衆議院

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第9号 平成21年4月14日(火曜日)

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平成二十一年四月十四日(火曜日)

    午前九時三十分開議

 出席委員

   委員長 遠藤 利明君

   理事 今村 雅弘君 理事 木村 太郎君

   理事 七条  明君 理事 宮腰 光寛君

   理事 宮下 一郎君 理事 笹木 竜三君

   理事 筒井 信隆君 理事 西  博義君

      安次富 修君    赤澤 亮正君

      飯島 夕雁君    岩永 峯一君

      江藤  拓君    小里 泰弘君

      小野 次郎君    近江屋信広君

      河井 克行君    木原  稔君

      斉藤斗志二君    谷川 弥一君

      徳田  毅君    中川 泰宏君

      永岡 桂子君    丹羽 秀樹君

      西川 公也君    松本 洋平君

      茂木 敏充君    森山  裕君

      安井潤一郎君    石川 知裕君

      大串 博志君    小平 忠正君

      佐々木隆博君    神風 英男君

      高井 美穂君    松木 謙公君

      横山 北斗君    井上 義久君

      菅野 哲雄君

    …………………………………

   農林水産大臣政務官    江藤  拓君

   参考人

   (中央大学大学院法務研究科教授)

   (東京大学名誉教授)   原田 純孝君

   参考人

   (株式会社小田島建設代表取締役)         小田島修平君

   参考人

   (全国農業会議所専務理事)            松本 広太君

   農林水産委員会専門員   板垣 芳男君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十四日

 辞任         補欠選任

  井上 信治君     松本 洋平君

  伊藤 忠彦君     安井潤一郎君

  仲野 博子君     松木 謙公君

同日

 辞任         補欠選任

  松本 洋平君     井上 信治君

  安井潤一郎君     伊藤 忠彦君

  松木 謙公君     仲野 博子君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 農地法等の一部を改正する法律案(内閣提出第三二号)


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     ――――◇―――――

遠藤委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、農地法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案審査のため、参考人として、中央大学大学院法務研究科教授・東京大学名誉教授原田純孝君、株式会社小田島建設代表取締役小田島修平君及び全国農業会議所専務理事松本広太君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、原田参考人、小田島参考人、松本参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て発言していただくようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対して質疑をすることができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。

 それでは、初めに、原田参考人、お願いいたします。

原田参考人 御紹介にあずかりました原田でございます。

 私の専門は民法と民法を中心とした法社会学的な研究でありますけれども、その一環として、多年にわたり農地制度の研究に従事してまいりました。本日は、そのような者としての立場から、今回の農地法等改正法律案について意見を申し述べさせていただきます。

 今回の法案の最大の眼目は、貸借、主要には賃借権の設定に係る許可規制の大幅な緩和、自由化にあると私は理解しております。要するに、貸借によるのであれば、個人か法人かを問わず、だれでも、どこでも、自由に農業に参入ができるようにするということです。貸借での農業経営者については農作業への常時従事要件が外されますから、例えば、東京に本社のある食品会社、一般の株式会社等が、鹿児島県で地元の元農家から直接相対で農地を借り受け、派遣した従業員によりその食品会社の事業活動の一部として農業経営を行うことも、法律上では何の問題もなくなります。

 戦後、現在までの農地制度の根幹には、みずから農作業に従事する者のみが農地についての権利を取得できるとする、いわゆる農地耕作者主義の原則があったのですが、今後は、貸借での権利取得についてはこの原則が廃止されるわけです。

 他方、法案は、農地の所有権取得については現行どおりの許可規制を維持するとしています。そのゆえに、例えば自由民主党の農地政策検討スタディチームが作成した文書などでは、「農地の所有権を守ります。農地の所有権は、いままでどおり農業者だけのものです」と記されているのだと思います。

 しかし、一方で貸借による農業経営者については農作業への常時従事要件を不要としながら、他方で所有権による農業経営者に限っては農作業への常時従事要件を課すとすることを根拠づけるのは、至難のわざのように私には思われます。事実、法案は、その双方の規定を同じ法律の中に無理に位置づけようとしたために、多くの不透明さや疑問点、さらには制度的な論理の不整合と脆弱さを抱え込む結果となっているように思います。

 以下、私がそう考えざるを得ない理由の要点を五点ほどに絞って説明いたします。

 第一に、所有権に関する特別の法規制の存続は、もはや農地耕作者主義の原則で説明することはできません。借地による農業経営と所有地による農業経営とで、農業経営のあり方、すなわち農作業への従事要件を別々に取り扱う根拠は見出しがたいからです。

 そこで、賃借権と所有権とで規制内容を異にすべき理由を、立案の担当者は、賃借権であれば、賃借人が農地を適正に利用していない場合に、契約の解除、さらには許可の取り消しにより原状回復させる道があるのに対して、所有権の移転後にはその可能性が閉ざされるからだと説明しています。

 しかし、この理由づけには相当な無理があります。例えば、貸し手が解除、取り戻しを主張しないということは常にあり得ますし、その場合に、許可を取り消しても事実上の貸借関係は、現に膨大な事実上の貸借関係があるのと同じように、存続することになります。農地を適正に利用しない所有者が生じ得るのは既存の所有者についても同じであるのに、その蓋然性のみを理由として、みずから効率的に利用することを望む新規の所有権の取得希望者に対して特別の規制を課すということは、立法態度としてどこまでの妥当性を持ち得るのでしょうか。

 また、農地の農業的利用という観点から見る限り、借地による経営と所有権による経営とで農業政策上の取り扱いを異にする根拠は見出しがたいと思われますが、賃借権ならよいけれども所有権の取得はいつになっても許されないという借地農業者を一般的な形で農地制度上に位置づけるのは、もともと無理な話なのではないでしょうか。

 このような疑問点がすぐに出てまいります。そして、貸借と所有権とで規制内容を異にする根拠が薄弱であればあるほど、所有権の取得も同じ扱いにすべきであるという議論がほどなく登場するのは必至なのではないかと思われるのです。

 第二に、法案の第一条は、「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進し、」という現行規定の文言を削除し、それにかえて、「農地を効率的に利用する者による農地についての権利の取得を促進し、」という文言を置いています。

 ここに言う「農地についての権利」には当然に所有権も含まれますから、法文を素直に読みますと、「農地を効率的に利用する者」、例えば大規模経営を営む先ほどの食品会社などが、単に賃借権だけでなく所有権をも取得することが適切だというのが新しい第一条の法意であると理解されます。そして、その文脈の下では、所有権の取得に限って現行の厳格な許可規制を維持するとする規定は、その法意、原則に対する例外的な措置ということになるのです。いわば原則と例外が逆転するわけで、改正後におけるその規定の存在根拠は、この点でも大幅に脆弱化せざるを得ません。

 第三に、この問題は、小作地所有制限の廃止とあわせますと、一層よくわからなくなります。

 確かに、一方で農地の有効利用を図るため広く貸借を促進するとしながら、他方で小作地の所有制限を課すことは、政策態度としてそごする面を持ちます。しかし、そのそごの解消のため現存の農地所有者の地主たることの自由を認めれば、新しい地主の自由な参入も認めるべきだということになりはしないのでしょうか。

 事実、法案は既に、貸付地の底地の第三者への売却を許可に服させるという現行の規定を削除しています。もっとも、貸借目的での農地取得、つまり貸し付け目的での農地取得は、所有権の取得には特別の規制を課すという先ほどの規定によりまして今後も許されないことになりますが、しかし、その規定の存在根拠は、もはや小作地所有を制限するという考え方に立つものではありません。そうであるのに、地主になる自由を現在の農地所有者、つまりは元農家等に限ることの理由は一体どう説明されるのか、よくわかりません。

 また、例えば一般の株式会社たる借地経営者に長期の賃貸をした農家が何らかの事由でその土地を売りたいというとき、一体だれが買い手となるのでしょうか。いろいろな疑問点が出てきそうに思われます。

 第四に、これはやや違った観点からの問題ですが、法案では、現行の第一条にあった、耕作者の権利を保護し、耕作者の地位の安定を図るという目的もなくなっております。貸借による効率的利用を目指すのであれば、農地賃借人の経営の一定の法的保護と安定化の措置は不可欠なのではないかと思われるのですが、法案にはその方向での改正点は基本的には存在しておりません。

 逆に、標準小作料や、それに基づく減額勧告等の制度は廃止になります。あるいは、今後においては、経済的にも社会的にも強者である法人企業等が主要な借地人となるのだから、小地主層、つまりは元自作農等との関係での保護規定などは必要でなく、市場での自由な競争にゆだねればよいということなのかもしれません。

 第五に、法案は、新しい第一条の内容を補強するため、二条の二で農地の農業上の適正かつ効率的な利用の責務を定めています。耕作放棄地の増大が大きな問題となる中で、その責務を強調することの意義はよくわかります。ただし、同時に、その責務はいわば当然の社会的要請でありまして、土地所有一般に通有する基本問題の一環にほかならないということにも注意しておく必要があります。

 実際、都市の宅地については、つとに、有効、高度利用の必要が説かれ、有効、高度利用をなし得ない所有者や借地人等の、それをなし得る者への利用提供、供用義務論も登場していました。その意味で、この責務は農地制度の副次的な理念とはなり得ても、農地制度の固有の存在を基礎づける基本理念たり得るものではないと私は思います。また、農地の所有権取得に限って特別の法規制を課すことをこの責務によって根拠づけることもできません。

 なお、適正かつ有効な利用というこの責務との関連では、法案の第一条が農地を専ら農業生産の基盤としての資源とのみ位置づけたことも、農業が担う多面的機能や、農地が持つ地域資源、環境資源たる性格との関係で幾つかの問題点をもたらしそうに思いますが、これは省略いたします。

 さて、以上のように見てきますと、貸借による農業参入は大幅に自由化するが、所有権取得については特別の法規制を維持するという法案の基本的立脚点のところに大きな問題が伏在していることがわかります。確かに、現在の農地移動と規模拡大の実態を見ますと、特に土地利用型農業での今後の農業経営の発展は、主要には借地での農地流動化によらざるを得ないことは間違いないと思います。しかし、今回の法案のような形で貸借については耕作者主義の原則を単純に外すというやり方をいたしますと、所有権取得に限っての特別の法規制は、改正後の新しい農地法の中では、存在根拠の乏しい、そして例外的で、かつ宙に浮いた規定となってしまうのです。そして、やがて近い将来には消えていくべき宿命を背負わされているようにさえ見えます。

 しかし、所有権取得についてもまた農作業への常時従事義務が外されたとき、その後の農業と農業経営、農地保有と農村社会、そしてその基盤となる農地制度がどうなっていくのか、私には大きな不安感があります。と申しますのも、私は、これまでの農地制度は、いろいろな問題や限界を抱えつつも、我が国の農村部の地域と社会の安定的な発展を基礎づける上で極めて大きな役割を果たしてきたと考えているからであります。

 本委員会におかれましては、法案の内容を深く分析された上、慎重な上にも慎重な御審議を尽くされますよう強くお願いいたしたいと考えている次第でございます。

 以上で私の意見陳述を終わります。(拍手)

遠藤委員長 ありがとうございました。

 次に、小田島参考人、お願いいたします。

小田島参考人 御紹介いただきました株式会社小田島建設の小田島です。本日は、このような席にお招きいただきまして、まことに恐縮しております。

 それでは、当社が取り組んでおります農業について述べさせていただきます。

 当社は、新潟県の最西端に位置いたします糸魚川市内の、深田久弥さんの「日本百名山」の一つであります雨飾山、標高千九百六十三メートルから流れる根知川に沿って広がる水田地帯である根知谷において、昭和十五年、祖父が創業し、現在は、資本金二千万円、私たち役員を含め三十名弱で、主に治山治水事業、道路、地すべり防止工事などの一般土木工事を営んでおります。

 当社があります根知地区は、住民の約半数が六十歳以上であり、農業就業者の高齢化、後継者不足などにより、農業生産意欲の減退や活力の低下が心配されました。現に山間部では耕作放棄地がふえてきており、平たん部でも耕作放棄地が出てくるのではないかと心配されました。ただでさえ人口が減りつつある根知地区で農地までもが荒廃が進むと地域に活力がなくなる、そうなれば当地区にあります建設会社としての存在意義がなくなると思い、農地の保全、地域の活性化のため、農業に参入しました。

 農地が荒廃してからでは遅い、そうなる前に受け皿になれないかと農業参入の可能性を探っておりましたが、平成十年に農業生産法人で農業参入が可能とわかり、その道を探り、平成十二年に、当社役員、社員の中の農家と、地域農業の将来を心配している当社以外の農業者によって、農業生産法人有限会社やる米花農業を組織しました。

 ちょうど、平成七年に起きた七・一一水害の復旧工事のブロックヤードとして田を埋め立てて使っていた場所が、工事も終わり、水田として地主へ返すこととなりましたが、五年近くその田んぼで農業をやらなくなっておりましたから、今さらその田んぼにかかわるのが嫌だという農家もおりまして、その水田約三ヘクタールと当社の社員の水田と合わせて三・五ヘクタールから水田経営を始めました。

