衆議院

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第30号 平成27年7月8日(水曜日)

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平成二十七年七月八日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 盛山 正仁君

   理事 山下 貴司君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      大塚  拓君    鬼木  誠君

      門  博文君    門山 宏哲君

      今野 智博君    田所 嘉徳君

      田野瀬太道君    辻  清人君

      冨樫 博之君    藤井比早之君

      藤原  崇君    古田 圭一君

      宮内 秀樹君    宮崎 謙介君

      宮路 拓馬君    簗  和生君

      山口  壯君    若狭  勝君

      大西 健介君    黒岩 宇洋君

      階   猛君    鈴木 貴子君

      柚木 道義君    重徳 和彦君

      大口 善徳君    國重  徹君

      清水 忠史君    畑野 君枝君

      上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      大澤  裕君

   参考人

   (日本弁護士連合会司法改革調査室室長)      宮村 啓太君

   参考人

   (ジャーナリスト)    江川 紹子君

   参考人

   (弁護士)        小池振一郎君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

七月八日

 辞任         補欠選任

  菅家 一郎君     藤井比早之君

  辻  清人君     田野瀬太道君

  冨樫 博之君     田所 嘉徳君

  宮川 典子君     鬼木  誠君

  鈴木 貴子君     大西 健介君

同日

 辞任         補欠選任

  鬼木  誠君     宮内 秀樹君

  田所 嘉徳君     冨樫 博之君

  田野瀬太道君     辻  清人君

  藤井比早之君     菅家 一郎君

  大西 健介君     鈴木 貴子君

同日

 辞任         補欠選任

  宮内 秀樹君     宮川 典子君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、特に裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化及び証拠開示制度の拡充について、参考人として、東京大学大学院法学政治学研究科教授大澤裕君、日本弁護士連合会司法改革調査室室長宮村啓太君、ジャーナリスト江川紹子君及び弁護士小池振一郎君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、大変御多忙の中、まげて御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。

 きょうは四名の方で、本当だともう一人用意をする予定だったんですが、どうしても都合がつかなかったものですから、お一人はあさってということになっております。またそれは、議事録等を取り寄せて見ていただければと思います。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、大澤参考人、宮村参考人、江川参考人、小池参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。また、委員の質問に対してはできるだけ簡潔明瞭にお答えいただくようにお願い申し上げます。

 それでは、まず大澤参考人にお願いいたします。

大澤参考人 おはようございます。東京大学で刑事訴訟法を教えております大澤でございます。

 裁判員法の改正案を御審議の際にもお呼びいただきました。引き続きお呼びいただきましたこと、光栄に存じております。本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 本日は、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化と証拠開示制度の拡充、この二つがテーマだと伺っております。

 裁判員法の改正案について参考人として参りました際、裁判員制度と刑事司法制度改革との関係について御質問をいただきました。

 日本のこれまでの刑事裁判は、取り調べ及び供述調書に過度に依存する傾きがありました。しかし、一般国民から選ばれた裁判員に、供述調書等の書面を精読し、その内容の丹念な検討を求める、これは現実的ではありません。そこで、裁判員裁判においては、公判審理における証拠調べを、そこから直接心証をとることができるようなわかりやすいものに改める必要が生じ、あらかじめ明らかにされた争点に焦点を当て、証人の取り調べを中心とした簡明な証拠調べをする、そのような方向が追求されることとなりました。

 今回の刑訴法等の改正案も、取り調べ及び供述調書に過度に依存した捜査、公判のあり方の見直し、これを基軸としておりますが、裁判員制度の導入は、公判のあり方を見直す先駆けとなり、今回の法改正を導く牽引力の役割を果たした、そのように考えております。

 そして、本日のテーマであります保釈と証拠開示は、そのような裁判員制度の導入と密接な関係のもとに制度あるいは運用が展開をしてきた、そのような法分野であり、今回の法改正は、そのようなこれまでの蓄積を確認、定着させ、あるいはさらに一歩進める内容のものとして、基本的に適切なものであると考えております。

 以下、各法改正について意見を述べさせていただきます。

 まず、保釈制度についてでありますが、保釈は、裁判員制度の導入を一つの契機としましてその運用に一定の変化があらわれた、そのような法分野です。

 いわゆる保釈率は、一九七〇年代の半ば以降、低下の一途をたどっておりましたが、裁判員法が制定される一年前、二〇〇三年の一二・六%を底として上昇に転じ、最近、二〇一三年の数字では二〇・六%となりました。保釈が許可される場合の保釈時期も第一回公判期日前の割合がふえ、また、裁判員裁判対象事件のような重大事件についても、保釈の積極的な運用が見られるようになっています。

 このような変化の背景にありましたのは、裁判員制度の導入も踏まえ、保釈の運用を見直す実務の動きです。連日的開廷が行われる裁判員裁判では、被告人と弁護人がこれまでにも増して十分な意思疎通を図りつつ公判の準備をすることが求められ、そのためには、可能な限り保釈によって身柄拘束からの解放が認められるべきである、そのような考え方が実務に広がりますとともに、そのもとで、権利保釈の除外事由の一つとされ、同時に裁量保釈の判断にも重要な影響を及ぼしている罪証隠滅のおそれ、その解釈、運用について、これまで類型化、抽象化した判断に陥る傾向がなかったか、その点について反省を促す問題提起がなされ、どのような証拠を対象に一体どのような態様の罪証隠滅が考えられるのか、その客観的可能性、主観的可能性はどの程度か、具体的、実質的に判断する必要が再認識されるようになったと言われます。

 さて、今回の法改正は、刑訴法九十条の裁量保釈の判断に当たっての考慮事情といたしまして、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、」との文言をつけ加えるものです。

 もとを振り返りますと、今回の法律案の基礎となりました答申の取りまとめをした法制審議会の特別部会では、被疑者、被告人の身柄拘束のあり方につきましては、証拠収集手段の適正化という観点から、勾留と在宅の間の中間的な処分を設けることと、被疑者、被告人の身柄拘束に関する適正な運用を担保するため、その指針となるべき規定を設けることと、二つの方策が検討されました。

 しかし、被疑者、被告人の身柄拘束については、現状の運用についての認識、評価の隔たりが大きく、検討課題とされた方策についても意見の一致を見ることができませんでした。結局、指針規定の議論の延長線上で特定の事実の認識を前提としない確認的な趣旨の規定を設けることとなり、今回の法律案のような法改正が提案されることとなったと理解しております。

 法制審議会の答申では、この改正の性格について、国民にわかりやすい制度を実現するという観点から、「あくまで現行法上確立している解釈の確認的な規定として掲げているものであり、現在の運用を変更する必要があるとする趣旨のものではないことに留意する必要がある。」との注意書きがされています。

 このような経緯を振り返ってみますと、今回の裁量保釈に関する法改正は、極めて限定された趣旨、内容のものにも見えます。しかし、新たに付加される文言を見ますと、裁量保釈の考慮事情として防御の準備上の不利益の程度が挙げられていることが注目されるように思われます。裁量保釈の考慮事情として防御の準備に対する配慮というのを挙げるのは、近時の保釈運用の見直しの中で登場し、そしてまた、それを指導した視点であり、この規定は、近時の保釈の動きを前提に、それを確認し、さらに近時の動きを後押しする、そのような意味を含む規定だと言えるように思われます。その意味で、国民にわかりやすい制度を実現するという趣旨ばかりにとどまるものではなく、保釈の適正な運用、ひいては身柄拘束の適正な運用にも資する、そのような法改正として、決して意味の乏しいものではないというように思っております。

 次に、証拠開示の拡充について申し上げます。

 いわゆる検察官手持ち証拠の被告人、弁護人側への開示のあり方につきましては、現行刑事訴訟法の施行に端を発する長年の論争が存在いたしました。しかし、裁判員制度の導入を含む刑事司法改革の一環として行われました刑事訴訟法の改正におきまして、刑事裁判の充実、迅速化の方策として公判前整理手続、期日間整理手続が導入され、その中に、争点、証拠の整理と結びつけられた段階的な証拠開示制度が整備されました。今回の法改正は、この証拠開示制度の枠組みを前提に、その一層の機能強化を図り、公判審理の充実、活性化を図る趣旨のものと言えます。

 特別部会の議論の過程では、このような現行の制度を抜本的に改め、いわゆる事前全面開示の制度の採用を説く見解も見られました。しかし、証拠開示には、罪証隠滅、証人威迫、関係者への報復、嫌がらせを招くおそれ、あるいは関係者の名誉、プライバシーを害するおそれ、国民一般の捜査への協力確保を困難にするおそれなど、さまざまな弊害の危険が伴うことも指摘されてきており、事前全面開示の制度は、このような危険に対し無防備に過ぎることは否めないように思われます。

 さらに、被告人側の主張と無関係に証拠を開示すると、主張、争点の不必要な拡散を招くおそれがあること、開示証拠と矛盾しない弁解が作出され、当事者の攻撃防御を通じた事案の真相解明が損なわれるおそれがあることといった弊害も指摘をされてきております。

 翻って考えますと、職権主義のもと、捜査機関が収集した証拠が基本的に全て裁判所に引き継がれるのと異なり、当事者主義のもとでは、捜査機関が収集した証拠のうち裁判で用いられるのは公判廷で証拠として取り調べるものに限られ、それ以外の証拠は、捜査機関が捜査目的で入手したものとして保管されることになります。その目的外で外部に開示することは、他に正当な目的がない限り許されないのが原則であるはずです。被告人側の防御準備のために開示することはもとよりあり得ることであるとしても、その防御上の必要性を問うことなく開示するとすれば、それが保管の趣旨と整合するかには疑問が残るようにも思われます。

 これらの点を考えますと、現行証拠開示制度の枠組みを前提にその機能強化を図る法律案の方向は、基本的に適切なものと言えるように思われます。

 次に、具体的制度に移ります。

 その第一は、証拠の一覧表の交付制度です。

 現行証拠開示制度における類型証拠、主張関連証拠の開示は、被告人側の請求により行われ、請求に当たって、被告人側は、開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項を明らかにする必要があります。しかし、訴追側の証拠の収集状況を知る立場にない被告人、弁護人にとっては、どのような証拠をどのように開示請求すべきかの判断が必ずしも容易ではない場合も考えられます。

 そこで、開示請求の手がかりを供し、証拠開示請求の円滑化、迅速化を図ろうとしたのが証拠の一覧表の開示制度です。公判前整理手続に付された事件であれば、対象事件に限定はなく、記載される証拠の範囲も検察官が保管する証拠の全てにわたり、交付の時期も類型証拠の開示請求前とされておりますから、それらの点では間口の広い制度と言えるように思われます。

 一覧表の交付制度の設計に当たり、最も議論があったのはその記載事項です。

 法律案は、ここでは繰り返しませんが、検察官の実質的な判断、評価を必要としない一義的で明確な記載事項とすることにより、一覧表の記載の正確性をめぐる争いが生じることを避けるとともに、一覧表の作成が過度の負担となることも避け、手続の円滑、迅速な進行を図ろうとしたものと言えます。

 これらのうち、供述者の氏名が記載される供述録取書の場合、一覧表の記載が開示請求の必要性を判断する際の有力な手がかりとなることは疑いありませんが、それ以外の証拠書類や証拠物の場合には、一覧表の記載のみでは個別の証拠が何に関係するものかわからず、それだけで開示請求の必要性を判断するということは難しいかもしれません。

 しかし、開示請求に当たり明らかにしなければならないのは、開示請求に係る証拠を識別するに足りる事項であり、個別の証拠の特定が求められているわけではありません。そのような開示請求の手がかりとしては、法律案のような記載事項の一覧表でも一定の役割を果たすことは期待できますし、また、制度ができれば、それを円滑に運用するために、法曹三者の間での運用上の工夫が生まれる余地もあるように思われます。

 逆に、一覧表に内容を盛り込み過ぎますと、事前全面開示について指摘されるのと同じ問題が生じかねないことにも留意が必要であるように思われます。

 一覧表のほか、公判前整理手続の請求権の付与と類型証拠開示の対象の拡大も提案されておりますが、これについては、時間の関係もありますので、ここでは省略させていただきます。

 以上、私の意見です。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 どうもありがとうございました。

 次に、宮村参考人にお願いいたします。

宮村参考人 日本弁護士連合会で司法改革調査室の室長を務めております宮村と申します。本日はよろしくお願いいたします。

 当連合会の本法律案についての意見、全般的な意見及び取り調べの録音、録画についての意見は、本年六月十日の本委員会で副会長の内山弁護士から申し上げたとおりです。

 本日は、身体拘束及び証拠開示制度について意見を申し上げます。

 まず、身体拘束制度についてです。

 言うまでもなく、身体の拘束は重大な人権の制約です。身体を拘束された被疑者、被告人は、四六時中、寝食も含めて全ての動作が監視のもとに置かれることになります。身体が拘束される期間が長期化すれば、仕事を失うこともあります。また、身体を拘束されている状態では、弁護人との打ち合わせの機会が制限されてしまいますから、防御権の行使も困難になってしまいます。

 従来、とりわけ、嫌疑を否認し、無実を訴える被疑者、被告人について、容易に身体の拘束を続けるという運用が行われてきました。

 取り調べで黙秘をすること、嫌疑を否認すること、供述調書への署名、押印を拒否すること、そして公判で検察官が取り調べを請求した証拠書類に不同意の意見を述べること、これらは、無実を訴える被疑者、被告人にとって当然の権利の行使です。ところが、そのような否認または黙秘の態度を理由として、容易に、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由、あるいは逃亡すると疑うに足りる相当な理由を認めてしまい、勾留を決定し、保釈請求を却下する、そのような運用が従来行われてきました。いわゆる郵便不正事件でも、罪を認める供述をした被告人には早期の保釈が許可されたのに、無実を訴える村木厚子さんには百六十四日間にもわたって勾留が続けられました。

 先ほども申し上げたとおり、勾留された被疑者、被告人は、四六時中、全ての動作が監視のもとに置かれることになります。弁護人以外との面会は、一日一組、ごく短時間しか認められません。接見禁止が決定されれば、家族や友人などの一般人とは一切会えない状況が続きます。そのような過酷な状況で捜査機関の取り調べを受け続けることになります。起訴された後も保釈されない状況が続けば、捜査は終わっているのに、いつ終わるともしれない、出口の見えない過酷な状況に置かれ続けることになります。

 無実を訴える人を容易に身体の拘束下に置くという運用は、被疑者、被告人の自由を不当に制約するばかりか、冤罪を生む大きな要因になってきました。本当は罪を犯していないのに、身体を拘束されている過酷な状況から逃れたいばかりに、捜査機関の見立てに沿う供述をし、虚偽の自白をしてしまうという結果をもたらしてきました。

 無実の人が無実を訴えていることを理由に身体の拘束を続けるようなことは、決して許されないと言うべきです。被疑者、被告人の身体拘束が許されるのを例外的な場合に限定し、無実の人が身体の自由と引きかえに自白を強いられるようなことが決してないように、身体拘束制度を抜本的に改善する必要があります。近年、勾留請求の却下率や保釈の許可率には改善の兆しがあります。しかし、その改善はいまだ不十分であると言うべきです。

