衆議院

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第12号 平成27年6月10日(水曜日)

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平成二十七年六月十日(水曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 古川 禎久君

   理事 神田 憲次君 理事 土屋 正忠君

   理事 藤井比早之君 理事 御法川信英君

   理事 山田 美樹君 理事 鈴木 克昌君

   理事 丸山 穂高君 理事 伊藤  渉君

      井上 貴博君    井林 辰憲君

      鬼木  誠君    勝俣 孝明君

      金子万寿夫君    神山 佐市君

      黄川田仁志君    工藤 彰三君

      國場幸之助君    佐々木 紀君

      柴山 昌彦君    鈴木 隼人君

      田野瀬太道君    竹本 直一君

      谷川 とむ君    津島  淳君

      中村 裕之君    中山 展宏君

      根本 幸典君    福田 達夫君

      藤丸  敏君    前田 一男君

      牧島かれん君    宮内 秀樹君

      宮路 拓馬君    務台 俊介君

      宗清 皇一君    大島  敦君

      玄葉光一郎君    古川 元久君

      前原 誠司君    鷲尾英一郎君

      伊東 信久君    吉田 豊史君

      岡本 三成君    宮本 岳志君

      宮本  徹君    小泉 龍司君

    …………………………………

   財務大臣

   国務大臣

   (金融担当)       麻生 太郎君

   内閣府副大臣       西村 康稔君

   財務副大臣        菅原 一秀君

   政府参考人

   (内閣府大臣官房審議官) 増島  稔君

   政府参考人

   (内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官)    道上 浩也君

   政府参考人

   (金融庁総務企画局総括審議官)          三井 秀範君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           福島 靖正君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           武田 俊彦君

   参考人

   (日本銀行総裁)     黒田 東彦君

   参考人

   (日本銀行理事)     雨宮 正佳君

   参考人

   (日本銀行理事)     櫛田 誠希君

   参考人

   (日本銀行理事)     武田 知久君

   財務金融委員会専門員   関根  弘君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月十日

 辞任         補欠選任

  鬼木  誠君     黄川田仁志君

  田野瀬太道君     金子万寿夫君

  中山 展宏君     宮路 拓馬君

  牧島かれん君     中村 裕之君

  宗清 皇一君     谷川 とむ君

  山田 賢司君     工藤 彰三君

同日

 辞任         補欠選任

  金子万寿夫君     宮内 秀樹君

  黄川田仁志君     鬼木  誠君

  工藤 彰三君     前田 一男君

  谷川 とむ君     宗清 皇一君

  中村 裕之君     佐々木 紀君

  宮路 拓馬君     中山 展宏君

同日

 辞任         補欠選任

  佐々木 紀君     牧島かれん君

  前田 一男君     神山 佐市君

  宮内 秀樹君     田野瀬太道君

同日

 辞任         補欠選任

  神山 佐市君     山田 賢司君

    ―――――――――――――

五月二十一日

 消費税の増税反対に関する請願(塩川鉄也君紹介)(第一〇一九号)

 同(斉藤和子君紹介)(第一〇七七号)

同月二十八日

 消費税率を五%に戻し、増税中止を求めることに関する請願(穀田恵二君紹介)(第一二三二号)

六月八日

 消費税の増税の中止に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一五八五号)

 同(池内さおり君紹介)(第一五八六号)

 同(梅村さえこ君紹介)(第一五八七号)

 同(大平喜信君紹介)(第一五八八号)

 同(笠井亮君紹介)(第一五八九号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一五九〇号)

 同(斉藤和子君紹介)(第一五九一号)

 同(志位和夫君紹介)(第一五九二号)

 同(清水忠史君紹介)(第一五九三号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一五九四号)

 同(島津幸広君紹介)(第一五九五号)

 同(田村貴昭君紹介)(第一五九六号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一五九七号)

 同(畑野君枝君紹介)(第一五九八号)

 同(畠山和也君紹介)(第一五九九号)

 同(藤野保史君紹介)(第一六〇〇号)

 同(堀内照文君紹介)(第一六〇一号)

 同(真島省三君紹介)(第一六〇二号)

 同(宮本岳志君紹介)(第一六〇三号)

 同(宮本徹君紹介)(第一六〇四号)

 同(本村伸子君紹介)(第一六〇五号)

 消費税率を五%に戻し、増税中止を求めることに関する請願(池内さおり君紹介)(第一六〇六号)

 同(梅村さえこ君紹介)(第一六〇七号)

 同(笠井亮君紹介)(第一六〇八号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一六〇九号)

 同(田村貴昭君紹介)(第一六一〇号)

 同(畑野君枝君紹介)(第一六一一号)

 同(畠山和也君紹介)(第一六一二号)

 同(堀内照文君紹介)(第一六一三号)

 同(真島省三君紹介)(第一六一四号)

 同(宮本徹君紹介)(第一六一五号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 参考人出頭要求に関する件

 金融に関する件(通貨及び金融の調節に関する報告書)


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     ――――◇―――――

古川委員長 これより会議を開きます。

 金融に関する件について調査を進めます。

 この際、お諮りいたします。

 本件調査のため、本日、参考人として日本銀行総裁黒田東彦君、理事雨宮正佳君、理事櫛田誠希君、理事武田知久君の出席を求め、意見を聴取することとし、また、政府参考人として内閣府大臣官房審議官増島稔君、経済社会総合研究所総括政策研究官道上浩也君、金融庁総務企画局総括審議官三井秀範君、厚生労働省大臣官房審議官福島靖正君、大臣官房審議官武田俊彦君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

古川委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

古川委員長 去る平成二十五年十二月十三日及び平成二十六年六月十三日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、それぞれ国会に提出されました通貨及び金融の調節に関する報告書につきまして、概要の説明を求めます。日本銀行総裁黒田東彦君。

黒田参考人 日本銀行は、毎年六月と十二月に、通貨及び金融の調節に関する報告書を国会に提出しております。本日、我が国経済の動向と日本銀行の金融政策運営について詳しく御説明申し上げる機会をいただき、厚く御礼申し上げます。

 最初に、我が国の経済金融情勢について御説明申し上げます。

 我が国の景気は、緩やかな回復を続けています。企業部門では、輸出、生産が持ち直すとともに、収益は過去最高水準まで増加しています。そのもとで、前向きな投資スタンスが維持されており、設備投資は緩やかな増加基調にあります。家計部門については、今春の賃金改定交渉において、多くの企業で昨年を上回るベースアップを含む賃上げが実現する見通しとなるなど、雇用・所得環境の着実な改善が続いています。昨年秋以降慎重化していた消費者マインドも、このところ持ち直しの動きが明確になっています。これらを背景に、個人消費は底がたく推移しており、住宅投資にも持ち直しに向けた動きが見られています。このように、企業・家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムは、しっかりと作用し続けています。先行きについても、景気は緩やかな回復を続けていくと考えられます。

 こうした経済活動を支える我が国の金融環境は、緩和した状態にあります。企業の資金調達コストは低水準で推移し、企業から見た金融機関の貸し出し態度は改善傾向が続いています。銀行貸出残高は、中小企業向けも含めて、緩やかに増加しています。

 物価面を見ると、消費者物価、除く生鮮食品の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースで見て、ゼロ%程度となっています。先行きは、エネルギー価格下落の影響から、当面ゼロ%程度で推移すると見ていますが、需給ギャップの改善や中長期的な予想物価上昇率の上昇を背景に物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、物価安定の目標である二%に向けて上昇率を高めていくと考えています。二%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されますが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提に立てば、二〇一六年度前半ころになると予想しています。その後は、平均的に見て、二%程度で推移すると見ています。

 次に、日本銀行の金融政策運営について御説明申し上げます。

 日本銀行は、一昨年四月、二%の物価安定の目標を、二年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するために、量的・質的金融緩和を導入しました。さらに、昨年十月には、量的・質的金融緩和の拡大を決定しました。量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮しており、デフレマインドの転換は着実に進んでいます。

 日本銀行は、二%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで量的・質的金融緩和を継続します。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う方針です。

 ありがとうございました。

古川委員長 これにて概要の説明は終わりました。

    ―――――――――――――

古川委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。鷲尾英一郎君。

鷲尾委員 民主党の鷲尾でございます。

 先般の日本銀行視察の際には、いろいろと御配慮いただきまして、ありがとうございました。

 早速でありますけれども、質問に移らせていただきたいと思います。

 アメリカの五月の雇用統計、これは非常によい数字であったとされておりまして、非農業部門の雇用者数が市場の予想を大きく上回っております。失業率も五・五%ということでありまして、また平均時給並びに労働参加率もともに伸びているということもありまして、この傾向は持続すると見られているということであります。

 一方で、九月にアメリカFRBは利上げを開始するという見通しが高まっておりまして、少なくとも年内には必ず利上げをするということがコンセンサスになっております。

 この効果につきましては、今から随分と、利上げされればまたかなりアメリカの経済に対して悪影響があるんじゃないかとされてもおりますけれども、そのコンセンサスはあるということでありまして、これは、景気が非常によくなって、失業率が十分に下がっているからこの出口戦略の話がされているというところでございます。

 一方で、我が国の足元の景気の状況でありますけれども、一―三月期のGDPは前期比一%増ですから、年率換算で見ても、これがこのほど上方修正されて、非常に高いレベルであるということ。失業率も三・三%まで下がっておりまして、ほぼ完全雇用に近い状態であるということ。それは、人手不足が経済成長のボトルネックになっているということもコンセンサスになっているというところであります。日銀の分析でも潜在成長率というのはゼロ%台であるとされておりまして、現在のGDPの成長率というのが大幅にこれを上回っている、需要超過であるとされております。

 それにもかかわらず、異次元の金融緩和とまで自称されている量的緩和を継続されている、この理由は何なのかということについて、改めて問いたいと思います。

黒田参考人 御案内のとおり、日本銀行は、できるだけ早期に二%の物価安定の目標を実現するということを明確に約束いたしておりまして、そのために必要な施策として量的・質的金融緩和を導入したわけでございます。そして、この政策は、従来から申し上げておりますとおり、二%を安定的に持続するために必要な時点まで継続するという方針でございます。

 これまでのところ、先ほど申し上げたとおり、量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮しておりまして、景気が緩やかな回復を続けるというもとで、御指摘のように需給ギャップも改善しておりますし、中長期的な予想物価上昇率も全体として上昇してきておりまして、これらに規定される物価の基調は確かに着実に改善してきているというふうに言えると思います。

 もっとも、この二%の物価安定の目標への道筋は、まだ道半ばであると言わざるを得ないと思います。消費者物価の前年比が、エネルギー価格下落の影響からとはいえ、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースで見てもゼロ%程度となっているわけでございまして、こうした状況を踏まえますと、今後とも、二%の物価安定の目標の実現を目指して、量的・質的金融緩和を着実に推進していくことが必要ではないかというふうに思っております。

鷲尾委員 今の経済の状況が非常に好調であるということの上に二%の物価安定の目標を達成しようということでありますが、当然、アブ蜂取らずといいましょうか、二%の物価安定目標に向かって今この政策を持続していくという足元で、恐らくはさまざまな副作用が生まれているであろうかと想像するわけであります。

 やはり、景気を回復させるための金融政策、景気が回復して需要超過にある状態で、なお物価安定目標を達成するために今の政策を続けるということでありますので、かなり今ほど申し上げたような副作用が存在、副作用といっても、私が想定しておりますのは、実体経済とはかけ離れたバブルが生じかねない、あるいはもう生じているのではないか、こう見ているわけです。

 この点につきまして、総裁の御見解を問いたいと思います。

黒田参考人 日本銀行は、この量的・質的金融緩和を進めるに当たりましては、経済・物価見通しに加えまして、上下双方向のさまざまなリスク要因を点検しており、半年に一回の展望レポートあるいは金融システムレポートなどの形で公表いたしております。

 こうした枠組みのもとで資産価格などの動向を幅広く点検しておりますけれども、現時点で、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す、委員御指摘のいわばバブルといった動きは観察されておりません。

 十五年にわたってデフレに苦しんできた日本経済の状況を踏まえますと、金融緩和のもたらすさまざまな影響に目配りしつつも、二%の物価安定の目標の実現に向けて量的・質的金融緩和を継続していくことが重要であるというふうに考えております。

鷲尾委員 今ほど、その発生はしておらないというところでありますけれども、バブル自体は終わってから結果として観測されることが多うございますし、そこは、総裁も先ほど報告の中でおっしゃったように、うまい言い方をするものだなと思いましたけれども、「経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」と。なかなか突っ込みどころがないというか、何を言ってもこれで切り返されてしまうんじゃないか、そんな御発言でありますけれども、しっかりとそこは点検をしていただく。

 思った以上に期待が高い、あるいは少子高齢化の日本の社会の実体経済の実力からいくとかけ離れた価格形成がされているんじゃないかというところは、必要以上に注視をしていただきたいと思います。その後の後遺症が怖いので、そこはぜひよろしくお願いいたしたいと思います。

 続きまして、円・ドル為替相場についてお聞きしたいと思います。

 短期間で円安に加速をしております。短期間というのは、もちろん五月後半で非常に円安にぐっと振れたというのもありますけれども、そもそも、二〇一二年のころから今の二〇一五年の水準を比べますと、約四十円から五十円、円が減価しているわけでありまして、円安に加速をしているということは、総裁がおやりになっている異次元の金融緩和の政策の影響が結果としてかなりの程度あるのではないかというふうに思っております。

 結果として、どの程度この政策の影響があったと思っておられるのかというところと、あわせて、今後、当然この金融政策を持続していくということですから、その影響がどのような形で出てくると思われるかということもあわせてお示しをいただけたらと思います。

黒田参考人 為替相場の水準あるいは日々の動きについて私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますが、その上で、一般論として申し上げますと、委員御指摘のとおりさまざまな要因が為替相場に影響するわけですが、その中には、もちろん金融政策の違いの影響というものがあり得ることは事実であります。

 日本は大規模な金融緩和を推進しているわけですし、米国では、景気の回復が続くもとで、FRBは資産買い入れを終了して利上げの開始を展望しているわけでございます。

 そういう意味で、このところの為替市場でこうした日米の金融政策の方向性の違いが意識されているようにもうかがわれるわけでございますが、先ほど申し上げたように、為替レートはいろいろな要因で動きます。そういった中で、為替相場が何といっても経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましいというふうに私も考えております。

鷲尾委員 もうちょっとストレートにお聞かせいただきたかったなというところもあるんですが、当然、金融緩和の影響がかなりあるんだろう、それが持続する、そして日米の金利差がまた開いていくという中で、また円安方向に振れていくんだろうなということを私自身感じておるわけであります。

 どの水準がいいというところは総裁も御発言はなかなかできないと思うんですけれども、そういう方向に進んでいくだろうという予測は総裁は十分にされているんじゃないかと思いますが、いかがですか。

黒田参考人 為替の先行きの予測を申し上げる立場にはございませんが、確かに、御指摘のように、金融政策の違いが為替相場に影響し得る、あるいは最近の為替市場でそういった方向性の違いが意識されているようには見えるわけでございますけれども、御承知のように、そういうことが既に市場に織り込まれておれば、実際に米国が金利を引き上げ始めたからといって、さらにドル高・円安になる必要はないわけであります。市場がどの程度織り込んでいるかということにもよりますし、それから、先ほど来申し上げているように、他のいろいろな要素によっても為替相場は動きますので、今後、米国が金利を正常化していく、徐々に金利を引き上げていくということがあると必ずドル高・円安になるということも言えないのではないかというふうに思います。

鷲尾委員 国際経済に何がしか大きな変動があればまたちょっと違う方向感もあるのかなと思いますが、方向感としては、今ほど総裁がおっしゃったように、政策の差がやはり為替相場にも反映されるような、先ほど総裁は見えるとおっしゃっておりましたけれども、そういう方向感なのかなと感じているところでございます。

 それで、先ほどの総裁の答弁の中でもありましたが、やはり急激な為替相場というのはかなり実体経済にも悪影響を与えるのではないかなというふうに思います。急激な為替相場の変動につきまして、中央銀行総裁として何がしか対策が必要だと思われますか。

黒田参考人 この点、御指摘のような懸念があり得るということはそのとおりだと思いますが、我が国においても、これは米国等と同じでございますけれども、為替の安定を図る責任と権限は財務省にございますので、中央銀行が具体的に為替の安定を図るために何かをするということは考えておりません。基本的に、中央銀行は、これは米国の場合も日本の場合も同じでございますけれども、あくまでも物価の安定ということが最大の目的、目標であり、それに沿って金融政策を運営するということに尽きると思います。

 為替の安定が重要であるということはそのとおりでありますけれども、具体的に為替の安定のために何らかのアクションをとるということになりますと、これは財務省のマターではないかと思います。

鷲尾委員 総裁がおっしゃるとおりだと思います。

 私としては、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検する中にもそういうところも入ってくるのかなというふうに思っておりますが、総裁のお答えとしては当然そういうお答えになろうかと思っております。

 続いての質問でありますけれども、ECBが、年初、初めて量的緩和を行ったわけであります。六月に入りまして、債券価格が急落をいたしています。いろいろな要因があると思いますけれども、ドイツ国債も米国債も大幅な下落をしておりまして、それに引きずられる形と見ておりますけれども、日本国債も同様に下落をしております。

 この日本国債の下落の理由というのは、どういう要因だと総裁はごらんになっておりますか。

黒田参考人 確かに、御指摘のとおり、海外の長期金利の動向を見ますと、ドイツなど欧州コア国の長期金利が四月央にかけてかなり低水準まで低下して、その後、やや大き目に上昇するなど振れの大きい展開となっておりまして、こうした動きが米国などにも波及しております。

 その背景としては、いろいろなことが言われておりますが、まず、ドイツ等の欧州コア国でやや行き過ぎた金利低下が起こって、その巻き戻しがあったのではないかという点に加えまして、ECBが大規模な金融緩和を進めるもとで、ひところのデフレ懸念がやや後退しつつあるといったことなども影響しているのではないかというふうに言われております。

 我が国の長期金利も、こうした海外市場の動向の影響を受けてはおりますけれども、総じて低い水準で落ちついた動きとなっているというふうに思います。

鷲尾委員 総じてという、全体から見たら確かにごくわずかなんですけれども、やはり市場関係者から見ますとかなり大幅な下落であることも事実でありまして、この国債価格の下落に対しては、当然金利が上がるわけですよね。その金利が上がるということに対してのインフレ期待、あるいは財政に対する懸念、こういった問題については、これまでとは何も変わっていないけれども、金利水準が上がるということは当然あると思います。

 そのことについて、総裁、対応が何か必要になるということは考えられませんか。

黒田参考人 御案内のとおり、一般的には、名目の長期金利というものは、御指摘のような先行きの経済・物価情勢に関する見通しと国債保有に伴うリスクプレミアムというものが合わさって形成されているというふうに考えられます。

 量的・質的金融緩和のもとで巨額の国債買い入れをしておりますけれども、これは、リスクプレミアムを圧縮させるということで金利に低下圧力を及ぼしているわけでございます。

 日本銀行は、二%の目標を早期に実現するために量的・質的金融緩和を実施しておりますので、当然、先行きの金融政策運営については、経済・物価情勢について点検して、こうした目的に沿って適切に判断していくということになると思います。

 具体的には、二%の目標の実現を目指して、これを安定的に持続するために必要な時点まで量的・質的基金緩和を継続するということでありまして、その際に、従来から申し上げているとおり、上下双方向のリスクを点検して、必要があれば調整するということでありまして、当然、経済の実態に合わないような金利の変動というのはできるだけならしていかなければならないというふうに思っております。

鷲尾委員 今月中に政府が財政健全化計画をまとめるということになっております。今も財政審が、経済が好調なときにこそ歳出改革を柱としてそれを加速化させるべきだという、そんな建議を行っているわけでありまして、民間議員の提言もありますが、総裁として、この政府の財政健全化計画への期待についてお聞かせいただけますか。

黒田参考人 もとより、財政運営については政府、国会の責任において行われるものでありまして、具体的にコメントするということは差し控えたいと思いますが、その上で、一般論として申し上げますと、国全体として財政運営に対する信認をしっかりと確保するということは極めて重要であると考えております。

 この点、現在、政府は、基礎的財政収支を二〇二〇年度までに黒字化するという財政健全化目標の達成に向けた計画の策定を進めておられます。こうした政府による財政健全化に向けた取り組みが着実に実行されるということを強く期待しております。

鷲尾委員 総裁、ということは、相当期待されていますね。どうですか、相当期待されていますか。

黒田参考人 相当という形容詞をどういうふうに捉えるかわかりませんが、私としては相当期待しております。

鷲尾委員 率直な答弁、ありがとうございました。

 やはり私も期待したいと思いますし、そうでなければ、財政政策と金融政策一体として、やはり日本社会、今後のリスクも含めて考えますと、非常に危機的な状況に陥りかねないと思っております。

 それでは次の質問ですけれども、国債の市場価格についてちょっと論を進めたいと思います。

 インフレ期待が一定であるとして、一方で、国債の需給などによって当然、市場として国債価格というのは決まってくると思います。それが市場として自然に決まっていて問題がないということであれば、金利水準自体が大幅に上昇したとしても、日銀の金融政策には変更がないんだとしてもよろしいんでしょうか、総裁。

黒田参考人 必ずしも御質問の趣旨に合っているかどうかわかりませんけれども、従来から申し上げておりますとおり、量的・質的金融緩和ということで行っております国債買い入れというのは、あくまでも物価安定の目標を早期に実現するという金融政策目的でやっておりまして、それによって、先ほど申し上げたように、国債保有に伴うリスクプレミアムを圧縮して、国債金利をイールドカーブ全般にわたって引き下げているということであります。

 これはあくまでも物価安定の目標を早期に達成するという金融政策目的で行っておりまして、その限りで、先ほど来申し上げておりますとおり、二%の目標を実現し、それを安定的に持続できるようになるまで継続するというものでございます。

鷲尾委員 なかなか同じ答えばかりで、そういう答えにしかならないと言われたら、それまでなのかもしれませんけれども。

 基本的に、二%の物価安定目標を達成する、その物価安定に向けて、いろいろなリスク要因を点検しながら必要な調整を行うということなんだと思うんですけれども、せっかく国会で質問しておりますので、もう少し具体的にお聞かせいただきたいなというふうに思います。

 もう少し具体的に申し上げます。例えば、十年物の国債の利回りが二%を超えていきます。超えてもその水準自体は当然問題ないと考えていいものなのでしょうか。そこはどうですか。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、国債の金利は大きく分けて二つの要素によって影響されると思いますが、一つは経済、物価の動向、その先行きの予想、もう一つはリスクプレミアムであります。

 そうしたことの結果として、今後、例えば経済、物価の予想が逐次改善していって、国債の金利が緩やかに上昇していくということはあり得るとは思いますけれども、いずれにいたしましても、二%の物価安定の目標の実現を目指し、これを持続できるようになるまで量的・質的金融緩和を続ける、この政策スタンスには変化はございません。

 なお、そういった物価安定の目標、目的を超えて、例えば財政を支えるために買い入れを行うというようなことは考えておりません。これは、量的・質的金融緩和を導入した際の公表文でも明確に示しているところでございます。

鷲尾委員 今ほどおっしゃっていただいたところをまた確認するような質問になるかもしれませんが、インフレ期待並びに政府の財政の健全性に変化がないという場合であっても、長期金利の上昇というのは、BIS規制で、今、バーゼル銀行監督委員会でも、金融商品に追加で自己資本を積み増せというような議論をされていると聞いておりますので、金融機関にかなり大きな影響を与えるんじゃないか。つまり、金利の水準がかなり上がってくる状況もあるのではないか。そこで、言ってみたら金利の低下を促すような金融政策をとる可能性があるのではないかと思うわけですけれども、総裁、いかがですか。

黒田参考人 御指摘のバーゼル銀行監督委員会の銀行勘定の金利リスクについての市中協議文というのがつい先日公表されましたけれども、これはまだ市中協議を始めたところでありまして、現時点では具体的な方向性が固まっているわけではございません。

 したがいまして、これが銀行の経営あるいは国債保有のスタンスにどういう影響が出るかとか、そういったことについて具体的にコメントできるような段階ではないと思いますが、いずれにいたしましても、日本銀行の金融政策はあくまでも物価の安定という目標、目的のために行われているものであるという基本的なスタンスは変わらないということでございます。

鷲尾委員 終わります。ありがとうございました。

古川委員長 次に、井上貴博君。

井上(貴)委員 本日は、質問の機会をいただきまして、本当にありがとうございます。

 同郷の尊敬する黒田総裁に質問の機会を与えていただいたことは心から感謝を申し上げたいと思いますし、緊張して質問をさせていただきたいというふうに思います。

 本日は、今回の報告書を受けて、過去をちょっと振り返ってみて、過去から現在までの政策、現在の状況、そして今後の政策について、私の実体験も踏まえながら質問していきたいというふうに思っています。

 一九八〇年代、私は、大学を卒業して、金の取引大手である田中貴金属という会社に入社いたしました。そして、金の売買をしておりまして、当時、先人、先達のおかげをもって右上がりの時代をサラリーマンとして経験させていただきました。

 本当に景気がよくて、金や金製品なんかも飛ぶように売れて、僕は、金の招き猫とか金の位牌もつくったことがありますし、金のおりんも売ったことがございます。本当に飛ぶような時代で、当時、銀座店なんかは、土曜日、日曜日はお客さんで満杯でして、工芸品や地金コーナーがあったら応援に行かなければいけないというような時代でもございました。

 そういう時代が、一九八九年の十二月二十九日、皆様方御存じのとおりの日経平均三万八千九百十五円の最高値をつけてからバブル崩壊へと落ちていくわけですけれども、そのバブルが崩壊して二十五年が続いて、それで右下がりの時代が続いていきます。

 この状況下の中で生まれた子供、今の二十五歳以下の若者、また、実質上その実感がない、実際サラリーマンとして仕事をすることを考えると、四十五歳以下の若者はその右上がりの時代を経験したことがないと言っても過言ではないというふうに思います。ですからこそ、その若者に夢を与えることが大事だというふうに思っています。

