衆議院

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第27号 平成18年6月2日(金曜日)

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平成十八年六月二日(金曜日)

    午前九時三十一分開議

 出席委員

   委員長 岸田 文雄君

   理事 大村 秀章君 理事 鴨下 一郎君

   理事 北川 知克君 理事 谷畑  孝君

   理事 寺田  稔君 理事 園田 康博君

   理事 山井 和則君 理事 福島  豊君

      新井 悦二君    井上 信治君

      石崎  岳君    上野賢一郎君

      加藤 勝信君    川条 志嘉君

      木原 誠二君    木村 義雄君

      清水鴻一郎君    菅原 一秀君

      杉村 太蔵君    高鳥 修一君

      戸井田とおる君    冨岡  勉君

      西川 京子君    林   潤君

      原田 令嗣君    平口  洋君

      福岡 資麿君    馬渡 龍治君

      松浪 健太君    松本  純君

      三ッ矢憲生君    御法川信英君

      やまぎわ大志郎君    岡本 充功君

      菊田真紀子君    郡  和子君

      仙谷 由人君    田名部匡代君

      古川 元久君    松木 謙公君

      三井 辨雄君    村井 宗明君

      柚木 道義君    上田  勇君

      高木美智代君    高橋千鶴子君

      阿部 知子君    糸川 正晃君

    …………………………………

   議員           古川 元久君

   議員           山井 和則君

   議員           鴨下 一郎君

   議員           大村 秀章君

   議員           福島  豊君

   議員           斉藤 鉄夫君

   厚生労働大臣       川崎 二郎君

   厚生労働副大臣      赤松 正雄君

   厚生労働副大臣      中野  清君

   厚生労働大臣政務官    西川 京子君

   厚生労働大臣政務官    岡田  広君

   政府参考人

   (総務省大臣官房審議官) 綱木 雅敏君

   政府参考人

   (厚生労働省大臣官房審議官)           大槻 勝啓君

   政府参考人

   (厚生労働省健康局長)  中島 正治君

   政府参考人

   (厚生労働省社会・援護局長)           中村 秀一君

   政府参考人

   (厚生労働省年金局長)  渡辺 芳樹君

   厚生労働委員会専門員   榊原 志俊君

    ―――――――――――――

委員の異動

六月二日

 辞任         補欠選任

  木村 義雄君     やまぎわ大志郎君

  戸井田とおる君    馬渡 龍治君

  原田 令嗣君     三ッ矢憲生君

  岡本 充功君     松木 謙公君

同日

 辞任         補欠選任

  馬渡 龍治君     戸井田とおる君

  三ッ矢憲生君     原田 令嗣君

  やまぎわ大志郎君   木村 義雄君

  松木 謙公君     岡本 充功君

    ―――――――――――――

六月一日

 職業能力開発促進法及び中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第六六号)(参議院送付)

 薬事法の一部を改正する法律案(内閣提出第六七号)(参議院送付)

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律案(内閣提出第六八号)(参議院送付)

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出第七六号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 政府参考人出頭要求に関する件

 戦傷病者等の妻に対する特別給付金支給法及び戦没者等の妻に対する特別給付金支給法の一部を改正する法律案(内閣提出第三九号)

 社会保障に関する日本国とカナダとの間の協定の実施に伴う厚生年金保険法等の特例等に関する法律案(内閣提出第八〇号)(参議院送付)

 薬事法の一部を改正する法律案(内閣提出第六七号)(参議院送付)

 がん対策基本法案(古川元久君外四名提出、衆法第一六号)

 がん対策基本法案(鴨下一郎君外三名提出、衆法第二九号)


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     ――――◇―――――

岸田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、戦傷病者等の妻に対する特別給付金支給法及び戦没者等の妻に対する特別給付金支給法の一部を改正する法律案及び内閣提出、参議院送付、社会保障に関する日本国とカナダとの間の協定の実施に伴う厚生年金保険法等の特例等に関する法律案の両案を議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、政府参考人として総務省大臣官房審議官綱木雅敏君、厚生労働省大臣官房審議官大槻勝啓君、健康局長中島正治君、社会・援護局長中村秀一君、年金局長渡辺芳樹君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

岸田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

岸田委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。村井宗明君。

村井委員 民主党の村井宗明です。私は、戦傷病者の妻に対する特別給付金の問題、そして、今回の日本・カナダの社会保障協定について質問をさせていただきます。

 私たちが、この平和な日本という国、そして今の文化、これを受けられるのも、やはり戦前の多くの方々のおかげによるものです。そして、私たちは、それに対して敬意と感謝の念を持って過ごしていかなければなりません。そういった問題の中で、さまざまな議論がありますが、やはりこの戦傷病者の妻の方々に対しても、特別給付金などによって慰藉の念をしっかりと出していかなければなりません。

 さてそこで、戦後六十年もたって、今回、戦傷病者の妻に対する特別給付金継続支給、もちろんそれでいいと思うんです。その上、かつ額面において十年国債を九十万円から百万円に十万円アップする理由について、私はお伺いしたいと思います。そして、今回、対象件数と今回の措置に係る予算は幾らぐらいなのか、お答えください。

中村政府参考人 お答え申し上げます。

 戦傷病者等の妻に対する特別給付金、これは、戦傷病者等である夫を支え家庭の維持等に努めてきた戦傷病者の妻の精神的痛苦に対し特別の慰藉を行うため、委員からお話ございましたように、昭和四十一年に創設されてきているものでございます。

 現在、平成八年から十年償還の特別給付金国債が支給されており、その償還が本年終了いたしますので、国といたしましても、引き続き慰藉を行うために、特別給付金を継続して支給することといたしたものでございます。

 額面につきまして、最高額九十万円を百万円に今度引き上げる、その理由いかんということでございますが、従来、特別給付金の額につきましては、戦没者等の妻に対する特別給付金との均衡を考慮し、そちらの方の額は平成十五年に最高二百万円となっております。そこで、十五年におきましてこちらの方の特別給付金が百八十万円から二百万円に引き上げられた、そういうことが行われておりますので、それとのバランスを配慮いたしまして、今回、九十万円から最高百万円、こういうふうに引き上げを提案させていただいているところでございます。

 対象件数は、約四万一千件と見込んでおります。国債費の総額は、十年間で百七十九億円と見込んでいるところでございます。

村井委員 大臣はよく、日本の財政状況が厳しい、そういった理由から障害者の費用それから自己負担などを上げてまいりました。しかし、やはりこの平和な社会をつくっていただいたことに感謝をすること、そういったことを考えれば、この問題はしっかりと維持していかなければならないと考えています。

 私は戦争を知らない世代です。しかし、この平和な今の日本の現状に、単にこれを当たり前と思うんじゃなくて、戦前の方々そして戦争中の方々の苦労、そういったものをしっかり受けとめながら感謝をしていきたいと思います。

 その上で、今後、この制度についての見直しはどのように考えられますでしょうか。大臣、お答えください。

川崎国務大臣 私も戦争を知らない世代でございます。

 初当選が二十六年前になりますので、当時、傷痍軍人の皆さん方はまだまだお元気でございました。足の悪い方、手が戦争で傷ついた方々、いろいろな方々がございましたけれども、元気に戦前のいろいろなお話、戦後の苦労のお話を私どもにしてもらい、また国というものを我々に語りかけてくれた先輩でございましたけれども、大変年になられたなと。最近お会いしますと、正直申し上げて、あの方はどうしたという話をすると、実はねという話が返ってきたり、そういう意味では大変少なくなられてきた。

 そういった意味では、国としてもできるだけのことをさせていただかなきゃならない。戦没者等の妻に対する特別給付金が二百万円ということで、そういったことから、その均衡を考慮して、最高百万円という形で今回御提案をさせていただいているところでございます。

 この特別給付金は、これまで国債の償還終了の都度、戦傷病者等である夫を支え家庭の維持等に努めてきた戦傷病者等の妻の精神的痛苦等を踏まえ措置されてきたということでございます。そういった意味では、今回の特別給付金が最終償還を迎える時期に改めて検討いたすことになるだろうと考えております。

 十年間の推移、皆さん方ができるだけお元気で暮らしていただきたいとの思いを込めながら、しっかり推移を見詰めながら判断をしていかなきゃならぬ、こう思っております。

村井委員 さて、この制度についての具体的なことを少しお伺いしたいと思います。

 この特別給付金は、戦時中現地で婚姻していた妻の方にはどうなるのか、そして、戦傷病者が再婚した場合、再婚した奥さんにも支払われるものなのかどうなのか。さらに言えば、再婚した奥さんが外国人の場合はどうなんでしょうか、さらに、内縁の奥さんだった場合はどうなんでしょうか。お答えください。

中村政府参考人 お答えを申し上げます。

 戦傷病者の方が再婚された場合につきましても、もちろん、戦傷病者の特別給付金の支給の要件がございますので、そういう要件に該当しておりますれば、再婚ということであってもその奥様に特別給付金が支払われる、こういうことになります。内縁の妻である場合につきましても、特別給付金が支給されることになります。特別給付金の支給につきましては、一定の基準時点がございますので、その基準時点で要件が該当すれば支給される、こういうことになっております。

 それから、奥様が外国の方の場合どうかというお話でございますが、これは法律上、支給要件が日本国籍を有することとなっておりますので、日本国籍を有しておられない方については支給の対象にならない、こういうことになっております。

村井委員 支給対象者の年齢分布は調査していないというふうに聞いているんですが、最高年齢、最低年齢というのはちょっとわからないという返事でした。きのうそう聞いたんですが、大体の平均年齢、これを教えていただけませんでしょうか。

中村政府参考人 お答え申し上げます。

 戦傷病者の方の年齢は把握しておりまして、七十歳未満の方百四十八人から、九十五歳以上四百七人まで分布されております。その方の平均年齢が平成十七年の三月時点で八十四歳となっております。

 奥様の方の年齢は正確には把握をしておりませんけれども、八十四歳の夫の方の妻の全国的な平均年齢は七十八歳、こういうふうにされておりますので、その平均と同じ分布であれば、七十八歳程度が平均の方ではないかと考えております。

村井委員 さて次に、重症者と軽症者の割合についてお伺いしたいと思います。

 軽症者の場合、額面が二分の一相当支給されるというふうに聞いていますが、それぞれ支給される人の数はどのぐらいなのか、そして平成八年の措置期間においての人数、それと同時に、軽症者の妻も途中から支給対象になったのはどういった経過からでしょうか。

中村政府参考人 お答え申し上げます。

 まず、重症者あるいは軽症の方の件数でございますが、平成八年に国債を受給された件数で申し上げますと、重症者が二万三千件、軽症者が三万六千件になっております。

 昭和四十五年に、軽症者につきましては、戦傷病者戦没者遺族等援護法に基づく障害年金が、支給対象が第五款症まで、これは障害の区分の定義でございますが、軽い方の第五款症まで拡大する改正が行われましたので、昭和四十六年にこちらの方の妻の特別給付金も支給対象を拡大したものでございます。

 御説明が前後して申しわけありませんでしたが、重症とは特別項症から第六項症まで、また第一款症程度の障害を重症と言っておりまして、軽症とは第二款症から第五款症までの程度の障害であるということでございます。

 もう一度経過を申し上げますと、特別給付金については、昭和四十四年に第二款症及び第三款症が、昭和四十五年に第四款症が、そして、昭和四十六年に、ただいま申し上げましたように第五款症が支給の対象に加えられた。つまり軽度の方の範囲が広がってきておるわけですが、これはすべて援護法に基づく障害年金の支給対象の拡大後に特別給付金の要件も拡大した、こういう経過になっております。

村井委員 次に、公務傷病による死亡というところについてお聞きしたいと思います。

 戦争による受傷や戦地による病によって死亡することがあれば、それだけのお金のシステム、そういったものをつくられますが、戦後六十年たった今の時点で、どうして今から戦争による公務傷病で死亡ということが起き得るのか、どういったケースを想定されているのか、そして、実際それは現在何人ぐらいなのかについてお答えください。

中村政府参考人 まず、最近のこういったケースの対象者の方の人数でございますが、基準時点が平成十五年でございますので、新たに平成十五年以降この支給対象になった件数は十六件となっております。

 三月三十一日までに新たに支給対象になった方はその件数でございますが、どういうケースかということでございます。

 具体的にあったケースで申し上げますと、軍人として勤務中に、昭和二十年に肺結核に罹患され、これは公務傷病になるわけですが、その方が肺結核後遺症による呼吸不全により死亡したケースがございます。この方は平成十四年に亡くなられておりますが、そういったケースが近年のケースでございます。

 また、結核の後遺症の事例のほか、軍人として負傷した際の輸血により肝炎に感染し、最近になって肝がんにより死亡した例、こういった例がございまして、件数は先ほど申し上げましたように十六件程度でございますが、委員お尋ねのようなケースが現在も発生している、こういうことでございます。

村井委員 戦傷病者の妻に関する特別給付金の件、ありがとうございました。これまでのこの厚生労働委員会は非常に激しいものでしたが、非常に温和で、そしてしっかり答弁いただくことにありがとうございます。

 次の課題へ行きたいと思います。日本とカナダの社会保障協定についてです。

 最初に確認しますが、この社会保障に関する国際的な取り決め、こういったものをつくっていく意義は一体何でしょうか。

川崎国務大臣 まず、国際的な人的交流が活発化し、海外へ派遣される日本人及び各国から来日する外国人が増加いたしてきております。今、日本人で海外で働かれている方は六十五万人と考えております。派遣元と派遣先の二カ国の年金制度に対して保険料を支払う義務が生じる、すなわち二重負担がございます。第二の問題として、一方の国における加入期間が短いため、年金の受給に必要な期間を満たさず年金を受給できない、すなわち掛けても保険料の掛け捨てになってしまう。この二つの問題が企業及び個人にとって大きな負担になってきておると考えております。

 そういった中で、お互いの話し合いを詰めながら了解に至った国同士、順次国会に法案を提案しながらやらせていただいているところでございます。そういった意味では、今回、カナダとの間でしっかりとした議論が詰まりましたので、御提案をさせていただきました。

村井委員 そういった社会保障に関していろいろな世界と協定を結んでいく、それがグローバル社会に対応できる本当に日本のあるべき姿だと思います。

 ただ、今回、カナダで七番目と聞いています。ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、そして今回のカナダで七番目と聞いていますが、今後のそういった国を拡大していく見通しは一体どのようになっておられますでしょうか。そして、今現在、どういった国々と交渉しておられるんでしょうか。お願いします。

渡辺政府参考人 お答え申し上げます。

 御指摘のとおり、社会保障協定につきましては、これまで七カ国でございます。そして、現在どういうところと交渉しているかという御質問でございますが、現在、政府間の協定交渉を行っておりますのは、オーストラリアとオランダでございます。また、現時点では、イタリア、スペイン、チェコなど数カ国から協定締結に向けた協議の申し入れを受けている、こういう状況にございます。

 協定締結につきましては、今後とも、在留邦人あるいは進出日系企業等に対する相手国の社会保障制度の適用の状況がどうなっているか、それから我が国と相手国の社会保障制度の違いということを相互によく認識しなければいけない、その上で、二国間の外交関係等を総合的に考慮しながら、外務省とも十分相談して着実に進めていくこととしておるところでございます。

村井委員 この日本とカナダの社会保障協定によって、両国に行ったり来たりしていた人、そういった方などの年金の二重払いが防げるというふうに聞いています。

 具体的にはどのぐらい経済的負担が軽減されるのか、そしてどのぐらい効果が生じるんでしょうか、お答えください。

渡辺政府参考人 今般の日本とカナダの社会保障協定における日本側の保険料負担の変化でございますが、負担軽減という効果が出ると見込んでおります。

 現在日本からカナダに派遣されている企業駐在員等で両国の年金制度に二重に加入している者の数でございますが、平成十七年に在カナダ日本商工会が行った実態調査によりますと、約九百人と推計されております。一定の前提のもとに保険料負担の軽減額を推計いたしますと、約三億円の負担軽減になろうかと考えております。

村井委員 いつもは五、六問で激しいやりとりをして三十分たつんですが、通告してあった約十問がもうすっと行きました。予備質問で通告してあったところへ行きたいと思います。もとに戻りますね。戦傷病者の妻に対する特別給付金のところで、予備質問のところへ戻ります。

 なぜ現金給付でなくて国債で支給するのか。国債で支給されることになった経緯は何でしょうか。(発言する者あり)

中村政府参考人 お答え申し上げます。

 この特別給付金、戦没者の方に対しましても、戦傷病者の方に対しましても、一定の基準日においてそういった状況にある方について慰藉を表明するということで、特別措置である一時金として支給をする、こういう方式を制度創設当時からとっているところでございます。

 国としての慰藉の念が受給者の方々に一層実感されるようにする、こういった観点から国債による支給が行われているということで、この戦傷病者の妻に対する特別給付金につきましても、昭和四十一年の制度創設時から行われているところでございます。

村井委員 時間が余ったら社保庁をやれというふうに自民党の方から声が上がってまいりました。ただ、法案じゃないので、社保庁の問題でちょっと確認だけさせていただきたいと思います。

 前回から質問していて、後日資料を出す、後日資料を出すと言っていただいた件なんですが、国民年金推進員のノルマが課題となっていました。AランクからEランクまで、それぞれどれだけ点数をとったかによって評価が変わるという話になっています。

 この人たち、もし免除の方が、普通に収納するよりも、通常の収納よりも給料が上がるとしたらおかしいですねという話がありました。多くの国民年金推進員からは、実際、今回の免除の問題、おかしな評価基準によってなっているんですよという話、民主党のプロジェクトチーム、追及チームに寄せられました。社保庁の人に聞いたら、いや、そんなことないと思いますけれどもと。国民年金推進員、確かにAランクからEランクまで、余りポイントを稼げない人は何と十四万円という月給、安い月給になってしまう、そういうふうに話がありました。

 もちろん、社保庁さんが言っているように、そういったノルマの中で、通常の収納よりも免除の方がポイントが高いなんということはないと思いますよねと言ったら、まあ多分そうだと思うんですけれどもというふうに言っていました。

 そこで、ちょっとこの評価基準を取り寄せてみました。この国民年金推進員の給与及び勤勉給与の評価基準、評価度数という数字があります。評価度数が何点かによってAランクからEランクに分かれて給料が変わるわけです。言われたとおりでした。多くの国民年金推進員の方々が困っていると言ったとおりの数字が私の手元に来ています。通常の収納をしても評価度数一・〇点、免除を受理すれば二・〇点、免除をした方がまさか評価基準が高くなるなんということはないですよね。

 そこで、客観的な事実だけ確認をさせてください。

 この給料のための給与評価基準、評価度数、国民年金推進員においては、通常の収納の評価度数は何点ですか。そして、免除の評価度数は何点ですか。客観的な数字をお答えください。

渡辺政府参考人 質問の御通告をいただいておりませんでしたので担当の社会保険庁も来ておりません。改めて、戻りまして確認し、先生に御連絡申し上げたいと思います。

村井委員 残念ですが、きのうの夜、宿舎にまで電話をしてきてこの質問を確認しております。また、きのうファクスを入れております。何度も電話をして確認をいただいていますし、こちらからもファクスを入れています。

 さて、社会保険庁じゃなくても結構です。ここにあるペーパーをお渡しします。

 では、川崎厚生労働大臣にお聞きします。

 免除の場合の評価度数は何点ですか。そして、通常の収納の場合の評価度数は何点でしょうか。

川崎国務大臣 このまま読みますよ、教えていただきましたので。

 面談をすると評価一・〇、収納月数、未納分・前納分三・〇、これに月数を掛けるんでしょうかね。そうでしょうね、収納月数で。例えば、三カ月分もらえば、未納とか前納分は九・〇という評価になるんでしょうか。通常分・追納分一・〇、口座振替獲得件数、これはもう続いていきますから、二十・〇、免除等受理件数二・〇ということでございます。

村井委員 大臣、今おっしゃられた部分、通常の収納分、一・〇と大臣がおっしゃられました。免除の場合の評価度数、二・〇とおっしゃられました。さて、その通常の収納分と免除の収納分、どちらが評価が高いですか。

川崎国務大臣 正確な答弁になるかわかりませんから、間違ったらごめんなさいね。

 例えば、通常分で一年分預かるということになると、多分十二・〇になるんでしょう。それから、未納分で一年分全部もらってくれば三十六・〇になるんでしょう。それから、免除は一年間ですから、一年間全部これを受け取れば二・〇ということになるので、こっちは月数が掛からない。収納月数には多分月数が掛かるんでしょうから、多分、単純に考えれば、収納の方が高い評価基準になっているんだろうと思います。

村井委員 そんな中で、すぐその月にいったときに、その通常の収納分一・〇、そして免除をすれば二・〇、こういった実態、免除の方がその月において評価の点数が高い、この部分について大臣はどのように考えられますでしょうか。

川崎国務大臣 今申し上げたように、未納分、収納月数(未納分)、三・〇と書いてありますから、さかのぼって集めることができたら一カ月当たり三・〇もらえる。対して、一年分の免除等受理件数を受ければ二・〇。それから、通常分、要するに、これから毎月分ですね、一カ月分もらってきたら一・〇という評価ですから、一年分きちっともらえば十二・〇。したがって、一年分の届け出件数と比較すれば十二・〇対二・〇。

 それから、仮定の質問として今委員が言われた、きょうやった行動によって一カ月分とこの免除受理ということになれば、二・〇対一・〇ということになるんでしょう。

 ただ、私はこれは見て申し上げているだけだから、正確なところは担当者から説明させに行かせます。

村井委員 そして最後に、何度もこの委員会で争点となりました、実際にこの不正免除の中で、二種類ありました。一つは、直接的に機械に免除を入力したもの、免除のコードを入力したもの、そしてもう一つは、免除の申請書を勝手に書いて出したものです。

 もちろん、今すぐそのデータの数字を言ってくださいと言ってもなかなか答えられないのはわかります。村瀬長官は、その数字は、先週の金曜日の質疑の時点で、あしたの事務局長会議が終わってから公表しますと言っていました。残念ながら、その数字はまだ届いていません。

 今後は、そういった、実際に機械に直接入力したものと、もう一つは免除の申請書を偽造したもの、それぞれどのぐらいの比率になるかというのは、当然この集中質疑の前までに資料を出していただけますよね。約束どおり資料を出していただけるという確認だけお願いします、大臣。