 当初より役員給与などを出さず、農業にかかわった分のみの給与で極力人件費のかからない形で法人経営を行いましたが、初期投資、経営規模、水田の把握などで三年間は赤字でした。四年目からは黒字に転換しました。そんなときに、平成十六年、糸魚川市が農業特区、翠の里産業共生特区に参入し、当社としても既にやる米花農業が行っておりましたので、農業参入の見込みがあると判断し、参入いたしました。

 ただし、やる米花農業と当社との整合性をどうするかを考えましたが、有限会社やる米花農業は根知谷の平たん部、当社は農業特区の指定地域の関係もあり、中山間直接支払い制度に該当する急傾斜地とすみ分けました。

 平成十六年十一月より小田島建設で参入いたしましたが、冬に向かい何もできないので、実質的には平成十七年の春よりの本格的な農業参入となります。

 営農開始当初、当社は、水田五・三ヘクタールと休耕田、耕作放棄地であった一ヘクタールを、カヤを刈り、重機で農地を整地して、その一ヘクタールに、ソバ〇・六ヘクタール、ブルーベリー〇・四ヘクタールを栽培しました。また、春にしか使用しない水稲の育苗ハウスを活用して、これもまたつくり手が減っております、糸魚川市の特産であります越の丸ナスを三百本生産いたしました。やる米花農業は、水田八・四ヘクタールを耕作いたしました。

 平成二十一年、ことし当社は、水田七ヘクタール、ソバ一・四ヘクタール、ブルーベリー〇・四ヘクタール、丸ナス五百八十本、やる米花農業は、水田十四・二ヘクタールを耕作する予定です。

 農地の確保については、当初から、現在も一緒ですが、ほかに頑張っておられる根知地区の農業者とあつれきを生みたくないという思いから、自分たちの方からこの農地を貸してくれというのではなく、全部、農地所有者がつくれなくなったので耕作してほしいという農地を引き受けております。そういう立場をとっておりますので、どうしても条件の悪い圃場が多くなりますし、計画的な農地集積というわけにはいきませんが、今のところ、来たものはすべて引き受けようというスタンスでおります。

 農業は、役員三名がそれぞれ、ソバと水稲、丸ナス、ブルーベリーの三部門に分かれて担当し、作業員は、水稲、ソバ、ブルーベリーについては、春は建設業は比較的余裕のある時期ですので当社社員で対応し、秋の作業は、当社社員二、三名と地元のパート三、四名で対応しています。また、丸ナスについては、私と社員一名に、収穫及び出荷作業に地元パート三、四名で対応しています。農業専従社員は一名ですが、農閑期は建設部門に従事しています。

 農作物の販売は、水稲のうちモチ、酒米はほとんど農協出荷で、コシヒカリについては、七割が農協、三割が個人販売です。個人販売の実績として、当社グループであります雨飾温泉、シーサイドバレースキー場のホテル、そしてあとは本当の個人販売です。個人販売は十八年秋より本格的に販売し、十八年度が一・六トン、十九年度四・三トン、二十年度七トンと、リピーターも徐々にではありますがふえ、売り上げが増加しております。

 越の丸ナスは、農協を通じ、東京の築地市場へ出荷しております。規格から外れたものは当社内及び地元で販売したりしております。

 ソバはすべて地元のスキー場のホテルに卸しております。

 ブルーベリーはことしから収穫の予定としております。どうなるかちょっとまだ未定なところがあります。

 では、経営収支はどうかと申しますと、農業部門の売り上げは、農作物の単価は下がり傾向ですけれども、経営規模も徐々に拡大し、売り上げは増加しております。最近は、ランニングコストはプラスに転化いたしました。当初の設備投資が大きいために、補助金等もいただいて設備いたしましたが、設備の減価償却費を含めるとまだまだ厳しいのが現状です。

 当社は条件のよくない地域での農業参入でしたが、この制限が取り払われればもう少し条件のよい農地でも耕作できる可能性があり、そうなれば今より経営が楽になると考えられます。

 実を申せば、根知地区においては、条件の悪い中山間地直接支払い制度に該当する急傾斜地の当社の農地より、平たん部のやる米花農業の農地の方がどんどんと集まっている現状があります。当社のかかわっている地区はまだ農地の所有者が農業をしている場合が多く、それぞれの経営している農業面積は小さいですが、我々が農業に参入したということで、年老いた農家の方が、どうしてもつくれなくなったら小田島建設に任せればいいと、先が見える安心感からか、逆に元気を出して頑張っておられます。逆に、やる米花農業にかかわっている農地は既に他の農業者に耕作を任せている場合が多く、その任されていた農業者が年老いてきており、その分、やる米花農業に集まってきております。

 企業が参入しやすくなる分、農業に参入する者は真摯に農業に取り組まなければならないと思いますし、受け入れる側もよく見きわめて任さなければならないと思います。

 今後、多くの企業が参入してくるようになると思いますが、私たちがやる米花農業で初めて農業に参入したときは、初めて企業が農業をするということで、企業がもうからない農業を純粋にやるわけがない、何か裏があるのではないかとか、もうからなければすぐに手を引くのではないか、そうなったら農地はどうなるのかといった不安から、行政も農家も疑心暗鬼になったところもあり、理解や認めていただくのに時間がかかりました。最初の二、三年は、周りの人たちが我々のやっているのを遠くから眺めているという感じでした。その間、今もそうなんですが、我々はただただまじめに農業をやっていたので、それが認められたのか、それ以降は、田んぼをつくってくれというのがふえてきました。三年間、地道に農業に取り組んでいる姿を見て、地元の方からようやく認められ、当社が農業に参入したときはすんなりと受けとめられました。

 農業参入してよかったと思う点は、もともと地域に根差し信用されるよう会社の経営をしてきましたが、農業に真摯に取り組むことによって、地域の方々により信頼されるようになりました。春はやはり仕事のない時期でありますので、稲の育苗、田打ち、代かき、田植え等の作業を行うことで、社員を遊ばせないで済みます。通年雇用の一翼を担っております。それと、少しずつではありますが、地域に活気が出てきたように思われます。

 今後は、中期的には、やる米花農業、小田島建設を合わせて三十ヘクタールくらいの面積を水田していこうと考えております。最終的には、根知地区の耕作面積百六十ヘクタールのうち、三分の一から半分くらい耕作していかなければならないかなと考えております。

 現在、根知地区外、市、県外の農地所有者も出てまいりました。今経営をしている人たちは、子供のころ根知地区に住んでいましたので、根知の事情もわかりますが、さらにその次の世代になったときどうなるかという心配をしておりましたが、今回の改正案により、農地の権利と有する者の責務が明確化されることにより、その心配が杞憂に終わるのではないかなというふうに思っております。

 コシヒカリの個人販売の比率をふやしていきたいとも思っております。農地もふえてくるのでなかなか難しいですが、現在、個人販売の比率は三割程度と先ほども話しましたけれども、それを五割以上に持っていきたいと思っております。農協出荷はもちろんよいところもありますが、それだけでは経営はやはり厳しいので、個人販売をふやしていきたいと考えております。

 それと、農業の技術のレベルアップを図っていきたいと思っております。古い人たちは、自分自身が農家だったということもあり、経験もありますが、今の若い人たちは農業が初めてという人もいます。だれにもできるように、若い人たちにも積極的に農業をやらせておりますが、技術的にはまだまだなところもあります。社員全員がある一定以上の技術を持つようにしていきたいと思っております。一人の名人をつくるより多くの技術者をつくっていきたい。

 おかげさまで、若い人たちも、農業をやらせてみると、喜んでとまではいかなくても、仕事だから嫌々というようなことではなくて、積極的に農業という仕事に取り組んでくれております。若い人たちが農業を嫌だということではなくて、農業だけでは食べていけないから、勤めが主になって、農業が副となって、休みは休みたいのに農業をやらなければということで、農業離れになっていったのかなと考えております。そういう意味では、やり方次第では今後農業にも明るい未来が待っているのかなとも思っております。

 最後に、我々も襟を正し、地域農業の振興にこれからも一生懸命努力し、取り組んでいく所存です。

 以上で私の意見報告といたします。大変ありがとうございました。(拍手)

遠藤委員長 ありがとうございました。

 次に、松本参考人、お願いいたします。

松本参考人 御紹介いただきました全国農業会議所の専務理事の松本でございます。

 農林水産委員会の先生方には、日ごろから農業、農村の振興と農業委員会の事業推進に御尽力を賜り、厚く御礼を申し上げます。また、本日は、こうした貴重な発言の機会をいただきましたこと、まことに厚く御礼申し上げます。

 さて、この農地法等改正法案は、農地の総量確保と利用促進の方策を初め、農地を相続した際の農業委員会への届け出の義務づけ、農地の共有持ち分の二分の一を超える同意による利用権設定などの相続農地対策の拡充など、私ども農業委員会系統組織が積み上げてまいりました政策提案や意見を基本的に反映していただいたものとなっております。私は、賛成の立場から意見を申し上げたいと考えております。

 まず、今回の改正は、世界的な食料需給が逼迫の度を増す中で、我が国の食料供給力を強化するため、生産、経営資源であると同時に多面的な機能をあわせ持つ重要な地域資源であります農地を確保し、有効利用を目指すものだと認識しております。このことは、今後の農業、農村のあり方にも大きな影響を及ぼすものと考え、我々農業委員会系統組織といたしましては、これまでも、農地行政の一端を担う組織として真摯に受けとめ、これを検討し、数回にわたりまして意見を述べてまいったところであります。

 私からは、六点に絞りまして意見を申し上げたいと存じます。

 第一点は、農地の確保と転用規制の強化についてであります。

 食料自給率の向上に向け農地総量の確保の方針を明確にされたことは、私ども農業委員会系統組織にとってまことに心強い限りでございます。

 法案には、農地の確保に向け、農地転用規制の厳格化と農用地区域内農地の確保措置が明記されております。特に、これまで農地転用の許可が不要とされてきた公共転用について、新たに許可の対象とされ、法定協議制度が導入されております。

 これまでの農地転用面積を見ますと、毎年一万七千ヘクタール前後ですが、そのうちの約二割が公共転用で、その多くが病院や学校、役場の庁舎などの公共施設への転用でありました。ここを起点に周辺部まで波及して転用されていくケースが少なくありません。しかも、ほとんどが地価水準が低い市街化区域外に集中しているのが実態であります。

 公共転用が許可の対象となることで、こうした公共転用が適正に誘導され、いたずらに優良な農地を減少させることに歯どめをかける効果は大きいと考えており、評価できるものと考えております。この点は、都市計画制度においても、まちづくり三法で中心市街地の再開発による活性化の方向が明確となっており、外延的な開発の拡大は抑制の傾向にあることと軌を一にしております。

 改正法案では、都道府県知事が許可権者となっている二ヘクタール以下の農地転用について、必要であれば、農林水産大臣は都道府県知事に対し、転用許可事務の適切な執行を求めることができるとされております。また、農振法においても、都道府県知事が確保すべき農用地面積の目標を設定することが法律に明記され、その達成状況が著しく不十分であれば農林水産大臣が是正要求を行うこととしたことは、国民の農地の確保の意識を醸成する上で効果があるものと考えております。

 我々農業委員会系統組織としましても、農地を守るという毅然たる姿勢で対応していくことは当然のこととして、都道府県の農地行政においても厳格な運用が図られるよう努めることが重要であると考えております。

 第二点目は、農地の権利移動規制の見直しについてであります。

 私どもの基本的なスタンスは、地域の担い手の確保、育成とその農地利用に支障を来さないこと、不耕作や転貸を目的とする農地の権利取得を排除すること、株式会社一般の農地所有権を認めないことであります。

 改正法案では、農地の権利移動の規制について、農地のすべてを効率的に利用すること、個人の場合は農作業に常時従事すること、法人の場合は農業生産法人であること、この三点を原則とし、所有権規制にはこれまでどおり厳しい要件を課すこととなっております。

 改正法案では、利用権の設定については要件を緩和し、一般企業の参入を拡大することになりますが、第一に、法案では、周辺の地域における農地等の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生ずるおそれがある場合は許可しないとされております。これは、言うなれば、一般企業の参入が認定農業者や集落営農組織など地域の担い手の取り組みに支障を及ぼすことのないようにと、要件が課されるものと考えております。

 現行の特定法人貸付制度のリース方式による一般企業の参入は、遊休農地の利用を基本としており、いわば担い手不足を補完する位置づけとなっております。今回の法改正で、地域を限った補完的な位置づけが変わり、一般の企業も担い手と同等の資格で農業に参入できることになることから、従来の担い手との競合という問題が現場で大変心配されているということであります。

 食料・農業・農村基本法におきましても、第二十二条において家族農業経営の活性化がうたわれております。そこで、地域の担い手を優先するということを明確にするとともに、農業委員会の許可事務が透明性を持って行われますよう、客観的かつ具体的な判断基準が必要不可欠であると考えます。

 第二は、農地の適正利用の担保措置として、適正に利用していない場合には貸借を解除する旨の条件が契約に付されていることに限るとされております。その上で、当事者が契約を解除しない場合は農業委員会が許可を取り消すとする措置も講じられることとされております。