 やはり人が世の中をつくっていくものでありまして、右下がりの時代が二十五年も続くと、頑張った者が報われるという感覚は教わっていない。私たちは、先人のおかげで、頑張った者が報われる時代を生活させていただきました、少しの時代でありましたけれども。ですけれども、頑張った者が報われるということを今回のアベノミクスで、ボーナスが上がり、そしてベースアップで上がったという経験は初めてだったんではないかというふうに思っています。

 だからこそ、アベノミクス、また異次元の金融緩和政策をとってきた、デフレ状況下から脱却することを第一義に考えてきたというのは、僕は間違いじゃなかったというふうに思っています。

 まず、そのことについてのコメントをいただきたいと思います。

黒田参考人 御指摘のように、我が国では、長年にわたるデフレのもとで、人々の間で、物価が上がらない、あるいは下がるという感覚、すなわちデフレマインドが定着してしまいました。そうしたもとでは、現金や預金を保有することが相対的に有利な状況になりますので、企業や家計も支出活動が消極的になっていったというふうに考えられます。

 この結果、価格の下落、売り上げ、収益の減少、賃金の抑制、消費の低迷、さらにまた価格の下落といった悪循環に陥ってしまったのではないかと思います。こうした悪循環から脱却するためには、人々の間にしみついたデフレマインドというものを抜本的に転換する必要があるということでございます。

 日本銀行では、そうした現状認識に立った上で、これを解決する手段として、二〇一三年四月に量的・質的金融緩和を導入したわけでございます。量的・質的金融緩和を着実に推進することで、二%の物価安定の目標をできるだけ早期に達成して、これが持続的な成長につながっていくということを期待しております。

井上(貴)委員 ありがとうございます。

 実際、バブルが崩壊して、僕も一九九〇年に、父がやっていました会社が大変だという状況で、地元に戻ることになりました。それで、経営者として二十五年、実は不良債権処理に追われた二十五年でもあったわけです。

 その二十五年間のデフレ状況下において、デフレ状況から脱却を目指すアベノミクスのような政策を、今現在で考えると、もっと早い時期にそのアベノミクスや今のような施策を打っていればよかったというふうなことを言われる方も今いらっしゃるんですね。ですけれども、あのバブルが崩壊した直後の状況下の中でやるというのは大変なことだったというふうに思っています。

 本当に大量の金融機関や企業が倒産していきました。もう知っておられるとおり、一九九〇年後半には北海道拓殖銀行や日本長期信用銀行が破綻しました。そして、山一証券も破綻したということがありました。大企業も破綻している状況で、本当に多くの中小零細企業が潰れていった。その中で、貸し渋り、貸し剥がしという言葉が出たのもこの時代だったというふうに思っています。

 そういう中で、日銀が低金利政策をどんどんとっていっていただきました。それによって、会社の経営者としては助かったと思ったことが何度もあったのも事実であります。それによって、体力があった会社は返すことができる状況をつくっていただいた。そのおかげで、中小零細企業の中で、全てが潰れたわけではなくて、健全に経営していた会社は潰れなくて済んだという状況があったのではないかというふうに、過去を振り返って思う次第であります。

 そのことについて、過去二十五年間を振り返って、総裁はどういうふうに考えられているかをお聞かせいただきたいと思います。

黒田参考人 御指摘のとおり、我が国では、一九九〇年代に入っていわゆるバブル経済が崩壊して、経済成長率と物価上昇率は大きく低下いたしました。さらに、これもまた御指摘のとおり、九〇年代後半には大規模な金融危機が発生して、それ以降、日本経済は長きにわたるデフレに陥ったわけでございます。

 こうした状況のもとで、日本銀行は、一九九九年にゼロ金利政策を導入したのを皮切りに、量的緩和政策、包括緩和政策といった、いわゆる非伝統的な金融政策を世界の中央銀行に先駆けて採用するなど、さまざまな取り組みを行ってきました。

 こうした政策は景気の下支えとなって働き、実際、景気が回復する局面も見られました。また、緩和的な金融環境のもとで、政府による公的資金の投入などもありまして、御指摘のとおり、金融機関の不良債権処理も進捗いたしました。

 しかしながら、日本経済がデフレから脱却するには至らず、そういった意味では、過去の金融政策は、デフレが定着するのを防ぐという観点からは十分でなかったというふうに考えております。

 そうした認識のもと、二〇一三年四月に導入した量的・質的金融緩和では、人々の間にしみついたデフレマインドを抜本的に転換するために、二%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するという強く明確なコミットメントと、それを裏打ちする従来とは全く次元の異なる金融緩和を行うということにしたわけでございます。

 そういった意味で、委員の御指摘のとおり、九〇年代末から二〇〇〇年代にかけての日本銀行の金融政策というものが経済あるいは不良債権処理等の問題について一定の貢献をしたということはそのとおりであると思いますし、その上で、デフレ定着ということを防げなかったという観点で必ずしも十分ではなかったという観点から、現在のような抜本的な、全く次元の異なるような金融緩和を行うことにしたわけでございます。

井上(貴)委員 ありがとうございます。

 過去を振り返って、現在の質問をさせていただきたいというふうに思います。

 二十五年に及ぶ不良債権処理の時代も、ようやく一段落した状況になってきたんじゃないかというふうに思っています。

 そういう中で、今言われましたような異次元の量的・質的緩和に踏み切って約二年が経過したところであります。日銀が目指す二%の物価上昇の実現に向けて、これまで、雇用や賃金は順調に回復しているように思います。

 消費がまだ回復できていないように感じるのも現実であります。消費の回復力が弱いということが、企業が値上げに慎重になったり、物価上昇への期待もしぼんでしまうことにつながっていくんだというふうに思っています。消費税増税、それから原油価格の乱高下もありました。さまざまな事情があるとは思いますけれども、二%の物価安定目標達成に向けて、現在、少しまだ足踏みの状況が続いているという感じが否めません。

 そして、二〇〇九年三月十日に、日経平均が七千五十四円の最安値を記録しています。それから現在、今回のアベノミクス、そして日銀の政策のおかげで二万円を超えるまでに回復しています。

 景気回復の基調は見えますけれども、金融緩和のペースを緩めようとする議論が出てきているのも事実であります。

 ですけれども、今その議論に対しては、僕は慎重であるべきだというふうに思っています。東京も地方も区別なく一律に効果を生じるものでありますし、アベノミクスの効果は、東京に所在する大企業がまず第一義に受けて、地方にその効果が波及するにはもう少し時間がかかるというふうに思っています。

 地方に効果が波及していない現状で金融緩和のペースを緩めてしまうと、中小零細企業がもたないのではないかという懸念がありますし、慎重に議論するべきだというふうに考えています。

 また、産業構造の面から見ても、バブル崩壊後、日本を牽引してきた国内製造業や建設業、不動産業からサービス業に移行して、産業構造のボリュームゾーン自体も移行しています。それが今、アベノミクスの効果のおかげで、産業構造が少し、前の状況に戻りつつある現状にあるのではないかというふうに思っています。

 サービス業のボリュームが大きいと、どうしても景気回復を実感するまでには時間がかかります。やはり牽引している製造業や建設業、不動産業などのウエートが大きいと、それだけサービス業が実感を得られるまでには短い時間で済みますけれども、そこが今の産業構造自体にも大きな問題があって、なかなか景気回復を実感できない大きな要因になっているのではないかというふうに感じています。

 そして、これから消費税の一〇%というものも待っています。そして、我々が進めております地方創生、やはり地方創生をこれから推し進めていくということは第一義に考えなければいけない大きな要因ですから、その点も踏まえて慎重に検討していただきたいというふうに思いますが、総括して、黒田総裁の御意見をいただきたいというふうに思います。

黒田参考人 まず、この二年間の金融緩和政策の効果、量的・質的金融緩和というものがどういった効果をもたらしているかということについて申し上げますと、一言で言って、所期の効果を発揮しているというふうに考えております。

 景気につきましては、企業部門、家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムが作用しておりまして、緩やかな回復を続けております。

 企業部門では、先ほど申し上げたとおり、収益が過去最高水準まで増加しておりますし、設備投資も緩やかな増加基調にございます。

 家計部門を見ますと、失業率が構造的失業率近傍で推移して、賃金も上昇して、雇用者所得も緩やかに増加しているということでありまして、一時慎重化していた消費者マインドも持ち直しつつありますし、個人消費も底がたく推移しているように思います。

 ただ、物価面を見ますと、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースで見ますと、エネルギー価格下落の影響から、ゼロ%程度ということでございます。すなわち、需給ギャップは縮小し、予想物価上昇率も長い目で見れば上昇しているわけですけれども、足元では、まだ物価上昇率はゼロ%程度ということでございます。

 こうしたもとで今後の金融政策についてどのように考えるかという御質問でございますが、景気は全体として緩やかな回復を続けておりまして、そのプラスの影響というのは、企業規模あるいは業種、地域間で産業構造の違いなどによって異なりますけれども、企業の売り上げ、収益の増加、雇用、賃金の増加というものを通じて、地域経済、中小企業を含めて幅広く波及していく、今後さらに波及していくというふうに考えております。

 実際、この四月に行われました支店長会議では、三地域、特に北陸、東海、近畿ですが、回復テンポの高まりということから景気判断を引き上げるという報告があるなど、景気回復の好影響が地域的な広がりを持って波及してきているという印象を持っております。

 ただ、委員御指摘のとおり、産業構造の違い等から、地域によっては全国平均ほどの回復に至っていない地域もございますし、特に、中小企業非製造業の中には、大企業製造業が享受しておりますような史上最高の利益水準というところに及んでいないところもあります。しかも、先ほど申し上げたように、二%の物価安定の目標への道筋というのはまだ道半ばでございます。

 したがいまして、日本銀行としては、今後も、二%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するのに必要な時点まで量的・質的金融緩和を着実に実施し、継続していくという考えでございます。

井上(貴)委員 終わります。どうもありがとうございました。

古川委員長 次に、根本幸典君。

根本(幸)委員 おはようございます。自民党の愛知県十五区の根本幸典でございます。

 きょうは、財務金融委員会で質問をさせていただく機会をいただきまして、本当にありがとうございます。

 私の選挙区は、自動車の製造もそうですが、もう一つは自動車の輸入港を抱えておりまして、日本に走っています外車の二台に一台は我が地元から輸入をされる、そういう地域であります。そういう意味では、今、総裁の方からありましたように、東海という地域でありますので、やはり経済、景気というものはいいという感触が有権者の皆さんにも徐々にですが広まってきているというのが、我が地域の実態ではないのかなというふうに感じております。

 二年半前、初めて私は当選をさせていただきまして、そのときも、デフレから脱却、経済を再生していく、これを、私の公約でもありましたし、もちろん自民党の公約として掲げさせていただきました。

 そして、二十五年の三月四日、議院運営委員会で、そのときは総裁はまだ総裁ではなくて、参考人でお越しいただきまして所信をお聞かせいただいたんですね。

 それが私は大変印象に残っておりまして、デフレという言葉を、デフレからの脱却という言葉を含めて八度使われて、まさにデフレから脱却をしていくということに対して非常に強い意気込みを持っていらっしゃったというのを感じましたし、「やれることは何でもやる」、こういう強い発言もありまして、まさに我が意を得たり、ぜひ黒田総裁には頑張っていただきたい、こういうふうに思ったものであります。

 そして、総裁に就任をして、四月になりまして量的・質的金融緩和を導入されたわけであります。

 それから約二年が過ぎたんですけれども、この量的・質的金融緩和の効果をどういうふうに認識しているのか、まずお伺いをしたいというふうに思います。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、一言で申し上げますと、量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮しているというふうに考えております。

 まず、景気につきましては、企業部門、家計部門ともに、所得から支出へのいわゆる前向きな循環メカニズムが作用しておりまして、緩やかな回復を続けております。今後も続いていくというふうに見ております。

 企業部門を見ますと、収益が過去最高水準まで増加しておりますし、設備投資も増加基調にあります。輸出も、増加に転じるタイミングがややおくれていましたけれども、ようやく持ち直してきております。家計部門を見ますと、失業率が構造的失業率近傍で推移して賃金も上昇するという中で、雇用者所得は緩やかに増加しております。

 こうしたもとで、個人消費は、先ほども少し触れましたとおり、昨年やや消費マインドが慎重化した時期もありましたけれども、このところ、消費者マインドも持ち直しておりますし、個人消費は底がたく推移しております。

 ただ、物価面では、生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、消費税率引き上げの直接的な影響を除いたベースで見て、エネルギー価格下落の影響から、ゼロ%程度となっているわけでございます。

 そういう意味で、量的・質的金融緩和というのは、二%の物価安定目標に向けた道半ばというところでございます。

 ただ、物価の基調というものは着実に改善しておりまして、需給ギャップはおおむね過去平均並みのゼロ%程度まで改善しております。予想物価上昇率も、原油価格の下落にもかかわらず、やや長い目で見れば全体として上昇しているというふうに見られます。

 実際、ことしの賃金改定交渉では、これも御案内のとおり、多くの企業で昨年を上回るベースアップを含む賃上げが実現する見通しにございますし、企業の価格設定行動を見ても、付加価値を高めつつ販売価格を引き上げるという動きが見られるようになっております。

 このように、企業あるいは家計の実感としても、物価をめぐる状況は変化してきているのではないかというふうに考えております。

根本(幸)委員 今御説明がありましたように、やはり回復をしている、日本経済はよくなってきている、こういうことだというふうに思います。

 あと、三月四日の議論の中でもう一つ出てきたキーワードが物価安定目標、これも大切なキーワードだったと思います。

 ただ、当時のことを思い出すと、先行きがどうなるのか、まだ景気もそれほどいい兆しも見えていなかったものですから、果たして二%の目標というのがどういうことなのかとか、これは高い目標ではないかとか、また、本当にこの金融政策でデフレから脱却できるのか、こんな雰囲気だったというふうに思います。それが、日本の経済が回復するに従って、やはり物価安定目標は非常に大切な政策であるというのを国民の皆さんが徐々に徐々に理解してきたのではないのかなというふうに思います。

 そこで、二%の物価安定目標に対する現状認識と、実現に向けてのこれからの道筋をどのようにお考えなのか、お聞かせいただきたいと思います。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、足元の消費者物価の前年比は、エネルギー価格下落の影響から、ゼロ%程度となっておりますけれども、需給ギャップあるいは中長期的な予想物価上昇率、この両者によって規定される物価の基調というものは着実に改善しているというふうに見ております。

 原油価格の下落の影響というのは、前年比で見た影響はいずれ剥落するわけでございます。また、長期的に見れば原油価格の下落というのは経済活動に好影響を与えますので、むしろ物価上昇要因にもなり得るわけでございます。したがいまして、消費者物価の前年比は当面はゼロ%程度で推移すると見られますけれども、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴いまして、二%の物価安定の目標に向けて上昇率を高めていくというふうに考えております。

 二%程度に達する時期につきましては、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくという前提に立ちますと、二〇一六年度前半ころになるのではないかというふうに予想をいたしております。

根本(幸)委員 続いて、この経済、中小企業、地方都市、先ほども御答弁がありましたけれども、特に私のところは自動車でして、三月、トヨタ自動車さんが価格交渉しなかったということも中小企業に対しては大変いい影響になっていまして、じわじわと景気の実感が中小企業にも来ていると思います。

 そういう意味では、中小企業、地方にとって、現政権の経済金融政策がどんな効果をもたらしているかということと、あわせてもう一つ、やはり賃金と雇用も大切な文脈になるというふうに思っているんです。新卒採用も堅調ですし、有効求人倍率も上昇してきている。もちろん春闘も、大変期待に応えられた数字だったというふうに思います。その一方で、まだまだ実質賃金が追いついてきていない、こういう御批判もあるんです。

 消費税を八%に増税して約一年がたつわけですけれども、実質賃金の現状と今後の見込みについてどう認識しているか、二つあわせて御答弁ください。

雨宮参考人 お答え申し上げます。

 景気の回復が地方や中小企業にどのように波及していくかという御質問でございます。

 もちろんこれは企業規模ですとか業種、地域間、あるいは産業構造の違いによりまして異なるわけでございますけれども、企業の売り上げ、収益の増加ですとか雇用、賃金の増加を通じまして、地域経済、中小企業を含め、次第に波及してきているのではないかというふうに、これは先生御指摘のとおり、私ども判断してございます。

 地域経済につきましては、先ほど総裁からも私どもの支店長会議の報告等を御報告申し上げましたので、例えば中小企業ということで申し上げますと、経営者に対するアンケート等によりますと、賃金を引き上げる予定であるとする企業の割合は着実にふえてございますし、本年の賃金交渉に関する連合の集計でも、大手だけではなく、組合員数三百人未満の企業でも、ベースアップを含め、昨年を上回る回答となっているということでございます。また、先般の政労使会議でも、サプライチェーン全体で好循環が回転するよう、産業界は、取引先企業の仕入れ価格の上昇等を踏まえ、価格転嫁や支援あるいは協力に総合的に取り組むといったこととされておりますので、景気回復の好影響は、地域、業種で差がございますし、時間もかかりますけれども、徐々に広がってきておりますし、今後も広がっていくというふうに考えております。

 また、御質問のありました実質賃金でございますけれども、有効求人倍率が一・一倍を上回る、失業率は三%台半ばまで低下するといった労働需給の引き締まり、あるいは収益の改善を反映しまして、名目賃金は緩やかに上昇してきているわけでございます。

 ただし、先ほど御指摘がございましたけれども、この一年間は、やはり消費税率引き上げの影響から物価上昇率が高く出ているという格好で、実質賃金はマイナスだったわけでございますけれども、この四月にはその影響も剥落いたしましてプラス〇・一と、かつかつではありますけれどもゼロ近傍に戻ったわけでございます。先行きも、労働市場の改善が続くもとで名目賃金は上昇傾向が続くと見込んでおりますので、実質賃金の伸びについてもはっきりとしたプラス傾向になっていくというふうに見てございます。

根本(幸)委員 ありがとうございました。

 時間が来ましたので、終わります。

古川委員長 次に、岡本三成君。

岡本(三)委員 皆さん、こんにちは。公明党の岡本三成です。

 きょうは、三十分もお時間をいただきました。ありがとうございます。

 黒田総裁、きょうは、ほぼほぼ丸一日国会に来ていただきまして、ありがとうございます。

 私は、きょうのこの委員会を実現していただいた委員長、理事の皆さんに本当に感謝申し上げたいんですけれども、財務金融委員になってずっと思っていましたのは、中央銀行総裁のお仕事というのはやはり本当にお忙しいんですね。

 金融政策を決めるのはほんの一部で、組織のマネジメントもありますし、経済財政諮問会議等にも出ていらっしゃいますし、出張もありますし、総裁の一言一言を市場が注視していらっしゃるので、緊急性のないことでわざわざ国会に来ていただいて、五分ぐらい答弁していただいて帰っていただくようなことを控えていくというのも国会の大切な役目ではないかなと思っています。一方で、定期的に終日来ていただいて金融、財政に対することについて徹底的に議論していく、このような場を持つことでさまざまな生産性が上がりますので、このような第一歩を踏み出していただいたことに本当に感謝申し上げたいと思います。

 まず、総裁、初めの質問といたしまして、日本銀行の使命は物価の安定と金融システムの安定ですけれども、物価の安定自体が目的ということではないと思いますので、この物価の安定という使命の目的、それは何のためでしょうか。

黒田参考人 御指摘のとおり、日本銀行は、我が国の中央銀行として物価の安定と金融システムの安定を目的としております。

 また、日本銀行法では、通貨及び金融の調節に当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもってその理念とするというふうに定められております。

岡本(三)委員 日銀法の第二条、まさしく物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する、これは政治家の目的も一緒だと思うんですね。よりよい国民生活を実現する。

 そういう意味で、私は常々申し上げていますけれども、日銀と政治家はチームメンバーだと。目的は一緒なんです。ただ、守っている守備範囲が違うので、それぞれ独立性を保って、同じ目的を確認しながら。日銀に対して申し上げたいことを言うし、日銀からも国会議員、政府に言っていただいて、ただ、それぞれの行動においては独自に判断していくということでやっていくべきだというふうに思っております。

 したがいまして、本日の質問も、同じチームメンバーとして目的意識を共有しながら、守る守備範囲をそれぞれどのようにしていけばよりよくその目的が達成できるかということで、日本銀行に提案したいことがございますし、また国会や政府の今後のやり方についてのアドバイスもいただきたいというふうに思います。

 今、総裁から、物価安定の目標は国民経済の健全な発展に資するというふうに言っていただきました。そうしますと、今回のインフレターゲットの二%、これも目標ではなくて手段であるはずだと思うんですけれども、この二%ができると具体的に国民経済はどうなるんでしょうか。何を目的として国民の方々はこの二%を見ていけばいいんでしょうか。お答えをいただきたいと思います。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、日本経済が長きにわたるデフレのもとでデフレマインドが定着して、その結果、価格の下落、売り上げ、収益の減少、賃金の抑制、消費の低迷、価格の下落という悪循環に陥って活力を失ってしまった。こうしたデフレマインドを抜本的に転換して、十五年近く続いたデフレから脱却するという決意のもと、日本銀行は、二%の物価安定の目標を定め、これを早期に実現するために量的・質的金融緩和を実施しているわけでございます。

 この点は、御案内のとおり、二〇一三年一月の政府と日本銀行の共同声明におきまして、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現という大きな目的のもとに政府及び日本銀行がいわばそれぞれ行うべきことを明らかにしているということの中ではっきりと示されておりまして、そういう意味では、委員御指摘のように、政府と日本銀行が協力して、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現という大きな目的のもとにそれぞれが行うべきことをやる、その中で、日本銀行は二%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するということを約束したわけでございます。

岡本(三)委員 そうしますと、政策目的である手段としてのインフレターゲット二%、それが実現するとデフレ脱却、デフレ脱却が実現すると持続的経済成長が実現して、結局、個々人の国民の方から見ると、生活水準の向上が見込めるというのはそういうことですよね。

 考えますと、今の現状というのは、手段である二%は達成できていませんけれども、目的である生活水準の向上というのは結構達成しつつあるのではないかなと既に思うんです。金融緩和の結果、金利が低下して大幅な円安、その結果として輸出企業を中心に企業業績は上がって、賃金も向上し始めて、全体といたしましてはかなり生活水準は向上してきたというふうに思います。

 私は、ある意味これでもういいんじゃないかなと思っているんですね。

 どういうことかというと、これは全く逆を考えていただきますと、仮に手段であるインフレターゲット二%は達成した、ただ、どういう理由かは別にして、金利も上昇して、円高が進んで、株も下がって、企業業績は悪くなって、所得は下がって、生活水準は落ちた。そうすると、インフレターゲット二%はミートしても、実際には目的である生活水準の向上には何ら寄与していないわけですから、余り手段にこだわらない方がいいというふうに思っています。

 その意味で、もちろん、この日銀の二%というコミットメントがいわゆる日銀レジームをつくり出して、市場の期待を生み出していることを私は否定しませんけれども、手段である目標設定といったらもうちょっと柔軟でいいんじゃないかなというふうに思っているんですね。

 そして、何で二%に到達しないかというと、別に日銀の政策が生ぬるいからではないと思っています。それぐらいデフレマインドがかちんかちんに心の中で凍っていまして、なかなか溶かすことができないんですね。

 事実として、このインフレターゲット二%、物すごい大変な数字です。先ほど来総裁がおっしゃっているように、コアCPIでいいますと去年の四月がピークで、〇・四%。足元はほとんどゼロです。ただ、その理由でいつも日銀の方は原油価格の下落をおっしゃるんですけれども、一部それもあるとは思いますが、原油を除いたコアコアでいってもやはり去年の四月がピークなんですね。足元の四月は〇・四%、原油を除いても〇・四%。もう二%なんて、本当に夢の夢みたいな数字なわけです。

 でありますので、私はこれを悪いと言っているわけではなくて、ファクトをファクトとして、二%を言い続けることが本当に大切なのかどうかということをぜひお伺いしたいと思うんです。

 四月の政策決定会合の議事録を読ませていただきました。委員の中からは、タイミングにおいても、一五年度を中心とする期間から一六年度前半ごろに、または見通し期間にもっと幅を持たせた方がいいという意見も出ていますし、このターゲットの数字についても、二%と言い切らずに、二%に収れんしていくという表現であったり安定的に推移するなどといろいろな修正案が出されていまして、これは多数決で否決されています。

 先ほど申し上げましたように、コミットメントを示すことはすごく大切だと思うんですけれども、もともと二〇一三年の四月に始めたときに、二年程度で二%でマネタリーベースを二倍にしていくことを実現するということだったので、日にちは来てしまったら修正せざるを得ないのはわかりますけれども、数字は言い続けようと思ったらいつまでも言い続けられるわけです。目的を達成するための手段だというふうに割り切ってしまえば、マーケットに悪影響を及ぼさないような形で。

 私は個人的には、インフレターゲットは一パーから二パーで十分だと思うんですね。ただ、そんなことを言っちゃうと、一パーに近くなったら、これでもう日銀はターゲットミートしたのでテーパリングに行くんじゃないかというふうに市場に思われてもいけないので、例えば二%を中心としたとか、どこかのタイミングで事実に基づいて、ただ、手段は幅を持たすけれども目的にコミットは続けるというようなことをやるべきじゃないかな、それが誠実なんじゃないかなと思うんですが、総裁の御意見を伺えればと思います。

黒田参考人 御案内のとおり、日本銀行は、物価安定の目標というものを消費者物価の前年比上昇率で二%として、これを安定的に持続するということを目指しております。

 もちろん、消費者物価上昇率は短期的にはさまざまな要因、特に商品市況の動向などによって上下するわけでございますけれども、ならして見ますと二%の物価上昇率が実現している、こういう状況が二%の物価安定の目標であるというふうに思います。したがいまして、日本銀行としては、こうした状況の実現を目指して、経済・物価情勢を踏まえつつ、適切に金融政策を運営していくという所存であります。

