衆議院

メインへスキップ



第4号 平成25年5月28日(火曜日)

会議録本文へ
平成二十五年五月二十八日(火曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 武田 良太君

   理事 今津  寛君 理事 大塚  拓君

   理事 薗浦健太郎君 理事 中山 泰秀君

   理事 武藤 容治君 理事 長島 昭久君

   理事 阪口 直人君 理事 遠山 清彦君

      青山 周平君    岩屋  毅君

      大野敬太郎君    勝沼 栄明君

      門山 宏哲君    岸  信夫君

      左藤  章君    笹川 博義君

      東郷 哲也君    中谷 真一君

      野中  厚君    浜田 靖一君

      武藤 貴也君    大串 博志君

      篠原  孝君    今村 洋史君

      中丸  啓君    國重  徹君

      畠中 光成君    赤嶺 政賢君

      玉城デニー君    照屋 寛徳君

    …………………………………

   防衛大臣政務官      左藤  章君

   参考人

   (キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

   (立命館大学客員教授)  宮家 邦彦君

   参考人

   (一般財団法人日本エネルギー経済研究所常務理事兼中東研究センター長)   田中浩一郎君

   安全保障委員会専門員   湯澤  勉君

    ―――――――――――――

委員の異動

五月二十八日

 辞任         補欠選任

  笹川 博義君     青山 周平君

  伊佐 進一君     國重  徹君

同日

 辞任         補欠選任

  青山 周平君     笹川 博義君

  國重  徹君     伊佐 進一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 自衛隊法の一部を改正する法律案(内閣提出第六三号)


このページのトップに戻る

     ――――◇―――――

武田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、自衛隊法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 これより質疑に入ります。

 本日は、本案審査のため、参考人として、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・立命館大学客員教授宮家邦彦君、一般財団法人日本エネルギー経済研究所常務理事兼中東研究センター長田中浩一郎君、以上二名の方々に御出席をいただいております。

 この際、両参考人に一言御挨拶を申し上げたいと思います。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、宮家参考人、田中参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際は委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対し質疑をすることはできないこととなっておりますので、あらかじめ御承知をいただきたいと存じます。

 それでは、まず宮家参考人にお願いいたします。

宮家参考人 皆さん、おはようございます。宮家邦彦でございます。

 きょうは、こんな席にお呼びいただき、大変緊張いたしております。せっかくの機会ですので、この自衛隊法の一部を改正する法律案について、私の個人的な意見を私の個人的な経験に基づいてお話ししたいと思います。今まで余りしゃべったことのない話で、資料がないのは残念なんですが、そのかわり、一度もしゃべったことのないことをいろいろお話しいたしたいと思っております。

 結論から言うと、まず最初に申し上げますが、結論は、これはそんなに難しい話ではないと個人的には思っています。むしろ各国の軍隊が、どう呼ぶかは別として、軍隊が自国民を守る、救出する、輸送する、これは当然の話でございます。そのことを、私は、外務省に入って、アラビア語を研修いたしまして、そのときから痛感をいたしておりました。

 きょうのお話は、私はイラクにおける四つの経験がございますので、そのお話をさせていただいて、後ほど田中さんからは、アルジェリアとアフガニスタンのお話があるということなので、中東のお話を中心にお話しになると思います。

 時間が限られておりますので、先に進めさせていただきます。

 私の個人的な体験第一回目は、一九八〇年九月二十二日、まさにイラン・イラク戦争が勃発したときでございます。

 私は運悪く、イラクの近くのクウェートにちょうどおりまして、バスラに千百人の日本人の方がおられた。そして、命からがら、彼らがクウェートに逃げてこられた。九月二十二日ですから、まだ灼熱の、物すごい砂漠のところで、暑いところで、彼らが逃げてきた、その救援のお手伝いをいたしました。まだ研修生ではありましたけれども、強烈な印象を持っております。

 幸い、彼らはバスラにおりました。バスラからクウェートまでの国境はそれほど遠くありません。しかし、あのとき、もし百キロ、二百キロ奥地におられたら、恐らく彼らは、そもそも来られなかったんじゃないかと思っています。

 最初の数時間、数日間の最もクリティカルな時期に、こういうときに輸送があったらいいなということを本当におぼろげに思ったのが一九八〇年のことでございます。

 当時、大使館におりまして、館員と一緒に、といっても私はエジプトでアラビア語を勉強していたんですが、クウェートの大使館でお手伝いをして、各国の大使館の人たちともお話をしました。そして、一番印象的に今でも覚えておりますのは、アメリカ人が、我々は軍隊が必ず助けてくれるんだ、実際には来なかったわけでありますけれども、彼らはそういう信念を持っていた。それは健全だったんだろうなと私は当時思いました。

 私は、これが実は中東における原点でございます。中東において、戦争と邦人保護、これで、研修時代ではありましたけれども、私のキャリアが始まりました。

 そして次に、イラク・エピソード、パートツーでありますが、パートツーは、この一九八〇年から二年後、研修が終わりまして、私はイラクのバグダッドに赴任をいたしました。

 当時も実は戦争は続いておりました。私の実戦体験の最初はバグダッドでございました。当時、戦争中でもありながら、実はバグダッドから遠く離れたいろいろなサイトで、日本人の労働者の方、技術者の方が働いておられました。彼らは週末になるとバグダッドに飲みに来られました。いろいろ話を聞きましたが、実は当時も相当多くの日本人の方が、戦争中にもかかわらず、ビジネスでおられました。

 そのときに、忘れもしません、一九八二年七月だったと思いますが、イランがバスラの周辺に相当数の師団を配置して、まさに南部に攻め入ろうとしたわけでございます。当時、私が覚えておりますのは、私は政務班員でしたけれども、大使と二人だけになって、どのようにしてこのバスラにおられる日本人の方を救出すべきか、輸送すべきか、そして、何も手段はないんですけれども、退避勧告を出すべきかということを本当に悩んだのを覚えております。これが第二でございます。

 そして第三、もうこのくらいでやめたいところなんですが、まだ二つ残っております。申しわけありません。第三は、これは一九九〇年の湾岸戦争であります。湾岸戦争のときも、私は運悪く北米局におりました。一九九〇年の八月二日にサダム・フセインがクウェートを侵攻いたしました。そしてその翌年、九一年の一月十七日に戦争が始まるわけであります。

 そのときに、当時は日米安保を担当しておったんですけれども、実戦は見ませんでした。しかし、輸送それからロジというものの大切さというものを実際に学びました。当時は日本が、ツーリトル・ツーレートといいますが、遅過ぎる、少な過ぎる支援をしたと言われて批判された時期でありますけれども、当時米軍がサウジアラビアと、クウェートを解放するために駐留をいたしておりましたが、その部隊を全部見ることができました。

 やはり、ああいう能力を持つこと、使うかどうかは別として、能力を持つということはいかに大事かということを当時学びました。

 当時の一番大きな思い出、思い出といいますか経験は、恐らくここにおられる方も御存じないかもしれませんけれども、発表されておりますが、当時、幻の邦人、避難民輸送計画というのがございました。戦争が始まった直後でありますけれども、C130をヨルダンのアンマンからエジプトのカイロまで運航して、そして湾岸戦争で避難民が出た場合にはそれをカイロまで輸送するというアイデアがありまして、その調査ミッションで参りました。そのとき、関係者と一緒に私も出張いたしました。

 そうしたら、ある人がこう言いました。宮家さん、今の計画では、これは湾岸戦争の避難民を運ぶことを目的としてアイデアをつくってあります、しかし、もしそこに日本人の方がおられて、助けてくれというふうに言われたときに、我々はどうしたらいいんでしょうかと言いました。当時、私も、うっと詰まりました。そのようなことは想定していなかったのであります。しかし、私はこう言いました。相手は誰だとは申し上げられませんが、それは、まず運んでから考えましょう、日本人がそこにいて、助けを求めて、自衛隊機が、もしC130が一機あって、それに乗せられるんだったら、まず乗せてから考えましょうと私は言ってしまいました。幸い、その計画は途中で立ち消えになりました。

 しかし、当時から、もし邦人が在外において輸送が必要だと言われたときにどうするかという議論はありました。しかし、それについては触れなかったんです、一九九〇年の段階、九一年の段階では。これも私はトラウマとして残っております。

 続きまして、パートフォー、これが最後でございます。最近のイラク戦争であります。

 当時、二〇〇三年に始まりましたイラク戦争ですが、私は北京におりました。そうしましたら、戦争が終わり、しかし、イラク国内の状況は悪くなる一方で、我々は同僚を二人失いました。その後、私は、おまえ、アラビア語だろう、行けということで行きました。私は、行かない理由はないと思いました、そのためにアラビア語を勉強したわけではないんですが。四回目のイラクとのお仕事になりました。

 このとき、ちょうどサマーワには自衛隊の部隊がおられて、そして、この資料にも書いてございますとおり、C130の輸送機が一部の邦人、記者の方を輸送したという話が残っております。

 もちろんサマーワも大事でありますけれども、我々は実は丸腰でバグダッドにおりました。そして、もちろん自衛隊員の命も大変大切でありますけれども、我々は本当に丸腰で、ある意味で、米軍と一緒に仕事をしておりました。そのときも、やはり誰に救出されるのか、誰にみとられるのか、私は死を覚悟したなんて偉そうなことを言うつもりはありませんが、最期は、死ぬときは日本語で言い残して死にたいと思いました。それは本当です。正直な話でございます。

 これが私のバグダッド、それからイラクにおける四つのエピソードでございます。全てに共通することは、やはり在外において邦人をどのように保護するか、救出するか、これは各国、当然の義務だと思っております。

 今申し上げたことから、私は四つか五つの教訓を導きたいと思っております。

 まず第一でありますが、残念ながら、危機というのは必ず起きるのです。この世に悪意のある人たちがいる限り、危機は起きるんです。起きないのが一番いいに決まっていますけれども、起きた場合、これは何か対応しなければいけないんです。

 第二に、だからこそ各国の軍隊はいろいろな準備を備えているのであります。そして、考え得るあらゆる可能性について対応するように準備をしているわけであります。

 第三に、この問題は戦闘の話ではありません。しかし、先ほども申し上げたように、オペレーションの中では、何が起こるか実際にわからないのであります。私も、バグダッドにいて、グリーンゾーンの中にいて、グリーンゾーンを出るときは本当に怖かったです。怖いなんて言えません、今だから言えるんですけれども。それは、何が起こるかわからないので、あらゆる手段を持っていたいというのが本音でございます。

 第四に、大変失礼な言い方かもしれませんが、今だから言えると言ったら言い過ぎかもしれませんけれども、過去数十年、私が経験してきた、特にイラク戦争、イラクでの戦争等を見て私の感じたことは、日本の安全保障問題に関する議論の一部は、明らかに現実離れしているということでございます。私は、戦争を美化するつもりもありませんし、戦争は正しいなんて言うつもりはありません。しかし、これは必ず起きることなんです。そして、場合によっては不可避かもしれません。そのときの準備をすることが国家として当然だと思うわけであります。

 最後に、もう一点だけ申し上げます。

 こんな準備をしても、結局使わないじゃないかという議論があるやに聞きました。私は、使うか使わないかは問題ではないと思っています。そのような能力を持つことが、そのような状況において危機管理をするために絶対に必要な要件なんです。その能力が一つでも欠けることによってその危機管理のオペレーションの能力が低下するということ、そう考えれば、私はできるだけ多くの能力を認めていただくことが正しい道だと思っております。

