一点、保釈に関連して、少年法、少年犯罪との関係で質問させていただきます。

 つい先日、毎日新聞の世論調査で、少年法の適用対象の年齢を十八歳未満というふうに引き下げるべきかどうかについて、引き下げ賛成が何と八〇%なんですね。反対は一一%にとどまるということでございます。

 世論調査ですから、その時々の揺れ動く部分は非常に大きいとは思いますけれども、これは私の印象でございますが、例の川崎市や愛知県の事件でも、子供たち、少年たちの本当に陰惨な事件がここのところ多発しております。

 それに対して一般の皆さんが、今回、少年法の見直しについて、十八歳、十九歳はもうすっかり成熟して立派な大人なんだから、しかるべき制裁を受けて構わないだろうというような印象じゃないと思うんですよね。未熟は未熟だ、あんな未熟者はいない、だけれども、よっぽど厳罰化しなければ、少年犯罪とはいえ、とどまることがないじゃないか、厳しく対処しろ、こういう印象で少年法の改正に賛成している人も多いんじゃないかな、このように私は捉えております。

 本来は、更生保護、教育上の観点から、まだまだ立ち直るんだから、二十未満については違う取り扱いをしようということであるはずなんですが、何となく、最近の事件が確かに余りに悲惨だ、むごいということもありますが、氷山の一角かもしれない、本当に一部かどうかわかりませんが、そういった凶悪化した部分を捉えて、全ての少年が更生保護、教育といった趣旨じゃなく厳罰化するべきだというのは、ちょっと針が振れ過ぎている感じもいたします。

 というのも、公選法は今度、選挙権が十八歳になります。これは十八歳でも立派な大人じゃないかという判断であろうかと思うんですね。ところが、民法の成人年齢については、同じ毎日新聞の世論調査で、賛成四四%、反対四六%なんですね。ほぼ拮抗である。民法ですから、親の同意なしで結婚できるとか、親の同意なしで契約ができる、ここまではまだ至っていないだろう、未熟だろう、こういう判断なんですよ。それから、喫煙、飲酒については、賛成二四%、反対七〇%ですね。だから、十八歳、十九歳が大人なんだよねという判断ではないと私は思っています。

 そういう意味で、選挙が十八歳になったからといって全てのものを十八歳にすればいいという世論ではないのではないかな、こんな印象、感想でございます。

 質問は保釈に関連してなんですけれども、私は、確かにひどい少年も昔よりはふえているのかもしれない、だけれども、まだまだ少年というのは未熟だと思っています。そういう中で、保釈において、これは文面上は全然考慮されたような文面にはもちろんなっていないわけですが、この第九十条、少年、大体イメージ的に高校生ぐらいですね、高校生ぐらいの被告人について、保釈における特段の配慮というのはあるでしょうか。あるいは、それを念頭に置いた運用をされるんでしょうか。その場合、この条文上、どのあたりからその配慮を読み取ることができるんでしょうか。

林政府参考人 被告人が少年であるということが、保釈、特にこの刑事訴訟法九十条の考慮事情の中でどのように考慮されていくかということについての御質問だと考えます。

 その上で、まず、この裁量保釈の判断に当たりましては、保釈制度の目的、機能という観点から、まずは、その被告人が成人であるか少年であるかを問わず、判断のベースとなる事情としては、勾留の目的に直接関連する事情、すなわち逃亡または罪証隠滅のおそれの程度が考慮され、その上で、身体拘束の継続により被告人が受ける不利益などに関連する事情が、個々の事案における具体的状況に応じて考慮されるものと考えられます。

 他方で、少年法の四十八条一項では、「勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない。」と規定されているわけでございます。これは、少年への保護、教育的配慮、あるいは情操の保護という観点から、少年の勾留をやむを得ない場合に限定するものと解されているわけでございます。

 このような規定の趣旨を踏まえますと、少年の被告人の裁量保釈に当たりましては、事案に応じて、その少年への保護、教育的配慮、情操の保護といった観点も、本法律案の刑事訴訟法第九十条の中の「その他の事情」という形で考慮されることがあり得るものと考えます。

重徳委員 わかりました。結論的には「その他の事情」というところなんですね。若干想定と違いましたけれども、わかりました。

 いずれにしても、この少年法の問題は極めて重要な論点だと思います。いずれこの委員会でも審議対象になるかもしれませんけれども、しっかりとした責任ある議論をしていく必要があると思っております。

 さて、前回まで司法取引でお聞きしたかった点、ちょっとまだ十分でなかったことについて質問をさせていただきます。

 まず一つ目は、自己負罪型と捜査協力型との比較をまたさせていただきますけれども、組織犯罪の解明を目的とする捜査協力型の司法取引、この場合、捜査側からすると、典型的なパターンは、目の前にいる被疑者、被告人というのは手先の者であって、むしろ他人、組織の犯罪行為、実態解明こそが欲しい情報なのでありますね。