 したがいまして、二%が達成できれば実体経済はどうでもいいということではなくて、企業・家計部門の所得から支出へという好循環が続く中で、経済が持続的な成長を遂げる中で二%の物価安定の目標を持続的に実現するということが、日本銀行の目指す物価安定の目標でございます。

岡本(三)委員 総裁、二〇一三年の四月に異次元の量的緩和を宣言されたときに二年程度と示されて、それから二〇一五年を中心にすると表現を変える中で、日銀また黒田総裁に対する市場の信頼性、クレディビリティーはすごく高いので、マーケットはレジームを揺り戻したかというと、そんなことは全然ないですよね。マーケットはクラッシュしていません。したがいまして、適切な形で柔軟性を持つような政策ということもぜひ御検討いただければと思います。

 四月の政策決定会合で複数の委員の方が、物価下振れの原因として、個人消費の回復の鈍さを指摘していらっしゃいます。六月八日に発表になった一―三のGDPの改定値はそのことを裏づけていまして、実質で年換三・九%、名目で年換九・四%。一九九四年以来最大の数字ですけれども、牽引したのは設備投資であります。円安が進んだので自動車部品の設備投資、またインバウンドの観光客がふえたので不動産、ホテル等の設備投資がふえているんですが、やはり個人消費は引き続き厳しい数字でした。

 ただ、ここが好転しないとインフレターゲットにミートできないですよね。ただ、インフレターゲットがいわゆるコストプッシュになってはいけない、ディマンドプルのように需要を支えなければいけないわけです。

 そこで、改めて、個人消費がふえない理由をどのように分析していらっしゃるか、お伺いしたいと思います。

雨宮参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のとおり、個人消費につきましては、昨年四月の消費税率引き上げの後、落ち込みがやや長引いたわけでございます。ただ、最近の動向を見ますと、最近ようやく底がたさが増しつつあるというふうにも見てございます。

 個人消費の関連指標を見ますと、昨年の秋以降慎重化しておりました消費者マインドでありますけれども、賃上げが二年連続で実現したという状況ですとかあるいはガソリン価格の低下を背景に、このところようやく持ち直しの動きが明らかになっておりますし、各種販売統計を見ましても、家電販売額ですとか百貨店、スーパーの売上高などで改善の動きがあらわれているように思われます。

 ポイントは、先ほど先生御指摘のございましたとおり、所得と消費の好循環が回り出して、それが経済全体を下支えするかどうかという点でありますけれども、この点、やはり重要なのは所得環境でございますが、多くの企業で昨年を上回るベースアップを含む賃上げが実現している、雇用・所得環境の着実な改善が続くということを背景に、個人消費は引き続き底がたく推移するというふうに見てございます。

岡本(三)委員 今、雨宮理事がおっしゃったことは大枠で賛成なんですけれども、ただ、現実として、期待ほどは消費は伸びていないわけです。

 私は、事実として、それがいい悪いとかということではなくて、現状はやはり将来の賃金の上昇に対する期待が薄いんだと思うんですね。来年の給料はことしより上がるというふうに自信を持てないので、消費に回す金額が少なくなってくる。日銀がもともとインフレターゲットを打ち出したときの期待に働きかけると全く同じで、個人の消費に対する刺激が、将来の賃金の上昇というものが確信できないがゆえになかなかうまくいかない。

 私、厚労省の賃金構造基本調査というものを分析いたしまして、二〇〇九年から去年までの五年間、何で賃金が上がらないかということを回帰分析いたしました。そうすると、二つの理由で賃金は上がらないんですね。

 一つは、正社員の上昇分があります。これはプラスに働いているんですが、それを打ち消しているのがありまして、それはパートタイムの方の賃金が打ち消しているんです。過去十五年間にわたって日本のパートタイムの労働比率というのはずっと上がっていまして、今はアメリカより高くなっています。この方々の比率が上がることによって過去五年間ですと平均〇・五%賃金が抑えられていますので、正社員の方の昇給は物すごい勢いになっているんですが、パートタイムがふえることによってそれを〇・五%カットしちゃっているという絵面になっているんです。

 ただ、パートタイムの方の多くは、理由はポジティブなんです。一つは、団塊の世代の方が定年退職後、短時間労働で再雇用される。つまり、今までだったら、正社員のときに所得が例えば四百万円、退職でゼロになる方が、短時間のパートタイムの雇用で二百万円、半額になるわけです。そうしますと、平均賃金は抑えられますけれども、その方の所得はゼロだったものが二百万円になっているので、これはプラスですね。

 あとは、今まで働いていなかった女性の方の労働参加がふえてまいりまして、主婦で収入ゼロだった方がパートを始めて百万円の収入を得るようになった。例えば御主人が四百万円の年収ですと、個人の所得は四百万円ですけれども、奥様が百万円のパートに出るようになって、パートタイムがふえたので四百万円と百万円で五百万円に家計の所得としてはなるんですが、一人頭二百五十万円になっています。

 ですから、賃金の平均で見ると下がってしまうんですけれども、これは仕方がないことです。日本の経済構造上、一人頭の賃金の平均として上げていくということを目標にしない方がいいと私は思っているんです。

 ただ、一方で、女性や高齢者の労働参加率が上がってきますので、世帯で見たところの収入がふえていくところを目標とすべきだし、そこがふえることができれば、将来に対する賃金の上昇という期待に働きかけて、消費に関しても好循環が生まれる可能性が高いというふうに思っているんですが、どう思われますでしょうか。

黒田参考人 もとより、日本銀行としては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資するということを理念として金融政策を運営しているわけですが、委員御指摘のようなことはまさにそのとおりでありまして、やはり持続的な成長、実質成長を実現する上では、何といっても民間の前向きな動きというものを引き出していく、そして我が国の経済の成長力を強化するということが最も重要でありまして、御指摘のように、女子、高齢者を含めた労働参加率を高めていくといったことであるとか、あるいはさまざまな規制緩和等によって技術進歩の率を高めていくといったことも重要であろうと思います。

 政府が日本再興戦略のうちに、重点施策について、各施策の実施時期などを明示しながら迅速かつ確実に実行すると。それから、その後の議論も踏まえて新しい成長戦略の取りまとめを進めておられるようでありまして、私どもとしても、そういったことについての着実な取り組み、これによる成長力の強化というものを強く期待しております。

岡本(三)委員 今の総裁のコメント、全く同意でございます。

 その意味で、次は、国会や政府が今後やるべき政策に関して、それが日銀の政策の目標であるところと合致しているか、その目標に対して効果が上がるかどうかというようなことに関して、ぜひアドバイス、コメントをいただきたいと思っていることがあるんです。

 安倍政権は非常によくやっているというふうに私は思っていますけれども、もしさらにやるべきことがあるとすると、アベノミクスをより効果的にするために、国民全員にわかりやすい目標を掲げることが大事なんだと思うんですね。

 私は、例えば十年後の世帯としての所得を目標に掲げるというのはすごくわかりやすくて、どんな水準、どんな仕事をしていらっしゃる方にも一様にかかわってくるので、そこがクレディビリティーとして個々人の方に御納得いただければ、消費マインドを刺激するようなことができるというふうに思っているんです。結果的に個人消費が経済の好循環を呼んで、実際の所得も上がっていくというふうに流れていけばいいなと思っているんです。

 世帯所得というのを厚生労働省の統計で見たんですが、何とピークは約二十年前、一九九四年に世帯として家族で稼いだ額が過去最高で、六百六十四万円です。これは給与所得だけではなくて、年金ですとか配当ですとか全部込み込みです。そして、直近で一番新しい数字は三年前、二〇一二年なんですが、何とそこから一九%も減っていまして、五百三十七万円。つまり、過去二十年間、毎年、世帯の所得というのは一%ずつ減ってきているんですね。そんなのを二十年も経験したら、来年給料が上がってよりよい生活ができるなんて、誰もやはり思わなくなると思うんです。

 ですから、例えばこれから十年後に所得が世帯として、例えば日本の歴史上最高ですと九四年から一万円ずつ上げますと、六百六十五万円。十年後に今から二三%アップです。複利ですと毎年二%、家族として所得が上がっていけば、十年後には家庭の所得というのは過去最高になります。もし切りのいいところで七百万円と打ち出すと、今から考えますと三〇%ですから、毎年二・五%ずつ家族で所得が上がっていけば、十年後に明るい未来が開けている。

 毎年上がっていくんだというふうに信じることができれば、先に貯金しようという気持ちよりは、今使っても来年は給料が上がる、来年は二%給料が上がるんだという気持ちに、メッセージを明確に共有することが大事じゃないかなというふうに思うんですね。それを大きな目的とすれば、例えば成長戦略も、一つ一つの成長戦略を普通に働いている方が見たら、自分の生活にどうリンクしているんだということを感じられる方なんてほとんどいないわけです。それが、全ての成長戦略、財政政策、金融政策もそれは手段で、その目的は十年後に私の家の所得が今から二〇%上がることなんだというふうに明確になれば、国民の政府に対する、一つ一つの政策に対する期待も、またチェック機能も働きますし、ぜひやっていくべきじゃないかなと思うんです。

 そうすると、一つ一つの政策がゴールがありますから、期限が切られていますので、いわゆるKPI、キー・パフォーマンス・インディケーター、どのタイミングで何をどこまでやれば十年後の目標達成、家計の所得が史上最高になるということに寄与しているかというふうなことで、日銀と政府、国会議員が同じ目標として共有している、国民生活のよりよい向上というところに寄与できるんじゃないかと思っているんですね。

 私は生まれていませんでしたけれども、池田内閣のときに所得倍増計画、めちゃくちゃわかりやすかったと父ちゃんが言っていました。そして、結果的に十年後には所得倍増を上回る結果をもたらしているんですね。国民みんなが一生懸命働くことによって、生産性が物すごく向上しました。その結果、GDPは当初の予定以上になって、所得倍増計画は大きな成功をもたらしたわけです。

 仮に、政府の目標が家計の所得の最大化、過去最高水準だということを掲げてやり出したとしたら、それは日銀のミッションである物価安定を実現することに寄与して、そして結果としてお互いの目標である生活水準の向上につながるかどうか。どういうふうな御所見をお持ちか、お伺いしたいというふうに思います。

黒田参考人 御指摘の池田内閣における所得倍増計画というのは、確かに毎年七%の実質所得の増加を今後十年続ければちょうど十年で倍になるということでしたけれども、現実には年間一〇%近い実質成長で、十年で倍以上になったということでございます。

 今御提案のようなことについてどう考えるかということは政府において考えられることだと思いますけれども、現在の政府も、御承知のように、成長戦略を通じて、中期的な実質成長率、実質所得の伸びを二%程度、名目GDPでいいますと三%の半ばぐらいだと思いますけれども、そういった毎年の成長を遂げるということを一種の目標というかベンチマークというか、そういうものにして成長戦略を練って、毎年再興戦略として改訂して発表しているわけでございます。

 基本的な考え方というのは委員の御指摘のことの方向とよく似ているとは思いますけれども、委員の具体的な御提案につきましては、これはやはり政府において十分検討していただくべきものであるというふうに思います。

岡本(三)委員 ありがとうございます。

 もちろんそれは国会議員、政府の仕事ですから、ぜひこれからしっかりと働いてまいりたいと思いますが、要は、いろいろな成長戦略等のメニューが、普通に働いている方から見たら、それが実現したとして私の生活はどうなるんだというリンケージが見えないことだと思うんですね。したがいまして、一つ一つのメニューは、先ほど申し上げたように、その個々人の国民の方の生活水準の向上に直結するための手段なんだということを明確に申し上げることによって、さらなる労働意欲であったり、労働参加であったり、生産性の向上みたいなことを目指すような政策をぜひ政府に訴えていきたいと思います。

 最後に一つ、全く違う観点から質問させてください。

 それは、総裁の最も大きな時間は、多分、金融政策というよりは組織のマネジメントに割いていらっしゃるんじゃないかなというふうに思うんですね。

 黒田総裁のもと掲げられました中期経営計画、読ませていただきました。さまざまな目標を立てられてすばらしいと思うんですけれども、その中に人材育成についてすばらしい目標を掲げていらっしゃいまして、「内外の人的ネットワークを構築し、新たな課題に積極的に挑戦する人材および国際的に活躍できる人材の育成に注力する。こうした観点から、海外も含め、外部との人材交流などにも引き続き積極的に取り組んでいく。」というふうに記されています。大切だと思います。

 私は、その上で、どういう日銀を、総裁が退任される時点で市場にどういうふうに評価される日銀をつくりたいかということをお伺いしたいと思っているんです。

 ちなみに、私は一国民として、世界じゅうの中央銀行の中で最もインターナショナルなセントラルバンカーの集団だと世界じゅうの市場から評価されるような日銀になってもらいたいというふうに国民として期待しているんですね。そうすることによって、市場からの信頼性、クレディビリティーが上がって、日銀総裁のコメントについても市場の受けとめ方が全く変わってくるからです。

 その意味で、提案したいことが二つあるんです。

 一つは、今、世界に派遣していらっしゃる方の多くは、日銀の海外の支店、または国連機関、例えば世界銀行、IMF等々、あと留学ですけれども、世界じゅうの中央銀行に、FRBもECBもバンク・オブ・イングランドも、これからイスラム圏も重要ですからマレーシアも、スイスも、世界じゅうの主要な中央銀行に日銀マンを送り出して個人的な人的ネットワークをつくって、将来いろいろなコミュニケーションフローを円滑にするようなことをぜひつくっていただきたいというのが一つ目のお願いです。今もやっていらっしゃるのはわかりますけれども、他国の中央銀行がやっているレベルに比べますと、非常に実数として少な過ぎるというふうに思います。

 二つ目が、日本で働く日銀マン、これは国籍のハードルはないんですけれども、実際にさまざまな政策をつくったり、または諸外国の状況を分析したりしているのはほとんど全員日本人です。アメリカのFRBの日本の分析をしているエコノミスト、私が議員になる前の三年前までは少なくとも日本人がやっていました。それは、マクロデータ、数字を見ただけではわからない、そこの国で生まれ育ったからこそ、その数字が持っている意味合いがわかるからなんですね。総裁が今後政策を決めていく上で世界じゅうの情報を分析する中で、日本に世界の知性を集めて日銀の中で分析することをファクトベースに組み入れていただければなというふうに思っています。

 その上で、これは日銀が独自で決めることではないですけれども、私は最終的には、日銀総裁はこのように出てきていただかなければいけないので、私たちが英語ができないということを前提にすると日本人じゃなきゃいけないんですが、副総裁のうちの一人は外国人にしてほしいと思っています。

 実際に、バンク・オブ・イングランド、イギリスの中央銀行の総裁のカーニーはカナダ人です。私は前職で同期でした、一緒に働いていました。世界じゅうは、何人がやるかなんて関係ないんですね。一番適切な人がやる。

 であれば、黒田総裁を支える副総裁が例えばアメリカ人、たくさんの世界じゅうからのエコノミストを抱えている、それでつくった政策をマーケットに打ち出すような日銀にぜひなっていただきたいと思うんですけれども、一言御所見をいただければと思います。

古川委員長 黒田総裁、申し合わせの時間が過ぎていますので、簡便に御答弁願います。

黒田参考人 御指摘のとおり、中期経営計画で国際的なネットワークを構築するということを一つの大きな目標にして人材の育成に注力しているわけでございまして、二つの御提案がございました。

 一つは、海外の中央銀行への出向を積極化させるということでありまして、これはこのところ積極化してきているわけですけれども、これはあくまでも相手側との人事交流ということでございますので、そうした中で引き続き努力してまいりたいと思います。

 二番目の点につきましては、職員につきましては採用について国籍による制約はないわけですが、通常職場で使用する日本語について自国並みのレベルが求められますので、実際問題としてなかなか、外国籍の方は日本銀行の常勤職員になるというのは難しいということかと思います。

 外国の中央銀行で外国の方が幹部になっておられる例も御指摘のとおりありますが、今申し上げたとおり、英語国同士でいく場合と違いまして、あくまでも日本語について母国語並みのレベルがないと日本銀行の職員としては採用されないということでございます。

岡本(三)委員 ありがとうございます。終わります。

古川委員長 次に、丸山穂高君。

丸山委員 維新の党の丸山穂高でございます。

 私からも、本日は、総裁にお越しいただきまして、今の金融政策につきましてもろもろお伺いしていきたいと思います。

 まず最初に、為替、円安の動きについてお伺いしたいと思います。

 今、百二十四円半ばぐらいをつけているようですが、一時百二十五円ぐらいまで。急激に上がっていると私は感じているんですけれども、歴史的に見てもかなり円安だなというのを感じます。実質実効為替レートを見てもかなりの水準での下落ですので、調べると七〇年代前半ぐらいまでの推移じゃないかなということで、かなり歴史的と言ってもいいと思うんです。

 それに関しまして、総裁は、少し古いんですが、G7前に、為替レートがファンダメンタルズを反映して安定的に推移するのが望ましいと、極めてある意味優等生の御回答をされていると思います。ただ、一方で、同じタイミングで菅官房長官は、急激な変動に当たるかといえば、そこまでとは見ていないと発言をされているんですが、G7を終えられて、特に麻生財務大臣が荒い動きだという御表現をされています。

 まず一つ目は、総裁として今、昨今の円安について、特にこの数日間かなり動いていると思うんですけれども、これを急激な変動とお感じになるのかどうか、率直にお伺いしたいんです。

黒田参考人 為替相場の水準とか日々の動きについて、私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと存じます。

 先ほども申し上げておりましたとおり、為替相場は経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい、これはG7、G20も含めて国際的ないわばコンセンサスだと思いますけれども、それを超えて具体的に水準とか動きについて何か申し上げたり、あるいはそれについてのアクションということになりますと、これは米国でも日本でも財務省の責任と権限のもとにございますので、私から何か具体的に申し上げるのは差し控えたいと思います。

丸山委員 そこは、表現を慎重にされるのはおっしゃるとおりだと思います。それが責任だと思います。とはいえ、どういう感触かというのは大事なところですので、細かく少しお伺いしていきたいと思います。

 先ほどの御質問でアメリカの利上げの観測のお話が少し出てきて、市場としても恐らく年内というのはほぼコンセンサスが得られつつあるな、タイミングを見ているというのが一般だと思うんです。そうすると、円安というよりは、世界的に見ればドル高が基調だと思うんです。それに引っ張られての円安というのが大きいと思います。この流れというのがずっと続いていく状況になると日本にとって望ましいかどうかというと、特に日銀さんにおいては物価との関係とか経済との関係を非常に重視されると思うんですけれども、私は少なからず、いいところばかりじゃなくて悪い影響も率直に出てくると思うので、このあたりは政策を担当される方としては非常に悩ましいところだと思います。

 そういった意味で、ファンダメンタルズを反映していく安定的な推移というのは望ましいんですけれども、昨今かなり急激、財務大臣も荒い動きだとおっしゃるぐらい少し急激だなというふうにお感じなんですけれども、この要因はどういったところにあると日銀総裁は分析されていますか。

黒田参考人 御案内のとおり、為替レートの短期的、中期的な動きというものはさまざまな要因によって左右されますので、確かに御指摘のとおり、金融政策の違い、米国の金融政策と日本を含めた米国以外の国の金融政策との違いがドルの他国通貨との為替レートに影響する一つの要因であることはそのとおりでございますけれども、同時に、さまざまな他の要因もございますので、一概に、FRBがテーパリングを終了し、いよいよ金利を引き上げていくプロセスに入りそうだ、あるいは入るということから直ちに、今後さらにドル高が進むというふうに決め打ちするということもなかなか難しいと思います。

 その一つの要因は、先ほども申し上げたとおり、金利が上がっていくということがほぼ為替市場に織り込まれているとすれば、織り込まれている以上の何かサプライズがなければこれ以上のドル高になる必要もないようにも思われるわけでございまして、一体どの程度織り込まれているのかという為替市場についての判断が必要でございます。これは御承知のようになかなか難しい判断でございます。

 それから、先ほど申し上げたように、それ以外の、金融政策の違い以外の要因も短期的、中期的な為替レートには大きな影響を与えますので、今の時点で何かこれ以上、さらにどんどんドル高・円安が進むということを前提にするということもできないというふうに思っております。

丸山委員 そういった意味で、G7の場というのは一つ大事な潮目になる場だったと思うんですけれども、ドイツのドレスデンで行われたG7で、為替というよりはむしろ世界的にはドル高だと思うんですけれども、このドル高について何か話し合いをされましたでしょうか。

黒田参考人 先日、ドレスデンでございましたG7、財務大臣・中央銀行総裁会議には麻生副総理とともに参加いたしましたが、為替に関しては議論はほとんどありませんでした。はっきり言って、全くなかったと言ってよいと思います。

 したがいまして、ドル高が云々ということについても議論はございませんでした。

丸山委員 なかった理由というのは、総裁としてどのようにお考えですか。

黒田参考人 これは両方から、要するにアメリカ側がどうして特に指摘しなかったのか、逆に、ドル高で円安、あるいはドル高・ユーロ安、ドル高・ポンド安ということであれば、安くなった通貨の方の、為替の安定は基本的に各国とも財務大臣の権限と責任ですけれども、そちら側の方も特に指摘されなかったということで、なぜかというのは私もよくわかりませんが、察するに、あの時点で、一日半のG7でわざわざ取り上げて大きく議論するという必要性を感じられなかったのかなというふうに思いますが、これはそれぞれの財務大臣の方々のお考えだと思います。

丸山委員 日本としては、為替も一つですけれども、原油価格は常々日銀の皆さんは気を配っていらっしゃると思いますし、何より物価目標をある意味少し後退させられざるを得ない状況に今なっていて、原油価格を常々お言葉で気にされているのを感じますが、この話題はされたのかどうか。どうでしょうか。

黒田参考人 実は、原油価格についてもG7では具体的な議論はありませんでした。

丸山委員 これは逆に、総裁、日本からされようとされたのか。そこはなぜだとお考えになりますか。なかったのはなぜなんですか。

黒田参考人 一日半のG7の議論でございまして、議題は大変盛りだくさんでありました。

 いつものとおり、世界経済動向ということを議論するわけですので、G7のそれぞれの方々から、それぞれの国の経済、あるいはそれを取り巻く地域さらには世界経済の動向、そうした中には当然、役割を増しつつある新興国の経済、金融資本市場の動向その他を、かなり時間をかけて議論いたしました。それから、金融規制の問題、これも引き続いておりますので相当な時間をかけて議論し、その関係でテロリストファイナンスの議論もございました。さらには、国際課税の問題につきまして議論が行われ、最後に、個別国の問題としてウクライナとギリシャの問題が議論されたということであります。

 冒頭の世界経済全体の議論の中には、議論の前提として、石油価格が昨年夏からことしの初めにかけて五割以上下落し、それがその後少しずつ緩やかに回復しつつある、そしてそれが恐らく今後とも緩やかに上昇していくだろうという、これはマーケットの予測でもあります、石油市場の予測でもありますが、そういったことは世界経済の見通しの前提としては入っていると思いますけれども、原油価格そのものについて云々するという議論はなかったということでございます。

丸山委員 テロリストファイナンスだとか国際為替の動きに関して、ウクライナの話も出ましたけれども、昨今国際金融で、ある意味起点となりかねない一番大きなものにギリシャのお話があると思います。六月三十日にEUの支援策の締め切りが迫っているので、すぐ、二十日後でございますので、一番これは懸念すべき点だと思います。

 ただ、これは報道ベースでいろいろ見させていただきますと、なかなかこのG7で、いろいろな国の立場があるんですね、明確な打開策という形で見出せていないのかなというふうに報道ベースでは感じるんですが、まず、G7に出られて、ギリシャの問題がどのように御議論されて、どういうふうにお感じになられたのか、お伺いできますでしょうか。

黒田参考人 ギリシャの問題は、ウクライナの問題とともに最後のその他という議題の中で取り上げられまして、欧州側から交渉の状況について簡単な説明がございまして、私の記憶では、ユーロ圏の外の米国と日本から、ユーロ側とギリシャ側の双方の努力によって解決が図られることを希望するといったような趣旨の発言がございましたが、時間としては、最後のその他というところの中で行われましたので、それほど時間をとって詳しく議論したわけではございません。

 恐らくその背後には、ユーロ圏の諸国、欧州委員会、IMF、ECB等が常時いろいろなチャネルでギリシャ側と交渉しているという状況のもとで、時々刻々交渉の状況が変わっているわけですので、その段階ではまだ交渉が妥結したわけでも何でもありませんし、また決裂したわけでもないということなので、状況の報告があった。それについては、先ほど申し上げたように、米国と日本から一定のコメントがありましたけれども、これは交渉事ですので、それ以上の議論はなかったということでございます。

丸山委員 ギリシャはまだ、交渉事で、途中だという御発言がありました。おっしゃるとおりだと思います。

 その中で、この問題の日本への影響についてはどのようにお考えになっていらっしゃいますでしょうか。

黒田参考人 交渉自体、いろいろな関係者がその後も発言しておられまして、交渉に進展が見られるという発言はユーロ諸国等の債権者側とギリシャ側ともに言われているわけですけれども、これまた双方の関係者が発言しておられるように、年金改革を初めとして両者の間には相違がかなり残っている、交渉はまだ合意に達していないということでありまして、一方で政府の資金繰りはタイト化しておりますし、市中では緊張した状況が続いているということでございます。

 私どもといたしましては、ギリシャ政府と関係諸機関の交渉の帰趨を含めて、ギリシャをめぐる金融経済情勢が国際金融資本市場、世界経済、ひいては日本経済に与える影響について引き続き注意深く見てまいりたいというふうに思っております。

丸山委員 今の総裁の御感想、御発言を聞いていますと、G7もかなり、いろいろな国の思惑がある中で、形骸化とまで言うと失礼だと思うんですけれども、私の中のG7というと、かつてのプラザ合意みたいな大きな舞台のイメージがあるんですが、若干、そういった意味で、形式的な議題が上がってきて、微妙なところのお話が、テーブルでやるかどうかは別にして、やりにくいのかなというのは感じたんです。

