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第3号 平成14年11月7日(木曜日)

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平成十四年十一月七日(木曜日)会長の指名で、次のとおり小委員及び小委員長を選任した。
 基本的人権の保障に関する調査小委員
      倉田 雅年君    近藤 基彦君
      谷川 和穗君    谷本 龍哉君
      長勢 甚遠君    野田 聖子君
      葉梨 信行君    枝野 幸男君
      大出  彰君    小林 憲司君
      今野  東君    太田 昭宏君
      武山百合子君    山口 富男君
      金子 哲夫君    井上 喜一君
 基本的人権の保障に関する調査小委員長
                大出  彰君
 政治の基本機構のあり方に関する調査小委員
      奥野 誠亮君    谷本 龍哉君
      中曽根康弘君    中山 正暉君
      額賀福志郎君    福井  照君
      保岡 興治君    枝野 幸男君
      中野 寛成君    伴野  豊君
      松沢 成文君    斉藤 鉄夫君
      藤島 正之君    春名 直章君
      土井たか子君    井上 喜一君
 政治の基本機構のあり方に関する調査小委員長
                保岡 興治君
 国際社会における日本のあり方に関する調査小
 委員
      石川 要三君    近藤 基彦君
      下地 幹郎君    中川 昭一君
      葉梨 信行君    平井 卓也君
      山口 泰明君    首藤 信彦君
      中川 正春君    中村 哲治君
      山田 敏雅君    赤松 正雄君
      藤島 正之君    山口 富男君
      金子 哲夫君    井上 喜一君
 国際社会における日本のあり方に関する調査小
 委員長            中川 昭一君
 地方自治に関する調査小委員
      伊藤 公介君    佐藤  勉君
      杉浦 正健君    西田  司君
      葉梨 信行君    平井 卓也君
      森岡 正宏君    筒井 信隆君
      中川 正春君    中村 哲治君
      永井 英慈君    江田 康幸君
      武山百合子君    春名 直章君
      土井たか子君    井上 喜一君
 地方自治に関する調査小委員長 西田  司君
平成十四年十一月七日(木曜日)
    午前十時三十七分開議
 出席委員
   会長 中山 太郎君
   幹事 杉浦 正健君 幹事 中川 昭一君
   幹事 葉梨 信行君 幹事 保岡 興治君
   幹事 大出  彰君 幹事 仙谷 由人君
   幹事 中川 正春君 幹事 赤松 正雄君
      伊藤 公介君    奥野 誠亮君
      倉田 雅年君    小西  理君
      近藤 基彦君    佐藤  勉君
      谷川 和穗君    谷本 龍哉君
      額賀福志郎君    野田 聖子君
      馳   浩君    平井 卓也君
      福井  照君    水野 賢一君
      森岡 正宏君    山口 泰明君
      枝野 幸男君    小林 憲司君
      今田 保典君    今野  東君
      首藤 信彦君    筒井 信隆君
      中野 寛成君    中村 哲治君
      伴野  豊君    松沢 成文君
      山田 敏雅君    江田 康幸君
      太田 昭宏君    斉藤 鉄夫君
      武山百合子君    藤島 正之君
      塩川 鉄也君    春名 直章君
      金子 哲夫君    原  陽子君
      井上 喜一君
    …………………………………
   衆議院憲法調査会事務局長 坂本 一洋君
    ―――――――――――――
委員の異動
十一月七日
 辞任         補欠選任
  下地 幹郎君     小西  理君
  中山 正暉君     水野 賢一君
  長勢 甚遠君     馳   浩君
  永井 英慈君     今田 保典君
  山口 富男君     塩川 鉄也君
  土井たか子君     原  陽子君
同日
 辞任         補欠選任
  小西  理君     下地 幹郎君
  馳   浩君     長勢 甚遠君
  水野 賢一君     中山 正暉君
  今田 保典君     永井 英慈君
  塩川 鉄也君     山口 富男君
  原  陽子君     土井たか子君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 小委員会設置に関する件
