衆議院

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第33号 平成27年7月29日(水曜日)

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平成二十七年七月二十九日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 奥野 信亮君

   理事 安藤  裕君 理事 井野 俊郎君

   理事 伊藤 忠彦君 理事 盛山 正仁君

   理事 山下 貴司君 理事 山尾志桜里君

   理事 井出 庸生君 理事 漆原 良夫君

      大塚  拓君    門  博文君

      門山 宏哲君    菅家 一郎君

      今野 智博君    辻  清人君

      冨樫 博之君    藤原  崇君

      古田 圭一君    宮川 典子君

      宮崎 謙介君    宮澤 博行君

      宮路 拓馬君    村井 英樹君

      簗  和生君    山口  壯君

      若狭  勝君    黒岩 宇洋君

      階   猛君    鈴木 貴子君

      柚木 道義君    重徳 和彦君

      大口 善徳君    國重  徹君

      清水 忠史君    畑野 君枝君

      上西小百合君

    …………………………………

   法務大臣政務官      大塚  拓君

   参考人

   (弁護士)        田中 清隆君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      川出 敏裕君

   参考人

   (自由法曹団・常任幹事)

   (弁護士)        長澤  彰君

   参考人

   (弁護士)        山下 幸夫君

   参考人

   (電話盗聴事件被害者・国賠訴訟原告)

   (元参議院議員)     緒方 靖夫君

   法務委員会専門員     矢部 明宏君

    ―――――――――――――

委員の異動

七月二十九日

 辞任         補欠選任

  宮崎 謙介君     村井 英樹君

同日

 辞任         補欠選任

  村井 英樹君     宮崎 謙介君

    ―――――――――――――

七月二十四日

 治安維持法犠牲者に対する国家賠償法の制定に関する請願(真島省三君紹介)(第三五七三号)

 選択的夫婦別姓制度導入の民法改正を求めることに関する請願(高木義明君紹介)(第三六六八号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 参考人出頭要求に関する件

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(内閣提出第四二号)


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     ――――◇―――――

奥野委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。

 本案審査のため、本日、参考人として弁護士田中清隆君、東京大学大学院法学政治学研究科教授川出敏裕君、自由法曹団・常任幹事、弁護士長澤彰君、弁護士山下幸夫君及び電話盗聴事件被害者・国賠訴訟原告、元参議院議員緒方靖夫君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

奥野委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 この際、参考人各位に委員会を代表して一言御挨拶を申し上げます。

 本日は、御多忙の中、御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見を賜れば幸いに存じます。

 本日は、特に犯罪捜査のための通信傍受の対象事件の範囲の拡大等について審査を行います。

 議事の順序について申し上げます。

 まず、田中参考人、次に川出参考人、長澤参考人、山下参考人、緒方参考人の順に、それぞれ十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑をすることはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず田中参考人にお願いいたします。

田中参考人 参考人の弁護士の田中清隆と申します。

 私は、弁護士として、約四十一年余にわたり、暴力団事務所の明け渡しあるいは暴力的取り立ての阻止、強制執行妨害の排除など、そういった暴力団対策を中心に、多くの実際の事件を現場で担当してまいりました。また、同僚の弁護士あるいは被害者の体験なども数多く見聞きしてまいりました。それから、実は、私自身の被害の体験もございます。最近では、私も高齢になりまして、老人クラブに時々出るんですが、そこでいろいろな被害の体験についても聞かせていただいております。

 したがって、私としましては、今回は、統計数字とか理論的な観点を少し離れてといいますか、現場の実感あるいは現場の実態、こうしたものを中心に御意見を申し上げていきたいと思っております。

 実は、私は、平成十一年の参議院の法務委員会におきまして、この法律の制定当時に賛成の御意見を申し上げたことがございまして、それから早くも十六年たってしまいましたが、深い御縁を感じておるところでございます。

 私は、先ほど申し上げた老人クラブの会合の中で、振り込め詐欺とか投資詐欺被害に遭った方のお話、あるいはその周辺の方のお話から、直接非常に深刻なお話を伺ってきております。そこで感じますことは、確かに、老人にとってみて、大金を取られるということが大変な被害であることは間違いありません。

 しかしながら、もっと大きな被害は、やはりこれまで培ってきた家族のきずなとか、そういうものが残酷にも断たれてしまう。つまり、子供たちあるいは孫たちから見れば、おじいちゃん、おばあちゃん、何で俺に一言相談してくれないの、勝手に大きなお金を振り込んでくれては困るじゃないのと。一方、おじいちゃん、おばあちゃんとしては、そんなことを言うなよ、日ごろちっとも連絡もよこさぬくせに、こういうときだけぐずぐず文句を言いやがってと。だって、自分はあんたのことを思ってやったんだよ、何を文句言うんだと。こういう争いが家庭内で延々と続いてしまうわけであります。場合によっては、事件とは直接因果関係がないとはいえ、家族の紛争から自殺にまで発展するようなケースもないとは言えません。

 私自身が、実は、集団窃盗と思われる事件の被害に遭ったことがあるんです。二年ほど前のことですけれども、平日の午後七時半から八時ごろの間に、うちへ帰ってみたら、もう何もないんですよ。近所の人に聞いても、何も知らないよと。現金から大事なものから思い出の品までみんな奪われてしまいまして、大変な被害に遭ったわけであります。これはどう考えても一人や二人の行為ではあり得ないということで、その犯人はいまだに捕まっておりません。

 こうした被害についても、もちろん財産的な被害も大変な被害ですけれども、それ以降、うちに入るときに怖くてしようがないんですね、きょうは大丈夫か、きょうは大丈夫かと。こういった被害というものは、決して単なる財産的な被害にとどまらないということをよく御理解いただきたいと思います。

 それから、さらに私は、集団窃盗グループの被告の一人から、自分はもうこのグループから抜けたいので、実態を全部ばらす、そのかわり、ちゃんと弁護してくれというような依頼を受けたことがあります。それで、私は、それを受けまして、このケースでは、本人がちゃんと、首魁の名前から上位者の名前を全部明らかにして、手口も明らかにしましたので、これは全部真相が明らかになりました。

 これはたまたま運よくそういうことになったわけですけれども、御存じのように、多くの事例では、ほとんど末端の者は、みずから捕まったとしても、やはり怖いですから。私が担当した被告人でも、もとの集団のグループの関係者がしょっちゅう面会を求めてきたんです。私はそれを全部断らせましたけれども、しかし、一遍会ってしまうと、これまた恐怖にさらされるということはもう明らかであります。

 この事例では、二カ月弱の間に三件で約三千三百万ほどの窃盗を働いて、五人のグループだったんですが、一人は実行犯ではありませんので、実際は四人でやっておったんですけれども、私が担当した被告人が得た利益はたったの四百万。首魁の方は半分以上、千五百万以上を何もしないで手にした、こういう実例でございました。

 こういったグループの犯行に関する準備とか指示、連絡というのは、これはみんなが集まって何か準備するというようなことはほとんどありません。やはり、携帯電話あるいはメールでほとんど処理しております。したがって、こういった事件では、事情をどこまで知っていたのかというようなことの知情性といいますか、その立証が非常に困難ですし、犯罪の準備から実行から、証拠隠滅から逃走まで、組織的にカバーされますので、非常に難しい問題があります。しかし、通信傍受がなされれば、かなり容易に捜査ができるということになろうかと思います。

 最近でも、暴力団の極東会あるいは山口組の幹部が振り込め詐欺で逮捕された例がマスコミをにぎわせておりました。山口組幹部の事件では、グループ十一名が逮捕されて、件数は合計二十件で、被害総額は約一億円以上というふうに報道されておりました。

 こうしたマスコミの報道とか、あるいは先ほど述べました体験からしましても、最近では、振り込め詐欺あるいは集団窃盗、こういったものが暴力団員や犯罪組織の主要な財源になっておるということは明らかであります。

 また、最近、二〇一五年度の警察白書が公開されましたけれども、ここで、暴力団員が摘発された犯罪は、過去十年間を見ますと、恐喝が八・八%から四・八%に、約半分に減っています。逆に、詐欺が五・八%から一〇・四%に、約倍に増加しております。そして、二〇一四年度に特殊詐欺で摘発された暴力団員は六百九十八名、全体の特殊詐欺の逮捕者の三五・二%にも上っております。こういった特殊詐欺が新たな資金源となり、暴力団あるいは類似の集団を潤しているということが明らかであります。

 国民の多くは、こうした暴力団の活動の阻止と、こういった犯罪の防止による生活の安全を強く願っていることは、私ども本当に、日ごろ、ひしひしと実感をしております。このように、詐欺、窃盗が日常的に行われることが多くなりまして、そしてまた組織的に行われることが多くなりまして、その犯行に至る経過が完全に秘密にされてしまっている以上、これらの犯罪による被害の防止や摘発のために、少なくとも詐欺、窃盗、集団的なもの、そういったものは通信傍受の対象としてあぶり出していく必要があると私は確信しております。

 今回の改正に関しましては、対象犯罪の拡大というものが過去の最高裁の判例に反するものであって、国民の通信の秘密やプライバシーが侵害されるというような反対論、あるいは、通信会社の立ち会いの廃止によって警察の捜査権の濫用が懸念されるというような反対意見があるようでございます。

 しかしながら、対象犯罪の拡大に関しましては、今回の改正については、殺人、傷害、傷害致死等から児童ポルノ事件に至るまで、九種の犯罪が新たに拡大されておりますけれども、これらは、今までの共謀要件に加えて、「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体によって行われる」、あらかじめ役割が決まっているような、そういう人の結合体、そういうものによって行われる犯罪というふうに極めて限定的にされておりますので、これは無限定な拡大の危険はないというふうに考えております。

 さらに、もちろん、私も弁護士ですから、多くの刑事事件も担当しました。捜査の問題点とか、あるいは憲法の通信の秘密などの重要性などについても十分理解しているところでございます。しかし、そうした問題に配慮しつつも、実際に組織犯罪による国民の重大な被害を防止して犯罪組織のさらなる勢力拡大を防ぐことは、これは現時点では最大限重視されるべきというふうに考えておるところでございます。

 かつて、覚醒剤の事件について最高裁の判決が出まして、これは平成十一年の判決ですけれども、これはまだ通信傍受法がなかった時代ですが、重大な犯罪に限って通信傍受を認めるというのが出ておりまして、窃盗とか詐欺とかというのは重大な犯罪じゃないだろう、殺人とか強盗傷人とかそういうのはいいかもしらぬけれども、窃盗、詐欺は別に重大犯罪じゃないじゃないかという意見があります。

 しかし、私は、重大な犯罪かどうかは罪名だけで決めるものではないと。確かに、万引きのようなちょろっとした窃盗もあります。しかし、私も被害に遭ったような、そういう集団的な、億に達するような被害を生ずるような、暴力団が背景にいるような、そういう犯罪は、たとえ罪名が窃盗、詐欺であったとしても、やはりこれは重大な犯罪だというふうに言わざるを得ないと思います。私はそのように考えております。

 実は、この件に関しまして、日本弁護士連合会の会長声明というのがことしの五月に出ております。ここでは、会内の意見はもちろんいろいろありましたけれども、会長としては、基本的には、いろいろ慎重に対応しつつも、これはとにかく一日も早く成立させてほしいという声明を出しておるところでございます。

 私どもは、先ほど暴力団対策をやった民事介入暴力対策委員会というのに所属しておりまして、こういった組織暴力対策のために、イタリアとかアメリカとか、幾つかの国を訪問して実情調査をしております。こういった国々を初めとして、先進諸国ではほとんど、通信傍受は広く実施されております。そして、その実効性は高く評価されております。

 例えば、アメリカにおきましては、百以上の対象犯罪となっておりまして、組織的要件は特にありませんし、テロに関するものなどを含んでいたりしまして、対象犯罪も非常に広くなっています。

 こうした点から見ても、通信傍受は、特に犯罪組織によって行われる犯罪については非常に有効である、それが世界的にも認められておるんだというふうに思いますし、現時点では、残念ながらこれにかわる有効な手段が提示されておりません。

 最近の渡米調査によりますと、アメリカでは、電話とかメールじゃなくて、こういうところへマイクを設置して会話を傍受したり、あるいは、先ほど言いましたように、組織要件は特にありません、組織でなくてもいい。それから、傍受件数は、日本は十五年間で九十九件、その中で薬物の関係が七十六件、アメリカは年間三千六百件と、もう全然これは話が違う。

 今、国際的犯罪が増加していることは御存じだと思いますが、やはり捜査についても、ある程度国際基準に従った捜査を行うことが我が国の国際的な信頼を高めることにもなろうかというふうに思っております。

 また、今回の改正によりまして、通信会社の立ち会いをなくすということについて、警察の独壇場になって、警察権の濫用になるんじゃないかという懸念をされる方もございます。

 しかしながら、私といたしましては、この機械化によりまして、手続の適正が機械的システムにより確実に行われる、人間的なミス、管理ミス、そういうものがなくて、機械によってきっちりと確保される、こういうふうに考えております。

 しかも、捜査側、立ち会い側、こういったところのいろいろな負担が軽減される。現状では、何と七、八名の捜査官が、各地の警察署から、多くは東京にある通信会社に出向いて、その一室を借りて、十日間から三十日間、毎日通信を傍受する。立会人は立会人で、中身を聞くことはできませんから、ぼうっとして、じっと形だけ見ている。こういうようなことを、極端なことを言うと三十日やらないかぬわけです。この負担は大き過ぎて、とても大変でありまして……

奥野委員長 もう十五分経過していますので、できるだけ簡潔に締めくくってください。

田中参考人 済みません。では、早くやります。簡単にやります。

 こうした状況を考えますと、今の通信傍受は余りにも負担が大き過ぎて、これが十分に機能していないというふうに言わざるを得ないと思います。

 私どもは、こういった通信傍受を機動的、効果的にやれるように、こういった機械も利用すべきであろうと思っております。現在まで十六年間、幸いにして大きなトラブルは、この法令関係では起きておりません。そういった状況、それから国際的な状況、国民の期待、こういったものから考えまして、こういった不合理を改善するために、今回の改正をぜひ行っていただきたいと思います。

 時間を超過しまして済みません。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、川出参考人にお願いいたします。

川出参考人 皆さん、おはようございます。

 七月一日の本委員会に引き続きまして、意見陳述の機会を与えていただきましたことに対して感謝申し上げます。

 その際にも申し上げましたが、私は、法制審議会の特別部会に幹事として参加をいたしました。本日も、部会での議論を踏まえまして、法案に賛成の立場から意見を申し上げたいと思います。

 今回の改正の主たる内容は、通信傍受の対象犯罪の拡大と、それから通信傍受の手続の合理化、効率化ということです。

 まず最初の対象犯罪の拡大の点ですが、その当否については、対象犯罪を拡大したことがそもそも憲法に適合するのかという観点と、それから、仮に合憲であるとして、今回の法案の範囲に拡大するということに合理性があるのかという二つの観点から考えてみる必要があると思います。

 まず合憲性の問題ですが、これは、通信傍受というのが通信の秘密あるいはプライバシーを侵害するものであるということから、それが憲法十三条あるいは二十一条二項に反しないと言えるためには、それに見合うだけの重大な犯罪でなければならないという観点から問題とされるものです。

 先ほど田中先生が御紹介されました最高裁判例の中でも、電話傍受が憲法上許されるための要素の一つとして、それが重大な犯罪に係る被疑事件についてのものであるということが挙げられていたわけです。この判例は覚醒剤の営利目的譲渡の事案を対象としたものでしたから、判例上は、覚醒剤の営利目的譲渡は電話傍受の合憲性を認め得る重大な犯罪であるという立場がとられているということになります。

 通信傍受法は、このことを前提に現在の四種類の犯罪を対象としているということですので、そうだとしますと、少なくとも、これらの罪に匹敵するような重大性を持った犯罪に対象を拡大したとしても、憲法に反することはないと言えるということになります。