 一般企業の参入に伴う地域の担い手との競合と農地の適正利用の確保の問題は、現場にとって最も不安や懸念がある点であり、我々も十分な検討を求めてまいりました。現場で農業委員会が判断できる客観的かつ実務的な基準や実効ある担保措置について今後の政令、省令等で明確にし、現場で新制度が円滑に運用できるようにすることが極めて重要だと考えております。

 また、入り口規制を緩やかにしたことで、権利設定後の監視、規制の役割がますます重要となってきます。とりわけ、農業委員会による農地パトロールや法案に位置づけられている利用状況調査などによって許可後の農地の利用状況の把握や監視に努め、関係機関、団体が連携を密にし、耕作放棄や産業廃棄物の投棄など不正な利用を早期に発見し、是正することが重要であります。

 なお、重ねてお願い申し上げますが、将来とも、一般企業の所有権取得については認めないようにお願いを申し上げます。

 第三点目は、農地の権利取得の下限面積制限の弾力化についてであります。

 現行法では、権利取得後の経営面積が都府県で原則五十アール以上、北海道は二ヘクタール以上で、知事の決定により十アールまで引き下げ可能となっていますが、改正法案では、地域の実情に応じて農業委員会の判断で引き下げられるようにするというものであります。

 この要件緩和は、所有権取得も含めたものであります。法案全体の目的である農地の確保と担い手への農地利用集積の促進に支障を及ぼすことがあってはなりませんし、地価水準の高い都市近郊での不耕作目的や転用期待の農地取得につながるなど、地域の農地利用秩序に悪影響を及ぼすことのないような対応が極めて重要だと考えております。

 農業委員会が下限面積引き下げの判断を下す場合の透明性、公平性を確保する観点からも、判断基準の明確化が不可欠だと考えますので、よろしくお願いいたします。

 第四点目は、標準小作料の廃止についてであります。

 標準小作料は、契約小作料の客観的な目安として現場に定着しております。農地の貸し借りの促進にとって重要なものでありました。平均で約三十ヘクタールを経営する全国稲作経営者会議の会員への調査でも、七割を超える経営者が必要、参考にしていると答えるなど、存続を望む意見は強いものがありました。

 廃止にかわって、農地改革プランでは、実勢借地料の情報を提供する仕組みを新たに設けるとされ、この改正法案では、借賃等の動向その他の農地に関する情報の提供を行うものとするとされていることは、現場の要求にこたえるものと考えております。なお、新たな仕組みが現場で円滑に運用、活用されるよう支援することが重要だと考えていますので、この点につきましてもよろしくお願いをいたします。

 五点目は、農業経営基盤強化促進法に位置づけられます農地の面的集積の促進についてであります。

 現状の分散錯圃、耕作放棄地の解消に向けて、改正法案で農地利用集積円滑化事業が創設されます。現場には、相対を含めましてさまざまな農地の貸借形態があります。この事業は、他の仕組みを否定するものではなく、より担い手に面的に集積していこうというものですから、さまざまな支援措置を通じてこの仕組みに乗せていくことが大切だと考えます。

 そのための支援のあり方、実施主体や地域の農業者の自主努力を大事にするやり方等々、現場でしっかり機能させるためには、私ども農業委員会系統組織との連携を含めました具体的な推進体制の整備を急ぐ必要がある、かように考えております。

 これらのほか、冒頭に申し上げましたとおり、相続農地対策や、所有者が確認できない遊休農地の管理耕作の仕組みが新たに盛り込まれましたことは、大変大きな前進だと考えております。

 最後に、農業委員会についてであります。

 既に御案内のとおり、今回の改正において、農業委員会の役割と機能が新たに加えられ、農業委員会の判断にゆだねられる部分も多くなっております。農業委員会の農地事務は質量ともに増大が避けられません。さらに、農地の監視活動も今まで以上の取り組みの強化が求められてまいります。

 しかし、農業委員会は、この間の地方分権、市町村合併等に伴いまして、農業委員会数は、平成十年の三千二百三十五委員会から十九年には千八百十八委員会に、四四%減少しました。農業委員数も、六万五十二人から三万八千五百七十九人と三六%減少しております。農業委員一人当たりの守備範囲、農地面積も、全国平均で平成十年の八十二ヘクタールから十九年には百二十一ヘクタールと大幅に拡大してまいっております。また、事務局職員数も、平成十二年の一万七百六十人から平成十九年には八千四十四人と二割減少しております。一農業委員会当たりで見ますと、平成十二年の三・三人から十九年に四・四人、専任職員数は一・八人から二・四人と微増にとどまり、農業委員会当たりの農地面積の拡大に全く追いつかない状況となっております。

 他方で、担い手に対する農地のあっせん、調整、遊休農地の実態把握や解消、違反転用の是正など、農業委員会の業務は質量ともに増大しております。最近では、地方分権により農地転用許可事務が都道府県知事から市町村長に移譲され、その上、その大半が農業委員会に事務委任される、こういう状況もございます。

 また、改正法案に伴い、農業委員会には新たに、貸借規制の緩和に伴う地域の担い手育成と、効率的かつ総合的な農地利用との整合性確保の判断、許可後の農地の適正利用に向けた事後監視や許可取り消し、遊休農地の是正指導権限の強化に伴う指導、勧告など、八項目にわたる新たな業務、役割が求められることになります。

 こうしたことを踏まえますと、ぜひお願いしたい第一点は、国、都道府県、市町村の理解と御支援による農業委員会の体制の整備、強化であります。具体的には、事務局の人員確保、特に農地制度、実務に精通した職員の確保、農業委員の意識改革と資質向上、活動予算の増額確保、さらに農業委員会を支援する都道府県農業会議の体制の整備、強化など、新たな農地制度を現場で円滑に定着、運用していくための措置が不可欠であります。

 第二点目は、審査、判断の透明性と公平性の確保であります。さまざまな農地の許認可事務の判断基準について、国としてできるだけ明確に示すとともに、農業委員会間、都道府県農地行政との密接な連携が必要であります。

 もう一つは、農業委員会で整備している農地基本台帳であります。今回の法案で制度化された農業委員会による年一回の農地利用状況調査を農地基本台帳に的確に反映させた農地情報を整備するとともに、住民基本台帳や固定資産課税台帳との照合が円滑にできるよう、一層の整備、強化に向け御検討いただきたいと考えております。

 最後に、我々農業委員会系統組織では、今回の改正法案を含め、農地行政について、農業者の公的な代表の行政委員会として、透明性、公平性、公正性を基本に、関係者が一丸となって全力で取り組んでまいる所存であります。

 農地の確保と効率的な利用を実現するためには、農業者の所得の増大と農業経営の安定に向けた対策が不可欠であります。農業者、とりわけ地域を担う担い手や若者が意欲と誇りを持って農業に取り組める、そんな環境づくりにさらに御尽力いただきますようお願いを申し上げまして、私の意見を終わりといたします。

 本日はどうもありがとうございました。(拍手)

遠藤委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

遠藤委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。七条明君。

七条委員 三人の参考人の皆さん方には、本当に貴重な御意見を賜りましたことをまず感謝を申し上げます。

 今度のこの農地法の改正というのは、今までの農業基本法にもまさるぐらい本当に大きな改革であり、当然、これが制度の基本を所有から利用に再構築していくという意味では、非常に大きな、これからの農業を変えるものではないか、また、変わっていかなければならないものではないかと思っているわけであります。

 まず、小田島参考人、先ほど聞いておりまして、本当に現場で苦労をしておられるのがよくわかります。その中で小田島参考人にお聞かせをいただきたいのでありますが、これからはもっと規模を拡大したい、あるいはもっとこの制度を利用したい、こう思っておられるという内容であったと思いますけれども、この法案、これは賛成か反対かといって聞いた場合には、恐らく賛成だと答えていただけるんではないかと思いますが、それを確認してみたいと思います。

小田島参考人 賛成か反対かと言われれば、賛成です。

 言われましたとおり、上の田んぼでは、当社でやっているところでは、今七ヘクタールというふうに申しましたけれども、それは水張り面積というか実質の田んぼの面積でありまして、あぜとかのり面を合わせますと八・四ヘクタールであります。枚数にして六十七枚です。やる米花農業は十四・二と言いましたけれども、総面積で十五・四……(七条委員「賛成だけ聞けばいいもので、済みません」と呼ぶ)そうですか、済みません。ありがとうございました。

七条委員 途中で発言を切ってしまった失礼をおわびしなければなりませんが、賛成か反対かといえば賛成だとお答えになられるのは、今までやってきたことが、特に、三年間は赤字だったけれども四年目から黒字になった、あるいは、地域の活性化にもこれが役に立ったからだ、こう言っておられたとおりだと思うのであります。

 今度の法律案の中に出てくる、いわゆる新しい企業、新規参入企業をこれからは認めていくのか認めていかないのか。いわゆる使ってもいいという所有権は認めていくけれども、しかしながら農地をそのまま取得することは認めていかない、こういうような形が今の制度の中に出てくるわけでありますが、この新規参入というのは、もっと規制緩和をしていくべきだ、こう思っておられるかどうかということについてお聞かせをいただきたい。簡単明瞭にお答えをいただければ。

小田島参考人 農地所有を企業に認めるかどうかといいますと、個人的には、農業をするだけであれば、所有までいかなくて借りるだけで十分だと思っております。

 そのことでお答えになりましたでしょうか。

七条委員 私も実は企業を営んでおった関係がありますし、本当に企業を営んでこようとすると、新規参入がどんどん入ってきて、お互いに切磋琢磨をしていく方がいいんだろう。農地を使用するだけでいいんだ、そこを使っていくことさえできれば、規模も拡大できるし、あるいは地域でいろいろなことができていくと。見ておりましたらば、五百万石なんという酒米を使ってやっておられる。私も酒造業をやっていた関係で、この五百万石が非常に付加価値の高いものだということはわかります。

 付加価値の高いものを求めてこれから企業が参入していった場合、私は、当然土地も取得したいと思ってくるのではないかと思うので、そういう意味も含めて、もう一遍お聞かせをいただきたいのはそこなんですが、やはり取得をしなくてもいい、利用だけできればいいと思うんでしょうか。

小田島参考人 正直、現状の農業ですと、土地取得してまででは合わないと思っております。借りてやっと経営が成り立っていくと思っております。

七条委員 では、今度は原田参考人にお聞かせをいただきたいのであります。

 この企業参入ということをこれからもふやしていくべきだ。今言いましたように、農地の取得というものを全面的に認めてはいけないということは我々も感じております。しかしながら、ある一定の特定地域だけは、どうしてもそこをやらなければしようがないというところが出てきたりするのではないだろうか。

 耕作放棄地を三種類に分けて、赤だとか黄色だとか緑だとか分けてきておりますけれども、赤と言われて表現された部分の中山間地域のようなところを本当にこのままのこの農地法の制度でやっていけるかどうかというと、私は非常に疑問を感じるところがありまして、その辺も含めて、原田参考人にお聞かせをいただければ。

原田参考人 お答えいたします。

 非常に耕作の困難な地域があり、従来のそこに存在していた農家等ではなかなかうまくいかない地域がある、これはもう本当に今のお話のとおりだと思います。そういうところを企業がやるということであれば、既にこれは、特区制度から今の特定法人貸付制度の中で、全国相当広い地域でやれるようになっております。その場合には、一定の市町村の関与等の枠づけの中でそういう目的のために、まさに地域のためにやっていただくということで、これは本当にやっていただくのはいいんだと思うんですね。

 その枠組みを外して、どこまで無限定な形での参入を認めていいのかというのが一つの大きな問題だと思っています、貸借というより。その延長上に所有権がどうなるかというのが私の心配するところでございます。

七条委員 先ほど、随分心配をしておられるということの中で原田参考人からは、大きな不安感がある、あるいは慎重な上にも慎重に、こういう表現をしていただいたことを非常に心に受けとめざるを得ないと思っているところでありますし、当然、原田参考人が言われる中での、所有権と賃借権との関係の基準の分け方をどうするんだろうとか、あるいは、小作所有の制限を廃止したけれども、その後で農地の権利取得を認めないという形でいいんだろうかという、一つの整理をどこでやるんだろうかという疑問も持っておられる。ですから、さっきの参考人のような答えも出てきたときにお聞かせをいただいておりますが、どうでしょうか。

 小作制限を廃止していく。小作という権利と、あるいは所有権というのが一致しなくなるんじゃないか。いわゆる今までの小作というのは小作権利で残っていくわけでありますし、所有をしていくのは小作ではないということになっていくんだろうと思いますから、その意味で、小作ということと、あるいは所有権、賃借の所有権というのを今までの制度とどう位置づけていったらいいのか。お考えがあればお聞かせをいただきたい。

原田参考人 お答えをいたしますが、今の質問の趣旨の最後のところがちょっとよくわからなかったんですが。小作ということと所有ということの関係で、済みません。

七条委員 今度のこの農地の制度というのは、今までの制度を廃止していくという形になるわけですから、小作の所有権限というのは廃止の方向へいくことは間違いがないと思いますが、しかしながら、小作という、今までやっておられたいわゆる農家の方々は、まだ小作ということに携わっておられるんですね。それが頭の中の認識にまだ残っておられるんだろうと思うんです。そのときに、そのまま、こういう所有権だけを持たせていった場合に、スムーズにこの制度が変わっていくかどうかということが聞きたいわけであります。

