衆議院

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第9号 平成20年1月11日(金曜日)

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平成二十年一月十一日(金曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 原田 義昭君

   理事 大野 功統君 理事 奥野 信亮君

   理事 後藤田正純君 理事 田中 和徳君

   理事 野田 聖子君 理事 中川 正春君

   理事 松野 頼久君 理事 石井 啓一君

      石原 宏高君    小川 友一君

      越智 隆雄君    大塚  拓君

      亀岡 偉民君    木原  稔君

      佐藤ゆかり君    鈴木 馨祐君

      関  芳弘君    谷本 龍哉君

      とかしきなおみ君    土井 真樹君

      中根 一幸君    萩山 教嚴君

      林田  彪君    原田 憲治君

      広津 素子君    宮下 一郎君

      盛山 正仁君    山本 有二君

      池田 元久君    小沢 鋭仁君

      階   猛君    下条 みつ君

      鈴木 克昌君    平岡 秀夫君

      古本伸一郎君    大口 善徳君

      佐々木憲昭君

    …………………………………

   財務大臣         額賀福志郎君

   国務大臣

   (金融担当)       渡辺 喜美君

   内閣府副大臣       木村  勉君

   内閣府副大臣       山本 明彦君

   財務副大臣        森山  裕君

   財務大臣政務官      宮下 一郎君

   政府参考人

   (財務省国際局次長)   中尾 武彦君

   参考人

   (日本銀行総裁)     福井 俊彦君

   参考人

   (日本銀行副総裁)    武藤 敏郎君

   参考人

   (日本銀行理事)     稲葉 延雄君

   参考人

   (日本銀行理事)     山口 広秀君

   参考人

   (日本銀行理事)     水野  創君

   財務金融委員会専門員   首藤 忠則君

    ―――――――――――――

委員の異動

一月十一日

 辞任         補欠選任

  とかしきなおみ君   大塚  拓君

  松本 洋平君     亀岡 偉民君

同日

 辞任         補欠選任

  大塚  拓君     とかしきなおみ君

  亀岡 偉民君     松本 洋平君

    ―――――――――――――

平成十九年十二月二十七日

 自主共済の健全な発展と運営に関する請願(野田佳彦君紹介)(第一一一七号)

 同(志位和夫君紹介)(第一一一九号)

 同(内山晃君紹介)(第一一六六号)

 消費税大増税反対に関する請願(志位和夫君紹介)(第一一二〇号)

 中小自営業の家族従業者等のための所得税法の改正等に関する請願(細野豪志君紹介)(第一一三六号)

 同(玄葉光一郎君紹介)(第一一五二号)

 消費税増税反対、住民税をもとに戻すことに関する請願(楠田大蔵君紹介)(第一一五一号)

 保険業法の適用除外に関する請願(内山晃君紹介)(第一一六五号)

平成二十年一月九日

 保険業法の見直しを求めることに関する請願(塩川鉄也君紹介)(第一一八五号)

 消費税増税反対、住民税をもとに戻すことに関する請願(塩川鉄也君紹介)(第一一八六号)

 格差社会を是正し、命と暮らしを守るために庶民増税の中止を求めることに関する請願(笠井亮君紹介)(第一一八七号)

 酒税法の一部改正に関する請願(川内博史君紹介)(第一二一三号)

 中小自営業の家族従業者等のための所得税法の改正等に関する請願(大畠章宏君紹介)(第一二一四号)

 自主共済の健全な発展と運営に関する請願(太田和美君紹介)(第一二一五号)

 庶民増税反対に関する請願(穀田恵二君紹介)(第一二一六号)

 保険業法の適用除外に関する請願(木挽司君紹介)(第一二五一号)

 同(鈴木克昌君紹介)(第一二五二号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)


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     ――――◇―――――

原田委員長 これより会議を開きます。

 金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として日本銀行総裁福井俊彦君、副総裁武藤敏郎君、理事稲葉延雄君、理事山口広秀君、理事水野創君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として財務省国際局次長中尾武彦君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

原田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

原田委員長 去る平成十九年十二月十一日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、国会に提出されました通貨及び金融の調節に関する報告書につきまして、概要の説明を求めます。日本銀行総裁福井俊彦君。

福井参考人 おはようございます。日本銀行の福井でございます。

 ただいま委員長から御説明がございましたとおり、日本銀行は、昨年十二月に、平成十九年度上期の通貨及び金融の調節に関する報告書を国会に提出いたしました。本日、日本銀行の金融政策運営につきまして詳しく御説明申し上げる機会をちょうだいし、厚く御礼を申し上げる次第でございます。

 最初に、最近の経済金融情勢について御説明を申し上げます。

 我が国の景気は、住宅投資の落ち込みなどから減速しているというふうに見られますが、基調としては緩やかに拡大しております。

 この点を少し詳しく御説明いたしますと、まず、住宅投資は、改正建築基準法施行の影響から大幅に減少をいたしております。また、原材料高の影響もございまして、企業の業況感にはこのところやや慎重さが見られております。もっとも、世界経済が地域的な広がりを持ちながら拡大を続けておりますもとで、日本からの輸出は増加を続けております。また、企業収益が総じて高水準で推移する中、設備投資も引き続き増加基調にございます。在庫は出荷とおおむねバランスがとれた状況にございまして、設備や人員などの面でも、調整圧力がかかっている、こういうわけではございません。家計部門について見ますと、一人当たり名目賃金はやや弱目の動きとなっておりますけれども、雇用者数の増加が続く中で、雇用者所得は緩やかに増加をしております。そのもとで、個人消費は底がたく推移しているという状況でございます。こうした内外需要の増加を背景に、生産は増加を続けております。

 このように、生産、所得、支出の好循環メカニズムは基本的に維持されていると考えられます。したがいまして、景気は、当面住宅投資が低調に推移するもとで減速はいたしますものの、その後緩やかな拡大を続けるというふうに見られます。

 ただし、国際金融資本市場におきましては、米国サブプライム住宅ローン問題に端を発した動揺が続いております。米国、欧州の証券化商品市場は機能が大きく低下しておりまして、各国の株式市場も引き続き不安定な状況にございます。また、米国経済の下振れリスクなど、世界経済についての不確実性が高まっております。国際金融資本市場や世界経済の動き、さらには、原油価格の高騰など原材料価格の上昇の影響などにつきましては、引き続き注視していく必要があると考えております。

 物価の面では、国内企業物価は、国際商品市況高などを背景に、三カ月前との比較で見て上昇しております。消費者物価指数ですが、生鮮食品を除くベースで見ますと、その前年比は、昨年十月にプラス〇・一%とプラスに転じまして、十一月にはプラス〇・四%というふうになりました。先行きにつきましては、当面は石油製品や食料品価格の上昇などから、また、より長い目で見ますと経済全体の需給ギャップが需要超過方向で推移していく中、プラス基調を続けていくというふうに予想されます。

 金融の面では、企業金融をめぐる環境は引き続き緩和的な状態にございます。CPや社債といった資本市場を通じた資金調達環境は、下位格付先では発行スプレッドがやや拡大いたしておりますけれども、全体として見れば良好な状況にございますほか、民間銀行は緩和的な貸し出し姿勢を続けております。こうしたもとで、民間銀行貸し出しは緩やかに増加をしておりまして、CP、社債の発行残高は前年を上回って推移しているという状況でございます。

 次に、金融政策の運営について申し述べさせていただきます。

 日本銀行は、これまで、金融環境は極めて緩和的であり、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長軌道をたどるのであれば、金利水準は引き上げていく方向にある、そして、引き上げのペースについては、予断を持つことなく、経済、物価情勢の改善の度合いに応じて決定する、こういう考え方で金融政策を運営してまいりました。

 日本銀行といたしましては、今後も、経済、物価情勢や内外の金融市場の状況などをもとに、日本経済が物価安定のもとでの持続的な成長軌道をたどる蓋然性が高いということをしっかりと確認し、上下両方向のリスク要因を十分点検しながら、適切な金融政策を運営してまいる所存でございます。

 なお、金融政策に直接該当する事項ではございませんが、日本銀行は、平成十四年から平成十六年までの間、銀行による保有株式の価格変動リスク削減努力を促す観点から、銀行保有株式を買い入れました。本件株式につきましては、平成十九年十月、つまり昨年の十月から市場での売却処分を開始し、平成十九年十二月末時点での保有株式の簿価は約一兆五千億円というふうになっております。処分に当たりましては、日本銀行の損失発生を極力回避するとともに、処分時期の分散に配慮することなどによりまして、株式市場に与える影響を極力回避することといたしております。

 以上でございます。まことにありがとうございました。

原田委員長 これにて概要の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

原田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。鈴木馨祐君。

鈴木(馨)委員 おはようございます。自民党の鈴木馨祐でございます。

 きょうは声がこんな感じで、若干お聞き苦しいところがあるかと思いますが、ぜひ御容赦いただければと思います。

 今の経済状況、いろいろな意味で、金融政策という意味でもいろいろなかじ取りが難しい局面にある中で、非常に絶妙な政策運営をされている福井総裁以下日銀の皆様には、心より敬意を表したいと思っております。

 きょうの御報告でも、金融環境は極めて緩和的で、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長軌道をたどるのであれば、金利水準は引き上げていく方向にあるというようなおまとめをいただいたところでございますが、この物価という意味と、あと、経済という意味で、今果たしてどのような状況に日本の状況があって、そして今後どのように推移していくというふうに見通されているのかという観点から、前半部分は若干質問を進めてまいりたいと思っております。

 最初に、ことしになりましてから、ニューヨークのマーカンタイル市場を初め、原油価格の高騰というところが非常に大きなテーマで、世界的にもいろいろ注目をされているところでございますけれども、見通しといってもこれは非常に難しいと思うんですが、その背景で、いろいろと需給の問題で、結局、投機筋の動きがはがれ落ちてもある程度の水準に行くであろうという考えもあれば、やはり投機筋の動きというものが非常に大きいわけで、そこをどうにかしていけばある程度安定的な価格推移に入る、いろいろな考え方があるわけでございます。

 まず、背景と今後の推移についてどのように今お考えになられているか、そのようなところをお聞かせいただければと思います。

福井参考人 原油価格の高騰が、世界経済の当面の運営、それから、ひいては日本経済の運営に重要な一つの要素になってきております。委員御指摘のとおりでございます。

 お正月明けからすぐに、私、BISの中央銀行総裁会議に出てまいりまして、この点につきましても各国の総裁といろいろと議論を重ねてまいりました。

 やはり、原油価格の高騰の根本の要因のところには、委員まさしく御指摘になられましたとおり、世界的な需要の強さがあるということでございますが、それにしましても、最近の原油価格の高騰ぶりはやや目立つ、急騰と言っていいような状況で、年明け一時的に一バレル百ドル台まで上昇するなどの動きを見せております。

