衆議院

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第9号 平成19年4月27日(金曜日)

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平成十九年四月二十七日(金曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 山口 泰明君

   理事 小野寺五典君 理事 嘉数 知賢君

   理事 三原 朝彦君 理事 やまぎわ大志郎君

   理事 山中 あき子君 理事 長島 昭久君

   理事 山口  壯君 理事 丸谷 佳織君

      愛知 和男君    伊藤 公介君

      猪口 邦子君    宇野  治君

      小野 次郎君    近江屋信広君

      河野 太郎君    高村 正彦君

      篠田 陽介君    新藤 義孝君

      鈴木 馨祐君    松島みどり君

      三ッ矢憲生君    山内 康一君

      笹木 竜三君    田村 謙治君

      高山 智司君    長妻  昭君

      笠  浩史君    伊藤  渉君

      東  順治君    笠井  亮君

      照屋 寛徳君

    …………………………………

   外務大臣         麻生 太郎君

   外務副大臣        岩屋  毅君

   外務大臣政務官      松島みどり君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 梅本 和義君

   政府参考人

   (外務省大臣官房審議官) 猪俣 弘司君

   政府参考人

   (外務省大臣官房参事官) 片上 慶一君

   政府参考人

   (外務省大臣官房広報文化交流部長)        山本 忠通君

   政府参考人

   (外務省国際協力局長)  別所 浩郎君

   政府参考人

   (財務省主計局次長)   鈴木 正規君

   政府参考人

   (文化庁文化財部長)   土屋 定之君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           荒井 和夫君

   政府参考人

   (防衛施設庁長官)    北原 巖男君

   外務委員会専門員     前田 光政君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月二十七日

 辞任         補欠選任

  宇野  治君     近江屋信広君

  田中眞紀子君     高山 智司君

  前原 誠司君     田村 謙治君

  東  順治君     伊藤  渉君

同日

 辞任         補欠選任

  近江屋信広君     宇野  治君

  田村 謙治君     前原 誠司君

  高山 智司君     田中眞紀子君

  伊藤  渉君     東  順治君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 武力紛争の際の文化財の保護に関する条約の締結について承認を求めるの件(条約第五号)

 武力紛争の際の文化財の保護に関する議定書の締結について承認を求めるの件(条約第六号)

 千九百九十九年三月二十六日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する千九百五十四年のハーグ条約の第二議定書の締結について承認を求めるの件(条約第七号)


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     ――――◇―――――

山口委員長 これより会議を開きます。

 武力紛争の際の文化財の保護に関する条約の締結について承認を求めるの件、武力紛争の際の文化財の保護に関する議定書の締結について承認を求めるの件及び千九百九十九年三月二十六日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する千九百五十四年のハーグ条約の第二議定書の締結について承認を求めるの件の各件を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 各件審査のため、本日、政府参考人として外務省大臣官房審議官梅本和義君、大臣官房審議官猪俣弘司君、大臣官房参事官片上慶一君、大臣官房広報文化交流部長山本忠通君、財務省主計局次長鈴木正規君、文化庁文化財部長土屋定之君、厚生労働省大臣官房審議官荒井和夫君、防衛施設庁長官北原巖男君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

山口委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。長妻昭君。

長妻委員 おはようございます。朝からお疲れさまでございます。

 あしたからはアメリカに行かれるということで、ぜひ日本の主張をきちんと言っていただきたいと思いますが、今回審議になっておりますこの戦争による文化財の保護でございますけれども、アメリカに行かれたときに、アメリカもこれを締結したらどうでしょうか、こういうようなことを言われる御予定はないですか。

麻生国務大臣 今長妻先生御指摘のように、アメリカにおいてはこの条約について、クリントンの時代、一九九九年だったと記憶しますけれども、このときに、当時の大統領が上院に対して助言と同意を求める書簡というのを出しておりますけれども、このときは批准には結果的にはなりませんでした。批准が却下されております。以後、これに関する審議が行われていないということはもう御指摘のとおりだと思っております。

 したがいまして、私どもとしては国際的な枠組みというのはすごく大事なところだと思っておりますので、日本としては、これが締結を正式にできることになりましたら、こういったことに関して、アメリカに限らずほかの国も未締結の国が幾つかありますので、そういったところに対して働きかけを行ってまいりたいと考えております。

長妻委員 細かい点を一点確認したいんですけれども、日本がこの条約に入りますと、日本国内に指定された文化財があった、そこに隣接する形で米軍基地や、あるいはその文化財に隣接する形で自衛隊の基地があるというような場所が仮に日本国内にあった場合は、どちらかを、これは距離を離さなきゃいけない、こういうことになるわけですか。

麻生国務大臣 この条約の第四条というところに関係するんだと存じます。「文化財を破壊又は損傷の危険にさらすおそれがある目的のために利用することを差し控えること」などによりと言って、いわゆる文化財を尊重する義務というものを規定されております。

 ただ、この規定は、武力紛争の際に限り適用されることになります。したがって、平素において、例えば基地があるとか自衛隊の基地があるとかいうことに関して、文化財が施設に隣接をしておるということ自体が条約上の違反になるということではございません。

長妻委員 次の質問でございますけれども、安倍総理が今訪米をされておられますが、昭和の一連の戦争の際の日本の行動に関する議論というのがいろいろ出てきておりまして、私自身は、これまで日本が、さきの昭和の一連の戦争のきちっとした資料とか、きちっとした現場検証とか、きちっとした復員兵なりの証言を確保したり保存するというのを政府が主体的にしてこなかったツケがこれからどんどん出てくるのではないかと。また、特攻隊の映画も、海外の方が作成された映画が日本にも夏ごろ封切りされるようなことも聞いておりまして、いろいろな国が、解釈は自由だと思います、しかし、その事実がどういうものであるのかということを日本政府が公式に発表しないというところに、いろいろな問題が出てきているんじゃないかというふうに私は思っております。

 例えば、ドイツは、第二次世界大戦の戦争に関するデータや評価を西ドイツ政府がきちっとまとめて、政府として出版をして、これが政府の事実確認の最終決断の資料ですと。特に充実しているのが、西ドイツは、政府が捕虜史委員会というのもつくりまして、四十万人のドイツに復員してきた兵隊の証言を活用して全二十二巻、これは政府が出版しています。ドイツ戦争捕虜の歴史ということで、この事実は政府公式だ、これはもう事実なんだ、こういう公式見解というのをきちっといろいろ出しているんですね。

 ですから、議論の余地はない、後はそれに基づいて自由に解釈してください、こういうことになるわけですが、日本は、その根拠となるベースが何にもない。ここが一つ問題だと私は思うんですが、麻生大臣、ちょっと今から財務省とか厚生労働省とやりとりしますので、それをお聞きいただいて、その後、評価をいただく御質問をいたしますので、ぜひよろしくお願いしたいんです。

 まず、財務省に、一連の昭和の戦争にかかった戦費というのは幾らだったのでございますか。

鈴木政府参考人 さきの大戦におきます軍事費につきましては、昭和十二年の九月に、臨時軍事費の会計を一般会計の歳入歳出と区別して、終戦、終局までの期間を一会計年度として特別に整理するために、臨時軍事費特別会計というのが設けられまして、これによって経理されております。

 その会計につきましては、戦後、昭和二十一年に勅令によりまして終結をしておりますが、その際の支出済み額が千五百五十四億円でございます。その後、当会計に所属する支出として判明した整理額三百八十一億円を合わせまして、その総額は千九百三十五億円ということでございます。

長妻委員 当時のお金で二千億円ということでございますが、これは海軍、陸軍別では幾ら幾らですか。

鈴木政府参考人 今申し上げました千九百三十五億円の内訳のうち、旧陸軍省の所管に係る軍事費として千百十五億円、旧海軍省の所管に属する軍事費が六百五十六億円、その他旧軍需省に属する関係のものが百五十四億円ということでございます。

長妻委員 この二千億円弱の戦費でございますけれども、これは現在価値にすると幾らぐらいになるのでございますか。

鈴木政府参考人 現在価値につきましては、どのような形で換算するかというのはなかなか決め手がないところがございまして、確たることをお答えするのはなかなか難しゅうございますが、例えば昭和二十一年、先ほど申し上げました一応決算を締めたときでございますが、その国民所得と平成十九年の国民所得、国民総生産の比率を用いて計算しますと、約千百倍でございますので、そのような形で換算をするといたしますと、おおむね二百十三兆円という数字になるところでございます。

長妻委員 今の金額に換算すると二百十三兆円という、すさまじい金額を使って世界から非難をされるような状況になったと。それに関する資料が、政府公認資料というのが何もない、こういうことだと思うんです。

 お金より大切な命についてもお伺いしますけれども、さきの昭和の一連の戦争で亡くなった方々というのは、一番正確に人数的にいうと何人でございますか。

荒井政府参考人 さきの大戦における戦没者数の御質問でございますが、約三百十万人と承知しております。

長妻委員 ここも、麻生大臣、アメリカなどでは一人単位で確認がされている人数というのも出ているんですが、日本は非常に大ざっぱなんですね。

 ちょっと聞きますと、今の人数というのは当然一般の方も入っておられると思いますけれども、それでは軍人軍属に限って、陸軍と海軍では、何人、何人お亡くなりになったんですか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 陸海軍別の戦没者の数でございますが、昭和三十九年における旧厚生省で作成した資料によりますと、陸軍が約百四十七万人、海軍が約四十七万人でございます。

長妻委員 そして、これも大ざっぱな数字ですと言われたんですが、その三百十万人の中で実際に死亡が確認された方、当然、お名前が確認された方というのはお一人お一人積み上げていくと何人単位で出てくるわけですね。推計が三百十万人だと思うんですが、一人一人確実にお名前がわかってお亡くなりになった方を積み上げた一人単位の数字というのは何百万人なんでございますか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 戦後の引き揚げの中でいろいろな情報を集めながら、推定も含めて、その当時死亡者の数を積み上げていったものだと思います。

 ただ、御案内のように、その当時、戦中戦後の混乱の中で正確に一人単位の数で把握できるような状況でなかった中で、現在、今申し上げたような数字をお示ししているということでございます。

長妻委員 いや、資料が散逸したとかそういうこともあるかもしれませんが、現在というか、確認された、完全にお名前も確認している方を積み上げた死亡者の人数というのは、これはありますでしょう。何百万何千何人という細かい数字もあると思うんですが、それもないんですか。

荒井政府参考人 その三百十万という数字に対応した細かい積み上げた数字は持ち合わせてございません。

 ただ、遺族援護法の中で戦没された軍人軍属等の方々に対しては弔慰金をお支払いしていますけれども、その弔慰金の支給件数で見ると二百八万四千八百八十六人でございます。

長妻委員 そうすると、その今の数字というのが日本国政府が完全に把握をしている戦没者の数、確認をした戦没者の数とイコールというふうに見ていいんですか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 この弔慰金につきましては、遺族からの請求をもって支給を決定してございますので、遺族からの請求がないケース、それからその他いろいろな事情で請求がされないケースについては除かれているということでございます。

長妻委員 そうすると、遺族からの請求がない、あるいは例外のケースも含めて、私が聞いているのは、日本国政府がさきの昭和の一連の戦争で亡くなったというふうに確認している、お名前もですね、それを積み上げた人数が何人なんですかということを聞いているんです。別に三百十万人の内訳を聞いているんじゃなくて、それを積み上げたら何人でいらっしゃるのか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 外国等から復員してきた段階でその隊の状況を把握し、その中で死亡者の数を確定していったわけですけれども、その際には、個人が特定できないと人数が把握できないので、推定も含めて……(長妻委員「特定できたものだけ」と呼ぶ)それを積み上げていった数が、現在残っている資料によりますと、先ほど申し上げた数字になるということでございまして……(長妻委員「一人単位でわかるでしょう」と呼ぶ)それは、現在そういう数字は持ち合わせてございません。(長妻委員「何で」と呼ぶ)数字的にない理由でございますか。

 集計に当たって地域別に、地域というのは、どこから復員したかによって大まかに区分しましてそこで集計してございますが、その数字自体が、今申しましたように一人単位の数字になっていないということでございます。

長妻委員 いいかげんだと思うんですね。確認された方というのは、お一人お一人お名前を確認したというのがいらっしゃるわけで、それを全部積み上げると、一人単位で政府が確実に把握した戦没者というのはあるはずなんですが、それがないということは、本当に資料が散逸するというか、調査、整理をする努力を怠っているというふうに言わざるを得ないんです。

 そうしましたら、資料をお配りしましたけれども、軍人軍属の戦死者が二百三十万人ということでございますが、これの戦闘による死亡の方というのは何人だということなんですか。

