衆議院

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第5号 平成17年4月15日(金曜日)

会議録本文へ
平成十七年四月十五日(金曜日)

    午前十時二分開議

 出席委員

   会長 中山 太郎君

   幹事 近藤 基彦君 幹事 船田  元君

   幹事 古屋 圭司君 幹事 保岡 興治君

   幹事 枝野 幸男君 幹事 中川 正春君

   幹事 山花 郁夫君 幹事 赤松 正雄君

      伊藤 公介君    江崎洋一郎君

      大村 秀章君    奥野 信亮君

      加藤 勝信君    柴山 昌彦君

      竹本 直一君    津島 恭一君

      渡海紀三朗君    中谷  元君

      西村 康稔君    野田  毅君

      葉梨 康弘君    平井 卓也君

      平沼 赳夫君    松野 博一君

      松宮  勲君    三原 朝彦君

      森山 眞弓君    渡辺 博道君

      青木  愛君    稲見 哲男君

      大出  彰君    鹿野 道彦君

      鈴木 克昌君    園田 康博君

      田嶋  要君    田中眞紀子君

      辻   惠君    中根 康浩君

      計屋 圭宏君    古川 元久君

      松本 大輔君    笠  浩史君

      渡部 恒三君    石田 祝稔君

      太田 昭宏君    福島  豊君

      山口 富男君    土井たか子君

    …………………………………

   衆議院憲法調査会事務局長 内田 正文君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十五日

 辞任         補欠選任

  河野 太郎君     江崎洋一郎君

  坂本 剛二君     奥野 信亮君

  永岡 洋治君     津島 恭一君

  早川 忠孝君     西村 康稔君

  二田 孝治君     竹本 直一君

  馬淵 澄夫君     田嶋  要君

  和田 隆志君     松本 大輔君

  高木 陽介君     石田 祝稔君

同日

 辞任         補欠選任

  江崎洋一郎君     河野 太郎君

  奥野 信亮君     坂本 剛二君

  竹本 直一君     二田 孝治君

  津島 恭一君     永岡 洋治君

  西村 康稔君     早川 忠孝君

  田嶋  要君     馬淵 澄夫君

  松本 大輔君     和田 隆志君

  石田 祝稔君     高木 陽介君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 報告書に関する件


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     ――――◇―――――

中山会長 これより会議を開きます。

 報告書に関する件について議事を進めます。

 御承知のとおり、憲法調査会は、衆議院憲法調査会規程第二条第一項に基づきまして、調査の経過及び結果を記載した報告書を作成し、会長からこれを議長に提出するものとされております。

 本件につきまして、先般来の幹事会等における協議に基づきまして、お手元に配付のとおり、報告書案を作成いたしました。

 この際、本報告書案を議題といたします。

 本報告書案の趣旨及び内容について御説明を申し上げます。

 本調査会は、日本国憲法について広範かつ総合的な調査を行うため、第百四十七回国会の召集の日である平成十二年一月二十日に衆議院に設置されました。調査会の任務は、この設置の趣旨に従ってその調査を行い、調査の経過及び結果を記載した報告書を作成し、議長に提出することであります。

 調査会は、この任務に従って、総計四百五十時間を超える精力的な調査を行ってまいりました。

 具体的には、日本国憲法の制定経緯に関する調査から開始し、戦後の主な違憲判決に関する調査を経て、二十一世紀の日本のあるべき姿に関する調査を実施いたしました。

 その後、調査会のもとに小委員会を設置して、前文を含む全百三カ条の憲法全体についての専門的かつ効果的な調査を遂げた後、最後にその全体を通じた締めくくりの調査を行ったのであります。

 この間、合計五日間にわたる公聴会、及び全国九カ所で地方公聴会を開催して、国民から憲法に関する意見を求めるとともに、憲法調査会委員で構成された憲法調査議員団による海外調査を通じて、比較憲法的な観点から諸外国の憲法事情についても調査を行ってまいりました。

 調査会の調査期間は、議院運営委員会理事会の申し合わせにより「概ね五年程度を目途とする。」こととされていますが、その期間の半ばが経過したことを受け、平成十四年十一月一日に中間報告書を作成し、同日、議長に提出したものでありますが、ここに今般、報告書を取りまとめ、これを議長に提出しようとするものであります。

