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第5号 平成15年3月25日(火曜日)

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平成十五年三月二十五日(火曜日)
    午前九時四十分開議
 出席委員
   委員長 松本  龍君
   理事 稲葉 大和君 理事 田村 憲久君
   理事 西野あきら君 理事 柳本 卓治君
   理事 近藤 昭一君 理事 牧  義夫君
   理事 田端 正広君 理事 高橋 嘉信君
      小渕 優子君    木村 太郎君
      阪上 善秀君    鈴木 恒夫君
      野田  毅君    鳩山 邦夫君
      菱田 嘉明君    星野 行男君
      松浪 健太君    三ッ林隆志君
      水野 賢一君    望月 義夫君
      山本 公一君    小林  守君
      鮫島 宗明君    長浜 博行君
      日野 市朗君    青山 二三君
      中井  洽君    藤木 洋子君
      中川 智子君
    …………………………………
   環境大臣         鈴木 俊一君
   環境副大臣        弘友 和夫君
   環境大臣政務官      望月 義夫君
   参考人
   (福岡大学法学部教授)  浅野 直人君
   参考人
   (千葉大学大学院医学研究
   院助教授)        島  正之君
   参考人
   (弁護士)        村松 昭夫君
   参考人
   (環境総合研究所所長)
   (環境行政改革フォーラム
   代表幹事)        青山 貞一君
   環境委員会専門員     藤井 忠義君
    ―――――――――――――
三月二十日
 独立行政法人環境再生保全機構法案(内閣提出第四九号)
 日本環境安全事業株式会社法案(内閣提出第五〇号)
同月二十五日
 自動車排出ガスによる大気汚染公害被害者に対する救済制度の創設に関する請願(小林守君紹介)(第一〇八一号)
は本委員会に付託された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 独立行政法人環境再生保全機構法案(内閣提出第四九号)
 日本環境安全事業株式会社法案(内閣提出第五〇号)
 環境保全の基本施策に関する件(大気汚染による健康影響問題)


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     ――――◇―――――
松本委員長 これより会議を開きます。
 環境保全の基本施策に関する件について調査を進めます。
 本日は、大気汚染による健康影響問題について参考人から意見を聴取いたします。
 御出席いただいております参考人は、福岡大学法学部教授浅野直人さん、千葉大学大学院医学研究院助教授島正之さん、弁護士村松昭夫さん、環境総合研究所所長・環境行政改革フォーラム代表幹事青山貞一さん、以上四名の方でございます。
 この際、参考人の皆様に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。皆様におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、調査の参考にしてまいりたいと存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 次に、議事の順序でありますが、浅野参考人、島参考人、村松参考人、青山参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
 なお、念のため申し上げますが、御発言の際は委員長の許可を得ることになっております。
 それでは、浅野参考人にお願いいたします。
浅野参考人 福岡大学の浅野でございます。きょうは、発言の機会をお与えいただきまして、ありがとうございます。
 急な話でございましたので、レジュメをきちっと用意しておりませんで、項目のみを示したものと参考資料をお配りしております。大変申しわけございません。
 まず、道路沿道の大気汚染の状況についてでございます。
 御承知のとおりでございますが、我が国の大気汚染、とりわけ道路沿道の大気汚染は、窒素酸化物に関しましては毎年少しずつ改善の傾向にございます。しかし、二酸化窒素の環境基準の達成率は、上がってはおりますけれども、年平均値について見ますと、ほぼ横ばいでございます。これは、つまりは、自動車の排出ガスそのものについては少し減ってきていますけれども、それが大気中に出てからいろいろな形で化学変化を起こして、二酸化窒素という指標で見てまいりますと、数値はやや改善が悪いということだと聞いております。
 また、浮遊粒子状物質につきましては、年平均値では、近年は横ばいからやや緩やかな改善傾向になっているわけでございますけれども、環境基準の達成率という点で見ますと、年度ごとに大変変動が激しいわけでございまして、これは気象要因によるもの、例えば、私の住んでおります福岡などは春先に大変ひどい黄砂が飛んでまいりますが、こういうようなものが浮遊粒子状物質の中に入っておりまして、それが一緒に測定されるということがあるものですから、その年々の気候条件によって大きく変動するというようなこともあるようでございます。
 余談でございますが、自動車NOx法改正のあのときに、浮遊粒子状物質がひどいということを理由に改正をお願いしたんですが、たまたま運悪くその年はすとんと数字が下がって、大変環境省も困ったと聞いておりますが、やはりこれは気象要因でありますので、次の年また上がってしまったというようなことがございます。
 ところで、大気汚染による健康被害につきましては、他の参考人からもるる御指摘があろうかと思いますが、大変数多くの訴訟が起こされております。お手元には、大ざっぱに大気汚染の訴訟がどんなものがあったのかということを一覧にしたものをお配りしておりますので、ごらんいただきたいのでございます。
 一九七二年の七月二十四日にいわゆる四日市判決が出されたわけでございます。その後、多くの判決がございますが、大気汚染、健康被害に関する訴訟というのは、その判決を必要以上に一般化して見るということは適当ではないのではないかというのが私の考えでございます。つまり、判決というのはそれぞれの事件ごとの固有の事情を反映しておりますので、その点での影響が結構あるということでございます。
 ところで、四日市判決は、後に公害健康被害補償制度の制定の契機となったものでございますし、それから、公害健康被害補償制度制定に当たっては、制度の構造についての法理論的な根拠の手がかりを与えてくれたものということでは、大変重要な意味を持っている判決であろうと思います。
 この判決では、慢性気管支炎とか肺気腫、気管支ぜんそくといった、公害健康被害補償制度で指定疾病と言われる疾病が決まっておりますけれども、そういう疾病の個々の病名を挙げてそれに罹患をしたということを認定しているのではなくて、判決をお受けになった原告患者の方々の症候群としての呼吸器疾患というのでしょうか、例えばせきが出るとかたんが出るとか、あるいは目が充血するといったような、そういう全体としての患者さんのお一人お一人の健康状態の悪化というものをとらえて、裁判所はこれを、この判決ではぜんそく様症状と呼ぶと表現をしております。これは極めて適切な表現であったのではないかと思うわけであります。
 また、当時の患者さんが住んでおられました磯津地区における硫黄酸化物の汚染というのは、大変ひどいものであったということは明らかでございます。後になりまして、これは、ひょっとすると石油を燃やして出てくる硫黄酸化物以上に、工場プラントから出てきた硫酸ミストそのものではないかということも言われるぐらいに、かなり常識では考えられないほどのひどい汚染の状況であったということでございます。
 そういう状況を反映いたしますと、このような硫黄酸化物による大気汚染と地域における症候群としての疾病が多発しているということについて、集団としての因果関係、つまり、その地域に住んでおられる方々が多分その大気汚染によって症候群としての健康影響を受けておられるであろうということが明らかであれば、当然その中におられるお一人お一人の患者さんも硫黄酸化物による大気汚染の影響を受けておられるのだろう、つまり個の因果関係ということについても、裁判上、事実上の推定と申し上げますけれども、これがわかれば多分こういうことだと考えても問題はないという推定を働かすことが合理的である、そういう状況であった。私は四日市の判決についてはそのように理解をしているわけでございます。
 いわゆる指定疾病、四疾病とその続発症を認定の要件とするということにいたしましたのは、行政制度として公害健康被害補償制度をつくるときには、症候群ではちょっとどうにもなりませんので、行政的な制度の中での画一的判断の必要から、あえて四つの病名をつけて、この病気にかかっておられる方を認定するという制度にしたのだろうと思います。
 これに続きます、その後の多奈川訴訟判決、千葉川鉄判決あるいは水島訴訟判決、こういったようなものについて言いますと、大気汚染の状況は四日市に比べれば比較にならない程度に軽いものであったということは無視されるべきではないと思っております。
 他方、これらの訴訟では、公害健康被害補償制度上の指定疾病の発症や増悪とそれぞれの訴訟地域での大気汚染との関係が争われたわけでございまして、裁判所の判決もその点に大変多くのエネルギーを割いて判断をするという傾向がございました。これは、大気汚染健康被害訴訟が、いずれも公害健康被害補償制度における認定や補償給付との関係が深くあるということがその理由にあったんだろうと思いますけれども、しかし、その結果として、四日市判決で展開されました疾病と大気汚染との因果関係をめぐるべき論議が別の形の論議になってしまった。つまり、慢性気管支炎とか気管支ぜんそくが大気汚染との関係があるかどうかという議論になってしまって、言ってみれば、患者さんが受けておられる被害そのものを総体としてとらえるというよりも、必要以上に科学論争の世界に入り込んでしまった、そういうようなことが言えるのではないかと私は考えております。
 しかし、いずれにいたしましても、今申し上げました判決は、いずれも工場や事業場などの固定発生源を被告とするものでございまして、固定発生源に加え自動車排出ガスを問題にする、あるいは専ら自動車排出ガスだけを問題にして道路管理者である国などの責任を問うということになりました訴訟は、西淀川の第一次訴訟、川崎第一次訴訟以降のことでございます。しかし、この二つの訴訟では、いずれも固定発生源である企業の責任だけが肯定されまして、窒素酸化物と呼吸器疾患との因果関係を否定するということを前提にして道路管理者の責任も否定したわけでございます。
 同様に、最高裁まで参りました国道四十三号線訴訟につきましても、騒音被害と、それからさらに、自動車排出ガスによるちりやほこりによって例えば洗濯物が汚れるといったような生活妨害レベルの被害については、これを肯定いたしまして損害賠償を認めたわけでございますけれども、健康被害との因果関係については否定されているわけでございます。
 しかし、続く西淀川の第二次から第四次までの訴訟でございます。この訴訟になりますと、和解に応じないで判決を受けるということに固執いたしました道路管理者につきましては、硫黄酸化物と窒素酸化物の相加的、相乗的影響によって健康被害があったということを沿道から五十メーター以内の原告について認めました。また、川崎二次―四次の判決でも、同じように和解に応じなかった道路管理者につきまして、一九六九年以降は、道路から五十メーター以内の居住者については窒素酸化物の単体で慢性気管支炎、肺気腫、気管支ぜんそくを発症、増悪させる危険があったということが認められておりまして、道路管理者の賠償責任が認められたわけでございます。
 しかし、これに続きます尼崎訴訟では、窒素酸化物の健康影響を完全に否定した上で、国道四十三号線沿道五十メーター以内の局所的な自動車排出ガスによる大気汚染には気管支ぜんそく発症の危険がある、そして幹線道路沿道の危険増大は自動車由来の粒子状物質の影響によるものと説明されるべきである、とりわけディーゼルの関与が疑わしいということになりまして、道路管理者に沿道五十メーター以内居住者の健康被害についての賠償責任を認めております。さらにまた、加えて、浮遊粒子状物質の一時間値の一日平均値が〇・一五ミリグラム・パー・立米を超える大気汚染の形成の禁止を命ずるという差しとめを命じたわけでございます。
 名古屋南部訴訟でも同様の論理で、こちらの方は、沿道二十メーター以内に居住する原告三名について損害賠償を認め、一名の原告についてはやはり差しとめを認めるということになっております。
 東京一次訴訟の判決では、差しとめ請求は否定いたしましたが、沿道五十メーター以内の原告九十九名中七名について自動車排出ガスによる気管支ぜんそくの発症、増悪を認めて、道路管理者の賠償責任を肯定している、こういうことでございます。
 このように、最近の下級審判決は自動車排出ガスによる沿道居住者の健康被害についての救済を部分的に認める傾向がございますが、しかし、原因物質についての判断がわずか五年の間に大きく揺れ動いておりまして、また被害対象となる疾病についても一様ではございません。影響ありと判断される沿道の幅も一様ではなくて、差しとめの判断もさまざまである、こういったような点には注目をする必要があろうかと思います。
 もちろん、国民の健康を守ることを旨とすべき環境行政の権限発動というのは、ある程度の確からしさでこれが疑わしいということが明らかになった段階で、当然予防的に発動されるという必要があると思います。自動車NOx・PM法の改正はそういう意味でもぜひ必要であるということを、私、以前にここで発言をさせていただいたことがございます。
 しかし、健康被害の救済、補償ということになりますと、これを同じ程度の疑わしさの段階で実施すべきかどうかは、他の類似の被害を受けた国民への救済との公平という観点から見ても、多少慎重でなければならないと思うわけでございます。
 もちろん、訴訟制度というのは、裁判所の自由な心証による証拠の評価に基づいて個別の原告について個別に審査を行うことが建前でございますから、民事訴訟においてすべての事情を総合勘案して裁判官が判断された結果が判決として確定いたしましたら、その判断は原告と被告の間では真実なものであるという取り扱いになるわけでありますが、しかし、行政制度としての救済制度や補償のシステムを導入する場合は、司法審査とは違いますので、一定の要件のもとで画一的、定型的に判断を行い、公平性を維持することが強く要請されるわけでございます。
 現に、指定解除前の公健制度も、個々の患者さんについてその原因を特定することがおよそ不可能に近い非特異疾患でありましたので、これについては、一定期間住民票をここに置いているということでそこに住んでおられたという居住の事実が明らかにされる、それで汚染への暴露の要件を満たしたものとしてしまいまして、それから、実際にはいろいろな原因で病気になられることもあるわけですが、そのことは捨象しまして、特定の指定疾病にかかっておられるということさえ明らかになれば、その疾病の発症、増悪については大気汚染の影響を受けているものとみなすという割り切り制度のもとで、医療の現物給付やその他の金銭給付を行っていたわけであります。
 これは、一九七二年から三年ころの極めて深刻な公害被害の現実のもとで、産業界、被害者、そして国民の強い要請のもとで、言ってみればある種の社会的合意あるいは社会的契約ともいうような形で緊急にできた制度でございます。健康影響についての疑わしさがかなりの程度認められておりました硫黄酸化物を指標として、環境基準の三倍から四倍程度の濃度の面的汚染が継続し、地域住民に広く非汚染地域の二倍から三倍の呼吸器疾患が発生しているということがあれば、それで認定をしましょうという制度になっていたわけでございます。しかし、それでも、純粋な科学的な判断という立場からいいますと、これは思い切った判断であったという当時の関係者の回顧録の記述もあるようでございます。
 また、八八年の国会による公健法改正は、環境条件が大きく変わってきたことによる、言ってみれば事情変更による社会契約の解除であったと評価することができないわけでもないとも思われます。