 そして、この意味での犯罪の重大性というのは、要は、通信の秘密ですとかプライバシーの権利を制約しても、その事実を解明し、犯人を処罰すべき必要性が認められるかどうかということによって決まるわけですから、それは、単に罪名とか法定刑だけで判断されるというものではありませんで、その犯罪が国民の権利利益を侵害する程度が大きいかどうか、そういう観点から決定されるべきものだというふうに思います。

 その観点から見ますと、今回拡大された罪は、いずれもそれに見合ったものであると言うことができると思います。暴力団によって、その意に沿わない一般市民の生命身体に対して危害が加えられる事案というのはもちろんですけれども、多数の一般市民の老後の蓄えを奪うような振り込め詐欺の事案、さらには児童の心身にはかり知れない危害を及ぼす児童ポルノの組織的な製造、提供事案などが、侵害される権利利益の程度、重大性という点から見て、現在、通信傍受法に定められている、例えば組織的な薬物の密売事案と比べた場合に、重大性に劣るということは到底言えないだろうと思います。その意味で、現在定められている犯罪に匹敵する重大性というのは認められるだろうというふうに考えます。

 そして、この意味で、重大な犯罪が対象であるということを明確にするために、法案では、「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるもの」という、いわゆる組織性の要件を付加しております。

 部会の議論では、こういった要件を付加しなくても、数人共謀の要件と補充性の要求を満たす場合というのは、これは組織によって行われるものに限定されるのだという意見もございました。実際のところはそうなのかもしれませんが、しかし、そうであるという保証はありませんので、それを明らかにするためにこの要件を入れたという経緯がございます。

 他方で、この要件だけでは不十分だという意見もありました。もっと組織性、例えば指揮命令系統等も含めて要件を立てるべきだという考え方もありましたが、しかし、今この法案で定められている要件というのは、捜査機関として傍受令状を請求する時点で疎明ができるぎりぎりの線を規定したものですから、これ以上のことを要求しますと傍受制度自体が機能しなくなるということになりますし、また、単発的に行われるような軽微な事案を外すという点からは、今の要件で十分であろうというふうに考えております。

 以上のように、今回の対象犯罪の拡大は憲法に適合したものだと言えると思いますが、その上で、次の問題は、現行法が四種類の罪に限定しているということとの関係で、対象犯罪を拡大することに果たして合理性があるのかということです。

 現行法上、対象犯罪が今の四種類の罪に限定された理由ですが、それは御承知のように、その経緯を見る限り、四種類の罪以外にも通信傍受が有効な犯罪は考えられるものの、通信傍受の導入について反対論が非常に強かったということもありまして、その当時、特に導入の現実的な必要性が高いとされたものに限定された、それが経緯です。それは、今の四種類の中に集団密航が含まれているというような点によくあらわれているわけでして、その当時、現実に必要性が高かったというものに限定したということです。

 そうであるとしますと、その後の犯罪現象の変化を踏まえて、それに匹敵するだけの必要性が認められるものに対象犯罪を拡大するということは十分に合理性が認められるはずですし、実際にもその必要性はあるというふうに考えます。

 以上が第一の点です。

 続いて、通信傍受の手続の合理化、効率化の方に移ります。

 現在の通信傍受は、通信事業者の施設で、事業者の立ち会いのもとにリアルタイムで行う形になっております。このことが捜査機関それから事業者双方にとって大きな負担となっているということが部会でのヒアリング等でも紹介されました。そして、負担が大きいということだけであればまだしも、そのことが通信傍受を実施することに対する事実上の障害になっているんだということも指摘されております。

 例えば、深夜に傍受を行うということを考えてみますと、これは立会人を確保するという観点から困難だということは容易に想像がつくところですし、ましてや二十四時間体制で傍受を行うというのは事実上不可能であろうと思います。また、通信事業者の施設で行うということになりますと、傍受を行う場所の準備ですとか、立会人を確保するというためには、一定の準備期間がどうしても必要になります。そうしますと、緊急に傍受を行う必要が生じたという場合であっても、それには対応できないということになるわけです。

 そうだとしますと、これまでは、本来傍受できたはずの犯罪関連通話が傍受できないままに終わっていた例が少なからずあったものと予想されます。しかしながら、傍受の必要性があり、かつ法律上の要件が備わっているにもかかわらず、事実上の理由から傍受が実施できないというのは適当ではありませんから、それに対しては何らかの対処をする必要があります。また、捜査機関あるいは通信事業者の負っている負担自体についても、これは解消できるものであれば解消するのが合理的ですから、その点から今回の改正案が考えられたということになります。

 そこで、今回の改正案ですが、こういった問題を解決するために、大きくは三つの点で新たな傍受の仕組みを設けております。

 第一に、一時的保存の仕組みをつくりまして、リアルタイムではなく、保存したものを事後的に再生して聞くことができるという形も取り入れました。第二に、通信事業者から通信データを送信し、通信事業者の施設ではなくて、捜査機関の施設で傍受することができるという形を取り入れております。そして第三に、特定電子計算機、特定装置を用いることにより、立会人なしの傍受を可能としております。

 この三つの点が新たな仕組みになるわけですが、こういった新たな傍受の仕組みを導入したことについては、それぞれに問題となり得る点がございます。

 まず、一時的な保存の仕組みですが、これについては、傍受令状で傍受すべき通信を特定しているにもかかわらず、無関係な通信まで含めて全てを傍受することを認めるというものであって、これは憲法三十五条に違反するのではないかという意見があります。

 しかしながら、一時的に保存された通信というのは暗号化されて記録されているわけでして、その段階では、捜査機関はもとより、通信事業者もその内容を知ることはできません。通信の秘密であれプライバシーであれ、その内容が知られるのでなければ、憲法三十五条の規制を及ぼすべき権利侵害があるとは言えませんので、一時的保存の場合における傍受というのは、令状に記載された傍受すべき通信で言うところの傍受には当たらず、したがって、それが憲法三十五条が規定する特定性の要請に反するとは言えないという整理になるだろうと思います。

 これが一つ目です。

 次に、通信データを送信して、捜査機関の施設で傍受ができるようにした点についてですが、このことについては、そのこと自体によって法的な問題は生じません。ただし、その過程で通信が漏えいする可能性があるという事実上の問題がありますが、これは、確実なセキュリティー対策をとることによって解決すべき問題です。

 想定されているものは、多分、専用回線を使うということですから、そこから漏れるおそれというのは少ないということでしょうし、また、今回の改正案では、通信データの送信に際しては暗号化がなされて、それを復号することは、捜査機関にある特定電子計算機でしかできないということになっております。したがって、仮に送信の過程で漏えいがあったとしても、その内容が知られることはありませんので、その点での対応はできているということになります。

 これが二点目です。

 第三の通信事業者による立ち会いをなくすことについてですが、これについては、これによって不適正な傍受がなされるのではないかという懸念が表明されております。

 これについては、そもそも、現行法のもとで立会人にはどのような役割が期待されていて、それが今回の新たな仕組みによって代替し得るかということが問題となります。

 立会人の主たる役割は、通信の外形的な状況についてチェックをするということです。具体的には、一つ目として、傍受のための機器を接続する通信手段が傍受令状により許可されたものに間違いないかどうか。それから二つ目が、傍受令状により許可された傍受ができる期間とか時間等が遵守されているかどうか。三つ目として、傍受すべき通信か否かの該当性判断のための傍受、いわゆるスポット傍受が適正な方法でなされているかどうか。四つ目として、傍受をした通信について全て録音がなされているか。この四つの点ですね。これがチェックの対象になるということです。

 このことが、今回取り入れられることになる新たな仕組みによって代替できるのかということですけれども、まず、一つ目と二つ目の点については、新たな仕組みのもとでは、まず、通信事業者の方で、傍受令状によって許可された通信手段を用いた通信を、許可された期間内において、リアルタイム方式であればそのまま、一時的保存方式の場合であれば一旦保存した上で、捜査機関側にある特定装置に送るということになりますから、通信事業者自身によって、この二つの点の適正は担保されているということになります。

 それから、四つ目についても、特定装置において、傍受した通信は全て自動的に記録されるように設定されておりますので、この点も代替し得るということです。

 それから、三つ目のスポット傍受のチェックについては、直接にこれにかわる機能はありませんけれども、傍受の経過が全て記録されますので、それが適正に行われたかどうかが事後的に検証可能です。この事後的に検証可能であるということがスポット傍受に関する適正担保の中心を占めますから、立会人がいる場合と本質的な部分で違いはないと言うことができます。

 立会人のもう一つの役割は、傍受の終了後に、裁判官に提出する記録媒体を封印するということです。この封印の趣旨というのは、記録の改ざんを防いで、傍受が行われたか否かを事後的に検証できるようにするということにあります。

 これについても、先ほど申し上げましたように、新たな仕組みのもとでは、特定装置が、傍受をした通信の全てと傍受の過程を、自動的に、かつ暗号をかける形で改変できないように記録するということになりますから、これは封印にかわる機能を果たし得るということになります。

 もっとも、立会人を廃止することに対しては、今申し上げたこととは別に、立ち会いというのは、人の目があることによって捜査機関が違法行為を行いにくくするという事実上の効果があるんだ、立ち会いをなくしてしまうとそれが失われてしまうではないかという批判があります。

 こういった立ち会いによる事実上の効果というのは、現行の通信傍受法が立ち会いの機能として予定したものではありませんけれども、立ち会いがそうした機能を持つこと自体は、そのとおり、あろうと思います。

 そうしますと、その上で、立ち会いをなくすことによってこういった抑止効果がなくなるということをどう考えるかということが問題になるわけですが、そもそも、ここで立ち会いによって抑止が想定されている違法行為とは一体何なのかということを考えてみる必要があるだろうと思います。

 まず、新たな仕組みのもとでは、そもそも、現在、立ち会いによって抑止されると想定されている違法行為自体が想定できなくなる場合があります。例えば、傍受期間の不遵守というのは、先ほどの仕組みだと、もともと通信事業者の方で限定した形で保存ないしは送るわけですから、そういう方向ではなくなるわけですね、そもそもそれはできなくなる。

 それから、違法行為をしても無意味な場合というのもあります。例えば、二重に通信を傍受する形にするというのは、特定装置の機能によってそれはできなくなりますから、こういう方向はそもそもない、できなくなる、無意味になるということですね。

 それで、問題はそれ以外の部分、例えばスポット傍受を行わないで無関係な通信を傍受する、こういったものが考えられるわけですが、これも、先ほど申し上げましたように、傍受をした通信の全てと傍受の経過が自動的に記録されて事後的に検証可能である以上は、その過程で捜査機関が違法行為をすれば当然に発覚することになりますから、そのことが抑止効果として当然働くだろう、ですから、それは、立会人がいないという場合であっても、抑止効果はこれによって十分に働くであろうと思います。ですから、事実上の抑止効果というのを考えたとしても、それは新たな仕組みのもとで十分それに代替し得るものがあるだろうということです。

 以上のとおり、新たな仕組みのもとでは、先ほど挙げました三つの改正点それぞれの問題はいずれも解決できるというふうに思います。そういった理解のもとに、部会でもこれについて合意が得られたということです。

 もちろん、こういったことは、暗号化ですとか、あるいは特定装置が想定どおりに機能するということを前提としますので、当然そこが担保される必要があるわけですけれども、例えば特定装置については、これはあらかじめ仕様書が公開されるというふうに伺っていますので、その段階で、その装置が正常に機能するかどうかということは検証されることになるでしょうし、さらに、改正法案のもとでは、こういった新たな仕組みを使った傍受を認めるかどうかも裁判官の審査対象になりますから、それを通じて装置等の適正さが担保されるということになるだろうと思います。

 以上で終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、長澤参考人にお願いいたします。

長澤参考人 おはようございます。弁護士の長澤です。お招きいただきまして、どうもありがとうございます。

 私は、一九八八年に弁護士登録をしまして、ことしで二十八年目になります。一九九六年に法務省の事務局参考試案が発表されて、それから盗聴法案の動きが始まりました。当時、私は、自由法曹団という弁護士の団体の中で盗聴法を阻止するための対策本部をつくりまして、事務局長として、九九年の八月、法案が制定されるまでかかわってきました。

 きょうは、盗聴法の制定当時どのような議論がなされたのかを振り返って、改正案の問題点について言及したいというふうに思います。

 レジュメを御用意しましたので、見ていただきながらお聞きいただければというふうに思います。

 まず、制定時、大きな問題となったのは、憲法との関係です。憲法違反ではないかということです。

 憲法は、戦前の人権侵害の暗黒社会それから監視社会の反省と教訓に立って、人権保障規定を整備しました。表現の自由を保障して、通信の秘密を明文で保障しています。プライバシーの権利は憲法十三条で保障しています。また、戦前の特高警察のような警察権力による人権侵害を許さない、こういう立場に立って、適正手続の保障を、憲法三十一条以下に詳細な規定を設け、特に、憲法三十五条においては令状主義を規定しております。

 通信の秘密やプライバシーの権利を安易に、捜査の必要性、捜査の有用性ということを根拠に盗聴を法制化するということは、憲法違反の疑いがあります。憲法上の権利が制限されるのは、他人の人権を害さない範囲で自分の人権を行使することができる、まさに人権相互の調整の問題で、人権自体に内在する原理である、こういう考え方が一般的に考えられています。抽象的な、捜査の必要性や有用性ということによって通信の秘密を制限するのであれば、戦前の暗黒社会と同じようなことになってしまうのではないでしょうか。

 自民党の改憲草案が、現在の人権保障規定に対して、公益と公の秩序を理由に人権を制限しようとしています。まさに、捜査の必要性や有用性ということだけを根拠に人権制限を図ろうとするならば、このような自民党の改憲草案と同じことになりはしないでしょうか。

 また、令状主義をどのように適用するのかというのも大きな論点でした。令状主義の精神は、裁判官が捜索、差し押さえの物を特定する。しかし、将来発生する会話をどのように特定するのか。本件犯行に関係する通信ないし会話というような抽象的な内容でしか令状に記載できません。特定性の要求をまさに満たしているとは言えないと私は思います。

 まさに、捜査令状は、被疑者に示して、そして被疑者の立ち会いを認めた上で法律が執行される、こういうことになります。しかし、盗聴の場合、この立ち会いも提示も全く要件を満たさない、こういうことになります。

 そこで、現行法制の中の通信事業者による常時立ち会いということが重要な要素となってきてはいました。しかし、この通信事業者の常時立ち会いは、通信事業者が通信を聞けない、その結果、切断することができない、切断権を認められないということで、必ずしも十分な保障規定とはなり得ませんでした。

 そして、当時の法案は、一般犯罪を対象とするということで、人権侵害性が極めて高いということでありました。

 当時は、今ここに来られております緒方靖夫さん宅への神奈川県警の盗聴事件が発覚し、そして、一九九七年の六月には、国家賠償請求事件の東京高裁判決が既に出されていました。判決では、情報収集活動を末端の警察官が職務と無関係に行うことは通常あり得ない、本件盗聴行為は、公安一課所属の警察官がいずれも県の職務として行ったと推認できる、このように神奈川県警による犯行であることを明確に断じています。しかし、その後に至っても、警察庁長官はこの法務委員会において、警察としては盗聴と言われるようなことは過去においても現在においても行っておらず、今後も行うことはないと、反省も謝罪の一言もありません。

 このような警察に盗聴の権限を与えられないという運動を提起して、多くの国民の共感を得ました。警察による違法行為、不祥事も当時は相当多く、それを隠蔽する体質に対する国民の不信感も相当多くありました。

 一九九九年六月、野党の三党それから三会派の代表が結集した日比谷野外音楽堂には、当時としては非常に多い、八千人の国民が結集しました。民主党菅直人、共産党不破哲三、社民党土井たか子、さきがけ武村正義、二院クラブ佐藤道夫、国民会議中村敦夫という代表が、それぞれ壇上で決意を表明しておりました。