川崎国務大臣 たしか、提出した資料もしくは報道にも発表いたしました資料で、大阪等、今委員がお話しいただいた第一のケースですね、直接コンピューターに処理をしてしまって、申請書というものは一切代理にいたしてもない、その件数、それから、今度は申請書類があって、そのものによって処理をしたという件数、それから三番目、一回そういう形で、書類を代理で書いてあるけれども、実際に判こをついてもらって返ってきたものの書類によって処理をしてきた、こういう三通りぐらいに分けて全体の数としては出させていただいたと思っております。

 ただ、あえて申し上げれば、そのときの聞き取りの概要を御説明したわけで、長官自身が各所、各事業所に行って目で確認した数字ではありませんので、より一層、目で確認した上で最終的なものを出さなきゃならぬ。

 要は、十一万件のより詳細な内容、データを出せということでしょう。それから、できるだけ報告ではなくて目で検証した上で出せという御議論だろうと思いますから、できた時点でそれぞれ委員会にお示ししていくことは当然のことであろうと思っております。

村井委員 国民の関心はこの不正免除に集中していますが、それだけでなく、今回テーマとなった戦傷病者の妻に関する特別給付金、そして、日本・カナダの社会保障協定についても我々はしっかり取り組まなければならないということを申し上げ、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

岸田委員長 次に、高橋千鶴子君。

高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 まず、今回議題となっております二法案については、私たちもいずれも賛成であります。とりわけ、日加年金特例法については、海外で就労された方が加入期間の通算措置や年金保険料の二重払いとならないように二国間で調整するための協定でございますので、当然のことであろう、このように認識しております。

 そこで、戦傷病者等の妻に対する特別給付金支給法及び戦没者等の妻に対する特別給付金支給法の一部改正についてでありますけれども、日本傷痍軍人会と傷痍軍人妻の会から、本年五月をもって最終償還を迎える戦傷病者の妻に対する特別給付金について、その継続と増額が要望された、そうしたことを受けたものと承知をしております。

 そこで、先ほど村井委員の質問に対しても、予算のことをお話しされておりました、現在百七十九億円でありますけれども、この間、四回額面を上げております。そういうことをまず踏まえて、制度発足時の昭和四十一年と比較して、対象となる方の人数と予算額がどのように変化をされているのか、まずそのことを伺いたいと思います。

中村政府参考人 お答え申し上げます。

 この法律は、長年にわたり障害のある夫の日常生活上の介助、看護、家庭の維持等の大きな負担に耐えてきたことによる精神的痛苦におこたえするために給付するものでございまして、委員からお話ございましたように、昭和四十一年にスタートいたしております。

 昭和四十一年のスタート当時は、額面が十万円、対象件数は十一万二千件でございまして、予算の所要額は九十億円でございました。

 今回御提案申し上げておりますのは、額面百万円、対象件数は四万一千件と減少しておりますが、額面が上がっておりますことから、百七十九億円、こういうふうな所要額になっております。

高橋委員 時代に応じて一定程度引き上げをされてきたということは、非常に大事なことかと思います。

 確かに、スタートされたときは九十億円だった、十万円の額面でありますので。ただ、前回の十年前のときは六十万円から九十万円に引き上げをされておるんですけれども、そのときで予算額が三百七十七億円だったと思います。

 要するに、何が言いたいかといいますと、額面をふやしても対象者がどんどん減っておられる、当然でございます、最初は十一万二千件だったのが、今四万一千件で、対象者がどんどんお亡くなりになられているということがございます。受給者の平均年齢が、戦傷病者本人で八十四・三歳、妻で七十八・四歳と聞いております。私は、大臣にこの後伺いますけれども、多分この事業に限らないと思うんですが、恩給の制度なども、対象者というのは少しずつ、やはりお亡くなりになっているということで縮小をされていくわけですね。

 私は改めてそのことを思うときに、戦争を直接体験し、あるいはこれを支えて苦労された方々が先細っていくことは避けられないわけです。しかし、先ほど紹介した要望書が、戦後六十年の節目の年に当たり、この半世紀を超える長い期間の戦傷病者及びその妻の労苦に思いをいたしと指摘をしているように、戦後の世代がしっかりとその意味を受けとめなければならないと思っております。

 そこで、大臣に改めて、今般、制度を延長並びに拡充された趣旨について、また、戦後六十年を過ぎたといっても、いろいろな意味で戦争の痛手をぬぐえずにいる方々はたくさんいらっしゃると思いますけれども、残された課題、日本の政府にとって今残された課題は何であるか、その点について率直な大臣の御意見を伺いたいと思います。

川崎国務大臣 先ほども村井委員に御質問いただきましたけれども、私も昭和二十二年生まれで、国会議員の中では随分年寄りの部類に入ってきたのかもしれませんけれども、戦後生まれでございます。そういった意味では、戦争を知らない世代が、過去の我々の、戦前行ったものをしっかり受けとめながら、反省すべきものは反省をしながら、しっかりとした日本づくりに励んでいかなきゃならない。これが第一の御遺族の皆さん方や傷痍軍人の皆さん方におこたえする道であろう、第一にこう思っております。

 一方で、御遺族の皆さん方や傷痍軍人の皆さん方、またその家族の皆さん方に対して、国としてできるだけの援助また慰藉の念をささげていくということも大事だろう。また、その歴史的なものをしっかり残したいということで、資料館等をつくらせていただいているところでございます。

 また一方、今一番御下問をいただいておりますのは、遺骨の収集問題について、もう六十年たった、参議院の委員会でも御質問を賜りました、しっかり遺骨の収集をしていくようにと。このことにつきましては、少し今資料が少なくなってきておりますので、資料をしっかり調べながら、遺骨収集に全力を挙げていかなければならない、このように今考えているところでございます。

 一方、韓国からも、当時の歴史を振り返りながら、そうした資料提供をしっかりしてほしい、こういう御要請がございますので、過日、政務官会議の中でうちの岡田政務官から御提案をさせていただいて、外務省初め各省力を合わせながら、総理もたしか韓国の大統領に会われたときに、しっかりやりますとお答えもさせていただいたところでございますので、この問題についてもしっかり取り組んでいかなければならない、このように今考えております。

 また、シベリア抑留者の問題等さまざまな問題がありますけれども、政府としてできる限りのことは努力をしてまいりたい、このように思っております。

高橋委員 今、大臣が遺骨の収集のお話を真っ先にされるとは思ってもいませんでして、週刊誌に書かれたということもこれはあったのかなと。全力で取り組みたいとおっしゃっていましたので、きょうはこのことは触れるつもりはありませんでしたので、ぜひ、今お話しされた遺骨の収集やあるいはシベリア抑留者のその後の問題などについても、本当に残された時間が少ないですので、取り組んでいただきたいと思っております。

 同時に、今の、いわゆる軍人や軍属あるいは準軍属と言われる方たちにかかわるさまざまな課題が、今お話あったようにございます。また、それだけではなくて、例えば、今問題となっております中国残留孤児の問題、あるいは従軍慰安婦の問題など、いわゆる戦争の被害者という点では、まだまだ解決をしていない課題、取り組まなければならない課題というものがたくさんあるだろうということを考えているんです。

 そのことを一つ一つ取り上げると幾ら時間があっても足りないなと思っていたわけですけれども、きょうは、私はそういうふうに思っているということをまずお伝えして、そういう中で、早急に解決すべき大きな課題の一つとして、原爆症認定の問題について伺いたいと思います。

 まず、五月十二日に大阪地裁は、被爆による病気を原爆症として認めないのは不当として、国に原爆症認定却下処分の取り消しと損害賠償を求め、全国十三カ所で争われている集団訴訟の最初の判決として、原告九人全員に勝訴という結果をもたらしました。

 この裁判では、原爆投下後に被爆地に入った、いわゆる入市被爆と言われる方々、爆心地から三・三キロ離れたところで被爆した遠距離被爆の方々も含めて認められたという点で特筆すべき判決であり、また現行の原爆症認定制度の抜本的見直しを迫る内容だったと思っております。しかしながら、原告たちの、またそれを支援されてきた多くの方たちの喜びもつかの間、厚労省はその十日後に控訴をいたしました。

 このことについて改めて抗議をするものでありますが、そもそも、その控訴理由書なるものが出されておりません。文書で私たちは見ておりません。国はなぜ控訴をしたのか、それをまずお聞かせ願いたいと思います。

川崎国務大臣 まず、原爆症の認定は被爆者援護法に基づいて行うものであり、同法では、申請のあった疾病が原爆放射線に起因するものであるかどうかを審査会の意見を聞いた上で判断するものでございます。

 厚生労働省では、医学、放射線学の専門家から構成される審査会において個別の申請ごとに適正に審査をしていただき、その結果をもとに原爆症の認定を行ってまいりました。

 今回、大阪地裁の判決は、こうした国の審査結果と異なる判断をしたことについては意外であり、国の主張が認められなかったことはまことに残念だと考えております。

 原爆症の認定は、申請のあった疾病が起因するかどうかの判断は科学的知見に基づき行うものである、また、最高裁判決によって、起因することが高度の蓋然性をもって証明される必要があるとされております。

 しかしながら、今回の判決においては、医学や放射線学上の一般的な理解と大きく異なる内容となっております。また、高度の蓋然性が証明されているとは考えられない事例を今回は原爆症と認めるべきという判決であったと思っております。

 こうしたことから、今回の判決は受け入れることはできず、控訴が必要と判断いたしたものでございます。

高橋委員 大臣は、第一報を受けての会見では、判決について、これから精査をするということを発言されております。時間も一定程度たちましたので、その判決要旨をお読みになられたのかどうか、これをまず一つ。

 それから、高齢でもある原告の皆さんが、やはり直接大臣に会って実情を聞いてもらいたいということを言っておられたわけですが、残念ながら達せることができておりません。これからでも会っていただくお考えがあるのかどうか、伺いたいと思います。

川崎国務大臣 判決内容については、今申し上げたような見地から十分精査した上で、もちろん、私だけではなく、関係省庁とも協議をしながら今回の結論を出したということで御理解を賜りたいと思います。そういった意味では、高裁の判断をいただくということになるだろうと思います。

 一方で、そういう意味では、私と、多分、今回の判決について訴えられている方々も控訴されたと聞いておりますので、両方ともが控訴したという結果になっておりますから、裁判所で争う当事者同士になっておりますので、お会いをして話をするというよりは、裁判所でしっかりとした議論展開をしていくことが大事だろう、このように考えております。

高橋委員 まず一点目ですが、調整をされたとおっしゃいましたけれども、判決要旨そのものはお読みになられておりますか。

川崎国務大臣 概要について読ませていただいております。

高橋委員 次に、控訴されて、当事者同士であるので会えないというお答えだったかなと思うんですけれども、これについては、原告の皆さんたちが、法務省の見解だとおっしゃって、裁判で今やっている最中なのでそれはうまくないんだよという話を聞いたとおっしゃっておりましたから、そういうことなのかなと思いました。

 しかし、大臣は十六日の記者会見で、同じことを記者の方に質問されていますね。そのときに、このようにお話をされております。例えば、ハンセン病の問題については、トップダウンでやったけれども、基本的には、やはり仕事というのは下から積み上げ方式でしょうから、担当局長なり、場合によっては、副大臣、政務官によく話を聞いてもらって調整をしなければならない、時期が来れば、私自身が直接話をするタイミングもあるだろうとおっしゃっております。また、ちょうどきのうは、HIV訴訟の原告団とゆっくり話し合う機会ができたものですから、いい会談がきのうはできたと思っております、そのように述べております。

 大臣は、タイミングというものはあるかもしれないけれども、当然、そういう原告の方たちとも会ったこともあるし、必要だとお認めになっているという発言に私は思いますけれども、その点、いかがでしょうか。

川崎国務大臣 もちろん、どういう時点でどういう政治判断をするか、まさに我々に課せられた一番大きな仕事であろうと思っております。

 今回の判決理由を聞かせていただいて、また、今日まで国が科学的知見によって積み上げてきたものとこの判決の理由というものがかなり乖離するねという中で、控訴をさせていただいて高裁の御判断をいただくべきだろう、このような判断をいたしました。また一方で、原告側も控訴という手続をとられましたので、それでは、高裁においてしっかりとした議論をしてもらった中で、また判断すべきことが出てくれば判断をしなきゃならぬという立場に立っております。

高橋委員 現瞬間では、控訴した直後であるということもありますから、なかなか言いがたいことがあるのかなと。しかし、それは、今私が紹介したように、タイミングということを大臣自身がおっしゃっております。また、非常に残された時間が短いという思いがございます。それは本当に受けとめていただきたいということを重ねてお話をしたいと思うんです。

 私は、判決要旨を読みましたかということを大臣に伺ったのは、私自身も裁判については素人でありますので、いわゆる裁判所の文書というのはなかなか難しいものがございます。ただ、やはり判決が、原告の方が九人いらっしゃって、被爆当時八歳から二十までの方がいらっしゃって、学徒動員や学生さんや当時小学生あるいは当時妊娠されていた、そういうさまざまな方がいらっしゃって、それぞれに置かれた状況、また被爆した状況が違うんですね。それを、お一人お一人丹念に調べていって、また長崎の現地での検証などもやって、いわゆる爆心地からの距離感ですとか、そうしたことなども非常に丹念に調べた上での判決であるということで、非常に私は心を動かされたものであります。

 例えば、深谷日出子さんのところでは、白内障が直接の原因になっているものであるという判決要旨なんですね。もっとたくさんの疾病をされているけれども、この点はもう当然原因だろうとお話をしているわけですけれども、一・五キロの地点にあった広島赤十字病院寄宿舎内で被爆したものであると。ガラス越しに、目に原爆により初期放射線の直爆を受けているとか、被爆後、体にガラスが刺さったまま負傷者の看護活動に従事したものである。土壌による残留放射線の被曝に加えて、飲食物の摂取、または負傷した部位から誘導放射化した物質を体内に取り込んだ可能性も十分に考えられ、脱毛、下痢など放射線被曝による急性症状として説明可能な複数の症状が生じている。

 そうしたことを細かく分析をしまして、この方は、被爆をされる前はそうしたいわゆる健康状態でも特になかったんだ、そうしたことと比較して、原因はそれ以外には考えられないということを指摘されているわけです。

 あるいは、被爆前は健康体で勤労奉仕として男性にまじっての肉体労働にも従事していたのに、体が疲れやすく体調がすぐれない、これは葛野さんという方ですけれども、こうした一人一人の状況について見ております。

 ですから、国が、では、これまでも原爆の裁判はたくさんありましたけれども、それを踏まえて、そういういわゆる機械的ではなく、一人一人の実情に応じてしっかりと認定をするべきだということが指摘をされてきているわけですけれども、それに対して、しっかり受けとめているのかということが問われると思うんです。その点について、もう一度伺いたいと思います。

中島政府参考人 ただいまの点でございますが、私どもの主宰させていただいております原爆症認定審査会におきましても、複数の専門家によりまして、個々のケースについて、現場の状況等も丹念に調べ、また総合的な判断をいただいているというところでございますが、また個々の具体的な問題点につきましては、今後控訴審の場で明らかにしていきたいというふうに考えてございます。

高橋委員 今、個々の方について丹念に調べているという局長のお答えでありましたが、では、今大体二十六万人が被爆者健康手帳を持っているのに、原爆症の認定はまだ二千人足らずと言われております。全体でいうと千人に八人の割合にすぎません。なぜこんなにも少ないのだろうかということを改めて問わなければならないと思うんです。

 まず、整理のために伺いますが、現在の認定状況はどのようになっているでしょうか。具体的な数字でお願いいたします。

中島政府参考人 原爆症の認定についての状況でございますが、平成十六年度について申し上げますと、認定患者数が二千二百五十一人ということになってございます。

高橋委員 非常に少ないと思いますけれども、いかがでしょうか。もう一度。

中島政府参考人 原爆症の認定につきましては、申請のありました疾病が原爆の放射線に起因するものであるかどうかということ、これが起因性が認められる場合に行うものでございます。

 起因するかどうかの判断につきましては、科学的な知見に基づいて行うべきものでありまして、また、最高裁判決によりましても、起因することが高度の蓋然性をもって証明される必要があるとされているところでございます。

 現在、原爆症の認定を受けている被爆者の数は先ほど申しましたようなことでございますが、これは、こうした考え方に基づきまして、専門家で構成される審査会で審査が行われた結果でございまして、これを全被爆者に占める割合で見て数値の大小を議論するということは、必ずしも適当ではないのではないかというふうに考えてございます。

 被爆者の方々に対しましては、従来から、国として幅広い援護施策を講じてきておりまして、原爆症の認定を受けていない方々でありましても、健康診断あるいは医療費の支給、これは自己負担がなくなるということでございます、また、健康管理手当の支給、これは原爆放射線と疾病との因果関係を立証する必要が必ずしもないものでございまして、月額三万三千八百円が支給されておりますが、こういった援護の対策を行っているところでございます。

高橋委員 もちろん、従来から、健康診断を行っているという自治体での取り組みは当然ありますよという今の御報告だったと思いますけれども、それは当然承知をしております。

 しかし、そういう中で、現場から申請が毎年毎年上がってくるということは、やはりそれは原爆症という特殊な病気をあらわしているんだと思うんですね。すぐに出るものではない、十年たって、二十年たって初めてがんという形で出てくる、そうしたことがあるからこそ、現場の医療機関からこうした申請が上がってくるのではないか。そこを、皆さん方は科学的知見とおっしゃいますけれども、本当にそうだろうか。放射線による人体への影響というのはまだまだ未知の分野、全面的に解明されている分野ではないと思いますが、まずその点を伺います。

中島政府参考人 ただいま御指摘ございましたように、原爆症につきましては、毎年申請が数百件、時には千件を超えるというようなこともございますが、申請が上げられてきているところでございまして、これは、原爆症として認定される疾患の性質にもよるというところは、確かにそういった要素はあるのだろうというふうに考えております。

 しかしながら、個々の疾病が原爆の放射線によるものかどうかということにつきましては、放射線医学というものがかなりの長い歴史の中でかなり確実なデータも積み上がってきているというところで専門家の先生方に御判断をいただいているものでございまして、この点については、私ども科学的な信頼性、根拠があるものというふうに考えてございます。

高橋委員 原爆症というその性質にもよるものであるということをまず一つお認めになったと思います。

 それで、国が控訴をした五月二十二日の審査会ですか分科会でしょうかで、この控訴理由についての報告がされていると思います。それで、るる先ほど来大臣や局長がお話をされたように、科学的根拠に基づくものであるとか、あるいは被爆者健康手帳によって独自の取り組みは一定カバーされておりますよとか、そういう報告がされております。その中で、では、一人一人についてよく実情を踏まえて認定手続をされているんですかという質問に対して、こういうやりとりがあったと思います。いわゆる原因確率の問題ですよね、一〇%未満については実際は却下をしておりますと。つまり、これは判決が指摘をしたところの機械的に適用するということをこの分科会の中でも認めていたのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

中島政府参考人 ただいま御指摘の、審査における考え方でございますけれども、原因確率につきましては、これまでのデータから、いろいろな状況での原因確率、放射線によってその疾病が起こる確率というものが計算をされておりまして、それの一〇%というものを目安として使っている、考え方の基本としているということは御指摘のとおりでございます。

 しかしながら、これは先ほども申し上げましたような、最高裁判決におきます高度の蓋然性、つまり、それによって起こった可能性が相当程度にあるということから申し上げますと、その疾病が起こった可能性が一〇%、つまり、九割は違う可能性が高いというような状況まで、ある意味ではその許容範囲としているということから妥当なものではないかということで、先生方の間でも了解が得られているということでございます。

 また、その最終的な判断につきましては、先ほども申し上げましたように、個々のケースごとにいろいろな状況も勘案した上で判断をいただいているということでございます。

高橋委員 高度な蓋然性、これは当然今回の大阪地裁でも踏襲をされております。踏襲をされた上で、あえてやはり機械的に適用するものではないこと、残留放射線による影響や内部被曝の可能性も検討すること、被爆前の生活、健康、行動状態、症状の有無、要するに、前は健康体だったのに、その後に起こったじゃないか、そうしたことを総合的に勘案するべきだということを指摘しているのであります。

 それで、先ほど来、根拠があるんだとか、それから、ちゃんと実情に基づいて調べていると言いますけれども、実際には、まず一つは、一〇%未満は機械的に切っている。それから、行政評価の中で、認定の日数が毎年毎年短縮をしているということで評価をされていると思います。私は、認定自体が時間をかける必要はないというか、長く待たせる必要はないけれども、基準を機械的に適用することによって次から次と決まっていくということであってはならないと思うわけで、本当にそれが正しく認定をされて、そして、被爆者の訴えに真摯にこたえるものになっているのか、そのことも含めて評価をされなければならないと思っているわけなんですね。

 そういう点でも、今指摘をされた残留放射線の問題、内部被曝の問題などについても考慮をされているのか、それを含めて、認定基準についてはもっと見直しをするべきではないかと思いますが、もう一度伺います。

中島政府参考人 先ほどの答弁のやや繰り返しになって恐縮でございますけれども、この審査の方針と申しますか、審査の過程におきましては、その当該申請者の既往歴でありますとか環境因子、生活歴等も総合的に勘案した上で、経験則にも照らして判断をするということで判断をしておるわけでございまして、このような基本的な考え方につきましては先般の認定審査会におきましても御議論がありまして、その方針については変わりがないということで、要しますと、総合的な観点から最終的には審査を行ってきているということでございます。

高橋委員 日本のこの原爆症に対する認定の姿勢というのが、やはり本当に世界的にも大きな影響を与えているのではないか、日本は唯一の被爆国でありますから、本当にこの点を実証できるといいましょうか、被爆の体験を実証できる国はほかにはないわけであります。だからこそ非常に日本には大きな責務があるのではないかと思うんですね。

 昨年の九月にチェルノブイリ・フォーラム国際会議というのが行われて、国際原子力機関、IAEA、それから世界保健機関、WHOが共催で、チェルノブイリ事故が周辺諸国に与えた環境汚染や健康影響など、さまざまな分野で専門家が検討される、そういう場があったわけですが、私は、この会議の中で日本の戦後六十年の被爆者のいわゆるデータがこの研究の中に反映をしている、そのことによって報告も大きく影響しているということを改めて考えさせられました。