 今回の東京訴訟の判決は、千葉大調査で、後に島先生もお話があろうかと思いますが、沿道学童の気管支ぜんそくの発症が有意に高いという調査データをもとに、同程度の汚染が考えられる沿道の気管支ぜんそく患者に個別因果関係を肯定しておりますけれども、これを、司法判断としてはともかくも、行政救済、補償制度の基礎とするのは、公健法制定当時の事情に比べますと、やや根拠としては弱いと思われます。
 第一、東京第一次訴訟に先立つさまざまな先例というべき判決には大きな揺れがございまして、これでもって確立した裁判例の集積があるとはちょっと言えないのではないかと思いますし、それから、東京判決がよりどころとしております重要知見は千葉大調査でございます。これをどのように判断されるかはもちろん裁判官の自由でございますけれども、調査の前提や射程距離を正しく理解して判決の基礎としているかどうかということになりますと、これは結局は、訴訟当事者、とりわけ被告側がどんなふうに論理を展開し争ったかということに左右されるわけでございますので、一つの判決が一つの科学的知見に与えた評価だけを行政制度の基礎とすることには無理があろうかと思います。
 近年の沿道の大気汚染の状態は、かつての固定発生源による面的汚染の時代に比べますと、汚染の形態が大きく変わっております。そして、汚染の状況も沿道の場合は変動幅が結構大きいんですね。さらに、こういう居住環境や生活環境もかつての公健法時代とはかなり変わってきておりますから、そうなりますと、沿道汚染に暴露したということを、かつてのように、通勤をしていたとか居住をしていたということだけで割り切ることは甚だ難しいと思われますし、それから距離減衰がかなりあるということが言われておりますから、そういったような汚染の場合には、費用負担者をどうするかということについてもなかなか割り切りが難しいのではないか、どうやって公平性を維持して費用負担させるかということにはかなりの困難があろうかと思うわけでございます。
 私は、当面は、改正自動車NOx・PM法で新たに導入されました自動車の大量保有事業者に対して積極的に対策を講じさせるという新しい施策などを着実に実施して、その成果に期待するほかに、局地的な自動車排出ガスの対策については、どうも従来総花的なメニューで、どこもみんな同じことをやるというのは言い過ぎるんですけれども、それぞれの場所の特性があるわけですね、ビルがいっぱい建っているとかそうでないとか。そういう特性をしっかり考えて、それぞれの場所に一番ききそうな対策を確実に実施して、しかも、それがどれぐらい効果が上がったかをきちっとチェックをするということが行われることが必要ではないかと考えている次第でございます。
 以上で私の発言を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 次に、島参考人にお願いいたします。
島参考人 千葉大学の島でございます。本日は、お招きいただき、ありがとうございます。
 私は、自動車排出ガスの健康影響につきまして、千葉県の小学生を対象に長年疫学調査を行ってまいりました。この結果は、今、浅野先生からもお話しいただきましたように、最近の尼崎、名古屋、東京などでの大気汚染公害訴訟の判決でも取り上げられておりますので、本日は、その内容を御紹介するとともに、大気汚染の健康影響についての意見を述べさせていただきたいと存じます。
 資料を配付させていただきましたが、調査は、昭和六十一年から千葉県環境部の委託で、私が所属する千葉大学公衆衛生学教室が行ってまいりました。三年ごとに内容や対象などの見直しを行ってきましたが、ほとんどは同じ小学校で気管支ぜんそくを中心とした呼吸器症状の調査を継続して実施しております。本日は、主に平成四年から六年まで行った調査の結果についてお話しします。
 調査の対象は、千葉県にある十の小学校であり、このうち六つの学校は、千葉県北西部の都市部にありまして、いずれも学区内を大きな幹線道路が通っております。これらの道路の自動車交通量は、およそ一万七千台から八万二千台と多く、大型車も二六・八%とかなり高率に混入しております。ほかの四つの学校は、学区内に主要な道路や大規模な工場などの大気汚染発生源がない田園地帯にあります。
 対象地域内の大気環境測定局における二酸化窒素濃度は、都市部の自動車排出ガス測定局が最も高く、次いで都市部の一般環境測定局、田園部の順となっておりました。浮遊粒子状物質につきましても同様ですが、地区間の差は二酸化窒素濃度ほど大きくありません。
 健康調査につきましては、一九八〇年以降我が国で行われた大気汚染に関する疫学調査は、ほとんど米国の胸部疾患学会が考案したものをもとに作成した標準化呼吸器症状質問票というものを用いており、我々もこれに準じております。この調査票は、ぜんそくなどの呼吸器の症状に関する質問のほか、居住歴や本人及び両親の既往歴、家屋の構造などさまざまな項目が含まれており、小児の場合は保護者が記入することが原則になっています。
 ここで、気管支ぜんそく様症状、以下単にぜんそく症状と略させていただきますが、その定義は、質問票への回答から、胸がゼイゼイ、ヒューヒューして、呼吸困難を伴う発作を過去に二回以上起こしたことがあり、医師にぜんそくと診断され、かつ最近二年間にこうした発作を起こしたか、ぜんそくの治療を受けたことがある者というふうにしています。この定義はすべての調査を通じて共通であります。
 結果について申し上げます。
 まず、年度ごとにぜんそく症状のある者の割合を二ページの図一にお示ししました。一九九二年に一から四年生であった学童のうち、調査開始時点で三年以上その地点に居住しており、一九九四年までの三年間継続して毎年調査に協力し、この間に転居もしたことがないという者を対象にしました。約二千七百名であります。
 女子のぜんそく症状は、三年間ともに都市部の道路から五十メートル以内の沿道部に居住する者が最も高く、次いで都市部で道路から五十メートルを超えて非沿道部に居住する者、田園部の順となっています。男子でも、三年間を通じて田園部が最も低く、三年目は五十メートル以内が五十メートルを超える者よりも高率でしたが、一年目と二年目はその逆の結果であり、一定の傾向は見られませんでした。
 次に、ぜんそく症状の発症率、すなわち、調査の最初にはぜんそくの症状がなく、その後の二年間に新たに発症した者の割合を図の二にお示ししました。男女ともに五十メートル以内の沿道部に居住する者が最も高率であり、次いで五十メートルを超える非沿道部、田園部の順であります。この傾向は統計学的にも有意でありました。
 このような疫学調査の結果を評価するに際して、データに偏り、すなわちバイアスがないかどうか、また大気汚染以外の交絡因子の影響がないかということを考慮する必要があります。
 私たちは、毎年同じ時期に同一の方法で調査を行い、いずれの学校でも一〇〇%に近い高い回収率を得ています。また、同じ対象者の追跡調査を行うことによりぜんそく症状の発症率について評価していることから、バイアスの影響は小さいと考えています。
 交絡因子につきましては、ぜんそくの原因としてアレルギーや呼吸器感染症など多くの因子が指摘されており、特に小児期にはアレルギーの関与が大きいと考えられます。仮に沿道部にアレルギーを有する児童が多ければ、大気汚染の影響がなくてもぜんそくの発症率が高くなるでしょうし、家屋の構造などの生活関連因子に影響される可能性もあります。
 さきにお話ししましたように、本調査で使用した質問票には本人及び家族の既往歴など多くの質問項目が含まれておりますので、ぜんそくの症状に関連する要因としてこれらのうち十二の項目を取り上げ、その因子の影響を調整してそれぞれのリスクの比を求めた結果を三枚目の表一にお示ししました。
 アレルギー性疾患の既往につきましては、男子四・二九、女子五・二七という結果を示しておりますが、これは、ほかの要因の影響を除外したと仮定した場合に、アレルギーの既往がある者は既往がない者に比べてぜんそくを発症するリスクがそれぞれ四・二九倍、五・二七倍となることを示します。
 地区別に見ますと、田園部における発症を一とすると、男子で道路から五十メートル以内の者は三・七〇倍、五〇メートルを超える者は一・九二倍、女子ではそれぞれ五・九七倍、二・四四倍という、統計学的にも有意なリスク比が得られました。
 以上より、学童のぜんそく症状の有症率や発症率は、居住している地区により差が見られ、各地区の大気汚染濃度に相当する結果でありました。アレルギーなどを考慮しましても、ぜんそくの発症は都市部の道路沿道におけるリスクが高く、大気汚染が関与していることを示唆する結果であると考えます。
 次に、大気汚染物質への暴露の評価の問題と疫学的な因果関係について、今後の課題も含めて申し上げます。
 大気汚染による健康影響を評価するためには、人が汚染物質にどの程度暴露されているのかを推定することが必要です。従来の疫学研究では、最寄りの環境測定局における大気汚染物質の濃度を用いて評価したものがほとんどですが、自動車排出ガスのような局地的な汚染が問題となる場合は、今浅野先生からもお話があったように、測定局の濃度だけでは十分に評価できないと考えられます。
 また、二酸化窒素や浮遊粒子状物質は、暖房器具の使用や喫煙などによっても発生するため、対象者ごとの個人暴露量を測定することが望ましいという意見もあります。二酸化窒素については個人暴露量を測定するための簡易測定が可能でありますが、多額の費用と対象者の協力を必要とするほか、短期間の平均濃度しか得られないという問題点があります。一方、浮遊粒子状物質については簡易測定法自体が確立されておらず、疫学調査で多数の対象者の暴露量を直接測定することは不可能と言わざるを得ません。
 このように、暴露評価方法にはさまざまな問題点が残されています。私たちの調査でも暴露量を十分に評価できているわけではありませんが、その一つとして、一九九二年の四年生約千名を対象に、冬と夏の年二回、対象者の家屋の中での二酸化窒素の濃度の簡易測定を行いました。その結果は、冬に石油ストーブなど暖房器具を使用している家庭では濃度が極めて高く、地区の間では濃度の差が見られませんでした。一方、夏には、都市部の沿道部に位置する家庭が非沿道部や田園部よりも有意に高くなっていました。
 呼吸器の症状調査と家屋内の二酸化窒素濃度の結果、両方が得られた者について、ぜんそく症状の発症と大気環境及び家屋内の二酸化窒素濃度との関連を検討しました。結果は、二ページの図三にお示ししましたように、大気中の二酸化窒素濃度が高い地区ほどぜんそく発症率が高くなっていました。ほかの要因の影響を調整した解析は三ページの表二にお示ししましたが、大気中の二酸化窒素濃度が〇・〇一ppm増加すると、ぜんそく発症のリスクは二・一〇倍と大きくなることが示されました。家屋内の二酸化窒素濃度による影響は認められませんでした。
 これは、大気中の二酸化窒素はぜんそくの発症と関連があり、家屋内は関連がないという矛盾した結果のように思われます。大気中には、二酸化窒素のほか、近年健康への影響が注目されているディーゼル排気微粒子を初め、さまざまな汚染物質が存在すると思われます。今回見出された大気中の二酸化窒素濃度とぜんそく発症との関連性は、二酸化窒素による直接的な影響ではなく、未知の原因物質があり、二酸化窒素濃度がその代替の指標となっている可能性があると考えています。このように、暴露を評価する方法についてはまだ多くの解明すべき問題が残されており、今後の重要な課題であると思います。
 次に、大気汚染と健康影響の因果関係につきましては、大気汚染があれば必ずぜんそくとなり、汚染がなければぜんそくは起こらないといった関係があれば明白でありますが、ぜんそくの原因はアレルギーを初め多種多様でありますので、単一の原因だけでその発症を説明することはできません。
 疫学研究の結果から因果関係を明確に証明することは不可能であると言わざるを得ませんが、その因果関係を判断するための指標として、英国の医学統計学者であるヒルという人は九項目を示しています。詳細は省略させていただきますが、多くの研究で関連が一致しているかどうか、リスクの大きさがどの程度であるか、過去の知識と矛盾がないかどうかなどであります。環境因子のリスクを評価する際は、これらの中でも関連の一致性、すなわち多くの研究で同様な結果が得られているかどうかということが重視されています。これは、さきにお話ししたような疫学研究の結果に影響し得るバイアスや交絡因子などが、状況が異なれば再現しにくいということによると思われます。
 私たちの調査は千葉県の小学生に限られたものでありますので、自動車排出ガスと健康影響との因果関係を明らかにするためには、異なる地域における同様の疫学調査や成人を対象にした調査の結果と対比することが必要です。オランダなど欧州諸国でも道路に近いほど呼吸器疾患が多いことが報告されていますが、残念なことに、我が国では千葉県以外でこうした調査はほとんど行われていないのが実情であります。今後、多くの地域で大気汚染に関する疫学調査が行われることを強く望みたいと思います。
 最後になりますが、これまで申し上げてきましたように、私たちが行ってきた疫学調査は、さまざまな限界はあるにしても、幹線道路沿道部における大気汚染が小学生のぜんそく発症に関与していることを疫学的に示唆する結果であると考えます。自動車交通量の多い幹線道路沿道に多くの人が居住する我が国にとって、自動車による大気汚染の問題は早急に取り組むべき課題であり、健康影響を明らかにするための調査研究を行うとともに、汚染を低減するための対策が推進されることを期待して、私の意見を終了させていただきます。
 まことにありがとうございました。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 次に、村松参考人にお願いいたします。
村松参考人 御紹介いただきました弁護士の村松でございます。
 私は、大阪の西淀川大気汚染公害裁判の原告弁護団でもありましたし、日本弁護士連合会、日弁連の公害対策・環境保全委員会の委員でもあります。また、自動車NOxの問題では、大阪府が自動車NOx削減検討委員会というのを設けておりますが、この委員も務めております。こうしたことから、さまざまな大気汚染患者さんたちへの聞き取りだとか、あるいは裁判等の問題にも関与してきましたので、そういう立場から意見を述べたいというふうに思います。
 私は、大気汚染による健康影響の問題を考えるときに、その出発点は、やはり公害被害の現状、とりわけ、現在でいえば、未認定患者さんたちの被害の状況というのがその議論の出発点になるということだろうと思います。
 御存じのとおり、言うまでもなく、気管支ぜんそくの患者さんは、正常なとき、つまり発作のないときは健康な人と変わりません。ところが、一たび発作に襲われますと、呼吸困難に陥り、息を吸うことも吐くことも困難になる、こういう状況に追い込まれます。私たちが聞きましても、その苦しさはやはり本人でないとわからないというふうに言われます。時には、重い発作のために、失神をすることもある、そのために命を失うということもあります。私が担当しました大阪西淀川の公害裁判の原告の中にも、ぜんそく発作のために駅のトイレで亡くなられた女性の方や、あるいは発作の余りの苦しさに耐え切れずに、殺してくれということを叫びながら死んでいった患者さんもおります。
 だから、私たちは、この公害病というのは、死に至る病だというふうに言われております。こうした被害が、一年、二年ではなく、これが二十年、三十年の長きにわたって続くわけですから、その苦しさというのは想像にかたくないというように思います。
 私は、こうした公害患者さんたちの被害の象徴的な話を一つだけ御紹介させていただきたいと思います。
 この患者さんは、西淀川の公害原告でしたけれども、二十四歳の若さで亡くなった方であります。小学校のときにぜんそく発作にかかり、亡くなるまで病院のベッドでの生活を余儀なくされた方であります。この方は、人が自分のベッドの近くに来ると、空気が減るから来ないでというふうに頼んだといいます。
 そして、亡くなられた後、お母さんはこういうふうに言っております。
 葬式のとき、お棺に入れられたあの子を見て、私、はっと思いました。大きいんです、思ったより背が。いつも苦しい言うて、かがみ込んだり、うずくまるみたいな格好ばかりしていましたからね。背筋をぴんと伸ばした普通の姿勢でおるところ、もうずうっと見たことがなかったんですわ、何年来。お棺に入れられて初めて真っすぐに伸び切った姿見たら、ああ、この子こんなに大きかったんかと、大きくなっていたんやなあと思いました。
