衆議院

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第11号 平成16年11月19日(金曜日)

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平成十六年十一月十九日(金曜日)

    午後一時一分開議

 出席委員

   委員長 金田 英行君

   理事 江崎洋一郎君 理事 遠藤 利明君

   理事 村井  仁君 理事 中塚 一宏君

   理事 原口 一博君 理事 平岡 秀夫君

   理事 谷口 隆義君

      小野 晋也君    岡本 芳郎君

      木村 太郎君    熊代 昭彦君

      倉田 雅年君    小泉 龍司君

      砂田 圭佑君    田中 和徳君

      竹本 直一君    武田 良太君

      中村正三郎君    永岡 洋治君

      西銘恒三郎君    古川 禎久君

      宮下 一郎君    森山  裕君

      山際大志郎君    山下 貴史君

      井上 和雄君    岩國 哲人君

      鈴木 克昌君    田島 一成君

      田嶋  要君    樽床 伸二君

      津村 啓介君    中川 正春君

      野田 佳彦君    松原  仁君

      村越 祐民君    吉田  泉君

      石井 啓一君    長沢 広明君

      佐々木憲昭君

    …………………………………

   財務大臣政務官      倉田 雅年君

   参考人         

   (全国銀行協会常務理事) 斉藤  哲君

   参考人

   (東京大学大学院法学政治学研究科教授)      岩原 紳作君

   参考人         

   (弁護士)        國廣  正君

   財務金融委員会専門員   鈴木健次郎君

    ―――――――――――――

委員の異動

十一月十九日

 辞任         補欠選任

  谷川 弥一君     西銘恒三郎君

  山下 貴史君     武田 良太君

  渡辺 喜美君     山際大志郎君

  小林 憲司君     松原  仁君

  馬淵 澄夫君     田嶋  要君

同日

 辞任         補欠選任

  武田 良太君     山下 貴史君

  西銘恒三郎君     古川 禎久君

  山際大志郎君     渡辺 喜美君

  田嶋  要君     馬淵 澄夫君

  松原  仁君     小林 憲司君

同日

 辞任         補欠選任

  古川 禎久君     谷川 弥一君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 金融に関する件


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     ――――◇―――――

金田委員長 これより会議を開きます。

 金融に関する件について調査を進めます。

 本日は、参考人として、全国銀行協会常務理事斉藤哲君、東京大学大学院法学政治学研究科教授岩原紳作君、弁護士國廣正君、以上三名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、斉藤参考人、岩原参考人、國廣参考人の順序で、お一人十分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えをいただきたいと存じます。

 それでは、斉藤参考人、よろしくお願いいたします。

斉藤参考人 ただいま御紹介をいただきました、全国銀行協会の斉藤でございます。

 本日、私からは、御下命の趣旨に従いまして、これまで全銀協として取り組んでまいりましたコンプライアンス施策について陳述させていただきたいと存じます。

 まずもって、たび重なる会員銀行の不祥事の出来によりまして信頼を損ね、先生方にも大変御心配をおかけいたしておりますことを、私ども銀行協会の立場としても大変心苦しく、申しわけなく思っております。

 当協会におきましては、銀行の社会的責任を積極的に遂行するための施策を検討する場といたしまして、昭和四十八年に社会的責任に関する委員会という役員クラスの会合を設置いたしまして、以後、平成十年度まで、この委員会が銀行におけるコンプライアンス問題を所管してまいりました。その後、平成十一年四月の当協会の組織改正を機に、コンプライアンス概念の定着とその推進を図るために、公共委員会という役員クラスの会合を立ち上げるとともに、あわせて、その下部にコンプライアンス推進検討部会という次課長クラスの会合を設置し、今日まで、これらの会合を中心にしてコンプライアンス問題に取り組んでまいっております。

 銀行のコンプライアンス推進のために、近年当協会が取り組んでまいりました主な活動について申し上げます。

 平成九年のことでございますが、総会屋に対する利益供与という商法違反事件が起こりまして、こういうことを受けまして、全銀協におきましては「銀行の社会的責任とコンプライアンスについて」と題するコンプライアンス体制の強化策を打ち出しました。これは、銀行の社会的責任の重要性を改めて重く受けとめ、利用者の信頼向上に資する諸施策を講じるということを表明するとともに、五項目の目的達成に取り組むこととしたものでございます。この五項目につきましては、企業倫理の再構築、コーポレートガバナンスの充実、コンプライアンスプログラムの確立、反社会的勢力への対処、ディスクロージャーの充実、以上の五つでございます。

 また、同じ年、平成九年の九月の理事会におきまして、こうしたコンプライアンス体制の強化策を受けて、倫理憲章を制定いたしました。これは、各銀行が社会からの信頼の回復と確立に向け不断の努力を払うことを誓うものでございます。

 この倫理憲章では、銀行の持つ社会的責任と公共的使命の重みの再認識、質の高い金融サービスの提供、反社会的勢力との対決、社会とのコミュニケーションの向上といった項目とともに、あらゆる法令やルールを厳格に遵守し、社会的規範にもとることのない、誠実かつ公正な企業活動を遂行すること、すなわちコンプライアンスの推進を図っていくということもその内容となっております。

 さらに、この倫理憲章の制定の際には、憲章の精神に著しく反するような行為が行われた場合に当該銀行に対する措置を検討する、全銀協活動に関する自粛勧告委員会を設置いたしました。この委員会は銀行の頭取、社長クラスの会合でございまして、会員からの自粛申し出の受理やその取り扱い方針の決定、あるいは会員に対する自粛勧告の要否の決定等を行うことといたしております。

 これに関連して申し上げますと、今般問題となりましたUFJ銀行及びシティバンクにおける不祥事に関しましては、両行から、倫理憲章の趣旨に反する不祥事の発生にかんがみて全銀協活動を当面自粛したいというお申し出がございまして、去る十月十九日に自粛勧告等委員会においてこの申し出を受理することを決定いたしました。これによりまして、UFJ銀行の沖原頭取は当協会の理事、副会長を辞任するとともに、両行とも当面、当協会の委員会活動や各種行事への参加はできないこととなっております。

 このほかの活動につきましては、銀行員のコンプライアンス意識を高める一助となるよう、各種のハンドブックを作成いたしております。具体的には、贈収賄罪及び国家公務員倫理法について解説したハンドブックや、独占禁止法について解説した銀行の公正取引に関する手引、こういうもののほか、銀行活動の国際化を踏まえまして、海外の金融関係法に基づくコンプライアンスについて整理したハンドブックなどを作成して、広く会員銀行に配付して活用を求めております。

 また、平成十一年以来、毎年二回、会員銀行の役職員を対象としてコンプライアンスに関する講演会を開催し、コンプライアンス意識の醸成、啓発に努めております。この講演会のテーマの一例を御紹介申し上げますと、コンプライアンス体制構築の実務、コンプライアンスプログラムの構築に当たっての留意点、あるいはコンプライアンス体制のさらなる充実を目指してといったものでございまして、それぞれのテーマに応じて、大学教授や弁護士などの専門家の方々に講師をお願いいたしております。

 今年度の活動といたしましては、既に、国家公務員倫理法などについて解説したコンプライアンスハンドブックを改定いたしまして、再発行いたしております。そのほか、七月に第十一回目のコンプライアンス講演会を開催いたしております。講演会につきましては、年度内にもう一回開催する予定といたしております。

 さらに、昨今における銀行不祥事の発生を踏まえまして、全会員あてに倫理憲章の内容を再徹底するための通達を発出することといたしております。この通達につきましては、来週開催する公共委員会及び理事会で、改めて倫理憲章の趣旨を再確認した上で、全会員の代表者あてに通知する予定といたしております。

 また、銀行における取り組みについて申し上げますと、それぞれの銀行は、金融検査マニュアルのチェック項目等を指針として、自行の実情に合ったコンプライアンス体制を構築し実施しているものと理解をいたしております。

 すなわち、組織面では、コンプライアンス担当役員やコンプライアンス統括部署を設置するとともに、各業務部門や営業店ごとにコンプライアンス担当者を配置する等の体制を整えていると承知いたしております。また、自行のコンプライアンスに関する基本方針を策定し、行員が守るべき諸法令や社内ルール等を取りまとめたコンプライアンスマニュアルを作成し、さらに、これらの基本方針やマニュアルを行内に周知徹底するための実施計画、いわゆるコンプライアンスプログラムと言われているものでございますが、こういう実施計画を作成、施行する、こういうようなことで、それぞれコンプライアンス体制の確立とその実効ある推進を図っているものと認識をいたしております。

 ただ、不祥事が生じているという現実から申しますと、これらにつきまして万全な体制なのかという御指摘もあろうかと存じますが、各銀行とも、事例研究を積み重ねるなど、終着点はないとも言われておりますコンプライアンス体制の改善強化に努めているところでございます。

 以上、申し上げましたように、当協会といたしましては、これまで各銀行の取り組みをサポートするよう活動してまいりましたが、改めてその役割を再認識し、銀行界のコンプライアンスを一層推進するよう取り組んでまいる所存であります。先生方におかれましても、御指導のほどをよろしくお願いいたしまして、私からの陳述を終えさせていただきます。

 御清聴ありがとうございました。(拍手)

金田委員長 ありがとうございました。

 次に、岩原参考人、よろしくお願いいたします。

岩原参考人 御紹介にあずかりました、東京大学の岩原でございます。

 本日は、本委員会においてこのような発言の機会をいただきましたこと、大変光栄に存じております。金融機関におきますコンプライアンスの重要性と、それを改善するための方策について、一言申し上げさせていただきたいと存じます。

 金融機関に限らず、すべての企業にとりまして、法令を遵守する義務があるということは当然のことでありまして、そのためのコンプライアンス体制を構築するということは、経営者にとって当然の義務であります。商法は株式会社取締役の法令遵守義務を規定しておりますし、その法令に関する違反は取締役の会社に対する責任原因になるというのが最高裁の判例でございます。

 そして、このような取締役の義務は、単に各取締役個人として注意義務を果たせば足りるというものではなく、会社全体としての法令遵守やリスク管理等の体制をつくる義務が取締役会にあるとされております。すなわち、平成十四年に改正されました商法特例法及びそれに基づきます商法施行規則は、いわゆる委員会等設置会社につきまして、法令、定款を遵守し効率的な職務執行が行われるための体制、及び損失の危険の管理に関する規程その他の体制を取締役会が定めるべきことを規定しております。そして、このような取締役会の義務の規定を監査役設置会社をも含みますすべての大会社に拡充し、営業報告書への記載も義務づける方向で、ただいま法制審議会は会社法現代化のための法案の検討を行っているところであります。

 このような立法が行われる前から、既に判例や学説におきましては、取締役にコンプライアンス体制ないし内部統制の体制の構築義務があるということを認めておりました。判例はやはり銀行に関するものが多いのでありますが、中でも画期的でございましたのは、有名な旧大和銀行に関します大阪地方裁判所の判決でございました。この平成十二年九月二十日の判決は、商法二百六十条二項が定める重要な業務執行として、取締役会が内部統制の大綱を決定することを要するとした上で、業務執行を担当する代表取締役及び業務担当取締役は大綱を踏まえ担当する部門における管理体制を具体的に決定する職責を負うというふうに申しまして、またそれ以外の取締役も、代表取締役及び業務担当取締役がそのような義務を履行しているか否かを監視する義務を負っているといたしまして、それに違反した取締役の責任を認めたわけであります。