 会議の中で報告をされたのは、原子炉周辺三十キロメートル以内の高レベル汚染地帯を除いた地域の汚染は、現在では健康影響が無視できるレベルまで回復した。事故に起因した小児甲状腺がんは、三共和国で約四千例発症したが、発症のピークは越えており、死亡例は九例であった。また、甲状腺がんを除いた事故に起因した固形がんによる死亡リスクは四千人と推定された。

 私は、この数字に本当に愕然としまして、本当にこんな数字をまともに信じているのかと思いましたが、私だけではなく諸外国から、マスコミなどもこれに大変注目をして、余りにも過小評価でないかということが指摘をされておるし、またそうしたことも踏まえて最終報告も延期をされているということがあると思います。

 私は改めて、本当にこの原爆というものは二度とあってはならないし、ですから、客観的に評価をするといっても、もう一度原爆を落として実験するわけにはいきません。そういう中で今できることは、原爆による被害を、正しくデータを見て、それをどうこれからのやり方に生かしていくのかということが本当に問われるのではないかと思うんです。

 このWHOとIAEAの会議には、いわゆる放影研の研究が反映をされております。日本で原爆症を小さく見るということが世界でも大きな影響を与えます。私はそういう意味でも、日本が持っている責務というのはほかにはないものだということをまずしっかり認識する必要があると思います。そのことを踏まえて、原子力安全委員会などでもいわゆる放射線の低線量被害について分科会もあり、ずっと審議をされております。

 私は、青森県の出身でありますので、いわゆる原子力半島になりつつあるそういうところにいて、被曝という言葉がこれからの課題として実感を持っている県民の一人であります。もちろん原爆の被害と原発がもたらす被害とは全く質の異なるものではありますけれども、しかし、ここに携わる方たちが常に起こり得る問題だとして十分な研究をされていることは、承知のことだと思うんです。

 そして、原子力安全委員会の中でも、いまだに放射線の影響というのはまだまだよくわからないということを踏まえた上で研究をされていると思うのですけれども、そうした点で、まず、まだよくわからないということでどうか、そして、日本が唯一の被爆国であるということでの世界に与える影響を踏まえて、責務をどう思うか、この点を大臣に伺いたいと思います。

川崎国務大臣 それだけに、やはり科学的知見というものをしっかりしなければならない、また医学者の皆さん方の意見というものをしっかり幅広く聞きながら国の考え方というのをまとめていかなければならない、私どもも今までさまざま議論を積み上げながら一つのものをつくり上げてきた、今回つくり上げてきたものと裁判所の考え方が違った、したがって高裁の判断を仰ごうということでございますので、そういう意味では、私どもが今日まで積み上げてきた医学的また放射線学的な考え方の一つの議論が展開をされると思いますし、また、まさに唯一の被爆国としてしっかりとしたデータに基づいた議論をしていかなければならないだろう、このように思っております。

高橋委員 それだけのお言葉の中には、まさに私がお話ししたように、唯一の被爆国という言葉を踏まえて大臣はお話をされたということだったと思います。

 その上で、当たり前のことですが、今お話をしてきたように、二度と実験はできないのだと。実は、さっき紹介した原子力安全委員会の中ででも、こういうことは二度とあってはならないのだ、だからもうそういうことを実験することはできないんだということもやはり改めて述べられているわけなんです。

 でも、そういうことであれば、逆に言うと、政治ができることは何だろうか。少なくとも、被爆者自身が、原爆がもたらす影響が、何・何キロのところにいてこれこれこれだけの影響があるんだということを科学的に証明することはそれは不可能であります。しかし、これまで積み上げてきたデータを本当に生かすということ、また、どうしてもデータでは埋め尽くせない部分は、それは、裁判が指摘をしたように、それまでは健康体であったけれども、被爆の直後、それは当日の夜だったり次の日だったりします、全く上半身裸で被爆者の看護に当たった、そういう状況から見てほかに考えられない原因ではないか、そうした指摘などに対しても、真摯に受けとめて状況的な判断を加えるべきだ、それを政治としてやるべきではないかと思いますけれども、まず局長に伺います。

中島政府参考人 先ほども御説明させていただきましたように、私どもの主宰させていただいております原爆症の認定審査会におきましては、個々のケースについて具体的な状況をお聞きし、そしてそれに基づいてそれぞれの判断をさせていただいているということで、決して機械的に一定の枠組みで裁いているわけではないということをまず御理解いただきたいと思います。

 また、その上に、そういった判断をするに当たりましては、個々の事例については、やはり原爆放射線によって起因するというところが基本でございますので、ここの部分については科学的なデータをベースにそういったものを積み上げていくということが審査会としての責務であろう、この原爆援護法の趣旨であろうというふうに解しているわけでございます。

高橋委員 六十年以上という年月を費やして、そのこと自体が大変な苦痛でありながら、さらに命をかけて長い間裁判に立ち上がってこられた方たちが、本当にもう死ぬのを待っているんだろうか、そういう怒りの声を上げています。

 私は、厚労省がこの間、今回が初めてではなく繰り返し裁判で敗訴をしていながら、それを真摯に受けとめてこなかった、そのことは、指摘をされているように、やはり本当に時間を稼いでいるだけなのかというふうにしか思えない。その指摘に対して、大臣、一言お願いいたします。

川崎国務大臣 先ほどから局長から答弁がございましたけれども、被爆者の方々に対しては従来から国として幅広い援護施策を講じてきております。

 原爆症の認定を受けていない方でも、健康診断、医療費の支給、健康管理手当の支給等の措置をさせていただいてきている。一方で、この原爆症の認定というものについては、やはり医学的な、科学的な知見に基づいてしっかりやっていかなきゃならない。そこについては、今回の裁判が下されたものと私どもが今日まで積み上げてきたものの間に乖離がございますので、そこは高裁の判断を仰ぎたい、またその場でしっかりとした議論をさせていただきたいと思っておりますので、どうぞよろしく御理解のほどをお願い申し上げます。

高橋委員 この点は要望にしておきます。

 今、高裁の場でしっかりとした判断を仰ぎたいというお話をされました。繰り返しますが、本当に原告たちには時間がございません。そういうことで、時間稼ぎではないと。そして、もししっかりとした判断を仰ぎたいというのであれば、だからこそ本当にこの一人一人の原告の実態を踏まえて書かれた判決要旨をお読みになられて、そして、単なる感情論ではなく、まさに科学的根拠を踏まえつつも一人一人の実情に合わせた判決文であるということ、それをどう受けとめるかという立場に立っていただきたいということを改めて要請しておきたいと思います。

 そして、やはり最後のネックになるのは、被爆者援護法の中に、国家的補償という制定当時から争点となった問題、このことがあいまいにされてきたことが最大の原因ではないかと思っております。私は、このことにやはり本気で取り組むべきではないのかなと思っております。

 いわゆる一般戦災者、戦災の犠牲者という方たちも、自分たちには何の補償もないのかということに非常に怒りの声を上げている、そうしたことも今全国で起こっております。東京空襲の被災者の皆さんが、ことしの六月ごろでしょうか、今月でしょうか、裁判を用意されているということも聞いております。このように、確かに空襲や原爆はアメリカが行った国際法違反の犯罪である、しかしそのことを引き起こした原因は国家にある、その立場に立って、本当に被災者の皆さん、戦争被害者の皆さんの苦しみを受けとめた行政となり得るのかどうか、このことが問われているのではないかと思います。

 こうした問題はまだたくさん伺いたいことがございます。また次の機会にしたいということで指摘をして、終わりたいと思います。ありがとうございました。

岸田委員長 次に、阿部知子君。

阿部(知)委員 社会民主党の阿部知子です。

 本日は、与党並びに民主党の皆さんの御配慮で四十五分の時間をちょうだいいたしましたので、本日話題になっておりますテーマ以外のことで、冒頭、大臣、通告外ですが、一問お願い申し上げます。

 昨日の夕刊の各紙、またけさの新聞紙上で、二〇〇五年度の合計特殊出生率が一・二五ということで、この小泉政権になって以降もそうでございますが、年々予測を上回って下がり続けるということで、もちろん子供の出生は数の云々ばかりではございませんが、やはりさまざまな今後の社会保障政策にも影響してまいるかと思います。

 大臣にあっては、今、この六月中にもいろいろな少子化対策の見直し等々の検討中でもあると思いますが、一点目は、まずこの数値、どうごらんになりますかということと、それから、小泉政権の中でやってきたさまざまな施策と成果が必ずしも十分ならず、むしろ進捗がとめられないという事態について、今後どういうことをお考えになりますかという二点をお伺いいたします。

川崎国務大臣 昨年の十二月の、たしか二十四日だと記憶しておりますけれども、通常一月一日に発表いたします人口見通しを、昨年から人口が減ることになった、たしか百六万七千人の子供が生まれたけれども百七万七千人の方がお亡くなりになった見通しである、これは十二月三十一日まで確定しないわけですけれども、少なくとも一万人減る社会を迎えただろうと。したがって、百六万七千人の子供が生まれたということからすれば、当然、今日の出生率、正式の数字を出させていただきましたけれども、計算上、誤りなきものを出させていただいた。

 そのときから、少子化社会が私どもが考えた以上のスピードで進んでいるということは意識した中で当然予算編成もし、また一月以降の対策も打ってきたところでございます。小学校六年生まで児童手当の拡張、また十月からは出産のお祝い金を三十万から三十五万円にさせていただくというような対策をしながら、一方で補正予算、本予算でこの数年間の中で随分保育所の整備をさせていただいてまいりましたけれども、もう少し足りないという面で、補正予算も含めて手厚い措置をさせていただいてまいりました。

 しかし一方で、言われますとおり、まだ歯どめがかかっていないのが現実でございます。何とか出生率の低下に歯どめをかけなきゃならぬという中で、私自身、きのう記者会見で申し上げたのは、一番大きな理由は若者の就職にあるんではないだろうかと。これは委員からも随分言われました正規雇用、非正規雇用の問題も含めまして、この十年、我が国の経済が大変厳しかった、そのときに就職期を迎えた若者が就職に失敗をしたり、もしくは不安定な雇用に入っている、それが、結婚が減る、したがって出生率が下がるという問題に結びついているように思うと。また、もう一方で、子育てというものを二人でやっていく、男性と女性が協力し合いながらやっていくという社会にまだまだなっていない、その辺に、企業にしっかり理解を求めていかなきゃならない、こういう話をずっとしてきたところでございます。

 一方で、猪口大臣はそうした危機感の中で各県を回られて知事さんの意見を聞かせてもらった。それが猪口さんの考え方として最近出されたところでございます。

 一方で、私どもは中野副大臣に企業を回ってもらって、もう少し正規雇用というものをふやしてもらえないだろうかと。特に、ことしの高卒、大卒の就職率はかなりよくなってきた、三ポイントか四ポイント回復してきておりますけれども、今申し上げたように、十年前、十五年前にさかのぼりながら、中途採用というものをもう一度考えてくれないか、それから少子化というものに対して協力を求めたい。こういうことに対して、先日、日経連とそれから日本商工会議所、それぞれお見えになりまして、少子化に対する考え方を取りまとめていただきました。もちろん政府にやれという部分もありますけれども、我々みずからもやらなければならない、こういった感じで数字が出てきて、意見が出てきているところでございます。

 そういったものを合わせながら、私ども、しっかり進めていかなければならぬな、将来の我が国を考えたときに少子化というものは大変な、重要な課題でありますし、国の活力を失うことになるということで意識をいたしているところでございます。

 一方で、就職が少しずつ改善していきますと同時に、二十代後半の結婚、これが下げどまってきたかな。上がってきたと言っているんじゃないんです、下げどまってきたなと。当然、三十を過ぎた方々の結婚は、晩婚化ですから毎年率は上がってきています。二十代の結婚の下がりが少しとまってきたかなという感じと、出生率も、今の一月、二月の数字を見る限りは少し明るい兆しもあるような気がするし、大臣、それは少し見過ぎだぞと言われるかもしれません。

 いずれにせよ、そんなものをしっかりウオッチしながら、六月に入りました、今月中の取りまとめに全力を挙げなければならない。総理もきのうお話がありましたように、また官房長官もお話がございましたように、大きな課題であるという認識の中で懸命に取り組んでまいりたい、このように思っております。

阿部(知)委員 大変丁寧な答弁をありがとうございます。

 私も従来から指摘させていただいておりますように、財政支援、例えばですが、出産の無料化ももちろん望ましいですし、あるいは児童手当の増額ということももちろん重要ですけれども、と同時に、あわせて働き方のルールがもっと日本の中できっちりされないと、均等待遇一つ保障されておりません。

 今の若い方たちが、年金も、ある意味では厚生年金加入でなく、国民年金になり、未納、未加入状態になる、あるいは医療保険も国民健康保険に多くお入りになる、失業保険はお持ちではないような状態に置かれている。働くこと自身が非常に不安定で、また将来設計ができなくなっているという部分に、日本がやはり国としての政治的な分野でしっかり対策をしないといけないだろうということで、これは重ねてお願い申し上げたいですし、また、追って男女雇用均等法のお話の中でも出てまいるやもしれません。

 それともう一点、私がここで大臣に伺いたかったのは、これまでいろいろな年金の制度設計は、出生率にいたしましても、中位推計というところに大体予測を立てて行ってまいりました。例えば、おととしでしたか、年金のお話のときには、その後に推計値が出て、何で先に言わないんだと大変問題になりましたが、その後も、まだ大丈夫、見直さなくても大丈夫というお話でした。

 私は、先ほど来申しますように何も子供の出生は数ではないけれども、さまざまな制度設計がそういうものにのっとって御提案だったり審議されておると、果たしてこうした制度設計の見直し自身は行わなくていいのかということにおいても、やはりきちんと私たち政治の場にある者が考えていかなければいけない。もちろん対策を打てば改善もしてくる部分もありますが、残念ながら、百年安心と言われておりましても、年金問題も、社保庁の問題のみならず、そういう実務的な問題のみならず、制度設計でも不安があるわけです。このあたりと、出生率と関係した制度設計の見直しについてはどうお考えでしょうか。

川崎国務大臣 年金計算というのは、一つは当時議論してきたことと大きく変わりましたのは、経済環境が変わった。すなわち、当時の議論では百五十兆、百六十兆ある資金がうまく回らない時代、特に十四年ぐらいの数字をメーンに十六年の議論をいただいたと思います。そこは随分変わってきた。多分、七兆円、八兆円の株等の利益を上げておると思います。そこは一つ変わりました。それから、十六年の議論からいえば、今御指摘のとおり、それ以上出生率は下がってきているということも事実であろうと思います。こうした条件を加えながら、今後どうしていくかというのは当然常に議論しなきゃならぬ。

 しかし一方で、年金というのは極めて長い話をいたしておりますから、私自身、これは何も政府の了解の中でしゃべっていません、個人的見解としてしゃべっておりますのは、二〇五〇年、一・三九の出生率なら大体一億人ぐらいの人口になるんだろうか、そのときに我が国の労働力というのはどのぐらい、すなわち経済力というのはどのぐらい維持しながらやっていけるだろうかという仮定をしながらお話をさせていただいております。そういう意味では、今の段階において二〇五〇年、一・三九という出生率を断念するような状況にはないだろうと。

 したがって、やはりさまざまな政策を積み上げながら一・四、まあ一・五になったらもっといいのでしょうけれども、私は一億人国家でいいのではなかろうかなと。何も、これから一億三千万、一億四千万、どんどん人口がふえる社会を目指すのか、我が国がある意味では安定した社会をつくるとしたら、今申し上げた仮定でいいのではないだろうか。それも前提にしながら労働力問題、経済力問題を少し皆さん方とお話をさせていただいている。

 そこへ阿部議員がいつも御主張されるとおり、では、その中で日本の活力を保つとしたらどうなるかということになれば、一つは、女性の労働というものをやはりもう少ししっかり位置づけていかなければなりませんねという話と、一方で、この団塊の世代が大体幾つぐらいまで働くかねという問題が大きな課題。それから、やはりどう考えてもフリーターの二百十何万という数は多過ぎる、これに対する対策をしっかりしなきゃならぬ、こんなふうに考えております。

阿部(知)委員 きょうは社会保険庁問題の集中審議ではありませんので深くは触れませんが、この年金ということについて、例えば、現役世代の五〇%ということを約束された二年前の設計に対して、これも、国民は本当にそうだろうか、もうこんなに人口が減っていってしまってと。

 大臣は、今、二〇五〇年で一億人、サイズの問題として提案されましたけれども、この労働力人口をふやす、女性たちを活用するというところも当然置いた上で、果たして本当に、御提案のこれまでの年金の制度でやっていけるのかどうか、ここはまた私は疑念のあるところでございますので、きょうは、まだこの段階で見直さなくてよいとおっしゃった大臣の御答弁だけいただきまして、次のテーマに行かせていただきます。

 私は、この二法案については、そもそも党としても賛成でございますが、あえて中身の論議に入る前に、賛成であるということを申し添えた上で、一つお願いがございます。

 この日本とカナダの年金の相互乗り入れと申しますか、二重加入になりいろいろな問題が生じないようにというこの締結には賛成でございますが、しかし、また一方で、社会保険庁問題で、例えば平成十七年の十月にアメリカとのこうした相互の取り決めが発効するということになっており、もう発効いたしたと思います。社会保険所というんでしょうか、そこの現場段階で、果たしてその実務とか状況についてどの程度周知徹底されているのかというのが、実は非常に不安な出来事がございました。

 同じ年の十七年の八月に、社会保険庁に、今度からこういうのができるからと聞きに行ったら、できてから、発効してから聞きに来てくれと言われたと。こういう国際化時代ですから、社会保険庁の職員の意識も、なかなかこの複雑な実務が入ってきて追いつかないという点はあると思いますが、国会でこうやって法律で決めていったことが、本当に実務レベルまで、実行力として成り立つような御指導をぜひいただきたい。

 こんなことをここで確認するのは大変に恐縮なのですけれども、現場段階でどのようにこうしたことが自覚され、実施されようとしているのかというところで、私はちょっと疑念がございますので、これも大臣、これまで幾つかの国とあわせてやりましたから、どういう指導がなされていて、実際に各現場でお働きの皆さんがそうしたことを周知しておられるよう、確認をして、徹底もしていただきたいですが、いかがでしょうか。

川崎国務大臣 当然、その仕事をする人たちが制度を理解して、やはり国民へしっかりメッセージを出していかなきゃならぬということであろうと思います。

 そういう意味では、社会保障協定について、これまでドイツ、イギリス、韓国、アメリカとの協定が発効しておりまして、協定締結ごとに協定の概要等を説明したチラシ、小冊子を作成し、これは事業主等へやっております。

 それから、関係団体への協力、それから年金受給者に対して、裁定請求の事前案内のはがきや受給者あて封筒等を活用した個別の情報提供というようなことでやってきておりますけれども、今委員が、私がもらった質問はそういう話ではなくて、それをしなければならない社会保険庁の教育はしっかりできているのかということでありますので、そこはまだ、私、検証しておりませんけれども、しっかりやらせます。

阿部(知)委員 グローバル化時代ですので、例えば、留学生がアメリカとかカナダで学校を卒業して、そのまま向こうで就労するようなケースもあります。大臣がおっしゃったように、日本で企業に就職していてそれが派遣されるという形であれば、まだ事が、会社側がやるのでしっかりしておるんですね。ところが、国民年金にかかわりますような業務を行っている社会保険庁のところで生じてくる問題は、なかなか、実は、申しわけないが、職員に徹底しておらないように思いますので、ぜひよろしくお願いいたしたいと思います。

 引き続いて、大臣が先ほど高橋委員の御質疑の中でおっしゃってくださいました遺骨収集事業ということで、これは予告をしてございますので、順次進めさせていただきたいと思います。

 今週の月曜日になりますか、五月の二十九日に、ことしも例年どおり千鳥ケ淵に納骨をするということで、岸田委員長を初め、この厚労委員会の各メンバーも、また各党の代表も御参列で納骨式が行われました。川崎大臣にあっては、恐らく社会保険庁問題でお忙しゅうございましたことで、中野副大臣がお越しでありました。私は議員になりましてから、毎年この千鳥ケ淵の納骨というのは個人でも参加させていただき、この間は党のお役目としても参加させていただいています。

 大臣に、恐縮ですがそもそも論で幾つかお伺いしたいことがございます。

 大臣は、まず、アメリカのアーリントン墓地というのには行かれたことがありますでしょうかというのが一点です。これを伺いますのは、実は、千鳥ケ淵墓苑と呼ばれる桜が美しいあの区域とアーリントン墓地というのは、同じに見えて同じ扱いではないのですが、そのことを少しだけ冒頭触れさせていただきたいので、大臣には、アーリントン墓地に行かれたことがありますかという一点、お願いします。

川崎国務大臣 私自身、アメリカには余り行ったことはないんです。したがって、アーリントン墓地は行ったことがございません。

阿部(知)委員 アーリントン墓地は、いわゆる墓地としていろいろな戦争で亡くなられた方たちが埋葬されているところですが、千鳥ケ淵は、墓苑という名にあらわれるように、もともとは環境省の管轄の公園で、そこに、いろいろな経緯があって、御遺骨が収納されることになりました。

 日本では墓埋法というお墓の取り決めの法律がございまして、墓埋法にのっとれば、もともと自治体がここは墓地であるという許可を出さなければいけないのですが、正直なところ、私の調べました限り、今日に至っても、千代田区にございますけれども、千代田区が、自治体が認めた墓地という扱いにはなってございません。しかしながら、現実には、そこに、戦争で亡くなられ、お名前が知れず、あるいは正直申しますとお名前が知れても引き取り手がない方も含めて埋葬されております。

 今、国においては、一方の靖国神社参拝問題とあわせて、やはりどなたもが無宗教で、そしてまた外国の方もお参りいただけるような国立の追悼施設をつくろうというお話で、多分大臣も、私はテレビカメラでちらっと見ましたが、そのようなことに御尽力であると思いますが、一方で、しかしまたそれも、墓地ではございません。私ども、通例、庶民感覚で墓地というのは、御遺骨を納めて、そしてそこはお墓として認められているところでございます。この日本の中で、実は墓地として法律的に認められたところはないんだということ、これは非常に大きな問題でございます。