 このように、従来の身体拘束制度には極めて問題があったからこそ、日弁連は、その改善に向けてさまざまな提言をしてまいりました。具体的には、勾留及び保釈の裁判に当たって、被疑者、被告人が否認または黙秘したことなどを理由として不利益な取り扱いをしてはならない旨の規定の創設、そして、身体を拘束することなく罪証隠滅や逃亡を防止する住居等制限命令制度の創設などを提言してまいりました。

 本法律案は、裁判所が裁量保釈の判断をする際の考慮事情の一つとして、身体の拘束の継続により被告人が受ける防御の準備上の不利益を明記するものとしています。身体を拘束されている状態では、弁護人との打ち合わせの機会が限られます。差し入れられた証拠を検討する時間も限られてしまいます。そして、身体を拘束されていることによる防御上の不利益の程度が最も大きいのは、防御準備の必要性が特に大きい、嫌疑を否認し無実を訴える事件であると考えられます。

 本法律案による裁量保釈に関する規定の改正は、身体拘束制度の運用を改善する契機になり得るものであると考えています。本法律案による改正を契機として、被疑者、被告人の防御準備の利益に十分に配慮し、そして、嫌疑を否認し無実を訴えている被疑者、被告人の身体を容易に拘束しない、そのような運用が広がっていかなければならないと考えています。

 次に、証拠開示制度について申し上げます。

 現在の刑事訴訟法のもとでは、捜査機関が作成または入手した証拠のうち、被告人側に開示される証拠は一部に限られます。公判前整理手続が導入されたことで証拠開示請求権が保障されましたが、全ての証拠の開示を受ける機会が保障されたわけではありません。また、公判前整理手続に付されていない事件では、いまだ証拠開示請求権は保障されていません。

 被告人に有利な証拠が隠されたまま過って無実の人が処罰されるようなことは、決してあってはなりません。無実の人が処罰されることがない刑事司法を実現するためには、全ての事件において全ての証拠が開示されるべきです。

 二〇〇七年十月に再審無罪判決が言い渡されたいわゆる氷見事件では、捜査機関が押収していた電話通話履歴の中に被告人のアリバイを裏づける情報がありました。しかし、公判ではそれが取り調べられないまま有罪判決が言い渡されていました。

 再審開始を経て二〇一二年十一月に無罪判決が確定したいわゆる東京電力女性社員殺害事件では、再審開始が決定した後になって、検察官から被告人側に新たな証拠が開示されました。新たに開示された証拠の中には、被害者の体から採取された唾液が被告人とは異なる血液型の反応を呈したということを示す証拠が含まれていました。私は、この東京電力女性社員殺害事件で、元被告人であるマイナリ氏の弁護団の一人でした。

 これらの事件で被告人の無実を裏づける証拠がもっと早い段階で開示されていれば、無実の方が有罪判決を言い渡されずに済んだ可能性があります。東京電力女性社員殺害事件では、マイナリさんが逮捕されてから釈放されるまで、実に十五年以上の歳月を要しました。

 被告人が虚偽の弁解をするなどの弊害を防止するために、証拠開示を制限するべきとの意見もあります。しかし、刑事司法で何よりも防がなければならないのは冤罪であるはずです。無実の人を処罰することがない刑事司法を実現するためには、全ての事件において全ての証拠が被告人側に開示されるべきです。

 確かに、刑事訴訟法は当事者主義を採用しています。しかし、捜査機関と被告人側には、証拠収集のための権限に圧倒的な差があります。

 そのような見地から、日弁連は、全ての事件に適用される全証拠の開示制度、そして証拠一覧表の交付制度の創設を主張してまいりました。

 今回の法律案は、証拠一覧表交付制度の導入と類型証拠開示の対象の拡大を定めています。検察官から弁護人に証拠一覧表が交付されれば、弁護人にとって、検察官に対して証拠開示の請求をする手がかりが与えられます。

 また、今回の法律案は、検察官及び被告人側に公判前整理手続に付することの請求権を付与することとしています。特に争いがある事件では、弁護人が充実した公判に向けた準備を遂げるために、証拠開示を受ける必要性が高く、弁護人から公判前整理手続に付することを請求する場合が少なくないと考えられます。

 今回の法律案は、いまだ全面証拠開示制度を実現するものではありませんが、証拠開示の拡充を進める改正であると言うことができます。

 日弁連は、本法律案が成立し、証拠開示が前進することを望んでいます。その上で、さらに、法制審特別部会で必要に応じてさらに検討を行うことが考えられるとされた再審請求審における証拠開示制度のあり方を含めて、証拠開示の一層の拡充に向けた議論がなされるべきであると考えております。

 私の意見は以上です。御清聴ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、江川参考人にお願いいたします。

江川参考人 おはようございます。江川です。

 今回の法改正というのは、本当に多岐に及んでいると思います。それぞれの課題をよく吟味することも大切ですけれども、少し視野を広くして全体像をチェックするということもまた必要だと思います。

 そうして見たときに、私が一番気になるのは、裁判の公開、司法の透明性、国民による検証可能性といった問題がなおざりにされていないだろうかということです。本来、日本の刑事司法は少しずつよくなって、透明性も昔より高まっているはずです。しかし、現実はどうでしょうか。

 刑事確定訴訟記録法の制定以来、裁判記録の閲覧は、国民はほとんどできなくなりました。原則は、刑事訴訟法五十三条の「何人も、」「訴訟記録を閲覧することができる。」だったはずなのに、原則と例外の逆転現象が起きてしまったわけです。

 また、裁判の公開というのも、形式的な解釈がなされ、時に非常に形骸化いたします。要するに、法廷のドアが開いていて、傍聴人が入る機会があればオーケーというのが裁判所の解釈のようです。

 前回も申し上げましたけれども、オウム事件の一審は、大半が一九九五年から二〇〇四年に職業裁判官による裁判で行われました。このときは、ほとんどの証人尋問が公開で普通の形で行われました。私たち傍聴人は、証人の証言態度が確認できました。また、被告人の家族や友人などの証言状況からは、オウムなどのカルトによる事件というのは、被害者のみならず加害者周辺にもどれだけ大きな悲しみや苦しみをもたらすか、見てとることができました。

 二〇一二年に捕まった、裁判員裁判で裁かれた三人はどうだったでしょうか。元信者の証人は、非公開だったり、遮蔽措置が施されて見えませんでした。死刑囚は、本人が通常の裁判を望んでいても、遮蔽されていて見えませんでした。被告人がオウムに行く前に友達だった人が弁護側の情状証人で出ましたが、それも遮蔽措置で見られませんでした。

 視覚による情報は重要であります。目で見、耳で聞いて、それを総合して判断したり考えたりするのは、傍聴人も同じです。ところが、高画質な4Kテレビが出てくるという時代に、法廷はラジオの時代に逆行しているわけです。

 それだけではありません。ある事件で、これはオウム事件ではありませんが、検察側証人がビデオリンク方式で証言をしたわけですけれども、その上なぜか遮蔽措置になりました。そのため、法廷のモニターが切られ、映像だけではなくて音声までもオフになりました。裁判官、検察官、弁護人の席上のモニターはオンです。傍聴人は、証人が見えないだけでなく、証言も聞こえないという状況で裁判が行われました。傍聴とは傍らで聴くと書きますが、聞こえなくても傍聴人とはこれいかにという感じがいたします。

 傍聴人の中に弁護士さんが一人いて、裁判を起こしました。これは不当であるというような趣旨ですけれども、認められませんでした。

 それはそうでしょう。これに限らず、裁判所の問題を裁判に訴えても全く無駄というのが現実です。裁判所は自分たちの問題を認めないからです。皆さん方、余り司法は批判されませんけれども、冤罪の問題でも最も責任があるのは裁判所なのに、裁判所ほど反省というものが見えない役所はありません。心の中でこっそり反省している人はいるのかもしれませんけれども、国民からは見えないのです。

 また、証拠開示に関連して、検察側証拠の目的外使用の禁止というのが昨今つくられました。

 かつては、私も、記録を全部読んで、その上でさまざまな人に取材をし、これを検証しつつ記事や本を書くということができましたけれども、今は再審請求事件でもそれができなくなっています。

 記録を読むということは公正な報道に役立つと思います。冤罪を訴えている人が、その主張を知ってもらうときに、記録の一部を見せる必要がある場合もあるでしょう。また、被告人や弁護人の訴えが信頼を置けるものなのかを確認する手段にもなります。

 読んだ人に、プライバシーにかかわる情報や個人情報をみだりに流布させないための対策はもちろん必要だと思います。けれども、刑事確定訴訟記録法のときと同じように、全て大もとで元栓をひねって情報をとめてしまうというのは、違うのではないでしょうか。

 国民が刑事司法を通して考えるべき課題はたくさんあります。冤罪だけでなく、死刑制度、知的障害や発達障害と刑事司法、犯罪の高齢化の問題、テロ対策などなど、裁判を通じて考えたり研究したりするテーマはたくさんあります。

 刑事司法は法曹三者だけのものではありません。個々の事件についてはそのように見えるかもしれませんが、刑事司法という大きな枠で見るならば、それは国民のものであります。国民の目から見てできるだけ透明な制度であることが必要です。

 今回、証拠開示の拡充ということが議論されていますけれども、この機会に、この目的外使用の禁止の問題についても改善を議論していただきたいというふうに思います。

 それから、個別の問題について幾つか申し上げます。

 きょうテーマにはなっていませんけれども、証人についてのビデオリンク方式や遮蔽措置などについて、こういう透明性を損なう方式や措置は、私は実は原則として反対であります。原則としてというのは、わずかな例外はあるということですが、なぜ反対かというと、やはり法廷はパブリックな場、公開の場所であるべきだと思うからです。

 証人がそういう場に顔をさらして出てくるのは嫌に決まっています。私がその立場になっても嫌でしょう。けれども、法廷というのは、やはり公的な場所であり、人々の目が届くべき場所であり、そういう意識と覚悟を持って出てくるところだと思います。嫌だけれども仕方がないということです。

 なのに、嫌なことを避ける方法があるということになれば、だったら私もという人が相次ぐのは当然であります。そういうふうにしてくれなければ証人として出ないと言われれば、検察官や弁護人も、事件の立証のために、あるいは被告人の利益のために、例外措置を求めます。こうして例外が積み上げられ、原則と例外の逆転が起きていくのだと思います。

 最初に遮蔽措置が講じられるようになったときは、性犯罪の被害者など、ごくごく例外的な措置だったはずです。それが、先ほどオウム事件で述べたような状況に今なっているわけです。私も性犯罪の被害者などへの例外的措置は必要だと思いますが、原則と例外の逆転が起きないような対策は必要だと思います。

 それから、きょう話題の保釈に関する問題です。

 刑訴法九十条の改正というのは、いわゆる人質司法の対策だと思いますが、申しわけありませんが、こういう微温的な対応では問題は改善しないと思います。

 先日、法制審議会のメンバーの方に話を伺って、びっくり仰天したことがありました。それは、検察や法務省常連の学者の先生だけではなく、裁判所なども、人質司法は日本には存在しないとの認識だというのです。だから、問題を改善するための話をしようにも話が全然かみ合わないということでした。

 まさか、この法務委員会では人質司法がないなどという前提での議論はされていないと思いますが、どうなのでしょうか。質問は許されないということなので、後でこっそり教えていただければと思います。

 これに関して、一番の問題は、裁判所が、これは検察もですが、被疑者、被告人が否認していることをもって罪証隠滅のおそれありとすることであります。この問題点はずっと指摘されていますが、改まっていないようであります。

 ある事件を紹介します。

 脱税の嫌疑をかけられた弁護士さんと元妻の公認会計士ですが、この二人は、逮捕から二年三カ月もの間勾留されていました。脱税の嫌疑でです。それは公判前整理手続が長引いたということがあるようなんですが、その間、何度保釈申請をしても蹴られたということです。そして、ようやく公判前整理手続が終わり、裁判が始まり、そして、その結果は一審無罪でした。検察官は控訴しているようなんですけれども、とにかく一審は無罪です。

 村木さんのときもそうでしたが、無実の人が否認をするのは当たり前です。なのに、否認すると罪証隠滅のおそれがあるととられる。そうして否認すると長期の勾留をされる。そういう不利益を恐れて虚偽の供述をしたりして、冤罪も生まれる。これが人質司法の怖さだと思います。否認しているからといって罪証隠滅のおそれありと判断してはいけないと、ぜひ法律に書いてほしいと思います。

 この脱税事件については、一審裁判長が、長期の拘束は裁判所としても反省すると述べられたそうです。反省を述べる裁判長、実に貴重で見識のある裁判官だと思います。しかし、真に反省すべきはこの方ではありません。第一回公判が開かれるまでは、いわゆる令状部が身柄に関する判断をしていたからです。この事件でも、公判担当部ではない、東京地裁十四部というところが判断したというふうに伺っております。

 公判前整理手続になっている事件は、公判担当の裁判所は、検察、弁護人双方の主張や証拠もよくわかっております。公判前整理手続中の身柄拘束に関する判断は、むしろ事情がよくわかっている担当部が行うべきではないかなと私は思っています。公判前整理手続になると、初公判までの時間がかかります。勾留の無用な長期化を避けるための対策を検討する必要があると思います。

 もう一つの問題は、勾留の手続は全くノーチェックの状態であるということです。裁判官がどういう疎明資料をもとに勾留の判断をしたのか、弁護人はわかりません。今回は、起訴後の勾留に関する条文が話題になっているようですけれども、捜査段階の勾留にも問題がいろいろあると思います。

 勾留理由開示の請求の公判も幾つか見たことがありますけれども、そこでは判断の根拠が裁判官から具体的に述べられるわけではありません。疎明資料は後々も弁護人に開示されません。身柄拘束にかかわる判断について後からチェックされたり研究されたりする可能性もないまま、若い裁判官が、まあ検察官が言うとおり勾留しておいた方が無難だからと、ばんばん勾留を認めているんじゃないかと見られても仕方がない状況があります。おかしな勾留をしたら後から確認されるという検証可能な状況をつくる必要があるのではないでしょうか。

 弁護人から請求があった場合、疎明資料は開示しなければいけないというふうにしたらどうでしょうか。そういった点もあわせて御検討いただきたいというふうに思います。

 今回の法案については、冤罪被害者の人やその支援者が反対しているというふうにも伺っています。彼らの不信感や危機感は相当なものだと思います。

 その不信感というのは、警察、検察、裁判所だけに向けられたものではないと思います。政治も、今まで幾ら声を上げても動いてくれなかった、自分たちの被害を受けとめてもらえなかった。ところが、厚労省の高級官僚である村木さんがああいうことになり、おまけに検察が証拠改ざんしたという事態があって初めて政治も動き、今回の法案になった。でも、そんなことはめったにあるものではない。ということは、この可視化も、これが初めの一歩ではなく、最後の一歩になるんじゃないか、そんな不信感と危機感があるというふうに思います。これはまさに政治の信頼性が問われている、そういう現象だと思います。