 以上の判例からもうかがえますように、このコンプライアンス体制の構築がとりわけ強く求められるのが金融機関でございます。判例も、とりわけ金融機関の経営者に高い注意義務の水準を求めているようであります。これは、以下のような事情によります。

 銀行法一条が規定しておりますように、銀行業務には、信用を維持し預金者の保護を図り金融の円滑を図るといった公共性がございます。そのため、銀行には、銀行法に基づき、一般企業にはない各種の規制が課せられているわけでありまして、また同時に、銀行法一条二項は、この法律の運用に当たっては銀行の業務の運営についての自主的な努力を尊重するように配慮しなければならないとも規定しております。

 ということは、銀行の経営者たる取締役には、銀行に課せられた厳重な規制を銀行自身の自主的な努力で守っていく義務がある、すなわち銀行自身のコンプライアンス体制を構築する高度の注意義務が取締役にあるということを意味しているわけでありまして、これは、例えばアメリカなど外国においても同様に考えられております。

 このような考え方は、金融検査マニュアルに明確に示されております。すなわち、マニュアルは、預金者保護及び金融の特殊性から国は金融機関の業務の健全性に関心を持たざるを得ないといたしまして、それにはまず、金融機関自身の内部管理体制及び会計監査人監査の充実によりそれは実現されるべきであるけれども、検査はそれを前提に補強するためのものとして位置づけられると書いてあります。

 それでは、なぜ最近になって金融機関の違法行為あるいは不正行為が数多く問題になるようになったのか、考えてみたいと思います。

 これはあくまで推測にしかすぎませんが、近年の金融機関の破綻や再編、リストラ等々によりまして、あるいは役員や従業員の規律や士気に緩みが生じているのかもしれません。しかし、それ以上に重要だと思われますのは、検査監督当局の姿勢の変化あるいは体制の変化にあるように思います。かつては本人確認法などの法律がございませんでしたし、そういうことから、違法あるいは不正な取引をチェックする手がかりが余りなかった。また、検査官の人数が決定的に不足しておりました。そして何よりも、検査監督当局の姿勢が、金融秩序の安定を第一として、その信頼を損なわないように、不祥事をなるべく表面化させないようにしていたように思われます。

 かつても、法令違反の行為や不正行為などはあったと思います。しかし、それが発見されなかったり明らかにされなかっただけではないかと思われます。それに対し、最近は、本人確認法など法制が整備されてまいりまして、また、検査官の人数が、いまだ不十分ながらも、かなり増強されてまいりました。そして何よりも、当局が、発見した違法行為、不正行為を積極的に公表し、行政処分を行い、そして最近のように刑事告発を行うところにまで至ったわけでございます。

 私はこのような変化を基本的には歓迎したいと思います。違法、不正行為を隠ぺいして金融機関の信用を守ろうとすることは不可能でありまして、結局、金融機関のあしき体質を温存し、傷口を大きくしてしまい、最後は隠し切れなくなって破綻に至り、金融機能ひいては経済全体を危機に陥れかねないということは、過去数年の金融危機において嫌というほど経験したところでございます。

 しかし、金融検査マニュアルが言っておりますように、金融機関の違法、不正行為や信用リスクなどを当局の検査監督だけでチェックしようということは、民間企業たる金融機関のあり方に反しますし、そもそも不可能であります。あくまで、まず金融機関自身がコンプライアンス体制、内部統制体制を確立し、当局はそれと連携して補強していくという体制をとるべきだと思います。

 そのような観点から、今後の金融機関のコンプライアンスの一層の充実のための課題を最後に申し述べたいと存じます。

 アメリカは、エンロン事件、ワールドコム事件のように、不正経理が大問題になった直後に、直ちにサーベンス・オクスレー法という法律を制定しまして、その四百四条等におきまして、金融機関だけでなくそれ以外の公開会社を含め、非常に詳細な厳格な内部統制システムの構築を義務づけ、それをディスクローズすることを義務づけたわけであります。

 我が国でも、最近の西武鉄道の事件などをかんがみまして、金融審議会におきましてはアメリカに倣った内部統制システムの構築や開示の制度の導入を現在検討しておりますが、少なくとも金融機関に関してはアメリカ並みの内部統制あるいはコンプライアンスの体制を制度化する必要があるのではないかと考えております。

 また、検査監督当局につきましても、より体制を充実するとともに、今まで金融危機の中で主に信用リスクの検査監督に力を入れてきた感がございますが、今後は法令遵守に関するコンプライアンスについても一層力を入れていただきたいと考えております。

 そして、違法、不正な行為があったときのそれに対するペナルティーを十分に厳格なものにすることが必要ではないかと思います。

 現行法では検査忌避罪等が二億円の罰金でありますが、大和銀行がニューヨークでそのような罪を犯したときには三億四千万ドルの罰金が科せられたわけでありまして、日米のペナルティーの違いが非常に大きいと感じられます。行政処分を含め、やはり悪い行為に対してはきちんとペナルティーを科すことによって規律を正していくということが必要ではないかと思う次第でございます。

 以上で私の意見陳述を終えさせていただきます。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)

金田委員長 岩原参考人、ありがとうございました。

 次に、國廣参考人、よろしくお願いいたします。

國廣参考人 こんにちは。弁護士の國廣と申します。

 きょうは、私、弁護士という実務家の立場から意見を述べさせていただきたいと思っております。

 きょうの委員会のテーマは金融機関のコンプライアンスであると言われています。コンプライアンスという言葉は非常によく使われているのでありますけれども、私、いろいろ新聞、テレビ、ラジオなどを聞いておりまして、コンプライアンスという言葉はどういう言葉かな、どういう場面で使われるのかなというふうに考えてみますと、大概暗い使われ方、ろくでもない使われ方をしていることが多い。どういうときかというと、不祥事を起こした企業の役員がずらっと並んで頭を下げるときに必ず念仏のように唱える言葉が、今後は当社もコンプライアンスをうんちゃらかんちゃらというようなことであります。そのような意味において、コンプライアンスというのは、ごめんなさいとか、何か起こった後に済みませんと言うときに使われる言葉である。そのような使われ方こそが、まさに日本企業のコンプライアンス経営を阻害しているものではなかろうかというふうに感じるわけであります。

 では、コンプライアンスというのは一体どういうふうに考えていくのかということを少し意見を述べさせていただきたいと思うのでございますが、まず、前提問題として、最近、企業不祥事が、金融機関に限らずですけれども、続発しております。非常に多くの企業不祥事というものが起きている。これで、昔に比べて日本企業の遵法意識が低下した、昔はよかったけれども最近は企業が劣化したというような評価が加えられることがあります。しかし、私は必ずしもそれは正しくないと考えます。

 つまり、私の意見でございますが、日本の企業行動は変わっていない、従来と同じに横並びになっている、ところが、日本社会の方がそれを許さない社会に変わってきている。すなわち、日本社会というのがどういうふうに変わったかというと、特にバブルを境として、やはりグローバル化という形で、要するに、行政との事前指導あるいは癒着と言ってもいい場面もあるのかもしれませんけれども、それで横並びで業界でやっていく、そういうやり方が通用しなくなって、企業みずからが自分の頭で自由競争の公正なルールの中で競争していかなければならない世の中に変わってきつつある。ほぼ変わった。にもかかわらず、従来の横並び的発想から抜け出さずに、それまでそれでうまくいってきたからということで企業が旧態依然とした行動をやり続けていること、これがいわゆる企業不祥事の原因なのかなという感じがいたします。

 したがいまして、先ほど最初に申し上げました、不祥事を起こしてコンプライアンスをなどと下を向いて言っている企業というのは、多くの場合、ある自動車会社などの例に見られるように、そういう不祥事を繰り返します。やはりそこの意識、社会が変わったんだという意識を企業自身が自分の頭と自分の足で考えていかなければこの問題は解決しないのかなと思うわけであります。

 あと、ちょっと横道にそれますが、企業不祥事、不祥事という言葉自身が、これまで従来の日本社会の不祥事に対する対応、姿勢をあらわすものだと思います。

 と申しますのは、広辞苑で不祥事という言葉を引きますと、縁起が悪いこと、不運と書いてあって、違法行為とか不正という訳語がないんですね。ということは何かというと、結局、横並びで赤信号をみんなで渡っていれば怖くない時代が長く続いてきたわけであります。その中で、ちょっとやり過ぎた企業が捕まっちゃったね、だから不祥事だよというような使われ方を恐らくこれまでされてきたのではないか。今は不正とかいけないことという意味で不祥事という言葉が使われるようになっておるわけでありますけれども。

 そのような言葉一つとってみても、単純にコンプライアンスということを念仏のように唱えるのではなくて、企業行動自体が問題ではないか、その根っこにある意識、さらに言えば社会意識、やはりそこまで踏み込んだ形で考えなければ、いわゆるこういう不祥事の問題というものはいつまでたってもなくならないであろうと考えます。

 では、金融機関の不祥事、コンプライアンスについてはどのように考えるべきかということであります。

 今、不祥事の一般論で申し上げました。先ほど岩原先生も、基本的には銀行と一般企業は同じだよということをおっしゃいましたけれども、私も同意見でございます。ただ、銀行、あるいは証券会社も保険会社も金融機関に含まれるわけでありますけれども、これらの機関というのは非常に公共性が高い、すなわち資本主義の血液である金融を担っているという意味があるかと思います。

 銀行について見ますと、従来はいわゆる大蔵省の護送船団と言われる中で、ある種合理性が、当時、二十年前、三十年前にはあったのかと思いますけれども、これからその発想からいかに抜け出ていくのかというところ、抜け出ることができない銀行がやはりいろいろな問題を起こしていく。すなわち、自分の頭でルールとは何なのかということを考えて、その判断に従って自主的、自律的行動をすることになれている企業、銀行であるか否かというところが、これから成長していくか不祥事を起こすかを分けることになるのではなかろうかと思います。もちろん、検査監督当局の検査等の強化、あるいは、先ほどのお話にもありましたような、違反行為を公表するという厳しい態度、このようなことが行われることによって規律というものはできてくる面も非常に強いと思いますけれども、やはり最終的には自分の頭で考えるようになれるかどうかということ、ここが一番大事な問題だろう。金融庁に検査されるから対応しましょうというようなことであると、やはり今後の国際競争の中で生き残っていくことは難しいのではなかろうかと考えます。

 銀行ばかりの話ではなくて、金融機関のもう一つの証券会社についても考えてみたいと思います。

 証券会社も相変わらずいろいろな不祥事を起こし続けているわけであります。しかし、本来、今後の日本の金融のあり方ということから考えますと、大きな流れとして間接金融から直接金融への流れ、これがなければやはり日本の今後の経済成長、発展というのはなかなか難しいであろうと考えます。そのような意味において、まさに証券会社の果たすべき役割というものは大事でありまして、それに対する税制の問題などもいろいろ議論されており、それは大事なことだと思いますけれども、私は、まさにその直接金融にシフトしていくという中での証券会社の役割という観点からすると非常にコンプライアンスというものが大事だろうと思います。

 ここで言うコンプライアンスというのは、要するに公明正大にルールを守るというやり方でありまして、従来の、株屋は怪しいことをやっているのではないかという一種の差別的な見方もあるのかもしれませんけれども、そのような、早耳の何とかみたいな形で早い情報をとってくる証券会社がその情報を顧客に与えるのがいいことだなどという古い体質の部分があるんですけれども、こういうのはインサイダー取引になるわけです。そのような意味において、まさに証券会社が公明正大にルールに従ってきちんとした営業をやっていくんだということ、これがやはり多くの顧客を直接金融に資金を移転させるために不可欠の前提ではなかろうかというふうに考えるわけであります。