 本報告書案の構成は、第一編「憲法調査会の設置の経緯」、第二編「憲法調査会の設置の趣旨とその組織及び運営」、第三編「憲法調査会の調査の経過及びその内容」、第四編「資料」から成っております。調査の内容をまとめました第三編第二章及び第三章がその中核的な内容をなしております。

 第三編第二章の「調査の概要」では、調査会及び小委員会、中央、地方の公聴会、そして海外調査に分類しながら、これらを時系列的に整理、要約したものであります。その上で、第三編第三章では、この五年余りの調査の中で表明された委員及び参考人等の多様な発言を、基本的に日本国憲法の各条章に沿いながらそれぞれの論点ごとに分類、整理しつつ、特定の立場に偏ることなく公平に要約するとともに、多く述べられた意見については、その旨を記しております。これは、調査会の意思決定としての多数を意味するものではなく、あくまでも、あるテーマについておおむね意見がどのように分布したかをあらわそうとしたものでありますが、このような整理は、この五年余りの間の調査会の議論がどのようなものであったかを、国民に対し、正確かつ平易に説明する責任を全うする観点から、極めて適切かつ必要なことであると考える次第でございます。

 さて、本報告書案に記した議論の中から幾つかの特徴について申し上げるならば、その特徴の一つに科学技術の進歩と憲法があります。

 戦後の目覚ましい科学技術の進歩が、国家の法制度に重大な影響を及ぼす可能性のあることが明確になったと存じます。例えば、クローン技術が乱用された場合の倫理面や環境面への弊害は予測できないものがあり、これは翻って、日本国憲法の最高価値である個人の尊厳に重大な影響を与えかねない問題であります。また、ユビキタス社会における個人のプライバシーの保護が従前にも増して緊要性を増すとともに、国民の情報アクセス権が議論されるようになるなど、情報通信技術の進展が社会や法制度に及ぼす影響もはかり知れないものがあります。

 これは、憲法制定時には想像もつかなかった国内外の情勢の変化の一つにすぎません。安全保障の分野について見るならば、冷戦終結後、民族紛争や国際テロが頻発する状況となっており、我が国を取り巻く安全保障環境も大きく変化しております。こうした中で、安全保障の概念が、国家の安全保障から地域の安全保障、人間の安全保障と大きく変貌しておりますが、我が国も、安全保障及び国際協力の両面において、多様な取り組みが求められております。一九九〇年以後の湾岸危機を契機として国際協力の問題について突っ込んだ議論がなされるようになり、一九九二年のいわゆるPKO法以後、我が国では、憲法のもとで実施し得る国際協力の範囲に関して、九条の解釈論が繰り返し議論されてまいりました。この点について、報告書案においてもさまざまな意見を示しております。

 国内の変化に目を向けるならば、近年における少年犯罪の増加や、学力水準の国際比較における低下が見られます。これを受けて、憲法の精神を教育を通じて具現するという教育基本法の見直しを強く求める声があると承知しております。また、少子高齢化社会の進展のもと、社会保障の負担と給付の問題や海外からの外国人労働者の流入による外国人の人権保障の問題が切実なものとなってまいりますが、これらの点に関する議論もございました。

 このような内外の変化に対応して、我が国は、国の将来のあり方を真剣に検討しなければなりません。調査会においては、法の支配のもと、我が国がなし得ること、なし得ないことの基本を、国家の基本法において疑義のないように明確に規定していくべきではないか、そのような議論が活発に行われてまいりました。

 事の是非に関する立場の違いを超えて、この憲法規範に基づく政治という立憲民主主義の要請については、委員各位とも共通の認識を持たれたものと存じます。

 また、憲法に関する議論の特徴のもう一つとして、憲法規範と現実との乖離をどのように考えるかということがございました。

 これまで論じられてきた九条の問題や私学助成と憲法八十九条の公の支配に属しない慈善、教育、博愛の事業に対する公金の支出等の禁止規定の関係だけでなく、裁判官報酬の引き下げと憲法七十九条、八十条の裁判官報酬の減額禁止規定の関係はその典型的な事例でありましょうし、憲法の規定が現実に生かされていない種々の問題も挙げられましょう。これらを憲法上問題ないとするのは、主権者である国民にわかりやすい解釈とは言えないと思います。

 最高裁判所が行政にかかわる違憲訴訟について憲法判断に消極的で、憲法上の争点について公権的判断が的確に得られていないこともまた、国民にわかりにくい法の解釈、運用を許す原因となっているものと思います。国民にわかりづらい法の解釈、運用は、法治国家、立憲国家の観点から問題であるのみならず、憲法に対する国民の信頼の喪失ももたらしかねない、それこそが最も重大な問題ではないかと考えております。