 これに対して、そうではないんだ、政治はこの問題をちゃんと見ていくし、もっといい制度にしていくんだというメッセージをはっきり出していただきたいというふうに思います。

 録音、録画だけでなく、合意制度、あるいは先ほど私が例外が例外でなくなっていくというようなことを申し上げた点、あるいは人質司法の問題点、さらには刑事司法の透明性を含めた全体像を三年後に見直すということを、何らかの形で目に見えるように示していただきたいというふうに思います。

 特に透明性の問題については、要求してくる人が余りいないと思うので、全国民を代表する先生方にその見識をぜひ働かせていただきたいというふうに思います。

 先般、アメリカの司法当局が、FIFA、国際サッカー連盟の幹部らを起訴した事件がありました。日本でいえば、起訴状と検察側の冒頭陳述を合体させたような書面が当局からネットで公表されて、日本にいてもそれを読むことができました。司法取引でFIFAの元理事がしゃべった内容や捜査協力の内容についても公表がされました。

 日本の司法も、真の意味での公開、つまり、国民の前にできるだけ開かれたものにするという意識で今後とも制度づくりをしていただきたいというふうに思います。よろしくお願いいたします。

 ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、小池参考人にお願いいたします。

小池参考人 このような機会をいただきまして、ありがとうございます。

 私は、今回、日弁連とは立場を異にします、日弁連を代表する立場で今ここでお話ししているわけではありません。ただし、長年にわたって、日弁連の各種の刑事関連委員会で活動してまいりました。

 一九八〇年代に国会に提出された刑事施設法案、留置施設法案、いわゆる拘禁二法案対策本部に入り、海外の刑事施設などを調査し、海外の刑事司法と日本との落差に驚きました。国連国際人権自由権規約委員会や拷問禁止委員会などでの日本審査に日弁連代表団の一員としてたびたび参加し、日本の刑事司法が厳しく糾弾されているのを目の当たりにしました。今世紀に入り、拘禁二法案対策本部は刑事拘禁制度改革実現本部に名称が変更されましたが、私は、その事務局長として、監獄法改正に尽力しました。

 また、日弁連製作の映画「裁判員―決めるのはあなた」と、志布志事件を扱ったドキュメント映画「つくられる自白―志布志の悲劇―」では、日弁連で初めて二つの映画をつくったんですが、日弁連サイドのプロデューサー役を務めました。

 ところで、志布志事件、氷見事件、足利事件、郵便不正事件を総括した捜査側の報告書を見ますと、担当捜査官が事件の筋を見損なった、無理をした、それを上司は余りチェックできなかったと。これは、総括しているだけと言って過言ではないと思います。上司を含めて、個人の責任にしています。なぜ担当者が行き過ぎたのか、なぜ上司がチェックできなかったのか、それは個人の問題ではなくシステムの問題ではないでしょうか。システムの問題として原因を究明しないから、同じ過ちを繰り返すのです。

 そこで、私は、有志を募って、日弁連の中に、冤罪原因を究明する第三者機関の設置を求めるワーキンググループの立ち上げを行いました。

 このような経験を踏まえまして、今回の法案について意見を述べさせていただきたいと思います。

 まず、保釈についてですが、法制審特別部会では、現状に問題はないという裁判官委員の発言があったようですが、果たしてそうでしょうか。これについては、先ほど宮村参考人などからもるる指摘されているとおりであります。

 志布志事件では、主犯とされた鹿児島県議会議員の中山さんが三百九十五日間、一年以上勾留され、その奥さんも二百七十三日間勾留されています。厚労省の村木さんは百六十四日間も身体拘束されております。否認すれば罪証隠滅のおそれがあるとされ、身体拘束され、保釈されない、認めれば保釈されるという実態は、数え上げれば切りがありません。身体拘束が自白獲得の手段とされている、人質司法であります。

 人質司法は、保釈に限りません。代用監獄で、自白するまで長時間、長期間取り調べる、これは人質司法の最たるものです。袴田事件では、代用監獄で、真夏の暑い時期に汗を拭くことも許されないで、平均十二時間以上取り調べられ、勾留満期直前にうその自白をしました。

 長時間、長期間の取り調べの中身はどのようなものだと思うでしょうか。

 被疑者の言い分には聞く耳を持たない、捜査官が一方的に認めろ認めろと迫る。ただにらみつけるだけという我慢比べ、これも一時間以上も続く。捜査官の意に沿うことを言わない限りは、この状態が何時間も続く、何日間も続く、いつまで続くかわからない。とうとう耐え切れなくなって、うその自白をする。これが長期間の勾留の実態です。

 痴漢事件では、認めれば、略式請求、罰金で済み、すぐ釈放されるけれども、否認すれば、いつまで勾留されるかわからない。職場に知られ、解雇されるおそれがあるので、やっていなくても認めるという冤罪がこの痴漢事件にどれほど多いでしょうか。これも人質司法の典型です。

 そもそも、刑事手続における公正な裁判、フェアトライアルを求める権利と、身体拘束を認めるべきか否かを判断する人身保護請求、ヘービアスコーパスと言われますが、これは全く次元を異にするものです。ヘービアスコーパスの思想は、身体拘束の合法性を繰り返し繰り返し審査することを裁判所に求めるものです。

 身体拘束は、裁判所のコントロールのもとで慎重に判断され、同時に保釈の権利が認められなければなりません。

 イギリスでは、公判前に八割以上が保釈されます。

 アメリカでも、O・J・シンプソン事件のように、殺人事件の被疑者でさえ、逮捕後間もなく保釈されています。

 スイスでは、私が一九八九年に刑事弁護士から聞いた話なんですが、勾留段階で弁護人にも証拠が原則的に全て開示されて、この被疑者は勾留すべきかどうか、双方で、当事者主義で、意見を闘わせ合って審理するというのが実態のようです。

 韓国のソウル中央地方裁判所は、第一審裁判で執行猶予もしくは罰金刑の宣告が予想される場合には令状発付をしない、身体拘束をしない、こういう人身拘束事務処理基準というのを二〇〇六年につくられました。比例原則と言われますけれども、多数の地方裁判所がこれに倣って、このような一般原則を発表しています。

 二〇〇七年韓国刑事訴訟法改正で、被疑者に対する捜査は不拘束状態で行うことを原則とするという規定が新設されました。こうして、韓国では、未決被収容者が、一九九八年には三万人を超えていたのが、二〇〇八年には、その半分以下の一万四千人にまで減少しました。

 ちなみに、この韓国の二〇〇七年法改正では、弁護人を、「正当な事由がない限り、被疑者に対する取り調べに立ち会わせなければならない。」と規定され、可視化とともに立法化されているわけです。起訴前保釈制度も導入されております。今や韓国は日本のはるか先を進んでいると言っていいでしょう。

 身体拘束について厳密な検討が常に求められているという発想の歴史が日本にはなく、安易に身体拘束を認め、それが取り調べに利用され、その供述調書が安易に裁判所に採用されるという前近代的な実務になっていると思います。通常、罰金で済む事件も、否認すれば何カ月も勾留するというこの日本の刑事司法は余りにも時代おくれだと思わないでしょうか。

 今回の法案では、権利保釈について何も手が加えられていませんが、せめて、否認していることを罪証隠滅のおそれの徴表とすることを禁止する規定は設けてほしいと思います。

 裁量保釈については、考慮事情の明確化とされる条文が書き込まれましたが、これは、現行法の解釈上一般的に認められるものを確認的に明文化しただけと説明されており、これでは、現状が改善されることにはならないと思います。

 新しい時代にふさわしい刑事司法というならば、身体拘束についてはとりわけ慎重に判断するというヘービアスコーパスの考え方に立つべきです。勾留段階で重要事項の証拠開示がなされ、勾留手続に弁護人が立ち会って、慎重に判断されるべきです。

 国連拷問禁止委員会は、日本政府に対して、取り調べ時間を法的に規制すべきであると勧告しています。

 二〇〇八年、日本でも国家公安委員会規則がつくられましたが、これは、署長の許可があれば八時間の取り調べを延長することができますよという抜け穴だらけで、規制にはなりません。拷問禁止委員会委員は、取り調べは、せいぜい午前中二時間、午後二時間、これは長くてもという意味です、夜間の取り調べは絶対だめだというふうに言っております。

 そもそも、自白するまで代用監獄で勾留するという、誤判の温床となっている代用監獄制度は廃止すべきです。二〇〇五年監獄法改正に際して、衆参両院で、代用監獄のあり方について検討すべきだという附帯決議が全会一致で採択されましたが、今回も見送られました。

 国際人権自由権規約委員会は、昨年の七月、日本政府に対して、代用監獄を廃止するためにありとあらゆる手段を講じなければならないという最大級の警告を発しております。

 続いて証拠開示ですが、袴田事件の再審請求審では、静岡地裁段階で約六百点が開示され、DNA鑑定やカラー写真などの重要な証拠が出されました。確定審で開示されていれば、袴田さんは無罪になっただろうと言われています。布川事件でも、プライバシーを理由に証拠開示が拒否され、再審段階で初めて明るみになったわけです。東電OL事件については先ほど言われたとおりです。

 虚心であるべき捜査が、道筋が見えたと思った瞬間から見込み捜査に邁進する、そういう危険があるんです。そのために、見込みに反する証拠が無視されて、故意に除外されることがあるのです。

 それを解明するのが全面証拠開示です。冤罪の突破力になるもので、一九九三年、カナダ最高裁は、検察官の全面証拠開示義務を承認しました。ところが、今回の法案は、単なるリストで、標目と作成年月日と供述者の氏名だけということになっております。これでは中身がわかりません。

 証拠は、捜査権力が税金を使って収集したものであり、国民の共有財産です。検察の使命は、有罪判決ではなくて、正しい判決を得ることだと思います。検察官による証拠の隠蔽、捏造が明らかになった今回の郵便不正事件、これがきっかけで特別部会が設置されたことを思い起こすべきであります。

 さらに問題は例外規定です。犯罪の捜査に支障を生ずるおそれがあるときには、証拠リストに記載しなくてよいとされています。犯罪の捜査に支障を生ずるおそれとは極めて抽象的で、捜査側の見立てに反する証拠、言いかえれば、弁護側に有利な証拠は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれがあるとされるでしょう。

 法制審の審議を通じて痛感するのは、捜査に支障とか真相解明という言葉がキーワードになっていまして、この言葉が出てくると、しようがないという感じで黙ってしまう。果たしてこれでいいんでしょうか。これでは、まるで水戸黄門の印籠のようなものです。

 二〇〇一年の、暴露された愛媛県警の被疑者取調べ要領によると、取り調べ室に入ったら自供させるまで出るな、被疑者は朝から晩まで調べ室で調べよ、被疑者を弱らせる意味もあると書かれています。取り調べ室は、被疑者との信頼関係の場ではなくて、被疑者を屈服させる場となっているわけです。

 真相解明という名のもとに、長時間、長期間取り調べて、取り調べを野放しにすると、必ず冤罪を生みます。

 私は、二〇一三年、拷問禁止委員会の日本審査を傍聴しました。弁護人の立ち会いを認めぬのはなぜかという多くの委員の質問に対して、日本政府は、取り調べの妨げになるからという弁明をしていました。ついに、その中のドマ委員という当時のモーリシャス最高裁判事が、自白に頼り過ぎている、これは中世のものだ、日本の刑事手続を国際水準に合わせる必要があると指摘しました。

 日弁連は、このドマ委員を日本に招請しました。ドマ委員は、警察庁を訪問したとき、私も随行したんですが、真実の追求と被疑者の人権のバランスにみんな悩んでいるんだということを言われました。彼はまた、真実は賢く追求すること、リーズナブルに追求することと強調しております。

 付言しますと、取り調べの可視化についても、最高検依命通知では、取り調べの真相解明機能が害される具体的なおそれがあれば可視化しなくていいという除外規定を掲げております。そして、今回の法案の有名な例外規定、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないときは可視化しなくていい、これは、同じ発想なんですが、果たして例外規定なんでしょうか。

 自白しそうになければ可視化しなくていいというわけですから、結局、取り調べ官の裁量で、自白しそうになければ可視化しない、自白しそうであれば可視化するという仕分け規定にすぎないのではないでしょうか。これは単なる一部可視化を法案化したものであり、とても可視化の義務化と称することはできません。

 録音、録画のないところで、密室の取り調べで脅迫、利益誘導などを行って自白を迫ることを、これでは結局、結果的には容認することになってしまいます。

 証拠開示でいいますと、犯罪の捜査に支障を生ずるおそれというこの例外規定は削除していただきたいと思います。被告人にとって有利な証拠が犯罪の捜査に支障を生ずるおそれがあるとして開示リストから除かれれば、全く手がかりがなくなります。捜査側の証拠隠しが真相解明を妨げることになるんです。このような法案の証拠開示にどれほどの意味があるでしょうか。

 新時代にふさわしい刑事司法を私たちは切に望んでおります。今、日本の刑事司法が国際社会から恥ずかしいと見られていることは本当に重要なことで、自覚すべきであります。冤罪の被害者たちがこぞって猛反発しているこの法案は一旦廃案とし、新時代にふさわしい、国際社会から中世などと言われない、近代刑事司法の原則にのっとった法案をつくり直していただきたい。

 刑事訴訟法は国の根幹にかかわる法律であり、多数決で強行採決するような問題ではないことを訴えて、意見陳述を終わりたいと思います。

 どうもありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。若狭勝君。

若狭委員 自由民主党の若狭でございます。

 本日は、四人の参考人の皆さん、お忙しい中、本当にありがとうございます。

 早速ですが、私も三十五年近くこの刑事裁判、刑事手続にかかわってきております。刑事弁護もしておりますので、そういう意味においては、いつも私が悩んでいる点、この三十五年近くにおいて悩んでいる点についてまず申し上げたいと思います。

 それは、先ほど小池参考人の話の中にも、外国の権威の方が真実の発見と人権保障のバランスというものについて悩んでいるというお話がございました。私も、この三十何年間ずっと、それについていろいろと考えてきたところでございます。

 そこで、早速ですが、四人の参考人の皆さん方に一人ずつお答えいただきたいと思う点、つまり、今のバランスの問題なんですが、刑事司法あるいは刑事手続とか刑事事件に関しては、てんびんにかけて、真相発見、真実の追求という一つの価値観がありますよね。もう一つは、被告人、被疑者の人権保障というのがございます。これは刑事訴訟法の一条にも書かれているんですが、その二つのてんびんのどちらに重きを持って考えるか。