 以上、金融機関で証券会社と銀行を例にとって申し上げましたけれども、最後に、私の実務家としての現状の印象について述べさせていただきたいと考えます。

 まず、金融機関のコンプライアンスは進んでいるのか進んでいないのかということですけれども、私は、これはすごく差が歴然としてきている、すなわち、銀行においても証券会社においても、コンプライアンスを本音でやっていくところと、仕方がないから形だけやっていくところ、ここに非常に現実的には分かれているのかなというふうな印象であります。いわゆる本音でコンプライアンスをやる企業と、建前でしかやらない企業に分かれているであろう。

 では、本音でやっている企業というのはどういうところかというと、やはり時代の流れというものをしっかりと見据えた企業であろうというのが言えると思います。あるいは、本音でやっている企業は、痛い目に遭って、それで目が覚めて本音でやっている企業、ここもかなりの数あるのではなかろうかと思います。さらに言えば、痛い目に何度遭っても繰り返していく、こういう企業もあるように思われます。このようなところは、やはり市場から退場を願うしかないのかなというふうに考えているわけであります。

 国会という場で金融機関のコンプライアンスということを御検討、お考えいただくわけでございますけれども、私の希望といたしましては、金融機関というものは非常に大事でありますが、より広く、コンプライアンスとは何なのか、あるいはコーポレートガバナンス、企業統治とは何なのか、あるいは証券市場というものの信頼をどうやって確保するのか。最近の西武の事件などを見ている限り、本当に新しい金融の時代が出てくるとはなかなか、悲観的にならざるを得ないわけであります。

 したがいまして、まさに資本主義の血液の金融というものが安定的、信頼に足りるものとして機能されるように、ぜひ国会で十分な御審議をされ、長い目で見て、長い目に耐え得るシステムづくりということをやっていただければ大変ありがたいのではないかと思います。

 以上、意見を述べさせていただきました。(拍手)

金田委員長 國廣参考人、ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

金田委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。長沢広明君。

長沢委員 公明党の長沢広明でございます。

 きょうは、参考人の皆様、大変お忙しいところ国会までお出ましをいただきまして、大変にありがとうございます。きょうは、金融機関のコンプライアンス問題について参考人の皆様から御意見を伺うということで、大変重要な問題だと思いますので、どうか御協力のほどよろしくお願い申し上げます。

 このところ企業の倫理観が問われるような不祥事が相次いでおりまして、特に金融界においても、先ほど来お話がありますとおり、UFJの問題それからシティバンクの問題等起きております。こういう中で、個別具体の問題もありますが、やはり金融そして企業全体のコンプライアンス体制のあり方について議論することが非常に重要だということで今日の参考人質疑になったというふうに理解をしております。

 また、こういう問題が起きるたびに、ガバナンスが機能していないとか、あるいはコンプライアンスがもっと強化されなければいけないというようなことが盛んに言われますけれども、こういう問題を起こさないために、今何が問題で何をどのようにしなければならないのか、こういうことを議論するべきときであるというふうにも感じておりますので、幾つか御意見を伺いたいというふうに思いますので、よろしくお願いします。

 まず初めに、全銀協代表の斉藤常務理事、斉藤参考人にお伺いしたいと思います。

 先ほどの陳述の中にもございましたけれども、申しわけなく思いますというお言葉がありました。金融機関において、申し上げたような問題が取りざたされている中で、やはり銀行の社会的責任ということを協会としてどのように受けとめていくか、また全銀協としてこの現状をどのように認識しているのかということについて、改めてまずお伺いしたいと思います。

斉藤参考人 ただいまの御質問についてお答えをいたしますと、まず認識としては、銀行の社会的責任というのは大変重いものがございまして、全銀協の立場からは、かねてからこれを全うするように各銀行に働きかけているところでございます。今回の一連の事態につきましては、信用を第一として社会からの信頼が求められている銀行といたしましては大変遺憾なことというふうに受けとめざるを得ません。

 ちなみに、UFJ銀行とシティバンクに関して申し上げますと、両行とも、伺う限りでは、それぞれ経営体制を見直して社会的信頼の回復に向けた取り組みを行っているというふうに認識をいたしております。一日も早く信頼の回復を果たされるよう期待したいというふうに考えております。

長沢委員 今、両行とも社会的信頼の回復に取り組む、そういう意向が示されている、こういうお話がございました。もちろん、協会としてできることとできないことという問題と、当然、UFJ、シティバンクともに、それぞれの対応ということが非常に大事になってくるわけです。

 先ほど来、協会としても、昭和四十八年の委員会の設置ですか、それから平成九年のいわゆる総会屋問題に対応してコンプライアンスということを打ち出されて、ディスクロージャーも含めて方針は出されております。その方針を見ると、やはり総会屋問題というものを背景にした一つの立て方になっているような気も感じとしてはややしているんです。

 そういうさまざまな方針をこれまで出して、徹底をし取り組みもされてきたと思いますが、こういう法令遵守上の問題に対して、それでもいろいろな問題がやはり起きてくる。いろいろ対応されているというふうには思いますが、業界として、全銀協として、それでもこういう問題が起きているということに関して、今後どのように対応されるおつもりか、できるだけ具体的にお伺いしたいと思います。

斉藤参考人 ただいまの御質問についてお答えを申し上げますと、まずは、倫理憲章の再確認を会員に求めていくこととしたいというふうに考えておりまして、来週にも全会員の代表者あてに憲章の精神を徹底するよう通達を発出するという準備をしているところでございます。

 また、今後も、その時々に生じました問題事例等を参考としたコンプライアンス講演会の開催であるとか、コンプライアンスに関するハンドブックの作成など、銀行のコンプライアンス推進にとって有用な情報提供を行う等の活動を、従来にも増して力を入れて継続的に実施していきたいということでございます。

 さらに、本日のような国会の場でいただきました先生方の御指摘はもとより、各方面から寄せられております御意見につきましてはしっかりと受けとめまして、必要な会議に報告する等、今後の活動に生かしてまいりたいという所存でございます。

長沢委員 先ほど陳述の中で岩原先生からも、特にやはり金融機関、あるいは國廣先生からも、金融機関の責任というものは非常に大きいということで、特にこのコンプライアンス体制の必要性というものを強調されているところでございますので、今後ともさらにしっかり、よく検討して取り組んでいただきたいということを御要望させていただきます。後ほど、もしちょっと時間がありましたら、もう一点お伺いしたいというふうに思っております。

 それから次に、弁護士の國廣先生にちょっとお伺いをさせていただきます。

 國廣先生、コンプライアンスの問題と特にリスクマネジメントの問題ということで、大変パイオニア的な存在ということで多くの経験を持たれているというふうに思います。その経験をもとに少しお考えを伺いたいというか、御意見を伺いたいんですが。

 企業が社会的問題を起こすということは、企業の存続そのものに直接かかわることが非常に多いわけですね。多いというか、そういう場合があるわけでございます。つまり、法令を守るということは当然のことでありながら、それは企業にとっても重要な危機管理の問題であり、リスクマネジメントの問題でもあるというふうに思います。

 二点ほど國廣参考人にお伺いしたいんですが、このコンプライアンスとリスクマネジメントの関係について、國廣弁護士が特にそういう関係者の方にどうお訴えをされているのか、また説明をされているのか、どう関係をとらえていらっしゃるのかということが一つ。

 それからもう一つは、万全の体制を、仮にそれなりの体制を企業がとっていたとしても、万一、企業にとって危機的な状況に陥ったという場合、その企業はどういうような対応をとるべきなのか、あるいはどういうような対応がとり得るのかというようなことについて、できれば御経験をもとにお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

國廣参考人 今、二点御質問がありましたので、お答えさせていただきます。

 まず、コンプライアンスとリスク管理の関係でありますけれども、私は、コンプライアンスというのは、まさに企業が生き抜いていくためのリスク管理の重要な中核の一部分をなすものでありまして、リーガルな意味でのリスク管理であろうというふうに考えます。

 そして、このリスクというのは非常に大きいと思います。といいますのが、違法行為を起こす企業というのは違法行為を起こしたときの損害というものが昨今非常に大きなものになってきて、企業自体の市場からの退場命令につながるという状況になっております。そのような意味において、まさにリーガルリスクというものがリスク管理の非常に大きな中核の一つになっていくということは、私は、日本の企業あるいは日本の社会がルール化するためにおいて当然の結果であり、あるべき姿であろうというふうに考えます。

 それと、リスクという概念で一つ考えなければいけないことは、リスクをとるというやり方がありますね。例えば、ある投資をする場合に、リスクもあるけれどもそのリスクはとれるかとれないか、そういう場合のリスクの比較考量というのは、当然のことながら経営としてはやっていくべきことになるだろうと思います。しかし、事違法リスクに関しましてはそのような比較考量というものは成り立たない。つまり、違法行為をやる、それが見つかるリスクとこれによって得られる利益とを考量するというようなこと、比較考量、バランシングなどといいますけれども、それはないということは強調しておきたいというふうに考えております。以上が第一点でございます。

 第二点について、それなりの体制等をつくっても、やはり事故、事件が起こることがあるということ、これは非常に重要な御指摘であろうかと思います。すなわち、リスク管理というと、リスクがあってはならない世界に追い込んで、いけないいけないと言うだけで、コンプライアンスだ、絶対に間違いがあってはいかぬぞと言うだけの精神論になりますとどうなるかというと、まずいことがあったときに、あってはならないと言われると隠すという行動になってしまうわけであります。

 したがいまして、企業としては、もちろんリーガルなリスク管理でリスクを減らすということが大事ですけれども、やはり何百人、何千人という企業においては、不届き者なり間違いというもの、これは減らすことはできてもゼロにすることはできないだろうというところからスタートすることが大事だろうと思います。その上で、ゼロにできないけれども、起こったものは、あってはならないの世界から隠すのではなくて、ディスクローズするということ、それによって企業としては再生を図っていく。済みません、うちにはこのような悪いことが起きましたけれども原因はこれであります、再発防止策はこのようにやりますというようなことをやはり積極的に企業としては明らかにすることが、まさに隠すことの致命傷を防ぐための、企業が生きていく道であろうというふうに考えます。

 それともう一つ大事なことは、やはり社会の側、報道機関とか社会の側であります。同じ事件、事故が起こった企業であっても、隠して見つかった企業、これはもう徹底的に市場から退場させるということでよろしいのではないかと思うのですが、自発的に見つけて出してきた企業、これについては、やはりあってはならないの世界ではなく、そのリスクをみずからつかんでみずから公表して出してきたんだということで、ある種評価をしていくということによって、隠ぺいという行動をしなくて出すことによって企業が助かるんだよという例をやはりつくっていくこと、これも大事なことなのかななどと考えております。

長沢委員 大変大事な御指摘をいただきました。

 企業みずからのディスクローズのあり方ということ、当然これは非常にスピードということも大事になってくると思いますが、と同時に、それに対する社会の反応の仕方ということも、これは非常に大事な問題だというふうには思います。

 今、一般企業、一般のそういうリスクマネジメントとコンプライアンスという問題について非常に端的にお答えいただきましたが、國廣参考人は全銀協の会合でも、このコンプライアンスの問題だったか、講演もされたことがあるというふうに伺っております。銀行のコンプライアンスづくりという点について、弁護士の経験として、今一般的な企業のコンプライアンスとリスク管理という話をいただきましたが、特に金融機関の側にとって学ぶべき点とか、あるいは金融機関だからこそ留意すべき点というようなものがもしあれば御指摘いただきたいと思います。

