衆議院

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第12号 平成16年3月23日(火曜日)

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平成十六年三月二十三日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 田野瀬良太郎君

   理事 鈴木 俊一君 理事 萩山 教嚴君

   理事 村井  仁君 理事 山本 明彦君

   理事 島   聡君 理事 中塚 一宏君

   理事 長妻  昭君 理事 上田  勇君

      江崎洋一郎君    江藤  拓君

      熊代 昭彦君    小泉 龍司君

      佐藤  勉君    七条  明君

      田中 英夫君    谷川 弥一君

      中村正三郎君    西田  猛君

      林田  彪君    原田 令嗣君

      宮下 一郎君    山口 泰明君

      五十嵐文彦君    大島  敦君

      鈴木 克昌君    武正 公一君

      津川 祥吾君    津村 啓介君

      永田 寿康君    橋本 清仁君

      馬淵 澄夫君    松原  仁君

      村越 祐民君    吉田  泉君

      谷口 隆義君    長沢 広明君

      佐々木憲昭君

    …………………………………

   財務大臣政務官      七条  明君

   参考人         

   (日本銀行総裁)     福井 俊彦君

   参考人         

   (日本銀行副総裁)    岩田 一政君

   参考人         

   (日本銀行理事)     三谷 隆博君

   参考人

   (日本銀行理事)     小林 英三君

   参考人         

   (日本銀行理事)     白川 方明君

   財務金融委員会専門員   鈴木健次郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十三日

 辞任         補欠選任

  木村 隆秀君     山口 泰明君

  渡辺 喜美君     佐藤  勉君

  小泉 俊明君     大島  敦君

  藤井 裕久君     橋本 清仁君

同日

 辞任         補欠選任

  佐藤  勉君     渡辺 喜美君

  山口 泰明君     木村 隆秀君

  大島  敦君     小泉 俊明君

  橋本 清仁君     藤井 裕久君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 参考人出頭要求に関する件

 金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)


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     ――――◇―――――

田野瀬委員長 これより会議を開きます。

 金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として日本銀行総裁福井俊彦君、日本銀行副総裁岩田一政君、日本銀行理事三谷隆博君、日本銀行理事小林英三君、日本銀行理事白川方明君の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

田野瀬委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

田野瀬委員長 去る平成十五年十二月五日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、国会に提出されました通貨及び金融の調節に関する報告書につきまして、概要の説明を求めます。日本銀行総裁福井俊彦君。

福井参考人 日本銀行の福井でございます。

 日本銀行は、昨年十二月、平成十五年度上期の通貨及び金融の調節に関する報告書を当国会に提出させていただきました。今回、日本銀行の金融政策運営について詳しく御説明申し上げる機会をちょうだいし、厚く御礼を申し上げます。

 まず、最近の経済金融情勢について御説明を申し上げます。

 我が国の景気は、緩やかに回復いたしております。輸出はこのところ大幅に増加しておりまして、設備投資も回復を続けております。こうした動きを背景に、鉱工業生産も増加しております。また、雇用者所得は徐々に下げどまってきておりまして、個人消費も足元はやや強目の動きとなっております。先行きにつきましても、海外経済が高目の成長を続けると見られますもとで、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続き、緩やかな景気回復の動きが継続するものと見ております。

 我が国の景気が緩やかながらも回復を続ける背景といたしましては、大きく二つの要因を挙げることができると思います。

 第一に、世界的な情報関連需要と中国の高成長が牽引する形で、世界経済が順調に回復していることでございます。世界経済の好転を受け、我が国の輸出は大幅に増加しております。こうした輸出の増加を起点に、生産、企業所得が拡大し、設備投資の回復につながるといった前向きの循環メカニズムが働き始めております。

 第二に、企業の過剰債務、過剰雇用などの構造問題への取り組みがようやく結実しつつあることでございます。非製造業や中小企業ではなお調整圧力が残存しておりますが、製造業大企業では、リストラや企業再編などを通じまして、収益力が大きく向上しております。また、我が国の金融システムにつきましても、全体としては依然厳しい状況にあるとは申せ、大手行を中心に、健全化に向けたこれまでの取り組みの成果があらわれ始めております。

 このような景気情勢のもとで、物価面を見ますと、国内企業物価は、内外の商品市況高などを背景といたしまして、足元上昇しております。当面上昇を続けるものと見られます。消費者物価、生鮮食料品を除く消費者物価でございますが、これは米価の上昇など一時的な要因も押し上げに働く中で、前年比ゼロ%近傍で推移いたしております。先行きにつきましても、当面、前年比ゼロ%前後で推移する可能性が高いと見られますが、経済の需給バランスが、徐々に改善しつつも、なおかなり緩和した状況にございますため、基調的には小幅のマイナスが続くものと予想されます。

 金融面では、間もなく三月期末を迎える中にございますが、その中にありましても、日本銀行の潤沢な資金供給のもとで、金融資本市場は総じて落ちついた状況が続いております。企業金融をめぐる環境も、信用力の低い企業についてはなお厳しい状況にございますが、全体として見れば、徐々に緩和される方向にございます。民間銀行の貸し出し姿勢は積極化しつつございますほか、CP、社債といった金融市場を通じた資金調達環境も良好な状況が続いております。

 次に、最近の金融政策の運営について申し述べさせていただきます。

 現在実施しております金融緩和政策のポイントを改めて申し上げますと、第一に、日銀当座預金残高という量を操作目標として、金融市場に潤沢な資金供給を行うこと、第二に、この量的緩和政策を消費者物価、これは全国ベースの、生鮮食品を除く消費者物価指数でございますが、その前年比が安定的にゼロ%以上となるまで継続するという約束を行っていること、第三に、緩和効果を経済に幅広く浸透させるため、金融緩和の波及メカニズム強化に努めること、この三点でございます。昨年秋以降も、この三点に即して、追加施策を講じてきたところでございます。

 まず、市場への資金供給につきましては、昨年十月に、金融調節面で機動的に対応する余地を広げる観点から、日銀当座預金残高の目標値の上限を二兆円引き上げました。また、本年一月には、目標値を三兆円引き上げまして、三十兆から三十五兆円程度ということにいたしました。デフレ克服に向けた日本銀行の政策姿勢を改めて明確にお示しし、今後の景気回復の動きをさらに確かなものとする趣旨から実施したものでございます。

 次に、量的緩和政策継続の約束につきましては、昨年十月に、その内容をさらに明確化いたしました。具体的には、消費者物価の前年比が安定的にゼロ%以上という条件について、第一に、直近の消費者物価指数の前年比が数カ月ならしてみてゼロ%以上であること、第二に、先行きについても再びマイナスになることが見込まれないこと、さらに、これが満たされたといたしましても、経済、物価情勢によっては量的緩和政策を継続することが適当と判断する場合も考えられること、これらを明らかにいたしました。このような日本銀行の明確な約束は、金融市場の安定的な金利形成に大きく寄与していると考えております。

 また、金融緩和の波及メカニズムの強化につきましては、長期的な観点から金融市場の発展に寄与することも念頭に置かせていただきながら、金融調節手段などの面でさまざまな工夫を行っております。その一環として、昨年七月より、資産担保証券の買い入れを開始しております。本年一月には、市場関係者から寄せられた意見等も踏まえつつ、本措置の趣旨が一段と生かされるよう、買い入れ基準の見直しを実施してきたところでございます。これまでの買い入れ実績は、累計約五千億円に達しております。また、資産担保証券市場の発展を支援するため、市場関係者とともに証券化市場フォーラムを開催し、建設的な意見交換を続けております。

 なお、日本銀行は、株価の変動が金融機関経営ひいては金融システム全般に及ぼすリスクを緩和する趣旨から、一昨年十一月以降、銀行保有株式の買い入れを実施しております。昨年三月には、買い入れ総額の上限を二兆円から三兆円に引き上げ、また、昨年九月には、本措置の実施期間を本年九月末まで延長いたしました。本年三月十日時点での買い入れ額は一兆九千二百八十八億円となっております。

 我が国経済は、一年前に比べ、明るい動きが着実にふえてきていると申すことができると思います。しかし、同時に、持続的成長の実現とデフレ克服のためにはまだまだ課題が多く残されていることも事実でございます。また、大企業と中小企業、製造業と非製造業、都市圏と地方圏との間で景況感に格差が存在することも十分認識いたしております。景気の前向きの循環メカニズムが働き始めている今こそ、日本経済全体に景気回復の動きが行き渡るよう、企業、金融機関、そして政策当局といった幅広い主体が経済活性化に向けた取り組みを重ねていくことが重要であると認識いたしております。

 日本銀行といたしましては、民間部門の前向きな経済活動を金融面からしっかりと支援し、持続的な成長軌道への復帰とデフレの克服に向けて今後とも全力を挙げて取り組んでまいる所存でございます。

 まことにありがとうございました。

田野瀬委員長 これにて概要の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

田野瀬委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。谷口隆義君。

谷口委員 公明党の谷口隆義でございます。おはようございます。早朝より御苦労さまでございます。

 総裁は、去る三月二十日にちょうど一年を迎えられたわけでございますけれども、私、昨年、ちょうどこの三月二十日、スタートのときに、財務省の副大臣をやっておりまして、総裁がごあいさつに来られたときに、お話をしておる最中にアメリカのイラク侵攻というメモが回ってまいりまして、いよいよイラク侵攻だな、そういうような状況で、これからの経済また金融が不透明になるな、大変なときにまたスタートされるんだな、こういうように思っておったわけでございます。

 この一年、過ぎてみますと、巷間大変御評価が高いわけでございます。また、海外では大変、国内以上に評価が高いということのようでございます。

 簡単に指標を見てまいりますと、消費者物価、これはコアのCPIでありますけれども、就任時がマイナスの〇・六%、現在、これは一月でありますけれども、マイナスの〇・一%、こういうようになっております。また、長期金利も、就任時が〇・七四五%が、今現在、昨日現在一・三七〇%。また、日経平均株価も、就任時が八千百九十五円五銭、これが昨日一万一千三百十八円五十一銭。円相場は、就任時に百十九円八十七銭、今現在、ちょっと円高になっておりますけれども、百六円八十五銭というような状況でございます。

 総裁は、私もいろいろ見ておりましたけれども、就任されてこの一年間、政策実行のスピード、スピード感であるとか、例えば先ほどの報告で言っていらっしゃったような資産担保証券、ABCPを購入されるといったようなこと、また時折行っていらっしゃる強力なコミットメント、このようなことが市場に評価されておるのではないかと思うわけであります。

 余り時間がありませんので、ごく簡単に、この一年を振り返って総裁の所感をお述べいただきたいというふうに思います。

福井参考人 ただいま委員御指摘のとおり、一年前に就任いたしましたとき、その日にイラクとの戦闘が開始されたということに象徴されておりますとおり、過去一年と申しましても、強いて区切れば昨年の前半、夏ごろまでは、やはりこのイラクとの戦いあるいはSARSの問題、株価の下落、金融システムの不安といったように、さまざまな不確定要因がむしろ噴出するというふうな時期でございました。したがいまして、金融政策の視点から申しましても、ショックに対していかに対応するか、不確定要素の増大にいかに対処するかという視点で構えてまいりました。

 昨年の夏過ぎ以降は、景気が徐々に回復する方向、そういう新しい芽が出てまいりました。世界的な環境の変化と相まって、そういういい動きが出てまいりましたので、金融政策運営上も、せっかく出てきたこのいい芽を大切に育てていくというふうに視点の変化はあったと思います。

 しかし、私どもの目標は終始一貫変わらず、日本経済を持続的な成長の軌道に早く復帰させる、なかんずくデフレから脱却させる、こういう一点に絞られておりまして、この目標は現在も変わらない、一貫した目標でございます。この目標に沿って全力で走り続けてきた、今も走り続けている、今後とも目標達成までは職責を全うするため全身全霊を傾けて前進していく、こういう心境でございます。

谷口委員 ぜひまた頑張っていただきたいというように思う次第でございますけれども、今まさにおっしゃったように、デフレの克服というのが最重要課題でございます。

 このデフレ、昨日も地価公示が発表されまして、都市部ではどうも下げどまり感が出てまいったようであります。資産デフレの下げどまり感といいましょうか、こういうような状況が出てまいったようでありますし、また、CPIは今、先ほども申し上げましたようにゼロ近辺にあるわけでございます。それで、市場では、デフレの脱却を、もう早晩起こるんじゃないか、二〇〇四年もしくは二〇〇五年ぐらいには、早ければ二〇〇四年ぐらいにはデフレの脱却というようなことが起こり得るんじゃないか、こういうような市場関係者の考え方もあるわけでございます。

 そこで、次にお聞きいたしたいのは、一体デフレというのはどういう原因で起こったのかということをよく考える必要があるんじゃないかと思うわけでございます。

 ただ単に貨幣的な側面でのデフレということではなくて、今起こっておるデフレは、私が考えておりますのは、東西冷戦構造の崩壊によりまして、グローバルエコノミーといいますか、市場経済にどんどん今流入しているというか、その過渡期にあるというようなこと、またそれを支えるようなことでIT革命と言われるようなものです。

 先日も海外のマスメディアのことを聞いておったんですけれども、ニューヨークで記事を書いておったのが、最近はインドにアウトソーシングしておる、インドで記事を書いてまたこっちに送らせるというようなことが行われておるようでございまして、そういう意味では、構造が変わってきたといいますか、国際分業体制の再構築が今なされておる途中ではないか、移行過程ではないか、このように思うわけでございます。

 また、最近、BRICという言葉があるようでありますけれども、B、R、I、C、ブラジル、ロシア、インド、またチャイナ、このような、三十億人を擁する人口の国々がどうも市場経済にどんどん入ってきつつある。

 こういうようなこと、これはグローバルデフレといいますかグローバルディスインフレというんでしょうか、このようなことがあるのではないか。そうしますと、このデフレの克服というのは我が国だけの問題ではありませんので、やはりなかなか難しいところもあるということでございますが、総裁の御見解をお聞きいたしたいと思います。

福井参考人 ただいま委員がまさしく御指摘なさいましたとおり、日本の状況を見ておりますと、景気は緩やかな回復過程に入り、好循環のメカニズムが徐々に強まりつつある、こういう状況であるにもかかわらず、物価、なかんずく消費者物価指数はなお基調的に緩やかな下落を続けているという現状にございます。

 この背景は何かというお尋ねでございますが、一つは、大きくは世界経済全体の仕組みの変化、今委員が御指摘のとおりでございまして、いわゆるグローバル化の進展のもとで、世界じゅう、つまり、ブラジル、ロシア、インド、チャイナ、今おっしゃった国も含めまして、世界じゅうに存在する資源を最も有効に活用しながら企業が仕事をしていく時代に大きく変わった。つまり、国際的な分業の仕組みが大きく変革の途上にある。

 したがって、現在、世界経済全体を見ましても、例えば、国際商品市況は非常に上がっている、原油は高どまりないし強含みになっている、国際的な海上運賃は急激に上がっている。こういう中にありましても、先進国の消費者物価指数はなお非常に落ちついている、ディスインフレーションの懸念が消えたかどうか、なお十分確認を要するというふうな感じになっている状況でございます。

 こうした大きな背景を踏まえながら、日本経済単体で見ました場合には、さらに、やはりグローバル化などの大きな潮流変化への対応、日本が大きく高度成長時代の経済の姿から切りかえていくその途上にあるということでございまして、九〇年代に入りましてから、この変革の途上においてさまざまな調整のおくれ等が生じました、余りにも変革の幅が大きいということで調整のおくれが生じ、結果として長期にわたり経済が停滞することを余儀なくされた。

 したがいまして、日本経済は、他の先進国に比べまして、大きな需給ギャップの調整の必要に迫られたということでございます。この需給ギャップは、現在、徐々に縮小の方向にあると思いますが、なお残された需給ギャップというものが決して小さくないということで、現在の国内の物価情勢につながっているというふうに思います。

 具体的に見ますと、企業の過剰債務とか過剰雇用といった問題、あるいは金融機関の不良債権問題というふうなところに絞られてくるわけでありますけれども、これら民間部門の構造調整問題につきましては、近年かなり進展をしておりまして、次第に持続的経済の回復パスへ接近しつつある。物価の面につきましても、まだ目に見えませんが、基調的なところでは、需給の改善を背景に徐々にデフレの根というものが短くなりつつあるんではないか、こういうふうに考えているところでございます。

 これから先の仕上げの過程というのはなかなか困難なものがなお残されていると思いますが、十分覚悟を決めて対処してまいりたいと思っております。

    〔委員長退席、山本(明)委員長代理着席〕

谷口委員 そういう状況の中で、二〇〇一年の三月に、今までの政策目的を、金利から資金量に変えるという量的緩和政策を日本銀行はとられたわけでございます。ですから、ちょうど丸三年になるんでしょうか。そのときに、量的緩和のときに、消費者物価の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまでこれを継続するんだ、時間軸効果といいますか、こういうことをおっしゃった。ただいまの報告のところにも厳密に定義をし直すというようなことを総裁おっしゃったように、昨年十月にあえてまたされたわけでございます。

 昨年の八月、九月に、若干景気回復が見込まれるということで長期金利が上がったときがありまして、これは一・六%程度まで長期金利が上がったわけでありますけれども、そのような、市場のオーバーシュートをやはり懸念するというようなこともこれあり、日本銀行でこのような厳密な定義をすることによって、いわばエグジットポリシーと申しますか出口政策を余り論じないようにしよう、まだ先なんだと。いわば、先ほどのデフレのことでありますけれども、やはりなかなかデフレは難しいよというようなことで、簡単にこれがまたすぐにさっといくようなものじゃないというようなことでやられたのではないかと思うわけでありますけれども、厳密にまた定義をされた目的を教えていただきたいと思います。