 また、これまで五度にわたり実施いたしました海外調査では、諸外国においては幾たびかの憲法改正が行われていることを、相手国から説明を受けてまいりました。中でも、昨年の海外調査の際、欧州の法律家が欧州憲法条約の制定理由の一つが市民にもっと密接に向かい合うことにあるとしておられたことは、印象的でした。これは、私が常に申し上げてきたように、憲法は国民のものということに通ずるものがあると存じます。

 この点、五日間にわたる中央公聴会及び全国九カ所における地方公聴会においても、憲法は国民のものという考え方に基づき、一般公募を含む公述人や意見陳述者の方々から、我が国がいかにあるべきか、憲法はいかにあるべきかということについて、国民の考えを積極的に酌み取るように心がけてまいりました。昭和四十七年の本土復帰を迎えるまで日本国憲法の実効的な適用がなされてこなかった沖縄において開催した地方公聴会は、特に感慨深いものがございます。

 以上、本報告書案の趣旨及びその内容を御説明申し上げましたが、これまで五年余りの間、人権の尊重、主権在民、そして、再び侵略国家とはならないとの理念を堅持しつつ、新しい日本の国家像について、全国民的見地に立って、憲法に関する広範かつ総合的な調査を進めてきたものと自負しております。

 本報告書案は、これまでの調査の集大成であり、報告書の提出をもって我が国における憲法論議の新たな段階を迎えることになるものと考えております。

 以上でございます。

 これにて趣旨の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

中山会長 この際、発言を求められておりますので、順次これを許します。船田元君。

船田委員 衆議院憲法調査会報告書の決定に際しまして、私は、自由民主党を代表して意見を述べさせていただきます。

 アメリカ合衆国の独立宣言を起草した第三代大統領トーマス・ジェファーソンは、次のような言葉を残しています。「およそ人間の創造物で完全なものはない。時間の経過とともに、紙に書かれた憲法の不完全さが明白になることを、免れることは出来ない。」という言葉であります。我が国の憲法も、もちろん例外ではないと思います。

 日本国憲法について、国民の代表である国会の立場から広範に調査するという憲法調査会は、東西冷戦の終えんという国際環境の劇的な変化や、我が国のグローバル化、情報化の急速な進展、さらには社会環境の悪化などを背景として、現行憲法と現実との乖離が顕著になったことが発足のきっかけとなりました。また一方、本調査会が国会に設置されたことによって、国民の間に憲法を論ずることに対して抵抗感を少なくしていったことも事実であります。

 平成十二年一月にスタートした本調査会も、おおむね五年の審議期間を経過し、いよいよ最終報告書を議長に提出する運びとなりました。超党派の憲法調査委員会設置推進議員連盟の発足からも八年が経過しており、まさに感無量といったところであります。この間、終始民主的で、またよりよい環境で議論できる調査会の場の設定に腐心された中山会長に、敬意と感謝を申し上げます。また、貴重な時間と御意見をいただいた公述人や参考人の皆様に感謝するとともに、真摯な態度で議論してきた歴代の幹事会メンバーや委員各位、さらには事務局の諸氏にも、ねぎらいの言葉を贈りたいと思います。

 このたびまとまった報告書は、過去五年間の本調査会における議論を丁寧に記述するとともに、それぞれのテーマごとに、一定の基準に基づいて意見の多寡をも記載することによって、憲法に対する所属委員の考え方をあらまし把握することを可能とし、さらには今後の国民の憲法論議の参考に資するという点でも、大いに評価すべきものと考えております。

 具体的内容について言えば、現行憲法の制定過程においてGHQの関与はあったものの、戦後長い間に国民に定着したことを積極的に評価する意見が多かったことは、戦後世代の共通の認識でもあり妥当な結果と言えましょう。象徴天皇制の維持や基本的人権を構成する諸権利の維持、国会の二院制や議院内閣制を継承する意見が多かったことも、現行憲法の基本的事項がおおむね定着していることを反映しており、安定感のある結論ではないでしょうか。

