衆議院

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第10号 平成23年3月25日(金曜日)

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平成二十三年三月二十五日(金曜日)

    午後一時三十分開議

 出席委員

   委員長 石田 勝之君

   理事 泉  健太君 理事 大串 博志君

   理事 岸本 周平君 理事 古本伸一郎君

   理事 鷲尾英一郎君 理事 後藤田正純君

   理事 竹下  亘君 理事 竹内  譲君

      網屋 信介君    五十嵐文彦君

      江端 貴子君    小野塚勝俊君

      岡田 康裕君    柿沼 正明君

      勝又恒一郎君    木内 孝胤君

      小山 展弘君    近藤 和也君

      菅川  洋君    玉木雄一郎君

      豊田潤多郎君    中塚 一宏君

      中野  譲君    中林美恵子君

      松原  仁君    三村 和也君

      柳田 和己君    和田 隆志君

      竹本 直一君    野田  毅君

      村田 吉隆君    茂木 敏充君

      山口 俊一君    山本 幸三君

      佐々木憲昭君

    …………………………………

   財務大臣         野田 佳彦君

   国務大臣

   (金融担当)       自見庄三郎君

   財務副大臣        五十嵐文彦君

   内閣府大臣政務官     和田 隆志君

   政府参考人

   (財務省主税局長)    古谷 一之君

   政府参考人

   (国税庁次長)      田中 一穂君

   参考人

   (日本銀行総裁)     白川 方明君

   財務金融委員会専門員   北村 治則君

    ―――――――――――――

委員の異動

三月二十五日

 辞任         補欠選任

  吉田  泉君     中野  譲君

同日

 辞任         補欠選任

  中野  譲君     吉田  泉君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 平成二十三年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案(内閣提出第一号)

 所得税法等の一部を改正する法律案(内閣提出第二号)


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     ――――◇―――――

石田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、平成二十三年度における財政運営のための公債の発行の特例等に関する法律案及び所得税法等の一部を改正する法律案の両案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、参考人として日本銀行総裁白川方明君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として財務省主税局長古谷一之君、国税庁次長田中一穂君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

石田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

石田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中林美恵子君。

中林委員 神奈川県第一区、民主党の中林美恵子でございます。

 まず冒頭に、東日本大震災において犠牲になられた多くの方々を悼みますとともに、被災された皆さんの苦難を少しでも私たちが分かち合い、日本を復興させられるように、我々、全力を尽くしてまいりたいと存じます。

 きょうは、そんな中、質疑の時間をちょうだいいたしましたことに感謝申し上げます。二十分というわけでございますが、きちっと枠におさまるように頑張らせていただきます。

 まず最初に、このたびの大震災における政府広報についてですが、一昨日の当委員会でも話題に上りましたACジャパンという組織が話題を呼んでおります。かつては公共広告機構という名前だったかと思うんですけれども、このACジャパンが多くのコマーシャルを流していることについて、これが政府広報であると思っていらっしゃる方が、実は私の地元にも大勢いらっしゃいまして、そんな中、一昨日のこの委員会で、後藤田委員の質疑の中にもACジャパンに関連した質疑があったかと思います。

 それで、私なりに、このACジャパンという組織のホームページを見させていただきましたところ、ACジャパンは社団法人であって、政府広報とは全く関係がないということがわかりました。ここに報告させていただきます。

 社団法人ACジャパンがホームページでみずから公表しておりますように、国と特に密接な関係がある特例民法法人には該当しないというふうに明記してございます。多くのテレビ局ですとか新聞会社、一般企業を含む会員制度があって、理事や顧問などの役員構成及び資金の集め方などを拝見いたしましても、その上では政府広報そのものとは全く違うということが確認できました。

 東日本の大震災に関しまして、ACジャパンの広告がちょっと多いんじゃないかという、地元を含めた市民の皆様からのお声もいただいております。これは、ある意味、政府広報自体がまだまだ十分でないという部分もあるのかもしれません。そこで、今回の大震災にかかわる数々の緊急政策というものをもっともっと紹介して、国民の皆様に知っていただけるように、ますますの広報をお願いする次第でございます。

 では、まず、政府の税財政政策に関しまして、多くの国民の皆さんが関心を持たれていると思われます大震災と財政、税の関係についてお伺いをさせていただきます。

 阪神・淡路大震災が平成七年一月十七日に起こりました。そのときにどのようなスピードで、またどのような税財政にかかわる施策が講じられたのか、ぜひ財務省、野田大臣あるいは政務官にもお越しいただいておりますので、お伺いしたいと思います。過去の大震災を振り返っての財務省としての施策、税金そして財政、双方からお願いいたします。

野田国務大臣 中林委員にお答えをしたいと思います。

 阪神・淡路大震災時における予算と税制上の対応についてのお尋ねでございました。

 阪神・淡路大震災、平成七年の一月十七日に発災をしておりますけれども、その年度である平成六年度に、約四十日後だったと思いますけれども、最初の補正予算を組んで、そして成立をしていまして、平成六年度と、そして平成七年度と、合わせて三回補正を組んでおりますが、合わせると国費ベースで約三・二兆円の予算措置を講じております。

 税制上の対応としては、申告、納付期限の延長を行うとともに、住宅、家財等の損失に係る雑損控除や災害減免法による減免を前年分所得で適用できるようにすること、事業用資産の損失について、前年分事業所得の計算上、必要経費に算入することができるような、そういう措置を講じたり、その後、さまざまな特別措置がございまして、所得税、法人税、相続税、さまざまな場面で特例措置を講じさせていただいておりました。

中林委員 そのような過去の経験が、今回の東日本大震災においてどのように生かされているのでしょうか。

 また、阪神・淡路大震災のころのいろいろな施策が比較的スピーディーに行われたと思いますが、それに比較して、今回の大震災に対して、日数ですとか手順などにおいて、どれだけのスピーディーさが実現されているかをお伺いいたします。

野田国務大臣 阪神・淡路大震災の経験は、大いに教訓として取り入れていかなければいけないと思います。

 ただ、一方で、今般の東日本大震災は、規模それから広がりを含めて、これは随分と違っているということと、特徴的なことは、災害対策というのは自助、共助、公助と段階があって、公助では市町村とそして都道府県と国がそれぞれ役割分担するんですが、自治体機能が今回は著しく機能低下している、あるいは壊滅的な自治体もございますので、状況は相当に違ってきているだろうと思います。

 そのことを踏まえまして、自治体機能が低下をしている分、国がストレートに救済しなければいけない場面も出てまいりました。そのことによって、まず迅速な対応としてやったのは予備費の活用でございまして、いわゆる災害救援物資の調達については、これはもう自治体に任せるんじゃなくて、国が予備費として対応するという形で、三月十四日だと記憶していますが、発災から間もなくでありますけれども、三百二億円のいわゆる予備費の措置を閣議決定しました。

 その後、自衛隊の燃料費であるとか、あるいは海上保安庁の燃料費及び通信費等と合わせて約三百六十億円の予備費の措置を決定してきておりますし、これから被害の現況をしっかり把握して、そして、どういう対策を講じるかということを練り上げた上で、速やかに補正予算を編成していきたいというふうに考えております。

中林委員 今回の震災の大きさを考えますと、ますますいろいろな施策を打っていかなければいけない局面が出てくると思います。これからのさらなる充実した対応を期待いたします。

 また今後は、震災によって間接的にも大きな打撃を受けている企業や、また、小さな商売で本当に今も計画停電も含めて打撃を受けているという声を聞いておりますので、こうした企業、組織の税務上の取り扱いなども考えていかなければなりませんし、また、寄附金控除の制度であるとか投資税額控除制度の拡大なども、検討材料としては非常に重要なのではないかというふうに思っております。