福井参考人 私どもの物価に対します基本的な認識は、日本経済が持続的な経済の成長パスにしっかり戻っていくということを前提に、物価、デフレという姿で根が深く生えている、この根をだんだん短くしていって物価の動きをプラスの世界に持っていく、この根の深さということを十分認識しながら金融政策をやらせていただきたい。景気という、表向きに出ている姿が少し好転したからといって、物価のデフレという根が急速に短くなるものではないという認識に立っているわけでございます。

 そのことを十分、市場関係者、国民の皆様方にも御理解いただいた上で、金融政策を自信を持ってやっていきたい。

 こういう前提からいきますと、非常に早い段階から長期金利が先を読み過ぎて上昇するということとは両立しない物の考え方になります。そういう意味で、私どもは、先々まで金融緩和が続くという約束を改めて明確にして、私どもの持っている認識を国民の皆様方にも同じように持っていただいて、金融政策の効果の出方に十分関心を払い続けていただきたい、こういう趣旨で実施したものでございます。

谷口委員 今の量的緩和、その前にゼロ金利政策ということで、これは、いわば異常な状態がずっと続いているということはもう日本銀行も十分念頭に入れてやっていらっしゃるわけであります。ですから、いずれはそこから脱却をしていかなければならないということで、先ほども申し上げましたエグジットポリシーを市場関係者はいろいろ論じられているわけでありますけれども、これはなかなか日本銀行の方からおっしゃるのは難しいと思うわけでありますけれども、しかし、これをタブー視するというわけにいかぬのではないかと私自身は思うんです。

 それで、まさに総裁が総裁に御就任になったときに、市場との対話ということを非常に重要視していこう、こういうこともおっしゃったわけでありますけれども、やはり市場の期待と日本銀行の政策が一致するということが非常に重要で、これこそが市場との対話ということになるんだろうと思うわけでございます。

 それで、今申し上げた、定義を厳格化された、当面はやはり金融緩和を進めていくんですよということを市場におっしゃったわけでありますけれども、それによって、金融緩和の期間が、例えば来年はペイオフが待っておるわけでありまして、ペイオフまでの間にはどうも政策転換はないだろう、すぐないだろう、これは一般的に思いますし、市場関係者もそのように思っておると思いますけれども、しかし、かなり長い間であるというように市場関係者が思っておるときに、突然政策の転換が行われるということになりますと、全く用意を、用意というのはおかしいですけれども、やっておらないわけでありますから、これもまたオーバーシュートになる可能性がある、過敏になり過ぎるということになりかねないということを私は思うわけでございます。

 そういう意味では、このエグジットポリシーも論じていく、それは市場に安心感を与えながら論じていく必要もあるのではないかと思うわけですけれども、総裁、ちょっと言いにくいでしょうけれども、御答弁をお願いいたしたいと思います。

福井参考人 大変大切なお尋ねをいただいたというふうに思っております。

 私どもも、量的緩和政策という今までとったこともない政策を異例の措置としてとっているわけでございますので、できるだけ早くデフレ脱却の成果を上げて、こういった異常な金融政策の枠組みからはやはり卒業して、通常の金利機能が生かせる金融政策に早く戻るべきだ、こういうふうに思っております。

 しかし、早く戻るべきだということと、そういうことが可能となる実態がいかに整ってくるかということは全く別の問題で、この実態を十分整える前に我々は決して早とちりはできないということでございます。実態の方をなるべく早く整える努力がやはり引き続き肝要だ。

 そのために、ことしの一月には、景気はいい方向に向かっている中にあっても、なおこの回復をより確実にするために追加的な緩和措置をとった。ある意味で時間軸効果もこれをもって補強して、国民の皆様方ももう少し、今のかなり大胆な緩和政策が長く続くんだということについて認識を新しくして持っていただきたいという趣旨でやったわけでございます。

 しかし、やはり、将来に目を転じますと、ある時点、こうした枠組みからは脱却していかなきゃいけない。

 そのときに非常に重要な条件が二つあると私は思っておりまして、一つは、やはりこの量的緩和のフレームワークの中で金融政策をやっておりますと、特に流動性を非常にたくさん供給するという金融政策をやっておりますと、市場のメカニズムをある部分犠牲にしながらやってきているところがございます。したがいまして、委員おっしゃいましたエグジットポリシーということになりますと、この市場のメカニズムの蘇生と言うとおかしいんですが、回復を図りながら、そこを十分、どの程度回復したかということを見ながら変化を遂げていかなきゃいけないと思います。

 もう一つは、委員御指摘のとおり、市場の期待の安定化ということが大事だというふうに思います。長期金利をただ低く抑えればいいというものではないにいたしましても、経済、物価の先行き見通しと整合的な金利の形成が、市場の中で余り不規則な動きをすることなく整々と形成されていくように、期待の安定化を図りながらやっていかなきゃいけない。そのためには、経済、物価情勢の見通しの日本銀行の判断が正確であるということがもう大前提でありますが、正確な判断の上に立って、市場との間で十分意見の交流をさせていただきながら、実際の金融政策をやっていくというふうになると思っております。

谷口委員 この量的金融緩和は、二〇〇一年の三月からスタートしたわけです。スタートの時点では、当座預金の残高を五兆円からスタートして、総裁が就任されたときには上限が二十兆円であったと思うんですけれども、それで今現在三十五兆円ということになっておるわけです。

 五兆円の当預残高を設定されたときには、ポートフォリオリバランス効果といいますか、当座預金というのは金利がつきませんから、これを積み上げさせることによって金融機関が与信に、貸し出しに持っていくだろう、こういうことを期待しながらやられたと聞いております。その後、今、この量的金融緩和は、主な目的は、デフレの克服というような目的でやられている。

 最近は、どうも介入をサポートするといったようなことにも使われておると一般的に言われております。

 先日は、FRBのグリーンスパン議長が、このところ、大量な介入が行われているものですから、金融政策の観点からも、このような大量介入は効果が薄れつつあるのではないかというようなこともおっしゃっておられるようでございます。

 最近大量に介入をしておるということでありますけれども、このような介入と量的緩和の関係について、総裁の御見解がございましたらおっしゃっていただきたいというように思う次第であります。

福井参考人 委員つとに御承知のとおり、日本銀行の量的緩和政策は、あくまで、国内の経済情勢、そして物価情勢、かつ金融情勢、金融情勢の中でも金融市場におきます資金の流れが円滑かどうか、不円滑な部分があるかどうかということを綿密に点検しながら、必要かつ十分、あるいは場合によっては十分過ぎると思われるぐらいの流動性を供給しているということでございます。

 一方、同時に、こういうかなり思い切った緩和が必要だということの認識の基本的な背景には、日本経済は今ようやく立ち上がりつつあるけれども、なお外からのショックに対しては非常に脆弱性を引きずりながら前進しているということでございます。外からのショックはさまざまなことがございますけれども、金融資本市場が不規則な動きをすることによるショックということも相当念頭に置いておかなければならない。為替市場における不規則な動きというのもその重要な一つの要素でございます。

 したがいまして、政府におかれまして、為替相場の不規則な変動を調整するために適時適切な介入政策を行われるということは、現在日本銀行がとっております金融緩和政策の方向性と基本的に矛盾するものではない、こういうふうに認識いたしております。

 日本銀行の量的緩和政策は、市場にたくさん流動性を供給いたします。政府におかれて、介入政策を実施されますときに必要な円資金の調達は市場においてなされるということでありますので、結果として、市場における政府の資金調達が、日銀の金融緩和政策の結果、より容易になっているという可能性はあると認識いたしておりますが、それはあくまで結果でございまして、方向性として政策的矛盾はない、私どもは、あくまで国内の経済情勢、物価情勢、金融情勢を見て量的緩和の必要性の限度というものを判定している、こういう仕組みでございます。

谷口委員 このところ、実質成長率が上昇しているわけですけれども、昨年の十―十二で見ますと、年率換算で七%というような、予想を超えた実質成長率の伸びであります。

 それで、最近の日銀の行っていらっしゃるマネタリーベースの増加と実質成長率が相関関係にあるというグラフがあるわけでありますけれども、最近、マネタリーベースが若干減少ぎみになっております。

 ここは、マネーサプライも今低下傾向でありますけれども、やはり、マネーサプライをふやす、市中にお金を流すということの意味合いでは、マネタリーベースをまずふやさないとマネーサプライがふえないというようなこともあり、先ほども申し上げましたように、実質成長率とマネタリーベースとが相関関係にあるといったような観点から見ましても、マネタリーベースをふやしていく、これは非常に必要なことだと思うわけでありますけれども、総裁の御見解をお伺いいたしたいと思います。

福井参考人 私どもも、マネタリーベースとマネーサプライ、そして最終的には実体経済活動ないし物価の動向との関係につきましてはふだんから綿密に分析作業を続けております。

 なかなか難しい仕事でございますが、これまで持っております分析結果では、非常に長い目で見て、マネタリーベースと実体経済活動との関係にある程度の相関関係があるというふうに認識されているわけでありますが、遺憾ながら、九〇年代以降、特に九〇年代後半以降はその関係がかなり不規則になってきているということでございます。多分、ゼロ金利制約とか不良債権問題などの構造問題が存在するもとで、そういう結果が出ているのではないかと思います。

 したがいまして、マネタリーベースをふやせばある程度機械的にマネーサプライがふえ、そして実体経済活動が活発化したり物価にも影響が及ぶというふうに、ある機械的な関係を頭に置いて金融政策ができれば、私どもはそれは非常に容易なことなんでございますが、残念ながら、今の相関関係は、そういう機械的な我々の操作を許さない状況になっているということでございます。

 したがいまして、私どもは、より実戦的に、二つのことを念頭に置きながら、一つは金融市場の安定を確保する。量的緩和というものが金融市場の安定にどれぐらい効果があるか、かつ必要かということを測定していく。もう一つは、企業にとって安定した、より低い金利を含め、安定した金融環境を提供することによって、企業のリストラさらには前向きの努力を金融面から強力にバックアップしていく。その必要度合いがどの程度か。この二つの実戦的な観点から緩和政策を実施してきているということでございます。

 結果として、現在はマネタリーベースの伸び率は非常に高い状況になっている。しかし、過去の相関関係からいえば、景気はなお緩やかな回復にとどまっていて、その相関関係はなお従来の経験則よりは弱い関係になっている、こういう状況だと理解しております。

    〔山本(明)委員長代理退席、委員長着席〕

谷口委員 最後に、岩田副総裁に、余り時間がありませんが、若干お聞きしたいんです。

 岩田副総裁は従来からインフレターゲット論者ということで有名でありますけれども、どうも、日銀が量的緩和を将来解除した場合に、何らかの物価目標もしくはインフレターゲットを導入するのではないかという市場関係者がおられるようでございます。

 私は、上げた風船を引きおろすというのはできますけれども、しぼんだ風船を上げるというのはなかなか難しい、こういうように思っておるわけでありますけれども、岩田副総裁に、岩田副総裁は大変アカデミックな、精緻なロジックを展開されて、神戸の講演を聞いておりましても、なかなか私も理解しにくいというところがあるわけですが、このようなことについて最後に御答弁をお願いして、私の質問を終わりたいと思います。

岩田参考人 それではお答え申し上げます。

 私、昨年の三月十八日に、この場、財務金融委員会におきまして、参考人として、副総裁就任の前に意見を述べさせていただく機会を与えていただきました。

 その場で私どういうことを申し上げたかといいますと、これは量的緩和に踏み切ったときの言葉でありますが、日本銀行は、ゼロ以上の物価上昇率になるまで量的緩和を続けるということをおっしゃっておられる、これは広い意味の物価安定目標を掲げているというふうに考えておりますというふうに述べました。

 さらに、この政策をさらに発展させて、物価上昇率に、例えば二%という上限を設けるべきだというふうに申し上げたことがございます。

 私、今も、現在もその見解に全く相違がございません。

 ただ、その下限の方のゼロ%以上ということにつきましては、消費者物価の上方バイアス、ちょっと偏りがございます。デフレを過小に評価する、GDPデフレーターは過大に評価する、そういう偏りがございますが、そういう偏りの問題。あるいは、デフレに再び戻らない、のり代を考えるということを考えますと、下限は一%とすることが望ましいんじゃないかというふうに思っております。

 物価安定目標につきましては、論者によっていろいろ意見がございまして、劇薬であるから危険だという御意見、あるいは、調整インフレ論だというふうに考えておられる方もおいでになります。あるいは、単なるおまじないで全く役に立たないというふうにおっしゃられる方もありまして、いろいろ意見は分かれているんですが、私が理解しております物価安定目標というのは、多くの中央銀行によりまして採用されている、いわばベストプラクティスに当たる政策の枠組みだというふうに理解をいたしております。

 私は、こういう目標を持つことによって、金利とかあるいは物価の先行きについて市場参加者の期待を安定化させることができる、そして望ましい最終ゴールのところに早く到達することができる、さらに市場の参加者あるいは国民の方々とコミュニケーションを改善することができる、あるいは透明性向上の観点からも望ましいことであるというふうに思っております。

 これまで一年間、政策決定会合におきましても、この透明性向上ということについて議論を深めてまいりまして、先ほど御指摘のありました、十月初旬の、三つの条件、これは明確化したわけでありますが、私は、やはりこれは一つの大きな成果であったんではないかというふうに思っております。

 以上でございます。

谷口委員 では、これで終わります。

田野瀬委員長 次に、島聡君。

島委員 民主党の島聡でございます。

 福井総裁、御就任一年のときに財務金融委員会にお越しいただいています。福井総裁と初めてお会いしたのは、ちょっと変わったところでお会いしたと思っておりますが、たしかカナダ大使館でお会いしたと思います。私が、当時、民主党の次の内閣、総務大臣をやっておりまして、福井総裁は富士通総研の経済研究所の理事長。そのころからいろんなうわさはあったわけですが、まさかこういう形でお会いするということになるとは当時思いませんでした。

 いろんなマスコミの評価なんかを見ていますと、総じて高い。例えば、エコノミストが、福井総裁の政策を検証して、世界最高の中央銀行総裁と。それから、市場関係者に機動力を非常に見せた。つまり、就任してすぐに銀行保有株式の買い入れ上限引き上げの対応策を打ち出した、それから、一年間に量的緩和の目安たる日銀当座預金残高を十三兆円積み増した、だから、機動力もある。それから、非伝統的な政策手段にも取り組んで政府との協調面を演出した、あるいは、G7でも二人三脚ぶりをアピールしたというふうに書かれております。

 これは視点はきちんと変えなくちゃいけないわけであります。中国の「六韜三略」という、太公望が著した著書と言われていますが、そこには、大体、自分の国にとって役に立って、その人がいる国にとって非常に役に立って、例えば中国が、中国にとって損になる人はけなせ、そして、中国にとって役に立って、日本なら日本にとって役に立たない人は褒めろ、そういう話もございます。これは福井総裁とは言いませんけれども、外国の評価ではそういうものだと思うのであります。

 そして、機動力というのは、いい言い方でもありますが、説明責任を果たさないという意味でもあります。ぱっとやるということは説明責任を果たしていないということにもなります。そしてまた、政府との協調というのは、これは日銀の独立性というものが果たして担保されるのかという問題にもなる。裏表が当然あるわけです。その状況によってそれぞれの評価は定まっていくという話だと思います。

 今申し上げた、説明責任という意味と、そして政府との協調というのは日銀の独立性というのが本当に担保できるのか、その疑問を持ちながら、きょうは質問をさせていただく次第でございます。闘う日銀と言われているそうですが、私ども民主党の財務金融委員会も闘う財金と言われていますので、そういうつもりで質問をさせていただく次第でございます。

 まず、量的緩和政策の問題についてでございます。

 これは、量的緩和政策を、十月十日、いわゆる当座預金目標を三十から三十二兆円に二兆円上げた、一月には三兆上げたと言われております。十月十日のときには九人の政策委員のうち三人が反対票を投じた、一月のときには二人が反対票を投じたということであります。

 今申し上げたように、富士通総研の理事長だった当時、福井総裁も実は追加緩和の効果については極めて懐疑的であったんじゃないかと私は思うんです。ブルームバーグ・ニュースの「論争・デフレを超える」というところで、当時富士通総研の理事長だった福井総裁は、戦後五十年間続けてきた経済モデルと新しい経済モデルとの間のギャップが非常に大きいため、日本経済はその谷間に落ち込んで身動きのとれない状態となっている、資源再配分の動きが静止している、そうなると、幾ら流動性を供給しても経済の活性化を促すことは容易ではない。幾ら流動性を供給しても経済の活性化を促すことは容易ではない。つまり、量的緩和の効果について非常に疑問を持っていらした。それが、今回、量的緩和を追加継続しておられる理由をお聞かせいただきたいと思います。

福井参考人 ただいま委員御指摘のとおり、日本経済は大きな構造改革の谷間にあって長く呻吟してきたということは事実だと思いますし、現在もこの谷間から完全には脱却し切れていない、しかし脱却していけるめどが徐々に出てきている、こういう段階だろうというふうに思います。

 この陥っていた段階、そして、これから谷間から脱却しようとする段階、いずれの段階におきましても最も重要なことは、民間経済部門、特に企業及び金融機関において、過去のビジネスモデルを抜け出して、やはり将来新しいビジネスモデルに早く衣がえをして新しいバイタリティーを身につけていくということだと思います。このために金融政策の面からどういう形でバックアップができるかということが大事だ。単純に量的緩和、例えばマネタリーベースを幾らふやせば結果としてバラ色の世界ができるというふうな、そういう単純な話ではないというふうなことは、今でも私はそういうふうに考えております。