原田参考人 お答えいたします。

 小作地所有制限がなくなるということの意味は、例えば在村の土地所有者、元農家等であって、都府県ですと平均一町歩までしか小作所有が認められないというその制限がなくなるということです。貸し借りの制度自体は、これは現在でも非常に広く行われ、もう既に全国の農地の三〇%を超えているわけですが、その大部分は、利用権の設定でなされていたり、あるいは一九七〇年の農地法改正以降の形でなされていたりして、その小作地所有制限の例外となっているわけですね。その所有権の制限がなくなるというだけであって、小作がなくなる、小作地の貸付地、地主さんがいて地主さんの所有権がなくなるということではないんです。ですから、そこのところは趣旨がちょっとよくわからないところがありました。

 ただ、御質問の趣旨との関係で私がもう一つお答えをした方がいいと思うのは、要するに、貸付目的の所有権取得は当面もう認められない。しかし、他方で小作地所有制限はなくなりますから、現在、例えば自作で三町持っている地元の農家の方が三町全部貸しますというのも、今後何も問題がなくなるわけですね。しかし、五十アールを土地の人が買い受けて貸しに出したいというときにはだめだと。そのだめだとする規定は、結局、今後は三条二項一号の規定だけになるんです。すべてがそこにかかります。

 他方で、農地の農業的利用については、一条において、要するに、有効に、効率的に利用する者が農地についての権利、所有権及び利用権を取得することは望ましいと書いてあるわけですから、そこには政策論理上で明らかなそごがありまして、その三条二項一号の規定の位置づけが非常にあいまいな、脆弱なものになっているのではないかというのが私の大きな心配でございます。

七条委員 今言っていただいたことはよくわかるわけでありまして、当然、この辺をうまくこの制度の中で生かしていくためにどうやるかということを、もう一つ我々が、農家の方々やそれを利用していく方々の心配を払拭していく必要があるんだろうと考えております。

 特に、私たちは今まで、つい最近までは、転作をしてください、転作をしてくださいと言っていたんですね。そこへ持ってきて、今度は、耕作放棄地がたくさんできてきたから、そこでつくってください、つくってくださいと。つくってくれるかつくってくれないかを確かめて、今度はそれに罰則を強化していくわけでありますから、農家にとってみたら、複雑な気持ちなんですね。

 ですから、そういう転換をするときだけに、これはなかなか難しい、現場で農業委員会が本当に苦労をされるんじゃないかということがわかるわけでありますが、その辺は、松本参考人としてお聞かせをいただきます。

 先ほど言いました農地の基本台帳、この基本台帳を電子化するのは八三%ぐらい進んできた。あるいは、一年間の補正をしてきたものはほぼ一〇〇%、もう九五%以上できてきている。地図化も三一%できてきたということでありますけれども、いろいろ聞いてみますと、この農地の基本台帳が本当にうまく作用していくのだろうか。電子化をもっと早く一〇〇%に進めていく必要があるのではないかと思うんですが、その辺はどうでしょうか。

松本参考人 お答えいたします。

 先ほどの意見開陳でもお願いを申し上げたところでありますけれども、先生がおっしゃるとおり、できるだけ早く、加速的に、全委員会でこの体制を整備したいというのが本当の気持ちであります。

 しかしながら、御案内のとおり、なかなか財政不如意、こういうこともございまして、精いっぱいの努力はしておりますけれども、今先生が御指摘されましたような、台帳電子化八割、それから地図情報化は三割程度、こういう状況でまだとどまっております。

 ぜひ、本委員会の先生方の御理解も賜りまして、この整備のさらに強化を図りたいということが私の本当のところでございます。よろしく御指導のほど、お願いいたします。

 以上であります。

七条委員 ではもう一問、松本参考人にお聞かせをいただきたいのは、農業委員会の体制を強化するということはやらなければならないでしょうし、これをやっていかなければならないのは我々もよくわかるのでありますが、都市部と農村部の農業というのは、これは今、かなり温度差があるし、格差がある。三種類に青とか黄色とか赤とかいうふうに分けていったときにも、恐らく中山間地域の方が赤と言われる部分がたくさん出てくるのではないだろうか。そういう意味で、中山間地の対策という方が、これは整備をしていく上での体制強化がしにくいと見るのでありますが、この温度差というのはどういうふうに埋めていけばいいのだろうかなと。

松本参考人 確かに先生がおっしゃるとおり、今般の市町村合併等で、市となられた委員会におきましては、何とかそれなりの事務局体制等々もまだ保持しておるというところは見受けられます。町村というのは、おっしゃいますように、このあたりはかなり中山間、こういう地域の行政区が多いのではないかと思いますが、こういうところの農業委員会の体制は、農業委員さんもそうでありますけれども、十人程度、あるいは委員会の事務局も、他の部局との兼務体制、こういうのが実態でございまして、実は私どもにも、今般の改正法案の状況等をお聞きなさいまして、さあ、これを本当にどういうふうに受けて立つかということに、地元委員会からは大変お声が寄せられております。

 農地制度だけで農業の振興が完結できるとは実は思っておりませんでして、これは、基本的でございますけれども、車で申すれば一つの片方の車輪。もう一つは、この制度の枠組みのもとで、法令遵守のもとで農業経営が成り立つ、あるいは農家所得がきちんと確保できていく、こういうもう一つの車をどう補強するか、こういうことが大切なことだろう。特に、中山間地帯の農業委員会あるいは農業体制は、まさにそれが求められておる、それに対応しなきゃいかぬ状況に陥っておる、このように承知しております。

 以上であります。

七条委員 農業委員会というか農業会議所の役割が非常に大きいものがあるし、これができるかどうか、この法律をうまく運用していくかどうかというのは農業委員会にかかっていると言ってもいいのではないかと思うぐらい、大切な役目を果たしていただけるわけであります。

 そういうふうになってきたら、今度はもう一度、原田参考人にお聞かせをいただくわけでありますが、基本的に所有から利用に再構築していくということになっていきますと、賃借の利用権、あるいは先ほど言いました、例えて言うならば、一般の企業が農地を借りたんだけれども、契約をしてしまった後で農地を所有しておられる方が農地を売りたいともし言ってきた場合、これは売りたいと思ってもすぐに売れる状況じゃなくて、小作の関係もあるんでしょうし、では今度は企業側からしたら、買いたいと思っても買えない。そして、ではそれなら第三者に売ってということになれば、今度は小作という形で、またこれもできなくなるということを考えてみましたときに、こういうときには、法的にはどういうふうに解釈したらいいのでしょうか。

原田参考人 できる範囲でお答えいたします。

 一つは、先ほど最初の方にもおっしゃったんですが、所有から利用への転換とそれに即した法律制度の再構築という言葉が役所の文書等にも強く書かれ、それがうたわれております。

 ただ、所有から利用への転換ということ自体は、一九七〇年の農地法改正と七五年の農用地利用増進事業の導入で既に画されております。それ以後、いかにして利用をふやすか、利用権による規模拡大をするか、そのために多くの改正がなされてきたわけです。では、今回何が新しくなるのかといいますと、その利用権の主体、利用権を取得する主体の要件を緩める、ここが今回の改正でありまして、全体の流れとしてはそういう位置づけだということをまず一つ御説明したいと思います。

 次に、御質問のありました、そういう利用権が特に広がって、例えば一般の企業がまとまった農地を借りた、多くの農家が貸すわけですから、貸し付けた農家の側が、地主さんとなっているわけですが、相続その他の事情でこれを売りたいということがそこに出てくるのは当然だと思います。しかし、法律の文言の上では企業は買えません。他方、底地ですから、底地をだれに売るかというときも、法律の文言の上では買う人はいないんですね。底地を買える規定がないわけです。そうするとどうなるかというと、売りたくても売れないことになりますから、これは当然、制度としておかしいじゃないかということになります。

 法文の上では、これはこのように説明されているようですが、一番重要な規定だと私は思っているんですが、三条二項一号の中にございます条文なんですが、済みません、ちょっと条文を間違えたかもしれません、立案者の側では、そのあたりについては政令で対応する、政令でしかるべき解決ができるように対応するというふうに説明されているようです。

 ですから、法文を読んだ中ではそこがどう処理されるのかがわからない。そして、その状況は今日まで基本的には同じところがあって、現在処理されているのと同じような形の政令の内容、基準を用意するつもりであるというふうに私は伺っております。

七条委員 今言われるように、まだまだこれは本当に、慎重な上にも慎重にと参考人が言われるとおりだろうというのが徐々にこれはわかってくるわけでありまして、政令の中でももう少しこれでうたっていかなきゃいけないものが出てくる。

 やらなければならないと我々思いますし、一歩前進をさせなきゃならないということは考えなければならない。当然、これをやることによって、これから農業がよくなってくること、あるいは地域が活性化していくことには間違いがないと思います。本当にこれが食料の自給率の向上につながっていくんだろうなと信じてはいます。食料の自給率につながっていくと確信をして頑張るつもりではありますけれども、その点について、では小田島参考人、もうそろそろ時間が来てしまいましたけれども、現場で苦労をしておられる、特に企業として参入してこられる皆さん方が、こうやっていけば食料自給率がアップしていくというふうに感じられるかどうかだけ、お聞かせいただけますか。

小田島参考人 現場に携わっている者として、やはり農作物の価格というものは非常に大きな関係があると思います。つくっただけの価値の価格であれば、それぞれ皆さんが頑張ってやっていくようになると思います。

 以上です。

七条委員 ここは本当に私案で、ここまで農林水産省がこの制度をやろうとする、この制度をやって本当に何かの形で生かしていきたいとするならば、私は、中山間地域のようなところ、さっき言った、赤、青、黄色というふうに分けるといったときの赤の地域をどうするかといったときに、その耕作放棄地のようなところ、一たん沈んでしまって、もとに復元する力がなかなかないようなところをどうしていくかまで考えたときには、やはりそういう地域だけは思い切って企業の参入を認めていく、特定で認めていく。中山間地域のいわゆる今までやってきた特区ですね、これを本当にやっていかなければできなくなる。その辺も意識をしておかなければ、この目的はやはり達成しないものではないかと私は考えておる一人であります。

 では最後に、原田先生、もう一度、そういう意味にこたえてみて感じられることがあれば、お聞かせをいただきたいと思います。

原田参考人 お答えいたします。

 その前に、先ほどちょっと条文の引用を間違えましたが、三条二項本文のただし書きの中に「政令で定める」という文言が入っていて、そこで処置するということのように伺っております。

 今の御質問の点でございますが、二点に分けてお話しいたします。

 一つは、中山間地域等の非常に困難な地域の農業が、それにもかかわらず今まで維持されてきたのは、恐らく、そこに住み、かつ、そこで生活を営み、その地から離れないで一生を送っていこうという農家、地域の人々がいたからだと思います。それで長い間もってきた。ただし、それが非常に困難な状況になってきて、例の特区制度その他で、担い手がいないところではその担い手にかわる形で、場合によっては地元の企業が赤字覚悟でもそういうところの農地を引き受け、耕作を維持していく、そういうような体制が徐々に進められてきたんだと思います。そういうことがうまく回るのであれば、それは恐らく望ましいことであろうというふうに思っています。

 ただ、企業の参入で、しかも、地元に必ずしも根を持たない企業がどこからでも自由に参入できて、そして収支採算のために経営を行うとなりますと、既に、そういう中山間地域のようなところでは採算が成り立たないからだめだ、もっと平場のいいところに入れるようにしてほしいという要求がありました。その要求を背景として、今回の貸借の自由化、規制の大幅な緩和があるんだろうと思っています。それが無限定に認められていきますと、もちろん、うまくいくところもあるかもしれませんが、いろいろな弊害が出てくるだろうと思います。

 これは小田島参考人がインタビューに答えられた文章の中で、私、別のことで拝見したんですが、例えば、企業、具体的にわかりやすい例で申しますと、大手のスーパーが地方都市の郊外にでかい店舗をつくるわけですね。そして、交通もいいので、そこで多くの市民を集めて、消費者を集めて営業する。そのため、従来の中心部の中小の商店が、いわば店を閉じざるを得なくなる。しかし、その後、採算が悪化したり経済状況が変わると、その大手のスーパーは引き揚げてしまう。その結果、何が残るか。こういうふうな状況が農業であってはならないという趣旨のことをインタビューに答えられ、それが記事になっているのを私は拝見いたしました。

 そういう問題をやはり起こさせてはならぬだろう。それは日本の農村にとって、農村社会にとって、仮に所有権までいかないとしても、貸借の場合であってもやはり問題が残るんではないか。こういう事例も若干はあるというふうに仄聞しておりますので、私は、いろいろな意味で不安感が残るということの一つになるわけでございます。

 以上でございます。

七条委員 実に、今原田参考人が言われることがひしひしと感じられるわけでありまして、これを制度を運用していくについては、やはり特定の地域と、あるいは参入を認めないという地域とをはっきり分けて物を考える、そういうシステムの中から何かが出せないかというふうに我々も感じてみなければならないということを申し上げて、私の質問を終わらせていただきたいと思います。