 結局、与党は、このままでは盗聴法案の成立が危ぶまれるということで、対象犯罪を組織犯罪の四類型に絞ること、そして立ち会いも例外を認めない常時立ち会いとすること、それから国会への報告制度を設けること、このような修正案を提示しましたけれども、最終的に強行採決に至った、こういう経過であります。当時、野党は、牛歩戦術ということで、体を張って闘ったという歴史があります。

 今回、国会に提出された改正案の問題点について、二つ述べたいと思います。

 第一は、対象犯罪が拡大され、窃盗、それから詐欺、逮捕監禁など一般犯罪が広く認められているということです。

 これは、法律第一条に規定されております組織犯罪の摘発という立法目的と明らかに矛盾しています。最高裁の判決では、重大な犯罪に係る被疑事実に限定しており、その判断にも違反すると考えられます。改正法の定める組織要件である数人の共謀、それから役割の分担に従って行動する人の結合体、このような要件も濫用防止にはなり得ないと考えています。上川法務大臣は、二人で役割分担が認められれば適用が可能だと答弁しているからです。

 それから、暗号技術に基づく新しい傍受方法の問題です。

 この傍受方法では、通信事業者による常時立ち会いを排除しています。通信事業者による常時立ち会いは、第三者による監視の目が入ることによって、捜査機関による傍受記録の改ざん、それから通信傍受の濫用的実施を客観的に防止する、そして捜査機関に対してこのような行為を行わないという自制を促す機能を果たしてきました。しかし、新しい方法では、捜査機関に対する自制の効果を求めることはできません。

 この方法は、全ての会話が何日にもわたり録音されるというものです。犯罪に無関係な会話が膨大に録音され、犯罪と無関係な人の会話が盗聴されます。個人のプライバシーが丸ごと裸にされます。

 統計資料によると、盗聴の件数は、当初は年間十数件、最近は数十件であり、犯罪と無関係な通話の割合は八五%と言われています。しかし、一般犯罪まで盗聴が実施されるようになれば、おびただしい件数の盗聴が実施され、高い比率の無関係通話に対する盗聴が行われ、プライバシー侵害の危険性が格段と高まると言わざるを得ません。

 特に、盗聴の対象がマスコミ関係者に向けられた場合は極めて重大な問題をはらんでいます。

 犯罪報道に携わる社会部記者などが犯罪グループの関係者と連絡をとって、電話やそれから電子メールで取材を行う、この行為が軒並み盗聴の対象となります。正当な取材活動に致命的な打撃を与えるということになりかねません。

 現在の規則では、マスコミ関係者との通話であることがわかった時点で切断するということになっていますが、新しい傍受方法では全て録音されます。マスコミ関係者との会話を立会人がいない状態で警察が全て聞いてしまう、こういうことに対するチェックが事実上できなくなってしまう。

 秘匿性の高い通話というのは、マスコミ関係者ばかりではありません。弁護士との通話も全て録音されます。弁護士の秘密交通権が全く保障できないというような実態になり、弁護活動が丸ごと捜査機関に盗聴されてしまいます。弁護士としては許すわけにはいきません。

 警察による盗聴が私たちの市民生活に及んでくることはないでしょうか。

 例えば、労働組合の要求闘争で、次の団体交渉では何が何でも要求をかち取る、かち取るまで交渉はやめない、そのように執行部で意思統一をして、役割分担をして、一定時間、会社の役員を部屋に閉じ込めたというようなことになれば、通常の逮捕監禁の要件を満たし、盗聴ができることになります。

 労働組合だけではなく、原発に反対する運動や、それから環境問題を改善しようとする運動体の自治体との交渉などにこのようなことが悪用されないとは限りません。

 また、少年犯罪で一番多いのは、オートバイの窃盗です。少年グループが役割分担をしてオートバイ窃盗を実行したとすれば、窃盗罪を盗聴の対象としておりますので、盗聴ができるということになります。被疑者少年の携帯が盗聴対象とされると、犯罪グループだけにとどまらない、広範な人物との会話が盗聴の対象となります。家族、友人、知人、広範な会話が盗聴されます。少年たちのLINEとかSNS、このような通信は多数の人とのネットワークを形成しており、人権侵害の危険が広範に及ぶことが予想されます。

 最後に、弁護士会の状況について述べたいと思います。

 日弁連は、九九年の盗聴法の制定当時には、憲法違反の疑いを理由に反対の立場を貫き通しました。マスコミや市民と一緒に反対運動を展開し、与党を修正せざるを得ないところまで追い詰めたという実績があります。

 しかし、今回の法改正に当たっては、日弁連執行部は、一部の可視化を認めた法制審議会の答申案に賛成の立場をとったため、盗聴法について問題があるが、改正法案が速やかに成立することを強く希望するとして、法案に反対しないことを表明しています。この日弁連執行部の対応は、警察が盗聴法、検察が司法取引、日弁連執行部が一部可視化、三者がそれぞれとりたいものをとる、このような三者による談合と言わざるを得ません。

 しかし、十八の弁護士会会長が反対の共同声明を出して、その後、四つの弁護士会の反対の声明が出されています。東京の弁護士を中心に、盗聴法、司法取引を許さない弁護士、市民のデモを五月に三百人程度で大成功させたということもあります。

 日弁連執行部は、法務委員を訪ね、早期成立を働きかけていると言われています。これらの動きは、反対運動を展開している冤罪被害者や冤罪撲滅を求める市民に対する重大な背信行為と言わざるを得ません。

 日弁連執行部は、集団的自衛権行使を認める戦争法案に反対し、全国展開を行っています。憲法違反の疑いがあるという点では盗聴法も全く同じであり、今からでも、反対の立場に立って反対運動を展開することを強く求めたいと思います。

 さきの本委員会に出席した日弁連副会長の内山弁護士は、日弁連は、現時点でも、通信傍受、盗聴について基本的な考え方は変えていません、通信の秘密を侵害し、個人のプライバシーを侵害する、そういう危険性を持った捜査方法だという考え方は一貫していますと述べています。それであるならば、今からでも反対運動に立ち上がるべきではないでしょうか。

 この通信傍受法の拡大が行われた後に、警察が誰の会話を一番聞いてみたいと思うでしょうか。ここにおられる政治家の皆さんの会話を聞いてみたいと一番思うんだと思います。警察が収集した政治家の皆さんの会話は権力中枢に上がり、それがどのように使われるのかは皆さんが一番御存じのことだと思います。

 私たちは、これに反対する人たちとともに最後まで闘って、この法案を廃案にしたいと考えております。

 以上です。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、山下参考人にお願いいたします。

山下参考人 おはようございます。本日は、意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

 私は、平成元年、一九八九年四月に弁護士登録をした者でございまして、現在、二十七年目でございます。

 私は、これまで日弁連の関係でよく参考人に来させていただいているんですが、きょうは、あくまで個人の立場で、現在審議中のこの法案について意見を述べたいと思います。

 私が弁護士になってちょうど十年目のころ、平成十一年、通常国会において通信傍受法の政府案が国会で審議をされておりました。当時から、私は、この法案は問題があるということで反対しておりました。

 国民世論や野党からも強い反対があり、結局、特に当時の与党の中の公明党が中心になりまして、大幅に修正された上、現行法が成立したということでございます。そして、翌平成十二年から施行されております。

 通信傍受の実施状況の推移という資料を見ても、ほぼ年間十件程度しか実施されていないということがわかります。すなわち、この通信傍受法というのは、当初の政府案に大きな縛りをかけ、捜査機関にとっては非常に使いづらい法律になっているということが言えます。

 今回の法案のもとになりました法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会は、もともと、大阪地方検察庁特別捜査部が立件した厚生労働省元局長無罪事件などを受けて設けられました検察の在り方検討会議を経て、検察官が過度に取り調べや供述調書に依存する風潮があるということを改めるべく検討され、それを受けて法制審議会の特別部会が設けられたという経緯がございます。

 また、当時、警察においてもいわゆる志布志事件などの冤罪事件が明らかになっている中で、捜査機関全体の問題として、冤罪防止のために、いかに捜査機関による権限を抑制し、自白獲得型の捜査を根本的に見直すかがこの特別部会には求められていたと考えられます。

 ところが、特別部会においては、通信傍受法をいかに使い勝手のよいものにするかという方向での議論がなされました。作業分科会の議論では、通信傍受という捜査手法が有用か必要かという観点から、対象犯罪の拡大が議論されました。

 その結果、捜査機関の捜査権限を大幅に拡大するものとなり、特別部会の当初の目的とは正反対の方向の取りまとめになってしまったということがございます。

 今回の法案は、当初の政府案に戻ろうとしていると考えられます。すなわち、現行法が成立する際にこれにかけていた縛りを完全に外そうとするものでございます。その意味で、本改正案は現行法を質的に転換するものであり、これを一旦認めますと、今後も通信傍受を拡大していくことがとめられなくなると考えられます。

 以下、本法案に即して具体的に指摘させていただきます。

 まず、対象犯罪の拡大についてです。

 現行法は、薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人の四類型だけを対象犯罪としています。これらは、性質上、組織犯罪と言えるものです。

 本改正案は、財産犯である窃盗、強盗、詐欺、恐喝を加えるとともに、殺人、傷害、傷害致死、現住建造物等放火、爆発物使用などの殺傷犯、逮捕監禁、略取誘拐、児童ポルノの提供罪等のそれ自体は本来組織犯罪ではない一般犯罪を対象としようとしています。そして、これを別表第二の罪として、いわゆる組織性の要件を傍受令状の要件として要求しようとしています。

 しかし、その要件は、組織犯罪処罰法の組織性の要件と比較すると、緩和されています。これは、特別部会での議論の中での妥協の産物として認められた経緯からしても、要件として極めて不十分なものとなっており、十分な歯どめにならないと考えられます。

 対象犯罪がこれだけ広く拡大されますと、これまで年間十件程度であった通信傍受は、年間数百件にふえるおそれがあると考えられます。

 また、今回、対象犯罪を決めるに当たりましては、捜査にとって通信傍受が有用か必要かという基準によったことから、今回の法案が成立いたしますと、今後は、捜査当局から事あるごとに、通信傍受が有用、必要という理由で、通信傍受の対象犯罪が拡大されていくことが強く懸念されます。

 特別部会においては、いわゆる振り込め詐欺や窃盗団を対象とすることが議論されていましたが、それならば、組織犯罪処罰法にある組織的詐欺罪を対象にするとか、新たに組織的窃盗罪を新設するなどしてそれを対象犯罪とすることも考えられたのにもかかわらず、詐欺罪や窃盗罪、さらには恐喝罪、強盗罪というものを全て対象とするという形で、一般犯罪の共犯事件についても通信傍受が可能となるおそれがあります。

 次に、通信傍受手続の合理化、効率化についてです。

 これはまさに捜査機関にとって使い勝手のよい制度にするためのものであり、捜査機関がやりたかった捜査手法であると考えられます。

 本改正案は、現行法が認める方式に加えて、通信事業者の施設で行う一時的保存方式、特定電子計算機を用いて捜査機関の施設で行うリアルタイム方式と一時的保存方式の三つの方式を可能にしようとしています。

 このうち特に問題が多いのは、捜査機関の施設で行う方法です。この場合には、暗号化等を行う機能を有する特定電子計算機を利用して、通信事業者の施設から捜査機関の施設に対象となる通信を暗号化して伝送し、これを捜査機関の施設で復号化してスポット傍受を行うというものですが、立会人による立ち会いや原記録の封印は不要となります。

 現行法上の通信傍受は、全国で一カ所とされる通信事業者の施設に捜査官が出向き、立会人をあらかじめ全て準備しなければ実施できないという点で極めてハードルが高い捜査方法でありました。それゆえに実施件数も少なかったと考えられますが、この方式によりますと、先ほどの対象犯罪の拡大と相まって、通信傍受の実施は飛躍的にふえ、無関係な市民の通話が聞かれる頻度が高くなると考えられます。

 現行法の立会人は、通信内容を聞くことができず、切断権も認められていないために、外形的チェックを行うものとされてきました。これは、もともと現行法自体が立会人の権限を限定したことに問題があったと考えられます。現行法ができる前に検証許可状を使って電話傍受した事案について、先ほどから何度か言及がありますが、最高裁平成十一年十二月十六日第三小法廷決定は、立会人に電話を聴取して切断する権限を認めていた事案であるということに留意する必要があります。

 ただ、現行法によっても、立会人がいることによって、捜査機関が無関係通信を傍受するなどの濫用を抑制する効果があったと考えられます。そして、これは、通信傍受が憲法違反にならないための要件の一つをなしていると考えられます。そうであるとしましたら、本改正案が、捜査機関の内部で第三者の立会人がいない状態で通信傍受を実施することについては、その公正さに疑問を持たざるを得ません。

 政府は、暗号化する機能を有する特定電子計算機を用いることを立会人不要の理由として説明していますが、暗号化というのは伝送の際に情報が漏えいしないための措置であり、傍受手続の現場での外形的チェックにかわるものではありません。

 ちなみに、伝送による漏えいの危険は、暗号が絶対に破れないわけではないことから、専用回線によることが望ましいとしても、莫大な予算が必要となります。

 したがって、少なくとも、特定電子計算機の技術的措置の適正性等を第三者が随時に抜き打ち的に監査を実施することというのは最低限必要であると考えられますし、現行法上認められた傍受記録に記録された通信の当事者に与えられた不服申し立てがほとんど利用されていないという現状において、捜査機関の施設において立会人のいない状態で通信傍受が行われるようになるのであれば、第三者機関が裁判所に保管された原記録の全てまたはアトランダムに選んで聴取して事後的チェックを行う制度は不可欠であると言うべきであります。

 その他、本改正案には極めて問題が多くありますが、時間の関係で省略させていただきます。

 しかし、私は、このままの内容で成立させるべきではないと考えております。国会による良識ある審議を期待しまして、私の意見を終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 次に、緒方参考人にお願いいたします。

緒方参考人 おはようございます。緒方靖夫と申します。こうした機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。

 私は、警察による電話盗聴事件の被害者の立場からの話をさせていただきます。

 二十九年前に発覚したかなり以前の事件でありますので、資料を配付させていただきました。通信傍受法の改正を考える上で参考にしていただければ幸いであります。

 私の事件ですけれども、東京・町田市にある自宅の電話に雑音が入ることから、NTTに調査をしてもらった結果、百メートル離れたアパートに我が家の電話線を切断し引き込み、親子電話のようにして有線で盗聴していたという事件が一九八六年に発覚いたしました。東京地検特捜部の捜査の結果、アパートに残された生活の痕跡、指紋、足紋、衣服、布団、録音機器、カセットテープなど多数の証拠が押収されました。実行犯は県境を越えてやってきた神奈川県警の五名の現職公安警察官と特定され、その盗聴チームの構成、手口、指揮系統など、事件の全容がほぼ解明されました。

 検察は、資料三にありますけれども、下線の部分ですけれども、四つの理由を挙げて、特に、警察が相応の懲戒処分を約束し、警察庁警備局長、神奈川県警本部長の辞職など、直接の上司や責任者を更迭したことを理由に不起訴処分といたしました。資料四に挙げておきましたけれども、処分を決定した当時の伊藤検事総長が、退任後、不起訴にした理由をおとぎ話にかこつけて語ったものであります。

 その翌年、八八年九月、私と家族三人は国家賠償裁判を提起いたしました。六年後の九四年の東京地裁の判決は、資料の七のAにありますけれども、少なくとも警察庁警備局長、公安一課長ないし神奈川県警本部長、警備部長において具体的内容を知り得る立場にあったと、国が関与した計画的な日本共産党に対する情報収集であると断じました。

 九七年の確定した東京高裁の判決は、これは七のBですね、電話盗聴が警察の組織的犯行であることを認定した上で、少なくとも九カ月間盗聴された既遂であるとして、国、神奈川県、警察官個人に賠償金の支払いを命じました。さらに、判決は、法を遵守すべき立場にある現職警察官が犯罪にも該当すべき違法行為を行ったという点だけを見ても、本件盗聴事件の違法性は極めて重大だと指摘いたしました。