 委員派遣承認申請に関する件
 小委員会における参考人出頭要求に関する件
 日本国憲法に関する件


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     ――――◇―――――
中山会長 これより会議を開きます。
 委員派遣承認申請に関する件についてお諮りいたします。
 日本国憲法に関する調査のため、来る十二月九日、福岡県に委員を派遣いたしたいと存じます。
 つきましては、議長に対し、委員派遣の承認を申請いたしたいと存じますが、これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
中山会長 起立多数。よって、そのように決しました。
 なお、派遣委員の人選等につきましては、会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
中山会長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
     ――――◇―――――
中山会長 次に、小委員会設置に関する件についてお諮りいたします。
 基本的人権の保障について調査するため小委員十六名からなる基本的人権の保障に関する調査小委員会
 政治の基本機構のあり方について調査するため小委員十六名からなる政治の基本機構のあり方に関する調査小委員会
 国際社会における日本のあり方について調査するため小委員十六名からなる国際社会における日本のあり方に関する調査小委員会
及び
 地方自治について調査するため小委員十六名からなる地方自治に関する調査小委員会
をそれぞれ設置いたしたいと存じますが、これに賛成の諸君の起立を求めます。
    〔賛成者起立〕
中山会長 起立多数。よって、そのように決しました。
 なお、小委員及び小委員長の選任につきましては、会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
中山会長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
 小委員及び小委員長は、追って指名の上、公報をもってお知らせいたします。
 なお、先例により、会長及び会長代理につきましては、小委員会に出席できることといたしたいと存じますので、御了承願います。
 次に、小委員及び小委員長の辞任の許可及び補欠選任につきましては、あらかじめ会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
中山会長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
 次に、小委員会におきまして参考人の出席を求め、意見を聴取する必要が生じました場合には、参考人の出席を求めることとし、その日時、人選等につきましては、会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
中山会長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。
     ――――◇―――――
中山会長 次に、日本国憲法に関する件について調査を進めます。
 この際、英国及びアジア各国憲法調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。
 去る九月二十三日から十月五日まで、私どもは、イギリス、タイ、シンガポール、中国及び韓国並びにフィリピン、マレーシア及びインドネシアの八カ国の憲法事情について調査をいたしました。
 この調査の正式な報告書は、議長に対して提出することになっておりまして、現在鋭意作成中でありますが、私ども調査議員団は本調査会のメンバーをもって構成されたものでありますので、この際、その調査の概要につきまして口頭で御報告をし、これからの調査の参考に供したいと存じます。
 憲法調査議員団は、私を団長に、葉梨信行君、中川正春君、春名直章君の四名をもって構成されました。なお、この議員団には、事務局及び法制局の職員、国立国会図書館職員のほか、二名の記者が同行いたしました。
 私ども一行は、最初の訪問地であるイギリスのロンドンにおいて、九月二十四日及び二十五日の両日、六つの会談を行いました。
 まず、二十四日の午前は、国会議員会館において、人権に関する両院合同委員会委員会クラークのポール・エバンス氏からイギリスの人権保障について、次いで、副首相府において、ニック・レインズフォールド閣外大臣及びイアン・スコッター地域議会部長からブレア労働党政権下の地方政策について、それぞれ説明を聴取した後、質疑応答をいたしました。