 最後に、私と、これからお話しします田中さんは、最近、アルジェリアの事件に際して邦人保護の観点から懇談会がつくられまして、委員として話をいたしました。そのときも、この輸送の問題は当然議論をされました。しかし、当時、既に各党間で議論がされていたということもございましたので、私どもの報告書には書きませんでしたが、当然それは議論されたことでございます。

 最後に、もう一点だけ。

 この問題というのは、やはり国家が国民をどのように守るかという観点から議論をしていただきたい問題だと思っております。政局も大事だと思いますけれども、政局と政策は区別をしていただきたいと思います。政局のためにこのような法律ができないことによって、万が一、将来、救える人が救えなかったとすれば、浮かばれないのは国民でございます。それだけは避けていただきたく存じます。

 以上、私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

武田委員長 ありがとうございました。

 次に、田中参考人にお願いいたします。

田中参考人 おはようございます。日本エネルギー経済研究所の田中でございます。

 今、宮家参考人の方からイラクの生々しい御体験についてのお話がありましたけれども、私の方は、幾つかの想定されるようなケースをドリルのように頭の体操として提案して、それによって生じ得る不測の事態というものがどういうものであるのかということ、もちろん皆様もそのようなエクササイズをされていると思うんですけれども、それを提供したいと思っております。

 それに当たりまして、まず法案そのものに対しての評価と私の考え、立場を述べた上で、法案に見られる過不足、恐らく不足はないとは思うんですけれども、そこについて、そして、その後に中東・北アフリカにおけるある種の現実、それをもとに問題提起を行って、このまま法案が成立した場合に、現場として迫られる対応というのはいかなるものであるかということについて指摘したいと思っております。

 まず、法案にあるように、緊急時の邦人保護のために、海外で自衛隊、軍隊でもいいですけれども、自衛隊が陸上輸送を担当する、そういうニーズがあるということは、今回のアルジェリアのケースを見るまでもなく、やはりあると私は認めます。

 それから、さきに、宮家委員とともに、在留邦人及び在外日本企業の保護の在り方等に関する有識者懇談会というものにかかわった関係からも、やはり対処をしておくべきことは今のうちに実施しておくことということは、切実にそう感じる次第であります。

 そのために、やはり自衛隊としてとり得る対応の間口を広げ、派遣が求められるさまざまな事態に対して適切な対処をするべく、その道と余地を残しておく、その必要を理解いたします。

 ただ、このたびの自衛隊法の改正によって法的に陸上輸送が可能になるということと、さきのアルジェリアのイナメナスにおける事件が提示した課題とは少し切り離して考える必要もあろうかと思います。これは、法制度それから自衛隊の能力の問題だけでなく、やはり相手国であるアルジェリアという主権国家が介在してくるためであります。

 まず、大前提として、相手国が自衛隊を受け入れてくれるかどうかという問題がありますし、どこの国でも、自国民保護という名目のもとであるとしても、外国軍をすんなりと受け入れてくるということは必ずしもありません。むしろ、ためらいや拒否反応というものが出るものだと思います。

 アルジェリアに関しましては、その独立の歴史も含めて、やはりその点、特にその傾向が強いと言われるところでございますけれども、それは決してアルジェリアに固有のものではないと思います。

 警察権であれ自衛権であれ、公権力を外国軍に行使させるという状態を占領下でもない中で認める国というのはどれぐらいあるのか。例えば、今日の日本国内でそれを我々はどのように想像することができるのかということも考える必要があると思います。

 こうなりますと、この同意というもの、これが得られるという事態が、ある部分、尋常では考えられない現地での混乱状態というものを既にあらわしているんだと考える次第であります。

 次に、法案についてですけれども、今回、輸送の対象者を明示的に拡大している点は評価できます。また、輸送に際して、防護対象者を自衛隊の管理下に入った者へと拡大することは、現実的な対応であり、同意できるところです。

 一方、法案は、武器使用権限を現行のままとどめております。

 これは、このたびの法改正が、陸上で運ぶことを可能にするということ、そこに主眼を置いており、陸上輸送という手段を導入することで付随的に発生しかねない脅威への対処をむしろ二次的なものと見て、かつ過小に評価しているのではないかとさえ思えるところであります。

 そのために、提示された法案では、自衛隊員の活動、さらには防護されるはずの邦人などに及ぶ脅威それからリスク、これを適切に排除するための対応が図れないという点を危惧します。安全に陸上輸送されるはずが、むしろ標的となるようでは、自己矛盾を抱え込む、そういうことになりかねません。

 この状況を説明するために、私自身がかかわり合いましたアフガニスタンの首都のカブールのケースと、それから、今回事案がありましたイナメナス、実際の今回のケースというよりは、想定上のイナメナス2というものを、二つの図をもとに考えてみたいと思います。

 お手元に私が作成しました地図が二枚あると思います。

 カブールそれからイナメナスともに、攻撃主体として想定しているのは、アフガニスタンではタリバンであり、アルジェリアの場合にはAQIM、イスラム・マグレブ諸国におけるアルカイダ及び覆面部隊であります。ちなみに、この覆面部隊は、先般、ニジェールで新たな襲撃事件を引き起こしたという声明を出しているということであります。

 さて、アフガニスタン・カブールでございますが、不幸なことに、アフガニスタンの情勢は悪化しております。その中でも、引き続き、日本大使館、JICA、それからNGOに所属する日本人が、アフガニスタン国内の民生レベルの改善のために、日々汗を流している状況にあります。

 ここから先は想定ですけれども、そのような中で、近い将来のある日に、彼らを緊急退避させなければならないほど情勢が悪化したとしましょう。日本のODAで立派なターミナルがつくられたカブール空港がありますが、そこに政府専用機や自衛隊のC130がどのように着陸できるのかというのは、非常にこれも想定が難しいところでありますけれども、ここではそれは特に問題がないということにしておきます。また、アフガン政府からの同意が得られるということについても、これでは問題がなかったということで話を進めます。

 カブール市内には、主に二つの地点に邦人が集中しております。一つが日本大使館、赤の丸であります。それからもう一カ所が、多くのJICA関係者などが投宿しておるセリナホテルであります。青の丸です。ともにそれほど離れたところではございませんけれども、自衛隊が運び込んだ車両に彼らを乗せて空港まで搬送して国外に脱出させるというのがこのカブール作戦の意味でございます。

 さまざまな攻撃手段をタリバンは持っております。右下の囲みの中でございますが、これらを駆使して、タリバンは、国内情勢の不安定、それから外国人、外国軍をターゲットにする、こういう攻撃を繰り広げておりますけれども、市内に、幸いなことに、国際治安支援部隊も拠点を構えておりますし、それから各国からいろいろな情報提供もあると考えられますので、実際の陸送のルート上の不安を極小化することはできるかと思います。また、空港が市内から至近距離、およそ十キロ程度ということでありますので、輸送開始からほどなくして実際のオペレーションは終了する可能性は高いと思います。

 ただ、例えば、空港に向かう、オレンジ色の矢印で記した部分ですけれども、その移動の途中で自動小銃の発砲音が鳴り響いたとします。自衛隊の車列が標的であったかどうかは必ずしもわかりません。被害も出ておりません。ですので、自己保存的な武器使用を実際に行うことがないまま、この車列は当該区域を抜けて空港に到達したというだけでございます。

 このケースでは、自衛隊法の改正によって、邦人保護が滞りなく、かつ成功裏に実施することができたというモデルケースとなると思います。

 次に、アルジェリアで事態が緊迫したと仮定します。これは、邦人が展開しているイナメナス近郊を含め、アルジェリア全土がこのときには不安定となったという想定です。

 本年一月のときとは様子が異なり、アルジェリア政府が態度を軟化させ、関係各国の軍用機がイナメナス空港におり立ち、現場サイトから自国人の退避を進める準備に取りかかったということを考えます。我が国も自衛隊機を派遣して、陸上輸送の用意をします。

 ところが、期せずして、この至近距離にあるイナメナス空港に砲撃が行われ、一転して、航空機によるピックアップ地点を九百キロメートル離れたガルダイア国際空港に変更することを余儀なくされます。アルジェリア中部に書き込みました飛行機のマークがそこに当たります。

 長い距離があり、また、プラントサイトに滞在する非現地人、アルジェリア人以外ですね、これが多国籍にわたることから、退避作戦を発動した複数の国によって、十台編成のコンボイを二隊列以上編成するということになります。右も左もわからない土地ですから、単独での任務遂行には不安も多い、であるからして、自衛隊車両もこのコンボイに加わることになります。砂漠の中を踏破するということも大変ですけれども、ところどころ、やはり路面の陥没があったりして、これにかなり肝を冷やすということもあるでしょう。

 ところが、当初からわかっていたことかもしれませんけれども、自衛隊を含め、外国軍の進駐がテロリストたちをいたく刺激します。イナメナス出発後、四時間ほど走行した砂漠の中で、突然、車列に対する攻撃が起きたとします。RPG、携行式の対戦車砲弾、これを使ったと思われる攻撃で、自衛隊の車両の前を走る某国の装甲車が被弾し、破壊された。

 邦人は、これまでのところ、全員、自衛隊の車両に搭乗しておりますが、この攻撃を受けた車両の生存者を救出し、同乗させることももちろんのことながら、この先、道を進むに従って、さらに攻撃を受けるかもしれないわけです。

 このときに、自衛隊の管理下に入っていない、同じコンボイで走る他国軍の車両に対する攻撃、これを眼前に見て、自己保存型の武器使用に踏み切ることができるのか否か。一方、応戦することなく、傍観してやり過ごすことができるということはどういうことなのか、あるいは、できるのかできないのか。

 これが、イナメナス型の作戦が突きつける現実であろうかと思います。

 陸上輸送は、やはり目立つがゆえに、攻撃を呼び込む危険性を伴いますし、その距離が延びるとなれば、まさにテロの呼び水となってしまう状況が無視できなくなります。邦人の安全確保のはずが、標的と化してしまうということがやはり問題です。

 ここでは、RPGによる攻撃を受けたと仮定しましたが、それとて、砂漠や土漠の中で、どこから飛来してきたのかわからないという可能性も高いわけですし、次の攻撃を回避するための対処をどうやってとるのか。そして、どこの段階で、どこまで反撃を加えるのか。

 このような事態が想定外として実際のときに切り捨てられないように、現場での自己保存型の武器使用について、やはり適切に、柔軟性を持たすべきではないかと考える次第であります。

 しかしながら、そう言っておきながらですが、法案が提示する問題はやはり広範であり、そして、より深いところに及びます。

 さきのシナリオにおける自衛隊の反撃は、集団的自衛権の行使と解釈される領域に踏み込む余地があると思います。もちろん、集団的自衛権の行使が問われるケースは、陸上輸送が規定されていない現行の自衛隊法のもとでも想定することは可能ですし、また、実際に発生する可能性を否定し得ないところでもあります。

 きょう、ここで強調したいことは、陸上輸送の任務は、これまで想定されていた任務と比べますと、やはり格段に難しいということであります。港湾設備、空港滑走路、航空管制に関して、一定の情報やある時点でのデータを入手する、これは可能かと思います。だが、しかしながら、何百キロにも及ぶ道路事情を路面状態を含めて事前に把握すること、これは不可能でありますし、さらには、輸送ルート上に展開する周辺地域のミクロレベルでの情勢の掌握も問題となります。これをクリアするということは不可能であります。