 この患者さんは、眠るときもエビのように体を丸めてしか眠れなかった。私は、このところに公害患者さんの長年の苦しみの一つの象徴的な状況があらわれているんだろうというふうに思います。
 そして、当然、こうした身体的被害は、そればかりにとどまることなく、経済的あるいは社会的な被害に及んできます。発作のために入通院を繰り返しますので、勉学の道あるいは仕事が奪われる。家族も、夜中の発作のために大変負担になり、場合によっては、離婚や家庭崩壊ということももたらします。とりわけ、未認定の患者さんの場合の経済的な負担は大変なものがあります。
 日弁連の聞き取り調査によれば、ぜんそく発作のために仕事を失って収入そのものがなくなり、生活保護を受けている患者さんも多いということであります。治療費だけを見ても、最低月二、三回の通院が必要として、患者さんによっては年に百回もの通院が余儀なくされます。一回の通院で五千円、一万円がかかりますので、これに入院が必要ということになればさらに出費はかさみます。発作のために個室に入院するということも勧められます。そうすれば、差額ベッド料も大変かかります。したがって、年間の医療費だけで三十万、百万、そういう費用がかかるのが今の現状であります。
 そのために、未認定患者は、受診の回数そのものを抑制したり、入院を勧められても、費用が捻出できないために入院を断る、こういうことも出てきております。そうなると、さらに症状、状況は悪化をし、場合によっては死に結びつく、こういう悪循環に陥るということになります。
 私たちは、公害患者さん、とりわけ未認定患者さんのこうした現状というのを、やはりこの健康被害の問題をどうするかというときの出発点にすべきだというふうに考えます。
 二番目は、この間の司法判断が問いかけている意味は何かという点であります。
 私は、言うまでもなく第一に重要なのは、この間に五回にわたって自動車排ガスの健康影響が認定をされたということであります。こうした判断は、既に健康影響があるという判断は定着したと言ってもいい状況ではないかというふうに思っております。恐らく、我が国の公害のさまざまな判決の中でこれほど判決が積み重なった事例はあり得ない、今までなかったんだろうというふうに思います。そして、これは単なる一過性のものではなく、公害という構造的な被害を五回にわたって裁判所が認定をした、このことの意味はやはり大きいというふうに思います。
 二つ目は、尼崎や名古屋の裁判が差しとめ請求までも認めたという点であります。つまり、このことは、今も健康影響が生じており、これ以上被害発生を放置することはできない、こういうふうに裁判所が判断したからこそ差しとめ請求を認めたわけであります。このことは、緊急の公害対策はもちろんではありますが、今なお発生している、現状でも発生している公害被害の救済を強く要請している、そういうメッセージだというふうに見るべきだと思います。私は弁護士をやっておりまして、裁判所というのは、ある面でいうと、もともと歯がゆいばかりに行政に対しては謙抑的、抑制的であります。その裁判所が差しとめ請求まで認容をした、このことの意味はさらに大きいというふうに思います。
 第三に、東京大気判決が未認定患者さんに対する賠償を認めたということの意味も大きいというふうに考えております。このことは、救済が必要な、救済の手を差し伸べるべき公害被害者がいるということを裁判所が認定したわけであります。このことの意味も、先ほどの未認定患者の生活状況の現状を考えれば、極めて大きいというふうに受けとめるべきと考えます。
 第三番目に、少し視点を変えて、救済の問題についてお話ししたいと思います。
 我が国の公害とそれを克服してきた経験からも、公害被害の救済が今最優先で行われるべきだというふうに考えております。公害被害の救済は、よく言われるように公害克服の原点であります。これを放置する中で公害克服というのはあり得ない、このように思います。このことは、例えば、我が国では一九六〇年代から七〇年代にかけて、工場、つまり固定発生源から大変深刻な公害が発生をし、それを、国民もあるいは企業も行政も、大変な努力によって克服してきたという経験があります。
 行政的には、総量規制という方法が行われると同時に、被害者救済制度が創設され、こうした中で、世界的に注目されるような公害克服の経験を持ってきたわけであります。つまり、公害対策と被害者救済を車の両輪として公害を克服してきた、これが我が国が世界に誇るべきこれまでの公害克服の経験だったのではないかと思います。
 自動車NOxの問題でいいますと、環境省は、一九七八年に二酸化窒素の環境基準を緩和したときから一貫して、早期に環境基準の達成を公約してきました。ところが、残念ながら、何度も計画を立てながら、この二十数年間この公約は果たせないままとなっております。もちろん、自動車排ガスの問題についてはさまざまな問題があります。しかし、私は、環境省が自動車排ガスによる健康影響を正面から認めてこなかった、このことがその根底にあるというふうに思います。つまり、本当に環境基準の達成の緊急性への認識がないまま計画が立てられてきた、このことが、公害対策が、この二十数年間公約をしながら環境基準が達成されてこなかったその根底にあるのではないかと思います。私は、このことは大阪府の自動車NOx検討委員会の検討の中でも強く感じているところであります。
 自動車排ガスの公害対策を本気で進めるためにも、自動車排ガスによる健康被害の発生を正面から認め、そのことを前提とした対策と救済を行うこと、このことが日本の公害経験を生かす道ではないかというふうに考えております。
 さて、被害者救済の制度の問題でありますが、私たちは、基本的な制度設計は、現在の被害者救済制度を参考にして行うべきというふうに考えております。二点ほどポイントをお話ししたいと思います。
 一つは、どのような地域に住む患者さんを救済の対象にすべきかという問題であります。これは、さまざまな医学的あるいは疫学的な研究の成果を前提にしていけば、汚染指標は、本来であれば、現在であればディーゼル微粒子を中心とするPM二・五がその基準として一番考えられるべきでありますが、現状ではこの環境基準が制定されていなくて測定も十分ではありませんので、二酸化窒素と浮遊粒子状物質、つまりSPMを基準物質にすべきというふうに考えます。道路沿道では、交通量と大型車混入率というものの使用も十分に考えられると考えております。
 そして、費用負担の問題です。これは、できるだけ原因者負担の原則を貫くべきというふうに考えます。お手元の日弁連の意見書では、道路の設置・管理者、自動車メーカー、とりわけディーゼル車を製造販売しているメーカー、さらにディーゼル車の燃料である軽油のメーカーなどもその費用負担の念頭に置いております。
 道路の設置・管理者に救済責任がある、費用負担があるということは、この間の判決の中でもその責任が認められておりますので、かなり異論のないところとも思いますが、自動車メーカーについては、残念ながら、東京大気判決の中では、結論的には賠償責任が認められませんでした。しかし判決も、自動車メーカーも大量に製造販売する自動車から排出される排ガス中の有害物質について最大限低減させる社会的責務があると述べております。さらに、ディーゼル車に対する排出ガス規制が必ずしも十分でない時期に、ガソリンエンジンを搭載可能な車種についてまでディーゼル化が進行したことは望ましいことではなかったというふうに述べております。さらに、現にメーカーの中には、行政から救済制度への協力要請があった場合にはそうした協力について検討する用意があると言明している自動車メーカーもあります。
 したがって、仮に法的責任の問題はおくとしても、大量の自動車によって、その一方で広範な公害被害者が発生している以上、これにかかわっている自動車メーカーが少なくとも行政的な救済責任を果たすことはやはり必要ではないかと考えております。未認定患者の現在の状況を考えれば、公平の観点からもこのことが強く要請されているというふうに思います。
 最後に一言だけ、緊急の問題として提起をしたいと思います。
 一つは、東京大気裁判が、沿道の問題で、昼間の十二時間交通量四万台、一定の大型車混入率のある沿道五十メートルというところは基本的に被害が発生しているということを判決の中で指摘しています。環境省は、今後数年かけてさまざまな疫学調査をすると言っています。しかし、今必要な調査は、この判決が指摘しているような道路沿道に住む公害被害者がどの程度おるのかということを緊急に調査し、その実態調査を行うこと、その中で被害救済について早急に、緊急に考えるということが今、判決を受けて環境行政に求められているのではないかというふうに考えております。
 環境省が判決を正面から受けとめて、被害者救済に向けて前向きな検討をしているかどうか、私は大変疑問を持っております。被害者の救済を行うこと、このことが公害、環境問題を解決する基本であることを再度強調しまして、私の意見陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 次に、青山参考人にお願いいたします。
青山参考人 環境総合研究所の青山と申します。今回はもう一つ、環境行政改革フォーラム、二百二十名の環境問題の専門家、三十人ぐらいの大学教授が入っていますけれども、世の中で言うところのNPO、それの代表幹事もしております。
 きょうは、浅野さんもおっしゃっていましたけれども、急の話だったんですけれども、私自身、この分野、環境庁、今でいう国土交通省、建設省、東京都、横浜市、川崎市、千葉市、千葉県等々の仕事の中で、この自動車大気汚染の予測、評価を十五年ぐらいやってきた者として、ほかの先生方がお話しされなかったところを特に中心に、皆さんにわかりやすくお話ししたいと思います。
 第一点目は、この公害健康被害補償予防法というのができたときは、工場、事業所、発電所、いわゆる固定発生源と申しますけれども、煙突から大気汚染が出る。一番有名なのは四日市の公害問題であります。そのころに、それによる健康被害を補償するためにこの法律ができたわけでありますが、そのときは約八割が工場、事業所、今言いました煙突から出る大気汚染です。二割が自動車とか、東京のように羽田飛行場があるところは飛行機とか、港があるところは船の大気汚染、それが二割の時代でありました。
 汚染物質としては、硫黄酸化物。今またイラクで油が燃え出しています。僕は十二年前、湾岸戦争のときに、世界で唯一、油が燃えたものを、最後は現地にまで行きまして予測したんですけれども、ああいう油が燃えますと、硫黄がまず高濃度で出ます。それに近いもの、それが当時の主流でありました。ところが、この公害健康被害補償予防法により新しい患者認定を打ち切った、山東議員がたしか環境委員会の委員長だったと思います。その後から急激に自動車による大気汚染がふえてきました。
 汚染物質は、窒素酸化物というのが一つです。通称NOx、NO2と言っています。昔の鈴木都知事がナンバーツーと言ったあれであります、NO2、NOxであります。もう一つは浮遊粒子状物質、エアロゾルも含めました小さな粒子が肺胞の中に入ることにより影響をもたらす浮遊粒子状物質、その二種類があります。
 これは、実を言いますと、東京を例にとりますと、七割が自動車からの排出であります。三割が工場、事業所、つまり煙突からであります。今お話ししたように、法律をつくったときと現在、全く汚染の割合がひっくり返っております。内容も変わっております。現在は、今申し上げましたように、自動車排ガスが特に大都市の場合七割、神戸市では多分八割を超えると思います。にもかかわらず、この公害認定の話とか補償が昔の工場、事業所時代の割合で行われている、これが一つ大きな問題であります。
 だからといって、工場、事業所の話を打ち切るわけではもちろんありません。それはそれとして、その当時発症した方、健康被害を受けた方が補償を受けるのは当たり前でありますが、現在このモータリゼーション、世界でも有数の自動車大国であります日本の社会にあって、自動車の排ガスによって受ける影響、これを放置してはいけない。
 石原都知事が再三にわたり、ペットボトルの中の、ディーゼル排ガスに含まれております黒鉛とかDEPと言っておりますけれども、発がん性物質をテレビでお見せになって、その規制を強く訴えているということは、皆さん御承知のとおりだと思います。それが第一点であります。
 第二点と第三点は、私ならではのお話であります。
 第二点は、私は、東京大気汚染公害裁判の証人にもなりましたし、川崎公害裁判も証人になりました、原告側のであります。ふだんはお役所の仕事をやっているのでありますが、原告が、だれもそういう分野の専門家が証人になってくれない、青山さん、なってくれということで、私もやむなく引き受けた経緯がございます。島先生がおっしゃいましたように、今までの裁判では、大きな道路の沿道から五十メーターの範囲の原告が、被害者が一部認められているわけであります。
 私の資料の二ページ目に、これは仕事でやると大変な話なんですけれども、衆議院から頼まれたということで、急遽やってきました。
 二ページ目のこの図の持つ意味は、ケース一というのは、島先生がおっしゃられたように、幹線道路の沿道五十メーターのところでの大気汚染がどのぐらいのものか、これは東京でやっています。東京を例にして、コンピューターを使ったシミュレーションと言うんですが、そういうものでやったものであります。五十メーターで一本の道路のときに、縦に置いた場合、南北に置いた場合と、東西に道路を置いた場合、例えば環七とか、そういう大きな道路を置いたときのものを示しております。ケース一とケース二が一本の道路であります。
 これは、年間を通じての平均でやっています。あるときですとあるところから北風だけがある、これではわかりませんので、年平均値をとりました。
 三つ目が、二百メーターの間隔で二本の道路を置いた場合であります。十二時間で四万台走る道路を二本置いた場合がケース三であります。
 ケース四は何かといいますと、十二時間で二万台通る道路を四つ、碁盤の目のように置いた場合であります。
 東京、特に都心、千代田区、中央区、港区は、このケース四もしくはケース三がそこらじゅうにあるわけです。
 その場合の大気汚染濃度をシミュレーションによって求めたものが、下から二つ目のグラフであります。
 ケース一、ケース二が、島先生がおっしゃったような状況での大気汚染であります。それに対し、二つの道路があって、仮に患者が真ん中にいる、道路の端からでいいますと九十メーター、両方の道路から九十メーターにいるときの話がケース三であります。これが一、二よりはるかに濃度として高くなっています。四つ目は、交通量は半分でありますが、碁盤の目のように置かれた場合であります。この四つ目を見ていただきますとわかりますように、ケース一、二より若干濃度が高くなっております。
 裁判所は、やむなく、五十メーター以内に居住する原告を対象に、東京大気汚染裁判の場合には九十九人のうち七名について損害賠償を認めたわけでありますが、実は私は証人になったとき、東京のように、どこに行っても道路、ちょっと歩くと次の道路、百メーター行かなくても次の幹線道路がある、まして二百メーター歩けば当然次の大きな道路がある、このようなところでは、線として道路をとらえるのではなく、面として汚染をとらえるべきだということを強く裁判所で訴えたわけでございます。しかし、残念ながら、東京でもし私が言うようなことを、ここにあるようなことを認めますと、恐らく全員を認めなくちゃいけない、恐らく膨大な国家賠償のお金がかかるということもあって、従来の五十メーター以内ということを認めたんだと思います。
 しかし、ここに書いてあるのはごく一例でありまして、一枚めくってください。次のこれが、私が東京大気汚染裁判で出した、実際はカラーでありまして、実は裁判所でも、パワーポイントといいます、OHPとかスライドを使って判事等にお見せしました。
 左の図が何かといいますと、九十九人の東京大気汚染裁判の原告の方が居住している位置であります。この黒い点が原告の方の住まわれている場所であります。右の方が実は大気汚染の濃度です。これはちょっとカラーでないとわからないんですが、太くなっている部分が当然幹線道路であります。東京がいかに一極集中であり、日本の首都であり、千代田区を中心に日本全体に国道が延びているか、幹線道路が延びているかということがよくわかります。
