衆議院

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第11号 平成19年4月10日(火曜日)

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平成十九年四月十日(火曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 櫻田 義孝君

   理事 伊藤信太郎君 理事 石崎  岳君

   理事 鴨下 一郎君 理事 谷畑  孝君

   理事 宮澤 洋一君 理事 三井 辨雄君

   理事 山井 和則君 理事 福島  豊君

      新井 悦二君    加藤 勝信君

      川条 志嘉君    木原 誠二君

      木村 義雄君    岸田 文雄君

      清水鴻一郎君    菅原 一秀君

      杉村 太蔵君    高鳥 修一君

      戸井田とおる君    冨岡  勉君

      長崎幸太郎君    西川 京子君

      林   潤君    福岡 資麿君

      松浪 健太君    松野 博一君

      松本  純君    松本 洋平君

      吉野 正芳君    内山  晃君

      大島  敦君    菊田真紀子君

      郡  和子君    園田 康博君

      田名部匡代君    筒井 信隆君

      細川 律夫君    柚木 道義君

      坂口  力君    古屋 範子君

      高橋千鶴子君    阿部 知子君

      糸川 正晃君

    …………………………………

   厚生労働大臣政務官    菅原 一秀君

   厚生労働大臣政務官    松野 博一君

   参考人

   (社団法人日本経済団体連合会労政第二本部本部長) 松井 博志君

   参考人

   (東京大学社会科学研究所教授)          佐藤 博樹君

   参考人

   (労働政策研究・研修機構特任研究員)       今田 幸子君

   参考人

   (弁護士)        中野 麻美君

   参考人

   (全国労働組合総連合総合労働局政策局長)     井筒 百子君

   参考人

   (全国一般東京労働組合執行委員)         中原 純子君

   厚生労働委員会専門員   榊原 志俊君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十日

 辞任         補欠選任

  井上 信治君     松浪 健太君

同日

 辞任         補欠選任

  松浪 健太君     井上 信治君

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出第三七号)

 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案(西村智奈美君外二名提出、衆法第九号)


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     ――――◇―――――

櫻田委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案及び西村智奈美君外二名提出、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、社団法人日本経済団体連合会労政第二本部本部長松井博志君、東京大学社会科学研究所教授佐藤博樹君、労働政策研究・研修機構特任研究員今田幸子君、弁護士中野麻美君、全国労働組合総連合総合労働局政策局長井筒百子君、全国一般東京労働組合執行委員中原純子君、以上六名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 最初に、参考人の方々から御意見をそれぞれ十五分以内でお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、発言する際は委員長の許可を受けることになっております。また、参考人は委員に対して質疑することができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 それでは、まず松井参考人にお願いいたします。

松井参考人 おはようございます。

 ただいま御紹介賜りました日本経済団体連合会労政第二本部長を務めております松井でございます。

 厚生労働委員会の諸先生の皆様方には、常日ごろから日本経団連の活動全般にわたり多大な御理解と御支援を賜っておりますことを、冒頭、この場をおかりしまして厚く御礼申し上げます。また、本日は参考人として発言の機会を設けていただきましたことにつきましても、重ねて御礼申し上げます。

 本日は、パートタイム労働法の改正法案に関しまして、企業、事業主の立場から発言をさせていただきたいと思っております。

 まず、日本の企業の課題とパートタイム労働者の増加要因についての考え方を申し述べたいと思います。

 最初に申し上げたいことは、いわゆるベルリンの壁が崩壊した後、急速に市場主義経済圏が拡大をしております。国内、国際経済は、経済連携、水平分業の動きが加速しており、日本企業は厳しい国際競争の真っただ中におります。世界経済が大きく構造的な変化を遂げている一方で、日本企業は、国内に高コスト構造を抱えており、また、非製造部門における生産性の低さなど、多くの課題を残しております。また、御承知のとおり、日本は人口減少社会に突入しており、同時に高齢化が加速度的に進展していることから、少子化、高齢化への対応は待ったなしの課題であります。

 こうした経営環境の中で、企業は自社の実情に応じ、多様な働き方を組み合わせた雇用ポートフォリオを適切に構築することが求められております。さらに、国際競争を勝ち抜くことができるような人材を育てていく必要があり、人事処遇制度の改革に取り組んでいる最中であります。

 パートタイム労働者の増加は経営側の事情によるという指摘がよくあります。しかし、パートタイム労働の担い手は、主婦、高齢者、学生なども含まれており、就労動機や意欲もさまざまであり、補助的な役割を担う者も少なからずいらっしゃるという事情もあります。現在、一千二百万人という人員規模に達した背景には、みずからの意思でこういったパートタイム労働を選んで、自身の都合のよい時間帯に働けるといった労働者側のニーズも強く反映しているということが言えると思います。

 一方で、経営側の努力として、仕事を効率化、単純化することで、それほどスキルがない方にも雇用機会を提供するというような努力をしてきた側面も忘れてはならないと思っております。つまり、多様な雇用就労形態が普及した要因は、労使双方のニーズに基づくものであると認識しております。

 次に、政府案に対する評価を主として述べたいと思います。

 後に参考人お二人の先生がございますが、私も労働政策審議会雇用均等分科会の委員として、政府案のもととなる考え方の整理をする作業を務めてまいりました。したがいまして、対案として出されている案につきましては、十分承知はしていないという観点から、仮にコメントをするといたしましても、間違ってしまっている可能性もございます。その節には、ぜひその点を後ほど御指摘賜れればと思う次第であります。

 一点目に、まず、働き方に応じた規制となっているかどうかという点でございます。

 法律改正に向けた議論では、経済界としては、就業実態が多様なパートタイム労働者について、就業実態に合わない形で一律に取り扱って規制強化することは、むしろ柔軟な働き方を阻害することになりかねないという立場で臨んでまいりました。

 また、日本経団連としましては、パートタイム労働者と正社員との均衡待遇については、仕事、役割、貢献度を、一時点ではなく、配置、育成など将来にわたる活用の仕方を踏まえて個別に適切に評価し、公正公平な処遇を図るべきであると考えております。

 政府案では、職務内容、責任だけではなく、配置、さらにはそれぞれの変更の範囲といった基準により、通常の労働者と比較する形でパートタイム労働者の働き方を分類しております。政府案は、企業内におけるパートタイム労働者の人事管理や人材活用を踏まえて対応できる内容であると考えております。

 他方、先ほど申し上げましたように、民主党案につきましては十分理解をしておりませんが、私が一読したところによりますと、労働時間や労働契約期間がとても短い場合も含めて、すべてのパートタイム労働者について均等待遇を実現するという内容であると理解しておりますので、企業の実情に十分に合ったものであるかどうかは少し疑問に感じているところでございます。

 二点目といたしまして、差別的取り扱いの禁止についての考え方を述べたいと思います。

 政府案には差別的取り扱いの禁止規定が含まれており、人事労務管理面での影響は極めて大きいと考えております。対象者が少ないのではないかとの指摘もなされておりますが、私どもは、実際、関係業界や地方企業への説明に際して、幾度も相談を受けております。この点については後ほど改めて申し上げたいと存じます。

 また、政府案では、対象者の契約期間につきまして、期間の定めのない労働契約、または、期間の定めがあっても反復更新することで期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できる労働契約となっております。この期間の定めのない労働契約と社会通念上同視できる労働契約について、明確な基準が必要ではないかとの指摘があります。しかし、一定勤続期間や更新回数といった形式的な基準を置くことでは、かえって雇用の場を狭めるおそれがあるのではないかと危惧しております。やはり、裁判例の積み上げあるいは実態判断によって対応する必要があるのではないかと考えております。

 三点目といたしまして、通常の労働者への転換推進の措置についての考え方を述べたいと思います。

 政府案では、一、募集情報を周知すること、二、社内公募に基づき応募機会を付与すること、三、転換制度を導入することなど、通常の労働者への転換推進が義務化されます。

 人材をどのような雇用形態で採用し活用するかは、重要な経営戦略の一つであり、法定化することに異を唱える声も大変強くございました。しかし、機会の均等という理念のもと、また再チャレンジ支援の一つとして、経済界としても受け入れることにしたものであります。

 四点目としまして、その他の事業主に対する責務についての考え方を申し述べたいと思います。

 以上のような、差別的取り扱いの禁止を含む均衡待遇確保、通常の労働者への転換推進だけではなく、政府案では、労働条件の文書交付や待遇決定における説明責任、さらには、紛争解決援助の仕組みとして、事業所内の自主的な紛争解決の仕組みや、地方労働局長による助言、指導、勧告及び調停制度を導入しようとするものであります。パートタイム労働者の雇用管理の改善という側面で見てみれば、実効性のある、かなり前進した内容となっていると考えております。

 事業主としては、労働需給が逼迫する中で、パートタイム労働者の能力を高めるとともに、公正公平な処遇に向けて労使の自主的な取り組みを進める中で、これまで以上に取り組むことが求められることになると考えております。

 しかしながら、一方で、懸念される事項もございますので、その点について意見を二つ述べたいと存じます。

 一点目といたしましては、小規模零細企業の場合での取り組みについてでございます。

 通常の労働者と職務内容が同じパートタイム労働者の場合、たとえ一人であっても雇い入れているならば均衡待遇の確保が求められ、説明責任も発生いたします。その際、小規模零細企業においては、人事処遇制度や規定が未整備であったり、あるいは労働慣行がはっきりと確立していなかったりする場合も見受けられます。政府案の基準の一つとなる職務の内容及び配置の変更の範囲が、通常の労働者と同じであるかどうかの判断に迷うのではないかと危惧するところでございます。

 二点目といたしましては、待遇決定の説明責任についてであります。

 政府案では、事業主として、職務内容、成果、意欲、また能力、経験など、パートタイム労働者の賃金決定の考慮事項について説明責任を負うことになります。その際、仕事が同じであるのに賃金に差があるという不満を口にするパートタイム労働者との間でトラブルが起きやすくなるのではないかと心配する声が多く上がっております。

 政府案では、職務内容は、業務の内容及び業務に伴う責任の程度となっております。具体的には、現行のパートタイム労働指針の運用の中で確認されているとおり、業務内容として、能力の難易度、複雑度だけでなく、肉体的、精神的な労働負荷も判断基準に加えること、業務責任については、トラブル発生時や、臨時、緊急時の対応についても含まれることなどが整理されております。

 職務内容が同じであるかどうかの基準については、場合によって、パートタイム労働者が働いていないときに正社員が果たしている、遂行しているような職務もある点がございます。そういう観点からいたしますと、パートタイム労働者におかれても、こういったことの内容を十分に周知して、御理解いただけるような環境づくりが必要ではないかと考えております。

 今次改正は、パートタイム労働法が施行されて以降初めての改正というほど、大変大きなものとなっております。企業の現場に無用な混乱を来すことのないよう、とりわけ中小企業を中心に改正内容の周知徹底が求められるところであります。円滑な施行に向けて、私どもも、諸会合を通じて情報を提供するなど、協力してまいりたいと考えております。

 個々の企業が経営ビジョンと戦略を明確にし、イノベーションを推進して競争上の優位性を築いていかなければ、今後も市場の中で生き残ることは難しい状況に変わりはありません。回復しつつある日本経済のマイナス要素とならないためには、改正内容が弾力的であり、また企業が現実的に対応し得ることが可能であるものが必要であります。皆様方におかれましては、ぜひ適切な御審議をお願い申し上げる次第であります。

 以上をもちまして、私からの意見陳述を終わります。御清聴どうもありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 次に、佐藤参考人にお願いいたします。

佐藤参考人 ただいま御紹介いただきました東京大学社会科学研究所の佐藤です。よろしくお願いいたします。

 私の専門は人事管理ですので、その立場から、今回のパート労働法改正について幾つかコメントを述べさせていただきたいというふうに思います。

 お手元にパワーポイントの資料があるかと思います。ただ、ちょっと番号、ページをつけていないということで、失礼いたします。

 まず、二ページ目をあけていただきたいというふうに思います。

 今回のパート労働法改正については、パートと正社員の処遇差の改善ということが期待されているわけですけれども、その際大事な点は、両者の処遇差のすべてが解消すべきものであるわけではないということです。つまり、合理的に説明できる処遇差、これは働く人にとっても納得できるものであります。解消すべき処遇差は合理的に説明できない処遇差で、これを解消していく、このためにパート労働法の改正をするということだろうというふうに思います。そういう意味では、何が合理的な処遇差なのか、何が合理的でない処遇差なのかということが明らかになる基準を法律の中に明記することが大事だというふうに思います。

 三ページでありますけれども、単に差別的取り扱い禁止ということを規定するのでは、事業主も労働者も、合理的でない処遇差の改善に取り組めないということであります。つまり、企業にとってみれば、何が合理的でない処遇差なのかということがわかって初めて人事処遇制度の改善に取り組めますし、働く人たちも、働いている企業のこの処遇が合理的でないから、事業主に処遇差の改善を求めるということができるわけであります。そういう意味で、何が合理的な処遇差なのか、何が合理的でない処遇差なのかということを、基準としてはっきりさせるということが大事であります。

 四ページでありますけれども、今回の法律では、合理的な処遇差として、例えば、職務の違いによるもの、あるいはキャリアの展開範囲による違いのもの、これは合理的だというふうに明記しています。また、合理的でない処遇差としては、労働時間の長短によるもの、あるいは呼称によるもの、つまり、時間が短いから処遇に差があっていいとか、あるいはパートだから処遇に違いがあっていいということは合理的でないということになるわけであります。

 五ページ目でありますけれども、何が合理的でない処遇差かということにかかわる基準でありますけれども、これは、単に正社員とパート社員の間の処遇差に適用できるものだけでなく、実は正社員の間の処遇差についても適用できるものでなければならないということであります。

 例えば、仕事が違う、これは合理的だとお話をしましたけれども、正社員の間でも仕事が違えば処遇に差があることは合理的だと言われているわけであります。これと同じように、パートと正社員の間の処遇差について合理的あるいは合理的でないという基準は、正社員の間に適用したときにも、同じように適用できるものである必要があるということであります。

 例えば、今回の法律では、キャリア展開の範囲、これの違いが合理的な基準というふうに書かれているわけでありますけれども、現行の日本の正社員の雇用システムでも、合理的な処遇差として、キャリア展開の違いというものが広く受け入れられている実態があるということが大事だろうと思います。

 六ページは飛ばしていただきまして、七ページを見ていただければというふうに思います。

 今回、同視すべき者については、均等、つまり差別的取り扱いの禁止というものが入るというふうになっていますけれども、それ以外に均衡というものを定めたという点が非常に大事なのではないかということであります。つまり、単に職務が同じ者について取り扱うというだけでなく、職務が異なっても、その違いに応じてバランスをとることが定められたということが非常に大事だろうというふうに思います。

 一般的には、差別的取り扱い禁止、これだけを禁止する、均等についてだけ定めるという法律が海外等では多いわけでありますけれども、均衡という、違いがあっても、違いに応じてきちっとした処遇をとってくださいというものが努力義務として入るということが非常に大きな点なのではないかということであります。

 あと、八ページであります。

 最近、差別的取り扱い禁止の範囲について狭いという議論があるわけでありますけれども、これについての私の意見は、大事なことは、均等の範囲が少ないということではなくて、その基準が望ましいものであるかないかということが大事だと思います。その基準が望ましいものであれば、適切であれば、その対象者が少ないということは望ましい、差別が少ないということであります。

 つまり、男女雇用機会均等法に男女差別禁止というふうに書かれています。この基準は男女すべてに適用されるわけですね。それぞれ、例えば女性の処遇について、男性であることによって差別があるかどうか。今回もそうであります。この禁止規定は、すべてのパートタイム労働者について、その中でその基準に当てはまれば、これは差別ということに、あるいは差別的取り扱いというふうになるわけであります。

 ですから、やはり適用範囲の問題とその基準が適切であるかどうかということをきちっと分けて議論をするということが大事なのではないかというふうに思います。基準が適切であれば、基本的には、すべてのパートについてその基準に合うか合わないかということが議論されるということ、そういう意味では、差別的取り扱い禁止という基準が適切であれば、事業主としては、そういう差別が起きていないかどうかという観点から、人事処遇制度をすべて見直す方に動くということであります。私は、その点が非常に大事だというふうに思います。

 九ページであります。

 先ほどお話ししましたように、均衡という基準が入ったということは非常に大事であります。そういう意味で、私は均衡一と言っていますけれども、パートと正社員の処遇の決定方式を合わせろという部分でありますが、つまり、職務とある程度長期的なキャリアが正社員と同じパート社員についてでありますけれども、ここの部分については、基本給、賞与、職務関連手当が事実上、時間比例になるということであります。これは非常に大きな一歩ではないかというふうに思います。

 もう一つ、十ページであります。

 均衡について、例えば、職務が同じでほかが異なる、あるいは職務が異なることについて、これは均衡、バランスをとれということしか書かれていないので、これは問題だという議論もあります。つまり、処遇水準の違いについて法律あるいは指針等で明記しろという趣旨だと思いますが、実は、この仕事が違う者についての処遇水準の差とか、そういうものを明記するのは非常に難しいというふうに思います。

 これは考えていただければいいと思いますけれども、例えば、正社員の管理職と一般職の仕事は違います。ですから、当然、処遇に違いがあっても合理的なわけでありますけれども、この差について、一般職と課長の賃金差を十倍じゃなきゃいけないというようなことは、法律で定めるのは無理だと思います。

 もちろん、それぞれの企業で一般職と管理職の責任の程度は違います。それに応じて、企業内で納得のできる水準差というのを議論していただくということをやられているわけでありますけれども、そういう意味では、やはり労使が納得できる水準を設定すべきものだろう。