遠藤委員長 次に、石川知裕君。

石川委員 民主党の石川知裕でございます。

 まずは、三人の参考人の皆様、農地法の法理論に大変お詳しい原田参考人、実際、特定法人貸付事業で参入をされて現場で頑張っておられる小田島参考人、また、農業委員会の代表としてきょうお越しいただいている松本参考人、それぞれ、本当にお忙しい中、御苦労さまでございます。

 現在、農業を取り巻く情勢は大変厳しいものがあります。現場の農家の方とお話をすると、食料自給率を上げるとか下げるとか、そういうことは自分たちには関係ないんだ、まずはなりわいとして農業が成り立つように政策を展開してほしい、こういうことを現場の農家の方々からよく言われることがございます。しかしながら、これだけ耕作放棄地がふえて、また農作業に従事する方々の高齢化が進んでいる、そうした現状において農地をどうやって適正に利用していただくか。現状を打開するために、今回、農林水産省としては、国内の食料供給力を強化する等の観点から、農業生産、経営が展開される基礎的な資源としての農地を最大限に利用するため、農地制度について、所有にこだわることなく農地の適切な利用が図られることを基本とする制度へと再構築するとし、農地の権利取得要件の見直しを行うこととしております。

 今回の法改正について、私も土曜日、現場の農業者の方々と意見交換をしてまいりましたけれども、実際、現場の方々は、なかなかまだきちんと把握する、理解するということができていない。また、この法改正によって起こり得るであろう影響というものが、まだ全体像が見えていないということを、私は先日現場の方々とお話をして非常に感じました。自作農主義と耕作者主義という言葉の持つ意味の違いを初めてわかりましたと、私自身もよく理解をしておりませんでしたが、現場の農家の方々からもこのような発言が寄せられました。

 原田先生は、今回の条文から耕作者という言葉が外れ、農地法の権利規制の基本理念である農地耕作者主義が崩れるという懸念をなされておられます。原田参考人にお尋ねをしたいのでありますけれども、今回の法改正について、一条の改正がその解釈により大きな影響を及ぼすのではないかと議論になっておりますけれども、この改正が与える影響についてお話をいただきたいと思います。

原田参考人 お答えいたします。

 まず、自作農主義と耕作者主義の理解について確認をしておく必要があると思うんですが、自作農主義は、言うまでもなく、農地改革の理念とされ、その後の農地法の重要な柱となったものです。それは、私の先ほどの意見陳述の中にもありましたように、農地は耕作する者が所有することを最も適切と認め、要するに、耕作する者が買いたいというのであれば、その買うことを促進しようという趣旨でございました。もちろん、その耕作者が農地を所有できないときもあるわけですから、その場合には、耕作者の地位の安定化を図り、耕作権を保護するということと二本立てであったわけです。

 他方、農地を所有する者は耕作しなければならないという原則は、そこには書いてはございません。農地を所有する者は耕作をしなければならないという原則として自作農主義を理解すると、それは間違ったことになると思います。現在でもそういう議論がたまにありますので、念のため申しておきます。

 他方、先ほどもちょっと触れましたように、一九七〇年、昭和四十五年と昭和五十年の農地法改正並びに農用地利用増進事業の導入によりまして、むしろ、所有権は持ったままでいいから貸しに出してくださいという政策に既に転換したわけです。これは農政の大きな転換でありました。ですから、利用権という非常に貸しやすい制度を用意して、そして、それを動かしていくためにその後の経営基盤強化法等をつくり、いろいろな施策やいろいろな補助金等も投入してきたわけです。ですから、所有から利用への転換はとっくの昔に画されているというふうに私は思っております。

 ただ、その中で七〇年、七五年の改正のときには、一条はいじっておりません。そして、耕作者の権利を保護し、先ほどもちょっと、条文を正確にもう一回引用した方がいいんですが、もとの一条ですね、耕作者の権利を保護し、耕作者の地位の安定化を図るという趣旨のもとで、しかもその耕作者については、先ほどから問題としておりますように、逆に七〇年の改正で、農作業への常時従事要件を明確にしいたわけでございます。それが今日までの農村社会の基礎をつくってきた。これが耕作者主義になるわけですね。

 ところが、今回の改正の大きな改正点は、まず、その耕作者主義、農作業常時従事義務のところを貸借については外してしまうということが一つポイントになります。所有権については維持するというふうになっているのは、先ほども申したとおりです。

 ところが、そこに加えて第一条の改正がなされました。先ほど申しましたように、第一条の中で今の点にかかわるのは、農地を効率的に利用する者による農地についての権利の取得を促進し、国内の農業生産の増大を図り、もって食料の安定供給をと、ここにつながるわけです。このこと自体は当然のことであり、私は何も反対することはございません。当然、農地は有効に利用され、効率的に利用され、国内の食料生産のために、安定供給のために寄与すべきだ、そのとおりであると思います。

 ただ、ここに言う農地を効率的に利用する者の範囲が、先ほど言うように広がりました。ですから、耕作者主義の原則がもうそこにはかかっておりません。農地を効率的に利用する者による権利の取得を促進しの権利の取得には、貸借と所有権と両方が入ります。そして、三条の規定の上だけを見ますと、耕作者主義の原則を外されるのは、貸借の場合に限ります。そして、賃借権で耕作をする者は、極端に言えばだれでもいい。ちゃんと農業をやるのであればだれでもいい、どこに住んでいてもいいとなるわけです。

 しかし、一条に戻ってみますと、農地を有効に利用する者が、農地に関する権利、この権利には所有権まで入るわけですから、そのことと、所有権取得についてはあくまで農作業常時従事義務を要求するという三条二項一号の規定とがバッティングするわけですね。このときに、三条二項一号の規定というのが今後どういうふうになっていくんだろう。少なくとも、新しい第一条では根拠づけられない存在になるわけですね。もろくなるという感じが私はしてならないんです。そのことを申し上げました。

 よろしいでしょうか。

石川委員 ありがとうございました。

 今のお話ですと、貸借権、そして利用権、所有権、それぞれダブルスタンダードが存在をしてくるのではないかという懸念があるというお話だと思うんですけれども、今回、改正案の最大の焦点として、農地の権利移動統制にかかわる大転換ということになってくるのではないのかなと思います。貸借権について耕作者主義を外し、事実上自由化する、大幅な規制緩和ということになってくる。

 今回、一条と三条を改正することによって大きくさまざまな変化が予想されるわけでありますけれども、原田参考人に再びお尋ねをしたいんですが、農村社会に与える影響について、御自身で思われている部分についてお話をいただければと思います。

原田参考人 お答えいたします。

 私は、基本的に法律が専門でありますので、いわば経済的な影響、社会学的な影響その他に関しては、私の知っている限られた知識の範囲でのお答えにしかならないということをあらかじめお断りいたします。

 まず、農村社会に与える影響というふうに考えた場合に、恐らく幾つかの点でお答えを考える必要があるんだろうと思います。

 まず一つは、農地改革後、少なくとも今日、ごく近い今日に至るまでの農村社会で、農地の所有者の大部分は農地改革後の自作農民でした。三十アール以上三ヘクタール未満の土地所有権と一定の小作地等を持つ、ある意味では均質な農民、家族経営を行う農民家族が日本のその当時を支えたわけですね。その部分が、今日まで基本的には農地の所有者、もしくは相続等もあるかもしれませんが、所有者であり、農村社会の中で農業を営む人たちの構成員の大部分をなしてきたわけです。

 そういう点で、社会はある意味で安定し、また、お互いが顔の見える地域社会、農村社会。そして、そこに、戦後の高度経済成長の中でいろいろな問題を抱えつつも、農業も農家経済も豊かになり、社会全体が発展してきた。戦前の小作問題のようなものは全くなくなったわけです。そういう意味での一つの安定性。しかも、それが所有権として、具体的な権利として認められ、均一であり、かつ地主制というものもなくなりますから、農村社会の全体の民主的な発展、安定した発展に寄与したというふうに私は思っております。

 それからもう一つの大きな変化が、やはり一九七〇年、一九七五年の法改正後の、要するに所有から利用へ、農用地利用権による規模拡大、それが構造政策の目標になった以降の話です。ただし、そのときにも耕作者主義の原則が先ほど言うように維持されましたし、そのことも手伝って、貸し手も借り手も、ある意味では顔の見える地域社会内部の関係がベースだったと思います。

 もちろん、大きな生産法人ができてかなり遠いところまで出ていくようになりますけれども、その人がどういう人でどういう経営をしているかはわかっていた。だからこそ、ある意味では安心して貸せますし、借りる方も、必ずしも耕作権の強い保護がなくても、まあ安定的に貸してくれるだろう、むちゃなことはしないだろう、相手ももとは農家だった、こういうことがあったわけですね。ですから、それもまた、所有から利用への転換をしながらも、なお農村社会が従来どおり続いてきた、安定してきたということだと思います。

 ただ、確かに、高齢化、少子化、それから農産物の価格の低下、国際的な輸入農産物の圧力等の問題で、いろいろ新しい困難な状況が出てきたときに、そのままでは十分に対応ができなくなった、そこからいろいろな試みが始まったんだと思います。

 それについては、先ほどの七条委員の御質問に答えたところでございます。ただ、それが今回のように、貸借である限り耕作者主義の原則を外して、さっき私、極端な例を出しましたけれども、ああいう形でも入ってきていい。そうして、これは賃貸借ですから、もし経営が成り立たなければ契約を解除し、場合によっては損害賠償、つまり、企業の側から契約を解除し、損害賠償を払って引き揚げる。契約期間が十年であれば、十年で払うべき損害賠償は企業にとっては大した額じゃありません。そういうようなことになるとどうなるのかというような問題も出てくるわけだし、仮に、入って農業をやっていっても、そこにいわば雇用者として入ってくる労働者と地元のほかの農業経営等の間の問題が出てくる。

 だからこそ、先ほど松本参考人が強調されたような、地域でのいろいろな調整のための規定も必要だし、明確な基準がなければ農業委員会自体が困ることになるだろう、こういうような問題も出てくるわけだと思います。

 ですから、そこに大きな影響が徐々に広がっていくだろうということは、やはり避けられないのではないかなという感じが私はしております。

 以上でございます。

石川委員 今、原田参考人から、今回の法改正によって地域の農村社会に与える影響は徐々にいろいろな形で広がっていくのではないか、こういう御意見がございました。

 きょう、現場の方で一生懸命頑張っておられる小田島参考人においでいただいておりますけれども、小田島参考人が、これは北陸農政局のパンフレットで、法人参入事例紹介ということで、調査局の方からちょうだいをした、「今後、企業の農業参入(今後の農地制度)はどうあるべきだと思いますか。」というところで、「今の仕組みは、役所というフィルターがあるから地域に信頼される事業者が入ってくるんじゃないかな。農地を貸す側も安心するでしょ。うちとしても市から借りるだけなんで、地主から一戸一戸ハンコを取らなくて済むので楽ですよね。農業をやるだけなら農地の所有は割に合わないと思いますよ。今の農地制度が無くなったら、かえって無責任な業者が入ってくるんじゃないかな。」ということでお答えをされておられます。

 現在、地域社会とは無縁の法人が農地について正規の利用者、権利者となるというようなことが集落機能にどのような影響をもたらすのか、農村社会の変貌に伴い、何か影響をもたらすのかということが懸念をされていると同時に、今までの特定法人貸付制度というのは、小田島さんの幾つかを私も拝見をさせていただきましたけれども、厳しい条件のところを自治体が借り上げて、そして法人にお貸しをするということですけれども、今回の法改正だと、優良農地にまで進出できるということになるのではないのかなと思います。

 今回の法改正によって地域社会に与える影響、また、経営者として今後どう考えていこうと思っているのか、二点、お話をお伺いしたいと思います。

小田島参考人 確かに、今言われたとおり、そういう発言をさせていただきました。今でもその気持ちは変わらずにあります。ただ、それは行政ということではなくても、農業委員会という場所でも、何かしらのフィルターが機能されれば、それはそれでいいのかなというふうに考えております。

 私、今本当に厳しいところでやらせていただいております。先ほどもちょっとお話ししましたけれども、それが優良農地までやらせていただければ、経営の方は本当に楽になってくるのかな。逆に言えば、優良農地がやれれば、ますますそういう条件不利地も、もうちょっと頑張ってやれるのかなというふうにも考えます。

 それと、農業をやろうとすれば、どうしてもそこの地域にいなければ、遠くで農業なんというのはできるわけがありませんので、そこに足がかりのない方が来たとしても、実際、そこで農業をやるのはその地域の方々になるのではないかなというふうに考えております。

 以上です。

石川委員 もう一つの質問ですけれども、実際、これから法改正になって、現場の中で耕作放棄地は減っていくと思われるでしょうか、ちょっとお答えをいただきたいと思います。

小田島参考人 補助政策とか、もう一つ違ったものがあれば減っていくといいますか、もともと条件が悪いから多分耕作放棄地になったんでしょうから、もう一段の何かしらの政策が必要じゃないかと思います。