 ですから、これまで、自己負罪型の場合はごね得だ、小出しにするとか、駆け引きをされちゃうというような御説明があったんですが、しかし、手先として実行犯をやっていた人が、誰から指示をされたとかそういう大きな情報をやはり持っているんだと思うんです。自分の罪以上に大きな情報を隠し持っている、これを何とか引き出したい、これが捜査側の意図だと思うんですね。そうすると、結局、そうはいっても、捜査側は、どの程度の情報を被疑者が持っているかわからない状態で、持っているんじゃないかな、期待したいなと思って取り調べを行っている。そして、検察官の示す条件次第でしゃべってもいいよという、完全にこれはごね得じゃないんですかね。

 だから、自己負罪型はごね得だけれども、捜査協力型の場合は、そういうごね得というものはないとまではこれまでおっしゃっていなかったかもしれませんが、その違いがあるんだというような御説明も必ずしも当たらないんじゃないかと思うんですが、このあたり、どのようにお考えでしょうか。

林政府参考人 捜査・公判協力型の合意制度におきましても、委員御指摘のとおり、例えば、被疑者、被告人側が自分のできる協力行為を前提とした場合に、その相当と思われるものよりも有利な取り扱い、相当とされる有利な取り扱いよりもさらに有利な、あるいは過大なものを検察官に要求するということは生じ得ると思われます。当然、それにつきましては、検察官において、その場合に合意をするか否かの判断を慎重に検討することとなろうと思います。

 自己負罪型の場合に特にごね得という懸念が出てくるのは、やはり、自己負罪型を設定したときには、その対象となる被疑者、被告人は、全て自分の犯罪というものについての協力行為というものはみんながなし得るわけでございますので、交渉として出してくる協力行為として皆が出し得る立場にあるものですから、そういったごね得というようなことが生じやすい、そういうことを自己負罪型でごね得という懸念があるということで言われているんだろうと思います。

重徳委員 事件もケース・バイ・ケースですから、ちょっと想定し切ることはできないんですが、私が言いたいのは、余りあっさりと、自己負罪型はごね得だけれども捜査協力型はそんなことはないんだとか、自己負罪型は専ら裁判の効率化を目的とするものであって捜査協力型はそうじゃないんだとか、そういうすぱっと二分できないんじゃないかということについては、前回の御答弁の中でもやはり必ずしもというお話もありましたので、御理解いただいているというか、共通認識にはなっているとは思うんです。

 ちょっと最初のころの答弁だとどうも納得しかねた部分があるものですから、その辺の違いも、絶対的なものというよりは相対的な違いであり、ケース・バイ・ケースだということだと認識をいたしましたので、余りすぱっと違うんだということは、これから余り用いることのできない論法ということになるのではないかなというふうに思っております。

 さて、それから、ちょっと司法取引というのは正直よくわからないことがいろいろとあるわけなんですけれども、組織犯罪、企業犯罪というものを念頭に置かれているわけですから、会社の中でも知っている人は複数いる、それからランクもいろいろだ、意思決定をする社長さんとか役員クラスの人から、日々偽装牛肉を売りまくっていた営業担当とかそういう人たちまで、いろいろなレベルがあるわけです。そして、複数の人たちがその情報を知っているという状況が大いに想定されるということなんですね。

 であると、同じ情報を複数の人が持っている、自分も知っているけれども、あいつも知っている、社長も知っているとなったら、自分の持っている情報が価値のあるうちにしゃべった方が絶対自分が助かる、こういう心理に当然なると思うんです。駆け込み競争のような状態が起こり得るんじゃないか。

 それはそれで捜査側としては別にいいじゃないかという思いもあるのかもしれませんけれども、そうはいっても、司法取引制度の公平性、信頼性につながってくる話ですので、やらせておけばいいんだよという話ではないような気もいたしております。

 この辺の取り扱いの優先順位とか公平性について、どのようにお考えなんでしょうか。

林政府参考人 御指摘のとおり、合意制度は、多数の者が関与する組織的な犯罪等の解明を図るために利用されるものでございますので、同じ犯罪に関与した複数の被疑者がいて、検察官に対して複数の被疑者から協議、合意の申し出がなされるということはあり得るものと思われます。

 もっとも、同じ犯罪に関与したとしましても、その関与状況というのは、もとより、さまざまでございまして、犯罪の遂行の過程を通じて認識し得る事柄も当然に異なるわけですので、したがって、検察官に提供し得る情報の内容あるいは信用性なども、当然、被疑者ごとに異なってくるわけでございます。

 したがいまして、複数の被疑者から検察官に対して協議、合意の申し出がなされた場合において、検察官としては、そもそも、協議をそれぞれと開始するのか否か、また、どの被疑者との間で協議を開始するかについて、関係証拠を踏まえながら、慎重に判断することとなろうかと思います。