 警察庁関与の組織的、計画的な犯行という点は、資料五の公務員の職権濫用についての付審判請求への東京地裁、東京高裁の決定でも、また資料六の東京第一検察審査会の不起訴不当の議決でも、資料八の盗聴のために使った公金の神奈川県への返還要求の住民訴訟での横浜地裁の判決でもそれぞれ指摘されているところであります。

 九七年の国賠訴訟東京高裁判決に、被告国は、上告する理由がないと判決を受け入れました。しかし、警察庁と法務省は国会で、この事案についてそれぞれ別の説明を行っております。

 警察庁は、事件当時の山田長官が、警察におきましては、過去においても現在においても電話盗聴は行っていませんと答弁し、今日もこの答弁を踏襲しております。

 他方、下稲葉法務大臣は、平成十年三月十一日の当院法務委員会で、この事件の認識を問われ、神奈川県警の警備部の警察官による共産党の方に対する盗聴事件だと答弁しております。

 このように、警察と検察、法務との間で、私の事件に対する認識が異なっております。警察から、一度も被害者である私と家族に対する謝罪はありません。法を遵守すべき警察が、違法性は極めて重大という判決を受け入れながら、警察庁トップを先頭に、知らぬ存ぜぬを通してきたわけです。警察の中に、法を軽視するという、公権力の行使者として絶対にあってはならない体質を感じさせます。

 通信傍受を実行するのは警察官です。したがって、十数年前の通信傍受の法案審議の際に、私の事件がクローズアップされ、その懸念が払拭されるかどうかが大きな論点となりました。しかし、今日まで、この盗聴事件に警察は関与していないという警察庁の態度は変わっておりません。

 前回の審議では、警察への懸念が強く指摘されたもとで、原案が修正され、一定の制約が設けられました。今度の改正案は、この制約を取り払うだけでなく、対象も拡大されるというものです。事業者から暗号化して警察署、警察本部などの警察施設のコンピューターに伝送させ、警察署、警察本部でさらに暗号化することで、立会人なしの通信傍受を可能にするというものであります。憲法三十五条の令状主義をかなぐり捨てるもので、その点でも憲法違反の法律と私は考えます。

 私の自宅への盗聴は、立会人なしの盗み聞きと言えるだろうと思っております。しかも、この十年余り、通信傍受について国民に十分な情報が開示されてきたわけではありません。私は、当時の懸念が払拭されていないばかりか、強まっていると考えます。

 警察は、みずから行った犯罪を公権力の検察には認め、わびて、不起訴に持っていく一方で、裁判の場で被疑者警察官は出頭拒否を繰り返し、出頭せよとの裁判官の指揮命令にも従わない、法廷を侮辱する態度に終始しました。さらに、国会の場でも、盗聴していないと平然と虚偽を繰り返してきました。こうした組織に通信傍受を委ねていいのかどうか、これは本当に大きな問題だと私は考えます。

 警察においては、通信傍受法が九九年にできる以前から、非合法の電話、室内盗聴が行われてきました。発覚しただけでも約四十件ありますが、私の事件を除いて、被疑者不詳のままでした。そこで押収された盗聴器の幾つかは警察庁が自前でつくったものであり、警察庁には四係という非合法の活動を進める部署があり、そこも含めて一定数の通信専門の職員が働いていることも、私の事件の法廷で明らかになっております。

 次に、盗聴されるということは一体どういう被害なのかについて述べたいと思います。

 私の場合、盗聴は少なくとも九カ月間の既遂とされています。これは、政治活動の自由への侵害であり、同時に、私たち家族の会話が全て聞かれ、家族が丸裸にされたという感があります。盗聴では、電話で話した相手が全て被害者となります。損害の回復というものはあり得ません。

 警察の盗聴には決まりがあります。一、全部聞く、全部聞かなければわからないから。二、全部記録に起こす。三、その日のうちに報告する。どんなたわいのない会話にも注意を集中して聞き逃さない。ここに盗聴工作の本質があります。

 東京高裁の判決は、資料の七のBの下線を引いた部分ですけれども、プライバシー権のじゅうりんによる被害について、こう書いてあります。「憲法上保障されている重要な人権である通信の秘密を始め、プライバシーの権利、政治的活動の自由等が、警察官による電話の盗聴という違法行為によって侵害されたものである点で極めて重大」と指摘して、盗聴の性格を以下のように強調しています。さらに下線の部分ですけれども、「電話回線の傍受による盗聴は、その性質上、盗聴されている側においては、盗聴されていることが認識できず、したがって、盗聴された通話の内容や、盗聴されたことによる被害を具体的に把握し、特定することが極めて困難であるから、それ故に、誰との、何時、いかなる内容の通話が盗聴されたかを知ることもできない被害者にとって、その精神的苦痛は甚大」であると。

 私の場合は、非合法の盗聴です。警察が通信傍受法に基づいて行う場合にも、こうした被害をもたらす可能性が大いにあります。

 私の実感ですけれども、九九年以前には、通信傍受は憲法二十一条により許されないという考え方が支配的だったと思います。その時期でさえも、警察においては盗聴が行われてきたことは事実であります。通信傍受法が成立した後には、非合法の盗聴の可能性も広がったと思います。その法の拡大は、盗聴の裾野をさらに広げていくことになると思います。

 警察の非合法の盗聴などを行う四係の創設にかかわった元警察官は、盗聴の対象は共産党など左翼が多いと言えるが、与党を含めて、国会議員でいえば、可能性として全ての議員が対象になると指摘しています。警察の方が、本人がとっくに忘れている自分の動静を本人以上に把握していることは幾らでもあり、それをおどしに使うことはよくあると述べている、こういうことがあります。

 警察出身者がこうした情報を手にして力を持つということは、これまでも幾らでもありました。一匹オオカミと言われた警察出身者が異常な権力を掌握する力の源は、まさにこうした情報にあります。

 私は、決して反警察ではありません。市民の警察をつくるべきだということを考えてきました。どの社会にも、市民の権利の保障のために公的な力が必要であります。そして、そのために警察は不可欠です。

 二百年以上前のフランス人権宣言には、公的な力は、全ての市民の利益に合致して設けられるべきで、その行使を委託される権力者の特殊な利益のために設けられてはならないとあります。これこそ私は警察の姿であってほしいと強く願っております。

 最後ですが、みずからの犯罪行為をやっていないと歴代警察庁長官が国会で虚偽を繰り返し、法令を軽視し、組織防衛という特殊な利益を優先する警察に通信傍受の実務を一層広範に担当させることは、国民のプライバシー権にとって極めて危険だと考えます。私は、現行の通信傍受法に反対でしたし、実際に多くの問題があったと見ております。したがって、その拡大には強く反対するものであります。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

奥野委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

奥野委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。山下貴司君。

山下委員 自由民主党の山下貴司でございます。

 私、十数年間、検事をやっておりました。その中で、オウム事件を初めとするテロなどの組織犯罪、暴力犯罪、あるいは爆窃団類似の組織的窃盗団の事件をやらせていただいたこともございます。他方で、今、弁護士として被害者支援などもやっておりますし、一方で、捜査機関の権限の濫用といったことにも対峙している、そういった立場でもございます。

 そういった観点から、やはり、新しい時代の刑事司法、これは必要なんだろうというふうに痛切に感じておりまして、今回、特別部会におきまして、川出先生を初めとする刑事司法の学者の専門家に加えて、例えば日弁連の元会長であるとか、あるいは連合の事務局長であるとか、村木次官であるとか、多様な方々が本当に衆知を集めて結論を出された特別部会の議論に基づいた今回の政府案、これについては非常に周到な議論をされていたものであろうというふうに考えております。

 そして、今回、通信傍受につきまして、まず対象犯罪の拡大について参考人の皆様にお伺いしたいわけでございます。

 今回、通信傍受法の改正に関する政府案、これは、まず私なりに整理いたしますと、社会問題化している特殊詐欺事件を初めとする深刻な組織的財産犯罪に対処するため、通信傍受の対象犯罪に詐欺、電子計算機使用詐欺、そして恐喝あるいは強窃盗などを加えるということ、二つ目に、暴力団やテロ組織による犯罪を防止するために、人の生命身体に重大な危険を及ぼす組織犯罪にも対応するために、殺傷犯、あるいは拉致監禁、誘拐関連事犯、そして放火や爆発物使用事犯、そういったものについても対象犯罪に加えるというもの、そして三つ目、通信技術の発達により、通信を手段として被害が深刻かつ回復しがたいほど拡大しつつある児童ポルノ犯罪、これは欧州評議会のサイバー犯罪条約においても通信傍受の対象とすることが義務化されているわけでございますけれども、そういったものを対象犯罪として加えることとしておると聞いております。

 そこで、まず田中先生に、田中先生は日弁連副会長あるいは名古屋弁護士会会長などとして弁護士の実務経験が豊富であり、特に民事介入暴力から市民を守ってきた経験も豊富だと聞いております。そういった実務の肌感覚に照らして、今回の通信傍受の対象となる、先ほど申し上げた対象犯罪の拡大について、実務家としての御感想を伺いたいと思います。

田中参考人 田中でございます。

 今の御質問に対してお答えをさせていただきたいと思います。

 私どもとしましては、要は、国民の不安とか懸念をどうやっておさめてあげるか、被害を防止することによってそれを実現していくかということをとにかく考えたいと思っております。

 そうしますと、今現在ある四つの犯罪だけに限定したのではそういった不安を取り除くことはできない。では、振り込め詐欺と窃盗、これらが今、集団的に行われておるので、それに限定したらどうだという意見も、それは出る可能性はあると思います。

 しかしながら、先ほども私申し上げたように、犯罪というものは、もちろん、刑法的にいえば、これは財産犯、これは身体に対する傷害というふうにきちんと分けることは可能なんですけれども、しかし、財産犯に襲われた場合であっても、精神的に非常にダメージをこうむるということは幾らでもある。被害をこうむる側からすると、刑法で決めるように、これは財産犯、これは身体的被害、これは精神的被害なんというふうに分けられないんですね。例えば略取誘拐とか傷害だって、やはり継続的、反復的、組織的にやられたら、もちろん財産的被害の方にもつながっていきますし、不可分なケースが多いわけです。

 したがって、私は、現在掲げられておるものについては拡大をしていただきたい、それが国民の安心につながるというふうに考えております。

山下委員 ありがとうございました。

 先ほど、田中先生そして川出先生からは、平成十一年の最高裁判決も踏まえて、今回の対象犯罪につきましては通信傍受が正当化される重大犯罪に当たるのであろうというふうな趣旨の御発言がございました。

 それを前提として、他方で、罪種について限定しよう、もともと拡大すること自体認めないという方もおられるわけですけれども、拡大する中でも対象犯罪を限定しようというふうな見解もあるやに聞いております。

 そこで、川出先生そして田中先生に伺いたいんですが、例えば、まず第一として、拡大する対象犯罪を組織的財産犯罪に限定しよう、すなわち、詐欺、電子計算機使用詐欺、恐喝、強盗、強盗致死傷、窃盗に限定するという考えについて、逆に言えば、より重大な保護法益である生命身体に対するテロ、組織犯罪は今回は除外しよう、対象犯罪としない、そういう考えについてどのようにお考えでしょうか。川出先生そして田中先生からお願いします。

川出参考人 今おっしゃった生命身体に対する犯罪と組織的な財産犯を比較したときに、犯罪の重大性ということからすれば、それは当然、組織的な生命身体犯の方が重要だということになるでしょうから、それを除外するという立場は、犯罪の重大性ということではなくて、恐らく、現実的な通信傍受という手法を導入する必要性がない、そういうお立場なんだろうと思います。

 ここは評価が分かれるところだと思うんですが、例えば北九州で起きているような事件ですね、暴力団が自分たちに従わないような一般市民の人について生命身体を侵害するような犯罪を行っている可能性がある、ああいう事案について、数は確かに少ないかもしれませんけれども、通信傍受を導入することであの事案が解明できるということであるとすれば、やはりそれを入れる必要性というのはあるのではないかと私は思います。

 ですから、重大性というか必要性を考えるときに、数として多いというところに着目する部分もあれば、そうではなくて、質の問題として入れる必要があるという場合もあると思いますので、私の意見としては、除外するというのは妥当ではないのではないかというふうに思います。

田中参考人 先ほどちょっと先回りしてお話ししてしまったと思うんですが、私も、結論から申しますと、限定は反対でございます。

 先ほど申し上げましたように、財産犯とそうでない犯罪とが、被害者の側から見たときに必ずしもきちっと分離できるものではないということもあります。そういったことも含めて、国民の安心、安全という立場からすれば、これはやはり狭めるべきではないというふうに考えております。

山下委員 ありがとうございました。

 それでは、引き続いてお二人に、今回の対象犯罪について、さらに絞って、今、特殊詐欺事案が問題なんだということで、特殊詐欺関連罪種に限定しよう、つまり、詐欺、電子計算機使用詐欺、恐喝だけに限定しよう、強盗や窃盗、強盗致死傷は対象犯罪としないという見解もあるやに聞いておるんですが、そういったことについて、川出先生そして田中先生の御見解を承りたいと思います。

田中参考人 何度も申し上げておりますが、被害者の側の立場に立って考えますと、全く同じような被害をこうむっているにもかかわらず、こっちは救われた、こっちは救われなかった、詐欺は救われたけれども恐喝はだめですよ、これはやはり、国民あるいは被害者の側からして全く合理性を欠く。同じような、暴力団あるいはそういった犯罪組織による被害をこうむったときに、あなたの方はだめですよ、こっちだけいいですよ、これはだめじゃないかと私は思っております。

川出参考人 組織的な強盗とか強盗致傷を外す理由というのは、先ほどとも同じで、事案としてそっちは少ないということなんだろうと思いますが、これも、現にそういう事案があるというときに、通信傍受を使ってその事案が解明できるということであれば、やはりそれを外す理由はないだろうというふうに思います。

山下委員 私も、過去、検事の時代に、連続宝石店窃盗団、爆窃団類似の犯罪ですが、これは連続で合計十億を超える貴金属の窃盗を解明したことがございます。他方で、やはり組織的窃盗団というのは、必ず売り先であるとかそういったものがございます。しかし、恐らく暴力団が関与していたことがうかがわれたんですが、そういった背後にいる者、これについては十分迫れずに終わったという思いがございます。そうした中で、やはり先生方の御意見、非常に共鳴するものがございます。

 では、これは川出先生に伺いたいんですが、例えば児童ポルノ犯罪、これは対象犯罪から外してはどうだという見解もあるやに聞いておりますが、これはいかがでしょうか。川出先生に伺います。

川出参考人 児童ポルノについては、恐らく法定刑が低いということが一つの理由なのかと思いますけれども、先ほど申し上げましたように、法定刑だけの問題ではないので、国民の権利利益がどの程度侵害されるかということを考えたときに、児童に対する心身への影響ということは非常に重大なものがありますので、それは入れる方向で考えた方がいいと思います。

 それから、先ほど山下先生おっしゃったように、これは国際的な要請ということもありますので、そういうことも含めて考えたときには、やはり児童ポルノについても、まさに通信傍受によって解明できる部分があるということであれば、それは入れておくべきだろうと思います。

山下委員 ありがとうございます。

 私自身、欧州評議会サイバー犯罪条約の交渉担当をやっておりまして、児童ポルノ犯罪に対する通信傍受については留保条項が入っております。この留保条項の対象に児童ポルノ犯罪を入れることに大変苦労いたしまして、日本は児童ポルノ天国か、そういった罵声を浴びせられながら私は交渉して、何とか留保条項を入れた記憶がございます。今、留保しているわけでございますけれども、我が国の取り組みを示すためにも、やはりここはしっかりとやるべきであろうと考えております。