 それらの会談の中で、人権保障については、欧州人権条約の国内法制化の措置として一九九八年に人権法が制定されたこと、その際に、イギリスの伝統的な議会主権の原則との関係が問題となったこと、また、地方政策については、ブレア労働党政権は、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドに続いて、イングランドにおいても地方議会の設置を含めた地方分権を進めようとしていること、こうした動きは、政府の効率性だけではなく、政府への参加に関心を持つ国民の期待にこたえるものであること等の説明がなされました。
 同日の午後は、ロンドン大学の研究室を訪れ、ロバート・ヘーゼル教授との間で、上院改革及び政官関係を中心に、憲法全般にわたって質疑応答をいたしました。
 ヘーゼル教授からは、上院改革に関して、上院議長が、内閣の法務大臣、上院の議長及び大法院の長としての大法官という三権にわたる地位を兼ねていることが問題とされていること、また、政官関係に関しては、イギリスでは官僚組織の公正中立が伝統とされてきたが、最近では、そうした官僚組織の運用に不満も出ていること等の説明がなされました。
 翌二十五日は、在連合王国日本国大使館において、上院改革に関する両院合同委員会委員会クラークのデビッド・ビーミッシュ氏及び政府の上院改革チームから、それぞれ上院改革について、次いで、チャールズ・コクラン公務員組合評議会事務局長から政官関係全般について説明を聴取した後、質疑応答をいたしました。
 これらの会談の中で、上院改革につきましては、世襲貴族の削減を主とした第一段階の改革は終えており、現在は、長期的な第二段階の改革について検討を進めているが、ウェイカム報告書と呼ばれる王立委員会の報告書を踏まえ、議会内の両院合同委員会での議論に重点が移っていること、そこでは、上院に公選制を導入した場合の下院の地位低下のおそれについて議論がなされていること等の説明がなされました。
 また、政官関係については、イギリスの公務員は内閣の一員としての大臣に仕えるものであって、政治家個人に仕えるものではないとの考え方があること、政治的な面については政治任用の特別アドバイザーが補佐するものとされていること等の説明がなされました。
 会談終了後、直ちにタイのバンコクに向かい、九月二十七日、同地において三つの会談を行いました。
 まず、同日の午前は、憲法裁判所において、スチット判事からタイにおける憲法裁判所の活動について、また、ラマ七世を記念した王立研究所であるプラチャーティポック・インスティチュートにおいて、ボウォンサック・ウワンノー事務局長からタイの選挙制度等に関して、それぞれ説明を聴取した後、質疑応答をいたしました。
 スチット判事からは、タイの憲法裁判所は、設置以来二百件を超える法令の合憲性審査が行われていること、汚職防止の面でも、政治家の資産報告の虚偽審査を行っていること、また、ウワンノー事務局長からは、タイの選挙制度は日本の小選挙区比例代表並立制を参考にしたことのほか、タイにおける政治腐敗の実態について説明がなされました。
 同日の午後は、マルット・ブンナーク元下院議長の法律事務所において、同元議長から幾多のクーデターを重ねた同国の憲政史について説明を聴取した後、質疑応答を行いました。
 翌二十八日、シンガポールに向かい、到着後直ちに、大使公邸において、フィリピン、マレーシア及びインドネシアのアジア三カ国の憲法に関して、それぞれの大使館から招致した公使、参事官及び書記官から各国の憲法事情について説明を聴取した後、質疑応答をいたしました。
 それらの国々の憲法事情について主要な点を簡単に報告すれば、まず、フィリピン憲法について、マルコス独裁体制の経験から、行政権に対する抑止が強く働いていること、基本原則として、国民主権、平和主義、核兵器の廃絶等が掲げられているほか、外国軍隊の駐留及び外国軍基地の設置の原則的な禁止を決めた憲法上の規定があること、また、マレーシア憲法については、イスラム教を国教と定めてはいるが、憲法が最高法規とされていること、マレー系住民の特別な地位が憲法に明記されていること、マレー語の地位等に関する言論を規制する規定が憲法に置かれていること、そして、インドネシア憲法については、スハルト独裁体制の崩壊から、大統領の権限を制限する等の民主化に向けた憲法改正が、四年連続となる本年の改正で一応の完成を見たこと、しかし、国内の体制は、法の支配の確立等において依然として課題があること等といった説明を受けました。
 九月三十日には、シンガポール憲法に関して三つの会談を行いました。
 まず、同日の午前、シンガポールの司法長官庁において、ジェフェリー・チャン司法長官庁民事局長からシンガポールの憲法制度全般について説明を聴取した後、質疑応答をいたしました。
 チャン民事局長からは、シンガポールでは、中国系以外の少数民族に配慮し、少数民族が必ず国会に議席を持てるように配慮した、グループ選挙制度という独特の選挙制度を採用していること等の説明が行われました。