 あるいは、その職務以外、例えば、その職務は同じだけれどもキャリアの展開範囲が違うといったときに、このキャリアの展開範囲の違いをどう水準差に置きかえるかということも実は同じであります。これも、正社員の中でも、例えば管理職と専門職について処遇を変えるということが行われています。キャリアも違います。これについて、では、どの程度の差がなければならないということを法律で定められるかというと、多様な中では無理だと思います。

 これは基本的に、企業内で労使が議論しながら納得できる水準に置きかえるものではないかというふうに私は考えております。

 最後から二番目、十一ページでありますけれども、今回の法改正が通れば、正社員とパートの間の合理的でない処遇差、そういうものを事業主は変えていきますし、パートタイマーの方も、事業主に合理的でない処遇差の解消を求めていくこととなると思います。

 その中で、今回の法律は、結果としては、正社員の処遇のあり方を見直すということもやはり出てくるだろうというふうに思います。それは、例えば正社員の配偶者手当ですね、こういうものを見直すというようなことも出てくるというふうに思います。ですから、同時にやはり正社員の処遇を見直していく、つまり、両者を合理的な処遇のあり方にしていくということであります。

 最後のページでありますけれども、私は、今回の重要な法改正は、やはり労働条件の文書交付等による明示を義務化したことと、それともう一つは、労働条件の説明を義務化したことだろうというふうに思います。

 つまり、例えば働いている方々が、なぜ私には賞与がないのかということを事業主に聞ける、そうすると事業主は、こういうことなので、ないとか、合理的に説明できるということが大事であります。つまり、事業主の方々に、なぜこういう処遇制度なのかということを考えていただいて、うちの制度というのは合理的なのか、働いている人たちが納得できるものなのかということを事業主の方にも考えていただく、また、働いている人たちにも納得していただくという点では、非常に大事なルールなのではないかというふうに考えております。

 以上です。

 ちょっと時間が余ってしまいましたけれども、ここで私のコメントを終わらせていただきます。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 次に、今田参考人にお願いいたします。

今田参考人 労働政策研究・研修機構の今田と申します。よろしくお願いします。

 私は、労働に関して、長年調査研究に携わってきました。今回のこの法案のテーマであるパートタイム労働についても、特に、均等実現といいますか、均衡処遇をどう実現するかというような観点からも調査を行い、分析を行ってきた者です。このたびのパート労働法の改正の議論にも、分科会での基礎的な作業の議論にも参加させていただいた、そういう立場から、本日、コメントさせていただきます。

 それで、今、御説明というか自分の立場を申し述べましたが、そのことから明らかなように、政府案というものに深くかかわってきたということで、政府案の内容に関してはある程度知っていますが、対案の民主党案に関しては、松井参考人がおっしゃったみたいに、十分理解していない、そういうことがありますので、それを一応エクスキューズしておくということが必要だろうと思います。そういうことで、今回、対案が出されたということで、両方を見ながら、コメントをさせていただきます。

 それで、もう一つお断りしておく必要があるのは、政府案の中身に関しては、今、佐藤参考人が非常に詳しくポイントを整理してくださって、中身に関して細かく議論をするというのは重複になりますので避けたいと思います。二つの案を相対的に見ながら、そういうスタンスで少し議論をさせていただきたいと思います。

 今回のパートタイムの改正法の分科会での議論、それから、それを取り巻くマスコミ等の議論についての感想なんですけれども、通常の法律案の改正にあっては、いろいろな議論が飛び交って非常に活発化する、そういうのがあるんです。今回に関しての非常に大きな感想としては、パートタイム労働について、均等なり均衡処遇を実現するルールをぜひつくろうじゃないか、そういう機運といいますか、議論をするゴールについては、分科会においても、使用者サイド、労働者サイド、我々のような公益といいますか、事務局サイドも、そして、傍聴に来ていただいているマスコミやその他パートタイム労働にかかわる人たちも、そのゴールに関しては共通したものがあったという意味では、非常に特徴的であったと思います。

 そういう意味では、社会の格差理論とかというような風があったことも作用したんだろうと思いますけれども、いずれにしろ、成案をつくろうという動きであったというふうに思います。

 そういうことで、要は、この議論のポイントは、では、そういう均等なり均衡を実現するルール、労使も、あるいはそれについての関心を持っている一般の人も納得できるようなルールをどう実現するのか、どうつくるのか、その議論に尽きると。

 さっき佐藤参考人が非常に細かく説明してくださった、印象としては、何か随分とテクニカルな、細かな議論という印象もあると思いますけれども、なぜそうしたテクニカルな細かい議論が必要かというと、一般的に均等を実現しようという理念のレベルから、実際に職場の中にルールを定着させる、実現する、そのためにはいろいろな約束事をしなければ現実性を持たない。そういう事情から、具体的には、この法案のためにはいろいろな調査が行われ、日本の職場における慣行、それから雇用管理の実態というようなものを非常に詳細に調査して分析した結果、いろいろなルールというものが必要であるというような、我々がパートを考える上での情報が蓄積されてきた。

 その結果として、具体的に均衡を実現するためのルールづくりというものに着手できた。分科会での労使の非常に熱心な討論、議論の結果として、政府案というものができた、到達した。

 これは、以前、パートタイム法の改正という議論が労働政策審議会の均等分科会においてされました。そのときもそうした機運はあったわけですが、やはり、そういう具体的なルールを法律として制定するというにはまだ時期尚早、働いている人も使用者サイドもそうしたルールを企業の中で具体的に展開していくということにはまだ懸念があるということから、指針という形でスタートしたわけですね。

 そのときの議論に比べて、今回は非常に、さっき言いましたように、労使で積極的な議論がなされ、成案が成ったということです。

 そういう意味で、この政府案というのは、そういう準備の結果として、また、パート法の法案の制定当初から理念として挙げられた均衡処遇という、均衡という概念をコアにしながらそのルールづくりをしてきたということが非常に大きな第一の特徴で、さらに、さっき佐藤参考人からコメントがありましたように、これは今言ったように、均衡という概念、パートタイムで働く人たちすべての人を、均衡処遇の対象としてふさわしい労働条件を設定する対象として想定しているということが大きな特徴です。そういう意味で、パートタイム労働者が今日非常に拡大をして、質的にも変化して、多様なパートタイム労働者がいるわけで、いろいろなパートタイム、多様化したパートタイムすべての人たちにふさわしい処遇を実現する、そのための基本的な考え方としての均衡原理というものを実現しようということです。

 その観点からいえば、民主党案は均等という概念と、差別的取り扱いを禁止するという非常に重要な厳しい理念に基づいて、ではその基準は何かというと、同一価値労働同一処遇という、理念としてはこれまでも掲げられてきて非常に評価された、定着された一つの考え方という意味では、理念としてはすぐれた面を持っている。均衡というのは、よくわからないと言われる面もあるように、そういう二つの考え方の違いがあります。

 ただし、同一価値労働同一処遇ということ、では何をもって同一とするのかという、それが非常にわかりにくいという点で、私はそれは大きな問題であろうということと、同一価値労働同一処遇という原則を立てたとしたら、同一である人たちに対してはこのルールが適用され、さまざまな対応がなされるけれども、では、同一とはみなされない層に関してはどのような対応をするのかということについても明確ではない。

 そういう点で、さっき申しましたように、政府案の場合には、差別的取り扱い禁止というのを出発点としながら、そうじゃないさまざまなパートタイムの現実に対応すべく多様な処遇のルールを明確にしたという意味で、私自身がかかわってきたこと、作業にかかわってきたということもあるとは思いますけれども、私は、政府案に賛成するという立場に立っております。

 そういうことで、この二つの案が提示されて活発な議論が行われるということは、パートタイム労働を、差別をなくして働きにふさわしい処遇を確立するという法律をつくる上で二つの案が対置されて、それぞれの利点、すばらしい点を明示し、さらにそれぞれ持っている問題点というようなものについても、そういう相対の中で議論されて明らかにされるということ自体、非常に好ましいことであって、我々も参考人として呼ばれ、そういう議論にかかわらせてもらえるということを非常にありがたいというふうに思っています。

 この上は、ぜひ法律として、明確なそしてパートタイムの均衡というものを実現する有効なドライブとなるような、そういう法律を制定していただきたいというふうに思います。

 それで、注文としては、細かなことは省かせていただきますけれども、確かに民主党案にも非常にすぐれた面がある。例えば、政府案のパートタイムにおいては、差別を禁止する、そういう対象から、職務が同じ、違うパートの人たち、それぞれにふさわしい処遇というものを職場に実現するためのいろいろな取り決めなわけですけれども、実際にそうした違いは、職場において一番そのコアになる部分に関しては法律でもって禁止として特定されますが、それ以外のものについては、具体的な差異、違いというのは、それぞれの職場においての特殊性、実態というようなものに依存するものであるわけですから、ふさわしい処遇の実現は、やはり企業の職場における労使の話し合いとか枠組み、そういうものが基礎になる、その部分に関して十分な手当てがされていない、恐らく指針とかそういう形でその部分に関しては、そのあり方というものについては明確なガイドがなされるであろうとは思いますけれども。

 その点、民主党の案においては、検討するための委員会の設置というような、非常に明確な、ルールを実現していく上でのそういうエージェントといいますか主体を設定しているというのが非常にすぐれている。

 ただし、民主党案については、さらに言いますと、そうした均等委員会に一般的な法律で明記したルールの実行をほとんどゆだねるという、何が均等で、ふさわしい処遇は何かということをすべてゆだねるという意味で、細かく規定した政府案に比べると、この点においては政府案の方が明確で、民主党案においては、そうした実行部隊にすべてゆだねる、法律では一般的な規定しかないという意味では、実際にそれが職場において実効性を持つ、そういう観点からいうと大きな懸念があると言わざるを得ないというのがあるんです。

 政府案の問題点は、そうした職場における実際に均衡を実現するための具体的な枠組みというのが非常に弱いという意味で、恐らくそういう部分についての議論は今後なされていくだろうというふうに期待する次第です。

 ということで、二つの案が対置され、その相対の中で今後あるべきパートタイム労働が議論され、そのためのルールづくり、処遇を含めたルールづくり、雇用管理のあり方も含めたルールづくりが議論されて、恐らく、ふさわしい適切な法案がこの厚生労働委員会において成案として、結論として出されることであろうというふうに非常に期待をしております。

 ということで、私の話は終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 次に、中野参考人にお願いいたします。

中野参考人 このような場で意見陳述の機会を与えていただきまして、どうもありがとうございます。私は、働き手の生活と権利に法を通じて向き合ってきたという立場から、政府案と民主党案について意見を述べさせていただきたいと思います。

 親が死んだ悲しみは同じなのに、葬式のための休みにどうしてパートだけ賃金カットを受けるのか。これは、正社員には保障される慶弔休暇がないために賃金カットを受ける理不尽を訴えるパートタイム労働者の声です。正社員との格差は、こうした、ささやかではあるけれども人間であることの基本にかかわる休暇の権利にまで及んでいます。

 この間、パートタイム労働者は産業の基幹部門に配置されて戦力化されてきました。パートは、正社員と同じように仕事をこなして責任を果たすようになり、あるいは、正社員以上に長時間働いても正社員との大きな賃金格差に置かれてきました。問題は、それが単なる格差ではなく、自立して生きようとすれば、死ぬほど働かなければならないという矛盾に満ちた低賃金であって、貧困と隣り合わせのものであるということでした。

 パートしか働き口のない女性が、成長期の子供たちを抱えて生活保護給付ほど収入を得ようと思ったら、時間給千円でも年間三千時間も働かなければなりません。雇用保険料や社会保険料の負担を回避するために、週二十時間以下でしか雇用しない事業所も少なくない中で、年間三千時間を超えて働くためには、労働法や社会保障に基づく権利が保障されづらい複合就労以外にありません。

 フルタイムパートタイマーという、およそ西欧諸国では考えられない矛盾した用語が日本の社会に定着させられてきました。この言葉は、偽装されたパートタイム労働契約が野放しにされてきたことを意味するものですけれども、不合理な差別を隠ぺいする機能を持った言葉でもありました。

 同一の募集、採用区分にある男女を比較するという均等法の規制枠組みは、使用者が募集、採用区分、雇用管理区分が異なる労働者として採用したのだと言ってしまえば、同一、同等の仕事を処理していても、その格差を差別として是正させられないという限界を抱えてきました。女性の中に拡大したパート就労はそうした法の壁を象徴するもので、生活の基盤を他者に依存する以外にない低賃金労働として、女性の労働市場への参入を進めてきました。

 基幹労働力化されながら低賃金に置かれ続けてきたこのパートタイム労働者が受けてきた格差は、人間として生きる基盤における不合理な差別という以外にないものでした。それは、パートという就業形態に加えられた格差の深刻さを示すのみならず、格差を生み出すパートという契約形態が、身分として格差を動かないものにしていることを意味するものでした。

 そんな深刻な低賃金が野放しにされてきたのは、パートタイム労働が、家計補助的で課税最低限の範囲で調整して働く、あるいは仕事と家庭の両立を図る、企業との結びつきの弱い労働スタイルであることを、格差を正当化する理由として許してきたことにあります。こうした理由自体が不合理な差別というものでした。

 家計補助的労働であることによる労働条件の決定は、その人の仕事、労働によってではなく、家族の中に占める地位を理由とするもので、それが同じ労働に従事していても自立して生きられないほどの低賃金でよい根拠であるというなら、それは不合理な差別という以外にないものです。

 まして、この基準は、生活における男女の役割分担とイコールで結ばれる関係にあるという意味で、女性に対する差別でもありました。また、仕事と家庭の両立を図ることは、本来正社員にも保障されなければならないことであり、それを前提にすれば、仕事と家庭の両立を図る短時間労働であることを低賃金の根拠にするというのは、これもまた不合理な差別という以外の何物でもありません。

 そして、こうした企業の拘束の度合いという物差しをもって待遇を決めるという手法が、結局は、転居を伴う転勤、単身赴任や、残業を受容できるのが正社員であるという社員区分にまで発展して、それができなければ、正社員をパートに転換するといった雇用形態の不利益変更にまでつながっているという現状があります。

 パート法は、曲がりなりにも通常の労働者との均衡処遇を努力義務規定としてきましたが、今日に至るまでのパート労働をめぐる実態を見れば、法は事態を改善するには全く無力でした。それどころか、パート法の制定を契機として、パート労働者の中に有期雇用がふえました。

 今日問題となっている貧富の格差の拡大は、労働市場の二極化に原因していると指摘されていますが、その大もとには、こうした自立して生活できない低賃金雇用、パート差別があります。そうした非正規雇用が女性のみならず若者にも広がって、将来の職場や年金などの社会保障制度、さらには中央、地方政府の財政基盤を突き崩すような問題として、改善が求められるようになりました。

 今回のパート法改正は、そうした点で極めて重要なものであり、実質的な格差の是正に有効に機能することが求められているわけです。そのためには、何より、格差の構造的な要因にメスを入れるものでなければなりません。

 パートの差別的な低賃金を規定したものは、家計補助的であるという位置づけであり、また、仕事と家庭を両立させるという企業に対する拘束性という物差しでした。世帯主、異動の範囲、労働時間は、男女の性役割に触れて男女に分離を来たし、一方の性に不利益をもたらすという間接差別的な基準です。昨年改正された男女雇用機会均等法では、転勤をコースの振り分けや昇進の基準とすることを間接差別となり得る基準として厚生労働省令に列挙することになりました。

 こうした法制度の到達点を踏まえると、パート差別を禁止するに当たっては、少なくとも間接差別となるような基準をもって格差の合理的な根拠とすることはできないはずです。その点で、政府法案が、正社員と位置づけが同じパートについて差別を禁止するとしながら、異動の範囲の同一性を求めていることは重大な問題です。

 また、政府法案では、労働契約に期間の定めを置くかどうかを物差しにしていますが、これが使用者の一方的な都合で、買いたたきできる安上がりな労働として重宝されている最近の傾向に留意する必要があるのではないでしょうか。

 期間の定めを置いた細切れ雇用は、サービス経済化の進展とともに、契約社員と呼び名を変えて、専門職にも広がってきました。しかし、その位置づけは、経営環境の変化に対応して、期間満了時に賃金、シフト、雇い入れ期間などの条件を買いたたくというものに変わってきています。労働条件を弾力的に変更するなど、これまでの正規雇用ではあり得なかったことですが、期間満了時の契約更改がつきものの有期雇用では、それがいとも簡単にできてしまう。

 日本の法制度では、期間の定めを利用した労働条件の買いたたきに関する規制は何もありません。そして、一時的あるいは臨時的な労働という言葉の本来の意味における期間の定めではなく、ほとんど脱法的な意図に基づく期間の定めを設定することに対してさえ、何らの事前規制も働かせることはできないのです。そうした非正規雇用に関する低い保護水準のもとで、しかもそのために広がった期間の定めを差別禁止の対象から除外する根拠にすることは、極めて重要な問題です。

 こうした基準を設けたのは日本型雇用を意識してのことでしょうが、それ自体が大企業や中堅企業において確立されてきた雇用慣行であって、パート労働者が働いているすべての企業に当てはまったものではありません。そして、正社員であっても数年で転職するケースは少なくないのです。それなのに、どうしてパートだけが長期に働くことを要求されるのでしょうか。