 需要の強さというのは基本にありますけれども、やはり、常に潜在的に存在する地政学的リスク要因、さらには原油の市場に投機資金の流入があって、これがやや最近の原油価格の高騰を加速化させる要因になっている可能性がある、こういうふうなことが議論の大要でございました。

 今後の見通しはなかなか難しいわけでございますけれども、世界経済全体が特にエマージング諸国の高成長力というものが牽引力となって地域的広がりを持った成長を続けるというのであれば、需要の強さというのは基本的に残りますので、原油価格は高どまりする可能性が少なくない、こういうふうなのが共通の認識になっていると思います。

鈴木(馨)委員 ありがとうございます。

 この原油の動向というものは、もちろんいろいろな経路を経て、そして実際、日本の国内の物価動向、これは消費者物価の方にもいろいろと影響も出てくる、そんな要因の一つになるのかと思います。

 そういう中で、もちろん日銀さんの金融政策の運営方針として、やはり国内の物価動向というものを相当程度注視されているというふうに考えているわけでございますが、現在、原油価格が一時的にせよ昨年後半から急激な高騰を見せている中で、日本の国内物価への、果たしてどのような影響を今お感じになっていて、そして今後どのようなことをお感じになるのか、お聞かせいただければと思います。

福井参考人 国内物価情勢でございますけれども、まず、企業が直面する物価、国内企業物価で見ますと、原油価格に加えまして、その他の国際商品市況高もございます。これを背景に明確に上昇いたしておりまして、当面上昇を続ける可能性が高いというふうに思っています。

 それから、消費者物価指数、短期的には生鮮食品を除くベースで見ておりますが、消費者物価指数の前年比で見て、ここしばらくわずかなマイナスで推移してまいりましたけれども、昨年十月にプラス〇・一%とわずかにプラスのゾーンに戻ってまいりまして、さらに十一月にはプラス〇・四%に拡大いたしました。

 この先でございますけれども、当面は石油製品や食料品の価格上昇、これを主因として、さらにプラス幅が拡大する可能性が強いというふうに見ています。また、物価につきましては少し長い目で見ることが重要でありますが、長い目で見ますと、景気の拡大基調が続く中で需給ギャップがプラス方向で推移し、それを背景に物価のプラス基調が続く、こういうふうに判断しています。つまり、消費者物価指数については、当面、石油価格とか食料品価格等の供給要因から、より長い目で見ますと需給要因から、上昇基調を続けるのではないかというふうに思っています。

 そうした直接的な影響があるんですけれども、原油価格高騰を中心とする物価の上昇ですが、家計の物価に対する見方や企業の価格設定行動というものがこれによってどう変化するかということが、今後の経済を判断し、政策運営につなげて見ていく場合に非常に重要でございます。

 つまり、家計の物価に対する見方、インフレ期待でありますが、あるいは企業の価格設定行動、プライシングポリシー、これを通じて物価の先行きに影響を与える可能性があるということでありまして、実際に各種のアンケート調査を見ますと、家計や企業の物価についての先行き観でありますが、先行き物価が上昇していくという予想が少しずつふえてきております。

 ただ、その一方で、原油価格を初めとする原材料価格の高騰は、企業収益の圧迫という一面を持っておりまして、これを通じた場合には経済活動に対する下押し要因となる。つまり、一方で物価を押し上げ、片方で企業収益の圧迫を通じて経済を下押す要因となるということでありますので、なかなか複雑でございます。この下押し圧力の方を重んじて考えれば、将来の物価にマイナスの影響が及ぶ可能性すらあるということでございます。

 したがいまして、日本銀行といたしましては、原油を初めとするエネルギーの動向あるいは原材料価格の動向が経済や物価の先行きに与える影響については、少し幅広い角度から検討を深めてまいりまして、随時適切な結論を得て、適切な金融政策の運営につなげていかなければならない。そういうふうに、少し視野を広げ、分析を深め、適切な政策判断につなげたい、こういう考え方でおります。

鈴木(馨)委員 どうもありがとうございます。

 確かに、物価を考える上では、賃金の水準だとかいろいろな要素を考えていかなくてはいけない中で、今後長い目で見てどちらに動いていくのか、まさに非常に検討を要する課題だと思っております。

 そういう中で、今の御判断を受けて一つ伺いたいところでございますが、日本銀行さんからのいろいろな報告の中で、やはり中長期的な物価安定の理解という言葉がよく言われるところでございますけれども、そういった実際の水準というところ、どのような物価水準の上昇幅が適切なのかという考え方については、特段、今御変更というものは、余りないという御判断でよろしいんでしょうか。

福井参考人 中長期的な物価安定の理解ということで、私ども日本銀行の政策委員会のメンバーがそれぞれ認識しておりますところをあえて数字で表現してあらわせば、〇%から二%というふうに申し上げております。この認識は今も変わっておりません。

 そして、最近の物価動向、特に消費者物価指数の動きなどを見ておりますと、マイナスの領域から少しプラスの領域に入ってきた。プラスの領域に入って、当面の見通しも、今申し上げましたとおり目先は供給要因から、その先は需給がよりタイトになるという要因で、ゆっくりと上昇基調をたどっていくということでありますので、この物価安定の理解の範囲内で、基調的な物価安定ということはしっかり確保しながら物価が推移していくだろうという見通しでございますので、理解について変更する必要はない、こういうふうに考えております。

鈴木(馨)委員 大変明快な説明をありがとうございます。

 次に、「物価安定のもとでの持続的成長軌道を辿るのであれば、」という、この二つ目の仮定というか設定について伺いたいと思います。

 今、原油も含めていろいろな意味での日本経済を見たときの押し下げ要因というもの、下方リスクというものをいろいろと最近は話題にされているところでございまして、実際、景況感の後退といったところも一部ではリスクとしてささやかれてきているところでございますが、実際の日本銀行の景気見通しというか、そういったところ、ことし、主に言えば二〇〇八年内ということになるかと思いますけれども、果たしてどのような形で今後の景気見通しというものを考えられているのか、お聞かせいただければと思います。

福井参考人 委員御承知のとおり、まず、日本経済を単体として眺めますと、足元景気は少し減速している、率直にそういう状況だというふうに思います。

 国内的な要因、いろいろあると思いますが、私ども二つ認識しております。一つは、改正建築基準法施行の影響から住宅投資が大幅に減少している、これが作用しております。もう一つは、先ほどから委員御指摘のとおり、国際的にエネルギー、原材料高、これは国内にも持ち込まれていますので、これは企業の業況感にやや慎重さをもたらす要因となっているということでございます。こうしたことから、足元は減速しているということでございます。

 ただ、少し視野を広げてグローバル経済との接点で見た日本経済はどうか、こういう観点からいきますと、輸出、生産は引き続き増加している。これは、世界経済が、米国が減速しているとはいっても地域的な広がりを持って拡大しているということを大きな背景とするものでございます。設備投資が増加基調にありますほか、個人消費の方も増加基調にあるというふうに思っております。

 そして、生産、出荷、在庫のバランス、これもどこかで調整圧力がたまっているかというと、設備、人員の面で調整圧力を抱えている企業は余りないということでございますので、経済の運行もスムーズだということでございます。

 住宅投資の急減は気になっているんですけれども、主として手続的な要因によるものでございますので、次第に回復するというふうに見ております。

 このように、生産、所得、支出の好循環のメカニズムは基本的に維持されている、一時的に今弱まっていますけれども、基本的にメカニズムは維持されているというふうに考えています。したがいまして、日本経済の先行き見通しということになりますと、当面減速を続けるものの、その後はやはり緩やかな拡大を続ける、こういうふうに判断されるところでございます。

 もちろん、そうはいいましても、今の国際金融資本市場において、サブプライム問題に端を発した動揺が続いていて、その帰趨は今のところはまだ十分読めない。それから、米国経済のダウンサイドリスクを含む世界経済に全く不透明感がないかというとそうではなくて、むしろ不透明感が徐々に高まってきているという状況でございます。したがいまして、ここのところは、日本経済に対するこの先のリスク要因としてはやはり明確に認識しておかなきゃいけない。

 それだけでなくて、改めて原油価格の高騰、これは世界経済にインフレ的でもあり、あるいは景気を押し下げる要因でもあり、両方向に作用する可能性があります。原油価格の高騰そのものがどうなるかすらわからないという部分もございます。これらの不確定要因を十分認識しながら、日本経済の将来のコースが望ましいシナリオからそれないかどうか、十分に注視しながら金融政策を行っていきたいというふうに思っております。

鈴木(馨)委員 ありがとうございます。

 今の御説明を伺いまして、やはり短期的にはともかく、中長期的には底がたいというか、経済もある程度しっかりした推移をしていく、そして物価安定についても、しっかりと抑え込める水準にあるというような御認識かと思っております。

 今の経済、非常にマーケットも強くなっておりまして、特に地方銀行とマーケットとのコミュニケーションというか、非常に大事になってきておるところでございますが、ここで確認までに、これまでの金融政策の運営なり見通しを当面変えられない、今の、こちらにまさに書いてありますように「物価安定のもとでの持続的成長軌道を辿るのであれば、金利水準は引き上げていく方向にある、」という方針自体は、今のところは変更はないという理解でよろしいでしょうか。

福井参考人 金融政策の運営の基本的な方針に変更はございません。経済、物価が望ましいシナリオに沿って動く限り、金利は引き上げの方向にあるということでありますが、その引き上げのペースについては一切予断を持つことなく臨んでいる。今後の経済、物価情勢の推移を適切に読みながら、そしてアップサイド、ダウンサイドのリスクというものを十分吟味しながら、最も適切なタイミングを探り当てていくということでございまして、毎回の金融政策決定会合で十分議論を尽くして結論を出すという方向でございます。

鈴木(馨)委員 どうもありがとうございます。

 実は、きょうは、今の原油高の話ですとかサブプライムに絡みまして、ファンドの規制というものを、貸し手の側の責任も含めて規制していくべきではないかとか、そういったいろいろな議論もさせていただきたかったんでございますが、ちょっと時間の都合で、最後の質問とさせていただきたいと思います。

 福井総裁、これまで長年にわたりまして、非常に、日本の金融政策の顔として、あるときは世界的な雑誌の表紙を飾ったりとか、いろいろと御活躍をされたわけでございますが、今度、三月半ばに任期を迎えられるということを伺っております。本当に、非常に残念ではございますが、今後とも金融政策、非常に日本経済の上のかなめでございますので、やはりこれは後任の人事という意味でも、こういう人材をとかいろいろお考えというものもあるかと思いますけれども、差しさわりのない範囲で御所見を伺えればというふうに思っております。