 では、どうすべきなのかということですが、やはり、自衛隊が海外における邦人保護という任務を負い、領域が拡大する中で、憲法九条及び憲法改正にかかわる議論について、先に結論を出しておく必要があると感じる次第であります。そうしないと、現場が大いに困惑するでしょうし、下手をすると、被害が拡大しかねない点が危惧されます。あるいは、それを行わないと、実際に適用することが大いにためらわれるままでの自衛隊法となってしまうかもしれません。

 以上をもちまして、私の意見を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

武田委員長 ありがとうございました。

 以上で両参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

武田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。今津寛君。

今津委員 おはようございます。

 今、お二人から貴重なお話を聞かせていただきました。お一人十五分というのは余りにも少ないですね。できれば、もっと長時間聞かせていただいて、そして忌憚のない議論をさせていただければなということを改めて思いました。

 間違いないことは、先ほど湾岸戦争のお話がありましたが、以後日本も、憲法の前文の「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」という趣旨によりまして、自衛隊のPKO活動、国際貢献というのが今日まで続いております。侍自衛隊みたいな評価で、強くて、しかし優しい自衛隊という評価をいただいておりまして、我々日本国民にとっては大変誇りであるというふうに思っています。

 ただ、今、お二人のお話を聞いていて私が感じたことは、幸か不幸か、自衛隊は海外において、今まで、ただの一発も銃を発射していませんよね。そうですよね。これが、やはり自衛隊の強くて優しいという評価をいただきながらも、今いろいろな問題点が出てきて、それは十分みんなわかっていて、しかし、先ほど田中先生が最後におっしゃいましたけれども、やはり九条とか集団的自衛権の問題というものをきちんと議論して、結論を出して、そういう時に臨む状況をしっかりとつくってあげなければならぬということは非常に貴重な御意見でありました。きょう、お二人の先生方のお話を聞かせていただいただけでも、この参考人の質疑というのは非常に有意義であるというふうに私は思います。

 自民党も、実はこの問題については何回も問題提起をさせていただいておりまして、私も党の国防部会長を数回させていただいておりまして、副長官もさせていただいたんですが、野党時代の二〇一〇年に、自衛隊法改正案を議員立法で自民党は出しているんですね。その改正案には、一番目は、邦人を救出、輸送する際に、安全確保というものを要件としない。二番目は、外国での陸送を可能にし、輸送手段も限定しない。今回の提案と大分違うんですよね。三番目には、避難措置の実施を担う自衛官には、任務遂行に必要な武器使用権限を付与することを盛り込みましたが、昨年、衆議院の解散で廃案になったところであります。

 アルジェリアの問題もあり、しかも、今まで、このことについては当然議論をしなければならないということで、今回の閣法での提案となったわけでありますけれども、特に、宮家先生は座長までされておりまして、この報告書をつくられました方でありますが、今回、いろいろな経過を経て、在外邦人の安全確保のための施策全体像の中での今回の自衛隊法改正案の意義について、まず、両先生の御意見を簡単に伺いたいと思います。率直にお聞かせをいただきたいと思います。

宮家参考人 ありがとうございます。

 率直にという御要請ですので、率直に申し上げます。

 先ほどは、法案が提出され、そしてそこで審議されているわけですから、その法案の内容にはあえて私は触れませんでした。しかし、今おっしゃったような議員立法での案という点については、私はコメントが可能でございます。

 わかりやすい例だといいんですが、一つだけ例を申し上げます。

 私がバグダッドにいましたときに、実は同僚以外にも亡くなった日本人の方がおられました。バグダッドのグリーンゾーンの中にいたときですが、その方の行方を捜しに行けという命令が本省から参りました。そして、それは夜中に来たものですから、さすがに夜中は米軍も行けないということで、朝、私は一緒に参りました。

 そのときに、我々は防弾車を持っていきました。そうしたら、米軍の連中それからFBIの人たちは普通のセダンで参りました。我々はコンボイを組んで参りました。なぜ彼らは防弾車に乗らないかを聞きました。そうしたら、防弾車は、いざとなったら、重くて、動けなくて、撃たれたら終わりだ、軽い車だったら撃ち返せるから、だから我々はセダンを使うんだと言われました。つまり、今おっしゃったように、いろいろな制限を課せばかえって危険だというのは、私はそれを身をもって感じました。

 結局、バグダッドから数十キロ捜索に行きましたけれども、捜せませんでしたが、御遺体はバグダッドにあったわけですけれども、その数時間のオペレーションで、これは単に、限定すればするほど、そのコンボイ、車両が、車列が危険になるということを身をもって感じた次第でございます。

 ですから、もしそのような法案が出て、そして通っていればさらによかっただろうと思いますけれども、この法案自体、いろいろ議論をされた結果つくられたものでしょうから、私はこれだけでもぜひ通していただきたいと思っております。

 以上です。

田中参考人 お答えします。

 法案につきましては、先ほど私も立場を述べさせていただきましたように、邦人を輸送するあるいは救出するという任務から考えて、当然必要なものだと思っております。その思いは変わりません。

 今、宮家参考人の方から御自身の体験に基づくお話もありましたので、私も一つお話をさせていただきたいと思います。

 アフガニスタンのカブールで、NATOの車列に入って移動したことがあります。これは私にとりまして、今までで、アフガニスタンにいて、あるいはアフガニスタンで勤務して、最も怖い体験でした。

 なぜかといいますと、車列を組む、それから防弾車であるということ、あるいは場合によっては装甲車でもあるんですが、ある程度の肉厚の車両ではありますが、やはりIEDなどが炸裂すると、その被害というものは免れない。なので、町中でも、それから、もちろん地方であればもう当然なんですが、尋常でないスピードで駆け抜けます。当然、彼らからすれば、運転している側からすれば、駆け抜けるということが安全だということになるんだと思いますが、恐らく、外にいる一般の人から見ると、とんでもない暴走族が走っているのと同じようにもまた見えるわけでありまして、ゆえに、現場との間、すなわち外国軍に対しての感情が著しく悪化していくという素地にもなっているんだと感じました。

 当然、外国軍、NATO軍の方も、狙われているという意識を持ち始めますと、余計に神経質になって、余計に対応はぴりぴりしますので、一緒に行動している民間人である我々にとっても、怖いという思いをいたしました。

 これは非常に極端な例かもしれませんけれども、やはり、いろいろなその情勢を想定する中で、余裕のある対応ができる法整備、そして能力を持つということ、あるいは整備するということ、この重要性は私も感じるところであります。

今津委員 一発も銃を撃ったことがありませんね。

 それから、お話がありましたが、外交官の方やボランティアの方は亡くなっているんですけれども、自衛隊は、そういう面でいえば、犠牲になった人はまだ一人もいないということは、まさに、自衛隊の優秀さを示すと同時に、果たしてこれでいいのかということ。安全なのはいいんですが、本当にその任務というものをきちっと果たしているのか。

 任務完遂のために武器使用ができない、あるいは駆けつけ警護ができないという今回の法案の内容なんですが、これは、いろいろな議論の中で、陸上輸送だけでも、保護だけでもという面でいえば、恐らく一歩前進だと思うんですが、これについても率直に、一言でどういう評価をされるか、お聞きをしたいと思います。

宮家参考人 率直に申し上げますと、私の経験で一番強く感じることは、反撃が最も強い防御だと思っております。特に車両を守る場合、彼らは、実際にセダンに乗って、撃ち返せる能力を持つことによって自分たちを守っていた、これが私の原点でございます。

田中参考人 確かに、今回の法改正でも、駆けつけ警護ができないという点については同様かと思いますが、一方で、駆けつけ警護自体を、少なくとも私が経験したアフガニスタンでは、行っている軍が実はそれほど多くないという情勢もありますので、これをもって今回の法改正が足りていないということは、私は少し違うのではないかという考えを持っております。

今津委員 安倍総理も、法改正の前の時点ですけれども、単なる輸送ではなくて、邦人救出まで行うことができるような法改正が必要だという私見を述べておられましたが、これは閣法になって出てくるときには、いろいろな議論の中で、いろいろな配慮の中で、一歩前進の提案になっているのではないかなというふうに思います。

 時間がないので、集団的自衛権についてお聞きをしたいと思います。

 解釈改憲あるいは憲法改正、解釈改憲をするとすれば、今までの解釈が間違っていたのではないかということになりかねない。それから、憲法改正をするということになると、これはなかなか実現できないのではないかということもある。

 それをおいておいて、例えば、我が党は、国家安全保障基本法というものを提出するべく準備しているところであります。その中で、集団的自衛権の議論をしたのですけれども、国際状況は、安全保障の状況は、御承知のとおり、北朝鮮が核実験をしたりミサイルの発射をしたり、あるいは中国の急速な防衛費増大、拡大、こういうものがあって、それに、国際社会の安全保障環境が極めて劇的に変わっているという意味でいえば、国連憲章に基づく最低限度の集団的自衛権の行使というのは当然できるんだ、そういう考え方を官房長官のもとできちっと国民に説明して、総理もちゃんと説明して、そこで整理をして使用できるようにしたら、できるのではないかというのは、私個人の意見もあって、それに同調していただける方も多いのですけれども、これについて最後に伺いたいと思います。

宮家参考人 私は、集団的自衛権の問題は、憲法の改正によってそれを明確に確認するということはベストだと思っております。しかし、憲法の改正がなければそれが行使できないということではないと思います。憲法ではなくて、これは国家として持っている権利でございます。

 今までは、ある意味で、戦後、日本が自己規制を強めていた。行き過ぎたとは言いませんけれども、自己規制が強かった部分、その自己規制を緩めることは可能であり、それは、決して今までの過去の運用が間違っていたということではないと思っております。

田中参考人 先ほど申し上げましたとおり、自衛隊に集団的安全保障あるいは集団的自衛権を行使させるということについては、やはり、憲法の改正議論を経て、手続をしかるべく進めるということが必要だと考えます。解釈という判定で物事を進めるには、国内を含め、この問題の大きさから考えますと、やはり十分な議論が尽くされたとは言えないのではないかと考えます。

今津委員 どうもありがとうございました。

武田委員長 次に、大串博志君。

大串(博)委員 民主党の大串博志でございます。

 きょうは、宮家参考人、そして田中参考人、先ほど、専門家の立場から大変有益な言葉をいただきまして、勉強になりました。

 今般、自衛隊法の改正の議論をしておりますけれども、私も、実は、前職のときに、二〇〇一年から二年間、大使館の書記官として、インドネシア大使館に二年間住み、仕事をしたことがあります。二〇〇一年の夏に赴任して、直後に九・一一が起こって、インドネシアは、御案内のように、イスラムの大変多い国、人口としては世界最大のイスラム圏国、だから国内にも相当な動揺が走りました。

 さらには、一年ほどして、皆さん、御記憶にも残っていると思いますけれども、その後、バリ島の繁華街でのテロ事件、爆破事件が起こり、これは私たち、当時、大使館に勤めておりましたけれども、邦人の方々も亡くなられて、大変痛ましい事件であった。国内で起こった事件であったがゆえに、大使館をひっくり返すような大きな事件になり、かつ、当時、邦人をどうやって守っていくのか、どこでどう起こるかわからないテロ事件等々に対してどう守っていくのかというのは、大変な緊張感のある議論にもなりました。先ほど宮家参考人の方からお話があったようなこととはレベルが違うかもしれませんけれども、それでも相当の緊張度のある感じもいたしました。