 次のページをちょっと見てください。これは、昭和四十九年度から、裁判で私が証人になったときのデータとしては平成六年度が一番新しいものでした、四十九、六十、平成二、平成六と、それぞれの年度における大気汚染のシミュレーションを行ったものであります。もちろん、予測ではなく、実際に値がありますので、その値をもとに再現したものであります。
 見ていただくとわかりますように、この四つの年度、何十年かたっているわけでありますが、千代田区を中心に真っ黒であります。つまり、大気汚染は、幾らか改善したときもありましたけれども、事この狭い東京に一千万から住んでいるその地域にありましては、大気汚染はこのような面的な汚染を呈するということが私の申し上げたいことの大きな第三であります。
 今申し上げました二つ目の論点と三つ目の論点は密接に関係がありまして、過去の裁判では大きな道路の近くにいる方だけが賠償の対象になったわけでありますが、私自身は環境省にも建設省にも東京都にもこういう仕事をさんざん仕事の中で出してきたわけでありますが、そういう裁判、司法の場と実態を調査する話はまた判断が乖離する、評価が乖離するかもしれませんが、さっき申し上げましたように、五十メーター以内の方だけが高い濃度を受けるということは、よほど地方にあって幹線道路がたくさんないところの話であります。東京とか大阪とか横浜のように、狭いところに道路が集中するところにありましては、面的な汚染状況が現出しているということを私は強く主張したわけであります。
 そういうことを前提にした上で、四つ目、これは村松弁護士がるる御説明されました。実は、私自身、今まで裁判所ではこのことは一切言わなかったんです。それはバイアスがかかるということで言わなかったんですけれども、私は、一九九二年のときに非常に重度なぜんそくに見舞われまして、その後四回、きょうは実は妻も傍聴人で来てもらっているんですけれども、救急車で運ばれるほどの発作に見舞われまして、そのうち一回は十日間ほど入院いたしました。昭和大学とか国立医療センター。東京に五十五年住んでおりますが、そういう中での私の体験を少し四番目にお話ししたいと思います。
 それは、未認定なわけです、打ち切られた後。東京都内に、未認定であり、実際重度な症状を持った患者の方がいらっしゃる。その方は、もちろん私自身も何回となく仕事ができないほどのことになりましたけれども、それとは別に、年をとってからぜんそくになりますとほとんど治らない。薬で、コントロールというんですけれども、それを抑えるしかないわけであります。そうすると、ずっと一年通じて、一貫して薬を飲まなくちゃいけない。その薬がただじゃないわけです。
 私は、たまたま会社とか大学とかいろいろなところの職がありまして、収入がありますからいいわけですけれども、収入がない方、生活保護を受けている方、そういう方にとっては、実はこのお金はばかになりません。実はそれは医療控除の対象になるぐらいの高額になることもあります。まして、入院を繰り返している方にとっては何十万になるわけであります。さらに、この四月から健康保険の個人負担が一割ふえます。実はそれはもろに薬代にも影響してくるわけであります。
 ですから、たまたま工場が多く、煙が工場から来ている時代に認定された方は、曲がりなりに今もさまざまな意味で補償されているわけでありますが、その後の方は、白か黒かでいいますと、今度は全く何もない中で、自分の仕事に関しても、そういう医療費に関しても、薬代に関しても自己負担しなくちゃいけないという現実は、ぜひ皆さんに聞いていただきたいということであります。
 最後に、ほかの方は政策というより実態でお話しされたんですけれども、私は大学でも環境政策、公共政策というのを担当しておりまして、政策的に申し上げますと、この間、道路の特定財源の使途というのがずっと問題になりました。
 それに関連して言えば、こういう、自動車が大都市で七割、浮遊粒子状物質に至りましては八割発生源である、かつ、島先生がおっしゃるようなそれなりの因果関係が汚染と患者の間に認められるようなものに関しましては、やはり新しい財源をもって、つまり、重量税だけじゃなくて、例えばガソリン税、軽油税、保有税、いわゆる道路特定財源に当たっています道路系の、自動車系の財源があるわけです。それのごく一部でもそういうところに向かわせ、かつ新規の認定をする中で、当然それはちゃんとした手続、審査をすべきでありますが、自動車公害によって影響を受け被害が認定された方に対しては、そういう財源を一部でも補償のために充てるということを提案したいと思います。
 以上であります。ありがとうございました。(拍手)
松本委員長 ありがとうございました。
 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
松本委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。三ッ林隆志君。
三ッ林委員 おはようございます。自由民主党の三ッ林と申します。
 本日は、参考人の皆様、貴重な御意見をお話しいただきましてまことにありがとうございます。時間も余りありませんので、いろいろお聞きしたいところもあるので始めさせていただきます。
 まず、浅野先生にお聞きしたいのですが、今までの各種の裁判の結果の中で、原因というものもいろいろ変化しているし、その対象となる疾患も変わっていたりする、そしてまた、大気汚染と道路との距離に対しても、いろいろなそれぞれの判決なんかによって変化があるというふうなことが出ているというお話が先ほどありましたけれども、そうはいいましても、やはり今までの中では、大気汚染と健康被害というのをある程度認めるというふうな判決が実際にここまで続けて出ているということが言えるわけです。
 今後、そのような大気汚染による健康被害というものに対してどのような対応が必要になるのか。まずは、大気汚染と健康に対する被害との因果関係、それからそれぞれの、それらをもとにした道路との関係によるどのような補償というふうな、先生のお考えをお聞きしたいのです。
浅野参考人 大気汚染と健康被害との関係を認める判決が出ているという先生の御指摘でございます。
 この件に関しては、かつての固定発生源、工場系の大気汚染に関しての判決を見ましても、あるいは西淀、川崎の判決を見ましても、過去のかなり重篤な汚染があったという時期の影響を見ているということは確かでございます。近年の汚染についてどこまではっきりと、かつての汚染についての影響を認めたという判決と同じくらいの強さで認めているかということになりますと、これはなお議論の余地があるのではないかと思います。
 四日市の判決のように、非常に激甚であったという時代には、あるグループについて因果関係が認められた場合には個々の人について認める、この推定を割合素直に認めることができるわけですけれども、疾病そのものがさまざまな原因によって起こるということでございます。もちろん、さっきの島先生のお話を承りますと、さまざまな交絡要因を全部検討した上で分析しても、なおグループとして影響があるというお話でございますけれども、しかし、それはそうであるとして、では、ダイレクトに窒素酸化物が直ちにすべての個々の患者さんの原因であるということを断定することができるかどうか。これは、窒素酸化物については島先生は個人暴露をしっかり見なきゃいけないということをおっしゃっていまして、さらに浮遊粒子状物質になるともっとその点は難しいんではないかとおっしゃったわけです。これは私、専門外でよくわかりませんけれども、やはりその因果関係の強さの程度、これが最終的には説得力の材料になるのではないかと思うわけです。
 ですから、現にそこに被害を受けていらっしゃる方がいらっしゃるということはよくわかるわけですが、類似の疾病にかかっておられる方は全国あちらこちらにおられる、その点も十分に考慮いたしませんと、やはり行政制度として何かを考えるということにはやや問題があるのではないか。
 それよりも、やはり何としても、現在の、私申し上げましたのは、何か判決が出ると、すぐ各省が集まって協議会が行われて、対策のメニューがいっぱいつくられて、これをやりますというのが出てくるんですけれども、どれを見てもみんな同じことを書いてあるわけですね。だったらやればいいじゃないかと思うわけですが、それが毎回毎回繰り返されていることにむしろ疑問を感じます。
 それぞれの地域の置かれた状況、例えば、道路がどういう用途で使われていて、どういう住居の形態であって、近隣がどういう状態であるのかというようなことを細かく見て、その場所に最もふさわしいやり方を考える、そういう手法をもっときめ細かく考えていかなきゃいけない。
 そのためには、たとえ国道が問題であるとしても、私は、地方自治体がしっかり関与して、地方自治体も中に入ってやるというような仕組みが必要だろうと思っているわけです。これは現に訴訟判決が出た地域については行われているわけです。しかし、他の地域についても、個別に考えていく場合にはどうもまだその辺の連携が悪いのではないかという気がしております。
 十分なお答えになりませんが。
三ッ林委員 ありがとうございました。
 因果関係が非常に重要だというふうなお話でした。
 島先生に次にちょっとお聞きしようと思うんですが、私も長年小児科医で、特に小児のぜんそくを扱っていて、大きな道路等の沿線とぜんそくの発作の関係とかというふうな調査も以前やった記憶があるんですが、先生のお話の中で、ぜんそくの発症、新規の発症のお話がありましたけれども、子供のぜんそくは六歳くらいまでにほとんど九割以上の子が発症して、小学校に入ってから発症する子はどちらかというと非常に少ない。なおかつ、私なんかがやったときには、沿道五十メートル以内で発症するような子供というと、かなりの数の子たちを集めないとなかなかそういうデータがとれないんじゃないかというふうな印象を持ったことがあるんです。
 今回の先生の結果で、新しくぜんそくになったという患者さんが有意であったということですが、どれくらいの母数であって、その中でどれくらいの発症があったのかをちょっと教えていただけるかということ。
 それから、先生のこの結果のほかにも、小児に関してどれくらいの同様のデータが今まで出ているのかということと、成人のが余りない。子供のぜんそくの場合には、ほとんどがアレルギーが関与していて、一番影響が大きいと私は思っておりますけれども、成人となると、また小児とは原因とかもかなり割合が違ってくるというふうに言われております。そうなると、小児でのデータというものが成人のぜんそくの発作等にそのままスライドして当てはめられるかどうかというのは、やはりちょっと疑問なところもあるんですが、その点に関しましても、ちょっと幾つにもなりましたけれども、先生の御意見をいただければお願いします。
島参考人 御指摘いただいた点でありますが、まず、本日ちょっと正確なデータは持ち合わせておりませんが、母数でございますけれども、調査を行っているのは千葉県下、十の小学校でありまして、年間約五千名程度を対象にしてまいりました。ただ、やはり学校単位で調査を行っておりますので、そのうち沿道五十メートルに居住する者となりますと、かなり人数が限定されてまいります。数百名程度ということになります。
 その中で、先生の御指摘にありましたように、確かに小児のぜんそくというのはアレルギーが原因の場合が非常に多いわけでございますので、小学校入学までに発症する人がかなり多数ではございますが、今回、私たちが調べた調査にありますように、やはり最近、従来言われているよりも比較的高年齢で、小学校に入ってから発症するぜんそくの子供もいるということが言えるのではないかと思います。
 同様の調査でございますが、このような道路からの沿道に限った調査というのは、先ほども申しましたとおりほとんど日本ではないのでありますが、環境省が環境庁の時代に、大気保全局の方で継続観察調査という形の調査が行われまして、その中でも、やはり小学校に入学してからのぜんそく発症と地域の二酸化窒素濃度との関連が見られたというようなことは示されていると思います。
 あと、もう一点御指摘のございました成人のデータでありますが、これは、実際のところ、ほとんど疫学的な調査というのはないのが現状であろうと思います。
 小児の場合の発症と成人におけるぜんそくの発症というのは、確かにそれにかかわる因子というのは大きく異なっていると思います。そのため、小児期の発症のデータをそのまま成人に当てはめていいかどうかというのは甚だ疑問でありますので、成人についての疫学研究を行う必要性というのは痛感しております。
 ただし、このようなぜんそくの発症について見る場合は、やはりかなり多数の集団を対象に追跡調査を行ったりする必要がございますし、あと、その地域での生活時間などを考えますと、成人を対象にした調査を行うということは非常に多くの困難性を伴うことも事実でありまして、そういう点で十分な調査が行われていないのではないかと考えています。
 以上でございます。
三ッ林委員 ありがとうございました。
 なかなか、実際の大気汚染との因果関係というのは私も非常に難しいんじゃないかというふうには思っております。私も、かなり田舎のところで仕事をしていましたもので、そこでも、やはりぜんそくの発作であるとか新しくぜんそくになる子供は着実にふえているというふうな印象があるので、それと、うまく分ける方法というのを見つけるというのは非常に重要なことでもありますし、また今後とも、成人も含めて先生にいろいろ疫学的な調査の方を進めていただければと、お願いを申し上げます。
 次に、もう残り時間も少ないのですが、青山先生に、先ほどいただいた資料をちょっと見せていただいて、面的汚染というふうなところがありますけれども、これは、シミュレーションで出しているということで、大きな調査局のところのデータとかがもとにあると思いますけれども、こういうシミュレーションが実態とどれだけ似通っているかということがこのシミュレーションが成り立つもとになると思いますので、それであるとしたらば、シミュレーションの結果と、それから道路と道路の間であるとか、または少し離れているところなんかの実際の測定値と、そういうものの相関であるとか近似というふうなことについてはどれくらい調査されているのかをちょっと教えていただければと思います。
青山参考人 時間がありませんので、簡単に申し上げます。
 それに関しましては、国土交通省、環境省が数理モデルに基づく予測値と実際にはかったものとの相関分析を当然行っていまして、それによる検定で、例えば検定値で九〇以上の場合にそのモデルを使えるという前提がございますから、全く机上のコンピューターモデルで計算しているわけではございません。
 ただ、一つ、東京全体を対象とした、先ほど委員にお見せしたような大きな場合には、実は、その中にたくさん、拡散を阻害するというんですけれども、いろいろなビルがあったり構造物がありまして、背後地で、全く何もないときに比べますと濃度が違うという問題がございます。もし、それを本格的に考慮して東京全体のこういう大きな、拡散計算というんですけれどもシミュレーションをやろうとしますと、現在出ていますスーパーコンピューターを回しても、恐らく数カ月かかるぐらいの話になりまして、今回私が裁判所に出したり役所に頼まれてやっているものは、それはほかでも東京のような大きなところを対象に全部建物のデータを入れて詳細にやるという例はないわけでございますけれども、今回提出したものは一応、平らな、建物がないという前提でやっております。
 もし建物を入れると、まさに建物の背後ではよどみまして非常に高い濃度が出るとか、逆に、地上より高いところは拡散が進むとか、そういう地形だとか建物、構造物を考慮したときには、結果がそれほど一様でありません。
 先ほど、環境省とか国交省が使っているといいますか、こういう条件のもとでこういう検定で九十点以上とった場合にはこれを使ってもいいよというのも、実は現状では建物を考慮しないモデルなんです。
 そういう意味で、行く行くは、今、新宿区のある部分を対象に、建物を全部データを入れまして、そこで一年間の風を吹かせまして、同じようなことをやっと私どもの研究所がやり出したんですけれども、そういう研究を進めていけば、特に道路から何メーターということだけじゃなく、どういうところが濃度が高くなるかというより細かいことも将来わかると思います。
三ッ林委員 ありがとうございました。
 最後の方に、今もっと細かいシミュレーションを始めたというお話ですけれども、ぜひともそれを進めていただいて、もっと、よりよいといいますか、より有意なデータをいろいろ出していただけますように希望する次第であります。