 通常の労働者とされる労働者の待遇自体が大きく変わってきていることを十分考慮する必要もあります。最近の正社員は、既に問題になっているように、人員削減が進む一方で、成果という結果が問われることから、長時間過密労働を余儀なくされています。こうした働き方こそ改善されるべきであり、仕事と家庭の両立が可能な働き方を選択することによる不合理な格差を、差別としてなくしていく規制枠組みを確立しない限り、ワークライフバランスを実現する道もありません。

 これらのことを踏まえるならば、包括的に短時間労働であることを理由とする差別を禁止し、パート労働者の低賃金や格差の合理性を一つ一つ問うことを可能な仕組みを確立することが不可欠だと思います。その中で、個々具体的な職場における取り扱いや勤務の実態に即して、有期の定めが格差の合理的な根拠になるべきか、また、異動の範囲が待遇との関係で合理的な関係を持つものかどうかというものを検討する仕組みとすべきです。

 こうした仕組みの中で是正すべき不合理な格差は、賃金や教育訓練、福利厚生以外にも、休暇の権利や配置、昇進にも及ぶべきです。

 その場合、何が不合理なパート差別であるかをはかる物差しについて、幾つかの原則が確認されなければならないと考えます。その一つが、不合理性を判断する客観的な物差しとしての職務との合理的関連性を求める判断基準の確立です。そして二つ目に、その職務の同一性、同等性をはかる手段としての価値労働の物差しを開発することです。

 職務との合理的関連性は、均等法で排除するように求められている間接差別となる基準の判断に当たっても用いられているもので、パートタイム労働者の待遇格差の合理性をはかる物差しとしても同様に貫かれるべきものです。また、価値労働の物差しは、職務の外形的な違いにかかわらず、当該職務に必要な技能、経験、負荷などの同等性を待遇の物差しとするものでありまして、ILOも、日本における男女間賃金格差について、客観的な職務評価と価値労働の観点から是正を求めている百号条約の適用状況に関心を寄せているところです。

 条約勧告適用専門家委員会、これはILOの委員会ですけれども、二〇〇七年の報告書において、詳細はまた発言の機会があれば述べさせていただきたいと思いますが、政府に対して、本年開催される九十六回総会に、パートタイム、有期雇用、コース別人事の利用における間接的な賃金差別の是正のためにとられた措置などに関する情報をすべて提供するように求めています。

 パートタイム労働に関し、間接性差別に基づく賃金格差を解消すべきだという視点から報告を求めているという文脈からすると、このパート法の内容にはILO条約勧告適用専門家委員会報告書の要請に即した措置を盛り込むことが、国際社会の一員としても不可欠であると考えるものです。これらの指摘に即して格差を解消するには、透明で差別のない職務評価と、パートの待遇格差を改善するための企業ごとの取り組みを促進する制度的な、システムとしての受け皿が求められるところです。

 政府案への懸念があります。

 この間、労働市場において構造的に生み出されてきた二極化と貧富の格差を緩和できるのかという疑問のみならず、かえって格差を拡大、深化させることになりはしないかというところにまで懸念は及んでいます。政府案が八条に掲げる物差しを問題にしないで、パートと正社員との待遇格差を埋めてきた職場は少なくありません。政府案には、この法律を理由として労働条件を引き下げてはならないという労働基準法にもある定めがないところから、せっかくかち取ってきた待遇改善に水を差されるのではないかという懸念がまずあります。

 また、通常の労働者のだれもが、転居を伴う転勤をしてキャリア形成するというわけではない職場もたくさんありますし、通常の労働者であっても、数年で転職するというケースもふえています。この規定が逆に、転勤を予定しないから、長期のキャリア形成は期待しないからという使用者の一方的な位置づけによって、これまでのパートに匹敵するような不利益な待遇を正社員に強いるという動きが強まることも懸念されています。

 今回のパート法改正は、既に述べたようなパートの余りにも不利益な待遇を、差別的な待遇を改善することに基本的な趣旨を置くものであると理解しておりますけれども、そうした趣旨、目的とは全く相入れない取り扱いを引き起こすような要素は取り除いていくことが求められます。

 不合理な格差は、フラストレーションや心理的葛藤を高めるもので、行動や思考の自由を抑制し、自己評価を低め、人間としての当たり前の自信や誇り、生まれてきてよかったと思えるような自己肯定感を奪うものです。厳しい社会環境であればこそ、そもそも社会において追求しなければならない法的な規範、社会的価値、そして経済社会において承認されるべき倫理が問われなければなりません。

 政治哲学や経済倫理学の基礎を築いたロールズは、すべての人々に対して、自尊または自尊の社会的基礎が配分されなければならないとしています。この自尊とは、自分には価値があるという感覚、自分がよいと考えることや人生についての自分の意思は実行するに値するという確信を意味するものであって、ロールズは、これを最も重要な基本財としました。働き手であるすべての人々にとって、自分の労働が公正に認められること、自分が役に立っているという確信を必要としています。パート法改正がそうした時代の流れにふさわしいものとなることを強く求めます。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 次に、井筒参考人にお願いいたします。

井筒参考人 全労連の井筒です。よろしくお願いいたします。

 皆さんのお手元にも資料が配付されていると思います。

 全労連は二〇〇〇年にパート・臨時労組連絡会というものを結成いたしまして、現在二十二地方に地方連絡会を結成し、十数万人のパート、臨時、派遣などの労働者を組合に迎えて、均等待遇実現、最低賃金引き上げの運動などの中心を担ってきました。

 私たちの要求の中心である均等待遇実現において、職場での改善運動とともに、パートタイム労働法改正は最も重要な課題です。社会的規範としての均等待遇を根づかせるためには、どうしても法律で規定することが必要だと考えています。

 柳澤厚生労働大臣は、四日の厚生労働委員会で、自民党の福岡議員の質問答弁でこうおっしゃっていました。非正規、特にパートのような労働形態を選んでいる方々についても、やはり処遇がしっかり均等というか、そういうものが確保されなければいけない、単に労賃が安いからそれを使ってしまうんだというようなことがあってはならないと。私も本当にそう思っております。しかし、今回の改正で本当に柳澤大臣のおっしゃることが実現し、パート労働者の期待にこたえることができるでしょうか。

 今回の改正案では、三つの条件をクリアした正社員と同視できる短時間労働者にのみ差別的取り扱い禁止を規定したものの、それ以外のパート労働者は均衡処遇の努力義務にとどまっています。これでは、喫緊の課題であるパート労働者全体の処遇改善、均等待遇実現には到底結びつかないと思います。

 すべてのパート労働者を対象に、正規と同様、類似の仕事をするパートタイマーの時間当たり賃金は同じという均等待遇原則を法案に規定する修正をぜひやっていただきたいと思います。

 資料一をごらんください。

 一枚目をめくっていただくと、政府が法案説明用に配付した資料です。「パート労働法の改正で賃金がどう変わるか」という図解です。この図解を見て、パート労働者が喜び、法改正に期待を持つとお考えでしょうか。この資料を見た現場のパート労働者たちは、こんなことはあり得ない、政府は余りにも現場を知らない、これは絵そらごとだと怒っています。

 三つの条件をクリアした正社員と同視できる短時間労働者など、存在そのものが疑問視されています。幾らこうなりますよと言われても、かげろうを見るようなものです。逆に、正社員と同視できる働き方のパート労働者をつくらなければ、使用者は待遇を正社員並みにしなくてもいいということになります。三つの条件のハードルは極めて高いので、使用者はちょっと雇用管理のあり方を工夫すれば、正社員並みの働きをするパートを差別待遇のままで従来どおり雇用することができる、抜け道が幾らでもある、そんな法律になってしまいます。

 規制力の弱さも問題です。右の管理職パートのBさんの場合、正社員と同じ体系の賃金表が適用されて、正社員と同じ賃金になるとあります。法案では「通常の労働者と同一の方法により賃金を決定するように努めるものとする。」となっています。つまり努力義務であります。基幹パートのCさん、一般パートのDさんの場合も、今改正で賃金が百円、五十円と大幅にアップするように書かれていますが、これも使用者の努力義務です。努力義務で本当にこうしたことが実現するのでしょうか。

 パート法ができて十四年。パート労働者の処遇改善を使用者の努力にゆだねて十四年です。パート労働者の労働条件は改善されてきたでしょうか。特に、賃金について、正規との賃金格差は改善されるどころか拡大していることが指摘されています。ところが、政府の資料では、今回の改正では努力義務にもかかわらず一気に労働条件がアップされる、これができるなら、今までの十四年間、一体何をしていたのでしょうか。

 私は、今回の法改正に当たって、厚生労働省がこの資料のような甘い幻想を振りまくことについては問題だと思います。なぜなら、職場では、パート労働者の賃金、労働条件改善に大変な苦労が重ねられているからです。私たち労働組合は、パート労働者の時間給引き上げを粘り強くこつこつとやってきました。それでも、景気の悪化や非正規労働者全体の賃金低下のもとで、数年前から、地場のパートの賃金に比べて時間給が高いということで、賃金ダウンの提案が相次いでいます。

 資料二をごらんください。次のページです。

 私たちが昨年九月からことし一月にわたって取り組んだ「パート・臨時・派遣などではたらくみんなの実態アンケート」の結果です。集約人数一万一千四十六名、協力者の内訳は、組合員が四五・三%、組合に入っていない人は五二・一%であります。

 図一を見てください。この三年間の労働条件の悪化について聞いています。一番多いのが賃金切り下げで二四・六%、次に業務量の増加が一九%です。賃金は切り下げられて、仕事はふえたということです。

 この数年、特に商業流通関係の職場でパート労働者の時間給切り下げ提案が相次ぎました。地場賃金より高いというのがその理由でした。しかし、職場では、今まで正規労働者がやっていた仕事をパートタイマーが行い、その穴埋めにアルバイトを雇い、そして周辺業務はアウトソーシングされ、派遣や委託、請負化されてきました。まさに非正規労働者が職場の基幹的業務を担うという構造に急速に転換していきました。

 今まで正規がやっていた仕事をパートタイマーがするようになっても、賃金は正規並みには決してなりません。パート店長や職場リーダーなども生まれましたが、ほんのわずかの手当が増額されただけです。

 労働組合があるから、辛うじて賃金、労働条件の改悪を一定のところで押しとどめ、雇用も確保させてきました。しかし、組合に加入していない、闘うすべのない大多数のパート労働者は泣き寝入りをせざるを得ません。

 二十一世紀財団の平成十七年発表のパートタイム実態調査では、使用者のパートの雇用理由を見ると、「人件費が割安だから」とする事業所が最も多く、六六・五%となっております。人件費は割安、しかし仕事は基幹的業務で、職場にはなくてはならない存在、それが今のパートタイマーの多くの実態です。この法改正で、使用者の、人件費が割安だからパートを使うという意識の改革ができると本当に考えていらっしゃるのでしょうか。

 すべてのパート労働者を対象に、正規と同様、類似の仕事をするパートタイマーの時間当たり賃金は同じという均等待遇原則を法案に規定する修正をぜひやっていただきたいと思います。

 もう一度資料二をごらんください。

 次のページの図二ですが、ダブルワークをしているかどうかを聞きました。非正規労働者のダブルワーク、トリプルワークのことは政府も認識されていると思いますが、私どもの調査でも、回答者の一〇・一%がダブルワークをしていると答え、ダブルワークをしなければならない理由が、六二・七%が経済的理由と答えています。

 そして、労働条件では、組合の未加入者が世間一般の傾向に近いと思いますので、次のページをめくっていただいて、図四、図五、ボーナスの支給等のところですけれども、ボーナスの支給については、ボーナスなしが五六・六%、退職金に至っては、あるというのがわずか一三・八%にしかすぎません。非正規労働者と正規労働者の年収格差の原因は、非正規にはボーナスがない、あっても寸志程度であるというところにあります。これは政府が行っている賃金構造基本調査でも明らかなところです。

 今日、格差の拡大、貧困化が社会問題となっています。特に青年の非正規雇用が問題となっています。私どもの調査でもその傾向があらわれています。

 次のページの図六をごらんください。このアンケートへの回答者の年齢構成を見ますと、男性非正規は二十歳代、三十歳代に固まり、女性は四十歳代、五十歳代に多いことが一目瞭然かと思います。

 次のページをごらんください。そして、その男性非正規労働者の配偶者の就労状況を見ると、配偶者も非正規雇用というのが四四・五%となっています。そして、女性の非正規労働者の配偶者の就労状況は非正規雇用であるというのが一四・六%となっていました。私どもの限られた範囲での実態アンケートでも、格差と貧困化が進行していることが見てとれると思います。

 パートタイム労働法の改正が実効あるものとなると、パート労働者全体の処遇改善が進むだけでなく、アルバイト、派遣、請負その他、非正規雇用で働く労働者全体の賃金、労働条件に大きく寄与することでしょう。もちろん、正規とパートの賃金、労働条件を均等にするからといって、正規の賃金、労働条件を切り下げるようなことでは話になりません。低賃金のパート労働者の中には、フルタイムと変わらないほど働いても貧困から抜け出せないワーキングプアもいます。最低賃金の大幅引き上げや有期労働契約の濫用に歯どめをかけることとあわせてパート法を改正することで、格差の解消が進み、貧困化に歯どめをかけるという大きな波及効果を持つものになると思います。

 今、喫緊の課題は、非正規雇用労働者全体の労働条件の改善、底上げです。そのために、パートタイム労働法は、正規と同視されるパートタイマーの差別禁止はもとより、その他のすべてのパートタイマーも包含した差別禁止を使用者の努力義務にゆだねるのでなく、法律の強制力を持って実行でき得る改正を行うべきであると思います。

 最後に、有期労働契約の問題について述べさせていただきたいと思います。

 期間の定めのある労働契約で働くパートは約六割程度かと思われます。有期契約期間は多くが三カ月から一年以内です。そのような短期契約を繰り返しながら何年も長期に働くパート労働者が多く存在しています。有期労働契約のパートは、契約更新時に無事に契約更新されるか、常に不安を抱いています。また、契約更新時に労働条件を切り下げられても、雇用を維持するため、泣く泣く応じなければならないこともたびたびです。

 現行の有期労働契約は、非正規労働者の雇用の不安定と低い労働条件の固定化の原因となっています。継続してある仕事は期間の定めのない労働契約とすること、有期労働契約は臨時的、一時的仕事に限定すること、このことをぜひパート法にも反映させ、あわせて、労働基準法の改正も行われることを強く要望し、私の意見陳述とさせていただきます。

 ありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 次に、中原参考人にお願いいたします。

中原参考人 皆さん、既にお配りしてあります資料をごらんいただきたいと思います。

 四月の四日に阿部知子議員から配付されました「F社(製造業・印刷)における正社員とパートの賃金・福利厚生の格差」これに多少加筆いたしまして配付させていただきました。この資料にあります正社員とパートの、右側のパートが私です。そして、パート社員十三人の現状の表の、下から六番目、製版課、十四年、フルタイムというのが私です。

 それでは、私の意見を述べさせていただきます。

 私は、パート労働法が制定されました一九九三年から、印刷業の中小企業でフルタイムパートとして働き、一年契約の更新が十四回となるパート労働者です。そこで、パートと正社員がともに加盟する労働組合の役員をしております。また、全国一般東京労組という主に中小零細企業で働く労働者を組織する労働組合の役員をしております。

 このたび、全国一千二百万人を超えるパート労働者たちの念願であった十四年ぶりのパート労働法改正に当たり、ここに意見を述べる機会を得ましたことに身が引き締まる思いでおります。せっかく得た機会ですので、パートの代表として、パートの仲間たちのみならず、全国千六百万人を超える非正規労働者の切実な声と、小泉改革により大きく二極化した格差社会日本の中で、ますます困窮化を深める国民多数の生の叫びを届けなければならないと思っています。

 実際、本日の意見陳述に当たりまして、職場のパートの仲間たちに聞きましたところ、ほとんどのパートたちが、新聞報道などで、パートと正社員の差別がなくなる法案が審議されるらしいよと、期待と不安を半々に持って注目しており、私は、頑張ってこいよと激励をされて送り出されてきました。ただいま、かたずをのんで傍聴しているパートと正社員の仲間たちもおります。

 では、まず、今、国会でなぜパート労働法改正の審議をするのか、その背景について述べてみたいと思います。

 我が国は、政治においても国民生活においても、九〇年代半ば以降十数年間に大きく変貌を遂げました。特に、小泉政権の五年余りに及ぶ対米従属外交と改革政治の結果、輸出大企業を中心とする多国籍企業だけがひとり繁栄し、国民大多数の生活は窮乏化が進み、我が国社会は二極分解の様相を深めております。

 本件パート労働法改正という形で、政府を初め国会が対応を迫られております労働者の三人に一人が非正規で働かざるを得ない非正規雇用問題も、小泉内閣が当時の経済財政諮問会議で、財界と一体となり行った雇用流動化政策の当然の帰結と言えます。

 仮にも、政治の役割が国民の生命、生活と営業を守るというのであるなら、本件パート労働法改正こそ、この期間に広がった格差拡大、国民の困窮化の実態を是正するため、真に実効性が伴った法案でなければならないということを最初に述べておきたいと思います。

 早速、パート現場からパート労働法改正案を見てみたいと思います。

 お手元に配付されています資料に、私の賃金や労働条件が記載されています。同じ資料に、私と同じ職場で働くパートの仲間たちの一覧表があります。

 パート差別のトップは、何よりも賃金にあらわれています。私の賃金の時給は、当初八百二十円から十四年間で百九十円上がり、今は千十円です。勤続が一番長い、二十一年働いたパートの時給が九百七十五円とわかりましたが、余りの低賃金に私も驚いています。オペレーター経験者として入り、当初から時給が千五百円と高かったDTP課のパートは、正社員より仕事をこなしながら十五年間働き、たった四十五円しか上がっていません。