 次に、手続の合理化、効率化問題でございます。

 今般、手続の合理化、効率化において、暗号技術を活用することによって、傍受の実施の適正を確保しつつ、通信事業者等の立ち会いを要件とすることなく、捜査機関の施設においても傍受が可能になるということになっております。

 ここで川出先生に伺いたいんですが、そもそも現行通信傍受法のもとで通信事業者が常時立ち会うこととした趣旨について伺いたいと思います。と申しますのは、通信事業者が常時立ち会うことになっておるんですけれども、通信事業者は傍受の中身は聞けないわけですよね。何が聞かれているかわからない部分について、ずっと横にいて座っているだけというのがこの前の視察の結果でもありました。

 他方で、現行法において立ち会うということであれば、捜査官に対して、人に見られているということで心理的抑制が働いて、違法、不適正な通信を傍受することに対する抑止効果があるんじゃないか、逆に、立会人がなくなってしまえば、捜査官がそんな心理的抑制から外されて、意のままに不適正な通信傍受を行うのではないか、そういうふうな不安もささやかれているところでございます。

 これに関しまして、川出先生から御見解を承りたいと思います。

川出参考人 先ほど申し上げたことの、ある部分繰り返しになりますが、立会人の役割は、外形的な事項のチェックということ、それから封印をするということでして、その上で、委員もおっしゃったように、人に見られているということによって違法行為をしなくなる、そういう効果も期待されているんだという意見もあります。法律上の役割としてそれが期待されているということではないと私は思いますけれども、実際にはそういう効果があるということは、そうかもしれません。

 ただ、先ほど申し上げたように、立ち会いをなくしたということによって抑止され、なくなる違法行為というのは一体何なんだろうかということを考えたときに、そもそも、そういう違法行為というのは新たな仕組みのもとではなし得ないという場合もありますし、また、可能性としてあるとしても、やはり核心の部分というのは、見られていることによる抑止効果というよりは、例えば、違法なことをやったとすればそれは事後的に発覚するということで抑止されることの方が実際には大きいだろうと思いますので、そういう意味では、立会人をなくすことによる抑止効果の消滅という点は、問題としては解消できるのではないかというふうに思います。

山下委員 ありがとうございました。

 引き続いて川出先生に、例えば、今、常時立会人を必要とするんだ、実務上、結局、通信傍受を実施するためには、場合によっては一カ月前から、通信事業者、誰が立ち会うんだ、どういうふうにやるんだということで、実施に一カ月以上の時間を要してしまう場合も珍しくないと聞いております。一部の見解では、いや、こういったことで運用上通信傍受の実施を抑制しているんだ、それで実務的に補充性の要件を担保してきたんだというふうな見解もあるやに聞いておりますが、こういった見解ですね。

 通信傍受については、既に補充性の要件、あるいは、今回新しく、対象犯罪については組織性の要件とか、さまざまな要件がございます。そして、一時保存につきましても暗号化の要件がある、そして裁判官がしっかり見るという要件があるわけですけれども、そういったことプラス、常時立会人を必要とすることで運用上抑制するんだという見解について、いかがお考えでしょうか。

川出参考人 補充性ということですが、法律上定められている補充性というのは、要するに、通信傍受以外の捜査方法によっては犯人の特定とか犯行状況の解明が著しく困難だということ、それが補充性でして、今おっしゃった、常時立ち会いが要求されることによって、それが事実上制約となって実施が差し控えられるということは、法律上の補充性とは全く無関係の話です。

 先ほど申し上げたように、傍受の必要性があって、法定の要件が備わっているにもかかわらず、事実上の制約から実施ができないということ自体、それはおかしい話なので、むしろそこは解消されるべき話であって、常時立ち会いがあって、それで実施が制約されているからいいんだということ自体がやはりおかしいというふうに私は思います。

山下委員 引き続いて川出先生に伺いたいんですが、先ほどほかの参考人の先生方から、例えば、取材源からの取材における通話が傍受される、あるいは弁護士との通話が傍受されるんじゃないか、そういう御不安がありました。

 そういったことに関して、川出先生、今回の改正案については担保されているかどうかについて、専門家の立場から御見解を伺いたいと思います。

川出参考人 今の部分は、今回の改正案は現行法と特に変わっているところはないわけでして、取材については、先ほども少しお話が出てきましたが、通信を制約している部分というのは、現行刑訴法の証言拒絶権とか押収拒絶権の範囲と一致していますので、その観点から、記者の取材部分については特に対象とはしていない。ただ、通達でそこは運用上制限するということですから、それは同じように維持されるということになるんだろうと思います。

 それから、弁護士に関しては、先ほどの守られるべき対象に入っていますので、弁護士との通話が無制限に聞かれる、そういう話ではないだろうと思います。

山下委員 今回、合理化において、私が個人的に非常に重要だと思っているのは、特に人命にかかわる場合や、あるいは被害を防がなきゃいけない、こういう場合には、やはりタイムリーに通信傍受をやって摘発する必要が非常に高いと思います。

 私の経験でも、もしそういうことが許されれば被害拡大が防げたのにという感覚は非常にございます。そういったこともやはり考えるべきであろうと思っております。

 それで、長澤先生、山下先生、そして緒方先生にちょっとお伺いしたいんですが、通信傍受という捜査手法を用いることについて、そもそも反対でおられるのか、あるいは限定的に賛成なのか、そのことについて、ちょっと時間もございますので、簡潔に結論だけお答えいただきたいと思います。

奥野委員長 では、お三方に一言ずつでお願いします。まず、長澤参考人。

長澤参考人 私は、人権を制限するためには他人の人権とぶつかり合うということの必要性を感じておりますので、基本的に、今回の捜査の必要性ということで盗聴をすることは反対です。

山下参考人 私は基本的には反対ですが、ただ、現行法が成立してもう既に十五年たっておりますので、現行法の範囲においては、これはもう既に、法的安定性といいますか、そういう観点からは認めますが、これ以上広げる必要はないと考えております。

緒方参考人 私は、やはり憲法第二十一条の二項からして、こういうことはあってはならないと。横並びということが当時もよく言われました。しかし、そういう話じゃないだろうと思っております。

山下委員 要は、使う人の心の持ち方、組織のあり方が一番問題だろうと思います。そのことについては、我々委員一同、しっかりと警察、捜査機関に対する監視をやっていくということをお誓い申し上げて、質問を終わります。

 ありがとうございました。

奥野委員長 次に、國重徹君。

國重委員 おはようございます。公明党の國重徹でございます。

 本日は、五名の参考人の皆様に当委員会までお出ましいただきまして貴重な御意見を賜りましたこと、心より感謝と御礼を申し上げます。

 先ほど、同じ与党議員である山下委員の方より種々質問がございました。最後の質問も含めて、私が予定していた質問と大分かぶるものがありましたので、少し工夫をしながら質問させていただきたいと思います。

 私からは、今回の通信傍受の必要性と許容性の両面の観点から質問させていただきたいと思っております。

 先ほど山下委員の方からも、最後に通信傍受の必要性についての質問がありましたけれども、ちょっと質問の角度をもう少し狭めて、長澤参考人と山下参考人にまずお伺いしたいと思います。

 憲法二十一条二項の通信の秘密、また憲法十三条のプライバシー権、このような権利を侵害するのかどうかという許容性の問題は一旦脇に置いておいて、政策論としての必要性の観点から、犯罪捜査において、通信傍受というものが、そういう捜査手法が有用であると考えるのかどうなのか。そもそも必要性がなければ、私は許容性の議論というのは問題にならないと思っております。まず、必要性、通信傍受という捜査手法というのが有用と考えているのかどうなのか。

 これは、先ほど長澤参考人は、少し憲法論とかそういうことも絡めてお話しされましたが、そういうことは一旦脇に置いて、捜査手法としての有用性があると考えるのか、全くないとお考えになっているのか、まずこの点について、長澤参考人、山下参考人に御意見を伺いたいと思います。

長澤参考人 今問題になっているのは振り込め詐欺ですね。年間五百億以上の被害が出ている、これをどうにか摘発できないか、捜査機関も含めてさまざまな努力をされているというふうに思います。そして、この振り込め詐欺は、捕まえてみると、受け子とか出し子、末端の人間しか捕まらない、上まで行かない、ここが一番の問題点で、では、どうやって上層部まで一網打尽にできるのか、そのためにこの盗聴が本当に有効、有益なのかということだと思うんです。

 相手とするのは素人じゃありません、詐欺者集団のプロ集団です。このプロ的犯罪者集団が、携帯電話が盗聴される、メールが盗聴される、このような法律がもしできたとすれば、どのような対策をとるでしょうか。今でもとっていますね。携帯電話は一回使ったらもう二度と使わない、継続しないんです。それから、末端の受け子や出し子と幹部、中枢部分が携帯電話で直接会話をすることはありません。それから、具体的に指示を出すのは、どこどこに行け、そして誰々と何をしろ、こういう指示を出すのは中枢部分ではありません。その下の部分なんです。

 そうしますと、何か、盗聴によって一網打尽になるのではないかという期待とは全く裏腹に、この出し子や受け子というのは、全く犯罪者集団の中にいる者ではなく、お金をもらってたまたまその犯罪に加担してしまう、そのような人間だけの会話を盗聴することにならないでしょうか。私は、そういうようなことを踏まえて考えてみるならば、彼らプロの犯罪者集団に対抗するための通信傍受というのは、効果がないというふうに考えています。

 もう一つです。

 よく話題になります宝石窃盗団事件ですね。これが、外国人による窃盗集団というものがよく話題になります。これも摘発したい、私も摘発してもらいたいと思っています。しかし、彼らは、継続的にやるというよりも、一旦決めた銀座のどこどこ宝石店を、何月何日何時何分にどのような手段で襲うのか、そして、襲ってしまえばもう日本から離れてしまう。そのような人に、継続的な会話を盗聴するなどということが本当にできるのでしょうか。私はそう考えていて、そのような窃盗集団に対しての会話傍受、いわゆる盗聴自体は、有効性がないというふうに考えています。

 以上です。

山下参考人 私も似たような感じですけれども、やはり十五年間の過去の実績から見ても、例えば盗聴したことによってトップの者がそれで検挙された例は恐らくないと思うんですね。したがって、盗聴による効果というか捜査の結果というのは非常に限定的であると思います。

 その意味で、限定的なものであることを前提とした上で、そのデメリット、やはりいろいろな無関係通話が聞かれることによる市民の不安とかデメリットですね、その辺とのバランスで考える必要があると思うので、そういう意味では、思ったほどの効果がないのであれば、それを余り拡大していくということは必要ないと思います。

 また、現在の国際化している社会の中で、通話先が海外であるという可能性は極めて高い。とりわけアジアとかですね。そうなりますと、やはりこれは、直ちに捜査で検挙できるというわけでもないと思います。やはり、盗聴の捜査の結果というか効果というのは極めて限定的なものであろうというふうに考えております。

國重委員 お二人の参考人、ありがとうございました。

 今、それぞれの御意見で、必要性に関しても、否定的、また、やや否定的な御意見でありました。

 ただ、今回、通信傍受について私もさまざま、まあ、お二人の参考人に比べれば、今までの経歴に鑑みれば私はまだまだ浅学非才だと思いますけれども、今回研さんさせていただいた中で、これまで国会報告がなされた事件のうち、犯罪関連通信が全く得られなかった事件は一一%、つまり、事件ベースでいえば八九%の事件において通信傍受によって犯罪関連通信等が得られているという客観的事実がございます。また、先日の当法務委員会におきまして政府が答弁したところによりますと、この通信傍受によりまして、ちょっと正確な表現は忘れましたけれども、議事録にはきちっと残っておりますけれども、組織の上部の者が摘発されたという事案もあったというような答弁もございました。

 こういったことからしますと、私は、この通信傍受にはやはり一定程度有用性はあるのではないかと思っております。

 ただしかし、だからといって、通信の秘密、プライバシー権、これを不当に侵害してはならない。通信傍受に当たっては謙抑的に行っていくことは当然のことでございます。その点で、先ほどおっしゃった、人権保障の観点からさまざまな御意見を述べられていることについては私も大変共感いたしますし、特に、権力に対しては非常に懐疑的でなければならないと思っております。

 そこで、まず、対象犯罪を慎重に限定していかないといけないと思っております。

 政府の答弁によりますと、通信の秘密の制約に見合うほどの犯罪の重大性があって、捜査手法としての通信傍受の必要性、有用性が認められることが必要なんだというふうに言っております。そういった観点から今回の対象犯罪も限定しておるというふうに答弁をしております。

 そこで、川出参考人にお伺いします。

 通信傍受の対象犯罪を選定するに当たって、立法事実との関係で刑事司法制度特別部会においてどのような議論がされたのか、お伺いしたいと思うんです。

 これは、例えば組織窃盗ということで、代表的な自動車盗の検挙件数に占める複数犯の割合が、平成十七年と平成二十六年、この十年間を見たときに、ほぼ五割から六割で、数字的にそれほど上下動していない、また、認知件数、被害総額は、平成十七年に比べて平成二十六年は半分以下に減っているというような客観的事実もあります。

 こういった観点に照らして、立法事実との関係で部会においてどのような議論がされたのか、お伺いしたいと思います。

川出参考人 それぞれの犯罪、対象犯罪に加えるものについて、現在の犯罪情勢がどうであるかということについては紹介がありました。

 それから、悪化している部分もあるでしょうし、それから、今おっしゃったように、例えば複数犯の割合が変わっていないという部分もありますし、それから、もちろん被害額が減っているということもあるんですが、被害額が減っているというのも、結局、減っているんですが、しかし、あるわけですよね、残っている部分が。それについて、まさに通信傍受を導入することで事実が解明できる、そういう意味での立法事実があるという話であったと思います。

國重委員 それでは、引き続き川出参考人にお伺いしたいと思いますけれども、先ほど川出参考人は、国民の権利利益の侵害の程度という観点から考慮されているというようなお話がありました。私も、振り込め詐欺等に関しては、先ほど来、話に出ています、組織の首謀者等を摘発するためには、やはりこういった捜査手法というのは一定程度必要ではないかというような考えを持っております。

 ただ、一方で、国民の権利利益の侵害の程度ということで論証していくと、今後、順次改正をしていくときに、やはり対象犯罪がどんどん拡大していくんじゃないかというような懸念の意見があります。それは私も共感しないわけではありません。

 こういった声についてどのようにお答えになるのか、お伺いしたいと思います。

川出参考人 犯罪の重大性ということだけで言えば、おっしゃるとおりで、今、対象犯罪として拡大した部分以外にも、同じように重大な犯罪というのは当然あると思います。

 ですから、やはりもう一つあって、そこは、通信傍受を導入する必要性、ここで歯どめがかかっていくんだろうと。ですから、同じような重大な犯罪だったらどんどん広がっていくという話ではなくて、通信傍受を入れることの必要性が認められるもの、それについてなお考える。

 今回入れなかったものについて、今後、必要性が生じてきたということであれば、それは拡大することもあるでしょうし、場合によっては、逆に必要性がなくなるということもあるのかもしれません。ですから、それは、犯罪の重大性だけで無制限に広がっていく、そういう話ではないというふうに思います。

國重委員 済みません、また川出参考人になりますけれども、今回対象犯罪が拡大されたものについては、一定の組織性の要件がつけられております。これについて、通信自体、少なくとも二名以上の者の間に存在するものである以上、行為態様の限定にどれほどの意味があるのか疑問を感じざるを得ないという批判がございます。

 この一定の組織性の要件というのは歯どめになるとお考えなのかどうなのか、これについてお伺いしたいと思います。

川出参考人 意見の中でも言いましたように、そもそも、数人の共謀でプラス補充性ということであれば、実際にこれによって通信傍受がなされるものは結局組織犯罪に限られるんだという意見も、特に捜査機関側からはあったわけですね。そういう意味では、今回入れた要件というのは、それをある意味で保証するというか法律上担保する、そういう意味合いを持つんだろうと思います。ですから、そういう意味では、こういう要件を入れるということは、組織的な犯罪に限定するという意味は当然持っているというふうに思います。