 また、今回の震災は、地震のみならず津波や原子力発電所の災害も含めますと、トリプル災害というふうになっていると思います。大災害の実態が判明するには時間がかかるという特徴もあろうかと思います。事態が判明するたびごとに、柔軟に、そして迅速に対応を打ち出す必要があるというふうに考えております。

 さらに、野田財務大臣に、財政規律についてお伺いいたします。

 もともと私の質疑は、実は震災のあった十一日の夕方に予定されていたこともありまして、本来は、この財政規律について最も時間を割かせていただこうと思っていたのですが、十一日を境に大きく事態が変わってしまいましたので、簡潔に伺わせていただきます。

 日本の財政再建は、過去何十年と、言ってみれば失敗の連続だったというふうに思います。世界においても、実は、この財政規律というのは、景気の循環だけでは説明ができておりません。例えば、ヨーロッパのマーストリヒト条約は変化しないのに、リーマン・ショック以降、大きな財政赤字がヨーロッパの国々でも生じております。また、アメリカの財政規律も一たんは回復されましたけれども、二〇〇一年の同時多発テロで消えました。日本も、過去において何度も何度も財政規律確立のための試みを行ってきましたけれども、そのたびに自然災害、不景気、国際情勢の変化などがあって、それをあきらめるような結果に終わってまいりました。

 今回も未曾有の大震災に見舞われたわけですが、そんなときだからこそ、長期的な日本の財政の健全性を視野に入れた努力というのが求められているというふうに思います。ましてや、世界のマーケットは日本の財政規律をシビアに見続けておりまして、今後の日本の発展も、財政規律がどうなるのかという視点から逃れることはできないと思います。

 野田財務大臣は、この震災に直面して、どのように長期的な日本の財政規律を立て直そうとお考えでいらっしゃいますでしょうか。

野田国務大臣 委員からは財政規律のお尋ねでございましたけれども、その前に、先ほど、今般の大震災に対する予算措置の御説明をしましたけれども、税制上の対応についてはちょっと言葉が足りなかったというふうに思いますので、少し補足させていただきます。

 今般も、申告、納付期限の延長を行うとともに、中央共同募金会が募集するNPO法人や民間ボランティア団体等向けの寄附金について、三月十五日に指定寄附金の指定をさせていただきました。加えて、雑損控除であるとか災害減免法による減免、あるいは事業用資産の損失について必要経費に算入することなども平成二十二年分の所得でも対応できるように、そういうことを表明させていただいているところでございます。

 その上ででございますけれども、まずは、今、被害の現況をしっかりと把握するということと、それに対する対策をどう講ずるかということの考えを整理して、財源をどうするか、そういう順序立った議論を、プロセスを経てやっていく中で、財政運営のあり方もあわせて検討していきたいというふうに考えております。

 その上で、国と地方の長期債務残高が対GDP比で一八〇%を超えるというような状況は、主要先進国の中で最悪の水準でございます。少なくともG20の加盟国は、それぞれ財政健全化に向けて目標を定めて努力をしているときでございますので、その中期的な信頼のできる財政健全化の道筋のもとに我々は歩むということをしっかり留意しながら対応していかなければいけないと考えています。

中林委員 ありがとうございます。

 まさに、この大災害にあって、財政規律との両立というのは非常に難しいかじ取りとなると思います。しかし、やはり両方を実現していかなければ、日本の経済というのは将来非常に難しいことになっていくと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 続けて、金融庁、自見大臣にも御質問させていただきたいと思います。

 この大震災で日本の経済は一体大丈夫なのかというような懸念の声が世界じゅうから聞こえてまいります。特に、計画停電などで、実は被災地でない企業の方々もたくさんの問題を抱えつつあります。そして、それは大きくなりつつあります。こういった形で、被災地の皆さんもさることながら、日本じゅうが経済活動の中で大きな支障を来している部分もありますけれども、その中で、特に企業活動といいますと、金融の果たす役割というのは大変大きいと思います。

 今回の大震災に関しまして、金融庁は、被災地支援策、それから日本全体の金融面の対策といたしまして、どのような取り組みをしていらっしゃるのか。

 また、地域の金融機関、特に地銀その他、地域にはとても密接した金融機関がございます。信用組合などもそうですね。被災地の復興のためにも、こういったところがしっかりと取り組んでいただく必要があろうかと思います。その一方で、そういうところだからこそ、震災の影響で財務内容が悪化するというところも出てきていると思います。いろいろな意味で日本全体にも影響のある金融であるからこそ、そこに政府としてどのように取り組んでいるのか、そこをお聞かせください。

和田大臣政務官 幾つか御質問をいただいていましたので、私の方から、細かな内容も含めまして、ちょっと御報告したいと思います。

 中林委員御指摘の、金融が果たす役割もあるんじゃないかというふうに、おっしゃるとおりでございまして、私ども、何回かこの場で御答弁申し上げておりますが、何回かにわたって、金融機関、銀行も証券会社も保険会社も、いろいろな業界の皆様方に、いろいろ御協力いただきたいという要請を行っています。

 その結果、今、被災者の方々に我々として対応できていることを幾つか列挙して申し上げたいと思います。

 まず、預金を持っていらっしゃる被災者の方々につきましては、御本人の確認が何らかの手段でできる限り、すべてが整っていなくてもできるだけ払い出しに応じるという体制を整えていただいています。これが仮に別の金融機関に口座をお持ちの方であっても、被災された方が避難された先でどこかの金融機関に行っていただくと対応がとれるというふうになっている次第でございます。

 また、先ほどお話の中で出てまいりましたが、企業を経営していらっしゃる方々には、被災された企業はもちろんですが、その企業と取引をなさっておられる企業も全国にたくさんあるわけでございます。そういった方々に向けても今般いろいろな措置が必要なんじゃないかというふうに考えましたものですから、二十三日のことでございましたが、年度末金融の皆様方への御協力の要請とともに、そういった間接的なお取引関係がある、自分のところは被害があっていないけれどもお取引関係があるという方々のためにも格段の配慮をいただきたいというふうにお願いしているところでございます。

 そのほかにも、年度末を控えまして手形の決済等もふえてまいりますが、それらの不渡り処分を普通だったらしなければいけないところを特段の配慮をいただきたいということも申し上げています。

 さらに、もう少し申し上げさせていただきたいと思いますが、今般、被災者の方々、被災企業の方々は、それぞれ保険のシステムに入っていらっしゃって、そこがどれぐらい払い出しに応じてくれるのか、そういう御心配も多々お伺いしております。これらにつきましても各業界の方で本当に要請に真摯に対応してくれていまして、例えば生保業界であれば、普通であれば亡くなった方の確認がとれないとなかなか払い出しに応じられないのですが、行方不明者を捜すことも非常に困難だということで、それらに対しては柔軟に対応するということになっております。

 損保業界につきましては、今度は、普通であれば、損害を申請して、そこの損害を確定するために一人一人担当者が行ってどれぐらいの損害であったかを確認するわけでございますが、これだけ一円に被害が及んでいる関係で、損保各社が全部協力いたしまして、共同で被災地に入って損害の状況を把握し、保険に入っていらっしゃった方の申請にすぐ応じられるような体制を整えているということでございます。

 そのほかにも、保険金の払い出しに迅速に対応できるようあらゆる措置を講じていただくよう要請しており、しかも金融機関は、限られた人員でございますが、それに対応をとっていただいているということでございます。

 もう一つ、経営の悪化が懸念される地域金融機関があるんじゃないかというお話でございました。

 実は、地域金融機関全体を見ますと十分な自己資本を確保しておりますので、私どもはそういった支払い懸念があるというふうには思ってはいません。また、こういった被災している状況の中で私どもが発しなければいけないメッセージは、金融システム全体はしっかりと維持しながら皆様方をお支えするという確固たるメッセージが大事だというふうに考えています。