 では、時間になりましたので私の質問を終わります。ありがとうございました。
松本委員長 牧義夫君。
牧委員 民主党の牧義夫でございます。
 参考人の皆様方には、お忙しい中、また足元の悪い中、衆議院の方までお運びをいただきましたことを感謝申し上げたいと思います。また、それぞれのお立場で本当に示唆に富むお話をお聞かせいただきましたことを、重ねて感謝を申し上げたいと思うわけであります。
 皆様の意見を参考にさせていただいて、公健法の改正自体は先週手続は済んでおるんですけれども、皆様方のお話を踏まえて、また今後の大気汚染による健康被害の未然の防止等に資するような、そんな議論も深めていきたいと思っておりますし、また未認定の方たちの新たな救済のそういった枠組みが何とかできないか、そんなことも模索をしていこうと思っておりますので、そんな観点から皆様方の御意見をお聞かせいただきたいと思います。
 まず、先ほど浅野先生からもるる御解説をいただきましたけれども、自動車排出ガスによる大気汚染と気管支ぜんそくなどの健康被害との関係については、西淀川の二次―四次、川崎二次―四次、それから尼崎、名古屋南部の判決においてこれが認められているというふうに思います。さらに、尼崎、名古屋南部では差しとめ判決まで出ている。
 それにもかかわらず、今回、東京大気汚染訴訟において国が控訴したことについて、それぞれのお立場があろうかと思いますけれども、まず、全員の方に一言ずつ率直な御意見、感想をお聞かせいただきたいと思います。
浅野参考人 控訴されたのは、それなりに国の事情がおありだろうと思いますから、とやかく申し上げることはできないかと思います。
 ただ、やはり、事実認定と申しますか、この問題に関してはなお議論の余地があると判断されたことはやむを得なかったのではないかと私は考えております。
    〔委員長退席、近藤(昭)委員長代理着席〕
島参考人 なかなか私の立場からはお答えしにくいのでありますけれども、やはり自動車排出ガスによる健康問題というのはかなり緊急の課題であると思います。しかしながら、その因果関係を確かめるという点につきましては、やはり私が科学者という立場でさらに究明しなきゃいけない問題であろうというふうに考えます。
村松参考人 私は、原告の代理人もやってきた関係ありますけれども、控訴というのは原告たちにとっては大変負担なんですね。御存じのように、日本の公害裁判というのは、十年だとか、東京でも判決まで七年でした。これは、控訴で再度ということになりますと、さらに期間が延びる、率直に言ってその間患者さんたちの救済がおくれるという問題が出てきます。
 そういう点では、もう今度の東京で自動車排ガスの健康影響が認められたのは五回目なので、やはりこの辺で、国の方も、そういう公害患者の現状も踏まえた上での対応をしていただきたかったというふうには思っております。
青山参考人 東京大気汚染公害裁判の判決に関しましては、私は非常に不服を持っています。
 その理由は、先ほど申し上げましたように、島先生の御努力は重々評価しておりますけれども、東京という特殊な、非常に密度の濃い、道路密度も交通量も多い、狭いところにたくさん住んでいる、そういうところにあって幹線道路五十メーター以内だけが救済の対象になったということは、先ほど私が皆さんにわかる形で図で示しましたことからしても、つまり、道路がたくさん、網の目状のようにある中に住んでいる実態、私が住んでいるところも、数百メーターの間に中原街道、国道一号、第一京浜が錯綜しております、ですから、そういう実態を踏まえていないという意味では、問題を感じています。
 もう一つ、島先生の方から、調査が日本で島先生のだけだというお話が何回となくなされました。一体環境省は何をしているんでしょうか。
 国は、道路をつくるためには膨大なお金を過去投入してきながら、こういう問題に関して、結局国が調査すればいいわけです、お金がいっぱいあるわけですから。そんなに、何億なんかかかる話じゃありません。調査しないでおいて因果関係がわからないと言っているのが、私がこの十数年見てきた実態であります。
 国立環境研究所というつくばにある研究所の研究員がかなりそれをやろうとしたのは伺っていますし、そういう方が、その後で今大学に行っていらっしゃる方もいらっしゃいます。ですから、調査しなければわからなければ、調査すればいいですし、そのお金は補正とか何かじゃなくて、通常の中で幾らでも出せるぐらいのお金を出せばいいだけなわけです。
 ですから、私は、この問題に関しては環境省は不作為だと思っています。
    〔近藤(昭)委員長代理退席、委員長着席〕
牧委員 ありがとうございました。
 次に、浅野先生と村松先生にお聞きしたいと思います。
 今、東京大気汚染裁判の判決について、東京都は控訴しなかったわけでございます。ただ、これは、判決の内容そのものすべて承服したわけではなくて、一定の意見をつけているわけであります。
 その評価、判決に対する東京都の評価のまず第一に、国の自動車排出ガス規制責任がないという判決があったわけですけれども、大気汚染の根本的な原因は国の自動車排出ガス規制の怠慢にあるというふうに意見をつけているわけですね。それについてどういうふうに思われるか、お聞かせいただきたいと思います。
浅野参考人 国の規制は累次行われてきているわけで、ただ、率直に言いますと、技術開発とのペースを合わせるという傾向があることは事実です。しかし、スケジュールをつくって、それで技術開発を促進するという努力をしてきたことは、裁判所の判決の中でも認められてきたのではないかと思います。
 私は、規制に関しては、単体規制、つまり車両一台一台の規制を幾らしてみても、絶対的に車の総量が減らない限りは問題はなかなか解決しない。結局、単体で削減した分が全部総量で相殺されてしまうという問題がありますから、やはり思い切ったことをやらなきゃいけないわけですが、そうなりますと今度は、一方では、産業活動、経済活動に大きな影響を与えてくるということが起こりますから、なかなか難しいわけですね。それで、どうしても自主的な取り組みとか自主規制とかいうようなことに頼らざるを得ないという状況があるわけです。
 この辺のところは、規制と申しましても、やはり単体規制だけで事足りると考えていたわけではないんでしょうけれども、思い切った規制を何とかしなきゃいけないという合意がなかなかできてこなかったということについては、大変遺憾なことだと思っています。
 そうなりますと、これは国が悪かったと本当に言えるのかいささか疑問でありまして、むしろ自治体も一緒になって、自治体の都市活動をどうコントロールするんだとか、そこでの経済活動をどうするんだというようなところについての意見は当然反映されるべきでありますから、国がちゃんとやるべきだ、単体規制をちゃんとやらないからけしからぬのだというのは、いささか自治体の態度としては腑に落ちないことがあると思います。
村松参考人 一つは、東京都が控訴しなかったという問題をどう考えるかということでありますけれども、私は一つの行政の見識だったというふうには思います。
 ただ、そうであれば、あの判決は、いろいろ問題がありますけれども、少なくても東京都の沿道でかなりの公害患者が発生している可能性を示唆しているわけですから、そうであると、東京都は、控訴しないのであれば、被害者の救済という点でも、そこを一歩進めて、そのために何をすべきかという点を地方自治体としてやはり考えるべき時期。そのことをやらないと、控訴しなかったというだけで済む問題ではないだろう。
 例えば、東京都においては条例で、十八歳未満か二十歳か、ちょっとそこはあれですけれども、医療費の救済がされております。しかし、成人については医療費の救済もされていないんですね。だからここは、ぜひ東京都は、まずはそこを、いろいろあっても控訴しないという判断をされたのならば、次はそこのところに踏み込むべきだろうと思います。
 二つ目は、国の規制責任の問題なんです。私も先ほどの意見の中で言いましたように、環境省は、二酸化窒素の環境基準を緩和したときから二十数年間、早期にこれを達成しますと言ってきたんですけれども、残念ながら二十数年間その公約が破られているという問題は非常に重い。そこは、この自動車の問題というのは、単体規制もあればあるいは自動車総量の削減、いろいろあります、そういうのを本気になってやってきたかどうかという点が、やはり東京都が指摘している問題だろう。
 私は、単体規制だけに特化し過ぎた、それはそれで非常に大事なんですけれども、基本なんですけれども、同時に、現状のこういう集中した都市を考えると、自動車総量そのものをどう減らしていくのか、このことも含めてやらないと規制にはならない、その点がやはり国の規制という点では問題があった、そのことがやはりひいては被害者を生んできた、こういうふうに考えております。
牧委員 ありがとうございます。今、村松先生がおっしゃったように、国が本気でやってきたのかというのは私も全く同感でございまして、この間の法改正のときの質問でも取り上げたんですけれども、そもそも六十二年の公健法改正の附帯決議で、「主要幹線道路沿道等の局地的汚染については、その健康影響に関する科学的知見が十分でない現状にかんがみ、調査研究を積極的に推進するとともに、その結果に基づいて、必要に応じ、被害救済の方途を検討すること。」とあるわけで、ただ、それが、十五年以上経過する中で調査研究がどう進んだのか、認定の要件というのがはっきり決まったのか、そういう質問をさせていただきましたけれども、この手の調査設計から手をかけなければいけなかった、そしてそれに基づくさまざまな観測機器、測定機器の開発というものにも時間がかかってしまった、そういった答弁があったんです。
 今度は、島先生、青山先生にお聞きしたいと思います。
 これほど時間がかかることについてどう思われるか、お聞かせいただきたいと思います。
島参考人 御指摘の点につきましては、私も千葉県でさまざまな調査を行っておりまして、やはり疫学調査を行うには大変な困難性があるということは痛感している次第であります。特に局地的な汚染の問題を考える場合に、従来の固定発生源による汚染のときの調査のように地域単位で見るということだけでは決して十分ではないと思われますので、先ほどお話ししましたように、できればやはり個人の暴露等をはかることが必要であろうとは思いますが、なかなかそのような機器が開発されてこない。
 そしてまた、汚染の実態も、昭和六十二年当時から現在に至るまで大きく変わっておりまして、その中でなかなか調査設計自体が進んでこなかったということは理解できなくもないですけれども、それにしてもかなりの期間がたっているわけですから、やはり不十分な点もあったのではないか。困難性は理解できますけれども、もう少し何とかできたのではないかなという気もしないではありません。
青山参考人 先ほど私、不作為ということを申し上げました。こういうところへ来て、早急にとか、いろいろと言葉の上では省庁の方も言われるわけです。しかし、他の、地球環境問題とかダイオキシンとかそういう問題に対して、膨大な財源を投入し調査を行い、立法措置をとるということに比べますと、この分野が非常におくれているといいますか、遅々として進まないといいますか、こういう場に呼ばれればそれなりのことは言ってきたと思いますけれども、現状に至っているということは、決して技術の問題ではなく、行政なりの意思の問題というふうに僕は強く感じています。
 というのは、先ほど国立環境研究所を申し上げましたけれども、環境庁の附置研究所としてこういう問題を、ほかの国を見ても、ある意味で第三者的な立場からやれる研究員も博士もいっぱいいますし研究者もいるわけです。しかし、なぜこういうテーマが積極的に、予算がつき、研究費がつき、やられてこなかったかというのは、私、何となしにわかりました。
 なぜかというと、私は川崎と東京の公害裁判で証人になって出たわけです。証人になって出たときに、反対尋問のときの要するに被告側の弁護士、これはふだんは判事をやっている方が出てきたわけですけれども、その方が隣にいて、やり合うのは全部建設省の方なんです。環境庁の方は一人もいないんです。環境庁に友達がいるので聞いたら、環境庁としては余り争いたくないということを、当時、僕に裏で言ったことがあります。環境省としては恐らく、環境を預かる、健康を預かる役所として、こういう問題に対して積極的にやりたいんじゃないかと思うんです。しかし、国として訴えられたときに、表には絶えず建設省なり法務省が出て、環境省がやりたくてもなかなかやれない、予算をつけようにもつけにくいという実態があると彼は言っていました。
 ですから、これは、皆さん、立法府が行政府をコントロールするという本来の道筋からして、ぜひ、衆議院なり参議院、国会がこういうものについて明確に予算をとり、因果関係を調査しろと。島先生だけに任せておくんじゃなくて、どんどんやればいいんです。ですから、それこそ皆さんの役割だと私は常々思っています。
牧委員 どうもありがとうございました。
松本委員長 田端正広君。
田端委員 公明党の田端でございます。きょうは、四人の先生方、大変にお忙しいところありがとうございます。
 早速ですが、浅野参考人にお尋ねしたいと思います。
 先生は、大変長い間、ずっと一連の裁判等にもかかわってきたといいますか、そしてまた、今いろいろな形で新たな検討の中にもお入りになっていただいているようでありますが、基本的に、昭和六十三年以前と以降ではっきりと分かれてしまっているというのは非常に残念なことだと思います。そうすると、新しい制度をつくる場合に、私は、今の法律制度では無理があって新たな法の仕組みという救済制度をつくらないとできないんではないかと考えておりますが、その点をお尋ねしたいと思います。
 その場合に、つまり、大気汚染と健康との因果関係ということが大きな問題になると思いますが、島先生の千葉大調査というものが、尼崎、名古屋、東京等、そういう裁判の一つの基礎データになっているわけでありますけれども、しかし、先ほど浅野先生の方もおっしゃっておりましたが、行政の救済制度ということになれば一定の要件の画一性が必要であるというお話がございました。そういうことになりますと千葉大調査だけではやはり足りないわけで、そこをどうきちっとすれば科学的な立証になっていくのかということが大事なんだろうと思います。
 そうしますと、国は十七年度から調査をするという話ですけれども、結局そこまで待つしかなくなってしまうのかな、こんな思いもするんですが、その点、浅野先生はどういうお考えでしょうか。
浅野参考人 先生のお尋ねの点についてはどういうポイントからお答えしていいかちょっとよくわからない面もございますので、御質問の趣旨にうまく答えたことにならないかもしれません。
 行政制度をつくる場合に画一的な要件が必要であるということを申し上げましたが、結局のところ、その後の効果、制度の効果がどうなるかということとの関連はあると思います。つまり、現行法のように、要するに逸失利益が生ずるであろうというようなところまで見る、そこまでの手厚い制度をつくるとすればやはり相当はっきりした要件が必要になるでしょうし、もっと緩やかなものであればもっと緩やかな要件であるということはあり得ると思いますから、どんな場合でも、これこれの因果関係が明確になり、これこれのことがあれば行政制度がつくられる、そう硬直に考える必要はないと思っています。
 しかしながら、申し上げましたように、司法制度の場合には、建前ではありますけれども、まさに個々の事件を個々の事件ごとに裁判官が判断すれば済むわけでありますから、表に出る事情、表に出ない事情、諸般の事情を一切合財考えて判断をするということが許されるわけですね。
 例えば、国道四十三号線と類似の汚染状況のところがほかにもあるではないかという御議論があるわけですが、私は、裁判官の頭の中にありましたのは、住宅地の真ん中にある日突然産業道路がどかんとできて地域分断が起こったようなところ、そういうことが恐らく背景事情として頭の中にあって、ほかのところに波及するかどうかよりも、ここでの被害者の方はぜひ救済しなきゃいけないという裁判官の判断が働く、こういうことはあり得るだろうと思うんですね。
 ですから、司法判断はそんなものだと私は思っておりますけれども、行政の場合には、一カ所一カ所、一つ一つ法律をつくって何かを考えるということは恐らく効率性から見てもむだでありますから、ある程度塊をもって類似のところを同じように処理するという制度にせざるを得ませんので、その限りにおいては司法制度よりもきめ細かさが必要であります。