 形式的な言い方をすると、例えば、もともと役割分担が定まっていないような、偶発的にその場で共謀したというようなものは入らないということもありますし、そもそも想定しているものは、やはり、もともとある組織があって、その組織によって行われるということがこれによって示されているということになるんだろうと思います。

國重委員 次に、山下参考人にお伺いしたいと思います。

 現行通信傍受法では、傍受の実施の際に通信事業者等の立ち会いが必要とされておりますけれども、改正法案においては、この立ち会いが不要とされております。

 先ほども少しお話ししていただいたと思いますが、改めてお伺いします。

 立会人がいなくなることによって現実的にどのような危険があるのか。先ほど川出参考人は、立会人の役割、機能というのは傍受手続の外形的なチェックにとどまるのであるから、今回の特定電子計算機等の方法によってその機能は代替し得るのであるから、特に立会人がいなくなることによっての危険性はないということをおっしゃられましたけれども、この具体的、現実的な危険性についてお考えがあればお伺いしたいと思います。

山下参考人 結局、警察とか検察の、捜査機関の施設の中で、第三者がいない状態で行われるということになります。

 そうなりますと、そこで使っている特定電子計算機、パソコンですね、これについて、もちろん、事前に仕様が公開され、その仕様に基づいてソフトとかがつくられて、その機械を使うわけですけれども、施設の中で使うわけで、誰もそこにいないわけですから、そのコンピューター、パソコンを改造するとか、仕様と違うような使い方をするとか、そういう形で、要するに、現在は原記録と傍受記録の二つの記録媒体に記録をする形になっているんですけれども、もう一つ、自由に聞き放題聞けるというようなことをそこから例えば引き出す、データ自体は通信事業者から送られてきているわけですので、それをもう一つ別の形で、その機械を改造することによってそれを行う、そういうことは、施設の中で行っていますから、全く誰もチェックできないわけですね。

 現在、事後的に、一旦仕様に基づいてつくってソフトとかを入れたパソコンをどう使うかということについて、これを誰もチェックができないことになりますと、改造も含めてそういうことを行うことがあり得る、そういうことが理論的にはあり得ると思うんですね。それをチェックする人がいなくなって、しかも何年もたっていくと、そういうことが起こり得る、それを誰もチェックできないというのは、これは大変問題ではないかと考えております。

國重委員 今の山下参考人の意見に対して、川出参考人、意見をお伺いしたいと思います。

川出参考人 まず、特定電子計算機の中から何か引いて、それで来た通信をもう一つ別の、コンピューターならコンピューターに複写するということができるのかということなんですが、これは部会段階でありましたが、特定電子計算機の中に複写みたいなことができないような機能を入れるということですとか、あるいは、仮に複写ができたとしても、これは、暗号鍵、暗号を解く方の鍵というのは特定電子計算機でしか使えない形になりますので、それが別に複写されて再生されるということはないような技術的な措置をとるということになっていますので、それは、ずっと先になって何かそれを改造するようなことができるかどうか、そこはわかりませんけれども、少なくとも装置をつくる段階においては、今、山下先生がおっしゃったような懸念はないという前提でできているということだと思います。

國重委員 以上で質問を終わります。

 きょうは、五名の参考人の皆様、貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。

奥野委員長 次に、山尾志桜里君。

山尾委員 民主党の山尾志桜里です。本日は、五名の参考人の皆さん、本当にありがとうございました。

 早速ですが、まず田中参考人に一点お伺いをしたいと思います。

 田中参考人、平成十一年にもこうやって参考人陳述をしていただきまして、読ませていただきました。そのときに、田中参考人の言葉を申し上げると、憲法上の問題はあるけれども、平成十一年、当時の修正でもってそれ相当の担保がなされている、こういうふうにおっしゃっていらっしゃいました。その修正というのは、ひいては罪種が当時の原案よりも大幅に縮小されたこと、そして手法も、立ち会いというものが確保されたこと、これをおっしゃっているものと思います。

 ただ、だとすると、罪種の限定というのも憲法上許される論拠として田中参考人は考えていらっしゃるのかなと思って勉強していたんですが、先ほど山下委員から罪種を今回の原案より絞ることの是非を問われた際には、絞ると、被害者の側から見ると、救われるか救われないか、それで随分不公平が出てしまうんじゃないか、こういう理由で原案どおりあるべきと意見をおっしゃったように思います。

 そこで、ちょっと改めて問いたいんですけれども、もちろん、暴力団なりそういう組織的な犯罪による被害、これを救済する必要性というのは全員が共有しております。先生のおっしゃった中身も聞きました。ただ、かわいそうだ、不公平になる、必要だということと別の観点が必要であって、憲法上疑義があり得る、今回の手法の中では罪種が絞られるかどうかということがやはり関係しているように思うんですけれども、先生は、平成十一年の過去と今回とでそこら辺は変わっていらっしゃるのか、ちょっとその辺を教えてください。

田中参考人 私の考えは、罪名で考えるのではなくて、実際の被害の実態で考えたい。例えば、被害の額がどうだ、犯罪組織の規模がどうだ、それからその収益の帰属先がどういうところに行くんだというようなことで考えていきたいと考えています。

 世の中の変化によって、例えば窃盗なんというのは、昔はどちらかというと万引きみたいなちょろちょろっとした犯罪が中心でしたから、そういう時代における適用の場面の問題と、それはやはり、集団窃盗ができるような状態になれば、要するに、重大犯罪ということで、まず、重大犯罪というのをどう考えるか、それは罪名だけではないでしょうというのが一つ。

 それからもう一つは、当時は数名の共謀でもいいということとされていた四犯罪だったんですが、今回の改正では組織性の要件が加重されていますよね。厳しくされています。そういう点で、私は、絞りがかかっておるものというふうに理解をしております。

山尾委員 ありがとうございました。

 次に、川出参考人にお伺いしたいと思います。

 川出参考人、手法のところで、立ち会いがなくなる、これをどう考えるのかということの先ほどからのおっしゃり方を伺っていると、要は、進行形で立会人がいるから抑制されるというよりも、事後検証の仕組みがあるので、後でばれるんだから、そういう意味の抑止力があるでしょう、こういう中身のことをおっしゃっていたんだと思います。

 そこで、ちょっと伺いたいんですけれども、きょうは緒方参考人の方から御自身の話がありました。実際に、事実として裁判所も認めている、過去の法務大臣も認めている、当事者たる警察組織だけが認めていない。言ってみれば、後でばれたんだけれども警察組織だけは認めていない状態が今もなお続いている。

 そこを考えたときに、私は、現在進行形の抑止力というのは非常に大事ではないかと思うんです。なぜなら、後でばれるのだから、ばれて違法だとわかるようなことはしないはずだという大前提が本当に信頼に足るものであるのか、信頼できないのではないかということを、きょう、緒方参考人の話から私たちは学んだと思うからです。

 その点、いかがお考えになりますか。

川出参考人 緒方先生の事件に関して言うと、それは、警察官としては、ばれないと思ってやっていたわけですね、きっと。

 ですから、要するに、今回の事例で違法なことをやれば記録として残る、そして、最終的にそれが弁護士側から申し立てられて違法な傍受となったら、それは証拠として使えなくなるわけですから、そんなことはやらないだろうという話であって、ですから、後でばれたとしてもどうでもいいんだ、そういう感覚で警察官が通信傍受をするはずはないので、そういう意味での抑止力が働くだろうということですので、先ほどの緒方先生の事例とはちょっと話が違うのではないかと思います。

山尾委員 残念ながら、ちょっと私はなるほどというふうには思わなくて、本来なら、普通はそうなんです。さすがに、後で違法だと言われたら、それは普通は、謝罪をする組織であれば、後でばれるようなことは当然やらないであろうというふうに思えるんですけれども、ちょっとその大前提の部分がどうなのかなということを申し上げたいわけなんです。

 もう一つ伺います。

 先ほど、罪種を考えるに当たって、社会が求める現実的な必要性と犯罪の重大性の見合いということもおっしゃっておられまして、私、そういう論は当然あるだろうなと思っているんです。

 だとすると、さっきちょっとおっしゃったので、おっと思ったんですが、例えば、平成十一年当時は、集団密航という現実的必要性があったと。十六年たった今、私どもの一般的な感覚で言っても、その必要性は相当程度下がっている。そうすると、これを外すという議論が今回あってしかるべきだったかもしれない。それは、部会の中では、先生自身のお話だとかあるいは部会の中の論議だとかで、では、そういう必要性がなくなったものはむしろ外していく、こういうものはあったんでしょうか。

 というのは、要は、拡大一方で、普通は縮小というのはないんですよね。でも、実際、先生は理屈の中でそうおっしゃったので、そこの部分をもう少しお教えください。

川出参考人 考え方としてはおっしゃるとおりで、必要性がなくなったものは外すということは十分あり得ると思います。ただ、部会ではそういう議論はなかったですね。

 なぜかというと、それは恐らく、集団密航は、今はなくなっている、しかし、また出てくる可能性があるということも踏まえて、ではそのときにまた対処するのかということであったのではないかと思います。

 ですから、正面からその部分の議論はしていません。

山尾委員 だから、縮小というのは非常に難しいんだと思うんですよね、一度拡大したときには。後にないということは誰も言えないと思うんですよね。

 あともう一点、川出先生に、本来、法律上やれるし、やるべき傍受の事例が、事実上、制約でできなかった例が少なくないと予想されるとおっしゃいました。

 これは、先生が把握されていたり、あるいは部会で、具体的にもしそういう例があったのであれば、ちょっと教えていただきたいんですけれども。

川出参考人 部会で特に具体的な事例が出てきたわけではありません。

 ただ、事実上できない場合が当然あるので、そのときに、もし通信傍受をやっていれば、それは犯罪関連通信というのが傍受できた事例もあっただろうという、それはあくまで私の予測ですので、具体的な資料があるわけではありません。

山尾委員 事実上やれなかったという事例がこの委員会でもなかなか具体的には出てきていなくて、もし本当に必要であれば警察の方から出てくるのかなというふうに待っているんですけれども、ちょっと出てこないので、もし御存じであればと。ただ、部会でも具体例は出てこなかったというふうにお伺いをしました。

 そして、済みません、さらにもう一点なんですけれども、新手法を取り入れるに当たっての負担の問題ということがあります。これも二つあると思うんです。警察というか捜査機関の負担の問題と、通信事業者の負担の問題。

 捜査機関の負担の問題はちょっと質問からは外します。私は、捜査機関の負担というのはそれ相応にあることが事実上補充性に結びついているのではないかとやはり現実的に思っていますので。

 ただ、通信事業者の負担なんですけれども、通信事業者は、この傍受の仕組みができてから、法律上の協力義務の中でかなり負担を強いられている現状を御存じだと思います。

 私たちも視察へ行って、本当に立ち会いの方は、長時間拘束され、その人件費も支払われない。そしてまた、今までの傍受、そして、もし新手法が入って万が一するとしたら、これからの傍受、そういう整備面の負担も設備もその協力義務の中で相当負担されてきたし、何かされるのではないかと御心配されている。

 部会の議論の中で通信事業者の負担ということを取り上げるのであれば、まず、それをあるべき姿に戻す、しっかり国費なり警察予算の中で対応する、まずこの議論があってしかるべきだと思うんですね。これがなくて一足飛びに、だったら、ちょっと立ち会いは大変だからなくしましょうか、こういう議論になっていてはおかしいんだと思うんです。その点は、部会の中で、事業者負担をあるべき姿でちゃんと軽減して、国が持つものは持とうよ、こういう議論はあったんでしょうか。

川出参考人 今おっしゃる負担というのは、国がお金を出すということになれば、今の傍受施設の場所の確保とか、あるいは人件費を払うとか、そういう話ですか。(山尾委員「そうです」と呼ぶ)

 人件費を払うという話はなかったですね。ですから、それはむしろ立ち会いの負担を減らすという意味での負担軽減を図るということであって、恐らく事業者側としても、人件費を払ってもらいたいわけではなくて、それについて人を出さなきゃだめだというところが大きな負担ですから、むしろそこを解消してもらえるのはありがたいという意見がありました。

 ただ、その後、今回新しい仕組みをつくったときの設備について、それをどうするかというのは、事業者側からはそれなりの負担をしてもらえないかというような話もあったような気がしますが、では具体的にそれをどうするかというところまでは部会では議論していません。

山尾委員 済みません、部会の幹事でいらっしゃったのが川出先生だけなので、最後にちょっともう一点だけ聞かせてください。

 ずっと私もよくわからないのが、要は、机の上の理屈としての暗号云々の新手法というのは繰り返し説明を受けているんですけれども、本当にその新手法の技術ができるものなのか、そして、できるとして、それが本当に立ち会いにかわる適正を担保し得るものなのかというところが議論できるほどにまで煮詰まっていないように感じているというのが私の感覚なんですね。

 一方で、私どもも視察へ行った先に、デロイトトーマツという第三者が、警察に委託をされて、今日予定されている傍受の新手法技術の適正性を担保した第三者だという形での説明を受けました。でも一方で、先生もおっしゃっていたとおり、いわゆる特定装置というものが本当にできる段になったら、仕様書というものが公開されて、それもちゃんとチェックする必要があるんだろうねと。

 これはどう考えたらいいんでしょうか。私ども立法府としては、やはり、今全く仕様書もない段階の新しい傍受装置が、本当に、いかなるものであって、可能なものであって、その財源に幾らかかり、それにちゃんとした措置がされるのかどうか、そういうことも含めて判断をしないといけないような気がしているんですけれども、まだ何かその段に来ていないような気がするんですけれども、部会の中あるいは先生御自身の中ではここをどのようにそしゃくされているのかということを教えてください。

川出参考人 部会の段階では、こういう仕組みになるんだ、こういう仕組みができればこういうことができるんだ、そういう説明だったわけですね。ですから、委員の先生方がどういう形で判断されるかわかりませんけれども、少なくともこういう仕組みを前提とした法律という形になるわけでして、その上で、それに見合った設備ができなければ結局この法律が動かないということですから、結論はそうなるんじゃないでしょうか。

 それで、実際に、特定電子計算機ですか、あれはこういう機能を備えているということが前提になっていますよね。そういうものができなければ結局それは使えないので、この仕組みが使えなくなる、そういう話だろうと思います。

山尾委員 ありがとうございました。

 緒方参考人にお伺いをいたします。

 先ほど、私が当時の事件の話を川出参考人にして、そして川出参考人から返答もございました。そのやりとりをお聞きになって、御意見、御感想があればお伺いしたいと思います。

緒方参考人 確かに、警察はばれないと思ってやったんですね。なぜばれないと思ったかというと、最初の盗聴というのは無線方式でやったんです。それを、雑音がいろいろ入る、おかしいということで有線に変えた。ですから、有線で盗聴するというのはよっぽど勇気が要ることなんですね、本当に、ばれたらすぐわかるから。だから、よくやったという、それが警察の、よくそこまでやるな、そういう話だったんですよね。

 ですから、そういう中で僕が一番怖いと思うのは、やはり山下先生が最後におっしゃられたことですね。やはりここの委員会が非常に大事ですよ。警察は、警察庁長官を初めとして、やったとは認めないわけですよね。みんな、やったことを知っているんですよ。でも、認めない。たとえ雨が降っても、警察が晴れだと言えば晴れになる、それが今の警察ですよ。それを皆さんは相手にしているんですよ。

 僕は、ここにいて思い出しています。ちょうど最初に法案の審査があったときに、法務省の役人が僕の部屋に来たんです。緒方先生、あなたの事件はよく知っています、でも、今私たちが法務省の主導でやるから抑制的な通信傍受ができるんです、これがだめになったら後で警察がやります、そのときは大変なことになるから通してくださいと、大変な説得をしましたよ、僕に対して。賛成してくださいと。それが今の現状です。