荒井政府参考人 その内訳についての死因別の数字もとってございません。したがって、私どもとしては数字は持ち合わせていないということになります。

長妻委員 これも驚きなんですね。資料を一部添付しましたけれども、アメリカなどでは、戦闘で亡くなられた方は何人だとか、死因もきちっと統計をとっているんですね、第二次世界大戦の。

 日本は、それは全員を確認しろなんて私も言っていませんよ。死因がわかる方々を、戦闘で亡くなった方というのは何人おられるのか。一人一人積み上げていけば何人いらっしゃると。一説によると、二百三十万人のうち半分以上の方が餓死で亡くなられたんじゃないかというふうに言われる方もいらっしゃるわけで、例えば、外地で病気で亡くなられた方というのはわかるわけですから、一人ずつ積み上げると何人いらっしゃる、戦闘が一人ずつ積み上げると何人いらっしゃる、そういう数字。当然二百三十万人には届かないと思います、死因が判明する方は。ただ、その中で死因が判明している方を一人ずつ積み上げていくという数字すら、これは持っていないんですか。

荒井政府参考人 そういう形で積み上げた数字は、申しわけございませんが持ち合わせてございません。

 数字の把握は国によって恐らく違うと思うんですが、戦争で勝った国の場合には比較的細かい状況が把握できていると思うんですけれども、例えばドイツのような敗戦国の場合にも、高校の教科書なんかを見ますと、万単位の数字、十万単位の数字になってございまして、なかなか厳しい状況の中で、引き揚げ援護でいえば、戻ってきた方をふるさとに戻すまでのその作業で膨大な手数がかかる中での現在の状況だというふうに思います。

長妻委員 いや、私もそんな酷なことを聞いているわけじゃないんですよ。二百三十万人の方々全員の死因を調べろ、そんな酷なことを聞いているんじゃなくて、今まで政府が把握している数字は、数字というか把握しているはずなんですよ。確実に戦闘で死んだ方というのは、これは積み上げれば何人というのはあるわけですよね。確実に外地で病気で亡くなった兵隊さんの方、その人数というのも、これはあるわけですよね。それが何で出ないのか。だから、全然整理していないというふうに思うわけでございますが、復員兵に対するヒアリングというのは何人ぐらいにされたんでございますか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 復員に際しては、その戻ってきた隊ごとに書類を出していただき、またヒアリングをしながら亡くなられた方を確定していくという作業をいたしておりました。ただ、現時点において、何人の方からヒアリングをしたとか、それから、それに伴う書類がどのくらい作成されたかに関しては、そもそもその書類自体が現在残っていない状況がございまして、お答えすることはできない状況でございます。

長妻委員 それもいいかげんだと思うんですね。現実にヒアリングをしたというふうに確認された方の人数すらわからないということでございますけれども、復員兵などの方々からヒアリングをしたメモ、そのメモというのが厚生労働省の地下の倉庫にあるというふうに聞きましたけれども、全部じゃないですけれども、これは何人分のメモが今あるんですか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 私の方で昨日確認したところ、いろいろなところにその資料がまざっていて、基本的には廃棄してしまっているようです。ただ、いろいろ問題になるようなものについて一部残しているものがあって、それがさまざまな書類のところに挟まっているという状況の中で、全体の数が幾つかについては把握できていないということのようです。

長妻委員 これは敗戦国のドイツでも、先ほど申し上げましたように四十万人の復員兵の記録があるんですよ。これはひどいんじゃないですかね。一部はあるけれども、いろいろなところに紛れ込んで、あるはあるけれどもばらばらだと。これは集めないでいいんですか。廃棄したというのはいつ廃棄したんですか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 一度に書類を処分したというよりも、そもそも、死亡について確認ができた場合に一件それで終わったという形で、一定期間残していたようですけれども、例えば引っ越しなどに際して徐々に処理をしていった、そういうことでございます。

長妻委員 これは余りにもひどいんじゃないですかね、引っ越しに際して捨てちゃう、あるいは死亡が確認されたら捨てちゃう。

 私が聞いたところ、その資料というのはヒアリングをして、基本的には、主に同僚、戦友とかそういう方々がどういう状況になっているのか、こういうのもヒアリングの重点に置いたと聞いていますが、その中には、当然、あの戦闘でこういう状況で亡くなった、弾をここに撃たれてこうだとか、こういう作戦の中でこういう状況でお亡くなりになったとか、そういう詳細な証言があるわけですよ、そのメモには。

 何で引っ越しで捨てちゃうんですか、そういうのを。全然マインドがおかしいんじゃないかと思うんですが、これは今まで一部でも公表したことはあるんですか。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 かなり人間の死に関係したプライバシーにかかわる問題ということもございまして、今まで公開したことはございません。

長妻委員 私が聞くところによると、これは、かなりの方の資料が厚生労働省のいろいろな部署にばらけて、いいかげんに保管されているけれども、それを集めればかなりの数になると聞いておりますので、サンプルでも結構ですから百人分を、黒塗りでも結構ですよ、個人情報といいますかそういうものがあるものがあるとすれば。百人分をいただけませんか、黒塗りでも結構ですから。

荒井政府参考人 情報公開法上でございますけれども、個人識別性のある部分を除いても、カルテ、作文など個人の人格と密接に関連する情報については、開示すると個人の利益を害するおそれがあるということで不開示とされております。この書類につきましても、個人の死に際での非常に微妙な問題がございますので、できますれば控えさせていただきたいと思います。

長妻委員 それだけ死に際の微妙な描写があることだと思いますけれども、そういう貴重な資料を何で引っ越しで捨てちゃうんですかね。これはもう捨てないでください。ほっておくとまたどんどん捨てちゃうでしょう。それは一カ所に集めてもらえませんか。どうですか、捨てないで一カ所に集めると。

荒井政府参考人 お答え申し上げます。

 恐らく、現在に至るまでの過程の中では、私ども、最終的に軍の軍人については人事記録を作成するという作業がございます。それから、援護法で援護年金等を支給する事務、それから恩給など、そういう事務に必要な範囲内で情報を集めた段階で、それに関係したものは多分処分したんだと思います。

 ただ、今先生のお話は十分に私自身もわかりますので、ちょっとその書類を整理いたしたいと思います。

長妻委員 これがお役人仕事という言葉ぴったりですよね。そういう事務の処理が終わったら、必要ない資料だから捨てちゃう。そこには貴重な、死因というか、そういう微妙な描写がいっぱい書いてあるわけですよ、これは貴重な資料として。皆さんの職務の狭い視野だけから見ると、もう要らないから捨てちゃう、こういうことが随所に起こっていて、大変貴重な資料が捨てられている。

 先ほどの百人の資料を公表してほしいというのも、勝手にというか、情報公開法の規定に当てはまるんだと強弁されましたけれども、これも最終的には情報公開の審査会もあるし、そもそも、情報公開の話をするのは、この国会に対して本当は失礼なんですよ。我々国会議員は、国政調査権を背景に、国政調査権の発動はこの委員会、院の議決ですけれども、私が個人で質問しているんじゃなくて、私も個々の国会議員も国政調査権を背景にこれは質問しているわけですから。情報公開とは違う概念で資料の要求をしているわけですので、検討いただけませんかね、百人の公開。

    〔委員長退席、山中委員長代理着席〕

荒井政府参考人 今委員のお話の趣旨も十分に考慮させていただきながら、検討させていただきます。

長妻委員 これは麻生大臣、今聞いていただいたと思うんですけれども、こういう資料の件も含めて、いかがでございますか。

麻生国務大臣 長妻先生、その時代に既に生まれていましてそこそこ記憶のある方から言わせていただければ、あの時代、私のいとこ半が特攻で亡くなりましたけれども、戦死が来たのは正確には昭和二十五、六年でしたから、戦争が終わって六年後。傍ら、これは死んだというので靖国神社に名前が上がって、お参りに行ったら本人が帰ってきた等々、あの時代はかなり混乱の状況でありましたし、例えば広島等々、市役所丸ごと原爆でなくなっていますので、資料丸ごと散逸、戸籍含めて全部消滅をした等々、帰ってきても住所も全く不明というようなことになったあの混乱の状況の中にありましたので、そこらのところの対応が一番で、だれがどうというような資料をきちんとつくるというようないわゆる上からの命令がなければ、余計な仕事は抱えたくない、みんな生きるのに精いっぱいでしたから、あのころは。

 したがって、今の話も伺って、きちんと整理をされておいてしかるべきと、今のこの状況においては私も長妻先生の意見と同じことを考えますけれども、その当時の状況を知っている者とすると、なかなかそこらのところは、当時の混乱の極の中において、きちんと上からの命令でもない限り、役人の発想で、これはきちんと後世のためにやっておくべきだというところまで意識が回らなかったというところも、理解できぬことはないかなという感じはしますけれども。

長妻委員 いや、私も、その戦後のどさくさのときに資料をきちっとまとめておいてくださいと言っているんじゃなくて、麻生大臣もちょっと言われましたけれども、この平和な今の、もう戦後六十年以上たってもまだ、引っ越しで資料を捨てちゃったり、散逸してまだ一カ所に集めていないとか、もうそういうことはやめてほしいと思うのです。

 昨年十月二十七日に私が外務委員会で下村官房副長官にお尋ねしましたところ、こういう答弁が返ってきました。記録が公式にあるのかということを聞きましたら、「政府として、戦後、さきの大戦に関する公式の記録、戦史が作成されたことはないと承知しております」と。

 だから、政府としては作成していないという公式見解ですが、これは麻生大臣、外務省、いろいろ管轄がまたがるかもしれませんけれども、今ある資料ですよ、今ある復員兵から聞いた資料を一カ所にきちっと集めて、もう絶対捨てない、引っ越しとかなんとかで捨てない、それを指示、お約束いただきたいと思うんですが。

麻生国務大臣 各役所にどの程度あるのか、どういう形になっているのかというのはちょっと正直わかりませんので、少なくとも、これは内閣府なら内閣府で、各省に対してこれをきちんと整理しろということを言わないとなかなかできない。

 検討させます。

長妻委員 そしてもう一点、今もう御存命の方というのがかなり御高齢になって、どんどんお亡くなりになっておられる、実際、戦場におられた方が。そういう方々に対して、西ドイツ政府がやったように、きちっと日本国政府として状況をお話をお伺いして、国として資料を保管する、そういう事業をするべきだと思うんですが、大臣はいかがお考えになりますか。

麻生国務大臣 基本的なこととして、今のような、弁護士をやっている方はおわかりだと思うが、伝聞資料というんですが、伝聞資料よりは一次資料として、当時どういったものが報道を正確にされたかというような、きちんとした一次資料というものが最も説得力のある資料なんだ、私もそう思います。

 したがって、よく言われる何十万人虐殺とかいうような話に対しては、その当時、そういった新聞、資料等々があるかということを見るとないというようなことが伝わると、何となくその種の数字の話が起きてくる。いろいろな意味で外交上大事なところだと思いますので、今言われたように、きちんとした資料を作成しておくというのは、外交交渉をするときにおいても、いろいろな意味で有意義なものになり得ると思います。

    〔山中委員長代理退席、委員長着席〕

長妻委員 そうすると、日本国政府として、今御存命で戦場に行かれた方々の証言等々ヒアリングをして保管する、こういう作業をするということを御検討していただくということでございますか。

麻生国務大臣 これは、今申し上げましたように、かなりの御高齢、もう八十は楽に過ぎておられると思いますので、そういった方々の記憶が今どれほど正確なものか等々はなかなか難しいところだと思います。

 したがって、私ども、先ほど言うように、一次報道というのが最も当時のものとしては説得力のあるものになろうと思いますので、そういった資料の整理が最も優先されるべきかなとは思います。

長妻委員 そうしましたら、そういう資料の整理ですね、先ほどの厚生労働省の資料も含めて、防衛省の中にも将校クラスから詳細に聞いた未公開資料等々がいろいろあるということも聞いておりますので、そういう資料を一カ所に政府として集めて、そしてそれを公表するというようなことを進める、御検討する、こういうことをぜひ明言していただきたいんです。そうしないとなかなか一歩が踏み出せないと思うんですね。

麻生国務大臣 公表をするか、できるか、別な話だとは思いますが、こういうのを一回集めてみる価値というものは極めてあろうという感じはいたしますので、先ほど申し上げましたように、検討させますとお答えさせていただきます。

長妻委員 そして、最後の質問でございますけれども、これも前回も麻生大臣に、昨年質問したと思いますが、村山談話というのがございまして、これは今でも政府の公式見解だというふうに言われております。

 この村山談話の中に「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで」云々、こういう記述があるんですね、「国策を誤り、」と。前回麻生大臣に、「国策を誤り、」というのを、日本国政府としてどこが具体的に国策の誤りだったのか、そしてその原因は何だったのか、これをきちっと、日本国政府の公式見解を出すことこそが重要なんだ、ドイツなども出しておりますから。それが全く今、日本国政府、戦後一度も、国策を誤った具体的事象、その原因、この公式見解が出ておりません。