福井参考人 総裁、副総裁の人事につきましては、もう一〇〇%、政府及び国会において適切な判断をちょうだいできると確信を持っているというふうに申し上げさせていただきたいと思います。

 したがいまして、私自身、後任の資格はどうかというふうなことを申し上げられるような立場にはございませんけれども、以前にも国会で御質問があったときに、極めて一般論として、かつまた私が経験から率直に感じているところということで幾つか申し上げた覚えがございます。

 一つは、やはり何と言っても通貨の安定に対する強い信念と実行力。それから、こういうグローバル化のもとで、日本経済は世界経済と緊密な連関を持って動いているということがありますので、やはり鋭敏な国際感覚というものは必要だと。それから、何と言ってもマーケットエコノミー、経済と市場とが相互連関、相互作用と言った方がいいですね、インタラクションを持ちながら発展していく状況でありますので、市場を大切にする気持ちというものが非常に大事じゃないかというふうに思います。

 そして、最後に、政策委員会で、一つの結論を創造的に導き出していくプロセスを、リードしていくという言葉もあれですが、そういう政策委員会のダイナミクスを前進させていくエネルギーが要る、創造的な能力が要る。言ってみればそんなことでありまして、そのいずれも私は十分満たしているとはもちろん思っておりませんが、後任には私以上にそういった条件を満たす方を選んでいただきたいというふうに思っております。

鈴木(馨)委員 御丁寧なお答えをいただきまして、大変ありがとうございます。

 私も、一国会議員として、日本経済の今後をしっかりと、日銀の皆様とともに一生懸命頑張って支えていきたい、そう思っております。

 本日はどうもありがとうございました。

原田委員長 次に、鈴木克昌君。

鈴木(克)委員 民主党の鈴木でございます。

 私も総裁に少しいろいろな角度から御質問をさせていただきたいというふうに思っていますが、今、鈴木委員とのやりとりの中で、先ほど総裁からお話がありました報告書の内容と御答弁の中で少し乖離があるような気がして、やはり現実は、この報告書よりももうちょっと厳しい、いろいろな意味での状況が生まれてきておるんではないのかな、こんなことを実は感じながら今のやりとりを伺っておったわけでありますが、そういうことは順次お尋ねをしていくということにしまして、最初から入ってまいりたいと思うんです。

 今、最後に人事の問題がありました。私もこのことについて総裁の率直なお考えをお伺いしたいというふうに思うんですが、先ほどのお話のように、任期はあと二カ月ということでございます。政府の方でも後任についてはいろいろと検討されておるというふうに思うんですが、日銀総裁は、御案内のように国会の同意人事でございます。まさに衆参の同意が必要なわけでありまして、御案内のように、衆参、与野党が逆転をしておるという状況の中で、これまでのような、政府・与党だけのある意味では都合で人事を決めるということはできないような今は国会状況ではないかなというふうに思っています。

 そこで、もう一度私も改めてお尋ねをするんですが、今、福井総裁が後任についてどのようなお考えをお持ちなのか。今、前の委員とのやりとりでは四点にわたって所信をお述べになりました。このことは私も伺ったわけでありますが、そのことを踏まえてもう少し具体的にそのお話をいただけたらというふうに思いますので、日銀総裁として備わっているべき、あるいは当然持っていなければならない資質のようなものを、もしあれば、ぜひこの際お聞かせをいただきたいと思います。

福井参考人 重ねて申し上げますけれども、政府及び国会におかれまして、最も適切なる人を選任していただけるものというふうに確信を抱いているということをまず申し上げなければならないと思います。

 その上で、私自身の経験から、あるいは私自身の考えておりますことからあえて一般論として申し上げるならばということで先ほどもお答えをさせていただいたわけでございますけれども、各国の中央銀行の総裁、いずれの方を見ましても、それ以前の経歴がどうであれ、中央銀行総裁という立場に立たれたときには、通貨の安定に対する強い信念と政策の実行力、これをやはり基本的に持っておられるというふうに思います。日本も同様でなければならない。

 それから、今のようなグローバルな経済の中で一国の金融政策を適切にやっていこうとする場合に、他国の状況、世界の状況と遮断して適切な判断は一切できないということは、これはもう私自身が最近五年間の経験だけでもいたく痛感しているところでございます。やはり、国際的な鋭い感覚、そして、世界経済あるいは世界の金融市場の事柄について十分洞察力を持って議論が展開できるということが非常に重要だというふうに思います。

 それから、先ほどからも、市場との関係が問題になっております。最近、サブプライム問題に端を発して国際金融市場に動揺が起こっているということなんですが、こういったことが一直線に不安感を募り、悪い方向にだけ経済が行くかというと、そういうものではなくて、経済も自律的な調整をしますが、市場も自律的な調整をする。その相互の調整の波長がうまく合えば、次は経済と市場とがよりバランスのとれた好ましい発展の条件が整うということでありますので、そこを目指して適切な市場調節あるいは金融政策を運営して次のターゲットに結びつけていくということでありますので、市場を大切にする気持ちというのはもう絶対に欠かせないし、十分市場からの情報に耳を傾ける、あるいは市場に十分コミュニケーションをしていくというふうに、意思の疎通が十分できるということが非常に大切だというふうに思います。

 最後は、先ほども申し上げましたとおり、政策委員会というのは、九人の委員があらかじめ結論を持って臨んでいるわけではないんです。十分勉強して材料をそろえて、自分としてはこうかなということはもちろん十分固めて会議に臨みますけれども、やはり、ディベートを通じて一つの結論を出すという非常に創造的な過程でございます。今の日本銀行の政策委員会が十分でき上がっているかどうか。私も五年間随分努力いたしまして、少しずつこれは前進してきております。

 こうした、政策委員会が創造的な結論を出す能力をさらに高めていくことに対して強い貢献ができる総裁ということが必要だろうというふうに考えております。

鈴木(克)委員 ぜひ、今の総裁の熱い思いを十分満たしていただけるような立派な後継総裁を選出していただきたいし、我々も、そのためにしっかりと今のお話を踏まえてまた勉強もさせていただきたい、このように思っております。

 次に、総裁はあと二カ月、二カ月と強調しておるわけでありますが、二カ月という期間は短いと思えば短いですが、ある意味では非常に貴重な時間だというふうに思います。

 そこで、残り期間中にこれだけはどうしてもやっておきたいということがあれば、この際ひとつぜひ御披瀝をいただきたいというふうに思うんですけれども、場合によっては、私ども、微力ながら、総裁のこれだけはやっておきたいということに対して御協力することもやぶさかではない、そういう意味合いで、ぜひこの際お聞かせをいただきたいというふうに思います。

    〔委員長退席、田中(和)委員長代理着席〕

福井参考人 何か特定の課題について宿題を残しているかといいますと、なかなかお答えが難しいわけでございます。

 経済や金融と申しますのは、委員御承知のとおり、日々休みなく活動を続けている。これはもう土曜、日曜もなく続いておりまして、経済もそうですが、市場の方は、まさにグローバルに見れば、二十四時間マーケットということで続いております。

 したがいまして、その中で仕事をさせていただいております我々の立場、総裁や審議委員の立場からいいますと、任期にかかわらず、継続性を持って行っていかなければならない。この継続性ということが一番大事でございます。

 特に、任期が迫る総裁、副総裁、あるいは審議委員の立場からいいますと、やはり、よりよき継続性を持って後のメンバーに引き継いでいけるような経済条件を、あるいは金融の条件を一歩でも多く積み重ねておきたい、この気持ちで五年間やってきているわけでありますので、最後、残りの数カ月になりましてもその気持ちは全く同じでございます。ここで急にトーンダウンするとか、あるいは急にエンジンをかけるとかいうふうなことなく、淡々と継続性を持ってこの仕事をやり遂げていくということが大事だと思います。

 今の時点でいいますと、日本経済は、前向きの好循環のメカニズムが幸い基本的に維持されているわけであります。むしろダウンサイドリスクは、国内にもありますけれども、より多くは、海外の経済そして海外の金融市場にございます。

 したがいまして、海外との連絡をより密にとりながら、日本経済が、何か安全地帯に置くということではなくて、世界経済とか世界の金融市場の荒波の中にさらされながら、今の好循環のメカニズムがより強靱なものになるような条件は何かということを最後の最後まで考え続けるというのが私の仕事ではないかというふうに思います。お正月明けの国際会議でも、そういう議論を私としては十分してきたつもりでございます。

 G7、今度は日本で行われますし、また三月にも国際会議がございますが、その辺、十分私が思う限りの議論を尽くして、そして、日本の経済にとっての条件は何かということを最後まで考え、後任の方にはそのよい継続性を持って引き継ぎたいというふうに思っておりまして、何か具体的なことをしなければいけないというふうなことを今念頭に置いているわけではございません。

鈴木(克)委員 日々の継続がというお話でございました。

 ちょっと視点を変えてお尋ねをしていきたいんですが、今、総裁は、幸い日本経済は好循環の中に維持されておる、こういうお話でした。ところが、平成二十年年明け、ことしはネズミ年でありまして、荒れるね年というふうに言っていいかどうかわかりませんけれども、大変な年明けでしたよね。

 例えば、一月四日から五日にかけて新聞記事の見出しだけでも、「大発会 日経平均六百十六円安 東京市場 不安抱え始動」「波乱の幕開け」「原油高・円高 企業業績に懸念」「マネー波乱 強まる連鎖 世界経済に不透明感」、こういう状況ですよね。幸い好循環に維持をされておる、こういうことを伺っても、本当にそうかいな、大丈夫なのかなというふうに実は思うわけでございます。

 そこで、総裁のもと、量的緩和をずっと続けられて去年もそういう方向であったのが、サブプライムローンの問題で今ちょっと見送られておるという経過になっておるわけでありますが、いずれにいたしましても、お尋ねしたいのは、我が国の経済の現状はどのような状況にあるのか、本当に好循環の中に維持をされておるのか、では、なぜ株価がこのような大幅な下落で、先ほど新聞の見出しを申し上げたような報道になっておるのか、この現状になっておるのか。その辺をもう一度総裁自身に分析をしていただきたいというふうに思います。

福井参考人 年初来、原油価格が一バレル百ドルに一時相場が上がったり、株価も世界的に大きく変動し、日本の株価は、特に幾ばくか円高の影響もあって、海外よりもより振れの大きい展開になっている。こうしたことは、世界的に見た先行き経済への不確実性を、年初に当たって世界のマーケットのプレーヤーたちがより強く認識してスタートした。そういう意味では、波乱の幕あけという言葉は私は当たっているというふうに思います。