 今回、アルジェリアでの事件を経て、私たちは、いろいろな検討をこれまでしてきたわけでございます。そして、今回、自衛隊法の改正ということで議論をしているわけでございますけれども、今回のアルジェリアで起こった事件を見ておって、国内的に非常に衝撃が走ったのは、国際的な紛争、戦争、それに今テロという脅威がある、このテロの中で、日本人が、先ほどのバリの事件のように巻き込まれるのみならず、その標的になってしまうことが今後もあり得るということが脳裏に焼きついたというところが、今回、非常に顕著な事件ではなかったかと思います。

 今回、被害に遭われた皆様に大変お悔やみを申し上げながら、そこから教訓を導き出していくためにも、両先生、アラブの世界においては大変専門でいらっしゃいます、こういったテロの広がりを見たときに、日本人がターゲットになる、標的になるといったことが今後どのような趨勢の状況にあるのか、両参考人からそれぞれ御意見をいただけたらというふうに思います。

宮家参考人 田中さんは本当の専門家でございますが、私はインチキでございますので、その前提でお聞きください。

 アルカイダという中央のコマンドが全ての活動を仕切る、そのようなアルカイダはもうなくなっていると思っています。そして、地元の、ローカルの、しかし、非常に緩やかな連合体が、ある意味で勝手にやっている、アルカイダというブランドを使いながらやっている。これがまず一つの流れとしてあります。それから、もう一つの流れは、やはり日本も中国もアルカイダにとっては決して味方ではない、敵であるという認識はもう既に何度も言われておりまして、この状況はこれからも変わらないだろうと思います。

 したがいまして、アルカイダがどんなにローカル化し、そして、一つ一つのオペレーションが小さなものであったとしても、しかし、ある意味で、中東全域、もしくは、場合によっては東南アジアでも可能性が拡散しているということでありますから、当然、今までとは違う対応を政府も企業も、そして官民合同でやらなければいけないというふうに感じた次第でございます。それが私どもの報告書の中にも反映されていると理解いたします。

田中参考人 私も、テロ自体を専門としているわけでは必ずしもないんですけれども、中東それからイスラム世界におけるさまざまなテロリストグループと言われているものの行動パターンなどをある程度蓄積して分析しておりまして、最近思うことが一つあります。

 それは、理念や宗教でもいいんですけれども、一定の考え方に必ずしも基づいていないテロというものが発生してきていて、これは、例えば政治的な目的を達成するための手段としてテロを行うのではなく、テロを行うこと自体が目的と化しているテロ集団があるということです。アルカイダの分派などもその傾向が強く見られますし、このような集団を私はテロ屋というふうに呼んでいるんですけれども、自己顕示欲がまた非常に強くもあります。

 つまり、テロというのはどこでも起こり得るし、いつ何どき起こっても不思議ではない。そのときに、日本あるいは日本人がターゲットとして当初考えられていなかったとしても、日本人そして日本の権益などが巻き添えとなるということについては全く配慮も考慮もしませんので、巻き込まれるということは、まさに今後、不幸なことなんですけれども、より想定しておかなければいけない。そして、仮に起きるのだとすれば、それがどこで発生するのかということをできるだけ正確に、かつ事前に拾えるような情報分析体制というものも非常に貴重になってくると考えております。

大串(博)委員 今、宮家参考人の方からお話がありました。

 私も、インドネシアで、日本人の方々の現地での企業も含めたオペレーションを見ていると、当然、政府からすると、本当に日本人の方々、企業人の方々も含めて、現地の大変深いところまで分け入って、いろいろな経済活動をされていらっしゃいます。それが日本の経済の活力の源なんだろうと敬意も表するわけでございます。

 先ほどお話のありましたように、官民としてというふうに宮家参考人はおっしゃいました。民間の方の自衛といいますか、自分で自分を守る、この取り組みの状況はどんなふうになっているか、宮家参考人、もし御感触でもあれば教えていただければと思います。

宮家参考人 私も全ての民間企業の警備対策を知っているわけではありませんが、部分的に存じ上げているところを言えば、やはり企業によって千差万別だということです。非常に経験豊かな企業が、日本政府に依存しなくても、外国での経験を生かしながら外国の警備会社を雇ってやっているケースもあれば、本当に初歩的なこともやらない企業もあるわけでございます。

 それは、今までの経験というものが、そして、各社の幹部の方々の心構えというものが微妙に違ってくるからだと思っております。だからこそ、最低限の警備というものは各企業ができるように、セミナー等で少し啓蒙、そして意識の向上を図るというのが我々の提言の一つでございました。

大串(博)委員 田中参考人にもお尋ね申し上げたいと思いますけれども、先ほど、武器使用基準の話がございました。先ほどの例では、イナメナス型作戦のところで、コンボイで移動している際に、予見のできないいろいろなリスクの変化状況があると。その中で、他国のコンボイが攻撃されている中で私たちとしてどう行動できるのかという論点も残ろうかという話がありました。

 先般、私どもの長島委員の方からは、本会議において、三角構造という言葉を用いて、私たちの車両が救出すべき邦人の近くまで行っている、そこに国に準ずるか全く想定がつかない勢力の攻撃が起こる、こういった状況で武器を使用できるかどうかということに関して、今回の法案においては、これまでの自己保存型の武器使用基準を踏襲しているという中で、どういう活動ができるんだろうかという話がございました。

 この武器使用基準、先ほど憲法九条の問題も整理し切った方がいいという話がございましたけれども、それを前提として考えながら、どのような武器使用基準の考え方が望ましいと思われるのか、もう少し踏み込んだ御意見をいただけたらというふうに思います。

田中参考人 私自身でも、これが正解だと思えるような、あるいはこれがベストだと言えるところまでの想定がまだできておりません。

 あるところを緩やかにするといいますか、武器使用自体を容易にするということになりますと、かえって敵をふやすといいますか、攻撃を受けやすくなるという可能性も否定できないわけでございますので、そのバランスの所在というのが一つ大事だと思います。

 ただ一方で、三角構造ですかのように、そもそもの派遣理由から考えれば、そこで介入するということが当然求められるような事案であるにもかかわらず、そこが動けないままになっているという、非常にジレンマを抱えた状態だと思いますけれども、これにつきましては、やはりこれに対処できるような基準を考える、ないしはその線引きを変更する必要があると私は考えております。

大串(博)委員 この問題は、長島委員からも先日、本会議でも提起がありましたけれども、ここでも先ほど議論がありましたけれども、PKOにおける駆けつけ警護の問題とも密接に、ある意味並ぶような論点なんだろうと思います。私も、昨年の秋までは内閣府の政務官としてPKOの担当でございましたので、南スーダンに派遣されて行かれた隊員の皆様の日々の安心を、本当に身も細る思いで思いながら日を過ごした記憶もあります。

 そういった中で、先ほど田中参考人の方から、今回、航空機、船舶というものに加えて車両というものが入る、車両が移動する、いわゆる平場、内陸、ここはそもそもリスクのあり方が違うんだという話がありました。路面のあり方、あるいはいろいろなテロも含めた武装勢力の出方、これがどの程度予想しづらいものなのか。

 今回、こういうオペレーションをするに当たって、政府も事前にいろいろな情報をとるんだと思います。当然、安全と判断しなければならないという前提になっていますので、安全と判断できるような情報を集めるんだと思います。それがどのくらい難しいことなのか、この辺の感じのところを教えていただければというふうに思います。

田中参考人 いろいろな想定のもとでお話をさせていただきますけれども、多分、限りなくいろいろなものが出てくると言えます。

 例えば、輸送経路に、当初は、あるいはその前日まででも、あるいは極端に言えばその一時間前でも、特に脅威がない。特に、その周辺の土漠であれ森であれ砂漠であれ、特に何の動きも見られなかったところに武装勢力が移動してくるということも起こり得ます。イナメナスの事件自体も周辺国から武装した勢力が入ってきたからでありまして、恐らく、事件が発生した前日、あるいはその半日前であったとしても、あの近辺にはまだそれほどの大きな脅威が存在しなかったというふうに考えられますので、それから見ますと、陸送の上で、非常に流動的に、あるいは刻一刻と周辺環境が変化していくということは避け得ないものだと考えます。

 これは、テロリストや武装勢力の移動だけでなく、極端に言えば気候、天候、これも変化します。砂漠地帯でも、やはり砂嵐も起きますし、風が強くなれば視界が一気に不良になるということもありますので、予見できる範囲と予見できない範囲、要するに現場での対応を迫られるものが明確に存在すると考えます。

大串(博)委員 今御指摘いただいたことからも、車両による輸送ということになってくると、相当違ったリスクプロファイルが生まれるということが非常によくわかりました。私たちも、この点、この委員会における審議の中で議論を尽くさせていただく材料にさせていただきたいというふうに思います。

 きょうは、本当に勉強になりました。ありがとうございました。

武田委員長 次に、中丸啓君。

中丸委員 日本維新の会、中丸啓でございます。

 宮家、田中両参考人におかれましては、本日は、お忙しい中、まことにありがとうございます。

 それでは、質問させていただきます。

 私は二〇〇三年の十一月にイラク・バグダッドにおりまして、現地で、いろいろな調査活動も含めて、広島出身なものでございまして、広島における戦後の復興がどのようなものであったかというものを現地のバグダッドの議会の議長にお会いさせていただきまして御説明をさせていただいたというような経緯で、十日間、当時バグダッドの方におりました。

 私、通訳と一緒に、日本人としては一人で現地におりまして、先ほど宮家参考人がおっしゃられた、当時、二〇〇三年十一月、ちょうどCPAが現地を管理していた時期でございまして、日々大変な事態が起こっていたときでございます。

 そういう中で、一人で行っていたもので、現地の当時の大使館の方に非常にお世話になりまして、議会とのやりとり等々、セッティングも全て現地の方にしていただいたんですけれども、その中の一人、当時、参事官で、今はお亡くなりになられました奥大使という方がおられました。そのとき非常にお世話になった方なんですが、残念ながら、そのときに銃撃に遭いまして、当時のイラクのティクリート、北部ですね。当時は北部は安全ゾーンだと言われていたところでありますけれども、クルド人の自治区に当たるところだと思うんですけれども、そちらの方で、ほかの職員の方、それからイラク人の運転手の方とともに銃撃をされました。

 先ほど田中参考人の方から、アメリカはセダンで来たというお話もあったと思うんですが、これは日本でどの程度報道されているかわかりませんけれども、私が当時、現地の大使館の方々とお話をさせていただく中で聞いていた範囲で申し上げれば、トヨタのランドクルーザーを使って行きました。そのトヨタのランクルは簡易防弾をされていた車で、見かけは通常の車と変わりません。ただ、現地の当時の車両状況からいえば、非常に高級車に見えるものではありました。

 当時、奥大使一行は、それに関して、民間の武装兵とかそういったものを一切つけずに、プレスのような偽装といいますか、プレスという形をもって現地に赴くのが一番安全だという御判断をされたというふうに現地の方からお伺いしました。その中で、しかし、どこかで情報が漏れたんだろうと思います、これは私の個人の主観でございますけれども、明らかに狙い撃ちをされた。当時、アリババと現地で呼ばれていた強盗のような襲撃の仕方ではありますけれども、余りに的確な狙いで殺害されたというのが現状でありました。

 そういったことも実際にありまして、きょう、この法案の議論にあります、そもそも何か大きな事件、事故等があったときに邦人を救出しないといけない、これはもちろん国として当然のことだと思います。プラス、狙われるということ。当時、私はヨルダンから陸路で千百キロぐらい車で入ったんですけれども、そのコンボイの中に私と一緒にNGOの方、あとジャーナリストの方もおられまして、この方々の中から三名は誘拐、拉致をされました。幸い、この三人は、当時小泉政権だったと思うんですけれども、無事解放されることになりましたが、それと別にいたもう一人、大学生だったと思いますが、彼はネット上で生中継されながら首を切られるという非常に残忍なやり方で殺害をされました。