 それを前提にしまして、各金融機関が何らかの地域的な役割をさらに果たそうとするときのために、金融機能強化法という法律がございます。この法律は、今、来年の三月末まで期限を定めて、申請さえあれば前向きに取り組んでいくということになっておりますので、それによって対処可能だと考えています。

 以上でございます。

中林委員 詳しい説明をありがとうございました。

 冒頭に私は、政府広報とは関係ない民間のACジャパンというコマーシャルの話をさせていただきましたが、せっかくそのような多くの緊急措置がとられているということですから、ぜひこれを国民の皆さんに知っていただくように充実した広報を政府としてお願いいたします。(発言する者あり)ありがとうございます。

 では、自見大臣に最後にお伺いいたします。

 特に株価の変動、こういったものに大きな関心が寄せられております。震災後の株式市場、値動きが大きい日も見られますけれども、株式市場の動向について、今後不安材料など、どういうふうにして私たちは闘っていったらいいのか、そしてどのように大臣が将来の日本経済、株価を含めたマーケットについてごらんになっていらっしゃるのか、お考えをお聞かせください。

自見国務大臣 中林議員にお答えをいたします。

 我が国は金融インフラをきちっと維持しているということを世界に向けてメッセージを出さねばならない、こう思いまして、政界の一部には、マーケットを閉めるべきではないか、あるいは、マーケットの先物は中止するべきではないか、そういった意見もあったわけでございますけれども、私は、こういったときだからこそ、きちっと日本が世界に向けて、金融インフラをきちっと維持しているということをわかっていただくためにも、世界に対するメッセージを出す必要があると思って、マーケットを開かせていただいたわけでございます。

 震災以来、市場を開いてきたところでございますが、株価の動向についていかに、こういうお話でございました。

 震災以降の株式市場を振り返りますと、当初は震災や円高などの材料に大幅に下げましたが、先週半ば以降は反発し、落ちついた推移となっております。今後とも市場の動向に注意を払うとともに、動揺することなく冷静に注視していく必要があると思っています。

 申し上げれば、円高ということを申しましたけれども、先生御存じのように、三月の十八日、きょうも御出席の野田財務大臣、白川日本銀行総裁が、G7の財務大臣・中央銀行総裁会議を開きまして、これは電話でございましたけれども、この中で、短いステートメントの中で、「日本の経済と金融セクターの強靱さへの信認を表明する。」「日本とともに為替市場における協調介入に参加する。」と、はっきり断言していただきました。

 このG7の、今フランスが議長国でございますが、ラガルドさんという女性の財務大臣でございますが、私が一月にお会いしたとき、実は、ヨーロッパはアイルランドの金融危機がございました。そういったことを含めて、EU、ユーロを使っている国は十七カ国でございますが、その金融の安定化のためにユーロ債を出したわけですね。私の後ろにおられます野田財務大臣がイの一番に、日本国はその発行したユーロ債の二〇%を買うということを発表した、すぐその後に、私が会いに行きましたら、出会い頭に私にお礼を言われまして、本当に日本がそのユーロ債を買っていただいてありがたかったと。

 やはり世界の経済はある意味でグローバル化しておりまして、そういった意味で、そういった日ごろの持ちつ持たれつの国と国との関係も、先生はアメリカに長くおられましたからおわかりだと思うわけでございますけれども、そういうこともきちっと今回の震災に関していい作用が働いたというふうに私は認識をさせていただいております。

 それからもう一点、こういったときは、災害の発生に乗じて不適切な取引が起こりがちでございますから、これを防止するということも大臣談話で発表させていただきました。これは三月十三日でございますけれども、引き続き厳格に、これはルールを乱す人が中におってはいけませんから、厳格にきちっと監視していくということもあわせて発表させていただいたところでございます。

 以上でございます。

中林委員 大変ありがとうございました。ますますの奮闘をよろしくお願いいたします。

 私の時間は以上となりましたので、質疑を終了させていただきます。ありがとうございました。

石田委員長 次に、山本幸三君。

山本(幸)委員 自由民主党の山本幸三でございます。

 私も、ちょうど二週間前、三月十一日の夕方からの審議に備えまして一生懸命勉強しておったわけでありますが、そのときに突然大変な地震が発生いたしました。東北関東大震災という形になりまして、多くの方々が犠牲になり、そして被災されました。亡くなられた方々には心から御冥福をお祈りしたいと思いますし、被災者の皆様方にはお見舞いを申し上げたいと思います。

 そのときは、私は日銀総裁を呼んでおりませんで、税法の話をしっかりしたいと思っていたんですね。いつも日銀総裁ばかりやっているわけじゃないというのをちょっと示したかったのでありますけれども、事態が急変いたしまして、きょう、またおいでいただきました。

 それは、要するに、税法なり特例公債法というのは歳入のことですね。歳出をするためには歳入が要るわけですが、それは税でやるか国債でやるしかない。そのときに、通例だと特例公債ということで市中発行のことをやっていたわけでありますが、この大震災が起こると、私は、それはだめだ、それじゃ足りない、これはもう日銀直接引き受けをやってもらうしかないというのが私の考えでありまして、この点は緊急アピールで皆さん方のお手元にも配付させていただいております。

 これはなぜかというと、とにかく迅速にやらなきゃいかぬ、それから規模を十分に確保できるものでないといけない、そして経済に悪影響を及ぼすものであってはならない。この観点からすると、私はどう考えたって、今まさに、二十兆円規模が適当だと思っていますが、その規模は議論があるかもしれませんが、日銀の国債直接引き受けでやるしかないと確信をしております。

 ところが、この日銀の直接引き受けという問題についてはいろいろな議論がありまして、与謝野さんは法的にできないなんてばかなことを言っている。日銀総裁はこの前のこの委員会の審議では、貨幣の信認が失われる、五十嵐財務副大臣はインフレになるというような話をされました。私から言わせると俗論、妄説のたぐいでありまして、それに決着をつけるために、きょう私は質問に立ったわけであります。

 まず、一番わかりやすいのは、実例を見るのが一番いいですね。

 財務大臣、日銀の直接引き受けというのは極めて異常なもののように思っていますが、実は毎年相当やっているんですよ。その事実を御存じですか。

野田国務大臣 日銀が長期国債の買い入れをやっているということは事実でございます。(山本(幸)委員「いやいや、直接的に」と呼ぶ)直接。要は、日銀がやっていることは、いわゆる金融政策の一環として……(山本(幸)委員「知っていますか、知っていませんか、どっちかです」と呼ぶ)直接は知りません。

山本(幸)委員 五十嵐副大臣、どうですか。

五十嵐副大臣 借換債、乗りかえについては直接引き受けをしております。これは総則に基づいてやっていることです。

山本(幸)委員 結構です。よく勉強しておられますね。

 日銀総裁はどうですか、知っていますか。

白川参考人 日本銀行は市場から国債を買い入れています、いわゆるオペを行っております。買い入れました長期国債が満期を迎えたときには、その金額につきまして、現在は短期国債で乗りかえております。この金額は、財政法五条のただし書きに基づくその金額の中で、既に買い入れました国債の満期償還分について短期国債で乗りかえを行っているという事実は、これは認識しております。

山本(幸)委員 そのとおりでありまして、毎年やっているんですよ、日銀の直接引き受けというのは。

 これは特別会計の予算総則ですが、第五条にこう書いてある。特別会計の予算総則第五条、「国債整理基金特別会計において、「財政法」第五条ただし書の規定により政府が平成二十三年度において発行する公債を日本銀行に引き受けさせることができる金額は、同行の保有する公債の借換えのために必要な金額とする。」