 その上で、協議を開始した後も、その被疑者に対して供述を求めて、可能な範囲で裏づけ捜査をしつつ、各被疑者の刑事責任の大小も考慮しながら、合意するか否か、また、どの被疑者との間で最終的に合意をするかということについても慎重に判断していくこととなろうかと思います。

 したがいまして、複数の被疑者から検察官に対して協議、合意の申し出がなされたといたしましても、また、その際に、御指摘のように先を争うような事態というものが仮に生じたといたしましても、例えば先に申し出があった者を優先的に取り扱うといった形で形式的に優先順位が設けられるようなことはないと考えております。

重徳委員 これもやってみなきゃわからない感じもしますけれども、同じ組織の中での情報ですから、他者の行為について供述することが自分とは全く関係ないとは限らないし、しゃべればしゃべるほど、人の犯罪も暴くことになるかもしれませんが、自分にもはね返ってくるということもあり得ますし、いろいろなケースがあるのではないかなと思います。

 それから、これも想像の世界なので当たっているかどうかもわからないんですが、例えば、会社、法人としての会社も司法取引の主体たり得るということでございますので、会社が、捜査に協力します、そのかわり罰金刑をまけてくれ、こういう立ち位置に立った。その場合は、会社ニアリーイコール社長あるいは役員、意思決定者ということである、そういう個人がいるわけですよ。

 つまり、わかりやすく言うと、会社と社長、そして実行犯というか、いろいろさせられていた社員がいるという状況になったときに、やはり、会社として司法取引を始めるとなると、これはもう圧倒的に社長さんがわかっている情報の方が多いわけですし、そのときに、社員さんが置いてきぼりになるというか、司法取引をする上でも不利益をこうむるというような状況も生じ得るんじゃないかと思います。いわゆる組織の論理ですね。結局、偉い人は逃げ得だということもあり得る。

 これは、そういうことも含めて、検察の方で公正な合意に持っていけるのであればいいんですけれども、なかなか大変なことだと思いますし、いろいろなさらなる事件、二次被害のようなことが起こってくるんじゃないかと思います。

 このあたり、どのようにお考えでしょうか。

奥野委員長 林局長、時間が来ていますから、短くお願いします。

林政府参考人 結局、どのように実務が推移するかということになるかと思いますけれども、被疑者である役員や会社からまず検察官に対して合意の申し入れがなされるということはもちろんあり得るものだと思いますけれども、合意制度は、組織的な犯罪等の解明を図るために利用されるものでございまして、末端の実行者を初めとする下位の関与者から首謀者等の上位の関与者に関する供述等を得ることを主眼とするものであることからしますと、そういったケースにおきまして、従業員ではなく役員あるいは会社の方とまず合意をするということは通常は考えがたいものと思います。

重徳委員 いろいろなケースがあると思います。やはりそういうふうに言っていただかないとわからない部分というか、これとて、きょうの質疑にもありますけれども、今の林局長の解釈、御判断はそうかもしれないが、法文上書いてない以上はわからないじゃないかというのが今回の刑訴法上いろいろな場面で出てきていると思います。

 こういったことは、各委員みんなで、いろいろなところの指摘をずっとこの後も続けていきたいと思います。

 きょうはありがとうございました。

奥野委員長 次に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党、関西大阪の清水忠史でございます。

 本日最後の質疑者ということで、六番目のバッターですので、自分の順番が回ってくるまでずっと緊張しておかなあかんのですよね。一番最後のバッターというのは非常にプレッシャーもあるんですが、何がプレッシャーかといいますと、用意していた質疑のテーマを前の質疑者の方々が次々と質問されていかれるんですね。私の質疑の半分ぐらいは山尾先生がされておりましたし、きょうではありませんけれども、資料を出すときなんかは柚木先生と丸々かぶるときなんかもありますのでね。

 ただ、それだけ野党の認識も共有できているのかなというふうにも思っておりまして、同時に、質疑が後ろの方になりますと政府の答弁についても検証することができますので、私、限られた時間ではございますけれども、重複するところはできるだけ割愛し、必要なところは深く掘り下げ、そしてまた違った角度でお伺いしていきたいと思います。

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案の証拠開示制度の拡充について質問させていただきます。

 冒頭、日本国憲法第三十七条第一項は何と定めているか、改めて上川陽子法務大臣にお答えいただきたいと思います。

上川国務大臣 憲法第三十七条第一項の規定を読み上げさせていただきますと、「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定されているところでございます。

清水委員 今ありましたように、「被告人は、公平な」、ここが非常にキーワードだと思うんです。「裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」とありますね。

 検察官というものは強制捜査権を持っておりますから、警察を指揮して、我々の税金も使って証拠を集めるという強い権力を持っております。一方、被告人や弁護人は私人にすぎませんので、比較になりません。公判で訴追側に有利な証拠だけを出されては公正な裁判というのはできませんので、とりわけこの証拠開示制度の拡充ということが、やはり被疑者、弁護側にとって本当に公平な裁判を受けられるものでなければならないと考えます。