 一方、現行憲法に新たな規定を設けたり、修正すべきとする意見を幅広く記載している点も大いに評価されます。皇位継承のあり方は皇室典範によって規定すべきものでありますが、女性の天皇を認める方向性をいち早く打ち出したのは、当調査会であると自負しております。焦点の第九条については、まず第一項の戦争放棄を堅持することでおおむね共通の理解が得られました。さらに、自衛権の行使や自衛隊の存在については、個人的にはより明確な記述を望む立場でありますが、憲法上何らかの措置をとることを否定しない意見が多かったとの文言が多くの政党によって合意されたことには、大変大きな意義があります。国連の集団的安全保障措置に積極的に参加することが多数意見であったり、意見は分かれたものの集団的自衛権の行使について、その限界を設けるかどうかをめぐっても現実的な議論ができたことは、画期的なことであったと思っております。

 さらに、いわゆる新しい権利として、環境権や国民の知る権利、プライバシー権を追加すること、二院制を維持しつつ衆参両院の役割分担や選出方法の差別化によって二院制のメリットを生かすこと、公選制は退けつつも首相のリーダーシップを強化すること、憲法裁判所を設置して違憲審査機能を強化すること、地方自治の本旨を明確にするとともに、道州制の導入などに積極的な意見が多かったことなど、閉塞状況にある我が国の将来に適切な処方せんを与える内容となっております。

 また、最終報告書では、今後の憲法論議についても明確な方向性を示しております。憲法改正手続の重要部分である国民投票法についても、制定すべきという意見が多かったこと、憲法問題を取り扱う国会の常設機関の設置に積極的な意見が多かったことなど、国権の最高機関として果たしていくべき憲法の見直し作業に向けて、今後の指針となる報告書の内容となっております。

 我々は、将来の憲法見直しに向けての議論の場を視野に入れつつ、まずは現在の調査会の枠組みを維持し、これにさらなる憲法調査と国民投票法案の起草並びに審議権を付与することを強く願うとともに、今後とも憲法に関して各党各会派が垣根を乗り越えて、真に国民のために、また将来の国民のために、真摯で現実的な議論を展開していかなければならないと存じております。

 以上でございます。(拍手)

中山会長 次に、枝野幸男君。

枝野委員 枝野幸男でございます。

 民主党・無所属クラブを代表いたしまして、報告書について意見を申し述べます。

 この五年間、当調査会では、多岐にわたる憲法にかかわる問題点を幅広く取り上げ、有識者や公募した国民の皆さんの意見も伺いながら、精力的な調査を進めてきました。

 特に、現行憲法典の条項にとらわれることなく、二十一世紀の日本のあるべき姿について広範な議論がなされたことは、憲法問題という観点にとどまらず、我が国の議会史にも例のない画期的な成果であったと受けとめています。具体的な法律案や予算案などを対象とすることなく、また、分野ごとに分かれた委員会審議でもなく、広い視点から日本の将来像を自由に議論する機会は、国会全体を見渡しても残念ながら十分には存在していません。こうした議論が自由濶達になされたことだけでも、当調査会は大きな役割を果たしてきたと言えます。

 また、当調査会の議論は、原則として自由討議方式によって進められました。各委員が、国会議員としての責任に基づきおのおのの所信を自由に発言する場も、現在の議会では限られています。しかも、議員同士で質問をぶつけ合ったり、反論や再反論などが展開したりする機会は、当調査会を除くと、ほんの限られた場面しか存在しません。言論の府としての議会という憲法的にも重要な役割を最大限に発揮してきた舞台が、当調査会です。

 こうした充実した調査を進めることができたのも、中山太郎調査会長の中立公正かつ適切な議事運営と、各会派及び所属委員各位の御協力があったからにほかならず、こうした皆さんに心からの敬意を表します。また、調査会の円滑な運営のために御尽力いただいた議長や議院運営委員会を初めとする院内各委員会、参考人や公述人として意見表明いただいた皆さん、裏方として調査を支えた事務局各位など、多くの皆さんの御協力にこの場をかりて感謝の意を表する次第です。

 本報告書は、こうした調査の成果を客観的にあらわしたものです。当調査会は、何らかの集約を予定してスタートしたものではありませんから、その議論も本報告書も、特定の結論を示してはいません。本報告書に示されたいわゆる多数意見も、たまたま多くの委員の方が意見を表明した論点について、たまたまある特定の意見が多数であったことを示すにすぎません。