 借りかえのためには国債引き受けを毎年やっているんですよ。

 日銀総裁、それで通貨の信認は失われましたか。

白川参考人 この国債の乗りかえ引き受けにつきましては、これは日本銀行が市場に対して資金を供給するという金融政策の目的上行いました国債、その国債の乗りかえでございます。

 したがって、この乗りかえ引き受けによって、日本銀行による国債の保有金額がふえるというものではございません。かつ、乗りかえに当たりましては、その都度、この乗りかえが金融政策運営上支障がないかどうか、それを確認した上で乗りかえを行うという判断を行っております。

 いずれにせよ、日本銀行が大もとの買い入れ金額を決めた上での乗りかえの話でございます。

山本(幸)委員 委員長、私の質問にちゃんと答えるように言ってください。

 私が聞いているのは、これは借りかえであろうと、本来ならば金を返して、それでまた借りかえするということ、適宜借りかえということはやっているんだけれども、国債直接引き受けに変わりはありませんよ、経済学的には。だから、これが通貨の信認を失ったことになったのかと。イエスかノーか、それ以外のことは答えなくてよろしい。

白川参考人 日本銀行も含め、どの中央銀行も、国債の買い入れが金融政策上の目的を離れて財政のファイナンスのために行われているというふうな認識が広がりますと、これは通貨への信認を損なうというふうになると思います。

山本(幸)委員 委員長、しっかり私の質問に答えるように言ってくださいよ。

 通貨の信認を失ったんですか、どうですか。どっちなんだ、イエスかノーか。

石田委員長 通貨の信認を失ったか否かについて。

白川参考人 山本先生のお問いかけは非常に難しい問いかけなもので、イエスかノーかで答える性格のものではなかなかないと思います。

 日本銀行が金融政策の目的を離れて自動的に財政ファイナンスのために国債を引き受けるという体制になりますと、これは通貨の信認を毀損するおそれがあるというふうに思います。

山本(幸)委員 私は、将来の話なり仮定の話をしているんじゃないんだ。毎年、日銀は直接国債引き受けをやっているんだ、借換債という形だけれども。それで通貨の信認が失われましたかどうかと聞いているんですよ。一番簡単な質問じゃないですか。

 委員長、ちゃんとそれしか答えないようにしてくださいよ。つまらない、ほかのことを言わなくていい。ほかのことはこれからやるから。

石田委員長 毎年買い入れをしていることについて、今、山本議員が質問をいたしております。その点について、もう一度、白川総裁の方から答弁を求めます。

白川参考人 日本銀行は、毎回、この乗りかえ引き受けの都度、金融政策運営上支障がないかどうかを確認の上、支障がない上で乗りかえを行っておりますが、その結果として通貨への信認を失うということのないように努力しています。

山本(幸)委員 つまり、日銀は毎年、国債の直接引き受けをこれまでやってきた。大体十一兆円ぐらいだ。巨額ですよ、借りかえだけれども。しかし、それは国債直接引き受けと変わりないじゃないか。財政法第五条ただし書きにちゃんと書いてあるんだから。普通のことなんですよ、直接引き受けというのは。

 そして、今、日銀総裁は、今までやってきたことで通貨の信認なんか失われたことはないと言明されました。結構です。

 五十嵐副大臣、インフレになりましたか。

五十嵐副大臣 これは、市中消化原則をどう見るかという話なんだろうと思います。市中消化原則に支障がないから、あの乗りかえについては大丈夫だということになっているわけでありまして、これは、それによってインフレが起きるという性質のものではないということでございます。

山本(幸)委員 最初のところはよくわからないけれども、インフレじゃなかったということは確認できたということで、了としておきます。

 そこで、次に日銀総裁に行きますが、通貨の信認が失われるとはどういうことですか。

白川参考人 通貨の信認ということは、通貨は、これは釈迦に説法でございますけれども、あくまでもペーパー、記録でございます。このお金をなぜ人々が受け取るかといいますと、これは将来の価値が安定しているというふうにみんなが信頼を置いているからこそ、みんなが通貨を使うわけでございます。

 この通貨の信認が失われるという事態は、将来、中央銀行の金融政策が物価安定という目的からずれて運営されていくというふうに人々が思い始めますと、その結果として将来の通貨価値が不安定になってくる。その結果、通貨が普通に使われるという事態からだんだんに離れてまいります。そうした状態になるということが、通貨の信認が失われるという事態だというふうに考えております。

山本(幸)委員 大体結構だと思いますが、要するに、通貨の信認が失われるというのはハイパーインフレのときしか起こらないですよね。つまり、インフレ率が高くなり過ぎて、これは通貨を使う価値がないかどうかということですよ。だからつまり、通貨の信認が失われるということは、ハイパーインフレをどう定義するか次第によるんだけれども、いわゆるハイパーインフレと言われた現象が、過去、歴史的に幾つかの国でありました。そういうときには通貨の信認が失われるということを言うなら私はわかりますよ。それでいいですか。

白川参考人 通貨の信認が失われるというケースは、これは二つあると思います。一つは、激しいインフレが起こるということでございます。もう一つは、通貨それ自体の支払い能力についての疑念であります。

 今、日本銀行券の金額よりかはるかに多くの通貨は、実は銀行預金という形でこれが提供されております。一国の銀行システムの安全性というのは、最終的にはこれは政府の信用というものに依存しております。リーマン・ショックを初めとしていろいろな金融システムの問題というのは、あるいはギリシャ危機もそうですけれども、金融機関の負っている債務である預金という通貨に対して人々が信認を失う、これは最終的には政府の財政、支払い能力というものに対する疑念が出てきますと、その面からも通貨の信認は失われます。

 いずれにせよ、通貨の信認が失われるというケースは、インフレと、それから金融機関の支払い能力、あるいは最終的に政府の支払い能力というものに対して疑念が生じてまいりますと、どこかの段階で人々の予想、信認というのは非連続的に変化してきます。過去、我々は、内外のさまざまな経験によって、そうした事態に直面してきております。

 したがって、人類の英知として、あらかじめ、中央銀行が国債を引き受けるということはしないということを導入しているわけでございます。世界の多くの国、これは先進国はもとよりですけれども、新興国も、たびたびの金融危機の経験を経て、そうした中央銀行の引き受けを、未然にそうしたことはやらないということを導入し、そうした運営を今行っているというふうに思います。

山本(幸)委員 最初の、激しいインフレのときは、ハイパーインフレのときには通貨の信認が失われる、それはわかります。二番目、これはつまり、政府が信用できなくなったというときに通貨の不信認が起こる。それは、今の政権がとてもじゃないけれども信用できないと言っていることと同じですが、日本銀行総裁はそれを心配しているわけですね。

 そこで、今、二十兆円ぐらいの日銀国債引き受けをやって、そんな事態が起こりますか。私は起こらないと思う。だって、二十兆円以上のデフレギャップがあるんでしょう。それから、民間シンクタンクは、この震災でGDPが〇・五ぐらいは吹っ飛ぶと。三十兆円は吹っ飛ぶ。もっと吹っ飛ぶでしょう。そういう状況で、日銀国債引き受けをやって金を出して、ハイパーインフレになるわけがないじゃない。

 これを増税でやれば、一層消費を減らして経済が収縮して、税収なんか上がりませんよ。それから、これを市中で国債発行をやれば、いよいよ金利上昇プレッシャーがかかって円高になりますよ。きかない。そうじゃなくたって、財政支出拡大だけで円高になるんだから。

 それを防いで、経済にいい形で迅速に思い切ってやるためには、日銀が国債を引き受けて金を出して、金利が上昇しないように、円高にならないようにしながらやるしかないんですよ。それが本当にインフレ的で、ハイパーインフレになりそうだったら、私だってこんなことは言いませんよ。しかし、デフレで、デフレギャップがこれだけあって、しかもGDPがこれだけ落ち込みそうだという話をしているときに、この政策を使わなくてどうするんですか。