 例えば、これから国立の追悼施設ができたとて、では、お連れ帰った御遺骨をどこに順次お納めしていくのかということが問題に上がったときに、非常にまだ中途半端な形でずっと遇されております御遺骨のありようということを考えたとき、大臣にはぜひこの真実というか事実ということを御認識いただきたいですが、いかがでしょうか。

川崎国務大臣 今お話を承りました。

 私自身が厚生労働大臣に就任いたしまして、実は、御遺骨をまず収集してくる、そして千鳥ケ淵の墓苑にお納めする前に厚生労働省の中に安置してあります。そこについては、厚生省に、こうした仕事をさせていただく者はお参りをさせていただくというような形でさせていただいておりますけれども、最後は千鳥ケ淵におおさめするという思いでおりましたので、多分、当然お墓であろうという意識を持っておりました。

阿部(知)委員 自治体、例えば東京都で墓地として認められますと、今度、身元不明の方たちの御遺骨を合わせて納骨してはいけないという法律がもう一方であるんですね。

 ところが、私はもう何回もこの委員会の審議で取り上げさせていただきましたが、千鳥ケ淵に御遺骨が入るときは、遠方で収集されて現地で一回焼骨されて、日本で再焼骨されて、最初のある時期はアルミ缶にざらざらっとまとめて入れられて納骨ということがございました。この委員会でも、坂口前厚生労働大臣にお願い申し上げて、個体性のわかるもの、お一人お一人がわかるものは、やはりそれはお一人としておさめていただきたいということをお願い申し上げました。

 もちろん、墓埋法の墓地でない以上、合葬というんでしょうか、これも別にどこの法律の禁ずるものではございませんが、やはりもともとを正していくという、墓地としてきちんと私たちがそこにおおさめできるという、これ、自治体にそうお認めいただかないといけないわけですけれども、そういうこともあわせて必要と思いますので、きょうは問題意識のありかを冒頭、大臣にお伝え申し上げて、実際的なお話に行かせていただきたいと思います。

 実は、私もことしの一月、フィリピンのセブ島に遺骨収集に民間の方と御一緒に参加させていただきました。一昨年にもうなりますか、十二月にはインドネシアのビアク島というところに、これも民間の方と参加させていただき、実はことしの納骨はインドネシアのパプアニューギニアのまたさらに先にあるビアク島周辺からの納骨が非常に多かったということで、本当に一体でも多く御帰還いただきたいという思いでやっております。

 ところがでございます。最近、やはり年月もたち、千鳥ケ淵におさめて慰霊するという遺骨の数がだんだん減ってまいっております。これは、年月がたったということで、遺骨も風化しますし、状況も、例えば地震などがあるとわからなくなるとか、いろいろな年月による負の面というのがございます。

 しかし、もう大臣も既に問題で指摘されて、参議院でもお取り上げかもしれませんが、この間、最も未帰還の御遺骨が多いフィリピンで、民間の方がお集めになった御遺骨の受け渡しをめぐって、いろいろなトラブルと申しますか、厚生労働省側との行き違いが発生してございます。これは、やはり亡くなっていかれた方のことを考えれば、ここでさまざまに一体でも多くお帰りいただくという原則がどうやって実現されるかということにのっとって大臣にぜひ御尽力いただきたいのですが、この間、御遺骨が古くなり、やはり、日本の方の骨か、あるいは米兵の骨か、あるいは現地の方の骨かわからないということもあって、現地で鑑定をしていただくという制度が発足しておると思います。いつごろから発足したか、また、私が多少経緯を述べましたが、どのような経緯で今日に至っているかをお教えください。

大槻政府参考人 遺骨鑑定についてのお尋ねでございます。

 近年、厚生労働省が遺骨収集団を派遣いたしまして遺骨収集をいたします際に、同行あるいは立ち会いという形で、遺骨鑑定人に参加いただくという場合が多いわけでございます。

 この経緯でございますけれども、平成七年度からは東部ニューギニアにおきまして、また平成十一年度からはインドネシア、平成十四年度からはフィリピン及びマーシャル諸島におきまして、遺骨鑑定人の立ち会いを実施しているところでございます。

 この背景でございますけれども、今委員の方からも御指摘ございましたけれども、一つは、現地政府からの要請、一定の配慮をしてほしいということがございます。やはり、現地住民の遺骨あるいはアメリカ人の遺骨等々とちゃんと区別をして収集していただきたいという強い要請もございますし、また、私ども日本の御遺族からいたしましても、今日、DNA鑑定等もやっておるわけでございますけれども、そういう御要望を踏まえますと、従来以上に慎重に取り扱わなきゃならないということで、遺骨鑑定人に立ち会っていただく場合が多いという状況でございます。

阿部(知)委員 ここで、委員長にお許しを得て、私自身がセブに行きましたときの収集された御遺骨と、厚生労働省がその後行かれまして焼骨前の御遺骨の写真がございますので、ちょっと委員長にお見せした上で、大臣にもごらんいただきたいです。

 亡くなっていかれた方々の尊厳もございますので、皆さんに資料をお回しするというより、少し閲覧していただいて、また回収をさせていただきたいので、委員会席にも同じ手法でやらせていただきたいと思います。

 一枚目は、私自身が、集められた御遺骨を拝見したもので、二枚目は、先ほど申しました厚生労働省の焼却、現地で焼却なさいますから、そのためにまきの上に載っているものでございます。いずれをごらんになっても、果たして本当に日本の方々の御遺骨であるのか。正直言うと、米兵の皆さんのものは骨格がかなり違いますので、目視的にもわかりますけれども、そのほか、現地の方であるのかというのは大変難しいというのは実情だと思います。

 そこで、先ほど審議官がお話しになったように、鑑定人も御依頼になったわけですが、だがしかしというか、果たしてこの鑑定人の鑑定技術がどのようなものであろうかということで、随所で御指摘がされるようになってございます。

 もちろん、日本政府として、ダタールさんという人類学の教授をお願いされているのですけれども、先ほどの審議官のお話にもありましたが、最近、日本の国内では、御遺骨について、DNA鑑定も含めてかなり法医学的に綿密に調べていくような流れもある中で、現地で非常に簡単にさっさっさっさと区分けされる現状を見ていて、これまで遺骨収集にかかわってきた方々が、余りにも簡便過ぎる、本当に鑑別する能力がおありなんだろうかと。その結果、日本人のものでないと目視で置かれて、この国に帰ってこられない御遺骨があるとするならば、非常にこれが問題であろうという指摘がなされております。

 厚生労働省としては、こうした指摘についてどのように基本的にお考えであるのか、この点をお伺いいたします。

大槻政府参考人 ただいまの御指摘でございますけれども、フィリピンにおける遺骨収集についてのお話でございます。

 フィリピンにおきまして厚生労働省が最近行う遺骨収集におきましては、日本人戦没者の遺骨を日本にお帰しするというために必要な遺骨鑑定を行っているところでございます。今、教授の名前等も御指摘になったわけでございますけれども、フィリピンにおきましては、やはり現地の実情に詳しい専門家に御協力いただくことがよろしいであろうという考え方からいたしまして、在外公館を通じまして、フィリピンの国立博物館という国立の施設、権威ある施設でございますが、そこからフィリピン大学の人類学博士のフランシスコ・ダタールさんという教授を遺骨鑑定人として推薦をいただいているところでございます。

 厚生労働省といたしましては、このダタール教授が現地の収集現場をごらんになりながら、考古学及び文化人類学的な見地から鑑定を行っていただいておる、このことにつきましては信頼をしているところでございます。

 同教授の鑑定方法ですけれども、遺骨が発見された現場において、その埋葬状況、遺留品がどうなっているか、その地域における過去のいろいろな歴史等々を総合的に判断されまして、考古学あるいは文化人類学的な見地から遺骨の鑑定を行っておられるというふうに承知をいたしておるところでございます。

阿部(知)委員 すごく簡単に言えば、普通の庶民の言葉で言えば、周りに薬きょうがなかったか、あるいはヘルメットが転がっていないか、いろいろなそうした現場の、遺骨が出てきたところの状況証拠と、そして後は目視だけなんですよね。

 申しわけありませんが、博物館とか人類学の専門とするところは、もともと、博物館の方が立ち会うようになったのは、フィリピンから、フィリピンが考古学的に掘り出したもので何か価値あるものを日本が持って帰っては、これはいかがかということもあったんだと思います。

 現段階で、先ほど審議官自身もおっしゃったように、日本の御遺族の要望も、DNA鑑定とか専ら法医学的な、例えば横田めぐみさんの御遺骨だってそうなんだと言われる、御遺骨の真偽のほどだってそうなんだと思うんです。極めて微妙で、非常にもうこれはセンシティブ条項ですよ。そういうものに、ぱっぱっぱっぱっという振り分けだけで、そして本当に考古学、博物館かなというのが多くの民間の収集された方たちの疑念なんです。

 疑念は疑念として受けとめていただいて、フィリピン政府を信用しないとかではありません。日本の現状で、日本の法医学の方を派遣するということだって可能なわけです。本当にここは、そうやって一体でも多く連れ帰りたいという意思が、政治の意思があるかどうかで、私は今の対応は違ってくるんだと思います。そのままほうり出されて、違うと言われてそこに残る御遺骨の中に、もし一体でも日本のものがあったらどうしようと、私は現地で非常に胸を痛めました。

 きょう大臣には、このことは私からのお願いで、ぜひこれは、メディア等でも、ダタールさん自身が自分は余り鑑定能力がないとおっしゃったというようなこともあって、今騒ぎにもなっております。でも、こういうことが騒ぎになるということは、私は、亡くなっていかれた方にも決していいことと思いませんし、それだけの年月、日本が放置した結果であります。

 であるならば、今私どもが持つ最新の知見あるいは手法で、なるべく本当にお一人でも多くお帰りいただきたいと願うものですので、大臣のお考えを伺いたいと思います。

川崎国務大臣 阿部委員が言われましたように、基本的にはフィリピン政府の協力を得ていかなければできない。また、フィリピン側から言えば、日本人以外の遺骨を持ち帰られるということについては、逆にフィリピンの方々、もしくはアメリカの方々のを持ち帰ることになりますので、そういった議論はあると思います。

 しかし一方で、私どもは、あのような報道がされまして、やはり事実関係をしっかり調べて、そして外務省とも事実関係を調べた上で対処しなきゃならぬ。ああいう報道をされてから、知らないよという態度をとってはいかぬ、これはもう御指摘のとおりで、しっかり事実関係の把握に努めながら、フィリピン側とも話し合いをしていくということで進めてまいりたいと思います。

阿部(知)委員 尾辻前厚生労働大臣の時代に、この遺骨収集をもっとスピードアップして進めないと、御遺族も亡くなられていくしということで約三千万円の情報収集費というのがついた以外は、実は、遺骨収集については予算も格段の増額がございません。そうした中で行っていることですから、やはり私は、政治の意思としてこの御遺骨を一体でも多く連れ帰るということが必要と思います。

 実は、尾辻前大臣にも坂口前大臣にもお伺いしましたが、そのための時限特別立法というようなものがあってもいいのではないか。実は、昭和二十七年の委員会の決議で御遺骨のことが触れられているだけで、あとは何ら立法的な根拠はないのであります。

 きょうすぐお返事がいただけるとは思いませんが、冒頭、川崎大臣が遺骨収集のことを真剣に考えてみたいとおっしゃってくださいましたので、もし立法的措置が必要なものであるならば、何せきのうも部屋に厚労省のお役人を呼んで、いや、財務省の財布がかたくてねとか言われますと、これはやはり政治の意思で挙げてやらないと、なかなか難渋なんじゃないかと私も思うものであります。

 きょうは私の、もうこれは提案ですから、大臣としてぜひお考えと御検討をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

川崎国務大臣 実は、参議院の厚生労働委員会でこの御質問をいただきました。一つは、先ほど言いましたように、厚生労働省にあります遺骨の安置所にしっかりとした礼を厚生労働大臣として用いているか、こういう御質問をいただきました。もう一つは、今お話ありましたように、六十年たっていまだに帰らぬ人たちがいる。現地で取り残された遺骨を国家の責任としてしっかり国にお帰りいただくように努力すべきじゃないか、こういう御質問をいただきました。

 一方で、尾辻大臣が予算づけいたしましたように、情報が少し足りなくなってきている。したがって、そのことに少しことしは力を入れようという対応をいたしておりますけれども、やはり先ほど御指摘のとおり、六十年もたってしまいましたので、全力を挙げるということはやはり明確にしながらやっていかなきゃならない。そういう意味では、私自身も尾辻前大臣と同様にこの問題をしっかりやっていかなければならない。

 一方で、先ほど少しお答え申し上げたように、韓国からも同様の話が日本に来ておりまして、これに対して全力でこたえていかなきゃならないだろう。これは国際的な信義であろうと思っておりますので、岡田政務官を先頭にしながら、各省庁の政務官協力し合いながら、もう一度やり直そうということでやってもらっております。

 やはり、我々の主張だけではなくて、逆に他国からのそういうことについても気遣いをしていく、そして六十年間のこの歩みというものをしっかり銘記しながらやらなきゃならぬ、このように思っております。

阿部(知)委員 確かに大臣がおっしゃいますように、今私はフィリピンの例を挙げましたが、戦没者数が五十一万八千で、まだフィリピンは十三万三千の御帰還であり、三十八万四千九百四十が残る。しかし、それにまさるとも劣らないのが、中国の東北部等々の未帰還状況であります。そしてまた、おっしゃったように、韓国の方々が日本で亡くなられて、その御遺骨も我が国にある。こうした当然戦争の責任の問題、あるいは人道的な、その後の人としての道に反することというのは、やはり政治がきちんと正していかねばならないテーマだと思うので、よろしくお願い申し上げたいと思います。

 また、私がこれまで何回か遺骨収集、特に民間の皆さんがなさるものに同行させていただいて、現地の方とお話しして思いますのは、現地では、こういうふうに自分たちの骨はほうり出さないということを必ず言われます。ですから、先ほどの鑑定で、こっちがフィリピン人、こっちが日本人、私は何度も言いますが、アメリカ人の骨は大きいからわかります。こうやって分けていくときに、現地の人すらいぶかります、私たちはこんなことはしないと。遺骨を雨ざらしに置いているのは、言わないけれども、日本人だけじゃないのというふうなそぶりを私は何回も経験しています。ですから、ここはぜひ本当に。

 そしてもう一つ、民間の方がやっているんですね。かつての戦友とか、あるいは御家族を亡くされた、そして若い人でも、行ってみて実際を見て、ひどい、何とかこれは、という方がやっていますから、そこから集まってくるいろいろな情報を、今の私どもの国が持つ最新の知識でおこたえして事を成り立たせていくように、くれぐれもお願いしたいと思います。

 その最新の知識ということを申し上げれば、実は平成十五年度から、これも私が何回か委員会で審議をさせていただきましたが、御遺骨のDNA鑑定ということで厚生労働省としてもお取り組みであります。特に、一体性を損なわない、シベリア等々で亡くなられた方の御遺骨や、あるいは歯などがありますと、そこからDNAの採取が可能でございますので、御帰還を待っておられる御遺族とマッチングさせた上でDNA鑑定をやっていくという仕組みでございます。

 しかしながら、現状で、そうやって鑑定を待っている御遺骨が一万一千七百九十六、これは厚労省の中にございます。そして、その中で、しかし鑑定に足る材料がとれるものが七千三百二十四。そして鑑定のお申し出、これは御遺族からのお申し出が一千百三十四ということで、せめてこの一千百三十四の方々の、御遺族が待っている、うちに帰ってきてほしいとお待ちである方のDNA鑑定も現在五百八十三件しか進んでおりません。

 私は、鑑定の技術が、いろいろな大学でどこでできるかという問題もございますが、やはりこれを迅速に、せめても、例えば御遺族も御高齢で待っておられます、ここを迅速化する方策はどこにあるのか。

 それと、もう一つ大臣にきょうお願いがございますのは、実は、御遺族が鑑定を申し出るときに、もしそうであれば、その御遺骨を最後は御自分が、御家庭に受け取るという受取人ということを署名しなければなりません。しかしながら、例えばあるところで再婚をされていたり、日本の中で、その後の人生のいろいろな変遷の中で、自分の墓には入れられないけれども、わかれば、戦地で亡くなった方の、本当にこの日本において帰ってきておさめるべきところにおさめたいというお気持ちのある御遺族もまだおられます。実際に、この受取人、自分が必ず受け取るんだという形をもう少し緩めていただくこと、そして鑑定をスピードアップすること、この二つについて、現場サイドの御答弁で冒頭結構です、お願いします。

大槻政府参考人 戦没者遺骨のDNA鑑定についてのお尋ねでございます。

 平成十一年度から十五年度までの間に遺骨収集を実施いたしました旧ソ連の埋葬地等の関係遺族のうち、千百三十四名の御遺族から申請書が出されている、その現状につきましては、先生御承知のとおり……

岸田委員長 審議官、マイクをちょっと近づけて。

大槻政府参考人 はい。鑑定した結果で、遺族との血縁関係が判明したものが二百十二件、否定されたものが六十件、二百七十二件の結果が出ております。平成十五年度から始めまして、十五年度は八件でございましたが、十六年度は七十一件、十七年度は百九十三件と、鑑定技術等々の向上の中で順次進展をしているところでございます。

 私どもとしては、鑑定を促進するために、研究者の方々と相談をいたしまして、少しでも研究機関をふやそうということで、当初一機関でございましたけれども、今年度は九機関へと拡大に努めてきたところでございます。

 また、実際に鑑定を行っておられる研究者によりましての会議を開催いたしまして、鑑定機関の分析結果について個別に検討をし、鑑定技術の向上なり鑑定の迅速化に向けた検討も行いながら進めてきておるところでございます。その結果、身元判明数も次第に増加をしているところでございます。

 さらなる鑑定機関の拡大等々、努力をしてまいりたいと考えております。

阿部(知)委員 何度も言わせていただきますが、遅いのでありますね。待っている側はもう自分の寿命との闘いになっています。どうやったらもっと迅速化できるのか、予算の問題なのか、スタッフの育成なのか、もっと真剣に厚労省としてやっていただきたい。

 そして、もう一点伺いましたが、必ずしも御遺骨の受け取りを条件としないということであれば、私も鑑定して私の親族かどうか知りたいという方ももっとおありだと思います。この点についても、大臣、最後に、恐縮ですが、意識に上らせていただいて、DNA鑑定、せっかく今我が国は技術的にも進めてまいりました、それで待つ人がいる、本当に一日一日自分の命との闘いになっています、ぜひ迅速化していただきたいが、最後に御答弁お願いします。

川崎国務大臣 戦後六十年たってまだこのような問題が起きているということについては、まことにある意味では申しわけないという思いを持たせていただいております。

 今御提案いただいた件については、私ども、検討させていただいて、前向きに努力をさせていただきたい、このように思います。

阿部(知)委員 ぜひよろしくお願いいたします。終わらせていただきます。

岸田委員長 以上で両案に対する質疑は終局いたしました。

    ―――――――――――――

岸田委員長 これより討論に入るのでありますが、その申し出がありませんので、直ちに採決に入ります。

 まず、内閣提出、戦傷病者等の妻に対する特別給付金支給法及び戦没者等の妻に対する特別給付金支給法の一部を改正する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

岸田委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 次に、内閣提出、参議院送付、社会保障に関する日本国とカナダとの間の協定の実施に伴う厚生年金保険法等の特例等に関する法律案について採決いたします。

 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

岸田委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

 お諮りいたします。

 ただいま議決いたしました両法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

岸田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

    〔報告書は附録に掲載〕

     ――――◇―――――

岸田委員長 内閣提出、参議院送付、薬事法の一部を改正する法律案を議題といたします。

 趣旨の説明を聴取いたします。川崎厚生労働大臣。

    ―――――――――――――

 薬事法の一部を改正する法律案

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

川崎国務大臣 ただいま議題となりました薬事法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。

 国民の健康意識の高まりや医薬分業の進展等の医薬品を取り巻く環境の変化、店舗における薬剤師等の不在など制度と実態の乖離、薬学教育六年制の導入に伴う薬剤師の役割の変化等を踏まえ、医薬品の販売制度を見直すことが求められております。

 また、違法ドラッグ、いわゆる脱法ドラッグについては、乱用による健康被害が発生しており、かつ、その使用が麻薬、覚せい剤等の使用のきっかけとなる危険性があるにもかかわらず、人体摂取を目的としていないかのように偽装されて販売されているため、迅速かつ実効ある取り締まりを行うことが困難となっております。

 このため、今回の改正では、医薬品の適切な選択及び適正な使用に資するよう、医薬品をリスクの程度に応じて区分し、その区分ごとに専門家が関与した販売方法を定める等医薬品の販売制度全般の見直しを行うとともに、違法ドラッグの製造、輸入、販売等を禁止すること等により保健衛生上の危害の発生の防止を図ることとしております。

 以下、この法律案の主な内容につきまして御説明申し上げます。

 第一に、一般用医薬品を販売する際には、その副作用等により健康被害が生じるリスクの程度に応じて専門家が行う情報提供を重点化するなど、実効性のある仕組みを設けることとしております。具体的には、特にリスクが高い医薬品を販売する際には薬剤師による情報提供を義務づけ、リスクが比較的高い医薬品を販売する際には薬剤師または医薬品の販売に必要な資質を確認された者が情報提供に努めることとし、また、リスクの程度にかかわらず、購入者から相談があった場合には情報提供を義務づけることとしております。

 第二に、医薬品の販売は、各販売業を通じて薬剤師または医薬品の販売に必要な資質を確認された者により行うこととするため、薬剤師以外の者で医薬品の販売に従事する者の資質を確認するために、都道府県において試験を行う仕組みを設けることとしております。また、購入者や事業活動等に無用の混乱を与えずに新たな制度に移行できるよう必要な経過措置を講じることとしております。

 第三に、違法ドラッグ対策に関し、幻覚等の作用を有する一定の薬物を厚生労働大臣が指定して、その製造、輸入、販売等を禁止するとともに、指定した薬物である疑いがある物品に関し、検査を受けることを命ずることができるようにすること等所要の措置を講ずることにより、迅速かつ実効ある取り締まりを担保することとしております。