 次いで、同日の午後には、外務省において、ジャヤクマール法務大臣兼外務大臣と懇談し、国民の兵役義務を定めたシンガポールの国防制度等について意見を交換した後、在シンガポール日本国大使館において、シンガポール国立大学のティオ・リーアン助教授との間で質疑応答を行い、グループ選挙制度について、与党の人民行動党に有利な選挙制度であって、同助教授の私見としては単純小選挙区制が望ましいと考えていること等の説明を受けました。
 その後、シンガポールから中国の北京に向かい、十月二日及び三日の両日、三つの会談を行いました。
 まず、二日の午前には、中国人民大学法学院において曾憲義院長から、また、同日の午後には、ホテル内において中国共産党中央党校の劉俊傑教授から、それぞれ中国の憲法制度全般にわたって説明を聴取した後、質疑応答をいたしました。
 その中で、現在の一九八二年憲法に至る中国憲法の歴史を踏まえて、まず、社会主義市場経済の概念が議論になりましたが、これについては、中国が改革・開放政策を進める中で市場主義経済の導入は必要かつ必然であって、社会主義市場経済はそのための発展形態であること等の説明がなされました。また、中国でも、科学技術立国の立場から、知的所有権の保護が重要な課題として取り組まれていること、憲法改正に関する理論的な問題として、私有財産の保護をいかに図っていくかが議論されていること等の説明も行われました。
 翌三日には、人民大会堂において、張春生全人代常務委員会法制工作委員会副主任との間で、現行憲法の制定の経緯について説明を聴取した後、意見交換を行いました。
 張春生副主任からは、我が国の平和憲法が北東アジア及び世界の平和に多大の貢献をしてきたことを評価していること、我が国が国連決議に基づく平和維持活動に参加することは全く問題がない旨の発言がなされました。
 同日、北京から韓国のソウルに向かい、翌四日、四つの懇談及び会談を行いました。
 四日午前には、まず、国会議事堂において、朴寛用国会議長を表敬訪問し、憲法をめぐる諸情勢について意見交換を行いました。その中で、朴議長は、韓国では、大統領の任期を国会議員と同じ四年とすべきではないかといった憲法改正論議があること、日本が平和憲法を中心とした経済大国に見合った国際貢献を行うことは高く評価できるが、アジアの諸国として日本国憲法九条に賛意を表していること等の意見が述べられました。
 次いで、同じく国会議事堂内において、金錘斗国会法制室長ら法制室職員の方々と面談し、韓国における議員立法の状況、立案過程における法制室の役割等について説明を聴取いたしました後、質疑をいたしました。
 同日の午後は、憲法裁判所において朴容相事務処長から、また、国家人権委員会において金昌國委員長からの説明を聴取した後、質疑応答をいたしました。
 それらの会談の中で、憲法裁判所に関しては、韓国の憲法裁判所は、国民の強い支持のもと、軍事政権下で制定された多くの立法について違憲の判断を下していること、また、一般市民が直接憲法裁判所に提訴することができる憲法訴願制度が活発に利用される等の積極的な活動を行っており、内外から高い評価を受けていること、また、国家人権委員会に関しては、同委員会は、軍事政権下の権威主義において人権が侵害された経験にかんがみ、昨年、政府から独立した機関として設置されたばかりの機関ではありますが、積極的な活動が期待されている等の説明がなされました。
 以上のような極めて多忙な日程を消化し、私ども議員団は、去る十月五日、帰国いたしました。
 ごく短期間の調査でありますし、また、各訪問国における調査事項が極めて多岐な問題に及びましたので、ここで結論めいたことを申し上げるのは到底不可能なことでありますが、しかし、一言だけ個人的な所感を申し上げるとすれば、上院改革、地方分権の推進等の憲法改革を続けるイギリス、改革・開放の推進に当たり必要な憲法改正を行った中国、国民的な運動を受けて民主的な憲法が制定されたタイ、フィリピン、インドネシア、韓国等の経験にかんがみるとき、各国において、社会情勢が急激に変遷していく中で、それらの諸情勢に応じて、随時、憲法のあり方に関する国民的論議がなされ、それを踏まえて憲法改正がなされてきているということであります。
 この調査の詳細をまとめた調査報告書は、議長に提出し次第、委員各位のお手元に配付する所存でございますので、本調査会の今後の議論の参考に供していただければ結構かと存じております。
 最後に、今回の調査に当たり、種々御協力をいただきました各位に心から感謝を申し上げますとともに、充実した調査日程を消化することができましたことを心からお礼を申し上げたいと思います。まことにありがとうございました。
 以上、簡単でありますが、このたびの海外調査の概要を御報告させていただきました。