 今度の法案では、公判前整理手続が行われる事件では、検察官請求証拠の開示の後、被告人側から請求があったとき、検察官は保管する証拠の一覧表を交付しなければならないという規定を設けております。また、被告人、弁護人、及び検察官にもですが、公判前整理手続を請求する権利を新たに付与し、そして開示する証拠の対象についても拡大することとしております。

 改めて伺いますが、これらの改革は、当然、刑事被告人の権利を守るものでなければなりません。先ほど答弁をお伺いしました上川陽子法務大臣からは、証拠や争点の整理とあわせて、防御の利益というお言葉がございました。これは、法務省も、当然、大臣の言われたこの防御の利益という観点が今回の証拠開示の拡充の一つの大きな要素だというふうにお考えでしょうか。

林政府参考人 証拠開示制度そのものにつきましては、適切な証拠が開示されることによって、被告人の防御の準備のために必要かつ十分な証拠が開示されるということがこの制度の趣旨の一つでございます。

清水委員 では、上川陽子法務大臣にお伺いいたします。

 この証拠開示制度の拡充、充実が、やはりもともとこの刑事司法制度改革は、冤罪事件の根絶や違法な取り調べを改めるということを契機にして行われたものですから、そうしたものに資するものでなければならないと考えております。大臣も同じ認識でよろしいでしょうか。

上川国務大臣 今回の証拠開示制度の拡充は、まさに誤判防止に資するものであるというふうに考えているところでございます。

 争点と証拠を整理する公判前整理手続及び現行の証拠開示の手続そのものを前提とした上で、今回、公判前整理手続におきまして、争点と証拠の整理と関連しつつ、類型証拠の開示でありますとかあるいは主張関連証拠の開示、こうしたものがなされるということでございます。

 このように機能的に行われるということでございますので、それを通じて誤判防止に資するものというふうに考えます。

清水委員 大臣のお言葉、誤判防止というのがありましたので、これは非常に重要な問題を共有しているということで、安心いたしました。

 先ほど来、他の委員からも質疑が出ておりますが、今回、証拠開示のあり方については、一覧表ということになっているんですね。

 特別部会においては、検察官保管証拠の全面開示という意見もありましたが、今回は、いわゆる公判前整理手続において一覧表の証拠開示というふうにしたのはなぜかと聞こうと思ったんですが、これは既に答えておられますので、一義的なものとか、明確なものにするとか、あるいは円滑、迅速化ということですので、私が自分で述べるとして。

 ということは、大きく変わらないということは、これまでの現行制度の運用が適切に行われてきたという認識でよろしいんでしょうか。これは大臣でも法務省でも。

林政府参考人 現行の制度は、平成十六年の刑事訴訟法改正により導入されたわけでございます。この制度の導入によりまして、充実した公判審理に向けて争点及び証拠の整理が適切になされるようになるとともに、被告人側の防御の準備の観点からしても、必要かつ十分な証拠の開示がなされるようになったものと考えております。

清水委員 現行制度が十分だという認識にとどまっていては、私は、この証拠開示の拡充は、決して、誤判の防止、あるいは新たな冤罪被害者を生み出さないというものにはならないと考えます。

 といいますのも、先ほど上川陽子法務大臣は、これまで検察で証拠の改ざんがあったということについては二度ないし三度述べられましたので、そのこと自体はお認めになられていると思うんですね。村木事件などのフロッピーの改ざんというのは一つの特徴です。

 あるいは、検察官手持ち証拠の開示が不十分であったために、十分証拠が出なかったことにおいて、無罪の人が勾留され、起訴され、刑を受ける、いわゆる冤罪となった事件があったはずなんですが、そうしたことは認識しておられますか。いわゆる改ざんだけではなく、出さなかったことにおいて冤罪事件が生まれた。

上川国務大臣 一連のさまざまな事件を受けての今回ということでありますが、今御質問の、証拠開示が不十分であったことで冤罪になった事件についてどうなのかという御質問でございますけれども、法務省におきまして、個別事件における証拠開示の状況について網羅的に把握をしている状況ではございません。そして、有罪、無罪の判断につきましては、まさに裁判所におきましてなされるものであるということでございます。

 個々の証拠の開示の有無が裁判所の判断にどのような影響を与えたのか、その有無あるいはその程度につきまして、法務省において明らかにすることにつきましては困難であるということでございまして、お答えしかねるということでございます。

清水委員 今の答弁は私は納得できないですね。データの改ざんがあったということについてはお認めになられましたが、それよりも、個々の事件について検証されて大臣は述べられたはずだと思うんですね。網羅的に全て承知していないとはいえ、個々の事件を把握しておられるからこそデータの改ざんがあったということをお認めになっておられるわけなので、同時に、冤罪事件において、証拠開示が不十分、もっと言えば、冤罪を立証する有力な証拠があったにもかかわらず通常審で出なかった、このことによって冤罪事件があったということを認識しておられないということは、そもそもこの証拠開示制度を拡充させるというベースのところでかみ合わなくなってくるんじゃないかと思うんですね。