 これもいろいろな問題が生じることになると思うんですが、この「国策を誤り、」というのは、例えば満州事変の問題あたりからなのか、あるいは対米開戦もその一つなのか、ポツダム宣言受諾のおくれもそういう問題なのか、あるいは戦陣訓、有名な、生きて虜囚の辱めを受けずとか、そういうものが問題なのか、その中にはいろいろな謀略もあったということでもございますけれども。

 麻生大臣、多少具体的に、どこら辺の部分で、どういう理由、原因で国策を誤りなのか、政治家としての大臣の所感というか、お考えをぜひ聞かせていただきたいんです。

麻生国務大臣 これはこの前のときも、ちょっと記憶がありませんけれども、多分答弁を申し上げた、多分同じようなことを答弁したんだと存じます。

 長妻先生、これは実にいろいろなところにさかのぼるのであって、多分ポーツマス条約、日露戦争にさかのぼって、あのときに、南満州鉄道共同開発ということをハリマンというアメリカの鉄道王から申し込まれたときに拒否というのにさかのぼって、中国の権益を日本が独占といってアメリカは判断したと言われる資料が、たしかアメリカの学校に、学生時代に習ったことがあるんですが、そういう時代にさかのぼって、当時、二十世紀初頭において、初めて日露戦争において有色人種が白色人種に勝つという五百年ぶりの大事件が起きておりますけれども。

 そういったものを含めて、当時、イエローペリルという言葉がヨーロッパで出始め、いろいろな形で日本に対するものというのは、ごちゃごちゃしたことがいっぱい重なっていったのに対して、それへの対応というのを一つ一つ見てみると結構当たったことをやっておりますし、人種差別撤廃というのを国際連盟というところへ最初に持ち出したのは日本でもありますし、いろいろな意味で対応をしていったのが、どの段階でノーリターンというか、もうこれで帰れないことになったのかというところが一番難しいところだと思います。

 今の場合、それに対して、この時点でここが間違えたというのはなかなかちょっと言いにくいのではないかな、私があの当時の政治家だったとして、どういうような対応ができたかなと、時々これはシミュレーションとしてやったことが何回かあるんですけれども、この時点だったらというところがなかなか判断しにくいなというのが率直な実感です。

長妻委員 日本の閣僚は総理大臣も含めて、昭和の一連の戦争に関して、今のような、よもやま話と言ったら失礼ですけれども、そういう発言はされるんですけれども、ここの部分が間違っていたんだ、統治機構のこの部分が暴走を許したからこれは繰り返しちゃいかぬとか、この段階の政治判断が間違ったとか、そういう議論すら避けておられる。特に総理大臣も含めて、戦後そういう議論を一切避けて通ってきて、国策を誤りというのだけ辛うじて認める。こういうことでは、今の行政機構の中にも、ひょっとすると当時の問題を引き起こしたような遺伝子といいますか、そういうものがまだ残っていて、それが動き出したときには取り返しがつかないということも、私はあり得るのではないか。そういう意味でも、やはりきちっとした総括というのをする必要があると思っているんです。

 今、大臣がポーツマス条約からさかのぼって言われましたけれども、そうすると、一時期、国策を誤ったという、これは政府の公式見解なんですよね。一時期、国策を誤ったというのは、ポーツマスから国策を誤ったということになるんですか、そういうことを今言われたんですか。

麻生国務大臣 この政府の「一時期、国策を誤り、」に、その時期を特定はされていないというように存じます。

 今申し上げましたのは、当時の国際情勢というものをあの時点から見誤ったかといえば、一九〇〇五年から一九四五年に至るまでの四十年間、すべて見誤ったかと言われるとそうは言えないと存じますので、特定の時期というものを限定して「一時期、国策を誤り、」という表現を使ったとは思っておりません。

長妻委員 これは麻生大臣もシミュレーションされたというふうに、そういうお気持ちがあるというのはよくわかりますけれども、そうしましたら、例えば対米戦争の開戦、これはシミュレーションされると、当時としてはやむを得ない決断だったというふうに大臣は思われておられるんですか。

麻生国務大臣 ハル・ノート以降の話に関して言わせていただければいろいろな判断もあろうと思いますが、少なくとも石油というものの輸入を全部とめられた段階において対米開戦以外に方法があったであろうかといえば、これはまた軍事的にはいろいろな意見があるのであって、インドネシアを先にとるべきだった等々、これは軍人さんに言わせたら実にいろいろな話があります。インドネシアに入る、それで石油を確保、別にアメリカと戦争しているわけじゃありませんから、オランダと戦争することになります。というのが、石油確保ではそれでいいじゃないか、しかも金は払うと言えば別に戦争のネタにはならないんじゃないか等々、いろいろなシミュレーションはございます。

 したがって、対米戦争やむなしというような雰囲気というのが当時出てきたんだと思いますが、これは山本七平という人の書いた「「空気」の研究」という本が一番おもしろいと思いますが、当時、対米開戦に反対した海軍が最後の参謀会議に出ていったときに、今日既に対米開戦回避の空気ではなかったというのが、その当時の最後の公文書に残っていた文章だと思いますが、そういったものになる。

 したがって、今言われましたように、そういう危ないシステムがまだ日本の中にDNAとして残っているのではないか、日本人の中に残っているのではないかという危険性は、常に我々、今生きております政治家としては、きちんと胸におさめておくべきものだと存じます。

長妻委員 これで質問は終わりますけれども、私は、今のような議論を日本は怠ってきているので、本来は国会の中に特別委員会を設置して、もう遅きに失した感はありますが、やはりここで公式見解をきちっと出しておかないと、後世に至ってもいろいろな問題が出てくるんじゃないか。

 私自身、憲法改正は必要だと思っておりますが、ただ、憲法を改正する前に、さきの昭和の一連の戦争の公式資料さえない、そして「国策を誤り、」の政府の公式見解もない、その原因の言及もない中で憲法改正というのはすべきじゃないというふうに思っておりまして、前向きに憲法改正を考えるためにも、やはりこれは日本の乗り越えなきゃいけない試練だと私は思いますので、日本国内できちっと正確に総括をするということは是が非でも避けて通れないことだというふうに考えております。今後ともその趣旨での質問を続けますが、ぜひ、大臣におかれましても、この「国策を誤り、」をきちっと総括していこう、具体的な発信をしていこうということを閣議でも総理等に進言していただきたいと思います。

 以上でございます。ありがとうございました。

山口委員長 次に、笠浩史君。

笠委員 どうもおはようございます。民主党の笠浩史でございます。

 先般、今回のいわゆるハーグ条約並びにその議定書につきましては、文部科学委員会の方でも、今回の批准へ向けたこれの国内法、この議論でも私も質疑をさせていただいたんですが、本当に文化財をしっかりと守っていく。あるいは、そうした形で、今、多くの世界じゅうの重要な文化財が危機にさらされているというような例もございます。そういった修復活動等々に向けた日本の取り組みを積極的に進めていくことは、大変外交上も意味のあることであると考えております。

 昨年の通常国会でも、超党派の、そして議員立法として、海外のこうした遺産を修復していくための推進のための法律案を全会一致で成立させていただきましたし、冒頭ちょっと大臣にお伺いしたいんですが、外務省と文化庁が協力をして、ある意味ちょっと今回のハーグ条約とは別ですけれども、こうした修復活動等々に向けて、やはり予算もしっかりと今以上につけて今後取り組んでいかれることも含めた、文化財外交というものに向けた決意というものをお伺いできればと思います。

麻生国務大臣 皇紀二千六百六十六年、西暦で数えましても一千数百年の長きにわたって、一つの地域に一つの文化、文明をつくってというような国というのは、我々にとっては当たり前でありますけれども、そう当たり前の国かと言われると、多分、当たり前と我々思っている国の方が少ない、現実だと存じます。

 しかも、これだけのところで、一つの文化をつくり、文明と言われるものすら構築しているという国はそんなにありませんので、そういった意味では、こういった我々にとって当たり前のものがほかのところから見ると物すごかったりいたしますので、そういう意味での遺産というものは、我々として、気がついていないけれども、ほかの人の方が、これは遺産、大したものだと言われることがいっぱいあります。そういった意味では、国際協力という、いろいろな意味で、我々も教えてもらうところもいっぱいありますので、ぜひ、こういったものは、これは何も外務省とか文化庁だけの話ではなくて、きちんと保全、保護、保存されるべきものだというものはいっぱいあります。

 ただ、予算がないために、いろいろな形で、空気が悪くなって色が落ちるとか、いろいろなものがありますが、そういったものはきちんと今後やっていくというのに関しましては、積極的な対応を示していく必要があろうということに関しましては、全く同じ意見であります。

笠委員 我が国の文化財も大事でございますし、ただ、これは、どこの国の文化財であれ、まさに地球の財産というか全人類の財産であるとも思いますので、そういう意味で、本当に積極的な貢献をしていくよう改めてお願いを申し上げたいと思います。

 それで、残念ながら、今回、このハーグ条約、当時はたしか我が国が国連にもまだ加盟していなかった時代から、実は、当初、一九五四年五月のハーグにおける国際会議に代表団まで派遣をして、そして、ハーグ条約と第一議定書の作成には積極的に取り組んでいたんだと伺っております。ただ、同年の九月六日に条約及び議定書に署名をしたものの、その後のさまざまな国内調整等々に手間取ったこともあるんでしょう。この理由というのは、これまでも、有事法制の整備がなされていなかったことであるとか、あるいは、この特別な保護に関する文化財と軍事施設の十分な距離の条件等々、そういったことをこれまでも政府は繰り返し、ここまで長引いてしまった原因についてはこの国会の中でも答弁をされているわけでございますけれども、それにしても、こうした文化財の保護へ向けて積極的にやっていくんだという割には、ちょっと余りにも、半世紀以上というのは遅きに失した感がぬぐえません。

 この点について、もう半世紀以上たっているんだということについて、大臣の感想というか、理由の方はいいんですけれども、率直な感想をちょっとお聞かせいただければと思います。

麻生国務大臣 今、笠先生からも御指摘がありましたように、この条約を実際に実施するときに当たりましては、これはもう間違いなく、今言われましたように、有事法制との関係というものが極めて密接にあります。その有事法制というものがまだできておりませんというのがやはり非常に大きな背景として、私どもとして、制度上困難があったというのが、これは国内的にはもう間違いない事実であろうと存じます。締結は困難だったと思うんです。

 もう一つは、三年前でしたか、二〇〇四年だったと思いますが、第二議定書が正式にスタートしておりましたので、いろいろな意味で問題点が手当てされましたし、有事法制も成立をしておりますので、いわゆる国内の担保法というものを作成できるという判断に至ったというのが、今回こういった形で御審議をお願いできることになった。これはまことに意義深いというのが、感想と言われれば、難しかった話ができるようになったのは極めて意義深いものだというのが私の率直なところですので、できました以上は、我々としては、さらに、締約していないところもありますので、そういったところを含めて積極的に働きかけると同時に、国内、いろいろな意味で、文化財の保護に少々予算やら何やら削られてきているというのがこれまでの経緯でもありますので、こういったところに関しましても当然配慮をしていかねばならぬというような感じがいたしております。

笠委員 今大臣おっしゃったように、やはりちょっと出おくれていますので、その分挽回するぐらいの形で、この国会でこれが承認を得たならば、その後の、まさに我が国の政府としてどういう形で臨んでいくのかということがやはり大事であると思いますので、その点についてはよろしくお願いを申し上げたいと思います。

 それで、少し今後のことを具体的に幾つかお伺いいたしたいんですけれども、先ほど我が党の長妻委員の方からも冒頭に質問があったんですが、私、文部科学大臣にも同じようにお尋ねをしたんですけれども、近年、文化財の保護という観点から考えると、武力紛争の一番当事国になっているのはやはりアメリカなんですよね。それはもう間違いのないことだと思います。

 ただ、残念ながら、アメリカがハーグ条約に加盟をしていない、締結をしていないということについては、やはり相当強く、他国、幅広くもっともっと多くの国に締結を働きかけていくことも大事なんですけれども、やはりアメリカに対して何とか働きかけを同盟国として強めていただいて、有事の際には当然我が国の文化財を、仮に日本が有事の際、武力紛争になった場合に、やはり当然ながら、アメリカ軍と一緒に日米同盟ということで国内においても軍事展開をしていくということになるわけでしょうから、そのときに、アメリカだけがこのハーグ条約を批准していないということになれば、文化財を守るという観点に立っても、やはりそれはいろいろと問題が出てくるんじゃないかとも思いますので、再度アメリカに対して働きかけをしていかれる決意と、加盟をすべきだということを今後どのような形で具体的に取り組んでいかれるのかを含めて、お伺いいたしたいと思います。