 引き続きまして、派遣議員から海外派遣報告に関連しての発言を認めます。葉梨信行君。
葉梨委員 私は、中山会長並びに中川議員、春名議員と四名で、この第三年目に当たります海外調査に参加させていただきました。今会長から御報告がございましたので、感想を簡単に申し上げてみたいと思います。
 イギリス初め各国へ参りまして一番強く感じましたのは、各国が、新しい時代の流れの中で積極的に対応し、基本法たる憲法を改正する、イギリスでは成文憲法はございませんが、基本法である地方分権法等々を改革し、改正をしておるということに驚きの目を持って私はお話を聞き、学んできた次第でございます。
 イギリスでは、ブレア首相のリーダーシップによります地方分権、それから上院の改革が特に印象深うございました。地方分権につきましては、ブレア内閣と申しますか、首相の出身母体でございます労働党の保守党に対する政権戦略もある、そういう批判も聞きましたけれども、地方分権が着々と進んでいるという印象を受けたわけでございます。
 上院改革につきましては、上院の改革は大変難しいので、できることからやっていこうということで、世襲議員の廃止等を実現いたしました。できるところからやっていくというその態度には、なるほどイギリス的なものがあるなという印象を持った次第でございます。
 それから、びっくりしましたのは、上院議長の権能でございますけれども、日本では考えられないような権能があって、それを改革しようという動きがございますけれども、それを法律的に改革するということは憲法改正でございますが、そうではなくて、そういうことをしないようにしていこうというイギリス的な判断もあると聞きまして、これはなるほどとおもしろく感じた次第でございます。
 それから、イギリスで印象深いのは、さっきも会長からもお話がありましたが、公務員組合評議会事務局長のお話の中で、公務員の政治的中立性については、公務員は大臣に仕えるのであって、政党に仕えるのではないという発言がございまして、大変印象的に聞いた次第でございます。
 タイに参りましてからは、タイが累次のクーデター、そして憲法改正という中で、腐敗政治を打破して、それを乗り切って今日に至っているということ、その関係者の命をかけた大変な改革の努力に深い感銘を受けたわけでございます。
 憲法裁判所の機能も大変うまく発揮されて、汚職防止委員会などの活動実態についても伺いました。そして、憲法改正の問題については、改正しやすくというのが現行のタイ憲法の原則の一つであるということを承ったのでございます。
 それから、私ども日本も政治改革ということで比例代表小選挙区制を導入いたしましたが、タイでも日本の選挙制度を参考にしているというお話を、王立研究所事務局長のボウォンサック・ウワンノー教授から熱のこもった御説明をいただいたわけでございます。
 タイ憲法で憲法改正がしやすくなっている背景につきまして、これはこの憲法を通す際の妥協策の一つであった、そういう面もあったという御説明を聞きましたが、これだけ国民に定着し、人民の憲法と呼ばれている現行憲法が実際に改正しやすいかというと、そう簡単ではないだろうという感想も伺ったのでございます。
 そして最後に、元下院議長さんとお話をいたしましたが、これだけ民主的な憲法ができたのだから、クーデターの可能性はほとんどないというお話をお聞きいたしました。大変タイの政界が自信に満ちた対応をし、歩みを進めているという印象を受けたわけであります。
 シンガポールでは、マレーシア、インドネシア、フィリピン等々につきまして、先ほどお話がございましたように御説明を伺いましたが、シンガポール自身の憲法についてのお話も大変多岐多様にわたり、興味深いものがございました。
 その中で、アジア的価値観という言葉が出まして、アジア的価値観とは何かというようなことにつきまして、これは役所側からのお話ですが、国民が政府を信頼するかどうか、政府は基本的によいことをしてくれるものという性善説をとっているかどうかである、そのように理解していると、コンセンサス形成の重要性を主張しておられました。その背景には、中国系、マレー系、インド系というように、人種が混在するシンガポールにおける人種的融和の必要性がある、こういうことを強調していたのでございます。
 それで、もう一つアジア的価値観の例といたしまして、親の扶養義務の制度化の必要について質問をいたしましたが、お目にかかりましたジャヤクマール法務大臣は、これは法制化の際に議論があったが、自分としては、基本的には教育の問題であって、憲法や法律の果たす役割は限定的なものではないか、こういう御発言でございました。アジア的価値観と憲法による権力抑制の重要性の関係など、憲法学のみならず政治学的観点からも研究者サイドのお話も詳細に承った次第でございます。