 ですから、皆さん、よく考えてください、法務委員会の皆さんは。やはり皆さんがそれに対してどう考えるのか。僕は、その点でいうと、やはり今、警察がどんどん強くなっている。市民のプライバシー権はそれに伴ってどんどん制限されようとしている。今、その議論なんですよね。

 ですから、秘密保護法について、例えば官僚六百人の適性評価ということで、では、誰がやるんですか。警察が全部つかむんですよ。官僚の病歴から財産から、交友関係から思想傾向まで、全部警察がつかむ。こんな恐ろしいことはないじゃないですか。その一環だと僕は思っています。

 ですから、そうした点で、僕が法務委員会の先生方に改めて申し上げたいのは、この法律の範囲内ではそうかもしれないけれども、変なことになると、皆様方一人一人がやはり盗聴の対象になり得るということ、そのことを申し上げたいと思います。

山尾委員 ありがとうございました。

 最後に、長澤参考人と山下参考人に一つだけ。

 やはり私、この新手法というのに本当に懸念がありまして、立ち会い、人がいるということによる、進行形、アイ・エヌ・ジーの抑止力というのはやはり非常に大きくて、それが、後から、場合によっては事後的に検証されるからいいのではないかというのは、やはりどうしてもくみしがたいなと思っているんですけれども、この進行形、そして事後、このチェックの体制についてそれぞれ一言ずつ御意見ください。

奥野委員長 先に、長澤参考人。一言でお願いします。

長澤参考人 やはり、盗聴を実施しているところに人がいる、どの段階で通話を切るのか、そしてまた聞くのか、それはずっと見られているわけですね。ただ、聞いてはいないから、真実のところはわからないと思うんですけれども。

 やはり、人がいたときに、そういうような精神的なプレッシャーを受けた上でそういう実務を行うということと、あとは、パソコンに全部録音したものを最後にまたチェックするというんですけれども、警察はこれはダビングして残すんでしょう。私は、一部ダビングして残すということを当然考えていると思います。ですから、これはチェックにならないというふうに思っています。

山下参考人 やはり現在、法律上は確かに、事後的な、通信の当事者による不服申し立て制度がありますけれども、ほとんど使われていないというふうに言われております。したがって、事後的なチェックが実際はほとんどなされていない。

 そのような現状においては、やはり私は、立会人がいるということの意義は極めて大きい。そこでやはり抑止力が働いているということがあると思いますので、現状においては、やはり必ず立会人がいないと、私は、さっき言ったように、警察が、過去にやったことを認めていない、そういう組織であるということを考えますと、やはり何をするかわからないと思いますので、第三者がそこにいるということによる抑止力が極めて重要な機能を果たしていると考えております。

山尾委員 どうもありがとうございました。しっかり議論していきます。

奥野委員長 次に、井出庸生君。

井出委員 維新の党、信州長野県の井出庸生です。

 きょうは、五名の皆様、よろしくお願いいたします。

 私の通信傍受に対する考えは、きょう来ていただきました山下参考人がおっしゃっていただいたこととほぼ一〇〇%一致をしております。通信傍受の必要性を私は一〇〇%否定するものではないんです。ただ、それを極めて限定的に運用していかなければいけないだろうと思っております。そういうわけで、お招きしておきながら大変恐縮なんですが、きょうは、山下先生にちょっと質問をしないで、ほかの先生方に伺っていきたいと思うんです。

 まず、きょう私がつくってきた資料を皆さんに見ていただきたいんです。

 一枚目の資料は、通信傍受法を実施するに当たって、警察側がこれだけ慎重な手順を踏む、通信の秘密、プライバシーに配慮して、それでも必要なことをやっていくということで挙げている条件を列挙しております。対象犯罪を限定している、これは最高裁判例にもありました。補充性をちゃんと設けている。裁判所に行って令状もとってきて、立ち会いもやって、そして記録はしっかりと後で検証できるようになっている。これが今までのたてつけであった。

 それが、今度の改正案によって、対象犯罪が大きく拡大をされる。

 そして、補充性については、これはそもそも、捜査機関が、もう通信傍受以外ほかに手はない、最後のウルトラCである、そういう判断をするかしないかが補充性でありますので、捜査機関以外の知るところではない。

 令状について、この令状という手続も非常に厳格なのですが、実際、過去十五年間で令状がはねられた例というものは皆無だ。そしてまた、もっと言いますと、この十五年間、裁判所が発付した令状というものは星の数ほどありまして、その十五年間の中の二百八十何枚という令状、それを知っている裁判官すらほとんどと。ですから、取り調べの可視化や司法取引については、裁判所から一定の見解が法制審でも出たと思います。恐らく、通信傍受に関しては、最高裁の方は議論する材料すらないというのが実態ではないかなと私は思っております。

 そして、今回、立ち会いがなくなること、それはるる、懸念はいろいろ御指摘があったとおりです。

 その後に、やはり記録の閲覧というところなんですが、これは川出参考人が、事後のチェックができるということがこの制度の適正化を担保する中心的な役割だというお話があって、私もそのとおりだと思います。

 きょう川出さんにまず伺いたいのは、記録には当然、原記録と傍受記録がありまして、傍受記録は、捜査機関が犯罪に該当する関連性の高い部分を切り取っている、それは当事者に通知もされますし、当事者がそれを聞くこともできる。ただ、どれだけ聞いたかというデータはないというのが、さきの法務委員会での警察庁刑事局長の答弁でした。私は、捜査の適正さを担保するのであれば、原記録の閲覧が今まできちっとされてきたか、これが一番の事後チェックの肝だと思っております。

 この原記録の閲覧が今まできちっとされてきたのか、これからもきちっとされていくのか、そういう議論が法制審の中でどの程度なされていたのか、御記憶の範囲で結構ですので、川出参考人に教えていただきたい。

川出参考人 どの程度なされているかというのは、それは予測としてということですか。

 仕組みとして原記録の閲覧ができるというのは前提でしたが、その上で、その原記録の閲覧がどの程度なされているか、いたか、そういう実証的な話というのは出てこなかったと思います。

井出委員 おっしゃるとおりだ、それが法制審の議論だと私も思っております。

 それはなぜかといえば、山下参考人が冒頭、不服申し立てもほとんどないというようなことをおっしゃっていたんですけれども、被告人や被疑者に、傍受した記録については通知が行く、しかし、果たして原記録があることがきちっと伝わっているかどうかもむしろ疑わしい。ましてや、原記録が行っている裁判所は、まずそれを保管することが重要な仕事である。それを、被告人や弁護人から言われてもいないのに、検察側から言われてもいないのに、裁判官が原記録を自発的にチェックしようという仕組みには現行法でもなっていない。

 そういう意味では、今、事後チェックというものが現行法においてもしっかり働いているかというのは大きな疑問だと言わざるを得ない。

 もっと言いますと、さきの委員会で、五年間で百七十五件の原記録を今裁判所が保管している、そのうち原記録の閲覧、複製の要請があったのは二十五件、そのうち二十三件は捜査機関側からの閲覧要求、複製希望だったと。裁判官が自発的にですとか、被告人、弁護人側が求めたケースというのはほとんどないというのが現行法の実態であって、このことは、これからのこの通信傍受の議論の中でしっかりやっていかなければいけない。今、川出さんがおっしゃっていただいたように、法制審でもそこは議論されなかった部分ではないかな、そういうふうに感じております。

 次に、通信傍受を考えたときに、対象犯罪の範囲、それからその手法、やり方、その二つが大きな問題とされております。

 犯罪の拡大については私は慎重であるべきだと思いますが、川出さんのおっしゃるように、重大犯罪というものを犯罪の名称だけで決めるというのはどうかというのは私も一理あるかなと思っておりました。

 一番私がこだわりたい、これからの議論でやっていきたいのは、その手法ですね。立会人をきちっとつけること、そして、警察の施設ではなくて、通信のデータというものは、暗号化されていようが何していようが、一義的には事業者が管理するものですから、事業者のところに行って聞いてくるのが筋だろう、そういうことをこれから主張していこうと思うんですが、また川出参考人に伺いたいと思います。

 手法の面で、新しい暗号技術をやれば立会人にかわる機能はしっかりと担保される、令状で発付された聞きたい部分がまず記録としてとられる、それが警察署で聞けるわけだし、特定の機械でしか聞けない、そういうお話があったんです。

 先日、私は、この案件で委員の皆さんと視察に行ってきたんですけれども、そのとき、通信傍受のデモンストレーションをやっていて、本来であれば通信傍受ですからイヤホンで聞くんですけれども、そのときは我々が視察をしていたので、それをスピーカーで聞かせてくれた。これは、スピーカーで聞くということは、私は、警察署の中であれば、立会人がいなければ十分考え得る。捜査員が携帯電話一つ持っていれば、携帯電話で今録音ができる時代ですから、スピーカーで流せば複製もできます。

 これは、私の拙い頭の中で、そういうこともあり得るんじゃないかという一例なんですけれども、やはり事業者の場所に行って、立会人が通信傍受の中身を見ること、聞くことができなくても初めと終わりと立ち会っていることと、警察署に記録を伝送して、それを警察署の中で聞いてください、あと、立会人も誰もいませんということでは、やはり適正な執行というところの、私は今までやってきた二百何十件の案件はスポット傍受もちゃんとされたと信じたいと思います、でも、信じたいのと実際それが制度として担保されるかは別問題です。

 警察署で傍受されるということは、やはり適正な運用がなされない可能性があるということは確かだと思いますが、いかがでしょうか。

川出参考人 適正になされない例というのは、今おっしゃった、スピーカーで流してそれを録音するということですか。

 それは、スピーカーで流すこと自体がだめだという話なわけですよね。今、事業者のところでスピーカーで流すということは理屈上はできないんですか。それだって、やろうと思えばやれるわけですよね。そのときに捜査官が忍ばせていて録音することはできるわけで、それは立会人がいるかどうかというのとは関係ないんじゃないですか。(発言する者あり)できないんですか。

 それはそういう仕組みにすればいいわけですよね、その特定装置の方で。ですから、そこは不正ができないようにする仕組みを特定装置のところでどういうふうにつけるかという話であって、立会人がいるかいないかということは、それとはまた別なんじゃないですか。

 それでカバーできない部分というのがあるとすれば、それは、申し上げたように、事後的な検証のところでむしろ抑止力が働くだろうというのが私の考えですので、そこが働かないというふうにおっしゃるのであれば、それはそうだと思います。

井出委員 適正な運用、執行ができないものが可能性として考えられるのであれば、それをしっかりと一つ一つ制度で担保して潰していくというのは、まさに我々がこれからの議論でやっていかなければいけないところかなと思っております。ありがとうございます。

 次に、長澤さんに伺いたいのです。

 これは端的にお答えいただきたいんですけれども、当時、通信傍受法の制定で大議論があって、牛歩まであったと。私も牛歩の議事録を読んで、議長は大変かわいそうだなと思いました。

 それに比べると、やはり今、通信傍受の議論は、私は、足りないという言い方がいいのかどうかわかりません、通信傍受が必要だと思っている方がふえてきているのかもしれませんし、ただ、先生に伺いたいのは、やはり当時の議論と今の通信傍受の議論を比べてみて、率直に感じられている感想を端的にお答えください。

長澤参考人 当時の反対運動の大きな重要な部分を担ったのはマスコミでした。マスコミがこぞって、自分たちも盗聴の対象になるということで、大きなマスコミも含めて盗聴法に反対の立場をとりました。そして、日弁連もマスコミと同じく、これは人権侵害だ、プライバシーの権利の侵害だということで大きな運動をしました。

 ところが、今回はマスコミがほとんど書きません。それはなぜか。日弁連が基本的に賛成したじゃないか、答申案に賛成したんだからそんなに問題がないという認識が多いのかどうなのかわかりませんが、書きません。

 ですから、本当に問題点が明らかになっていない現状の中で、今この法案審議が進行している。問題点をこの委員会できわめていただいて、そしてこの法案の問題点を十分議論した上で結論を出していただきたいというふうに思っています。

 以上です。

井出委員 ありがとうございます。

 今、日弁連の話が出ましたので、田中参考人に伺いたいのです。

 田中参考人の実体験に基づくお話を伺っていて、私もそのとおりだなと思いましたし、私自身も、振り込め詐欺ですとか組織的な窃盗、または児童ポルノだって大変組織的にされているような報道を見れば、何かこれにきちっと抗する手だてはないのかと思います。

 ただしかし、今回、日弁連がこの法案に賛成を表明されている。それは、これからの刑事司法を見据えたときに、この法案全てを見て賛成されたと思うんですが、私のところにもよく日弁連の方がこの法案の早期成立をということを言ってきてくださった、まあ最近はいらっしゃらないんですけれども。

 端的に申し上げますと、私は、今回の日弁連の早期成立という対応は、日弁連は、日弁連という組織のための利益をとって、弁護士が本来持っていなければいけない一人一人の職業観、職業利益、そういったものよりも組織益を優先したのではないかと思いますが、どうでしょうか。

田中参考人 私が日弁連を代表して答えるわけにはいきませんので、私の感想だけ申し上げます。

 日弁連も、やはりいろいろな分野をやっているわけですね。人権擁護委員会、刑事弁護の委員会、私どものような暴力団対策をやっているところ、それから消費者問題を専門にやっているところ。

 そうしますと、やはり、その時代その時代で、どこが一番問題点としてクローズアップされているかというところが少しずつ違ってくる。現時点では、やはり消費者問題あるいは民事介入暴力問題、そういった組織犯罪部分が非常にクローズアップされて、先ほどマスコミが何も言わないというような御意見がありましたけれども、マスコミも、今自分のところが報道している現状に照らすと、やはりこれは必要じゃないかというような意見ではなかろうかと。

 私は、日弁連を代表して答えるわけではありませんが、今回、かなり日弁連の首脳も苦悩しながら、いろいろな部門を担当する人の意見を最終的にそういうふうに調整したんだろうというふうに理解しております。

井出委員 ありがとうございます。

 私は、これから議論をしていく中で、日弁連の方では、国選弁護人の制度の拡大ですとか、そういうところは必要だと思っております。ただ、日弁連が苦悩した部分をもう少しでも前進できないかというところでこれから知恵を使っていかなければいけないなと思っております。そういうことを申し上げておきたいと思います。

 緒方参考人に伺いたいと思います。

 緒方さんの事件のことを、今回、そしてまた別の場所でも伺いました。私も、緒方さんの事件を、やはり警察、政府として、行政側がきちっと過去のそういう過ちを認めるべきではないかと思っています。それによって、そこを認めることによって、謝罪をすることによって一歩前進する、これからのことが前進していくんじゃないかという思いもあるんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。

緒方参考人 結局、この通信傍受法を執行するのが警察なんですね。ですから、その警察がどういう警察かということがとても大事だと思います。

 その点でやはり一番気になるのは、また一番大きな問題だと思うのは、やはり、やっておきながら知らぬ存ぜぬを繰り返す、これが一番大きな問題だと思っております。これは結局は、法令を最もたっとばなければいけない、そしてそのもとで執行すべき公権力の警察として非常に大きな弱点だと思うんですね。

 これは、国会で幾ら聞いてもというだけじゃないんですよね。例えば、ちょうど通信傍受を議論したときに、どうせこの緒方事件が大きな問題になるからということで、自民党のPTで当時それを担当されていた与謝野馨さんが、警察を呼んで、そして、認めろ、そうしないとややこしいというふうに何度言っても、与謝野さんの言葉で僕は聞いたんだけれども、あいつらは何度言っても言うことを聞かないんだよ、大変なやつらだ、そういうふうにおっしゃられていましたよ。僕はそれが実感なんですよね。

 ですから、そこがやはり一番大きな問題で、確かに当時、G7はみんなこういう盗聴システムを持っている、日本だけない、それが導入したいという大きな理由だったんですよね、それを横並びにしたいと。でも、結局、警察もそれぞれあって、日本のような警察というのはほかの国にないですよね、フランスだって、イギリスだって。