 資料の最後に、勤続が一番短い男性パートが二人います。慶応大学と早稲田大学を卒業した大卒のパートですが、熟年再就職組と言えます。男性は当初から時給が高いことがわかりますね。

 これでも、労働組合がありまして交渉しているので、何年働いても時給が変わらないパートたちが多数いる中、手取り十四万円の生活保護と変わらない私の実態でも恵まれていると言えるのが現状でございます。

 次に、今回のパート労働法改正の政府案の中で、均衡処遇が義務化し、差別が禁止されるための三つのハードルを、私の職場の現状と照らし合わせて見てみました。

 まず、職務同一短時間労働者についてです。

 私は、正社員が定年退職した補充として雇用され、配転も経験しました。配転先の職務も、退職した正社員がやっていた仕事です。現在は、今までの仕事に加え、部長が担当していた請求伝票記載も任されています。ベテランパート社員たちは、生産ラインの中で正社員たちの間に配置され、正社員に仕事を教え、その職務も責任も同一であると言えます。これは中小企業では当たり前の状態です。しかし、大手ではパートと正社員の職務を分けることが可能ですので、このハードルはパートの差別化に直結することになるのではないでしょうか。

 次に、期間の定めのない労働契約についてです。

 資料でおわかりのとおり、一年契約で数年から二十一年間にわたり反復更新され、期間の定めのない労働契約と同視される現状です。パートたちは、入社面接で長く働くことを期待され、私も、十年以上働いてほしいと言われて入社しました。労働組合が要求し、一年契約が長年にわたり反復更新されている実態を会社も認めざるを得ず、六十歳を過ぎたパートも、高齢者雇用安定法の対象として再雇用されております。

 このたびの法改正で、私たちの職場のパートたちが、社会通念上期間の定めのない労働者として同視されるという対象とされなければ、一体どこに法の対象者がいるのでしょうか。有期契約の有無をハードルとすると、ほとんどのパートが差別禁止の対象とはならなくなります。この期間の定めのない労働契約をハードルと設けることは、ぜひとも削除する必要があります。

 三つ目は、人材活用の仕組み、運用が同じについてです。

 就業規則にも契約書にも、職務の変更となる配転があることが明記されています。中小企業のため、スキルを見込まれて配転をしても、担当者は一人だけ、比較対象とする正社員はいないことが多いです。全国で働くパートの多くが中小零細企業に働く実情に対応した配慮が必要ではないでしょうか。また、会社は、正社員と同様の職務の変更が将来にわたり見込まれるかと聞かれれば、当然、わからないとかノーとか答えるのではないでしょうか。法で規制しなければ、だれが判断をするのでしょうか。

 労使は決して企業において対等ではありません。まして、パートの立場では、雇いどめや契約途中の解雇などの恐怖が常につきまとっております。機会さえ与えれば会社に対し対等に自己主張できると考える人がいれば、余りにも現実を知らないと言わざるを得ません。

 最後に、労働時間の問題です。

 ごらんのとおり、ほとんどのパートが正社員より三十分短い労働時間で契約しています。しかし、必要があれば正社員と一緒に残業もしています。

 そして、私だけが正社員と全く同じ時間働くフルタイムパートです。何人か退職したので、今は一人なんです。私のようなフルタイムパートは、今回もパート労働法の対象外となっています。正社員と同じ時間で二十年も働いても、退職金もなく、親が亡くなっても忌引休暇もない理不尽なパート差別を、十四年ぶりの法改正は再び放置するのでしょうか。

 このように、政府案の三つのハードルはそれぞれとても高いと言わざるを得ません。多くの中小企業で働くパート労働者の実態は、今検討した私の職場と同じようである以上、圧倒的多数のパートが差別禁止の対象とならない法案であると言えます。それどころか、かえってパート内の差別を拡大、固定化することにつながるものとなるでしょう。

 柳澤大臣は、私たちの職場のこの資料をごらんになって、「非常にいい資料」、「こういう方々ですと、」「多分この中のかなりの高い率で今度は差別禁止の対象になられるパートの方々が、非常に目の当たりにすることができまして、心から感謝を申し上げる次第でございます。」と御答弁されていました。大臣の答弁を私たちはどう理解すればいいのでしょうか。期待していいのでしょうか。諸般の事情を社会通念上判断すると、やはり差別禁止の対象ではないとお答えになるのでしょうか。

 また、格差の拡大を本当に改めようとするならば、その原因はどこにあるのかはっきりさせなければなりません。

 冒頭述べましたように、正社員が削減され、パート労働者を初め派遣など非正規労働者が急速に増大し、これほどの格差社会となり困窮化が進んだのは、自然現象ではありません。トヨタなどの多国籍企業が世界的競争に勝ち残るために、大規模な海外展開を支援し、国内の下請中小企業を一段と零落させた経済政策とともに、雇用の多様化という、安上がりで使い勝手のよい低賃金の非正規労働者をふやすための雇用政策が実行されたことに、一番の原因があるのではないでしょうか。その結果、中小企業は、多国籍企業からの犠牲の転嫁が強まる中で、それまでにも増して安上がりのパート労働者の比重をふやさざるを得なかった経過があります。すべては国際競争力を強めるためと正当化され、政府はそれを労働分野の規制緩和として促進してきました。

 したがって、本当に格差を是正し、均等待遇を実現しようとするならば、実効あるパート労働法改正を行い、雇用の多様化に規制を加えなければならないと思います。そのためにも、雇用政策の転換と並行して、多国籍企業を規制し中小企業を育成する経済政策が欠かせません。これこそが真の景気回復につながるでしょう。政府案はもちろんですが、民主党案もその点があいまいではないでしょうか。

 最後に、パート差別は労働者の身分差別であり、女性差別でありますことをぜひとも話しておきたいと思います。

 私は、一九九三年、二十年以上働いた正社員からパート労働者となったとき、賃金、待遇の余りの違いに愕然といたしました。当時、手取り十万そこそこで、三人の子供たちを必死で育てるために九四年から九五年の二年間パートをかけ持ちする複合就労をして働き、年間三千時間以上働いても年収はたったの三百万。夜のファミリーレストランは、かけ持ちで働く女性たちばかりでした。寝る時間を削り、必死で働いたのに、翌年収入オーバーで母子手当を削られたときは泣いても泣き切れませんでした。

 パートで働き始めて、素朴に、このような労働者の身分差別があっていいのかと心から怒りがわいています。きょうは、パートたちの声なき声を届けるためにここに来ています。

 私が複合就労してから十二年たちました。どうでしょう、皆さん。パートのみならず、派遣、契約、非常勤、偽装請負。若者たちは、携帯を命綱として、ワンコールワーカーという日雇い労働者となり、都会をさまよっています。こんな非正規労働を蔓延させていることは、政治の責任ではないでしょうか。

 対象となるパートはほんの少ししかいない、パート労働者の中に分断を持ち込むようなパート労働法改正はどうぞやめてください。人としての尊厳を傷つけながら働き続けるパートたちのかすかな期待を裏切り、政治に利用することはぜひやめていただきたいと思います。

 労働組合にかかわる者として、決意を込めて締めくくりたいと思います。私のつたない意見陳述を応援してくれた働く仲間たちに呼びかけたいと思います、雇用形態を超えた労働者の団結の力で、労働者の差別と分断を現場からはね返していきましょう、改革政治により痛めつけられている国民各層と連携して、国民大多数のための政治を取り戻していきましょうと。

 以上で私の意見陳述を終わります。ありがとうございました。(拍手)

櫻田委員長 ありがとうございました。

 以上で参考人の方々の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

櫻田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。川条志嘉君。

川条委員 自由民主党の川条志嘉でございます。

 本日は、お忙しい中、参考人の先生方から大変貴重な御意見を賜りまして、ありがとうございました。

 私は、女性が生き生きと働き、安心して子供を生み育てることのできる社会をつくりたいという思いで政治の世界を志しました。男女雇用機会均等法が、後に続く世代の女性に勤労への意欲と人生設計の変革をもたらしたように、今回のパート労働法の改正は、オランダ型ワークシェアリングへと歩みを進めるための前提である均衡処遇という概念の導入に大きな風穴を開くのではないかと思っております。

 与党内で議論されましたときから、ILO百号、ILO百五十六号に次いで、ILO百七十五号の批准も視野に入る、国際的にも意義深いものと期待しておりました。

 今回の民主党案を見ましたとき、なぜ、どこが違うんだろうと初めは首をかしげたものでした。労働条件の明示とか説明義務、紛争解決のための援助、指定法人についての改正部分というのはそう大差なかったんですが、均衡待遇、これが、究極の均衡待遇と言える面もありますが、すべてのパートについて差別禁止だとか、均等待遇等検討委員会の設置等、雇う側が中小零細企業が多いという現実を民主党案はわきまえておられるのだろうかと疑問に思った面があったわけです。この点について、まず最初にお聞きしたいと思います。

 昨年は、パートタイム労働者が千二百五万人いて、全従業員の二二・五%を占めていました。一方で、中小零細の雇い主というのはどれぐらいいるのか。これは、年ごとに増減が多くて非常に統計がとりにくいため、はっきりした数字はありません。だから、幾つか例を申し上げます。

 一例として、生活衛生関連営業は六百二十二万人もの従業員がいますが、事業所は、我が国全事業所のうち二一%の百二十三万カ所という数字が出ています。このうち、家族経営三九・四%、従業員数五人未満が八〇・七%、従業員数十人未満九〇・七%という、本当に小規模零細経営がほとんどです。また、一九八九年のユーロステート・レーバー・フォース・サーベイでは、自営業者六百八十三万のうち、雇っている人のいない自営業者というのが七二・九%に上るという統計もあります。平成十八年度の中小企業白書でも、中小企業は四百六十万社、このほかに零細企業、個人事業主があるわけです。不況は回復途上にあるとはいえ、年間一万二千件もの中小企業が倒産しています。小規模や零細の事業主の負担というものも考えなければいけないと思います。

 ここで、均等待遇の進んでいるオランダの状況と比較します。

 確かに、オランダでは、パートタイム労働を中心とするワークシェアリングが進んでいて、同一労働同一賃金、しかも社会保険や育児介護休業も差別なく同一条件で付与されていて、四カ月前に申し出ればという条件つきではあるものの、パートタイム労働とフルタイム労働の変換も容易に可能だということです。けれども、そのオランダでは、百人以上の大企業が六〇・二%、それに対して九人以下の小規模な企業は一八・三%と非常に少ないわけです。そこで働いているパートタイム労働の比率は、男性が一三・四%、女性が五七・二%と、やはり女性が多い。トータルで、全従業員の三二・一%がパートタイム労働者だという数字が出ております。

 この数字を踏まえて考えますと、オランダでは雇う側に非常に大きなゆとりがあると言えます。均等待遇を実現させるために雇う側にもゆとりがなければならない、これが私の率直な見解です。

 具体的な例を挙げれば、商店街の個人事業主などは、大型店舗の出店で売れ行きが落ちて、家族労働プラス一けたのパートさんで頑張っておられる、しかも地域の役員などを積極的に引き受けられて地域に貢献されておられる。この人たちの暮らし、つまり商い、言いかえれば、貨幣で評価できない部分の多く残る家内労働の中に近代資本主義的な契約を強制的に持ち込むのは無理があるように思います。パート労働法の円滑な適用には、従業員数などの要件が必要なのではないでしょうか。

 この点について、各参考人の先生方の御意見をいただきたいと思いますが、佐藤参考人、それから今田参考人、松井参考人の御意見をお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。

松井参考人 御質問、どうもありがとうございます。

 私が先ほどの意見を述べさせていただきましたときに、小規模零細企業においても今回のパートタイム労働法がすべて適用になるということについての懸念を申し上げた次第であります。今、先生の御提案は、恐らく、一定規模以下の事業所についてはこれを適用すべきではないという御意見だと承りました。私も、仮にそのようにしていただけるのであれば、人事労務管理あるいはそこで適切な対応が労働法も含めてすべてできるかどうか非常に難しい事業主についてまでこれを強制することは、やはり非常に無理があるという感覚を率直に持っております。

 したがいまして、仮に今後議論をしていただけるのであるならば、今回の改正内容が企業規模において異なる取り扱いを仮にしないとするのであるならば、いかなる規模の企業においても理解し得るような内容にしていただくことが大変重要なのではないかと思っております。

 私ども日本経団連並びにほかの事業主団体と、このパートタイム労働法につきまして労働政策審議会雇用均等分科会で議論をしました場合に、特に中小企業を代表する団体からは、一定規模以下については適用除外ということはあり得ないのか、あるいは施行時期についてももう少しその点についての配慮はしてもらえないものかという強い希望がございました。そして、それは、こちらにいらっしゃるお二人の参考人が公益委員としていらっしゃいまして、公益委員のお二人に対しても強く申し上げた次第であります。しかしながら、今回はそういうことを取り入れてもらえなかった、これが率直のところでございます。

 どうもありがとうございました。

佐藤参考人 今の御質問について、私の意見を述べさせていただきます。

 今回の政府提案のパート労働法改正の枠組みであれば、規模の要件をかけて適用除外をつくる必要はないというふうに考えております。

 まず、差別的禁止、均等の部分でも均衡の部分でも、基本的にはその事業所、企業で、社員がいるとすればですけれども、社員にどういうような人事処遇制度をつくっているのか、これとの見合いで、必要であれば均等なり均衡に取り組んでくださいということであります。

 確かに、大企業に比べて小規模企業では、例えば給与制度、賃金体系等もきちっと整備されていないということがありますが、基本的には、その会社の正社員に適用しているのと同じような内容で、パートについても均等をとる必要があれば、あるいは均衡をとる必要があればそれを取り組んでくださいということです。ですから、正社員にやられていることをやってくださいということであります。そういう意味では、やれるというふうに考えております。

 また、小規模企業になりますと、確かに、経営者一人であとは全部パート社員という場合もあります。この場合は、今回のケースで言えば、一番最後の均等、私でいえば均等のようになりますけれども、これも基本的には、その人たちの仕事や貢献や能力に応じた処遇をしてくださいということであります。それは、そういう会社でも、つまり事業主一人で、パートじゃなくて社員しか雇っていない、そういう事業所でもちゃんとやっているわけでありますから、それと同じような取り組みをしてくださいという法律の枠組みでありますので、私は十分やれるというふうに考えております。

今田参考人 基本的には佐藤参考人と同じです、この枠組みからいえば。加えて、やはり常にこうした法案の議論のときには中小企業の特性というようなことがあって、そこから、ある特例だとか事情に応じた、そういう要望が出てくるというのはいつものことなんですけれども、その多くは、本当にそうした制度が中小企業の特性から考えて適切に運用することは困難である、できないというような判断というよりも、もう少し以前のレベルで、中小企業と大企業との違いということを前提に雇用管理のいろいろなルールをつくっていくというような、そういう慣例といいますか方向があるんですけれども、やはりそれは、私個人としては、実態に応じてきちっと、中小企業においても可能なものもあるだろうし、そのレベルでそれぞれのルールが議論されるべきと。

 そういうことからいえば、今回のパートタイム法というのは、今佐藤参考人から説明があったように、中小企業において十分運用できる内容であるというふうに考えますので、特例とか特別の措置というものは必要ない、そういうふうに思います。

川条委員 ありがとうございました。

 ほかの参考人の先生方にもお伺いしたいのですが、質問数が非常に多いので、最後にほかにアンペイドワークについてお聞きしたいと思っておりますので、今回は御容赦いただければと思います。

 次に、パート労働者の割合というのがふえて多様化してはいるものの、我が国で慣習上、職務や仕事の責任とあるいは期間、こういったものについては正社員とパート労働者とは異なっているという側面があることも否定できない事実であります。均衡処遇という場合、公平性の面から、義務とか責任というものもやはり均衡でなければならないと私も思います。

 政府案では、差別的取り扱いの禁止の対象となるパート労働者については、我が国における雇用慣行を踏まえた上で、正社員と比較して、職務の内容、人材活用の仕組み、契約期間の要件、これを定めています。

 これまでの国会の議論においては、政府案では要件が厳し過ぎて、実際に差別的取り扱いが禁止されることになる事業所とか労働者は存在していないのではないかとか、あるいは経済界がパート労働法の改正案に対して反対していないのではないかといった主張をされる議員も一部にはおられますが、この点について、松井参考人と佐藤参考人はどのようにお考えでしょうか。

松井参考人 パートタイム労働法の改正につきまして、私どもは常々本当に改正が必要か疑問に感じていたということは率直に申し上げられると思います。特に大手企業の現場からは、今本当にパートタイム労働法の改正が必要なのかどうか疑問であるということが私どもの事務所に多く寄せられたということをまず申し上げたいと思います。

 先ほど冒頭に申し上げましたように、私どもとしましては、どうにかいろいろな形で精査をした結果、ぎりぎりの判断で、多くの企業がこのパートタイム労働法について遵守できるのではないかという判断を最終的にした次第であります。

 それは、ほかの参考人からいろいろな形で指摘がございました、いわゆる格差社会の問題点の指摘について、一つでも一歩でも前進し得る内容になっていると私どもは判断をした次第であります。

 他方、これはやはり企業に対する説明責任の負荷が大きくなってきた、この点については企業としてはやはり社会に存在する組織としてより強く求められている、これもやむを得ないものと判断したところであります。

 それともう一つ、考え方として、差別的取り扱いの禁止の対象となる方が少ないのではないかという考え方については、冒頭申し上げましたように、本当はどのくらいいるかわからないという考え方の方が正確なのではないかと思っております。