 しかし、この量的緩和政策というのは、外国の中央銀行でも一度も実践したことがない、そして日本銀行では三年前から初めて採用している政策。したがいまして、私どもは、内外の学者が十分我々に新しい知見を提供してくださっている、これは十分生かしますけれども、しかし、理論は実証分析が必ずしも伴っていない、そういう歴史が存在していないわけですから、そこは十分注意しながら我々はこの新しい知見を利用させていただかなきゃいけない。そうなりますと、かなり、歩きながら、その効果をよく確認しながら、この新しい政策を実施していくということになってきているというふうに思います。

 私どもは、そういう構造改革の谷間のふちからはい上がろうとして懸命に努力している企業、金融機関をバックアップしたいということでございますけれども、二つの点で非常に有効だ。

 一つは、金融市場において不安感を増幅させない、外からショックが及んだときに増幅させない。流動性を十分供給すれば、その不安感は相当程度解消できる。これは、二〇〇一年三月以降の実績が既に示し始めている。九七、八年のような金融パニックというのは起こさずに済んできている。

 それからもう一つは、時間軸効果と相まって、企業にとって、やや長期にわたって金利が安定的な状況が享受することができるということになりますと、金融コストを安くしてリストラを進展できる、新しいビジネスプランを立てるときにも、当面、低い金利コストを前提に期待収益率が幾らかというふうな計算ができるというふうな環境を提供していけば、谷間からはい上がる大変苦労しておられる企業にとって、金融面からはやはり追い風になるはずだ、現になりつつある、こういうふうな理解のもとにやっているわけでございます。

 研究所におりましたときの見解と今の時点での見解とでは、基本的な見解に相違はございません。ただ、研究所のときはそういう金融政策の実行責任を負っていたわけではありませんので、そういう実践的な意味合いでどこに効果があるかというふうな分析はしておりませんでした。

島委員 本当に、確かに研究と実践とは違うと思いますし、私ども政治家も同じでありまして、マックス・ウェーバーの「職業としての政治」には、私はここに立っている、私はこうするしかありませんというときがあるということはよく理解しております。

 ただ、政策委員会決定会合というのがあって、これは私どもの目から見ますと、これは事前に確認したんです、議長提案というのは政策委員会の多数意見を集約したものだと、議長がその話をして多数意見を集約してこれでどうですかといった場合に、九人の委員のうち三人反対というのは相当なものだと私は思うんです。

 これは本当に、委員長も理事会なんかでそういうことがあると思いますが、三人反対なんというのは我々三人反対するようなものですから、民主党が。そういうような状況なわけなんですよ。そういうような政策決定会合、三人の委員が反対をする。これは五対四になったら相当大変なことだと私は思います。五対四といったら、これはある意味で総裁の議長としての取りまとめに対しての、いわゆる力というものをマーケットがひょっとしたら大丈夫かと思うかもしれない。

 今、ある意味で歩き始めている、歴史が今までそういうような政策をとったこともないと言われて、今先頭を歩いている、トップランナーだからという話もありましたけれども、この三人の反対票ということに対してもう限界ではないのか、あるいは、こういう政策委員会決定会合で議長としてやっておられる流れの中においてこの三人の反対意見というものをどのように理解しておられますか。

福井参考人 新しい日本銀行法のもとでの日本銀行のコーポレートガバナンスは、少し口幅ったいんですけれども、大変先進的な仕組みを法律によって我々はちょうだいしているというふうに思います。全くガラス張りにして、みんなそれぞれにかなり激しく議論をして、最終的に一つの結論をつくり上げるという極めて創造的なプロセスでございます。したがいまして、大事なことは、どういう議論を経てこういう結論になったかということが大事だというふうに私どもは認識しております。

 最終的に満場一致になるか、幾らか票が分かれるか、これをどう考えるかということでございますけれども、もしいつも満場一致で結論が出ていたとしても、その前段階の議論が貧弱であれば、この方がより問題ではないか。十分議論をして満場一致、これが最も望ましいことは御指摘のとおりだと思いますが、しかし、申し上げましたとおり、現在進めております量的緩和政策というのは、海外の中央銀行にも例がない、我々もようやく過去三年の歴史を持っているだけだ。理論的には内外の学者がどんどん先行して新しい知恵を開発してくださっていますが、実証分析はできないわけでございます。そういう大きな制約のもとで、現在の経済、将来の経済、現在の物価、将来の物価を読み、政策委員それぞれの知見を投入して、洞察力を加えて議論をしていくという過程でございますから、常に満場一致でなければならないということであれば、結論が出ない、国民経済的にはむしろマイナス。

 できる限り可能なことはやっていくということであれば、時に票が割れるということはむしろ健全なことである、議長としてはそこにダイナミズムを感じながら役目を果たさせていただいているというふうに認識をいたしております。

島委員 今、新しい日銀法の枠組み、九人のうちある意味で五人とればできるという多数法ですね、新しい枠組みでありますので、政治的にも私ども極めて注目をしております。

 議事録要旨というのは公開されておりますが、議事録自身はかなり長い期間公開されないということでございますので、それはまた別途検討していただければというふうに思うわけであります。

 今度は岩田副総裁にお聞きするのがいいと思いますけれども、一月の追加会合におきまして、田谷委員、須田委員がこんなふうに言って反対票を投じています、これは議事録要旨でございますが。田谷委員の方は、現在当座預金残高目標の引き上げ効果が期待できる状況にないというふうにはっきり言っている。須田委員の方は、景気は標準シナリオのおおむね範囲内であるが上振れぎみである、短期金融市場は安定している、金融システム不安はかなり後退し、当座預金需要が減る兆候が見られる、金融市場調節上のテクニカルな問題はない、だから反対した。私は非常に納得するんです、これ。私はこの意見に納得するわけですが、例えば田谷委員は当座預金残高目標の引き上げ効果が期待できる状況にないという発言をして、反対だけれどもそれを、つまり、緩和を継続したわけですから効果があるというふうに思ったと思うんですが、その辺について納得いく説明をお願いしたいと思います。

岩田参考人 それでは、お答え申し上げます。

 私ども、この問題について、もちろん決定会合の場でいろいろな議論が行われて、賛成される方、それから反対される方あったわけでありますが、私を含めましてこの措置に賛成した方々の意見はどうであったか、私なりにまとめてみますと、基本的には、小幅な物価の下落、つまりデフレという状況がまだ続いている、そういう状況のもとでどうやったらこのデフレを克服できるのかという、そのためには何をすべきなのかという点について、新たな追加措置をとるということはやはり意義があるというふうに考えたわけであります。

 私が個人的に重要視しておりますのは、こういう当座預金の増額をしたことによりまして現実に市場は反応いたしておりまして、例えば先物市場の金利でありますとかあるいは少し長目の金利でありますとか、そうしたものが低下をいたしております。明らかに追加的な措置によってマーケットにはプラスの影響が及んだ。そして、私、何よりも重要であると思っておりますことは、日本銀行がデフレ克服をするまでしっかりと緩和政策を続けるという非常に強いメッセージをマーケットに送った、それが国民の皆様方の安心感というものを強めていく、そして、そういうことによってデフレ克服の可能性が少しでも広がっていく、こういうことに多数の方々が賛同したというふうに理解をいたしております。

 以上でございます。

島委員 議論をした上で、政策委員会のいろいろな意見が分かれた上で実行されるわけですから、説明責任をきちんと果たしていただきたいと思います。今すぐ答えられないでしょうけれども、議事録を、要旨だけじゃなくて、議事録の情報公開の時期、ちょっと短くしていただければというふうに思う次第であります。

 次に、テーマをちょっと為替の方に移らせていただきます。

 補正予算が成立するまでに、日銀は一時的に財務省から米国債を現先で買い入れました。この問題に対しまして非常にいろいろな議論があったと思っております。現在、予算もまだ成立しておりませんが、再び為替介入が上限に達した場合、このような同様の措置を今後もとっていくのか、それについてお尋ねしたいと思います。

福井参考人 先般とりました措置につきましては、委員も既に御理解いただいているとおりでございまして、外為会計におかれまして財務省が一時借入金等の限度額に余裕がなくなった、したがって外国為替市場への介入、操作に不都合が生ずる可能性があるので、時限的な対応として、日銀へ、外貨債券の売却以外の方法で、必要な資金調達が可能となるまでのやむを得ない期間、保有外貨債券を買い戻し条件つき売却をしたい、こういう申し入れがあったわけであります。私どもは、その必要性を認め、かつ、時限的な、例外的な措置としてこれに応じたということでございます。

 今後、そういう必要が起こるかどうかは全くわからないと思いますし、そういうことは本当は起こってほしくないというふうに思っておりますけれども、これは情勢次第でございます。もし万一、将来同様の申し入れあるいは幾らか異なる形の申し入れがあったという場合には、その時点でやはり状況に照らして考えざるを得ないというふうに思います。あくまでケース・バイ・ケース。しかし、日本銀行としては、極力こういう対応は例外的かつ時限的な対応としてという基本は恐らく貫かれることではないかというふうに思っております。

島委員 福井総裁、市場との対話を重視されていると聞きますが、国民との対話もよくしていただきたいと思います。

 今、為替政策について国民もすごく興味を持っているんですよ。私も久々に漫画を買ったんですけれども、ビッグコミックという漫画に「ゴルゴ13」というのがありますが、その「ゴルゴ13」に為替政策も出てきているんです。為替政策が取り上げられているんです。

 出てくるのはM副総裁というんですけれどもね。きょうはM副総裁はおいでいただいておりませんが、M副総裁が出ておられます、要するにM副総裁は財務省出身なんだそうでありまして、イラクへの無償拠出を高圧的に要求する米側にM副総裁は一矢報いる作戦を心に秘めているということで、大規模介入実施の結果、外為特会の限度額が下がり、身動きがとれなくなってきた財務省官僚がM副総裁に米国債の引き取りを要請する。日本の国益を守るために必要な措置だ、Mさんならおわかりでしょうと迫る財務官僚に、副総裁は、国益だと、どこの国の国益だ、我が国かそれともアメリカかというふうに言う。そういう漫画が今出されているんです。国民がそこまで為替に対して非常に興味、関心を持っているということの一つの事例として申し上げたわけであります。

 先ほどは現先の話をしました。ここでは、一つの質問は、米国債の買い入れ、買い切りということは今後どのようにお考えかということであります。

 それから、一月二十日に、日銀が当座預金残高の目標値を三兆円引き上げました。これが二月のG7を見据えたものだということで、マーケット関係者、それこそ市場との対話を見ているんです。四月中下旬に再びG7が予定されているわけでありますが、恐らくマーケット関係者はこの四月の八、九日の金融政策決定会合でも何か政策を打ち出すんじゃないかというふうに見ているのでありますが、その点についてもお話をいただければと思います。二点お願いします。

福井参考人 「ゴルゴ13」というのは私も時々拝見しておりますけれども、私どもの実際にやっておりますことと関係があるかないかというのはよくわからないで、いつも楽しく読ませていただいております。

 先ほどお尋ねの条件つき買い入れ以外の方法もあり得るかというのは、今後の状況次第だというふうに思います。今回のやり方は、条件つきであり、時限的でありというふうなことで、かなり私どもが限定的にこの問題に対応できるという条件を整えることができたと思っておりますので、今後とも同様な申し出に対してはできる限りそういうフレームワークの中で考えたいと思いますけれども、絶対今回のやり方だけというふうに言えるかどうかは状況次第だというふうに考えております。

島委員 私は、円高の影響というのは日本経済に相当影響を与えるというふうに今も思っています。昨年、私自身、過去に例がないほど円ポジションがシカゴの取引所であったということに関しては、かなり危機感を持っていました。このままいくと相当円高が進むんじゃないかというふうに思っていました。

 それに対して、今回の動きに関しては、いろんな評価はあるでしょうが、基本的には介入が必要だったんじゃないかと。我が党はいろいろな意見があると思いますが、私はそう思っております。

 福井総裁が、一月二十六日に支店長会議で、景気は緩やかに回復していて、先行きについてもその持続が見込まれると述べられた上で、金融・為替市場の動きとその影響には注意が必要と警戒感を示したというふうに言われています。

 円高の影響が、きょうも百六円まで来ました、一回百十二円まで来て百六円にまた戻ったわけですね、こういう状況が一体どういう影響を与えるというふうにお考えか。例えばマーケットも、先週木曜日、一時一万一千六百円をつけたんですよ、ところが、そのとき百六円まで円高が進んだので、一万一千六百円から一万一千四百円で二百円落ちました、何か円高とともに去りぬと言われたらしいですけれども、そういう状況でありますが、円高の影響が今後日本経済にどのように影響するとお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。

福井参考人 その前に、先ほど委員の御質問の中で、G7の日程をにらみながら金融の追加緩和をやったのかという御質問にお答えをしておりません。大変失礼を申し上げました。

 そういう特定の国際会議その他の出来事をスケジュール的に織り込んで政策判断をするということはございません。そういうことですと、金融政策決定会合で政策委員方との議論がうまく進まないと私は率直に思います。やはり、あくまで経済、物価あるいは海外の諸情勢の展開、その読みをしながらどういうふうに政策を展開していくかということが基本にならざるを得ないというふうに思います。

 一月の追加緩和につきましては、まだGDP統計が出ておりませんでしたけれども、昨年、十―十二月の経済の動きがかなり加速度がついてよくなったというデータはたくさん出ておりました、市場にもそれが認識されていまして、経済の回復のスピードが少し上がるという環境のもとでどう判断するか。日本銀行としては、その中にあってもデフレ克服への道はなお厳しいという判断を明確にやはり示す必要があるし、それなりの対応はきちんとやっていく、そのステップもきちんと踏もう、これが一月の政策決定の基本的な判断材料でございます。

 それから、今もおっしゃいました、いろいろな市場の変動が日本の経済の今後の動きにどういう影響を与えるかという点でございますけれども、私ども、昨年の十月に出しました経済、物価の見通しに関します一種の標準シナリオみたいな中で、景気は緩やかに回復する、物価はなお緩やかなマイナス基調を続ける、この標準シナリオ自体に対してもリスク要因が幾つかある、一つは海外経済の動向だし、国内的には内需の動きがどうなっていくかということ、それに加えて、金融・為替市場の動きといいますか金融市場全体の動きの中から不規則な動きが出てきたときにやはり相応のショックを受けるリスクがあるというふうなことを述べております。

 支店長会議で私が話をしたのは、それらすべてを話したわけですが、新聞では特に、委員御指摘のとおり、金融市場の動き、なかんずく為替の動きというふうに書いた記事があったかもしれないというふうに思います。

 為替市場の動き、特に円相場が強目に動くというふうな場合に企業がどう受け取るかという点につきましては、私どもも綿密に調査をしております。一昔前に比べますと、円高即企業にとって都合が悪いというふうに、そういうストレートに物を考えておられる企業のウエートはだんだん下がってきているというふうに思います。中国を初め海外に相当規模の大きい投資を展開しておられるということまで考えますと、為替の変動は、ある面ではプラス、ある面ではマイナスというふうに、その辺が総合して考えられるようになってきておりますので、従来のように単純ではございませんけれども、今経済の回復の最初のきっかけは、やはり輸出が立ち直ってきているというところに最初のきっかけがあるというふうに、これが共通の認識になっておりますので、景気回復が本当に持続的なパスに乗り切る前の段階で、為替市場から余り不規則な動きが強く及んでまいりますと、最初のきっかけになった芽を壊してしまうんではないかというふうな、これは企業家の心理的な要因まで含めて考えますと、やはり相応のリスク要因になりかねない、今後ともそういうリスク要因としてやはり認識しておいた方がいい、そういうふうに考えております。

島委員 今おっしゃったとおりの相応のリスク要因として考えるべき問題だと私も思っておる次第でございます。

 次の質問に入らせていただきたいと思いますが、ただ、私と総裁の意見がちょっと違いましたのは、日銀の政策決定会合の政策と政府の政策あるいはメッセージとは連動していても構わないと私は思っています、ある意味で。日銀法四条が、政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう常に政府と連絡を密にするという、これは解釈の問題でしょうけれども、例えば日銀政策決定会合のメッセージを国際会議の前に何らかの形で出すということは、それはある程度有効だと私は思う次第であります。

 ただ、十月の政策決定会合というのは十月十日でありました、これは衆議院解散の日でして、その後だあっと株価が上がっていったんですよ。今マーケットで言われていますのは、六月二十五日に次の政策決定会合がありますかね、それで参議院の公示日が六月二十四日なんで、そのときに何かあるんじゃないかと。そういう話がありまして、それだけは留意していただきたい。あくまで中立的に国民のためにやっていただきたいと思う次第でございますが、それだけは申し上げておきたいと思います。

 国債の管理政策と出口論の話を少しさせていただきたいと思います。

 出口論がなかなか言えない、時間軸もある、それはよくわかっています。ただ、まず国債の問題を先に聞きますが、日銀の保有国債が短期も合わせると初めて百兆円を超えたという報道があります。そして、二〇〇一年三月、いわゆる量的緩和スタート時には長期国債保有残高を日銀券発行残高以下に抑える、それは、昨年の三月十八日に行われました福井総裁の国会答弁においても、日銀の国債保有残高は非常に大きくなってきているが、とりあえず銀行券の発行残高の範囲内というように答えておられます。とりあえずというのは非常に重要である。