 この整理については、議論した以上何らかの集約を行うべきだとの意見もあるでしょう。しかし、当調査会に与えられた調査という役割に忠実に議論し、その結果を客観的に示したのが本報告書である以上、当然の帰結です。また、公権力行使の基本法という重要な意義を持つ憲法の議論であり、その論点も多岐にわたり、さらには幅広い多様な意見が存在する中での議論であることを踏まえるならば、また、当調査会がスタートした五年前の状況をかんがみるならば、このような報告書がまとめられたこと自体、大きな成果であり前進であると考えます。大切なことは、本報告書をもって何かが終わると位置づけるのではなく、本報告書をスタートとして、これまでの調査をどのように生かしていくかではないでしょうか。

 この五年間を通じて、当調査会は憲法制定権力を持つ国民の皆さんに、その議論を全面的に公開しその意見を求めるなど、憲法問題に対する世論を喚起するべく努力してきました。このことは、一定の成果を上げつつあると思います。しかし、今なお憲法に対する国民の関心は、決して高いとは言えません。国会議員は、法律を制定する権限を国民から与えられています。しかし、憲法について、国会議員は単に発議できるにすぎず、決めるのは国民自身です。したがって、本報告書を通じて多くの国民の皆さんにこれまでの当調査会での議論を幅広く知っていただき、今後は、国民の皆さんに当事者として議論を深めていただくことが必要です。

 これまでの調査を生かしつつ、国民の皆さんと対話をしながら議論を深めていく上で、当調査会は今後も継続してその役割を担っていく必要があります。また、制定されていない憲法改正手続法制の整備を通じて、国民の皆さんに当事者としての意識を高めていただくことも重要です。憲法そのものの議論を深めることと、憲法改正手続法制を整備することは、国民の皆さんに憲法に対する関心と当事者意識を高めていただく上で、車の両輪とも言える関係にあり、一体として当調査会がその役割を担うことが適切です。

 本調査報告書の作成を一つのスタートラインとして、本調査会が、憲法議論の深化と憲法改正手続法制の整備の役割を担う第二ステップに進み、充実した議論がさらに展開することを強く望みます。(拍手)

中山会長 次に、赤松正雄君。

赤松(正)委員 公明党の赤松正雄でございます。

 公明党を代表いたしまして、この憲法調査会の最終報告書に対しまして、細かいことではなくて、全体の受けとめ方につきまして意見を申し上げます。

 現行憲法が、一九四六年に公布されて以来今日までの約六十年間に日本人の生活において果たしてきた役割の大きさは、いかように宣揚してもし過ぎるということはありません。主権が天皇から国民へと移るに伴って、より一層多くの基本的人権が保障されることになりました。そして、戦争を否定し、戦力不保持をうたった恒久平和主義を中軸に据えることによって、そのほかの条件もあったというものの、世界においてまれなる平和の時代を享受することができました。憲法基本三原則の名で呼ばれてきたこれらの原理を守り抜くことは、立党以来貫いてきた公明党の変わらぬ基本姿勢であります。

 このたび五年間の歳月をかけて行われた衆議院憲法調査会における議論が一たび幕を閉じました。この最終報告書を一見しましてわかりますように、現行憲法を広範かつ総合的に調査するとの目的がそれなりに達成されたことを素直に喜びたいと存じます。中山会長初め各党各委員が精力的にかつ熱心にこの調査に参加されたことは大いに評価されていいと考えます。とりわけ、毎年の海外調査を含めて、現行憲法をあらゆる角度から点検することにおいて、大いなる成果を上げ得たと言っていいのではないでしょうか。これを今後の日本における憲法論議の共通の財産として活用していくことは大切であると考えます。

 もとより、この調査はあらかじめ憲法を改めようとのねらいを持ったものではなく、あくまでもその実施がどのようになされているのかを点検するものでありました。しかし、現実に調査会の場で行われた議論では、明文を改正すべしや、規定されていないものは新たに加えてみてはとの意見がしばしば展開されたことは、周知の事実であります。報告書は、それを一定の基準のもとに、意見の数の大小の差が二倍以上あった意見については、多かったとの表記で反映させています。

 これについて、公明党にも異論なしとしません。初めに改正ありきではないがゆえに、意見の数が多いか少ないかの基準で、一定方向に報告書をまとめることは、本調査会のねらいをいささか逸脱してはいないかとの指摘であります。ただ、私は、数多い意見を羅列するだけでは、最終報告書の名に値せず、その際に一定の基準をもって整理をしてまとめることはやむを得ず、おおむね穏当なものではないかと思います。