石川委員 ありがとうございました。

 今回の法改正で、農業委員会の役割が非常に増大をしてくると思われます。しかしながら、現状で、今でも大変、先ほども松本参考人の意見陳述にもありましたように、市町村の合併等、非常に厳しい状況にさらされているのではないのかなと思います。また、今後は文化の違う株式会社の方々が参入されて、法律も商法等、いろいろまた研究をしなければいけない部分も出てくるんだろうと思います。

 全国農業会議所は、農業及び農民を代表する組織として、農業生産力の発展及び農業経営の合理化を図り、農民の地位向上に寄与することを目的とされておられるということでありますけれども、まず一つは、この法改正の後、農業委員会に混乱は起きないのか、大丈夫かということと、もう一点は、この法改正によって担い手にどのような影響を与えると懸念されておられるか、この二つについてお話しいただきたいと思います。

松本参考人 お答え申し上げます。

 一つ目の、この予定されます法改正によりまして大変双肩に重荷のかかる農業委員会、これは大丈夫かというお話でございます。

 七条委員にもお答えした状況がございますけれども、大丈夫じゃないと言うわけにはいかないわけでありまして、これはもう受けて立つということであります。そのための補強はいろいろと御相談申し上げないかぬと思いますけれども、そういう心構えで臨んでおりますので、ぜひ御理解のほどをよろしくお願いしたいと思います。

 それから二つ目の、地域の担い手にどのような影響があるか。御質問の趣旨は大変幅広いのでありますが、先ほど小田島参考人からもお話がございましたように、これはやはり、いろいろな新しい農地の制度に枠組みがなってくるということになりますと、いろいろな想定はされるわけであります。しかしながら、厳然とはっきりしておりますのは、農地は、世界いかなるところの農地もそのところからは移動できない、農地を持って歩くことはできないという大原則があるわけでありまして、その上で、いわゆる、なりわいなり、あるいは農業経営なりもろもろがなされるという大枠組みがあるわけであります。

 そういたしますと、貸借であらゆるところから参加の機会が拡大するということはあるのでありましょうけれども、私どもは、最初に申し上げましたように、言葉はちょっと誤解があるかもしれませんけれども、偽りの農業経営とか偽りの農業者は、私ども農業委員会系統としてはまかりならぬ、こういうことで臨みます。

 きちんとした担い手が地域農業を支え、そして発展していただきたい、こういう哲学といいますか立場でございますから、であれば、そういう立場で臨むなら、今の農地の特性から考えますと、小田島参考人がおっしゃいましたように、かなりの部分は、やはり地域に根差した法人とかそういう方々が結果的には残っていかざるを得ないんじゃないか。そうでないところは、相当のエネルギーを使って地域社会との調整をなさるというような立派な企業であろう。でなければ、おのずと地域から撤退する。

 問題は、その撤退をするときに、事後処理の問題が私どもとしては大変悩ましいなという問題を持っておりますけれども、基本は、私ども委員会系統としては、地域に根差した、当然家族経営も大きな大宗でありますから、これをベースに、さらに企業経営についてもそういう観点から臨んでまいるべきものだ、このように考えております。

石川委員 基本的に、特に耕種農業は、家族経営をどうやって営農できるように頑張ってもらえるような法制度をつくっていくのか、支援をしていくのかということが大事なわけでありますけれども、今回の法改正で少し懸念をされるところに、自治体の関与、特に町づくりの責任者としての自治体の関与が余り示されていないというところに心配があるわけであります。

 原田参考人にお尋ねをしますが、この点について、原田さんはどのようにお考えになっておられるのか、お話しいただきたいと思います。

原田参考人 農業は、先ほども松本参考人が申されましたように、まさに、動いていかないその地域の土地、地域の資源の一番ベースである土地を利用して行われるものです。ですから、そういう意味で、従来から、まさにそこに根差した、しかも農作業に常時従事する家族農業者が基本になってきたし、また、そうであるからこそ、農業が維持され、かつ社会が安定してきたという経過があろうかと思います。

 そして、だからこそ、国の行政が直接そこにコミットするには距離が遠過ぎる場合、しかも地域の農業あるいは産業、経済の状況、人口、高齢化等の状況が多様化していく場合には、当然に地域ごとでいろいろな施策を考え、妥当な方向を決め、そして実際に自治体がいろいろな役割を果たしていくべきだというのが出てくるのが、おのずからのことだろうかと思います。

 私は、きょうはほとんど触れませんでしたが、フランスの農地制度や農業政策を比較研究としてやっておりますが、大体一九八〇年代から、まさにそういう、いわば国がやっていた構造政策を地域化させ、地域化したレベルでより踏み込んだ、具体的な施策が展開できるようにするという方向が出てきて、それが継続しております。

 日本でも、大体九〇年前後から、フランスの施策をモデルにしたかどうかはわかりませんが、市町村の役割がだんだんふえてまいります。市町村が基本構想、その上に県がありますけれども、実際に重要なのは市町村の基本構想で、その基本構想の中で方針を決め、認定農業者を認定するようないわば基準も決め、市町村が認定して、次の担い手を選ぶわけではありませんけれども、次の担い手を特定し、その支援をしていくというような仕組みができ上がっていったわけです。その多くは今日まで続いていると思います。それをベースに、先ほども触れた利用増進事業がやはり市町村の事業として、七五年から入ったということがあったと思います。

 ところが、今回、市町村が余り表に出てこない。なぜかと申しますと、従来の特定法人貸付事業ですと、市町村の基本構想の枠内でそれが許容されました。その方針に従って、どの地域でどういう条件で受け入れるかという仕組みがあったわけですが、今回はそれを取っ払うわけですから、逆に言うと、市町村がそこには出てこないで、むしろ直接に農地法に基づく、そして重要な部分では政令があるんだと思いますけれども、それに基づく許可を農業委員会に対して申請するという形になるわけです。ですから、市町村が引っ込んだ分、逆に農業委員会が非常に表に出て役割がふえ、大丈夫ですか、大丈夫でないとは言えませんという状況にもなってきているわけでございます。

 そうしたときに、次の問題は、ちょっとよろしいでしょうか、もう一つ。

遠藤委員長 手短に。

原田参考人 はい。

 次の問題は、農業委員会にたくさんの役割が与えられるんですが、例えば参入してくる企業があります、他方で、地元ではこういう面的な利用集積計画を立て、こういう担い手を育てようとしています、ところが、地代が高いので貸したいという参入企業が出たときに、先ほどの地域のレベルでの総合的な、しかも有効な農業的利用という基準をもとにして、農業委員会が許可を拒否できるかという問題が出てまいります。

 許可を拒否しますと、当然ながら、許可の取り消し訴訟が出てくるわけです。その矢面に農業委員会が立つわけですね。いわば、そこまでの状況になってくる仕組みになっているということを言っておきたいと思います。

 だから、市町村が減った分、市町村が後ろに退いた分、農業委員会が前に出てくる、そういうことになっているんだと思います。

石川委員 時間が来たので終わります。

 皆さん、どうもありがとうございました。

遠藤委員長 次に、西博義君。

西委員 公明党の西博義でございます。

 きょうは、三人の参考人の皆さん、農地法の改正に大変有益な御示唆をちょうだいいたしまして、ありがとうございます。

 早速でございますが、質問をさせていただきたいと思います。

 私は、和歌山県の中山間地にずっと住んでおりまして、十五年前にこの仕事になるときに初めて和歌山市内に引っ越してきておりますが、いまだにその一軒一軒の状況というのは、おつき合いがありますからよくわかっております。

 戦後、農地解放がありまして、たくさんの人が農業に従事をいたしました。もちろん耕作という意味では同じ人たちがやっているというふうなことだろうと思いますが、その後、だんだんと経済が発展して、その経済に農家の収入が追いつかない。中山間地ですから、もちろん面積も狭うございます。経済に追いつかない。やむを得ず、ここで兼業という形でその生活を補うための仕事が始まります。といいましても、そうなりますと、ほとんどがサラリーマンなり、他の収入が中心になる。ただ、それでも先祖伝来の農地だけは何とか維持をしていくという形態がずっと続いてまいりました。

 私は今六十歳ですが、私から大体十歳ぐらい下まででしょうか、何とかそういう形で残る人は残る。それでも、兄弟の中でだれも残らないで、全員が出ていく、もしくは家ごと出ていく、こういう状況が続いております。今現在の各家庭の状況を見てみますと、私たちの世代はまだいる人も結構いるんですが、その子供たち、大体三十前後でしょうか、この人たちはほとんど実は残っていないんですね。

 もちろん、その世代になりますと、小さいころに農業を手伝って土を感じている人すらもいません。そういう人たちがほとんど都会に出ていっている。さらにもう十年も二十年もして戻ってくるかというと、きちっとした仕事についていますし、遠くにいるということで、帰ってくる当てがないというのはほぼわかっている家庭がたくさん存在する。ただ、何とかそれぞれが家の後を守っている、農地を守っている、こういう景色なんですね。

 かといって、今困っているから農地を売らないと生活できないというわけでもないという意味では、所有と営農というものを切り離すということは、ここは一歩踏み出さなければいけないと思いますし、やはりもう待ったなしの時点に来ているのではないか、こういう感じがするわけです。

 同時に、彼らというか私も含めてですが、彼らの農業に対する思いというのは、やはり収入のごく一部ですから、私はいつも、篤農家はいても経営者はいない、こういうふうに言うんです。農業に対する経営的な観点からすると、もう少し有効に農地を利用して収益を上げるということが大規模化して、例えば小田島参考人のような方が出てきてやっていれば、そういう観点からもまだ希望が出てくる、そういう意味合いがあるのではないか、こういうふうに思っているわけでございます。

 そういうことで、今回のこの農地法改正によって、いろいろとまだ不明確な面もあるんですけれども、今後のことにつきまして、私は中山間地なんですが、全国各地にいろいろな農村がありますので一概には言えないんですが、どういう風景があらわれるのかなと。

 つまり、長い間、日本が農業というものを維持してきて、我々、この時点に立って、この農地法の改正によって新たな要素が加わる、そういう意味では画期的な転換点であることは間違いない。これだけがすべてではないということはよくわかっているんですが、耕作者を中心とした流動化が起こるという意味では転換点になるであろう、こんな思いでおります。

 実は、十五年前に私のところの田舎に立派な企業が進出してまいりまして、ところが数年前に撤退して、雇用もまたがくんとだめになる。これも、つわものどもが夢の跡というか、本当に長い目で見ればいっときのことであったなと、こういう感慨も持っておりまして、この新しい流れが将来にどういう影響を及ぼすのか。まことに法律家にお聞きするのはちょっと申しわけない気がするんですが、少しそういう観点から原田先生の御感想をお願いしたい、こう思うのですが、いかがでございましょうか。

原田参考人 確かに法律家としては非常に答えにくい御質問でございます。私が多少とも農地制度のことを研究する以上、そのようなことも多少は常に頭に置かなければいけないんですが、的確なお答えができるかどうかは定かでございません。

 ただ、思いつくままに何点かだけ申し上げますと、いい言葉ではないんですが、いわゆる限界集落と言われる言葉がございます、ふえてきていて、どうするのという問題があります。その限界集落のレベル、概念でカバーされるような地域がどんどん広がっていくとどうなるんだろうかという問題になるんだと思います。

 私自身も実は育ちは田舎でありまして、必ずしも中山間地じゃないんですが、ただ、同じ世代はやはり出てきていて、後に残っていないというのは同じことで、状況はよくわかります。そうした場合に考えられるのは、一つは地域社会としてどうなるのということと、そこにおける農業経営、農地の農業的利用がどうなるのということとの二つのことをどう結びつけた施策がやれるかということだと思います。

 要するに、そこに人が残ることを希望するのであれば、残った人がそこで生活し、なりわいとしてやっていける、農地を利用することでやはり収益がある、あるいは、少なくとも損はしないという状況をつくるような施策が必要なんだと思います。そのために一定の規模拡大が必要であれば、やった方がいいし、それを利用権でやるのであれば、利用権でやることは何も問題はないと思います。

 そういうことの一環として、例えばそれを農業面から後押しする施策が、ヨーロッパでいう条件不利地域に対する特別の対策でありまして、山岳地域には山岳地域で特別の対策があります。日本もこれまで幾つかの施策が入っていますが、それがどういう役割を果たしているんだろうかというような問題にもなるわけです。

 済みません、ちょっと長くなりますが、それからもう一つは、そこで農業を続けるとした場合に、その続ける人が、小田島参考人もおっしゃるような、あるいは松本参考人もおっしゃるような、やはり地域に根差した、地域と関係のある主体がどうやってやれるかということですね。

 地域と関係のある主体であれば、無限定にほうり出すことはやはりできない。何らかの形で地域の協力を得ながらやっていくということがいわば希望できるし、期待できるし、可能だろう。ところが、先ほどもおっしゃいましたように、優良企業であっても企業が入ってきた場合、やはり採算がどうにもならなくなれば、企業は地域から離れて撤退するということになる。

 その辺のところをどういうふうにしていったらいいのか、よくわからないところがありますが、そういう問題を考えながら、まさにいろいろな施策をつくり、かつ、それを可能とするような立法を展開していただきたい、こういうふうに思っている次第でございます。