 つまり、治安維持、国民の安心、安全のためには真相発見がどうしても必要不可欠だから、やはり真相発見とか真実を追求することに重きを持って見るべきだという考え方、あるいは逆に、十人の真犯人、つまり十人の本当の犯人を逃しても、一人の無辜の者、一人の無実の者を罰してはいけないという一つの教えがあると思うんですが、それに象徴されるように、やはり刑事手続などにおいては真相発見ということよりも人権保障というのを重視すべきだというふうに考えるか、あるいは、当然それは同じぐらいに考えるということなんですが、どちらかというとこっちだというような、その辺のバランス感覚、あるいは刑事司法の基本的な理念というものについてお答えいただければというふうに思います。四人の参考人の方それぞれ、簡単で結構です。

大澤参考人 事案の真相解明と被疑者、被告人の権利の保護、どちらか。これは、どちらかというのを抽象的なレベルでお答えするのは非常に難しいと思いますが、十人の犯罪者を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ、これは一般的に認められているところであり、ただそれは、刑事司法というのは、どうしても真相解明の方に傾きやすくなる、そういう趣を持ちやすいことに対しての一つの警句であろうというふうに思っております。

 抽象的にどちらかとは申し上げられません。被疑者、被告人の権利は憲法の中にいろいろと規定されております。その中には侵すことのできないものもあり、それを侵して真相を追求するということはできません。他方で、権利の中にも、一定の真相解明のために、例えば捜査の必要上、制約を受けるような権利というのもあります。それは結局、憲法の中にバランスとして示されているということなのではないでしょうか。

 十分じゃないかもしれませんが。

宮村参考人 刑事訴訟法の規定上、被疑者、被告人の権利が制約される場面もございますので、人権制限が一切認められないということではないと承知しております。

 ただ、無実の人が絶対に処罰されないことが最優先だ、これはもう間違いないことだというふうに考えております。

江川参考人 真実発見と人権擁護というのは、必ずしも対立する概念とは限らないと思います。真実発見のためにがんがん取り調べて有罪にした、ところが、その人は犯人ではなかったというような事件がありますよね。そうなると、結局、真実を発見するために人権をないがしろにしてまで頑張ったのに、結局、真実は発見できなかったというようなこともあるので、私は、必ずしも、対立概念とばかり考えるというのは違うのではないかなというふうに思います。

 それからもう一つは、やはり冤罪というのは国家の犯罪であります。ほかの、私人がやる犯罪ではなくて国が犯罪を犯すということになるので、それを国家権力でやるということは絶対にあってはいけないというのは、一番の大事なところだというふうに思っています。

小池参考人 真実を追求して徹底的に取り調べて、朝から晩まで取り調べて弱るまで取り調べる、それによって真犯人が自白するといったケースもあるでしょう。しかし、逆に、それによって無実の人が自白を迫られる、これもあるわけです。

 今の若狭委員の質問は、答えができない質問なんですね。これはトレードオフ関係といいますが、一方を追求しようとすれば他方がだめになる、両立しないという関係でございます。ですからこそ、取り調べは適正に調べなければならない、一定の限度で調べないといけない。リーズナブルに真実を追求しなければいけないと私が先ほど紹介したドマ委員の意見は、そういうことだというふうに思います。

若狭委員 なかなか難しい質問で恐縮なんですが、実は、私が実際に取り調べをしたりとか、いろいろ法の運用をしていた関係では、そういう問題というのは、結構いつもいつも考えているところなんですよね。ですから、なかなか抽象的な話なので、答えにくいところはあると思うんですけれども、この問題というのは、本当は本質的な問題になると僕は思うんです。そこのスタンスを、どっちに重きを置くかによって、法制度というのはどういうふうになっていくか、実は、その辺のところにたどり着くのではないかと私は常日ごろ思っておるんですよね。それで聞いた次第なんですが、四人の参考人の皆さん方は、いろいろとお答えの中で、端的にこっちだとは言わないものの、やはりその辺の心というのが何かちょっと感じられるようなところがございました。

 次に、もう一度抽象的な質問で恐縮なんですが、そうした刑事司法のあり方あるいは刑事司法の理念というものを達成する方法、方法論、あるいはアプローチのことについてお聞きしたいんです。

 いわゆる演繹法と帰納法があると思うんですけれども、それと同じような問題、類似しているのかもしれないんですが、例えば、人権を擁護するためには、制度設計でこういう制度をやはりどんと最初に設けるべきだというふうに考えていくのか、あるいは逆に、真相発見とかいう問題も重要な要素ですので、その辺のバランスを、完璧な制度でないにしてもとりあえず取り入れて、検証しながら何年間かかけて、これはもう少しこういうふうにすべきだとかいうような方法で刑事司法というのをあるべき方向に持っていくというのか。

 要するに、参考人の皆さん方の御意見を聞いていると、やはり、こうすべきだとかというような御意見があると思うんですけれども、それは当然なんですが、他方、また別の参考人の先生方は、とりあえずは三年間やってみてとかという話があるので、これから我々が目指すこの審議の中において、とりあえずはこれでやってみる、そして、三年間なら三年間の検証期間を経て、もう一度そこで考え直すべきだ、あるいは修正すべきだという考えは問題なのか、あるいは、そういうような発想じゃなくて、この法案がだめならだめというような方法論しかとり得ないんだと思うのか、その辺について、これも抽象的で恐縮なんですが、四人の参考人の先生方にお聞きできればと思います。

小池参考人 先ほど、十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれという話が出ました。日本の現実の司法は、言葉は、それはみんなそうだと言うんですけれども、実際は、一人の真犯人も逃してはいけない、これが日本の刑事実務だと思います。

 ですから、今、若狭委員が言われましたように、真相解明、これを金科玉条のごとく絶対視してはだめなんだと。やはり、それを制限する、取り調べ時間も規制する、弁護人が取り調べに立ち会う、そのために、立ち会わなければ自白したかもしれない、それでもいいじゃないですか。捜査側は、それが取り調べの妨害になった、よくないと言うわけですけれども、私はそうは思わないんです。弁護人が立ち会い、そのために自白しなくなった、それはそれでもいいじゃないですか。それが取り調べを適正に規制するという方法論だと思います。

江川参考人 ゼロか一かの二元論で考えるのは違うんじゃないかなと思うんですね。もちろん、完璧な制度を目指すというのは大事だと思いますけれども、誰にとって完璧かというと、人によって完璧な制度は違うので、そこのところを、できるだけ合意できるところでやってみるというのはやはり大事なことかなと思っています。そうやって少しずつ前進させるということは大事だと思っています。

 ただ、問題は、先ほども申し上げたように、では本当に三年後にもう一度全体像を見直してくれるんですかという信頼の問題だと思います。できればそれは、三年後にちゃんとやりますと、可視化の点については法律に書いてあるようですけれども、それ以外の面についてもちゃんと見直すんだということを、やはり目に見える形で、何らかの形で示していただきたいというふうに思っています。

宮村参考人 完璧な制度をまず導入するのか、それともとりあえずの制度を始めてみるのかというのは、なかなか難しい選択です。できれば、完璧な制度がすぐ導入されれば、それはベストだと思います。ただ、ベストな制度ができないからいつまでも立ちどまってしまうというわけにはいかないと考えています。

 今、日々無実を訴えている被告人の方が裁判を進めています。日々無実を訴えて勾留されている方がいらっしゃいます。だから、できるだけ早くこの改善の道を進めなければならないと考えています。

 ですので、一歩前進する制度である限りは、ここで確実に進めてもらいたい、その上でさらなる改善の議論を積み重ねていただきたい、そのように考えています。

大澤参考人 新憲法ができたときには、恐らく刑事司法制度はがらりと変えることができました。しかし、現在がそういう時代なのかどうなのかということが一つの問題だろうと。

 そして、刑事司法というのは、被告人、被疑者を弁護する弁護の立場もあれば、検察の立場もあり、そして捜査をする警察の立場もあります。裁判所の立場もあります。非常に物の見方が分かれています。そういうところで一刀両断的な改革をどんと進めるというのは、よほどの時代状況がないと難しいところかなというふうに私は思っています。

 そういう意味では、学者的な発言ではないかもしれませんけれども、しかし、少しずつ動かせるところを動かし、それをまた検証しながら進めていく、それが一番現実的であるし、また、現在その方向で少しずつ改革が進んでいるというふうに私は認識しております。

若狭委員 ありがとうございました。

 今のお話を踏まえて、宮村参考人と小池参考人にお聞きしたいんです。

 日弁連が、ことしの三月に、今回の法案については、とりあえず速やかに成立することを強く希望するという文書を出していると思うんです。再審請求審における証拠開示制度の整備だとかいう形で若干いろいろ条件をつけておるんですが、結論としては、本改正案は速やかに成立する、それは一歩改革が前進しているからというような意見を日弁連の方で出しているんです。

 この日弁連の意見について宮村参考人と小池参考人はどう思われるかということについて、それぞれお聞きしたいと思います。

宮村参考人 まず、私の意見を申し上げます。

 日弁連の意見としてこれまで申し上げてきたとおり、この法案の成立を望んでおります。それは、今御指摘いただきましたように、この法案によって一歩進むからというふうに考えています。

 取り調べの録音、録画、身体拘束制度の改善、そして証拠開示の拡充というのは、日弁連がずっとこれまで訴えてきたテーマです。ここで立ちどまるわけにはいかないと考えています。一歩進めるためにこの法案を成立させていただき、そして議論も、ここでとめるのではなく、さらに議論していただきたいというふうに考えています。

小池参考人 一番嫌な質問が出てきまして、私は、日弁連の中で三十年間、日弁連の執行部とともに活動してきました立場で、今ここで、日弁連の方針に反対するということを公に言うのは本当につらいことがございます。しかし、この法案については反対せざるを得ない。

 可視化の問題でいいますと、これは先ほど申しましたように、一部可視化にすぎない。一部可視化では意味がないんだ、全面可視化しないといいとこ取りされてしまうんだということを冤罪の被害者たちは訴えていたんです。それが法律で固定化されてしまうわけですから、合法化されてしまうわけですから、こんな可視化法案は、全然、一歩前進でも何でもないというふうに思っております。

 証拠開示や裁量保釈については先ほど言ったとおりですが、その後、通信傍受、盗聴法の問題と司法取引の問題、このとんでもない法案を全体として考えたときには、これは、一刻も早く成立させるどころか、一刻も早く廃案にして、改めて根本からつくり直していただきたいというふうに思います。

若狭委員 私も、可視化についてはもっともっと拡大、拡充していくべきだというふうにかねてから考えております。ただ、一歩前進ということで、とりあえずは今回の法案はよしとするというふうに私自身も考えているので、そういう意味では皆さんと共有するところはあると思うんです。

 時間の関係で、裁量保釈の点についてお聞きしたいと思うんです。

 私も、これまで刑事弁護をやっていまして、保釈請求をしてもほとんど認められないということで、じくじたる思いがあります。非常に問題があるというふうに思っております。こういう形で法文に落としたとしても、結局は、私は裁判官の意識の問題だと思うんですよね。その辺は、江川参考人も先ほど、裁判官に問題ありというお話がありましたので、その辺の裁判官の意識の問題ということについて御意見を賜ればというふうに思います。簡単に結論だけ、四人の先生方にそれぞれお聞き願えればと思います。

江川参考人 裁判官に一々何か言ったりすることはできないと思うので、やはり制度とか、あるいは見られているというところが意識を変えるんだと思うんですね。

 だから、先ほど、後から検証可能なようにというふうに申し上げたのはそこで、やはり後から人に見られるというところが、変な判断はできないという緊張感を高めるのではないかな、そういうような制度が必要ではないかと思います。

宮村参考人 最後は裁判官の意識そして判断次第というのは御指摘のとおりです。だからこそ、現行法のあるべき解釈を変えるものではなくても、今の刑事訴訟法の裁量保釈の条文というのは全くオープンで、何を考慮するかということが書かれていないんですが、そうではなく、被告人側の防御ということを考慮するんだということを法律でしっかり書くということは、裁判官の意識に与える影響というのは十分にあるんじゃないかというふうに考えています。

 以上です。

大澤参考人 最初の意見の中である程度述べたつもりでおりましたけれども、保釈については、まだ評価はいろいろあるかもしれませんが、しかし、かつてに比べると随分変わってきた。それは、裁判官自身の中で、特に裁判員制度の導入を踏まえながら、保釈のあり方について見直そうという動きが出てきたということであるかと思います。

 そして、今回の九十条は、その動きを踏まえて現在の解釈を定めるということであり、私はそれなりに意味があるものだというふうに思っております。

小池参考人 今回の裁量保釈の規定は、ないよりはあった方がいいという程度の話でございまして、現状と変わらないんだということですから、今回の法案については冤罪事件を踏まえてもっと根本的につくり直すべきだという立場ですので、中途半端なものではなくて、罪証隠滅のおそれというふうな規定についての権利保釈の問題も含めて、きちんとここで取り組まないといけないというふうに思っております。

若狭委員 ありがとうございました。これで私の質問は終わります。

奥野委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 本日は、四名の参考人の皆様に当委員会までお越しいただきまして、貴重な御意見を賜りましたこと、心より感謝と御礼を申し上げます。

 身柄拘束、人質司法についてのお話もございました。私も、弁護士として、今の人質司法ということについては感じるところがございました。例えば、器物損壊事件、初犯で、このことを自白したらすぐに出られる、明らかに実刑判決は受けないというようなケースにおいても、その方が否認したばかりに半年以上身柄拘束された事件も担当しました。こういった現状というのは変えていかないといけないと思っております。

 その上で、きょうは、時間の関係で、証拠開示制度の拡充に関してお伺いしたいと思います。

 まず、弁護士の大先輩である小池参考人にお伺いしたいと思います。小池参考人は、一九七四年弁護士登録ということで、私と山尾委員が生まれた年になられたということで、四十年弁護士歴があるということです。

 平成十六年の刑事訴訟法の改正によって、被告側から、類型証拠の開示請求また主張関連証拠の開示請求というのが認められることになりました。長年、四十年間の今までの弁護活動において、この平成十六年の刑事訴訟法改正によって、証拠開示の拡充、被告人の防御権が飛躍的に向上したんじゃないかというふうに私は思いますけれども、そのあたりの認識、見解についてお伺いしたいと思います。

小池参考人 基本的な認識は、私も、飛躍的かどうかという問題はあるんですけれども、かなり拡充しているということは認識しております。これは、とりわけ裁判員裁判ができて、このような制度ができて、従来と比べてかなり証拠開示が広がったということは認識しております。

 しかし、これはあくまでも任意の証拠開示でございまして、任意といいますか、全面証拠開示ではないという意味ですね、重要な証拠が埋もれている、この問題についてこれで救済できるものではないというふうに思っておりますので、この機会に全面証拠開示についてぜひ規定していただきたいというふうに思っています。

國重委員 ありがとうございました。

 今、小池参考人がおっしゃった、公判前整理手続また期日間整理手続に付された事件に関しては、全面開示ではないけれども、類型証拠開示請求また主張関連証拠開示請求というのが認められたことによって、被告人の防御権というのは一定程度向上したということの認識は共通理解としてあると思います。