 しかし、悲観シナリオばかりでこれをとらえるかどうかというところがポイントでございます。

 世界経済は、アメリカ経済が住宅投資の行き過ぎというものを調整して次の局面に移ろうとしている。あるいは世界の金融市場も、リスクの評価が甘過ぎた部分を再評価しながら、より円滑に動く市場にたどり着こうとしている。そして日本経済も、昨年は住宅投資の大幅落ち込みというふうなことがありましたけれども、これはやはり、技術的な要因として今後スムーズにこなしながら、基本的な前向きの好循環のメカニズムにダメージが与えられないように持っていく。

 課題がそれぞれ明確にあり、その課題を克服していくことには困難は伴う。だけれども、悲観シナリオばかりで考えていくということではなくて、このすべての課題は克服可能であり、世界的に、スクラムを組んでこれらの問題の解決に背を向けないで前向きに取り組んでいけば十分解決可能なものだということで、今、世界の努力が行われております。

 したがいまして、日本経済及び物価、日本の市場の運営につきましても、問題が困難であり、市場が荒れるときほど、前向きに分析能力を強め、自信を持って次の政策経路を見出していくという姿勢が大事でございます。

 日本銀行としては、ぜひ、こうした困難なとき、あるいはチャレンジングな課題が多いときほど努力を一層強めて、決してしり込みすることなく前進したい、こういう意味でございます。

 経済は、国内的には、先ほど申し上げましたとおり、足元、改正建築基準法の影響もありまして住宅投資が大幅に落ちている。それから、海外から起こってきたエネルギーや原材料価格の高騰に伴う企業収益の伸び悩みということがありまして、企業の業況感がやや慎重化しているということで景気がやや減速しているというわけでございますけれども、世界経済との接点で見た輸出あるいは生産は増加を続けています。また、在庫や設備、人員の面で企業が調整圧力を抱えているという状況でもございません。

 そうしたもとで、設備投資や個人消費は増加基調を続けておりますし、住宅投資の急減は主として手続的なものだというふうに理解をしておりまして、少し時間をかければ次第に回復するということを期待していいのではないかと思っておりまして、こういう意味で、生産、所得、支出の好循環メカニズムは基本的に維持されている。

 これを壊さないようにいかに大事に今後の経済運営をしていくかということでございまして、国内的要因もありますけれども、やはり、海外の経済の調整そして金融資本市場の調整の動きというものがつまりオーダリーに進められる、秩序立って進められて、各国経済、ひいては日本経済に悪いはね返りをもたらさないようにうまく運営していく、中央銀行間の緊密な協力が当面とりわけ重要な局面にある、こういうふうに思っております。

 そこをうまくやり遂げていけば、日本経済の基本的な好循環メカニズムは維持されて、将来、また緩やかな景気の上昇という局面にうまくつなげていくことができる可能性は大きい、こういうふうに思っております。

鈴木(克)委員 物事には裏と表がありますし、言葉もいろいろあるわけですけれども、私が特に強調したいのは、日本経済は好循環の中に維持をされておるという先ほどの御発言と、それから、困難なときほど努力をして頑張っていくんだという、要するに、現状が今好循環の中にあるのか非常に困難な局面を目の前にしておるのかというところが、どういうふうに見てみえるのかということが私は一番ポイントではないのかなと。もちろん、おっしゃるように、物事は悲観的にばかり見てはいけないというのはわかります。

 例えば、一億お金を持っておる人が百人いるとします。例えばですよ。それで、一円も貯金のない人が百人いるとします。平均をした場合は、これは五千万ということですよね。五千万と見れば何もこれは問題ないわけですね。だけれども、本当に貯金の一銭もない方々を考えていったときには、これはやはり大変な状況なんですよ。私はやはり、そういうふうに両方で見ていく必要があるということを強調させていただきたいというふうに思うんです。

 もう少しちょっと具体的にお尋ねしていきますが、先ほどから総裁のお言葉の中で一番数が出ておるのは、原油高とサブプライムが問題ということですね。特にこのサブプライムの問題を伺っていきたいんですけれども、私、これは昨年の十月二十四日にも渡辺大臣に実はお伺いをしたわけです。これは大丈夫ですかということをお尋ねしたわけでありますが、現在どういう状況であるのか、本当にこれ以上悪化していかないのか、底を打ったのか、そして、そのことがまた今後どういう影響になっていくのか。そこのところをもう一度総裁に、どういうふうにこのサブプライムローンを見てみえるのかということを一度整理をしていただきたい。

 これは、原油高とサブプライムというのは、本当に我が国の今からの進路に対して非常に大きな影響を持つ問題だというふうに思いますので、あえてお尋ねをしたいと思います。

武藤参考人 今、委員が御指摘ありましたとおり、米欧の金融市場におきましては、サブプライムローン問題に端を発した大変不安定な状態が続いております。証券化商品市場を見ますと、引き続き機能が低下した状態にありますし、社債のスプレッドなどを見ましても、引き続き拡大しているといったような状況がございます。

 そこで、これが今後どのようになっていくのかというそういうお尋ねでございますけれども、総裁からもいろいろ御説明申し上げましたけれども、今の状況は大変不確実な状況にあります。そういう状況の中で先を見通すということについては、もちろんある程度の限界があるわけでございますけれども、一つ、今回の市場の変動というものは、今まで大変良好な世界経済と金融環境が続いたもとで緩に流れていたリスク評価、これを見直す過程ということだろうと思います。

 ということでありますので、調整にはそれなりの時間がかかるというふうに考えられるわけでございます。

 なかなか、いつまでということを申し上げるだけの現状が見通し、透明性のある状況ではないということでありますので、今後、まず一つには、リスクを再評価して新たな価格を発見しながら、クレジット市場の機能がどの程度改善していくのか、これが第一点。それから第二には、金融機関の、あるいは機関投資家などのディスクロージャーでありますとか資本政策などによって金融機関経営に対する信頼がどのように回復していくのか。第三には、その間、企業金融が全体として円滑に行われていくのかどうかといったような点が注目点かと思います。

 私どもといたしましては、こういう国際的な金融市場の動向を今後注意深く見てまいりたいというふうに考えております。

鈴木(克)委員 不確実な状況なので非常に難しいという冒頭お話ですよね。しかし私は、不確実な状況なのでということは、これはもう許されないと思うんですよ。もちろんそれは、ある意味ではわからないわけではありませんけれども、しかし、本当に我が国の経済がどういうふうになっていくのかという大変な今は局面で、不確実でございますからということだけではやはり私は済まされないというふうに思っております。

 ではどうすればいいのかということでありますが、やはり、今お持ちになっておる情報を一度きちっと精査していただいて、さらに、どの部分の情報が不足しているのかというような観点から、私は、サブプライムローンの検討、この問題だけを検討するようないわゆるプロジェクトのようなものを立ち上げてやっていただく、それぐらいこの問題は大きな問題だということを提議しておきたいというふうに思います。

 次に、ではこの問題が、損失額、日本としてどれぐらいの状況になっておるのか、日本の金融機関の中で幾らぐらいなのかというふうに把握をされておるのか。ここも不確実だと言われたのではこれはどうしようもないわけでして、では、通貨の番人の日銀としての、また政府の方も御答弁いただきたい。できたら金融庁からもお伺いしたいんですが、その辺のところを現状を今どういうふうに把握しておって、どんな状況なのかということをきちっと一遍お示しいただきたいと思います。

山口参考人 お答えいたします。

 国内の金融機関におけますサブプライム関連商品の損失につきましては、昨年の九月末時点ということで、金融庁の方で評価損と実現損の合計という数字を出しております。その数字は、預金取扱金融機関全体で二千七百六十億円ということでございました。

 その後、昨年の秋以降ということになりますが、海外の市況を見てみますと一段と下落しておりまして、これに伴いまして日本の金融機関の損失額も拡大している、このように見られるという状況のように考えております。

 ただ、我が国金融機関の証券化市場への関与の度合いというのを見てみますと、欧米の金融機関に比べましてこれはかなり小さいと言ってよろしいんだろうと思っております。そうしたところからいたしますと、これまでのところ、損失は、各金融機関それから各金融グループの期間収益あるいは経営体力の範囲内で吸収可能、このように認識しております。

 したがって、現時点におきましては、今回の問題が日本の金融システムの安定性に特に大きな影響を及ぼす、そのようには考えられないというふうに判断しておるところであります。

 ただ、先ほども総裁、副総裁の方から話がありましたように、この問題につきましては、なお時間のかかる問題であるということでもありますし、不確実性がかなりあるということでもありますので、私どもとしても、欧米金融市場の動向、さらには、その日本の金融システムに与える影響、金融市場に与える影響については注意深く見てまいりたい、このように考えております。

渡辺国務大臣 今、山口理事がお答えしたとおりでございますが、昨年の九月末時点で我が国預金取扱金融機関が保有するサブプライムローン関連商品は、一兆四千七十億円ございました。評価損、実現損がそれぞれ一千三百五十億円、一千四百十億円でございます。

 一方、我が国預金取扱金融機関の自己資本は四十九兆四千八十億円ございます。十九年の三月期であります。それから、業務純益が同期で六兆七千二百二十億円ございます。

 ということは、仮に、万が一、万々が一、このサブプライム関連商品がお値段がゼロになったと仮定をしても、業務純益で十分対応可能でございますから、現時点においては、サブプライムローン問題が我が国の金融システムに深刻な影響を与える状況にはなっていないということでございます。

 ただ、やはりこれは現在進行形の話でもございますので、我々としても、いろいろな機会を通じて、一体どうなっているんですかという把握には努めてきております。

 九月末以降、一部金融機関が追加の損失を見込んでおるところもございますが、そういったことについては適切に把握をし、必要があれば開示をしてもらうということでございます。

鈴木(克)委員 まず、皆さんもお聞きになっておって、えっと思われる。この九月末というのが、今はもう年が改まっているわけですよ。まず、このデータが九月末時点でというふうな話がこの委員会で出ておるということは、私は、これは一体全体本当にどうなっているのかなというふうに思います。

 それから、今、渡辺大臣も、六兆数千億利益があるんだから、仮にゼロになっても十分消化できるということをおっしゃいました。しかし、この影響が、いわゆる景気感に与える影響というのは莫大な問題があるわけですよ。銀行で消化できるからそれでいいんだという話ではないわけですよ。

 特に、来週からアメリカの銀行は全部決算が出てきますよ。これを見られて、いやいや、これはこんな状況じゃなかったがと、仮にそういう数字が出たときにはこれをどういうふうにお考えになるんですか。九月末現在でという話では私は全くないと思うんですけれどもね。

 この辺を日銀も政府も、この問題に対して本当に正直言って甘い、そんな問題ではないんじゃないかなというふうに私は思うんですが、もう一度その決意というか、アメリカの状況も含めて何かお感じになっているようなことはないんですかね。九月末の話はもう本当に去年の話ですからね。いかがでしょうか。