 柳澤大臣は、ある一定の統計に基づいて五%くらいとか、そういう発言をされておられます。それは、パートタイム労働法の改正を審議している審議会のところにも提出された資料に基づいての回答だと思っております。

 それは、ある一定の統計に基づいて一定の推計がかかっているということが前提になっている、それにおいては正しいという理解がありますけれども、先ほど最後に陳述をされた中原参考人がおっしゃられたような企業も、どれだけ正社員とパートタイム労働者の職務が同じなのか違うのかよくわかりませんけれども、仕事が未分化である中小零細企業においてはしばしばそういうことは見受けられるのではないか。そういうことからすると、どのくらいあるのかということは統計的には非常に難しい、私はまずそのように考えております。

 その意味では、中小零細企業にとっては非常に厳しい内容になっているのではないかと考える次第であります。

 以上です。

佐藤参考人 政府提案の差別的取り扱い禁止の範囲が狭いのではないかということについてですけれども、これについては、私が最初に御説明させていただきましたように、私は、差別的禁止の範囲が広い、狭いということが大事だということではなくて、実は大事なのは、差別的取り扱いとする基準が適切であるかないかということだと思います。

 その際、政府提案は、職務、つまり、時間がフルタイムの方と正社員の方と短時間の方がいて、仕事が同じで、ただし、仕事が同じだけであれば処遇を変えてもいいということですね。もう一つは人材活用の仕組み。人材活用の仕組みはかなり長期である、長期であれば契約期間も多分、無期とみなし得るものが有期であっても実態はふえる、こういう考え方で、時間が短くても、他の条件として職務と人材活用の仕組みが長期で同じ場合、処遇について一切差を設けてはならない、こういう基準であります。

 そういう意味では、先ほどほかの参考人の方は忌引休暇というお話がありましたけれども、正社員に忌引休暇があれば、差別的取り扱い禁止の対象になれば、当然パートの方にも付与しろということになります。これが適切でないかどうかということです。例えば職務が同じであれば、人材活用の仕組みが違っても差別的取り扱い禁止と扱うという議論、これが適切だという議論を立てるかどうかだと思います。

 例えば、百貨店の外商の職場で、週三日だけ外商の仕事だけ雇われている人がいます、この人は歩合で。他方、正社員として人事異動の途中として外商の職場に来る、二、三年で異動していく、これが日本の人事管理の実態であります。このときに、確かにその社員も二年、三年同じ外商という仕事をしています、有期で週三日働いている人。多分これについて、職務のみ同じなので人材活用の仕組みは違っても差別的取り扱い禁止だというふうにすると、同じ処遇にしろということが現実、実態として合っているかというと、これはパートだけじゃなくて、社員の人も納得しないのではないかというふうに私は思います。

 日本の正社員は、スポットの短期で、職務で処遇されているのではなくて、かなり中長期的キャリアで雇用し処遇するというシステムがあります。これを前提としますと、スポットで仕事が同じだということだけをもって、時間が短くて仕事が同じであれば、他が、例えばキャリアが違っても差別的取り扱い禁止というのは、今の日本の人事管理のシステムに合わないのではないか。そういう意味では、私は、政府提案の差別的取り扱いの基準というのは適切ではないか、結果としてそれに当てはまる人が少ないか多いかということは別ではないかというふうに考えています。

川条委員 ありがとうございました。

 次に、政府案では、差別的取り扱い禁止の対象者の要件のうち、契約期間の要件については、期間に定めがない場合のほか、有期契約が反復更新されて無期契約と社会通念上同視される場合も該当することとしています。

 この有期契約の反復更新について、無期契約と同視されることになる基準、例えば三年契約を三回更新したら期間の定めがない契約と同視し得るといった基準を定めるべきであると主張される議員もおられるところですが、かえってこれは雇いどめを誘発してしまってよくないのではないかと思いますが、どのようにお考えか、これを佐藤参考人、中野参考人にお伺いしたい。

 中野参考人にはもう一点、均等待遇等検討委員会、この存在なんですが、これは努力義務となっていて物差しにはなり得ないと私は思うわけです。また、中小企業でこのような委員会を設置することは非常に大きな負担となるために努力義務では考えにくい、したがって全くの張りぼてになってしまうのではないかと私は思うわけです。この点についても中野参考人に御意見をお伺いしたいと思います。

櫻田委員長 佐藤参考人、持ち時間は既に終了しておりますので、答えは簡略にひとつお願いいたします、せっかくでございますので。

佐藤参考人 私、労働法が専門でないので十分お答えできる自信はありませんけれども、やはり判例で幾つか出ていますけれども、確立したルールができるほど判例が蓄積されていないというのが私の理解です。ただし、もちろん、契約更新について一定のルールを定めることが必要だという認識は持っていますが、今回のパート労働法の中でやるのはなかなか難しいだろうというふうに考えています。

櫻田委員長 中野参考人、ちょっと短目によろしくお願いいたします。

中野参考人 規制がしっかりしていないところから出てくる矛盾でありまして、日本の法制度のあり方というのは、そういう意味では抜本的に問われるんじゃないでしょうか。

 それから、検討委員会について余り実効性がないのではないか、特に中小零細企業においてということですが、こういった制度というのは中小零細規模の事業所であればこそ生かしていかなければいけない、そういう意味ではノウハウを開発していくということの方が大事ではないのかというふうに思います。

川条委員 質疑時間がオーバーしていて本当に申しわけないんですが、最後にお伺いしたいと思っていたこともまたほかの参考人の先生方にお伺いできなくて申しわけないと思います。したがって、最後に、ちょっと一分だけお時間をいただいて、思いだけ述べさせていただいて、質問を終わりたいと思うんです。

 女性が正規からパートに移行する原因として、そもそもM字型カーブの存在があるんですが、これは昨年来、猪口大臣初め、男女共同参画を大きく進める方向で与党としても取り組んでいます。そして、私は、民主党のワークライフバランスでは不十分だと思っているわけです。男女平等を実現させていくためにも、パート労働者に女性が多いから均衡処遇を努力義務として位置づけようとする、こんな、実効性が疑問視される議論を行うより先に、家事、育児、介護などの家庭内の、お金では評価されない仕事について考えていく必要があると思っています。

 第二回世界女性会議採択文書の中の有名な言葉で、婦人は、世界の人口の五〇%、公的労働の三分の一を占めていて、全労働時間の三分の二を占めているにもかかわらず、世界の所得の十分の一しか受け取っておらず、世界の生産の一%しか所有していないというものです……

櫻田委員長 川条志嘉君、持ち時間が経過しておりますので、終了してください。

川条委員 申しわけないです。

 したがって、女性のアンペイドワークというものを認めていくことこそ、男女差別を是正していくために必要だと思っています。ワークとライフを分けたライフの中に家事、育児を位置づけるのではなく、ライフを維持するために必要な、貨幣では評価されていないワークとして認識して対応していく必要があると思っているわけです。

 だから、最後になりましたけれども……

櫻田委員長 川条志嘉君に申し上げます。

 既に持ち時間は十分に経過しておりますので、質疑を終了してください。

川条委員 遅くなりまして申しわけありません。

 思いも述べさせていただけないようですので、これで質疑を終わらせていただきます。本当にありがとうございました。

櫻田委員長 次に、福島豊君。

福島委員 公明党の福島豊でございます。

 各参考人の皆様には、大変貴重な御意見をお聞かせいただきましてありがとうございました。

 まず初めに、佐藤参考人に二点お伺いいたしたいと思っております。

 前回、この委員会における法案審議におきまして、またこれまでの委員会審議の中におきましても、政府案の差別的取り扱い禁止の対象者というのが果たしてどのくらいいるんだろうかということが一つの争点になっているわけです。もし対象者がわずかしかいない、また全くいないのであれば政府案は非常に問題だ、こういう主張がなされております。

 佐藤参考人の冒頭の御説明によりますと、政府案の基本的な考え方はすべてのパート労働者を対象とした均衡待遇であるということで、私もそのように理解をしておりますけれども、そのうち、正社員と同じ働き方であるのに差別的な待遇を受けているということで、この法案における差別禁止の対象となるようなパート労働者が仮に現在数多く存在するとすれば、むしろその方が問題であって、政府案というものは、差別禁止の対象者が多いとか少ないとかということではなくて、いずれにしても、すべてのパート労働者を対象として均衡待遇が図られる構造となっている、これは評価すべきであるというふうに私は思うわけであります。そういうことから、差別禁止の対象者の多い少ないということで法案の価値を左右するという話ではまずないんだろう。

 もう一点、また、そのような差別禁止の対象事例を調査して実例を示すべきじゃないかという強い御主張もございました。

 しかし、今申し上げましたように、現時点で差別禁止の対象者がどこにどれくらいいるのかということはなかなか難しい話なんだろうなというふうに私は思います。そもそも、新たに法律において差別禁止という強い規定を設けるわけですから、いわば現時点でも違法ともいうべき事例をどのようにすれば収集できるのか、甚だ疑問であるわけです。個々の事業主に聞いて回って、正直に手を挙げていただけるとも思えませんし、正社員の働き方を余り御存じないパート労働者の方もおられると思います。そういう中で、調査やヒアリングで簡単に対象を把握していくというのは困難ではないのかなというふうに思うわけであります。しかし、一方で、一定数の差別禁止対象者がおられるということも過去の統計によってはうかがえるわけであります。

 そういうようなことを考えますと、対象者を数量的に把握するということに問題の本質があるということではなくて、あくまでどのような働き方をしているかという考え方で整理をしていくということが非常に大事なところだと思うわけであります。

 この二点についてお聞きをいたしたいと思います。

佐藤参考人 今御質問いただいたことに私も賛成で、やはり差別的取り扱い禁止の基準なりあるいは均衡の基準が適切であるかどうかということがまず大事であって、私は、差別的取り扱い禁止の基準が今回の法律で定められれば、基本的には、何度もお話ししましたように、事業主としては、すべてのパートについてそれに当てはまるものであるかどうかを見ていく。それがあればそれを改善していくということが求められるわけですから、差別的取り扱い禁止についても基本的には全員が対象として事業主に考えていただく。パートの方も自分がそれに当てはまるかどうかを事業主に聞けるわけですから、私はそれはすごく大きいのではないかというふうに思います。

 もちろん、確かにそういう基準ができたときに、差別的取り扱いの範囲がどのぐらいかという関心があるのは私もよくわかります。ただし、これについては、今、事業主に調査して、なかなかそのとおりのデータが上がってくるのは非常に難しいだろうというふうに思います。そういう意味では、過去のデータから推測するということは可能だと思います。しかし、既に、パート労働法改正の議論が始まる中で、やはりちゃんとパートの方に意欲的に働いてほしいと思っている事業主の方は改善に取り組んできています。そういう意味では、二年前あるいは三年前の調査と今実態がそうかというと、事業主の取り組みは進んできているというのが私の実感であります。

 以上です。

福島委員 こうした法案そのものの持つ本質的な意味というものをしっかりと判断すべきだろうと我々は思っております。

 その中で、先ほど中原参考人から御指摘がありましたように、パート労働者の方々の処遇自体が、正社員との均衡ということと別にしまして、最低賃金とも関連するわけですけれども、大変厳しい状況にあるんじゃないかという指摘があることも一方で事実なんですね。

 この法案でどこまでそういった処遇が変えられるかという話になりますと、この法案だけにすべてを求めるべきではないだろうと私は思うんです。一つは最低賃金法のような話もあると思いますし、この問題は一方でまた、先ほど中原参考人は多国籍企業の活動を規制すべきだというお話がありましたが、今、日本の経済は輸出で外需中心で景気が回復してきているということもこれは事実なんです。そういう意味では、国際競争力というのは非常に大事だと思うわけです。ただ一方で、そのこと自身が、ワーキングプアと言われるような低賃金の労働者の人の存在によって支えられているのでは日本経済は余りにも情けないなというふうに私は思うわけでありますけれども、この点について、佐藤参考人とそしてまた松井参考人にちょっと御意見をお聞きしたいんです。

佐藤参考人 今回のパート労働法の意味というのは、目的は何かといいますと、先ほど私が最初にお話しさせていただきましたように、合理的でない処遇差を解消していくということです。このことは、確かに一部ではパートタイム労働者の方の処遇の向上ということもあり得ると思いますけれども、処遇水準の改善と不合理な処遇差を変えるということは、一応これは別なんですね。例えば、差別的取り扱い禁止に当てはまるような、つまり差別を受けているようなパートの方がいらっしゃる。社員の方と同じ仕事をしていて、人材活用の仕組みであって、当然処遇は同じにしなさいと。そうであっても、今度は社員の方の処遇が低いということもあるわけです。

 そういう意味で、社員とパートの方の均等なり均衡を進めるということは、不合理な処遇の解消にはもちろんなるわけでありますけれども、そのことが即パートの方の処遇改善になるわけではなくて、これは全体として、社員も含めて、会社の、最賃という制度の枠組みと、企業それぞれが支払い能力を高められるような経営をする、そういう環境をつくっていくということがやはり不可欠だというふうに思います。

松井参考人 御質問ありがとうございます。

 まず、企業経営としては、国内で生き残り、また、外で活動する企業としては外でも生き残っていかなくてはいけないと考えております。その点で、福島先生が御指摘くださったように、多国籍企業を規制するということではなく、多国籍企業も含めて、日本でより多く活動できるような環境整備が求められていると考えております。

 その関連として、多国籍企業がワーキングプアによって支えられているか否かという御質問であろうかと思いますが、反対に、同一価値の労働というのを企業の壁を越えて、あるいは国境を越えて考えますと、企業にとっては最適生産地というのは日本国内にとどまらないという考え方もあります。確かにマスメディア等ではワーキングプアということがいろいろな形で言われておりますけれども、私どもとしては、できる限り日本にも雇用が残る形での取り組みをぜひ進めてもらえればと思います。

 そういう観点からしますと、今回の国会に上程されております最低賃金法の見直しについても、ぜひ企業現場を踏まえた慎重な御議論をお願いしたいと考えております。

 以上です。

福島委員 今、松井さんの方からは、企業活動自体が国内だけに立地している世の中ではありませんよと。そうなんですね。それがあるんですね。やはり中国の企業とどう競争するか、そしてまた、インドという話もありますね、フラット化する世界という話ですけれども。

 その中で、国内で働いている人も、海外の低賃金の労働者の方々の存在ということがあるがゆえに、今の時代はとても難しいということなんですね。さはさりとて、雇用がなくなったら困るという話だけで済まなくて、その雇用は良質のものでなきゃいかぬという話もあると思うんです。でなければ、何のための雇用かな、こういう話になるんですね。労働力人口がだんだん減ってきますから、このあたりの関係は変わってくるのかなという気もするんですけれども、今田参考人、このあたりは今後どういうふうになっていくのか。

 今、松井参考人の方から、ワーキングプアという話も、企業のサイドからすれば全体として考えなきゃいかぬという話ですけれども、ただ一方、政治的な立場では看過できない話でもありますので、ここを現実の企業活動と折り合いをつけながら、どういう形で今後やっていけばいいのか、この点についてお聞きしたいんですが。

    〔委員長退席、伊藤(信)委員長代理着席〕

今田参考人 大変難しい議論で、パートタイム法のこの枠組みの中からの議論としてどうかということ。

 簡単にお答えしたいんですけれども、さっき言いましたように、このパートタイムの法案の一番中心的なテーマは、パートタイムの均衡をどう実現するかということ。それがパートタイムの労働条件の向上に直接結びつくという関係であるわけじゃないということは確かなんですね。

 要するに、パートタイムとフルタイム、正社員との間に均衡を実現する。さっき言いましたように、フルタイムとの間の配分をもう一度考え直すということ。そのことがもう少しマクロな、雇用とか経済ということに広がって、日本全体の、正社員に配分されているパイと、パートタイムに配分されているパイ、それの配分がまた再編されてという形に波及した場合に、当然、パートタイムの賃金あるいは処遇というものが上がるということはあったとしても、ミクロに企業だけで、要するに上がる下がるという議論は……。

 そういう意味では、この問題が今議論されているような日本全体のワーキングプアというような問題についてという関係、それはまたその観点から別の論理として、恐らくこの法案がもう少し成熟して、今言ったような再配分、そういう議論からパートタイムとフルタイムの再配分、さらにそのフルタイムの働き方として海外との間の再配分という大きな変動の中で、働き方の多様化、変動に伴う賃金の再配分の動きを加速して、そういう方向に恐らく行くであろうということは言えますけれども、今議論しているパートタイムのパート法に関して言うと、それだけの射程を今現在置いてパート法の改革が行われたということでは必ずしもない、そういうふうにお答えしたいと思います。

    〔伊藤(信)委員長代理退席、委員長着席〕

福島委員 今、今田参考人がおっしゃられたように、一つのステップなんだろうなというふうに思います。

 本当にパート労働者の方々の処遇というものが全般的に変わっていくためには、まず一つは、松井参考人に申し上げたいのは、やはり労働分配率をもうちょっと上げてもらわなきゃいけない、また、設備投資にばかり回していると無駄な設備がたくさんふえたら困りますねという話もあるわけで、むしろ内需をどうするかということを考えるのであれば、労働分配率をどうするかという話なんだと思うんですね。

 井筒参考人、ちょっと席を外されたんですが、正社員の方と非正規の方の総人件費の分配をどうするのかという話も、もう少しそこは議論してもらわなきゃいけないんだと思うんですね。連合の方もパート労働をどうするかということを最近強くおっしゃっておられますが、個々の企業ベースで、労使の話し合いベースでそこの総人件費の分配をどうするのか、そういう話が現場でなされないといかぬのだろうな、こういう気もするわけです。ちょっとおられませんので、時間がもうちょっとありますから、後で聞きます。