    〔委員長退席、小野寺委員長代理着席〕

岩屋副大臣 先ほど大臣が長妻委員にお答えをしたとおりでございまして、アメリカの議会で動きが見られない、なぜ見られないのかというのはなかなか我々が判断するわけにいきませんが、大臣がお答えになりましたように、我が国がしっかりと締結をした、国内の担保法もつくったということになりますれば、同盟国である米国に対してもしっかりと働きかけを行っていくつもりでございます。

笠委員 あわせてもう一つお尋ねしたいんですが、仮に条約の締結が難しかった場合でも、せめて、我が国の文化財を守るという点に立ったとき、保護のために、アメリカに対して、この条約の第十八条の三項の規定に基づいて、この条約の規定を受諾する旨宣言させることを申し入れる必要があるという規定があるわけですけれども、これについて、政府としてのその必要性についての見解というものをお伺いできればと思います。

山本政府参考人 お答えいたします。

 先生御指摘のように、ハーグ条約におきましては、非締約国であっても締約国との間での武力紛争に際しては条約などの規定を受諾するということを宣言すれば条約などの規定を適用することが認められています。

 我が国としましては、この十八条3の規定に基づいて、条約が適用される場合を含めまして、武力紛争の際に文化財が適切に保護されることが非常に重要だと考えていますので、関係国に対してこの必要性を訴えていきたいと思いますけれども、やはりまずは一番基本となります条約の締結、これが一番基本ですので、これを米国などにも働きかけていくことを考えていきたいと思っているのが率直なところでございます。

笠委員 その点は、本当にまずは締結へ向けての働きかけというのは、それはもうおっしゃるとおりだと思いますけれども、そうならなかった場合のことも含めて、対アメリカということに関してはやはり考えておかなければならないんじゃないかと思いますので、よろしくお願いをいたします。

 話題をかえますけれども、一九七二年にユネスコの総会で世界遺産条約が採択をされて、締約国が今、三月現在、恐らく百八十三カ国に上っているんじゃないかと思います。

 世界遺産条約についてはこれだけの国が締結をしても、実はハーグ条約は締結していないという国も、今のアメリカを含めて非常に多いわけでございます。世界遺産条約は、文化遺産や自然遺産を人類全体のための世界の遺産として損傷、破壊等の脅威から保護し保存することを目的として結ばれた条約でございますけれども、本来、この大きな目的からすれば、ハーグ条約も、ある意味では一つの、文化財を守るということでいえば、私の感じで言うと、やはり世界遺産条約をしっかりとここに締約をしている国は、国内法整備等々いろいろあっても、やはりハーグ条約もしっかりと締結をしていくということが大事なんじゃないかと思いますけれども、その点についてお答えをいただければと思います。

山本政府参考人 先生御指摘のとおりだと私どもも思っております。

 ハーグ条約は、まさしく御指摘のとおり、世界遺産条約などほかの文化財、遺産等の保護のための国際的な法的枠組みの主要な部分を構成しております。特に、武力紛争の際の文化財の保護に特化した条約という意味では極めて重要だと考えておりますので、より多くの国がこの条約などを締結することが大事だと思っております。

 したがいまして、我が国としましても、今度、条約及び議定書を締結した後は、関係国に対してこれら条約及び議定書を締結するよう働きかけていきたいと思っておりまして、この点は先生と同じ考えでございます。

笠委員 これはちょっと教えていただきたいんですけれども、世界遺産の登録一覧表ですね、今記載されているのが八百十二件と伺っているんですけれども、もし違っていたら訂正してください。この八百十二件の中で、この対象となる、一覧表に記載されている中で、ハーグ条約に締結していない国の遺産というのがどれぐらいの数になるのか、教えていただけますか。

山本政府参考人 お答えします。

 現在、世界遺産の総数は八百三十件というふうに承知しております。

 ハーグ条約の未締結国で世界遺産一覧表に記載されている文化遺産を所有している国が七十カ国ございまして、数は百件でございます。

笠委員 それと、もう一点。今度、ハーグ条約の第一条に、保護される文化財の定義がなされておるんですけれども、ここで、この世界遺産一覧表に記載されている中で保護される対象とならないものが何件あるのか、また、それはどのようなものなのかということについて、恐らく自然遺産じゃないかと思うんですけれども、それ以外にも、自然遺産以外にもあるのであれば、そのことも含めてお答えをいただければと思います。

山本政府参考人 お答えいたします。

 御指摘のとおり、ハーグ条約上対象にならないで世界遺産の対象になっているものは自然遺産でございます。自然遺産の数は百六十二件、世界遺産には登録されてございます。

笠委員 自然遺産は、今お答えがあったように、百六十二件というものはハーグ条約の第一条の定義によって保護される対象とならないと。締約国がふえていけば、前段、最初にお伺いをした百件の問題というものは解決をしていくんですけれども、ただ、この自然遺産をどうするのかということは、武力紛争時に果たしてこれを守っていくのかどうかということもやはり今後は考えていかなければならない点だと思うんです。

 参議院の文教科学委員会のちょうど議論の中で、議事録を拝見すると、伊吹文部科学大臣が、なぜ今度の条約で世界遺産条約に含まれているものがこのたびの協定の、つまりはこの文化財の定義、これによって第一条に含まれないのかなという疑問は私も持っておるというような御答弁をされているんですけれども、大臣、未締結国の問題ではなくて、こういう自然遺産など、世界遺産というものに登録をされているにもかかわらず、ハーグ条約の定義によって最初から守られる対象となっていない、その点については、率直な感想というものを、どういうふうに受けとめられているか、感想をお述べいただければと思います。

岩屋副大臣 先生のおっしゃる気持ちは私もよくわかりますというか共感をしているところがあるんですけれども、我が国の方から、文化財の定義について、ハーグ条約における交渉過程で、名勝や天然記念物を保護の対象とすべきではないかと主張した経緯があるようでございます。しかし、条約においては、保護の対象となる文化財は動産または不動産等と定義されることになっておりまして、先生御指摘のように、自然遺産は保護の対象となっていないということでございます。現時点で文化財の定義の見直しを働きかけるというのはちょっと現実的ではないのではないかというふうに思っております。

 一方、先生おっしゃったように、世界遺産条約等による保護、あるいは国内においては自然環境保全法等が整備されておりますし、文化財保護法によっても名勝及び天然記念物に対する保護が図られているところでございますので、そういうものを総動員して自然遺産についてもしっかりと事実上保護ができるようにやっていきたいと思っているところでございます。

笠委員 私、これはすぐできることじゃないんですけれども、例えばこうしたハーグ条約であるとかあるいは世界遺産条約であるとか、幾つかありますよね、こうした文化財保護にかかわる、あるいは自然の保護。やはりそういうものを、何か点、点で、一つ一つこれまで手続を踏んでできてきたんでしょうけれども、もうかなり年数もたっているので、少しトータルで考えていくような、何か国際機関の中で、ユネスコ中心でもいいと思うんですけれども、そういうリーダーシップを日本としてとっていただくようなことがまさに外交ではないかと思いますので、その点について、今後、長期的な話ではあると思いますけれども、ちょっとお答えをいただければと思います。

麻生国務大臣 できましたときと今と比べて、笠先生、例えば自然環境保護とか地球温暖化とか、この当時では考えられなかったような新しい事態が起きてきておりますので、いわゆる自然というものに対しての保護とか育成、そういったようなものに対する価値観というものが随分変わったんだと思うんですね。

 そういう意味では、今言われましたように、今のルールではそれの対象にはなっておりませんけれども、このハーグ条約の中に入れるか、もっとまた新たに別なものをつくるか、いろいろな考え方があるんだと思いますけれども、こういった自然遺産というものに関しても、別の観点から大事にすべきというようなことは日本もかねてから主張もしておりますので、今後、この種のことに関しましては引き続き言っていきたいと思っております。

笠委員 本当に今大臣のおっしゃったことは大事だと思うんです。恐らくこのハーグ条約ができたころも、想像するに、まだやはり第二次世界大戦などの記憶が新しく、そこで、どちらかというと、数々のいろいろな遺産であるとか史跡であるとか神社仏閣であるとか、そういったものが破壊をされて、これはいかぬということでこういうものをつくろうという機運が盛り上がってきていたんだと思うんですね。

 ただ、本当に、半世紀以上たって、やはり物に対する価値とか、あるいは環境の問題、今おっしゃったような自然の問題を含めて、共通して守っていく対象というものが、単に文化財ということに限らずですけれども広がっている中で、財産というものをどう考えていくのかということで、またそういう議論をぜひ積極的に提言をしていかなきゃならぬと思っております。

 次に、これも今後のことなんですけれども、ちょっと国内的な手続の話を幾つか確認させていただきたいんです。

 このハーグ条約及び議定書を締結したら、第二議定書にある、今回定められました強化された保護、こちらの方に、我が国の文化財、要するに対象を、恐らくそこにリストを作成していくということになるんだと思うんです。今ユネスコに設置をされている武力紛争の際の文化財の保護に関する委員会に、我が国で定めたリストをこれから提出していくということになると思うんですけれども、この強化された保護がどういう基準なのかというようなことを含めて、もう少し共通の基準を定めていかないと、どういう文化財を指定していくのかなかなか難しいということで、先般の文部科学委員会の中でも、その状況を見ながらリストの作成に入っていくんだということだったんですけれども、ちょっとこれを確認させてください。今現在、他国でこのリストを提出している国というのはあるんでしょうか。

山本政府参考人 ございません。

笠委員 まさに、恐らく他国も同じようにそこあたりの基準を待ってということになるんでしょうが、先ほど申し上げたように、かなり日本の方もおくれていますので、これが本当に国会承認を得たら、もちろん、基準が明確になったらすぐに対応できるような、どの範囲まで指定をしていくのかを含めた準備をぜひ急いでいただき、一番にリストを提出するぐらいの、その基準ができた後ですよ、そういった取り組みをぜひしていただきたいと思います。

 あと、基準ができ上がるのは、示されるのは大体いつぐらいになるんですか。

山本政府参考人 まだ定かなことはわかっておりませんが、御存じのようにこれは二〇〇四年に発効したものでございますので、これからもし我が国が締結することになりましたら、そういうところも含めまして積極的に話を進めていきたいと思っております。

笠委員 次にお伺いをしたいのが、武力紛争が起きた場合に、文化財を守ることも大事なんですけれども、当然ながら、国民を守るための自衛隊の活動が、一方で文化財を守るために制限されるというようになると、まさに人の命を守っていくという、これが最優先でございますから、ここあたりの関連について幾つかお伺いをいたしたいと思います。

 先ほど長妻委員の方からも簡単に指摘がありましたけれども、まさに先ほどの第四条で、「武力紛争の際に当該文化財を破壊又は損傷の危険にさらすおそれがある目的のために利用することを差し控える」と規定をされているわけですけれども、我が国の自衛隊、あるいは米軍というのも含まれると思うんですが、アメリカ軍の施設等々と、重要文化財であるとかあるいは世界遺産というような、まだ今指定されていませんけれども、恐らくこの条約を批准した後に該当するような重要文化財とか世界遺産でいいんですけれども、そういう何か自衛隊の関連施設とか米軍施設と距離的に非常にもう一体となっているとか、あるいは物すごく近くにあるというような、そういうケースというのはあるでしょうか、今現在。

土屋政府参考人 御説明申し上げます。

 先生御指摘の自衛隊あるいは在日米軍基地の周辺にある国指定の文化財といたしましては、例えば重要文化財でございますと新潟県の新発田城、これは陸上自衛隊の駐屯地の近くでございます。あるいは、海上自衛隊の呉教育隊の近くには旧呉鎮守府司令長官官舎、これは重要文化財でございますが、こういったようなものもございます。

 それから、在日米軍基地の周辺にあるものといたしましては、神奈川県相模原市のキャンプ座間の近くに勝坂遺跡、史跡でございますが、こういったようなものもございます。

 また、世界遺産といたしましては、姫路城の近くに、二キロ強の場所に陸上自衛隊の姫路駐屯地があるというように承知してございます。

笠委員 今具体的にケースを幾つか挙げていただきましたけれども、そういうものを今後対象として、仮に強化された保護ということに適用しようとすると、これは仮にこの第二議定書に基づいて強化された保護に適用する場合でも、やはり軍事活動を支援するための当該文化財またはその隣接する周囲のいかなる利用も差し控えるということは求められているわけですよね。そうすると、その要求を満たすのはなかなか難しいということになるので、そういう場合には、今挙げられたようなものはおのずと、例えば指定をされないのか。それとも、まさかどこかに移すというわけにも、これは動産のものであればいいですけれども、そこのところというのはどういうふうな整理をされていくお考えなのか、お答えいただければと思います。