 今、日銀券発行残高七十・二兆円に対しまして、長期の国債保有残高が六十六・八兆円に達しています。毎月一・二兆円ペースで長期国債を買い入れている。そうすると、間もなくそれは上限に達するという状況まで来ています。もちろん借りかえ等もあるんでしょうが、こういうところまで来ていますと、とりあえず銀行券の発行残高の範囲内というのを、とりあえずですが、これからも守るのか、あるいは上限を引き上げるのか、それについてお答えいただきたいと思います。

福井参考人 銀行券の発行残高の範囲内に日銀の長期国債の保有額をとどめるという物の考え方は、ずっとそれ以前、量的緩和政策以前の段階から、長期国債の買いオペレーションというのはいわゆる成長通貨の供給の手段として考える、つまり、長期国債、長い国債を買うときは、成長通貨、つまり銀行券が底だまりとなって存続し続ける範囲内で買っていきましょうと、一つの歯どめを設けた考え方はもうずっと以前からございました。

 現在の銀行券発行残高の範囲内で買っていきましょうという考え方も、全く同一ではありませんが、その延長線上に出てきた考え方ではないかというふうに理解しております。これは、中央銀行として先行き十分な政策対応能力を確保して経済の健全な発展への貢献を果たす上で、この歯どめはやはり重要だと認識しております。安易に変更することは適当でないというふうに考えております。

 現在一・二兆円、おっしゃったとおりの上限を設けて買い入れておりますが、銀行券の今後の発行額の伸び率がどうなるか、これはよくわかりませんけれども、現状程度の銀行券の伸びを前提にいたしますと、委員のおっしゃるように、上限と抵触するというふうな事態は当面は予測できないのではないかなというふうに思っております。

島委員 当面は予測できないという話ですが、要するに量的緩和政策の出口というのは、当然金利上昇あるいは国債管理政策と直結していきますから、それをきちんとやっていただかなくてはいけないわけだと私は思うわけであります。

 出口論に入っていきますけれども、出口論というのを、先ほど申し上げたように、なかなか今言う時間じゃないとおっしゃるかもしれませんけれども、かなりマーケットでも出口の話をされ出しましたから、これはきちんと説明をしていく必要があると思います。

 マーケットの不安というのは二つですね。一つはすごく金利上昇するんじゃないか、それからもう一つはやはり国債の価格維持が本当にできるのかというようなことがあると思います。さらに言うと、インフレというのもあると思います。国債の利回りカーブは、二〇〇五年九月償還分から利回りカーブは上昇しています。つまり、ペイオフが終わったら出口論が出るんじゃないか、そういうように予測しているわけですね。

 例えば、出口論と金利上昇懸念にどう対応していくのか。恐らく、三十から三十五兆もある当座預金残高をゼロに減らしていく段階でもかなり金利が上昇していく可能性もあります。それに対してどのような手を打っていくおつもりなのかということについてお尋ねいたします。

福井参考人 先ほど一回御説明申し上げたと思いますけれども、現在の経済の動きは、世界経済もそうなんですけれども、特に日本経済の場合、景気回復の動きと、それから物価が水面上に出ていくこのスピード感との間にやはりギャップを抱えている。景気の方を専らごらんになられる方は、早く出口論というふうな感覚で将来を見ようとなさる。ところが、物価の方をじっと見ております私どもからいきますと、もちろん早く出口に行きたいわけだけれども、出口までの道のり、ただ道のりが遠いか近いかというだけではなくて、これを乗り越えていくことの難しさ、この両方を強く感じる、こういう状況になっていると思います。

 したがいまして、この先、景気は順調に回復していくことを私どもは強く願っているし、そういう方向で政策効果を出していきたいと思っておりますけれども、物価の方を見ております限り、出口論については、早目にそういう感覚を持たれるということをなるべく避けていただくようなメッセージを我々は出し続けていくということになると思います。

 しかし、いずれ将来そういう出口に来るじゃないかと、おっしゃるとおりでございます、むしろ早く出口が来てもらわなきゃ困るわけでございますけれども、出口以降のことにつきましては、今具体的なことは申し上げられない、そこまで我々の考え方も煮詰まっていない。しかし、申し上げられることは、将来は再び金融市場の金利機能を回復していかなきゃいけない。もう一つは、出口に差しかかったからといって、市場の期待の形成ぶりについて、我々は、今までの注意の払い方から比べてうんと気楽になっていいよというふうにはやはり思えない。

 恐らく、出口以降の日本経済については、潜在成長能力が次第に上がる、そして、実際の経済回復、成長率についても力強さを増してくる、こういうことだろうと思いますので、それにふさわしい金利が形成されていくということの以下でもなければ以上でもない。そういう形できちんと整々と市場で金利が形成されていかれるように、我々は適切なメッセージと適切な施策を打ち出していかなきゃいけない。

 大変難しい課題だと思っておりますけれども、いろいろなことを今から頭の中で考えながら、そのことは、そのときになって我々の対応にそごが起こるということがないように十分工夫を凝らしてまいりたいというふうに思っております。

島委員 先ほど申し上げたマーケットの不安のもう一つのインフレ、あるいは国債の維持ができるかということについてお聞きします。

 デフレ脱却が今最大の使命だというのはわかりますが、今申し上げているのは、将来の不安に対してこたえてほしいということでございます。

 例えば、先ほど申し上げたように相当な国債が、長期、短期合わせると百兆円超えているというような国債があります。デフレ脱却がインフレに変わるときに、普通に考えれば、恐らく大規模な資金吸収を行うことが必要になるだろう。そうすると、これは保有国債を売却していくという話になってきます。国債の価格維持とインフレの芽を摘む資金吸収が本当に可能なんだろうか、それは私どもの大きな疑問であります。

 特に、今、政策協調でずっとやっておられる。国債の発行というのは、デフレが脱却された場合でも、プライマリーバランス、二〇一〇年初頭にやるとか言っていますけれども、本当にできるかよくわかりません。金利一つでも、私どもが試算を要求しましたら、平成十八年度、例えば金利が上がりますと、二%段階で国債費が二十・二兆円、ちなみに、三%になりますと国債費だけで二十六兆円ぐらいになります。そういう形になると、財政状況を見ると国債は発行し続けざるを得ない、そのときに、インフレの芽を摘むような資金吸収が同時に行えるのか。今、政策協調と言われますけれども、恐らく政府と日銀との非常に緊張関係が出てくると私は思います。そのときにどのように対処されるおつもりなのかということについてお尋ねしたいと思います。

福井参考人 政府と日本銀行との関係は現在も緊張関係であり、同時に、同じ政策目的に向かって政策の総合的な効果を上げよう、こういう背中合わせの関係にあると思います。将来にわたりましても、政策効果をともに整合性を持って十分上げていくという考え方と同時に、やはりそのためにさまざまな緊張関係は常に含んでいくというふうに思います。

 委員おっしゃるとおり、経済が出口をうまくクリアして、その後の過程というものを考えますと、恐らく、マーケットは、そして日本の国民の皆様方は、財政についてはより規律の厳しい方向で政府が運営していかれるということを当然求めてこられる、市場もそれを前提にいろいろな行動をしてくるということでございます。

 日本銀行の目から見て大事なことは、そういう段階にあっては、一つは、経済あるいは物価の先行き見通しと整合的な金利が市場で形成されているときに、それよりも低い金利を実現してくれという考え方を政府がお持ちにならないこと、かつ、もう一つは、将来の財政収支の改善あるいは諸制度の改革につきましても、やはり将来の国の経済運営が健全性という強い一線が貫かれていくんだということに確信を持てるような方策を重ねて出していかれること、この二点が非常に重要で、その二点が厳格に守られている限り、日本銀行との間の緊張感は少ない。そこにほころびがあれば日本銀行との緊張感は当然強まるということでありますけれども、日本銀行としては、政府が財政規律を守り、市場金利は尊重するという前提である限り、市場の期待の安定化を図るために我々は全力を尽くすことができるだろうというふうに考えています。

島委員 これで終わりますが、ちなみに、きょう聞きました話ですが、国債の格付でございます。S&P社、今AAマイナスで、アウトルックがネガティブ、Aワンプラスだそうでございますが、恐らく、このネガティブとなったアウトルックの場合には、そのまま下がる確率がかなり高いという話でございまして、間もなく発表されるという話でございます。

 福井総裁の任期もあと四年でございますが、私ども衆議院の任期もほぼあと四年でございますから、恐らくこれからも財務金融委員会で経済再建のためにきちんと議論をしていくことになると思います。日銀の建物というのは何か昔の要塞を模してつくられたそうでございまして、なかなか外が見えないようになっているそうで、窓は小さいそうでございますので、国会に来てきちんと説明責任を果たしていただきますことをお願いしまして、終わります。

 ありがとうございました。

田野瀬委員長 次に、武正公一君。

武正委員 質問をさせていただきます。

 まず、お手元の方に、理事会の御了解を得て資料を配らせていただきました。まず、日銀金融研究所の二〇〇〇年十二月の、バブル期の金融政策座談会ということで、日銀の翁さん、白川さん、白塚さん、「資産価格バブルと金融政策 一九八〇年代後半の日本の経験とその教訓」ということで、その中から抜粋したものをお手元に配らせていただきました。

 三名の方は個人の資格で書かれているということでありますが、全体の話を簡単に、大きな四、五というところを抜粋しておりますので申しますと、バブル経済は三つの要因によって起きた、一が資産価格の急激な上昇、二、経済活動の過熱、三、マネー、信用の膨張。八七年以降九〇年にかけて四年間をバブル期と呼ぶ。その要因は、やはり、一つ、金融機関行動の積極化、二、長期にわたる金融緩和、三、税制、規制が地価上昇を加速、四、企業規制の崩壊、コーポレートガバナンスということでありますが。

 そして、その後、八六年一月から、五・〇%の金利を、三月、四月、十一月、八七年二月、二・五%に引き下げ、八九年五月まで二・五%が維持をされた。その理由として、二年有余にわたる二・五%維持の理由として、一、政策協調、二、円高阻止、三、内需拡大ということであり、日銀第四回、第五回政策委員会議長談話でも金融緩和への警戒感は表明してきたんだということでございました。

 八七年夏に短期金利引き上げもありましたが、十月のブラックマンデーによって引き続き金融緩和といった形になってしまったということでありまして、八八年夏、アメリカ、西ドイツが金利を引き上げたわけでありますが、日本の金利引き上げはおくれた。そのときに、やはり最大の意見の相違は、インフレ圧力の評価、あるいは米国株価やドル暴落をもたらすというような危惧、こういったことで、消費税導入後、八九年五月、やっと三・二五%へ引き上げ、そして八九年十月、十二月、九〇年三月、八月、六・〇%へ引き上げた。こういったことが書かれているわけでございます。

 お手元の資料でも、大きなテーマで、五番で見てまいりますと、三百六ページ、七ページのところをお開きいただきますと、三百六ページの左上には、消費者物価が安定していたこと、あるいは、三百七ページの上から三行目、「マネーサプライの高い伸び率や信用の大幅な膨張に対し、比較的早くから懸念は表明していたが、これらは結果として十分に活用されなかった。」三百八ページ上から四行目、「資産価格の上昇は、金融政策運営上の「警戒信号」としては十分に活用されなかった。」三百九ページ上から四行目、「わが国にとって不幸であったのは、米国のドル安懸念と日本の円高不況への懸念とを背景に、国内においても、低金利維持を国際的な政策協調と同一視した議論がしばしば展開されたことであった。」ということで、その三百九ページの下から三行目にも、「円高阻止がいわば「国論」となる状況のもとで、金融政策によって為替相場水準をコントロールできるという発想に傾きがちであったことに基本的な問題があった。」そして、三百十ページ、一番下でございますが、「政策思想は、早期の利上げに対する有力な反対論として提起された。」。

 三百十三ページの方にも同様の意見が書かれておりまして、総じて、やはり、金利の早期引き上げに対する政策的な、要は、政治面での圧力というものがあって、日銀の独立性というものがいかに必要なのかという結論で締めくくられている論文でございます。

 二〇〇〇年十二月の日銀の三名の方の論文はもう既に総裁もお読みになられていると思いますが、この論文の感想、あるいは今申し上げたような点についての御意見、いただけますでしょうか。

    〔委員長退席、山本(明)委員長代理着席〕

福井参考人 今ちょうだいしました論文の筆者がきょう答弁席にもおるわけでございますけれども、私自身もこの論文を過去によく拝読いたしております。

 私自身のバブル経済の認識でございますけれども、日本経済、戦後の成功物語を非常に見事な形で達成して、それが頂点に達したのはやはり一九八〇年代だというふうに思います。八〇年代、プラザ合意直前までの段階がやはりこの成功物語の頂点。高度成長、そして輸出主導型ということですから国際収支の大幅黒字達成、この二つの指標に象徴されているというふうに思いますが、したがいまして、プラザ合意を過ぎましても、この成功物語の余韻というのは非常に強く引きずっていて、日本の経済社会においては強気の成長期待というのがずっと蔓延していたというふうに思います。

 しかし、実際には、その背後で、世界的に大きな潮流の変化が起こった。グローバル化の進展とかIT革命とかいうのがその大きな最たるものですし、本当は、国内的にも人口動態が急激に変わりつつあった、もう人口の増加率というのが急速に落ちていた時期でございます。こうしたことからいきますと、日本経済も、成功物語を終えた後はやはり大幅な構造転換の必要があった時期、最初にその時期に差しかかった時期だと思いますけれども、今申し上げましたように高度成長の余韻がなお色濃く尾を引いている中にあっては、構造問題への取り組みないしその進展はどうしてもおくれがちになった。

 したがって、強気の成長期待が蔓延する中で、貿易摩擦を解消する、あるいは黒字に対する対応をするということになりますと、どうしても強目の意識で、内需拡大政策に焦点が絞られるということに、当時、日本の経済社会挙げてそういう雰囲気にあったというふうに思います。つまり、構造改革以前の旧モデルのまま、強気の成長期待のまま問題解決しようとしたところにすき間があって、バブルが発生したというふうに私は理解をいたしております。

 具体的に、政策面からいきますと、消費者物価指数が比較的安定していたというふうな状況のもとでございましたので、政府の方も強気の景気対策、そして日本銀行におきましては緩和政策継続ということがとられまして、長期にわたる金融緩和措置というものが結果としてバブルの一因になったことは否めないというふうになっていると思います。

 そういう意味では、やはり、構造転換に差しかかったときに、そのことを早く認知する社会的な能力、そして政策の全体的な物の考え方を再設計する能力というふうなものが、戦後五十年間、余りにも一つの枠組みのもとで成功物語を築いてきた結果、少し希薄になっていたということが非常に大きな問題であったのではないかというふうに考えております。

    〔山本(明)委員長代理退席、委員長着席〕

武正委員 この論文で、先ほども触れたように、日銀の教訓ということが第六章にあるので、お手元にはないんですけれども、それをちょっと読ませていただきますと、「政策思想への働きかけ」というのがございます。「中央銀行の基本的な使命を損なうおそれのある政策思想はその時々の経済情勢によって変わってくるが、いったんそうした政策思想が広がると、金融政策もその影響から免れ難くなる。中央銀行としては、常日頃から、そうした政策思想に対し、自らの考え方を明確に説明していくことが重要である。」あるいはまた、「制度設計の重要性」ということで、「日本銀行自身が主たる責任を有する制度の設計については、経済・金融環境の変化に合わせて自ら積極的に見直しを行っていくことが重要である。」こういうことを述べておられます。

 要は、やはり、日本銀行みずからの中央銀行としての使命として、政策思想に対してみずからの考え方を明確に説明すべきである、こういったことを書いているわけなんですが、これについてはどのようにお考えになりますか。

福井参考人 その点全く私も同感でございます。異議を差し挟む余地もないぐらい明快な見解だというふうに考えます。

 委員御指摘のとおり、そのために、新しい日本銀行法では、日本銀行の政策決定プロセスにつきまして完全な自主性が与えられているということでございます。そして、政策決定のプロセスにつきましては、議論の経過をすべて公開するということになっているわけでございますので、そこで十分国民の皆様方からチェックを受けながらやっていくということでございます。

 新しい考え方を、日本銀行としては、おっしゃいましたとおり政策思想という形で出していく責任があるというふうに考えています。

武正委員 完全な自主性というふうに言われましたが、やはり種々、日銀の自主性というか、本来は独立性ということで、新日銀法にも私は独立性という言葉がやはり書かれるべきであったというふうに思いますが、完全な自主性というのはやはり疑わしいと思います。国民に開かれた、そうした、情報開示というふうにおっしゃられましたが、先ほど島委員からも指摘もありましたし、また、例えば日銀支店長会議、年四回開かれておりますが、その議事録の概要は公表されますが、議事録は公表されていないといったことでは、やはりまだまだ日銀の情報開示は道半ばというふうに思うわけでございます。

 今、日銀の自主性についてのお話がございましたが、既に総裁は、ペイオフ解禁は必ず来年実行するというような発言をされております。これは必ず実行するというか、すべきである、日銀としても、財務省とともに、あるいは金融庁とともに、ペイオフ実現、実行を必ず進めていくんだという御決意をお述べいただけますでしょうか。

福井参考人 ペイオフ解禁を決断されるのは政府でございますので、私どもが決意するというのはおかしい話になりますが、私どもの立場からいえば、ペイオフ解禁は予定どおりぜひ実行していただきたいということでございます。

 その理由は、民間経済部門におきましても、特に企業の部門におきましては、相当構造改革が進んで、これから新しい資源再配分機能というものを十分身につけながら付加価値創出の新しいプロセスに順次入ろう、こういう段階にあります。そうなりますと、金融面からそれを、十分、資源再配分機能を担っていくのは金融機関の役割でございます。