 その上で、もう一つ、ただ、同一価値労働の物差しがなかなかないよという話は非常に大事な話で、例えば、ジョブディスクリプションという話がありますね。日本の企業ではこういうような仕組みというのがなかなか定着しない。働き方がアメリカとか欧米の企業に比べると違うんだなという気がするんですね。せんじ詰めていくと、このあたりのことをもう少し整理しないと、物差しすらできてこないなという気もするんですが、この点について、佐藤参考人の御意見をお聞きしたいと思います。

佐藤参考人 私も、同一労働同一賃金の原則というのは非常に大事だと思います。ただ、これを具体的にどう実現していくかというのは、それぞれの国の雇用システムのあり方によって実際違います。

 ですから、例えば、今配置されている職務だけで同一労働同一賃金というものを具体的に実現できるような雇用システムの国もあります。例えば、フルタイム、日本でいえば正社員自体も時間給で、職務で給与が決まっているというような、パートタイマーが働いていらっしゃる仕事についている日本でいう正社員、フルタイマーも職務で時間給である。例えばこういう雇用システムであれば、これは仕事だけで設定するということも可能であります。あるいは、資格みたいなものがあって、職務プラス資格というようなものでやっているようなところもあります。

 日本の場合は、先ほどお話ししましたように、社員の方の雇用のシステムは変わってきていますけれども、やはり短期のスポットで処遇を決めるというよりかは、ある程度中長期的キャリアで処遇なり人材活用を決めていくというのが社員の方の仕組みであります。これと、パートはやはりスポットで、あるいは職務で処遇を決めるというものであります。この間の同一労働同一賃金というのが、ある面では海外のものをそのまま持ってこられない、やはり日本の雇用システムに合ったような仕組みをつくっていくということが大事で、そういう意味では、今回の法律というのは一つのステップだろうというふうに思います。

 職務評価はやればやれるという議論はあるわけでありますけれども、職務評価というのは実は手続でありまして、どういうポイントをつけるかというのは、実は、企業内で考える、ある面では主観的なんですね。つまり、企業を超えて一般的な職務評価をする場合のポイントを客観化できるかというと、実はそうならない。

 基本的に、企業内で労使が話し合って、どういうポイントにしていくのか。例えば、仕事の難しさみたいなところにポイントをどれだけ置くのか、あるいは資格にどの程度ポイントを置くのかというのは、ある面では、外在的にこういう基準でやれば職務評価はできるというふうに社会的に決まっているというものはないというふうに私は考えています。基本的には企業内で考えていく、そういう意味では同じだろうというふうに思います。

福島委員 井筒参考人、ちょっと離れておられましたときに発言いたしまして、申しわけございません。

 先ほど申しましたのは、全体として企業サイドには労働分配率を私はもっとふやしてほしい、大分絞り込んできましたから、そういう話が一つあるんだろう。その上で、個々の企業において総人件費という考え方が出てきています。ここのところは、正社員の方々の総人件費と非正規の社員の方々の総人件費のバランスをどうするか。一方で、正社員の方の総人件費を少しカットして非正規の方に回すべきじゃないか、こういう意見があるわけですね。

 これはもう全体でという話もあるんですけれども、個々の企業の労使ベースでどうするかという話が一つあると思いますし、連合としても、そのあたりのことは一つの考え方として、全体として労働分配率を上げると同時に、一方で、その中で非正規、正規の社員の分配自体も見直すべきだということは、やはり考えていただけないかと私は思うんですが、この点についての御意見をお聞きしたいと思います。

井筒参考人 済みません。連合ではなくて全労連なんですけれども……(福島委員「済みません、間違えました」と呼ぶ)

 今の御質問ですけれども、パートの賃金を引き上げるときには、では、正規労働者が正規の賃金を切り下げるのかという議論が現場のところではよくあります。逆に、しかし、もともと必要である人材なわけです。パート労働者も含めて、正規労働者も含めて、その企業の中でその事業を運営していく上でそれだけの人材が必要であり、それだけの働き手が必要なわけですから、それは、企業が人件費そのものの大枠を考えるときに、自分たちが雇用した労働者を、使用者としての責任で、安定した賃金、いわゆるまともな賃金が支払われるだけの総人件費というのはきちっと考えるべきであろうと。

 しかし、今厳しくそこが削られていっている中で、おっしゃるように、正規労働者が減らされて、パート労働者や非正規がふやされていくという流れになってきている中で、今おっしゃったような、では、現段階で、パート労働者の賃金を引き上げるために正規を減らすのかというふうなことが議論になるということは、現実には起こるかと思います。

 しかし、中小零細企業のところでも、やはり、今パートの賃金が余りにも低過ぎるというところから、それを改善していこうと。特に中小の場合は人材が非常に重要ですから、人材確保のためには一定の労働条件を確保しなきゃいけない。これは政府の調査でも、大企業のパートタイマーの時間給よりも中小企業のパートタイマーの時間給の方が高いというふうになっているように、中小企業の場合は、そこは努力を随分していると思います。

 おっしゃるように、私は、もともと根本的なところから考えれば、パートも正規も含めた一定のそれだけの人を雇う上においては、企業家、事業主の責任というものがあって、それは確保されるべきだというふうに考えています。

福島委員 以上で終わります。

 どうもありがとうございました。

櫻田委員長 次に、郡和子君。

郡委員 民主党の郡和子でございます。

 ちょっと荒れた声ですけれども、お許しをいただきたいと思います。

 まず、ILOでは、一九九四年にパートに関する条約というのを採択いたしました。EU各国では、これに対して均等待遇の規定が実施されていて、日本は大変おくれているというふうに指摘をされているわけです。

 二〇〇三年の国連女性差別撤廃委員会でも、パート労働者に対して、日本は女性が大変多くを占めている、その賃金が一般労働者よりも低いことを懸念して、大変改善が必要だというふうなことが言われているわけであります。また、日本は、同一価値労働同一賃金を定めた百号条約を批准しているわけで、これに対して、批准国として実施する義務があるのだろうと思っております。

 先ほど、中野参考人がお話をされた際に、ILOの条約勧告適用専門家委員会が日本に対して指摘を行って、その報告を求めているというお話、詳しくお触れになりませんでしたけれども、まずその点から伺わせていただきたいと思います。

中野参考人 ありがとうございます。

 今のお話ですけれども、今ILO総会、これは九十六回総会になるわけですけれども、これに先立ちまして、条約勧告適用専門家委員会の方で、ILO百号条約と百五十六号条約の適用状況について専門家委員会の報告が出されております。

 これによりますと、パート労働者に関する問題についてピックアップしたところを御紹介いたしますと、第一に、政府が提供いたしましたすべての資料に基づいて、すべての産業においてパートタイム労働に従事する女性は、パートタイム労働で働いている男性よりも長くその職についているけれども、女性に対するその賃金が非常に低過ぎるということを指摘しています。そして、パートタイム労働の中での大きな賃金のジェンダー格差というものがある、この点について政府はどのような措置を講じているのか、重大な懸念がある部分であるけれども、それに関する措置について報告を、情報提供をしてもらいたいということを言っています。

 それから第二番目に、女性がしている仕事の差別的な評価によって起こる直接、間接の差別、これはどうなっているのかということを聞いておりまして、労働基準法四条の適用について、百号条約の趣旨が生かされていないのではないか、これを立法化するようなことがあるのであれば、それをどのように考慮するのかも含めて報告するようにということであります。

 それから第三番目に、二〇〇六年の均等法の七条が間接差別について規定したけれども、これについて、例えばパートタイム労働それから有期、契約雇用、それからコース別人事の活用における間接的な賃金差別の事例を特定して、是正するためにとられたあらゆる措置について報告しろということを述べております。

 また、第四番目に、これは非常に注目すべきことだと思いますけれども、労働監督について、政府に対して、監督官が同一価値労働同一報酬原則の違反を特定して、そしてこれを是正させていくためにとる方法を示せ、そして、その実施に当たって、労働監督官に対してなされている訓練の性質であるとか規模を明らかにするようにということを求めているわけです。

 したがいまして、こういったことが、国際社会の中で日本の法制度の現状が問題になっているということにこたえて、しかるべく法改正が必要なのではないかということを言おうとしたわけです。

郡委員 ありがとうございました。

 国際的にも、均等待遇について法的にしっかりと明記をすることが必要であろうということを今おっしゃられたんだろうと思います。

 重ねて中野参考人にお話を聞かせていただきたいと思うんですけれども、包括的に短時間労働であることを理由とする差別を禁止して、パート労働者の低賃金や格差の合理性を一つ一つ問うことが可能な仕組み、これを確立することが不可欠であるというふうに先ほど陳述されたと思います。そして、その中で、個々具体的な職場ごとに勤務の実態に即して、有期の定めが格差の合理的な根拠になるのか、あるいは異動の範囲がどの程度であるかが待遇との関係で合理的な関連を持つのか、これをしっかりとさせるべきであるというようなお話でした。

 これは、我が党民主党案に対しての御評価をいただいているものだと思うんですけれども、どのようなケースの場合、どのように解決を図っていくのか、これを具体的に何か例示していただければと思うんですが。よろしくお願いいたします。

中野参考人 ありがとうございます。

 政府案ですと、努力義務とする部分と差別を禁止する部分と二段に分かれていて、その二段に分かれる壁を設定されておられるわけです。その壁が、仕事それから活用の範囲、それから有期の定めを置くかどうかということに分かれるわけですけれども、こういうことをすると、また新たな差別化が生じるということで、民主党案が、包括的にパートタイム労働であることを理由とする差別を禁止して、不合理な格差であるのかどうかということを一つ一つ問題にしていくというシステムにすれば、こういった問題というのは起こり得ないということでありまして、よりすぐれたシステムではないかと私は思っているわけです。

 そして、その場合の物差しとして、何が問題になり得るのかということで、政府案に即して考えてみますと、一つは、異動の範囲というのがあります。これは、私どもが具体的な事件の中で経験させられておりますケースからいきましても、異動を就業規則で義務づけている場合であっても、社員の中の何割か程度しか異動していない、当該事業所で具体的に個々を比較してみた場合には、これが到底その格差の合理的な根拠になり得るというものでもないだろうというふうに考えられる事例もあるわけでありまして、このようなケースについて、個々の事業場の実情に即して検討していくということが求められるのではないかというふうに思うわけです。

 それから、有期の定めにつきましても同じような問題がありまして、正社員で雇い入れたとしても短期にやめていくというケースが結構あるというような場合に、このような事業場において、先ほど申し上げたように、パートタイム労働者だけがどうして、長期の雇用を予定する、期間の定めのない雇用であることを要求されるのかということが問題になったりするわけです。

 時間もありませんけれども、こういったように、個々具体的な事業場だとか産業、種別に応じて実情がかなり大きく異なっておりますので、こういうものは格差の合理的な根拠ということで、佐藤参考人の方もおっしゃいましたけれども、具体的な場面でこれを検討していく、そして格差をなくしていくという方向で議論を進めるべきではないかと思います。

郡委員 ありがとうございます。

 続いて、佐藤参考人にお話を聞かせていただきたいと思うんですけれども、労働時間の長短による処遇の違いやそれから呼称による処遇の違い、これは合理的でない処遇差であるというふうに御説明をされました。解消すべきものであるというお話だったと思います。全く同感だと思うんです。

 そこで、通勤手当についてお尋ねをしたいと思うんですけれども、平成十七年度の調査では、精勤手当をパートに支給している事業所は一一%でございました。通勤手当の方は、八六・四%の事業所で支給をしております。通勤手当というのは、賃金のベース部分であろうかと思います。時間比例になじまないこのような手当などについて、業務の円滑な遂行のための福利厚生と同様に、時間の長短でその支給の有無に差を設けるべきではないというふうに考えるんですけれども、いかがでございましょうか。

 これは、雇用均等分科会で、使用者側の意見に若干の食い違いがあったように見られる場面もありましたけれども、議論があったこの通勤手当というのが、今回この改正案で均等処遇の対象から除かれてしまっていますけれども、これについてどうお考えになっているのか、お尋ねしたいと思います。

佐藤参考人 まず、差別的取り扱いの禁止に当てはまるようなパート社員についていえば、これはすべて、つまり、比較対象となる社員に適用されている労働条件については、そのパートと同じにしなさいということですので、当然、社員について通勤手当があれば、パートについても通勤手当があるということです。

 問題なのは、多分均衡のところです。ここについては、分科会でもいろいろ議論がありました。今回、基本的には職務関連の賃金について均衡をとる、それは均衡のあれによって違いますけれども、このとき、基本的に通勤手当をそこに入れるか入れないかという議論がありました。

 私は、法律で最低基準を定めるということであれば、パートについては、基本的には通勤可能な範囲から通う人が多くて、それを超えた場合は実態として通勤手当が払われているということがありますので、つまり、必要に応じて企業がやっているということもありますので、そこは職務関連のところから外して、法律上はそれは含まないという形に整理したというふうに私は理解しております。

郡委員 同じ点につきまして、中野参考人、それから中原参考人、お二方にお尋ねしたいと思います。

中野参考人 ありがとうございます。

 通勤手当は福利厚生だという、これは明確な賃金でありまして、仕事に関連して不可欠に発生するものでありますから、そういった性質からすると、除外するのは非常におかしい。しかも、低賃金労働であるパート労働者にとって、通勤手当が別途支給されるのかどうかというのはもう死活問題でありまして、大変な権利であります。こういったものを除外するということ自体は、何とか改善できないものかというふうに思っている次第です。これは慶弔休暇についても同じことです。

中原参考人 私の職場では、パート労働者にも通勤手当を支給されております。しかし、そもそも、事業所は東京都内なんですが、正社員は茨城とかかなり遠くからの通勤の方も雇用されているんですが、パート労働者の多くは、企業の側が交通費のことも考えまして、私もそうですが、自転車通勤で通える範囲の人を雇っているというのが実態ではないでしょうか。

郡委員 それから、これも私ども懸念する大きな点なんですけれども、有期の定めについて格差の合理的な根拠と考えるというふうなことに政府案はなっているわけですけれども、この点についての妥当性というんでしょうか、どのようにお考えになっているのか、中野参考人とそれから中原参考人にお話を伺いたいと思います。

中野参考人 大企業であるとか中堅企業の中には、人事ローテーションの中で積む経験によって能力を蓄えていくというような、そういう人材開発のシステムをお持ちの企業もあります。こういうところで積む能力、経験の違いというのが賃金に反映して合理的でしかるべきだという根拠があるのであればともかく、そういった根拠がないのであれば、やはり問題になり得るのだろうというふうに思います。

 問題は、長期の雇用が期待されるということ自体の中に、仕事の価値なりあるいは積む経験というものが異なって賃金に反映されるということが合理的かどうかということになりますと、私は、もう全然合理的ではないというふうに考えているわけです。先ほど佐藤参考人がお話になりましたように、長期のキャリアシステムの中で、異動によって積む経験を得る、そのことによって能力開発をして、そして現実に担当すべき仕事のレベルというものが上がっていくのだという場合には、その仕事に対応して格差をつけるということはあり得ることなんだろうというふうに思います。

 しかしながら、一般的に長期が見込まれるからとか、一般的にキャリアを開発するために幾つかの事業所を回ればそれだけのものが身につくはずであるとか、こういったことについては、やはり合理的な根拠があるのかどうかということを検証しなければならない。まさに、パート格差というのは、そういう中でついてきた格差とも言えるわけで、ここにメスを入れるために、職務の客観的な価値評価というものがきちんと確立される必要があるということを申し上げたかったわけです。

中原参考人 先ほども申し上げましたが、有期契約であるということは、パートにとってほとんどイコールなんですね。ですので、今回、有期契約であるということを差別禁止の対象にするということは、重ねて申し上げますが、どこにその対象者がいるのであろうかということになるかと思います。

 私どもの職場では、パート社員が組合員となりましてから、定期的に法に基づいて契約更新が行われるようになってきたんですが、それまでは、私の場合も五年も放置されたまま、契約の更新も何も言ってこないまま仕事を続けていた実態もございますし、例えば、私も所属しております均等待遇アクション21の調査では、大手百円ショップの、パートだけで運営しているショップの皆さんにお話を聞いたところ、契約更新は最初だけで、ずっと一度も行われていないという実態もあります。

 ですから、有期契約ということをハードルに設ければ、かえって、ただ機械的に契約を更新するという書類をつくって重ねていくということで、差別禁止の対象を逃れるということにつながりかねないんじゃないでしょうか。

郡委員 この有期ということ、パート労働が本来の意味での臨時的、一時的な仕事ということではなくなっているということなんだろうと思います。

 最後になりますけれども、佐藤参考人、呼称による処遇の差は合理的ではないという考え、全く同感でございますけれども、分科会でも労働側の委員から提起されました、いわゆる疑似パートでありますとかフルタイムパートの処遇に対して、どうあるべきだとお考えになっていらっしゃるでしょうか。そしてまた、今回のこの改正案はどのような効果があるとお考えになっていらっしゃるでしょうか。その点について、また中野参考人からもお答えいただきたいと思います。

佐藤参考人 疑似パートというものをどう定義するかですけれども、限りなくフルタイム、社員の方と時間が同じで、ほんのちょっと短い、だけれども名前がパートだという方たちのことだと思いますが、今回、社員の方の労働時間よりも少しでも短ければパート労働法の対象になります。そういう意味では、疑似パートの人たちも当然この均等、均衡の枠組みの中に入ります。多分、私は、従来疑似パートと言われていた人たちについては、これはすべてとは言いませんけれども、その中には、仕事も社員の方と同じで、人材活用の仕組みも同じで、結果として有期であっても事実上無期とみなし得る人はかなり多いと思います。そういう意味では、比率はわかりませんけれども、いわゆる差別的取り扱いの禁止に入る人は、かなりそこにはいるのではないかと思います。そういう意味では、疑似パートも含めて今回のパート労働法はカバーできるというふうに考えています。