土屋政府参考人 お答え申し上げます。

 先ほど外務省の方からも御答弁がございましたが、強化保護の付与が必要なものにつきましては、現在そのガイドラインについて作成中ということでございますので、私どもといたしましては、まずこのガイドラインの作成の内容を見まして検討してまいりたいというふうに存じております。

笠委員 ただ、今はもちろんまだできていない、作成中ということでございますけれども、恐らく幾つかそういう判断、先ほどのような例もございますので、求められることになってくると思うので、その辺はぜひ、国内的な一つのまさに基準をどうしていくのかということを、やはりこれはあらかじめ、かなり関係部署で、あるいはこれは自衛隊の施設といってもどこまでが本当に対象になっていくのかというのも整理をしていかないといけなくなると思うので、やはり防衛省も含めてこの検討というものをやっておく必要があると思うんですけれども、そこあたりはまだ全然やっておられないということでいいんですか。――わかりました。では、それはぜひまたお願いを申し上げたいと思います。

 それで、もう一点は、実際にこのハーグ条約、議定書を締結した後にブルーシールド等々、これを指定して、リストを出して、そしてその後、ブルーシールドを実際に、もう平時から張っておくのか。武力紛争時にそんなものを、わざわざ標章を張るような余裕はありませんから、恐らく平時から指定をしたものについてはきちんと張っておくようなことが求められてくると思うんですけれども、今回ハーグ条約締結後、こういう文化財をしっかりと指定して、これは武力紛争時も守っていくんですよ、そのことを関係機関とかあるいは国民に対してどのように周知徹底していくかということが非常に大事だと思うんですが、その点について今検討されていることがあれば、お聞かせをいただければと思います。

土屋政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘のとおり、この条約あるいは先般成立させていただきました法律の趣旨につきまして、その周知を図っていくことは極めて重要であるというふうに認識してございますし、また、条約等においても、その周知を図ることを締約国に義務づけているということで、しっかり取り組んでまいりたいというふうに思ってございます。

 特に、条約であるとか、その適切な実施を確保するということについて、例えば流出文化財についての輸入規制でありますとか、あるいは損壊、譲渡等の禁止につきましては、特に広く国民に周知を図ることが必要でございますので、こういった点を十分に踏まえながら、この条約の実効性が高まるように十分に努力してまいりたいというふうに思ってございます。

笠委員 この輸入規制の部分については他委員会で先般議論させていただきましたので、きょうはその点については詳細は私の方からはお伺いしませんけれども、やはり、民法の部分も含めて、これはいろいろと、多分この条約締結後に取り組んでいかないといけない課題もあると思いますので、またそれは恐らく国会でも議論をしていかなきゃならない点だと思いますので、また別の機会に譲りたいと思います。

 それで、一点、ちょっと、先ほどの武力紛争が実際に起きた場合のことに備えてということともかかわってくるんですけれども、芸術品とか書籍、こういう動産の文化財については、やはり極力安全な場所に避難、集約、そうすることが必要であるということで、これはたしかオランダ、ドイツあたりでは、避難所をもう平時に設置して、そして何かあったときには、あるいはあるおそれが出てきたときには、そちらの方にしっかりと持っていって守っていこうというようなことが取り組まれているようですけれども、我が国としても、数多くあると思うんですけれども、そういう動産の文化財を守るために避難所をつくっておく、つくっていくというような方針でいいのかどうかを確認させていただきたいと思います。

土屋政府参考人 お答え申し上げます。

 先生御指摘の文化財の避難施設につきましては、どのような施設が適当であるかとか、あるいは新しく施設を設置すべきであるかどうかといったようなこと、あるいはその時期も含めて、これにつきましては諸外国の動向等も踏まえながら、私どもとしても今後検討してまいりたいというふうに考えております。

笠委員 諸外国の動向を別に踏まえなくてもいいと思うんです、これは全然。国内でやる話なので、実際やっているところもあるし、点在しているままだとこれはなかなか難しいので、ぜひこの避難所、避難施設というものを、やはり平時にしっかりとつくっておくということはやっておかなければ、いつ何が起こるかわかりませんので、やはりそこあたりはスピードアップして、この国会で承認が得られたら、先ほどのリストという面の、そのリストの作成をしていくこととも関連をしますけれども、その避難所、避難施設の中に何を入れていくのかということは前後しても構わないと思うので、ぜひその設置というものも一つ今後の方針の中に組み込んでいただいて、御検討をいただきたいと思います。

 それで、きょう、文化財の話でございますので、ちょっと関連をして、一点違うことをお伺いさせていただきたいんです。

 まず、他国の博物館なりあるいは美術館から、我が国においてその美術品等々が展示をされるというケースが、これは頻繁にあると思うんですけれども、こうした場合に、万が一所有権をほかの国が例えば主張してきたり、あるいは、いやそれはもともと、例えば英国の美術館から持ってくる、その国のものじゃなくて私たちのものなんだというような提訴を受けるようなことがあったときに、我が国はどういう法整備において、しっかりと最初に借りてきた、もともとの英国にしっかりと戻していくという担保をしている法律があるのかどうかですね、それをきちっと戻すことができる。それをちょっと、まず事務的に教えていただけるでしょうか。

    〔小野寺委員長代理退席、委員長着席〕

岩屋副大臣 今先生、イギリスのことを話されましたが、麻生大臣が、もしイギリスがそんなことを言われたら、世界じゅうから物を集めているので、大英博物館は空っぽになっちゃうなというふうにおっしゃっておられましたが。

 今先生おっしゃったこと、大体どの辺の地域のことを念頭に置いておられるか、想像がつくところでございますけれども、そういう貸出元の国または地域にきちんと返却することを保障する特別の国内法上の制度はあるかという問いに対しては、そういうものはございません。

 ただ、一般的に、多くの美術品が本邦域外から貸し出されておりますし、無事に返却されてきているというふうに承知をしております。

笠委員 ではちょっと具体的にお伺いをしたいんですけれども、大臣、台湾の国立故宮博物院は行かれたことはございますか。

麻生国務大臣 うかつに言うと危ないんですけれども、何回もあります。

笠委員 これは、実は博物院の館長さんなんかも、前にも我々も受けておったんですが、実は、先ほど、冒頭申し上げた、海外の文化遺産を守る議員立法をつくるときにも、その中に何とかそのことを担保できるような法整備ができないか等々も、自民党の皆さんとも検討をしたこともあるんですが。

 この台湾の国立故宮博物院が、仮に日本で美術展をやる、展示会をやるといって、開くことはできると思うんですけれども、仮に、それを他の国が、おれたちのものだという形で請求をしてきたときに、それはきちっと台湾に戻すことは間違いなくやれるということでよろしいんでしょうか。

岩屋副大臣 先ほどもお答えいたしましたように、そのことを担保する国内法上の制度はないわけですけれども、これは信義の問題でもございますし、お借りしたものはきちんとお返しをするということでございます。

笠委員 そういう法的な担保がないだけに、改めて大臣にも御確認をしたいんですが、しっかりと、これはもう特定しております。台湾のケースです。それでもしっかりと台湾に戻すということでよろしいでしょうか。

麻生国務大臣 何年か前でしたか、鈞窯の皿が出たんだと、こっちに、国立博物館でしたかね、京都だったかに貸し出されたと記憶しますが、あのときもきちんと返却をされております。

 ただ、そのときに他国から、それはもともとは、明ですから、二千百年前はおれたちのものだったという意見が来たかといえば、そういうことはございません。

笠委員 本当に一部だったらあれですけれども、大々的なそういう美術品の展示展などをやった場合には恐らくそういうことも起こり得るかもしれないので、きょうは文化財の議論でしたので、ちょっと確認をさせていただきました。

 改めて申し上げますけれども、条約を結んだ後に、ちょっと私もまだまだ見えてこない部分があるんです、これは議論していても。まだ政府の中でも、どういうものを本当に指定していくのかとか、あるいは、とりわけ外務省、防衛省を中心に、本当に武力事態に、あってはならないんですけれども、あってはならないことが起こったときに、そのときに、まず文化財を守ることなんて最優先じゃないですよね、恐らく。まずは人命だと思いますので。

 だから、平時から、先ほどのブルーシールドの掲示であるとか、さまざまできることはやっておいて、ひとつ、具体的にしっかりと守っていくことができるような、省庁を超えた対応をお願いして、私の質問を終わらせていただきます。

    ―――――――――――――

山口委員長 この際、お諮りいたします。

 各件審査のため、政府参考人として外務省国際協力局長別所浩郎君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

山口委員長 次に、丸谷佳織さん。

丸谷委員 おはようございます。公明党の丸谷佳織でございます。

 本日議題になっておりますハーグ条約関連の質問をさせていただく前に、ちょっと国際情勢について二点ほどお伺いをさせていただきたいと思います。

 まず、一点目でございますけれども、先日、去る二十三日に、ロシアのエリツィン前大統領がお亡くなりになられました。心から哀悼の意を表するところでございますけれども、二十五日にはロシアで国葬が行われました。各国の出席者を見てみますと、アメリカではクリントン前大統領ですとかあるいはジョージ・ブッシュ元大統領、ドイツからはケーラー大統領、イギリスはメージャー元首相ですとか、あるいは欧州各国の外相ですとか、韓国からも政府弔問団を送られたというふうに聞いております。

 我が国からは齋藤駐ロ大使が出席をされたというふうに聞いておりますけれども、日ロ関係の緊密さ、あるいは、お互いに発展していくために持っている共通のテーマ、エネルギーであったり領土ということを考えていたときに、大使よりもよりハイレベルな特使の派遣というものが我が国からあってしかるべきであったのではないかというふうに思う次第でございますけれども、この点については、どのような見解をお持ちでしょうか。

麻生国務大臣 これは全くごもっともな御指摘なんだと存じますが、二つ問題があります。

 基本的には、ロシア大使館というかロシア政府の方から、今回のこの葬儀に対しては、各国の代表団を公式に招待することはしないという向こうからの表明があったのが一点。

 もう一点は、これは言いわけがましくなると言われると困るんですが、葬儀の日時というのが正式に通報を受けましたのが二十四日の午前なんですけれども、その時点以降、モスクワ時間で二十五日の葬儀が行われるのに間に合う飛行機がないんですよ、日本からの場合。これが極東という地理的な条件だったということであります。

 したがいまして、これは、当時、森先生に行っていただいたらいいんじゃないかというので、森先生の前にチャーター便の手配をやろうと思ったんですが、チャーターの便の手続が要りますので、これまたとても間に合わないということになりまして、基本的には、今回のときにはもう物理的に間に合わないということがはっきりいたしましたので、やむを得ず齋藤大使を充てたというのがその背景であります。

 したがって、政府専用機とかいろいろよく言われますけれども、ああいうけばけばしく大きいのじゃなくて、もう少し、数十人乗りの小さなチャーターでぱっと行けるようなものを考えるというのを今後のあれとしては考えるべきじゃないかなと、私はその話を今申し上げているところなんですけれども、今回は特にその点を強く感じた次第であります。

 ロシア政府に対しては、その旨はきちんと背景を説明いたしております。

丸谷委員 いろいろな事情、背景等があったということで、その点は理解をいたします。ただ、やはり、二十三日に亡くなられたということがあれば、何日の国葬かは別にして、また、正式な代表団を招くかどうかは別にして、日ロ関係の中で、我が国から特使がすぐに行って弔問に行くということは十分に考えられる事態だと思いますし、そこのタイミング等、だれが行っていただくのかという判断をするのは、今後、大臣の強いリーダーシップをもって、やはりこういったことをお役所任せにするとと言うとちょっと言い方がきついのかもしれませんけれども、大臣の御判断力をもって、適宜、我が国の姿勢を示せるような形で、また、必要な機材があるのであればそろえていただきながら対応していただきたいと思います。

麻生国務大臣 ごもっともな御指摘だと存じます。

 ちなみに、韓国、同じように便はなかったんですが、韓国は参加をしております。なぜ参加したかというと、死んだ途端にばっと出たからです。

 したがって、しかるべき人ということになりますので、私ども、森先生に特定したわけではありませんけれども、ちょっと、この種の大物が亡くなったときには森先生、橋本先生が一番御縁があったんですけれども、橋本先生も亡くなっておられますので、森先生を一人の例として考えたんですけれども、言われましたように、韓国のように、亡くなったと同時に送っておったらそんなことではなかったろうと思って、反省の一つに当たると思っております。