 そういうものを生で感じ、先ほど宮家参考人がおっしゃっていた、本当に怖かったというところは私も非常に同意できるものでありまして、私も、一日も早く帰りたいというのが、正直、現地にいるときの気持ちでございました。

 そういった経験から、この法案自体は、はっきり言えば、今までなかった方がおかしいというふうに私は考えております。

 国家というのは、国の家と書きます。家族を守るのは家長の当然の務めであります。一家の家族が危機にあるとき、自分の子供、配偶者が危機にあるときに、守るのは一家の長として当然のこと。国家が国民を守るという当然のことに対して、例えば、ないとは思いますが、この委員会の中でも、よくあるのが、こういう法案をつくると自衛隊が外に行くのですぐ戦争になるんじゃないかとか言う方もおられるかもしれませんけれども、私は、個人的な意見でいえば、そういう方にはぜひ、本当にそういう状況になったとき、家族がそうなったときどうかというのをもう一度自分の心のうちに問うて、先ほど宮家参考人からもありましたように、政局ではなく、政治家としてどういう判断をすべきかというのを考えていただきたいと思います。

 中で、誘拐という事件も非常に多いと思うんです。もちろん、政治的誘拐、身の代金目的誘拐、そういった中で、この法案というのは、向こうもそれなりに情報を調べますから、最低限の対応をするとか、最低限の物資を、大体、我が国は最低限という言葉を使うのがよくルールとしてあるみたいなんですけれども、抑止をするという観点から、それで本当に抑止になるというふうに思われますか。いかがですか。

宮家参考人 抑止というのは、相手にそういうことをすることは損だ、だから、やらない方がいいんだと思いとどまらせることだと思います。その意味では、必要にして十分な量があるはずでございます。つまり、ある程度相手が弱ければ、やってもいいんじゃないかと思わせますし、ある程度の量があれば、これはまずいと思わせる。

 その点はどこかにあるはずでございますが、それは相手の心理にもかかわることですので、定量的にはなかなか申し上げにくい。しかし、一般論としては、多ければ多いほどいいということは言えると思います。

田中参考人 私は、この法案自体に新たに加えられる陸送自体が、あるいは陸送の可否自体が、相手に対する抑止を向上させるということになるとは必ずしも思っておりません。

 ですので、武器使用基準自体がどのように変わるのか、あるいは変えられるのかということが、こちら側、守る側の手段の豊富さ、ないしは制約にかかわってきますので、むしろそこのところの問題ではないかと思います。

中丸委員 ありがとうございます。

 私見を述べさせていただければ、私は、最低限という言葉ではなくて最適なという表現が、これは国防全般にかかわって適切ではないかというふうに思っております。

 少し話題をかえまして、車両の輸送を今回追加するということなんですけれども、いろいろな想定があると思うんですが、まず、朝鮮半島有事にこの法案を当てはめたとして考えて、朝鮮半島有事の場合は、どちらからどういう動きをするか。米軍で五〇二七とか五〇二九とかいう作戦があるんですけれども、その場合の、今かなりの数がおられると思います。通常に、例えば自衛隊の車両、航空機等でとても運べる範囲ではないと思いますので、米軍と共同だったり民間のものを使ったりというところはあると思うんですけれども、こういった場合に、果たして、この法律はもちろんなんですが、今の我が国の状況でどの程度までできると御両人はお考えでしょうか。

宮家参考人 私も具体的な作戦計画については承知しておりませんので、どのような案があるのかはわかりませんが、一般論としては、もし朝鮮半島ということになれば、相手国もありますし、どれだけ認められるか、そもそも認められるのかということも含めて考えますと、なかなか簡単には申し上げられないことだと思っております。

 ただし、一点だけ申し上げられることは、そういう状況があったときに、日本の国家が日本の国民を守ろうとし、救出しようとする意図だけはちゃんと伝えなければ、そして、一緒にやるんだということを伝えなければ、同盟国と一緒に仕事はできないというふうに思っております。

田中参考人 朝鮮半島有事がどのように展開するのかということ、そして、それに対しての米軍などの動きもどのようになるのかということについては、私は全く門外漢でありますので、それをはかること、それから、韓国を含めて、救出されなければいけない、あるいはその対象となる邦人が何人いるのかということのデータもございませんので、明確に対応について申し上げることはできません。

 しかしながら、今、宮家参考人も指摘されたように、こちら側の対応があるということ、すなわち動くということ、これは当然、行わない限りにおいて、いつまでも、あるいは常にほかの国の軍隊などの救助や行動に依存しているというままではやはり済まない事態であろうと考えます。

中丸委員 ありがとうございます。

 もう少しお二方の御所見をお伺いしたいのは、実際に車両輸送が可能、もちろんこの法案が通ってという大前提でございますが、そういった中で、車両輸送が必要な事態があり、それに対する承認がおりました。現地において、実際に輸送に当たって、先ほどカブールの空港の話も出ましたけれども、航空機の着陸ができない、もしくは着陸許可がおりない、近くに港があっても輸送艦が着岸することができない、こういった事態の中で、許されたけれども実際に車両を使えない。そうすると、現地で調達ということになったりすると思うんですけれども、では、誰が現地調達するのかという話も当然出てくると思うんですね。

 そういった場合にどういった対応をするのが、なかなか難しいかもわかりませんけれども、対処として考えられるか、教えていただければと思います。特に田中参考人の方に。

田中参考人 非常に難しい情勢といいますか、状況について御質問いただいたわけでございますけれども、現地で調達するということを誰が行うのか、あるいはどのように行うのかということは、例えば、これは救出対象の邦人の数、それからコミュニティーの広がりぐあいなどにおいて、やはりできることとできないことの差が明確にあると思います。

 先ほどの朝鮮半島有事のようなケースであれば、容易に行い得るような代替案というものは恐らくないと考えますし、逆に私が例示をさせていただいたカブールの規模であれば、とりあえずまだ何らかの手だてが講じられる規模の範囲の中におさまっていると考えます。

中丸委員 ありがとうございます。

 もう時間も迫ってきましたので、もう一つだけ。

 使用武器において、先ほど最低限という話もあったんですが、私は最適という言葉を使わせていただいたんですが、そういった中で、有効性とその使用基準なんです。よくPKOなんかであるのは、小銃とかそういったものはありますけれども、例えば相手がRPGを持っているといったときに、そういうもので全く対抗はできないわけですね、基準が全く違いますので。

 私は、一定の携行できる範囲だとは思いますけれども、ある程度の武器は、自衛隊員の方も任務とはいえ同じ日本国民でありますし、その命を守ることも国家としての責務だと考えますので、一定基準以上のものをやはり持っていく必要があるというふうに私は考えるんですけれども、田中参考人、そこはいかがですか。

田中参考人 御指摘のとおり、自衛隊員の命も一般の国民と同等に大事でありますので、その点において、防御できないレベルのものしか携行していないということであれば、これは彼ら自身の生存の権利をも脅かしますし、同時に彼らが救出するはずの対象である邦人の保護にも結局は至らないということになります。したがいまして、必要なものはやはり持っていかざるを得ないということであります。

 ただ、RPGに対抗するものは何であるのかといいましても、なかなかどれということも言えないところがございますので、これは武器の専門家の方にお任せしたいと思います。

中丸委員 済みません。同じ質問を宮家参考人にもお願いします。

宮家参考人 私の経験からも、RPGで狙われていることは当然想定しておりまして、防弾車の横に、防弾車のドア自体厚いですけれども、そこに、気持ちですけれども、防弾チョッキをもう一個置いて、うずくまっているわけですが、本当に飛んできたら一発で終わりです。しかし、RPGにRPGを撃ち返しても何の意味もありませんし、どこから撃ってくるかもわかりません。

 したがいまして、ありとあらゆる事態が想定されるわけなので、この問題について、小銃までならいいとか何口径以上のものの銃弾だったらいいとか悪いという議論はほとんど意味がないと思っております。それは、むしろ、制限をせずに、現地の判断で、自衛隊員を信じてほしいと私は思います。

中丸委員 ありがとうございました。

 時間になりましたので最後に、今、宮家参考人がおっしゃったように、最後はやはり現地の指揮官ないしそういった方々の御判断を尊重するということは、そのときに判断ができるだけの材料はやはり運んでおく必要があるというふうに私は考えます。この法律の一番の目的は、在外においていかに安全に、的確に邦人を救出するか、その中で被害を最小限にとどめることができるかということが目的だと考えております。そういった中で、両参考人とお話をさせていただくことは非常に参考になりました。

 ありがとうございました。

武田委員長 次に、遠山清彦君。

遠山委員 公明党の遠山清彦でございます。

 両参考人、きょうは大変貴重な御意見をありがとうございます。

 私は、実は、今回の自衛隊法改正の前に、自民党、公明党の与党政策責任者会議のもとのプロジェクトチームの一員として、この委員会にも中山先生もおられますし、中谷元先生が座長で、公明党の佐藤茂樹さんが座長代行で、私を含めて何人かで大分議論を重ねまして、与党として政府に提案をさせていただいて、その後に今回の、我々の意見もかなり反映をされて、自衛隊法の改正案が出てきたというふうに思っております。

 それから、私は十二年前に参議院議員として初当選をいたしましたけれども、これまで約八十回海外へ行かせていただきました。その中で、イラクに四回、東ティモールも四回行かせていただきまして、私なりに、紛争直後の現場でありますとか、あるいは東ティモールで自衛隊の施設部隊が実際に活動している現場を見させていただきました。

 そういった経験から昨今感じておるのは、最近、国会で勇ましいことを言う人が多いんですね。しかし、私の限られた現地の視察経験から申し上げても、現場というのはそんな簡単じゃないと思っております。自衛隊の皆さんも、国を守る、国民を守るという志や意識においては人後に落ちない方ばかりでございますが、そのことと、無謀に蛮勇的な形で海外で軍事的な活動をするというのは極めて危ういというふうに私は感じております。そういった観点から幾つか参考人にお話を伺いたいと思います。

 まず、田中参考人がおっしゃったように、実は、日本人が海外で巻き込まれるテロ事案、今回のアルジェリアのようなことがあっても、では、すぐに自衛隊がその国に、救出というか輸送目的であっても、行けるかというと、簡単じゃありません。それは逆に、我々日本の国内で、例えばアメリカ人多数が巻き込まれるテロ事案が発生して、アメリカ人が生きたまま人質にとられて、数十名どこかに拘束されている、六本木ヒルズでもいいですよ。そのときに、アメリカの特殊部隊が日本に入りたいと言ったときに、日本政府が簡単に許可を出すかというと、それは難しいんです。日本にだって治安部隊があるし、日本の主権の中で起こった問題ですからね。

 これと同じように、どんな国だって、主権国家は、外国の軍隊を入れるということはなかなかしたくないんです。だから、それは我々の側だけの話で考えればそうだけれども、向こう側の観点に立てば、主権国家の中で起こった事件について他国の軍隊を入れて何とかしようというのは、それはもう宮家さんは外務省におられたから、よっぽどの状況じゃないとなかなかならないんですね。それが一点。