國廣参考人 基本的には金融機関と一般企業の差はないとは思いますが、ただ、金融機関が陥りがちなパターンというのが一つあるかなと思うんですね。金融機関はある意味でまじめでありますから、したがいまして、何か社内規則のコンプライアンスをつくれというと一生懸命文書をつくる方向にエネルギーが行くという形になって、エネルギーはかけるんだけれども、もちろん文書規定とかそういうものは大事でありますけれども、やはりコンプライアンスあるいはリスクマネジメントで一番大切なことは、知識というよりは、私は企業の社員あるいは銀行員一人一人の意識であろうと思います。

 したがいまして、何かコンプライアンスマニュアルをつくるというような形の方向、もちろんこれも大事ですけれども、そちらだけに走るのではなく、まさに一人一人の銀行員の意識をいかに高めていくかということ、これが非常に大事になってくるのかなというふうに考えております。

長沢委員 岩原先生にもお伺いしたいというふうに思います。これは、岩原先生それから國廣先生、ともにお答えいただければというふうに思うんです。

 岩原先生、先ほど、こういう金融機関の不祥事が浮上してくる背景の一つに検査監督体制の変化ということを御指摘されまして、特に法令の整備あるいは人員の増強そして当局の姿勢の変化という三点をお挙げになりました。と同時に、これに対して金融機関の側の内部統制の強化というものが必要だというふうに御指摘をいただきました。大変貴重な御指摘だというふうに思います。

 それに少し関連することなんですけれども、いわゆる公益通報制度というのがことしの通常国会で成立をいたしました。簡単に言いますと、国民の生命財産にかかわる法令について違反したものについてのいわゆる通報制度また通報者の保護について規定をした。そういう意味では幾つかの法令が挙げられておりまして、刑法とか個人情報保護法とか、幾つかの法律に照らして通報者を守るという、法律の観点からいって少し限定された形の公益通報制度というのが法律になりました。

 この議論の中で、いわゆる一般的に企業のコンプライアンス経営を強化する、あるいは促進する機能として、企業内における告発者の保護規定というものをもっと明確に整備するべきだという意見がありました。その一方で、企業内のコンプライアンスというのはあくまでも企業が自主的に行うべきもので、それを後はどう後押しできるかということにとどまるのではないかという意見もありました。

 この点につきまして、まず岩原参考人から、企業における告発者の保護規定、そのあり方ということについて、もし御意見がございますればお願いしたいというふうに思います。内部通報の問題です。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 内部通報制度について、私、それほど詳しいわけではございませんが、今御指摘のございました二つの考え方についていえば、私はやはり最初の考え方の方が適切ではないかと。コンプライアンスは、確かに経営者としての責任において会社自身が法令をきちんと遵守しリスクを管理できるような体質をつくっていく、そういうことでありますけれども、しかし、そういうのを上からつくっただけでそれがうまく運営されていくわけでは必ずしもない、とりわけ上の立場にいる人自身が不法、違法な行為等にコミットした場合についてはなかなかそれをチェックし切れないところがございます。

 そういうことを考えますと、やはり今御指摘のような内部通報者の制度をつくって、情報がコンプライアンス体制以外からも上がってくるようなチャネルをつくっておくということは必要だと私は思っておりまして、そのことは結局、むしろそういう不正を最終的に防ぐことになって、企業自身にとっても長期的な利益になるのではないかと考えております。

 以上でございます。

國廣参考人 企業のリスク管理的な観点からの企業内の違法行為というのも、今岩原先生がおっしゃったように、二段階あると思うんですね。

 社員の段階で、例えば談合的な会議に出ているのかとかあるいはセクハラが行われているのではないか、こういう部分は、まさに経営として企業の方が早く知って、それを握りつぶすのではなくて徹底的に是正をしていく。そういう意味では、企業のまさに自主的なリスク管理ということで機能させていく。その意味では、企業内の言ってみればホットライン的なものが非常に効果を発するのかなと思っております。

 ところが、経営トップの不正の問題とかそうなったときに、では果たして企業内ホットラインで対応できるんだろうかというような場合がございます。そのような場合で、もちろん、比較的先進的なというか、金融機関でもいろいろ差があると申しましたけれども、かなり徹底した某金融機関では、社内ホットラインをつくるときに、社長が、私の不正をとめるのはだれなんですかと。このホットラインでは、結局副社長がホットラインの担当になっているわけですね。そうすると、私の不正をとめることができないだろうということをおっしゃったのですね。そこで、我々、一生懸命制度をつくって、監査役に対するホットラインをつくって、まさにトップの不正は監査役にやってください、あるいは外部の法律事務所にやってくださいというような形で、トップの不正もみずからの力で是正しようとする企業であれば、そこまでやる。

 ところが、必ずしもすべての企業がそうではないというか、むしろそういう企業は少数であろうと思われます。そのときのために、まさに公益通報者保護法という形で、外に出すというようなことが出てくるのかなと思います。

 そのような意味において、本来的には、第一次的には企業みずからの力でリスクなり違法行為を是正し、起こったものはみずからの力で是正していくというのが第一ルートではありますけれども、それがうまく機能しない場合の伝家の宝刀的にまさに公益通報者保護法があるというような位置づけで私は理解しております。

長沢委員 時間が参りましたが、一つだけ。

 今、内部通報のことをちょっと御意見を伺いました。全銀協の斉藤参考人に、全銀協として、協会加盟の各社の中で、こういう内部通報のシステムをどのぐらい持っているかというようなものは把握をされていらっしゃいますか。

斉藤参考人 今のお話の中で、銀行の普及状況ということと理解をいたしましたけれども、私ども、悉皆調査はいたしておりませんので全体はわかりませんが、一部、関係銀行といいますか関係会議のメンバーに対しまして、この通報制度を持っているかということについてのヒアリングを、若干の数でございますが行いました。その銀行の回答を拝見いたしますと、ほとんどの銀行が何らかの形で内部通報制度を持っておりまして、これをサンプルという形で見れば、かなり多くの銀行がこういう制度を持っているというふうに想定されます。報道なんかを拝見いたしましても、そういう雰囲気が見えるかなというふうに見ております。

長沢委員 時間ですので終わります。どうもありがとうございました。

金田委員長 次に、吉田泉君。

吉田(泉)委員 民主党の吉田泉といいます。

 きょうは、参考人の皆様、御意見をちょうだいしましてありがとうございました。私の方からも何点か質問させていただきます。

 最初に斉藤参考人にお願いいたします。

 一点目は、銀行業界の実情といいますか、現実というものについてお伺いいたします。

 先ほどの國廣参考人の言葉によれば、不祥事ではなくて不正事件が続いていると。UFJ、シティバンク、そして整理回収機構と、ことしも大きい事件が起こりました。私は、事件が続いている背景として、金融ビッグバンによって非常に金融機関同士の競争が厳しくなってきたということが一つあると思います。それからもう一つは、小泉内閣、竹中前金融大臣のもとで、不良債権処理を加速されたということもいろいろな事件が起こる一つの背景になっているというふうに考えております。

 実は、きのうなんですが、私の地元の知り合いの銀行員に、電話をしまして、このコンプライアンス問題で現場にいる人間としてどういうふうに感じているかということをちょっと聞いてみました。彼は、コンプライアンスの教育というのは極めてよくされている、しかし、銀行同士の生き残り競争が非常に激しくなってきている、したがって、現場の第一線でも、営業の割り当て、ノルマがある、これを何とかこなさないと銀行として生きていけない、そのためには一線を越えてしまいそうになることも時々あると言うのですね。まだ現場ではルールよりかはもうけだという雰囲気が非常に強い。彼は地方銀行なんですが、例えば、銀行のトップ人事を見ても、人柄がいい人が選ばれるというよりかは、能力のある人が選ばれているということだと思うと。結論として、コンプライアンスということは、頭ではよくわかっているつもりだ、教えられてはいるんだけれども、まだ銀行員として身についているとは思えない、過渡期的な状況にある、こういう電話の話でした。

 そこで、質問は、全銀協の担当の常務さんとして、銀行業界の実態をどんなふうに感じておられるか。そして、先ほどのお話では、倫理憲章をつくられて、ハンドブックもつくられて、徹底させようということでしたけれども、この倫理憲章自体が現場の業界でどのように受けとめられているのか、もしくはどの程度浸透していると考えればいいのか、その辺、率直なところを聞かせていただきたいと思います。

斉藤参考人 全銀協の役員をしている立場で、大変恐縮ではございますけれども、なかなか現場の行員たちの意識というものを直截に酌み取って、かつ、お伝えをするというような情報を実は持っておりませんので、少し論点がずれるようなお答えになるかもしれませんけれども、お許しをいただきたいと存じます。

 先ほど来、國廣弁護士を初めとしましてお話がございましたけれども、コンプライアンス違反を犯した企業に対する国民の視線というのは、まことに厳しいものになっておりまして、企業としての存続の窮地に立たされるというようなケースも生じているのは御承知のとおりでございます。

 こういうような現実を踏まえまして、各銀行ともルールを遵守して、その上で業務活動を行う、もうけを度外視してルールを守るというところまでいくかどうかは別にしましても、やはりルールを守らない営業はないのだということについては相当徹底しているのではないかというふうに私は承知をいたしております。各行ともそういうことを貫徹する取り組みを行っているというふうに考えておりますけれども、ただ、御承知のようなことで、不祥事が続いているのはまことに残念なことと言わざるを得ないわけでございます。

 ただいま先生からお話が出ました全銀協の倫理憲章の徹底でございますけれども、これはルールを守るという精神を繰り返し繰り返し徹底をしていくということが非常に必要なんだろうなということでございまして、継続的にこの倫理憲章の持っている意味を確認していくということが全銀協でやれる恐らく一番必要な運動なのではないかなというふうに思っております。実際に不祥事が続いているということを見ますと、なお憲章の徹底は必要があるんだろうというふうに思って、先ほど申し上げましたような再確認の運動を進めるということにいたしたわけでございます。

吉田(泉)委員 ありがとうございました。

 次に、現実的な問題に沿ってひとつ御見解を承りたいと思います。

 包括連帯保証におけるコンプライアンスという問題です。これは国会でも大きく問題が取り上げられていることでありますけれども、銀行からお金を借りるときに、包括保証という制度があります。限度がない、期限もない、こういう包括保証人になってしまったために、大変多くの人が泣かされているという事件が多発しております。御本人にしてみれば、余り十分に理解しないままに、なおかつ、恐らくは銀行からも十分な説明を受けないままに包括保証人の欄に判こを押してしまったということで悲劇が起こっているわけであります。

 そして、その背景には、やはりバブルのときに、銀行サイドで過剰営業といいますか過剰融資といいますか、そういう行き過ぎがあったことも事実だと思うんですよね。担当されている弁護士さん、椎名さんという方は本も書かれているんですが、「百万人を破滅させた大銀行の犯罪」という本まで書かれているわけであります。

 そこでお伺いしたいのは、包括保証という問題が非常に大きな社会問題になっております。全銀協として、この問題における金融機関のコンプライアンス、倫理法令遵守という観点からどういうふうにとらえておられるのか、お伺いします。