 ここを、政府による預金の保護措置という形で、まず預金者が超安全志向、みずからリスク感覚というものをしばらくお蔵にしまっておいていい状況にし、金融機関自身も最終的には政府の保護措置の枠内にあるということでは、思い切ったリスク評価とリスクテークに乗り出していくということが用意されない状況になります。

 そうなりますと、産業の面と金融の面とでミスマッチが起こったまま、本当に力強く日本経済が持続的な回復のパスに乗れるかといいますと、そこは大きな疑問符がつくということでございますので、どうしてもそこのところはペイオフ完全解禁に踏み切ってもらいたい。

 ただし、それまでに、さらに政府も民間も必要な準備の努力をする必要がありますが、なかんずく民間金融機関は、ペイオフ解禁という最後のハードルは極力自分の力で乗り越えるというふうな努力をさらに強めてほしい、こういうことを重ねていつも強く申し上げている次第でございます。

武正委員 過去、ペイオフの解禁が延期されてきた理由として挙げられているのが、地方政府、地方政府の関係機関あるいは各種基金が地銀に約二十兆円お金を預けている。いわゆる公金を扱っている金融機関、あるいは縁故債を中心となって受けている金融機関、それが地方で指定金融機関と。これは実は総務省マターなんですね、財務省、金融庁のくくりではない。これが、例えば埼玉りそな銀行で、地元自治体あるいは経済界から出資をしたい、こう言ってくる理由の一つにもなっているんですけれども。

 この、今二十兆円のお金が地方自治体を中心に金融機関に預けられていること、それによって、ペイオフされると、これはその二十兆円が毀損をするおそれがあるという危惧からペイオフ解禁がおくれている、延期をされた。この状況は大きく変化していないのではないでしょうか。

 この点についてはいかがでしょうか。御認識を伺いたいと思います。

三谷参考人 今の地方公共団体の公金の話でございますが、確かに、これまでペイオフ解禁延期といった議論の中の一つの問題として取り上げられたことはあると思います。

 ただ、既に一昨年の四月にはペイオフの部分解禁というのが行われておりまして、そこでは、委員も御承知のとおり、定期性預金については全面保護ということではなくなってきている。そういったプロセスの中で、地方公共団体、確かに公金の預金の金額そのものはまだ相当ございますけれども、いろいろ運用面で工夫を凝らしておられる。また、一つの方法として、地方公共団体側の債務と預金との相殺といったようなことも可能な仕組みになっておりますので、そういうことも含めて、地方公共団体におかれていろいろな工夫をされておるというふうに承知しております。

 したがって、残高そのものはまだ相当額あるわけですけれども、それがそのまま、かつてのように保護されないといいますか、場合によっては毀損してしまうというような形ばかりではなくなっているというふうに私どもは了解しております。

武正委員 今理事の方から、地方自治体、工夫しているよというお話ありましたが、残念ながら、まだまだ意識が希薄であるというふうに言わざるを得ない。相変わらずの二十兆円というお金の地方金融機関への預け入れ、これはなかなか、やはり今までの人間関係で変えられないわけですね。それがやはりペイオフ延期論の実は大きな背景になっているという、私は、ここはやはり問題点を指摘せざるを得ないわけです。

 また、二〇〇五年から地方債市場もある面自由化されるんですが、一部の自治体では先進的な取り組みが始まっておりますが、まだまだこれも意識の欠如というものが地方自治体でも指摘をされるわけですので、地方自治体は総務省だから、財務省、金融庁あるいは日銀、余り、まだまだといったところを、よくお話が財金でも出るんですが、ぜひ、日銀におかれましては、地方銀行と地方自治体との関係、それが、今の二十兆円の預金預け入れということでペイオフ延期の要因にならないよう、日銀考査も含めてお取り組みをお願いしたいと思います。

 さて、日銀の独立性が必要なんだということは、先ほどの論文の点で総裁もお認めになったわけでございますが、先ほど完全な自主性というお話ありましたが、いろいろやはり指摘がされております。

 まずは、予算が財務省にある面拘束をされる、日銀予算、独立性がない。あるいは、政策委員会に政府側からの同席、そして毎回のように発言があること。そしてまた、国会報告をなぜ財務大臣を経由して行うのか、日銀の完全な自主性であれば直接国会に出すべきではないか。あるいは、日銀総裁、副総裁の任期、これが五年というのは短過ぎるのではないか。そして、先ほど触れたように、自主性ではなくて独立性という言葉等々、まだまだ日銀の自主性、独立性を、先ほど完全なというふうにお答えになりましたが、するためにはさまざま課題があるというふうに私は認識しております。

 その中で、これはもう財務金融委員会、当委員会で再三取り上げられております、FB、政府短期証券でございますが、この政府短期証券が、当初、利率が決まっていたものが、九九年から公募入札になったわけなんですが、これが借りかえ借りかえで、要は長期国債と同じようなことになっている。これは、既に財金で我が党の小泉委員が、財政法の脱法行為ではないかという指摘をしているんですけれども、この点について、総裁、御認識いかがでしょうか。財政法の脱法行為に当たる、この政府短期証券の、入札を経ても、やはり受け入れるというのは問題がありという指摘でございますが、いかがでしょうか。

福井参考人 ただいま委員御指摘のとおり、FBにつきましては、一九九九年の四月以降、原則として市中公募入札方式による発行というふうに発行方式の切りかえが行われました。その結果といたしまして、マーケットの中で、FBの信用力、流動性の高さということが正確に評価されるようになって、短期金融市場の中核的な商品、たちまちそういう中核的な商品として成長し、定着するに至っております。

 日本銀行は、そうした市場の状況を見ながら、市場の中からFBの買い入れということを行っておりまして、現在では、このFBの買い入れというのは、手形の買い入れあるいは国債の売り戻し条件つき買い入れなどと並ぶ、短期のオペレーションの主要な手段の一つとして位置づけることができるようになっております。

 その時々の金融情勢を踏まえながら、金融調節上の必要に応じて活用している。政府に対する財政資金のファイナンスという意識ではなくて、金融調節上の必要に応じて活用しているということでございます。

 残高がふえておりますが、これは市中に対する流動性の供給枠を非常に今大きくしております関係で、結果として残高も累積しているということでございまして、おっしゃるような財政に対するファイナンスのルートということではございません。脱法行為になっているというふうには受けとめておりません。

武正委員 脱法行為ではないと言わざるを得ないと思うんですが、ただ、これがもう借りかえ借りかえで固定化しているということに対して、問題意識はいかがでございましょうか。長期国債と同じことという指摘に対しては。

福井参考人 市中に流動性をたくさん供給いたします場合に、どうしても、短期の市場の中で流通している、信用度が高く、最も流動性の高い資産を中心に日本銀行がオペレーションをする、これは金融調節の将来にわたる弾力性、機動性を確保するために絶対条件、絶対に必要な条件でありまして、その条件を満たすために、現在のように、量的、つまり流動性の供給枠を大きくしている状況のもとでは必然的にその残高が大きくなるということでございます。

 将来、もし本当にエグジット以降、流動性供給枠を非常に小さくして済むという状況にソフトランディングしていくとすれば、そのプロセスにおいてこの残高も当然減っていくだろうというふうに思っています。

武正委員 そういう意味では、ことしの二月の数字でありますが、短期国債、TBと、FB合わせて二十七兆というのを、FBを、今八兆あるようでありますが、二〇〇四年の二月の段階で。これをTBにかえた場合、金利負担は幾ら増すんでしょうか。

白川参考人 短期国債とそれから政府短期証券、発行の根拠法規は違いますけれども、市場におきましては両者は同じような商品として扱われております。したがいまして、短期の国債、TBをFBにかえることそれ自体によって追加的に金利負担が上がるということではないというふうに思います。

武正委員 そういう意味では、やはり短期国債での引き受けという形で、先ほど徐々に減らしていくんだという総裁の発言がありましたが、そうした形にしても、今の状況では金利負担はない、根拠法が違うだけだということでございます。そうしたことが、私は、説明責任という点からもわかりやすいのではないかというふうに思うわけでございます。

 さて、次に話を移してまいりますが、既に三月、スノー長官やグリーンスパン発言、円高阻止のためのドル買い介入、これはもうある面効果がないよというか、あるいはやり過ぎではないか、こういった発言があったわけでございますが、この発言について総裁はどのようにとらえておられますでしょうか。

福井参考人 為替相場の動きにつきましては、もう日本銀行としては一貫した物の考え方、これは、為替レートは経済のファンダメンタルズを反映した形で安定的に推移することが望ましい、これが一貫した考え方でございます。

 政府において行われております為替市場への介入操作につきましても、基本的にこの思想にのっとって行っておられるというふうに理解しておりますし、このこと自身は、私どもが現在進めております金融緩和政策の方向性と矛盾するものではないというふうに理解しております。

 そうした日本の金融政策全般の進め方につきましては、グリーンスパン議長に、しばしば私はお目にかかりますが、丁寧に御説明しておりまして、十分理解は行き届いているというふうに考えております。

 議長の三月二日の御発言、ただいま委員御指摘のとおり、これは、先行き我が国のデフレが克服されるような状況のもとでは、現在のような為替介入は金融政策上の必要性と整合的でなくなるだろうというふうな趣旨の御発言でございます。これは、将来我が国のデフレが克服されるような状況のもとになればごく当然の見解だというふうに思われることを述べておられる、そういうふうに私どもは理解しているわけでございます。

武正委員 二〇〇一年三月の当座預金の枠が五兆円、それが、三十五兆から三十七兆に、この三年間で三十兆円も枠を広げてまいりました。一方、マネーサプライは一向に増加しない。やはり半端な理由じゃないんじゃないかな、なぜ信用創造や乗数効果が出てこないのだろう、これがいろいろと言われるわけなんです。

 これは、私はちょっと単純に考えたわけなんですけれども、当座預金の枠を広げても、結局そのお金はドル買いに回っているだけではないのかというふうに考えるんですが、この指摘について、総裁、いかがお考えでしょうか。

福井参考人 金融緩和を進めてもマネーサプライが伸びにくい環境になっているという点は、今、先進国ほぼ共通の現象として起こっております。アメリカにおきましても、最近景気回復はかなり力強くなっております、そして、連銀は、現在の緩和政策を我慢強く続ける、こういうスタンスのもとで運営されておりますが、マネーサプライの伸び率が下がっているという顕著な現象がございます。

 これは日本も同様でございますけれども、国際的な企業間競争が非常に厳しくなって、企業は、前向きの行動をするけれども、同時に、引き続き、リストラと申しますかダウンサイジングと申しますか、身を引き締めながら、そして前向きの行動もする、こういうふうに企業の行動パターンが変わって、したがって、過去に借りた余計な借金は極力返しながらという行動をいつも伴っているという現象だというふうに理解されているわけです。

 日本の場合には、過去の借り入れが非常に大き過ぎた。その反省の上に立って、米国の企業以上にダウンサイジングの努力を今企業がしている。現にその効果が上がりつつあるがゆえに、企業は次第に前向きの行動がとれるようになってきていて、現在の緩やかな景気回復につながっているということでございますので、このプロセス全体を動態的とらえますと、金融緩和を思い切ってやっても、しばらくはむしろマネーサプライの伸び率は上がらない、しかし、いずれマネーサプライの上昇に結びつく、ここに時間的リードタイムがあるというふうに理解すべきではないかというふうに思います。

 現在私どもが供給しております流動性そのものは、直接目の前でマネーサプライをふやす効果はないけれども、そうした、企業が安い金利コストでリストラあるいは将来への備えを進めていくという条件を十分提供しているわけでございまして、まだ表に効果が目に見える形では出ないにしても、その地盤を整備する効果は十分発揮しつつあるというふうに理解しております。

武正委員 私の聞いたのは、日銀当預が三十兆枠をふやしたけれども、そのお金が結局はドル買いに回っているんじゃないですかということなので、そのことについてお答えください。

福井参考人 円は循環するものでございまして、政府が介入のためにマーケットから円資金を調達してドルを買う、ドルを買えば円は市場にまた放出されるということでありますので、お金は回っていく。円という残高が消えるわけではございません。

武正委員 今、日本は双子の黒字と言われておりまして、経常収支の黒字と、それから資本収支の黒字。その資本収支の黒字は何かというと、要は、各銀行がドルを借り入れて、その他の投資として、円売り・ドル買い介入の注文を受けた銀行が、政府、日銀にドルを渡すため海外からドル資金を借り入れる、これがその他の投資の流入超となって、それが二十二兆ということで、今資本収支の黒字につながっている。要は、ここに、私はだから、日本の銀行がドルを借り入れるために、そのお金に結局は行っちゃっているんじゃないかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。

福井参考人 お金はいろいろな形で回ると思います。委員御指摘の点だけではなくて、やはり日本の株を購入するための資金にも回っている。企業は、目に立ちませんけれども、リストラをするためには相当なコストがかかるわけでございます。そのためのお金も、回りながら使われているということは確かでございます。

武正委員 ちょっと総裁からは、残念ながらそうした認識について共有できるお答えがなかったわけでございます。

 次に移らせていただきますと、三十兆円の介入をして、外為特会、平成十六年度末、これは外貨証券百三兆、外貨預け金二十七兆というのが今年度特会の予算として提出をされておりますが、百三兆のうち財務省証券が幾らかということで、六十兆、七十兆というような話もあるわけではあります。

 為替介入等について、外為特会は、これは政府のことだと、あえて日銀から申せばというお話をされますが、政府から依頼を受けて、そして各銀行にドル買いを指示する、やはりこれは日銀がやっておられるわけで、各中央銀行とのさまざまな連絡協調、こういったことも日銀はやっておられる。ですから、この外為特会の米財務省証券の差損、ドル安による差損、あるいは暴落の差損の危険性というものを、これは政府の特会だからといって日銀が看過できないと思うわけでございますが、その危険性が今十分あるというふうに考えますが、総裁としてどのようにお考えになりますか。

白川参考人 議員御質問の、為替介入あるいは外国為替資金特別会計におきます資産運用等の広い意味での為替政策でございますけれども、これは、今議員おっしゃったとおり、政府、財務省の所管でございまして、日本銀行の立場から具体的にコメントするということは差し控えさせていただきたいというふうに思います。

武正委員 お手元の方に、ホームページからの資料、ホチキスどめのものを配らせていただいております。先ほど島委員も取り上げた、いわゆるスワップという点でございます。

 昨年十二月二十六日、ことし三月までだ、どうしても介入資金がないからしようがないんだよというお話でございましたが、二ページ目をめくっていただきますと、「買入対象債券 米国財務省証書とする。」。十兆円今買われたこの米国財務省証書、これを担保にお金を特会に貸したというか交換をして、そしてこれが介入資金に十兆円回っているわけですね。今、関係ないよというお話ですが、関係あるじゃないですか。財務省証書に何でこれは限定するわけですか。お答えください。

白川参考人 政府の外為会計において保有しています資産、これは大宗が米国の財務省証券でございます。その財務省証券を売って円資金を調達するという場合の条件でございますけれども、今議員が配られました資料に、「買入価格」と並んでその下に「売戻価格」というのがございまして、これは実は買い入れの段階で売り戻しの値段も同時にセットしております。

 したがって、日本銀行サイドから見ますと、これは、為替のリスクは負担をしないという形で、その間、ちょうどFBの金利に見合うような形で実は価格を設定するという形で、日本銀行自身もこうした資産運用の健全性をちゃんと確認した上で買い入れを行っているということでございます。また、そうした条件をこういう形で明示をしているということでございます。

武正委員 そうすると、平成十六年度末の特会の外貨証券百三兆円は、丸々米財務省証券というふうに思っていいわけですか。

白川参考人 日本銀行が政府から買っておりますのは、これは米国の財務省証券でございます。

武正委員 私が言っているのは、特会のこの百三兆円の外貨証券は丸々米財務省証券と考えていいんですかと。

白川参考人 特別会計の保有しています資産の中身につきましては、これは政府自身が毎月一回公表しておりまして、その中で内訳を公表しております。今ちょっと手元に数字ございませんけれども、財務省証券とそれから預け金というものが中心でございます。

武正委員 預け金じゃなくて外貨証券は百三兆円なんですよ。ですから、これは丸々米財務省証券と考えていいんですか。

白川参考人 外為会計の保有しています外貨債券の通貨別構成は、これは政府の方からは公表はされておりません。対外非公表の扱いでございます。

武正委員 だから、それはわからないのに、さっき言ったのは、ほとんど財務省証券だからそこから十兆円財務省証券を買うんだと。ほかにもいろいろほかの国の証券があるんだったら、このときの約束で米国財務省証券ほかとかなどとか書くべきじゃないですか。なぜ、ほかにも債券があるんだったら、米財務省証券に限定するんですか。お答えください。

白川参考人 政府サイドの方から、持っています米国の財務省証券を売る形で円資金を調達したいという御要望がございまして、日本銀行の方として、その申し入れにつきまして、日本銀行の政策目的上これは是か非かということを検討して、その上で、先ほど申し上げたような条件のもとで買い入れに応じることが適切であるというふうに判断したということでございます。

武正委員 総裁、どうなんですか。先ほど、バブル期の金融政策のお話でも、やはり中央銀行として、毅然たる、そうした態度で政府の政策に対して物を申していかなきゃいけない、これがバブルのときのやはり教訓であると翁さん以下三名の方が書いてあって、そのとおりであるというふうに先ほど申されたわけなんですね。