 私は、あえて紹介させていただきたいと思います。

 東電OL事件、これは有名です。DNA鑑定によって、被害者の体内に遺留していた体液と現場に落ちていた体毛が、いわゆる被告人とされたゴビンダさんのものではなく、第三者、他人のものと認められ、再審無罪に結びつきました。

 通常審において、検察は、そんな証拠はない、見当たらない、見当なしといってこれらの証拠の開示を拒んできたわけですが、裁判所に促されてようやく四十二点の新証拠が開示され、これは刑を受けて十五年たってからですよ、その中に体液と体毛という決定的な証拠が含まれていたわけなんです。

 法務省にお伺いします。

 これら証拠が開示されないことによって無実の人が長期間勾留された事件について、どのように総括し、本法案に生かそうとしているんでしょうか。

林政府参考人 当該事件におきまして、通常審の段階で検察官が本来開示すべき証拠を開示しなかった、こういった旨が再審開始決定書やあるいは再審開始決定後の控訴棄却判決において指摘されていることはないものと承知しております。

清水委員 先ほど林刑事局長は、村木事件について対応に問題があったというふうにお認めになられました。では、この東電OL事件については対応に問題はなかったというふうに考えておられるんですか。

 当時かかわった検察官は、冤罪となったゴビンダさんに謝罪されております、十五年間、身柄を拘束したわけですから。そして、第一審は無罪です。そして、何度も何度も控訴して、三度目に控訴審が認められ、逆転有罪。そして今回、無罪の立証とされた証拠が出されたことでようやく冤罪が晴らされました。

 このことについて検察庁はおわびしているんじゃないですか。何をおわびしたんですか。

林政府参考人 検察当局において、結果として無罪と認められる方を犯人として長期間身柄拘束したこと、これについて謝罪をしておるわけでございます。

 他方で、通常審の段階で検察官が本来開示すべき証拠を開示しなかった、こういった旨の指摘というものについては、これ自体は、当該事件の再審開始決定書や再審開始決定後の控訴棄却判決においては指摘されているものではないと考えております。

清水委員 こだわります。無実の人を、結果、長期間勾留した理由は何ですか。どうしてそうなったんですか。

林政府参考人 一連の事件の経過については、通常審において無罪の判決がなされた後に控訴がなされ、そして有罪の判決がなされた、そしてそれが確定した。その後、再審請求審においてさまざまな証拠等の事実の取り調べがなされて、その結果、再審開始がなされ、最終的に無罪ということになったわけでございます。

 そういった経過をたどって、結果として、刑事司法全体として、本来罪のない方がこういった形で長期間身柄の拘束がなされるという不利益が起きたことについて謝罪をしたものでございます。

清水委員 結局、検察官が手持ち証拠を出さなかったということが誤判や冤罪を生んだということをお認めにならず、刑事司法全体の制度の中でやむを得ず生まれた冤罪だと言っているとしか聞こえませんね。

 さらに言いますと、ゴビンダさんの事件では、被害女性の遺体に付着していた唾液、これがゴビンダさんの血液型と違っていたということは捜査段階から判明していた。これは弁護側には示されておりません。これらが開示されていれば、そもそもゴビンダさんは十五年間も刑務所に入れられることもなく、起訴や逮捕すらされなかったというのが、弁護側や、この事件を取材した記者が共通して述べている問題意識なんです。

 改めて上川陽子法務大臣にお尋ねいたします。

 今回の証拠開示制度の改革は、通常審で出てこなかった、あるいは再審でもいいですけれども、被告の無罪を立証する証拠が出なかったことによって冤罪が生まれたということを認識した上で法改正をやらなければ、私は、この証拠開示の本来的な意義を見誤るというふうに思うんです。今の東電OL事件のいきさつをお聞きになった上で、この証拠開示の重要性、いかに被告人に対して有利な証拠であっても必ず提示するという検察側の姿勢、裏を返して言えば、検察官の恣意的な判断によって被告人が無罪であることを立証できるようなものを隠すような法制度にしてはいけないと思うんですが、いかがでしょうか。

上川国務大臣 まさに、証拠開示制度の拡充、また現行の証拠開示制度そのものにつきましては、それぞれ争点あるいは証拠を整理するということでの関連づけの中で、類型証拠をしっかりと出し、その上で主張関連証拠を開示するというプロセスそのものを通して明確に証拠を開示していくというプロセスにもなっているというふうに思っております。