斉藤参考人 お答えをいたします。

 個人保証、特に根保証の取り扱いについてのお尋ねでございますけれども、これにつきましては、各行それぞれのコンプライアンスルールであるとか金融庁事務ガイドラインの中にも盛り込まれていることもございまして、保証人への十分な事前説明の徹底を初めといたしまして、保証人の適正な保護という点については十分な配慮を持って対応してきていると承知をいたしております。第三者に包括根保証を求めるというようなことは、実務上は例外的な取り扱いであると聞いておりまして、現に、無担保、第三者保証不要の新型融資制度が導入されるというふうなことで、銀行における自主的な対応も進んできているところでございます。

 今回の民法改正による根保証制度の見直しによりまして、保証契約には限度額を定めなければならない、また、保証期間について一定の制限が設けられた、こういう点をさらに業界としても再確認いたしまして、引き続き保証人への適切な説明等を含め、適正な保護を踏まえた金融実務の遂行に努めるように業界として取り組んでまいりたいというふうに考えております。

吉田(泉)委員 法律も改正されることになりそうですけれども、既に、図らずも判こを押してしまって悲劇に陥ってしまった方々に対する、社会的見地からといいますか、何か軽減措置もぜひコンプライアンスという視点から御検討いただきたいとお願い申し上げまして、次に國廣参考人にお伺いいたします。

 今から四年前になりますけれども、國廣先生を含め二十二人の専門家の方々で、倫理法令遵守マネジメントシステム規格、ECS二〇〇〇というのができました。エシックス・コンプライアンス・スタンダードということですかね。私も今回拝見をいたしまして、こういうスタンダード、規格が日本の経済界の中に普及していくことこそがコンプライアンス定着の有力な道筋になるというふうに感じました。

 それで、その点について二点ほどお伺いいたしますが、関西経済連合会なども先生がおつくりになったこの規格を広く普及させようという呼びかけもされているようですけれども、國廣参考人としては、自分でおつくりになったECS二〇〇〇というものの経済界、銀行界における普及の程度ですね、四年たってどのぐらい普及されているとお考えなのかということが一点でございます。

 それからもう一点は、この規格の中で、コンプライアンスというのは四つのプロセスが必要だ、計画をつくり、実施をして、監査をして、見直すんだ、この四つのプロセスを回していくということが非常に重要だということをおっしゃっていまして、まことにそのとおりだと思います。そこで質問は、それぞれのこの四つのプロセスの責任者ないしは責任部門ですね、取締役会、監査役会、それから内部監査部門が関係部門だと思いますけれども、どこが最終責任を持つべきなのかということをお伺いしたいと思います。

國廣参考人 お答えいたします。

 御存じでない方もいらっしゃると思いますので、ECS二〇〇〇というものについてちょっと説明いたしますと、これは麗澤大学の企業倫理の専門をしている高巌教授を中心としてつくった規格というものです。

 この規格はどういうものかというと、例えばコンプライアンスをやらなければいけないというと、企業はマニュアルをつくったとかいうことでアリバイ的にコンプライアンスに対する施策をとったというふうに、三十ページよりも四十ページのコンプライアンスマニュアルだとか、そういうふうになりがちなんですね。そこで、実際問題、コンプライアンス体制をつくったと言っているところを実際に評価して、本当にそこが正しい意味におけるあるいはリスク管理的観点におけるコンプライアンス体制が構築できているかどうか、それを評価するための評価基準というものがこのECS二〇〇〇というものであります。これは発展型ができておりまして、だんだんバージョンアップをしておるのでございますが。

 まず第一の御質問ですが、どれぐらい普及しているかということですけれども、ちょっと私、これは何社という形で今数字は持ち合わせていないんですけれども、これを参考に各社でいろいろと独自につくっているというものを加えますと、数十社になるのではないかな。ごめんなさい、正確な数字はございません。

 これはオープンなものでありまして、このとおり使えというものではなくて、各企業がまさに自分たちのために本当に使えるようにモディファイして使ってください、そういうものであります。

 あと一点、これとの関係でありますけれども、社会的責任投資という概念がございます。これは定義をするといろいろあるんですけれども、物すごく乱暴にまとめてしまいますと、コンプライアンスあるいはリスク管理の格付をして、コンプライアンスがきちんとできている企業を選んで、そこに投資をし、そういうファンドをつくりましょうという、言ってみれば、そのようなコンプライアンスをただのスローガンにするのではなくて、まさに一般の中から、コンプライアンスの格付の高い企業を選んだファンドを創設して、そこに投資をしていく人を募る。そういう発想のものにこのECS二〇〇〇は進化しております。現に、日本の中でもこのようなファンドができ始めているということを少し付言させていただきたいと思います。

 御質問の第二点でございます。

 コンプライアンスの考え方というのは、先ほど申しましたように、建前だけでやっている企業というのは、何か問題があったときにコンプライアンスマニュアルをうちでは五十ページのものをつくりました、経団連のものを参考にして引き写しただけ、そして、社員研修を一回やりましたと。それで、よし、これで喪に服したのは終わりみたいな形で、もとに戻ってしまうということが結構多いんですね。

 しかし、それではコンプライアンスあるいはリスク管理はできないだろうという考え方で、PDCAというサイクル、すなわち、コンプライアンスの計画を立て、それを実行して、それがちゃんとできているかどうかをもう一回見直して、そしてもう一回さらに新たな見直しを図った新しい制度のもとでやっていく。つまり、常に評価をしながらよりよいものをつくっていく、こういう考え方であります。

 御質問は、それぞれの責任部門はどこかということであったと思いますけれども、私の考え方といたしましては、このPDCAサイクルをちゃんと動かす全体的な責任は取締役会が負って、最終的には経営者、社長ということになるんだろうと思います。そして、取締役あるいは代表取締役がきちっとそのとおりにプランを動かしているかどうかをまた独自の観点で監査役が見ていく、やはりそういうような多重的な監視チェック体制というものが必要になってくるのかなというふうに考えております。

吉田(泉)委員 國廣参考人にもう一つお伺いしたいと思います。

 会社の社員が不正に遭遇した、そのときに、ホットラインといいますかヘルプラインといいますか、社内で内部監査部門等に通知、電話で通報できるというシステムは、大分日本の会社でも広がってきたというふうに言われております。それに加えて、國廣参考人が言われていたのは、私は新聞で拝見したんですが、不正に遭遇した社員に通報義務を課す、コンプライアンス部門、内部監査部門に通報しなければならないというふうにしたらどうだろう、それがこの会社のコンプライアンスを進めていく一つの重要な切り口だということをおっしゃっておられたと思います。私も同感なんですが、現実にそこまで踏み込んでいる会社というのが日本でも出てきているものかどうか、お伺いいたしたい。

國廣参考人 結論から申し上げますと、あります。ふえてきております。

 ホットラインというのは、先ほども御説明しましたけれども、企業みずからが不正はあるかもしれないというリスク管理の概念のもとで、あるかもしれない不正を隠すのではなくて、企業自身がキャッチして是正していく、そういう発想のもの、まさにコンプライアンスを実現するための現実論であります。

 ところが、現実に、いわゆるホットラインをつくりましたという企業は数多いのですが、本当に本音でつくっているところがすべてとは限らない。といいますのは、例えばの例ですけれども、社長が何か最近はホットラインなどというものがあるらしい、うちでも一応つくったことにしろということで総務部長の携帯電話がホットラインになったみたいな、そういうアリバイだけのホットラインをつくっても社員が一体通報するんだろうかという問題があるわけであります。

 したがいまして、ホットラインというものをつくるからには、通報したことによって不利益を受けないとか、あるいは通報者の秘密を明かさないとか、いろいろな手当てがそろって初めてきちんとした企業内ホットライン制度になっていくと私は考えております。したがいまして、私どもが実務的にいろいろな企業にホットライン設置のアドバイスをする業務が多いわけでありますけれども、そのときには、形だけの電話を一本つくるとかメールアドレスを一つつくるだけではだめですよ、必ず社内規定で秘密保持あるいは不利益処分の禁止、さらに言えば社内通報した人に対して不利益処分をした上司に対する厳しい処罰規定、そのようなものまで備えて初めてきちんとした制度になっていくんであろうというふうに考えております。

 そのような一環として、社員に不正を見たら通報しなさいという通報義務を課するということは、我々は必ずそれはリコメンドしてできる限り企業に入れていただくようにしており、多くの企業は、と言っても私が知っている範囲というか私の関与している範囲という形に限定されますけれども、そのような方向になっていると思います。

 といいますのは、人間、見て見ぬふりをする方が楽なのであります。何も自分が通報しなくてもいいやとか、やはり人間はそういうもので、私はそれは自然なことだと思いますので、そこでちょっと背中を押してあげるために通報義務があるんだよということ。しかも、その通報義務をやることは、告げ口とか陰口ということではなくて、まさに会社のリスクを会社内で表に出してそれを是正する、会社を救う行為ですよというようなことの裏づけとしての通報義務というふうに位置づけていくことが必要なのかなと思っております。

吉田(泉)委員 ありがとうございました。

 続きまして、岩原参考人にも質問させていただきます。

 最初は、先ほどの質問ともちょっと重なるんですが、内部監査部門、それから取締役会、監査役会、こういうものの責任の問題でございます。

 今回のUFJの事件の後に、UFJは業務改善計画をつくりました。それをこの間見ましたが、業務監視委員会というのが今までもあったんですが、これを抜本的に改組する。そして、そこに社外取締役を含め、社外の人だけでその委員会を構成して、内部監査についてはすべての権限をそこに持たせるという改革をUFJはしました。そうしますと、今後不正事件が発生したときに、その業務監視委員会ないしそれを担当している担当取締役、この責任はどのぐらい重いものなのかということが一つであります。

 それから、一方で委員会以外に取締役会と監査役会というのが従来どおり存続するわけです。今回のUFJの事件、検査忌避等の事件を見まして、私はちょっと取締役会並びに監査役会への責任の問い方が足りなさ過ぎるというふうに感じております。検査忌避、検査というのは十五年の八月、去年の八月からことしの五月まで一年ほどあったわけですが、その間、取締役も監査役も気がつかなかったのかということであります。先ほど大和銀行の判例では取締役会の全員が問われたというような御説明もありましたけれども、今後、こういう内部監査部門、取締役会、監査役会、それぞれの責任はどう問うべきなのか、お伺いいたします。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 これは委員会等設置会社と監査役設置会社で若干異なりますが、例えばUFJの場合の監査役設置会社について申し上げますが、あくまで経営の最終的な責任を持っておりますのは取締役会でございます。取締役がそういった法令違反行為等が起こらないようにする最終的な義務と責任がございます。

 ただ、当然のことながら、取締役がUFJのような巨大な組織の全部を自分で見ることができないのは当たり前でございまして、従来、法原則としまして信頼の原則というのがございまして、適切な部下に権限を任せてやっているときは、その部下の行為を信頼すれば取締役としては責任を直ちに問われることはないという考え方がとられておりました。

 しかし、現在ここで議論しているコンプライアンス体制というのは、従来ですと、そういう形で部下がやったことだと言って責任逃れがトップの取締役あるいは代表取締役ができてしまうような面があったわけですけれども、コンプライアンスを強調する法律的な大きい意味というのは、いわばそういうことを許さなくする。