 今の、この外為特会が、百三兆のうちどの程度米財務省証券かはわからないという話でしたが、ほとんどそうだから、十兆円預け入れましょう、これを外為で使ってくださいと。日銀がそういうことをしていたら、どんどん外為特会の差損が、あるいは暴落によるリスクが大きくなっていく。こういったことを中央銀行として看過していいんですか。バブルのときの弊害としてこういった論文を書いておいて、それでよろしいんでしょうか。総裁、お答えください。

福井参考人 今回の外為会計との間の外貨資産の売買につきましては、国の政策上必要だという明確な判断のもとにやっております。国に対する安易な融資として行っているものではございません。しかも、それをやるということは、日銀の政策委員会できちんとした議論を経て行っております。米国の財務省証券を買うということは、日本銀行も外貨を一部持っておりますが、日本銀行のポートフォリオ形成上も何ら問題はない、こういう理解のもとでございまして、日本銀行の独立性に絡む議論については、今回の措置に関しましてはほとんど問題のないケースだというふうに考えております。

武正委員 最後に、先ほどちょっと触れました、支店長会議の話をさせていただきます。

 ことし一月、全国十一支店金融経済概況というものを発表されているんですが、北海道地区を除いて、全体的に、相変わらず、緩やかな回復というのが、各支店からのこの概況を見るとやはり載っているんですね。ただ、さっき言ったように、本当に地方経済が順調なのか、本当に回復しているのか、本当にそうした声が各支店長から――二回に一回発言するそうですね、支店長会議では支店長は。本当にその声が上がっているのか。やはり、連結ベースで大手企業が海外でもうけた金が日本の企業の業績回復につながっていると見るのが大方の見方であって、地方経済は相変わらず厳しい、これがもう全国の至るところの、特に中小企業経営者を中心とした声なんですね。その声が支店長会議で上がっていないはずないんです。

 ですから、支店長会議の議事録は、こんな概況とか要旨とかじゃなくて、これは先ほど総裁言ったように、完全な自主、そして説明責任果たしています、情報公開していますというふうにお答えになられたので、私はやはり、この支店長会議、大変大事な地方経済の声だというふうに思いますので、この議事録は公開をすべきだというふうにお願いをしたいと思いますが、いかがでしょうか。

福井参考人 支店長会議は意思決定の場ではございません。したがって、議事録という性格のものはございません。ただし、支店長の報告につきましては、記者会見もいたしておりますし、お手元に届いておるような資料で公開いたしております。

 私どもの政策判断の過程におきましては、地方の情報は十分生かしている、したがって、我々は引き続き緩和政策を強固に守っていく、この判断に結びついているわけでございます。

武正委員 その緩和政策が、結局はドル買いにお金が回っているということを指摘させていただいて、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

田野瀬委員長 次に、馬淵澄夫君。

馬淵委員 民主党の馬淵でございます。

 本日は、二十日で総裁就任満一年をお迎えになられました福井俊彦日銀総裁に対しまして、まことに僣越ながら、この福井総裁就任におきまして一年間の通信簿ということで質問をさせていただきたいと思っております。

 まず、福井総裁、経済の中で本当に世界的に高名な福井総裁が、私のような素人がどのように考えているかなどということは余り気になさらないかとは思いますが、専門家が就任一年間を迎える福井総裁をどう評価しているかということについてちょっと見てみたいと思います。

 これは、軒並み大変高い評価を得られておられます。特に、国内よりもむしろ海外における評価が大変高く挙げられておられます。例えば、ロイター通信では、三月一日から十日にかけて、日本、アメリカ、カナダ、英国、ドイツなど十一カ国・地域の七十五名の金融市場関係者を対象に実施したアンケートによりますと、福井総裁の一年間の政策手腕を評価すると回答したのは七一%に達し、特に海外では八八%が評価できるとし、評価しないとの答えは皆無だった、このように報じられております。

 そして、海外での評価という点できわめつけは、これは先ほど同僚議員からも話がありましたが、英国のエコノミストという有名な経済誌でございますが、このエコノミスト二月十四日号で、これに福井総裁について載せております。ここでは、アメリカの連邦準備理事会、FRBのグリーンスパン議長を抜いて、ミスター福井こそが世界で最も優秀な中央銀行総裁かもしれないと最大級の賛辞を贈っておられます。一方で、大変お気の毒なことではありますが、同記事では、前任の総裁であります速水前総裁のことを、恐らく世界で最も最悪の中央銀行総裁である、このようにされております。

 これは、このような海外の評価でございますが、このように最高と最悪の評価、前総裁に対して最悪という評価、そして現総裁に対して最高という評価でありますが、福井総裁がこの一年間でどこをどのように具体的に変えたことでこうした評価がぐんと高まったとお考えでしょうか。まず、総裁の御所見を伺わせていただきたいというふうに思います。

福井参考人 各国の中央銀行の総裁ともよく議論をいたしますが、中央銀行の総裁の仕事というのは、評判を気にしていては思い切った政策はできないということでございます。私も同様でございまして、目標を明確に定めて、目標を達成するまでは全力を挙げて突進する、これ以外にないわけであります。前任の速水総裁からもそういうふうに私は受け継いでおります。

 現在の目標は、日本経済を早く持続的な回復のパスに乗せる、それでデフレから脱却させる、目標が明確なわけであります。ただし、金利機能が生かせないという非常な制約のもとで我々は政策をしなきゃいけない。それだけに、量的緩和政策の実効性のある部分については極力これを思い切って実行していく、これ以外の路線はございません。

馬淵委員 今御指摘の、量的緩和政策という目標を具体的に定めてきたからだというお答えでありましたが、福井総裁がそうした決断をされて、攻めの一年、あるいは早い決断、また政治のスピード感といった表現が盛んに各メディアにも躍っております。そして、そうした風評にはとらわれないんだという、これは本当に立派な御見識だと思います。

 が、総裁自身がいつも日銀の企画担当の方に、毎月何か新しいことを考えろ、こう指示されている、こういうふうにお聞きしておりますが、たとえ非伝統的な手法であっても果敢に用いていく、その機動性に高い評価が与えられているのではないかというふうに私自身は思っています。だからこそ、私自身、福井総裁にはこれからももっともっと大胆に、そして我々によい意味でのサプライズを与えていただきたい、このように考えるわけであります。

 幾つかの点につきまして、福井総裁の思い切った御発言を期待して、質問を進めさせていただきます。

 先日、参議院の予算委員会におきまして、総裁は、これは舛添要一議員のインフレターゲットに関する質問に対してのお答えとして、日銀は、消費者物価指数、CPIを明確にターゲットにし、この指数が安定的に対前年比ゼロ%以上になるまで量的緩和を続けるので、インフレターゲットに準ずるような形でコミットメントしている、こう答弁されています。

 この答弁を素直に受け取りますと、私には、実質的にインフレターゲットを導入しているのと同じだ、このように聞こえるわけであります。だとすれば、なぜ形式的にもインフレターゲットということを導入しないのか、実質的に導入しているのと同じであれば反対する理由はない、このように思うわけでありますが、総裁らしい、ぜひサプライズのあるお答えをお願いいたします。

福井参考人 インフレターゲティングというのは、人によって、論者によって少しずつ定義が違いますので、なかなかお答えはしにくいところがございますが、私が国会でもあるいは記者会見の場でもその他の場でもお答え申し上げておりますのは、日本銀行は今、消費者物価指数という特定の経済指標をとらえてコミットメントをしている。今おっしゃいましたとおり、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまで今の緩和を続けるというコミットメントをしているわけですので、その運営の考え方というのは、透明性を高めるという点に非常に焦点が絞られている。インフレーションターゲティングということを主張される論者が金融政策の透明性を高めるということにもし強い焦点を当てておられるならば、それは類似の性格はそこにやはり入っているというふうに言えるだろうと思います。

 ただし、我々が目標としておりますのは、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上ということで、これは最終的に我々が目指す、より均衡のとれた経済の姿という点からいくと、一歩手前の姿かもしれない。そういう意味で、通過点かもしれない。しかし、物価がマイナスの領域で動いている日本経済の現状をより望ましい姿に持っていくためには、将来の本当に望ましい姿の一歩手前で、ここのゼロを通過するという重要な通過点を確実に早く果たすということが非常に現実的には重要な目標だ。そこに我々は焦点を絞って今すべての力を傾けようとしているということでありまして、通過点のところに数値目標を置いて我々は透明性を図って行動しているという意味では、インフレーションターゲティングとはやはり言えないと思いますが、それに準ずる枠組みで透明性を図りながら行動しているということまでは言えるんではないかというふうに思っております。

馬淵委員 今のお話ですと、通過点であるゼロを目標としているんだ、まずここが安定的なゼロ%以上ということが目標だということで、それ以後の先の話じゃないというお答えだというふうに感じますが、その目標とされている消費者物価指数、CPI、これがそもそも、ゼロ%という設定をされているわけでありますが、これに対しての上方バイアスがかかっているということについてはどのようにお考えか、これをちょっとお答えいただけませんでしょうか。

福井参考人 これは、どこの国、あるいはどこの先進国の消費者物価指数をとりましても、何がしかのバイアスが含まれた指数になっていると思います。イノベーションの速度が速くなればなるほど、完璧な消費者物価指数をつくるということは難しいということですけれども、物価指数をつくる専門家は、またそれにもチャレンジしながら、よりよい指数づくりということに努力をされていると思います。

 私ども、将来にわたって金融政策を適切に運営していくためにいろいろな物価指数を見てまいりますけれども、やはり国民に一番なじみの深い消費者物価指数というのは、仮にゼロ%という通過点を無事通過した後であっても、金融政策運営上、一つの重要な指標として見続けていく。その場合に、どれぐらいバイアスがあるかという分析を常に進めながら正当な判断をしていきたい、こういうふうに考えておりますが、もし将来、何か消費者物価指数の望ましい姿ということを念頭に置くというふうに一つの指標以上にこのウエートを高める、全く仮定の話ですけれども、そんなようなことを考えた場合には、ゼロ%をとりあえず目標とするという以上に、消費者物価指数そのものについてのバイアスの問題を十分吟味しなきゃいけないことになる、それは確かだと思います。

 しかし、それは今の時点でそういうことは考えないで、今はとにかくゼロ%を通過する、ここに目標を明確に絞っているということでございます。

馬淵委員 今、上方バイアスのお話、福井総裁からもそういったことはあるんだということのお答えをいただきましたが、ちょっとこの上方バイアスについてお話しさせていただきますと、これはラスパイレス方式ということで、財・サービスの購入数量を基準年で固定して計算される。もうこれは釈迦に説法だと思いますが、これはつまり、二〇〇〇年の購入数量、二〇〇〇年を基準年として購入数量を定めている。つまり、これはどういうことかといいますと、これで、今デフレ下の中で価格が下がれば、例えば購入者、消費者の立場でいいますと、安くなれば大量に買うという消費行動が発生しがちです。つまり、物価が低下した製品を相対的に多く購入をするという消費行動が生まれる。しかし、これは実際に取引される状況の中でこうしたものが消費者物価指数の中には反映されない、これがこのCPIの上方バイアスというものであります。

 そして、これが大体どれぐらいの数値になるかといういろいろな各地の研究があるわけですが、これは日銀の金融研究二〇〇一年一月号からも引っ張り出せるんですが、例えば諸外国でいいますと〇・五から一%、そして我が国におきましては〇・九%という、先進主要国における消費者物価の上方バイアスの計測例というのが挙げられています。

 つまり、ゼロ%とおっしゃっている数値は、実際は、この上方バイアスがかかって、〇・五から一%、あるいは一・五%といった数値として見込まれる。であるならば、準インフレターゲットのようなものであるという言葉、そして、CPIをゼロという言葉、これを両方考えれば、結局は一%近いインフレターゲティングをされているということにほかならないのではないか、日銀の中で十分そういうことをお考えの上で進められているのではないかということを私は非常に感じております。

 お手元の資料をちょっとごらんいただきたいと思うんですが、こうした議論は日銀の中でもされているようでして、岩田副総裁の記者会見要旨、二月十八日、これは二〇〇四年、つい最近のものですね、直近。そして、二〇〇三年の十月にも、同様に記者会見要旨というのをきょうお配りさせていただいています。

 ここをちょっと読みますと、「CPIは、デフレの表現の仕方が過小であると問題があり、おそらく〇・五%から、人によっては一%近い上方バイアスがあると考えている。」と御指摘されています。「プラス〇・五%とかプラス一%とか、デフレに戻らないということを考えれば、ある種の糊代を残しておくということを考えれば、一%程度の物価上昇率というのが必要ではないかと思う。」このように直近に述べられておられるんですね。

 そして、その十月の段階では、下線部ですが、「現在の消費者物価指数で考えると、おそらく〇・五から一%くらいの上方バイアスが存在する可能性もあると言えようか」。下の下線部であれば、「ゼロ%であればやはり上方バイアスの問題があるし、直ぐにデフレに陥るリスクも極めて高いということもあるので、いわば上方バイアスと、直ぐにデフレに陥らないためのバッファーという両面を考えて、物価の安定を捉えていくべきではないか、ということが挙げられるのではないかと思っている。」それで、これは私見としてですが、「個人的な見解として、物価安定を数値的に定義したらどのようなものかと問われれば、プラス一から二%くらいではないかと以前インタビューでお答えしたことがあるし、議論の整理ということで申し上げれば、今もそのように考えている。」こう会見で述べられているわけですね。

 つまり、日銀内でもこうした御意見がある中で、準インフレターゲットであるとか、インフレ参照値などという言葉を使われているところもありましたが、福井総裁、そして岩田副総裁、これらの発言をされているのを踏まえて、今私が指摘させていただいた、結局は日銀としても、このインフレターゲティングということについて、これを明確に意思としてお持ちで今進められているのではないかということについてお答えいただけませんでしょうか。

岩田参考人 それでは、お答え申し上げます。

 まず、消費者物価の上方バイアスということでございますが、ただいま馬淵先生の方から御指摘があったように、価格が変化して、それに対応して消費者が行動を変える、買う量を変えるということでそのバイアスが生ずるという面がございます。それから、基準年のときにはその基準のバスケットに入っていなかった新しい製品がマーケットに出てくる、これをどう評価したらいいのかという問題もございます。それから、二〇〇〇年以降、質的な向上が実はいろいろなところで起こっているわけでありまして、その質的な向上をどのようにとらえたらいいのか。現実の物価指数は、この三つの問題を必ずしもうまくとらえていないという問題がございまして、その結果、消費者物価指数の場合には上方のバイアスが起こりやすい、そしてGDPデフレーターの場合にはその反対の下方バイアスが起こりやすい、こういったバイアスがあるというふうに私は考えております。

 私の個人の意見といたしましては、今御指摘がございましたように、そういうバイアスの問題と、それから、これは十月初めに量的緩和政策についての三つの条件でもって明らかにしたところでありますが、物価の先行きですね、見通し期間について、ボードメンバーの過半数がゼロ%を上回る消費者物価の上昇率を予測するというようなことを一つの条件にしてあるわけでございます。私自身は、まず、数値的には一から二%というのが望ましい、中期的に達成する望ましい物価の安定というふうに考えております。

 それから、もう一つ御指摘ございましたが、外国において、例えば参照値というような言葉を使われる場合もございます。それから、イギリスのバンク・オブ・イングランドのように、インフレーションターゲットという言葉を使われる場合もございます。それから、少し違いますけれども、アメリカの連邦準備では、これは公表しておりませんが、実際に内部ではかなり十分な議論が行われておりまして、例えば九六年の七月の会議では、公開市場操作委員会におきましては、一・五%から二%ぐらいの物価の上昇率、これは生鮮食品等を除く消費者物価指数、あるいは個人消費のデフレーター、こういうもので物価の安定というのを考えていったらいいんじゃないかというような議論が行われております。これは公表していないわけですね、そうしたことは。しかしながら、私は、現実の政策運営も、そうした物価の安定についての目標について念頭に置きながら政策を行っているということかと思います。

 物価安定目標ということにつきましては、広い意味で考えますと、既に速水総裁の時代に量的緩和に踏み切った時点でゼロ以上になるまで量的緩和を行う、こういうコミットメントをした段階で、私は、広い意味での物価安定目標政策というようなことに実は踏み出されているというふうに思っております。私、こちらの日本銀行の方に加わりましてから、特に透明性の観点からこの物価安定数値目標の問題を深めていただきたいということを強く申し上げまして、それがある意味では十月の透明性向上のための三つの条件という形で、私は大きな前進があったというふうに思っております。

 これは、経済の先行き、特に物価の先行きを見ながら金融政策の運営を考えるという点、それからゼロ%を上回るコアの消費者物価の上昇率、こういうものを明確な条件にしているということで、物価安定目標ということについて透明性の向上の観点からより大きな前進があった。

 私は、ステップ・バイ・ステップで、これは多くの国でこういうインフレーションターゲティングのようなことを行われておりますが、多様であります、多様であって、各国でもってその取り上げ方は異なっておりますけれども、市場の信頼を得ながら、そしてボードメンバーの御意見を十分に吸収する形でこの議論を深めることが大切だというふうに思っております。(「総裁はゼロ%、副総裁は違うよ、一パーから二パー」と呼ぶ者あり)

 私自身はそういうことで、一%という、言ってみますと消費者物価の上昇率というのが、これは全く私の個人の意見でございます、ボードでもって決定されている事柄は、これは福井総裁が既に申し上げたとおりでございます。

馬淵委員 今お話しの中で、御自身の中で、個人的な意見と述べられながらも、結果、CPIの上方バイアス、これをお認めいただけるということであれば、実質的にはインフレターゲティングをされているということにほかならないのではないか。