 そしてもう一つ印象深いのは、中国が経済的に大変発展してきていることに対しまして、シンガポール初め東南アジアの国々が日本に大変大きく期待している、こういうことの強調があったことも申し上げておきたいと思います。
 それから、中国につきましては、今会長からお話がありましたとおりでございますが、一九五四年の中国初めての憲法以来の集大成として一九八二年憲法ができた、そして民主集中制のもと、人民代表制度によって民意が集約された憲法であるということが強調されましたが、民主集中制ということの実効、要するに我々の民主主義的な議論の仕方等についての疑問に対しまして、中国的な御説明がございました。
 社会主義市場経済とはどのようなものかとの質問もいたしましたけれども、社会主義にはいろいろ解釈があろうが、社会主義は貧困でないことという原則のもとで、中国の特殊性を前提に、改革・開放政策をとる中で市場経済の導入は必要であり必然の道である、そのための発展形態であるという説明を伺ったわけでございます。
 それから、天安門事件の評価につきまして、質問が中川議員からございましたけれども、これは中川議員からお話があるかと思いますけれども、あの措置は正しかった、最終的な評価は歴史が判断するであろうという答えを聞いたのでございます。
 それから、おもしろいことは、トウショウヘイの言った言葉、改革・開放につきまして、社会主義革命建設の中でわかったことは、何が社会主義なのか今になってもわからないということだ、こういうお話まで出てまいりました。
 そして、中国は世界最大の後進国であり、中国が日本にとって脅威になることはないと、中国脅威論につきまして否定的な発言がございました。
 それから、シンガポールでも出ましたお話でございますが、親子の扶養義務について、少子高齢化の中で問題になっている、これについても話題として出ましたけれども、中国も一人っ子政策の転換期に来ている、親子の関係をどのように規定するかは日中両国の伝統的美徳の問題であるけれども、中国でも若い者は親の言うことを聞かなくなっているといった発言もございました。
 中山団長から、国連の要請に基づく日本の協力につきまして、国連安保理事会の常任理事国としての中国の立場に関する発言がございましたが、これに対しまして、中国側からは、国連決議に基づく日本の平和維持活動の参加には全く問題はないということが言明されました。
 それから、最後に中山団長から、中国の軍事予算の拡大に関する懸念がございまして、中国と日本の両国で緊密な話し合いの必要性があるという御発言もあったのでございます。
 韓国につきましては、いろいろ今お話がありまして、つけ加えることはそうないと思いますが、中山団長から、北東アジアの地域安全保障に関する議員同士の意見交換の必要性に関する発言に対しまして、議長さんから、韓日米の三カ国連携の上で中ロと話し合っていくことが重要であるという御発言があった次第でございます。
 いろいろ申し上げたいことはございますが、大体感想は以上でございますが、私自身の感想といたしまして、自国の安全と利益に優先するような対外の友好関係というものはない。政策の方向性につきましての選択や判断は各党それぞれございましょうけれども、基本的に、日本国民同士としての信頼感を基本にして、憲法についてこれからの議論を進めていくことが重要ではないであろうかということを改めて痛感している次第でございます。
 以上です。
中山会長 次に、中川正春君。
中川(正)委員 大変厳しいスケジュールの中でありましたけれども、機会を与えていただいたことにまず感謝を申し上げたいというふうに思います。
 私は、短く三点ほど報告と感想を述べさせていただきます。
 まず第一に、中山会長からも御指摘があった話でありますが、各国ともに非常に活発に憲法改正についての議論があり、自分の国の目標、それから争点を、憲法を一つの手段としてまとめていくということ、その努力がなされていた。その結果、ちょっと前まで軍事政権であったところが、非常にすばらしい憲法といいますか、新しい、特に基本的な人権等々の考え方を取り入れながら、新しいものを取り入れながら憲法をつくり上げているということ、このことについて共通して感銘を受けたということであります。
 そういう意味では、日本は何でこんなにおくれちゃったのかなという、その反省がまず先に立つべきところであろうというふうに思います。
 次に、そういうことが行われた背景の中の一つとして、私は、憲法裁判所の機能というのがそれぞれにあるように思いました。憲法裁判所がはっきりと判断を下す、違憲であることは違憲だと、それをもって立法府が議論をするという、そうした環境をつくり上げていくことがいかに大事かということだと思います。そこがぶれている、あるいはそれが政治的な判断に任せるというようなことになりますと、結局、だれも判断ができなくて、先送りしてしまうということであったのではないかということ、そのことがそれぞれの国で憲法裁判所の機能としてしっかり働いているな、それが生きているなということ、そのことを改めて感じた次第であります。