 最後に、この法律の施行期日は、医薬品の販売制度の見直しに係る事項については、一部の事項を除き、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日とし、違法ドラッグ対策に関する事項については、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日としております。

 以上が、この法律案の提案理由及びその内容の概要であります。

 何とぞ、御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。

岸田委員長 以上で趣旨の説明は終わりました。

     ――――◇―――――

岸田委員長 次に、古川元久君外四名提出、がん対策基本法案及び鴨下一郎君外三名提出、がん対策基本法案の両案を一括して議題といたします。

 提出者より順次趣旨の説明を聴取いたします。山井和則君。

    ―――――――――――――

 がん対策基本法案(古川元久君外四名提出)

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

山井議員 私は、民主党・無所属クラブを代表して、民主党提出のがん対策基本法案について、提案の理由及び法案の概要を説明いたします。

 本法案提出後、二カ月がたちましたが、やっと本日、がん対策基本法の趣旨説明ができることに感激をいたしております。

 命を救うことが政治家の仕事であると、我が党の山本孝史参議院議員は去る五月二十二日の参議院本会議場で演説をされました。しかし、日本の政治は人の命を救うために十分なお金を使ってきたでしょうか。死因トップのがん対策に十分なお金を使ってきたでしょうか。

 政治とは人の命と尊厳を守ることであります。その意味でも、死因第一位であるがんの対策は、国家の最優先課題とし、首相をトップとして行うべきであります。

 アメリカでがんによる死亡率が減っているのに、なぜ日本ではふえ続けているのでしょうか。アメリカでも、一九七一年にキャンサーアクト、がん対策法が制定され、がん対策が一気に進み、がんによる死亡率も低下しました。つまり、がん対策は政治の決断にかかっているのです。

 厚生労働省の予算の範囲内で総花的にさまざまな事業に予算を少しずつふやしても、国際的に大きく立ちおくれている日本のがん対策を一気に進めることはできません。予算獲得のためには根拠となる法律が必要であります。

 昨日発表された二〇〇五年の統計でも、がんは死因のトップであり、年間三十二万人、国民の三人に一人ががんにより亡くなっており、がんはまさに国民病であります。

 しかし、これまでの政府の対応は、多くの患者やその家族の期待にこたえておらず、患者の不安や苦悩に寄り添い、積極的に患者の求める情報を提供、開示し、問題を共有するという姿勢が欠けていました。従来どおりの微々たる財源投入では、いつまでたってもがん対策は遅々として進まず、がん治療の地域間格差、病院間格差は広がるばかりです。

 そして、患者やその家族は、不安と悩みに苦しみながら、がん難民となって、もっとよい治療法があるに違いないと、良質な医療と的確な情報を求めて各地をさまよい続けることになります。

 例えば、ある乳がんの患者は、半年の間に二度、胸にしこりが発見されましたが、良性と診断され、三度目に悪性、それも肺にまで転移していると診断されました。その後、胸の切除手術。しかし、次の診断を受けた病院では、その切除手術は必要なかったと診断され、その女性はショックで涙が出てとまらなかったそうであります。

 実際、国立がんセンターの調査でも、がんセンターを受診した乳がん患者のうち、それまでに基準に近い治療を受けていた患者は四九%にすぎず、二四%はかなり基準から外れた治療を受け、二七%は逆に治療でがんが悪化していました。このような状況の中で、先進国日本で、がん患者はよりよい治療を求めてさまよい、がん難民となっているのです。

 このようなおくれたがん対策の現状を放置してよいはずがありません。全国どこでも一定レベルのがん治療が保障されるべきです。

 民主党は、がん対策を総合的かつ一元的に強力に推進するためには、今こそ国家を挙げて、がん対策の基本理念、国及び地方公共団体の責務、基本的な施策等を規定した法律が必要であり、本法案を提案いたしました。このがん対策基本法にのっとり、日本の専門医の力を総結集し、標準治療の確立と充実、早期発見、予防医療の推進、専門医の養成のため、人と財源を集中投入し、国民の命と尊厳を政治が守りたいのであります。この法律によって我が国のがん医療を飛躍的に前進させることができます。

 ただし、がん対策だけが進めばよいと考えているのではありません。日本の医療の問題点の多くががん対策のおくれに集約されています。がん対策基本法の制定を突破口として日本の医療を患者中心の進んだものにしたいという願いを込めて、法案を策定いたしました。

 次に、法案の概要を説明いたします。

 第一に、基本理念として、今苦しんでいるがん患者に対して病状や治療方法について適切な説明がなされることにより、がん患者の理解と自己決定に基づいたがん医療が提供されるようにすること、がん医療に関する最新の情報に基づいた適切ながん医療が提供されるようにすること、外国において有用であると認められたがん医療が日本でも提供されるようにすること、がん医療の提供に当たって可能な限り苦痛を軽減するとともに、日常生活の質をできる限り良好な状態に保つように配慮すること、また、がんに関する調査研究を促進し、がんの予防、診断及び治療に関する方法の開発を行われるようにすることを定めます。

 第二に、国は、基本理念にのっとり、積極的にがん対策を推進し、地方公共団体は国と協力しつつ、当該地域の状況に応じたがん対策を推進することとし、政府は、がん対策を実施するために必要な法制上または財政的措置を講じなければならないことといたします。

 第三に、基本施策として、地域格差によるがん医療格差が生じないようにするため、つまり、国及び地方公共団体は、がん患者が日本じゅうどの地域に住んでいても、がんの状態に応じた適切な医療が受けられるようにするため、医療機関の整備、がん医療にかかわる医師、看護師その他の医療従事者の養成、がん登録の実施、がん情報ネットワークの構築、緩和医療の提供の確保を行うことといたします。

 第四に、がん対策を総合的かつ計画的に推進するために、首相の国民の命を守ることの強い思いを国民に示すために、内閣にがん対策推進本部を設置することといたします。

 第五に、がん対策推進本部は、毎年がん対策計画を公表し、医療機関の整備の推進、がん医療に関する客観的な評価、がん医療に携わる医師及びその他の医療従事者の養成、がん登録の実施、がん情報ネットワークの構築、適切な緩和医療、日常生活の質の保持、がんに関する調査研究、がん検診等について講ずべき施策を定めたがん対策の推進に関する計画を作成、公表し、三年ごとに計画を更新することといたします。

 なお、がん対策には一刻の猶予も許されないという切迫した現状にかんがみ、この法律は、公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとします。

 以上が、本法案の提案理由及びその概要です。

 がん患者の方々からも、一日も早くがん対策基本法を成立させてほしいと切々たる要望を受けています。しかし、財源も十分に伴わない、つまり、法律ができてもがん対策が今まで以上に進まないような法律では、がん患者の方々の期待を裏切ることになります。

 がん対策基本法は、決して政治家や政党の得点稼ぎや自己満足であってはなりません。そのためにも、十分な財政措置を伴い、しっかりした中身のある法案にせねばならないという基本姿勢で本法案を策定しました。

 がん対策については、今年度の政府予算は百六十八億円ですが、本法案では財政上の措置は五百億円と見積もっております。

 なお、がん対策は党派を超えて行うべきものであり、本法案についても、必要であれば修正協議に応じる用意はあります。

 我が党の医療制度改革チームの座長であった今井澄参議院議員も、がんによりお亡くなりになられました。

 そして、この法案は、四年前にがんを発病され、胃の全摘手術を受けられた仙谷由人衆議院議員が、がん患者という当事者として中心となって法案作成をリードし、多くのがん患者の方々の切なる願いを込めてつくり上げました。また、我が党の山本孝史参議院議員も、がんと闘いながら、一日も早い法案成立のために必死の思いで取り組んでいます。

 最後になりますが、二千人のがんの患者大集会を企画、成功させ、がん対策基本法の制定を切に待ち望んでおられたのが三浦捷一医師でした。三浦さんは、みずからもがんに侵されながらも、がん難民をなくすために闘い続けられましたが、がん対策基本法の制定を待つことなく、昨年末に静かに息を引き取られました。ホームページで公開された遺言とも言える最後のメッセージの一部を御紹介します。

  夢 何の成功の目途もないままに始めた患者大集会企画が成功し、がん患者の声を世にアピールするきっかけとなったこと、いつの日か支援機構のようなものができればと思っていたことがすでに発足したこと。私はただひたすら夢に向かって歩き続けてきた。結果的には私は病状を悪化させ、長期展望にたったがん患者の望む理想的な夢である日本がん情報センターの実現にもはや何の貢献もできなくなったが、どなたかがこの夢をひきついで下さることを最後の夢としている。

この三浦さんのメッセージを、国会がしっかり受けとめねばなりません。

 以上、本法案を御審議の上、速やかに可決していただきますよう切にお願い申し上げます。(拍手)

岸田委員長 次に、大村秀章君。

    ―――――――――――――

 がん対策基本法案(鴨下一郎君外三名提出)

    〔本号末尾に掲載〕

    ―――――――――――――

大村議員 自由民主党の大村秀章でございます。

 ただいま議題となりましたがん対策基本法案につきまして、自由民主党及び公明党を代表して、その提案理由及び内容の概要を御説明申し上げます。

 我が国におきまして、がんにつきましては、これまで、国家戦略として累次の対がん十カ年総合戦略を策定し、がんの本態解明の進展や診断、治療技術の目覚ましい進歩などの成果をおさめてきたところであります。しかしながら、がんは、なお死亡原因の第一位であり、さらに高齢化が進展する中で国民にとって大きな脅威となっていることから、がん対策は重要な政策課題でございます。

 今後、一層の医療技術等の研究開発や予防対策の推進に加え、一部の地域や医療機関等での導入にとどまっている対がん十カ年総合戦略の成果を全国的に普及していくことが必要であります。

 以上の認識に立って、がん対策の一層の充実を図るため、自由民主党及び公明党の両党で検討を重ね、今般、この法律案を提出することとしたものでございます。

 次に、この法律案の内容につきまして、概要を申し上げます。

 第一に、我が国において、これまでの取り組みにより大きく進展し、多くの成果をおさめてきたがん対策について、高齢化の進展に伴い、その一層の充実を図ることの重要性が増大していることにかんがみ、がん対策に関し基本理念を定め、国、地方公共団体、医療保険者、国民及び医師等の責務を明らかにし、並びにがん対策の推進に関する計画の策定について定めるとともに、がん対策の基本となる事項を定めることにより、がん対策を総合的かつ計画的に推進することをこの法律の目的としております。

 また、がんの克服を目指し、研究を推進するとともに、その成果を普及、活用し発展させること、がん患者がその居住する地域にかかわらず科学的知見に基づく適切ながん医療を受けることができるようにすること、及び、がん患者が置かれている状況に応じ、本人の意向を十分尊重して治療方法等が選択されるよう、がん医療を提供する体制の整備がなされることをがん対策の基本理念としております。

 そして、国は、こうした基本理念にのっとって、がん対策を総合的に策定し実施する責務を有すること等としております。

 第二に、政府はがん対策の総合的かつ計画的な推進を図るためがん対策推進基本計画を、また、都道府県はがん対策推進基本計画を基本とするとともに、当該都道府県におけるがん患者に対するがん医療の提供の状況等を踏まえ、都道府県がん対策推進計画をそれぞれ策定することとしております。

 第三に、基本的施策として、がんの予防の推進、がん検診の質の向上及びがん検診の推進のために必要な施策を講ずること、がんの専門医等の育成、拠点となる病院や連携協力体制の整備、がん患者の療養生活の質の維持向上及びがん医療に関する情報の収集提供体制の整備等のために必要な施策を講ずること、並びにがん研究の促進、がん医療を行う上で特に必要性が高い医薬品、医療機器の早期の承認に資する環境整備のために必要な施策を講ずることを定めております。

 なお、この法律案は平成十九年四月一日から施行することとしております。

 以上が、この法律案の提案理由及びその内容の概要であります。

 何とぞ、御審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。

 以上でございます。(拍手)

岸田委員長 以上で両案の趣旨の説明は終わりました。

 午後一時から委員会を再開することとし、この際、休憩いたします。

    午前十一時五十二分休憩

     ――――◇―――――

    午後一時開議

岸田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 午前に引き続き、古川元久君外四名提出、がん対策基本法案及び鴨下一郎君外三名提出、がん対策基本法案の両案を一括して議題といたします。

 この際、お諮りいたします。

 両案審査のため、本日、政府参考人として厚生労働省健康局長中島正治君の出席を求め、説明を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。

    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

岸田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。

    ―――――――――――――

岸田委員長 これより質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。寺田稔君。

寺田(稔)委員 自民党の寺田稔でございます。

 今回、議員提出によりまして、がん対策基本法案が出されたわけでございます。自公提出の与党案と、そして民主党提出の野党案、それぞれ中身の違いはありますものの、本当に多くのがん患者の方々の熱い思い、そしてまた、与野党立場を問わず、本当に一生懸命、みんな心血を注いで取り組んでいるわけでございます。そのようながん撲滅という国民的な大課題にこたえようというふうなことであって、それぞれの真摯な取り組みを高く評価するものでございます。

 そして、先ほどの、午前中行われました提案説明、趣旨説明においても、民主党の方からも修正協議に応じる用意がありますというふうな御発言もありました。ぜひ高い見地から協議を行い、そして小異を乗り越えて一本化、そして一日も早いがん対策法案の成立ということで、この救済を行うべきであるというふうに認識をしているわけでございます。

 そして、そうした中において、まず、これまで政府が一体がん対策に対してどういうふうな取り組みを行ってきたのか、そしてまた、その取り組みがこれまでのところいかなる成果を上げてきたのか、この点については、やはり冒頭、どうしても検証をしていかなければなりません。これまでの政府の取り組みにつきまして、川崎大臣にお伺いをいたします。

川崎国務大臣 今日までの取り組みでございますけれども、政府としては、これまで累次の対がん戦略を策定し、がんの本態解明と克服を目指した施策を総合的に推進するとともに、必要な予算の確保にも努めてきたところでございます。

 第一次、第二次の総合戦略により、例えば、がんは遺伝子の異常によって起こる病気であるという概念が確立するなど、がんの本態解明が進展してきた。診断、治療技術が目覚ましい進歩を遂げ、胃がん、子宮がんの死亡率は減少し、胃がん等の生存率が向上するなどの成果をおさめておると考えております。

 一方、今後一層の医療技術等の研究開発や予防対策の推進に加え、一部の地域や施設等での導入にとどまっている対がん戦略の成果を全国的に普及していくことが求められております。このため、平成十六年度から、がんの罹患率と死亡率の激減を目指して、第三次がん十カ年総合戦略を推進するとともに、平成十七年度には、厚生労働省にがん対策推進本部を設置した上で、がん対策推進アクションプラン二〇〇五を策定し、対策推進の枠組みを整えたところでございます。

 こうした枠組みのもと、平成十八年度は、アクションプラン推進のため、対前年度比約十七億円増となる百六十一億円の予算、四月に本省がん対策推進室の体制を強化、十月に国立がんセンターにがん対策情報センターを設置することといたしております。ナショセンでございます国立がんセンターを中心にしながら、各地方に至るまで医療技術の均てん化を図る、一方で地方からの情報をここに収集するというような形で、いずれにいたしましても、先ほど少し申し上げましたように、一部の地域や施設等での導入にとどまっているそういったものを全国的に広げていかなければならない、このように考えております。

寺田(稔)委員 今、大臣より、地域偏在の問題、そしてまた均てん化の問題というふうな話もありましたが、まだまだがんによって死ぬ人が、国民の三人に一人はがんで亡くなっている。そして毎年三十万人を超える方々が亡くなっている。そしてまた数百万人以上の患者がおられる。こういうまさに国民的病としてのがん撲滅に向けた取り組み、ますます強化をしていかなければならないことは論をまたないところであります。

 その点について、当然、早期発見、早期治療という意味で、がん検診というものの重要性、これはもう当然のことであるわけでございますが、与党案の十二条においても、そしてまた野党案にも同様の規定があるわけですけれども、がん検診の方法の検討、そしてさらには医療従事者に対する研修の機会の確保、そしてまた受診率の向上に向けた施策、これらを行っていくというふうなことが書かれている。特に検診体制の充実ということが早期発見、早期治療のためにも必要不可欠である。

 そういった意味で、この検診強化に政府として全力を挙げて取り組むべきであると考えますが、この点についての御所見を赤松副大臣にお伺いいたします。

赤松副大臣 今、寺田委員御指摘のように、すべての病、早期発見、早期治療が大事だろうと思いますが、とりわけがんにあってはそのことが強く言えるんだろうと思います。私事で恐縮ですが、私も母親を胃がんで亡くしましたけれども、もう少し早く発見をし治療しておればなということを非常に悔やむわけでございます。

 今、検診強化に政府としてしっかり取り組むべきではないかという御指摘、まさにそのとおりでございます。

 従来、御承知のように、老人保健法に基づく事業としてがん検診は実施されてまいりましたけれども、平成十年度に一般財源化された後は、法律に基づかない事業として各市町村が主体となって実施してきたところでございます。

 その市町村におきましては、受診率を向上させるための普及啓発に要する費用も含めて交付税措置をされているところでありまして、毎年十月の四十歳からの健康週間や九月のがん征圧月間の機会等を利用して普及啓発が実施をされております。国としましても、がん検診の検査結果に関する信頼性を維持向上させるための精度管理などの面で都道府県と協力をし、市町村によるがん検診の支援をしてまいりました。

 こうした中で、今回の健康保険法等改正法案によりまして改めて、健康増進法、この法律に基づく市町村の事業としてがん検診を明確に位置づけるとともに、国の基本方針及び都道府県の健康増進計画にも受診率向上に向けた目標を盛り込むこととしました。これらの取り組みによってがん検診の推進をしっかりと図ってまいりたい、そんなふうに考えております。

寺田(稔)委員 ぜひともこのがん検診、特に最近はPETを中心といたします最新鋭の検診技術、そしてまた、それの治療への連結、リンクといったような点で先進的な試みもなされて、相当程度に成果を上げておりますので、ぜひこうした取り組みの均てんと、そしてまた検診強化に向けた政府としての取り組みを強化していただきたいというふうに思います。

 次に、先進的な技術、特に陽子線や炭素線によります治療、これは高度の治癒率を誇っております。そうした中におきまして、重粒子線の治療施設が大変大きな脚光を浴びていることは御承知のとおりでございます。

 私も、静岡にあります陽子線の施設の視察に行ってまいりました。また、千葉にありますこういった最先端の放射線治療の視察に行ってまいりました。体力、体への負荷も少ないというふうなことで非常に注目をされている。しかし、非常にコストがかかる。そしてまた、さまざまな意味で技術者の養成もまだまだおくれているわけでございます。

 この点、与党案、野党案いずれにおいても、この点の取り組みを慫慂する。すなわち、与党案で見ますと、その十三条において、国は、放射線療法等、そしてまたがんに携わる専門的な知識、技能を有する医師等の育成を図るために必要な施策を講ずる、また第二条において、がんの克服を目指し、がんに関する専門的、学際的、総合的な研究を推進するものとされております。またさらに、十七条においては、革新的ながんの予防、診断、治療に関する方法の開発、がんの罹患率及びがんの死亡率の低下に資する事項についての研究が促進をされ、その成果が活用されるように必要な施策を講ずるものというふうにされているわけでございます。

 この分野において、政府として、まずいかなる取り組みを今まで行ってきたか、そしてこれから行うつもりなのか、御所見をお伺いいたします。

中島政府参考人 ただいま御指摘のございました陽子線や重粒子線でございます炭素イオン線などの粒子線の治療につきましては、日本で六施設において行われておりまして、そのうち四施設では医療保険の高度先進医療として診療が行われている状況でございます。

 また、放射線治療の専門医や放射線技師の数が十分とは言えないとの御指摘もありますことから、がん医療水準均てん化の推進に関する検討会の報告を踏まえまして、国立がんセンター等における医師や診療放射線技師等がん専門医療指導者に対する研修コースを平成十八年度に新設いたしまして、また、がん診療連携拠点病院の医師や診療放射線技師等の研修の拡充などを進めているところでございます。

 さらに、がんの治療に関する研究につきましては、第三次対がん十カ年総合戦略におきまして、重点的研究課題といたしまして、粒子線治療の臨床的有用性の確立及び治療装置の小型化等を設定するなどの取り組みを行うこととしてございます。

 今後とも、先端的な技術の応用も含めまして、がん医療のより一層の向上に努めてまいりたいと考えております。

寺田(稔)委員 ぜひともこういったような先端技術、我が国に今現在あります陽子線あるいは炭素線の施設、これは確かに、世界的に見ましても、我が国がこの分野においては一等進んでいるということは事実かと思います。諸外国からも多くの視察団が参っております。

 現在、高度先進医療の一環として位置づけられておりますが、やはりこれも普及をさせていく、そして均てんをさせていく努力がどうしても必要であります。これから、全国的にさまざまな施設の建設計画も今あるわけでございますが、いずれ将来的にはこういったような最先端の医療の保険適用についても、汎用化というふうなことが見えてきた段階で当然視野に入れていくべきであろうというふうに思うわけでございます。

 また、先ほど副大臣より御答弁のありました検診との連携、これも非常に重要でございまして、PETCTの成果を生かして、それを直ちに、その成果をもとに早期発見、早期治療につなげますためにも、これらの最先端の医療分野につなげていくというふうな十分な連携体制の確保についても十分に意を注いでいただきたいというふうに思います。

 次に、がん診療連携拠点病院の問題でございます。

 このがん診療連携拠点病院について、特にその指定については、第二次医療圏ごとに、現在、原則一カ所程度というふうにされておるわけでございますが、それぞれの第二次医療圏の医療事情あるいは特性などに応じて、またさらに地理的または機能的な特性を考慮して、当然のことながら、これはエリアによっては複数箇所の指定を機動的、弾力的に行うべきものと考えますが、御所見をお伺いいたします。

中島政府参考人 ただいま御指摘のございました地域がん診療連携拠点病院でございますけれども、これは地域におけるがん診療水準の向上を図りますために、各都道府県からの推薦に基づきまして、各県の二次医療圏ごとに原則として一カ所程度指定をすることとしておる仕組みでございます。