 繰り返しますけれども、どういう後の効果を考えるかということとの関連で、少し緩やかでもまあ許されるかと。他の類似の疾患にかかっておられる方との公平性とか、例えば今日、非常にあちらこちらで花粉症などが問題になっておりますけれども、そんなようなものとの比較はどうなのかとか、子供さんで小児ぜんそくで苦しんでおられる方は全国にたくさんおられるわけですから、それをどうするのかといったようなことのバランスがうまく保たれるんであれば、それでよろしいのではないかと思っております。
田端委員 大変難しいといいますか、微妙だというお話でございます。
 それで、今お話がございました花粉症の問題、これも大変大きな、罹患者としては一千五百万とか二千万人とか、本当に大変な数でありますが、しかし、確たるその因果関係といいますか、そこのところがはっきりしない。
 それで、もう一点お尋ねをしたいのは、例えば、私はディーゼル排気微粒子というのは非常に問題だと思いますし、私も今から九年前に花粉症をこの環境委員会で取り上げたことがありますけれども、それから比べると、ぐっと患者がふえました。そうしますと、ディーゼル車というものとガソリン車というものは基本的にどうなんだろうと。ヨーロッパではディーゼル車があれですけれども、日本の場合は、今後、こういうふうなディーゼル排気微粒子というもの、DEPが大きな問題になっていくとすれば、これは自動車行政としてどうあるべきなんだろう、そういう基本的な問題にもぶつかるんですが、その辺はどうでしょうか。
浅野参考人 ディーゼルにつきましては、先生御承知のとおり、ヨーロッパなどでは、むしろ温暖化対策の観点からは推奨すべきものというような議論もあるわけでございます。
 結局のところ、我が国では、窒素酸化物が最初に問題だということで、そちらの方に全面的に対策をシフトして、それでやってきたために、御指摘のとおりDEPはかなり立ちおくれてしまった。私が聞いておりますところでは、対策上なかなか両立は難しかったと聞かされておりますので、それが本当であるとするならば、最初の政策のターゲットの立て方が少し問題だと考えられるに至ったときには、余り行きがかりなどにこだわらずに、さっとそのターゲットを変えるという柔軟さが必要だと思うんです。
 しかし、事はやはり、自動車のように保有者がたくさんいて、これまでそれでやってきたとかというようなことがありますから、そう役所だけを責めるわけにいきませんけれども。しかし、我が国は、一たんある政策ターゲットが決まったら、それはもうしゃにむにやってしまわなきゃいけない、やり過ぎるぐらいやるというようなことがあって、それで大事なものがおっこちてしまうということは、私も問題だと思っております。
田端委員 島先生にもお尋ねしますが、先生のやってこられた疫学調査、それが大きく今この問題の基礎データになっているわけであります。しかし、先ほど来のお話を聞いていても、それだけでよしとしないということもおっしゃっているわけでありまして、そういう意味で、科学的な立証を客観的にするためには幾つかのデータが重なり合わなければならないんだろう、こう思います。
 そこで、つまり、大気汚染とぜんそくというこの因果関係は、あとどういう形があればその辺のところの因果関係をもう少し明らかにしていく道筋がつくんだろうかというのが第一点。
 それから、これが、例えば道路に近いところほど被害は大きいんだというお話ですが、しかしそれもまた、因果関係は多種多様であるというお話もございました。そうしますと、何となくわかるんですけれども、なかなかここのところがはっきりしない、どういうふうなものが今後必要なんだろうか、疫学調査あるいは医学的に証明するには何が足らないんだろう、こんな感じがしますが、先生の忌憚のない御意見をお伺いしたいと思います。
島参考人 非常に難しい御指摘でありますので、なかなか明確にお答えすることはできないのでありますが、やはり、あと何がわかればいいかという点につきましては、ぜんそくというものを客観的に評価するということがまず第一点として必要であろうと思います。これまでの調査では、本日お話ししましたように、主に質問票への回答を用いております。これはかなり精度は高いものであるというふうに考えておりますが、やはりそういった質問票への回答だけではなく、何らかの検査のデータなりでこの人は明確にぜんそくであるかどうかというようなことが判断できれば、調査は大きく推進することができるものであると思います。
 それと、やはりこれも非常に困難な問題は伴うわけでありますが、大気汚染物質への暴露ということをどの程度正確に評価できるかという問題があります。すべての人を対象に暴露を評価するということは現実的に不可能であると思いますが、やはり暴露の量を正しく推定できる方法の開発が望まれると思います。
 それとも関係しますが、第二点目の御質問の、道路に近いところでどうかというようなお話でございますが、道路の状況というのは地域ごとに大きく異なっております。今回私たちは千葉県内の道路に限ったわけでありますが、それでも六つの学校がありまして、それぞれ、道路の交通量も、またその周辺の状況も異なっているわけでありますので、そうした異なる状況も踏まえた上で大気汚染の影響をどのように評価するかということは、今後解明しなければいけない大きな問題であるというふうに考えております。
 以上です。
田端委員 島先生は環境省の検討会にも参加されているわけでありますが、そうしますと、十七年度から調査するということに関して、今までの先生の御経験と、まだそこまで至っていない点と、そういうことをあわせて考えますと、これからはどういう方向で新たな環境省としての調査研究に入るべきだという御意見をお持ちなんでしょうか。
島参考人 まだまだ幾つかの課題は抱えているわけでありますが、この問題の緊急性も考慮した上で、やはり十七年度から調査がスタートできるように、従来の知見を踏まえて早急に調査設計等を進める必要があるというふうに思っております。
 十分なお答えにはなりませんけれども……。
田端委員 それでは、青山参考人にお尋ねしたいと思います。
 面的な汚染ということをおっしゃっておられるわけでありますが、確かにそういう意味での感じは私たちもするわけであります。しかし、これを裁判なりあるいは行政の中でどうするかということになると、なかなかまたそこは難しい点があろうかと思いますけれども。
 まず、それは何か科学的な立証の方法というのはあるのかどうか、特に健康被害との因果関係で、面的にまで拡大をどこまでできるかというのが我々素人的にはあるわけですが、そこはどういうふうなお考えなんでしょうか。
青山参考人 因果関係は、私というより島先生なり別途の方がいらっしゃるわけですけれども、裁判でいうと到達というんですけれども、走る自動車が出した排ガスが道路からどう原告、居住者に到達するか、その居住者の暴露する濃度を推定するのが私の専門であり、この問題についての役割なわけで、それでいいますと、田端さんがおっしゃったことを検証する方法は幾らでもあります。
 現在、東京都内を例にとりますと、一般大気測定局、これは住宅地に置いてある測定局であります。もう一つは沿道局、自動車排ガス局、道路の沿道に測定局を置いてあります、それが全部で百弱あるわけですけれども。例えば、今までのものは必ずしもきょうのようなお話に沿って置いたわけじゃないんですけれども、明確にあらかじめ状況を設定して、きょう私がお示ししたような場所に置いて、その測定器は、器械でいいますと二百五十万ぐらい、いろいろなものを入れても恐らく一千万でできるでしょう。電話回線を使ってインターネットを通じて常時、一時間ごとにデータが来ます。ですから、道路の際と、例えば五十メーターのところ、百メーターのところ、まあ次に道路があるわけですけれども。そういうところに置いて、東京じゅうに置くんじゃなくて、千代田区なら千代田区のあるところに今私が言ったものを置いてモニタリングを続ければ、濃度に関しては、粒子状物質もNO2にしてもわかります。これは間違いなくできます。私に頼まれれば私がやります。
 ですから、何で緊急云々言いながらやっていないかというと、さっき言ったことなので繰り返しませんけれども、やる気になればできますし、裁判所にそれを言ってもなかなかわかりませんから、それは多分、立法府を通じて行政府にそういうことをやらせるということが重要だと思います。
 ただ、一つ重要なのは、距離が違いますと、一たん出た排ガスが環境中で化学変化を起こして、NOがNO2になるとか、SPMも、直接出てきたときから、ほかの粒子状物質と一緒になって、ガス状物質と一緒になって、ある距離、時間がたつとほかのものになるというのがあります。ですから、単なる距離ではないことは間違いないんですけれども、それも、今言ったことをやればわかります。ですから、どこかをモデル地区にとってそれをやるということを、私は、とりあえず私の分野に関してはお勧めしたいと思います。
田端委員 ありがとうございました。以上で終わります。
松本委員長 高橋嘉信君。
高橋(嘉)委員 自由党の高橋嘉信でございます。きょうは、参考人の皆様方、ありがとうございました。
 島参考人と浅野参考人にお伺いしたいんですが、浅野先生の場合は、裁判は裁判というような御見解を先ほどからお話しされていますけれども、自動車排出ガス、とりわけディーゼル車対策についてお伺いします。
 我が国の排出ガスが健康被害に与える調査研究、このレベルは、アメリカとかヨーロッパに比していかがなものでしょうか。また、その対策についても、比してどのようにお考えか、両参考人に教えていただきたいのですが。
島参考人 お答えいたします。
 ディーゼル排ガス、特に大気中の微小粒子状物質というふうに広く考えさせていただきますと、その健康影響に関する知見は、米国あるいはヨーロッパの諸国では非常にたくさん出されております。それに比べて、日本での状況というのは極めて立ちおくれていると言わざるを得ない状況にあると思います。
 しかしながら、幹線道路周辺での自動車排出ガスの、ディーゼル排ガスの影響ということになりますと、これは国によって大きく状況が変わってくるわけでありまして、やはり、幹線道路、特に高速道路や自動車交通量の多い国道に接して多数の住民が暮らしている日本の状況というのは日本でないと検討できない問題でありますし、欧米諸国ではそのような研究というのは十分行われているわけではないというふうに思います。
浅野参考人 研究に関しては私はいささか素人でございます。ただ、印象だけ申し上げますと、どうも我が国の研究は物質を同定することに力を入れ過ぎていて、総体としてどうなのかということに関する研究は少しおくれているのではないか。
 例えば、窒素酸化物はどうかとか、浮遊粒子状物質ですとその中のどういう物質かということをまず一生懸命考えて、それがどうだというような研究にはかなり今までお金も時間も割かれてきたと思います。しかし、トータルに、では排ガス全体がどういう影響を与えておるのか。何か聞くところによると、それではドクター論文にならないんだというお話も聞いたんですが、ちょっと私にはよくわからないことでございますけれども、そういう点で、研究の方向が、言ってみれば施策にうまく結びつくような研究であったかどうか、これが不足であったという印象を持っておりまして、そのことが、また同時に施策に少しバイアスをかけたんではないかという気持ちも持っております。
 ディーゼルの対策に関しては、先ほど申しましたように、NOx対策に力を入れてきて、浮遊粒子状物質対策はかなり立ちおくれてようやく今始まってきているということでありますが、これはぜひ粒子状物質対策の方にむしろ力を入れるべきであろうと思っております。
高橋(嘉)委員 では、もう一度島参考人にお伺いしたいんですが、いずれ、健康被害に与える影響というのは、アメリカ、ヨーロッパは進んでいる、かなり数多くそういう研究結果が出ている。
 日本の場合は、都市域、非常に過密なわけですし、単位面積当たりの暴露量も多いわけですよね、微粒子全体も多いわけですから、排気微粒子も。そういった意味で、日本の場合は研究をこれから、さっきアメリカとかヨーロッパはそういう研究はちょっとおくれているかもしれないということを、ちょっと僕は聞き違いしてはいけないと思ってもう一度聞くんですが、健康被害に与える影響はきちっと日本より進んで欧米は研究しているけれども、過密地域、こういう総排出量が多い、暴露する地域の研究は、あっちではするべくもないという話のことですか。
島参考人 先ほどの意見に補足をしますが、欧米諸国では、大気中の微小粒子状物質の健康影響について、これは、一般環境における、日本でいうと一般測定局におけるような汚染物質の濃度と健康影響の関連についての研究は非常にたくさん進められております。しかしながら、道路に極めて近いような、いわゆる局地的な汚染の問題ということに着目した研究というのは余り行われていないのが現実であります。
 ヨーロッパのオランダなどでは、道路からの距離と呼吸器の症状や呼吸の機能との関連を検討した報告はありますが、しかし、これは道路から数十メートルから数百メートルといった非常に広い範囲、日本に比べると広い範囲での住民を対象にしたものがほとんどでありまして、居住の環境が日本と大きく異なっておりますので、そういう点で、道路に極めて近いところでの局地的な汚染の影響という点ではほとんど行われていないと考えられます。
高橋(嘉)委員 それでは、村松参考人にお伺いします。
 このたびの大気汚染裁判の判決において、小型トラックのディーゼル化の伸長に対してこれを戒める言及がございますが、これについての御見解をお聞かせいただきたいのです。
村松参考人 先ほど意見の中でも触れさせていただいたんですが、今回の東京大気判決では、メーカーの責任については、いわゆる賠償責任という点では否定をするという結果になりました。しかし、判決を読んでみますと、理由の中で、やはりメーカーがやるべきことをすべてやったんだというのではなくて、先ほど委員の御指摘のあるような、本来ガソリンで対応できるのをディーゼル化を進めたという点は、これはやはり望ましくないものだということを明確に理由の中に書いてあります。
 そういう点でいうと、判決というのは、最終的には法的責任があるかどうかというのは最終判断というところがありますけれども、理由を読んでみますと、結論的には認めなかったんですが、今言ったような点をかなり裁判所が理由の中で厳しく指摘している部分もあるというふうに考えております。
高橋(嘉)委員 今回の東京裁判を決定づけたとも言われる千葉大の調査結果でありますが、いずれ、参考人の方々から本当に御指摘いただきますように、国がある意味では健康被害という視点に目をそらしてきた、そういった視点をとらえてこなかったということ、これは反省すべきことであろうと思います。
 そこの中でですが、環境省の方では、例えば母数が少ないとか、あるいは暴露量を調査する、科学的知見が不足しているからそういったことをこれからやっていくんだ、二年後にやっていく、それまでは調査方法を考えるんだというやり方であります。この暴露量を調査した場合、千葉大調査を僕は裏づけると思うのですが、裁判ざたの話ではないのですが控訴しているから聞くのですが、もし因果関係を否定するような結論が出た場合、これは見解だけで結構なんですが、疫学上、反証に足るものとなるのでしょうか。島先生にお伺いしたいのです。
島参考人 非常に難しい御指摘ではありますけれども、やはりそれぞれの地域で異なる結果が出る可能性というのは考えられますので、さまざまな地域で大規模な疫学研究を行えば、その結果で、先ほど申しましたような、関連性にどの程度一致性があるかというようなことが因果関係の評価の指標になろうかと思います。ですから、ちょっとその反証という意味が十分に理解できないのでありますけれども、千葉大の、我々が行った調査だけではなくて、さらに環境省が計画されておられるような大規模な疫学調査を行うことは、言うまでもなく必要であると思います。
高橋(嘉)委員 では次に、大気汚染の主因がばい煙から自動車排ガスに変わってきまして、相次いで判決が出ているわけでありますが、公害健康被害補償法とは違った、今度、未認定患者一人が認められたわけですけれども、いろいろ状況を把握されている先生方ですからお伺いしたいのですが、新たな救済制度の必要性があると思われる先生、参考人の方いらっしゃれば、こういった救済制度を早急に考えていいのではないかという御意見があればお伺いしたいのです。