 今日の報告書での記述を含め、五年間で展開されてきた議論を一つ一つつぶさに点検すれば、明文の改正がどうしても必要とされる項目というのは、かなりの程度削られ、そう多くはないのではないかと思われます。数の大小にかかわらず、憲法に関する議論をぎりぎり詰めていけば、政治の対応の貧困さが原因であることも少なくないのであります。

 そのことを棚上げにしたまま、明文を変えさえすれば事態に対応できるとの考え方はいささか短兵急ではないかと思われます。これを受けて、公明党としては、真に憲法上の明文を改めなければならないものがあるとしたら、それは何か。また、何かつけ加えなければならないものがあるとすれば、それは何か。憲法を変えずとも、法律や行政のあり方を変えることで対応できるものは何か。こういった観点から、今後徹底的に洗い出す作業をしていくことが必要ではないかと考えています。

 あえて、九条に限って概括的に言及すれば、現実との乖離を埋めることに急な余り、理想を見失うことがないとは言えません。現状を追認するという良識の明記にこだわり過ぎていると、抑制なき現実の陥穽にはまり込むおそれなしとしません。どのような措置を加えるか、あるいは加えないか、両者を含めて、恒久平和の担い手たらんと立ち上がった原点に立ち戻ることが必要なのです。

 憲法調査会の今後については、この最終報告書を受けて憲法論議をどうするのか。今までの広範かつ総合的な調査から一歩進めて、繰り返しになりますけれども、どこをどう変えるか、それとも変えなくてもいいのかということを、枠組みは維持した上で、名称は別にしまして、引き続き議論する場が必要であると考えます。その際に、憲法改正をめぐる国民投票の手続法に限って議決権を与えることが必要ではないかと思われます。改正に向けて具体的な内容が煮詰まっているわけではないにせよ、手続の整備は憲法自体が予定している基本的な備えの一つだからであります。

 ともあれ、施行六十年もたったからそろそろいいのではないかとか、諸外国に比べてどうだとかとの議論に浮き足立つのではなく、今こそ冷静な論議が必要だと考えます。五年間の調査会報告書の内容を意識しつつも、それに縛られることのない発想で、公明党は憲法論議に堅実に取り組んでいきたいと思います。憲法論議はいよいよこれから本番が始まるのだと申し上げて、終わります。(拍手)

中山会長 次に、山口富男君。

山口(富)委員 日本共産党の山口富男です。

 日本共産党を代表いたしまして、憲法調査会の五年と報告書について意見を表明いたします。

 憲法調査会は、二〇〇〇年一月、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うことを目的に、調査のみに限定された機関として出発した。

 日本共産党は、日本国憲法の歴史的、現代的意義を明らかにするとともに、憲法の諸原則に照らして現実政治を点検する調査こそが憲法調査会の目的、性格に沿うものであることを主張し、その立場で調査に臨んできた。しかし、憲法調査会には常に改憲の動きが持ち込まれ、こうした目的と性格にふさわしい五年間とはならなかった。

 焦点となった憲法九条をめぐって、集団的自衛権の行使を明記することや前文の改定を求めるなどの改憲論が述べられた。しかし、これらは、二十一世紀の世界と日本の平和を展望する上で説得力あるものではなかった。むしろ、世界の平和をめぐって鋭く問われたのは、米国が単独行動主義、先制攻撃戦略に基づいて進めたイラク戦争と、それを支持した日本政府の態度であった。

 米国の行動とイラク戦争は、国連憲章、国際法に反するものとして世界の批判にさらされた。日本政府は、米国のイラク戦争を無批判に支持し、戦後初めて、現に戦争が継続している地域への自衛隊の派兵を進め、憲法の平和原則を深く傷つけた。

 このもとで、イラク戦争と自衛隊のイラク派兵にかつてない批判と抗議の世論、運動が広がったことは、憲法問題を考える上でも極めて重要である。

 本調査会においても、参考人、公述人等を含め、米国の無法と日本政府の対応に厳しい批判がなされた。そして、国連憲章に基づく平和のルールの実現とともに、戦争のない世界を目指す憲法九条は、世界の平和にとってかけがえのない生命力を持っていることが示された。