西委員 ありがとうございました。突然の妙な質問で、失礼いたしました。

 先ほどからお伺いしていますと、それぞれの参考人の皆さん、これは一つは形態もあるんですが、まず地元の主体の農業者であるか、これが一つの安心にもつながる、信頼感にもつながる。同時に、その形態がどうなのか。例えば、個人なのか、集落営農をやっているのか、または株式会社なり法人なのか、こういうバランスというものがどういうふうに組み合わさって、これからの各集落の農業経営をやっていただくのか。

 もちろん、維持してそのままやっていただく方はそれはそれで大いに結構なんですが、そうでない、流動化していく農地に対する考え方というものが、原田先生のお話では、これは差はないんだと。法律上、差はないということは、当然これはそうなんですが、本当の意味で、これから具体的に決定をしていく過程において、どういうふうな観点で物事を考えたらいいのかということの中に、一つは経営主体というものがやはりあるのかなという気もするんです。法律上ではなくて、実際の運営上にそのことがどういうふうに影響を及ぼすべきなのかということについて、先生のお考えをお聞きしたいと思います。

原田参考人 お答えいたします。

 今、最後におっしゃられました、経営の主体あるいは形態のあり方が実際の運用上どういう影響を及ぼすかとおっしゃられた趣旨を、もうちょっと明確にしていただけますでしょうか。その趣旨のところがちょっとわかりにくかったんですが。

西委員 法律の上では、そういう経営主体がどうであるということは特に明記はされておりませんが、実際に、ある人が農地を提供したい、そこにいろいろな人が申し出をしてくる、そういう判断の中で、経営の主体、あり方というものが、現実の場として、どなたかを選ぶということになってきますよね。どなたかがそこを耕作していただくということになった場合に、どういう物事の考え方を現実の、例えば農業委員会なら農業委員会が判断するということになると思うんですが、この所有者と利用者との間をつなぐ人たちの意思決定の間に、そういう経営の主体というものをどう考慮していったらいいのか。そのことについてのお考えを、先生、もしそういうものがありましたらお教えいただきたい、こういうことです。

原田参考人 ちょっとうまくお答えできるかどうかわからないところがございますけれども、一、二点だけお話しいたします。

 法の上で、個人か法人か、また、その法人が有限会社か株式会社か等は余り問題とされない。他方で、集落営農というのももう一つはございますね。ただ、集落営農も、現在の農政の方針ではできるだけ法人化させるということになっていますから、法人になる。

 ですから、逆に申しますと、個別経営の場合にはそれほど多様でないかもしれませんが、法人化した場合には、その法人の実態とか性格は非常に多様なものが出てくると思います。ですから、そういう意味の法的な性格の面の多様性は、ある意味では当然かもしれない。

 問題は、もう少し実質的な意味のことを恐らく御質問になりたかったんじゃないかと思うんですが、その中身については、先ほどからお話ししている、あるいはほかの方もおっしゃっているようなことなんじゃないか。やはり地域に根差していることが重要なことなんだと思うんですね、農業に関しては。地域の農地を預かって利用していく、その利用の中身を信頼されるということが重要なんだろうと思います。

 それからもう一つは、先ほどからおっしゃられている中山間地域のようなところでは、そういう主体自体がなくなっているということに大きな問題があるわけでございまして、その主体をどのようにつくるか。これがまさにそれぞれの地域の努力であり、その後押しをする農政あるいは市町村等の重要な役割になっているんだろうと思うんですが、そこから先はちょっと何とも今、簡単には申し上げられないような感じがしております。

 済みません、お答えになったかどうかわかりませんが。

西委員 よくわかりました。そういう主体の違いというよりも、近くの人で、日ごろからつき合いがある人の方がいいという御趣旨だと思います。

 特に、水田経営は、台風が来た、水道が壊れたと、いろいろな意味で共同で作業しなければいけない緊急なこともあるものですから、私は、そういう意味では、常に集まったり相談したり、また共同作業をしたりということのできる範囲の人たちが、これは希望ですが、だれもいなければほかの手段を考えないといけないんですが、それが優先すべきだというふうに考えております。

 小田島参考人に、きょうは本当にお忙しいところをありがとうございました。

 私の考えている、企業さんが農業に参入されるということに対して、本当に理想的な形で地元の中で活躍をしていただいているということがよくわかりまして、こういう形ならば、みんなが信頼をして、集落の皆さんが自信を取り戻して、そして社長さんのリーダーシップのもとで新しい農業の方向性というものを指し示していただけるのかな、こういう思いで聞かせていただきました。

 現在のところは、なかなか貸していただくところがぽつぽつと点々としているので多分効率が悪いけれども、この法律が通ると、もう少し集約化して効率のいい農業の展開ができるし、もっと言えば、株式会社の方でもいわゆる平地における農地が取得できるという希望を述べておられましたけれども、中山間地よりも平地の方が今、たくさんの人たちが農地を出しておられるというふうにちらっと聞いたんです。

 私は、ちょっとそれはどういうことかなというふうに疑問に思いました。条件のいいところでたくさんの人がやはり農業を手放されているということは何か理由があるのかどうか、ちょっとお尋ねしてみたいと思います。

小田島参考人 中山間地のところは、もともとの経営規模も小さいですし、一戸一戸の経営規模が小さいですので、結構皆さん、いまだに所有者がそのまま自分たちでやっておられる方が多いです。

 平場の方は、もう既に貸しているといいますか、ほかの農業者の方に任せているというのがかなりありまして、その任された農業者が今大分年老いてきているということで、その方が体調を崩されたり、また家族の方がぐあいが悪くなったりというようなことで、自分の所有しているところはつくれても、借りていたところはもうつくれないというようなところで、今、やる米花農業の方にいろいろとつくってくれという話は来ております。

西委員 ありがとうございます。自分のところで手いっぱいという状況がわかるような気がいたします。

 これからの展望について参考人にお伺いしたいんですが、もっと規模拡大をしていくおつもりはあるのかというより、先ほどのお話ですと、その集落の三分の一から半分ぐらいまでは私が引き受けなければうまくいかないのではないかという責任を感じておられるようにも見受けられたんですが、今の米づくりをずっと拡大していこうとされているのか、これからの経営の展望を少し聞かせていただければうれしいです。

小田島参考人 中山間地というところでも、今頑張っておられるといいましても、五年、十年と先になれば、もうつくれなくなってきているのではないかというふうに先も見えております。

 それで、比較的条件のいいところは、今そのまま米づくりにしていきたいと思っておりますが、ちょっと中山間地の、さらに条件の悪いようなところは、ソバだったり山菜だったりというふうなものに転換していきたいなと考えています。

西委員 ありがとうございます。御活躍をいただきたいと思います。

 それでは、松本参考人にお伺いしたいと思います。

 一般企業等の農業への参入について先ほどから随分議論がありますが、これは先ほどもちょっと原田参考人にもお伺いしましたが、農業委員会としてどういう観点でこれから取り組んでいかれるのか、どういう留意が必要なのかというお考えが、これから先のこととしてあらかじめありましたら、ぜひお願いをしたいと思います。

松本参考人 お答え申し上げます。

 多様な観点からいろいろ考えなきゃいかぬと思いますけれども、とりあえず二つばかり思いますのは、先ほど来お話ございますように、農業委員会として、この制度が形になった場合には、まじめに真摯に受けとめて対応していかにゃいかぬということになるわけでありますけれども、言葉で言うのはやすいんでありますけれども、実行するのはなかなかこれは重い話になるんだろうと思うんですね。経営主体として、その地域の農地を有効利用するという観点、これはだれも否定しない。そういう観点に限りましては、これは選別もできないのだろうと思うんですね。

 ただ、その場合、やはり先ほど来ございましたように、目の届くといいますか、地域の合意形成なり調整をしなきゃいかぬということであれば、目が届かにゃいかぬという物理的な条件を受けざるを得ないわけであります。

 そうであれば、やはり法人というのは法人であります。小田島参考人さんなんかは本当にはっきりなさっておられるわけですけれども、どこかの、あちこちのはるか日本の端から、本社はそちらにあって、さあ、入ってきて、ひとつやるぞ、地域のためにも協力するぞ、地域農業振興も踏ん張るぞと言われましても、本当にそれが正しいかどうか。なかなか、悪い法人さん、よい法人さんというのは、これは多分仕分けできないので、そこをどのように、農業委員会で考えにゃいかぬということよりしようがないわけですね。であれば、やはり第一義的には、出処進退がはっきりする、住所もはっきりしておる、こういうことがまずはわかりやすい。

 しかしながら、これはなかなか、今の日本経済、社会の中では、東京に本社があっても実際はそのまた後ろに別本社があるというのが一般でありますから、このあたりは相当これから実行上重い話になってくるんじゃないかというような感じを持っています。これは相当知恵を出さにゃいかぬと。

 そのときに、例えば一つ思うのでありますが、では、これは自然人と法人とまた区分けするのかどうかということもあるのでありますが、今回、参画されるといいますか、地域社会、地域農業へ入ってこられる、そういう法人さんに定期的にポイントのみを農業委員会の方に報告いただく。要するに、出処進退なり状況を定期的に報告いただく。

 今、農業生産法人は制度上、そうなっておるんでありますけれども、何かそういうことがなくては、もし、これから何かアクシデントがあったときに、では、行政委員会、農業委員会、いろいろと問われまして、そのもとはどこなんだといったときに、どこへかけてもわからない。多分、何か事業本部長はおられるようだけれども、何か本体の経営者はどこなんだかよくわからないというようなことが、これはまあ想定ですけれども、心配されるなというふうなことは感想的に思っています。

 率直に今申し上げましたように、例えば定期的な報告をいただくようなことだって仕組めるんじゃなかろうかというようなことを思っております。

 以上であります。

西委員 時間が参りました。先ほどから議論がありますように、農業委員会並びに、県の組織も含めてそうですが、これからこの大きな法律改正によってますます重大な役割を担っていただくことになります。多分、人員の増加なんかも考えなければいけないような事態になっているんじゃないかというふうに思います。これから我々もこの改正がきっちりと履行されるように努力していかなければいけない、こう思っております。

 三人の皆さん、きょうは大変にありがとうございました。

遠藤委員長 次に、菅野哲雄君。

菅野委員 社会民主党の菅野哲雄でございます。

 三人の参考人の方々、本当に長時間にわたって貴重な御意見をお聞かせ願えて、ありがとうございます。最後の質問になりますけれども、若干の意見をお聞かせ願いたいというふうに思っています。

 最初に、原田参考人の方から質問させていただきたいというふうに思うんです。

 先ほどもるるお話がございましたとおり、農地法、戦後の農地解放以降、いろいろな歩みをたどってきています。ただし、第一条の農地の耕作者主義というものはこの間ずっと守られてきたという認識に私は立っています。一九七〇年の利用権の拡大ということから始まって、今日、農地を社会全体で利用していこうという形での法改正というのが並行してなされてきているんだというふうに思っています。

 そういう意味で、今回のこの農地法の改正というのは、まさに戦後農政のこういう歩みの中で大転換を図っていくと私どもはとらえているんですけれども、論文のところで、「「再構築」の名の下で農地制度を自壊の道へ誘う改正になると思われてならない」、あるいは終わりの始まりという評価を下されているのも、いろいろな今回の農地法の改正の中身にそこが含まれているとおっしゃっています。

 この点について、論文の中でいろいろ説明はしているんですが、簡潔にお考えをお聞かせ願いたいというふうに思うんです。よろしくお願いします。

原田参考人 お答えいたします。

 参考資料としてお配りした論文に「自壊する農地制度」という表題をつけたのは、時評であるし、それなりに関心を持っていただきたいということもあってそういう名前をつけておりますが、私自身として、ただそういう名前をつけたつもりはございません。

 そこで、今の御質問に対してお答えいたします。

 私は、農地制度が土地制度一般の中にあって固有の存在を認められ、固有の存在意義を果たし、機能を持つというのは、農地が農地という特殊な資源、地域資源、生産資源あるいは環境資源、いろいろなことがあると思いますが、であるがゆえに、その段階のある社会において、所有権に対する特別の法規制を課せられる、そのことが根幹にあるからこそ、農地制度が固有の制度として、例えば都市計画制度なんかとは別個に存在するんだと思います。都市計画の制度も、基本的には、都市にある土地所有権、これは私的所有権の集合体であるわけですが、都市的な利用であるがゆえに、それに一定の必要に応じて固有の規制を課すので、固有の存在理由があるわけです。同じ論理が農地にもある。

 ですから、戦前の場合には民法だけでカバーしておりましたから、こういう農地制度はなかったわけです。農地だからこその特別の制限というのはなくて、ごく軽い賃貸借上の規制が昭和十三年の農地調整法、そして、これは重要ですが、昭和十二年の転用統制という形で、戦時立法で入ってきたわけですね。

 他方、戦後は農地改革を経ましたから、だからこそ、農地の所有権は戦後の農村社会の基底にあり、農村社会の民主化、近代化の基礎である、農業の基盤である。それであるがゆえに、他の土地一般とは違う固有の法規制をかけられてきたわけです。

 その原則を、当時は自作農主義といい、その後は耕作者主義の形で位置づけて、権利移動統制、小作地所有制限等を課す、その中で政策上必要なものは例外として一定の自由化、一定の規制緩和措置をしながら動かしてくる、こういう仕組みであったわけです。