 これによりまして、例えば、検察官が請求した鑑定書や供述調書と矛盾する、あるいはそごし得る内容の別の鑑定書あるいは供述書など、被告人側が検察官の請求証拠の信用性の弾劾のために必要な証拠についても、アリバイあるいは正当防衛などの被告人側の証拠に関連する証拠が開示され得ることになるわけでございまして、その意味では、現行の証拠開示制度につきましては、これは平成十六年ということでございますけれども、被告人の防御の準備のために必要かつ十分な証拠が開示される制度ということで、そういう意味でも、この間、さまざまな部会におきましても評価をされてきたというところでございます。

 さらに、それに加えて今回拡充をするということでございまして、証拠開示がより機能的に行われるように、また誤判防止にも資するようにということで、今回の拡充を制度化しているということでございます。

清水委員 ちょっと私自身、頭を冷やすためにアメリカの話をしてよろしいでしょうか。

 実は、特別部会でアメリカに視察しているんですよね。我々も行きたいところですが。私はかねてから、司法取引それから証拠開示の先進国はアメリカですから、アメリカへ行こうと。盗聴はイタリアが進んでいるということですから、これぐらいは行かないとこの刑訴法は採決できないなというふうに思っておるんですけれども。

 これは、二〇一二年十月十五日から十九日までの間で、新時代の刑事司法制度特別部会における期日外視察ということで、アメリカ合衆国ワシントンDCに委員の方々が行かれております。ここでは、司法省、連邦検事局、そして連邦捜査局、FBIですね、こういうところにも行かれて、ヒアリングをされております。

 特別部会では制度概要が報告されているんですが、ここで興味深いのが、連邦最高裁判例、ブレイディ判決についての供述があるんですが、このブレイディ判決というものは具体的にどのようなものでしょうか、法務省。

奥野委員長 林刑事局長、なるべく短くやってください。

林政府参考人 御指摘のブレイディ判決は、証拠開示に関する米国の連邦裁判所の判決でありまして、この判決におきまして、検察官は、被告人に有利な証拠のうち、被告人の有罪無罪または量刑に関して重要なものについて開示しなければならない旨判示され、そのような証拠について検察官に憲法上の開示義務があるなどとされているものと承知しております。

清水委員 端的な答弁だったと思います。

 すごいですね。いわゆる被告人に有利な証拠を検察官が必ず開示しなければならない、それで、開示しない場合、悪意がなくとも憲法違反ということなんですね。アメリカにももちろん例外規定はあるんですけれども、いわゆる連邦最高裁判例で、このように、有罪無罪にかかわる証拠については必ず出さないといけないという決まりがあるからこそ、例外規定についても生きてくるということがあるんです。

 今回の我が国の法改正ではこうしたものが生かされていないような気がするんですが、どうでしょう、ワシントンDCでこの証拠開示の制度概要を視察し、どのような検証をもって本法案に生かされたのか。当時は、法務省の大臣官房、それから法務省刑事局参事官もこのアメリカ・ワシントンDCに視察に行っておられますから、どのように生かされたのか、お答えください。

林政府参考人 ブレイディ判決につきまして、この趣旨でありますところの被告人に有利な証拠が開示されるような制度、これを導入すべきだという意見は、そもそも、現行の証拠開示制度を導入した司法制度改革の際にもそのような意見がなされたわけでございます。

 その制度設計の過程で、このブレイディ判決に象徴される被告人に有利な証拠の開示というものにつきましては、被告人に有利な証拠に該当するかというものが一義的ではなく、被告人側の主張等によって異なり得るために、その判断が容易ではないといった問題点が指摘され、そのものについては採用されなかったわけでございます。

 他方で、平成十六年の刑事訴訟法改正におきまして、今回、現行の制度であるところの、まず類型証拠を開示し、さらに被告人側の主張が明示されてから主張に関連する証拠を開示するという主張関連証拠の開示、こういう段階的な証拠開示制度が導入されたわけでございます。

 これによりまして、例えば、検察官が請求した供述調書と矛盾あるいはそごし得る内容の供述調書など、被告人側が検察官の請求証拠を弾劾するための必要な証拠、こういったものが開示される仕組みとなっております。また、アリバイや正当防衛など被告人側の主張、これは有利な証拠ということになろうかと思いますが、これを裏づけられる証拠も、主張に関連する証拠という観点で、被告人に有利な証拠も含めて開示されることとなっております。そして、こうしたことで、防御の準備に必要な証拠が適切に開示される仕組みとなっております。

 したがいまして、このブレイディ判決の趣旨としているところの被告人に有利な証拠が開示されるような制度をどのように実現するかということについては、既に現行の制度を構築する際に検討され、現行の証拠開示制度等に至っているわけでございます。

清水委員 それを言わせていただくならば、例えば、検察官請求証拠、類型証拠、そして主張関連証拠と、いわゆる三段階の証拠開示をずっとやってきた、この中にブレイディ判決が生かされていると。では、なぜ、東電OL事件などのように、無罪を立証し得る重要な証拠が通常審で出てこなかったんですか。これがうまく機能していないからということではありませんか。