渡辺国務大臣 先ほども申し上げましたように、これは現在進行中の話でございますので、サブプライムローン関連商品あるいはその他のCDOの状況、これは注意深く見ていかなければならないと考えております。

 来週、一部LCFI、巨大複合金融機関の決算発表があるわけでございますので、そこにおいて新たな損失がどれぐらい拡大をしているのかということは、当然我々としても十分な注意を持ってウオッチをさせていただきたいと考えております。

 いずれにいたしましても、事件は現場で起きているということもございますので、それぞれの現法などがどういうエクスポージャーを持っておって、それがどれくらいロスが出ているのか、こういうことは把握に努めなければなりませんので、警戒を怠りなく、そういった情報把握に努めているところであります。

山口参考人 お答えいたします。

 今大臣がお答えになったことで基本的に私の方からつけ加えることはないわけでございますが、先ほども申し上げましたように、私どもも、欧米の金融市場の動向、欧米の金融機関の動向については非常に注意深くウオッチしてきているところであります。

 この一月末から二月にかけて、欧米の金融機関についても決算の数字が出てまいります。そういう中で、証券化商品についてどのような評価が行われ、あるいはどのような損失を計上しというようなことが問題になってくるわけでありますが、そのあたりもきちっと見ながら、そしてそのことが、日本の金融機関、ひいては日本の金融システムにどのように影響するのか、このあたりも丹念にチェックをしてまいりたい、このように思っておるところでございます。

鈴木(克)委員 いずれにしても、私はアメリカの状況にそんなに詳しい人間ではありませんけれども、本当に、報道を見るだけでも、住宅価格がどんどん下がっていっておる。日本もかつてこれは経験したんですよ、バブルの崩壊ということで。だから、本当にそういう経験則を踏まえていった場合に、動向を注意深く見守ってということで済まされる問題ではない、私は本当にそう思うんですけれどもね。

 これはもう大変な状況に今我々はまさに遭遇しようとしておるということを本当に理解をしていただかにゃいかぬし、もっともっと政府も日銀もここは腹をくくっていただかなければ、とてもじゃないけれども大変な状況が出てくるんではないかな、私は本当にこのことをくどく申し上げておきたいと思います。また国会の審議の中で、新たな状況のもとで我々もいろいろと提案をさせていっていただきたいというふうに思っています。

 そこで、もうちょっと話を進めさせていただきますけれども、日本もアメリカも欧州も、総じて、いわゆる先進国と言われるところが下降局面に入ってきておる。もちろんこのサブプライムだけではありませんけれども、入ってきておる。そういう中で、いわゆる中国、インド、そしてまた中東の産油国あたりは大変な成長をしておるということであります。

 そこで、我が国が今後いわゆる経済政策として、一言で言えば、アメリカ、ヨーロッパといわゆる追随をしてというか、手を組んでやっていくのか、それとも、いわゆる中国やアジア経済の方に目線を向けてきちっと乗り切っていくのか、この辺は今政府として、また日銀としてどんなふうにお考えになっておるのか、お聞かせをいただきたいと思います。

稲葉参考人 今お尋ねのお話は、アメリカ等先進国の経済のスローダウンに対して中国等アジア経済の発展によってカバーできるか、最近よく使われている言葉で言いますと、デカップリングといったようなことが本当に成り立つのかということではないかと思います。

 事実の方から数字を押さえてまいりますと、世界経済は、実際、二〇〇四年あたりから大体五%ぐらいの高い成長が続いてきたわけですけれども、これに対して、例えば米国等の貢献度合いといいますか寄与というのは、従来に比べますと実は小さくなってきておりまして、中国等アジア諸国を含むエマージング諸国の高成長がこういった世界経済の高成長を支えているという状況になっていると思います。

 それから、日本の輸出でございますけれども、米国向けのウエートというのは近年低下してきておりまして、加えて、中でも、日本の得意なIT関連財というような輸出財は、その輸出先が米国以外にも広がりを見せてきているということでございます。

 したがいまして、こうした変化を前提に考えますと、米国等の経済で多少下振れが生じましても、我が国への影響はある程度吸収されるというふうに考えられるのではないかというふうに思っております。実際、米国経済の減速が始まってから時間がたってございますけれども、日本の輸出は、その他地域への輸出が堅調で、全体としては順調に伸びているということでございます。

 そこで、米国経済の先行きでございますけれども、当面低成長が見込まれ、その後次第に安定成長に戻っていくのではないか、そういう可能性が高いのではないかと一応判断されているわけでございますけれども、ただ、今お話がございましたような、いろいろな金融資本市場の変動とかあるいは住宅市場の調整がさらに深まるというようなことになりますと米国景気が一段と減速するという可能性も考えられますので、そういったリスクが顕現化した場合には、世界経済全体としても下振れる可能性は否定できないというところではないかと思います。

 いずれにしても、その辺のところは、しっかり見ていく重大な関心事項であろうというふうに考えてございます。

鈴木(克)委員 申しわけない、ちょっと時間の配分がまずくて最後の質問になってしまったわけでありますが、金融について総裁に最後にお伺いをしておきたいんです。

 アメリカやEU、それから巨額のオイルマネーを持っておる産油国、それらの国々が、もちろん中国も含めてですけれども、有利な運用先を求めて今動き回っておる。動き回っておるという言い方が当たっておるかどうかわかりませんけれども、そういう中で、要は何が言いたいかというと、日本の通貨、円が魅力のない通貨というふうに見られ始めているんではないのかな、こういうような実は心配を私はしておるわけであります。

 もちろん、一国の経済を運営していくには、物をつくっていく、そしてそれを売って利益を出すという、これはもう大事なことなんですけれども、一方では、やはり金融経済を強くしていかなきゃならないというふうに思うわけでありますが、日銀総裁として、今申し上げたような、今の日本の通貨、円が魅力のない通貨というふうに世界的に今見られておるのかどうか、その辺について御見解を賜りたいと思います。

福井参考人 委員御指摘のとおり、円の為替相場は、表面的なドルの相場との比較で見ましても、あるいはすべての貿易相手国を対象にして、インフレ率の差も考慮した実質実効為替レートで見ましても、円は歴史的に見て非常に相場が低い状況になっています。これは、通貨に対する評価といいますか、結局、日本経済全体に対する評価をあらわしていると、私も率直に言ってそう思っています。

 バブル経済崩壊後の非常に長い苦しい期間、ようやくそれを経て、これから前向きの展開の中で日本経済が全体としてどういう実力を示していくか、そこのところがまだ評価に取り入れられていない。これからの問題として、通貨が評価を待っているという段階だろうと思います。

 今後、中長期的な観点から、日本の物づくりや、物づくりだけでなくて、金融面も含めた、いわゆるサービス産業も含め、日本経済の実力を高めていく、そういう意味では、日本経済の魅力が、今後中長期的に見て世界的にどういうふうにこの魅力が感じられるようになるかということが重要だというふうに思っています。

 今後、日本経済はこの課題を少子高齢化が進展していく中で果たしていかなきゃいけない。つまり、少子高齢化が進展していく中でも潜在成長能力をきちんと高めていき、それを実現して、世界的に見てやはり魅力のある国というふうになっていかなければならないというふうに思います。

 労働力が減少するわけでありますので、女性や高齢者が働きやすい環境というのをよりよく整えていくというふうなことが一つの具体策になるかと思いますが、私どもが従事しております金融の面でも、内外の資本を引きつけるような金融資本市場の整備が重要だ、金融担当大臣がいつも言っておられる、かつ、政策をいろいろとろうとしておられることでございます。日本銀行も同様でございます。

 申し上げることは、物づくりに限らず、日本企業や日本経済が全体として生産性を高め、魅力ある投資対象であり続ける、そのことが世界の投資家にアピールしていくということが非常に重要でございます。

 私は、日本企業の高い技術力、そして知識創造能力というものを生かしていけば、日本経済はこの先、グローバル経済において競争を勝ち抜いていく力を十分持っている、魅力を発揮していける力を十分持っている、それを本当に実現していけるかどうか、今その出発点に立っているという認識でございまして、現状、通貨に対する評価が低いということは必ずしも悲観する必要はない、将来への展開ということの方がより重要だというふうに考えております。

鈴木(克)委員 時間が参りましたので以上で終わらせていただきますが、私は、一言で言って日本の製造力というのは、これは本当にすばらしいものがある。しかし、今言うような金融市場の整備においておくれをとっておるというふうに思います。日本の存在感の低下が深刻であるというようなことも新聞でも書かれておるわけでありまして、そういう点からいくと先ほどの報告書は少し基本的には甘いのではないのかな、こういうことを申し上げて私の質問を終わります。

 ありがとうございました。

    〔田中(和)委員長代理退席、委員長着席〕

原田委員長 次に、階猛君。

階委員 旧日本長期信用銀行、十年前に破綻した、そこの出身の階でございます。

 きょうは福井総裁と、私は元バンカーですけれども、バンカー同士ということで、忌憚のない意見交換をさせていただければ、こう思っております。

 さて、質問に入る前にちょっと一点要望なんでございますが、きょう、福井総裁、この通貨及び金融の調節に関する報告書というペーパーをもとに御説明されました。私は、質問に入る前にこのペーパーを拝見して準備させていただきたい、そのように申しておったんですが、このペーパー自体は昨日の夕方できていたにもかかわらず、当日この時間でないと見せていただけないということで、過去の、昨年までの出ていた資料をもとに質問を準備したわけでございます。

 しかしながら、御案内のとおり、その後のマーケットもいろいろ動いているわけでございまして、やはりこういう場でしっかりとした議論をするためには、あらかじめこういった資料は出していただいて、そして我々もちゃんと勉強した上で質問に臨む、これが本来あるべき姿ではないかと思います。その点、改善していただきたいと思いますが、御見解はいかがでしょうか。

福井参考人 そういう努力はふだんからさせていただいておりますけれども、同時に、経済金融情勢というのは日々激しく変転しております。一番最新時点での情報を含んで御報告申し上げて議論をさせていただくという点も重要でございまして、両方の要請を十分かみ合わせて努力をさせていただきたいというふうに思います。

階委員 それは、日々変転するのはわかった上で、だからこそ直近の資料をもとに準備させていただきたいということでございます。

 それはそれとして、今出てきた資料、今出てきたので、これは当然質問の事前通告はしておりませんが、ちょっと二点ほど聞かせていただきます。

 まず、日本経済の動向について、昨年十一月二日に行われましたこの場での総裁の説明とかなり変動が見られます。例えば、冒頭のところで「わが国の景気は、住宅投資の落ち込みなどから減速している」といったような表現であるとか、あるいは、二ページ目に行きまして上から四行目あたり、「その後緩やかな拡大を続けるとみられます。」とありますが、前回はここに「息の長い」という表現がありました。また、その五、六行後ですけれども、「世界経済についての不確実性が高まっています。」とありますが、この「高まって」という表現も前回はありませんでした。