 あなたは、二十兆円、国債日銀引き受けをやってハイパーインフレになるとでも思っているんですか。それとも、よっぽどこの政権にその能力がないと判断しているんですか。どっちですか。

白川参考人 現在、日本の国債発行額は大変大きな金額に上っております。年間百兆円を上回る金額の国債が発行されております。これだけの大量の国債が、現実に市場において低金利で安定的に調達されております。

 こういうふうに安定的に国債が調達できるという状況をしっかり維持するということは、今後の国債の円滑な発行を考える上で非常に大事なことでございます。この点で大事なことは、人々が、将来、通貨の価値がどういうふうになっていくんだろうかということについて疑念が生じないことであります。

 現在、世界の多くの国では国債の引き受けは認められておりません。そういう意味で、中央銀行が国債の引き受けを行わないというのは世界で確立された考え方になっております。

 そういうもとで日本が中央銀行による国債の引き受けを行うというふうになりますと、今直ちに状況が変化するかどうか、それはわかりませんけれども、しかし、日本の基本的な通貨、経済に関する運営の仕方が変わったんだというふうに、国民あるいは内外の投資家が認識を変化させるというふうになってまいります。どこかの段階で非連続的な変化が生じてまいります。

 もちろん、その非連続的な変化がいつ起こるのか、正確に特定することはできません。しかし、そうしたことが過去多く起きてきたということで、引き受けを禁止するという規定になっているというふうに思います。

 そういう意味で、私が中央銀行による国債の引き受けについて慎重な考え方を申し上げているわけであります。

山本(幸)委員 最初に示したように、日銀の直接国債引き受けというのはもうやっているんですよ。だから、できないなんてどうして言えるんだ。さっき示したじゃないか、予算総則で。だから、そんなことは言うな。

 それから、心配しているというのはわかりますが、説得力がないね、今の答弁では。いつかは非連続的になるかもしれない、その前に安定的に穏やかなインフレ率に持っていくのがあなたの仕事ですよ。それもしないで、デフレでいて、穏やかなインフレ率に持っていくというのは最大の仕事ですよ。それが、財政ファイナンスだろうが、そんなことは国民には関係ない。国民にとって一番大事なのは、物価が穏やかなところで安定することですよ。それをやれ。

 これを、まあ日銀だけにやれと言ったって、そんな度胸はないでしょう。これは政治決断しかない、財務大臣。

 いろいろなことから考えて、先ほどもちょっと申し上げたけれども、弊害。これ以上また特例公債のほかの法案を出してやるんですか。この日銀国債引き受けだったら、補正予算の予算総則に一行書けばすぐできちゃうんだから。その迅速性、規模。規模も、二十兆円やったってインフレになんかならない。むしろ、二、三%のインフレになるにも足らないぐらいだ。それで、本当にインフレが心配だったら、インフレ目標政策をきちっと決めればいいじゃないか。そのためにあるんだ、インフレ目標政策というのは。

 そういうことを含めてやれば、これしかないと私は思うけれども、財務大臣、御見解を伺いたい。

野田国務大臣 先ほど来出ている日銀の乗りかえは、私は基本的には、これは財政規律からいえば中立的だというふうに思います。だから、今回の御提起の話とは、やはり少し趣が違うのではないかと思います。

 その上で、これは政治決断だというお話でございましたけれども、私はやはり財政法の第五条、これは基本的には、過去の歴史の教訓を踏まえて、大変重たい規定だというふうに考えています。

 委員の御指摘のような、こういう危機の状況だし、すぐいろいろな懸念はないという一つの論はありますけれども、ただ、さまざまな識者からまた別の懸念も示されております。そういうことを総合的に勘案しながら判断していかなければいけないと思います。

山本(幸)委員 昭和恐慌のときの高橋是清の歴史をよく勉強してくださいよ。高橋是清が日銀国債引き受けを発表して、彼が殺されるまでの間というのは、日本の経済パフォーマンスは最高だったんだ。物価は二%で安定し、実質成長率は七・二%。長期金利はむしろ下がった。株はどんどん上がった。全くインフレも起こらないし、成長は安定したんですよ。そして、一気に経済は回復した。

 これを今やるのが、野田財務大臣、あなたの力量にかかっているんですよ。平成の高橋是清になってくださいよ、歴史に残る。今やらなかったらいつやるんだ。こんな大災害のときにやらなかったら、いつやるんですか。

 これはいずれ、私、税制の話もちょっとしたいので、きょうはここまでにしておきますが、はっきり示したように、日銀の直接引き受けというのは毎年やっているんだとよく知っておいてくださいよ。何にもおかしな話じゃないんだ。

 そして、こういうときにはむしろやらなければ、ほかの歳入政策をとったら弊害が起こる。インフレが心配だったら、インフレ目標政策をきちっと決めてやる。デフレ議連の松原さん、頑張ってください。それが今やるべきことですよ。これは、与野党を超えてぜひ一緒にやってもらいたい、やるべきだと私は思います。この話はいずれまた何度もやりますが。

 せっかくですから、税制の話にちょっと移ります。もう日銀総裁は結構です。

 今回の税制法案で私は気になるのは、要するに、控除から手当へというスローガンが民主党さんのマニフェストで言われたわけですね。このことが非常に気になっていまして、一体これは何だと。本当はずっと細かい議論を一時間ぐらいやりたいんだけれども、時間がないので、はしょります。

 手当を厚くしますよというのは、これは社会保障政策ですよね。これは、ある意味でそういう政策の選択というのはあるかもしれない。結構だと思えるところもあるかもしれません。いや、ほかのやり方がいいというところもあるかもしれません。まあ、私は子ども手当なんていいと思わないんですけれども。しかし、それと税制上の控除というのを結びつけることのロジックがおかしいと私は思っているんですね。

 なぜならば、控除というのは、税制、所得税法の根幹ですよ。それは何が根幹かというと、野田大臣、控除というのは一体何を決めるために設けられているんですか。

野田国務大臣 それぞれ納税者にとっていろいろなお立場がある中で、税の公平性担保、担税力の確保等々総合的な観点から控除というのは取り入れられていると思います。

山本(幸)委員 つまり、課税最低限を決める重要な要素なんですね、控除というのは。

 課税というのは、応能負担の原則で行われるのが筋なんですね。それで行われているんですよ。これが要請されるんだ。そのときに、納税者に対して、その納税者の担税力に配慮して、最低限の生活費については非課税にしなきゃいかぬという大原則がある。これは、ぎりぎり言うと、憲法二十五条の生存権からきているんだということでありますが、この最低生活費非課税の原則というものを構成しているのが控除なんですよ。

 控除は、だから、基本的な課税最低限はあるけれども、その家族においては特別な事情を持っている人があって、子供が多いとか、あるいは障害者を持っているとか、そういう事情に応じて、それぞれ控除というのはまた追加されてきているわけですね。これは所得税の根幹だと私は思う。

 これをそう簡単に壊されたら、日本の所得税制度はおかしくなりますよ。こんなに簡単にどんどん、年少扶養控除を外して、今度は配偶者控除を外すとか言っているけれども、じゃ、そのときに基礎控除について何も変えなかったら、課税最低限はがんと上がっちゃうわけだ。

 最低生活費の非課税の原則というのをどう考えるんですか。最低生活費は幾らぐらいだと思っているんですか、大臣。

野田国務大臣 大体二百万ぐらいではないかと思います。

山本(幸)委員 二百万。二〇〇七年度の東京都の生活保護基準額というのがあるんです。これを見ますと、基礎控除額は百六十万円以上、配偶者控除額は七十万円以上、一人当たりの扶養控除額は七十万円以上となっているんです。つまり、生活保護を受けている人は、夫婦子二人だったら三百七十万円が最低生活費ですよと東京都は言っているんですよ。