 そのあたりも含めまして、総理と六月二日に御会談されていると思うんですが、世界経済情勢について話されたと記者には述べられておりますけれども、具体的にはどういう形でのお話をされたということですか。

黒田参考人 まず、G7の役割というのは、御指摘のとおり、八〇年代それから九〇年代の初めごろまではG7というのが圧倒的な地位にあり、会議後に出るコミュニケというのが市場や世界経済に影響を与えるということであったわけですが、アジア通貨危機を経てG20というのが設立され、それがさらにはリーマン・ショック後にはサミットレベルまで引き上げられまして、世界経済自体、中国、インド、ブラジル等新興国の役割が非常に大きくなっておりますので、G7だけで何か決められる範囲というのは小さくなってきているということは事実であります。

 その意味で、G20がいわば世界経済全体の主要な議論の場になっているということは事実であります。そして、G7は最近は、その結果としてコミュニケも出しておりません。しかしながら、議論自体は非常にフランクで有意義であるということには全く変わりはありませんし、今回のG7のサミットの議論も、これはコミュニケ等も公表されておりますけれども、大変掘り下げた議論が行われたように伺っております。

 そこで、六月二日に総理とお会いした件でございますが、これは定例的に経済金融情勢について意見交換の機会をいただくことになっておりまして、六月二日は、ちょうど直前に私が出席いたしましたドレスデンでのG7、財務大臣・中央銀行総裁会議の議論も踏まえまして、先ほど申し上げたようなさまざまな内外の経済情勢について御説明をいたしまして、一般的な意見交換を行ったということでございます。

丸山委員 単純に意見交換といってもいろいろあると思うんですけれども、どういった方向性での意見交換、御意見を述べられたのかというのを、述べられる範囲で構いませんのでお願いいたします。

黒田参考人 総理がG7のサミットに行かれる前でもございますので、基本的に世界経済のお話をいたしました。その際には、ドレスデンでの議論も踏まえまして、世界の主要国の経済動向であるとか金融市場の動向等について御説明をいたしました。

丸山委員 ありがとうございます。

 国外的には、かなりいろいろお動きになって、御会談もされて、いろいろな成果もあったと思います。

 そこで、国内に目を向けてみますと、先般、GDPの一―三月期の速報からの上方修正もありました。年三・九%、特に設備投資が上がっているということで、かなり景気的にいい空気感はあるなというのは率直に感じるところであります。一方で、少し先ほど御質問させていただいた原油価格からくるガソリン価格の部分、そして何より円安、為替からくる物価への影響、輸入価格が上昇していますので、日銀さんが今一番気にされている物価と、あともう一つ大事な特に消費者の消費マインド、消費者物価指数も含めてそういったところが非常に市場も気になりますし、議員も気になりますし、日銀さんも気になるところだと思います。

 円安やガソリン価格を含めて、景況、特に物価も含めて、近々の動きを踏まえてどういうふうに率直に捉えられているか、まずはお答えいただけますでしょうか。

黒田参考人 このところの我が国景気の状況につきましては、先ほど来御説明しておりますとおり、企業部門、家計部門の所得から支出へのメカニズムはしっかりと働き続けており、緩やかに回復しているということは申し上げたとおりであります。

 御指摘の一―三月のGDPの速報の二次改定の数字を見ましても、二次改定自体は一次速報から見ますと設備投資がかなり大きく、一―三月だけでなくて前にさかのぼって上方に修正されたということで、一―三月の実質GDPの成長率が年率でたしか三・九だったと思いますけれども、非常に大きく上方修正されたわけでございます。

 その意味では、設備投資がかなり明確に増加したということがこの一―三月のGDPの数字からわかるわけでありますが、他方で、個人消費も過去三四半期ずっとプラスでありますし、低迷していた住宅投資もプラスになったとか、内需の各項目でプラスになっておりますので、そういう意味では、景気回復というのが企業部門、家計部門ともに広がりを見せつつあるということではないかと思います。

 他方で、物価は確かに、エネルギー価格下落の影響などからゼロ%程度になっているわけであります。ただ、物価の基調は着実に改善しておりますし、今後とも改善が続くというふうに見ております。景気回復を反映して需給ギャップが既に過去平均並みのゼロ%程度まで改善しておりますし、予想物価上昇率も、原油価格の下落にもかかわらず、やや長い目で見れば全体として上昇しているということでございますので、当面ゼロ%程度で推移するとしても、物価の基調が着実に高まっていく中で、原油価格下落の影響が剥落するということに伴いまして、物価安定の目標である二%に向けて上昇率を高めていくというふうに考えております。

 二%程度に達する時期につきましては、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくという前提に立ちますと、二〇一六年度前半ころになるというふうに予測されるわけでございます。

丸山委員 それは変わらないということでございますね。

 特に、景況を見ますと、いい中で、賃金の伸び率と物価の、特に身近なものの価格との乖離が少し気になり始めています。そういった意味で、賃金は硬直性がありますので物価より伸びが低いというのはそうなんですけれども、一方で消費を今何とか伸ばさなきゃいけないときに、この急激な円安で、特にレトルトとかの食品、乾麺とか、そういった部分は急激に上がっていますし、また今後、秋以降、電力だとか消費者の皆さんに身近な部分の物価というのが賃金に比べて伸び率が高いとなってくると、やはりマインドとして冷え込んでしまうというのは自然の流れだと思うんです。

 これはかなり懸念すべき点だと思うんですが、このあたり、現状、それに対してどのようにお感じなのか、総裁、お答えいただけますでしょうか。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、日本銀行の金融政策は、あくまでも、雇用、賃金あるいは企業収益の増加を伴いながら物価上昇率が徐々に高まっていくという好循環をつくり出していくことが重要であると考えております。

 御指摘のように、いろいろな物価指数がございますし、最近では東大あるいは一橋大学が非常に頻繁に、スーパー、コンビニなどのデータから物価の動きを示しております。生鮮食品であるとかあるいはその他のものにつきましても、先ほど申し上げたように、企業の価格設定行動というものも徐々にデフレ的な状況から変化しつつありますので、物価に影響が出てきているという感じを持っております。ただ、一方で、原油価格の大幅下落によって、エネルギー価格を中心にそういう関連の価格が下がっておりますので、全体としては、消費者物価はゼロ%程度ということであります。

 一方で、賃金の方は、名目賃金は、春闘が昨年を上回るベースアップを実現しようとしておりますし、引き続き上昇していくという中で、昨年の四月からこの三月までは消費税引き上げの影響が物価にあらわれておりましたが、それがこの四月にはほとんど落ちて、五月からは完全に落ちるわけですので、そういうところからいいますと、実質賃金もプラスを続け、さらにプラスが拡大していくのではないかと見ておりますので、全体として、賃金、物価は雇用や企業収益の改善に伴って徐々に高まっていくという好循環が実現していくものというふうに見通しをしております。

丸山委員 物価上昇もいろいろな上昇があって、よいもの、悪いもの。先ほど、よい循環をという話がありましたけれども、流れを見ていますと、若干、賃金との関係で見れば、円安に伴って上がっていく、それによって賃金との差で消費マインドが下がって、それによって売れなくなってという悪い循環になりかねないんじゃないかなという懸念があるんですけれども、それはないという認識で、今のところ大丈夫だ、懸念はされていないということでよろしいんですね。

黒田参考人 そもそも、これからさらに円安になるかどうかというのもわかりませんし、その場合の経済に対する影響というのはさまざまでありますので、当然、為替の動向、経済、物価への影響というのは引き続き注視してまいりたいと思っておりますけれども、これまでのところ、経済、物価の動向あるいは家計・企業部門の好循環に向けた動きというものについて、何か大きなマイナスになるというようなことにはなっておらなかったと思います。

丸山委員 これで質問を終わります。ありがとうございました。

古川委員長 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午後零時七分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

古川委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。前原誠司君。

前原委員 お疲れさまでございます。民主党の前原です。

 まずは、現在の為替水準につきましてお話をさせていただきたいと思います。

 皆さん方にお配りをしております資料、一枚目をごらんいただけますでしょうか。下の左側が二〇〇七年からのドル・円の為替レートでありまして、きょうが先ほど見たら百二十四円六十一銭ぐらい、こういうことでございまして、百二十五円台ではありませんけれども、円安水準が続いている、こういうことでございます。

 まず、黒田総裁にお伺いしたいと思います。

 午前中もお答えになっていたようでありますが、改めて、円安というよりはドル高だと思うんですが、この原因は何と考えておられるのか、お答えをいただきたいと思います。

黒田参考人 為替相場の水準とか日々の動きについて私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますけれども、為替相場はさまざまな要因によって動きます。その中に、金融政策、金融状況の違いというものが影響するということは間違いないと思います。

 ただ、その他のさまざまな要因にも左右されますので、現在の為替相場、あるいは少し円安に進んできたわけですけれども、それが金融政策の違いによってそうなったというふうに断定することは難しいと思いますが、市場関係者は、日米の、あるいは米国と米国以外の国の金融政策の違いというものに目が向いているということが言われていることは確かでございます。

前原委員 私は主に二つの要因があると思っていまして、一つは、アメリカの経済がいいということですね。アメリカの経済がいいということが大前提でありますし、それから、その経済がいいからこそ、テーパリングから今度は利上げへと、イエレンさんが年内にも利上げかという話をされている中で、市場がそれを織り込んで、金利差を見越した形での円安というかドル高が進んでいる、こういうふうに私も考えているわけでありまして、もちろんいろいろな要因はあると思いますけれども、私はこの二つが大きな要因ではないかと思います。

 麻生大臣にお伺いしたいと思いますが、この図一にも麻生大臣の発言を引用させていただいておりますけれども、荒い動きがある、こういうことであります。この荒い動きがあるというお言葉の意味には、ボラティリティーが大きいということはよくない、こういう意味でおっしゃっているんでしょうか。

麻生国務大臣 基本的に我々は為替の話については発言は差し控えることになっておるんですが、今、荒いというのは、足元において少なくとも円安の方向にかなり荒い動きが、三日間で三円ぐらいだと思いますので、そういった動きが見られておりましたという現実の話を申し上げたということでありまして、引き続き市場の動向というのは注意深く見ておかないといかぬなとは思っております。

前原委員 質問は、荒いという言葉を使われた背景には、ボラティリティー、つまり変動幅が大きいということはよくない、こういう意味でおっしゃったんですかという質問をしております。

麻生国務大臣 為替というのは市場に任せるという国際的なルールというか暗黙の了解でもありますので、前原先生、為替というものは、円安になるにしろ円高になるにしろ、ゆっくり確実にというのが最も望ましい、もしくは安定しているというのが望ましいのであって、上がったり下がったりというようなのがこういった為替を扱う方の立場としては最も望ましくないということであります。

前原委員 そのお答えをいただければと思います。

 黒田総裁も、安倍総理とお話をされた後の、会談後の発言で、為替レートが経済のファンダメンタルズを反映し安定的に推移することが望ましい、こういうことをおっしゃっているわけであります。

 黒田総裁も、今、麻生大臣がお答えになられたように、こういうボラティリティーが大きいというか、変動幅が多いというものについては、この安定的に推移することが望ましいとおっしゃったのは、そういう荒い動きをすることは望ましくない、こういう意味でおっしゃったのか、伺います。

黒田参考人 そういうことであると思います。

 ただ、為替市場の安定あるいは為替相場の安定自体は、御承知のように、米国等と同じく日本では財務省の権限と責任になっておりますので、金融政策でどうこうという話ではなく、為替が経済金融市場に与える影響を考えると、ファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい、これはある意味でG7等のコンセンサスでもあると思いますが、それを繰り返したわけでございます。

前原委員 それでは伺いますが、今の為替相場は日本のファンダメンタルズを反映しているとお考えなのかどうなのか、その辺についてお答えください。

黒田参考人 この点も、私が具体的に相場の水準について、ファンダメンタルズを反映している、あるいは反映していないというふうにお答えするのは差し控えたいと思いますが、為替相場の動きだけを過去ずっと追ってみますと、現在の水準というのは、リーマン・ショック前の水準にある意味で戻った。ただ、リーマン・ショック前の水準が絶対的に正しい水準であるという根拠も別にあるわけではありませんので、リーマン・ショック後、急速に円高が進み、それがこの三年弱の間に是正をされたということではあると思います。

前原委員 図一の下の右のグラフをごらんいただきたいんですが、これは実質実効為替レートというものとドル・円を並べたものでありまして、今、黒田総裁がリーマン・ショック後とおっしゃいましたけれども、プラザ合意あたりからずっと、この実質実効為替レートとドル・円というものをグラフにしたものでございます。

 実効為替レートということは、下にも書いてございますけれども、特定の二通貨間の為替レートを見ているだけじゃなくて、相対的な通貨の実力をはかるための総合的な指標ということで、これは日銀のホームページからとらせていただいたものであります。

 理論的に実質実効為替レートというものを考えたときに、インフレ率が高い国の通貨はインフレ率が低い国の通貨よりも安くなるということでありますので、緩やかなインフレが続くアメリカと、そしてバブル崩壊後以降長引くデフレを長らく経験している日本を比較すると円高に振れるというのは仕方がないわけでありまして、言ってみれば、バブル崩壊後、茶色の折れ線グラフと青の折れ線グラフがある意味で乖離してきているというところの背景がそこにあるということであります。

 実質ということの意味においては、例えば同じ為替レートなら実質的に今のインフレ率というものを勘案すると円安になる、こういうことになるわけであります。

 この相対的な通貨の実力をはかるための総合指標ということを出させてもらったわけでありますが、この実質実効為替レートというものがある意味で一九八五年のプラザ合意前と同水準になったということについてどう評価するかというところの議論をさせていただきたいと思います。

 この点について、黒田総裁のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

黒田参考人 これはなかなか難しい問題でありまして、委員御指摘のとおり、実質実効為替レートと申しますのは、二国間の為替レートでなくて、多国間のいろいろな通貨との関係を見た上で、普通は貿易ウエートでウエートづけしてやるものが実効為替レートであります。さらに、実質ということは、インフレ率の違いまで考慮したものでございます。

 したがいまして、ある意味でいいますと価格面で見た競争力みたいなもののようにも見えますし、他方では委員御指摘のように実力とも見えるかもしれませんが、いずれにせよ、この指標自体はIMF等が開発して広く使われている指標ではありますけれども、そのときそのときの為替の安定をどのように図るかという問題とか、あるいはそのときそのときの金融政策についてどういう政策をとるべきかということについては、やや迂遠な指標であるということは御理解をいただきたいと思います。

 その上で、確かに、実質実効為替レートで見ますと、今はかなりの円安の水準になっているということは事実でございます。

前原委員 その前段の説明は私もしているわけですね。ですから、それを踏まえて、今の、プラザ合意前の水準になっていることについて、先ほど総裁は、私が後ほど使おうとした例えば競争力とか、あるいは実力という言葉を使われましたよね、そういう面からして、この円安に振れているということについてどう評価をするかということを聞いているわけです。

黒田参考人 為替の水準の評価ということについては、具体的な評価は私から申し上げるのは差し控えたいと思いますけれども、一般的、理論的に申し上げますと、実質実効為替レートがここまで来ているということは、ここからさらに実質実効為替レートが円安に振れていくということは、普通考えると、なかなかありそうにないということかと思います。これは、最近、伊藤隆敏教授などもさまざまなところで触れておられます。

 ただ、これはあくまでも長期的な傾向から見てそうではないかという話ですので、これからのドル・円レートとか、これからの実効為替レートがどのように動くかということに対する確定的な予測を示すものとは思われないわけでございます。

前原委員 ある意味で、一つの方向性について、もちろん前提条件を置きながら発言をされたわけで、実質実効為替レートにおいて、これ以上の円安が進むということは考えられないということをおっしゃったわけであります。

 対象国を絞ったナローベースの実質実効為替レートと、少し対象国を広げたブロードベースの実質実効為替レートと両方あるわけでありますが、ちょっと複雑だったので、ややこしくなるのでほかの国は載せなかったんですけれども、これは、皆さん方、前に座られる方々は御存じだと思いますけれども、では、どういったところが近年上がっていっているのか、上がっているということは通貨として強くなっていっているかということを見ると、やはりBRICSそれから資源国、こういったところが通貨が強くなっていっている、こういうことであります。それから、他方で、先進国については若干弱目に出ているところがある、こういうことでありまして、そういう意味では、先ほど黒田総裁が競争力とか実力という言葉でおっしゃったところは、私は、ある程度的を射ているお考えだというふうに思っています。

 何を私が申し上げたいかというと、今円安になっていることによって、プラス、マイナス、両方あります。つまりは、海外の方がたくさん来てくれている。こういうことが円安によって、たくさんの方が来られている。しかし、他方で、輸入物価が高くなっていて、二年間ずっと実質賃金がマイナスで、この間、二年ぶりにプラスになったといっても、〇・一ですから。これは、また原油価格が上がり始めて、そしてさらに円安が仮に進むということになればどうなるかわからない、こういう状況でありますし、プラス、マイナス、両方ともあるんです。

 なぜ私が今回こういう実質実効為替レートを持ってきたかというと、やはりトレンドとして、強い通貨の方が、勢いのある国、競争力、そしてまさに、総裁がおっしゃった言葉で言うと実力のある国だというふうにみなされているということを考えれば、手放しでこの方向性について、日米金利差が広がって、結果的にそれが円安を誘導して、そして株価が上がる、こういうことの中で、プラスの面ばかりが強調されていますけれども、日本として本当にいいのかというところを、私はもう少し、近視眼的なことではなくて、株価の一喜一憂じゃなくて、こういう長いトレンドの中で今の円安というものが果たしていいのかという議論をしっかりさせていただきたいという意味でこれを出したわけでありますが、今の私の考えについて、総裁、どうお考えになられますか。

黒田参考人 私も、委員の意見はよく理解できるわけでございます。

 ただ、為替の議論は、御承知のように、委員御指摘のとおりでありまして、プラス面、マイナス面とありますので、円安が仮に全体としていいからといってどんどん円安になって、一ドル何百円となったらいいのかと言われると、それはそうでないでしょう。他方で、円高のいい面、あるいはいい局面もあるかもしれませんが、それでは、一ドル七十五円とか一ドル五十円とか、そういう円高になったらいいかと言われると、それもそうでない。

 恐らく、そのときのまさに経済のファンダメンタルズと対応するような一定のレンジがあって、その範囲で動いているというのが望ましいので、それを余り大きく外れるということは望ましくないことではないかと思いますので、これ以上少しでも円安になったら絶対にだめとも言えないかもしれないし、しかし、そうかといって、これまで円安でプラスだったので、どんどん円安になったらもっとプラスになるわけでもないということではないかと思います。

前原委員 先ほどBRICSと資源国の話をしましたけれども、実は、韓国ウォンとかユーロ、それからイギリスのポンド、これもこの実質実効為替レートだと落ちていっているんですね。そういう意味では、逆に言うと、先ほど申し上げたようにドル高であって、円安というよりも、そういった国と考えると、それほど円安ではない。

 したがって、そういった国々あるいは地域とは輸出が競合してくるわけですから、なかなか伸びないということの理由の一つもあるということでありますし、逆に、通貨が安くなり過ぎると資産が買われてしまう、あるいは海外の資産が逆に高くて買えなくなる、さまざまなプラス、マイナスということが今おっしゃっているようにあるということの中で、その百二十五円がいいのか悪いのかというよりは、なぜこの実効為替レートというものを持ち出したかというと、ちょっと長い単位の中で、それでもやはりこれはかなりの円安水準に来ているといったところで、これはまさに、総裁がおっしゃった実力とか競争力という意味においては問題あり、私はこういう問題提起をさせていただいた、こういうことであります。

 次に、金融政策についてお話をさせていただきたいというふうに思います。

 四月三十日、日銀が発表された展望レポートにおいての物価見通しでは、コアCPIが、二〇一五年度が〇・八%、一月時点、二〇一六年の一月については一・〇%、それから二〇一六年度が二・〇%、一月時点では二・二%、二〇一七年度が、消費税を四月に引き上げということで、その引き上げ分の影響を除いて一・九%とされているわけであります。これは、図二をごらんいただきたいというふうに思うわけであります。

 二年で二%、これはもう余り詰めません。いろいろと総裁も理由をつけられると思いますので、ここは、ちょっと時間の無駄になると思うので詰めません。

 要は、私が申し上げたいのは、この展望レポートで示されたコアCPIというものについては、本当に実現可能なのかといったところをしっかりとここで総裁の口からコミットメントしてもらいたい。よろしくお願いします。

黒田参考人 委員御指摘のとおり、四月末に公表した展望レポートでは、消費者物価の前年比が二%程度に達する時期が従来の見通しより若干後ずれしておるわけでございます。ただ、需給ギャップの改善、あるいは予想物価上昇率の上昇を背景にした物価の基調というものは着実に改善しているという見通しに変わりはありません。

 こうしたもとで、物価の基調が着実に高まっていき、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、消費者物価の前年比は物価安定の目標である二%に向けて上昇率を高めていくというふうに考えられます。

 二%程度に達する時期につきましては、展望レポートの文章の中でも詳しく書いてありますとおり、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提に立つと、二〇一六年度前半ころになるというふうに予想しております。

前原委員 若干厳しい言い方をすると、二年で二%ということをおっしゃっていた、しかし、今回は、一バレル百ドルぐらいで計算をしていた原油価格が五十五ドル程度まで下落をした、こういうことですけれども、それでも、これは展望レポートに書かれていますけれども、原油価格下落による寄与度というのはマイナス〇・七から〇・八ポイントですよね。となると、今、コアはゼロですから、そういう意味では、二年で二%は達成できていないということですよね、結果的には。だって、これはプラスしたら一に行っていないわけですから。

 しかも、消費税引き上げの影響ということをよく物価とかあるいは経済でおっしゃいますけれども、補正予算を組んで、これについてはしっかりと乗り越えるようなものにするということで政府が手当てをされていたわけですから、余りその言いわけというのは通じないというふうに私は思っているわけであります。

 したがって、二%もできていないわけですよ、実際問題。原油価格の下落がなかったとしてもできていない、こういうことでありまして、本当にできるのかということについて、ここではっきりとコミットメントしてもらいたかったということで、これは議事録として残ったことにします。これ以上詰めたって、やりますということしかないでしょうから。

 そこで、それを前提に総裁にお伺いしたいんですけれども、原油価格の下落が始まったのは去年の夏以降ですよね。そして、下げどまったのが大体ことしのお正月ぐらいですよね。ということは、CPI、これは総合にしてもコアにしても対前年度比ですから、これからCPIというのはしばらくは上がらない、この要因で上がりにくいと言った方がいいですかね。そういう意味では、そういうことが考えられて、ひょっとしたらマイナスになる可能性も、今おっしゃったような道筋でいくにしてもですよ。

 つまりは、景気が、経済が好転をしていく、これについてはいろいろ意見がありますけれども、今おっしゃったようなことで経済が好転していく、あるいは原油価格が上がっていっている、これは経済にとってはむしろマイナスだと思うんです。そういったことの中で、先ほど申し上げたような物価上昇というものが着実にできるということをおっしゃっているわけでありますが、少なくとも一―三、四―六、七―九、こういったところまではCPIが上がりにくい、ともすればマイナスになる可能性というのはあるんじゃないですか。

黒田参考人 おっしゃるとおりだと思います。

前原委員 それで、去年の十月三十一日の追加緩和のときに、日銀からわざわざ御報告をいただきました。どういう趣旨なのかといった報告をいただいたときに私が驚いたのは、原油価格が下落をした、これは経済にとってはプラスです、国民にとってはボーナスです、しかしながら、ここで物価の上昇という機運がしぼんで、こびりついたデフレマインドというものに回帰してはいけないということで、ある意味でそういう意思から追加緩和を行って、そして物価上昇への道筋をつける、こういうことをやられたわけですよね。

 そうなると、今おっしゃったように、そのとおりですということをおっしゃった場合に、市場が、何もしないのか、本当に日銀というのはいわゆる二%のインフレ目標、デフレ脱却というものに真剣なのか、こういうふうに見られる可能性というのが私は出てくると思うんですけれども、それについてはどうお考えになられますか。

黒田参考人 いわゆる生鮮食品を除いたところの消費者物価指数の動きは、昨年の四月には一・五%というピークに達したわけですが、それが九月には一%まで低下しました。これは、原油価格の下落というよりも、消費税導入後の消費の弱さというものを反映したものだと思います。それに加えて、夏から石油価格が大幅に下落し始めましたので、私どもの分析では、今後さらに消費者物価上昇率が一からどんどん下がっていくということが見込まれました。

 そうしたもとで日本銀行が何もしないでそれを放置するということになりますと、物価上昇期待というものも緩やかに上がってきたものがまた下がってしまうということになると、二%の物価安定目標の達成が極めて遠くになってしまうということから、十月三十一日に量的・質的金融緩和を大幅に拡大したわけでございます。

 その結果として、これまでのところ、さまざまな指標がございますが、物価上昇期待自体は、現実の物価上昇率がゼロに向かって下がっていく中でさほど下がらず、おおむね維持されておりまして、これは量的・質的金融緩和の効果であると私どもは考えておりますが、もちろんそれ以外の要素もあったと思います。

 いずれにせよ、物価を二%に引き上げていく上で一番重要な需給ギャップと物価上昇期待というものの中で、需給ギャップの方は引き続き縮小していっていますが、物価上昇期待が落ちてしまうというのを避けるためにかなり思い切って量的・質的金融緩和を拡大し、その効果もあって、物価上昇期待自体は、現実の物価上昇率がゼロに向かって低下する中でも維持できたということではないかと思っております。