 それから二つ目は、さはさりながら、私は今回の自衛隊法改正は非常に必要だと思いました。それは、宮家参考人のお話の中で、そういった陸上輸送の準備は無駄じゃないかと言う人がいるかもしれないけれども、そういう能力を自衛隊が持つこと自体、準備すること自体が大事なんだとおっしゃったんですが、私は、それはそのとおりだと思うんですね。

 この両参考人の二つの指摘を踏まえた上で、私が今感じているのは、陸上輸送の準備、能力を持つこと自体は重要なんだけれども、実は、今回の改正が成立をしたからといって、簡単に自衛隊が海外で陸上輸送をするというふうに考えない方がいいと私は思っています。

 というのは、例えばアルジェリアの今回の事案。例えば、自衛隊の車両部隊をC130を使ってアルジェリアへ運んでいく。これは、両参考人、御存じでしょう、何日かかりますか。大体五日。飛べないですからね、日本からアルジェリアまで一気に。三カ所、四カ所、給油していかないと、足が短いですから。そして、C130一つじゃ自衛隊の車両を二台ぐらいしか運べませんからね。だから、これを考えると、大体五日間から七日間は最低必要。その前の準備とか情報収集で数日かかりますから、実は、事案が発生して陸上自衛隊を送ろうと決めてから十日後以降じゃないと着かないわけですね。今回の事案は、もうこれは終わっていますよ、十日だったら。ということも、しっかりと現実として踏まえなきゃいけない。

 それから、日本が持っている装備というのは、航空機も含めて足が短いですから、米軍とは比べ物になりませんから。

 私は、今回の自衛隊法改正によって、先ほどどなたかが朝鮮有事の話をされていましたけれども、日本からある程度近距離の国にあって、そこで在外邦人が巻き込まれて、かつ事案が長期化したもの、例えばペルーの大使館の人質事件がありましたよね、あのようにある程度、期間が長期化して、日本人の拘束されたような方々がかなりの疲弊をし、困難な状況に陥っているという状況のときに、恐らく、しっかりと情報収集をして、しっかりと準備をして、相手国の同意もとって、そして、現実的にタイムスパンもはかって送ることができるというような運用になっていくんじゃないかというふうに思っておりますけれども、この点について両参考人の御意見を伺いたいと思います。

宮家参考人 委員の御指摘は妥当だと思います。もちろん、法案に書いたからといって全てのところに送れないというのは御指摘のとおりですし、実際問題として、遠いところはなかなか難しいかと思います。

 しかし、私はやはりそれでもあった方がいいと思っていて、それは、恐らく今、こういう任務自体がなければ、自衛隊の中でもこういう検討すらできない、そしてスタディーもできないし、実際に訓練もできない。しかし、そのようなことが法律に書かれれば、これは任務としてそれを遂行することができますので、やはり本番のときのパフォーマンスのレベルの向上には役立つと思います。

 したがいまして、おっしゃるとおり、全てのところでやれるわけではないと思いますが、やはりやらないよりはやった方がはるかによいと思っております。

田中参考人 私も、運用の面では必ずしもこれがすぐにできるものだとは考えておりませんし、やはりその地理的な遠近の問題もあります。あと、事態の展開の早さといいますか遅さ、それにも依存すると言えますので、法の成立自体をもってこれがそのまま言葉どおり、ないしはその実態のとおりに合わせて動くということでもないと言えます。

 少々無理をして何かをするということも場合によってはあるのかもしれませんが、基本的に自衛隊も軍でありますので、やはり、できないことはできない、準備していないことはできない、あるいは、それは十分に任務を遂行することができないという前提になろうかと思いますので、法があって準備をする、しかし、それがいきなり現場で適用できる、ないしは運用できるということではない、そこに差がある、あるいは乖離があるということは理解しないといけないと思います。

遠山委員 ありがとうございます。

 それで、最後にお伺いしたいことは、これはもう今まで同僚議員も同じテーマで参考人と議論をしておりました。

 今回の自衛隊法改正案、私も与党側でいろいろと提案をする側にいたわけですけれども、一番悩ましいのは、仮に、陸上自衛隊の輸送部隊が、ある国に受け入れられて、そして、まだ事案が続いている、つまり邦人が救出をされなければならない状態で生存をしている。そして、日本の世論あるいは政府の意思として、この方々が危機的な状況を脱して出てきた場合に、この方々を安全に空港なりに車両で送らなきゃいけない。空港からは、また別のやり方で日本に運ばなきゃいけないわけでございます。

 これは、難しいのは、防衛省も今回の改正案の説明で言っているんですけれども、まだ日本人が、邦人がテロリストに拘束されている現場がある。例えば、どこかのホテルにしましょう。だけれども、実は、これは国民の皆さんが勘違いしちゃいけないんですが、自衛隊の部隊は軍事的救出作戦はできないんです。よって、事案の現場から少し離れたところに待機所をつくって、そこに自衛隊の部隊が入るわけです。

 この日本人が救出されるのを待って、それは救出のされ方というのはいろいろありますよ、テロリストが降参して解放する場合もあるし、ハリウッド映画に出てくるように、アメリカ軍の特殊部隊が突入して助けるという場合もあるかもしれませんし、あるいはその国の地元の治安部隊が救出作戦を行うという場合もあります。ただ、これは自衛隊はやりません。ということは、近くで自衛隊は待って、救出されてきた邦人を乗せて運ぶしかないんです。

 ということを考えたときに、自衛隊の部隊がこの事案の現場付近まで行っているのに、自分たちは何もしない、邦人が救出されるのを待つ、それも現場でという状況が理論上は生まれるたてつけになっております、法律上は。

 こうなったときに、世論も含めて、もう少し何かできないかというような御意見があるかもしれませんが、一方で、もう宮家さんよく御承知のとおり、現場付近に自衛隊の部隊がただ輸送目的でいるということと、実際に自分たちが邦人を救出するための軍事オペレーションを海外でやるということは、これはもう、憲法上も法律上も運用上も武装上も、全く次元の異なる話なわけですね、専門家から見れば。

 こういったことが想定されるから、実は、やはり自衛隊は余り行かない方がいいんじゃないかという主張が、要するに、行っちゃうと、何をやっているんだと言われてしまうから。ということで、結局、非常に抑制的な運用しかできないという指摘もあります。

 これについて、済みません、簡潔に両参考人の感想を伺って、終わりたいと思います。

宮家参考人 今のお話を伺っていて、武力行使の一体化論というのを昔やったのを、昔というか今もやっているのかもしれませんが、思い出しました。あの虚構をまた繰り返すのだろうかと思います。

 もし輸送の部隊がいるとしても、救出はできないのであれば、当然、現地の軍なり警察部隊と連携をしてやるわけであります。その救出作戦とそれから日本の輸送部隊が一体化するか、そんな議論をしているようでは、僕は、オペレーションはできないと思います。

 ですから、その一体化論というのをまずやめることから議論が始まると私は思います。

田中参考人 今、理論上のたてつけが悪いと表現がありましたけれども、私の方が先ほど申し上げた点でも、例えば、実際に、集団的自衛権行使になってしまうのではないかということが懸念されたりした場合に、現場において一定の必要性が認められるにもかかわらず、派遣自体が非常に慎重になる、ないしはその決断に多大な時間を要するということになり得るものだと考えます。

遠山委員 ありがとうございました。

 私は、理論上のたてつけが悪いと言っているんじゃないんですね。要するに、今まで日本で積み上げられてきた、まさに武力行使の一体化論も含めて積み上げられた議論からくる制約上、こういう改正しかできないんです。

 だから、余り私が言うと、また民主党の長島さんが喜んでいろいろおっしゃるかもしれませんが、いずれにしても、私は現場をある程度知る者として、余り安易に考えてはいけないことだと思っておりますが、一方で、今回の改正は最低限やるべきこととして私どもは賛成したいと思っておりますので、また引き続き議論させていただきながら、いい法改正案にしてまいりたいと思います。

 ありがとうございました。

武田委員長 次に、畠中光成君。

畠中委員 みんなの党の畠中光成でございます。

 本日は、お二人の参考人の先生、ありがとうございます。大変勉強になりました。

 私自身、昨年末の総選挙で当選しました一回生の議員でありますが、率直に申し上げて、なぜこの法律がもっと早くになかったのだろうか、やはり日本は危機に対してどうしても後手後手になっているのではなかろうかということをとても思います。

 だからこそ、まずお聞きしたいのが、今回のアルジェリアの事件のようなことを受けて思いますのが、平時からの情報収集の体制は果たしてどうだったのかということであります。

 皆さん御承知のとおり、戦後の日本というのは経済優先で、軍事は、日米安保があり、そして憲法の制約があって、最小限にとどめられているわけであります。ということは、日本の民間人、ビジネスの世界でこの国を支えている国民にとっては、当然ながら、世界じゅうで頑張っておられるわけでありますけれども、今回のアルジェリアのようなことも今後十分に考えられるわけであります。

 そこで、NSCの議論等も進んでいるというふうに聞きますけれども、今回、中東地域あるいは北アフリカでの情報収集、平時の情報収集体制というのが果たして十分であったのかということです。

 なぜこれをお聞きしたいかといいますと、宮家先生も日ごろから主張されていらっしゃいますが、中東情勢というのは、中東の問題のみならず、アジア、東アジアにも密接にかかわっている問題でありまして、中東の情報がしっかりと我が国にいかに正しく的確に入ってきているかということが極めて重要だという問題意識からであります。

 例えば、防衛駐在官がアルジェリアにいなかった。では、今後どうしていくのか。人員の制限もある場合は、例えば兼轄国をふやすとか、出張ベースでもうちょっと範囲をふやすだとか、あるいは、中東地域の言語を話す人材を今後どうやって養成していくべきかとか、外務省あるいは防衛省、いろいろなところで中東の情報収集をしているかと私は思うんです。

 そういった平時の情報収集体制について、今回のアルジェリア事件を受けて、両参考人の御意見、御所見をお聞かせください。

宮家参考人 情報収集の問題、分析の問題も、我々がつくりました報告書の中で重要なポイントでありました。

 私の感じますことは幾つかありますけれども、言うのは簡単なんです。しかし、もし本当に北アフリカに専門に、諸外国の主要なインテリジェンスサービスと同等の役割を果たせるようなものをつくろうとすると、まず最初に必要なのは、アラビア語とフランス語が自由に操れる人間、アナリストが数十人必要だと思います。なぜ数十人必要かというと、数十人とも全員優秀とは限らないからです。どうしても差が出てきますので、数をまずふやさなければいけない。そして、私自身アラビア語も勉強しましたけれども、アラビア語とフランス語を同時に勉強するというのはしんどいんです。ですから、外務省にもそんな人間はなかなか多くありません。

 そして、防衛駐在官をという話ももちろん大事だと思いますが、防衛駐在官も、アラビア語とフランス語ができなければアルジェリアでは仕事にならないと私は思いますし、その人が一人いたぐらいでは全く仕事にならなくて、恐らく二人体制で十年かけて人間関係をつくれば、もしかしたら情報が入ってくるようになるかもしれません。

 つまり、今、主要国のインテリジェンスサービスに伍していけるようなインテリジェンスサービスは日本にありません。これをゼロからつくり直すぐらいの覚悟でいない限り、単に人を二人三人ふやしたぐらいではとても追いつかないような状態というのが現状でございます。

 しかし、それをやるための予算、人員、そして、それよりも意思、国民全体もしくは国会の中でコンセンサスがあるかどうかということが本当に重要だと思います。もし、それがあって、お金がつけば、人がつけば、十年あればそのようなものをつくることは可能だと思います。逆に言いますと、それがない限り、今までの繰り返しに終わると思います。