 しかしながら、例えば、ある二次医療圏においては、地域がん診療連携拠点病院の必要とする要件を満たします専門的な医療機関が存在をしない、一方では、隣接する二次医療圏に適当な医療機関が複数存在するというような場合も考えられまして、その都道府県における指定の状況を勘案した上で、それらの医療機関を複数の二次医療圏に対応するような地域がん診療連携拠点病院として指定することがむしろ適当ではないかと判断されるようなことも考えられるわけでございます。

 したがいまして、地域がん診療連携拠点病院の指定につきましては、御指摘もいただきましたように、その地理的状況やあるいはがんの患者の動態、それからまた医療資源の分布等の諸条件など、個々の地域における特性を十分考慮した上で行うべきであろうというふうに考えてございます。

 厚生労働省といたしましては、今後とも個々の地域事情を十分に勘案した上で、全国どこにおいても一定レベル以上のがん診療を受けることができるよう、適切に地域がん連携拠点病院の指定を行ってまいりたいと考えてございます。

寺田(稔)委員 この二次医療圏ごとの拠点病院の指定ですけれども、これは健康局長の通知という形でもって書き込まれているわけですね。それが根拠なわけですね。これはまさに局長の専権として指定をされるのでしょうけれども、やはりこれは、この御時世、当然十分にそこらの実態を考慮して、特に厚生労働省の立場として、これから本格的にがんの治療を行っていく、あるいは必要な体制を整備していく上で一等何が適正なのかというふうなことを十分踏まえていただく必要があるわけです。

 今、局長は一つ、時間距離の問題を言われました。確かに、当委員会でも、いろいろな委員から、拠点病院に行くのに非常に時間がかかる、遠いというふうな問題の指摘もあるわけです。そういう時間距離も当然ある。そしてさらに、機能的な特性も、当然のことながら十分踏まえなければなりません。

 例えば、広島、私の地元でもあります。これは皆さんも御承知のように、被爆地でございます。そして、原爆被害によって多くの皮膚がんの発生あるいは肺がんの発生、さらには血液のがん症状等が発生をしております。私の父母とも、広島の地で被爆をいたしました。その意味で、私も現在、被爆二世というふうな立場で活動させていただいているわけでございますが、そういった広島の被爆の特性から考えますと、多くの知見も集積しております。またさらに、放射能医療の医療技術の集積、そしてまた放射線治療の専門家も恐らく全国では一番多く存在をしているわけです。こういった最先端の知見あるいは技術を全国に均てんをさせることによって、数百万人あるいは将来、数千万人の人を救えるというふうな可能性も開けてくるわけです。

 そういった意味では、現在、放射能関係の研究機関としてABCCがある。そしてまた、医療機関としても、原爆病院、そしてまた県病院、さらには市民病院、大学病院、そして、より広い広島圏域を考えたときには、国立病院のがんセンター、さらには医師会病院、そして公的な施設としての共済病院、さらには自衛隊病院が存在をしております。

 特に、共済病院においては、そういったがん患者も扱っておりますし、毒ガスの被害患者、これも現在、約五千名が毒ガスの被害に苦しんでおられます。そして、呼吸器系の障害あるいは循環器系の障害、多くの障害が発生をしているんですね。それが、実はがんとの因果関係も指摘をされております。

 私も被爆二世ですが、私、現在、高校の同級生が二百名おりますが、既に四名が亡くなっております。直接的な被害によって亡くなったというのではありません。しかし、被爆二世ですから、血小板が少ないあるいは白血球が少ないことによって、一たびダメージを受けたらなかなかリカバーできないというふうなことがあるわけです。

 例えば大きな事故を受ける、交通事故によって出血をする、それがリカバーできないで死亡していく、あるいは、女性の場合は帝王切開手術をして出血がとまらず、そのまま死亡してしまう。これは明らかに体の免疫力の低下、抵抗力の低下、そしてそれがまさに新生物、がん、あるいは各種の感染病の誘因となっているというふうな有意な研究結果も既に出されているわけでございます。そういった多くの知見あるいはまた治療実例、そしてまた専門家のノウハウ、これを生かさずして、私は将来のがんの治療体制の確立はないものというふうに確信をしております。

 この点について、再度、中島局長の御認識と今後の取り組み方針についてお伺いをいたします。

中島政府参考人 ただいま御指摘いただきましたように、現在私どもの方で行わせていただいております地域がん連携拠点病院の指定の仕組みにつきましては、まさにこれが設けられた趣旨というのは、がんの診療水準の均てん化それからがんの診療水準の向上ということでございます。そういった観点から、この仕組みが有効に本来の目的を達することができるように、その指定のあり方につきましても、それぞれの特性を踏まえて、実際にそういった目的が達成できるような指定の仕方をこれからも検討し、工夫もしてまいりたいというふうに考えております。

寺田(稔)委員 この点は非常に重要な点でございまして、その局長通知という一枚の紙切れでもって、よもや実態も見ずして、全国一律の基準でもって律してしまうことのないように、くれぐれも適正な対応、そして将来の、まさにがんに苦しんでおられる多くの方々に夢を与える、そしてまた多くの与野党議員の真摯な取り組みにこたえるような方向で、今後の政府としての施策をぜひとも強力に構築していただきたいと思います。

 また、こういった、現在与野党からもそれぞれ真摯な提案がなされているわけでございまして、そういったような点も踏まえて、政府として早急に、これからのがん対策の構築と、そしてこれから来るべき二十一世紀、少子高齢化社会を見据えた対応、誤りなきを、遺漏なきを期していただくことを切に祈念いたしまして、私の質問を終えます。

岸田委員長 次に、高木美智代君。

高木(美)委員 公明党の高木美智代でございます。

 今、がんは死亡原因の第一位となり、年間死亡者数は約三十二万人と言われております。二人に一人はがんになり、三人に一人ががんで亡くなっている。また、二〇一五年には年間死亡者数は四十三万人と推測されており、一・五倍に伸びると言われております。

 二人に一人ががんで亡くなる時代がこれから十年後到来するということでございますが、このようなことを考えますと、がんというのはまさに国民病でありまして、これはもはや国家戦略として取り組むべき課題であると認識をしております。そうした中、今回、与党としてがん対策基本法案を出されましたことはすばらしいことであると高く評価をするものでございます。

 そこで、本法案につきまして、提案者であります斉藤議員に順次質問をさせていただきます。

 まず、これまでの公明党のがんに対する取り組みの経緯と、なぜ立法化が必要と判断をされたのか、お伺いをさせていただきます。

斉藤(鉄)議員 公明党の斉藤鉄夫でございます。

 与党案の提出者の一人としてお答えさせていただきます。

 まず第一点目の、これまでの公明党の取り組みの経緯でございますが、公明党のがん対策への取り組みは、実はかなり早い段階からスタートしております。

 特に本格的に取り上げましたのは、二〇〇四年一月の衆議院での神崎代表の代表質問です。神崎代表は、総理のリーダーシップのもと、強力ながん対策を推進せよと迫りました。そして、昨年六月にはがん対策プロジェクトチームを立ち上げ、二十回近い勉強会や視察を踏まえ、昨年十一月には、がん対策法の制定を含むがん対策の推進に関する提言をまとめ、政府に申し入れをしました。

 ことし一月からは、議員立法でがん対策を進めるべく法案づくりに着手し、一月二十四日の衆議院代表質問で、神崎代表が公明党独自のがん対策法の策定を検討していることを表明しました。二月には、井上政調会長が衆議院予算委員会で、日本のがん対策でおくれている緩和ケアと放射線治療の推進を図るべき、またがん医療の均てん化のためにがん登録制度をと訴えたことは御記憶に新しいと思います。三月には、がん対策推進法案要綱骨子を策定し、与党政策責任者会議に提示して、与党プロジェクトチームを設置しました。その後、自民党さんとの協議を重ね、先月十八日にがん対策基本法案を決定したわけでございます。

 二点目の、なぜ立法化が必要と判断したかということにつきましては、先ほどございました、日本が欧米に比べて大きくおくれている部分、これを早急にキャッチアップする必要がある、このように感じたからでございます。

高木(美)委員 法案作成の過程の中で、ただいまもお話ありました放射線治療につきまして、なぜ公明党は、いろいろあるがんの治療法の中で特に放射線治療を強調したのか、またその点は基本法案の中にしっかり盛り込まれたのかどうか、お伺いをいたします。

斉藤(鉄)議員 四十年ほど前の日本では、がんといえば胃がんが主流でした。このため、治療法はがんを摘出する手術がすべてのように思われ、その後も、がんイコール胃がんイコール手術という、手術偏重の時代が続いてきました。しかし、日本人の生活の欧米化で、がんも、胃がん、子宮がんから肺がん、乳がん、前立腺がんなどへと、がんの欧米化が進んでおります。

 がんの治療法にはいろいろありますが、がんを完全に治す完治、根治には手術か放射線治療しかありません。もちろん例外はありますが、それは非常にまれでございます。そして、この欧米型のがんの治療には放射線が有効と言われております。

 ところが、完治のために手術をする外科医は十分にいるのですが、放射線治療医はたった五百人しかいません。治療施設は七百以上あるので、パートでの治療も多いと言われます。近い将来、日本人の四人に一人が放射線治療を受けると予想されるのに、五百人では到底賄えません。ですから、まず、完治のために手術と並ぶほどの治療法である放射線治療医をふやす必要があります。

 また、がん患者の高齢化が進み、手術に耐えられない患者がふえているため、放射線治療の出番が急速に多くなっています。高齢化が進めば進むほど放射線治療の需要はふえます。現在、がんの患者で放射線治療を受けているのは十五万人、二五%。十年後には三十万人に急増すると厚生労働省の研究班の予測もございます。この急増にこたえるためには、放射線治療医をふやすしかありません。

 延命を基本とする腫瘍内科医、いわゆる抗がん剤治療専門医の方は、十万人以上の内科医の中から腫瘍認定医としてふやしていくことは容易と言われています。これに対し、放射線は、五百人しか医者がいないため、専門医をふやすには医学生を放射線治療の分野に引っ張ってこなければなりません。つまり、放射線治療医の育成には時間がかかるので、早急な対応策が急務でございます。

 ちなみに、アメリカには放射線治療医は六千人いらっしゃいます。

 与党のがん対策基本法案では、第十三条の専門的な医師の育成の項で、「手術、放射線療法、化学療法その他のがん医療に携わる専門的な知識及び技能を有する医師その他の医療従事者の育成を図るために必要な施策を講ずる」としておりますが、これは、がん治療を担当する医師の中で特に不足している分野の専門的医師及び医療従事者を育成しようという趣旨です。

 また、第二条の基本理念に学際的という言葉を入れました。これは、医学、理学、工学、それぞれの最先端の学問分野を統合して、この放射線、これは物質内の放射線挙動という非常に理学、工学が関与した分野でございます。そのような最先端の医学を統合して当たっていくべきだという理念をこの二条の中に入れたものでございます。

高木(美)委員 今御答弁いただきまして、放射線治療医の専門家の育成が大変大事であるということがわかりました。

 このことにつきましては、与党の法案づくりの段階では、しっかりと自民党さん、そして公明党間で認識は一致されたのでしょうか。

斉藤(鉄)議員 はい、この点は、自民、公明両党間でコンセンサスを得られております。一致をいたしました。

 ただ、基本法案に治療の一つだけを特筆することは法文上のバランスを欠くとの指摘もあり、がん対策推進基本計画の中でしっかりと詰めたものを決めようということで一致しておりますので、法案が成立した暁には、基本計画で放射線治療医等の育成が明記されることになります。

高木(美)委員 ありがとうございます。

 足らざるところを補いながら、総合的な連携で、組み合わせで治療に当たるというその趣旨がよくわかりました。

 重ねまして、欧米では、この放射線治療につきましては、受けている患者の数は多いのでしょうか。お願いいたします。

斉藤(鉄)議員 アメリカではがん患者の六六%が放射線治療を受けている、ドイツでは六〇%、欧州ではがん患者の半数以上が放射線を受けておりますが、日本は二五%でございます。イギリスは五六%ですが、イギリスでは最近、放射線治療の専門家不足で治療開始がおくれ、今やだれを優先治療するかが問題となっており、国家的政策を定めるときが来たとする報告さえございます。

 日本も、放射線治療が急増中で、一部の施設では既に治療はオーバーフローしており、だれを優先してがんの放射線治療をするかという時代に突入しつつあると言われます。この問題に真剣に向き合わないと大変なことになる、こういう認識でございます。がんの種類が変化し、手術から放射線治療へと比重が移行しつつあるという事実を軽視してはいけない、このように考えております。

高木(美)委員 この放射線治療につきましては、確かに抗がん剤であるとか手術であるとか、そうした内容に比べましたら、がん患者の痛みを取り除くためには大変有効であるとも伺っております。恐らく緩和ケア、緩和治療にも重要な役割を果たしているとも言われておりますけれども、このことにつきまして御所見を伺います。

斉藤(鉄)議員 放射線治療が緩和ケアに大きな役割を果たしている、そのとおりでございます。

 がんになった場合、まず手術か放射線治療か、その両方に、場合によって抗がん剤を組み合わせたやり方によって完治を目指すわけでございます。しかし、転移や再発などで完治がだめということになれば、緩和ケア、緩和医療の考え方を基本にした上で抗がん剤治療を適切に行うという方針をとらなければなりません。

 がんの特徴として、完治が得られずがんによる死が定まっている場合でも、数カ月から数年の時間が残されているという点がございます。この限られた時間をどう過ごしていただくかが緩和ケアの大きな課題でございます。

 一方、有効性が確立しているがん治療には、これまで言ってきたことでございますが、外科手術、抗がん剤治療、放射線治療がありますけれども、放射線治療は、手術、抗がん剤と比べて患者の負担が非常に少ないために、末期がん患者にも行うことができる治療でございます。また、単にがんの痛みを抑えるだけでなく、原因となるがん病巣を縮小させるなど、病的骨折の予防、脊髄圧迫の解除、脳転移による神経症状の緩和などが得られます。

 こうした治療は、限られた人生最後の時間を有意義に過ごす上で不可欠です。特に、最近の技術的進歩によって、一回に大量の放射線をがん病巣にピンポイント照射することが可能となり、体調のよくない末期がん患者の救いとなっております。

 このように、放射線治療は、非完治、非根治患者における症状緩和に極めて重要な役割を果たす、このように認識をしております。

高木(美)委員 放射線治療医育成の緊急性については、よくわかりました。

 ただ、今後、専門医をどのように育成していくのか、どうすれば専門医をふやすことができるのか、お考えを伺います。

斉藤(鉄)議員 治療医を育てる専門講座の問題でございます。

 ここが一番大きな問題なんですが、現在、八十ある大学医学部のうち、放射線治療の講座は十二校、一五%しかありませんが、教授職は三十一人いらっしゃるそうです。ただ、これも八十大学中三九%です。

 そこで、放射線治療医の育成については、放射線治療を専門とする教授職をつくるところから始めるとよいと言われております。助教授を教授職にすることは比較的簡単と言われておりますので、大学の考え方を尊重しながら教授職をふやすことが合理的かもしれません。その上で、放射線治療の講座を多くの医学部につくり専門医をふやす努力、これも必要かと思います。

 また、現在講座がある学部でも、いわゆる放射線治療と放射線診断の講座が同居していると言われております。これは、同じく放射線と名前はつきますが、全く内容は別個のものでございます。別個の講座にするべきです。放射線治療学と放射線診断学、別個の全く違うものだからです。しかも、既に放射線診断医は全国で四千人いらっしゃいます。欧米では、放射線治療と放射線診断は別個の講座となっている、これは常識になっているそうでございます。

高木(美)委員 公明党は、もう一つの柱としまして、がん対策として緩和ケア、緩和治療の重要性を強調していると受けとめております。

 この理由につきまして、御説明を求めます。

斉藤(鉄)議員 与党のがん対策基本法案は、何も現在政府が推進しているがん対策を否定しているものでは全くなく、むしろ、それはそれでどんどん進めていかなくてはいけないと考えております。今回、与党案が強調しておりますのは、がん対策の中で大きくおくれている部分がある、そこを強力に推進しなくてはいけないというふうに考えているからでございます。そのおくれた部分が、緩和ケアと放射線治療でございます。

 緩和ケアとは、患者の痛みを和らげる、とってあげるという医療行為ですが、これまで緩和ケアは、患者が終末期に至って初めて開始されるという状況が続いてきております。つまり、治らないとわかったがん患者にこそ医師は最善の医療を提供すべきなのに、実際のがん医療現場では、完治しない患者の七、八割は、激しい痛みと精神的な苦しみの日々を過ごして死に至るというのが実態だと言われております。

 がんの痛みは、進行して骨などに転移すると発生します。がんの痛みを和らげることは緩和ケアの最も重要な役割ですが、その中心は、医療用麻薬であるモルヒネ、あるいは類似薬物を薬として飲む方法です。

 モルヒネと聞きますと麻薬中毒になるといった誤解、口から飲む分には、いわゆる習慣性は大丈夫だということらしいですけれども、こういう中毒になるという誤解も根強くあり、モルヒネの使用量は欧米に比べて格段に低い。カナダ、オーストラリアの七分の一、アメリカ、フランスの四分の一でございます。類似薬物まで含めますと、日本人一人当たりの使用量は、アメリカの二十分の一です。

 なぜこうしたことになったかというと、そもそも日本では、岡山大学のような一部を除き、緩和医療学の講座が医学部に存在しません。このため、講義や実習がほとんど行われていないと聞いております。緩和ケアの考え方は、がんのみならず医療の根底にあるべきですが、日本では医学生が学ぶ機会がないと言われております。

 本来の緩和ケアとは、がんと診断されたときから治療と並行して受けられるようでなければなりません。イギリスでは、十年前から国家戦略としてがんに取り組み、緩和ケアをがん医療の中心に据え、これまでに三分の二の医師が緩和ケアの研修を終えていると報道されています。今では、どこの病院に行っても緩和ケア専門の外来があるそうです。

 日本でも、行政任せにせず、法律によって緩和ケアを充実する体制をつくり、緩和医療学講座の設置はもちろん、早急に医師や看護師、薬剤師などに対する緩和ケアの教育、普及を徹底しなければなりません。

 そのために、法案では、第十五条で、「国及び地方公共団体は、がん患者の状況に応じて疼痛等の緩和を目的とする医療が早期から適切に行われるようにすること、居宅においてがん患者に対しがん医療を提供するための連携協力体制を確保すること、医療従事者に対するがん患者の療養生活の質の維持向上に関する研修の機会を確保することその他のがん患者の療養生活の質の維持向上のために必要な施策を講ずるものとする。」と明確に規定しているところでございます。

高木(美)委員 今までるるお話を伺いまして、やはり一番大事なことは、今、まだ日本の医療におきましては、がんイコール死という、そのことでございます。緩和ケア、そして放射線治療、これを日本のがん対策のおくれを改善する二本柱に据えていただきまして、極端な表現ですが、がんになっても痛まない、苦しまない、そういうような治療、これはまさに夢のような治療でございますけれども、こうした社会にぜひともしてまいりたいと私も思っている一人でございます。

 特に、今までも検診のお話等もありましたけれども、がんの死亡者数を減らしていくという視点、そしてまた、すぐ近隣の方たちが亡くなっていくというこのつらさ、やはりここを何としても大きく変えてまいりたいというふうに思っております。がんの死亡者数を減らすという視点は本法案ではどうなっているのか、お伺いをいたします。

斉藤(鉄)議員 お答え申し上げます。

 その点も極めて重要でございまして、第十七条において「がんの本態解明、革新的ながんの予防、診断及び治療に関する方法の開発その他のがんの罹患率及びがんによる死亡率の低下に資する事項についての研究が促進され、並びにその成果が活用されるよう必要な施策を講ずるものとする。」と規定されており、いわゆる免疫療法なども積極的に研究開発していくとしております。

 与党間協議の中でも、本当に将来に明かりを見出すような、将来に希望があるような法案にしていこうという強い御意見もございまして、このように規定されているところでございます。

高木(美)委員 よろしくお願いいたします。

 もう一つ盛り込まれておりますがん対策推進基本計画につきまして、ここで細部にわたりましてさまざま盛り込まれるかと思いますが、このことは閣議決定に持っていく、このような方向なのでしょうか。

斉藤(鉄)議員 はい、このがん対策推進基本計画につきまして、法案の第九条二項では「政府は、がん対策推進基本計画を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、」となっており、主語が「政府は、」と明確に書いてございます。通常、原則として閣議決定の形をとるということになるわけでございます。従来の例としては、ものづくり基本法、これも議員立法、また同じく議員立法で子ども読書推進法などは閣議決定しておりますので、がん対策基本法案も当然そうなる、このように考えております。

 また、先ほど、具体的な項目についてはがん対策推進基本計画の中に書き込むというところでございますが、放射線治療につきましてぜひ私自身書き込みたいというので、先ほど基本理念の中に学際的という言葉が入った、このように答弁をさせていただきました。これから日本の医学が本当に進んでいくためには、医学と理学と工学がそれぞれの研究分野で対等の立場で協力しながら、連携を図っていきながら進んでいくということが大切だと思っております。

 アメリカの放射線治療の場合、いわゆる六千人の専門医がいると言われましたけれども、その数に匹敵するだけのいわゆる博士号を持った工学博士、理学博士がそれを支えていると言われております。その人材供給源は、実はアメリカでは、スリーマイルアイランドの事故以降、原子力分野が減ってきた、その技術者が医学の分野に進んだ、その博士号を持った理学者、工学者がお医者さんと共同して、放射線治療、重粒子線また普通の粒子線、陽子線、その他のいわゆるリニアック等の電子エックス線等の電子線を照射する、いろいろな分野で活躍をしてここまで伸びた、このように言われております。

 アメリカでは数千人オーダーいる、サポートする人たちが日本では理工系出身者はわずか五十人程度と言われておりまして、この分野でも、そういう意味で、日本の医学がこれから世界の医学の中で最先端を行き、ある意味で国際競争力を持ち、世界じゅうから日本に患者さんが来る、そういう状況をつくり出していくためにもこのような学際的な研究が必要だ、このように考えているところでございます。

高木(美)委員 ありがとうございました。

 最後に大臣に質問をさせていただきたいと思いますが、これまでの斉藤議員の答弁を踏まえまして、緩和ケア、そしてまた放射線治療医等の育成、また放射線治療の推進、そしてがん対策推進基本計画の策定等々、本法案に盛り込まれております。当然こういった中には文部科学省と連携をとっていただかなければいけない点もあるかと思います。