 私、加えて言いたい。

 皆さんがアメリカへ行かれたこの視察報告書にこう書いていますよ。「ブレイディ判決において、被告人に有利な証拠は開示を義務付けられているが、何が有利な証拠か、それを決めるのは誰かという問題がある。判断は客観的なものではなく、検察官が決める。検察官から見れば有益に見えないものであっても弁護人から見れば有益なものがあるが、それを知ることはできない。」

 しかも、あなた方が検証されている一番重要なところでいいますと、「有罪評決がなされた後に、被告人に有利な証言をしている目撃者の存在が発覚し、再審理がなされたことがあった。多くの検察官は倫理的であるが、こういうことが起きると猜疑心が生じる。」というふうにも報告されていますよね。

 ここまで検証しているのであれば、例えば、再審請求審における証拠の全面開示だとか、少なくとも一覧表を開示する対象とするべきとか、そうしたことが法案に盛り込まれてもよかったのではないかというふうに思うんですね。

 改めて、アメリカから日本に戻ってきまして、再審請求審における証拠開示の重要性についてお伺いします。

 法制審特別部会第十五回会議、二〇一二年十一月二十一日で配付された資料では、再審請求審における証拠開示についてということが検討課題に入っていました。これは間違いありませんね、法務省。

林政府参考人 法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第十五回会議におきまして、再審請求審における証拠開示についての検討が行われております。

清水委員 続いて、年が明けた後、二〇一三年一月にまとめられた時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想では、再審請求審における証拠開示について何と書いているか。「近時、再審無罪事例が相次いでいるが、その再審請求審段階における証拠開示が十分でなかったとの指摘がなされている。」とあり、最後に、「この問題については、通常審における証拠開示の在り方についての具体的な検討結果を踏まえ、必要に応じて更に当部会で検討を加えることとする。」と結んでおりますが、これはこのとおりですか。

林政府参考人 御指摘のとおり、基本構想においては、再審請求審における証拠開示のあり方につきましては、通常審における証拠開示のあり方についての具体的な検討結果を踏まえて、必要に応じてさらに部会で検討するという整理がなされたものと承知しております。

清水委員 ところが、基本構想の発表後、この問題で集中的に議論した第二作業分科会では、再審請求における証拠開示について、事務局から配付された資料からすっぽり抜け落ちております。その後は、事務局配付資料に検討課題として記載され取り上げられることはありませんでした。これはなぜですか。ここでは「必要に応じて更に当部会で検討を加える」とありながら、その後、まともに議論をされることはなかった。なぜですか。

林政府参考人 先ほど言及しました基本構想においては、まず、通常審における証拠開示のあり方についての具体的な検討を踏まえて、必要に応じて部会で検討する、こういう整理がなされたところでございます。

 そこで、その後、基本構想の後には作業分科会が設けられまして、作業分科会においてそれぞれのさまざまな課題について検討がなされたわけでございますが、その場合に、作業分科会においては、主として通常審における証拠開示のあり方というものが検討されたということでございます。

 その上で、またその作業分科会から部会に議論が移りますけれども、その部会においては、再審請求審における証拠開示のあり方についても議論がなされたところでございます。

清水委員 議論はなされたというふうにおっしゃっておられますけれども、第二十三回会議、二〇一四年二月十四日で配付された作業分科会における検討結果を含め、事務局から配付された資料に再審請求審における証拠開示が記載されることはその後なかったんですよ。

 アメリカへ行って、ブレイディ判決等、証拠開示の重要性についていろいろ学んできた後ですよ。第二十二回会議で、例えば、弁護士の小野委員、それからアメリカにも行かれた弁護士の小坂井幹事、同じくアメリカに行かれた連合の神津委員が、第二十二回の会議録を見ますと、それぞれ、この再審請求審でも証拠開示はなされるべきだという意見を述べておられるじゃありませんか。

 あなた方は、必要に応じてさらに当部会で検討を加えると言いながら、法制審で言いっ放しにさせて、結局、最後は時間切れで、これらの再審請求審という、いわゆる冤罪で刑務所に入っている方々を救うことができるかもしれない証拠が出てくる可能性がある再審請求審での証拠開示についてなぜ今回落としたのか。ここは大問題だというふうに私は思うんですね。

 改めて聞きますけれども、法制審特別部会で、再審請求時における証拠開示を認める仕組みの必要性を唱える発言は少なくなかったですよね、私、これを読みましたけれども。この少なくなかった意見に対して、なぜこれを落としたんですか。

林政府参考人 先ほど、作業分科会では通常審における証拠開示制度のあり方について検討がなされたと申し上げました。その結果が、作業分科会からたたき台という形で部会に提示されました。部会では、そのたたき台をもとに、今御指摘がございましたが、再審請求審において証拠開示制度を導入すべきという意見を今御紹介されましたけれども、そういったことが部会において議論されたわけでございます。委員同士、あるいは幹事を踏まえての議論がそこでなされたわけでございます。