丸谷委員 ありがとうございました。

 大臣、参議院の本会議の方にいらっしゃるということですので、どうぞ。

 では、引き続きまして、副大臣を中心に、もう一点、けさの読売新聞に出ておりました報道について、ODA三百十二億円の使途不明ということについて、若干、事実関係から聞かせていただきたいと思います。これは昨日質問通告していない部分ですので、政府参考人の方でも結構なんですけれども。

 この内容は、日本のODAとして行われました債務救済無償資金協力につきまして、二〇〇二年度に供与した二十カ国、総額約三百十六億円のうち十九カ国が使途報告書を提出しておらず、少なくとも総額約三百十二億円が使途不明になっているということでございますが、この点の事実関係からお伺いします。

別所政府参考人 お答え申し上げます。

 債務救済無償でございますけれども、これは、我が国のある意味で独特な債務救済の方式ということで、二〇〇二年まで行われていたものでございます。すなわち、過去に我が国が円借款を供与したものの、返済が困難となった場合に、当該国により我が国に対する債務を一たん返済させた上で、それと基本的に同額を無償資金協力として供与する、そういう独特な方式でございました。二〇〇三年以降は、国際社会一般の方式である債権放棄に変えております。

 問題の記事でございますが、御指摘のものにつきまして、債務救済無償資金協力の供与に当たりましては、交換公文におきまして、非援助国に対して無償資金協力を使用した後、我が国政府より要求された場合に使途報告書を提出することを義務づけております。

 二〇〇二年度に供与した二十カ国については、報道のとおり、使途報告書が提出されていないのは事実でございまして、これまでも使途報告書の提出を求めておりますけれども、今後一層、強く提出を働きかけてまいりたいと思っております。

丸谷委員 今御説明していただいた債務救済無償資金協力につきましては、これは行っているのは二〇〇二年度だけではないですよね。一九七八年から二〇〇二年度、そして、二〇〇二年度をもって終了しているものと承知をしておりますけれども、この使途不明だったいわゆる領収書が、単純に日本的に言うと領収書ということが提出をされていないものは二〇〇二年度に特化したものなんでしょうか。今まで、一九七八年から二〇〇二年度、約三十カ国、四千六百七十六億円ですか、供与されているものと思いますけれども、これは二〇〇二年度に特化した事例だったという理解ですか。

別所政府参考人 お答え申し上げます。

 先ほど申しましたように、二〇〇二年が一番最後というか、一番最近の年でございますので、使途報告書の提出が最もおくれております。

 それ以前のものについては、かなり使途報告書を提出してきておりますけれども、まだ提出していない国もございます。

丸谷委員 急な質問で大変申しわけないなと思いながらお聞きしているわけでございますけれども、では、一九七八年から二〇〇二年度に関して、二〇〇二年度はかなりの割合で使途が不明であると。その以前はどのぐらいの割合で不明なんですか。

別所政府参考人 お答え申し上げます。

 ちょっと必ずしも金額的にはあれなのでございますが、二〇〇一年度でございますと、例えば四カ国が返事が来ておりまして、二〇〇〇年になりますと、十三カ国から答えが返ってきておりまして、二カ国がまだというような状況でございます。二〇〇一年につきましては、過半がまだ返事が来ておりません。二〇〇二年につきましては、返事が今のところまだないという状況でございます。それ以前につきましては、ほとんどの部分が使途報告書の報告はございます。

丸谷委員 全体的な分母と額、あるいは使途、こういうふうに使いましたという報告の割合が、分母と分子がちょっと今御答弁ではわからなかった部分もございますが、実際に、この二〇〇二年度、このような形でまだ最近のものであるから使途が不明であるという背景もあるのかもしれないんですけれども、基本的にこれが向こうから何の報告もないという、この問題点の背景はどのように分析をされていらっしゃいますか。

別所政府参考人 正直に申しまして、今の時点で確たる分析ができているというわけではございません。先ほど申しましたように、かなりおくれて出てきているという実態もございますので、行政能力の部分もあるかもしれません。ただ、引き続き、私どもとしては督促いたしまして、報告をいただくようにしてまいりたいと思っております。

丸谷委員 やはり分析をしなければいけないなと思うんですね。二〇〇二年度に限った話でもないということも先ほどもございましたので、こういう問題点が出てくるのであれば、何が問題点で何を解決しなければいけないのかというところを一歩一歩進めていかなければ、こういった記事が出ることによって、納税者のODAに対する目というのは非常に厳しくなってしまうと思います。

 この記事自体も、ただずさん報告というだけで切り捨ててはいけない案件だと思います。なぜならば、会計検査院というのは領収書とか、これには何が使われましたというお金の計算が一番、第一義的にも重要になってくるわけですけれども、ODAというのは、やはり政策評価とか、そういったところで評価、領収書だけでははかり知れない部分というのがありますから、この会計検査院の結果をもってして、ODAが何に使われているのかわからない、外務省がずさんだということで切り捨てることは私はいかがかと思うんですけれども、納税者に理解をしていただかなければ、これだけODAが厳しくなっている中で、どういう形で説得をして理解をしていただくかということが全く無策に思えてしまう傾向もございますので、やはり分析をし、問題点が何なのか、それを解決していくための外務省としての取り組み、また、ODA戦略本部ですか、できましたので、そういった角度でぜひやっていただきたいと思います。

 マラウイについては、今まで一度も報告書が出されていないということでございましたけれども、例えば在外公館等の問題もあるかもしれません、外務省の公金に対する意識の低さもあるのかもしれませんけれども、これはいかがなんでしょうか。在外公館等を通じて確認等はなされていたんでしょうか。

別所政府参考人 マラウイでございますが、記事はその部分については若干不正確でございまして、マラウイにつきましても、一九九七年の分までは報告は来ております。非常におくれているということでございます。過去五年分出てきておりません。

 もちろん、私どもといたしましては、大使館はないわけではございますが、兼轄しておりますザンビアの大使館がございますので、報告書の提出を引き続き働きかけてまいりたいと思っております。

丸谷委員 このけさの報道に触れて思うことは、一点目は、納税者である日本国民の税金というものを使って行うODAに対して、外務省として公金の使い方の意識というのをしっかり持っていただくということとともに、ODA、あるいは日本の会計システムとか、相手国の会計システムが当然違っていることが多いわけですから、そういったルールの違う国に対して、どのようなルール決めをして我が国が見えやすいお金の使い方をしていただくのか、日本国民に説明しやすいお金の使い方をしていただくのかという観点で、やはりこういった国民の批判を容易に受けてしまうような報道が出ない情報発信というものもぜひ今後外務省として考えていただきたいと思いますので、急な質問で恐縮でございましたけれども、この点については終わらせていただきます。

 次に、本題のハーグ条約について質問をさせていただく次第でございます。

 先ほど笠議員の方からも、本当にかなり詳しい質問がなされましたので、重ならないようにというふうに思うわけでございますが、一九五四年にハーグ条約第一議定書というものが作成をされまして、我が国も同年に署名を行っております。実際に締結するまでに約半世紀以上もかかってしまったわけなんですが、この理由、昭和四十四年七月の参議院運輸委員会におきましては、仮に法隆寺周辺ということを考えた場合、法隆寺を国際登録すると、その登録された地域については、もちろん戦争のときには攻撃をしないということは保証されるわけだけれども、同時にその地域について、停車場もつくらないとか、放送局も設けないといった条件がたくさん出てくるということで、国内措置を考えた場合まだまだ問題が残っているといったような答弁をなされていたようでございます。

 国内のインフラの面ですとかその地域の発展ということも考え合わせた、あるいはいろいろな国内法の制定ということもあったと思いますけれども、半世紀かかった理由について御説明していただくとともに、今回これを締結できたということは、それらの問題点というのは解決されたと見てよろしいんでしょうか。

岩屋副大臣 ハーグ条約に入ります前に、先ほどの先生の御指摘ですが、ODA、適切に執行していかなければならない、国民の厳しい目にこたえていかなくちゃならないというのはおっしゃるとおりでございまして、外務省として努力をしていきたいと思いますが、先ほどの件は、本当はまけてあげるというか免除してあげるだけでいいんだけれども、一回返してね、返したものは全額あなたに上げるから、きちんと使って、そのかわり報告書を出してねということで、我が方が直接執行をしているというあれじゃないものですから、正直言うときちんと早く報告を出してもらいたいということでございまして、これからも督促をきちんとしていきたいと思っています。

 それから、ハーグ条約のことでございますが、これもなぜこんなに時間がかかったのかということについては累次にわたって答弁しておりますし、先生ももう聞いていただいておりますので、簡単に申し上げたいと思いますけれども、やはり有事法制のある意味で一環をなすというか、関連をする法律でございましたので、それを検討し得るような状況がしばらくなかったということが一点。

 それから、今先生も御指摘になりました、これまでの特別の保護ということだけでは、文化財が軍事目標から十分な距離をとっていなきゃならないということでしたけれども、その条件が不明確だったものですから、今先生御指摘があった奈良とか京都とかいうのを我々としては念頭にもちろん置かなきゃいけないわけですが、では果たしてその十分な距離とは何なのかということについて、明確じゃありませんでした。しかし、それが今回、第二議定書によって強化された保護というものが設けられまして、その条件の中の距離の概念を含まない新しい強化された保護というものが設定されたものですから、これであれば我が方として国内法をつくってきちんと締結することができると判断するに至ったということでございます。

丸谷委員 有事法制の整備が二〇〇四年で、ジュネーブ条約も二〇〇四年ですか、我が国の締結ということになりますので、まずその際にもこのハーグ条約の締結といったような声もありましたが、国内法の整備等々いろいろな調整があったものと思います。ともかくこのハーグ条約締結に関しては賛成でございます。

 続いて、ハーグ条約の第三条でございますけれども、「締約国は、適当と認める措置をとることにより、自国の領域内に所在する文化財を武力紛争による予見可能な影響から保全することにつき、平時において準備することを約束する。」という規定がございます。

 現在の文化財の保護に当たりましては、文化庁の予算で、国宝、重要文化財、これは建物ですとか美術工芸品等ですが、火災、盗難の被害から防ぐための防災施設の充実あるいは整備に対して補助が行われております。これは文化財の保護に関しては十分かもしれませんけれども、武力紛争の影響から守るということでこれは十分になってくるのかどうか、この点については文化庁の方からお答えいただきたいと思います。

土屋政府参考人 お答えいたします。

 ただいま先生御指摘の「武力紛争による予見可能な影響から保全する」ということで、平時から準備をするということが条約上規定されてございまして、これにつきましては、先ほど先生御指摘のとおり、文化財保護法等によって現在適切にその保全、保護、それから後世代への継承ということでやってございます。

 先生今御指摘の、特に武力紛争時にいかなる措置を講じるかということについてでございますが、先ほど申し上げましたが、強化保護についての具体的な基準等について現在検討中ということもございますので、その状況も見まして今後私ども検討してまいりたいというふうに考えております。

丸谷委員 実際に先進国の文化庁予算というのは、日本は先進国に比べて非常に少ないという中で、またいろいろな予算の配分等の問題点も残っております。ただ、こういったハーグ条約を締結する、また紛争の影響から守るためのそういった予算というものも今後考えていかなければいけない側面もありますので、それについて今後早目早目にまた国会の方にも教えていただけるようにぜひお願いしたいと思います。

 恐らく九九年の議論の中であったんだと思うんですけれども、自然遺産というのはどうなんだろうということを、大自然を誇ります我が国から議論の提起がなされたと思います。実際に今回この保護の対象となりますのは、各人民にとってその文化遺産として極めて重要である動産、不動産ということになってくるわけでございますが、やはり日本を見ても、北海道の知床も世界遺産に登録をさせていただいた次第でございますけれども、自然遺産というものも紛争時の攻撃対象から守っていく、影響を免れるようにしていくというのが、今これだけ環境が叫ばれている時代にあってしかるべきではないかというふうに思いますが、こういった議論というのはどのようになっているでしょうか。

岩屋副大臣 先ほど笠先生とのやりとりの中でも同じような御指摘がございましたけれども、今、保護される文化財の中に自然遺産は入っていないということでございます。

 私ども、先生が御指摘いただいたように、それを入れるべきではないかと主張した経緯が過去あるわけでございますが、現時点で直ちに自然遺産を中に入れろという見直しを提言することが適切かどうかわかりませんが、大臣からも答弁がありましたとおり、今日の状況からかんがみれば、そういうことも議論をしていってしかるべきだというふうに思っております。先生の北海道にもすばらしい自然遺産がございますので、しっかり御指摘を念頭に置いて努力していきたいと思っております。

丸谷委員 ありがとうございます。

 次に、条約に基づく国内法の処罰対象についてお伺いをさせていただきます。

 これは、武力紛争時に正当な理由なく戦闘行為として条約上の一般保護文化財を破壊した者は五年以下の懲役、特別な保護ですとか第二議定書で強化された保護を与えられている文化財を損壊した者は七年以下の懲役に処すという規定がございます。