 いずれにしましても、がんは恐ろしい病気というふうに言われております。また、最初の発病の場合にはまだクリアできる道は多く今残されておりますけれども、がんでは、再発とか転移があれば、基本的に今の段階では治癒は望めない。そうした方は、再発された患者さんは、半年から二、三年で亡くなられるという厳しい現実も今ございます。しかも、痛みに苦しむ方が七割から八割いらっしゃる。そういう、最後までがん治療をして治す、そこに今までの日本の医療は目を向けてきたともとらえていいのではないかと思います。

 そういう方たちにとって、自分自身の生活のQOLが確保されまして、再発また転移がありましても、先ほど申し上げましたように、痛むことや苦しむことなく、安心して残された時間を、御自分の人生を総仕上げして、そして人生を大きくまた閉じていかれる、そうしたお一人お一人への安心のがん対策、これが今求められているということが先ほど来お話しありました答弁の内容であるかと思います。

 大臣には、緩和ケア、そしてまた放射線治療医の育成、そして放射線治療の推進、また計画の策定に当たりましての御所見を最後にお伺いさせていただきたいと思います。

川崎国務大臣 与野党からがん対策に対する法案が提出されました。今の委員と提案者のやりとりを聞いておりまして、医療というものについて、基本的には、今日までは学会とか大学とか、専門分野の人たちに治療内容は任せていく、方向づけもそのような考え方でやってまいったと思っております。

 しかし、患者さん方の御意見、また諸外国の技術の向上、そしていろいろな医療界の皆さん方の声を国会議員の方々がまとめていただいて、思い切って踏み込んだ議論をしていただくことになった。そういった意味では、どちらがいいということを言う立場ではございませんけれども、思い切った御提案をいただいているというようにまず考えております。

 まず、緩和ケアについては、がん患者に対する緩和ケアは、麻薬等を用いて患者の身体的苦しみや精神的苦しみを緩和し、療養生活の質の向上を図っていく上で必要であると考えております。患者と家族にとって可能な限り質の高い療養生活を実現するためには、終末期だけでなく、治療の初期段階から積極的な治療と並行して痛みの除去等を行うことが重要と考えられております。そのため、早い時期から痛みの除去等を実施することの重要性について、研修の実施やマニュアルの普及等により医療従事者の認識を高めることを通じ、医療の現場において緩和ケアが適切に実施されていくことが必要である。

 百万人一日当たりの消費量をとりますと、オーストリアが二百四・〇、アメリカが百二十一、イギリスが五十一に対して、我が国は十七。大体ドイツと似たような数字と聞いておりますけれども、そういった意味では、諸外国で行われている緩和ケアというものにもう少し国全体が目を向けながらやっていくべきではないかという御提案をいただいた。私どももそうしたものを尊重しながらやっていかなきゃならないと思っております。

 もう一つは、がん治療につきまして、放射線治療や抗がん剤治療に比べて、我が国は手術の割合が高いとの御指摘がございました。患者の人生観や価値観が多様化していること、手術以外の治療法の成績も向上していることなどから、多様な選択肢から放射線治療を選択できるようにすることが重要であると考えており、放射線治療医の育成については、国立がんセンター等におけるがん専門医療指導者に対する研修コースを平成十八年度に新設をいたしました。がん診療連携拠点病院の医師の研修の拡充などを進めております。

 これから学会でもいろいろな議論をされることになると思いますけれども、法律をもってしっかりやれという話でございますので、まさに前向きな御提案をいただいた、このように考えております。

 実は、この問題も含めまして、これを一つ一つ読ませていただく中でも、私ども、まず文科省との連携が大変重要であるなと考えております。これは、厚生労働委員会の議論の中で文科省と関係することは多うございますけれども、特にこのがん対策についても、人材の育成から始まりまして、さまざまな形で文科省との連携。また、放射線治療等、治療機器、薬だけではなく機器という問題も絡んでまいりまして、経産省との連携というものも極めて重要な話になってくる。そういう意味では、先日、二階経産大臣、小坂文科大臣と会合を持ちまして、三省しっかり連携をとりながらやっていかなきゃならない。その位置づけとして法律というものを議論していただいているということについては、私どもとしては高く評価をさせていただきたいと思っております。

 一方で、各地域の状況でございますけれども、実は、私が就任いたしまして一番気になりましたのは、がんの連携拠点病院、すべての県ができているかというと、できていないということが第一。第二番目は、大学病院が入っていない。それでは、地域によってしっかりがん対策を練るといっても、大学病院が外れた中で本当に組めるのか。

 そういう意味では、厚生省の予算が流れていく先と文科省の予算が流れていく先と、何か分かれてやっているのか、このように、実は私、就任直後言いまして、文科大臣にお願い申し上げた。厚生省から流す通達だけれども、ひとつそっちからも通達出してくれというお願いを申し上げまして、ことしから多くの大学病院が参加をしてくれるようになりましたし、四十七都道府県がやっとスタート地点についてくれた、このように考えております。

 スタート地点についてくれたものを、もう少し理論づけてしっかりやれという法案の構成になっておりますので、こうしたものを体しながら我々もしっかりやっていかなきゃならない、このように考えております。

高木(美)委員 ありがとうございました。

 ぜひとも強力なリーダーシップで、本法案成立の暁には国民のためのがん対策を推進していただきますことをお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

岸田委員長 次に、仙谷由人君。

仙谷委員 本日から、民主党提出のがん対策基本法、そして与党提出のがん対策基本法ですか、日本のがん治療、そのシステムを大きく飛躍的に変えていこう、こういう法案が提出をされて、審議をされることになりました。

 個人的な感慨を言ってもしようがないのでありますが、改めて振り返ってみますと、二〇〇二年の五月二十九日に私がこの厚生労働委員会で、これは委員外でありましたけれども、患者の一人として質問をいたしました。そのときから約四年を経過して、ようやく法案が審議をされるという状況になっておるわけでございます。ある意味で感慨もひとしおだというふうに言ってもいいかもわかりません。

 先ほど山井委員の方から趣旨説明の中でお話をされました、尊敬する今井澄参議院議員は、私と同じ胃がんで、手術後多分一年半ぐらいで幽明境を異にしましたし、議員仲間でも相当数の方々が、この間お亡くなりになったわけであります。あるいは、この通常国会中にもお亡くなりになられた先輩の議員の方もいらっしゃるわけであります。

 私自身は、自分ががん患者になって、あと七カ月ぐらいでしょうか、卒業するまではそのぐらいの期間があるわけでありますが、このがん治療の現在持っている日本の問題点といいましょうか、抱えている問題点というのは、いろいろ教えられたり考えたりしておりまして、日本の医療のシステム全般が抱えている問題点、まさにそのものであるけれども、ある種、日々日進月歩が情報として流れる、患者にとっては治る可能性があるのではないかという希望がだんだん膨らむような日々が一方にあるということ。そしてまた、情報が耳に入ってくればくるほど、自分の置かれた状況について、自分を取り巻く医療の環境について矛盾を感じてくる。

 つまり、先端的と言っちゃなんでありますが、技術進歩とともに、人間の命が助かったりあるいは延命できたりする、あるいはクオリティー・オブ・ライフが保障されたりする領域が広がってくる。そしてそのことが、どうも私だけが保障されていない、我が家族だけが保障されていないのではないかという、客観的な状況がある分だけ、突出して問題点として今出てきているんだろうな、そんなふうにこの間感じてまいったところでございます。

 この政府・与党から出されました法案についても、その御尽力に心から敬意を払いたいと思いますし、その推進力になったのは、この四年間といいましょうか、三年間といいましょうか、数年間、患者の皆様方が、やはり自分のことだけではなくて、日本のがん難民大量発生と言われるような状況を何とかしなければならない、その思いでがん患者の方々が、あるいはその御家族の方々が、がん対策基本法といいましょうか、法整備あるいは情報センターあるいは未承認薬の使用というふうなことを掲げて運動をされた、その成果だと思います。

 しかし、これから申し上げますように、ここまで、先ほど斉藤鉄夫議員が、日本のがん治療の水準についてある種の自画自賛といいましょうか、そういうことをされたわけでありますが、患者の思いは必ずしもそうではない。そしてまた、医療の担当者も、熱心になさっていらっしゃるドクターの先生方や看護婦さん、この方々にお伺いすれば、大変もどかしい思いでこの十年間あるいは四、五年間の動向を見てきたと。現在、その四、五年間の遅々たる歩みについて、この延長線上で日本のがん治療が根本的、抜本的に飛躍的な改良、改善を遂げるというふうに、肯定的に、楽観的に見ていらっしゃる方というのはほとんどいないのではないかと私は考えております。

 そこで、まず、余り法案について細かく聞いてもなんでございますので、こういう点についての御感想を政府・与党、そして大臣からもお伺いします。

 昨年五月二十八日に、NHK大阪ホールでがん患者大集会というものがございました。これは第一回と書いてあるんです、報告書を持ってまいりました。

 これは私も、私どもの所属議員も相当出席、参加をしたわけであります。このとき、いわばこの実行委員会の代表の三浦捷一さん、あるいは、パネルディスカッションに出席をされた癌と共に生きる会の会長の佐藤均さん、お二人はもう既にこの世にいません。そういう事態でありますが、このときに、尾辻厚生労働大臣がこの集会に出席をされて、これから政府もがん対策をいわば魂を込めて、全力を込めて、全力を振り絞って行うんだという趣旨の発言をしていただいたわけであります。

 その中でこういうくだりがございます。

  そして最後になりますけれども、私が来る前に

その集会に来る前にという意味です、

 予算の話も出たそうですが、アメリカで六千六百七十五億円。日本百四十一億円。あまりにも少ないじゃないかというお話だったそうでございます。アメリカの六千六百七十五億円の内訳をよく見ておりませんから、単純には比較できないだろうと思いますが、しかし、日本の百四十一億円が決して多いとは言えない。はっきりいえば少ないと私も思っております。これは全力挙げて来年度予算で、がんばって増やしたいと思っておりますし、今日は実は一緒に民主党の先生方もお聞き頂いておりますから、これはもう超党派で一緒にがんばっていきたいというふうに思っております。

こういうふうに堂々たるメッセージを発したわけであります。

 その予算が、十八年度予算、この五月の後の七月からの概算要求等々を踏まえて、そして落ち着いたところが、先ほど山井議員が趣旨説明で申し上げましたような、百六十八億円だったと思いますが、そういう予算に落ち着いているわけであります。このことを指して、我々は、遅々たる歩みと。遅々として進んでいる、本当は進んでいないと言いたいのでありますが、進んでいる部分もあるので、遅々として進んでいると申し上げているわけであります。

 実際問題として、与党の方からもこの法案を出させることの意味、出すことによって何を今まで以上にといいましょうか、今までとは違ったレベルといいましょうか位相といいましょうか、そういうステージでがん治療というものをなさろうとしているのか。その点について、つまり、予算は一つだと思います、そういう観点からその点について、与党の鴨下委員、それから、川崎厚生労働大臣は別の角度からでも結構でございますけれども、お話をいただければと思います。

鴨下議員 今仙谷先生の方から、ある意味で、御本人の経験も踏まえて、深い思いを聞かせていただいたわけであります。そして、私たち与党の方でも、今般、がん対策基本法、これを出させていただいたわけでありますけれども、民主党さんが出している法案と我々の中で議論させていただいた法案につきましては、多少書きぶりは違うようでありますけれども、基本的には、私は、貫いている精神は同一のものがあるんだろうというふうに思っております。

 そして、今仙谷先生、今まで日本のがん医療は進んでいないじゃないか、そして患者さんたちにとってさまざまな、ある意味で不満、不安、こういうようなものが蔓延しているじゃないか、こういうようなお話もございました。

 私も、個人的なことでありますけれども、昭和五十年に医学部を卒業して、医者になりまして、肺がんと白血病を専らとする教室に入りまして、最初の訓練は肺がんと白血病の治療に専念しておったわけでありますけれども、そのときから比べて、やはり患者さん中心の医療あるいは緩和ケアに対しての考え方、こういうようなものについてはある意味で相当進んではきたんだろうというふうに思います。ただ、それぞれ、患者さん一人一人の立場に立ってみれば、もっともっとというような思いがさらに募るということは、そのとおりだろうというふうに思っております。

 政府の中でも、今まで累次に、対がん十カ年総合戦略、こういうものを三次までやってきたというようなことでありますし、加えて、これから、がん対策推進アクションプラン二〇〇五、こういうものも策定して、大いにがんについてさらに進めていこう、こういうような姿勢があることは間違いないわけでありますけれども、私たち与党として議論をするときに、さて、それでは、どこにいわば不足の点があるのか、どれを重点的にさらに進めるべきか、こういうような議論をしてまいりました。

 その中で、一つはがんの予防、それから早期発見の推進ということでありますし、がんというのは、残念ながら、進行してしまえば不治の病でありますから、できるだけ早期に見つけて治療を敏速にする。こういうようなことでいえば、ある意味で、予防、早期発見に尽きるわけでございます。それをより推進していこうじゃないか。

 加えて、がんの医療水準の地域格差の問題でありますけれども、これは患者さんからもさまざまおっしゃられています。特に地方の病院でも、中央の、例えて言えばがんセンター、癌研病院、こういうようなものに匹敵するような、ある意味では高水準の治療が受けられるように、こういうようなことの均てん化という概念をもっともっと推進するべきだ、こういうような話がもう一つであります。

 加えて、がんの治療というのは、大体は施設の中、病院の中でしてきたわけでありますけれども、患者さんによっては、むしろ在宅、あるいは本人の希望に沿った形での在宅と施設の行き来、こういうようなことを含めた、ある意味で患者さんの意思に従った医療をどういうふうに推進するか、こういうようなことについてはまだまだ不十分なところがあるだろう、こういうことであります。

 加えて言えば、終末期といいますかターミナルの段階になったときに、緩和ケア、特に今まではキュアを中心とした医療が多かったわけでありまして、ケアについては甚だまだまだ十分でなかったところは確かだろうと思います。ですから、今回は、早期からケア、特に仙谷先生おっしゃっていたように、QOLを上げていくようなケアをどういうふうにしていくか、このことを法案の中で盛り込んでおこうと。

 そして、例えて言えば、検査の段階でも、厳しい検査があります、そうすると、実際には体がだるくなったり食欲が落ちたり、こういうようなことも早期の段階からあるわけでありますから、そういうものに対してもできるだけの手当てをしていこうじゃないか、こういうような意味での緩和医療の充実、こういうことも盛り込ませていただきました。

 加えて、先ほど提案者の斉藤先生からも話がありましたけれども、例えて言えば、放射線の専門家あるいは化学療法の専門家、こういうようなものもきちんとした形で充実していかなければいけない、こういうようなことを今政府がやってきた対がん戦略の中でも、もっともっと推進しなければいけない、こういうような趣旨で今回与党案として提案をさせていただいた、こういうような次第でございます。

川崎国務大臣 与党、野党それぞれがん対策基本法を御提出いただきました。基本的に、私の立場から申し上げれば、当然与党と内閣は一体でやっておりますから、ことしのがん対策については、自民、公明そして私どもで、了解の中で一つの政策としてつくり上げてきた、これは間違いないと思っております。

 一方で、与党からもがん対策基本法という形で今日お示しをいただいたということは、簡単に言えば、閣議決定とどう違うんだということが一番大きいだろうと思います。そこは、私は、特にこれは与野党で基本法を出されて、最終的に院の意思としてまとまってまいりますれば、一小泉内閣、一自公政権ということではなくて、国の基本的な柱として位置づけられていくんだろう。

 そういう意味では、私どもの閣議決定は、今何をやるか、内閣として何に取り組むべきかということが中心でございますけれども、基本法としては、日本の国の理念としてがん対策に総力を投じていく、こういうことが決定をされるんだろう、そこが一番違いだろうかな。簡単に言えば、政権交代があってもこのがん対策というものは進められていく、そこに私自身は大きな違いがあるなと思っております。

 一方で、内容自体につきましては、私どもも進めてまいったところでございますけれども、今までの医療というものは、どちらかというと、学会なり大学なりの専門家の方々が、お考えになっていく方向に引っ張っていく。しかしながら、仙谷先生が触れられましたように、今回の基本法、両案見させていただいても、やはりがん患者の皆さん方や海外での状況というものと照らし合わせながら、我が国の医療が進むべき方向まで指し示しながらの御提言をいただいているんだろう、このように解しております。

 そういった意味では、私ども、こうした法案がまとまりますれば、その趣旨に沿いながら全力を挙げてまいりたいと思っております。

仙谷委員 三次にわたるある種の、政府のといいましょうか、国家的ながん戦略があるといいましょうか、あったし、現在も続いておるということなのであります。

 ただ、問題は、専門家に聞きましても、現在のレベルは、特に化学療法、放射線治療、先ほどから出ております緩和ケアというふうな領域を中心として、先進国のレベルでいえば十年から十五年、二十年ぐらいおくれているんじゃないか、堂々と専門家の方もおっしゃるわけであります。私は、なぜそうだったのかということの真摯な検討というか、自己批判的な考察といいましょうか、総括がなければ、これは、日本のがん治療もその他の医療もなかなか進んでいかないというふうに思います。

 この間、今回の医療制度関連法案の審議等々をめぐって、いろいろな資料が厚生省の中にあることがわかりました。相当、厚生労働科学研究あるいはいろいろな検討会というのを次から次につくって、そこではそれなりの結論が出ておる。つまり、メニューはほとんど網羅的に出ておるんですね。実行だけが残されておるのでありますが、実行の体制がほとんど脆弱だ。予算もつかない。

 さらに大問題なのは、ここに日本の大問題が横たわってきているわけであります。先ほどから文科省、つまり、大学医学部、大学病院との関係を、連携とか協力とかいろいろなことをおっしゃって、何とかなるんじゃないかというふうなことをおっしゃっておるわけでありますが、そうは問屋が卸さなかったのがここまでの事態というふうに私は理解をしております。

 考えてみますと、このがん治療の前進というのは、せんじ詰めると、専門家、これはお医者さんだけじゃなくてコメディカルも含めてその養成にどのぐらい力点を置くのか、これは研究も含めて、そこにどのぐらいの資源を投下することができるのかということに尽きるのかなという感じがいたします。

 といいますのは、国立がんセンターを退院してきていろいろな話を聞いたりしておりまして、四年前の私のこの厚生労働委員会での質問を改めてお読みいただければわかると思いますが、つまり、そこで申し上げているのは、化学療法についてのおくれと未承認薬の使用の問題あるいは適応外使用の問題というふうに、化学療法の問題について、患者さんからの訴えを中心に、私が日本のがん治療のおくれを指摘し、申し上げたという質問になっております。

 実はそのときに、私は、世界標準治療の中で使われておる抗がん剤というふうなものについて、これを使うべきだという主張を随分しておりました。現在もその思いは変わらない部分がございます。

 しかし、そのときに、今は亡き今井澄参議院議員は、その私の考え方や患者さんの要求に対して批判的でありました。なぜ今井澄参議院議員が批判したかというと、使えない医者が使ったら大変なことになる、こういう話を彼は力説をしておったわけであります。つまり、抗がん剤の使用というのはそれほど簡単なものではない、訓練のできていないお医者さんが抗がん剤を適当に使ったりしたら、次の新たな問題が起こるというのが今井澄参議院議員の説でございました。

 つまり、そこで、改めてその観点を少々聞いて回ったりして勉強しますと、本当は、臨床腫瘍内科という学問、オンコロジーという学問もあり講座もあるんだけれども、日本には専門家が甚だ少ないということがわかってきました。まだ臨床腫瘍内科学会か、これが設立されていない時代の話であります。たった四年でもそのぐらいのギャップ、タイムギャップみたいなものがあります。

 その一年後ぐらいにこの学会は設立されたわけでありますが、そして、現在その学会が正式に認定している臨床腫瘍内科の認定専門医は、全国で四十七人ということになっているわけであります。先ほど放射線治療医の話が、五百人という話が出ましたが、放射線治療医の、放射線腫瘍学会の認定医が五百人、それから臨床腫瘍学会、つまり、化学療法の、抗がん剤使用の学会の認定専門医が四十七人、暫定指導医認定者が六百七十四人、こういうレベルが日本のレベルでございます。

 この専門家の養成というのは、一方では、当然のことながら大学、大学病院の仕事にしてもらわなければならない話であります。あるいは、がんセンターを初めとする先進的ながん治療の病院でそういう高度な専門医を育ててもらわなければなりません。

 ちょっと、御本人からいただいた手紙で、公表するのが後で問題になったらいけませんが、こういうお手紙をいただきました。これは、さる日本の最高クラスの大学の医学部の、緩和ケアと放射線治療のドクターからのお手紙であります。

 その大学でも、「緩和ケアの講義は二コマだけ、それも、六年生の冬に、社会医学のなかで、ゲリラ的に行っているだけです。現在、医学部の講座は、臓器別になっているため、緩和ケアや放射線治療のような、横断的なものは、教えることができないシステムになってしまっています。放射線治療も、十年後には、がん患者さんの半数、日本人全体の四人に一人近くが、受けると予想されていますが、」先ほどの斉藤委員の答弁とほとんど同じでありますが、「講座があるのは、八十の医学部のうち、十二大学のみ、四十九大学では、放射線治療の教授職がないなど、問題だらけです。」ここまでが現状であります。「先般、文科省の高等教育局長とお話する機会を得ましたが、大学自治、で逃げられてしまいました。」こういうお手紙を実はいただいたわけであります。

 先般、いわゆる医師不足問題で、医学部の地元枠、地域枠をふやしてほしい、我が党の菊田議員も厚生省へ行ったら、厚生省にそういうことをお願いしたら、それは文科省へ行け、文科省に行ったら、大学の自治だ、独法化された国立大学法人の自律的、自主的な範囲だ、こういうふうに言われたということでございます。このような事態がまだ現在の事態だ。そうすると、厚生労働省がいろいろな研究をされたり、いろいろな検討会をしたり、いろいろなプログラムをつくったり、アクションプログラムをつくったりしても、それがどうも空回りをして絵にかいたもちになってきていたというのがこの間の姿ではないかと私は思うんですね。