 それから最後に、憲法九条について、特に韓国それから中国においてはこの憲法九条を一様に評価しているわけでありますが、その中でも印象的だったのは、しかし、日本は、それかといって、中に閉じこもっているということではないだろう、特にPKOの活動については積極的にこれを評価していきたいというような、そんな話が出ておりまして、それは結局は、将来に対する日本との信頼関係の中で、日本がどんな形で憲法九条を見直していって、かつ、国際的な貢献を正しい形でしていくかということに対する期待感みたいなものにもつながっているんだろうというふうに思います。
 そういう方向性を持って私たちも議論をしていくということ、このことが大切なんだということを改めて確認させていただいたということでありました。
 以上、報告にかえさせていただきます。
中山会長 次に、春名直章君。
春名委員 イギリス、タイ、シンガポール、中国、韓国の海外調査に参加しましての私の感想を述べたいと思います。
 イギリスは不文憲法の国ですし、タイは繰り返してのクーデターから九七年に初めて民主的手続で憲法が制定された国、それから韓国も八八年に軍事政権から民主政権に前進したことを契機に新しい憲法を打ち立てた国だ、それぞれの憲法の歴史が大きく異なっているわけです。
 すなわち、憲法の歴史、国民の権利獲得の闘いの産物として憲法が成り立っている、そして、憲法問題を考えるときは、単に改正の回数とか明文規定のあるなしではなくて、国の政治と国民生活との関係で考えることが非常に大事だということを、今回訪問した国々の憲法事情からも強く感じた次第です。
 この点で、二つについて述べたいと思います。
 第一点は、近代憲法の大原則である国民主権と人権保障という普遍的な原則が、それぞれの国のあり方の中心に据えられて前進しているという姿が大変印象的でした。
 憲法典を持たない国のイギリスでは、上院改革の第一弾として、今お話がありました、世襲制の貴族院を改革すること、また、官僚と政治家との癒着を断つこと、これにも大変な努力を傾注されておられました。これらは、国民主権、民主主義という原則を一層発展させる、そういう営みだと思います。
 韓国は、軍事独裁政権から民主政権に移行した際に制定した新憲法、その最大の特徴は、民主主義と人権をいかに徹底させるかに力点が置かれていたと思います。憲法裁判所も、憲法理念をしっかり根づかせて、人権を保障する役割を担っているということで御説明がありました。つい最近つくられた国家人権委員会も、人権侵害の根絶、人権意識を啓蒙する役割を担いつつあるということが大変印象的でした。
 タイ憲法は、九七年、初めて民主的手続によって制定されました。その中身は、国家汚職防止取締委員会、国会オンブズマン、選挙管理委員会などを設置して、政治腐敗防止への強力なシステムをつくり出しているということが大変印象的でした。
 これらの国々も、その国における諸問題との関係で、さまざまな国民の模索と運動を経て、民主主義と人権保障を拡充させてきている、このことを肌で実感することができました。
 第二は、アジア各国から、九条を初めとした我が国の憲法の平和主義への支持が表明され、積極的に評価するという発言があったと同時に、それが崩されることへの危惧も率直に語られたというのが特徴的だったと思います。
 中国の全人代法制工作委員会の張副主任は、日本の平和憲法がアジアと世界、日本の発展に大きく貢献してきたこと、もし軍拡の主張を取り入れて軍事プレゼンスを拡大すれば九条に違反することになること、最近のテロ特措法や有事法制に対する危惧が民衆の中にも広がっているということなどを率直にお述べになりました。そして、その背景に日本と中国との歴史問題があることを発言されました。それから、韓国国会議長も、侵略をしないという日本の憲法、とりわけ九条への強い賛意を表明されました。
 私は、中川議員と一緒に、シンガポールに行ったときに、日本軍占領時死難者慰霊碑、血債の塔というところに献花をさせていただきました。日本軍によって、シンガポールでは五万人から十万人の犠牲者が生まれたとも言われております。それから、朝鮮半島への植民地支配時代に、独立運動に参加した人々を逮捕、投獄し、虐殺したというソウルの西大門刑務所跡も葉梨議員とともに視察させていただきました。生々しい虐殺の再現に大変強い衝撃を受けました。日本の侵略戦争が朝鮮半島、アジアの国々に今も深い傷跡を残している、侵略戦争への反省なしにアジア各国との真の友好は築けないということを改めて実感させられました。