前原委員 総裁、過去の話をしているんじゃないんです。

 先ほど申し上げたように、これから、CPIは対前年度比ですから、そのとおりですとおっしゃったように、一―三、四―六、七―九、こういったものはCPIがなかなか伸びてこない、マイナスになるかもしれないということの中で、本気でデフレ脱却、おっしゃったように、ブレーク・イーブン・インフレ率はずっとプラスに転じていますよね。一二年からはプラスになっているということで、それはそのとおりだと思うんですが、では、このまま、先ほど図二でお示ししたようにコアは〇・〇ですよね。そして、先ほどそのとおりですとおっしゃったように、これからは物価上昇がなかなか起こりにくいという状況の中で、本気で日銀がデフレ脱却のために、二%の安定的な物価上昇のために、それについて何もしなくていいと考えておられるのか。その後、急にCPIが上がって、大丈夫ですとおっしゃるのか。これは期待に働きかけているわけですから、マインドとして本当にそれでいいと思っておられるのか、その点を聞いているわけです。今後のことを聞いているわけです。

黒田参考人 まさにその点が最も重要なポイントでありまして、先ほど委員が指摘されましたように、政策委員会の委員の見通しの中央値が、二〇一五年度、今年度〇・八%のプラスとなっておりますので、これは、年度の前半はなかなか上がらないという状況が続くと思いますが、年度の後半にかけて物価上昇率がかなり加速していく。

 一方で、需給ギャップは改善が続きます、そして予想物価上昇率は長期的に見ると上方トレンドです、そうした物価の基調が変わらないという前提で見通しを立てますと、石油価格下落の影響が少しずつ剥げてきて、来年度の前半には完全になくなるという見通しでございますので、年度後半から加速していって、来年度の前半に二%程度に達する可能性が高いと見ております。

 ただ、これは物価の基調が変わらないという前提でございますので、もし、需給ギャップに大きなマイナスが出てきたり、あるいは物価上昇期待が大きく低下するといったようなその他の状況で物価の基調に変化が出れば、当然、ちゅうちょなく政策を調整する用意がございます。

前原委員 そこで、仮にということで、もしそういう状況になればちゅうちょなくということをおっしゃっているわけですが、どういったことが考えられるのかということについて、少し総裁と議論させていただきたいというふうに思うわけであります。

 これは一度予算委員会でもやらせていただいて、総裁は覚えておられるというふうに思うのでありますが、図三をごらんいただけますか。

 この図三を見ていただくと、今、どういうペースで日銀が国債を買っているかということがおわかりいただけるグラフになっているわけでありますけれども、二〇一四年の末が二百七兆円、これは実績ですね。追加緩和以降は年八十兆円のペースで国債を買い続けるということですから、さらなる追加緩和がなくても八十兆円を買い続ける、こういうことになるわけですね。

 二〇一七年の四月が消費税八%から一〇%への引き上げ、こういうことになりますので、そうすると、二〇一六年度においては駆け込み需要が起きて、二〇一七年は反動減が来る可能性がある。だからこそ、この物価見通しもあるいは実質GDPも、展望レポートでは、二〇一六年度には実質GDPは一・五%の伸びになって、コアCPIも二・〇、しかし二〇一七年度は実質GDPは〇・二%のプラス、つまり、一・五から〇・二まで落ちる、そしてCPIもまた逆に、わずかでありますけれども、一・九に落ちる、こういう見通しをされているわけですね。

 ちゅうちょなくやるということが仮になかったとしても、今のペースを恐らく続けることになるんだろう。それは日銀が決められることですから、私が決めることではありませんけれども、外形的に見たら、恐らくそういう見方をされている面が多いというふうに思うわけであります。

 そこで、幾つかの観点から申し上げたいんですが、二〇一七年度末、つまりは先ほどの実質GDPが〇・二%しか伸びないということになれば、その前とかあるいはその最中に、出口で金利が上がるようなことをやる、逆回転をするということはなかなかしにくいということになれば、二〇一七年末までは四百五十兆円になるんですね。このまま追加緩和されなくて続けられれば、四百五十兆円にまでなるということであります。

 私は今まで何度も議論をしていますし、また我が党の大久保議員の質問主意書に政府で閣議決定された答弁書で、財政法第五条違反、財政ファイナンスじゃない、マーケットから買っているから大丈夫だ、こういうことなんですが、しかしながら、発行されている国債の半分以上を日銀が保有するということは、外形的に見た財政ファイナンスとみなされるかどうかは、日銀が、あるいは財務省が財政法五条の違反ではないかどうかというのは関係ないと思うんですね。つまりは、国が借金をするために発行している国債を日本銀行がそれだけ大量に持つということについて市場がどう判断するか、こういうことだと思います。

 まず、この質問をしましょう。

 総裁は、これについて、今のいわゆる量的緩和というのはどのぐらいまでできる、つまり未来永劫はできないと思うんですね。未来永劫はできない。後で言いますけれども、買う量も限られてくるから買えない。どこまで続けられるものだというふうに、先ほど私が申し上げた観点、つまりは、マーケットに実質的な財政ファイナンスとみなされた時点で急激な国債下落、暴落、金利の上昇が起きるわけですよね。こうなるともう手がつけられなくなるわけでありますから、そういう危ない橋を渡られているという御認識はありますか。そして、どのぐらいまでできるという認識ですか。

黒田参考人 ただいまの御質問に対しましては、幾つかのポイントがあると思います。

 まず第一に、何度も申し上げておりますとおり、量的・質的金融緩和というのは、あくまでも二%の物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続できるようになるまで継続するということでございますので、何か、無制限にやっていくとか、あるいは、あるカレンダーイヤーを切って、そこまでやりますというものではございません。

 それから第二に、これまでのところ、国債買い入れというのは着実に進んでおりますし、先行きにつきましても、買い入れに支障を来すような事情があるとは考えておりません。

 もちろん、委員御指摘のように、論理的に言って、市場にあるものを全部買ってしまえばそれ以上は買えないでしょうというのは、それはそのとおりでありますが、まず第一点を申し上げたとおりであり、また第二点としても、買い入れはこれまでのところ着実に進んでおりますし、買い入れに支障を来すような事情になるというふうには考えておりません。

 いずれにしましても、何らかのリスク要因によってその見通しが変化したという場合にどういったことができるかということは、具体的な対応を事前に申し上げるのは非常に難しいと思いますけれども、二%の物価安定の目標を実現するために必要かつ最も適切な施策をその時点その時点で考えていくということになると思います。

前原委員 私が次に質問しようとしたことに答えられていて、私が今質問したことには答えられていないんですね。つまりは、買い入れが物理的に可能かどうかという話は後でしようと思っていたんです。その答弁を今されたんですね。

 そうじゃなくて、私は、財政法第五条に言う財政ファイナンスではないという答弁をされているけれども、しかしながら、マーケットがそういう判断をしたときには急激な国債暴落、金利上昇が起きるでしょう、そういうものについて危険性を認識されてやっておられるかどうなのかということも含めての未来永劫性と、それについての言ってみればおそれを持ってやっておられるのかということを聞いているわけです。

黒田参考人 これもまた従来から申し上げておりますとおり、財政の信認を確保するということは極めて重要でありまして、日本銀行が国債を買い入れているのは、あくまでも金融政策、物価安定目標を達成するためにやっているわけですが、日本銀行が買い入れていようと買い入れていまいと、いずれにしても、政府は、財政の信認を確保し、委員が御懸念になっているような、国債価格が暴落したり、その結果として長期金利が暴騰するというようなことがないように、しっかりと財政の再建、財政の健全化ということをやっていただく必要があるということでございます。

前原委員 総裁がおっしゃりたかったのを私なりに解釈すると、国は借金をするために国債を発行している、そこは、どこが持とうが、実際問題、国の財政健全化に向けてちゃんとやってもらわないと、どこが保有しているかどうかというよりは、そこの柱が崩れたらだめなんだ、そういうことをおっしゃりたかったということだというふうに思います。

 さはさりながら、財政法第五条というものは直接引き受けではありましたけれども、日本銀行が大量に国債を買うことによって、今でもマーケットが非常に小さなものになっている。そして同時に、その安心感というものが言ってみれば政府に与えられるとすれば、それは財政規律が緩むことになるし、そしてまた同時に、マーケットメカニズムの中で財政規律というものを促す市場をゆがめているわけですよ、それだけ大きな国債の保有者となっているということは。

 したがって、発行している国債の量が変わらないから国の財政再建をしっかりやれというのは、それはそのとおりだと思いますけれども、外形的にはそうはなりませんよということを僕は申し上げているわけです。これはちょっと違う観点から後で質問いたします。

 もう一つは、先ほど御答弁されたんですけれども、もう一遍伺います。量的なものについてであります。

 図四をごらんいただきたいというふうに思いますけれども、どれだけ国債を今買っている状況なのかということをここに示しているわけであります。

 これからどれだけ新規国債があるかというのはわかりませんので、既発国債のみをやっております。毎年毎年これから国債が発行されるということについては入れておりませんけれども、それを前提として議論させていただきたいというふうに思っております。全年限でいいますと、既発債だけで、七年で終わり。一年超五年以下、五年超十年以下だと、大体三・五年、三・六年で買うものがなくなるということなんです。

 実は、もう一遍三ページに戻っていただいて、下をごらんいただけますか。よく言われるGPIFの話でありますけれども、つまりは、GPIF、ゆうちょ、かんぽで異次元の金融緩和からどれぐらいの保有国債が減ったかということが書かれているわけでありまして、足して五十兆、保有国債が減っている、こういうことであります。

 そして、右を見ていただくと、上が買い越し、下が売り越しということでありまして、買い越しになっているのは日本銀行と海外。海外が買っているんですね、この三ページの下の右側でありますけれども。あとは、先ほど申し上げたように、国内銀行、保険とか中小企業金融機関というものは売り越しているということで、吐き出していっているわけですね。

 では、物理的にはそうであるけれども、物理的ではない制約というものがあるというふうに思うわけであります。

 例えば、メガ三行はではこの二年間でどれぐらいの国債保有を減らしたかというと、四割減らしているんですね。六十七兆円まで、国債保有残高をこの二年間で四割減らしておりまして、これは後で質問するバーゼルとの関係もありまして、いわゆるリスクヘッジの意味で国債保有を減らしている、こういうことであります。

 ただ、他方で、海外が買っていますよね。この買い越しのところを見ていただくと海外は買っているし、あるいは、国債というものをある程度持っておかないと、国内の金融機関も、例えば金融取引の担保などは一定量必要ですよね。それから、では国債から外国債にかえようかということになると、外貨建てになって、外貨の調達も限界もある、あるいは為替リスクも考えなきゃいけないということになると、どうしてもある程度保有しなきゃいけないということになったら、物理的よりもかなり前に品薄になって買えなくなるということが来るんじゃないかというふうに思うんですが、今の私の考えに対して答弁をいただきたいと思います。

黒田参考人 実は、御指摘のような懸念というか議論は欧州でもございまして、ECBが量的緩和を開始するに際して、例えばドイツはもう既に財政は黒字ですから、ドイツ国債は市場にあるものがどんどん減っているわけですね。

 そうした中で、各国ごとの比率に応じてECBが国債を買っていくということになると、いずれ限界が来るのではないか。その場合に、特に、物理的な限界もさることながら、保険会社とか金融機関がどうしても国債を持っていたいという根っこの需要みたいなものもあるではないか、こういうことでございます。

 これに対しては、ECBも、理論的にはそういうことは否定しませんが、二%弱という物価安定目標に向けて来年の九月までは量的緩和をする、その中でそういったことは起こらないであろうと。(前原委員「日本の話を」)はい。

 それと同様に、委員の御指摘のような理論的な懸念というのは否定しませんが、私どもが考えております二%の物価安定の目標の実現に向けてやっている量的・質的金融緩和、これは無制限にやっていくわけではありませんので、足元で考えている限りでは御指摘のような問題が出てくるということは考えておりません。

 他方で、これは絶対的、物理的量というよりも、市場の金融機関の国債保有需要の見方でございます。ただ、需要の見方は、金利とかその他の要因にもよります、それから金融規制のあり方にもよりますので、事前にかっちり決め打ちするということは難しいと思いますが、委員御指摘のような点も我々としても十分考えながら、量的・質的金融緩和を進めていく所存でございます。

前原委員 先ほど申し上げたような、後で麻生大臣に伺いますが、政府が財政再建についての取り組みというものが不十分であったり、あるいは、やはりどう見ても発行している国債の額の日銀が保有する割合というものが余りにも大き過ぎるということが見られたときには、私は、マーケットが特に小さくなっていますので、金利が急激に振れるということもあり得るというふうに思います。

 今、お認めに、ある程度可能性として、理論としてという前提はつけられましたけれども、物理的になかなか、これから買う国債というものが先細っていく、こういうこともあるわけでありますので、今、好循環に見えているものは、全てが日本銀行がこれだけの量的緩和を行っている中で起きているものだと。

 つまり、先ほど一番初めにおっしゃった金利差の話、そして円安、株高、まあ為替誘導とは言いませんけれども、実質的にやはり非常にきいていますよね、このことは。そして、為替効果で企業が言ってみれば利益が出ている。輸出はそれほど伸びていない。また、法人向け貸し出しもそれほど伸びていない。内部留保が積み上がっている。こういうことの中で、消費は横ばい、そして株価は二・三倍、二・四倍、実質GDPは二年間で一・五%しか伸びていない、賃金もほぼ横ばい、実質賃金は二年間マイナスだった。

 こういうような状況の中で、さまざまなプラス面、マイナス面がありましたけれども、国民にある程度、何か経済はよくなっているんじゃないかというふうに、少なくとも企業経営者にとってはいい雰囲気にさせているということは、この量的緩和、異次元の金融緩和というのが前提にあって、これが先細ってくると逆回転を始める。金利が上がり、そして円が高くなり、株価が落ちる、そういうことの中で問題点が起きてくるということはこの二年間ずっと指摘をしていることでありますが、そういう状況というものがさらに煮詰まってきているということだけしっかりと申し上げておきたい、こういうふうに思います。

 その上で、もう一つの私の問題意識なんですけれども、付利金利ですね。

 さまざまな緩和策があるというふうに思います。国債をさらに買うとか、あるいはREIT、ETF、あるいは地方債、政府保証債、さまざまなもの、総裁も、買うものはいっぱいある、こういうことをおっしゃっているわけであります。

 この付利金利の引き下げのメリット、デメリット、両方あるというふうに思うわけでありますけれども、あえてデメリットを聞きます。総裁、付利金利を下げるデメリットというのは、どういうものが考えられますか。

黒田参考人 基本的に、現在、金融機関の日銀当座預金へ付利をしているわけですけれども、これは、年間約八十兆円に相当するペースでマネタリーベースが増加するような金融市場調節ということを円滑に行う、大量のマネタリーベースを円滑に供給するということに資するものであると考えております。そういう意味で、当座預金への付利というのはメリットがあるというふうに思っております。逆に言いますと、付利をやめますと反対のデメリットが出てくるということかと思います。

前原委員 では、私が具体的に申し上げますので、それでいい、正しい、あるいは自分も意見が同じかどうか、それだけで結構ですので、少し私の意見を申し上げます。

 付利金利を下げると、金融機関にとっては超過準備を持つインセンティブというのが薄れますよね。薄れるということは、日銀に、資金供給に応じよう、つまり、先ほどから言っているように、これから国債を集めるのに大変苦労されるわけですよ、そういうような国債の売却に応じようとする金融機関が減る可能性がありますよね。これが一つ。

 それから、付利金利をゼロにすると、短期金利もゼロに近づいて、短期金融市場の機能が悪化をして、かえって資金が流れなくなるというおそれがある。これが二つ目。

 それから、付利金利を下げた場合、さらに日米金利差は広がって、為替操作あるいは円安誘導だというふうに見られて、また先ほどの話ですけれども、さらなる円安が果たして日本の経済にとっていいのか。

 こういう三つの問題点があるんじゃないかと私は思いますが、これについてどうお考えになられますか。

黒田参考人 委員御指摘の三つの点については、その重要性がどの程度かということにはいろいろな意見があると思いますけれども、基本的に御意見のとおりだと思います。

 したがいまして、私どもは、付利金利の引き下げは検討いたしておりません。

前原委員 先ほどの量の話に戻りますけれども、付利金利を引き下げないとおっしゃったので、追加緩和をさらにされるとすると、この選択肢は消えたわけであります。

 図九をごらんいただけますか。これが日銀のバランスシートの推移であるわけでございますけれども、資産、負債、両方とも当然ながら拡大をしていっているわけであります。

 私がきょう議論したかった大きなポイントの一つというのは、日銀券ルールを総裁はどう考えておられるのかということなんですね。

 つまりは、この図九を見ていただくと、長期国債というものが発行銀行券より下回っているということは銀行券ルールにのっとっているわけでありますが、それを外して異次元の金融緩和をされている、こういうことでありまして、二〇一五年の五月末ではかなりの長期国債が当然ながら積み重なっていっている、こういうことになるわけであります。

 さて、そこでなんですが、図八をごらんいただきたいと思います。日銀券ルールの話です。

 まず、ホームページにはこういう記載がまだされています。「「量的・質的金融緩和」の実施に際し、一時停止しています。」これがホームページに載っていることです。そして、導入直後の参議院の予算委員会において黒田総裁がおっしゃっているのは、「そのルールは一時停止すると。しかし、これは物価安定目標が達成され、金融経済が正常化した下においてはまた復活するという考え方でございます。」と明確に答弁されているんですが、この考えは変わっていませんか、変わっていますか。

黒田参考人 日銀券ルールは一時停止しておりますので、量的・質的金融緩和の必要性がなくなれば復活してくるということはそのとおりだと思いますが、ただ、その時点で、こういったルールが適切かどうかというのは当然議論になると思います。

 なお、委員の九ページの表にもありますように、実は二〇一二年七月末もあるいは一三年三月末も、資産買い入れ等基金ということで、別枠といいながら、実際上バランスシートの中で長期国債の保有は既に発行銀行券を上回っておりましたので、量的・質的金融緩和になったから日銀券ルールがなくなったというよりも、もう包括緩和の時代から実は日銀券ルールをオーバーライドしていたということであります。

 量的・質的金融緩和のもとではこういったことは不可避でありまして、欧米の主要中央銀行もそうなっておりますが、正常化してきたときに欧米もまたもとに戻るのか、あるいはその時点でどのようなルールにするのかという議論になると思います。

前原委員 その事実関係は、私も短い期間でしたが、ここにおられる古川さんの後に経済財政担当大臣をやらせてもらったのでよくわかっておりますけれども、答弁が変わられていますよね。

 つまりは、物価安定目標が達成されて、金融経済が正常化したもとにおいてまた復活するという考え方でございますで終わってしまっているんですよ、異次元の金融緩和を始められた直後は。だけれども、下に書いてあるように、この間の参議院の決算委員会では、今後検討するということをつけ加えられたんですね。つけ加えるのは、大きく答弁が変わったということですよ。

 つまりは、異次元の金融緩和が始まったときには、日銀券ルールに戻るという前提で答弁されていて、検討を加えるなんてことはおっしゃっていないんですよ、一言も。今の答弁でも、検討を加えなきゃいけないということは、変わったということですよ。それは認められないと不誠実だと思いますが、いかがですか。

黒田参考人 先ほど申し上げましたとおり、一時的に停止しているということに変わりはありません。したがいまして、量的・質的金融緩和が終了する、ノーマライズするという時点になりますとルールが復活してくることには変わりないんですけれども、その上で、欧米の中央銀行等を見ても、それからその時点で日本銀行としてどのようなルールが適切かということは議論しなければならないと思います。

 実は、政策委員の間でも、量的・質的金融緩和を導入した際にこのルールについてどう考えるかという議論がございまして、一時的に停止するということにみんなで合意したわけであります。その意味は、従来から申し上げておりますとおり、ノーマライズすれば復活する。ただ、その時点で、どういうルールが適切かということは議論しようということでございました。

前原委員 復活する、その上で今後どうするか検討するということはどういうことですか。復活するということと検討するのは、検討したら復活しないかもしれないじゃないですか。

 二〇一三年の五月には、復活するということを言い切っておられるわけですよ。それしか選択肢はなく、言い切っておられる。だけれども、復活する、一時停止をしています、その上でということは、戻るかどうかわかりませんということで、二年で二%というときもそうなんですよ、変わったなら変わったとおっしゃった方がいいと私は思いますよ、そこは、誠実に。

 つまりは、何か中途半端につけ加えて、復活する、その上でとか、それは非常に不誠実だと僕は思いますよ。そこは、日銀券ルールを復活するという断言をされていたのを、しかし、今度は検討するということにしますというふうに言われた方が私は誠実だと思いますし、いつも大事とおっしゃっている市場との対話でもその方が極めてダイレクトだし、私はいいと思いますよ。いかがですか。

黒田参考人 委員の御意見は御意見としてよく理解できるわけですが、そもそもこれを一時停止すると決めたのは、廃止するとかいうことではなくて、あくまでも一時停止ということですので、当然、ノーマライズしたときには復活するだろう。ただ、そのときに、全く同じ形で復活するのか、違うルールにするのか、あるいはそもそもそういうルールは要らないかとか、いろいろな議論があり得るということは、委員の中でも既に議論されていたところであります。

 ただ、一時停止という意味は、廃止じゃないんです、あくまでも量的・質的金融緩和を遂行するというもとで一時停止をしていますという趣旨でございます。

前原委員 繰り返すようですけれども、二〇一三年五月八日は、復活すると言って終わっているんですよ。その時点で、しかし、その上でどうするかどうかはまた考えますなんて一言もおっしゃっていないんですよ。だから、変わっているんですよ。それだったら、変わっているとおっしゃった方が僕は非常に誠実だと思いますし、その辺は、二%のずれもあやふやにしてこられているということも含めて、非常に不誠実だということを申し上げておきたいというふうに思います。

 時間がもったいないので、先に進みます。

 さて、十分間であと何をやるかという優先順位を私も決めなきゃいけないんですが、財務大臣にせっかくお越しをいただいているので、IRRBBもやりたかったんですが、財政再建についてやらせていただきたいというふうに思います。

 麻生財務大臣、いま一度、二〇二〇年、基礎的財政収支黒字化というものを実現するということが政府の方針であることには変わりありませんか。

麻生国務大臣 そのとおりにしております。

前原委員 さて、その上で、いわゆるどういうシナリオを描いているかということで、麻生財務大臣のお考えも承りたいなと思っているわけであります。

 内閣府が出している中長期の経済財政に関する試算ということで、きょうは西村副大臣もお越しをいただいているわけでございますけれども、二つのケースがございますね。経済再生ケースとベースラインケース、こういうものであります。

 まず、先ほど黒田日銀総裁は、政府の財政再建はしっかりやってもらわなきゃ困る、自分たちがどれだけ買うどうのこうのじゃなくて、それはやってもらわなきゃいけないんだ、こういうことをおっしゃいましたけれども、日銀の九名の審議委員の方々の平均値と経済再生ケースにおける実質GDPの成長率というのは乖離していますよね。

 この内閣府の試算というものを前提に、言ってみれば基礎的財政収支の黒字化というものを実現しようということになっているわけでありますが、今の経済見通し、日銀の黒田総裁、この内閣府どおりにいくと思われますか。経済再生ケースでいかれると思いますか。日銀の展望レポートとは乖離していますよ。

黒田参考人 私どもの展望レポートの見通しというのは基本的に三年間の見通しでありまして、それはあくまでも経済見通しとして提出しているものでございます。

 他方、私の理解するところでは、内閣府の出しておられるのは長期的な財政収支見通しをつくるために一定の前提を置いてやっておられるということでありまして、その時々、その年その年の経済見通しというのは、これまた内閣府が毎年出されるものであるというふうに理解をしております。

前原委員 先ほどから議論しているように、かなりリスクを背負っていわゆるアベノミクスというものの柱をつくっておられるのが日銀の異次元の金融緩和ですよね。その対をなすのが財政再建。そこがアンカーで、しっかりといかりがおりていないと異次元の金融緩和というのは吹っ飛びますから、そういう意味では、もっと厳しくおっしゃれる立場だというふうに私は思いますよ。そのことだけを言っておきます。

 その上で、麻生財務大臣に伺いたいんですが、一部のリフレ派議員あるいは経済財政諮問会議の民間議員が、私は、名目三%、実質二%の経済再生ケースでも、なかなかこれは大変だな、こう思っているわけでありますが、これで足りないのが九・四兆円ですよね。これでも大変だと思うのに、五、六兆円を歳出削減で捻出する一方で、さらなる経済成長で、税収増で四兆から五兆見込む、こういう案が出ているわけでありますが、財務大臣として認められますか、こういう考え方について。

麻生国務大臣 今のいわゆる経済再生ケースというのは、例の、二〇一三年度から二〇二二年までの十年間の平均で名目三%、実質で二%程度を目指すというのが大まかなところなんですけれども、二〇一五年から二〇年にかけて、国と地方、両方合わせて二十二兆円の税収増が見込まれる。これだけでもなかなかのものだと思うんですね。それプラスさらに数兆円乗っけようというのは、そんな簡単にいくかね、私自身は率直にそう思いますから、これはかた目に見積もっておかぬといかぬものだ、私は基本的にはそう思っております。

 その上で、これ自体が相当野心的なことであるということを考えますと、抑える方はともかくとして、伸ばす方をこれ以上というのはちょっと、税収が上振れしているところはありますけれども、これがずっと上振れのままでいくという保証なんというのは全くありませんので、ことしはよくても、数年するとまたというのは常に考えておかないかぬところだと思います。

 そういうところは、経済成長率を上回る税収の伸び、今後とも伸びることが可能だという、税収弾性値一・一とか二とか三とかいろいろありますけれども、そういったようなものの議論というのが少々混在しているという感じがしますので、私どもとしては、これはもうちょっとかた目に見積もらぬと、我々財務省なんというお金を預かる立場としては、なかなかさようなわけにはいかぬと思っております。

 したがいまして、これは経済再生ケースにある程度織り込んであるところだと思っておりますので、したがって、私どもとしては、税収弾性値というものが一程度と見込まれる中で、繰越欠損が解消したり、景気循環による短期的な増収というものは今後どこまでできるのかよく見きわめた上でないとなかなか簡単なことではないと思っております。