 それは、法律にちゃんと位置づけられていないということもありましょう、それに伴う予算づけも問題であったということもありましょう。ただ、人的養成といいますか人材養成だけは、大学医学部、大学病院、そして国立系の病院や先進的な病院が、やはり一つの有機的な体制としてやっていただかないとうまく機能しないのではないか、そして、事が教育という問題であるだけに、これはマーケットに任せておくだけでできるんだろうかという思いがしてならないわけであります。

 国立がんセンターの今のそういう人材養成の使命、ミッションからする問題点は、実は、レジデント、あるいはあれは専門修練医というのですか、その後期の高度研修医の枠も募集枠がなかなか満たされないというふうな事態であるということを聞きます。それから、がんセンターにおいては、麻酔医が不足していることで、手術数が最近ふえないというかふやせられないというのも聞きます。

 あとの問題はさておくとしましても、人材養成のところに資源がつぎ込まれない、予算がつぎ込まれない、お金がつぎ込まれない、ここがこの間の化学療法といい、臨床腫瘍内科といい、放射線治療といい、あるいは緩和ケアといい、このレベルがもう一つ隔靴掻痒。均てん化といいながら、では、言い出してからどのぐらい進んだのだと言われたら、依然として、ことしもお医者さんはおりません、我が町の拠点病院には専門家は一人もおりません、東京へ行ってくださいみたいな、こういう話がまだまだ続いているということが私は問題なんだろうと思うんですよ。

 今回の法案も、結局のところ、私どもががん対策推進本部というのが必要だというふうに申し上げておるのは、公明党さんも当初はそうおっしゃっておったようでありますが、これはやはり、厚生労働省の部門と文科省の部門とそれと自治体を包括して、一元的に、ある施策、とりわけ人材養成といいましょうか専門家の養成について、集中的に一丸となって取り組む。それも、私どもに言わせれば、年間五百億も使えばどんどん進んでいくという話のようでありますから、どうしてそういうことができないのかという思いで、この間の医療制度改革関連議案にも我々は取り組んできたつもりでございます。

 私は、厚生労働省の健康局や医政局の皆さん方に、別にあなた方を追及していじめておるんではない、これはあなた方をエンカレッジしているんだといつも言っておるんですが、余り理解されないんですね。この辺が最大の心理的な問題だと思うんですよ。

 厚生労働大臣、本当に、人材の問題というのは、先般の医療制度改革関連法案では、産科、小児科、内科等々を中心にして特に女医さんの大量の合格、まことにいいことですばらしいことでありますが、ことしは合格者が五〇%を超えたという説もございますよね、何かすごい話になってきておるわけですが、そういう時代動向を前提にしてそれにふさわしいような勤務体系をつくらなければならないというのが、先般の医療確保問題といいましょうか医師不足問題だったはずであります。

 今度は、専門家をどうやってつくるのか。そして、専門家と、専門家もお医者さんだけではなくて、がん登録についての専門家、あるいは情報センターを運営する専門家、あるいは情報センターと両々相まって運営される相談センターの専門家というような、コメディカルあるいは補完的なスタッフ、そういうところの専門家、あるいは、放射線治療であれば読影医や読影技師の養成ですね。要するに、人的な資源というか人材養成のところに意識的に集中して資源を投入しないと、この問題はうまくいかないということがわかってきたのであります。

 そういう考えについて、今度の法案を作成されているわけでありますけれども、この法案なり、法案を制定するに際して何を議論しておけばいいのか、鴨下先生、どのようにお考えでございましょうか。

鴨下議員 今仙谷先生がおっしゃっている問題は、まさに我々共通の問題だろうというふうに思っております。

 特に、専門家の養成という意味においては、医学部を出て、その後、今度は卒後の研修が必修になりました。そこからは厚生労働省の所管でありますから、一般的な医学の知識をある程度修めて、そして国家試験を通って、その後に、きちんとした専門医としての養成コースに入っていけばいいんだろうというふうに私は思っております。

 ただ、そこに加えて、例えて言えば、文部省所管の独法の大学あるいは大学病院、そして厚生省所管のさまざまな病院、こういうようなものがうまく連携して専門医を育てていくというようなことについては私も問題を共有しておりますので、これからまだ時間は多少ございますから、そういう中で少しお互いに知恵を出さないといけないところなんだろうというふうに思っております。

 多分、実際に病を患って待っていらっしゃる患者さんにとってみれば、安心してかかれる専門家がどこにいて、そして、自分に対してどういう治療をしてくれるのかというようなことについては、一番の関心事であるし、切望していることだろうと思いますので、それをこの法案、両党、与党そして民主党から出ているわけでありますけれども、問題意識は一緒だろうというふうに思っておりますので、ぜひ、これからその問題をどういうふうに収れんしていくかというようなことも含めて、多少時間がございますので、協議をさせていただければというふうに思っております。

仙谷委員 もう一つの問題、寺田稔委員が提起した検診の問題でございます。

 これは実は、まだまだレベルが低い検診が行われておったわけでありますが、健診の中での検診、つまり健康診査の中でのがん検診ということでありますが、これも地域によって大変ばらつきがあります。これは予算の使い方を見れば一目瞭然でございます。自治体の予算の使い方を見れば一目瞭然。それも都道府県の予算であります。つまり、これは都道府県にとっては任意の事業であります。従来は、老人保健法の老健事業として行っておったわけでありますから市町村の事業であったわけですが、県にとっては任意の事業であります。これは極めてばらつきがある。レベルが余り高くない。

 例えば、これは女性にとっての乳がんマンモグラフィー併用検診を進めるんだ、それから、男性、女性にとっての肺がん、これはヘリカルCTを使っての検診を進めるというふうな、ちょっと特化した目標でこの問題というのは取り組む必要があると私は思っております。そういうことも、法律に基づいた、ちゃんとしたがん治療の基本計画の中に書いて、その助成も国がやりませんと、今のようなばらばらの事態になると思います。

 もう一つだけ、ある意味でのプラスの方向の話を私の方からお話を申し上げて、ひとつ厚生労働省も、予算獲得と同時に、そういう思いで頑張っていただきたいと思うのは、先ほど申し上げました乳がん検診は今、富山県が非常に突出しております。それから、県立のがんセンターでは静岡県が突出をしております。ここは相談センターにも約一億円ぐらいお金をかけているということであります。緩和ケアは広島県が先頭を切って走っている、地域の緩和ケアのシステムも先頭を切って走っているということであります。

 均てん化の問題というのは、主に何か東京からすべてに均等に恩恵を滴らせるというふうなイメージがどうも霞が関にはあって、よくないんじゃないかと私は思うんですが、地域での、あるいは地方での先進的な事例をまさに全国的に均てんする、こういう発想を持って、いい成果を上げているところの分は大いにそれを模範として、厚生省の方が今度は予算をつけて進めさせるということに取り組んでいただきたいということをお願いしまして、時間が参りましたので、私の質問を終わります。

岸田委員長 次に、田名部匡代君。

田名部委員 民主党の田名部匡代でございます。

 先日までここで医療制度改革についての審議が行われていたわけでありますけれども、まさに今あちこちで聞かれるように、格差、この格差というものが医療においてもどんどん大きくなっているのではないかということを、私自身、その審議の最中にも痛感をいたしたわけであります。

 地域格差というのはもちろんでありますけれども、個人が知り得る情報、個人を取り巻く環境、体制、そういったものが、かかる病院だとか、また、住む地域によって大きく違うわけであります。どこに生まれても、また、どこに住んでいても平等に与えられる、つまり、同じ病気で治る人と治らない人、また、不安や苦痛、痛みといったものが大きい人とそうではない人、納得の医療が受けられる人と受けられない人というような医療の格差、健康格差、強いて言えば命の格差というものがあってはならない、そういう格差がない社会をつくっていかなければならないというふうに考えております。

 時間がありませんので、余り長くは申し上げませんけれども、このがん対策というものは、私たちがここで審議をする以上に、その当事者、また御家族にとっては大きな期待であり、一刻も早く成立をさせてほしい、そういう願いがこもっているんじゃないか、そういう祈るような思いでこの審議を見ているのじゃないか、そう思っております。与野党を超えて互いに真剣な議論を交わしながら、国民のために、また患者さんのためになる、いい法律の成立に向けて議論を深めていきたい、そのように思っております。

 まず初めにお聞きしますが、基本的なことから民主党に伺います。なぜがんを取り上げたのか。つまり、政府はがん対策推進アクションプラン二〇〇五を実施しておりますし、また与党は、これまでの政府の取り組みをみずからは評価をしているわけであります。それは、今回出されました与党案の「目的」、第一条にも明記されています。読み上げますと、「我が国においてこれまでの取組により大きく進展し、多くの成果を収めてきたがん対策について、高齢化の進展等に伴い、その一層の充実を図ることの重要性が増大している」というふうに明記されているわけであります。

 しかし、この評価、取り組みというものが本当に成果を上げてきたのかなと申しますと、厚生労働省のデータを見れば明らかでありまして、がんで亡くなる患者さん、がんの死亡率というのは年々ふえているわけであります。

 そこで、今回民主党ががん対策基本法を提出した理由、その目的というものをまず伺いたいと思います。

古川(元)議員 お答えいたします。

 私どもがこのがん対策基本法を提出した目的といいますか思いは、まさに、がん患者そしてその家族の皆様方の命の叫びにきちんと政治はこたえていかなければならない、そのように考えたからでございます。

 本日、先日参議院の本会議場で、みずからがんと闘っておられることを告白されました山本参議院議員も傍聴に来ておられますけれども、がんと闘っておられる患者の皆さん方、そしてその家族の皆様方、日々命との闘いを続けておられるわけであります。

 そういう中で、日本のがん治療をめぐる環境が先ほどの仙谷委員のお話にありましたように、遅々として進んでおるという状況、この状況を思い切って打破して、そして大きく飛躍をさせていかなければならない、そういうことをしなければ、こうしたがん患者やその家族の皆様方の命の叫びにこたえることはできない、そしてそれができなければ、命を救うことが政治家の仕事である、その一番基本のことを私たちはできない、そう思ったから、私どもこの法案を提案させていただいたわけでございます。

田名部委員 そこで、この民主党案ですけれども、がん対策推進本部を設置するということを書いてあるわけです。

 ただ、現在、厚生労働省にがん対策推進本部というものが設置をされております。民主党案では、これを総理大臣を長とした対策本部の設置というふうになっておりますけれども、この理由をお聞かせください。

古川(元)議員 私どもは、このがん対策推進本部を内閣総理大臣直轄のもとに設置するということを規定させていただきました。これは、国家としてがんと闘っていくという強い意思を明確にする、そして総理のリーダーシップのもとに、先ほど来から御議論に上がっております省庁間の壁、そういうものも取り払って思い切ったがん対策を大胆に進めていく、そのために必要だというふうに考えたからでございます。

 アメリカにおきましても、ニクソン大統領の時代に、キャンサーアクト、がん対策国家法というものを制定して、そのもとで大統領が先頭に立ってがん克服に向けて旗を振った、そのことががんによる死亡率の低下につながったというふうに私ども認識をしております。

 今まさに、国民病と言ってもいいこのがんにかかる人を少しでも減らし、そしてがんにかかっている人の命を少しでも救っていく、そのためには、総理が先頭に立ってこのがん対策に取り組んでいくという形をとるということが極めて重要だというふうに私どもは認識をしております。

 このがん対策推進本部には、各省の関係する大臣だけでなく、患者の代表やあるいは家族の皆さん、あるいは医療関係者、そういう人たちも含めて、総合的ながん対策の推進計画を立てて、それを実現することを目指しております。

 私も、かつて役所に勤務をしておりましたが、今の厚生労働省の所管の中でのがん対策推進本部ということになりますと、どうしても他の省庁とは横並びということになりますから、そこの中では、厚生労働省の所管を超えた部分に、思い切ってそしてまたスピーディーに施策を推進していくということは非常に困難となります。

 先ほどの議論でも出ました、文部科学省のところに切り込んでいく、そのための調整だけでも大変に時間がかかるというのが、残念ながら現在の霞が関の状況であります。そういう縦割りの省庁間の壁を取っ払ってスピーディーに物事を進めていくためには、やはり総理が先頭に立つ形でこのがん対策推進本部を創設する、設置するということが好ましいというふうに考えて、このような形で内閣直轄のもとでがん対策推進本部を設置するということを私どもは規定させていただきました。

田名部委員 まさに今の言葉の中にもありましたように、年間三十万人を超える方ががんで亡くなっているわけであります。国民の病気、またがん難民という言葉が生まれてきたように、まさにこれは国にとっても大きな問題でありまして、今の説明にあったように、国を挙げて取り組むべきことだろう、そのように思っております。また、がん患者さんだけではなくて、患者さんを取り巻く御家族の方、そういった方々に対しても、心のケア、また不安を取り除くといったことをしっかりとやっていくべきではないか、私もそのように思っております。

 また、今省庁間の話が出ました。省庁間の弊害、縦割り行政の弊害ということで、先ほど大臣からも、文科省また経産省との連携が必要だといった御発言もありましたし、自民党の鴨下先生からも、共通の問題認識としてその縦割り行政の弊害というものをどうにか取り除いていかなければならないといったような趣旨のお話がありました。まさにこの縦割り行政の弊害というものが、専門医を育てるといったところに大きく問題となっているのではないかと思います。

 その医師、医療従事者の養成ということについて、まずお伺いしたいと思います。

 肝心の専門医や医療従事者がいなければ、このがん対策、幾ら叫んでも全く意味がないわけであります。民主党案でも、医師の養成のための教育課程の編成見直しという規定が盛り込まれております。与党案にもあるんですけれども、これは、手術、放射線治療、化学療法その他がんに携わる人を育成するために必要な施策を講ずるという内容となっています。

 それに対して、今申し上げたように、民主党が教育の課程を見直すという規定をしたのは一体どういう理由なのか。また、七条二項にあります放射線治療の品質管理を専門的に行う者の養成、こういった文言がありますが、これを規定した理由もあわせてお答え願えますでしょうか。

古川(元)議員 田名部委員から御指摘ございましたように、私どもは、がん対策でやはり一番大事なことは、がん治療に従事する医師であったり、あるいは医療従事者であったり、あるいはがん患者やがんの家族の皆さん方を心の面で励ますような人たち、私どもは、チームをつくって、チームでがんと闘っていく、そういう体制をつくっていかなければいけないと思っています。

 そのためには、そういう形でそのチームに参加のできる専門医であり、あるいは専門家であり、そういう人材を養成しなければならない。その人材を養成するためには、時間もかかります、そしてお金もかかります。だからこそ、一刻も早くそういう人材が養成できる仕組み、そしてそのために必要な予算というものをきちんと法律で手当てをする、そういうことが必要だというふうに私ども考えておるからであります。

 そういう中で、今委員の方から御質問のございました教育課程の編成の見直しを規定した理由でございますけれども、この問題は、先ほど来から議論が出ておりますように、現在は、病院については厚生労働省で、医師の養成については大学、ですから文部科学省、こういう縦割りの弊害を乗り越えて、本当に必要な知識を持った、そしてノウハウを持った専門家を育てていく、そのためには、先ほどの仙谷委員からの御指摘で大学のお医者さんのお話であったような、今の教育課程のプログラム自身を見直すということを入れていかないと、今の大学の教育課程では本当に必要な人材というものは養成されないのではないか、そのように考えているからでございます。

 そして、私どもが医療従事者の例として、放射線治療品質管理者の養成や、がん情報ネットワーク構築に、がん医療に関する情報を専門的に取り扱うために必要な知識及び技術を有する者の養成を規定した理由といたしましては、これは今、病院においては、お医者さんにかかっている負担というものはかなり大きい、本来の治療行為以外のところまで医師が従事しているという面があるわけでありますけれども、医師がその治療行為という本来期待された任務を十二分に発揮していただく、そのためにもきちんとした役割分担を行うことができて、その分担をした役割をきちんと果たせるようなそういう医療従事者を養成するということが必須であるというふうに考えておるからでございます。

田名部委員 ありがとうございました。

 まさに、今医師にかかる負担というものが大変大きい、それは医療制度改革のときにも取り上げられたことでありますけれども、医師が治療に専念できない、本来医師がやるべき仕事ではないことまで医師が仕事をしていかなければならない、そういったことがつまりは医師不足ということにつながっている、そのように思っておりますので、ぜひ今、民主党の案にありましたように、放射線治療品質管理者の養成といった、こういう細かいところまで規定をして行っていくことが必要ではないか、そのように思っております。

 次にお伺いいたしますけれども、がん登録、また情報ネットワークということについてであります。

 まず、がん登録についてですが、与党案では、国、地方公共団体が患者の状況を把握、分析するための取り組みを支援するとなっています。把握、分析するための取り組みをしているところへ支援ということだと思いますけれども、これは、実は厚生科学審議会内の部会報告書で、標準登録様式の普及なくして効果の向上が望めないという指摘が出されています。しかし、与党案では、この現行の取り組みを支援するということにとどまっているわけであります。

 民主党は、この点について、がん登録を行い、またその情報を共有してどこでもアクセスできる、つまりフリーアクセスということを前提に法案をつくっている、そのように思いますけれども、登録することによってどのようなメリットがあるのか、またどういった体制がつくられるとお考えでしょうか。

古川(元)議員 お答えいたします。

 日本は、これだけがんの患者さんが多い、そしてまたがんでお亡くなりになられる方が多いにもかかわらず、実際にどういうがんにかかって、そしてまたどういう治療が行われたのか、あるいはどういう経過をたどったのか、そういう病態についての情報というものが全くと言っていいほど日本の場合は整っていないというのが現状であります。

 そこで、私どもは、やはりがんと闘っていく、がん対策、効率的ながん対策を実現するためには、まずきちんと現状を把握する、状況を把握するということが第一のことではないかというふうに考えております。アメリカなどにおきましても、まず最初に行われましたことは、がんについての情報をきちんと集めて、そしてそれを分析し、そしてその中から対策を講じていくという行動でありまして、そうしたことが今の日本の中ではまだとれないような状況になっている。

 そういう意味では、まず一番の基本が、このがん登録を行うことによりまして、病態と治療効果との関係をきちんと調査、そして検証、そしてその中からあるべきがん対策の施策というものを確立していく。そのための必須のものとして、がん登録の実施が必要だというふうに考えております。

田名部委員 先ほどの質問の中にもありましたように、私もそうでありますけれども、特に地方に住む者にとって、大きな病気を患ったときにどこに行けばいいのか、また正確な情報、また質のよいというか高度な医療を受けるためにどうしたらいいのか、そういったこともなかなか情報として入ってこないというのも現状であります。

 今の説明にありましたように、最初は地方の病院に行って病気が発見されるかもしれない。その後、施設の整った、高度な医療が受けられる大きな病院にまた行くことになるかもしれない。それがどんな場合であっても、患者さんの情報というものを医療機関内で共有しながら適正な医療が提供できる、そういう体制を国全体でつくっていくということが必要なのではないか、そのように思っております。

 だんだん時間がなくなってまいりましたが、幾らいい政策を掲げても、ここに必要な予算というものが確保されなければ、この法案も絵にかいたもちになりかねません。

 そこで、民主党は、これについて予算をどのように確保しようとしているのか。また、あわせて、見直しの規定についてでありますが、与党案は五年ということを言っているわけですが、民主党は三年で見直そうというふうに言っているわけです。その理由をお答え願えますでしょうか。

古川(元)議員 現在、政府においても、平成十八年度の予算で、がん対策の予算として百六十八億円余りが手当てをされておるわけでありますけれども、私どもは、やはり少なくとも五百億円ぐらいの予算はつけなければ、先ほどから申し上げております人材の養成あるいはシステムの構築ということから考えても、これは十分ではないのではないかというふうに思っております。

 ことし、かなり鳴り物入りで情報ネットワークを設置する、そのために国立がんセンターに十五億円ですか、それくらいついております。しかし、それぞれの地域で、がん患者やあるいは家族の皆さん方ががんについての情報を得に行ったときに、そこで十分対応できる体制が整えられるかというふうに考えれば、それは、それぞれのがんの拠点病院に国立がんセンターで集められた情報が流されてきて、それがきちんと説明できる、そういう人材さえ雇えないような程度の予算しか分配されない、そういう状況になってしまっております。そういう意味では、形だけつくって中身に人もいない、そして実際にがん患者さんや家族の皆さん方にとってそれが役に立たないようでは意味がないのではないか。

 ですから、そういう意味では、少なくとも五百億、それくらいの予算は確保しなければいけない。そして将来的には、私ども、法案の中でも示させていただいておりますけれども、がんとの関係が科学的にも証明をされております、かなりの確率で因果関係があると言われておりますたばこ、喫煙との関係、そういうものも含めた中で、きちんとがん対策の予算というものは確保していかなければならないのではないかと思っております。

 そして、私どもが見直し規定を三年ということで規定させていただきましたのは、がんについての治療方法などは日進月歩で進んでいる。したがいまして、与党のような五年に一度の見直しというのでは、これはやはり時代の変化というものに合わないのではないかというふうに思っているからでございます。

 私どもは三年ごとの間に見直して、どんどんと新しい治療法やそういうものをがん対策に生かしていく、そのようなことができるような体制という点からも、三年という短い期間で見直しをするのが適当であるというふうに考えました。

田名部委員 ありがとうございました。

 最後になりますけれども、大臣に御質問いたします。

 まさに今の話にありましたように、国の抱えるこういった重要な、また大きな問題だからこそ、今こそ公費を集中的に投入いたしまして、専門家の育成ということを初めとして、がん対策を強力に推し進めていく必要がある、そのように思っております。

 今の民主党案の中身を、与党の皆さんも、また国民の皆さんも御理解いただけたと思いますが、私が民主党案を褒めてもそれは当たり前のことだということになりますが、それでも、この民主党の出している案というのは大変中身が具体的であり、また国民の立場、患者さんの立場、それだけではなく、それを取り巻く家族の皆さん、そして医療従事者の皆さん、それぞれの立場に立ったすばらしい法案だ、そのように思っております。

 最後に大臣から、この民主党の案に対してのお考えと、またがん対策に対するその思いというものをお聞かせいただいて、終わりたいと思います。

川崎国務大臣 これから与野党で議論に入る前に私が余り意見を言うとかえって差し支えますから、意見を言わないようにします。与野党で十分お話し合いをいただきたいと思います。

田名部委員 どうもありがとうございました。

岸田委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後二時五十八分散会


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