 ただ、世情の中でインフレターゲティングとの違いというものはどの部分かと言われると、一つは責任の問題である、そしてもう一つは期限を区切るというこの二点目、そしてもう一つが水準の問題、この三つを明確にしていくことが政策としてのインフレターゲティングである、このように考えるわけでありますが、今のお話の中では、確かにこの責任という部分で、一生懸命これを回避されることに力を入れておられるように感じてならないわけです。水準の部分に関してはゼロ%とおっしゃりながらも、先ほどのお話のように、岩田副総裁は御私見の中でも〇・五から一%あるいは上方バイアス等を考えても一%という程度の物価上昇率というものを期待されていると認めておられる部分におきまして、責任を回避するが余りにインフレターゲット導入ということ自身を渋られているというように考えられるわけでありますが、その点、総裁はいかがお考えでしょうか。

福井参考人 いかなる点が責任回避であるか、私は理解に苦しみます。ゼロ%を安定的に上回るという数値的なコミットメントを明確にしながら、そこに焦点を絞って金融政策の運営をしている、議論の経過も要旨の公開という形で明確にしている、責任は明確に示していると思います。

 将来の均衡ある経済の姿というものは、将来のある時点でさまざまな議論が進められて、それを金融政策の枠組みの中にどういうふうに取り入れていくかというのは別のまた議論になってくると思いますが、我々はとりあえず今物価がマイナスの世界で動いている状況を早く脱出しないと。将来の話に一足飛びに行っても、それは現実的には、必要なステップを踏む前にそこまで議論を飛ばすことが本当に責任ある態度かということを改めて我々は考えているという状況であります。

馬淵委員 常にそういった御説明なわけですね。インフレターゲットを論じる前にまずはデフレの脱却に邁進すると、これは、おっしゃっていることは一貫されているとは思います。

 しかし、先ほどから申し上げているように、日銀の政策が実質的なインフレターゲット導入と同じということが言えるということは、具体的にその脱却の時期についてどのような見通しを持っておられるのか、はっきりとした見通しがおありだと私は思うわけであります。記者会見や国会での答弁、あいまいなお答えでなく、福井総裁らしい大胆な、その時期についての答えを繰り返しお願いいたします。

福井参考人 時期について明確に何月何日というふうに申し上げられないのは、金融政策の性格上、これはやむを得ないと自分でも思っておりますけれども、今、経済が比較的いい方向に動き出した、世界経済の枠組みと整合性の合った形で持続的な回復へのパスに着実に歩みつつあるという状況でございますので、この動きを大切にして今後ともよりよい経済の動きを実現していけば、もう物価の面でも確実に需給ギャップは縮まりつつあると思いますので、デフレ脱却が確実に実現できるというふうに思います。

 何月何日というほど明確に期限が設定できないのはやむを得ないというふうに思っております。

馬淵委員 なかなかデフレ脱却の見通しについて明確な御答弁はいただけないようでありますが、私は、いつごろにデフレ脱却が実現されるのか、こうしたものをしっかりと示した上でコミットをするということが政策上必要ではないかというふうに考えます。

 市場はどう見ているかといいますと、例えば直近の長期国債十年物の利回り、入札後の利回りですね、これと、それから鳴り物入りで登場した物価連動債、これも十年、これの利回り、この差を見ますと十年間で〇・一%、つまり〇・一%の上昇しか市場は見ていないということにほかならない。もちろん、物価連動債、これはまだ新発物です、新しく出たものですから、まだまだ市場がさめた見方をしているなどというようなお声もあるかもしれませんが、市場がこうしたものに対して十年間で〇・一%しか物価上昇率を見ていないということは、言いかえれば、これは先ほども申し上げたように、この数値でいいますと、デフレが十年間続くと見ているということです。明確なスタンスをやはり示されることが私は重要ではないかと考えます。

 さて、そのコミットメントを明確にする具体的な手段として、それでは次の部分に移らせていただきますが、国債の買い切りオペについて少しお話を聞かせていただきたいと思います。

 現在も、量的緩和策の中で資金供給を円滑に行うためということで長期国債の買い入れを行われています。これは同僚からの意見にもありましたが、どれぐらい買っておられるのか、まず教えていただけますか。

白川参考人 日本銀行によります長期国債の買い入れでございますけれども、これは量的緩和を始めましてから逐次引き上げておりまして、現在は月一・二兆円、したがいまして、年間では十四・四兆円ということで、そういうテンポで今買い入れを行っております。

馬淵委員 毎月一・二兆円というのは、これは機動性あるいは大胆さを売り物にしている福井総裁としては少な過ぎではありませんでしょうか。総裁、どうでしょうか。

福井参考人 中央銀行の金融調節は、基本的には短期の金融資産を対象にしてオペレーションを行います。それは、将来にわたって金融調節の機動性、弾力性を保持するためでございます。ただ、長期国債を量的緩和以前からも買っております趣旨は、銀行券の発行残高の範囲内で買っていく限り、それは底だまりとしての資金の供給ということですので、必ずしも短期の債券に限る必要はないという範囲内で買ってきているという趣旨でございます。したがいまして、長期国債を余計買えば金融緩和が余計進むというふうな発想に立っているわけではございません。

 これまでのところ月一・二兆円というところまで額をふやしておりますけれども、これは、銀行券発行の伸び率の状況を見ながら、そしてまた日本銀行が市場に供給いたします流動性の額が大きくなっている、両方の兼ね合いの中で、かつまた、将来の金融調節の機動性を害しない、この範囲内でやっておるものですから、かなり思い切って買い入れ額をふやしていると思いますけれども、銀行券の発行残高の範囲内という意味では、かなりぎりぎりのところまで我々は買っているというふうに思っております。

馬淵委員 お手元に配付させていただいた資料の三枚目をごらんいただけたらと思うんですが、今、理事それから総裁のお答えにありましたように、毎月一・二兆円の長期国債オペをされている。これにありますように、当座預金残高は、量的緩和によって、就任以来四度の引き上げもありまして、額も一年間で十五兆円積み上がっている。しかしながら、この長期買いオペに関しては一兆二千億、据え置きのままであります、福井総裁就任後も据え置きのままであります。

 そしてまた、この下の折れ線グラフと棒グラフの方をごらんいただきたいわけでありますが、この天井率というのは、今御説明にあった、銀行券発行残高を上限とするということで、その枠に対して何割ぐらいかということで、もうほぼ九割を超えたところまでいっているということになります。

 しかしながら、これをごらんいただきますと、一・二兆円買っている買っているという話でありますが、棒グラフは一・二兆円で横一列になっていないんですね。なぜか。これは国債の償還が入るから、現実にはマイナスの月も出てきているわけです。

 このように見ますと、国債を買うこと、これも量的緩和の機動的な政策の一つだと明確に書かれているわけでありますが、これはグロスの数字なんですね。これはネットで一・二兆円の話じゃないわけですよ。これをやっているやっていると言っても、こうしてマイナスも発生しているというような状況の中で、日銀の取り組みとして、福井総裁の場合はツーレートはもうない、でもツーリトルではないかということが言われてもおかしくない、私はこのように感じるわけでありますが、この点につきまして御答弁をお願いしたいと思います。

福井参考人 日本銀行の流動性供給措置の中で、長期国債の買い入れに委員ほど特別の意味をつけ加える必要は全くないというふうに思っております。

 いかなる道具立てを使おうとも、総量としての流動性の供給を円滑にやる、そして、日本銀行が買い入れました資産のバランスを見ながら将来の金融調節の機動性を十分保つ、そういうことでなければならないと思っておりまして、国債の買い入れに特別の意味合いを我々は付加しておりません。

馬淵委員 それがルールによってということであるならば、私はむしろ、そのルールの整合性、合理性というものをぜひお答えいただきたいというふうに思います。

 これは、二〇〇一年三月十九日に、「金融市場調節方式の変更と一段の金融緩和措置について」という金融政策発表の中で「銀行券発行残高を上限とする。」と決められたわけでありますが、このみずからつくったルールでみずからが縛られてはいないか、このルールについて私のような素人にもわかりやすく御説明いただけますでしょうか。

白川参考人 日本銀行は、現在、量的緩和でもって潤沢に資金を供給しております。その際、先ほど来総裁申し上げていますとおり、日本銀行は資産を買い入れて資金を供給するということでございまして、その買う資産につきまして、国債であるということに特別の意味を見出しているというわけではございません。

 委員お配りになりました、量的緩和を始めましたときの日本銀行の発表文にも書いていますとおり、日本銀行は、どの中央銀行もそうでございますけれども、まず短期の資産を買って資金を潤沢に供給するということを行っております。ただ、現在のように金利がゼロになってまいりますと、短期のオペだけですと資金が供給できないということが時々起こり得ます。これは、市場では、オペに対して十分な応札がないという意味において札割れというふうに呼んでおります。そうしたことが時々生じてまいりましたし、そうしたことが起こるかもしれないという予想のもとに、日本銀行は、円滑に資金を供給する上で必要がある場合には長期国債の増額をいたしますよということでこれを発表いたしました。

 現実に、日本銀行は、大幅に当座預金の供給をふやす中で札割れが生じましたので、その都度長期国債の買い入れ金額をふやしてまいりました。この一年来は、札割れはもちろん時々は起きておりますけれども、基本的には、従来行っております短期のオペと、それから現在月一・二兆にも上る大量の長期国債の買いオペで、潤沢に総量を供給できているという状況でございます。

馬淵委員 この長期国債を買い入れることによって、私は、一方で日銀がバランスシートの毀損という部分に対して気にされているのではないかということを感じるわけであります。デフレ退治という高次の目的のために、こうしたルールによって縛られている、また一方でバランスシートの毀損ということに対して気をとられている、こういったことに対しての御見解はどうでしょうか。お答えいただけますでしょうか。

福井参考人 必要な流動性を十分供給する、将来にわたりオペレーションの機動性を十分保つ、中央銀行の資産の健全性を保つ、この三つのルールはいずれも貫かなければならないということでございます。ルールに縛られているということではございません。みずから設定したルールであり、これによって十分機動的に政策対応ができるという確信のもとにやっているわけでございます。

馬淵委員 繰り返しお尋ねしますが、だとすれば、このデフレ退治という高次の目的のためにみずからのルールを変えていこうといったお考えというのはいかがでしょうか。

福井参考人 長期の買い入れ対象資産をふやすということに積極的な金融緩和の意味がないということが大前提でございます。そして、今、市場にかなり思い切った流動性を供給しておりますけれども、これ以上長期の資産を買い入れる、買い増すという措置を講じなくても、十分流動性は供給できているという前提がございます。

 したがいまして、銀行券発行残高の範囲内に長期国債の買い入れ残高をとどめるという現在のルールは引き続き妥当でありますし、将来を考えましても、これは日本銀行の金融調節の機動性を保っていくためにやはり必要なルールだ。あわせて申し上げれば、財政ファイナンスを目的とした日本銀行のオペレーションではないというふうな点も明確にすることができる効果もあるというふうに考えております。そういう意味で、非常に重要な歯どめだというふうに考えております。

馬淵委員 福井総裁が、長期国債の買い入れというのが重要な政策ではないということを今はっきりとおっしゃったわけでありますが、わかりました。ここについて、私の方は、先ほど申し上げたように、合理性のないルールでみずからを縛っているのではないかということを繰り返し申し上げさせていただきます。

 次に参ります、時間もありませんので。量的緩和に関して、導入以来三年目となってきているわけでありますが、先ほど来申し上げたCPI、これがプラスに転じたりという場面も若干ございますが、まだまだ、総裁の言葉をかりれば、コーナーに追い詰めて、そしてラストワンマイルというところを頑張らねばならないということでありますが、この出口のところ、先ほども同僚議員、繰り返しの質問がありましたが、この出口のイメージというものを、ちょっとお話をお聞きしたい。

 これは、仮に出口という部分がもとの金利政策への回帰だと仮定した場合、これは量的緩和の過程で累積した大量の過剰準備を解消するということが必要になります。金利への影響を考えると、とても簡単にできることではないと思います。

 この量的緩和を行っていく際に、福井総裁は、よい意味で市場にサプライズを与えてこられましたが、帰り道ではどんなサプライズを御用意されるのか。これは、下手な形でやりますと、ネガティブサプライズになりかねない。ネガティブサプライズで市場を混乱させないためには、あらかじめ具体的な帰り道、引き返すためのロジックということだけではなくて、具体的な手順をある程度示しておく必要があると思うわけでありますが、総裁、いかがお考えでしょうか。

福井参考人 まず、繰り返し申し上げて恐縮ですが、現在ただいまの時点では、出口政策を論ずるには余りに早過ぎるということでございます。したがいまして、出口政策について詳細を論ずるわけにはいかないというふうに思います。

 ただ、そうは申しましても、我々は早く出口が来るように努力しているということもまた事実でございます。将来、出口から本当に出ていきます場合に重要なこと、先ほどからも申し上げておりますが、市場の金利機能を早く回復させる、もう一つは、引き続き、市場心理の、つまり期待の安定化のために、十分我々は正確な情勢判断をし、それを十分コミュニケートしていく、市場との対話を繰り返しながら安定的な金利観の形成を図っていきたい、この二点に尽きると思います。

 具体的な方法につきましては、これからよく考えていくことだというふうに思っております。

馬淵委員 繰り返しの総裁のお言葉でありますので、今語るべきではないということ、この一点に尽きるということでございますが、出口を論じるためには、長期金利の大幅な上昇が期待できるような景気の著しい回復もしくはデフレ解消ということが実現した場合に可能になる、こう思うわけであります。この出口に一刻も早くたどり着き、そしてその具体的な手順、手はずというものを示していただかねばならない。福井総裁が、エコノミスト誌にもありますように、世界で最もすぐれた中央銀行総裁として歴史に名を残せるかどうかというのは、デフレからの脱却を果たせるかどうか、この一点にかかっておるわけであります。くしくも総裁御自身言われていますように、ラストワンマイル、これで気を緩めてはならないということであります。

 私は、繰り返しになりますが、このインフレターゲティング、明確なその責任と水準、そして期限、こういったものを定め、また、長期国債買いオペの大胆な政策転換、大胆な取り組み、こういったものによって実現できるのではないかということを総裁にも重ねてお伝えをし、今後、デフレ脱却に向けて果敢に立ち向かっていかれることを強く希望いたしまして、私の質問とさせていただきます。

 ありがとうございました。

田野瀬委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 初めに、日銀の金融緩和政策と為替介入の関係についてお聞きをしたいと思います。

 政府の為替介入の規模というのは、この間非常に急速に拡大をしてまいりました。これに対して、内外の風当たりも強まっているわけでございます。外為特会の資金調達額は予算によって限度額が設定されておりまして、円売り介入に伴う為券発行残高の増加に応じて、限度額も大幅に引き上げられてまいりました。来年度予算、二〇〇四年度予算案では百四十兆円と、かつてない規模になっているわけであります。

 実際の介入資金は政府が短期証券を発行して調達をしておりますが、これだけ規模が拡大いたしますと、金融機関、機関投資家の、短期証券、FBの購入のゆとりというものがなくなってくる。しかし、現在の局面では、日銀がかつてない量的金融緩和政策を行って事実上これを支えているということであります。

 場合によっては、例外的、時限的な対応によって直接支えることもあるということですが、総裁は、為替介入のために必要な資金というものは幾らでも供給する、こういう姿勢に立っておられるのか、それとも、何らかの自己規制が必要であると考えておられるのか、まずこの点についてお聞きしたいと思います。

福井参考人 日本銀行は、現在実行中のかなり思い切った金融緩和政策、この方向性と、為替市場の不規則な動きに対して牽制をするための為替市場への介入は、現時点において方向性は矛盾はないというふうに考えております。

 しかしながら、日本銀行が介入政策に対して直接にファイナンスをするとか、そのファイナンスを強く意識しながら金融緩和政策を進めるというふうな構図にはなっておりません。日本銀行の場合には、あくまで、経済の情勢、物価の情勢、そして特に金融市場の状況、この中で資金のやりとりがくまなく円滑にいくようにということに最重点を置いて、必要かつ、今はもう最大限と言っていいと思いますが、最大のスケールの流動性を供給している。

 そういたしますと、金融市場におきましては、かなり緩和した状況が実現する。その土壌のもとにおいて、結果として、政府の方の外為市場介入のための必要円資金の調達が容易になっているということは言えると思いますけれども、それが主目的で我々は金融緩和を推進しているというわけではございません。物事の順序立てというものはやはり違っているということでございます。

佐々木(憲)委員 現在の為替介入というものは、今おっしゃったように、乱高下を抑えながら、全体としては円安への誘導という性格を持っていると私は思っております。もちろん、日銀が直接為替介入をやっているわけじゃなくて、政府自身が政府の判断でやっているわけですけれども。

 総裁に、これは一般論としてお聞きしたいんですけれども、為替水準というものは根本的には実体経済の反映であるというふうに私は思うんですが、介入ということになりますと、これは一時的に変化を引き起こすわけであります。したがいまして、外需依存、輸出依存、それから内需が低迷している、こういう状況のもとでは一定の限度というものが私はどうしてもあると思うんです。その点についてお考えをお聞かせいただきたいと思います。

福井参考人 委員御指摘のとおり、為替相場の不規則な動き、ボラティリティーと申しますか、実態から離れた動きに対して牽制効果をするということは、タイミングによっては非常に効果があるということでございますけれども、実態から見て為替相場がそう離れていない状況で動いているときに、水準を変えようというふうな動きをすれば、恐らく、一時的な効果はあるように見えても、それは長続きしない効果であろうというのは、御指摘のとおりだろうと思います。