 つまり、コンプライアンス体制をきちんとつくっていなかったからそういうことが起きたんだ、もしくは、コンプライアンス体制をきちんとつくっておれば、そのプロセスの中で当然そういう違法行為は発見されて、それこそ先ほどの國廣参考人のお話のように、それが上の方に通報されてきて、トップ、取締役が知ることができるようになったはずだ。もしそういうことがなかったとすれば、そもそもそういったコンプライアンス体制をつくらなかったこと自体に責任があるという形で取締役の責任が問われる。

 そして、監査役については、そういった取締役がきちんとそういうコンプライアンス体制をつくっているかどうかということについて監査をする責任がある。そういうきちんとしたコンプライアンス体制をつくらないこと自身が違法行為になってきますから、違法行為については、監査役にも業務監査権がございますので、それをきちんと見ていなかったとすれば監査役の責任が問われることになる。

 それから、最初に御質問のございましたUFJにおける業務監視委員会でしょうか、実態をよく存じ上げないのですけれども、これは多分、商法上の制度ではなくて、コンプライアンスを担当する取締役のいわば諮問的な制度ではないかと思いまして、現状では、あくまでそれは契約に基づいてきちんと委託された業務の監視をするという範囲で会社に対して責任を負うにとどまると思います。

 会社法的な、商法的な責任の体制から申しますと、最初に申し上げたように、まず取締役であり、それを監査役がちゃんと監視していたかということの責任が問われることになると思います。

 以上です。

吉田(泉)委員 岩原先生にもう一つ、最後の質問ですが、お伺いいたします。先ほども出たかと思いますが、委員会等設置会社の問題でございます。

 先般の商法改正で、アメリカ型の取締役会制度といいますか、新しい会社の制度ができました。岩原参考人はそのときの法制審議会のメンバーだったと思います。

 結局、今まで取締役会が担ってきた経営の業務執行機能と経営を監視する機能というのを分けて、取締役会は監視に専念をする、そして業務執行の方は今度は執行役員会が責任をとるんだ、二つに分けようという趣旨で、去年の四月からこれは施行されているところでございます。結局、この新しいタイプの会社というのは、一言で言えば、コンプライアンスをより重視した会社組織ということだろうと私は思っております。

 そこで質問ですが、新しい委員会等設置会社の普及の状態でございます。大手銀行の普及状態を金融庁に聞いたんですが、りそな銀行は最近これにしたということだそうですが、よその大手銀行はこれをまだ取り入れていないということだそうですけれども、そういう普及状況を先生としてはどういうふうに見ておられるか。

 そして、私は、この新しいタイプを普及させるということが一つコンプライアンス推進の大きな方策だろうと思うんですが、何か推進させるための方策、お考えがあればお伺いしたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 委員会等設置会社でございますけれども、今御指摘のとおり、銀行に関して言えば、多分りそなホールディングスだけが採用していると思います。それ以外の主要な会社について、私も正確な数はちょっとわからないんですけれども、恐らく大手の企業の中では七、八十社ぐらいは採用しているのではないかと思います。

 最初は一部の方からは委員会等設置会社なんか採用する会社はほとんどないんじゃないかとか言われたんですけれども、私としては、期待以上に積極的に採用してくださっている企業があるというように考えています。ただ、これから先どれだけ伸びていくか、そしてまた、これがさらに普及していくにはどうしたらいいかということについては、ある意味でいうと、今後まさに委員会等設置会社に採用された会社がどれだけよりよいパフォーマンスを上げていくかということにかかっているように思います。

 そういう意味で、やや長い目で見ていただいて、本当にそういう会社の方が、業務の上でもまたコンプライアンス等に関しても、よりよい成果を上げたということが示されることによって広がっていくのではないか。近視眼的に見ますと、現在検討されております商法改正の現代化の案では、既存の監査役設置会社について委員会等設置会社に近づけるような改正が考えられておりますので、ある面で言うと、むしろそういうものの普及をやや鈍らせる面がないとは言えないという感じはしているんですけれども、ただ、私は、経営合理性の観点から見ても、委員会等設置会社はかなり合理的な制度だと思っておりますので、長い目で見ればより広がっていくのではないかと思っております。

 以上でございます。

吉田(泉)委員 ありがとうございました。終わります。

金田委員長 次に、田島一成君。

田島(一)委員 民主党の田島一成でございます。

 きょうは、三人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。できる限り意見陳述いただきました内容に沿った形で質問をさせていただきたいと思いますので、順次よろしく御答弁を賜りますようにお願いをいたします。

 まず、順序は変わりますけれども、國廣参考人にお尋ねをさせていただきたいと思います。

 今日の日本の遵法意識の低下、このことを大変私どもは実は心配しておったんですけれども、いや、そうじゃないんだと。先ほど御意見をいただいた中には、横並びの社会から今なおもって企業が脱却できずに同じことを繰り返していることが原因だ、そのようなことをおっしゃっていただきました。

 なるほど、おっしゃってくださるとおり、これだけ日本の企業環境、社会環境が変わりつつあるにもかかわらず、旧態依然とした企業の体質、これには大きな問題があろうかというふうにも思います。どちらかといえば、コンプライアンス自体がまさに企業のアリバイづくりのために形骸化してしまっているところにも問題があろうかというふうにも思いますし、実際に、おっしゃってくださったような旧大蔵省の護送船団方式のもとに企業が横並びの考え方から脱却できずに今なお自分たちでルールづくりをしようとできていない、そんなところにやはり問題があるのかなと私自身も改めて感じさせていただいたところであります。

 先生がいろいろな新聞等でコラムをお書きいただき、それも、企業の不祥事が起こればそのたびに何か國廣先生が、先生と言うと怒られるそうですけれども、御登場いただいているようですけれども、今回、金融関係のコンプライアンスが本当に問われる時代に入ってまいりました。御意見の中にも、コンプライアンスの取り組みに非常に差が出てきて、とりわけ時代をしっかりと見据えている企業もしくは痛い目に遭って本当に真剣に考えている企業は非常に熱心だというふうに今おっしゃってくださったわけなんですけれども、でも、よくよくその問題点を追及していけば、コンプライアンスを確立することが目的なのか、それとも企業が痛い目に遭う前に市場であるとか消費者が痛い目に遭わないようにするためにコンプライアンスというものをつくるべきではないかなというふうに感じるんです。ぜひこのあたり、企業が痛い目に遭う前に消費者であるとかマーケットが痛い目に遭うということに対する思い、これがどうも企業に伝わっていないように感じるんですけれども、そのあたりをもう少し詳しくお教えいただけませんでしょうか。

國廣参考人 今おっしゃった点は、極めて大事なことであろうと思います。

 すなわち、痛い目に遭ったからちゃんとなるというのは、これは確かに、痛い目に遭うことを繰り返してなくなってしまう会社に比べればいいわけであります。しかし、自分が痛い目に遭うということは、まさに今おっしゃったように、社会に害悪を及ぼすという行動をしているからということになります。

 したがいまして、コンプライアンスの本来の目的というのは、そもそも、痛い目に遭う遭わないの前に、社会に対して迷惑をかけない、ルール違反をしない企業をいかにふやし、つくっていくかということにほかならないわけでございまして、コンプライアンスという問題の究極の目的はそこにあろうかと考えます。ただ、現状は余りにもいろいろな問題が多いというところで、あめとむちのむちも必要かなというような状況であろうと考えます。

 そういたしますと、さらにだんだん日本の社会に応じた企業が、時代を見る目がふえてほしいと私は思うんですけれども。そうなりますと、先ほどちょっとお話しいたしましたように、不祥事を起こして何かをやっているのではなくて、まさに時代を見てきちっとコンプライアンス体制をつくっている会社、これをいかに社会の側からも正当に評価をするのかというところ、この観点が必要になってくるし、その試みの一つが先ほど申し上げました社会的責任投資というようなもので、コンプライアンスがきちっとできている企業を応援しましょうというような仕組みづくりというものは、これからますます必要になってくるのではないのかなと思います。

 それともう一点、今後、時代を見た、要するに消費者あるいは株主、要するに社会のために、社会の公器としての役割を果たす企業をいかに応援するかということからすると、ある種、私は、前科にこだわらないというか、昔そういう事件を起こしたけれども、そこできちっとコンプライアンスができている企業、そういう企業もやはりそういうファンドの中に取り入れるなどということももちろん必要であると思います。しかし、前科を犯してまだ全然だめだよという企業は、これは御退場いただくというようなことで、将来に向けたコンプライアンスという新しい概念というのは、まさにおっしゃるとおり、私はこれから必要になってくる時代かなというふうに考えております。

田島(一)委員 ありがとうございます。

 常々、参考人の記事を拝見するたびに、性善説に立った、それこそ本当に懐の広さをいつも感じさせてもらっております。内部告発に対して、先ほども抑え込むのではなくて未然に把握をし、それを自助努力としてやっていくべきだというようなこと、いろんな記事にもお書きいただいておるんですけれども、そんな中で、例えば、さきの通常国会でも公益通報者保護制度が一定前進を見たというふうに思っているんですが、まだまだ不備な点は多々あろうかと思いますし、実効性が高まっているかといえば問題点もまだまだあります。

 そんな中で、國廣参考人の方は、いわゆる直行式ではなくて二段式を基本にすべきだということを常々おっしゃっているんですけれども、今回のUFJの不祥事等々を含めて、本当に今企業の中で自浄作用というものが働いているのかどうか。私も、できれば企業が、銀行が前向きに、自分たちでまずみずから襟を正していこうというコンプライアンスの確立を信じたいところなんですけれども、果たして本当に直行式ではなくて二段式でまだ期待をしてもいいのかどうか。ある意味では、痛い目に遭う消費者であるとかマーケット、社会のことを思えば、非常にその辺は不安を感じるんですけれども、それでもやはり性善説的な立場にお立ちにならなければならないのかどうか、お教えいただきたいと思います。

國廣参考人 お答えいたします。

 二段式、直行式ということを少し御説明を申し上げますと、二段式と申しますのは、まず企業が自分の企業の中でできるだけホットライン等で悪い情報をみずからとって、それが是正できないとき、それが第一段階で、だめだったら外に告発してくださいねというのが二段式でありまして、直行式というのは、企業内で不正があったらすぐにぼんと外に出していくべきである、そういう考え方でございますが、やはり企業によると思います。

 すなわち、企業一般というものは多分ないのかなと思いまして、この企業であれば二段式であっても、あるいはいわゆる性善説的に考えてもいいのかなという企業と、そうではない企業というものがあるのではないのかなと思います。したがいまして、そうではない企業という部分については、社会に害悪を及ぼす前に早目に直行的な通報が行われる、そういう必要性というものも私は高いのかなというふうに思います。

 では、Aという企業はどっちだ、Bという企業はどっちだという形の仕分けというのはなかなかできないわけで、私自身の経験でもそんなに何百社も知っているわけではないので、一概には言えないと思うのですけれども、どちらかというと、ちょっと消費者的な観点が弱いとおしかりを受けるのかもしれませんけれども、そういうつもりはないんですけれども、例えば企業内で見ると、企業の社員から見ると、そこは生活の場である、そして、終身雇用制は薄れたとはいえ、まだできれば長く勤めたいと思っている社員の側から見ると、自分が意見を社内で言うことによって是正されるということが企業もハッピーだし自分もいい。もちろん、外に出しても企業にいていいわけですけれども、なかなか現実としてはいにくくなる。とすれば、企業にとっても社員にとっても、本当に是正されるのであればそれの方がいいのかなと。