 ただ、公判前整理手続また期日間整理手続に付されていない一般事件に関しては、このような類型証拠開示請求等はございません。弁護士実務としても、自白事件、また量刑事情に争いのないケースであれば、特段、証拠開示請求するというのは基本的にはないんじゃないかなと思っております。

 ただしかし、公判前整理手続等に付されていない事件であっても、否認事件であるとか、起訴事実については認めていても量刑事情に争いがあるケース、これについては証拠開示請求をしていく必要性があると思われます。

 そこで、きょうは実務家の参考人二人を中心にお伺いしたいと思っているんですけれども、実務上の運用、私も実務家ですけれども、私が言うと余り説得力がありませんのでお二人の参考人にお伺いしたいんですけれども、こういった類型証拠開示請求とかの対象にならない事件であっても、実務上、弁護人がこういった争いのあるケースで検察官に証拠開示を求めた場合には、検察官も任意に開示に応じるということが結構柔軟に行われているというようなことを、私の検察官の知人にも、また弁護士の知人にもそういったことを聞くんですけれども、小池参考人、また宮村参考人のそれぞれの認識についてお伺いしたいと思います。

宮村参考人 御指摘のとおり、現在の実務上、公判前整理手続に付されていない事件でも、検察官がある程度、もし公判前整理手続に付されたならば開示することになるであろう証拠を開示する運用が行われています。しかし、その任意開示というのは、法的な公判前整理手続の中での証拠開示と質が違うものだと理解しています。

 なぜならば、法的な開示義務がないということは、本当に迷ったときにその証拠を開示しない自由が検察官にあるということです。一から十ある証拠のうちの一から九までは問題ないから開示したとしても、最後の十番目の証拠について開示したか開示していないか、それが被告人側から見えないということです。

 任意開示がされる場合には、この証拠を開示しますという連絡が来る。そして、もう一つの証拠が開示されていないかどうかは、法的な義務がない以上は、被告人側からは何の保障もないということになりますので、だから、法的な枠組みの中での証拠開示制度をきっちりつくって、法的な要件に該当する証拠はきっちり出るんだということを法的に保障することが重要だというふうに考えています。

小池参考人 今の宮村参考人と同じ見解を持っております。

 とにかく、迷ったときにどうするか、いざ、本当にシビアな事件、何とか検察が面目を保って捕まえないといけない事件、こういうときにどうするかが問題なんです。

 認めて問題のない事件は、はっきり言って、どうでもいいと言うとちょっと語弊がありますけれども、全面証拠開示してもしなくても、そもそも弁護人は求めないかもしれませんし、求めないでしょう。ですから、それはそれでいいのであって、少なくとも弁護人が求めれば全面証拠開示はすべきだ、そういう制度にはつくるべきだと思います。

國重委員 ありがとうございました。よく実務の運用ということを認識させていただきました。

 続きまして、今般の刑事訴訟法の改正におきまして、検察官及び被告人、弁護人に、公判前整理手続また期日間整理手続の請求権が付与されることになっております。

 これも、実務上の感覚、また、そういった実務のことをお伺いしたいと思うんですけれども、弁護人としてこの請求権を行使する場面というのはどのようなケースが想定されるのか、お答えいただきたいんです。例えば私、検察官が任意に開示に応じないとかいった、証拠開示を十分に担保するためにもこういった請求権は資するのかなというふうには思うんですけれども、この請求権を行使するケースとしてどのような場面が想定されるのか、お伺いしたいと思います。

小池参考人 先ほど申しましたけれども、特に認めて争いのない事件ではなくて、本人も否認している、あるいはこの捜査は非常に問題がある、こういった場合に請求するということになるだろうと思います。

 その場合に、証拠開示は、もちろん、従来のそうでない場合よりはかなり広く開示されるわけですけれども、全てが開示されるわけではないし、同時に、証拠制限とか時期の問題とか、いろいろなマイナス面もあるので、総合的に判断して考えると思います。

宮村参考人 御指摘のように、まずは証拠開示の十分な機会がないと充実した公判の準備ができない場合が考えられると思います。

 もう一つは、検察官の主張立証構造をはっきりさせる必要がある事件というのがあると思います。

 私の経験でこういう経験があります。あるテーマについて検察官側証人が尋問を受けました。その後、そのテーマについて弁護側証人が尋問を受けて、被告人側に有利な供述をしました。すると、裁判長が検察官の方を向いて、検察官、どうしますか、もう一回あの人を連れてきますかと言って、また同じ検察官側証人を連れてきて、同じテーマについてもう一回供述させたということがありました。

 公判前整理手続に付されていない事件では、検察官の証拠調べ請求の時期にも制限がありませんから、こういうことが許されてしまうということだと思います。

 被告人側として、まずしっかり検察官の主張立証構造を固めさせて、その上で防御方針を立てて防御活動をする必要があるという事件があると思います。そのような事件では、検察官の主張立証構造をまずしっかり明示させるために、公判前整理手続に付する、そのような請求をすることになると思います。

 以上です。

國重委員 ありがとうございました。

 確かに、今回、被告人、弁護人にも、公判前整理手続に付す、こういった請求権が認められることになりました。公判前整理手続に付されることになりますと、一定程度、類型証拠開示請求、主張関連証拠開示請求というのができるようになります。

 ただしかし、弁護人が請求したからといって、必ずしも裁判所が認めるとは限らない、裁判所が却下決定する場合もあるということで、このようなケースが多くなりますと、今回の改正法では公判前整理手続と証拠開示制度の拡充というのが分断されて考えられていますけれども、私は、被告人、弁護人側からの公判前整理手続の請求権が却下決定されるようなことが多くなれば、これはまた切り分けて考えていく必要もあるのかなと思っております。今後の運用を注視していきたいと思っております。

 次の質問に移ります。

 今回、弁護側が検察官に手持ち証拠の一覧表の交付を求めることができるということになっておりますけれども、今回の改正によって具体的に刑事弁護活動にどのような影響が及ぶとお考えか、メリットがあるとお考えか、先ほども少しお話しいただきましたけれども、改めて宮村参考人、小池参考人にお伺いしたいと思います。

宮村参考人 一言でメリットを申しますと、証拠開示請求の手がかりになるということだと思います。

 今回の証拠の一覧表は、証拠の内容自体を知ることはできませんので、最終的には、証拠開示請求権を駆使して証拠開示を受けるということになります。そのときに、弁護人の立場ではどんな捜査が行われているかということがわかりませんので、どんな証拠があるかを知る手がかりになるのが証拠一覧表の交付制度だというふうに理解しています。

 以上です。

小池参考人 同じ意見ですけれども、今まで全くなかったわけですから、今までと比べますと、一定の手がかりになる場合がある、そういうことはあるかもしれませんが、ただし、供述者の氏名だけですから、中身が全然わからないという状況で、どこまで手がかりになるか。

 それから、先ほど申しました例外規定、捜査に支障がある場合にはリストからも省いていいということですから、本当にシビアな事件、世間が注目している事件で、どうしてもこれを有罪にしたい、そういうベクトルが捜査側にとって働くような事件においては、この例外規定が活用されて証拠として開示されないというおそれがありますので、それでは何ら有効性がないというふうに思います。

國重委員 ありがとうございました。

 今、両名の参考人、類型証拠開示請求また主張関連証拠開示請求を求めていく上での手がかりになるというようなことで答弁をいただきました。

 私は、これは非常に大きな意義はあると思っております。それとともに、これは、類型証拠、主張関連証拠の手がかりになるというのもあるんですけれども、私は、開示漏れの問題を防ぐことにも一役買うのではないかと思っております。

 これは私が実体験した事件でありますけれども、公判前整理手続に付されまして、私の方から、この調書とこの調書を分析すると、この間に必ず、少なくともあと一つの調書があるはずだということで、検察官に請求していきましたけれども、そのような調書はないということで、一度、二度、三度ということで粘りましたけれども、ないということで言われました。ただ、それでも、裁判官は、ないと言っているんだから進めますよということでしたけれども、粘ってやったときに、最終的に、実は、ありました、ミスですということで、開示漏れが出たケースがございます。

 私がなぜそこまで粘れたかというと、それは共犯事件で、私は成人を担当していましたけれども、共犯者が少年でありまして、少年事件というのは捜査記録というのを全件見ることができますから、この共犯者の弁護人に、こちらで何回もアタックしているんだけれども、こういう証拠はあるのかないのか、内容は言わなくていいから、あるのかないのか、どうなんですかと言って、ありますということで聞きまして、私も俄然強気になりまして、それで求めていったところ、検察官が、実はありますということを言いました。恐らく検察官は、故意に隠していなかったと思うんです。私は、この検察官を擁護するわけではないんですけれども、全体的な雰囲気で、恐らく過失だったと思います。ミスでこれを出さなかったということで、その検察官は公判の途中でかわりました。

 そういったケースにも出くわしましたけれども、私は、こういった開示漏れを防ぐためにも、今回の証拠リストをつくるというのは非常に意味のあることだと思っております。

 小池参考人も先ほどの答弁の中でも言っていただきましたけれども、今回の証拠の一覧表というのは記載事項として不十分じゃないかというような御意見でございました。

 一方で、昨日、対政府の質疑がありまして、そのときに政府の答弁として、なぜ今回のような、証拠物については品名及び数量、供述録取書については、標目、作成年月日、供述者の氏名、それ以外の証拠書類については、標目、作成年月日、作成者の氏名とされているのかということについて、政府の方では、証拠の一覧表が円滑、迅速に作成され、交付されるためには、検察官が記載する事項が一義的に明確である必要がある、そうでないと、その内容自体で将来の紛議を招くおそれがある、また、どのように要旨を記載するかということについての作業を検察官にさせた場合には、円滑、迅速に交付手続を行うということが困難になるというような答弁でありました。

 これに関して、宮村参考人の御意見を伺いたいと思います。

宮村参考人 御指摘のように、今回の証拠の一覧表に書かれる情報自体は限られたものです。例えば、証拠物であれば品名、そして証拠書類ですと標目というふうになっているんですが、これ自体も少し幅のある定義になっていますので、もちろん、検察官がこれを運用する上で、被告人側の証拠開示請求の手がかりになるという趣旨を踏まえて、手がかりになるようなきちっとした記載をする、そのような運用は必要であるというふうに考えております。

 以上です。

國重委員 ありがとうございました。

 私も、今回の証拠の一覧表の交付というのが十分なのかと言われると、十分ではないのかもしれない。ただ、先ほど言った政府の答弁との関係もあるとは思うんです。検察官がやはり恣意的に書くと、後で紛議が起きる可能性もあるというのも私は理解できないわけでもなくて、そうしますと、この一覧表に書いてあることが抽象的でよくわからないので、求釈明等を使ってそこで明らかにしていくというような運用もあるのかなというふうに今考えているところであります。

 これが最後の質問になります。

 これも先ほど小池参考人の方から御意見がございましたけれども、今回の証拠の一覧表に記載しないことができるとされる事項ということで、これは改正案の三百十六条の十四第四項で定められております。

 今、小池参考人は、「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」、非常に抽象的だ、こんなものは削除すべきだというような御意見がありましたけれども、これにつきまして、宮村参考人、大澤参考人、それぞれの御意見、検察官の恣意的解釈が許されるんじゃないかといった懸念がありますけれども、これについてどのようにお考えなのか、これを防ぐためにこうすればいいんじゃないかというふうな意見がございましたら、最後に端的にお伺いしたいと思います。

奥野委員長 大澤参考人からいきましょう。ちょっと時間がないものですから、短くお願いします。

大澤参考人 一号、二号と並んで、その三号に「犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ」とあり、一、二と並んだ後の三ということですから、おのずと趣旨は全体としてあって、それに即した解釈がされるということではないかというふうに思っています。一、二ではカバーできないようなものであって、これに該当するような場合もある、それを三号で拾うという形になっているのだと思っています。

宮村参考人 まず、今回のこの除外事由につきましては、検察官の主張に沿わないとか、そんなことでは該当しない、一覧表に記載することで罪証隠滅のおそれがあるというような、本当に極めて限られた場合を定めたものだと理解しています。

 その上で、今回のこの除外事由によって記載しないことが許されるのは、一覧表に記載すべき事項のうち所定の弊害事由がある場合ですので、全ての事由を記載しないで、一部だけを記載しない、その記載すべき事項のうち一部だけが除外されるというような場合もあると思いますので、そうであるとすれば、それが何なのかということについて求釈明なりをする手がかりになるというふうに弁護実践としては考えています。

 以上です。

國重委員 以上で終わります。ありがとうございました。

奥野委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 きょうは、四人の参考人の皆様、ありがとうございました。

 民主党の山尾志桜里です。よろしくお願いします。

 この刑事訴訟法の審議を通じてずっと思っているのは、本当にこの一括の改正が全体として第一歩と評価していいのか、あるいは、やはり傍受や司法取引との関係を鑑みるに、第一歩というふうになかなか評価し切れないという面も私の中にありまして、これが今回の根っこの一つだというふうに思います。

 その観点から、まず四名全員の方にお伺いをしたいんですけれども、司法取引は人質司法の問題を後押ししてしまうのではないかという問題意識がございます。つまり、司法取引の話をするときに、村木さんの冤罪事件も出てくるわけですけれども、いわゆる引き込み、虚偽供述をする、場合によっては身柄拘束をされている第三者にとっては、この司法取引がさらに導入をされることで、引き込み供述、検察官のストーリーに合った供述をすれば自分の身柄は釈放される、そしてさらにプラスアルファで、検察官のストーリーに合った供述をすれば自分の罪が軽くなる。そういう意味で、第三者の虚偽供述の動機づけが、プラス、今回の改正で二重になるのではないか。

 そしてもう一点、今回の審議の中で思ったのは、司法取引によって得られた供述というのは、例えば、この人が共犯者ですと名指しされた人間の勾留請求の際には、疎明資料として添付されることもございます。そして、このときには、それが司法取引によって得られた供述だよということは何ら裁判官に示されません。そうすると、この人にとっては、勾留される危険というのはさらに高まるわけですね。

 そういう意味もありまして、司法取引は、いわゆる人質司法というものに対してもう一つ大きな脅威を与えるものではないかというような疑問が私の中にずっとあるんですけれども、その点についていかがお考えか、それぞれの参考人にお伺いします。

    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕

大澤参考人 犯罪事実について、否認をしていたり黙秘をしていたりというような場合に、身柄拘束が長期化する。ただそれは、認めている場合には罪証隠滅のおそれが少なくなる、そういうふうに考慮する事情がないという意味で、そちらの方が身柄拘束が続きやすくなるということなのかと思われます。

 しかし、合意制度が入ったといたしましても、それは、合意の対象となる人について、勾留の要件が認められるのかどうか、保釈の要件が認められるかどうかという判断であり、逃亡、罪証隠滅のおそれ等についてきちっと厳格に判断していくという形で対応していくしかないのではないか、私はそう思っております。