村松参考人 お手元に、日本弁護士連合会の自動車排ガスによる健康被害の救済に関する意見書というのを参考資料としてお渡ししておりますけれども、日弁連は、これを東京の大気裁判の判決が出る前に、去年の八月の段階に出しております。日弁連の独自の調査や、東京大気判決のない中での判決の積み重ね、さらに、今なお続いている汚染の実態、被害者の窮状、こういうことを総合的に考えまして、今、救済という点では、前の救済制度は参考にしながらも、新たな制度として、費用の負担者も独自に考えた上での救済制度をやはり設けるべきだというふうな意見書を出しております。
 私もこの意見書の作成にかかわりましたけれども、今その必要性は非常に強いというふうに考えております。
高橋(嘉)委員 青山参考人にお伺いしたいのですが、今、ディーゼル車の流入規制とか、非常に東京を初め近郊で条例化の動きが出てきておりますが、これについての御意見をお聞かせいただきたいのです。
青山参考人 私は、東京都とか、環境庁のころの環境庁ですけれども、そこの依頼で、ロードプライシングとか乗り入れ規制とかさまざまな調査を、政策立案、実際施策には至っていないのですけれども、やりました。
 一月に、私どもの研究所の友誼機関がウィーンにありまして、ウィーンに行きました。ロードプライシングに近い乗り入れ規制をやっていました。車の前にステッカーをつけまして、そのステッカーをつけている車を、ロンドンも最近やり出しましたけれども、それをやっていました。一台一台をチェックするというより、ステッカーのあるなしというのを抜き打ち的にチェックするという方法でした。
 石原知事も就任以来相当その研究をなさっているようですが、今言いましたステッカー方式、これはシンガポールも同じであります。一時期、香港もやろうとしていました。そういう方式はかなり実現性がある。ただ、本当に必要のある車は、お金を払っても、つまり賦課金なり環境税に近いもの、二種類あると思いますけれども、いずれを払ってでも入るということにあって、果たして交通量がどこまで削減するかというのは容易にはわかりません。
 ただ、ロンドンの話、台北市も日中の乗り入れ規制というのを似たような方法でやっています、貨物に関しまして。そういうデータを見ますと、不要不急の車があえて賦課金を払ってまで都心部に入るということは減るはずですから、それなりの効果があるというふうに思っています。
 それも、かなりもう十数年前からさまざまな検討を行政、国も自治体もやっている割に、まだどこも日本の場合に施策として取り入れられていないということに関して、私は石原さんの言っていることは大気汚染以外は余り評価するものではないのでありますが、少なくともディーゼル排ガス問題に関する石原知事の言っていらっしゃることは、東京でこそ早急に実現すべきだというふうに個人的には思っております。
高橋(嘉)委員 ありがとうございました。これで終わります。
松本委員長 藤木洋子さん。
藤木委員 日本共産党の藤木洋子でございます。
 きょうは、お運びをいただきまして、本当にありがとうございます。
 早速ですけれども、島参考人にお伺いをしたいと思うのですが、先ほどの御報告を伺っておりましても、委嘱されて研究を始められてから、かれこれ十七年目になるんですか、そのぐらいかかっていらっしゃるわけですね。この間に本当に継続的にフィールド研究を実施してこられたというのが千葉大しかないと言われているのは、全く貴重な研究だというふうに思いますので、この経験というのをやはり生かしていかなければならないだろうということを、まず強く感想として持ちました。
 そういいますと、先ほど青山参考人からもお話があったのですが、環境省も実はそのぐらいの年月を費やして調査というのをやっているわけですけれども、調査手法の調査しかやらないということをずっと繰り返し続けてもう十五年過ぎているわけですね。そういうことでは、本当に、同じ年月を費やしても、こういう一つのデータを取り出すことができるということが非常に大事ではないかと思います。
 島参考人が、法律時報の七十三巻ですか、ここに論文を載せていらっしゃいまして、「幹線道路沿道部における大気汚染の健康影響」ということでお書きになっていらっしゃるのですが、この中で私が特に関心を持ちましたのは、今の御報告のとおりなんですけれども、児童が、年齢が上がるに従って田園部在住者は有症率が低下しておりますが、沿道部、非沿道部在住者の場合は、男子は年齢による法則性というのが全く見られないという点と、女子の場合は全く下がらないというような状況になっているわけですね。ですから、特に沿道部の汚染度が高いということを示しているのではないかと思うのですが、そのように考えてよいかどうかということが一つ。
 それからもう一つは、患者さん、医学的な立場からいうならば症状を緩和させるとか治療あるいは療養ということは欠かすことができないことだというふうに思いますし、しかし同時に、根本的には大気そのものを浄化するということがなければ発症を防ぐことは不可能ではないかという気がするんですね。環境基準の達成ということが急務であろう。まずは基準の達成。それだけでいいかという問題もありますけれども、そういうことが大切であろうと思うが、その点についていかがかということ。
 それからもう一つは、ショッキングなのは、この論文の中で述べられていらっしゃいますのは、環境省の中の検討会が出された例も引き出されておられまして、特に、ディーゼル排ガスによる浮遊粒子状物質の中の極めて粒子の小さい、PMと言われていますけれども、それが非常に深部まで達していくということの恐ろしさと、それからもう一つは、環境省の検討会が言っているのは、発がん性の危険性をかなり強調しているわけですけれども、そういうことから考えれば、この病気というのはかなり深刻なものではないのかと私は考えるわけですね。
 そのためには具体的に調査研究の体制の強化が求められていると思うのですが、具体的に、研究者が少ないんだというふうにお考えなのか、それとも、物質的、経済的に体制を整えれば、それは千葉大だけではなくてどこでもなし得ることだとお考えなのか、その点についてお答えいただきたいと思います。
島参考人 今の御質問について私の意見を述べさせていただきたいと思います。
 まず、沿道部の汚染で、学年の進行に伴う変化の問題であります。
 従来、小児期のぜんそくは成長とともにほとんどが寛解し、症状が出なくなるというふうに言われておりました。ところが、最近のさまざまな調査結果を見ますと、小学生の時期で見ましても、一年生と六年生でそれほどぜんそくの割合に差が見られなくなってきております。これは環境因子が関係しているのかどうかは明らかではありませんが、従来のように成長とともに症状が自然におさまるというだけでは単純に説明できない問題があろうというふうに考えます。
 我々の調査の結果を見ますと、確かに田園部では学年とともに有症率が下がります。都市部、特に沿道部ではそれほど下がらないわけでありますが、個々に見ますと、沿道部でも症状が緩和している人はいらっしゃいます。ただ、それと同様あるいはそれ以上に新規に発症する方がいるために、有症率に変化が見られないということになっております。
 そうしたぜんそくの発症を防ぐために何が必要かという問題につきましては、これは当然、ぜんそく症状というのはさまざまな因子で発症するわけでありますので、単に大気汚染をなくしたからぜんそくが起こらなくなるというような単純なものではありませんが、小学校に入学してから発症するような、いわゆる高年齢で発症するようなぜんそくというのは、乳幼児期に発症するぜんそくと比べても、アレルギーなどよりは環境因子の影響が大きいのではないかというふうに考えられますので、環境対策というのは重要であると私も考えます。
 また、ディーゼル排ガスと発がん性の問題については、これは非常に強く示唆されているのは環境省の報告書にも示されているとおりでありまして、研究者の問題でありますが、率直に申しまして、疫学研究というのはさまざまな困難性、特に、対象となるのは人間集団でありまして、調査の意義を理解していただいて協力を得るなど、さまざまな困難性を伴います。また、結果が出るまでにかなり長い年月を要するなどの問題から、研究者が少ないのは事実であります。そしてまた、研究者が少ないこととも関連して予算も限られてきている、予算が限られるからますます研究者は離れていくというような悪循環ではないかと思いますので、そういう点を何とか改善することが必要ではないかと思います。
藤木委員 ありがとうございます。
 では、村松参考人にお伺いをいたします。
 環境省は、今は空気がきれいになっている、七八年に環境基準の大幅な緩和を行って、指定地域を解除するというようなことをやってから、現在はうんときれいになっているんだと言うんですけれども、私は、あの当時というのは、人が生活できない環境そのものだったのではないか、あれと比べてよくなったというようなことでは、そんなことでぜんそく患者がなくなるだろうなどというようなことはおよそ考えられないというふうに思うわけですね。まして、今御紹介がありました日弁連の意見書の中にも述べられておりますけれども、NO2は多少なりとも少しずつ改善してきている傾向はありますけれども、SPMの場合は、九九年と二〇〇〇年を見る限りでは、かえって達成率が低くなっているというような状況もあるわけで、これを患者との関連で見ると、私は、沿道だけに限らずに、広域化しているんじゃないかというおそれを持つわけです。
 特に、私の地元の神戸市の場合でも、かつての指定地域ではなかった須磨区だとか垂水区だとかそういったところにも、これは小児の場合なんですけれども、患者がふえていまして、ぜんそく発症者がふえているということが示されております。それも、高年齢化していっても発症率がそんなに急激には下がらないという特徴も示しております。
 ですから、そういうことからいうならば、救済は局地に限らないで、発症した人を対象にするという広がりを持ったものにする必要があるのではないかということを考えておりますが、それが一点ですね。時間が余りないようですから、そのことをまずお聞きをしたいと思います。
 それと、そのためには救済の新たな枠組みが必要だろう、先ほどから論じられておりますけれども、その点をお聞かせをいただきたいと思います。
村松参考人 救済の枠組みで、沿道以外にもやはり患者さんがおって、そこの救済も必要じゃないかという点ですが、私、これは先ほどから青山先生が面的汚染ということを言われていますけれども、そのとおりだと思います。濃度という点でいえば、東京なんかとりわけ地方の幹線道路の沿道と同程度、あるいはそれ以上の濃度が住宅地に発生をしている。したがって、大事なのは、これだけ判決が積み重なっていますから、今すぐにその判決をもとにした沿道救済というのは、緊急には、これはある面でいえばできるんだろうと思います。ある面で、そこは、私は、世論というか国民的な納得の得られる問題だろうと思います。
 同時に、広域問題も、それで全部、沿道で終わるわけありませんので、そういうところの救済もやりながら、広域の問題も、一定のNO2やSPM濃度を参考にしながら救済の制度を確立すべきだ、こういうふうに考えております。
藤木委員 ありがとうございました。
 それでは、青山参考人にお尋ねをさせていただきます。
 私、このシミュレーションを見せていただいて、年々悪くなっているではないかということが非常にショックでございました。
 先生のお住まい、これで拝見をいたしますと品川区になっているんですが、私もそこに宿舎がございまして、あそこもちょっと人間の住むところではないと思うほど、もう本当に室内でも黒く、密閉しているんですよ、サッシなんですけれども、そんな状況なんですね。もう恐らく吸い込んでいるだろうなという危険性を感じているわけですけれども。
 それとの因果関係を政府側、環境省は否定して、わからない、知見がないということを盛んに言うわけですけれども、私は、もし、その知見がないとその因果関係がわからないというのではなくて、因果関係はないのだという証明がなければ、救済しなくてもいいという話にはならないだろうというふうに思うんですね。ですから、SPMの影響ではないというような知見があるのかどうか。
 私は、実際、恐らく公健法の前回の改正のときだと思うんですけれども、環境研の嵯峨井先生がちょうど動物実験、マウス実験をしていらっしゃるのを拝見して、お話を聞いてきたんですけれども、あのときはほぼ因果関係はこれでもうわかったということをおっしゃっていたんですけれども、その後、その研究はそこで途絶えてしまっているわけですけれども、それの、SPMによる影響は一切ないというような知見はあるんでしょうか。
青山参考人 私の専門からちょっと外れる部分ですが、嵯峨井先生とは何回か、国立環境研究所をおやめになって大学に行った後もお話を伺う機会がありまして、今藤木委員がおっしゃった因果関係論だけじゃなく、科学的な知見について議論したことはございます。
 私が非常に疑問といいますか率直に感じますのは、人々の健康とかまた環境の保全を預かる環境省が、みずからかなりの時間があるにもかかわらず、ちゃんとした、別途さっき申し上げましたダイオキシンだとか地球環境に膨大な予算を財務省からとり、やっているのに比べて、この分野、非常に細く、あと、肝心なところに踏み込まないという実態があると思うんです。
 その上で、知見がないとか因果関係がわからないと言っていることは、さっき私は厳しく不作為と申し上げたんですけれども、それを本来国民に成りかわり、皆さんに成りかわり調査する、自分が調査するというより大学の先生なり国立研究所、国立公衆衛生院、いっぱいあるわけで、それをやるべきであって、それをやらないで、ないない、海外に求める。逆に、東京大気汚染裁判の場合には、カリフォルニア大学の全く因果関係がないということをおっしゃる先生をわざわざ国が呼んできて、主尋問でとうとうとやっている。それはやはりおかしい。
 本来やるべきことをやらなければ、大気汚染がよくなったならば環境省要らないわけです。存在する必要ないわけです。ですから、自己矛盾だと思います。
藤木委員 時間が参りましたので終わらせていただきます。ありがとうございました。
松本委員長 中川智子さん。
中川(智)委員 本日は本当に貴重な御意見をありがとうございました。
 まず、島参考人にお伺いしたいんですけれども、千葉大の調査ではゼロ、そして二倍のところ、そして四倍。今回、判決ではその四倍の部分というところが司法によって認められ、そして裁判に勝ったという現実があるんですが、先生は調査されてこの四倍のすさまじさということをやはり感じたと思われるんですが、二倍の部分に対しては、やはり私は二倍というのもすごい調査の結果としては重いものだというふうに思うんですが、島先生は、その二倍のところが採用されずに四倍という部分での率直な御感想と、調査をされて感じられたことなどをちょっと御意見としていただきたいと思います。
島参考人 調査の設計で、都市部では道路から五十メートル以内と五十メートルを超える地域というふうに分けて評価をしているわけでありますが、この五十メートルというのは全く今回の検討を行うに当たって分けた区分であります。ですから、五十メートルちょうどの地点と、そこを一メートル超えた地点というのは連続してほとんど同じ環境にあるわけでありますので、そういう点も踏まえて、五十メートル以内だけが影響があるというような考え方は、私はいたしておりません。
 ですから、考え方としましては、幹線道路の周辺地区ではぜんそくが多いというふうに考えられますが、より影響が強いと思われるのはやはり道路に近いところであろうという意味から、一応五十メートルというのを区分した上で評価を行ったわけであります。
中川(智)委員 では、続きまして村松参考人に伺いたいんですが、先ほど青山参考人が国の不作為と言われました。やはり私も全くそのとおりだと思います。これだけ司法での判断というのがはっきりしておきながら、一切、未認定患者を救わない、新たな救済制度をつくらないということは、もう怠慢を通り越して、人道的に、本当に人権から見ても許しがたいというふうに思っておりますが、なぜここまで放置するのかというところでの率直な、一番被害者の方々と寄り添って裁判を闘っていらした村松参考人から見て、なぜなんだと思われましょうか。
村松参考人 それは環境省に聞いていただければ一番いいんですが……(中川(智)委員「この間聞いたんです」と呼ぶ)そうですか。
 私が見て思うことなんですが、環境省は患者さんの被害の実態を本当に調査したのかという問題があると私は思うんですね。