 しかし、そこに余りかかずり合うがゆえに時間がたち過ぎて消費者に迷惑がかかる、そのようなことはもちろん許されないことであろうとは思いますけれども、どちらかというと、まず全体の企業意識を変えるためにリスクはあるんだ、それをみんな出してよね、それがいいことなんだ、そういういい企業になろうよというような、ちょっと甘ちゃんかもしれませんけれども、私としてはそちらの方でまず第一次に考えて、それができない企業には退場してもらうということがよろしいのではないかと思います。

田島(一)委員 ありがとうございました。

 企業の不祥事が起きるたび、それこそ國廣参考人の新聞記事を見ている、そんな繰り返しのような気が正直しております。國廣参考人の新聞記事が見られないような時代を本当に私ども期待をしたいなと、何か変な意味の期待ですけれども、そんなふうに実は正直思ったりもしております。ありがとうございました。

 続いて、全銀協の斉藤参考人の方に質問をさせていただきたいと思います。

 コンプライアンスの徹底、とりわけ銀行については公共性も高いということでどこよりも求められる業界だというふうにほかの参考人の方からも御意見をいただき、そのあたりは随分御認識をいただいているというふうに把握をさせていただきました。

 平成九年の七月、先ほどもお話しいただいたとおり、銀行の社会的責任とコンプライアンスというタイトルで、各銀行の責任を随分強く、また詳しくお立ていただいたところでありますけれども、現在、各銀行がそれぞれにコンプライアンスプログラムの確立に取り組んでいらっしゃるというお話ですけれども、実際、全銀協という立場でどれくらいそのプログラムの確立状況というものを把握していらっしゃるのか、まだそれが不十分だというところに対しては、どのような声、アドバイスもしくは手だてみたいなことをなさっていらっしゃるのか。ちょっとその現状あたりをお教えいただけませんでしょうか。

斉藤参考人 各銀行のコンプライアンス体制の充実の度合いを把握しているかというのが最初の御質問かと思いますけれども、恐縮でございますけれども、具体的に各銀行がどういうコンプライアンス体制をとって、それがどの程度実際に効果を上げているかということまで私どもの方では承知をいたしておりません。申しわけございませんけれども、その点についてはお答えができないということでございます。

田島(一)委員 恐らく国民の皆さんは、全国銀行協会という名前を見聞きされると、全国の銀行を総まとめしたいわば最高決定機関のような、そんな印象を持たれるのではないかと思います。ある意味、銀行での不祥事が起きるたび、コンプライアンスの確立を全銀協として御提案をされている、しかしながら、どこに向かって言っているのかな、私自身もそんなことを思いながら、この平成九年の発表を読ませていただいた次第であります。ある意味では、全銀協という組織が今後この銀行業界においてどのような位置づけなのか、その辺は私どもが踏み込むべきところではないということは十分承知しておるんですけれども、全国の銀行協会を束ねている、その表現も適切かどうかわかりませんが、その立場というものを十分に御理解をいただいた上で、このコンプライアンスの確立に向けて、汗と、知恵を絞っていただく、そんな努力をぜひ図っていただきたい、要望をさせていただきたいと思います。

 あわせて、先日この財務金融委員会で、伊藤大臣が、来年度、平成十七年度には検査官を質、量ともに充実させていくという御答弁をなさいました。三十五名増員する要求をしている、実効性の確保につながる、そんな答弁をいただいたんですけれども、過日、新聞の意見等々を拝見していますと、金融庁の検査のあり方について疑問を投げかける声が銀行の業界の現場から上がっているように聞いています。検査官によっては検査の基準や解釈が異なるというような声、また一方では経験不足の検査官がふえたというような声が上がっているようでありますが、その辺を把握していらっしゃるかどうか、また、そういう事実の声を受けとめていらっしゃるかどうか、その評価も踏まえてお答えをいただけないでしょうか。

斉藤参考人 お答えを申し上げます。

 私ども全国銀行協会として、金融検査についてタッチをいたす機会というのは、例えば、金融検査マニュアルの改定などの際に、業界の大体の意見を取りまとめるというようなことをいたしまして、適宜意見を申し上げるということはやっております。

 ただ、当協会自体は金融庁の検査を当然のことながら受けておりませんし、また、実際に金融庁の検査がどのような形で行われているかということについても承知をいたしておりません。各銀行からただいまお尋ねのようなことについて意見なり考え方なり何かの動き方をしてほしいというようなお話についても伺ったことはございません。

 以上でございます。

田島(一)委員 これから私たちはこの検査体制のあり方を委員会で議論しなきゃいけない中で、全銀協さんともあろう組織がそういった声を把握していらっしゃらないというのは、まさかと、今、正直耳を疑ったところであります。

 全銀協という全国レベルの組織が、そうした地方銀行であるとか銀行各行の現場の声、そして検査体制のあり方についていろいろと御意見を出していらっしゃる方がいる、持っている方がいらっしゃる、にもかかわらず把握をしていない。これは、知るべき組織ではないという御認識のもとにお答えいただいたのか、もしくはマスコミが勝手にそういう声を拾い上げて記事にしているという立場でお答えになっているのか、それとも、今ある金融庁の検査体制には何にも問題ないというふうにお考えなのか、そのあたりをもう一度整理してお答えいただけませんでしょうか。

斉藤参考人 全銀協に対する期待というものをいただいていることは大変ありがたいというふうに思っております。

 ただ、全国銀行協会の組織、ちょっと申し上げますと、私どもの全国銀行協会というのは、どちらかといいますと、実際の銀行の業務についてどういう形で共同の事業ができるかとか、あるいは自発的なお話としてどういう将来の展望を開けるかとか、こういうようなことについて寄り寄り相談をする会でございまして、法人格も持っておりませんし、基本的には任意の団体になっております。

 そういう立場の中で、具体的に各銀行が実際の第一線の業務の部分についてお話をする際には、非常に気をつけなければいけないのは、先ほど来横並びというようなお話もございましたけれども、個々の経営というものについて余り大きく踏み込むような、深く踏み込むようなことは基本的にはやるべきではないだろうという立場にあることは従来からの連綿たる伝統でございまして、そういう形の中では、いわゆる自主規制機関であるとか、何か監督をしていくというような形の仕事というのは従来からやっていないということで、ただいまおしかりをいただいたような業務の仕方をしているということでございます。

田島(一)委員 わかりました。私どもの全銀協に対する認識不足だったかもしれません。その辺は御容赦いただきたいと思います。

 ただ、ではどういった形でそういう地方の銀行もしくは各銀行の現場の声というものを金融庁の検査体制のあり方についての意見として伝えていく場があるのか、それをお教えいただけないでしょうか。私どもが期待していた全銀協にかわる何か違う機関があるんだったら教えてください。

斉藤参考人 これにかわる機関という形のことで、お答えになるかどうかわかりませんけれども、今地方銀行というお話が出ましたけれども、各地方銀行の団体というのは、地方銀行協会というのがございますし、それから第二地方銀行協会というのもございますし、各業態ごとにそれぞれの特性に応じた形で業種が集まっているということはございます。

 それから、最近は、金融庁さんの方につきましても、民間との連携をよくしたいという御意向が大変強くなっておりまして、こういう機関という形を必ずしもとらなくても、例えば月に一回定例的に各銀行からいろいろな要望を聞くとか、あるいは金融庁としての監督の方針なんかをお話しになられるというようなことをやっておりますので、必ずしもいつも機関として何かまとめてという形でなくてもよろしいのではないか、そういう部分もあるのではないか、こういうふうに思っております。

田島(一)委員 ちょっとがっかりもしているんですけれども、時間もありませんので、せっかくお越しいただきました岩原参考人の方の質問に移らせていただきたいと思います。

 今の質問とちょっと重複するんですけれども、金融庁の検査体制のあり方について岩原参考人の御意見もぜひお聞きしたいと思うんです。

 岩原参考人は、それこそ金融検査マニュアル検討会の座長として今日まで大変御苦労いただき、立派な金融検査マニュアルをおつくりいただいた中心的人物であるというふうに理解をしております。非常に時間をかけ、また、非常に細かな部分にまで手と目を配ってくださった、そんなふうに敬意を表するところなんですけれども、残念ながら、一部の銀行の現場の声だとしても、検査官の質であるとか、今日の検査の基準や解釈が異なるというような声が上がっているとすれば、何かやはり問題点があるのではないかというふうに思います。せっかくマニュアルという仏をつくっていただいたのに、何か魂が入っていないような、そんなふうにも理解できるんですけれども、おつくりいただいたこの金融検査マニュアルをしっかりと踏まえていただくための検査体制がなければ十分だとは言えないと思います。

 その辺、おつくりいただいた中心人物として、参考人の御意見、そして、今の検査体制についての御意見を、きょうは政府の方々もいらっしゃいませんので、思いのうちをぜひお聞かせいただきたいと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 大変厳しい御質問でございますが、金融検査マニュアルにつきましては、そもそも策定に至るまでが大変な過程でございまして、先ほどのお話とは違いまして、むしろ検査マニュアル作成段階では、委員として加わっていただいておりました各金融機関の代表の方から、当時の検査体制等に対して非常に厳しい御意見等もあり、いろいろな改善の御要望等もあり、それを踏まえた上で検査マニュアルは作成されております。

 検査体制の一つの問題として、やはり絶対的に人が少ないということ。これは例えばアメリカですと、すべての検査官を合計しますと八千から一万人ぐらいいると思います。それに対しまして、日本は、御存じのとおり金融庁本体でいえば三百人台ぐらいではないか。無論、そのほかに日本銀行の考査もございますけれども、それはあくまでまた別筋のものですので、まず何よりも人が足りない。

 それから、検査官の質のことを先ほど御指摘になりましたけれども、一つは、急に人をふやさなければならないということになりますと、最初は多分トレーニングの問題等もあり得ると思いますし、それから、金融業務が最近非常に高度化してまいっておりますので、そういう新しい金融商品に対する知識等を検査官の人が身につけていくにはそれなりの時間もかかりますし、私は、現在の実態はよく知りませんけれども、そういう点で多分改善の余地があるのかもしれないという感じはしております。

 さっき申しましたように、まず絶対的に人が足りなくて、そして、そういう点で、今急速に充実している過程ですから、もう少し時間をかけて全体の質も高めていく必要があると思います。そしてまた、そういう検査の現場からのいろいろな声が金融庁にもっと反映してほしいということは、これは検討会のときも金融機関の方から実は随分承っておりまして、まさに金融庁の方も、一種のそういうフィードバックを受けてみずからの検査過程を改善していく必要は大きいと思いますので、そういうことはぜひ努めていただけたらと思います。

 最後に、申しわけありません、先ほど私申し上げた点で誤りがございましたので、訂正させていただきます。銀行の中で委員会等設置会社に移行したところは、りそな銀行以外にも新生銀行、足利銀行等現在六行があるようでございます。訂正させていただきます。

田島(一)委員 ありがとうございました。多分、裏で金融庁の方々も聞いていただいていたかと思いますので、裏の金融庁の皆さんにはぜひ参考にしていただきたいと思います。

 私ども、やはり大切なのは消費者でありマーケットであり社会であろうかと考えます。決して銀行憎しでこのコンプライアンスづくりに水を差そうなんという気持ちは毛頭ございませんし、必要以上に手厳しくやったところで、いいものが生まれるとも思っておりません。國廣参考人が何かの記事で、褒めて企業を伸ばすというようなことをお書きいただいていました。私自身も小さい子供を持っておりますから、子育てとまるで一緒なのかな、そんなふうにも実は思ったりもしております。