田中参考人 今、宮家参考人の方から予算のことが出ましたけれども、いろいろな形で、政府系あるいは政府から直接、北アフリカに限らず、中東地域ないしはイスラムのさまざまな過激団体が出している声明などを追跡する調査事業というのがあります。

 しかしながら、三・一一の影響では必ずしもないのかもしれませんけれども、年々その予算も削られ、さらに入札に際しても、これは公開公募ですので、入札に際しても価格点が非常に重要視されております。

 ですので、必ずしも資質それから経験が十分でない組織や個人が応札して、いわゆるダンピングをして、こういった事業を手中におさめることもできるのが現状であり、その結果、本来、分析の対象となっていた、あるいは最低限でも収集の対象となっていたかもしれない、アルジェリアに関する、あるいはマリに関する過激派の動向が実は漏れてしまったという可能性が指摘できます。

 一方、人をふやすということは、予算の問題でもありますけれども、やはり気長に待たなければいけない。一年二年では到底無理ですし、やはり十年単位の話になってきますので、これを今やっておかないと、次のときにも当然間に合いませんし、今始めたとしても、次の事案が五年後だったとしたら、ひょっとしたらまだ十分な体制ができていないかもしれないということを肝に銘じておく必要があると思います。

畠中委員 ありがとうございます。

 こういった、事前に情報がどれだけとれるかというのは本当に我が国にとって死活的だと私も思っておりますので、今後取り組んでいきたいと考えております。

 さて、今度は、平時ではなくて、今回のアルジェリアの事件のように、危機のときにおいて、参考人のお話の中で、憲法改正や集団的自衛権に関係するお話が出ました。

 例えば、田中参考人からお話しいただきましたこのイナメナス型作戦の場合で、多国籍軍のコンボイ、車列があって、そこに、我が国の車両の前に、某国の車両に対してテロ攻撃をしかけたときに、例えば反撃を加えることが集団的自衛権に当たるかどうかという論点であります。

 憲法改正を待たずしてこういう事態が起こることも十分に当然考えられるわけでありますが、国家が自衛権を持っているのは当然でありますから、例えば、個別的自衛権で対応できるという考え方もあるのではなかろうかというふうに思うわけでありますが、両参考人の御意見をお聞かせいただけますか。

宮家参考人 自衛権の存在よりも何よりも、そのような状況のもとで、命をかけて守り合わなければ同盟は終わるのです。そういったことを考えると、個別的自衛権もしくは集団的自衛権ということではなくて、やはりその同盟の本旨に基づいて自衛権を行使していくような形にしないと、とても外国に対して説明ができないと私は思います。

 実際にイラクで私も経験をいたしましたけれども、やはり自衛隊の部隊がサマーワにやってきて、初めて私たちの扱いが変わりました。大使館員の扱いが変わりました。私のセキュリティークリアランスも一段上がりました。そして、より多くの正しい情報が入ってくるようになりました。これは同盟の結果でございます。

田中参考人 私は、集団的自衛権の行使に当たるのではないかという立場でお話を申し上げましたけれども、だからといって、それがない、あるいは実際の反撃ないしはその介入を行わないということによる影響についても当然考えなければいけないという立場での問題提起でございます。

 ですので、一切合財をその法律、それからいろいろな規制、こういったもの、場合によっては大もとになっている憲法、その精神も含めて、無視することはできないにしても、やはり当然の対応をしなければいけない状況というのがございます。それが、事前にある程度頭の整理も含めてされていることが、実際に陸送などを含めた今回の自衛隊法の改正を行うに当たっての、何よりもなすべき、あるいはされておくべき議論だと位置づけています。

畠中委員 ありがとうございました。

武田委員長 次に、赤嶺政賢君。

赤嶺委員 日本共産党の赤嶺政賢です。

 宮家参考人そして田中参考人、きょうは本当に御苦労さまでございます。

 田中参考人の方から伺っていきたいんですが、先ほどの意見陳述の中で、在外邦人の輸送について考える場合に、主権国家が介在することを考える必要がある点について御発言がありました。

 外国軍隊の受け入れに対して、ためらいや拒否的な考えがあるということですが、その点について、現状や背景について、もう少し詳しくお話ししていただければと思います。

田中参考人 まず、アルジェリアに関しましては、その独立の歴史から考えまして、旧宗主国であったフランスに対しての感情が非常に複雑なものがございますので、外国軍が入ってくるという一般的な嫌悪感や抵抗感に加えて、特定の国に対しての反感も強いということがございます。

 一方で、少し地理的に離れますけれども、アフガニスタンの場合におきましては、これは押しなべて、どこの国の外国軍だ、どこの国の軍隊であれ、外国人、それから、その軍隊が入ってくることを嫌う傾向があります。もちろん、濃淡といいますか、嫌悪感の強さ、弱さは国によって当然出てきます。かつてであれば、ロシアに対する嫌悪が強かったのが、今ではアメリカに対する嫌悪の方が強いというような変化もございます。

 いずれにしましても、一般的に外国軍が自国に入ってきて、自由勝手に気ままに振る舞うというものは、主権がある国家のもとでは普通に生じ得る状態ではないという意識を彼らも持っております。

赤嶺委員 外国軍隊の受け入れに対して、消極的、否定的な考え方が存在することを考えた場合、やはり基本は、在留外国人の安全確保を含めて、国内の安定と治安の維持に対する責任をその国が果たせるようにしていくということだと思いますが、その点について、田中参考人の御意見を伺いたいと思います。

田中参考人 もちろん、当該国の政府及び警察それから軍、こういった組織が十分な治安維持を行うのであれば、そもそも自衛隊を派遣する、これが陸送であれ空輸であれ、いかなる手段であれ、これを行うこと自体の本質的な必要性がむしろないと言えます。

 ただ、世の中は、そのように幾ら自助努力を行ってもそこに行き着かない事例もありますし、また、外国からの支援を受けても、それを立ち直らせる、あるいはそこをきちんと機能させることができない国というものも不幸にして存在します。

赤嶺委員 あと一問、田中参考人にお願いします。

 在外邦人の避難が必要な事態が発生した場合に、現在でも大使館が中心になって、バスをチャーターするなどして陸上の輸送が行われていると聞いておりますが、そのあたりの実態がどのようになっているのか。また、外国軍隊がその役割を果たすこととした場合に、外国軍隊の存在自体が攻撃の対象とされ、かえって邦人を危険にさらすおそれもあるのではないかと思いますが、その点についても御意見をお聞きしたいと思います。

田中参考人 民間レベルでの、チャーターなどでバスを使って移送させるというケースは、私が知っている限りでも、イラン・イラク戦争中にイランにおいてもありました。ただ、国外に出すということでは必ずしもございませんで、少なくとも、爆撃などが行われる可能性のある大都市圏から少し地方に逃す、そういうときの移送でございます。

 一方で、外国軍が存在することが標的となる可能性を高めるということにおきましては、確かに可能性はあります。ただし、外国軍ないしは軍としての機能を持って、守るだけの能力それから移送するだけの能力を持っていない団体や個人が実際の移送を担当することはむしろ危険だと考えますので、場合によっては、これは外国軍に対しての嫌悪感が強まる中においても行わなければいけないものもあるかと思います。

赤嶺委員 次に、宮家参考人に伺います。

 今回の法案提出の契機となったアルジェリア人質事件について伺いますが、今回の事件の背景として、フランス軍によるマリへの軍事介入やリビアからの武器流出が指摘されてきました。実行犯の大半は、チュニジアやエジプトの若者を中心に構成されていたことも報じられました。

 今回の事件の背景や、こうした事件の発生を未然に防ぐ上で、国際社会がどのような役割を果たすことが必要か、この点についての参考人の御意見を伺いたいと思います。

宮家参考人 非常に重要な御指摘だと思います。

 確かに、あのような形でリクルートされた人たちの多くは、やはりどこかに不満を持っている人たち、そして、社会において居場所がなくて、いろいろな形でリクルートされていくケースもあったかと思います。その意味で、チュニジアにせよ、エジプトにせよ、民生の安定、そして雇用の機会の増大等、一般論としてはあると思います。

 しかしながら、それとはまた別に、今、マリの話がございましたけれども、マリの事件があろうがなかろうが、先ほども冒頭御説明したように、彼らはある意味で、テロ屋かどうかわかりませんけれども、テロ自体が目的化した一つのグループをつくっていること、これはまた間違いなくて、確信犯でやっている部分についてはなかなか説得が難しいように思います。

赤嶺委員 もう一問、宮家参考人にお願いしたいんですが、企業自身の努力を伺いたいと思います。

 海外での邦人企業の安全と生存については、第一義的には政府というよりも各企業が自助努力により責任を持つことが国際的な常識だと御発言されていらっしゃいます。企業自身の取り組みとしてどのようなことをお考えか、その点についてお伺いをしたいと思います。

宮家参考人 先ほど申し上げたように、千差万別ではございますけれども、企業の対応でやはり最低限必要なことは、プロジェクトを始める段階においてコスト計算をするところから、セキュリティーというもの、安全保障というもの、もしくは警備というものにちゃんとしたお金を割り当てて、その上で原価計算をしていかないと、途中からどんどんどんどんお金がかかっても仕方がありませんので、その最初の部分から十分注意してやるようにすべきだと私は思っています。その点については、やはり欧米の企業の方に一日の長があるように思います。

赤嶺委員 ありがとうございました。

 やはりイラクやアフガンの戦争を見ても、あそこで邦人を救出するためにどうしたらいいのかと考える以前に、もうあの戦争は間違った戦争であったということがありますし、テロをなくすためには、本当に武力でなくせるのかという問題もありました。

 それから、きょうはお二人の参考人にいろいろな論点も出させていただきましたので、また、これを参考にして議論をしていきたいと思います。

 ありがとうございました。

武田委員長 次に、玉城デニー君。

玉城委員 生活の党の玉城デニーと申します。

 きょうは、参考人のお二方から、貴重な知見に基づく御意見を拝聴したいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 まず、ここまでのいろいろな御意見を伺いまして、今回は、特にアルジェリア邦人に対するテロ事件を受けて自衛隊法の一部を改正するということで、必要性がやはり高まってきたのではないかというふうに思料するわけでございます。その一方で、中東情勢を見る上で、日本がどういうところをしっかりと捉えなければいけないのかということが、やはり参考人お二方からの意見を聞いていますと、その視点がたくさん漏れていた、欠けていた、あるいは足りなかった、そういうことがあるのではないかと思います。

 今後、さらなる混迷を深めていく中東情勢を見る上で、日本にとって、現状の問題とはどういうことなのかということを宮家参考人、そして田中参考人からお話を伺いたいと思います。

宮家参考人 大変難しい御質問ですが、私なりに、自分の反省を含め申し上げれば、欧米諸国に比べて、やはり中東に対する関心がそもそも薄いのであります、残念ですが。

 私も、二十七年外務省におりましたけれども、戦争とか人質とか、そういう事件が起きるたびに、おまえ、アラビア語だろうと言われて駆り出される、そして数年すると忘れ去られる。また戦争が始まって、ほら来い、やってこいと言われて、また忘れ去られる。それに比べますと、欧米諸国は、常に、毎日のように、一面トップのニュースが中東から流れ、それに対する関心も強く、それに関係するシンクタンクも学者も、そして、それにかかわる活動がこれまた大きいわけでございます。