佐々木(憲)委員 日銀は、量的緩和政策のもとで、当座預金残高の目標値の上限を二兆円引き上げて、ことし一月には三兆円引き上げるというようなことをやってまいりまして、いわば通貨供給量としては結構じゃぶじゃぶ供給しているという感じになっていると思うわけです。

 しかし、全体として見ますと、日銀統計で見ると、銀行から先の貸し出しというものはかなり減少しておりまして、中でも業態別の貸し出し動向を見ますと、大手銀行ほど貸し出しが減っているというのが現状であります。例えば二〇〇一年三月から昨年末までの統計ですけれども、この間、地銀がマイナス一・三%、第二地銀がマイナス一〇%、信金がマイナス五・五%、都銀等はマイナスの一九・五%、かなり大幅な、二割程度のマイナスになっているわけであります。

 緩和政策をとりながら、現実の資金の市場への貸し出しというものが縮小している、特に大手行でそれが大きく出ている。この理由について、総裁はどのようにお考えでしょうか。

福井参考人 結果としての貸出残高の伸び率ということと、まず、銀行の一線の窓口でどれぐらい積極的に新しい貸し出しをしようという姿勢に変わってきているか、この両面の切り口から考えなきゃいけないと思うのでございます。

 今の景気回復局面、そして企業のリストラがある段階まで進んだ現状ということをバックにいたしまして、新しい貸し出しを積極的に開拓して進めようという動きが強く出てきている順番からいえば、今委員が御指摘になられた順番とは逆の方向で、まず大きな銀行からそういう意欲と実際の行動が始まっている。ところが、貸出残高の伸び率で見ますと、逆に大手の銀行ほど減少率が高い、こういう現象になっていると思います。

 これは、私思いますに、今度は企業側の状況を見ますと、先ほどからも御説明しておりますとおり、企業のリストラというのは大企業から先行して進んできている、中小企業にまでひとしく及んでおりますけれども、スピードが、やはり大企業の方が先行して進んでいる。そして、大企業の中でも製造業については、リストラが相当進んで、新規の投資も始まっている。そういった企業に関連のある中小企業の段階にまでそれが少しずつ及んできている。こんな状況だと思います。

 そうなりますと、銀行の窓口から見ておりますと、大企業製造業、それからそれに関連する中小企業のところは新規の貸し出しが成功するかもしれないというので、今、貸し出し攻勢が始まっているということなんですが、実際には、その同じ企業が、過去の過剰借金を引き続きかなりの額で返済し続けているという状況があって、終わってみると、新規貸し出しよりも返済額が多くて、ネット減少額がなお今のところ大きい。これは、企業がリストラを進めながら次第に前向きの投資行動を始める、ちょうどその移行期の姿が、その断面図が、結果として銀行の貸出残高の減少率という形で出ているというふうに理解いたしております。

佐々木(憲)委員 今、大手ほど意欲があるけれども、実態は大手が一番減少率が高い、極めて矛盾した状況にある、これは移行期だとおっしゃいましたけれども、しかし、この間、ずっと大銀行の貸し出し状況を見てみますと、やはり中小企業に対してとりわけ貸し出し意欲は非常に厳しい。中小企業から見ますと貸してくれないという実態というものがあるわけであります。この二年九カ月の間に、大手行の貸し出しを見ますと、大体五十四兆円マイナスになっております。これは金融機関全体で貸し出しが減った総額の実に八割を占めているわけであります。

 資金需要の低迷という面もありますけれども、銀行の貸し出し姿勢というものがかなり厳しいのではないか、そのように思うわけです。やはり貸し渋り、貸しはがしというものが、つまり優良企業の選別あるいは不良債権処理の加速というようなことで、全体としていいますと、優良企業に対する意欲はあるけれども、しかし切り捨ての方の意欲もかなりあるということで、現実には、貸し出しの残高という結果を見ますと、かなり大幅なマイナスになっているというのが実態ではないかと思うんです。

 そこで、大銀行に対してそういう貸し出し姿勢を高めていく、このことが大変大事だと思うんですが、日銀として、今の、結果として数字は貸出残高が大変なマイナスになっておるわけですから、大手銀行に対して特別の貸し出し増の指示をする、あるいは何らかの手を打つということはお考えになっておられないのでしょうか。

福井参考人 日本銀行では考査局という窓口を持っておりまして、ここで、個々の金融機関と日々接しながら、新しい銀行行動について話し合いをずっと続けております。

 その場合に、中堅中小企業、なかんずく中小企業の資金繰りの問題というのは引き続き非常に厳しいということを共有しながら、この問題をどういうふうに克服していくか。

 目をつぶって単純に貸し出しの量を増加するということが将来の日本経済につながるかどうかというところまで深く物を考えながら、今、対話を交わしておりますけれども、ここのところはなかなか難しい。やはり、中小企業といえども、時代の変革の波の中で、ビジネスのあり方、方向性というものを絶えず見直しながら考えていただく必要があるので、そのことについては、金融機関との間で十分対話を交わしながら、金融機関も新しい感覚でお金が出せるように、少しでも方向性が変わっていくということが望ましいということは、当然、意見が一致するところでございます。

 したがいまして、考査局の窓口では、業績がよくなりかけた中小企業に向かっては銀行がむしろラッシュ的に貸し出し競争をやっているので、これはこれとして、そうでない、まだ一歩手前にいる企業については、企業再生のいろいろなプログラムに工夫ができないかとか、それから、企業そのものの実態から見ましても、従来のようにいきなり担保で議論が始まるというのではなくて、やはり地道に手がけておられる企業の将来の収益の上げ方に工夫ができないか、収益が上がるとしたらそのキャッシュフローをどういうふうに読み、なお経済の好転を前提にして考えてもどれぐらいリスクがあるかというふうなことで、金利は安ければ安いほどいいという感覚を少しずつ修正しながら、多少リスクを織り込んだ金利ということで銀行と話し合いができないだろうか、その場合には担保のウエートというものはある程度下げながらというふうな、新しい融資の仕組みについて、銀行と企業との間でより円滑に会話が進むように、少し、そういう意味ではまどろっこしいと申しますか即効性が乏しいというふうにお感じになるかもしれませんが、将来につながる姿として、今この努力の範囲を次第に広げているという状況でございます。

佐々木(憲)委員 金融機関はやはり公共的な性格がありまして、日本経済の基礎を支えていく、そういう重要な社会的役割を負っているということだと思うんです。同時に、民間の機関の場合、収益性というものも追求する。最近は、収益性を追求するということが、どうも政府の旗振りが非常に激しいものですから、そちらに傾斜して、なかなか、中小企業に対して資金が回るような営業が非常に萎縮してしまっているという実態があるんだと思うんです。

 私は、そういう状況を、たくさん話を聞いておりますので、ぜひその点で、公共的性格、それから地域中小企業に対する資金提供という角度にもう少し軸足を置いていただいて、今、景気の回復かどうかという状況ですので、そういう時期こそてこ入れが必要であると思いますので、ぜひよろしくお願いをしたいと思うんです。

 次に、日本の経済実態、これをどう見るかという点でありますけれども、現在の景気回復と言われる状況は、輸出関連の一部大手企業の利益拡大、それと関連をする設備投資の増大というのが中心になっております。出された日銀報告では、結論的に、総論的にも書かれているわけですが、「企業の業況感は、製造業を中心に緩やかな改善が続き、とりわけ上期後半には、輸出環境の好転などを受けて改善の動きが明確化した。」先ほど福井総裁の概要説明の中でも、「海外経済が高目の成長を続けると見られますもとで、輸出、設備投資を中心に最終需要の回復が続き、緩やかな景気回復の動きが継続するものと見ております。」こういう御説明がございました。

 そこで、問題は、輸出あるいは海外経済への依存型で景気回復をリードしていくといいますか、そういう状況が一体どの程度続くのかというのが問題になると思うんですね。

 ここに、ある銀行がまとめた調査レポートがありまして、この中で、例えばアメリカ経済についてこういう指摘をしております。「米国景気は二〇〇四年半ばまで比較的高成長が続くとみられる。」「二〇〇四年後半になると、減税額が縮小すること、年半ばの利上げに伴う長期金利の上昇を背景に、個人消費や設備投資などの伸びが鈍化すること、最終需要の鈍化を受けて在庫が積み上がり局面に入ること、などを要因に、景気は減速するとみられる。」という分析をしております。

 輸出に依存した形での回復というものはやはり限界があると私は思うわけでありますが、今後のこういう輸出依存型の回復の見通し、あるいはその限界といいますか、これをどのようにお感じになっているのか、お聞きをしたいと思います。

福井参考人 今委員は、輸出依存というお言葉をお使いになられました。そういうふうに見える面も確かにあるわけでございますけれども、最近はやはり、輸出が確かに一つのきっかけになって日本経済の中に好循環を引き出しつつある、こう思いますが、同時に、輸入も物すごくふえておりまして、海外経済との間には相互依存関係が強まりつつある経済じゃないかなというふうに思います。

 そういう意味では、今回の景気回復を長もちさせるためには二つの面がある。

 一つは、世界経済全体を、相互依存という形を前提にしながら持続性あるものにしていくために、やはり、国際的な経済に対する認識を共通化し、各国の政策行動というものに相互に整合性のとれたやり方をやっていくという国際的な努力がまず一つ絶対に必要だと思っております。

 国内の方では、委員恐らく御懸念のおありのとおり、輸出をきっかけにして大企業において生産がふえ、収益を経て、設備投資が行われる、この循環だけでは不十分ではないかと御指摘のとおりだと私どもも認識しております。やはり非製造業にもこうした好循環が波及する、そして中堅中小企業にもすそ野が広く好循環が広がる、これが一つの条件です。これでも私はまだ足りない、もう一つは、やはり企業の所得が個人所得に還元されるという形で、所得の増加を伴った個人消費の増加、ここまでそろって本当の意味での持続的な回復への条件が整う、こういうふうに考えております。

佐々木(憲)委員 私も、今おっしゃったように、内需の拡大というものが最終的には大変重要な柱に据わらなけりゃならぬというふうに思っておりまして、おっしゃったように、その中心はやはり個人消費だというふうに思うんですね。日銀報告では、「企業収益は、リストラの効果もあって引き続き改善した。」と述べておりますが、リストラ効果ということがかなり大きな要素として指摘をされておりまして、やはり、この面にどう注目をして、そこを引き上げていくかということが大事だと思うんですね。日銀報告の中でも、「完全失業率は総じて高水準が続くなど、家計の雇用・所得環境は、なお厳しい状況から脱するに至らなかった。」「個人消費は、弱めの動きを続けた。」こういうふうに書かれております。

 私は、さらにその上に政府の負担増政策というものが加わるのではないかという危惧を抱いておりまして、昨年からことしにかけまして、予算を初めとして、例えば増税、これは所得税などでもかなり行われますし、さらにさまざまな、年金ですとか介護ですとか、そういう社会保障分野の負担増というものも合わさってまいります。そうなりますと、我々の計算では、約七兆円程度の負担増になっていく、この三年間ぐらいを考えますと、年間そのぐらいの規模に膨らんでいく。

 今、総裁がおっしゃいましたように、企業の利益が個人に還元されることが必要であるというふうにおっしゃいました。そのためには、賃金の引き上げ、雇用の拡大、これは企業としてもそういう社会的責任を果たしていただかなければならぬわけでありますが、それはなかなかそうなっていないというのが現状であります。同時に、今言いました負担増が加わっていくと、これはなかなか、家計に明るさが見える要素が非常に少ない、そのように思うわけであります。

 そういう状況を踏まえて、内需、特にその中心であります個人消費の展望について、総裁はどのようにお考えでしょうか。

福井参考人 これまた、世界経済全体の枠組みがかなり変わってきているというふうに議論されていると思います。アメリカ経済もかなり力強く景気が回復しておりますけれども、つい最近までジョブロス・リカバリーと言われたぐらいに、やはり企業収益が雇用とかあるいは賃金という形でなかなか早い段階から還元されにくい経済になっているということがございます。

 これは、はっきりそのバックグラウンドの理由があるわけでございまして、一つは、やはり国際化で国境を越えて企業が激しく競争している。国境を越えて世界じゅうに散らばっている資源を有効活用しようということでありますので、どうしてもコストの低い資源から先に活用しようとするということがあると思います。

 それから、イノベーション先行型の経済の発展ということがIT革命によってますますはっきりしてきていて、これはこの間もグリーンスパン議長が言っておられたんですが、九〇年代、アメリカは猛烈にIT投資をした、でも、例えば一人一人パソコンの使い方というのは、習熟したのはようやく最近で、このIT投資の成果が生産性にはっきり結びつくようになるまでに随分時間がかかりました。最近は生産性が非常に上がっていて、これはいいことなんだけれども、目先すぐ人手を多く雇う必要がむしろなくなっているというような現象がある、こういうことなんです。

 しかし、イノベーション先行型で経済回復のメカニズムの土台が非常にしっかりしていけば、これは、国際的な経済の依存関係を強めるという形を十分保ちながらそれぞれの国において資源が十分活用されていくという姿につながる、つまり、個人の家計部門に対しても雇用あるいは所得という形で還元されるメカニズムになる。そのためには、やはり今の景気回復を十分持続性を持たせるということが一番大事な点じゃないかということでございます。

 ただ、もう一つは、委員御指摘になられましたように、そういった民間の経済の循環メカニズムの中で個人所得がいかに還元されるか。これは、持続的な経済の成長を確保することによって必ず確保される、こう私は申し上げましたけれども、もう一つは、取り巻く公的部門の活動から来る個人部門への負担という問題がございます。これは、景気の持続性ということを、十分持続させていくというメカニズムを民間の経済の中できちんと確立できるならば、将来に向かっては、政府の活動はどういうサイズでどういう部門に重点を置くべきかということが改めて世界的に大きな議論が起こると思いますけれども、私は、やはりどちらかというと、個人の負担をなるべく少なくする方向、したがって、支出にむだがないようにする方向、それから、将来の所得を保障する制度的枠組み、これは年金とか医療がございますけれども、この制度的な不安定性、不安というものを除去する、制度の将来について崩壊リスクを感じさせないということが非常に大事だというふうに考えております。

佐々木(憲)委員 個人消費を考える場合、生活の実態といいますか家計の実態というものが大変重要だと思うんですが、これは、日銀の情報サービス局が事務局をやっております金融広報中央委員会の統計がありまして、家計の金融資産に関する世論調査であります。

 ちょっとこの数字を御紹介していただこうと思ったんですが、時間がありませんので私の方から申し上げますが、貯蓄を取り崩す世帯というのは大変ふえておりまして、昨年貯蓄が減った世帯というのは五一・一%であります。半分以上が貯蓄を取り崩している。貯蓄が全くゼロになったという世帯が二二%に上っておりまして、五軒に一軒が貯蓄ゼロということであります。

 その理由は何かということで調査をしておりますが、一番多いのが定期的な収入が減ったから、これは五九・六%、約六割であります。ですから、なかなか家計への還元というものが実際には行われておらない、逆に家計からの吸い上げというものが続いているというのが現実であります。

 実際、国民経済計算年報によると、過去五年間にゼロ金利で家計の利子収入は十一兆円マイナスになったとか、リストラで雇用者報酬が十七兆円減少したとか、そういう統計も紹介されておりまして、これはなかなか簡単に家計の収入が拡大するという状況にはない、むしろ厳しい事態が進んでいる。

 その上に、さらに所得の格差が拡大しているということでありまして、例えば、ここにUFJ総合研究所の資料がございますが、ここでは、高所得者の所得は伸び悩んでいる、高い所得層も所得は伸び悩んでいる、低所得者層の所得は減少している、このため所得格差が拡大している、こういうふうに紹介をされていまして、これは非常に重大な事態でございます。国民の暮らしの面からいいますと、全体として負担増、所得の減少、これが進んでいて家計消費が伸びない。その所得の内容を見ると、高所得者層が横ばいであり、低所得者層はどんどん下がっている。その結果、これは大変低所得者層へのしわ寄せというものが耐えがたい状況になっておりまして、年間三万人を超える自殺者が生まれる、あるいは多重債務者が急増している、こういう状況が生まれているわけであります。

 これは、日本経済全体としてあるいは日本社会として、十分に考えていかなければならない重大な事態だというふうに思うんです。もちろん、日銀の金融政策とかなり遠いところにあるというふうにも思えるわけですけれども、しかし、全体の経済構造をどのようにとらえ、どういう金融政策を実行していくかというのは大変重要だと思いますので、最後にこの点での総裁の見解をお伺いしたいと思います。

福井参考人 日本経済を改めて力強く持続的な回復のパスに乗せなければならないし、それは可能だというふうに考えておりますが、しかし、かつてのような高度成長の経済に戻るわけではない、成熟経済の中での話でございます。

 パイがかつてのように大きくならない経済の中にあって、なおかつ、人口が減り、高齢化社会、高齢者のウエートがふえる、こういう枠組みで考えますと、やはり受益と負担の関係というのは、その公平性ということをより明確に図りながら社会の中で納得のできる仕組みというのが十分埋め込まれて、そして、その上で十分厳しい競争社会を実現していく必要があるというふうに考えています。

 したがいまして、政府の方の制度設計と、日本銀行がいろいろなマーケットを十分整備してひとしく努力する人にはベネフィットが及ぶというふうな環境を整備していくこと、この両方がうまく整合性がとれるということが非常に大事だというふうに考えております。

佐々木(憲)委員 終わります。

田野瀬委員長 以上で本日の質疑は終了いたしました。

 参考人におかれましては、長時間大変御苦労さまでございました。ありがとうございました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十七分散会


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