 基本的人権をめぐっては、いわゆる新しい人権が取り上げられた。これは、憲法十三条の幸福追求権、二十五条の生存権などに立った国民の運動によって確立してきた権利である。問題は、それを実効あるものにするための努力をなすことである。実際、環境問題を初めとして、その実現に逆行する現実政治を変えることこそが課題であるとの意見が、多くの参考人、公述人等から述べられた。

 今日、憲法問題で問われていることは、憲法を改変することではない。憲法の諸原則と現代的意義を改めて深くとらえ、立法、行政、司法など政治と社会の各分野で、憲法を守り、生かす豊かな営みを進めることである。

 本報告書は、こうした調査の経過と結果を反映したものではない。それどころか、憲法調査会規程をも逸脱した、憲法改定に向けた論点整理の報告書となっているのである。

 第一に、九条を初めとする憲法の各条文において、何を明記するかの是非を論じるものとなっている。自衛隊の憲法上の明記、「集団的自衛権の行使の是非」、国民に「新たな義務規定を設けることの是非」、「国民も憲法尊重擁護義務を負うことを明記すべきか否か」など、明記することの是非を中心に論じることは、まさに改憲に向けた論点整理であって、調査に限定し、特定の結論を出さないという本調査会の性格に反するものである。

 第二に、「各論点ごとに、発言の数ではなく、意見を述べた委員の数をもってカウント」し、「概ねダブルスコアの開きがある場合に、大小関係をつける」という手法は、国会内の委員数によって改憲の論点を殊さら大きく見せるものである。さらに、「委員の意見を論点ごとに類型化」することによって、「前文に我が国固有の歴史・伝統・文化等を明記すべきか否か」、「家族・家庭に関する事項を憲法に規定することの是非」を論点に挙げるなど、事実上、与党などの改憲論議に沿うものとなっている。

 このような改憲に向けた論点の整理は、本調査会の報告書たり得ない。

 なお、本報告書では、「今後の憲法論議」として、「憲法問題を取り扱う国会の常設機関」の設置、「憲法改正手続法」の整備を取り上げ、憲法調査会に憲法改正手続法の起草、審査権限を与える方向を打ち出しているが、これらは九条改憲に向けた道を開くものであり、認めることはできない。

 本憲法調査会は、「概ね五年程度を目途とする。」調査が終了したのであり、衆議院議長に報告書を提出した後は、静かにその幕を閉じるべきである。

 日本国憲法は、平和の問題でも、国民生活、人権、民主主義の問題でも、今日、日本と世界が直面するさまざまな課題に対して、その解決の指針となる豊かな内容を持っている。

 憲法とともに生きてきた多くの国民は、九条改憲を志向する勢力に抗して、憲法の目指す平和、人権、民主主義の日本に向かって、さらに前進するであろう。そして、この道は、アジアや世界の平和、友好に新たな段階を切り開く展望を持っているのである。

 以上の諸点を申し述べ、憲法調査会の五年と報告書に対する日本共産党の意見表明といたします。(拍手)

中山会長 次に、土井たか子君。

土井委員 社会民主党・市民連合の土井たか子でございます。

 憲法調査会の最終報告書について意見を申し述べます。

 戦前、軍部の暴走を許し大きな惨禍を引き起こした反省から生まれた日本国憲法は、国家権力に対して厳しい規制や制限を加え、主権者としての国民の権利を保障する立憲主義の原則に立っています。日本国憲法を貫く平和主義は、まさに日本国民の総意であり希望であります。

 憲法九条は歴代の政権に縛りをかけ、日本は朝鮮戦争にもベトナム戦争にも参戦をすることなく、平和憲法を持つ国として世界各国に認められてまいりました。

 世界では、この五年間にも多くの戦争や武力紛争がありましたが、問題の解決に武力を用いることでもたらされたのは、数十万、幾百万人の死傷者と残された人々の悲しみと苦しみであり、生活基盤と自然環境の甚大な破壊でしかなかったのです。だからこそ戦争に反対し、平和の回復に情熱を傾ける全世界の人々に、私たちは自信と誇り、勇気を持って日本国憲法第九条の平和主義を掲げたいのです。九条は今こそ生かされなければなりません。

 ところが、日本国憲法は施行から五十八年の今、最大の危機に瀕しています。それは、国民の多くが平和を願い、人権と自由の保障と充実を願い、憲法を生かす政治を求めているにもかかわらず、憲法を尊重、擁護する義務を負っているはずの国会議員の多くが、憲法の諸原則を誠実に実行するのではなく、それらを否定し、破棄することを主張し、改憲のための動きを公然と進めているからであります。憲法調査会の五年間の経過とその議論も、この誤った流れに沿うものでありました。とりわけ九条が改憲の標的とされています。