 もちろん、それがいいというふうに申し上げるわけではありませんが、一番悲しいのは、国民の皆さんに、中東地域について平時から、有事ではなくて平時のときから関心を持っていただくことになかなか理解が得られない。まあ、それは当然でございます、文化的な背景が違うわけですから。それが、私はまあ違うとしても、多くの中東専門家にとって一番の大きな悩みだろうと私は思います。

田中参考人 中東情勢を見る上でどこを見るかということなんですが、僣越ながら私自身の考えていることで申し上げますと、人を見るということです。

 ただ、この人というのは非常に広い意味がありまして、例えば民主運動などの傾向を見るのであれば、当然、当該国の国民が何を考えているか、不満がどこにあるかということになろうかと思いますし、一方で、そこの国の政治あるいは軍事などを見る、あるいは経済でもいいんですが、それを見るのであれば、やはりその国を動かしているエリート層といいますか、政治的、経済的エリート層などを見ていくことが必要だと思います。

 これをそれぞれ、日々といいますか、刻々といろいろな発信が今はインターネットを通じてされておりますので、それを追いながら、どのような状況の変化がどこで起きるのかということを頭に入れ、それが我が国の、安全保障もしかり、邦人の安全もしかり、それからもう少し広く言いますとエネルギー安全保障、こういったものにも影響しますので、それへのインパクトを考えて見ていく次第でございます。

玉城委員 その情勢を見た場合に、現在、中東における米軍のプレゼンスが変化してきていると思います。米軍が撤退していくプレゼンスにおいて、中東でどういう状況が起こり得るのか、端的にお二人からお伺いしたいと思います。

 では、宮家参考人からお願いします。

宮家参考人 米軍が十年近い戦争を終えて、イラクから撤退をしました。そして、アフガニスタンから二〇一四年の末までに撤退をするということでございます。これを、一部ではよかったよかったという方もおられると思いますが、私は全く逆に見ております。

 このような形で、一種の力の真空状態ができ上がるということは、もちろんオオカミ少年をするつもりはありませんが、場合によっては、次の紛争の種というものが今まかれているようにすら思います。

 このような状態で、巨大な、余りにも大きな力の真空ができない形で、ある状況から次の状況へのスムーズな移行が行われることが私は非常に大事だと思っていまして、もしそれに失敗をいたしますと、中東、特に湾岸地域で、また嫌な紛争が起こりかねないとすら思っております。そこは非常に注視すべきだろうと思っています。

田中参考人 確かに、米軍が撤退するという言い方もあると思いますけれども、十数年前まで、米軍はアフガニスタンにはおりませんでしたし、もちろんイラクにもおりませんでした。ですので、必ずしも、そのいなくなるということが、今までいたものが、あるいは恒常的にいたものがいないということではなく、一時的にふえていた、あるいは一時的に駐留していたというのが去っていくというふうに私は捉えております。

 現状で中東各国を見渡した場合に、情勢が非常に流動化している国、それから社会が不安定になっている国など、もろもろあります。しかしながら、その多くの国は、実は米軍がこれまで駐留していなかった国でありますので、イラクのケースやアフガニスタンのケースというのは、ごく限られた、むしろ例外的なケースであり、陸軍兵力であれ海軍兵力であれ、米軍自体が中東に依然として存在し続けているという状態は、私はそんなに変化していかないと理解しております。

玉城委員 中東の情勢が変化する、あるいは変化しないのではないか、さまざまな見方がある中で、確実に情勢が変化しているのが極東、西太平洋における米軍の抑止力の変化だと思います。

 米軍が世界的な再編計画の中で、同盟国に対してそのリバランスを求めているということからすると、今度は日本を取り巻いているアジアの情勢、西太平洋の情勢というものが、今後は大きく変化していくのではないかと思うんです。

 この点について、お二方から、見解といいますか意見を伺いたいと思います。お願いします。

宮家参考人 御指摘の問題意識は、私も持っておりますが、これには幾つかの変数がございます。

 特に、東アジアのことを考える場合には、中国の動向というものを考えなければいけません。中国が、東アジアの現状というものを維持する、そして現状を変えることがない、そして中国が東アジアの国際社会の一員として責任ある役割を果たす用意があるということであれば、我々は何の心配もありません。しかし、米軍のリバランスもさることながら、一番大きな要素は、中国がそのような意図を持っているかどうか、ここをはっきり見ることだと私は思います。

田中参考人 これは東アジアないしは西太平洋についてだけ言えることではないと思うんですけれども、やはり域内における強国、大国などによる覇権主義などがあれば、当然、その影響が周辺に及ぶわけであります。

 例えば中東で見ましても、ステータスクオを望む国と、逆に、革命など、レボリューショナリー、要するに革命を志向する国、あるいは現状の変更を求めていく国などがあって、その間のせめぎ合いによる緊張感というのは常に続いています。

 同様のことが、やはり東アジア、西太平洋においても言えるのではないかと思います。

玉城委員 つまり、現状維持を求めている国が間違いなく我が国の周辺に存在するということを考えますと、では、周辺を守るために、自衛隊のとるべき行動、とるべき姿というものが、遠く中東のことを考えずとも、周辺を見れば、おのずと自衛隊の姿というものが見えてくると思います。

 最後に、お二方から、自衛隊のあるべき姿といいますか、装備なり組織なり、こういうことをこれからは行っていくべきであるということをお伺いしたいと思います。

宮家参考人 端的に言えば、北方からの潜在的な脅威がもしあるとすれば、それよりは、やはり海洋の、特に離島も含めたものに対する何らかの潜在的な脅威に対して、それに対応できる能力を、陸上自衛隊も含めて変えていくべきだと私は思います。

田中参考人 私も、前政権のときにそういう名称が使われていたと思いますが、キネティック、機動的な対応ができる姿が、今後、日本を守る、国土を守る、国民を守る上で必要な自衛隊の姿ではないかと思います。

玉城委員 ありがとうございました。

 やはり、日本国家、国民がみずからのことをしっかりと考えるということが、我々立法府にいる者にとっての大きな責任であると思います。

 きょうは、貴重な御意見、ありがとうございました。

 終わります。ニフェーデービタン。

武田委員長 次に、照屋寛徳君。

照屋委員 社会民主党の照屋寛徳です。

 きょうは、両参考人に、貴重なお話を伺いました。ありがとうございました。

 私も、近年、海外在留法人数あるいは邦人出国者数が増加をしている、海外に展開する企業も多くなったという自覚はしております。

 そして、今回の自衛隊法改正との関係では、やはり忘れてはいけないのは、憲法との関連を含めて慎重に議論をしていく必要があるのではないかと考えます。

 最初に宮家参考人にお伺いいたしますが、私が住んでいる沖縄県からイラクやアフガニスタンへ、いわゆる対テロとの闘いに在沖米海兵隊が出兵をいたしました。私個人は、軍事力を主体としたテロとの闘いはイラク、アフガニスタンで失敗をしたのではないか、こう考えておりますが、宮家参考人はどのようなお考えをお持ちでしょうか。

宮家参考人 在沖縄海兵隊の一部が移動いたしまして、中央軍の配下で、イラクもしくはアフガニスタンでオペレーションをやっている、これは事実でございます。しかし、私がイラクで実際に会った沖縄の海兵隊員がやっていた仕事は、今委員がおっしゃっていたこととはまるで違うことでございました。

 実際に、CPAの中で勤務しておりましたら、ある日、電話がかかってまいりまして、海兵隊の人が、会ってほしい人がいると。待っていましたら、海兵隊の中佐が、イラクのファルージャの部族長を連れてきて、そして、日本が彼の部族にどういう支援ができるかという話を直接聞いてほしいと言ってきました。僕は、あれっと思って、あなたは海兵隊の制服を着ていますね、どこから来たんですかと言ったら、沖縄から来たと。彼らはそういう仕事もやっていました。決して、テロとの闘いというのはドンパチだけではないのです。民生の向上も含めて、彼らはミッションとしてやっていたんです。

 ですから、そのことを考えますと、全て、沖縄から出兵して、向こうで戦って、帰ってくるというような、単純な活動ではないことは御理解いただけると思います。

照屋委員 宮家参考人にもう一問お尋ねをします。

 この自衛隊法改正法案との関連で、識者が、日本は対米協力の文脈のもとに対テロ戦争に加担した、なおまた邦人救出という文脈で新たな対テロ戦争の当事者となろうとしている、邦人救出のための自衛隊法改正は国際社会にはそういうメッセージを与えることになるのではないかという指摘がありますが、参考人はどうお考えですか。

宮家参考人 どなたがそういうことをおっしゃったか私は存じませんが、少なくとも、今、アメリカですら、テロとの闘いという言葉は使っていないと思います。ウオー・オン・テラーという言葉は使っていないと思いますし、この法案の中のどこを見ても、米国のベの字も、テロのテの字も書いてございません。これは純粋に日本の国民を守るために自衛隊に新しいミッションを与えるということに尽きるんだと思っております。

 ですから、今のお話は、私にはこれ以上コメントのしようがございません。

照屋委員 田中参考人にお伺いをいたします。

 参考人の体験等を踏まえて、私は、車両による陸上輸送は、飛行機や船の場合と異なり、武器を使う可能性が格段に高まるのではないかと考えますが、参考人はいかがお考えでしょうか。

田中参考人 車両による輸送を行えば、当然、地べたといいますか、人に見えるところ、それから当該国の国民が生活するその空間に接することも多くなります。ひいては、それがテロリストあるいは武装勢力など、危害を加えようとする脅威を及ぼす団体からの攻撃を受ける可能性も当然ありますので、車両による移動時間、移動距離などにある程度比例してその可能性が高まるということは、私は妥当な見方だと思います。

照屋委員 先ほど、田中参考人が、独立国家、主権国家における自衛隊の邦人救出活動はなかなか困難な要素も多いというお話でございましたが、私も、活動する武装勢力や現地の十分な情報もないままに自衛隊が事件現場、紛争現場の近くの路上で活動するのは現実的ではないんじゃないか、こう思いますが、参考人はいかがお考えでしょうか。

田中参考人 主権の壁、それから先ほどのような武力行使を迫られるような可能性など、現実問題として起こる事象は多々考えられます。ただ一方で、このミッション自体は、そもそも邦人をそのような脅威から守る、そして救出して国外、ひいては日本に送り届けるという前提あるいはその目的のもとで成立ないしはその成立を目指しているものだと考えますので、そのもとでは、確かに難しいけれども、やはり必要がある。そして、国として対応しなければいけない事案だと考えます。

照屋委員 田中参考人に、最後に一点伺います。

 自衛隊による内陸での邦人輸送は決して簡単ではないし、多くの場合、間に合わないか、または間に合っても犠牲を覚悟しなければならない作戦になる、こう指摘をする識者がおりますが、参考人はいかがお考えでしょう。

田中参考人 私の方からも問題提起させていただきましたように、簡単ではありません。

 それから、御質問を先ほど別の方からいただきましたように、間に合わないというケースもあろうかと思います。

 また、不幸にして、脅威が一定以上に高まり、その結果、双方か、あるいは片側、どちらでもいいと思いますけれども、何らかの犠牲が発生する、こういう状況も、また現実を考えれば、起こり得ると思います。

 ただし、これは、全て、あるいは多くの場合において、邦人を守る、それからテロなどから守るという確固としたその目的のもとに行われることですので、これを一切否定するということは現実的じゃないと思います。

照屋委員 ありがとうございました。

 終わります。

武田委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言御挨拶申し上げます。

 参考人におかれましては、限られた時間ではありますけれども、貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございます。委員会を代表しまして、厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十一分散会


このページのトップに戻る
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.