 そういった中で、その後の金融政策運営のパラグラフですけれども、ここは前回と基本的に変わっていないわけでございます。そういったことで、状況は変わっているにもかかわらず、金融政策運営の文言がほとんど変わっていない、このことについて、どういう経緯なのか御説明願えますでしょうか。

福井参考人 状況の変化は率直に御報告を申し上げるというのが私どもの基本的な立場でございます。

 したがいまして、昨年秋の時点に比べますと、委員も御認識のとおり、日本の国内におきます、特に建設投資、住宅投資は急速な落ち込みを示している。これは事前の予想よりも急速に落ち込んでいるということでありますので、一つ率直に書かせていただいております。

 それから、世界経済全体としてのリスク、アメリカ経済を中心に、そしてグローバルなマーケットを中心にしたダウンサイドリスクの高まりというのは、八月以降、十月には少し改善の兆しがありましたけれども、十一月、十二月以降、揺り戻しと申しますか、むしろ市場の中のストレスが強まる方向で推移してきたということでございますので、その辺の状況を踏まえた判断を明確に示させていただいております。

 そして、先行きの日本経済につきましては、基本的な生産、所得、支出の好循環のメカニズムが維持されているということでございますので、基本的に私どもの判断、ややロングランに見た判断は変えていないということでございます。表現に多少の変化があるというのは、足元減速しているということを踏まえた変化でございます。

 そして、基本的な金融政策の運営方針につきましては、我々は、一定のペースで金利の引き上げをするということは初めから一切申し上げておりません。経済あるいは物価の将来の推移が基本的なシナリオに沿って動く限り引き上げの方向だということを言っておりまして、実際の引き上げのペースについては、経済、物価情勢の改善の度合いをきちんと判断して決定する。しかも、そのとき、物価情勢、経済情勢が改善していても、アップサイド、ダウンサイドのリスクがどれぐらいあるかというのをその都度丹念に分析し、判断した上で決めるということを申し上げておりますので、基調的な経済の好循環のメカニズムが維持されている限り、この基本姿勢とは両立するものであり、変更の余地は全くないものだということでございます。

階委員 今お話をお伺いしていますと、何となく、動かない理由をあれこれ言っているというような印象があるわけでございます。私は、先ほど、十年前長銀が破綻したと申し上げましたけれども、その当時、マーケットに関連する仕事をしておりました。総合資金部の政策投資担当というところで長銀の株価を日々ウオッチする仕事をしておりました。マーケットの怖さを肌身で感じております。

 そういった中で、やはりマーケットに携わる者としては、常にアンテナを敏感にして、マーケットに異常な動きがあれば、迅速に、機動的に、そして適切に対応する、そういうことが肝要である、そのように私は肌身に感じておりますが、その辺についてどのようにお考えでしょうか。

福井参考人 私は、繰り返し記者会見でもその点について明確に申し上げておりますけれども、市場と日本銀行との濃密なコミュニケーションが要る、そして先行きの判断について常に可能な限りのすり合わせが要る、ただし、行動パターンは違うんですと。マーケットというのは、新しい情報に対して過敏に反応し、揺れ動きながら次の均衡点を探るんです。日本銀行は、そういうふうに揺れ動く政策ということはできないんです、すべきでないんです。ずっと先を読みながら、基調判断のもとに人々に安定した金融経済条件を提供していく仕事なので、行動パターンまでそろえると日本銀行の金融政策は迷走します、そういうことはできませんというふうに申し上げています。その違いでございます。

階委員 要は、木を見て森を見ず、そういうことじゃいけないという御趣旨かなと思うんですが、やはり、非常に難しいことであるんですが、マーケットに携わる者は、木も見るし森も見る、両面での対応が日々迫られているのかなというのが私の感想でございます。

 それと、今のこのペーパーに沿ってもう一点だけ質問させていただきますけれども、最後の方に、銀行から買い入れた株式の処分ということで、十二月末時点の保有株式の簿価は約一兆五千億円、これは前回報告時より一千億マイナスになっております。つまり、一千億簿価ベースで売却ということでございますが、その利益についてどうなっているのか。また、今現在、株価の下落に伴って、簿価一兆五千億について含み損益はどのようになっているのか、それをお聞かせください。

山口参考人 お答えいたします。

 まず、年末時点の簿価でございますが、私ども、先ほど一兆五千億ということで総裁の方から申し上げたところでありますが、その時点での含み益は一兆二千億円程度ということであります。

 それから、十月から売却を始めたわけでありますが、それまでの間の処分額でありますが、約九百億円ということであります。

 以上でお答えになったかと思いますが……(階委員「九百億の利益は」と呼ぶ)利益につきましては、この段階では、市場で売りました額が十―十二月で、市場といいますか全売却代金が一兆四千億円であります。簿価ベースでの売却額が九百億円ということでありますので、五百億円程度の利益である、こういうことでございます。(階委員「ちょっと済みません、今、売却額」と呼ぶ)

 要するに、十月から十二月までの売却代金の合計額は一千四百億円であります。これに対して、簿価ベースでそれを計算いたしますと約九百億円ということでありますので、この差し引きであります五百億円が利益ということでございます。

階委員 さっき一兆四千億売却したというふうにお話しになったので、今確認させていただきました。一千四百億売却して、簿価は九百億だから差額は五百億、こういうふうに承りました。

原田委員長 山口理事、もう一回。

山口参考人 お答えいたします。

 単位を間違えまして失礼いたしました。先ほど申し上げた数字が正確な数字ということでございます。

階委員 それでは、事前に準備していた質問に移らせていただきます。

 まず、景気の地域格差ということについてお伺いしたいんですが、お手元に資料を一枚配らせていただいております。こういったグラフでございますけれども、今回の日銀短観のデータ、全国の業況判断DIと地域によっての同じDIがかなりばらつきが出ていると思います。例えば岩手県の場合だと、全国がプラスの二であるのに対してマイナスの一七である。ちなみに、福田首相の地元はプラス一六と、かなり地域間でばらつきが出ておりますが、この原因をどのようにとらえるかというのをまずお聞かせ願えますか。

福井参考人 群馬県と岩手県の比較というのはなかなか難しいんですけれども、全国と岩手県の比較といいますか、全国と地方との比較ということになりますと、委員も御承知のとおり、今回の景気拡大というのは、国内の構造調整の進捗と絡んで実現している、より大きく世界経済の拡大を背景として起こっている、こういう背景、あるいは景気回復の仕組みの違いがございますために、一言で言いますと、世界経済との結びつきが強く、過剰債務などの構造的な問題に早目にめどをつけることができた大企業、とりわけ製造業大企業の業況の改善が目立っている。その一方で、中小企業などにはそこまでの景気拡大の実感がなかなかわいてこない、こういうことだと思います。こうした違いは、それぞれの立地する地域ごとの回復の程度のばらつきにつながっているというふうに思います。

 御指摘のとおり、岩手の業況判断DIは全国に比べて低い水準にとどまっておりまして、中身を見ますと、とりわけ建設業や卸、小売業など非製造業の業況が低迷しているということでございます。グローバル経済との接点の濃淡等によってこの差が出ているということでありますが、私が見ておりますと、岩手県の場合にも、製造業はそこそこに業況判断は改善しているということであります。したがいまして、なかなかここのところは、非製造業の問題がより深刻だということは確かだというふうに思っております。

階委員 今、このデータをお示ししたところ、皆さん余り知られていなかったようなデータで、結構意外感を持たれた方も多かったと思うんです。こういったデータですけれども、日銀短観の通常公表される資料では、企業の規模別のデータというのはあるんですけれども、地域別のデータというのは出されていないんですね。

 私は、こういうのを地元の日銀の事務所さんとかそういうところで出しているものから拾ってきたのでございますけれども、今、景気の地域格差、そういうことが言われている中で、短観の資料にこういったデータも入れていただくとより景気の実情が把握できるのではないかと思いますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

稲葉参考人 地域別のデータのお話でございますけれども、委員から御指摘がございましたように、地域の動向に関しましては、日銀の各支店等では、地域の動向に関して把握したいという地元ニーズにおこたえするということで、地域ごとの調査結果を公表しているわけでございますが、日銀としては、こうして集計された地域別業況判断につきましては、全国九地域にまとめまして、参考情報の一つとして「さくらレポート」、地域経済報告に実は掲載して御説明しているところでございます。「さくらレポート」は、本支店の調査担当者によるミクロのヒアリング情報等も記載されておりまして、それらとあわせて見ていただきますとそのデータがよりわかりやすくなるのではないか、こういうふうに考えてやっておるわけでございます。

 いずれにいたしましても、地域別のデータの扱いにつきましては、今後ともいろいろ工夫をしてまいりたいと思っています。

階委員 そういうことで、景気の地域格差が見られるわけですけれども、こういった地域格差ということは日銀が金融政策を決定する上でどのように考慮されているのか。やや抽象的な質問で恐縮ですが、お願いできますでしょうか。

福井参考人 日本銀行は全国に三十二の支店を置かせていただいております。そのほかにごく小さな規模の十四の事務所を持っておりますが、それらを通じまして地域経済の現状の把握に努めております。その成果は支店長会議などを通じて本店に伝えられております。来週火曜日にもことし最初の支店長会議を予定しておりまして、各地の最新の動向について支店長から報告を受けることになっております。そして、その結果は、さらにその翌週に予定しております金融政策決定会合の議論に生かしていくというふうな仕組みになっております。

 日本銀行では、各地域の動向を本支店のネットワークをフルに活用させて丹念に調査しました上で、それらを総合した日本経済全体の動向というマクロ的な観点から翻訳しながら、適切な金融政策を行うよう努めております。全国地域の状況が日本経済全体の循環メカニズムの中でどれぐらいそれを促す要因になっているか、あるいは逆にブレーキをかける要因になっているかということを十分分析しながら判断をしているということでございます。

階委員 それでは、話題がかわりまして、サブプライム問題について私もちょっとお聞かせ願えればと思います。

 先ほど、鈴木克昌委員の方からの質問に対して、国内の預金取扱金融機関の保有高が一兆四千七十億、また、その含み損が九月末時点で二千七百六十億というお話がありました。私は、そのほかに、預金取扱金融機関以外の証券とか保険とかそういった金融機関であるとか、また一般の事業会社であるとか個人投資家、こういったところで、国内ではどれだけ保有されて、また含み損失があるのか、その辺を聞きたいと思いますが、いかがでしょうか。

山口参考人 お答えいたします。

 繰り返しになりますが、預金取扱金融機関全体につきましては、昨年九月末時点で評価損と実現損合わせまして二千七百六十億円ということで金融庁が公表しておるところであります。