 どうですか、大臣、それについて。

野田国務大臣 数字はそういうことで理解しました。

山本(幸)委員 そういうことはよく知っておいてくださいよ。それが若干高いとかあるかもしれない、それは田舎とか違うからね。だけれども、憲法二十五条で保障された生存権、最低額の生活費は非課税にしてやるという大原則がなければ、所得税制度というのは成り立ちませんよ。

 プライベートな話で申しわけないが、国税庁ができた初代所得税課長は私の義理のおやじだ。その苦労してつくり上げた所得税制度を簡単に壊されてたまるかというのが私の気持ちなんだ。

 だから、控除を直せば、所得階層の高い人は減るのが大きいという議論があって、だからいいんだという議論をちょっとしているときがありましたね。しかし、それは反対でしょうと。累進税制でそれだけの税金を払っているわけですよ。だから、それをやられたときには返ってくるのが多いわけだ。これは累進税制そのものだ。

 だから私は、もう一度考え直してもらいたい。この課税最低限ということについて、民主党の皆さん方はどう考えているのか。幾らぐらいが最低生活費と考えているのか。そして、その上で、じゃあ、いろいろな扶養控除を直すんだったら基礎控除を上げるんだという議論があったら、それはそれなりにわかるよ。そういう議論をきちっとした上で、税制上の問題としてこの議論をしないとおかしくなるんだ。そして、所得階層の大きい人が問題だというんなら、累進税率を上げればいいわけですよ、そこを変えればいいんだ。

 シャウプ税制でこの控除というのが税額控除から所得控除になったんだけれども、シャウプは当然そういうことをわかっていたわけだ。わかっているけれども、この課税最低限という最低生活保障というのが非常に重要だからといって、控除は所得控除という形にしたんですよ。それで、高額所得者のところについては、それは税率を変えれば簡単に調整できるから、そこでやればいいんだとシャウプはちゃんと言っていますよ。

 だから、もし本当に垂直的公平というのを望もうとするのなら、それは税制で議論しましょうよ。累進税率を変えるんだとか、あるいは控除を整理するんだったら、じゃ、基礎控除をこれだけ上げます、その基本の課税最低限というのはこうですよという議論から始めて、それがなければ税制度はめちゃくちゃになりますよ。

 大臣、どうですか。

五十嵐副大臣 課税最低限の御議論、確かにシャウプ税制以来そういう考え方で来たと思いますが、ただ、シャウプ勧告の時代の姿と、その後、大きな変化が出てきていると思っております。

 最低生計費、生活費に税の負担が食い込まないようにしようというのがシャウプさんの考え方であったのは、そのとおりです。それが二十五年に採用されたというのもそのとおりでございますが、その後、高度成長を経て、日本においては実質、入りも出も非課税の社会保障が充実をしてきた、あるいは国民の所得レベルも上がってきた、資産も増加してきたということで、最低生計費というのは一つの条件の中の相対的な要素になってきた。

 さらにまた、最近では、控除から手当へ、給付つき税額控除という考え方が出てきて、さらに、給付の方も含めて最低生活費というものを考えていこうというふうに、最低生活費の考え方そのものに変化が出てきている。

 私どもも当然、先生おっしゃるとおり、抜本的な改正においては、全体の税率構造をどうするか、あるいは基礎控除をどうするかということについても検討していこうということは、もう既に決まっているというか、そういう方向性は出ておりますけれども、基礎控除を上げるとは言っておりませんが、検討項目の大きな項目の一つだというふうに認識をしております。

山本(幸)委員 いや、だから、そういういろいろなことを総合的に考えるなら、しっかりやりましょうよ、ここで。拙速にこの控除だけやめるなんてばらばらなことをやらないで。それが本当の抜本的な税制改正ですよ。

 それから、もし、そういういろいろなことが行われていて生活費の考え方が変わってきたというのなら、じゃ、東京都の生活保護の基準とどう調整していくのかというような話がなきゃおかしいですよ。そういうことをやって、調整した上で議論するならいいですよ。それをやらなければ、こんなふうに細切れで控除制度をいじられたら、たまったものじゃない。

 それから、ここは指摘だけにしておきますが、控除が変わることによって、それは子ども手当をもらうかもしれないけれども、保育料とか国民健康保険税とか全部、所得課税、課税最低限のこれで連携しているんですよ。それは調整しているという話があって、いろいろあるんだけれども。じゃあ、その調整の仕方を見ると、あるところは昔の控除が残ったことにして調整しましょう、あるところは基礎控除だけで考えましょう、ばらばらだ。そんなことで本当にいいのかと私は思いますね。

 そういうことを考えると、これはもう少し慎重にやらなければいけない、所得税制度の根幹にかかわる、このことを申し上げておきます。

 せっかくですから、もう一つだけ重要な話をしなきゃいけないので次に移りますが、それは納税環境整備の話です。

 通則法の改正とかがあって、納税者の便宜のために、権利のためということで、いろいろないわゆる規制が行われる。例えば質問調査のときには、原則、事前通知を必ずしろとか、それから、処分については理由を明記しろと。ある意味でいうと、納税者の権利保護、透明性の確保という観点からはわかるところもある。しかし、これを決めるのは余りに拙速過ぎる。

 というのは、そういう納税者の権利を擁護するということと透明性を確保するということも大事だけれども、もっと大事なことは、しっかり徴収しなきゃいけないということなんですよ、財務省なり国税庁は。それがなければ税収は上がらないんでしょう。徴収する立場にある職員たちのことを考えたことがあるのかというのが今回の提案に対する私の疑問ですよ。これを今すぐに、短兵急に導入したら何が起こるか。

 税務署の職員は、今、五万六千人いるんだ。そうすると、大体年間の総事務量というのは計算できて、約千二百万日と計算される。そのうち税務調査でどれぐらい行われているかというと、経験的に、大体四百万から五百万日程度行われていると言われている。これで、どれだけの税務調査をやっているかというと、法人で四、五%、個人については一%ぐらいだ。だけれども、一罰百戒で、変なことをやったら税務署が来て調査をやられるという気持ちがあるから、みんな、まじめに申告しましょうかということが起こってくるわけですよ。

 このバランスをとらない限り、納税者のためだけにそんなことをやったら、財務省の機能はどうなるんですか。これで、例えば、処分については理由付記を全部やれとか、あるいは事前通知をやれとか、そういう準備が要る。そうすると、大体一件当たり二、三日、事務量がふえるとされる。そうすると、私の計算によれば、今行われている調査は三割ぐらい減らさざるを得ない。

 これは、職員の数にこの部分を計算し直すと、六千人分ぐらいふやさないと今の調査水準は維持できないというレベルになるんですよ。そんなことでいいんですか。

 今、現場の税務署の職員は、来年一月からなんていうと、そんな、どうしていいかわからない、萎縮しちゃっていますよ。組合の方からも意見を聞いた。あなた方の意見は聞かれたことはあるかと。いや、何も聞かれていない、ちゃんと仕事ができるか心配でしようがないと言っていますよ。

 財務大臣とか副大臣は、ほかの人は納税者にとったらいいじゃないかと言うかもしれないけれども、この苦しい仕事をしている税務職員のことを考えてやるのがあなた方の仕事なんだ、ほかの人に嫌がられても。これは大事なことなんですよ。だから、私は、少なくともこれは考え直さないかぬ。余りに権利擁護ばかりに走り過ぎている。

 しかも、本当は両論併記だったものをあっという間に一つの意見にとられた。大体、今まで、事前通知の問題とか理由付記の問題というのは、最高裁の判例があって確定しているんですよ。しかも、行政手続法の例外になっているんだ、この税務署の手続は。それは、やはり税を徴収するということについての特別の事情があるからということを十分行政手続法上も認められ、そして最高裁も認めて、判例が確定しているんですよ。