 憲法調査会の設置に当たり、その目的は、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う、このようにはっきりと決められまして、憲法の理念が実現されているか否か、その原因と責任、実現方策等を誠実かつ客観的に検証することが憲法調査会の最大の課題であります。そうした調査が行われていたならば、憲法と現実の乖離という主張の当否も明らかになったはずです。ところが、改憲を主張する政党の委員の数に応じ、現憲法への批判と、どの条項をどう変えるかという意見が主流とされ、改憲の方向性がつくられています。最も典型的な例は、九条違反の立法を行いながら、その違反の現実に合わせて憲法を変えようとする論議であります。また、日本国憲法が保障する基本的人権は、「侵すことのできない永久の権利」であるにもかかわらず、調査会の論議は、人権の救済と実現ではなく、逆に、国民の義務をふやすことに多くの時間が割かれるなど、本末転倒とも言える状況でありました。したがって、当調査会の本来の目的が達成されたと言うことはできません。

 憲法調査会の運営についても不適切な点が多々見られました。二〇〇四年八月五日の調査会では、自民、民主、公明三党の改憲に向けての論点整理などが報告されまして論議されましたが、このようなことは当調査会の趣旨に照らして明らかに反するものであって、三党の意見だけを取り上げることなど公正を欠くものでありました。

 最高法規を議論する調査会の討議の場において、定足数を満たさない場面が残念ながらたびたび見られましたが、民主政治や立憲政治の将来に無責任とのそしりを免れません。また、最終報告書の編集方針や内容自体についても、調査会を開いて全員で議論して決めるべきだという当然の要求は実現しませんでした。

 参考人や中央、地方公聴会の公述人、意見陳述人の多くが、憲法を変えることではなく、憲法を生かすことの重要性を訴えていました。しかし、特に地方公聴会での意見などは、一人当たりわずか二行から五行に圧縮されてしまいまして、広範、多様な意見を正確に伝えることはできておりません。

 最終報告書は、さまざまな問題意識やニュアンスの違いといった多様性を捨象し、多数意見をつくらんがための恣意的な基準で類型化され、改憲の方向性を示すものとなっております。

 憲法を生かす立場からの調査や記述も極めて不十分です。最終報告書では、日本が集団的自衛権の行使を憲法上禁じられていることに対しての国際的、国内的な意義と歴史的重みについてはほとんど言及されておりません。

 また、最終報告書の中に、「今後の憲法論議等」として、「憲法問題を取り扱う国会の常設機関」と「憲法改正手続法」に関する意見まで盛り込まれております。このテーマ自体が調査会の目的を明らかに逸脱しておりまして、あくまでも番外の議論にすぎず、報告書に掲載することは許されることではありません。

 私たちは、当調査会が以上のような方向と内容で運営され、最終報告書が作成されたことに断じて反対であり、憤りを持って遺憾の意を表明いたします。

 戦争を放棄し、紛争を対話によって解決する二十一世紀を私たちは希求いたしております。このような憲法の危機に対し、すべての人々が強い関心を持ち、日本国憲法を守り生かすために、ともに努力を払われるよう切に訴えたいと思います。

 ありがとうございました。(拍手)

中山会長 以上で発言は終わりました。

    ―――――――――――――

中山会長 これより採決に入ります。

 報告書案について採決いたします。

 お手元に配付いたしております案を衆議院憲法調査会規程第二条第一項に基づく報告書とするに賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

中山会長 起立多数。よって、そのように決しました。

 それでは、ただいま議決いただきました報告書を私から議長に提出いたします。

    ―――――――――――――

中山会長 この際、一言ごあいさつ申し上げます。

 平成十二年一月二十日に本調査会が設置されて以来、五年余の期間、真摯な議論を重ねてまいった結果、本日、ここに報告書を議決することができました。

 これもひとえに歴代の会長代理である鹿野道彦君、中野寛成君、仙谷由人君、そして現在の会長代理である枝野幸男君や、歴代の幹事、オブザーバーの方々、そしてこの五年間余一貫して委員をされている公明党太田昭宏君初め委員各位の御協力のたまものであり、会長としてここに深く感謝と敬意を表する次第であります。

 本日は、これにて散会いたします。

    午前十時四十八分散会


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