 いずれにしても、私どもとしては、市場から見てこれは信頼性が高いというように思ってもらえるような計画をこの六月に出すことにしたいと思いますので、これがどうかと言われれば、この六月末までにはお出ししたいと思っておるんです。抑えるものはきちっと、歳出の約三割以上、三分の一にもなります福祉等々のものをどれだけということ、毎年一兆円伸びるなんという話を含めまして、そういったものも考えながら、それをどれくらい低く抑えられるか。また、その他いろいろな公共工事等々含めまして、そういったものも抑えながら、その差額の九・四というものをどれくらいまで詰められるかをきちんとして、ゼロというものを目指してやっていかねばなりません。

 私どもとしては、決して無理だと思っておるわけではなくて、二〇一五年に半分になりますということを出しました二〇一〇年、たまたまその当時は総理大臣をやっていたころでしたけれども、あのころ、出したときに、いくなんと思った人はほとんどおられませんから、みんな。半分なんかいくわけないじゃないかとよく言われましたよ。だけれども、結果としては半分にほぼなりつつあるところまでいきますので、私どもとしては、あのころに比べて景気がよくなってきているというのは間違いないと思っております。そういった意味では、希望を持って、きちっと、二〇二〇年までにはゼロにという目的に向かってやらねばならぬと思っております。

前原委員 二〇一五年の半減も、補正予算でかなり粉飾的なものをやっているというのは何度も指摘をされてきたことでありますし、私は、先ほどの、民間議員のさらに経済の上振れということについてはもっとかた目に見なきゃいけないというのは、それは御見識だと思いますよ。ただ、私は、経済再生ケースでも、かなり楽観的だと思いますね。

 ですから、ベースの成長率がかなり低いことも含めて財務省としては考え方をまとめておかないと、それでも楽観シナリオだと私は思っていますから、そういう意味では、もう少しかた目のものを常に、最後のとりでである財務省としてはしっかりと考えていただきたい。この中身については、また機会を得て議論させていただきたいと思います。

 西村副大臣、来ていただいたのに、申しわけありませんでした。

 終わります。

古川委員長 次に、宮本岳志君。

宮本(岳)委員 日本共産党の宮本岳志です。

 きょうは、日銀報告を受けて質問をいたします。

 量的・質的金融緩和が始められてから二年が過ぎました。

 この異次元の金融緩和策と言われる政策は、消費者物価の前年比上昇率二%の物価安定目標を二年程度の期間を念頭に置いてできるだけ早期に実現する、こういうことでとられた手段であります。当初は、マネタリーベース及び長期国債、ETF等の保有額を二年間で二倍に拡大する、こういう措置が導入されたわけでありますが、その後、さらなる緩和措置として年間八十兆円とする長期国債の買い入れ拡大を行いました。

 そこで、まず日銀の黒田総裁にお伺いしますけれども、二年たった今、ことし四月の消費者物価の前年比は、消費税増税の影響を除けば、〇%程度でありました。これは明らかに失敗ではなかったのか、もともとこういう事態を想定しておられたのか。これについてお答えいただけますか。

黒田参考人 量的・質的金融緩和を導入する直前の二〇一三年三月時点で、消費者物価の前年比、生鮮食品を除くでマイナス〇・五%でございました。その後、量的・質的金融緩和が所期の効果を発揮するもとで、消費税率引き上げの直接的な影響を除くベースで、昨年、二〇一四年四月にはプラス一・五%まで改善したわけであります。

 しかしながら、消費税引き上げ後の需要面での弱目の動きそれから昨年夏場以降の原油価格の大幅下落などを背景に伸び率が鈍化してまいりまして、御指摘のとおり、直前の二〇一五年四月はゼロ%となっております。この点、原油価格の下落による物価上昇率の低下というのは世界的に見られている現象でありまして、米国、英国、ユーロ圏の消費者物価の前年比はゼロないし小幅のマイナスまで低下いたしました。

 もっとも、昨年十月の量的・質的金融緩和の拡大の効果もありまして、我が国経済が緩やかに回復する中で需給ギャップは改善しておりますし、原油価格の下落にもかかわらず、予想物価上昇率はやや長い目で見ますと全体として上昇しておりまして、物価の基調は着実に改善しているというふうに見ております。先行きにつきましても、物価の基調が着実に高まり、原油価格下落の影響が剥落するに伴って、消費者物価の前年比は物価安定の目標である二%に向けて上昇率を高めていくというふうに見ております。

 消費税率引き上げ後の需要面の弱さあるいは原油価格の大幅下落というのは想定外ではあったんですけれども、物価の基調は、二年程度の期間を念頭にできるだけ早期にという、量的・質的金融緩和導入当初からのコミットメントに沿った動きであるというふうに考えております。

宮本(岳)委員 総裁は冒頭の説明でも、個人消費の底がたさは増し、景気の総括判断として緩やかな回復を続けている、こうおっしゃいましたけれども、多くの国民の実感は真逆だと思うんですね。物価上昇率はゼロ%程度だというんですけれども、この二年間の急激な円安により生活必需品の値段が大幅に高騰しております。国民にとっては、輸入物価の上昇で生活が苦しくなったという実感だと思うんですね。

 そこで、配付した資料一を見ていただきたいと思います。

 みずほ総合研究所の調べでは、昨年からことしにかけて、牛丼、即席麺、パスタ、レトルト食品、冷凍食品、アイスクリームなどの国内販売価格が値上げされました。最近でも、六月にヤクルト本社が飲むヨーグルトなど四品を一一%、七月からは山崎製パンが食パンなどを一から七%値上げ、日清フーズ、日本製粉、昭和産業が家庭用小麦粉などを一から八%値上げし、明治や森永製菓も一〇%から二〇%の値上げ、もしくは内容量を削減、減量するなどの措置を公表しております。

 この値上げの主な要因として、円安に伴う原材料コストなどの上昇というのが多くのエコノミストや有識者の認識でありますけれども、黒田総裁の認識を問いたいと思います。

黒田参考人 消費者物価指数の動きを見ますと、昨年来、食料工業製品の前年比は確かにプラスで推移しております。これらを含めまして、財やサービスの価格に為替相場あるいは国際商品市況などの要因が影響することは事実でございます。

 もっとも、物価全体の基調が高まっているという基本的な背景には、我が国経済が緩やかに回復を続けるというもとで需給バランスが改善している、あるいは人々の予想物価上昇率が高まるもとで、企業の価格戦略において、単なる低価格戦略から付加価値を高めつつ販売価格を引き上げるという動きが見られることなどがあるというふうに見ております。ただ、そういった中でも、全体として、消費者物価の上昇率が、原油価格の大幅下落などを受けまして足元ではゼロ%程度で推移しているということでございます。

宮本(岳)委員 全体としてゼロ%でも、国民生活にとったら、物価上昇が非常に悪い形で打撃になっているというふうに思うんですね。

 みずほ総合研究所によれば、日銀短観の二〇一四年十二月調査によると、食料品、製造業の二〇一四年度の想定為替レートは一ドル百五・一円でありますけれども、二〇一五年に入り実勢水準は一ドル百二十円程度と、想定レートよりも円安方向に振れております。

 一部の食品メーカーからは、企業努力だけでは円安によるコスト上昇分を吸収できないんだという声が上がっているようでありまして、実際に山崎製パンは、二〇一五年七月からの値上げについて「世界的な食料需要の増加や急激な円安の影響等により、パン製品の主要原料である小麦粉価格をはじめ油脂類、乳製品、砂糖類、小豆、レーズンなど様々な輸入原料の価格が上昇しており、コスト増加を吸収すべく企業努力を続けておりますが、大変厳しい状況となってまいりました。」と説明をしております。山崎製パンは二〇一三年にも値上げをしておりますけれども、そのときも円安による輸入原料価格の上昇が原因でありました。

 現在、一ドル百二十五円と、この時点よりさらに円安が進んでおりますけれども、今後も輸入物価の上昇は避けられないという情勢だと思います。

 四月の毎月勤労統計調査を見ますと、物価変動の影響を除いた実質賃金が前年同月比で〇・一%増とプラスに転じておりますけれども、二〇一三年四月以来、これまで二年間、ずっとマイナスが続いてきたわけですね。まさにこの二年間、実質賃金を上回る物価上昇が起こって、多くの国民、庶民の生活を一層厳しくさせてきたということをはっきり示していると思います。

 次の質問は、財務大臣、それから黒田総裁、お二人にお答えいただきたいんですが、こういう物価に対する庶民の皮膚感覚、生活が苦しくなっている、こういう感覚を財務大臣や日銀総裁は共有しておられますか。

麻生国務大臣 御指摘のとおり、約二割少々円安に振れておりますので、そういった意味では、円安によります輸入物価の上昇とか、消費者に対しましては消費税率の引き上げ等々によって影響が出てきて、物価の上昇というものがいわゆる家計の所得に追いつけていなかったということを言われたいんだと思いますが、そこは結果として生活は苦しくなるというように感じていらっしゃる方が多い、これは事実だと思いますね。そういった国民の声を直接私ども後援会等で伺うこともあるんです。

 しかしながら、賃金というものに関しましては、ことしの春闘での賃上げの引き上げ率というのは経団連の調査によりますと二・五六ということになっておりまして、過去十六年間で今までで最高と言われたのは昨年の二・二八だったと記憶しますから、それを上回る勢いになっているということなど、近年にない成果も上がっていることも事実だろうと思っております。

 したがって、政府としては引き続き、労働生産性の向上というものが上がらないと賃金も払えないので、生産性を上げて企業収益というものを拡大させて、それが内部留保ではなくて賃金に回る、結果として賃金上昇また雇用の拡大等々につなげていくことによって景気の好循環をということを考えておるわけでして、賃金の上昇が物価の上昇を上回る姿というものを実現するように取り組んでいかなければならぬものだ、私どもそう思っております。

黒田参考人 従来から申し上げておりますとおり、日本銀行は、量的・質的金融緩和によって、雇用、賃金あるいは企業収益の増加を伴いながら物価上昇率が徐々に高まっていくという好循環をつくり出していくことが重要であるというふうに考えております。

 この点、昨年四月以降の消費者物価の上昇率は、御案内のとおり、消費税率引き上げによって一時的にかさ上げされていたということに留意する必要があろうというふうに思っております。消費税率引き上げの影響を除きますと、このところ、物価上昇率と賃金上昇率はおおむね見合った状況になっているというふうに認識をいたしております。

 なお、円安の影響につきましては、輸出産業等々に対するプラスの影響と、輸入をしている企業に対する輸入コストの増というマイナスの影響等々ございますけれども、これまでのところ、全体として、行き過ぎた円高が是正されたことは経済全体にとってプラスであったし、それは企業、家計の所得から支出へという前向きの循環メカニズムをよりしっかりさせてきたというふうに考えております。

宮本(岳)委員 先ほど指摘したように、実質賃金が上向いたのは四月の毎勤統計ですから、それまではずっと実質賃金は下がっていたわけですから、これからはともかく、今までこの二年間、庶民にとっては物価の上昇というのは本当に生活を苦しめてきた、したがって、二年間は黒田総裁がおっしゃるようなルートをたどるのではなく、実際に賃金は本当になかなか上がらない状況のもとでの物価上昇だったと言わなければならないと思うんです。

 白川前日銀総裁は二〇一三年三月七日の記者会見で、物価上昇のメカニズムについて、四通りの過程が論理的には考えられると述べて、第一は、円安や国際商品市況の上昇によって輸入物価が先行的に上昇するケース、第二は、賃金が先行して上昇するケース、第三は、予想物価上昇率が先行して上昇するケース、第四は、企業や家計の成長期待が高まっていくケースだと説明をしております。

 同時に、白川前総裁は、第一の、円安や国際商品市況の上昇によって輸入物価が先行的に上昇するケースについて、実質的な所得が圧迫されるため私どもが望んでいる姿ではないと断言をされました。

 しかし、この二年間、実際にたどったことは、まさに白川氏の第一に挙げた望まないケースそのものではなかったのか。これは、黒田総裁、そうではありませんか。

黒田参考人 量的・質的金融緩和のもとでの物価上昇のメカニズムというのは以下のとおりであります。

 まず、大規模な長期国債の買い入れによってイールドカーブ全域にわたって名目金利を引き下げる、それと同時に、二%の物価安定の目標に強くコミットするということによって人々のデフレマインドを転換して、予想物価上昇率を引き上げる、これによって物価上昇率を勘案した実質金利が引き下げられて、設備投資その他の民間需要が刺激される、そして我が国の経済の需給ギャップが改善して、雇用、賃金あるいは企業収益の増加を伴いつつ現実の物価が上昇していく、そして現実の物価上昇が人々の予想物価上昇率をさらに引き上げるという、一種の前向きの循環メカニズムといったものを想定しておりました。実際、こうしたメカニズムは想定どおりに働いていると思います。

 我が国経済が回復する中で、需給ギャップはおおむね過去平均並みのゼロ%程度まで改善しておりますし、人々の予想物価上昇率もやや長い目で見れば全体として上昇しているということでありまして、この結果、需給ギャップと人々の予想物価上昇率に規定される物価の基調は着実に改善してきているというふうに見ております。ただ、足元で原油価格の大幅な下落の影響がまだ残っておりますので、物価上昇率自体はゼロ%程度でとどまっているということでございます。

宮本(岳)委員 そういうシナリオで、果たして物事が動いているかということですね。

 内閣府の日本経済二〇一四―二〇一五、いわゆるミニ経済白書は、世帯収入別に、消費税率引き上げ以降に見られる消費の弱さについて分析をしております。

 内閣府に聞きますけれども、低所得層での消費抑制について、二十五ページの九行目から十二行目までを紹介していただけますか。

増島政府参考人 御指摘の内閣府、日本経済二〇一四―二〇一五では、「消費税率引上げ後の収入・支出の動向について、調査世帯を世帯主の年間収入によって五分割した「年間収入五分位階級」別にみると、相対的に収入が少ない「第一分位」では、他の所得層と比べても、収入の低下以上に支出が落ち込んでおり、消費税率引上げ後に消費支出が抑制されていることが分かる。」と分析しております。

宮本(岳)委員 二つ、総裁に聞きます。

 このミニ経済白書が明らかにした、低所得層に収入の落ち込みとそれ以上の消費の抑制が起こっていることを総裁はどう認識しておられるか。また、その原因について、ミニ経済白書では、消費税増税や非正規労働者の賃金上昇の展望がないことが原因と分析をしておりますが、総裁はどのようにお考えになりますか。

黒田参考人 消費税引き上げの影響につきましては、雇用・所得環境あるいはそれを受けた消費マインドの違いなどを反映して、家計によって異なる面があったというふうに思います。もっとも、景気の緩やかな回復が続く中で雇用・所得環境は着実に改善しており、その好影響は幅広く波及していくというふうに見ております。

 実際、最近では、マインド関連指標の改善も明確になっておりますし、個人消費の底がたさも全体として増しているのではないかというふうに考えております。

宮本(岳)委員 改善したとおっしゃるわけですけれども、私は、低所得層ほど生活が苦しくなり、将来見通しについても悪化する傾向は今でも大きく変わっていないと思います。

 内閣府の消費動向調査について聞きます。

 この二年間の比較のために、二〇一三年四月と二年後、二〇一五年の四月の暮らし向き、総世帯を比較して、よくなる、ややよくなるの合計から、やや悪くなる、悪くなるの合計を差し引いた数値は、年収九百五十万以上千二百万円未満、年収五百五十万以上七百五十万円未満、年収三百万円未満のそれぞれで、どのように推移しておりますか。

道上政府参考人 消費動向調査で調査しております意識指標のうち、暮らし向きにつきまして世帯の年間収入階級別に捉えますと、通常内閣府で公表している方法ではなく、委員から御指示の方法により、よくなる、ややよくなると回答した者の割合の合計から悪くなる、やや悪くなると回答した者の合計の割合を引いて計算しましたところ、年間収入階級三百万円未満の総世帯におきましては、平成二十五年四月のマイナス三四・五%ポイントから平成二十七年四月にマイナス四九・一%ポイントとなり、一四・六%ポイントの低下。それから、年間収入階級五百五十万円以上七百五十万円未満の総世帯におきましては、平成二十五年四月のマイナス一七・五%ポイントから平成二十七年四月にはマイナス三一・二%ポイントとなり、一三・七%ポイントの低下。それから、年間収入階級九百五十万円以上千二百万円未満の総世帯におきましては、平成二十五年四月のマイナス一二・六%ポイントから平成二十七年四月にマイナス一六・五%ポイントとなり、三・九%ポイントの低下というふうになっております。

宮本(岳)委員 暮らし向きについて、所得が低くなるほど危機感はこの二年間で強くなっているということが示されております。

 同調査では、収入のふえ方、雇用環境、資産価値のいずれも所得が低いほど楽観的な見方は少ない。さらに、インフレ予想の相違、これも拡大をしております。五%以上という高インフレを予想する人の比率を二〇一三年四月と二〇一五年三月で比較すると、年収九百五十万から千二百万円未満では一六・五%が一七・五%とほぼ変わらないのに対し、三百万円未満は二〇・五%から三二・二%にはね上がっております。

 東短リサーチの加藤出代表取締役社長は、この調査結果について、低所得層ほど支出に占める食料品の比率は高い、円安による食品価格の上昇を深刻な脅威と受けとめている人が多いのだと思われると分析をしております。

 低所得層でインフレ予想がなぜ高くなっているのか。これはひとつ、日銀総裁の御見解をお伺いしたいと思います。

雨宮参考人 お答え申し上げます。

 先ほど総裁から申し上げましたとおり、家計の消費者マインドは雇用・所得環境など、さまざまな要因によって異なり得るものでございます。特に、御質問のありました物価に対する感じ方という点で申し上げますと、一般的に、身近なもの、頻度高く購入するものに影響される程度が高いですとか、あるいは購入する財やサービスの違い以上に、やはり御指摘のありましたとおり、所得階層により物価に対する警戒感というものが変わってくるということはあり得るかなというふうに思います。

 したがって、これも繰り返しになりますけれども、企業収益や雇用、賃金の増加を伴うそうした好循環の中で物価上昇率が高まっていくという姿が実現すれば、その影響はより幅広い世帯に波及していくものと見てございます。

宮本(岳)委員 円安による物価上昇の悪影響、これは個人消費だけではありません。輸入物価全体の上昇は輸入原材料価格の上昇となり、企業にも深刻な影響を与えております。消費者や販売先に転嫁できる大企業にみずからの負担は発生しませんけれども、中小零細業者では価格への転嫁が困難であり、円安廃業や円安倒産が拡大をしております。

 帝国データバンクのことし五月十三日のレポートによりますと、円安倒産は十六カ月連続の前年同月比増加、累計で六百件突破、全国四十六都道府県で判明したということであります。これも一ドル百二十円前後の円安水準までのことでありまして、さらなる円安が進む現在では、足元では円安倒産がさらに拡大するのではないか、こう思いますけれども、これについても日銀総裁の御見解をお伺いしたい。

黒田参考人 過去二、三年の間に行き過ぎた円高が是正されて円安が進んできたわけですが、そのもとで、企業の倒産件数は大幅に減少して、バブル期以来の歴史的な低水準で推移しております。

 そうした中で、円安関連倒産というものが幾分増加しているようですが、全体の倒産件数に占める割合はごく小さいと認識をいたしております。かつて、円高が進んでおりました際には円高倒産というのがあったわけですが、そのころは全体としても倒産が多かったわけですけれども、先ほど申し上げたように、現時点では倒産は歴史的な低水準で推移しているというのが現状でございまして、円安によって中小企業も含めて倒産が拡大しているということはございません。

宮本(岳)委員 結局、二〇一二年秋からの急激な円安というのは、輸出大企業を中心に、このことが過去最高水準の利益を企業にもたらした面があります。一方、輸入価格の上昇により、個人消費の低迷と中小企業の倒産をやはり生み出した。結局は、円安による負担を個人や中小企業がかぶって、その分が輸出大企業の利益に転嫁しただけとも言えると思うんですね。

 異次元緩和の二年間で、富裕層、資産家の生活は大幅に改善され、低所得層では生活が苦しくなった。つまり、経済の好循環どころか、この二年間で所得階層の間に収入や消費など生活水準の格差が拡大したというのは私は事実だと思います。

 為替相場を見ますと、さらに円安傾向が進んでおります。年内にも一ドル百三十円程度まで、こういう予測もあります。米国との金利差拡大予測が原因という指摘もあります。

 これは財務大臣に聞きます。なぜ足元でこんな急激な円安が進んでいるのか、麻生大臣の考えをお聞きしたい。

麻生国務大臣 これはたびたび申し上げておるので、宮本先生御存じのとおり、為替の動向とか背景とかいうものについて述べるということは、これは市場に不測の事態また影響を与えるおそれがあるために言及は差し控えたいと申し上げております。

 いずれにしても、引き続き市場の動向というものには注意を払ってまいりたいと考えております。

宮本(岳)委員 先ほどもそういうやりとりがありましたけれども、麻生大臣は、荒い動きがあると見ているが、今後も市場の動きを注意深く監視したいと。荒い動きはお認めになったわけでありますし、先ほどそういうやりとりもありました。ただ、一部の報道では、政府はこの円安を容認しているという報道もあるんですね。

 財務大臣に聞きますけれども、円安を容認している、この報道については事実ですか。

麻生国務大臣 形を変えた、前の質問と言っておられることは同じことだと存じますので、為替の水準につきましては、市場に不測の影響を与えるおそれがありますので、言及は差し控えたい。先ほどとは違った言い方をしておりますけれども、内容は同じであります。

宮本(岳)委員 結局、今進行している円安は、コストプッシュを招き、個人消費を冷やすだけではないかというふうに思います。少なくとも、こういう水準、円安がこれ以上続いていくということについては望ましくないと私は思います。

 これは日銀の総裁にお伺いしてもこれまた同じような答弁かと思いますけれども、では、日銀の総裁、ひとつお答えいただけますか。

黒田参考人 為替水準あるいは動きについて具体的なコメントは差し控えさせていただきますが、その上で、一般論として申し上げますと、円安は、輸出の増加、グローバルに展開している企業の収益の改善、株価の上昇といったプラス効果を持つ一方で、輸入コストの上昇あるいは価格転嫁を通じて、非製造業の収益あるいは家計の実質所得に対して押し下げ圧力として作用するという面があるわけでございます。

 このように、円安の影響は経済主体によって異なり得るものでありますが、従来から申し上げていますとおり、これまでの円安というか行き過ぎた円高の是正ということは、経済全体にとってはマイナスでなかったというか、むしろプラスであったというふうに思っております。

 いずれにいたしましても、為替相場は経済のファンダメンタルズを反映して安定的に推移するのが望ましいということは言えるというふうに思います。

宮本(岳)委員 この問題についても、実際に庶民に与える悪影響ということはぜひ念頭に置いていただきたいと思うんですね。

 次に、日本銀行の長期国債等の大量購入、買い入れの影響について聞きたいと思います。

 量的・質的金融緩和がどのようなメカニズムで二%の目標を達成するかについて、黒田総裁は三つの経路ということをお話しになって、二年前に説明をされました。その内容を説明していただきたいと思うんです。

黒田参考人 この三つは相互に関係はしておりますけれども、まず第一に、長期国債あるいはETF、J―REITの買い入れというものが長目の金利の低下を促して資産価格のプレミアムに働きかける効果を持つ、これが資金調達コストの低下を通じて民間の資金需要を喚起するというのが第一の波及メカニズムであります。

 第二には、日本銀行が長期国債を大量に買い入れる結果といたしまして、これまで長期国債の運用を行っていた投資家あるいは金融機関が株式、外債その他のリスク資産へ運用をシフトさせたり、あるいは貸し出しをふやしていくという効果であります。

 第三には、物価安定目標の早期実現を約束して、次元の異なる金融緩和を継続することによって市場や経済主体の期待を抜本的に転換する、デフレマインドを転換するということであります。こうして予想物価上昇率が上昇すれば、現実の物価に影響を与えるというだけではなくて、先ほど申し上げた第一の点とあわせて、実質金利の低下、民間需要の刺激につながるというふうに御説明をいたしました。

宮本(岳)委員 今の御説明の二つ目、日本銀行が長期国債を大量に買い入れる結果として、これまで長期国債の運用を行っていた投資家や金融機関が株式や外債等のリスク資産へ運用をシフトさせたり貸し出しをふやしていくことが期待されると。これはつまりポートフォリオリバランス効果というらしいんですけれども、どうして日銀が長期国債を大量に買い入れると投資家が運用資産をリスク資産にシフトさせるのか、これが一点。

 あわせて聞きますが、では、この二年間に投資家や金融機関の資産運用で期待どおりの資産シフトが起こっているのか。

 この二点、お答えいただけますか。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、量的・質的金融緩和のもとで、大量の国債、特に長期国債も含めて買い入れを行うということで長期金利が低下するということでございますので、当然のことながら、国債を保有する収益性は低下します。このため、株式、貸し出しその他の資産が相対的に有利になりますので、そちらの方にポートフォリオリバランス効果が起こるということであります。

 実際にも、日本銀行が量的・質的金融緩和を進めるもとで、金融機関、特に大手行などでは、保有国債を売却して貸し出しを積極化させたり、その他のリスク資産への投資を増加させるという動きが見られております。

 また、銀行の貸出残高も、かつては前年比マイナスの状況だったわけですけれども、現在は二%台後半のプラスで推移しておりますほか、中小企業向け貸出残高も増加しておりまして、業種や企業規模にも広がりが見られつつあるというのが現状でございます。

宮本(岳)委員 市場はこの二年間、国債運用の大口投資家や金融機関の資産運用の動きに注目しております。今最も注目されているのが、金融機関であり機関投資家でもある日本郵政のゆうちょ銀行なんですね。年内にも株式上場が予定されており、国債傾斜から株式、外債などのリスク資産の比率を上げるテンポに市場は神経をとがらせているという報道がございます。