 理由付記なんて、訴訟の前にはみんな必ず理由は出さなきゃいけないようになっているんだから、何の問題もないんだ。だけれども、これを全部、処分に理由付記なんてやられたら、税務署の職員の仕事はそれだけに追われちゃうわけですよ。できませんよ。調査なんてほとんどできない税務署になっちゃう。それでいいんですか、大臣。

野田国務大臣 山本委員は、福岡の国税局で部長もされた経験があるので、現場の職員の気持ちをよくわかった上での御質問だというふうに思います。

 そういう御指摘は大変ありがたい御指摘でもございますけれども、今回の、いわゆる納税者の権利を定めていくと同時に、税務手続の一連の見直しを行うということは、確かに委員御指摘のとおり、税務当局の執行面においては負担増になるという側面は、これは否定できないというふうに思います。

 ただ、納税者の権利利益の保護を充実させるという観点から、どうしてもこれはやはり必要な見直しだったというふうに思いますので、体制としては大変厳しい状況で、限られた人員でありますけれども、こうした法令の趣旨にのっとって、適正かつ円滑な税務行政の執行に努めていただきたいというふうに思っていますし、納税者のこういう形の理解が進むということは、調査等においても円滑化するものという面もあるのではないかというふうに考えております。

山本(幸)委員 財務大臣が一線の職員のことをしっかり考えてやることができなかったら、この国の租税行政はおかしくなりますよ。私は非常に心配だ。拙速に過ぎるこの改正は撤回すべきである。最低限、期限を少し延長して、そういう研修なりを十分にしてやるようなことも考えなければ、とんでもないことになりますよ。

 そのことを指摘して、私の質問を終わります。

石田委員長 次に、佐々木憲昭君。

佐々木(憲)委員 日本共産党の佐々木憲昭でございます。

 私は、先日この財務金融委員会の質問で、震災に対応する課題として、法人税の減税の問題について、これはもうやめるべきだという質問をいたしました。それに関連して、最近、日本経団連の米倉会長がこういう発言をしております。昨年決まった法人税の引き下げも検討対象になるだろう、あるいは法人税減税分を財源に回すことも検討対象となる、こういう趣旨の発言をされております。

 私は、これは当然のことだろうというふうに思うんです。今まさに補正予算がこれから議論になろうとしている、そういうときに、ともかく黒字の上がっている企業には減税を上乗せしてやるんだ、内部留保もじゃぶじゃぶある。これはちょっと、全体として考えますと、余りにもバランスを欠くものだというふうに思います。

 財務大臣の見解をお聞きしたいと思います。

野田国務大臣 今は、各省庁、総力を挙げて被害の現況把握に努めています。その現況を把握した上で、適切な対策を講じるために補正予算を組んでいきたいというふうに思います。

 その補正予算を組む際の財源については、いろいろ今御議論いただいておりますが、まだ特定のものを定まって今考えているところではございません。ただ、言えることは、震災の前と後では状況は劇的に変わっておりますので、まさに復旧復興に全力を挙げるという中で政策の優先順位を決めていかなければならないと思います。

 歳入についても、歳出だけではなくて同じことが言えるというふうに思いますので、これは与野党が基本的議論をしながら、補正予算を通さなきゃいけませんから、スピーディーに通さなきゃいけませんから、お互いに合意形成できるようなものとするためには、今の御指摘のことも踏まえて議論をさせていただきたいというふうに思います。

佐々木(憲)委員 次に、納税の問題ですけれども、三月十一日の大震災というのは、確定申告のまさに最終盤で起こったわけです。既に申告が終わった方もいらっしゃいますけれども、そういう方は支払いに対する不安を抱えておりますし、まだ申告を済ませていない方は、書類が紛失して非常に不安だということもあります。

 国税通則法の第十一条の規定によりますと、法定納付期限は、延期されてはおりますけれども、これは災害のやんだ日から二カ月が期限、こういうふうにされているわけですね。災害のやんだ日、これを一体どのように認定するかというのが問題でありまして、今回の被災地の状況を見ますと、かなりの期間を見込まなければならぬと思います。

 納税者の声などを反映して判断されることが非常に大事だと思いますけれども、この点の対応をどのように考えておられるか、お聞きしたいと思います。

野田国務大臣 佐々木委員の御指摘のとおり、国税通則法第十一条においては、災害その他やむを得ない理由により申告などの行為をすることができないと認められるときは、政令で定めるところにより、その理由のやんだ日から二カ月以内に限り期限を延長することができるとされていますが、この期日については、国税庁長官や税務署長が指定をすることとされております。この規定に基づく災害のやんだ日は、申告等をするのに差し支えないと認められる程度の状態に復した日ということで、これまで取り扱ってまいりました。

 今回の期限、どこまで延ばすか、延長するかについては、今御指摘のとおり、今般の被災の状況を見きわめながら、被災された納税者の方々に十分配慮して対応していきたいと考えております。

佐々木(憲)委員 納税をされている方はそういうことですけれども、滞納をしている方、被災者の中には相当いると思うんですね。

 ほうっておきますと、滞納に対して延滞税が加算されていく。被災者の申請があれば無条件で納税の猶予などの措置をとるというのが必要ではないかと思います。この滞納加算というのはどんどん膨れ上がっていきますから。

 この点について、いかがでしょうか。

野田国務大臣 納税の猶予については、国税通則法第四十六条第二項の規定により、滞納者が震災により国税を一時に納付することができないと認められる場合において、その納付困難な金額を限度として申請に基づき行うことができるとされ、その猶予期間に対応する延滞税は免除されることとなっております。

 納税の猶予の要件に該当するかどうかについては、震災の被害の状況を十分踏まえた上で適切に処理する必要があると思いますが、いずれにしても、滞納整理に当たっては、滞納者個々の実情に即して、法令に基づき適切に対応することを基本としておりまして、国税当局において、被害を受けた滞納者の置かれた状況、心情にも十分配意しながら適切に対応していきたいと考えております。

佐々木(憲)委員 では次に、法案の関連で、納税者権利憲章の問題についてお聞きします。

 税制というのは議会制民主主義の根幹であるというふうに思いますし、民主党税調が二〇〇八年十二月に出された民主党税制抜本改革アクションプログラムというのがありますね。その中に、こういうふうに書かれております。「これまでの税制は為政者の立場に立ったものであった。それは税務行政にも表れている。民主党は税制の中身のみならず、税務行政についても納税者の立場に立ち、根本から改革を進める。」

 私はかなりこれに共感をしておりますが、この意味、これはどういうことか、確認をしておきたいと思います。

野田国務大臣 これは、税制、税務行政に対する納税者の納得、信頼を確保する観点から、納税者の立場に立ちつつも、適正、公平な課税の維持に配慮したものとすることが重要である、こういう考え方によって立つものでございます。

佐々木(憲)委員 今回提出された法案によりますと、「国税庁長官は、次に掲げる事項を平易な表現を用いて簡潔に記載した文書を作成し、これを公表するものとする。」とあります。

 ここで言う「簡潔に記載した文書」というのがいわゆる納税者権利憲章ということなのか、確認をしておきたい。

野田国務大臣 御指摘のとおりでございまして、納税者権利憲章は、納税者の権利保護の観点から、納税者が受けられるサービスや求めることができる内容をお示しするとともに、課税の適正化の観点をも踏まえ、納税者に気をつけていただきたい事項などについて、一連の税務手続に沿って、一覧性のある形でお示しすることにしておりますけれども、御指摘のとおり、国税庁長官が平易な表現を用いて簡潔に記載した文書を作成し、これを公表する、そういう形になっております。