 これは、実際に戦闘行為というものをどういった定義というか対象とするのかということが一つと、一般論としてなかなか、ちょっとマニアックな考え方になってしまうのかもしれないんですが、我が国有事の場合を考えますと、戦闘しているのは自衛隊プラス米軍ということが考えられるわけですよね。米国は条約、議定書ともに批准をしていないわけでございまして、その場合、我が国の有事で武力紛争に対して防衛を行っている際の米国軍人にもこの国内法というのは適用されるようになるんでしょうか。この点、教えてください。

岩屋副大臣 先生御指摘のように、この条約上の義務ですが、締約国は、武力紛争の際に文化財を破壊または損傷の危険にさらすおそれがある目的のために利用すること、あるいは文化財に対する敵対行為、攻撃だというふうに言いかえていいと思いますが、文化財に対する敵対行為を差し控える義務を負っている。これに加えて、締約国は、文化財の盗取、略奪、横領、損壊を禁止し、防止し、さらに必要な場合には停止させる義務を負っているということでございます。

 ハーグ条約は、基本的に締約国間における武力紛争において適用される。そして、第二議定書におきましても、締約国でない国の軍隊の構成員及び国民は、当該議定書に基づき個人の刑事上の責任を負うことはない旨が規定をされております。

 したがいまして、この国内担保法であります武力紛争の際の文化財に関する法律におきましては、これらを受けまして、同法第七条及び第八条に規定する罰則につきましては、締約国でない軍隊の構成員には適用されないということになります。

丸谷委員 では、最後に質問させていただきますけれども、武力紛争で被害を受けた文化財の修復支援というものも我が国は力を入れているというふうに私は思います。

 例えば、カンボジアの国旗にはアンコールワットの遺跡というのが描かれているわけでございますし、カンボジアの誇る文化遺産でございます。しかしながら、二十世紀の初めにはフランス人の手によって研究、修復作業というのが開始されましたが、第一次、第二次世界大戦あるいはインドシナ戦争で中断を余儀なくされたということに加えて、七四年以降はカンボジア内戦のクメールルージュによって破壊されるなど、非常に文化的に貴重なものであるけれども、苦難の歴史を背負ってきた文化財でもございます。一九九二年には世界遺産に登録されるに至っておりますけれども、この文化財の復興に当たって、日本としても、JSA、日本国政府アンコール遺跡救済チームによる保存修復事業を支援するなど、非常に重要な役割を果たしてきたと思います。

 こういった文化財というのは、先ほども議論があったようでございますけれども、やはり建物とか人とか生活インフラの次の次に来てしまうという側面でありながら非常に重要であるということを考えたときに、今後も我が国として、こういった文化財の保護あるいは武力紛争後の復旧支援というのをさらに強化していただきたいと思いますが、この点、最後にお伺いして、終わります。

岩屋副大臣 丸谷先生御指摘いただきましたように、我が国は、文化財保護の豊富な経験と技術を生かして、これまでも国際貢献を行ってまいりました。

 今、先生からお話があったJSA、日本国政府アンコール遺跡救済チームによるアンコール遺跡の保存修復、それから、タリバンがぶっ壊したバーミヤン遺跡の保存修復事業は代表的な例でございます。また、昨年は、六月に議員立法で文化遺産国際協力推進法を成立させていただいておりますので、今後とも、官民学の関係諸機関でしっかりと連携をして、文化遺産国際協力をしっかりと進めてまいりたいというふうに考えております。

丸谷委員 ありがとうございました。以上で終わります。

山口委員長 午前十一時三十分から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時一分休憩

     ――――◇―――――

    午前十一時四十三分開議

山口委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 今回かかっておりますハーグ条約については、第二次世界大戦で大量の文化財が破壊の被害に遭ったことを受けて、武力紛争の際の文化財保護のための包括的な国際約束として作成されたもので、世界遺産条約と並んで国際的な文化財保護というための主要条約とみなされております。この条約を締結することは、日本が国際社会における文化財保護のための取り組みで積極的な役割を果たす上で、私も重要なものだと考えております。

 先ほど来、質疑がありましたけれども、日本が、一九五四年九月に署名を行ったのに、半世紀以上にわたって国会提出に至らなかった。いろいろ御説明がありましたが、私も伺いながら、やはり余りに遅過ぎたという批判は免れないなというふうに思っております。

 その上で、まず伺いたい問題ですが、この続いての第二議定書という問題で、これは、ハーグ条約を補足して、実効性を高めるために、同条約に定められた特別保護制度を強化された保護というように抜本的に改めている。これは大臣、今到着されたばかりなので、大臣じゃなくて結構ですが、日本にとって、この第二議定書によって条約の実効性というのがどのように高まったというふうに考えておられるのか、お答えをいただきたいと思います。

山本政府参考人 お答えいたします。

 幾つかの点で実効性が高まったと思っておりますが、例えば、一つは、今まさしく先生の御指摘がありました、特に重要な文化財に対してより高い保護を与える制度の改善です。条約におきましては、特別の保護という制度が定められていましたけれども、この特別の保護の制度は、この制度の保護を受けるためには、既に御指摘のように、文化財が軍事目標から十分な距離を置いて所在するというような条件を満たす必要がありまして、それでいながら、十分な距離が具体的にどの程度かということも明確ではありませんでした。したがいまして、第二議定書におきましては、この十分な距離という概念を、制度の適用をすることをやめまして、新たに強化された保護という制度を設けて、文化財に高い保護を定めるための要件をより明確にしてございます。

 それから第二点目に、条約本体は、締約国として、文化財を武力紛争による予見可能な影響から保全するための措置をとることや、文化財に対する敵対行為を差し控えることにより文化財を尊重するという規定があるんですけれども、どういうことをしたらいいか、ここで具体的な措置がよくわからなかったんです。第二議定書では、これらについて、より具体的な内容を書いてございます。例えば平時においてとるべき措置として、目録の作成ですとか、火災や崩壊から守るための緊急措置について準備するとか、そういうことをやってはどうだというようなことを書いて、条約の実効性が上がるように配慮されております。

 さらに三点目といたしまして、条約本体では、違反があった場合には、自国の通常の刑事管轄権の枠内で措置をとるということだけしか書いてなかったんですけれども、第二議定書におきましては、個人による条約などの違反があった場合には、一定の行為を犯罪化して、そしてまた裁判権を設定するという義務も定めております。

 とりあえず、以上でございます。

笠井委員 そこで、文化庁に伺いたいと思いますが、この条約を履行するために国内法が先日成立いたしました。これまで政府は、我が国では重要文化財等が集中する代表的な地区として、京都、奈良の文化財があるとしながら、条約第八条の特別な保護制度の適用条件を満たすのは困難だというようなことも言われてきました。

 しかし、今もありましたが、第二議定書による制度の改善で、文化財と軍事目標間の十分な距離の概念が制度適用の要件から除外されるという措置が図られている。このことから見ますと、日本でも、京都や奈良の文化財だけじゃなくて、例えば、原爆ドームなどの世界遺産に登録されている文化財の多くに保護が適用できる可能性があるというふうに思うんですけれども、そういうふうなことで考えてよろしいんでしょうか。

土屋政府参考人 お答えいたします。

 先生御指摘の第二議定書におきます強化保護文化財についての要件でございますが、例えば、当該文化財が、人類にとりまして最も重要な文化遺産であることとか、あるいはその文化財が、文化上及び歴史上の特別の価値を認め、並びに最も高い水準の保護を確保する適当な立法上及び行政上の国内措置により、当該文化財が保護されているといったようなことが要件になってございます。

 御指摘の京都、奈良の文化財につきましては、その中でも、古都奈良の文化財でございますとか、あるいは古都京都の文化財といったことで世界遺産の登録をしておるわけですが、こういうものにつきましても、先ほど申し上げましたような基準、あるいは現在検討中のガイドライン等に照らして該当する場合は、強化保護を付与する対象になるわけでございます。

 私どもとしては、我が国の世界文化遺産に登録されている文化財は、その候補として十分になり得るというふうに考えてございますが、今後具体的に、先ほど申し上げました、現在検討中の詳細な手続でありますとか基準が作成されてまいりますので、それらを踏まえて具体的な検討を進めてまいりたいというふうに考えてございます。

笠井委員 このハーグ条約の締約国は百十六カ国で、第一議定書が九十三カ国、第二議定書が四十四カ国となっております。例えば、OECD加盟の三十カ国中では、三条約を締結していない国が、アメリカ、イギリス、韓国など六カ国というふうにカウントできると思うんですが、世界が共通して文化財の保護で協力し合うためには、締約国がさらにふえて、すべての国が締結していくことが必要であって、そのことがより実効性を高めるものになるということは言うまでもないと思います。

 そこで、大臣に伺いますが、日本が文化財保護のために積極的な役割を果たそうとするならば、今回を機に、各国に条約の締結を呼びかけるとともに、文化財保護に取り組むユネスコへの支援を強化するなど、国際社会におけるイニシアチブを発揮するというのがいよいよできるし、やらなきゃいけないときだと思うんですけれども、具体的にどのような行動をとっていくと考えていらっしゃるか、御答弁をお願いします。

麻生国務大臣 今御指摘のありましたように、条約締結国が百十六カ国に対して、第一議定書の九十三カ国、第二議定書は四十四というのが今現状であります。

 したがって、具体的に、第二議定書の方が現実問題としていろいろやりやすくなったということはもうはっきりいたしておりますので、日本としては、この締結をもちまして、我々としていろいろ働きかけていくということはしやすくなると思っております。御指摘のとおりだと思いますので、今、アメリカ、イギリス等々、いろいろまだ未締結のところがございますので、この問題に関しては、戦争等々多くの予測せざるものによって条約違反ということは起こり得るというのを未然に防いでおくというのは大事なところだと思いますので、私どもとしては、この点に関しましては、日本も入ったのでという前提が立ちますので、今後、他の国に積極的に働きかけを行ってまいりたいと思っております。

笠井委員 まさに今答弁で言われた中で、今日、世界的に見て武力紛争に大きくかかわりを持つ大国といえば、締結していないアメリカ、イギリスというのがまず挙がってくるわけです。特に最近でいえば、イラク戦争で世界四大文明の一つであるメソポタミア文明であるイラクの貴重な文化財が破壊をされる、そして世界に大きな衝撃を与えたことは記憶に新しいところであります。

 そこで伺いたいんですが、イラクで破壊、略奪された文化財は一体どのような規模だったのか、そして、これまでにどの程度返還されてきたのか。政府が承知している範囲というか、掌握している範囲でどういうものかということで、事務方で結構ですが、伺いたいと思います。

山本政府参考人 お答えいたします。

 先生御指摘のように、残念なことに、イラクでは、バグダッドの国立博物館などで数多くの貴重な文化財が破壊、盗難、略奪などの被害を受けたというふうに承知しております。

 政府としてその具体的な数を把握するには残念ながら至っておりませんが、国立博物館からメソポタミア文明の貴重な文化財約一万五千点が略奪されたという報道がございますが、これは、二〇〇四年四月に日本を訪れましたイラク国立博物館長のドニー・ジョージさんという方がこのように述べたというふうに承知しております。

笠井委員 大臣、アメリカといえば戦争を起こした一番の当事国でありまして、もちろん、大義のない戦争を起こさなければ、またそれを支持したりしないでとめていれば、文化財も破壊されなかったという大問題もあって、その点での責任は重大だと私は思っているんです。

 同時に、問題は、今の問題とのかかわりでいいますと、そういう中で、今答弁にありましたイラクの国立博物館長も来日した折に証言もしておりますが、現地で米軍が文化財保護措置をとらなかったということで、イラクの中でも、そしてアメリカでも、国際的にも激しい怒りと批判が起こっているという現実が一方であるわけです。こういうことについて大臣がどう思われるかというのが一つ。

 もう一つ、いずれにしても、この条約は武力紛争が起きた当事国の両者が締結していなければ効力を発揮しないわけで、アメリカなどがこの条約を締結することは、まさに世界の文化財を保護していく立場からも極めて重要だ。そして、現実にそういう問題がやはりあったということでいえば、そういうことも踏まえて、今後、締結を働きかける、アメリカにもやるというふうにおっしゃるわけですが、そしてしっかりやるというわけですが、政府としては、どういう場面で、どういう形で、このイラクで起こった現実も踏まえて働きかけるのか。

 つまり、今回の米軍による、略奪ということを阻止できなかったというか、措置をとらなかったという問題についてどう考えていらっしゃるか。それから、そういうことも踏まえて、どういう場で、どういう形でアメリカに締結を働きかけるかという点で、大臣、いかがでしょうか。