 ですから、僕は、そういう点でいうと、執行する日本の警察の体質、法令を軽んじているとやはり言わざるを得ない警察に対して、監視が非常に大事だし、今回の法令はむしろ警察を強くするんですよ。そこが、プライバシー権を縮めてしまうというところの関連で一番大きな懸念だということを申し上げたいと思います。

井出委員 ありがとうございます。

 自民党の与謝野先生の話は私も過去の議事録で読みましたし、緒方さんの思いがかなえられるべきだと思うんですが、ただ、今回の法制は、その緒方さんの思いがかなえられたとしても、制度は制度で別でありますから、対象犯罪の拡大と運用の合理化という部分で、私は、まずこの運用の合理化という部分から、現行も含めて、これからしっかりと議論をさせていただきたいということを申し上げて、終わりたいと思います。

 きょうは、五人の皆様、ありがとうございました。

奥野委員長 最後に、清水忠史君。

清水委員 日本共産党の清水忠史でございます。

 本日は、五人の参考人の皆様方には、忙しいところ当委員会までお運びいただきまして、まことにありがとうございます。

 私は、通信傍受の拡大、いわゆる盗聴法を拡大するということにつきまして、盗聴捜査の有用性、必要性という問題と、これが果たして憲法を侵害するものであるのかないのか、つまり、憲法解釈の法的安定性の問題とは分けて考えることはできないと思っているんですよ。

 今、とりわけ、特別委員会で集団的自衛権の問題をやっておりますが、集団的自衛権はどこの国にも認められている、だから日本も持っていいんだということと、では今の日本国憲法の中で法的安定性の問題でどうなのかということを議論するのが国会の場ですから、私は、そういう立場からまず確認させていただきたい。

 長澤参考人にお尋ねいたします。

 実は、この委員会で重徳委員も既に質問しておりますが、実は、法務省のホームページに「Q&A」というコーナーがあるんです、この通信傍受の問題について。「通信の傍受を認めることは、通信の秘密を保障する憲法に違反しないのですか。」との質問に対して、答えとして、「憲法第二十一条第二項は、通信の秘密を保障しており、これについて最大限尊重すべきことは言うまでもありません。」としながら、「他方、憲法第十二条及び第十三条は、公共の福祉による制約を規定しており、通信の秘密の保障も、絶対無制限のものではなく、公共の福祉の要請に基づく場合には、必要最小限の範囲でその制約が許されるということは、憲法解釈の常識です。」と。

 私からすると、憲法二十一条第二項、通信の秘密を守るということが憲法解釈の常識だと思っているんですが、それが制限されることの方が常識だというふうに言わんばかりで大変違和感を感じるんですが、このことについて、長澤参考人、どのようにお考えでしょうか。

    〔委員長退席、伊藤(忠)委員長代理着席〕

長澤参考人 法務省がホームページでそのようなものを書いたのを私も見ました。

 具体的には、公共の福祉の要請に基づく場合には、必要最小限の範囲でその制約が許容されることは、憲法解釈の常識ですというふうに書かれているんですね。これは本当に憲法解釈の常識なのかなという疑問があります。

 私が憲法を学習したのは大学時代ですから、もう昔になります。でも、今、憲法の学習をすると、そして人権保障規定を学ぶときに、このような説明を大学ではしていないのではないでしょうか。

 憲法の保障規定は、皆さん御存じのとおり、精神的自由権、それから財産権、経済的自由権、この二つに分けられて、人権制限については二重の基準が妥当する。これは芦部憲法が確立した内容です。この芦部憲法で僕も学習しました。

 なぜか。よく条文を見てみるとわかります。経済的自由権を定めた二十二条、それから二十九条財産権保障、よく見てください。公共の福祉によって権利を制限することができると書いてあるんです。ところが、二十一条の二項、通信の秘密についてはそのような規定がありません。精神的自由権全般がそうなんです、表現の自由、思想、良心の自由。これに対して公共の福祉によって権利を制限してもいいということは、各条文にはないんです。ですから、精神的自由権については絶対的な保障ということを大原則として憲法の場では教えていることだというふうに思います。

 なぜ精神的自由権が大切なのか。まさに民主主義社会を形成するための基本的な権利だからなんです。これなくして民主主義社会はあり得ない、このように憲法は考えていますし、憲法の講義もそのように行われているんだというふうに思います。

 では、精神的自由権も全く無制限か。これは先ほど述べました、プライバシーの権利と報道の自由がぶつかることがあります。報道機関がプライバシーにわたって報道を行うこともあります。しかし、この場合については、報道された人が全くの一般私人なのか、皆さん方のような政治家、国会議員であるのか、こういうことに基づいて、報道機関が報道してもいい範囲が異なってきます。皆様方、政治家の皆様にはほとんどプライバシーはないんだ、そのくらいプライバシーを暴露されても報道の自由の方が優先する、こういうことが出てくるということです。

 それを、先ほども申しました捜査の必要性イコール公共の福祉ということで制約しようとするならば、とめどもなく拡大していくでしょう。今は盗聴です。盗聴の次は何ですか。会話傍受もしたい、室内に入って盗聴器を設置したい、室内に入ってビデオカメラを設置したい、こういう要求が出てこないとも限りません。実際、会話傍受についてはもう考え方が示されています。

 ということですから、捜査の必要性ということを抽象的に述べていくと非常に拡大してくる。ですから、人権保障の精神をきちんと踏まえた上で、どこまで人権を制限できるのかということについては、基本的には、人権が他人の人権を侵害するのか否か、そのような観点に立って考えていく必要があるということだと思います。

 以上です。

    〔伊藤(忠)委員長代理退席、委員長着席〕

清水委員 よく理解できました。ありがとうございます。

 続いて、憲法との関係で、山下参考人にお伺いさせていただきたいと思います。

 三十五条の令状主義についてです。

 捜索、押収する物については令状にしっかり記載する、そして当事者が立ち会うということがあるんです。盗聴というものは、あらかじめ盗聴する人に今からあなたの電話を盗聴するからねと令状なんて見せると成り立たない捜査手法ですから、事後に行われるわけですが、では、立ち会いを何で代替するか。それが通信事業者であったり地方公共団体の職員であったりするわけですよね。それで、差し押さえていいものは、あくまでも犯罪に関連する通話のみですから、その該当性の判断を担保するために、いわゆるスポット傍受というのが行われてきたわけですね。

 今回、新法では、データを録音してごっそり警察署内へ送る、そこでスポット再生をやるというんですけれども、そのスポット再生を現に今やっているかどうかということは確認できませんし、記録として原記録に残るというんですが、それを通信事業者なりが後で検証するということも書かれておりません。果たして、暗号化することによって立会人を置くということの代替になるのかどうか、ちょっと先生の立場から説明していただきたいと思います。

山下参考人 私の意見でも述べましたが、基本的に、立会人の果たしている役割、機能と、それから暗号化というのは必ずしも関係ないというふうに思うんです。

 基本的に、暗号化というのは、今回、伝送するときに、そこから漏れた場合に第三者がそれを聞いてしまうと大変問題なので、暗号化をして聞けないようにする、それは伝送に関するリスクの回避のための手段だと思うんですね。

 立ち会いは、先ほどから私はずっと言っていますけれども、やはり、そこにいることによって、警察や検察がやる傍受のところで、いわゆる濫用的な傍受といいますか、関係ない通信を聞くとかいうことがないようにチェックする、または、データを改ざんするとかそういうことがないようにチェックするというための機能を果たしているし、そういう役割が期待されていると思うんです。

 したがって、それはやはり、暗号化するというようなやり方では決して代替できるものではなくて、独自の機能、役割を果たしていますので、暗号化したから要らないというのは、私は、論理的でもないし、実際にもそれでは濫用を防げないと思います。

清水委員 次に、田中参考人にお伺いさせていただきたいと思います。

 同じく憲法との関係でお伺いするんですが、民事介入暴力、これを取り締まるということはもう当然のことですし、私たちの党としても、暴力団組織の検挙、壊滅ということは当然のことだと考えております。しかし、ここに至って議論されている通信傍受の捜査手法というのは、暴力団のみを対象としたものではありません。この間の運用の実績を見ましても、犯罪と無関係の通話が八五%、中には、二千七百二十一回通話を聞いて、ただの一回も犯罪と関係する通話はなかったという事案もありました。これが憲法で制限されている必要最小限の捜査手法なのかどうかというところは非常に疑義があると思うんですね。

 田中参考人は、かつて、二〇〇四年、名古屋弁護士会の会長さんとして、憲法違反のイラク派兵に反対し、繁華街で行ったデモの先頭にも立たれて、当時、法律に携わる者として、憲法違反は許さないという声を上げていきたいと述べておられるんですね。ですから、必要性、有用性があったとしても、やはり憲法にかかわる部分がグレーであるならば、そこは抑制的に運用しなければならないものであるというふうなお考えはございませんか。

田中参考人 私も、弁護士として、かつて憲法も学びましたので、それは当然重要なことだと思います。それを立法過程で生かしていっていただきたい。私としては、個人的には、現在の犯罪情勢と、それから今回の組織性の要件あたりでチェックを厳しくしたところで、辛うじてクリアできるのではないかというふうに期待はしております。

清水委員 それでは次に、緒方参考人にお伺いをさせていただきたいと思います。

 私も、何度も当委員会で、山谷国家公安委員長や、あるいは警察庁に対して、過去の緒方事件についてただしましたが、同様に認めておりません。

 調べたところ、例えば西暦二〇〇〇年三月十日の予算委員会で、田中節夫警察庁長官が何と言ったか。「盗聴行為未遂があったと認められ、」こういうふうに言っているんですね。私の質問に対しても、山谷国家公安委員長は、盗聴の未遂があったということなんです。

 どう考えても、緒方さんのお話を聞いていると、未遂どころか、九カ月にわたって盗聴の実態があった、国賠についても決着がついている。未遂であったという苦しい言い逃れをする警察庁に対して、どのような感想を持っておられますか。

緒方参考人 未遂であった、これはとんでもない話ですね。やはり既遂だ。

 そして、実際、盗聴のアジトとして使われた場所からは、カセットテープ、それから日にちのついたカセットテープのケース、それをもとにして、少なくとも九カ月聞かれただろうと推認されると書いてありますけれども、これは間違いなくそうだという話を伺っているんですね。ですから、そういった意味では、未遂というのはとんでもない言い逃れですね。

 僕は、警察はこの法律の執行を担うという立場であるわけですから、やはりそこのところははっきりと認めさせるということをやっていただきたいと思っております。

清水委員 緒方参考人の資料を見ますと、国賠訴訟で、地裁判決については、国、警察と原告である緒方さんと両方が控訴されて、高裁で決着がつくんですが、高裁で出た賠償金額の方が地裁の判決で出た金額よりも高くなっているんですよね。

 ここについては、どのように御理解、受けとめをされておられますか。

緒方参考人 東京高裁で確定した賠償金というのが四百四万円でした。地裁では二百数万円だったと思います。僕は、東京高裁がプライバシー権に対する侵害について述べた部分、これは判決の中でも大変秀逸なものだと考えております。したがって、そこを考慮したんだろうと思います。それにしても日本の人権というのは本当に安いということを痛感いたしますけれども、その点ではそう考えております。

清水委員 川出参考人にも一問お伺いさせていただきたいと思います。

 川出参考人の論文、「新たな捜査手法の意義と展望」を読ませていただきました。この中で、「通信傍受の拡大や室内会話の傍受制度の導入については、憲法上許容される範囲はどこまでなのかが検討の中心とならざるをえないであろう。」と書かれておられますし、現行盗聴法が、当時、与党の修正によって対象犯罪の限定と常時立ち会いの規定が行われたわけですが、そのことに触れて、「仮にそれを変更するというのであれば、それらの要件が通信傍受の合憲性とどのように関係しているかを明らかにしたうえで、その許容性を検討する必要がある。」とも述べられておられます。

 先ほどその部分については意見陳述の中でされましたので、私はそれは理解しましたが、では、法制審の特別部会でこうしたことが本当に中心的課題として議論されたかどうか、そのことについてはどういう受けとめをされておられますか。

川出参考人 通信傍受法の中で憲法問題として考えられたものについて、それはもちろん、一つ一つ議論はされたと思います。

 ですから、先ほどの話でいえば、重大な犯罪に当たるかどうかとか、あるいは、立ち会いが、立ち会いについては憲法問題かどうかというのは議論がありましたけれども、仮にそれが憲法三十一条の要請だとすれば、まさにそれにかわり得るような形での担保ができるかというような形で議論をしましたので、憲法のことを意識した議論というのはなされていたと思います。

清水委員 それでは、長澤参考人にもう一問お伺いさせていただきたいと思います。

 先ほど質疑の中で、盗聴の捜査手法そのものがいわゆる首謀者の背後関係を明らかにするということになかなかつながりにくいんだというふうに言われました。

 それで、携帯電話ですね、一回使ったらそれはもう使わないんだ、携帯電話については連絡もとらないんだというふうにおっしゃられました。いわゆる飛ばしの携帯とかいろいろあると思うんですけれども、その辺の犯罪事情についてもお詳しいようなので、何か補足することがあれば教えていただけますか。

長澤参考人 皆さん御存じのように、犯罪者集団が携帯電話をたくさん使って、摘発されたときにこれがたくさん出てきます。あんなに携帯電話をどこで入手するのかと一般人の方は思われますね。ちゃんと商売があるんですね。ホームレスの人たちに名義を借りる、そして携帯電話の契約をさせる。携帯電話を、一人限度五件、十件まで、できる限り契約をさせて、それを入手する。それを犯罪者集団が活用する。一回使えば捨ててしまう。これが現状です。

 では、何でそんなにできるのか。ホームレスがお金がないからなんですね。ホームレスの人たちが、収入がない、ちょっと、君、君と言われて、一件何万円だよと言われたら、そっちに入っていくじゃないですか。これの背景は、そのような名義貸し的携帯電話が多数流通しているところに大きな問題があって、このこと自体は、まさに格差社会の問題と結びついていると私は思います。

 ですから、ホームレスが出なくなるような社会政策をきちんと政治が主導的にやることによって、犯罪者集団が活用しようと思っても携帯電話を入手できなくなるような状況をつくっていくということが基本的な政策ではないかなというふうに思います。

 以上です。

清水委員 緒方参考人にお伺いします。

 イタリアやアメリカでは既に盗聴捜査の手法が非常に広がってきている、日本も、おくれているからそこに合わせるんだという議論もございました。ただ、一説に聞くと、アメリカなどでは盗聴による捜査手法が年々減少してきている、問題になってきているということについても伺いましたが、その辺、御見識があれば、教えていただけますか。

緒方参考人 アメリカの司法省の役人と話したことがありますけれども、九・一一の後、愛国法という法律ができて、それがさっと通ってしまうんですね。そこでかなり大規模な、盗聴を含めた、通信傍受を含めたそういうことが行われて、結局、それがほとんど関係ない市民の会話を聞いてしまう。それから、盗聴というのはお金がかかるんですよね。莫大な税金を食ってしまう。そういうことで、今、それを改めて制限しようという動きが生まれていると思うんですね。

 ですから、もちろん国の成り立ちも違う、それから憲法、法律の仕組みも違う中で、ほかの国がそうだからといって日本で似たようにやるということについては、私は大きな問題点を感じております。

清水委員 時間が来ましたので、最後の質問になります。

 緒方参考人にお伺いします。

 今からでも警察が過去の盗聴事件を認めて緒方さんに謝罪をすれば、許しますか。

緒方参考人 まず謝罪を伺いたいと思います。本当にそういうことがあり得るのかどうか。それから考えます。

清水委員 皆様方からいただいた御意見をしっかりと踏まえて、引き続き慎重な審議を尽くしていきたいと思います。

 きょうは、ありがとうございました。

奥野委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時五十八分散会


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