宮村参考人 御承知のように、勾留や保釈について最終的に判断するのは裁判所です。したがって、今御指摘の問題は、本質的には、罪を争っている方についての身体拘束を裁判所がどう判断するかの問題なんじゃないかというふうに思います。

 ですので、やはりこの現状について改めなければいけない本質的な問題は、罪を争っている方の勾留や保釈についての裁判所の判断のあり方、それが改められるべきということではないかというふうに考えています。

 以上です。

江川参考人 キーワードは透明性だと思うんですね。

 先ほど若狭先生の方からお話のありました、保釈における裁判官の意識の問題もそうですし、それからこの司法取引の問題もそうですけれども、後からどれだけ検証できるような状況になるかということだというふうに思います。

 ですから、保釈については先ほど申し上げましたけれども、やはり司法取引についても、これは可視化とセットでなければいけないのではないかと私は思います。

 つまり、そういう取引を認めるには、そこに至るまでの経過をちゃんと可視化、つまり、録音もしくは録音、録画をしておかなければいけない。そういうような状況にしていただければというふうに思います。

小池参考人 今でも事実上の司法取引があるわけですね。認めれば釈放するけれども、認めなければずっと勾留されて、先ほど痴漢冤罪事件の話をしましたけれども、その事件に限らず、事実上の司法取引というのはたくさんあると思うんです。それが公然化するというか、表舞台に立つから今回の法案はいいんじゃないかという意見があるんですよ。私はそうは思わないんですね。

 今までは、警察の取り調べなどでも、こういうふうに言ってくれれば罪を軽くするように検事さんに言ってやるよとか、不起訴になるだろうねと、不確実なわけですよね。実際にどうなるかわからない場合があるわけです。

 ところが、今回は、合意書面で不起訴にしますというわけですから、明確に、おっ、自分は不起訴になるんだと思えば、捜査官の思っているような供述をしてしまうという形で引っ張り込みがますますふえるということにもなるし、そういう形の司法取引が横行すれば、事実上の司法取引もふえるだろうと思います。

 もう一点、弁護人が司法取引に関与している、弁護人の同意がないとだめだから、そこは大丈夫だという話があるんですが、私自身が弁護人になったときどうだろうかと思うんですけれども、弁護人はその被疑者の味方をしないといけないわけですから、これはうそを言っているのかどうなのかわからないと思いながらも、しかし、被疑者がこれで不起訴になるというのであれば、被疑者にとってこれは利益なわけですよね。そのときに、弁護人がどこまで反対できるでしょうか。本当のことを言わないとだめよという説得はすると思いますが、やはりどうしても合意したいというときに、弁護人はこれをとめられないんじゃないでしょうかね。

 そこで弁護人が反対すると、逆に弁護人に対して懲戒請求されるおそれもありますし、じゃあといって司法取引に同意しますと、今度は、ターゲットにされる側から弁護人が懲戒請求されるおそれがあるということで、弁護人の弁護活動は物すごく困難になり、今までの刑事弁護活動から質が変わってくるだろうと思います。

山尾委員 ありがとうございます。

 もう一つ、身柄の関係、身体拘束の関係で、宮村参考人と小池参考人に一点伺いたいと思います。

 今回、裁量保釈の明確化ということですけれども、私なぞは、権利保釈のところについても、例えば、罪証隠滅のおそれについては、今は相当な理由があれば当たるわけですけれども、せめて十分な理由というふうに改正するべきではないかというふうに思っています。

 というのも、これは私の考えですけれども、一つは、やはりこれは、今の現状がいわゆる人質司法ということで、適正な状況になっていないのだという裁判所も含めた共通認識が得られていないというのが現実なわけです。そこで、相当な理由を十分な理由というふうにしっかり法文を変えることによって、私たち立法府としては今の運用ではやはりよくないというふうに意思を示すことができるし、それを運用する実務家の皆さんにとっても、法文が変わったので今までとは違う厳しい運用をする、あるいはより適正な運用をするというふうな意識改革もできるのではないかというふうに思っています。

 なので、お二人の実務家の先生にお伺いをしたいと思います。

 権利保釈の、特に四号でしたか、罪証隠滅のおそれについては、相当な理由を、せめて十分な理由という形で法文をしっかり改正するということについてどうお考えか。私は、今、人権保障と真実発見とバランスで考えるというお話が出てきていますけれども、このバランスからいってもデメリットはそうないのではないかというふうに思っているんですけれども、いかがでしょうか。

宮村参考人 もしそのような改正がなされれば、それは望ましいことだというふうに考えています。

 御承知のように、起訴後の保釈の段階での罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由というのは、今のあるべき解釈としても、捜査が終わったのになお罪証隠滅のおそれがあるというのは、それはより高度な場合じゃなければならないというふうに考えるべきだというふうに思います。

 そうであるとすれば、今回、裁量保釈で考慮事情が明確化されるように、権利保釈除外事由の考慮要素があるべき解釈で明確化されるのであれば、それは望ましいことだというふうに考えています。

 以上です。

小池参考人 罪証隠滅のおそれというこのキーワードのために、どれほどの人質司法が横行しているか。これは、権利保釈だけの問題ではなくて、被疑者段階での勾留についても同じようなことが言えるわけです。

 やはり、これについて、先ほどの御提案のような形で修正されるということは望ましいことだというふうに思います。

    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

山尾委員 済みません、また不意打ちになってしまうんですけれども、せっかくですので、同じ質問で大澤参考人のお考えをお伺いしたいです。

大澤参考人 宮村参考人がおっしゃられましたように、勾留を最初に認める段階の罪証隠滅のおそれというものと、それから起訴された段階の罪証隠滅のおそれ、さらに被告人として公判が進んだ段階の罪証隠滅のおそれ、証拠の収集度合いあるいは証拠の取り調べの進み方、そういったものによって少しずつ変わってくる、手続が後ろになるほど恐らく罪証隠滅のおそれというのは認められにくくなるという関係にあるというのは、そのとおりであろうかと思われます。

 ただ、八十九条の四号のところだけ十分なというふうに改めるというのが、今度は、では制度全体としてうまく整合がとれているのか。現在は六十条に挙がっているのと基本的に同じ文言が使われていて、同じ罪証隠滅のおそれなのだというふうに理解されています。それについては、罪証隠滅のおそれの場合に、保釈保証金の没取の威嚇によってどれだけそれが十分に抑制できるか、そのあたりについての刑事訴訟法の考え方というのもあるいはあるのかもしれません。そのあたりも見据えて考える必要があるのかというふうに思っております。

山尾委員 ありがとうございました。

 次に、再審請求の証拠開示のルールづくりについて、全員にお伺いをしたいと思います。

 今回、第一歩と仮に評価をするにしても、本来であれば決して置き去りにされてはいけないものが置き去りにされているというのが、この再審請求における証拠開示のルールづくりの問題だと思います。

 これは、部会や分科会の資料を読んでも、積極的に必要ないという理由はほとんどなく、ただ、二点あるとすれば、制度上の整合性の問題、そして、この部会では議論をする時間がないということでありました。そして、きのう大臣にもお伺いをしましたら、いろいろなかなか困難で、慎重な検討を要するという、私にとっては大変残念な答弁でありました。

 そこで、四人の方にお伺いをしたいというふうに思います。

 この再審請求における証拠開示について、やはり何らかのルールが必要だ、裁判所のそれぞれの裁量に任せているだけではいけないのではないかというふうに私は必要性を感じているんですけれども、この必要性の有無について、そしてまた、必要性があると考えておられるのであれば、何らかの工夫はできないのか。例えば、今ある証拠開示の制度を、当面、再審にも転用、準用する、あるいは、せめて、再審において裁判所に証拠開示や一覧表の開示についての努力義務を与え、捜査機関にはそれについての協力義務を課すというような、何らかの工夫はできるのではないかと思うんですが、それについてもお考えがあればお聞かせください。

小池参考人 たしか基本構想では、この問題についても検討するというふうになっていたと思うんですが、結局は見送られてしまいました。

 まさに今、例えば死刑確定囚の場合には、死刑台にいつ行くかわからないという切迫した状況があるわけですね。一刻も早く、再審における証拠開示、全面証拠開示という方向での検討をしていく必要があるだろうというふうに思います。

江川参考人 時間はたっぷりあると思います。何か、安保の関係で九月までやるということなので、時間はたっぷりあると思うので、ぜひその辺についても御審議いただきたいと思います。

 山尾先生おっしゃったように、やはり私もルールづくりが必要だと思いますし、再審事件というのは、昔の事件、その時期に、起きたときに、そのときの日本の法律制度が十分進化していなかったという、たまたまそれだけの理由でいろいろな証拠が表に出ていなかったりするわけですから、それを、今の進化したルールをやはりちゃんと適用してやるべきではないかなというふうに思いますので、それは努力義務なのか、あるいは必ず義務づけるのか、義務づけた方が私はいいと思いますけれども、今の裁判で出てくるような証拠は再審請求審でも出すようにするというような形での改善をお願いしたいと思います。

宮村参考人 まず、再審請求審における証拠開示についてのルールづくりが必要ではないかという御質問については、私もそのとおりだというふうに考えています。

 再審請求審に今かかっている事件というのは、御承知のように、まだ公判前整理手続が導入されていない時期に審理された事件があります。そのような事件では、今の枠組みであれば開示されるべき証拠が開示されていない可能性があります。そして、再審請求審では無辜の救済ということが目指されなければなりませんから、ルールづくりが必要だというのは、まさに御指摘のとおりだと思います。

 そして、先ほども申し上げましたように、証拠開示というのは、裁量ではなく法的な義務としてなされてこそ一番大事な証拠がきっちり出てくるということになりますので、ルールづくりとしての議論が必要だというのは、まさに御指摘のとおりだと思います。

 制度としての整合性ということは、いろいろなところで議論されているところであります。確かに、裁判所が職権的に再審事由の判断をするという構造になっているのかもしれません。しかし、その審理自体は、検察官と請求人が意見を裁判所に出し合うという当事者主義に近い形で行われているのが実際ではないかというふうに思います。そうであるとすれば、再審事由の判断を裁判所がするという構造の中でも、検察官の手持ちの証拠を被告人側に開示するということ自体は何ら整合性を失うものではないのではないか、私自身はそのように考えています。

 以上です。

大澤参考人 再審請求審というのは、再審公判を開くかどうか、再審の事由があるかどうかを裁判所が職権で判断する手続だということですね。そして、特に問題となるのは、無罪を言い渡すべき明らかな証拠が新たに発見されたとき、これに当たるかどうかということであるかと思われますが、その証拠の明白性の判断の仕方について、判例で、これは新旧証拠を総合判断するのだということになっております。

 ですから、その新旧証拠の総合判断に必要な限りでは、例えば未提出の証拠等について取り寄せて調べるということは必要になってくるであろうかと思われますが、職権主義の手続を前提に考えますと、裁判所が取り寄せたものを相手方の弁護人にも開示するというのは一つの行き方かと思われます。

 そうじゃない制度設計を仮にとるのだとすると、職権主義の制度という中に、運用ではなくてやはり制度としてつくるんだとすれば、きちっとはまる制度をつくっていかなければいけないということかと思います。

 それと、今申し上げた総合評価のあり方について、実は見解が分かれているのではないかと思います。そこのところで、一体どこまでの証拠を開示することになるのかといったような問題も、具体的に検討していけば出てきてしまうということになるのかな、そのあたりも踏まえた検討が必要ではないかというふうに思っております。

山尾委員 ありがとうございます。

 最後に、時間がないので一点だけ。

 これは、今回の例外事由に、捜査及び証明に支障を生ずるおそれがあることが例外になっているということについての問題意識でございます。小池参考人からはもうこれについてのお話がございましたので、大澤参考人と宮村参考人にお伺いしたいと思います。

 刑事局長ときのう議論をしましたらば、私は、この法文では、要するに、消極証拠については、捜査に支障がある、証明に支障があるということで隠されてしまうおそれを内在している法文ではないですかということを申し上げました。そうしたら、局長は、そういう消極証拠あるいは無罪方向の証拠はこれに当たらないとおっしゃいました。そして、私がここでそう解釈したからそうなのだという趣旨のことをおっしゃいました。

 でも、私は、一局長が一委員会で答弁をしても、それをなかなかそのまま立法府として信ずることができません。やはりそれは、人の支配ではなくて法の支配である以上、この法文については相当絞るか削除するべきだと思っているんですけれども、この点について二人の御意見を聞かせていただき、終わりにしたいと思います。

大澤参考人 先ほどもちょっとお話ししましたけれども、無罪方向の証拠が犯罪の証明を害することにならないかという問題意識かと思われますが、一号、二号と並んで三号ですので、基本的には一、二と同じ性格のものというふうに理解するのではないか。そうすると、無罪方向の証拠だからそれを載せると犯罪の証明に支障があるという解釈にはならないというふうに私は考えております。

宮村参考人 私も、この除外事由の判断については、無罪方向の証拠だからという理由で一覧表の記載から除外することを許すものではないということはきちっと確認された上で定めなければならないものだというふうに理解しています。

 以上です。

山尾委員 どうもありがとうございました。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野の井出庸生と申します。きょうもよろしくお願いいたします。

 きょうは、お忙しい中、本当にありがとうございます。

 きょう、与党の先生の質問を聞いていて、大変勉強になるなと思いまして、もっともっと与党の先生の質問を聞きたいなと思いました。まず、それを一点、述べておきたいと思います。

 まず、大澤参考人に法律の見直しについて伺いたいんですが、冒頭、裁判員裁判が始まることによって、証拠の開示のあり方も変わってきた、また保釈率も変わってきたというお話がありました。私は、これからの新たな刑事司法制度を考えたときに、裁判員裁判というものが一つの中核的な制度にもうなってきているなと思っております。

 ただ、しかし、裁判員裁判制度自体もまだ不完全だと私は思っておりまして、先日、大澤参考人にもその法改正のときに来ていただきましたが、例えば対象事件、性犯罪の中でも、強姦致死傷、強制わいせつ致死傷、そういうものが裁判員裁判になって、ほかのものはならない。そうすると、被害者によっては、裁判員裁判では証言はしたくないと。そのことが結果として、罪名落ちといいますか、性犯罪の犯罪者を利するようなケースもあるというような話をちょっと先日伺いまして、あのとき見直し規定を裁判員法そのものに設けたことはやはりよかったと思っております。これは永遠に完成はないのかもしれませんし、不断の見直しというものが必要かと思います。

 今法案についても、見直し規定が附則の九条についております。

 江川参考人から先ほどお話がありましたが、「政府は、取調べの録音・録画等が、被疑者の供述の任意性その他の事項についての的確な立証を担保するものであるとともに、取調べの適正な実施に資すること、取調べの録音・録画等に伴って捜査上の支障その他の弊害が生じる場合があること等を踏まえ、この法律の施行後三年を経過した場合において、」云々、そういうことなんですが、よく読むと、可視化の部分について見直す気があるのかないのか、とりあえず三年、そういう文言なんです。