 つまり、今回も、疫学調査をやりますと言います。でも、そうだったら同時に、今判決で言われている沿道なりそれと同程度の濃度のところにどれだけの患者さんがいて、そこの人たちの生活状況がどうなり、では治療費をどうしているのかとか、まさにその実態のところを、本当に環境省の皆さんが目を向けて、足を運んで調査をしているのか。そういう調査は、この間、私は一回も見たことがありません。環境省として、そこは私が見ていない、もしかしたらあるのかもしれませんけれども。
 しかし、私は、そういうところで、環境省が本当の意味での実態のところに正面から目を向けてこなかった。このことが、先ほどから因果関係いろいろ言います、そこが私は非常に大事なことだと思うんですけれども、科学というのは常に進歩しますから、科学的な究明が一〇〇%というのは、これは何年先になるかわかりません。しかし、大事なのは、進歩しますその時々の科学の到達点の中で、その現状の中で何を行政がすべきかというところを常に判断し、やっていくということが、やはり行政が国民から負託されている一番の大きなところだと思うんですが、私は、結局その基本のところが環境省の基本的な姿勢として不足している。
 はっきり言って、先ほども青山先生がこれは姿勢の問題だと言われましたけれども、私も、環境省のそういうところの姿勢がここまで問題を先送りし、被害をより深刻にさせたことになっているのではないかというふうに考えております。
中川(智)委員 村松先生がごらんにならないだけではなく、なれないと思います、やっていないですから。それは、この間の答弁でそのように。
 それで、続きまして、私も、被害実態というのが本当にわかっていないのではないか、わかっていながら目をつぶるという状況があるのかもしれません。
 先ほど二十四歳の女性のお話をしてくださいました。私の娘と同じ年、本当に胸がつぶれるような思いでお話を伺いましたが、未認定患者の方々、東京裁判では三分の一の方が生活保護、そして医療費の負担、そして家庭のさまざまな崩壊にも至るような悲惨な状況というのを、先生にもうちょっとだけ、時間が余りないわけですが、生活苦と病苦、両方にさいなまれた被害者の方々のことをもうちょっとお話しいただきたいと思います。
村松参考人 先ほどもちょっと御紹介をさせていただきましたけれども、公害被害というのは、私たち、裁判のときに常に裁判所に理解してもらっていただいているのは、単に手を骨折してというだけじゃなくて、この公害被害は一回かかると、子供さんたちは別として、成人がかかるとなかなか治らない。つまり、ぜんそくの苦しみなりが二十年、三十年続くわけですよね。
 それで、夜、発作が多いです。そうすると、御家族の方は、本人はもう本当に死ぬか生きるか、大変な思いをします。私も弁護団でしたから、患者さんの自宅に泊まり込んだこともあります、あるいはビデオなんかも何回も見せてもらった。本当に苦しそうです。でも、私は恐らく本人以上に、そこにいた家族は、自分が眠れないだけじゃなくて、医者にすぐ運びますけれども、深夜です、なかなか大変です、その苦しみを見ながら、ずっと寄り添いながら生活していく。それで、耐えられなくて離婚もし、家庭崩壊もあります。
 その身体的な被害から、それが今度は経済的、とりわけ未認定の患者さんは一番大きいのは、医療費も、あるいは仕事を奪われるから生活もある。このところを、生活保護をもらうというのは、やはり患者さんは抵抗があります。しかし、それをもらわざるを得ないような生活にどうしてもならざるを得ない。やはり、少なくとも医療費の救済はもっと、十八歳だとか子供だけじゃなくて、すぐにでも一定の地域のところの患者さんにやるだけで、患者さんは安心して医療が受けられる。そうすれば、今は悪循環になっていますけれども、それがまたいい方に向かっていくということもあり得ます。
 私は、そういう被害というのは、一つのところから、自分の将来や、いろいろなところに広がっていく、それで家族にも広がる、こういうところを総体としてぜひ理解していただきたい。そのことで、やはり私は、環境行政がもう一歩、今のような議論じゃない状況に飛躍していっていただけるのではないかなというふうに思っております。
中川(智)委員 続いて、青山参考人に伺いますが、青山先生がそのような発作を起こされて苦しんでいらしたのを、きょう初めて伺いました。
 それで、青山先生は本当に環境全体の専門家でいらっしゃいますけれども、ついせんだって、いわゆる排ガスの中のいろいろな化学物質、汚染物質が子供にも、胎児にも影響するというマウスの実験があったというふうに聞いたんですけれども、これは、本当にただぜんそくだけではなく、未来に生まれる子供たちへの影響ということに対してのお話を少し伺いたいと思います。
青山参考人 先般というのは、ひょっとしてコルボーンさんがいらしたときの話かもしれません。私は、きょうあえてそういうお話をするつもりはなく来たんですが、中川先生の御質問との関連で一つ非常に疑問に感じていることがこの分野でございます。
 何かというと、大気汚染は、浅野先生もおっしゃるように改善はされています。大都市といえども少し横ばい、僕は高値安定と言っているんですけれども、高くなって全然おっこちてこない。とはいえ、少しずつよくなっているわけです。にもかかわらず、ぜんそく、呼吸器疾患がふえている。これはなぜかということが一つあります。きょうの粒子状物質、二酸化窒素、この問題は間違いなく僕はあると思っています。
 それ以外に、そもそも遺伝的なものとは別に、免疫機能が下がっているんじゃないかと。免疫機能が下がれば、気管支ぜんそくとか、皆さん御承知のアトピー性皮膚炎とか花粉症になりやすくなるわけです。これはその分野では当たり前の話なんです。
 それで、免疫機能を下げるものとして何があるか。それは、もう一つ僕がずっとこの五年ぐらい集中的にやってきました環境ホルモン、ダイオキシン。これは超微量でありながら、免疫毒性というんですけれども、胎児毒性、免疫毒性、もう一つ生殖毒性というのがございます。生殖毒性というのは、男子の場合には精子の数が減る、女性ですと子宮内膜症が起こりやすくなる。それとは別に、免疫毒性というのがあるんです。
 これは、私たちが通常生活している中でも、例えばダイオキシンの問題、それから食品添加物の問題、農薬の問題、そういうものを多くとりますと、免疫機能というのが減退していくわけです。ですから、免疫機能が日本全体でどうも下がっているんじゃないか、生まれてくる子供に。そこに、大気汚染だけじゃないと思いますけれども、そういう因子が加わってぜんそくがふえているんじゃないかということを感じます。
 コルボーンさんが衆議院にいらしたときに私が質問させていただいたものは、それとはちょっと別なんですけれども、あるときから、生まれてくる子供たちの体躯は非常によくなった。体躯というのは、背が高くなり、それから足は長くなり、欧米人に比べて遜色ない体躯になってきた。ところが、体力がことごとくおっこちてきているというのを、僕の親しい金沢の方の大学の先生が、星稜大学、女子短大の附属、今アメリカに行っていますゴジラの、ゴジラというのは何というんでしたか……(発言する者あり)松井、あの松井氏が出た学校の、小学校、中学校の生徒をずっと調べたところ、体躯はよくなっているけれども体力がどんどん落ちている。それと同じように免疫機能も下がっていると思うんです。
 ですから、浅野先生やほかの方もおっしゃっていましたけれども、浮遊粒子状物質、二酸化窒素というのがきょうのテーマですけれども、化学物質全体が、やはり日本の場合、どうも私たち暴露を受けている量が多いんじゃないか。そういう総合的な、免疫機能が下がることによってぜんそくになりやすい、アトピー性皮膚炎になりやすいような研究もぜひやるべきだというふうに思っております。
中川(智)委員 では、最後にお二方に質問したいんですが、やはりこれはもう早急に救済制度を確立すべきだ、これは立法府の責任でやるべきだと。そして、しっかりした財源というのも、これは先ほども道路責任者、そして国交省もありますし、メーカーも原告とは確認書を交わしております。浅野参考人と村松参考人に、救済制度に対しての提言をいただけたらと思います。
浅野参考人 救済制度を、どういう状況のもとでどういう者に対する救済制度を設けるかということについては、法的なといいましょうか、理論的な根拠づけということになりますと、私が申し上げましたように、問題がいろいろある、難しい点があろうかと思います。ですから、ある意味では割り切りをしなきゃいけないということになると思いますが、割り切りとなりますと、これはある意味では政治的な決断になるかもしれませんし、そうなりましたら、余り細かい議論はある意味では吹っ飛ぶということがあるかもしれません。
 そのことについては恐らく立法府の御判断でありましょうけれども、しかしながら、公平性の問題というのがもう一つ残りますから、余り無体なことをやりますと、今度は逆な形で、立法そのものが誤りであるという批判を受けてしまうということがありますから、早急に何かをしなきゃいけないということはよくわかるわけですが、どのレベルのどういう対策を講じるかということについて、常にそのバランスを考えるということはぜひお願いしたいと思います。
村松参考人 詳しくは日弁連の提言を読んでいただきたいと思うんですが、やはり費用負担をどうするかという問題が一つ大きい問題だろうと思います。私はこういう公害関係の、公健法の現在の救済もそうですけれども、やはり原因者負担ということが非常に大きいと思います。
 その点で、メーカー自身も、これは東京判決の後、先ほど確認書という話がありましたけれども、私も実は患者さんたちと一緒にその交渉の場に出席をしていました。そうしたら、そのメーカーは、例えば行政がそういう救済制度をつくるということでメーカーに働きかけがあった場合には、メーカーは検討しましょうということは明確に言っておられました。これはトップメーカーです。もちろん、いや、自分たちから積極的につくりますというようなことは言いません。しかし、行政の対応いかんでは、現在のメーカーは、自動車メーカーも、今の、やはり自動車がこれだけふえて、その一方で被害者が出てきている、社会的なこういう問題が出ていること自身は否定できません。そういう面でいうと、地球環境の問題もあると思いますけれども、しかし同時に、今身近で起こっている、足元で起こっている問題についても、メーカーは行政の対応いかんではそれを積極的に検討していただける、私はそういう素地はあるんだろうと思います。あとは、そこはどれだけ働きかけをするかという問題は、やはり政治の場のところにぜひお願いをしたいな、一点だけですけれども、そのことを考えております。
 以上です。
中川(智)委員 どうもありがとうございました。
松本委員長 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。
 参考人の皆様におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。(拍手)
 参考人の方々は御退席いただいて結構でございます。
     ――――◇―――――
松本委員長 次に、内閣提出、独立行政法人環境再生保全機構法案及び日本環境安全事業株式会社法案の両案を一括して議題といたします。
 順次趣旨の説明を聴取いたします。鈴木環境大臣。
    ―――――――――――――
 独立行政法人環境再生保全機構法案
 日本環境安全事業株式会社法案
    〔本号末尾に掲載〕
    ―――――――――――――
鈴木国務大臣 ただいま議題となりました独立行政法人環境再生保全機構法案及び日本環境安全事業株式会社法案につきまして、その提案の理由及び主な内容を御説明申し上げます。
 まず初めに、独立行政法人環境再生保全機構法案について御説明申し上げます。
 環境省所管の特殊法人である公害健康被害補償予防協会及び環境事業団につきましては、特殊法人等改革基本法及び特殊法人等整理合理化計画に基づき、所要の業務、組織の見直しを行うこととしております。この法律案は、その一環として、公害健康被害補償予防協会が行っている公害健康被害の補償等の業務、環境事業団が行っている地球環境基金による民間団体への助成等の業務について、これらの業務の公正かつ確実な実施を期するため、独立行政法人通則法に基づいて独立行政法人環境再生保全機構を設立し、これらの業務を行わせることとするものであります。
 次に、この法律案の主な内容について御説明申し上げます。
 第一に、本独立行政法人の名称、目的及び業務の内容であります。本独立行政法人は、名称を独立行政法人環境再生保全機構とすることとし、公害に係る健康被害の補償及び予防、民間団体が行う環境の保全に関する活動の支援、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理の円滑な実施の支援、最終処分場の維持管理積立金の管理等の業務を行うこととし、これらの業務を行うことにより、良好な環境の創出その他の環境の保全を図り、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とすることとしております。
 第二に、本独立行政法人の資本金、役員及び職員、公害健康被害予防基金、地球環境基金等の設置及び運用、本独立行政法人に係る主務大臣等、法人の財務及び運営に関する事項を定めることとしております。
 第三に、公害健康被害補償予防協会及び環境事業団の解散、本独立行政法人の設立に当たっての経過措置、本独立行政法人が行う業務の特例等につき所要の規定を置くこととしております。
 なお、本独立行政法人は、平成十六年四月一日に設立することとしております。
 引き続き、日本環境安全事業株式会社法案について御説明申し上げます。
 環境省所管の特殊法人である公害健康被害補償予防協会及び環境事業団につきましては、先ほど申し上げましたように、特殊法人等改革基本法及び特殊法人等整理合理化計画に基づき、所要の業務、組織の見直しを行うこととしております。この法律案は、その一環として、環境事業団が行っているポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業について、その事業の効率的な実施を期するため、特殊会社である日本環境安全事業株式会社を設立し、これに事業を行わせることとするものであります。
 次に、この法律案の主な内容について御説明申し上げます。
 第一に、本会社の名称、目的及び事業の内容であります。本会社は、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理に係る事業及び環境の保全に関する情報等を提供する事業等を経営することとし、本会社の名称は、日本環境安全事業株式会社とすることとしております。
 第二に、本会社の経営の健全性及び安定性の確保のために、本会社がポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業を経営する間は政府が本会社の総株主の議決権の過半数を保有すること、本会社は、新株等の発行、資金の長期借り入れ、代表取締役の選定等の決議、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業に係る事業基本計画の策定等については、環境大臣の認可を受けなければならないこと等を定めることとしております。
 このほか、本会社の設立の手続等に関し、所要の規定を置くこととしております。
 なお、本会社は平成十六年四月一日に設立することとしており、また、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の処理状況等を勘案しつつ、平成二十八年三月三十一日までの間に、本会社のあり方について、この法律の廃止及び民営化を含めて見直しを行うこととしております。
 以上が、独立行政法人環境再生保全機構法案及び日本環境安全事業株式会社法案の提案の理由及び主な内容であります。
 何とぞ、慎重に御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。
松本委員長 これにて両案の趣旨の説明は終わりました。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後零時二十二分散会


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