 そして、先ほど何度もお話ししましたように、やはり私は、今回差別的取り扱い禁止のルールが入ったということは非常に大事だと思います、もちろん均衡もありますけれども。やはり事業主の方はそういう差別が起きないような形でパートの方の処遇を見直していくということが進んでいきます。ですから、これは一部だとかいう議論はありますけれども、基本的にはパートの方はすべて、いろいろな働き方の方を一つパートとして処遇しているわけですから、やはり全体としてパートの方の処遇の仕組みを見直していくということが進むと思います。

 そういう意味では、均等が入った、差別的取り扱い禁止が入った、均衡が入ったということは、やはりパートの方の処遇の改善あるいは合理的でない処遇差をなくしていく大きな要因になっていくのではないかというふうに理解しております。

中野参考人 ありがとうございます。

 政府案によれば、いわゆる疑似パートについては全く対象にならないというふうにお聞きしております。所定労働時間が同じである、そういう偽装されたパートタイム労働契約については対象にならないということですと、その効果に疑問があるというふうに思っておりましたが、もし、審議会で議論されました佐藤参考人が疑似パートも対象になると言うのであれば、ぜひその点は確認をしていただければというふうに思ったりするところです。

郡委員 ありがとうございました。時間が短くて、もっとたくさん伺いたいことがありましたのですが、そのほかの参考人の方々にも質問できませんで大変申しわけありません。

 ありがとうございました。

櫻田委員長 次に、高橋千鶴子君。

高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 きょうは、六人の参考人の皆さん、貴重なお時間を割いて本委員会に出席をいただきまして、貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。

 最初に、今田参考人にお伺いをしたいと思います。

 フルタイムは基幹的、専門的職務であり、パートは補助的、単純職務という従来の職務の分業が崩れて、パートタイム労働者の中にも基幹的業務についている人がふえてきている、このことについては多分異論がないと思います。というのは、そういう表現は実は今田参考人が書いたものから今引用させていただきました。こういう方たちを政府の言う均衡処遇へと引き上げるためにはどういう基準が必要と思うかについて伺いたいと思います。

今田参考人 引き上げるというよりも、パートに大きな変化が生じ、伝統的には、そうした単純と基幹の分業という形でフルタイムとパートの働きが制度化されてきたのが、徐々にパートの質的、量的拡大に伴ってその二つの分業が崩れて、二つが、パートとフルの仕事が重なってきている、そういう現状において今回のパートとフルタイムの均等処遇というものが提起されている、そういうふうな理解をしております。よろしいでしょうか。

高橋委員 失礼しました。では、引き上げるという表現は使いませんので。

 では、均衡処遇を実際にやるためにはどのような基準が必要だとお考えですか。

今田参考人 今言ったような形で融合している状態で、これまでのような形で全くクリアカットに、一方は、長期的な視点から企業内の賃金体系があって、それに基づいて処遇される、パートは、ある意味では時給で、地域の最低賃金を基礎にしながら賃金が決定される、そういう意味では完璧に処遇がクリアカットに別の体系であった、それをどうにか崩そうというのがこの案です。

 今回言ったような、法律で明記している、あるいはルール化したような多様なパートタイムについて、それなりのふさわしい処遇をするルールとして、今疑似パートのところで議論されたような拠点となる、私は出発点、起点と言ったんですけれども、全く同一とみなされる人、それを起点としながら、さまざまいるパートの人たちの実態について、それを分類とか格差とかという議論をしていますけれども、実際、我々がやった調査において、さまざまな人がいる中で、最もこの人たちの明確な分類というか差異、望ましい差異を明らかにする基準としては、納得いく基準としては職務というものがあったわけで、職務の同じ人、違う人、そういう軸を設けることによって、今言ったフルタイムとパートが融合しつつある現状で、多様なパートタイムの人たちに対する適切な物差し、そういうものをつくることが基本的にはパートタイムの処遇の改善につながると。

 引き上げるということがよくわからないんですけれども、つながる、そういうコンセプト、考え方というふうに御理解いただければというふうに思います。

高橋委員 実は、先ほど引用させていただきました今田参考人の御意見は、二〇〇四年の七月に「勤労よこはま」という冊子の中で紹介をされているんですけれども、多分いろいろな形で論文は寄せられていると思うんですけれども、その中で、権限と責任が同じならば同一職務とみなすべきだということをおっしゃっていられると思います。

 既に引用されていた、日本労働研究機構が平成十五年の八月に発表した「企業の人事戦略と労働者の就業意識に関する調査」、これを見ましても、パートではあるけれども残業をしているですとか、正社員の中の本当に固定的な労働をやる分野よりも、もっと専門的なものですとか、専門的な業務を維持するところがふえてきている、そういうことを踏まえた上での御提言だったのではないかなと思って、私自身は、そうであれば、職務が同じだという方をなるべく広く救済できるのが望ましいのではないかというふうに考えているということで、ここだけ質問すると時間がなくなりますので、それを踏まえてほかの方にも質問していきたいと思います。

 二つ目に、均衡のとれた処遇の確保のための基準ということがあるんですけれども、同様に、福利厚生などは本来差をつける必要がないのではないか。例えば、勤務時間が短い、本当に限られているという方に社宅は必要ないんじゃないかとか、そういうふうな話ではなくて、先ほど来お話が出ている、例えば慶弔見舞金などに対してなぜ差をつけるのかが理由がわからないわけです。これについて、今田参考人と井筒参考人に伺いたいと思います。

今田参考人 お答えさせていただきます。

 この審議にかかわってきた者として、政府案というものが現状においては適切である、特に、労使のいろいろな現状からくる意見、それを調整した結果としてこういう形になるというのは、私としては納得しました。

 ただし、いろいろなパートタイムの現状とか意見とかそういうことからいいますと、データで見てもわかるように、福利厚生とか慶弔については、企業によって進んでいるところもあればそうじゃないところもあるし、ルールとしてあって運用でやっているところもあるし、特に慶弔なんかについては、正社員とパートの人たちとの間の差別意識を、何か、かなり強烈に明確化する。フルタイムの人はそういう慶弔金が支給されるのにパートタイムの人たちは支給されない、そういう現実を知るときに、賃金とかその他の処遇よりも、そういう部分において非常に差別意識とかそういうものを感じるとかいうデータもあります。

 さらに、例えば福利厚生の食堂みたいなものについて利用できるできない、それは日常的なことなので、そこで、例えばフルタイムの人は食堂が利用できるのにパートタイムの人が利用できないというようなことがあったときに、また差別意識があるということで、そういう意味からいえば、企業の実態として可能ならば、そういうものを平等にしていくということが望ましいというのは、いろいろなデータからいって私はそういうふうに思います。

 ただし、法律としてこういうルールをつくるときに、大きなルールの一つとして明記するべきなのか、そういうのはやはり労使の話し合いの中で決めていくものなのか、そういう判断も一方でありまして、企業、使用者サイドのかなり厳しいアピールというようなものによって、今回の法律をつくる上で、現状においては、これは労使の間で話し合いのルールとしてするべきものとして、二以下のところに関しては、慶弔とか福利厚生に関しては明記されなかった、そういうことで一応私は納得しております。今後の課題であるというふうにも思います。

井筒参考人 今回の法改正で福利厚生のところで、給食施設と更衣室などを正社員と同じように使えるのは、いわゆる正社員と同視すべきパート、差別的取り扱いを禁止されている部分のパートタイマーであって、その他の部分は配慮義務ということになっております。私もやはり、なぜわざわざこのように区別をするのかということについては非常に理解に苦しみます。福利厚生の中に慶弔が含まれていないということも問題だというふうに思います。

 中野参考人からのお話にもありましたように、私たちがよく聞きますのは、パート労働者が日々仕事をしていて差別感を非常に感じるときというのは、家族が亡くなったりしたときに、慶弔休暇が正規にはあるのにパートにはない、慶弔金が出ないという問題なんです。私たちも、家族を亡くした悲しみは正規もパートも関係ないということで、よく企業に、この改善運動は取り組んできました。パートの賃金を引き上げるということについてはなかなか進まないわけですけれども、しかし、慶弔だとかそういった福利厚生の部分では、事業主も日々努力をして、少しずつ改善をかち取ってきています。

 しかし、今回法律で、こういう形で区別をして明記されるということについては非常に問題だというふうに思っています。同じ職場で働く労働者間にこういった部分での差別があってはならないと思っていますし、ましてや法律にこのことを持ち込むことはあってはならないと思いますので、ぜひ修正をしていただきたいと思っております。

高橋委員 ありがとうございました。

 次に、佐藤参考人に伺いたいと思うんですけれども、きょうお配りいただきましたコメントの資料の中で、ちょっと飛ばしたところなんですけれども、「差別的取り扱いの禁止(均等)」というところで、「基準が適切であるならば、その対象となる層が少ないことは望ましいこととなる」という御意見をされております。

 実は、この問題について私が厚労省の担当課とやりとりをしたときに、差別禁止の対象となるのは、言ってみれば公序良俗に当たるおそれがあるので、余り多くないのが望ましい、実態がもしそうであれば非常に問題だというふうな説明をされていたわけです。逆に言うと、それが放置されてきたとすれば、また重大であるということになると思うんですね。私は、現状が本当に差別禁止の対象に当たる事例が少ないというのであれば望ましいかもしれないけれども、逆にそれが対象を絞り込むための基準となっていないのか、それが適切と言えるだろうかということに危惧を持っているわけです。

 例えば、佐藤参考人が例に挙げた合理的でない処遇差として、労働時間の長短によるものというのを一つだけ例示されております。そうすると、そもそもパート労働法は、第二条において、短時間労働者というのは、通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短い労働者というふうに規定されていて、短いのが当たり前というか、そこから出発をして、今、均衡処遇の議論をしているわけですから、それしか例示がないというのであれば、合理的でない処遇差というのはほとんどないという認識になってしまうわけですね。それでは議論が始まらないと私は思うんです。その点について佐藤参考人の御意見を伺って、同じことを中野参考人にぜひ伺いたいと思います。

佐藤参考人 御質問を十分に理解できているかどうかわかりませんけれども、私が理解した範囲内でお答えさせていただきます。

 まず、後半の労働時間の長短によるもの、これは合理的でない処遇差ということですけれども、本来、パート労働法は、基本的には、通常の労働者、正社員よりも労働時間が短い、この人たちの処遇の改善ということを意図した法律であります。

 なぜこういう法律ができたかといいますと、やはり、労働時間が短いから処遇はほどほどでもよいというような考え方が結構あった。これを変えていこう。時間が短くても、例えば今回の差別的禁止というようなこと、あるいは均衡というふうに入りましたけれども、どういう仕事をしているのか、その仕事でどういう貢献をしているのかということをちゃんと評価し、もちろん、それに差があって処遇差がある、これは合理的でありますけれども、時間が短いということをもってして処遇差をつけるのは合理的でないという趣旨であります。ですから、もともとパート労働法というのはそういうものだというふうに私は理解しております。

 あと前半の、今回、パート労働法の審議、雇用均等分科会で行ったわけでありますけれども、私の理解では、初めから適用対象層の範囲が狭くなるような基準を設けたというふうには考えておりません。先ほどお話ししましたように、パートの方は短時間で働いているわけですけれども、でも、基幹化、社員と同じような仕事をしたり社員と同じような能力を持った人、企業にとって大事な仕事をしている人が出てきたわけであります。その人たちの働きがちゃんと評価されるような仕組みにしていく。そのときに、やはり合理的でない処遇差あるいは合理的な処遇差というものをきちっと分けていこう。そういうものを整理する中で、今回合意できた一つの、均等、差別的禁止の基準がこういうものであった。

 結果としてどのくらいの対象層になるか、先ほど私はわかりませんというお話をしましたけれども、これはマスコミ等々で、その範囲が狭いのが問題だという議論があるので、私は、もし本当に狭いのであれば、差別がないということでありますから、それは望ましいのではないかというふうに書かせていただいた。私は、多い少ないはわかりませんというふうに言っているつもりです。

中野参考人 ありがとうございます。

 まず、先ほどの慶弔休暇等に見られるように、この場合の格差というのは、単に経済的にカウントできるというものではなくて、人格的な基礎における差別というものも含んでいるわけです。そういうものが土台となって、パート差別というものが経済的な分野も含めて形成されている。

 何が合理的な差別であるのかということを可視化させていくプロセスと、それから、そういった可視化させた不合理な差別というのを取り除いていく手法というものを確立しなければ、何が合理的でないのか、そして取り除いていかなければならないのかという認識はなかなか形成されないのではないかというふうに思います。そういった意味では、今のこの議論の到達点をもとにして、なくしていかなければならない差別というのは既に多くは解消されているのだという議論は、全くナンセンスであるというふうに考えるわけです。

 したがいまして、法の原則というものに立てば、やはりパートであるがゆえの差別を取り除いていくということに加えて、そこに格差があるのであれば、何がそれを規定しているのか、その原因を究明して、そして不合理なものは解消していく、そういうシステムを一日も早く確立していくべきだ、そういうふうに思います。

高橋委員 ありがとうございました。

 せっかくですので、同じ質問を井筒参考人と中原参考人にも伺いたいと思います。

 井筒参考人は、独自調査の結果について御報告をいただきました。パート労働が今や生計の柱になっているという労働者が非常に多くなっている、あるいはダブルワークだとか、夫も非正規だ、そういうふうなデータに対しては、非常に興味深いものではないかと思っております。かつての補助的労働ではなくなっているんだ、パートでありながら正社員並みに残業あるいはふろしき残業までやっている、勤務経験も長く、職場に頼りにされている、そういうふうな声が非常に聞かれるわけですし、先ほどの中原参考人の意見などもそうしたことを裏づけているものではないかと思います。

 そういう意味で、合理的でない処遇差というのは実はかなりあるんだ、そういうことをどう考えるか。そしてその上で、すべてのパート労働者に差別禁止措置を広げる上で、その根拠となるものについてどう考えるのか、伺いたいと思います。

井筒参考人 合理的でない処遇差というのは、本当にパート労働者の働く上で日々感じていることだというふうに思います。

 私たちが均等待遇を目指すときに、同じ仕事、同一、類似の仕事をする場合には時間当たりの賃金は同じ、そのほかの労働条件も労働時間に比例して付与されるというILO百七十五号条約の考え方をやはり基本に考えるべきだと思います。

 賃金構造が日本とヨーロッパでは違うので非常に難しい問題もありますし、民主党の案のように非常に挑戦的な、これから研究課題として大切にしていきたいと思うような提案もありますし、パートの均等待遇実現というのは、まさに一丸となってそういうシステムをつくり上げていくことが今から非常に望まれていると思います。

 当面、目の前にあるさまざまな、パートであるがゆえに余りにも低い賃金、労働条件、これをまず底上げをし、全体を引き上げていくこと、このことに着手をし、そして、パートという働き方による差別そのものをなくすという根本的な考え方をやはり法の精神の中にしっかりと位置づけていただきたいと思っております。

 以上です。

中原参考人 いろいろ難しいことはわからないんですが、合理的かどうかと言われて、私たちは、パートであるということであらゆる差別を受けております。それが合理的かどうか、パートというだけで差別をされている私たちに聞かれても困るんですが、何というのかな、実効ある法律が必要です。それだけです。

高橋委員 どうもありがとうございました。

 時間が来ましたので、松井参考人に伺うことができませんでした。御了承ください。

櫻田委員長 次に、阿部知子君。

阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 本日は、六人の参考人の皆さんには貴重な御意見、ありがとうございます。

 私は、特に私どもがお願いした中原参考人に、実は、このパート労働法の審議のさなかでも私は実感いたしますが、果たしてどれくらいパート労働の皆さんの実態を踏まえて国会での審議ということが行われておるのか。その点で非常に懸念されましたので、実は、せんだっての委員会でも、中原参考人たちがおつくりになった資料も配付させていただき、御紹介ありましたように、柳澤厚生労働大臣は、こういう方たちがこのパート労働法の適用なんだから、しっかりと取り組まねばならないという御所見でありました。

 さらに加えて、私は、きょう伺っておりまして、例えば雇用契約期間、有期契約の問題でも、中原参考人のお話の中に、労働組合をつくられて以降、契約がある意味ではスムーズに進むようになったというお話もあったと思うんですね。逆に言うと、では、今、パートの方たち、組合もない場合も多いですし、その点は後ほどまた中野参考人にも伺いたいですが、中原さんのところでは組合をつくられて、この契約期間の問題、並びに、先ほど賃金の賃上げも、例えばDTP課の方は十五年間で四十五円の賃上げということでありました。

 では、例えば組合をつくってあったとした場合、こういう賃上げ問題にどう取り組んでこられたか、このあたりの実態も少しお話しください。

中原参考人 ありがとうございます。

 労働組合、私どものところはパートと正社員が同じ組合で活動しておりますので、当初はなかなか意思の疎通も難しいところもありましたけれども、きょうも傍聴されているパート組合員がおりますけれども、要するに、同じ生産ラインの中で助け合いながら仕事をしているわけですので、当然、理不尽な労働条件を正社員の組合員が理解していく中で、随分とパートに対する待遇改善の具体化が進んではきております。