 どうぞ、これから先、こうした不祥事が本当に二度と起こらないようなためにも、政府としてやらなければならないこと、また民間レベルで御尽力いただかなければならないこと、十分踏まえて、それぞれが頑張れるような、そんな社会づくりのために私どもも頑張りたいと思います。どうも、きょうは本当に貴重な時間、ありがとうございました。

金田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 まず、全銀協の斉藤参考人にお伺いしたいと思います。

 コンプライアンスの取り組みにつきまして、個別銀行と全銀協、協会との関係ですね、この点についてお聞きしたいんですが、銀行協会は事業者団体である、したがって、指導できる立場にはないということが言われていますが、個別のいろいろな法令違反、事件が起きますね、それについて一体協会としては何ができるのかということが問われると思うんです。

 先ほどの議論を聞いておりましたら、コンプライアンスの充実の体制、度合いがどのようにできているかは把握していないということでありまして、そうなりますと、状況の把握もできないということであれば、協会としての役割というのが一体どこにあるのか非常に疑問に思うわけですが、コンプライアンスの取り組みを協会として一体どのように進めるべきと考えているのか、まずはその点についてお聞きしたいと思います。

斉藤参考人 お答えをいたします。

 全銀協としてのコンプライアンスの拡充というか充実につきまして、私どもの方で考えておりますのは、事業者団体としてできることの限界まで考えた話でいきますと、あるいはやるべき仕事ということの関係で考えますと、やはり倫理憲章の精神というものの徹底をどこまで図れるかということが一番の問題なんだと思います。

 各銀行のコンプライアンスの充実度合いについてはかることができないと言っているのは、非常に短絡的なお話を申し上げましたけれども、現実の問題として、例えばコンプライアンスを、先ほど来岩原先生なんかがおっしゃっておられますコンプライアンスマニュアルといいますか、金融検査マニュアルの中に盛り込まれているコンプライアンス事項、こういうものについて基本的に最低限守られているということは、多分、特段の事件が起きなかったりあるいは行政指導なんかが行われていないところを見ますと、最低限充実はされているんであろうとは思います。

 ただ、そのことについて個々に私どもの方が報告を求めたり、あるいはそのことについて確認をしていくというようなところについては、各銀行から業務の負託を受けていないというのが一つのお答えでございます。

佐々木(憲)委員 倫理憲章の徹底ということをおっしゃいまして、余りそれ以上のことをやらないみたいな話なんですが、例えば、ずばりお聞きしますけれども、UFJの検査忌避事件というのがあって、大問題になりましたが、これは一体どこに問題があるというふうにお思いなのか。そしてまた、全銀協としては、その事件以後、どういう取り組みをやったのか、やろうとしているのか、その点についてお聞きしたいと思います。

斉藤参考人 少しさかのぼってお話をさせていただきます。

 私ども、不祥事件が起きたときに、どういう形で対応してきたかということについてお話を申し上げたいと思いますけれども、そんなに前までさかのぼらないで、比較的直近のところで、記憶に残っているものを申し上げますと、例えば、大和銀行の事件が先ほど出ましたけれども、大和銀行のニューヨーク支店の問題が起きたとき、こういうときは、これについて私どもとしてコンプライアンスハンドブックというものをつくりまして、海外拠点においてどういう法令を遵守しなければいけないのかというようなことについて各銀行に徹底するというようなことを一つはやっております。

 それから、その後、第一勧業銀行の商法違反事件というのが、まだ御記憶にあるかと思いますけれども、こういうものがあったときには、銀行の社会的責任とコンプライアンスについてという、いわば申し合わせといいますか確認事項をやっておりまして、そのときにあわせて倫理憲章をつくった、こういう形でやっております。

 そういうような流れの中で、あとは都市銀行を中心としました大蔵省、日銀等に対する贈賄事件というのがございまして、この件につきましては、国家公務員との接触に関するコンプライアンスの留意点というようなことで注意点を取りまとめて各銀行に配付をする、こういうようなことをやっております。

 UFJ銀行のお話を最後に申し上げますけれども、UFJ銀行の件につきましては、先ほども触れましたけれども、自粛勧告等委員会というのを開催いたしまして、自粛すべき措置について決定をしたわけでございまして、この決定においては全銀協活動を当分の間自粛するということがUFJ銀行については行われた。そのとき副会長、理事という形で要職についていたUFJ銀行の沖原頭取は、いずれもこの先、一年間でございますけれども、全銀協活動の停止が行われた、こういうことが事実でございます。

 それから、先生のお話の中にございました、どういう事実を認識してそういうことになったのかというお話でございますけれども、この辺のところにつきましては、私どもがある意味当事者から説明を受けたものと、公表されているような例えば記者会見でのお話だとか金融庁さんからのお話であるとか、こういうようなものの突き合わせはいたしておりますけれども、そういう突き合わせの中でこの自粛措置が適当であろうということで決定をしたものでございます。

佐々木(憲)委員 今のは経過と結論についての御説明でありました。私がお聞きしたかったのは、あのような事件が起きた原因をどのように見ているかということをお聞きしたわけです。

 つまり、協会としては、いろいろ過去の事件についての対応を、努力をして、コンプライアンスについてのさまざまな文書なども発表し徹底してきた、あるいは倫理憲章を徹底してきた。しかし、それをやっていたにもかかわらず、こういう事件がまた発生したわけです。したがいまして、今までやってきたそういう努力というものが現実に報われていないわけですね。なぜそうなのか。そこはやはりもう少し突っ込んで分析をし、その改善方策を打ち出さないと、また同じことが繰り返されるということも考えられますので、そこをお聞きしたんですが、いかがでしょうか。

斉藤参考人 ルールを整々と守るということ以上には、本当にこういう問題というのはないんだと思うんですね。

 それで、なぜこういう形で何回も何回も起きてくるんだという話は、恐らく、逃げているわけじゃないんですけれども、コンプライアンスに携わっておられる方の、皆さんの、モグラたたきのようにいろいろなものが出てくるということはあるんだと思います。ただ、事象そのものは、それぞれにそれぞれの事象が恐らくあって、同一のものは非常に少ないんだろうなとは思います。

 基本的には、私個人で申し上げると、やはり粘り強く、ルールの遵守というものがいろいろな社会生活の基本なんだということについて、それは企業も変わらないし私生活も変わらないし、そういう形で基本的に身についていかないと、なかなか根絶ができないようなことになるんではないかというふうに考えております。

佐々木(憲)委員 それでは、岩原参考人と國廣参考人にお伺いします。

 西武鉄道グループの有価証券報告書虚偽記載事件というのが大問題になりまして、上場廃止というようなこともあります。これは、非常に長期間この問題が続いていた。その原因というものが一体どこにあるというふうに考えておられるか。公認会計士とか監査法人というのは、当然こういうものをチェックするのが役割だろうと思うんですが、一体どうしてこういう事態を見逃してきたのか。監査のあり方にも触れまして、コンプライアンスの問題についてこの事件とのかかわりでお話をいただければと思います。

岩原参考人 お答え申し上げます。

 西武鉄道事件の詳細は存じませんので、具体的にどういう点が問題だったのかということはよくわかりませんけれども、確かに、一般論として言えば、御指摘のとおり、二十七年間ですか、同じ個人の公認会計士の方が監査を続けて、そういった違法行為をチェックすることができなかった。やはりこれは恐らく制度的に問題があるところだと思っております。

 最近、法律が改正されまして、アメリカの、先ほど申し上げましたサーベンス・オクスレー法などに倣って七年間で公認会計士あるいは監査法人は交代しなければならないということが決められたわけでありますけれども、そういうことは最低限必要なことでございまして、どうしても同じ人が見ていればそこによどむものが出てくることも確かでございます。先ほど性善説の話がございましたけれども、一方で人間は誤りを犯す存在でもありますので、どうしてもそういうふうに同じことが続きますと問題が出てきますので、適当な期間で交代をしてほかの人の目が入るようにするとか、そういう制度的な改善はやはり今後必要である、そのためには証券取引法の改正がぜひ必要であると考えております。

 以上です。

國廣参考人 西武鉄道の事件ということで、私、個別の事件は新聞等で読んでいる程度しかわかりませんので、それを前提にお話をいたします。

 まず、有価証券報告書虚偽記載の行為というのは、私は日本の株式市場を偽る重大な事件であると考えております。当然これは許しがたいことであると考えております。しかも、ことしの春に総会屋事件を起こしています。それから明らかになったのかどうかわからないんですけれども、そのような企業の体質は非常に問題が大きいというふうに私は個人的に思っております。

 さっきから性善説の話が出ているんですけれども、みんなが性善だよと言っているわけではなくて、このような行為が組織的に行われる企業というものに対してはやはり厳しい対応がなされてしかるべきだろうと思います。

 一点、長期間なぜこのようなことが起こったのかということで、一般論的に考えますと、コーポレートガバナンスあるいはコンプライアンスを考える場合に、株主主権的に考える考え方というのがアメリカ的な考え方で、要するに株主の利益を害する行為はいかぬよとか、あるいは株主代表訴訟で経営の暴走をとめましょうということ、これは株主を無視するような経営はいかぬという観点で、これは非常に重要だと思うんです。けれども、事この問題に関しますと、最大の株主がやっているという問題なんですね。その観点からいたしますと、単に株主主権論だけではなかなか説明がつきにくい。

 じゃ、何が必要なのかというと、これも私の個人的な見解でございますが、企業というものは社会の公器である、すなわち、株主の単なる利益のための持ち物ではなくて、世の中のために活動し、そして株主のため、市場のために活動しなければいけない。最終的には、その経営者、あるいは大株主でも同じだと思いますけれども、そこの自覚という、非常に倫理的な部分というものを常に考えている経営者、理念ということでもいいのかもしれませんけれども、やはりそこに行き着くのかなというふうに感じている面がございます。

 したがいまして、大株主がいる会社だけじゃなくて一般の公開企業においてももちろんですけれども、どのような企業であっても社会のための存在であるということ、その自覚というものはすべての前提として必要なのかなというふうに思っています。

 公認会計士の役割、あるいは、たしか株式担当者が全然かわってなかったとかいうような問題もあったかと思いますけれども、企業の大きな不正が行われる場合というのは、大体、外部の目が入らない、あるいは一人の担当者がずっとやっているという、秘密性ということであろうかと思います。したがいまして、外部の目を入れるとか、あるいは担当者を交代していくとか、そういう透明性といいますか、そういう概念がやはり必要なのかなと思います。

 それと、これは余計なことかもしれませんが、外部の目を入れると言いますと、必ず不祥事を起こした企業は、外部の偉い人が何か委員会に入って、それでいつの間にか何をやっているんだかというようなことになる例もないとは言えない。西武がそうであると言うわけではありませんけれども。やはり外部の目を入れるというときには、その入った外部がどれだけ活躍できる権限を与えられるのかということがないと、単純なアリバイ的な外部の目ということになってしまうおそれがありますので、透明性、外部の目という場合は、きちんと権限を持たせる意味での入れ方が必要になってくるのではないかと私は考えております。

 以上です。

佐々木(憲)委員 三人の参考人の皆さん、本当に長時間、貴重な御意見をお聞かせいただきましてありがとうございました。

 以上で終わります。

金田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 参考人各位におかれましては、御多用中のところ御出席いただいて、貴重な御意見を述べていただきまして、本当にありがとうございます。委員会を代表しまして、厚く御礼を申し上げます。

 次回は、来る二十四日水曜日午後一時五十分理事会、午後二時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後三時七分散会


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