 今、東アジアは、世界の中でも平和への大きな流れを形成している地域だと思います。ASEANは、九〇年代にベトナム、ラオス、カンボジアを迎えて、ベトナム戦争時代の対立を克服して、東南アジア十カ国すべてが参加する地域協力機構に発展しておりますし、九四年には東アジア全域の安全保障対話を目指すASEAN地域フォーラムを発足しております。九五年には、東南アジア非核地帯条約も調印されています。大使を招いてお聞きしたフィリピン、インドネシア、マレーシアを含めた東アジア各国で、非同盟、非核兵器、紛争の平和的解決という力強い潮流が前進していることを実感いたしました。
 こうした各国の憲法状況を見るにつけて、日本の場合も、人権保障と民主主義、日本の平和と外交などをめぐってさまざまな歴史、国民の運動と模索があります。本調査会ではこのことを踏まえた憲法の運用実態をこそぜひしっかり調査すべきであるということを改めて感じましたので、発言とさせていただきたいと思います。
 以上です。
中山会長 これにて派遣議員の発言は終了いたしました。
    ―――――――――――――
中山会長 これより御意見のある委員から御発言をいただきたいと存じます。
 御発言を希望される方は、お手元にあるネームプレートをお立ていただき、御発言が終わりましたら戻していただくようお願いいたします。
 なお、議事整理のため、御発言は、会長の指名に基づいて、自席から着席のまま、所属会派と氏名を述べられてからお願いいたします。また、御発言は五分以内におまとめいただきますようお願いいたします。
 発言時間の経過についてのお知らせでありますが、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。
 それでは、ただいまから御発言をお願いしたいと思います。
金子(哲)委員 社会民主党・市民連合の金子です。
 今、第三回目の本憲法調査会の海外調査の御報告をいただきましたけれども、私も昨年の調査団に一緒に参加をさせていただきまして、きょうの報告を聞きまして、大変特徴的だったなという思いが一つだけしております。
 といいますのは、これまでいわばそれぞれの国の憲法状況について調査をし、そしてまた私どももいろいろ質問して知識を豊富にしたということがあると思いますけれども、今度の調査団の中で、会長の報告にもありますように、また、配付されております参考資料の報告にもありますように、中国、韓国から、我が国の憲法、特に九条について言及されたということは、今までの調査会の海外視察ではなかったことではないかというふうに思っております。それだけに、この憲法調査会に対して、とりわけ隣国である中国及び韓国の国々が、この調査会の論議に注目をしてきているというふうに見なければならないのではないかと思います。
 特に、憲法九条について言及されたということですけれども、この問題については本調査会でもいろいろ論議が行われてきたところですけれども、その観点でいえば、中国、韓国から主張されているいわば戦後の五十七年間の歴史の中、そしてまたそれ以前の歴史というものに対する、日本の軍国主義による侵略を受けた国として非常に強い関心を持っておられる。また、その行方次第によって、日本のこれからのありように対しての危惧も表明されたということについて、本調査会でも率直に受けとめなければならないのではないかというふうに私自身は感想を持ちました。
 それから、韓国の国家人権委員会のことについてお話がありました。今、この報告を聞きながら、私どもの国会でも人権擁護法の論議がされておりますけれども、私自身、この報告を聞いてまさにそのとおりだというふうに思いましたのは、軍事政権を体験したという経験があるとはいえ、いわば国家と国民の人権とのかかわりを特に中心的に救済をしていく、人権救済の基本的な視点というのが、国家とのかかわりの中にあって人権抑圧に対して救済をしていくということが、この国家人権委員会をつくるに当たっていろいろ論議をされてまとめられたと聞いております。
 残念ながら、そういう観点から見ますと、日本の今これから審議されるでありましょう人権擁護法案の実体を見てみますと、法務省に管轄が置かれるなどして、国家と国民との人権にかかわる問題を本当に救済するかという問題をこの問題から受けるし、その点をしっかりと、せっかくの調査活動ですから、憲法調査会の調査のみにとどめずに、できればそうした調査結果がこれからの国会論議の中にも生きていくということがあれば、さらにこの憲法調査会の海外視察の役割というものも大きくなるのではないかというふうな感想を私は持っております。
 以上、二つを申し上げて、私の意見としたいと思います。
中山会長 他に御発言ございませんか。――それでは、発言も尽きたようでございますので、これにて委員からの発言を終了いたします。
 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。
    午前十一時二十一分散会


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