 ところが、今回、貸借に関しては、その規制自体が基本的になくなって、利用権で取得する主体を非常に大幅に自由化します。そしてそれは、農地所有者の側から見れば貸す自由なんですね。小作地を所有する自由なんです。それが広がるわけです。

 そして、第一条にあった農地所有権の、特にそういう農業内部での利用の規制を根拠づける規定が基本的になくなりました。例えば、耕作権を保護し耕作者の地位の安定を図るというのがあると賃貸借の規制、保護規制が論理づけられるんですが、その部分もなくなりました。

 もちろん、転用統制のところは新しく入って、これはこれで別の評価を必要とするところがあると思うんですが、ちょっとそれは横に置きます。

 そうしますと、今後、農地について、農地だからこそ特別の規制を課すというのは転用規制以外でどこに残るんだろうかということです。今、唯一残るのが、三条二項一号の、所有権の取得については従来どおりの常時従事義務を残すということなんですが、その規定を根拠づける部分が新しい法制度の中では非常にもろくなってしまった。だから、その規定の根っこを掘り崩されているわけですね。

 もしそれがなくなると、本当に所有権規制の部分が農地制度の中から消えます。転用規制だけが残る。しかし、それでいつまでもつんだろうかというような問題がやはり考えられる、それで、自壊するという言葉を使わせていただきました。

菅野委員 原田委員にもう一点お聞きしておきたいんですが、松本参考人は先ほどの陳述の中で、株式会社一般の農地所有権の取得は将来的にも認めないことということをずっと強調しておられたというふうに思うんです。

 今、終わりの始まりと言われているのは、今回の農地法の改正で、一般企業が農地の利用権という形で参入できる、ここまで進んだ中で、一般企業に将来とも所有権は認めないことということをこの農地法の改正でどこまで担保できるのかなというのは非常に私は疑問に思うんですけれども、原田参考人の方からその点についてもお聞きしておきたいというふうに思うんです。

原田参考人 株式会社一般の農地所有というだけではなくて、恐らく個人の問題も同じように並んでくるんだと思います。

 きょうの議論の中ではほとんど出ませんでしたけれども、貸借の自由化というのは、別に東京に本社のある企業だけではなくて、例えば東京でみずから会社経営をやっている個人がどこかへ農地を借りて、そこに人を派遣して農業をやりたいという場合も、これも可能になるわけですね。

 その個人がやがて、その土地の所有権を取得できないかという問題も当然出てくるわけです。例えば、東京に住んでいる中小企業の経営主が個人で鹿児島に農地を借りて農業をやってきた、やがてその土地を買いたい、しかし今は買えない、こういう問題がパラレルで起こります。

 そして、そういう個人であれ株式会社であれ、松本参考人がおっしゃいましたように、所有権取得までは認めるべきでないという考え方は現時点ではかなり強くて、かつ、そこまでは進めないというのがこの法案だと思います。

 だから、三条二項一号で常時従事要件を残し、かつ、所有権の取得については個人と生産法人に限るようにしたわけです。

 しかし、何度も申し上げますが、その規定の存在を根拠づける理由、法律の制度論理に従って、だからこそこの規定はこう位置づけられるんだという、法の制度的な論理構造の中での根拠づけができなくなってしまっているのではないかということが私は非常に気にかかるわけであります。

 ここはいわば私の法律家としての分析であり、ある意味では勘であり、そこが状況が変われば、むしろ、こんな例外をなぜ残したんだ、もうなくしてしまえという動きにならないか、あるいは賃貸借と同じようにしたいという動きにならないか、それをどこでどういう理由でいわばブロックできるか。法に論理があれば、法の論理がこうだからこうなんですと言えるんですが、それが非常に難しい。そういう状況になったのではないかというふうに思っております。

菅野委員 そこが私は大きな論点だというふうに思いますから、これからも委員会を通じてしっかり議論していきたいと思っています。

 次に、小田島参考人にお聞きしたいんです。

 ここが私は企業が参入する大原点だというふうに思うんですけれども、地域に根差して信頼されることが大前提なんだ、最も大切なことなんだと先ほど意見陳述をなされておりました。まず、そういう視点に立って、地域に根差して地域の人たちと一緒に地域を再興していこうという形での企業参入というのはあってもいいんだと私は思っているんです。

 それで、一つ目は、平場ではなく中山間地域に参入していった理由というのはどこにあるかなと。私どもは、企業が参入する場合、平場の本当に条件のいい地域にしか参入していかないんじゃないのかというふうな思いを持っていたんですけれども、小田島参考人、この理由というものをお聞きしたいというふうに思うんです。

小田島参考人 そんな大それた思いがあったわけじゃありませんで、参入した農業特区の地域要件というか制限で、一応、中山間地にということで制限がありましたので、その関係でそちらの方に参入したというような形です。

菅野委員 一つは、出発が、やる米花という農業生産法人から出発していって、そして平成十六年に特区制度ができたものですから、その特区に乗っかって株式会社としてやって今日に至っているという状況と理解しているんです。

 その場合、特区というのはある意味試験的な形でやるという形で進んできているというふうに思うんですけれども、やる米花の農業生産法人のままではどうしてもできなかった部分、やる米花の農業生産法人の段階でここに問題があるから特区に乗っかったんだというところがあれば、やる米花から特区に乗っかるときの条件というか、その点を教えていただきたいと思うんですけれども。

小田島参考人 もともと当社で当初からやりたかったというのが本音だったんですけれども、当時はそういう特区という制度もなかったので、農業生産法人という形で入らせていただきました。

 それで、農業生産法人では資金的な面でやはりまだまだ脆弱なものですから、当社は今までの、昭和十五年から営業してきている、蓄えと言ってはちょっとあれですけれども、いろいろな、土地、資金面を含めてそんなものがありましたので、そういうことであればそちらの方がより強力に経営できていくのかなということで、参入させていただきました。

菅野委員 小田島参考人は、ある意味では、現在の農地法というものを認めているというふうに思っています。先ほども議論があったんですけれども、今の農地制度がなくなったらかえって無責任な業者が入ってくるんじゃないかということもおっしゃっていますし、もうからなくなって引き揚げたとき地域はどうなるんでしょうかという疑問を呈しています。

 今回、一般企業が利用権のもとで参入して拡大していったならば、かつての、大型店が地域に入っていって地域の中小の商店街が壊滅的打撃を受けてしまったという状況になっていくんじゃないかという物すごい危惧を私自身も抱いているんですね。

 松本参考人もこの点に対しては非常に懸念を示しているというふうに思うんですけれども、小田島参考人の方からこの点についての再度の御見解をお聞きしておきたいというふうに思います。

小田島参考人 確かに、何らかのフィルターというものは今でも必要ではないかと私も思っています。それが行政ではなくても、先ほどから言っております農業委員会であってもいいんではないかなというふうに思っていますし、先ほど松本参考人もおっしゃられましたとおり、農地はそこに動かないわけで、どなたが来られても、その地域の方というか、近くにいないとなかなか農業というのはうまく生産できないと思っております。

 また、会社経営のいいところは、個人経営ですと、一人がだめになるとそれでだめになってしまう場合もありますけれども、補充がきくといいますか、一人がだめになっても次にかわりがきくというところは、逆に言えば会社が取り組む上でのメリットではないかなというふうに思います。

 以上です。

菅野委員 先ほど言ったように、地域に根差して信頼されることが大切だというときに、やはり私はそこが原点だというふうに思うんですけれども、地域は、高齢者になって、ほとんど、農地を耕作放棄地にするかだれかに耕作してもらいたいという中で賃貸借をやるんですけれども、一番不安なのは、貸した人たちがずっと将来的にもそこを耕作し続けていくということが条件だというふうに思うんですけれども、貸したけれども後で返されてしまって、うちは返されたって困るなということが今現実に地域では起こっているわけです、個人的な会社と。

 そうしたときに、先ほど言ったように、私は、会社経営ということは、本当に将来的にもずっと永続的に農地を借りて経営していくんだという強い決意がないと地域から信頼される力というのは生まれてこないんだと思うんですけれども、将来にわたって会社として借りた農地を有効に使っていくんだという現時点での決意のほどを、どう思っておられるのか、お聞かせ願いたいというふうに思います。

小田島参考人 もとのにも書いてあろうかと思いますけれども、始まった以上ずっとやっていきたいと思っていますし、会社がなくなればそのときはわかりませんけれども、会社がある限りそのまま続けていきたいと思っております。

菅野委員 会社だけじゃなくて、本当に今、農業を継続していくということに物すごい厳しさというものが存在しているから、単に農地法を改正するということじゃなくて、国としてのあらゆる手だてというのが必要なんだという立場から、これからもしっかりと取り組んでいきたいというふうに私は思っています。

 永続的に経営ができていくような、農地を耕作していくような体制というものを、中山間地域、平場に限らずしっかりとした体制というのは、現行のままではだれもいいというふうに思っていませんから、ここが農地法と並行してしっかりと議論しなければならない点だというふうに私は思っております。

 最後になりますけれども、松本参考人からお聞きしたいというふうに思っています。

 先ほど、入り口が開かれたわけですから物すごくいろいろな規制をかけていかなければならないというのは、これはそのとおりだというふうに思うんですね。逆に、今までは入り口が規制されていたから中間での規制というのは余りなかったというふうに思うんですけれども、そういう意味で、農業委員会の存在というものが、先ほども議論になっていますけれども、非常に大事になってきているんだというふうに思います。

 それで、業務量が物すごくふえるなというふうに私は思っていますし、ある意味では、そこに対応するための農業委員会としての権限というものがどれだけ付与されていくのかというところにもかかわってくる問題だというふうに思うんですけれども、今回の農地法の改正に当たって、農業委員会のあり方等について、参考人としての改めての見解をお聞きしておきたいと思います。

松本参考人 重ねて申し上げますけれども、私ども系統組織としての現場は、行政委員会、農業委員会の組織として、今般の法改正案を踏まえますと、まさに真正面から受けとめて対応する、この一言に尽きるんだろうと思います。

 しからば、弱小といいますか、なかなか十分じゃない体制をどうするか、まさにそれを、本立法府なりあるいは各行政機関本体が十分に御配慮いただきまして、この体制をおつくりいただきたい、このようにお願い申し上げたいと思います。

 それから、先ほど名前が出ましたので申し上げますが、まさに、将来にわたりまして所有権については決して認めないようにということを意見開陳で申し上げました。このことにつきましても、法治国家でありますから、まさに最終的には本委員会に帰するものである、このように思っておりますので、この点についてもよろしくお願いしたいということを重ねてお願いいたします。

 もう一つ申し上げますが、そういう中で、具体的に新しい参入者、参入される企業等の判断基準をどうするのかといったときに、やはり荒唐無稽な基準ではどうしようもないわけであります。現実の世界でありますから、例えば地域での農業計画をきちんと出していただけるような法人であってしかるべきであります。

 なぜかと申しますと、昨年来、こういう法律大改正が目指されるというようなことが世にいろいろとマスコミ等でも流されました。私ども農業会議所にも、あるいは私どもの県組織でございます都道府県の農業会議にも、体制は十分でございませんけれども、いよいよ自由に農業に入れるんだな、自由に農業経営をやるんだなという大変膨大な御相談が来ております。一から御説明申し上げますと、むしろ怒られます、何だと。

 こういう状況でございますから、まさにこういうことについて、これからこの制度の精神をどのように国の隅々まできちんとつないでいくか、これにかかっているんだろう、このように思っております。

 以上であります。

菅野委員 きょうは参考人質疑ですからこれ以上突っ込みませんけれども、実際に、地方分権あるいは市町村合併等で、農業委員会は本当に厳しい状況に追い込まれているんだ。私は、決意だけで乗り越えることができるのかなという物すごい心配を持っているんです。

 それで、地方分権、三位一体改革で、かつては農業委員会交付金が百億あったんですね。今は、三位一体改革、地方分権という流れの中で、ずっと平成十八年度から四十七億しか交付されていないんです。かつては、農業委員会は要らないという状況まで言われ続けて、先ほども参考人の陳述の中で、市町村合併で三千二百三十五が四四%減って千八百十八という農業委員会の数になった、そのことによって委員数も減る、あるいは委員一人当たりの面積もどんどん拡大していくと。

 こういう中で、今、不法転用という状況が放置されていると新聞報道もされている中で、私どもも立法府として真剣に取り組んでいきますから、全国農業会議所としてやはりもっともっと政府に対して改善策を要求していかない限り地方は大変だというふうに私は思うんですけれども、この点について見解をお聞きしておきたいと思います。

松本参考人 ありがとうございます。

 市町村農業委員会からは今日大変な御意見が寄せられておりまして、これに農業会議所といたしましてきちんとこたえにゃいかぬということであります。それには、まさに今、大役でありますから、後顧の憂いなく、これから地域社会、地域農業を支えていくということで農業委員会が活動できる、こういう体制に全国農業会議所としては取り組まにゃいかぬということでございます。

 立法府、あわせまして行政府に、この点についてくれぐれも深い御理解を賜りたい、このように思っております。

菅野委員 ありがとうございました。以上で終わります。

遠藤委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、大変貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、明十五日水曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時一分散会


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