佐々木(憲)委員 国税庁長官が作成するとなると、いわば徴収する側からつくるということになるわけでありまして、「税務行政についても納税者の立場に立ち、根本から改革を進める。」そういう民主党の先ほどの立場からいうと、このつくり方に問題があるんじゃないでしょうか。

 事前に案を公表して、納税者の要望がきちっと反映されるということが私は大切なことだと思うんですが、それはどのようになされるのか、手だてについてお聞きをしたいと思います。

野田国務大臣 憲章については、策定根拠や記載すべき項目を法定化した上で、行政文書として国税庁長官が定めるわけでありますけれども、基本的には、改正税法の施行後、国税庁長官が改正税法の規定に従って作成し、財務大臣の承認を経て、税制調査会に報告した上で公表するという段取りを踏みますが、この際、財務大臣の承認を経て、税調において報告した上で公表するのでありますので、その過程において、委員の御心配のところの納税者の要望ということでございますが、このプロセスの中で反映することができるというふうに理解をしています。

佐々木(憲)委員 次に、税務調査について伺いたいと思うんです。

 この法案で言う税務調査というのは、これはあくまでも相手の同意を得て行う任意調査のことだと思うんです。これは、大口、悪質な脱税を摘発する捜査とは違うと私は思うんですが、この違いについて説明をしていただきたい。

五十嵐副大臣 おっしゃるとおりでございます。

 任意調査というのは、適正な課税を行うことが目的でございまして、各税法に規定されている権限、いわゆる質問検査権に基づいて実施するものでございます。これに対して、今言われました捜査といいますか査察調査は、脱税事件として検察官に告発し、刑事訴追を求めることを目的とし、法律的にも国税犯則取締法に基づいて行われるということでございます。

佐々木(憲)委員 そうしますと、質問検査権というのは任意調査に関するものでありまして、相手の都合を聞いて同意を得て行う、これが基本だと思いますが、いかがですか。

五十嵐副大臣 基本はそのとおりでございます。

佐々木(憲)委員 その場合、原則として事前に通知するということとしているようであります。税務署は、事前に納税者に調査を行う旨を通知して、日程や場所について調整を行うと。

 この事前通知の必要な理由について説明をしていただきたい。

五十嵐副大臣 税務調査については、手続の透明性、それから納税者の予見可能性を高めるという観点から、事前に通知をするということでございます。

佐々木(憲)委員 事前通知をしない場合、例外についての規定がありますね。それにはこう書かれているんです。一つは、違法または不当な行為を容易にするおそれ、二つ目は、正確な課税標準等または税額等の把握を困難にするおそれ、三つ目は、国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ。全部、おそれなんですね。

 つまり、税務署長がおそれがあると判断をすれば、事前通知がなくても調査ができる、こんなことになるのではないか。これは幾らでも拡大解釈ができるんじゃないかと思いますが、どうですか。

五十嵐副大臣 この書きぶりは、情報公開法の適用除外規定などと符合が合うようになっておりまして、過度に広過ぎるといったものではございません。

 また、実際の適用上も、これは何らかの情報、確実な情報があって、あるいはそれまでの事前の調査状況からそういうおそれが強いと判断されるときに限って行われるものと承知をいたしております。

佐々木(憲)委員 この議論の過程で、峰崎直樹内閣官房参与はこういうふうに言っているんですね。その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれというのは非常に広い包括規定になり過ぎているのではないか、こういう意見を述べておられまして、私もそのとおりだと思うんです。

 例えば、税務署に対して少しでも逆らえば、この規定に合致すると判断されて、通告なしで調査がされる、こういうことが可能になるのではないか。したがって、峰崎氏は、政府に指摘をしたが直らなかった、こういうふうに言っているんです。

 なぜこれは修正しなかったんですか。

五十嵐副大臣 お言葉でございますが、国税当局と納税者とは、敵対する関係ではございません。

 そういうことではなくて、互いに信頼関係を保ちながら、国の基礎となる財政を支えるために、大部分の納税者は正直に、また誠実に納税義務を果たしておられるわけで、国税当局も、その信頼関係を高めながら職務を務めているわけです。一方的に強制的に、昔の非民主的な社会、国家における徴税というのとは、現在は全く違った姿でその事務が行われておりまして、そうした拡大解釈のおそれはない。

 お互いに、納税道義と信頼関係を高め合うことによって、公平、納得できる、そういう税務を行うということを心がけている。現在もそうだと思いますし、そういうおそれはないものと考えております。

佐々木(憲)委員 その説明だけでは納得できませんね。

 政府税制調査会の納税環境整備小委員会の座長をされていた三木教授は、税務署長などが主観的に判断していいこととなると、裁量の幅がどこまでも広がってしまい、実質的には原則と例外がひっくり返ってしまうおそれがあるということも指摘をされております。

 恣意的判断を避けるというのは非常に大事なことでありまして、先ほどの説明も若干ありましたけれども、法律上の手だてというものはしっかりあるんでしょうか。

五十嵐副大臣 事前通知等の例外事由につきましてですが、税務署長等が、調査の相手方である納税者等の申告もしくは過去の調査結果の内容、また、その営む事業内容に関する情報その他国税庁等が保有する情報にかんがみ、違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準または税額等の把握を困難にするおそれ、その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合と、きっちりと書かれております。

 例えば、事前通知することにより、帳簿書類の破棄が行われる、あるいは正確な課税標準や税額の把握を困難にするような行為が行われるおそれがあるという場合に限って事前通知は行わないものとするということでございまして、例外事由が法律上明確化されることに伴い、国税当局においては、例外事由に該当するかどうかについて適切に判断がなされるものと考えております。

佐々木(憲)委員 それはちょっと、限定的な対応ということの説明にはならないですね。先ほどの、おそれがある場合というその範囲内のことであります。これでは恣意的な調査ということもあり得るので、さらにここは厳密な、限定的な規定をしっかりやってもらわなきゃならぬ。

 政府部内でも、それから税調の中でも、この点についてはいろいろな疑義が出ているわけですから、そういうことはきちっとしてもらわなきゃいけないというふうに思っております。

 それから、帳簿書類その他の物件の提示もしくは提出を求めることができると書かれておりますが、これは当然、相手の承認を得て提出させるということだと思うんですが、いかがですか。

五十嵐副大臣 そのとおりでございます。

佐々木(憲)委員 例えば、病院のカルテなどはどうなるのか。

 医師、弁護士、税理士などは、法律上、守秘義務が定められております。そういう職業の方が、例えば、税務署から医師がカルテの提出を求められて任意で提出をした。その場合、後で、情報元になる人が、自分のプライバシー、個人情報を開示したのは守秘義務違反だということで訴えられた場合、それは守秘義務違反には当たらないというふうに断言できるのかどうか、お伺いしたいと思います。

野田国務大臣 刑法上、医師が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときには、秘密漏えい罪に問われることになりますが、正当の理由のある秘密の漏えいは犯罪を構成しないと考えられます。

 この場合において、税務調査は一般的には正当の理由に当たると考えていますが、いずれにしましても、御指摘の事例が秘密漏えい罪に当たるか否かについては、事実関係に即して個別に判断されることになると考えます。

佐々木(憲)委員 これも、明確な守秘義務違反に当たらないという断言ができないわけでございまして、そういう書類まで、任意調査という枠の中で事実上プライバシーの侵害まで求めるような、そういうやり方をするというのは非常に問題があるというふうに思います。

 ほかにもいろいろな問題がありますけれども、私は、もう質問時間が参りましたので以上で終わりますが、先ほどの山本幸三さんの質問と全く別な角度から、つまり納税者の立場、そこから考えると非常に問題がいろいろあるということを指摘しておきたいというふうに思います。取る側の論理、そればかりが先行するようなことではならないということを明らかにしておきたいと思います。

 以上で終わります。

石田委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後二時五十六分散会


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