 私は、可視化に限らず、今回テーマとなっております保釈の考慮事由の明文化ですとか、また証拠開示のあり方ですとか、もっと言えば、江川参考人からお話があったビデオリンク、裁判の公開性に係ってくる問題ですとか、やはりこの法律についても広く見直す機会というものが必要かなと思っておるんですが、この法律がこれである一定程度完成形と評価できるのか、そうではなくて、やはり見直しの機会を設けた方がよいと思われるか、大澤参考人の御意見をいただきたいと思います。

大澤参考人 先ほど、最初に若狭委員の御質問のところで、一括的な、一刀両断的な改革なのか、それとも少しずつ進めていく改革なのかというお話がありましたけれども、今回の改革も、いろいろなバランスをとりながら一歩ずつ進めていくという改革になっているかと思います。

 その中でも、しかし、新しい、これまでにないような制度というのが多々入っていて、それについては運用を見ながらというところもあるかと思いますので、私は、少しずつ進めていくという考え方からも、また、新しい制度がいろいろ入っているということからも、見直しについては広くやられるのがよろしいかというふうに思います。

井出委員 ありがとうございます。

 次に、宮村参考人に伺います。

 日弁連は、この法律の早期成立ということをおっしゃられているかと思うんですけれども、この法案の魂と申しますか、今回の法改正の本当の目的は一体何ぞや、そういうところを今私は考えております。

 ちょっと話がそれるんですが、今、安保法制をやっておりまして、我々維新の党も独自の案というものをつくりました。憲法の枠内だと言われるものができて、私もひとまずは安心をしておるんですけれども、ただ、このとき議論となったのは、今回の法改正は一体何のためにするのか、維新の党はこの法改正を何のためにするのか、そこのメッセージがあるのか、単に政府案に対する修文になっているんじゃないかという議論があって、我々は、日本そのものをしっかり守っていこうということで、割合、個別の自衛権と言われるものに軸を置いたような独自案になったんです。

 さて、この法案、刑事訴訟法の改正なんですが、そもそものきっかけは、やはり村木さんの事件ですとか志布志事件だったと思います。それが長年の議論を経て、新たな時代の刑事司法制度ということで、いろいろな全体のパッケージとして法律が出てきた。そのときに、このパッケージ全体で、当初のきっかけとなった冤罪の防止というものが、果たして、早期成立で可能と言えるのか。

 私は、今なお、この法律をつくることの本当の目的、魂の部分というものは、先ほど若狭先生から真相の解明と人権という話がありまして、それは、皆さんおっしゃられたように、なかなか難しい問題だと思うんです。しかし、今回の法改正に関しては、冤罪をなくしていくことに重きを置かないといけないと思われるんですが、宮村さんのお考えをいただきたいと思います。

宮村参考人 今回の法改正の魂は冤罪の防止だというふうに考えています。

 過度に取り調べに依存した捜査、公判のあり方から脱却して冤罪を防止する、そこが一番重要だというふうに考えています。その観点から、取り調べの録音、録画、証拠開示、そして身体拘束について一歩前進していると考えるからこそ、この法案の成立を私たちは望んでいます。

 取り調べの録音、録画は、確かに事件の範囲が一部に限られてしまいました。しかし、全過程を録画、録音する義務を課すということには非常に重要な意味があると考えています。証拠開示も、全面証拠開示ではありません。しかし、先ほど申し上げたように、検察官の任意の証拠開示ではなく、検察官が法的義務として負う証拠の開示義務の範囲を広げるからこそ、この法案には重要な意味があると思います。そして、裁量保釈についての考慮事由の明確化に意義があると考えているのも先ほど申し上げたとおりです。

 これらの意義があると考えているからこそ、魂の部分で重要だという前進があるからこそ、この法案の成立を望んでいるという次第です。

 以上です。

井出委員 ありがとうございます。

 次に、江川参考人に伺いたいと思います。裁判の公開性についてです。

 裁判員裁判が始まった、そして今、裁判の中核になろうとしている。大きな目的は、国民の感覚を司法の場に取り入れることだ。それは、かつての裁判というのは、検察官も裁判官も私のようにぼそぼそぼそぼそ、私なんかはまだゆっくりだからいいんですよ、それを物すごい早口でしゃべる裁判がずっと行われてきた。それを、公開の法廷の場に一般の方をお呼びして裁判をやっていこう。それで裁判は劇的に変わった。

 やはり、一般の人の感覚を入れていくということと裁判の公開性というものは私は極めて近い関係にあると思っておりまして、新たな刑事司法と長年言われてきていますけれども、新たな刑事司法というのはいろいろあるけれども何かなと考えたときに、裁判の公開性というものは、透明性とおっしゃっていただいたことは、これからの刑事司法において考えるべき一つの大きなポイントだと私は思っております。

 そこで、個別のことで伺いたいのですが、ビデオリンクの話がありました。今回の法改正で、ビデオリンクを、今までは同じ裁判所の別の部屋でやっていたのを、別の裁判所の部屋でもできるようにする。これは、ビデオリンクを利用したい人にとっては非常に利便性が上がっていいかと思うんですけれども、私も、そもそもビデオリンクというものがそんなに便利になっていいのかなという思いもあるんです。

 伺いたいのは、たくさんの裁判を見てこられて、ビデオリンクでやる証人尋問、反対尋問と、実際に証人が来ていただいて証人尋問、反対尋問をやるものとで、傍聴席から第三者の目から見ていて、どういう違いがあって、ビデオリンクの問題点をお感じだと思いますから、その問題点も教えていただきたいと思います。

江川参考人 私はビデオリンクの裁判をそれほどたくさん傍聴したわけではないので、弊害がこれだとはっきり言えるわけではないのですけれども、ただ、そこにいてちゃんと近くに見えるのと端の方でモニターでやっているのとでは、やはり全然見え方は違うというふうに思います。

 ただ、さっき申し上げたように、どんどんビデオリンクが便利になっていくと、やはりそういうふうにしたいとなると思うんですね。そうではなくて、やはり裁判というのは、本人がちゃんと行って、そこで証言をして、それをいろいろな人たちがちゃんと確認できる、それがやはり一番大事だと思うんですね。

 いろいろなところからいろいろな要求があって、こっちを変えなければいけない、こっちを変えればこういう要求がある、いろいろなところにこう薬を張りつけているうちに、やはり全体像というものをもう一回見るという機会がなくなっているのかなという感じもします。

 やはり、先生方は大きなキャンバスに刑事司法という絵を描いていらっしゃるのですから、この辺を今直しているというので、それで終わりじゃなくて、一回ぐっと引いて、このことが全体のことにどういうふうに影響を及ぼしているか、公開性という一番大事な原則の一つにどういう影響を及ぼしているのかということを確認しながら進めていただきたいと思っています。

井出委員 今の話とも重なってくるかと思うんですけれども、もう一つ伺いたいんです。

 裁判員裁判が始まって、私は、前に、裁判員裁判にちょっと否定的な御意見も質疑の中でいただいたこともあって、私もなるほどなと思って聞いておったんです、裁判が少し裁判員のための裁判になっていないかと。

 例えば、今回、ビデオリンクもそうですし、そういう証人の保護、被害者の保護という話もありますけれども、私ももちろんそれはすごく重要だと思うんですけれども、ただ、証人の保護、被害者の保護が目的化をして、前に裁判所に視察に行ったときに、遮蔽の、何かアコーディオンカーテンみたいなものを見せていただいたんですけれども、その一回の法廷、そのときの審理はいいかもしれないですよ。でも、裁判の本質、できるだけ真相に迫って、きちっとした、きちっとしたと言うとあれですけれども、認定できたものに基づいて判決を下していくということに、今の裁判員もそうですし、証人の問題もそうですし、もっと言えばこの法改正全体もそうなんですけれども、本当の裁判の本質にかなっているかどうかというところは、私は非常に悩みながら、それは今回の法案が非常に多岐な論点があるからなんですけれども、私はちょっと、その多岐な論点をそれぞれちょこちょこ直すべきところを直して、では全体のパッケージ、先ほどこの法改正の魂というお話もさせていただいたんですけれども、そこのところがまだ見えてこないんですが、江川さんのお考えを聞かせてください。

江川参考人 私も、いろいろな方たちの要求をちょっとずつ組み入れることがバランスみたいな感じになっているような気がするんですね。

 最初は、冤罪防止、村木さんのような事件を二度と起こさないためにということだったのに、でも、そうすると、捜査の方からこういう問題も入れてくれという注文がついて、これを通すためにはこっちの言うことも聞いておかなきゃみたいな感じで、そんな変なバランス感覚が働いてしまっているのかなという感じもいたします。

 ですから、魂とさっきおっしゃったところ、そこのところをやはりきちっと際立たせるような法改正にしていただきたいなと思います。

 公開性のことについても、やはり、弁護士さんというのは、弁護人として被告人の利益ということを考えますよね。検察官は、これを何とかしてちゃんと立証しなければいけないと思う。そして、裁判所は、この事件を何とか穏便に、あるいはちゃんと予定どおりにやらなきゃいけないと思う。そういうところだけに特化してしまうんですけれども、やはり、制度というもの全体、あるいは国民にとっての司法ということを考えると、そういうような個別のところだけで見ていていいのか。

 ですからこそ、先生方には、もう少し引いて、裁判というのは国民のためだし、あるいは、裁判の記録というのは、個々の事件の記録ではあるけれども、ひいては国民の歴史的財産であるんだ、そういうような長い目で見て、こういった問題を御審議いただきたいと思います。

井出委員 次に、小池参考人に伺います。

 先ほど韓国の話がありまして、ちょっと安保法制もありますので韓国には私は行けないんですが、ちょっとキムチでも食って想像しようかなと思っております。

 まあ、冗談はともかく、伺いたいことは、韓国もそうですし、例えばドイツでは、ここ数年の話だと思うんですけれども、司法取引のあり方、王冠証人制度というものを入れて、誰の罪でも言えば司法取引が成立するのではなくて、共犯者に限定しようというような改正がされた。また、アメリカでも、司法取引をずっとやってきて、FIFAの事件みたいな本当に劇的なものもあるんですけれども、一方で、司法取引が問題になってきて、冤罪の温床だと言われるような数字も出てきて、見直す方向にある。

 私は、海外のそういった改革を見ていると、先ほどの真相の究明と人権とのバランスという問題もあると思うんですけれども、やはり一定程度、その人権の方、被疑者としっかり向き合うところに目を向けていかなければいけない国が出てきているんだなと思います。

 さて、日本の刑事司法はどうなのか。この法案改正のきっかけはやはり冤罪事件だった。それで、新たな刑事司法制度全体を見直そうと。

 その新たな刑事司法全体、私はぼやっと、法治国家としてますます充実していくとか治安の維持とか、そういうことなんだろうなというようなイメージで聞いていたんです。ただ一方で、犯罪の質は変わってきていますけれども、刑法犯は減ってきておりますし、そういう事実関係もあります。そういう中で、今日本がこの法改正でやろうとしているところは、世界各国が向かっている方向性と、どうなのかなというところをやはり伺いたい。

 私は、私みたいな若い者がこの法案にかかわらせていただいているんですけれども、この間の裁判員法もそうなんですけれども、本当に刑事司法の大きな転換点に、全然取材もありませんけれども、今立ち会っているんじゃないかなと思うんです。

 そこのところのお考えを小池さんに伺いたいと思います。

小池参考人 今回の法案ができたのは、例の厚労省の事件がきっかけで、まさに冤罪をどうなくすか、そういう問題意識でつくられたわけですから、私は、この肝は何かというと、取り調べのあり方だと思います。

 実際に、検察の在り方検討会議でも、取り調べ、自白に過度に依存し過ぎているという問題意識のもとで今回の特別部会がつくられたわけです。取り調べのあり方は旧態依然として前近代的であると書いているんですよね、在り方検討会議でも。もう時代おくれであるとまで言っているんですよ。

 では、今回の法案は、その時代おくれを見直して、いいものになったのかというと、とんでもないわけですね。それは結局は、取り調べのあり方にメスを入れていないということだと思います。

 例えば、英国とかドイツとかも、ドイツでも数回の取り調べ、英国でも数時間の取り調べしかない。それがいいと言っているわけじゃないんですよ、日本と比べて余りにも落差が大きいんです。台湾などでも、警察の取り調べも数時間、検察の取り調べは十分程度という、私は逆にそれで治安は保たれるのかと聞いたぐらいなんです。

 そこまでするようにと言っているわけじゃないんです。ただ、日本のこのあり方は余りにもひどいですよね。やはり取り調べのあり方にメスを入れて、真相究明のためには取り調べを徹底的にやることが大事だという考え方をちょっと考え直していただいて、先ほど、十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰してはいけないと。この思いを本当に理解してほしい。これは、十人の真犯人を逃しても一人の無辜を罰しちゃいけないんだということなんですよ。十人の真犯人を逃していいと言っているわけじゃないんです。それぐらい、一人の無辜を罰しちゃだめなんだと。これが近代刑事司法のあり方、原則なわけです。

 その精神に立ってこの法案を見た場合に、とてもとてもそういうレベルでないどころか、むしろ捜査権限を拡大し、真相究明とか捜査の妨げとかいう名目で全て例外規定をつくっている。これじゃ今までと全然変わらないではないかというふうに思うので、根本的に見直す必要があるだろうと思います。

井出委員 皆さんの御意見をこれから参考にさせていただいて、また、一人でも多くの皆さんにこの法案の行方に関心を持って見守っていただけるよう努力したいと思います。

 きょうはありがとうございました。

奥野委員長 次に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。

 四人の参考人の皆様方には、本日も足をお運びいただき、心から感謝を申し上げます。

 初めに江川参考人にお伺いしたいと思います。

 先ほど、弁護士あるいはその元妻である公認会計士が二年三カ月とか長期間勾留された、結果無罪であったと。この保釈の関係でいいますと、余りにも裁判官に、長期間勾留されることの苦痛に関する想像力というものが欠けているんじゃないかというふうにも指摘されていたと思うんです。

 数々の冤罪事件、もちろん再審無罪になった例もありますが、結果として裁判所が誤った判断をする、誤った判決を出す、あるいは無実の人を長期間勾留してしまう、この構造的な原因というのはどこにあるというふうに考えておられますか。私は、一つには、証拠が不足している、無罪を立証する決定的な証拠が明らかになっていなかったということなどもあると思うんですが、お願いいたします。

江川参考人 いろいろあると思うんですけれども、一番はやはり透明性の欠落というか、検証不可能な状況ということだというふうに思います。

 先ほど保釈の問題も申し上げましたけれども、例えば大きな冤罪事件が起きたときに、警察や検察のことはいろいろ批判をしたり、あるいは物によっては検証報告書が出たりしますけれども、裁判所からそういったものが出てきたというのは私は聞いたことがないのです。