 その上で、部会におきましては、基本的に、今御指摘のあった再審請求審における証拠開示制度を導入すべきという意見がなされる一方で、やはり、同部会においては、手続構造の異なる再審請求審において通常の証拠開示制度を転用することは整合しない、あるいは再審請求審における証拠開示について一般的なルールを設けること自体が困難である、こういった意見がなされて、結局、答申において今回の法整備の対象とはなされなかったというものでございます。これが議論の推移でございます。

清水委員 第二十二回の特別部会の会議録、この委員会にも参考人として来ていただきました映画監督の周防委員がこのように述べておられるんですね。「私は基本的には全面証拠開示があるべき姿と思っているんですけれども、この部会で一蹴されてしまい、非常に残念です。」部会において既に一蹴されている、相手にされていない。

 さらに、こうおっしゃっているんですね。周防委員は、「私が部会の中で以前にも言いましたが、再審請求における証拠開示は全面的に開示すべきだと思っています。今すぐ救済されるべき人がいる、救済されなければいけない人がいるという現実を考えたときに、これはこの場で話し合う問題ではないと、負担が大きすぎるとか、そういう問題ではなくて、本当に今すぐにでも再審請求に関しては、証拠開示ということについてきちんとここで話し合われるべきだと思っています。」こう述べておられるんですね。

 周防委員がここまで述べられるということは、特別部会で議論することさえ許さないような流れがあったからじゃありませんか。

 私は、上川大臣に最後に一問聞くんですけれども、ぜひ布川事件についてお知りおきいただきたいんですね。なぜ私が、私だけではなく、きょうの質疑者の皆さんが再審請求審における証拠開示の必要性についてるる述べるのか。

 布川事件は、本人の自白と、いわゆる被告とされた桜井さんを犯行現場付近で見たという目撃証言だけで起訴して、有罪判決が下された事件です。二十九年間服役させられました。

 しかし、目撃したとされる六人のうち五人は、犯行が行われた日に桜井さんを見たかどうかわからないと証言していたのに、検察に、犯行のあった日に見たと無理やり言わされ、録取されたと述べておられます。ところが、わからないと証言していた調書が出てきて、これが虚偽の証言だったということが明らかにされました。

 桜井さん自身の自白についても、それを録音したテープに数カ所の改ざんがあった。テープを切ってつなげたり、あるいは上から録音をかぶせるという手法の跡が科学的に検証されております。もう一人の被告とされた杉山さんの録音テープについても、当初、捜査当局が一本しかないと言い張っていたものが、もう一本見つかりました。検察側の言い分が偽証と認定されて、再審無罪になったものなんです。

 こうした再審請求審における証拠開示の重要性について、認めるということが大事だと思うんですね。

 私は、この事件については聞きません、個別の案件になってはいけない。私はここをこだわりたいんですね。

 検察のデータの改ざんがある、これは絶対にだめです。このことは大臣自身も認められました。しかし、被告人を、あるいは有罪とされて服役している方を無罪とすることができる、それを立証する証拠が、意図的であれ無意識であれ、通常審であれ再審請求審であれ、公判で出てこなければ、その人の無罪を晴らすことができないんです。

 法務大臣には大きな権限が与えられていて、死刑執行を行う強大な権限を持っています。人の命をあやめるという極刑、これを下す権限が大臣に与えられております。同時に、無実の人を救う、その権限も法務大臣に与えられていると私は考えております。

 今も、無罪でありながら、冤罪を主張しながら、多くの方が再審を求めておられる。新たな証拠開示、みずからの冤罪を晴らすべく証拠を出してほしいと願っておられる方がおられる。そういう方の声を聞いたときに、今回の証拠開示の拡充で十分なんですか。やはり再審請求審で証拠の開示が必要なんじゃないですか、人の命を救うために。このことについてお答えいただいて、私の質問を終わります。

上川国務大臣 再審請求審における証拠開示制度をめぐりまして、法制審あるいは部会におきましてさまざまな議論がなされたということについては、先ほど来のお話のとおりだというふうに思っております。

 制度そのものの検討については、その意味では、今回、取り入れるということについて答申に盛り込まれなかったということを鑑みますと、なかなか難しい判断を要することだなというふうに思いますけれども、有罪、無罪の判断、まさに裁判所におきましてこのことを適正に行うことができるように、検察側としての証拠開示につきましても、今ある制度、さらにはそれを拡充するということでございますので、そうしたことを適正にしっかりと運用していく中で結果を待ってまいりたいというふうに思っております。

清水委員 終わります。

    ―――――――――――――

奥野委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 ただいま議題となっております本案審査のため、あす八日は四人の参考人に出頭していただきますが、維新の党の一人の参考人は、来る十日金曜日午前九時、参考人としてSNS株式会社ファウンダー堀江貴文君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

 次回は、明八日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時七分散会


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