 先ほども私の方からお答えいたしましたが、昨年秋以降、海外の市況を見ますと一段と下落しておりまして、これに伴って我が国金融機関の損失額も拡大している、このように思っておるわけであります。したがいまして、こうした状況でありますので、今後の動きについては相当注意深く見てまいりたい、かように思っております。

 それから、お尋ねの、一般事業会社それから個人投資家、これらについての具体的な損失状況、このあたりをどう把握しているかということにつきましては、計数的には私どもとしては把握してございません。ただ、もちろん、今後、一般事業会社あるいは個人投資家等で何らかの大きな影響が出るということになるとすれば、そうした状況については注意深く見てまいりたい、このように思っているところでございます。

 以上でございます。

階委員 サブプライム問題が経済にどれだけ影響を与えるかということで皆さん疑心暗鬼になっている中で、日銀としては今のような調査体制で果たしていいのか、そういうふうに思うわけでございます。どれだけの波及効果があるかというのをぜひ緻密に、具体的に調べていただければと思っております。

 また、今のお話に関連しますけれども、昨今話題になっておりますのは、サブプライム関連を含む金融商品を保証しているモノライン、日本語で言うと金融保証会社ですけれども、これが格下げとなった場合、サブプライム以外の金融商品、これについてもモノラインが保証しておりますので、格下げの影響がほかの金融商品にも及んで、証券化商品全般に大きな損失が発生するのではないか、そういった懸念がありますけれども、この点について実情を把握されているのか、また、今後の見通しなどについてお聞かせ願えればと思います。

福井参考人 これは、単に日本銀行と申しますよりは、世界的に中央銀行の共通の関心事項になっております。

 なかんずく、本拠地である米国の連邦準備制度において強い関心を持ってウオッチしておられるというふうな状況でございますが、実際のところは、御指摘のとおり、まず格付会社は、サブプライムローン問題の影響による財務悪化の懸念から一部の海外モノラインに対する格付の見直しに着手する、こういうことを表明しています。これに対して、モノライン側では何もしていないかというとそうではなくて、財務の健全性を維持することで格下げを避けなきゃいかぬ、これを回避すべく資本増強を検討しているというふうな状況にあると承知をしております。

 したがって、モノラインに対する格付の変更が金融商品の市況に何がしか影響を及ぼし得る、そこはリスクだというふうに見られておりますけれども、今申し上げましたような状況にかんがみれば、どの程度のリスクとしてこれを把握すべきものなのか、今後の格付会社の動向とモノライン側の資本増強の状況、このかみ合わせの中で判断していかなければなりません。したがいまして、今、一方的に仮定を置いて判断を固めるということはむしろ誤りにつながるリスクがありますので、そこまでは踏み込んでコメントができる状況にはなっておりません。

 いずれにしても、各中央銀行ともに、ここの点は注意深く見ていきたいというふうに思っている点でございます。

階委員 サブプライム関連についてもう一つお伺いしますけれども、サブプライム関連のRMBS、証券化商品、さらにはそのRMBSを組み込んだCDO、こういったものに高い格付を与えつつ、かつ原資産であるサブプライムローンが多少デフォルトになったということで一気に格付を下げる、こういった格付会社の行動、これについて対応に問題はないか、お考えをお聞かせください。

福井参考人 全く問題がないかどうかは、なかなか難しいところだと思います。

 格付会社というのは、発行体の信用力に関する一つの、何と申しますか、彼らの言葉によれば科学的な判断を示していくということでありますので、状況が変わったら判断も変わるというのは、本来備えた性格でもある。ただし、それが行き過ぎてはいないかどうかという判断になってくるわけであります。

 格付会社自身のいろいろな率直な話を聞いておりますと、今回のケースについては、複雑な商品を対象に自信を持って格付をしてきたけれども、振り返ってみると、みずから反省すべき点もあるというふうな感じを持っておられるような雰囲気もございますが、過去、もう十年以上にわたり、格付会社の問題については、結局のところその適正性は市場の中で評価されていくべきものだ、現に評価されてきているというふうに考えられています。今回の場合も、結局、格付会社に対する評価はいずれ市場がきちんと下していくというふうに考えられるところでございます。

 したがいまして、これを利用する金融機関におきましては、投資商品の抱えるリスク、リターンについて、格付会社による格付はもちろん利用するにしても、みずからの持っている材料をつけ加えて能動的にこれを判断していくという姿勢が何よりも重要でございます。過度に格付機関の格付に依存して過大な投資をするというふうなことがもしあったとすれば、これは今度は金融機関側の反省材料になるということでございまして、今後とも、私どもは、考査やオフサイトモニタリングを通じまして、金融機関のそういう意味でのリスク管理の能力の向上に向けて引き続き我々としても努力をしてまいりたいというふうに思っている点でございます。

階委員 過度に格付に依存しないようにというお話でしたけれども、日本銀行さんとしても、市中の金融機関に資金供給する際などに担保をとると思うんですが、そういう担保にとるCPとか、いろいろなものについては格付を考慮されて担保にとっているかと思います。

 この点について、やはり日銀さんとしてもちゃんとリスク管理をしているかと思うんですが、そのあたりはどのようにされているのか、ちょっとお聞かせ願えますか。

稲葉参考人 日銀の担保受け入れ等の際の格付の扱いでございますけれども、貸し出しの担保あるいはオペの対象資産につきましては、日銀の資産の健全性を確保するという見地から、信用度及び市場性が十分あるかどうか、あるものに限り適格としているわけでございます。

 そうした中で、信用度の判断に関しましては格付機関の格付も活用するということにしておりますが、例えば民間企業が発行する社債、CPあるいは手形につきましては、格付機関による格付だけではなくて、私どもの得られました情報、あるいは当該企業の財務指標等、さまざまな情報を勘案して総合的に信用度を判断するということで適格かどうかを決めております。

階委員 また話題がかわりまして、為替と金利についてちょっとお聞かせ願えればと思います。

 最近は円高・ドル安という動きですけれども、少し前までは円安かつ低金利ということで投機筋による円キャリートレードがなされやすい状況にあったと思います。そういった中で、最近の円高の動きを正常化に向かう動きと見るのか、それともネガティブにとらえるのか、その辺について御見解をお聞かせください。

福井参考人 為替相場の動きにつきましては、私どもは、いいとか悪いとかいう評価を一々加えるというふうなやり方ではなくて、なぜそういう為替相場の動きになっているかということを常に客観的に要因を把握する、そして経済に対するインプリケーションを引き出すというふうなやり方で臨んでおります。

 円ドル相場のベースで申し上げれば、委員御指摘のとおり、昨年の夏ごろまで円安傾向が続いておりました。市場の中のボラティリティーが小さいもとで、内外金利差がいわゆる円キャリートレードを招きやすい状況にあったということだったというふうに思っています。

 その後は、米国サブプライム問題に端を発した国際金融市場の動揺を背景に市場のボラティリティーが非常に高くなったということで、こうした動きにはブレーキがかかってまいりました。特に、米国経済への懸念あるいはポジションの巻き戻しの動きなどが目立つようになってまいりまして、逆に少し円高が進行してきたということでございます。

 こうした為替相場の変動、これは輸出入や企業収益、さらには企業あるいは消費者の心理、企業のバランスシート等、さまざまなルートを通じて経済に影響を及ぼし得るものでございます。私どもは、そうした観点から、為替相場あるいはその他の金融市場の動きも含めて、引き続き経済へ及ぼす影響という点に重点を置きながら分析し、判断を重ねてまいりたいというふうに考えております。

階委員 もう一つ、円高・ドル安になっている一つの要因として、昨年の九月末に金融商品取引法が施行されて、それ以降、個人投資家、それまで海外の金融商品への投資を活発化していたものが、金融商品取引法で業者の規制が厳しくなって海外へお金が向かわなくなった、それが円高につながっているのではないか、そういう考え、見方があると聞いておりますが、その辺については日銀さんとしてはどのように分析されていますでしょうか。

稲葉参考人 金商法と為替の関係でございますけれども、金融商品取引法は、幅広い金融商品を対象に利用者保護の枠組みを整備する、そういうこと、それからプロの投資家との取引における規制の緩和の推進、こういったことなどを含めて、利用者の特性に応じた柔軟な規制体系を目指したものというふうに私どもは理解してございます。実際、同法が九月末に施行されて、金融機関は商品内容の説明をより丁寧に行うようになったというふうに聞いてございます。

 そこで、外貨建て投信でございますけれども、これまで伸びていた投信の増加は確かに昨年夏ごろから鈍化してございまして、この背景でございますけれども、例えば、サブプライム問題が深刻な状況になったといったようなさまざまな要因が作用しているのではないかというふうに判断しております。

 一方、為替市場の方は、こういった外貨建て投信以外にもさまざまな目的で為替取引が行われておりますので、一つの取引形態だけを取り上げてその影響を市場として評価する、相場として評価するというのはなかなか難しいのではないかというふうに考えております。

階委員 時間が参りましたので、最後に一点だけ質問させていただきます。

 今後の景気についてなんですけれども、私が一番懸念していますのは、先ほど、景気のリスク要因が多々あるということで、それが現実のものとなって、仮に景気が失速し、かつ一方で原油とか食料品価格の上昇等々によって物価高が進む、景気が失速して物価高が進むスタグフレーションと言われる状況になった場合、日銀の金融政策は非常に困難になるかと思うんですが、仮にそうなった場合どのような対応をとるおつもりなのか、御見解をお聞かせください。

福井参考人 原材料高、エネルギー価格の上昇等は、日本経済だけでなくて世界経済全体に問題を投げかけています。企業収益を圧迫するなど景気に対して下押し圧力につながる、その一方で物価に対しては上昇要因となる、いわば厄介な代物であるわけでございますけれども、特に現状においては、米国あるいは欧州の経済において、景気のダウンサイドリスクと物価上昇懸念、つまりアップサイド、ダウンサイド両方のリスクをどういうふうにバランスをとった形で金融政策の運営を当面やっていくかということの困難さにより多く直面しているというふうに思います。

 しかし、本質的には、委員御指摘のとおり、日本銀行の場合にも、同様の両方向のリスクに対して、この先いかにバランスのとれた対応を我々が適正な判断を持ってやっていけるかという局面に徐々に入りつつあるというふうに我々は認識しています。