 冤罪が起きたときに、何も、その裁判官を締め上げろ、こう言うつもりは全然ないのですけれども、そうではなくて、どこに問題があって、どうしてこうなったのかということはやはりきちっと検証する必要があると思うんですが、それが全くなされない。できれば、私は、国会に、そういう冤罪があったときに、それを次に生かすために検証するというような委員会をつくってやっていただきたいというふうに思います。

 そんなふうに、裁判所の判断について検証する機会をふやしていくということがやはり大事なのかなと思っています。

清水委員 大澤参考人にお伺いさせていただきます。

 今回、法案には、再審請求審での証拠開示というものが盛り込まれませんでした。これまで数々の冤罪事件で、通常審で出されなかった証拠がその後明らかになって、再審無罪となった例があったかと思うんですが、再審請求審での証拠開示を盛り込まなかったということで危惧されている点、あるいは大澤参考人自身が要望されていることがありましたら、端的にお聞かせいただけるでしょうか。

大澤参考人 先ほど山尾委員の御質問にも再審請求審の話を少しお答えいたしましたけれども、やはり通常第一審の証拠開示と全くパラレルに考えるということはなかなか難しいところで、一審のところでこういう制度を導入したから当然にこちらもこうなるということでは多分ないのだろうと思います。

 先ほど宮村参考人がお答えになられた中にありましたけれども、再審請求審の証拠開示といったときに、現在の証拠開示制度が導入された以降の再審について考えるのか、それ以前の古い制度のもとでの再審について考えるのか、そこもまた違ってくるところがございます。

 現在の制度を前提に、しかし、再審の段階に行って、再審の入り口を入ったら、一審よりも広く開示されるというようなことを考えますと、いささかこれは転倒した発想になるような気がいたします。もし仮に一審で事前全面開示だと言うのなら、再審のところでも事前全面開示ということで整合性はつくかもしれませんが、一審のところの間口に対して、再審に入った瞬間に広がるというふうなことになると、これはまたちょっと逆立ちした制度ということになってくるかと思います。

 そのあたり、一体どういう時代のどういう事件をターゲットに置くのかとか、あるいは、今言ったようなところも踏まえながら考えていくということが必要なのと、もう一つは、先ほど申しましたように、総合評価の仕方についてかなり見解が分かれていると思いますので、そこのところをどう解決していくのかというのが一つのネックだろうというふうに思っております。

清水委員 非常に貴重な問題提起、ありがとうございます。じっくり時間をかけて議論していきたいと思います。

 次に、宮村参考人にお尋ねします。

 宮村参考人は東電OL事件の弁護団ということで、ちょうど私も、この委員会の場で、東電OL事件の問題について政府質疑を行ったばかりであります。

 これは、再審請求で四十二点の新たな証拠が開示をされ、その中に、無罪を決定づける、被害者の体内にあった体液だとか体毛、こういうものが出されまして、DNA鑑定の結果、ゴビンダ・マイナリさんの無罪が立証されるということがあったわけなんですね。その後、検察は、いやいや、そんなことはないということで、さらに四十二点の証拠を開示する。

 これは本当に驚くべきことだと思うんですが、今回、法案の中には、検察官の裁量によって、例えば犯罪の証明に支障を生ずるおそれのある場合はリストに載せなくていいというふうなことがあるじゃないですか。

 きのう政府質疑しましたけれども、検察として事件について反省しないんですよ。結果として長期間刑務所に入れたことは申しわけない、しかし裁判については適正だったと。

 こういう検察に、しかも証拠を後出ししてくるような検察に、そういう裁量を残すということでいいのかなというふうに思うんですが、その点、いかがでしょうか。

宮村参考人 先ほど来話題になっていますように、リストに載せないことが許される場合というのは、決して検察官にとって有罪立証にハードルになるということではなくて、リストに載せることで罪証隠滅のおそれが生じるような、極めて例外的な場合だということをここで確認しなければいけないというふうに考えています。

 決して、検察官に裁量を与える、そういう制度ではないというふうに考えています。

 以上です。

清水委員 今言われたことはごもっともだと思います。そうしたことを条文に、法律に書けば、より一層担保できるのではないかと思いました。

 続いて、宮村参考人に。

 東電女性社員殺人事件の弁護団ということですので、ちょっと興味深いことなんですが、ゴビンダさんに対して、あるいは弁護団に対して、警察や検察が、強盗殺人については無期刑だ、しかし殺人だけ認めれば有期刑にしてやるといった持ちかけや、あるいは、ネパール人の同居人に、不法滞在であるにもかかわらず仕事を紹介して、そして捜査側にとって有利な供述書にサインをさせるといったことがあったと思うんですね。

 今回、法案の中には司法取引というものも盛り込まれておりまして、これは、弁護人の皆さんにとっても、連署を迫られ、合意を迫られるということで非常に悩ましいと思うんですけれども、こうした事実について弁護団としてどう考えておられるのか。非常にまた危なっかしいことになるんじゃないか、こういうふうに思うんですが、いかがでしょうか。

宮村参考人 実は私は、再審弁護団に加わったのは再審請求の後なものですから、それまでの前の経過を承知しておりませんので、今の御質問にはちょっとお答えできません。申しわけございません。

清水委員 続いて、小池参考人にお伺いさせていただきたいと思います。

 保釈の関係でありますが、韓国の例についてお話しされました。韓国では、弁護人の立ち会いが取り調べ段階で認められているとか、可視化が非常に進んでいると。保釈についても、勾留されるのが大体半分ぐらいになったという話もありました。

 そのことによって、今、政府側、捜査機関側が非常に心配している罪証隠滅だとか逃亡というのが飛躍的にふえたということは報告されているんでしょうか。むしろうまくいっているということであれば、そのことも含めて御意見をお願いいたします。

小池参考人 保釈が半分になったということではなくて、未決勾留の人数が半分になったということなんですけれども、韓国でそのために治安が乱れているとか、そういう話は聞いたことがありません。

 韓国は、日本と比べて、一九九〇年ごろまでは日本の方が進んでいたというふうに、日本も全然進んでいないから比べようがないんですが、韓国は日本をまねしている、こういう席で言うのもなんですけれども、日本の刑事訴訟法、植民地時代のあれで、そういう形で、日本の後を追ってきたという経緯がございます。

 私は、一九九〇年代の初めに韓国に行きまして、当番弁護士制度というのを紹介する本を岩波ブックレットで書いて、それを十何冊か持っていったんですね。弁護士たちに全部渡したんですが、そうしたところ、びっくりしていて、翌年に当直弁護士制度というのをつくったんです。あれはすごいなというふうに思って、それから、あれよあれよですね。起訴前保釈は一九九〇年代にもう実現しておりますし、可視化の問題もずっとこの間進んでおりますし、先ほど申しましたように、二〇〇七年、法律で弁護人の立ち会いも認められたというふうになっておりまして、もう今や完全に日本をはるかにしのいでいるというふうに思います。

清水委員 ありがとうございます。

 新時代の刑事司法といいながら、韓国にもおくれをとっているというような状況で、また、起訴前保釈をしても治安が乱れているということはないということは非常に参考になりました。

 小池参考人に続いてお伺いします。

 国連からも、日本の刑事司法というのは非常におくれていて、まるで中世のようだ、こういうふうに言われたと。その原因として、人質司法だとか代用監獄の制度があるというふうに思うんですね。罪を認めれば出してやる、あるいは軽くしてやると。こうした闇取引をなくし、冤罪をなくすためにも、やはり可視化、これがとりわけ重要になってくるとこの委員会でも議論をしてまいりました。

 今回、宮村参考人からも、可視化でいえば、一歩前進だ、義務づけだということなんですが、法案を見ますと、機械が壊れたときは撮らなくていいとか、暴力団は撮らなくていいとか、いろいろと例外規定があるわけなんですが、小池参考人は、これは本当にいいとこ取りだという批判もされていると思うんですが、その辺をちょっと詳しく教えていただけますか。

小池参考人 日弁連は、従来から、一部可視化ではだめだ、全面可視化しないとだめだ、取り調べの最初から最後までと。それは一回の取り調べじゃないですよ。逮捕、勾留されてから終わるまで、全ての取り調べを可視化しなければ、いいとこ取りされると。

 いいとこ取りというのは、ビデオの回っていないところでなだめすかし、おどしというふうなかなり強烈な取り調べをされて、それで、参りましたということで自白に転じたところでビデオに撮ったらどうなるんでしょうか。そこの部分だけビデオを見た裁判員は、裁判官はどう思うでしょうか。ビデオの迫真力というのはすごいものがあります。だから、そこだけ裁判官なり裁判員が見れば、やはりこの人は真犯人じゃないかというふうに思うんですよ。

 そういうものが証拠として使われるわけですから、証拠として使われること自身がどうかという問題があるんですけれども、現実にはビデオが証拠として使われているわけですよね。そうすると、捜査段階、取り調べ段階が弁護人抜きの一審みたいになるわけですね。そこで心証をとられちゃうわけです、この人は有罪だと。そうすると、取り調べが第一審で、そこに弁護人が立ち会っていない、こんな状況でいいんだろうか。

 ですから、可視化と弁護人の立ち会いは必ずセットでなければならないし、取り調べ時間も短くすることによって、いろいろなコストがかかるとかいった問題がクリアされるわけですよ。欧米諸国のようにとまでは言いませんけれども、取り調べの時間がずっと短くなれば、全体のコストとか見る手間暇なんて大したことないわけですよね。そういった形で、取り調べの可視化だけではなくて、弁護人の立ち会い、取り調べ時間の規制、こういったものをセットでやはり実現すべきだというふうに思っているんです。

 今回の法案のあの例外規定、先ほども申しましたけれども、可視化すれば十分な供述が得られないというのは、四つの例外規定がありますが、本当にこの例外規定が問題でありまして、では、可視化して自白しそうになければビデオに撮らなくていいんですねということですよ。この条文を、上から下から右から左から眺めても、そうとしか読めないんですよ。

 六月九日に、たしか清水委員だったと思いますが、政府答弁を聞いていますと、完全黙秘の場合はこの例外規定に当たらないと言われたんです、明確に言われたんですよね。

 そうであるべきだと思うんですが、しかし、これは、条文を読んで、どうして例外規定に当たらないのかわからないんですよ。可視化して黙秘した場合には十分な供述が得られないわけです、黙秘しているんだから。だったら、可視化しなくていいということにならないんですか。

 善意に解釈すれば、完全黙秘の場合はビデオにしようがしまいが十分な供述を得られないから、例外規定に当たらないんだ、恐らく政府答弁はそう言いたいんだろうと思うんですが、そうであれば、そういうふうに条文に書いてほしいわけですよ。可視化すれば十分な供述が得られないけれども、可視化しなければ得られる、こういう場合は例外規定というなら、まだわかりますよ。そんなことは何も書いてないので、要するに結論としては、可視化すれば自白しなくなる、そういう場合は可視化しなくていいんだよ、自白しそうになれば可視化します、こう仕分けをしている規定であって、これは例外規定でも何でもない。

 先ほど、これで二、三%の事件については全面可視化が義務化されたという意見がございましたが、私はとんでもないと思っています。この可視化は、例外規定が例外ではない形で機能しますから、可視化したりしなかったりでいいですよという法案にすぎないですから、これは全面可視化の規定でもないし、可視化を義務化する規定でもないということを断言できると思います。

清水委員 ありがとうございました。

 日弁連、宮村参考人にお伺いします。

 今いろいろと可視化についても問題があるということですが、証拠開示についても今回一歩前進というふうに言われました。確かに、公判前整理手続に付された場合は証拠リストが出るという点では一歩前進と言えるのかもしれませんが、日弁連がこの間ずっと懸念を表明していた司法取引が入るということで一歩後退、そして、法制定以来ずっと反対してきた通信傍受法の規定が大幅に拡大されるということでさらに一歩後退。

 これは、パッケージで考えると、本当に国民にとっていいのかどうかということでいうと非常にわかりにくいんですけれども、その点、どのようにお考えになっておられますでしょうか。

宮村参考人 御指摘のように、非常にたくさんの多岐にわたる事項が今回の法改正に盛り込まれていますから、従来から日弁連が申し上げておりますように、今回の法改正に伴って運用に留意しなきゃいけない点があるというのは御指摘のとおりだと思います。

 ただ、他方で、今回、先ほど来申し上げています、冤罪防止という一番重要な点で考えるときに、やはり取り調べの全過程の録音、録画という義務化の規定が設けられること、そして証拠開示制度の一歩前進、そして身体拘束について被告人側の防御の準備の必要性ということを考慮するということをはっきり書く、そういう前進があるから、私どもは、冤罪防止という観点から一歩前進する、そういう法改正であると。他方で、運用に留意しなければいけない点は、しっかりと今後の運用について、私どもも弁護人として留意してまいりますし、注視していっていただきたいというふうに考えています。

 以上です。

清水委員 あと二分ほどなので、最後の質問になると思います。それぞれの参考人にお伺いしたかったんですけれども、御容赦いただき、もう一度、日弁連の宮村参考人にお伺いして、私の質疑を終えたいと思います。

 今回、日弁連の五月二十二日の会長声明を見ますと、一番最後、「当連合会は、市民・関係者、全ての弁護士、弁護士会とともに、改革をさらに前進させるために全力を尽くす決意である。」このように締めておられるんですね。

 ところが、御承知だと思いますが、十八単位弁護士会は盗聴拡大に反対する意見書を出しておりますし、つい六月にも、横浜弁護士会が司法取引と盗聴の拡大に対して反対する会長声明を出しました。

 全ての弁護士、全ての弁護士会ということでは今ないと思いますし、この証拠開示の拡充を含む刑訴法の一括改正に反対する弁護士会や弁護士は決して少数ではないと私は思っております。

 何を聞きたいかといいますと、私が一番心に残った宮村参考人の言葉は、冤罪をなくすことがこの司法制度改革の魂だというふうにおっしゃいました。だったら、なぜ冤罪被害者の方々自身が反対しているこの刑訴法等一部改正案を進めようとしているのか。日弁連として冤罪被害者の方々の声を聞かれたんでしょうか。お願いします。

宮村参考人 なぜ賛成するかというその御質問に対する答えは、従来から申し上げておるとおりでありますが、これが冤罪防止のために一歩進めることになると考えているからです。

 そして、さまざまな御意見があることも承知しておりますし、会内にもいろいろな意見があるのも御指摘のとおりです。

 ただ、総意であると間違いなく言えるのは、冤罪を防止する刑事司法を実現したい、この考えは日弁連の総意だということはもう間違いなく申し上げることができます。そして、その観点から、私どもは、この法案でさらに前進することになる、させていかなければいけないというふうに考えておりますから、この法案が成立することを望んでいるという次第です。

 以上です。

清水委員 きょうは、非常に参考になる御意見をいただきまして、本当にありがとうございます。引き続き議論を深めて、よりよいものへと問題点はしっかりと改善するという立場で頑張っていきたいと思います。

 どうもありがとうございました。

奥野委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 次回は、来る十日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時四十一分散会


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