 このような時期に、先月末、黒田総裁が日本郵政の西室泰三社長と会っていたとの報道がありました。これは事実ですか。

黒田参考人 私はいろいろな方といろいろなパーティー等で会っておりますので、個別に会った記憶は余りないんですけれども、あるいはお会いしたかもしれません。

 いずれにいたしましても、日本郵政はみずからの経営方針のもとで運用を行っていると理解しておりまして、日本銀行との関係でどうこうということは全くないと思っております。

宮本(岳)委員 あなたがお会いになった一週間後の五月二十九日の記者会見で、日本郵政の西室社長は、ゆうちょ銀行のポートフォリオについて、リスク管理を強化しながら国債中心の運用体制を見直す方針を改めて表明されました。

 ロイターの報道によりますと、この異例とも言える動きについて、現在財務省の国の債務管理の在り方に関する懇談会メンバーでもあるSMBC日興証券金融財政アナリストの末沢豪謙氏は、保有国債を減らして運用多様化を進めたい郵政側と、国債買い入れを軸にした異次元緩和の枠組みを維持したい日銀との間で協力関係を確認することが目的だったのではないかと述べたと報じられております。総裁、こういうことを西室社長との間で話し合った御記憶はありませんか。

黒田参考人 先ほど申し上げましたとおり、バイでお会いした記憶はないんですが、そういった報道があったことは承知しております。

 いずれにいたしましても、私から何か日本郵政に対して協力を要請したとか、あるいは日本郵政側が日本銀行への協力の観点から何かを行っているとか、そういうことは全くございません。

宮本(岳)委員 しかし、そういう憶測を呼んでいることは事実なんですね。

 それで、ゆうちょ銀行が政府の政策意図に従い、運用方針を国債中心からリスク資産にシフトしているのではないか。これは実は、ゆうちょ銀行やかんぽ生命だけではありません。既に、年金積立金管理運用独立行政法人、GPIF、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会、日本私立学校振興・共済事業団という三つの共済組合は、基本ポートフォリオを変更して、国債の比率を引き下げる方向で資産の売買を始めております。

 GPIF等が政府の物価上昇率二%の目標に合わせてポートフォリオを変更する理由について、米沢康博GPIF運用委員長は「まず、国内債券を可能な限り減らしたいというのが第一の命題でした。なぜ減らしたいかというと、デフレ経済を脱却し、政策としてもインフレを目標にしているためです。」と、昨年の暮れに不動産証券化協会ARES年金フォーラムの講演で述べておられます。つまり、政府が物価上昇率二%の政策目標を達成することを前提にしてGPIFは資産運用を変更したとあからさまに述べているわけです。

 これは、黒田総裁が二年前に述べた三つの波及経路のような経済合理性の観点から運用方針を変更したというのではなくて、政府の目標に従って運用方針を変更しただけのことではないかと私は思いますが、日銀総裁、どう思われますか。

黒田参考人 GPIFの運用方針は政府あるいはGPIF自体で検討の上決定されるというものでありまして、私の立場からコメントすることもできませんし、また何かGPIFと日本銀行が協力して云々というようなことがあるというわけでも全くございません。

宮本(岳)委員 結局、こうやって、リスク資産としての国内株式を国債を売ることによって購入させていく、これが株式市場の上昇を支えたわけでありますし、外国株式や外国債などの海外資産の購入でドル買い・円売りの為替の方向感をつくっているのではないか、まさに官製相場ではないか、こう見られているわけです。

 先日も当委員会で指摘いたしましたけれども、証券会社や投資雑誌などはこの動きを前提に、推奨株式などの金融商品を個人投資家に勧めております。日本銀行のETF、J―REITの買い入れ方針に従い、推奨株式はこれだといった雑誌記事がたくさん見受けられます。こういうことが少なくとも健全な状況だとは言えないと思うんですけれども、日銀総裁、そう思われませんか。

黒田参考人 御案内のとおり、量的・質的金融緩和のもとでは、質という面から資産価格のプレミアムに働きかけるという効果も重要であると考えておりまして、ETFあるいはJ―REITなどのリスク資産の買い入れを行っております。

 なお、買い入れ対象としては、ETFにつきましてはTOPIX、日経二二五、JPX日経四〇〇という幅広く利用されている指数に連動するものを対象としておりますし、またJ―REITにつきましてはダブルA格以上などの条件を満たす銘柄を買い入れておりまして、特定のものに対する推奨云々ということは、全く私どもと関係はございません。

宮本(岳)委員 先ほどの米沢康博GPIF運用委員長は、先ほど引用した部分の後に、「インフレが生じれば、多少のタイムラグはあるとしても金利の上昇が想定されるため、金利上昇リスクを一番恐れたというのが実際のところです。平成二十六年十月三十一日には、私たちの発表に加え、日銀の金融緩和が当分継続するという発表がありました。ですので、金利上昇に対する見通しも今は若干変化したかと思いますが、これを考慮したとしても、出口を想定しないわけにはいきませんし、このような大幅な金融緩和が長期的に継続することは想定しづらいです。」と述べております。

 このように、一部の機関投資家の見方には、仮に物価上昇目標を達成すれば金利が上昇するリスクがあるとの指摘が見られます。日銀はこういう想定をどう評価しておりますか。

黒田参考人 先ほど来申し上げておりますとおり、一般的に、名目の長期金利というものは、先行きの経済・物価情勢に関する見通し、それから国債を保有することに伴うリスクプレミアムが加わって形成されるというふうに考えられます。量的・質的金融緩和のもとで巨額の国債買い入れを行っておりまして、これは、リスクプレミアムを圧縮するということで金利に低下圧力を及ぼしているわけでございます。

 二%の物価安定の目標を実現し、日本経済がデフレから完全に脱却した場合には、当然のことながら、経済・物価情勢に関する見通しが改善して、それが次第に金利に反映されていくものというふうに考えております。

宮本(岳)委員 日銀は、ことし四月の金融システムレポートで「徐々にではあるが円金利リスク・テイクを進める動きが再び強まってきている。」との分析をいたしました。金利が全ての年限で一様に三%ポイント以上上昇した場合、大手行と地方銀行を合わせた国内銀行全体で保有する債券の時価損失は十五・三兆円に上ると試算をしております。

 年金資金や日本郵政と同様に、現在大量に国債を保有しているのが銀行や保険などの金融機関であります。先ほど、民間のメガ三行が国債を既に四割減らしたと言っておりましたが、金利上昇のリスクを避けるために、金融機関も国債の保有残高をさらに減らすということが想定されると思うんですが、いかがですか。

雨宮参考人 お答え申し上げます。

 金融機関は、それぞれの経済・物価見通しのもとで、国債あるいはその他のさまざまな金融資産のリスクとリターンの双方を勘案して投資方針を定めているということでございます。

 したがいまして、先行きの金融機関の投資スタンスにつきましては、その時々の経済・物価情勢ですとかあるいは金融市場の状況次第でございますけれども、基本的には、それぞれが適切なリスク管理のもとで判断されるべき筋合いのものというふうに理解してございます。

宮本(岳)委員 しかし、国債の金利上昇リスクについては、現在、バーゼル銀行監督委員会でも検討が続けられております。

 先日、金融機関に対し金利が突然上昇して損失が出ても経営破綻しないように十分な対策を求める新たな規制を検討して、二つの方法について提案がなされたと報じられております。金融庁、この内容を紹介していただけますか。

三井政府参考人 お答え申し上げます。

 バーゼル銀行監督委員会より、銀行勘定の金利リスクに係る規制監督上の取り扱いについて、先般、市中協議文書が公表されております。

 各国によりますさまざまな議論の結果、今回の市中協議文書におきましては、一つ目として、リスク量の計測化を定式化いたしまして自己資本比率の分母に勘案する第一の柱の案、もう一つは、現行の監督枠組みは維持しつつ監督対応を明確化あるいは透明化した第二の柱の案、この二つの案の両論併記となってございます。

宮本(岳)委員 仮に第一案などを実施すれば、銀行は国債の保有残高を減らさざるを得なくなると指摘されております。

 金利上昇リスクについて、黒田総裁はことし二月の経済財政諮問会議でオフレコ発言をしたと報じられておりますが、どういう発言をされましたか。

黒田参考人 経済財政諮問会議における議事の内容は、内閣府が議事要旨を通じて公表するということになっております。

 その上で、委員御指摘の二月十二日の経済財政諮問会議において、その議事要旨に書かれておりますとおり、私からは、持続可能な財政構造を確立することは国全体として取り組まなければならない課題であり、財政健全化目標の達成に向け、具体的な計画を策定していくことが重要であるという趣旨のお話をいたしました。

宮本(岳)委員 報道によりますと、総裁はそのとき、欧州の一部は日本国債を保有する比率を恒久的に引き下げることにした、これからお話しすることはもう少し深刻だ、実はドイツ、米国、英国などが強硬に銀行が自国の国債を持つことについても資本を積むべきだと主張していると、国際会議の舞台裏を明かした上で、銀行が国債の売却に動く可能性は高く、そうなれば金利は急騰しかねないと述べたと報じられております。

 その事実は多分お認めにならないと思いますが、この認識について、総裁は認識をともにされますか。

黒田参考人 まず、規制の話と国債の話を申し上げますと、国債に関連する規制の関係というのは、先ほど金融庁から説明がありましたとおり、金利リスクにつきまして、国債と限らずその他の資産につきまして新しいルールをつくってはどうかという議論がずっと長らく行われておりまして、二つの案が両論併記という形で市中協議に出されているということであります。

 また、それと全く別な関係で、国債のリスク、ソブリンリスクについては、バーゼル委員会が慎重に包括的にゆっくりと今後検討すると言っておりまして、まだ検討も始まっておりません。

 したがいまして、こういった金融規制の動向というのは当然十分注視する必要がありますが、前段の金利リスクの話につきましても、まだ市中協議が始まったばかりでありまして、どういった規制になるのかもわかりません。後者につきましてはまだ検討も始まっていないという状況でございます。

 そうした上で、いずれにいたしましても、国の財政の信認を確実なものとしていく、財政の健全性、持続可能性を高めていくということは、やはり国全体として、いずれにせよ、どのような金融規制が行われるにせよ、しっかりとしていく必要があろうというふうに思っておりますので、国及び国会のそういった取り組みに強く期待をしております。

宮本(岳)委員 いずれにせよ、財政健全化が必要だというお話でありました。

 今、長期国債の保有者主体別の国債保有残高を見れば、日銀の国債保有の高まりというのは既に非常に深刻な問題だと思います。

 二〇一四年十二月末で、既に日銀の保有残高の割合は二〇%を超えました。先日の展望レポートで、物価上昇が二%程度に達する時期は、原油価格の動向によって左右されますけれども、現状程度の水準から緩やかに上昇していくとの前提に立てば二〇一六年度前半ごろになると予想されております。

 一部の審議委員にさらに遅くなるとの指摘もあるようですけれども、仮に安定的に持続する時期まで金融緩和を継続するとなれば、二〇一六年度末、つまり二〇一七年三月末ごろまで実施されることが想定されます。今後二年間の継続ということですね。

 そこで、配付資料の二を見ていただきたい。

 仮に二〇一七年十二月末までこの金融緩和措置を継続することになると、単純に長期国債発行総額が最近三年間と同じ伸びをすると考えるならば、その時点での日本銀行の長期国債の保有額は四百四十七兆円となります。既に二〇%を超えている長期国債の保有割合は、長期国債発行残高の半分近く、四四%にまで拡大する。

 仮定の話でありますが、計算上はそういうことになりますけれども、これは事実でよろしいですね。

黒田参考人 日本銀行の量的・質的金融緩和につきましては、二%の物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで継続するということにしております。

 御指摘のように、特定の日付を区切って政策運営を行っているわけではございませんので、そうした仮定に基づく議論は必ずしも適当ではないというふうに思います。

宮本(岳)委員 いや、それほど将来の仮定をしたのではなくて、今既に二〇一六年度とおっしゃっているから、そこまでやるんだろうと思ってこれをつくったんですけれどもね。これほどまでに中央銀行が政府の債務を肩がわりすれば、もはや日本銀行が財政をファイナンスしているのではないか、こう見られても仕方がなくなります。

 黒田総裁は、二年前に量的・質的金融緩和策を打ち出すときに、あえて財政ファイナンスではないと主張されました。では、そもそも財政ファイナンスになってしまう国債引き受けというのはどういうものなのか。また、今回の量的・質的金融緩和はどうして財政ファイナンスと違うと言えるのか。総裁、お答えいただけますか。

黒田参考人 御案内のとおり、財政法第五条が、日本銀行による国債の直接引き受け、すなわち日本銀行が政府から直接に国債の発行を受けることを禁じております。一方、日本銀行が量的・質的金融緩和のもとで行っている国債買い入れ、これは金融機関を相手方として市場において実施しているものであります。こうした国債買い入れというのは国債の直接引き受けには当たらないというふうに思っております。

 また、量的・質的金融緩和のもとで行っている国債買い入れなどの政策は、あくまでも二%の物価安定の目標の実現という金融政策の目的で行っているものでありまして、財政を支えるためのものではございません。

宮本(岳)委員 かつて、白川日銀前総裁は二〇一三年三月七日の記者会見で、国債の買い入れは、政府の要請で行っているのか、中央銀行が主体的判断で買い入れを行っているのかどうかが財政ファイナンスであるかないかの重要なメルクマールだと述べられました。

 黒田総裁も同様の理解ということでよろしいですか。

黒田参考人 白川前総裁の発言内容についてコメントすることは差し控えたいと思いますが、その上で申し上げますと、繰り返しになりますけれども、量的・質的金融緩和のもとで行っている国債買い入れなどの政策は、あくまでも物価安定の目標の実現のために日本銀行みずからの判断と責任において行っているものでありまして、財政ファイナンスではありません。この点は、量的・質的金融緩和の導入の際の対外公表文でも明らかにしているところであります。

 ちなみに、欧米の主要中央銀行もいわゆる量的緩和というものを行っておりますが、その際は、最も大きく深い市場である国債の市場においてオペレーションを行って、長期国債まで含めた国債の買い入れを行っておりますけれども、財政ファイナンスだという議論はございません。

宮本(岳)委員 異次元の緩和を始めるまでは、先ほども少し議論がありました、形式的には銀行券ルールにより保有残高の拡張を制約しておりました。しかしながら、一時停止した今、際限なく日銀の国債保有は拡大しております。

 中央大学教授の冨田俊基氏の資料によれば、長期国債と短期証券と借入金を加えた国の債務残高は、終戦直前の一九四四年には対GDP比で二〇四%にまでふえ、日銀が保有している政府債務の保有比率も対GDP比で二〇%近くにまで上昇しておりました。

 現在はどうか。資料三を見ていただきたい。

 日銀の資金循環統計を見ると、二〇一四年末には、国債、財投債による国の債務残高は対GDP比で二〇九・八%、日本銀行が保有している政府債務も対GDP比で何と五二・五%となっております。これは、戦前は国家統制により民間銀行にも引き受けさせていたこともあり、単純には比較できませんが、戦前以上の日本銀行への依存が高まっているとこのグラフは示していると言わなければなりません。

 これからさらに日銀の国債保有比率が高まっても、日本銀行は主体的判断で買い取っているとの主張が投資家に受け入れられるとお思いですか、黒田総裁。

黒田参考人 繰り返しになりますけれども、量的・質的金融緩和のもとで行っている国債の買い入れなどの政策は、あくまでも二%の物価安定の目標の実現のために行っているものでありまして、財政を支援するために行っているものではございません。

 この点は全く変わりませんし、そういった主張が変わるということはなく、またマーケットにも引き続き受け入れられると思っておりますが、その一方で、先ほどから申し上げておりますとおり、財政の健全性、財政の持続可能性を確保し高めていくということは国全体として取り組むべき課題でありまして、政府、国会においてさらなる一層の努力が行われることを強く期待いたしております。

宮本(岳)委員 結局、国債保有比率が高まっても、先ほどもやりとりがありましたが、全体として国の財政がプライマリーバランスが黒字化する方向へと財政規律を守っていれば財政ファイナンスと受けとめられる危険がない、だからしっかり財政規律を守れという話になるわけですよね。その財政規律を守るために一体どういうメニューが出てくるかといえば、消費税の増税を一〇%に確実に引き上げるか、あるいは先ほども議論がありました年々一兆円ふえると言われる社会保障費を、自然増を年間五千億円弱の範囲におさめろと、本当に国民負担と増税のメニューが押しつけられるわけですね。

 本来は、財政規律というものはそういう話から議論されるものではなくて、しっかりそれ自身が議論されるべきものであるにもかかわらず、無制限の金融緩和で国債をどんどん日銀が引き受けていく、それを財政ファイナンスと見られないために財政規律を頑張れというのはいかにも本末転倒した、そんな本末転倒した話じゃないかと私は思うんですけれども、総裁、そうじゃないですか。

黒田参考人 従来から申し上げておりますとおり、財政の規律を守り、財政に対する信認を維持、高めていくためには政府、国会のさらなる努力が必要であるというふうには思っておりますが、それは日本銀行が国債を買い入れようと買い入れまいと関係なくしっかりと政府にしていただきたいということでありまして、日本銀行が量的緩和をしているので云々ということではございません。

宮本(岳)委員 こういう無制限の金融緩和、異次元の緩和ということが国民生活に深刻な影響を与えている、このことを受けとめるならば、私はこういうやり方はやはり大変な無理が生じるということを申し上げて、時間が参りましたから、きょうの私の質問は終わりたいと思います。

古川委員長 次に、吉田豊史君。

吉田(豊)委員 きょうもよろしくお願いいたします。維新の吉田です。

 先日は、日本銀行を視察させていただきまして、そのときには黒田総裁初め皆様に御対応いただきまして、本当に私からもお礼申し上げます。ありがとうございました。

 この財務金融委員会が行われる日はいつも、私にとっては何かがある日でございます。何かと申しますと、きょうは、委員長初め委員の諸先輩方、また、今出られましたけれども、麻生大臣、副大臣初め多くの皆さんの御指導をいただいて半年、議員になって半年なんですけれども、本館の第一委員室、あの名誉ある委員会室で初質問をしてまいりました、平和安全特別委員会の方なんですけれども、中身は大変恥ずかしかったんですが。それも皆様の御指導のおかげだと思って、改めてここでお礼申し上げたいと思っておるところでございます。

 それで、きょうは、いつものとおりになりますけれども、私自身、議員として常に、自分の地元に帰ったときに、国民としての目線で考えたら、やはり私が目で見てきたことをきちっと伝えてくるということが何よりも大切だと考えております。

 先般、日本政策投資銀行、政投銀に行って、ある役員の方と名刺交換をさせていただいて、それを地元に持ち帰ってまいりましたら、この人を紹介してくれ、お金を借りられるかなとか言う人もおったんですね。これについては、私はノーとは言わなかったんですけれども、きょう、質問が終わりましたら、黒田総裁に名刺を頂戴しようと思うんです。それを今度地元に持っていくと、また同じ人がお金を借りられるかなと言うと思うんですが、日銀というのはそういうものではないということも、やはり国民の方はなかなか、日本銀行が何をやっているかということさえしっかりと今把握できていない状況じゃないかな、こう思いますので、まずそこのところから入らせていただきたいと思います。

 改めて、日銀はどのような組織であり、そして具体的に今どのような役割をしているところなのかということを、国民の皆さんにわかりやすいように教えていただけますでしょうか。お願いします。

武田参考人 日本銀行は、我が国の中央銀行でありまして、物価の安定と金融システムの安定を目的としております。日本銀行では、これらの目的を果たしていくために、金融政策運営、金融システム面の施策のほか、決済、銀行券、国庫金、国債に関する事務など、さまざまな業務を行っております。

吉田(豊)委員 そうすると、端的に、一般の何とか銀行ですとかあるいは何とか信用金庫とか、そういうものとの違いはどこにあるというふうに考えればよいでしょうか。

武田参考人 お答え申し上げます。

 日本銀行は、日本銀行法で物価の安定、金融システムの安定という目的を与えられておりまして、金融政策運営のほか、金融システム面の施策を行っており、この点は民間銀行と異なっております。

 また、業務の面でも、日本銀行は、民間銀行にはない三つの役割を担っております。第一に、我が国において唯一銀行券を発行するという発券銀行としての役割であります。第二に、民間金融機関から預金を預かり貸し出しを行うという銀行の銀行という役割であります。第三に、国庫金、国債など、国の事務の一部を委託されて行うという政府の銀行としての役割であります。

 以上であります。

吉田(豊)委員 ありがとうございます。

 そして、今の一、二、三、お金を発行する、民間の金融機関にお金を融通する、それから三つ目の国の事務の一部を代行する、その中で、もともとの日銀の仕事、役割の一番大きいものは物価の安定だ、そして金融システムの安定ということもおっしゃったんですが、具体的に金融政策を行うときに日銀はどのような手段を持っているのかというところを教えていただけますか。

雨宮参考人 お答え申し上げます。

 日本銀行は、金融政策の手段としてさまざまな手段を持っているわけであります。

 基本的な手段として幾つか申し上げますと、取引先であります金融機関との間で国債といったいろいろな金融資産を売ったり買ったりする、あるいは、金融機関に対してお金を貸し出すというような取引を通じまして、市場に出回るお金の量あるいは市場金利に影響を与えようとしているわけでございます。

 その市場に出回るお金の量や市場金利が変わりますと、それに応じて金融機関の貸し出し行動ですとかあるいは企業や家計の支出行動が変わり、それが経済全体に影響を与え、最終的にはこれが物価の安定を図るように運営していくのが金融政策の基本的な手段ということでございます。

吉田(豊)委員 非常にわかりやすい説明を雨宮理事にしていただきました。

 私、大事だなと思いますのは、きょう、朝からこの委員会におりまして、やはり日銀というのは非常に大きな存在で、そして大きな金額を扱うわけですね。そのときに、きょういただいた資料とかを見ましても、相手が大企業であったり、あるいは単位、規模も大きい存在というところの動きはよくわかるんですけれども、今おっしゃった形でいえば、やはり日銀というのはそういうところだけを見ているわけではなくて、さまざまな、一つのアクション、最終的には我が国の国民全体の経済のそれぞれの単位の一番最小単位、それは家計なんでしょうけれども、あるいは中小零細の零細の小さい商売、そういうところまでも、全てにおいて考え方が行き渡るまできちっと見るべき存在だというところがわかって、私は非常によかったなと思っているんです。

 ここのところが、きょう、これから幾つか質問していきますけれども、最終的に、今生活している人たち、それは先ほどの宮本さんもおっしゃいましたけれども、身近にいる方々、そういう方々にとってきちっと国の大きな政策あるいは日銀の大きな政策が結果として実感を感じられるところに来ているのかどうかということは非常に重要なことだと思いますし、それが必ずいつまでにということでもないのもよくわかるんです。でも、それがきちっとそこに向かって進んでいるぞ、あるいはそういう方々の状況をしっかりと把握した上での政策になっているぞというところが一番大切ではないかなと思いますので、順次お伺いしていこうと思います。

 私は、きょう、デフレからの脱却ということについて主にお聞きしたいと思うんです。

 改めてということになりますけれども、よく、長きにわたるデフレの状態が続いた、これが日本を非常に元気のない状況にしてしまった。このデフレという言葉は本当に誰でも知っている言葉になりました。けれども、何でそういうことになったのかということとか、デフレという状況はどういうことだから悪いのかとか、あるいはそういう根本的なところを国民の皆さんは実は理解していないんじゃないかな。私自身も理解が足りないところがあると思います。

 そういう意味で、まず最初に、総裁の方から、デフレというのは何が悪いかということを教えていただいてよろしいですか。

黒田参考人 デフレの一般的な定義としては、広範な物の価格、物価の持続的な下落ということだと思いますけれども、日本の場合は、一九九八年から二〇一三年ごろまで、一時的に物価上昇率がプラスになったことはあるんですが、基本的にマイナスで推移しておりました。

 そうしたもとでは、価格が下落し、企業としては売り上げや収益が減少する、そこで、賃金の上昇を抑制する、その結果として消費が低迷し、またさらに価格が下落するという悪循環が生じて、十五年の長きにわたって持続的な物価の下落ということが起こったわけでございます。

 そうしたもとでは、企業も家計も、将来も物価が上がらないということを前提に行動するようになりますので、支出活動が消極的になっていく、いわばデフレが自己実現的に長引くということになるわけでございます。

 また、デフレのもとでは現金、預金の実質的な価値が高まるわけですので、企業にとっては内部留保を積み上げて現預金として保有することが相対的に有利な投資になりますので、設備投資を行ったりしてリスクをとって新しいビジネスにチャレンジするというインセンティブが低下してしまうわけであります。

 二%の物価安定の目標が実現して人々のデフレマインドが払拭されますと、現金や預金を保有することよりも設備投資とかあるいはRアンドDなどへ支出することが相対的に有利になりますので、その結果、デフレ下の悪循環と逆に、企業の売り上げや収益の増加、そのもとでの賃金の上昇、消費の活性化、そしてそれがまた価格の緩やかな上昇といった前向きな循環が生まれるということが期待されるわけでございます。

吉田(豊)委員 そうしますと、きょうの午前中、井上委員の質問の中にあったと思うんですけれども、私は実はバブルが終わってから社会に出ておるというところなんですけれども、ちょうど四十五歳です。それで、一九九九年、二〇〇〇年近くに、自分で小さい有限会社をつくって、企業というものをやってみようというところに臨んだわけです。

 今ほどの話であれば、デフレという状況がやはり二〇一三年までずっと続いたわけですよね。この間に、日銀あるいは政府として、こういう状況というのは、少なくとも五年もたてば続いているなということは感じるでしょうし、これについて何か対策を打たなくちゃいけないというふうにお感じになっていたのか、あるいは、いろいろなことをやったけれどもそういう状況に来ていたのか、どういう理解をすればいいんでしょうか。

黒田参考人 これにつきましても、先ほど少し触れましたように、一九九九年以来のゼロ金利政策あるいは量的緩和政策、包括緩和政策といった形でさまざまの金融緩和策を講じてまいりまして、その結果として、一時的に景気が立ち直るという局面もあったわけですが、デフレからの脱却、持続的物価下落からの脱却ということはできなかったわけであります。