 当面は日本経済は減速を続けるものの、その後は物価安定のもとで緩やかな拡大を続ける可能性が高いという基本的な判断を今維持している状況でございますので、まだ少し時間的余裕がある。今おっしゃったような、また裂きになるような現象の中で日本銀行が苦しむかといいますと、それより以前に、世界経済の動向について、よりよきバランスのとれた状況に一刻も早く持っていけるような方向について各国の中央銀行と十分意見を交わす。そして、日本経済について、足元の減速はあるけれども、先行き、再び物価安定のもとでの緩やかな拡大のパスというものにより強い確信を持てるような状況に持っていく。この視点を踏み外さないで、日本銀行としては、本当にスタグフレーションというふうなリスクに陥る前から安定軌道の整備ということを丹念にやっていかなきゃいけないんじゃないかなというふうに考えております。

階委員 どうもありがとうございました。

 これで質問を終わらせていただきます。

原田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 景気の現状と展望に関連をしてお聞きしたいと思います。

 まず、生活意識に関するアンケート調査、日銀が行っておりますけれども、その内容を確認したいのです。景況感について、昨年三月、六月、九月、それぞれ統計がありますが、一年前と比べてよくなったというのと悪くなった、それぞれの数字をお答えいただきたいと思います。

稲葉参考人 一年前と比べて今の景気はどう変わりましたかという問いに対する回答でございます。よくなったというふうに回答してきたパーセンテージでございますが、平成十九年三月一一・一%、六月一一・六%、九月六・七%でございます。悪くなったとお答えになったパーセンテージでございますが、平成十九年三月二三・二%、六月二三・六%、九月三四・一%でございます。

佐々木(憲)委員 この数字を国民の実感から見ますと、急速に景気が後退局面に入ってきている。これは実感でありますが、そういう感じがいたします。

 そこで、これまで日本の景気を牽引してきたのは主として輸出と言われておりますが、主な輸出先であるアメリカ経済に失速のおそれが強まっております。サブプライムローンの問題をきっかけにいたしまして、米国経済の下振れリスク、先ほどもお話がありました。また、世界経済についての不確実性が高まっている、こういうふうに先ほどの説明でもありました。

 今後の景気の見通しというのは、私は非常に厳しい状況が出てくるのではないかと思っておりますが、特に日本の場合、輸出の見通し、これは大変大事だと思いますが、どのように見通しておられるか、この点についてお聞きをしたいと思います。

福井参考人 米国経済との関連で日本の景気がどうなるだろうかというふうな点に的を絞ったお尋ねかというふうに思います。

 まず、アメリカでは、景気の減速感がこのところ幾分強まりつつあるということだと思います。特に住宅投資が大幅な減少を続けていまして、底入れのめどがまだ十分見えてこないという状況になっています。

 それから、金融の面でも、やはり金融市場の不安定な状態が続いている中で米国の銀行の与信基準が、住宅向けだけではなくて、商業用不動産、一般企業、消費者向けにも若干タイト化してきているという状況でありますので、米国経済の先行きについては、本当に慎重に見きわめていかなきゃいけないというふうに思います。

 ただ、米国におきましても、個人消費や設備投資はさすがに減速はしつつあるんですけれども、緩やかな増加基調ということそのものは維持しておりまして、2スピードエコノミーと言うと少し言い過ぎになるんですけれども、そうした表現が若干当てはまるような現象はなお続いているというふうなことでございます。

 したがいまして、米国景気全体としては、目先、低成長が見込まれますけれども、その後、安定成長に向けて軟着陸していく可能性は引き続き高いのではないかというふうに見ております。このような場合は、その後も世界経済は地域的な広がりを持ちながら拡大を続ける、こういうふうに考えられますので、日本経済も、こうした条件が満たされる限り、緩やかな拡大を先行き続けていける可能性が高いというふうに思います。

 しかし、繰り返し申し上げますけれども、ダウンサイドリスクが高まりつつあるというのは、委員御指摘のとおりでございます。アメリカの住宅市場の調整あるいは金融資本市場の変動の影響というのは、予想以上のものとなるリスクというのはやはり明確にあります。そのときには、それが本当に顕現化すれば、資産効果や信用収縮、マインドの悪化などを通じて、今、2スピードエコノミーと言いましたけれども、個人消費や設備投資が結局は下振れる、米国景気が一段と減速する可能性も考えられます。

 その場合には、その程度によって世界経済の中の他地域の成長にも悪影響が及んで、世界経済全体として下振れ現象が現実化すれば、日本の経済も、今おっしゃった輸出、あるいは企業収益、金融市況の変化などを通じて悪い影響を受けるリスクがある、こういうふうに思っています。

 したがいまして、私どもは、そうしたダウンサイドリスクにつきましても十分視野に入れながら今後適切な判断を行っていきたい、こういうふうに思っております。

佐々木(憲)委員 アメリカ経済を中心とする世界経済の下振れ要因といろいろおっしゃいました。そういう中で、日本の輸出依存のこういう景気の回復という状況が壁にぶつかる、そういうことになりますと、やはり、日本経済の自律的発展ということからいいますと、内需というものが非常に大きな重要な要素になると思うわけです。

 その場合、私、日本経済の今後の展望の上で二つのネックがあると思っております。

 一つは、大企業と中小企業の間の格差というのが非常に拡大をしてきた。日銀の短観を見ても、大企業の利益は空前の好景気でありますけれども、中小企業の景況感はなかなか水面上に浮かび上がらないという状況が続いている。

 それから二つ目の問題は、大企業の利益は確かにバブル時代を超えるような高水準ですけれども、労働者の賃金の方は低迷が続いている。

 こういうこの二つのネックをどのように克服していくか、これが今後の日本経済の発展にとって非常に重要であると思っておりますけれども、総裁の御認識を伺いたいと思います。

福井参考人 私どもも、今回の日本経済の回復局面の特徴、あるいは問題意識を持つべき特徴という点では、委員が御指摘のとおり、二つの点を意識しております。

 グローバル化の進展のもとでの景気の回復ということでありますので、世界経済との接点の濃淡によって企業業績にばらつきが見られる、大企業と中小企業との間の景況感の差というのは明確に出ているというふうに思います。直近のところは、建築基準法の影響というものが少しその上乗せ要因になっているという点も心配いたしております。

 それから、企業部門に比べ、家計部門の改善テンポが緩慢な状況が続いているという点ももう一つの特徴でございます。特に賃金について、これは、団塊世代の退職やパート比率の上昇という要因もありますけれども、全体としてやや弱目の動きとなっています。

 国際競争に打ちかっていくためにやはりどうしても、コスト、固定費抑制というふうな姿勢が強い企業、そして働く側にあっても、過去の苦しい経験から雇用機会の確保ということにウエートがあってそういう現象が出てきていると思いますけれども、これが、今のところは雇用者数の増加、結果として雇用者所得の増加という形で個人消費を下支える格好になっていると思いますけれども、今後さまざまなダウンサイドリスクが顕現化した場合に、この家計部門の弱さというのが日本経済の今後の景気の軌道に対して本当の意味でウイークポイントにならないかどうかという点は、十分丹念に点検していかなきゃならないというふうに思っています。

佐々木(憲)委員 国民経済計算を見ましても、例えば過去十年間の推移を見ますと、企業の所得、例えば民間法人企業の利益ですけれども、これが一番落ち込んだのが九八、九年なんですね。その後、上昇局面に入ってきている。

 それに対して雇用者報酬、この統計を見ますと、企業の利益は伸びているまさにその中で、雇用者報酬だけがどんどん下がっていっているわけです。一番底が二〇〇四年でありまして、その後若干上がっていますけれども、しかし、この十年間全体を通じて見ますと、例えば企業所得は十四・三兆円増になっているわけですが、雇用者報酬はマイナスの十一・三兆円なんです。ですから、雇用者報酬の方は下がり続けて、最近少し底を打った形にはなっていますけれども、とてもとても前の水準にまでは到達していない。

 こういう状況を考えますと、これは、明らかに大企業の利益が還元されていないばかりか、家計をいわば犠牲にしながら企業の利益だけがふえている、簡単に言うとそういうことになっていると思うわけです。

 そこで問題は、企業の、とりわけ大手企業ですけれども、この利益をどう還元するのか、これがやはり政策課題でもありますし、また、企業の側の企業運営といいますか、近々春闘もありますけれども、この今の局面でそういう企業利益をどう国民に還元するか、このところが大変大事だと思います。

 家計の問題というのは今後の大変重要なかぎになるとおっしゃいましたが、総裁はこの点をどのようにお考えでしょうか。

福井参考人 雇用者への所得配分、なかんずく賃金ということになりますと、これは、企業と働く者との間のさまざまな経済主体の意思決定を介在して決まってくるということでありますので、なかなかここに政策的な介在の余地というものは、難しい問題があるということは委員御承知のとおりだと思います。

 ただ、そうは申しましても、御指摘のとおり大切なことは、この企業部門あるいは家計部門が全体として日本経済をうまく支えていくということであります。どちらか片寄せして日本経済の円滑な運転をしていけるということではないということでございます。

 先ほどから私、たびたび、生産、所得、支出の好循環のメカニズムを今後とも維持しなければならないことを強調させていただいておりますけれども、生産、所得、支出という場合に、その所得が、企業がみずから投資等で使う所得と、賃金という形で家計部門に還元され、家計が消費として使っていく所得と、ここの配分がやはり余りいびつがある場合には好循環のメカニズムにどこか欠点が出てくるということでございますので、経済の円滑な循環メカニズムを維持するために非常に重要だ。

 企業の経営者におかれても、次の企業活動に、みずからにとっても次の需要が見えてくるという姿にするためには、家計部門への利益の配分というのはどうあるべきかというのをマクロの視点から十分認識を強めていただくという必要は、やはり私はあるんじゃないかなというふうに思っております。

 日銀といたしましては、賃金など家計部門の動向について、今申し上げましたように、景気全体のメカニズムを判断する上で重要な要素として引き続きしっかりと点検してまいりたいと思っています。

佐々木(憲)委員 法人企業統計を見ましても、今、総裁がおっしゃいましたように、配分がいびつになっているかどうかという点ですけれども、この五年間、二〇〇一年から二〇〇六年までの間、資本金十億円以上の大企業の経常利益は二倍になっております。また、配当金は四倍になっております。役員給与は約二倍です。しかし、従業員給与というところを見ますと、これはマイナスなんですね。ですからこれは、やはりゆがみは拡大していると言わざるを得ません。

 したがって、私は、今後の国民の暮らしと影響あるいは日本経済全体の展望ということを考えますと、ここをどう是正するかということが大変重要だと思っております。

 政府の政策としても、これは当然国民負担の軽減、増税とか負担増というのはもうこの辺で転換しなきゃならぬというふうに思いますし、また、企業の行動としても、総裁がおっしゃいましたように、家計部門に対する配慮というものをどのように行うのか、こういうことが大変重要だというふうに思います。

 時間が参りましたので以上で終わります。ありがとうございました。

原田委員長 以上で質疑は終了いたしました。

 次回は、来る十五日火曜日午前十時二十分理事会、午前十時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時二分散会


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