岩屋副大臣 先生の御指摘のイラクの話でございますが、米軍が文化財を攻撃対象にしたということはなかったんじゃないかなと思います。

 それと、先ほど、一万五千点、メソポタミア文明の文化財がなくなったということですが、これは主に自国民による略奪だったというふうに承知をいたしております。

 いずれにしても、先生御指摘のとおり、大臣も累次にわたって答弁をいたしておりますように、米国に対してもしっかりと働きかけていく所存でございます。

笠井委員 攻撃対象というふうに私は言ったんじゃなくて、来日した向こうの博物館長自身が、現場で米軍が、要するに略奪を阻止するというか、逆に保護する措置をとらなかったというのがあったんだということも実際言われているという問題があって、それがまたアメリカ国内でも怒りになって、関係者がいろいろ提起されているという問題もあるわけですということを申し上げたわけで、いずれにしても、しっかり働きかけるということなので、それはやっていただく必要があると思います。

 もう一つの問題ですが、先ほど来、自然遺産の問題ということで、さらにその問題もやる必要があるというお話がありました。同時に、このハーグ条約というのは、文化財分野における人道的な精神に基づく条約と言えるわけですが、武力紛争時だけではなくて、自然災害の際にも同じような精神で文化財保護に取り組むように、今までの到達を踏まえて、さらにこれを拡大し発展させる必要もあるのではないかという問題提起があります。

 このことが国際的にも強く要望されていて、既に、国際博物館会議とか国際図書館連盟など文化財分野にかかわる国際NGOが連携をして、一九九六年にブルーシールド国際委員会、ICBSというのを設立するなど、そうした運動が強められているという国際的な状況があります。

 これまでも、例えば国際赤十字は、そもそも武力紛争時に敵味方の区別なく傷病者を救助するという活動から始まって、現在では、自然災害の場合も人命を救助する活動まで発展をしてきているわけですが、我が国として、文化財の保護についても、武力紛争時にとどまらず、自然災害のときにおける取り組みまでさらに発展させていく。今後の課題ですけれども、そういう意味でも貢献するということは意義があるというふうに考えるんですが、これはできましたら大臣に、今の時点でどういうふうにお考えですか、答弁をお願いします。

麻生国務大臣 今ブルーシールド委員会の話が出ましたけれども、これはそもそも、文化遺産を戦争とか自然災害とかいうものの脅威から保護するということを目的に、たしかNGO四つでしたか、設立されたというのが経緯なんだと思います。

 事前にこういったようなものを予防するという面から、これは人命もだけれども、文化財の保護もやってもらわないと、復旧とか修復不能というものもいっぱいあります、バーミヤン遺跡とかいろいろよく例が出ますとおり。そういった意味で、こういったさまざまなものに取り組むという姿勢がすごく大事なんだと思うんですね。何となく、文化が違う、文明が違うと価値観も違いますので、それはそんなに大事なものかというような話、意識がないととてもそういったものを保護しようという気にもならぬというようなことになると、これはどうしてもいけません。

 そういった意味では、文化遺産の国際協力推進法というのが昨年六月でしたか、つくられております。こういったものをてこに、国際協力とかこういったようなものは文化が、特に日本の場合はここだけ一カ国独立した文化圏、文明圏というものを持っておりますので、なかなか理解されがたいところもあろうと思いますので、これはこちらのためにもなろうことだと存じます。我々としては、この面に関しましては積極的にこの種の話を広めていくという努力を、今回これを通していただきますといろいろ言いやすくなるというように考えてもおります。

笠井委員 終わります。

山口委員長 次に、照屋寛徳君。

照屋委員 社会民主党の照屋寛徳です。

 議題となりました条約及び二つの議定書の締結承認については、賛成の立場であります。

 文化財は、我が国の長い歴史の中で生まれ、はぐくまれ、今日に守り伝えられた貴重な国民的財産であります。一方、武力紛争による文化財の破壊、強奪や不正流出を防ぐことは、国際社会が平時から取り組まなければならない重要課題だと考えます。

 条約及び議定書との関係で質問します。

 最初に文化庁に尋ねます。

 第二次世界大戦の前の沖縄県には、当時の国宝保存法によって指定された重要文化財、国宝などは何件あったか、文化財指定の種別、区分ごとに具体的に明らかにしてもらいたい。

土屋政府参考人 お答え申し上げます。

 第二次世界大戦前に国宝保存法で指定されてございました沖縄の文化財につきましては、まず建造物については、首里城守礼門あるいは沖縄神社拝殿など十一件でございます。また、美術工芸品につきましては銅鐘の一件がございました。

照屋委員 沖縄戦において、米兵などによって戦利品として持ち去られた文化財に関する調査は行っておるんでしょうか。また、調査結果がまとまっておればお答え願いたい。

土屋政府参考人 お答え申し上げます。

 先ほど申し上げました国宝保存法で指定されました文化財のうち、いわゆる動かせるものについては、現在もきちっと保管されてございます。それ以外の、国により指定がなされていない文化財についてでございますが、その実態は私どもとして把握してございませんで、それが現在どうなっているかというのは、私ども、国が関与してございませんので、把握することは極めて困難であるというふうに考えております。

照屋委員 あの悲惨な沖縄戦、我が国で唯一の地上戦が展開された沖縄戦では二十万余のとうとい人命が失われましたが、同時に、当時の国宝保存法による大変貴重な国宝級の文化財も失われたんですね。それが戦争の悲惨さだと私は思っております。

 ところで、文化財保護法を初めとする関連法は在日米軍基地内にも適用が及ぶか、外務省に尋ねます。

梅本政府参考人 米軍の施設・区域がございますところも、これは我が国の領域でございます。そういう意味で、これは属地的に、文化財保護法等の関連法令を含めまして我が国の国内法令は適用されるということでございます。

 他方、一般国際法上、駐留を認められました外国の軍隊につきましては、特別の取り決めがない限り、接受国の法令は適用されないということでございます。

 したがって、ただいまの文化財保護関連法令につきましても在日米軍に対しては適用されませんけれども、一般国際法上、米軍は文化財保護法等の我が国の国内法令を尊重する義務を負っている、こういうことでございます。

照屋委員 沖縄市と北中城村は、SACOで返還が合意されたキャンプ瑞慶覧のライカム地区、ロウワープラザ地区における埋蔵文化財調査のための基地立ち入りを海兵隊によって拒否されております。立ち入り要求の経緯と海兵隊の拒否理由をどのように政府は把握しているんでしょうか。

麻生国務大臣 御指摘の、平成八年になりますが、八月の十二日、日米合同委員会の合意におきまして、いわゆる米軍の施設・区域への立ち入り許可申請のための経路及び手続について定められております。御存じのとおりです。例えば、施設・区域が所在いたします都道府県内にあります地方公共団体の職員につきまして、立ち入りを希望する施設・区域の責任者に直接申請することになっております。

 御指摘のキャンプ瑞慶覧の埋蔵文化財調査のための立ち入り申請につきましては、現に米軍住宅で生活をしております居住者に影響を及ぼす、住んでおります居住者に影響を及ぼすということなどから現時点ではこれを認めることは困難であるとして、許可を行っていないものというように承知をいたしております。

 外務省としましては、地元からの協力要請というものを受けましてアメリカ側に要請をしてきたところですが、引き続きできる限りの協力を行っていくところであります。

 先ほど平成八年と申し上げたのは、八年の十二月であります。

照屋委員 今大臣がおっしゃったのは基地立ち入り手続に関する日米合同委員会合意の問題でありますが、沖縄市や北中城村は、立ち入り希望の半年前に文書で、埋蔵文化財の調査をしたい範囲も丁寧に地図を添えて申請しております。

 しかも、これは文化庁から平成十七年度国宝重要文化財等整備補助金を正式に受けて調査をしようとした。今言う、平成八年十二月の日米合同委員会合意との関係で、このように政府の予算を正式にもらって調査をしたいというのに拒否している海兵隊の態度について、大臣はどう思いますか。

麻生国務大臣 今御指摘のあった点は、施設・区域の立ち入りにつきましては、アメリカ側は、地域社会と友好関係を維持する必要性を認識し、立ち入りが軍の運用や施設・区域の運営等を妨げることなく行われる限りにおいては、立ち入り申請に対してすべて妥当な考慮を払うこととされております。

 アメリカ側は、キャンプ瑞慶覧の住宅区域内で行われております埋蔵文化財調査のための立ち入り申請については、先ほど申し上げましたとおりに、現にアメリカ軍の住宅で生活をしております居住者に影響を及ぼすということなどから、現時点ではこれを認めることは困難ということで許可を行っていないものと承知をいたしております。

照屋委員 北原長官もおいでですが、先ほど外務大臣からお答えがありましたように、海兵隊は、埋蔵文化財の調査ですよ、しかも、正式に国の予算がついている、それに対して立ち入りを拒否して、その拒否の理由が、居住者の生活環境や静ひつ、安全を維持する必要がある、こう言っている。埋蔵文化財の調査で居住者の静ひつ、安全が侵されるとは、私は常識的に到底考えられない。むしろ、軍事基地によって、住民の安全や静ひつ、爆音などによる爆音被害で住民の静ひつが脅かされておるんです。

 施設庁長官、この立入調査問題、施設庁としてはどう受けとめて、海兵隊に認めるように強く働きかけるべきではありませんか。

北原政府参考人 照屋寛徳先生に御答弁を申し上げます。

 本件につきましては、先ほど来麻生外務大臣が御答弁を申し上げているところでございます。

 それで、先生からも御指摘ありましたが、この件については経緯がございます。そして、昨年も先生、この点等については御指摘もいただいているかと思っております。自来、昨年の三月、先生からも御指摘をいただいておりますが、その前からもそうでございますが、以降につきましても、私ども防衛施設庁、施設局は、現地の外務省の沖縄事務所と連携をいたしまして、今御指摘をいただきました沖縄市等が行う事前の調査といいますか、そういったものについて何とか御理解をいただくべく、累次にわたって米側に要請を行っているところでございますが、これまでのところ、先ほど外務大臣が御答弁された理由によりまして、まだ御理解をいただいていないところでございます。

 なお、我々といたしましては、これからも地元の御要望にこたえられるよう努力をしてまいりたいと思っております。

 ただ、一点、御承知のように、この住宅等の性格上、今現在、現実に居住していらっしゃる住宅の地域の、どの地域からどこへ移設するのかといったこと等を含めまして米側と慎重に協議をしながら進めているところでございますが、そうした中で、この問題については、現に今米軍住宅で生活しておられる居住者の方に影響を及ぼすといった理由等で、まだ理解を得るに至っていないところでございます。

照屋委員 最後に、麻生大臣、私は、きょう議題になっている条約や議定書、大賛成であります。我が国がそういう条約を締結することは大事なことだと思います。しかし一方で、米軍基地内の埋蔵文化財の調査すらできないというのは、文化財関連法が米軍基地内にも及ぶにもかかわらずそういう調査ができないというのは、私は到底納得し得ない。ひとつ……

山口委員長 予定の時間が過ぎております。簡潔にお願いします。

照屋委員 はい。大臣の強い決意を伺いたいということと、文化庁に聞きたいのは、国宝重要文化財等整備補助金は、結局どうなるんですか。もうなしになるのですか。

山口委員長 土屋文化財部長、簡潔にお願いします。

土屋政府参考人 お答えを申し上げます。

 先生から御質問ございました補助金の件でございますが、十七年度より、補助金を確かに交付してございますが、先ほど大臣から御答弁ございましたような、現在住んでおられる方々の生活環境への影響、理由等によりまして、実際には調査が行われておりません。補助金につきましては、減額する、あるいは内容変更することにより対処してございます。

 それから、先ほど来の文化財の調査の件でございますが、私どもとしては、そういう調査のことは、実施はもちろん重要だと思うんですが、他方、その土地を利用されている方々の理解と協力も必要という立場でございます。よろしくお願いいたします。

麻生国務大臣 先ほど御答弁申し上げましたように、引き続き理解を得るべく努力を続けてまいりたいと存じます。

照屋委員 終わります。

山口委員長 これにて各件に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

山口委員長 これより各件に対する討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 まず、武力紛争の際の文化財の保護に関する条約の締結について承認を求めるの件について採決いたします。

 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

山口委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。

 次に、武力紛争の際の文化財の保護に関する議定書の締結について承認を求めるの件について採決いたします。

 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

山口委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。

 次に、千九百九十九年三月二十六日にハーグで作成された武力紛争の際の文化財の保護に関する千九百五十四年のハーグ条約の第二議定書の締結について承認を求めるの件について採決いたします。

 本件は承認すべきものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

山口委員長 起立総員。よって、本件は承認すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました各件に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

山口委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

    ―――――――――――――

山口委員長 次回は、来る五月九日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時二十分散会


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