 したがいまして、今回は、デフレからの脱却ということに向けて、日本銀行は、二%の物価安定の目標の早期実現ということを目指して、量的・質的金融緩和といった、いわば質的にも次元の異なる金融緩和をしているわけであります。

 その際、とりわけ二%の物価安定の目標の早期実現ということに強くコミットするということで、人々に定着してしまったデフレマインドを転換して、予想物価上昇率を徐々に引き上げていくということを重視している。

 こういった意味でも、デフレに陥った以降、日本銀行としてさまざまな努力はしてまいりましたけれども、結果的に見てデフレから脱却できていなかったということを踏まえて、いわば異次元の金融緩和をしてデフレマインドを転換して、デフレから完全脱却しようということで、量的・質的金融緩和を推進しているわけでございます。

吉田(豊)委員 一つ前、私がデフレは何が悪いのかと総裁にお聞きしたときの総裁の言葉の中に、企業はこういう状況が続くと内部留保というところに、状況がそうだからしばらく様子を見ようというふうに入るとおっしゃったんですね。私もそうだろうなと思うんです。

 そうすると、デフレの間も企業は内部留保をしておった、そして今、調子がよくなっても今度は内部留保という問題が出てきておる。そうすると、企業は常に内部留保をするものだ、そういう前提になるのか、デフレのときの内部留保と今の内部留保というものは質が違っていて、そして打つべき考え方も違うということなのか、そこら辺をぜひ教えていただきたいと思います。

黒田参考人 十五年の長きにわたるデフレの中で、企業は、先ほど申し上げたように、現預金で持っているということが相対的に有利ですので、利益が上がりましても設備投資とかあるいは賃上げに使わないという形で、いわば消極的な形で内部留保が積み上がっていたわけですが、量的・質的金融緩和後は、先ほど申し上げたように、企業の投資意欲あるいは賃上げの意欲というものも生まれてきまして、現に、最新のGDP統計でも、企業の設備投資というのはかなり大幅に増加をしているということであります。

 また、ことしの春も、昨年の春に引き続き、昨年もたしか十五年ぶりと言っておりましたけれども、ベースアップを含む賃上げが実現して、ことしはさらにそれを上回るベースアップが実現しようとしているということで、企業の収益は非常に大きく拡大しましたけれども、その中で設備投資や賃上げということも積極的にやっているわけです。一方で、企業収益は非常に大きいものですから、内部留保も若干積み上がっているということであります。したがって、デフレ下の消極的な内部留保の積み上げと今の状況とはかなり違っているというふうに思います。

 今後、設備投資あるいは賃上げがさらに進んでいく中で、内部留保の積み上げはむしろ減って、あるいは内部留保を取り崩すという形で設備投資、賃上げ等に企業が向けていくことも期待できるのではないかというふうに思っております。

吉田(豊)委員 この内部留保ということについては、いつも麻生大臣からも、これをどういうふうにして投資ですとか、そういうお金を次のために回していくことが一番大事な考え方であり、それに取り組んでいると。それはそのとおりだと思うんです。

 今の総裁のお話ですと、例えば内部留保という言葉は企業ですけれども、家計においても当然留保があるわけで、こういうものについて、今、日銀とすれば、物価の安定ということ、それから金融システムの安定、この二つが大きな目標だとおっしゃっているわけですね。

 この中で、物価安定目標二%、この二%という数字が、何で二%なのとやはり普通思うわけです。これがもっと大きい数字じゃおかしいのかとか、そういうふうなことも考えてしまいますし、また、結局、物価といえば、国民全般、特に消費という感覚からの言葉のように感じるわけです。内部留保というのは、それを基本にして、今度は消費ではなくて、新しい投資というか、準備に入るということだと思うんですね。

 このことも含めて、改めて、物価安定目標二%を掲げる、このことが我が国の国民全体にとってどういう意義があるかということを、もうちょっと簡単な言葉でぜひお願いいたします。

黒田参考人 量的・質的金融緩和の主たる効果は実質金利の低下を通じて発揮されるわけでして、大規模な長期国債等の買い入れによって名目金利をイールドカーブ全体にわたって引き下げる、一方で、予想物価上昇率を引き上げることによって実質金利が長期金利を含めて下落する、その結果、企業が設備投資を判断する上で重要なのは実質金利でありますので、量的・質的金融緩和によって実質金利が低下することで企業の設備投資など民間需要が刺激されるということを狙っているわけです。

 これは実は企業だけでなくて家計でも、住宅投資等々の長期の投資等には実質金利の影響があると言われておりますので、幅広く量的・質的金融緩和によって民需を刺激する、企業や家計にいわば内部留保されている資金が所得から支出へという前向きの循環メカニズムに乗ってくるということかと思います。

 その際、なぜ二%なのかということですが、これは、消費者物価指数というのは、統計の性質上、どうしても上方バイアスがありますので、若干プラスになっていても実態はマイナスということがあり得るわけですので、そういったものを考慮すると、ゼロではやはりいけないので、プラスの数字でないといけない。

 さらには、景気が少し悪化しますと、すぐ名目金利がゼロになってしまって、通常の名目金利の操作による金融緩和ということができなくなってしまって、いわゆる非伝統的と言われる量的緩和、あるいは量的・質的金融緩和というのをやるということになりますので、そういうふうにならないように、一種ののり代を確保するということもありまして、世界の主要な中央銀行はほとんど全て、同様の観点から、消費者物価指数で見て二%の上昇を目指すという政策運営を行っております。その意味では、二%の物価安定の目標というのは一種のグローバルスタンダードになっているというふうに思われます。

吉田(豊)委員 そうしましたら、その上で、今ほど幾らか御紹介いただきましたが、量的・質的金融緩和を行うことによって企業に投資を促すということになるんだと思うんですけれども、現時点でのこれらの政策がどういうふうな効果を上げていると評価なさっているのか。

 そして、ついでにお聞きしたいんですけれども、きょういただいた報告書の概要説明を見させていただいて、私、やはり思いますのは、こう書いてあるとそうなんだろうなと思う人もおれば、いやいや、全然こんなふうには感じられないんだと思う方も、企業でもあると思うんですね。それはやはり企業のサイズや分野によって状況は全然違うんじゃないかなと思う中に、この二%という全員が理解するべき大きな目標があって、そして量的・質的金融緩和というのは全てに対する政策、共通した考え方だと思いますので、このことをどのように分析なさっているか、評価なさっているかを教えていただきたいと思います。

黒田参考人 この点につきましては、量的・質的金融緩和というものは所期の効果を発揮しているというふうに思います。長期金利は低下しておりますし、予想物価上昇率はやや長い目で見ますと全体として上昇しておりまして、実質金利は低下している、恐らくマイナスになっていると思います。

 そうしたもとで、実体経済面では、企業部門、家計部門ともに、所得から支出への前向きな循環メカニズムが作用しているというふうに思います。

 特に企業部門では、収益は過去最高水準まで増加しておりますし、設備投資も増加基調にある。さらには、輸出も持ち直し、生産も増加しているということでありまして、企業部門を見ますと、明らかに所得から支出への前向きな循環メカニズムが働いているということであります。

 家計部門におきましても、失業率が三%台半ばということでございまして、構造的失業率と同じぐらいということですので、俗に言う完全雇用状況になっておりまして、賃金が上昇し、雇用者所得も緩やかに増加している、そうしたもとで個人消費は底がたく推移しているということでありますので、量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮していると思いますが、委員御指摘のとおり、各企業ごと、あるいは個人の家計ごとに、あるいは地域ごとにさまざまな違いがあることも事実であります。

 そういった点も含めまして、日本銀行では、各地域のさまざまなデータを集積して報告いたしておりますし、企業規模別あるいは産業別のさまざまなデータも公表いたしております。

 引き続き、そういったミクロ的なデータまで含めて、日本経済全体にこの量的・質的金融緩和の効果が浸透して、デフレからの完全脱却、そして持続的な経済成長への道をしっかりしたものにしてまいりたいというふうに思っております。

吉田(豊)委員 ありがとうございます。

 きょういただいた報告書の三十二ページに「企業金融」というところがありますけれども、これを見させていただいて、幾つかの表が出ているんです。例えば、「貸出約定平均金利」はずっと下がっていって、一の下におりますね。それから、次のページの「金融機関の貸出態度判断DI」。これは大企業、中小企業とありますが、分類上、零細がないのかな、ちょっとわからないところですけれども。状況から見ていると、ほぼ大体好転しているなということは見てとれるわけですね。でも、この先に、次のページでありますが、「民間銀行貸出残高」というものについても、この政策を始めてから、二十六年度の状況を見ると、これがどんどんまた上がっていくかなというふうにも見えないわけです。

 そうすると、具体的には、今やっている政策によって対応できる方々というのは、もうある程度それについて動いているんじゃないかなとも思うわけです。だから、この先は、もう一歩、次に、どのようにしてそこに当てはまっていないと感じている方々に対して、物価の安定は当然基本なんでしょうけれども、あるいは金融システムという部分で、ぜひ新たな応援も含めてお考えいただきたいということをお願い申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございます。

古川委員長 次に、伊東信久君。

伊東(信)委員 維新の党の伊東信久です。よろしくお願いいたします。

 本日は、黒田総裁にお越しいただいておりますので、前半、冒頭でバーゼルの新規制案について、後半は、厚労省が先日まとめた社会保障費抑制政策について麻生大臣にお尋ねさせていただきます。

 さて、きのうの日経新聞の朝刊に、銀行の国債保有に対する新規制の結論を来年に持ち越しという記事が出ておりました。バーゼル銀行監督委員会は二つの新たな規制案を示し、一つは金利上昇リスクを数値基準ではかる案で、こちらは銀行の国債保有割合が高い日本と米国は反対しており、二つ目は金融当局に行政処分を含む監督権限を与えるというものです。

 各国政府が発行する国債は自己資本比率規制上のリスクウエートはゼロパーとされておりまして、デフォルトする可能性が全くないものとされてきましたけれども、ギリシャを発端とするユーロ危機を契機に国債の信用に疑問符がつき始めました。もちろん、国債は格付されているわけですから、各国により程度は違えど、国債には一定のリスクが存在することは明らかです。リーマン・ショックの場合、サブプライム問題が引き起こしたものでありますけれども、振り返ってみますと、サブプライムローンが入った金融商品は格付会社からトリプルAの評価を受けたにもかかわらず、米国の住宅バブル崩壊とともにそれらの金融商品の価値は全くなくなりました。

 ギリシャの話を出しましたのでサブプライムの例を出しましたけれども、もちろん私は、日本の国債とサブプライムの金融商品を一緒とは考えておりません。ただ、世の中でどんなに評価されていても一定のリスクが潜んでいることを訴えたいわけでございまして、もしバーゼル銀行監督委員会の一つ目の案が採用され、国債がリスク資産に転じ、つまりリスクウエートの掛け目がゼロパーでなくなった場合、日本におけるいわゆるマグニチュードは、例えていいのかどうかわかりませんけれども、はかり知れないと思います。

 邦銀の国債保有比率は下がっているといえども、邦銀が所有する日本国債は百二十兆円を超えております。バーゼル銀行監督委員会の一つ目の案が採用された場合の私が最も心配しているところは、やはり日本銀行の出口戦略にあります。仮に一つ目の案が採用されたからといってすぐどうこうなるというものでもありませんけれども、異次元の金融緩和の出口戦略に影響は少なからず出てくるのではないかと思います。出口から出ようとしても、邦銀は国債引き受けの受け皿にはなれないと考えるからです。

 今ここで黒田総裁に出口戦略の時期についてお尋ねするつもりはありませんけれども、仮にバーゼル銀行監督委員会の一つ目の案が採用された場合、日銀の出口戦略そのものに影響を与えるのではないかと思うんです。まず、総裁のお考えをお聞かせください。

黒田参考人 御指摘のとおり、今般、バーゼル銀行監督委員会の市中協議文書では、銀行勘定の金利リスクについて二つの案が両論併記で示されております。これは、あくまでも金利リスク、マーケットリスクの問題であります。それと全く別に、信用リスク、国債のソブリンリスクについてどう考えるかという話がございます。

 この両者は全く別でございまして、これも先ほど申し上げたように、前者が今回、これは金利リスク全体ですので、国債と限らずさまざまな金融資産について銀行勘定の金利リスクをどのように計算するかというものでありまして、バーゼル委員会のメンバーを中心にいろいろ議論した上で、両論併記で市中協議にかかっているということであります。

 ソブリンリスク自体、国債の信用リスクにつきましては、これも先ほど申し上げたとおり、バーゼル委員会で慎重に包括的にゆっくりと議論するということで、まだ議論も始まっておりませんので、これがどうこうということは何とも申し上げられません。

 また、前者の金利リスクの市中協議文書も、二つの案が示されて市中協議で民間の金融機関の意見を伺っているというところでありまして、具体的な方向性が固まっているわけでは全くございません。

 したがいまして、現時点で金融政策に与える影響についてコメントできる段階ではないということでございます。

伊東(信)委員 現時点でのお答えはそうなると予想はしていたんですけれども、あえて質問させていただきました。ただ、それに対するお考えというか準備というのはどのようにお考えなのかというのをお聞きしたかったわけなんです、もうやりとりするつもりはないんですけれども。

 ここで、麻生大臣は、バーゼル銀行監督委員会の一つ目の案が採用された場合、日銀の出口戦略そのものに影響を与えるのではないかという考えに対してどうお考えか、お聞かせください。

麻生国務大臣 今、黒田総裁の方からお答えがあっておりますように、バーゼル委員会のいわゆる協議については、現時点でパブコメ、パブリックコメントに付されたばかりのものでありまして、まだ規制の案も何一つ絞ったわけじゃなくて、両論が併記されて、どっちという話の段階でもあります。したがって、仮に一つの案が採用された場合にといったような、影響についての仮定のお尋ねということになるんだと思いますが、これに対してはちょっとお答えが非常にしにくいところでありますので、差し控えさせていただきたいと存じます。

伊東(信)委員 了解しました。

 それでは、ここからは財政健全化に対しての質疑に移ります。

 黒田総裁、ありがとうございました。

 五月二十六日に厚生労働省がまとめた社会保障費の抑制策が経済財政諮問会議に提出されました。残念ながら、厚労省が示した案というのは抜本的改革とはほど遠いもので、社会保障費抑制とはほど遠いものと私は感じました。

 麻生大臣と同様に、私も社会保障費の削減ありきとは考えておりません。しかしながら、経済財政諮問会議の民間議員の提言の中に、後発薬の普及率、ジェネリックの普及率を二〇一七年度に八〇%から九〇%、新薬と後発薬との差額を自己負担にするというものがありました。さすが、その中のメンバーである新浪社長を初めとして、民間感覚を持った、しがらみを感じない、すばらしい提言だと私は感じております。

 まさしくこういった提言が実現できて初めて麻生大臣の掲げる財政健全化につながってくるのではないかと感じておるんですけれども、しかしながら、残念ながら、厚労委員会ではさんざん喚起してきたんですけれども、厚労省はこのような提言には後ろ向きのようでした。

 新聞報道によると、麻生財務大臣、後発薬の普及率を二〇一七年度に八〇から九〇%、新薬と後発薬との差額を自己負担にするという提言の採用を求めたとありますけれども、麻生大臣のお考えをお聞かせください。

麻生国務大臣 後発医薬品、いわゆる通称ジェネリックというものの使用の範囲ですけれども、これはお医者の方が詳しいんでしょうけれども、効果が全く変わらぬものが片一方は安くて片一方は高い、何が違うかといったら、こっちは先行薬品で名前が知れておる、こっちは後発薬品で余り名前が知られていないという以外は医学的な効果は全く同じということになっておるという前提になっておるんですけれども、こういうものはいわゆる治療の効果というのを全く犠牲としないで、そして国民の負担が軽くなる、税金も安くなるという話になりますので、極めて効果的な施策なんじゃないのか。

 日本ではこの普及率が約四〇%ぐらいなんですが、これをやると新薬の開発に回す金がどうたらとかよく言う話がありますが、新薬の開発を一番やっておりますのは多分アメリカなんですが、アメリカはジェネリックの普及率は多分九〇%を超えていると思っております。日本はその半分以下の四〇%ですから、これは理屈としては、全然理屈が立っていないんじゃないかな、私はそう思っております。

 これはゆっくり六〇にするとか七〇にするとか言わずに、さっさと、ほかのヨーロッパの国でも七〇、八〇になっているところは幾つもありますので、我々としては、なるべく早く比率を高めるということは、財政という面で、支出の方からいきますと、これは全然国民の医療効果を犠牲にしないでできるものだと思っておりますので、私どもとしては、この使用割合の新目標の設定というのはぜひ早急に高めたものにするべきだという諮問会議の御意見に基本的に賛成をいたしております。

 これは関係大臣、民間議員等々でいろいろな議論を行っておるんですが、経済財政諮問会議において今後さらにどういったようなものが現実的に可能か等々いろいろな話が出てくるんだと思いますので、引き続き議論をしてまいりたいと考えております。

伊東(信)委員 ありがとうございます。大臣から丁寧な御説明をいただきました。

 厚労省にお尋ねしたいんですけれども、後発薬の普及率を二〇一七年度八〇%、九〇%という提言、新薬と後発薬との差額を自己負担にするという提言に対して消極姿勢と感じているんですけれども、なぜそのように消極姿勢なのかをお教えください。

福島政府参考人 お答えいたします。

 平成二十五年の四月に策定しておりました後発医薬品についての数量シェア目標ですけれども、これは平成二十九年、二〇一七年度末で数量シェア六〇%以上という目標設定を決定して、使用促進を図ってきたところでございます。

 先ほど先生の方から御紹介がありましたように、五月二十六日の経済財政諮問会議におきまして、後発医薬品の使用促進をさらに強化するために、達成時期を一年前倒しして平成二十八年、二〇一六年度末までに六〇%以上、さらに平成三十二年、二〇二〇年度末までに八〇%以上、こういう新目標を設定することを厚生労働省としても提案したところでございます。

 この目標の設定に当たりましては、後発医薬品の安定供給や品質の確保についても考慮する必要があるということで、企業におきます生産体制強化や設備投資の状況を踏まえて、この目標値を設定、提案したところでございます。

 一方で、御指摘のような御提案もございますので、今後の諮問会議の場で目標についても御議論いただけるものと承知しております。

伊東(信)委員 効率と安全性に関して、厚労省の方に責任がかかってくるのはわかるんですけれども、なぜ八〇、九〇パーという提言に対して消極的なのか。安全性と有効性の確立の時期というのはよくわかるんですけれども、ちょっと残念ながら腑に落ちないというところが私の感想でございます。

 ジェネリック医薬品の使用促進が前提であるんですけれども、ジェネリック医薬品がこのように数値設定され、目標を前倒しにするという議論がされること自体は喜ばしいことだと思います。

 もうさんざん委員会で申し上げていますバイオ医薬品の後続品であるバイオシミラー、このバイオシミラーの使用促進に関しまして、バイオ医薬品が高額なために、バイオ医薬品を使用している患者さんの大半は高額医療制度や公費助成制度を使っております。ですので、先ほどの民間議員の提言していた新薬と後発薬の差額を自己負担にするのを採用したとしても、自己負担額は変わりません。ですので、バイオシミラーの使用促進はなかなか進んでいないのが現状であります。

 厚労省は、二〇一七年度末までに後発医薬品のシェアを六〇%以上とする、一年前倒しを二〇一六年度末までに達成するとしています。民間議員の提言に三年おくれでありますけれども、二〇二〇年度までに後発医薬品の普及率を八〇%以上にするとの目標も策定しております。この後発医薬品の普及率八〇%以上という中にバイオシミラーは含まれているのか、もう一度お尋ねしたいと思いまして、お聞きします。

福島政府参考人 お答えいたします。

 現在の目標値にもバイオシミラーは含まれておりますし、また、先般、経済諮問会議におきまして提案した新目標におきましても、バイオシミラーはこの数値の中に含まれているということでございます。

伊東(信)委員 済みません、バイオシミラーが全体に含まれているのではなくて、バイオシミラーに関して、バイオシミラー単独で数値目標を設定すべきだというのが私の趣旨なんですけれども、単独で数値目標というのは設定されておるのでしょうか。

福島政府参考人 これは後発医薬品全体の数量シェアということでございますから、バイオシミラー単独ではございませんで、後発医薬品の全体の中、分母の中にもバイオシミラーが含まれる、あるいは分子にもバイオシミラーが含まれる、そういうことでございます。

伊東(信)委員 しつこいようですけれども、バイオシミラーに関しては、バイオシミラー単独で数値目標を設定すべきだと私は考えております。

 通告はしていないんですけれども、社会保障費抑制という観点からのバイオシミラー促進に関して、数値目標を単独でした方がいいのではないかという考えにおきまして、麻生大臣のお考えをお聞かせください。

 もう一度言います。済みません。

 ジェネリック八〇%の目標はあるけれども、その中に全体としてバイオシミラーは含まれている。しかしながら、私は、バイオシミラー単独で八〇%というような数値目標を設定すべきだと考えております。厚労省からのお考えでは、バイオシミラー単独で数値目標は設定していない。ただ、社会保障費抑制という観点からは、バイオシミラー八〇%の数値目標を設定すべきだと考えております。

 通告はしておりませんのでまことに申しわけないですけれども、麻生大臣のお考えはいかがでしょうかということです。

麻生国務大臣 これはまだきちっと決まっているわけではないので、ちょっと今この場でうかつなことは言えませんので、厚生労働省とよく協議をした上で改めて御答弁申し上げます。

伊東(信)委員 ありがとうございます。

 通告をしていないことに関して本当に申しわけなく思っておりますが、もう一点、けさの日経新聞だったので、社会保障費抑制という観点からお聞きしたいんです。

 たばこ、酒、砂糖への課税強化というニュースが出ておりまして、保健医療二〇三五策定懇談会がまとめたものであり、近日中に厚労大臣へ提出するとありました。

 報道を見る限りですけれども、厚労省は財務省と調整を図りたいなどと、この施策に関しては前向きのように感じました。国民の病気を予防するために、健康を損なう可能性があるたばこや酒、砂糖の課税強化を求めた。日本では、たばこ税や酒税はあるが、砂糖だけに関して税はございません。ビールだったら一缶七十七円、たばこ一本だったら十二円というふうに課税されていますけれども、砂糖は消費税のみです。

 確かに健康対策という観点はありますけれども、健康対策という、まるで水戸黄門の印籠のようなものを掲げれば何か世間の理解も得られやすいように感じるんですけれども、日経新聞にも「健康増進へ課税」といったような観点で書いていました。しかし、安易に課税に走るのではなく、それよりもっと削れる部分がたくさんあるように感じます。国民に痛みを強いるまでもなく社会保障費を抑制できる方法があるのに、このように安易に増税に走ることに対する麻生大臣の感想をお聞かせください。

麻生国務大臣 社会保障の中で、これは先生の方がお詳しいんだと思いますが、予防という観点からいきますと、七十五歳以上で病気にかからない、病気にかかる方の比率は七十五歳を過ぎると急激に上がってくるんですが、これにかなり地域性があるというのは御存じかと思います。最近少し違いますが、昔は、一人当たりの医療費が一番かからないのは長野県だった。今は、無体なんかがふえましたので、不健康なのがふえてきたせいもあるんでしょうけれども、昔ほどじゃなくて、今は別の県が一番安くなっているんだと思います。逆に一番かかるのは福岡県だったので、それで記憶があるんです。

 医療費がかからない、予防的によく歩いているとか健康とかいう方の払っている税金でいいかげんな人たちの医療費を全部面倒見ておることになるのはおかしいじゃないか、昔からこの議論はあります。体がもともと悪い方とか、病気でとか、けがとか、そういうのは別にして、いわゆる不摂生からなってきているのはおかしいじゃないかというので何とかしろというのは、私が当選した三十年ぐらい前からよく聞かされた話なんです。

 それに対して、今、たばこの話が出てきておりますが、たばこの税金も上げるべしという話は、政調会長でしたが、十二年ぐらい前にたばこを上げたときがあるんです。総じて上げるべしという方もいらっしゃるんですが、たばこを吸っておられる方というのは私が当選したころは成人男子の七八%ぐらいだったんですが、今はもう四〇%を切って、三十何%まで減っております。では、肺がんが減ったかといえば、肺がんは約三倍にふえております。たばこを減らしたからといって肺がんが減ったかというのは全然立証できない数字になっておりますので、本当に効果があるのかというのはなかなか難しい御意見で、これは反論されるとなかなか私ども言いにくいところなんですが、いずれにしても嗜好品でもありますので。

 お酒とたばこについての税金というのは、税収からいきますと、たばこだけで二兆七、八千億あると思います。そのうち半分が地方税で、一兆四千億ぐらい地方に行きます。これは結構地方にしては大きな財源の一つでもありますので、これを全部やめちゃうというのはなかなか簡単にはいかぬ話でもありますので、だったら税金を上げろというお話なんですけれども、どの程度までかというのは千差万別、意見が分かれるところなので、ちょっとこの場で即答できるような種類のものではございません。その点は御理解いただければと存じます。

伊東(信)委員 まことにありがとうございます、通告もしていないのに御丁寧にお答えいただきまして。

 私の申し上げたいことは、国民の安全、健康、これは国として図るものであると。しかしながら、現場として社会保障費を、私がいてる医療の現場でもやはり無駄をまだまだ削れる部分があるのではないかということの提言だと理解していただければ幸いです。

 今週末、静岡県の浜松市で日本ジェネリック医薬品学会の学術大会が行われまして、またそこへ行ってヒアリングして、意見交換してまいります。予算委員会、厚生労働委員会、そして財務金融委員会にてバイオシミラーに関する質疑を行いましたので、次は経済財政諮問会議の民間議員の方に私からバイオシミラーの陳情をしたいと思っております。

 財政健全化に対する思いは与党も野党も同じなので、これからも財政健全化につながるような提言を財務金融委員会にしていきたいと思います。

 本日は、ありがとうございました。

古川委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後四時二分散会


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