 ただし、例えば労働組合がないところでも、パート、非正規に対する均等待遇はあるんですね。その均等待遇は何かというと、賃下げと首切りのときなんです。賃下げと首切りのときは、均等待遇というよりも、正社員を首にするわけにはいかないから、パートのあなたにやめてほしい、そういうふうに言われたといって駆け込んできたパートの仲間がおります。

 契約更新を十年も十五年も繰り返していても、次の更新があるのかどうか、とても不安がっておりますが、そういう中で、労働組合に加入して、例えば労災保険、労災、職業病になったときに、そのまま泣き寝入りをして契約更新がなされないケースも多々あったようなんですが、最近は、労災申請をしながら休職して、きょう労働基準監督官が私たちの職場に調査に入っているというパート組合員の取り組みもございます。その方は、多分組合に入っていなければそのまま泣き寝入りをして、契約更新をされないままやめざるを得なかったケースだと思います。

 とりあえず、そのぐらいで答えとしておきます。

阿部(知)委員 組合をつくり、事業主側と交渉するなどなどで現実にはかち取られていく身分や契約や賃金の問題が根本には非常に大きく横たわっていて、一口にパート労働者といっても、困難の度合いというのは、私は非常に深刻なんじゃないかと思って参考人のお話も伺いました。

 中野参考人に、恐らく今後の法律の中でも事業主に対して努力規定等々が課せられるということになってまいると思うのですが、実効性はどうか、いろいろな判例にも携わられて、果たして今回の法改正は本当に有効に働くであろうかという点についてお願いいたします。

中野参考人 ありがとうございます。

 司法的な効果、司法というのは、要するに裁判で争いにした場合に、その努力義務規定の法的な効果はどうかということをめぐりましては非常にネガティブな裁判例も出ておりますので、私どもはクエスチョンマークです。ただ、現場の取り組みとして、やはりそれを促進させるようなシステム化というのが不可欠だというふうに思っております。

 先ほどの労働組合の例もそうですけれども、やはりこのパートの均等待遇あるいは差別をなくしていくという課題は、人権の問題でもあり、職場における信頼の問題でもあります。そして、格差を解消していくというのは、言ってみれば、使用者側にとっても生産性を上げていくという課題にもつながることでありますし、労使が一致して取り組んでいくべき課題ではないのかというふうに思っております。

 そういった意味では、使用者側の説明義務というのは不可欠なものでありまして、そこに格差があったときに、なぜこの格差というものをつけなければいけないのか、その理由を明らかにするというのは、労使間における、これは労働組合があってもなくても貫かれなければならない信頼に基づく原則による説明義務だと思います。そして、その説明義務を尽くせないということになれば、それはやはり不合理な格差ということにならざるを得ないのでありまして、それをどういうふうになくしていくのかということになるんだろうと思います。

 その場合に、努力義務ということによってどのようなレベルで行政権限が発動されて実効あるものとしてこれが機能するのかということについては未知数だというふうに思います。そういった意味で、日本の法制度全体が不十分な課題を抱えておりまして、これを補充していくという作業が不可欠だというふうに思っております。

阿部(知)委員 佐藤参考人にお伺いいたしますが、その差別が合理的か不合理かをだれが判断するかというところが私はやはり非常に大きいと佐藤参考人のお話を伺いながら考えたわけです。

 民主党の皆さんの御提案の場合は、各職場に検討委員会等々を設けて、合理性についてもさらに職場内のいろいろな意見を交わしながらつくり上げていくというふうなものだと私は理解しておりますが、さて、佐藤参考人にあっては、その合理性をだれが判断するのか。そして、その場合に、ある意味で、先週の委員会では事業主の側が合理性を判断するというような御意見があったんですが、それでは圧倒的に労使の力関係の差があった場合に本当にうまくいくのであろうかというところがございまして、佐藤参考人はどうお考えであるのか、お願いいたします。

佐藤参考人 まずは均等のところでございますけれども、差別的取り扱いについて、基本的にはこの政府提案については基準が定められている。ですから、議論するまでに基準は与えられているわけですから、判断しやすい。これが一つです。

 その上で、しかし、その事業主が、こういう法律に定められた基準に則してこれは合理的だ、あるいはパートは合理的でないというふうに一致できない場合、これは紛争処理の仕組みに移行する。もちろん、組合があれば組合がかかわるんだと思いますけれども。その後は、最終的には裁判ということになるだろうというふうに思います。

 大事なのは、差別的取り扱い禁止ということを一般的にうたうのではなく、その基準が示されているという点で非常に重要だろうというふうに思います。

阿部(知)委員 私の懸念しておりますのは、今の参考人の御意見を伺った上でも、今、例えば職務と人材活用と有期、定めのない期間の雇用とみなされるという三つを基準とおっしゃったのだと思いますが、そこでもまたやはり判断に差が出るんだ、それが現実なんだろうと思うんですね。

 中原参考人のお話では、期間の定めをきちんと労と使の側でつくっていくためにも組合があったということで一歩前進しているとは思いますが、でも、現実には、そこの基準を使側、事業主側がつくって事業主側が判断したのでは、やはり同じようになるのではないかという懸念なのであります。

 中野参考人も御指摘でありましたが、では、今、日本の労働基準監督行政の中に、そうしたことを一緒に連動して相談を受けたり、是正したり、アドバイスしたりしていく機能が十分であるとお考えか否か、これは中野さんと、恐れ入りますが、もう一度佐藤参考人にお伺いいたします。

中野参考人 格差についての主張立証責任といいますか説明責任というものを使用者が尽くさないとか、あるいはその説明が非常に不合理である、私の考えは、政府案が示している三つの基準自体が不合理だというふうに思っているんですけれども、それ自体が実態に即してどう判断されていくのかというその判断の受け皿というのは現行ではないわけです。

 これを効果的に実行していくためには、やはり専門家集団がきちんとこれにコミットしなければいけないということだと思うんですね。ILOも、佐藤参考人も強調されていましたけれども、同一価値労働という考え方とか、職務を基準に置いて格差の合理性を判断していく、これは私は全く同感であるわけですが、そういった判断をする素材を一線の職員が与えられていない。

 こういう教育というものが実施されているかどうかということが非常に大きな問題になりますし、また、そういったところに財政が投下されているかどうかということ、人材を拡充していくということと、そのための財政をどう投下するのかということも非常に大きな問題だというふうに思います。

佐藤参考人 今回の法律全体として、職務が同じかどうかというのがベースになるわけです。差別的取り扱い禁止についてはそれに幾つかの条件が加わっているわけでありますけれども、まず、政府提案については、差別的取り扱い禁止、何度も言いますように、一般論ではなくて具体的な基準を示しているということです。ただし、その基準があっても、同一職務かどうかについて議論が分かれることを私は否定しません。それについては、恐らく指針で職務の判断についてのものが出るのではないかというふうに私は理解しております。

 そういうものを通じて、事業主も、差別的取り扱いあるいはそれに当たるもの、均衡、どう取り組めばについての法律プラス指針という形で、より取り組みやすくなりますし、パート労働者自身、あるいは労働組合なら労働組合も、事業主にどういう要求をしていけばいいのかというものがより明確になるのではないかというふうに考えております。

阿部(知)委員 では、最後に中原参考人にお伺いいたします。

 今、厚生労働行政の中でいろいろな指針、ガイドライン等々がつくられることが少しなりともいい方向になるのではないかというお話でありましたが、以前に中原参考人から、特に雇いどめ問題に関して、この間、厚生労働省はいろいろなパンフレットなり指針なりで現場にメッセージを送っていると思うのですが、パートで働く側の皆さんから見てどのようにお感じであるか、これを最後にお願いいたします。

中原参考人 私たちは、厚生労働省の作成しているパートに関するパンフレットをずっととっておいております。最近、ここ数年、特にパートが激増してきている中で、非正規雇用がふえていく中で、こういうふうにすれば雇いどめができるというハウツーのパンフレットのように私たちには見えます。とても腹立たしく思います。パート労働者のためのパンフレットではないんですよ、その中身の実態は。私の職場の経営者に見せられるものでもないです。隠しています。

 要するに、私の職場でも大いに問題になったんですが、例えばパートに定年があるかないかということですね。パートに定年があるのかないか就業規則にも契約にもないのに、契約の途中六十歳ということで雇いどめで、あしたから来るなと言われた労働者がおりまして、ちょっと争議になりました。そういうことにつきましても、こういうふうにやれば雇いどめができますよということを教えるようなパンフレットを作成するのはやめてもらいたいと思います。

阿部(知)委員 厳しい御指摘でありました。職務についても人材活用についてもまた雇いどめの問題に関しましても、やはり現場サイドの声がきっちりと反映される厚生労働行政並びにその結果できるガイドラインでなければ、非常に、かえって明示された要件によって差別が深刻になるという懸念を私も抱いております。

 現状、日本で一千二百万人のパートでございます。一九九三年、パート労働法が始まったときには八百万人でありました。ふえる一方のパートが、さらに身分が差別的に固定されていくということにもなりかねない事態があると思いますので、さらに慎重な審議、深めてまいりたいと思います。

 本日はどうもありがとうございました。

櫻田委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 本日は、六人の参考人の方々には大変御多忙の中御出席いただきまして、また大変貴重な御意見、ありがとうございます。私も二十分の持ち時間で質問をさせていただきたいと思います。

 このパート労働法が施行されましてから十三年が経過したわけでございます。その間、短時間労働者数というのは大幅に増加しております。今日では、雇用者全体の二二・五%に当たる約一千二百万人もの方が短時間労働者として働いていらっしゃるわけでございます。

 この間、短時間労働者をめぐる状況というのも非常に大きく変化しておりまして、就業期間が延びるとともに、その時間も、簡易なものであったり補助的なものだけではなくて、基幹的なものや専門的なもの、それから高度な仕事につかれる、こういう方も増加しておるわけでございまして、活躍の場も拡大はしているというふうに感じます。今や、短時間労働者の方々というのは日本経済にとってはなくてはならない存在になっているというふうにも感じるわけでございます。

 ただ、しかしながら、同じ仕事をしていながら、短時間労働者と通常の労働者が、つまり正社員でございますけれども、賃金等を中心とした待遇において実際には格差が生じてしまっている、これを働きに見合った待遇に改善する、こういうことが必要だということで、これを求められているわけでございます。特に我が国は人口減少社会に入っておりまして、今後、労働力の担い手として短時間労働者の方に活躍していただく必要があるわけでございますから、このことは早急に解決しなければならないというふうに考えております。

 そこで、松井参考人そして佐藤参考人、今田参考人にお尋ねいたします。

 短時間労働者は近年大幅に増加しておるわけでございます。女性がそのうちの約七割を占めておるわけでございますが、最近では男性ですとか若年者、若者にも非常に増加しているというふうに聞いております。さらに、ことしからは団塊の世代が定年を迎えておりまして、短時間での就業を希望する人というのが増加するというふうに考えられます。こういった状況にありまして、今後、短時間労働者が希望する就業条件、これは一層多様なものになるというふうに思いますが、短時間労働者の活用の将来あるべき像というのでしょうか、について御見解をお伺いしたいと思います。

松井参考人 御質問、ありがとうございます。

 今先生が御指摘されましたように、パートタイム労働者をより有効活用していくことは日本全体として大変重要だと私どもも認識しております。特に、今後高齢者のパートタイム労働者もふえるでしょうし、女性だけでなく、こういう働き方を選択する人が増加するというのは先生の御指摘のとおりだと考えております。

 今後そういう方々についてどのような方向性を持つべきかという御質問と理解いたしましたが、私どもといたしましては、まず、今回改正案という形で上程されておりますパートタイム労働法を着実に施行、運用していくことによりまして、事業主側がきちっとした形での処遇を説明責任を持って対応していくことが大変重要だと思っております。

 しかしながら、説明責任といいましても、正社員も含めて説明ができる必要があろうかと思いますので、これは一言で言うのは易しいことでありますが、現実に実行するのは大変難しいものと理解しております。そういう点で、先生方には、今後の議論に当たっては、企業が着実に実行できる方向性をぜひ御議論賜れればと考えておる次第です。

 ありがとうございました。

佐藤参考人 先生の御指摘のとおり、これから日本の企業が人材活用していく上で、時間の長短あるいは、私、正規、非正規という言い方は嫌いですけれども、有期であるか無期であるかということに関係なく、やはりそれぞれの方の仕事や貢献に応じて処遇していくということはすごく大事だと思います。そういう意味では、今回のパート労働法改正というのは、一部、ちゃんとわかっている事業主さんの方はもう既に取り組んでいらっしゃるわけでありますけれども、そういう必要性を広く日本の企業に取り組んでいただくという点では非常に有益なものではないかというふうに思います。

 基本的に、やはり仕事や貢献に応じて処遇していくということが大事だと思います。ただし、そのためには社員の方の処遇も見直していくことが実は大事でありまして、今は過渡期でありまして、社員の方の処遇もここ十年ぐらいかなり大きく変わってきましたけれども、まだまだやはり日本の社員の賃金は、職務にかかわる部分ともう一つは生活保障のものがくっついているわけですね。先ほどいろいろ御議論もありましたけれども、例えば配偶者手当とか住宅についての手当、これをどうするかということであります。

 今回の審議会の中でも、かなり職務に関連して整理して均等なり均衡で議論したというのは、これは委員によって意見は違うと思いますけれども、やはりこれから社員も含めて職務や働き方に応じて処遇していく、そういうことを前提にすると、そういう意味では、社員の処遇の仕組みが変わってくるということを見通しながら、そういう考え方で均等なり均衡を整理したというふうに私は理解しております。

今田参考人 今後のあるべき姿についてということなんですが、恐らくこの十年、非常に不景気の中でパートタイムというのは拡大をしてきたというのがあろうと思います。この中で、雇用の多様化がどんどん推し進められ、それを推し進めてきたものというのは、恐らく、かなり経営側の経済的な合理性の観点からの多様化というものの流れに引きずられながら、労働界、雇用の世界はどんどん多様化を進めている。

 その結果、今言ったような多様な労働市場ができ上がったんですけれども、そこで問題になるのは、この多様化が推し進められたときに、同時に、多様化というのはいろいろな働き方が出てくるわけで、生まれるわけですから、やはりそうした多様な働き方についてのふさわしい処遇なり、働き方についてのルールなりを、同時進行で、多様化の進行と同時にルールの形成ということをやるべきであったんだろう。現実は、かなりその部分が残されてしまった。

 その結果として、今回、そういう意味では多様化というのはパートの部分だけじゃないですけれども、パートについてこうした均衡の議論ができて、国会でこういうふうに先生方が議論して法律をつくるところまできているというのは非常に喜ばしいことであると同時に、遅いぐらいなんじゃないか。この多様化のすさまじい進行の中でこうした均衡の議論はかなり確実にやっていかなきゃいけない。

 今後のあるべき姿ということになると、さらに多様化の速度は増していくわけですから、さまざまな働き方が、そうした多様化と同時的に、そうした多様な働き方についてのふさわしい均衡な処遇はどうあるべきかということ。これは、恐らく働いている人だけの問題ではなくて、企業にとってもこうした多様な雇用管理をどのようにルール化していくかというのは大きな問題になるわけですから、決して消極的にはならない課題で、パートタイム、非正規の戦力化、戦略化というのは企業の今後にとってクリティカルな重要な要件になる。

 そういう意味で、あるべき姿ということになりますと、多様化の正しい進行と、そのため、背中合わせとして重要な、均衡とか均等、言葉はちょっとあれなんですけれども、均等な処遇、労働条件の整備とか、それが両輪で進んでいくというのをあるべき姿として私は考えます。

 以上です。

糸川委員 ありがとうございます。

 では、井筒参考人にお尋ねしますが、春闘のシーズンももう山場を越えたようでございまして、ことしの春闘は景気回復の流れを受けまして一層の熱気が感じられたところでもあるわけでございます。特に短時間労働者と非正規労働者の処遇、そして待遇の改善も前面に出した特徴のある春闘にもなったんではないかなというふうにも感じました。

 そこで、今後の短時間労働者の待遇改善要求の考え方、それからまた労働組合の活動への短時間労働者の参加を目指す上での問題についてお聞かせいただければというふうに思います。

井筒参考人 ありがとうございます。

 ことしは、おっしゃるとおり、短時間労働者、パート労働者の待遇改善ということが労働組合にとっても非常に重要な課題になっております。中小民間のところはまだ出始めたところですから、まだまだ終わっておりません、春闘は終わっておりませんけれども、まだ二十円だとか十円だとかの時間給引き上げの回答ということで、中には、本当に刻苦奮闘して、時間給千円にまで到達をした、二百円引き上げたというようなところも聞こえてはきます。しかし、全体的にはまだまだであります。

 労働組合として、これだけ多くの非正規雇用労働者が今存在をしているわけですが、しかし、まだまだ労働組合に非正規労働者の組織をしていくというところの組織率は四%程度ということで、非常に低いわけであります。そういう点では、労働組合そのものが、みずからの職場の中に抱えている非正規雇用労働者のことは当然でありますけれども、地域、日本国じゅうの非正規労働者全体の労働条件を改善できるような闘いをやはりやるべきであるということで、これは私たち全労連も当然のことで頑張っておりますけれども、連合さんも非常に奮闘されているというふうに思います。

 そういう意味では、労働界が今一致して非正規雇用労働者の労働条件全体を引き上げて改善をしていく、このことが今の労働組合に求められている重要な課題であるというところでは、認識は一致しているというふうに思っております。

 しかし、使用者との関係、力関係ということもありますので、これはなかなかそういうふうにスムーズにいくわけではありません。しかし、この数年間、パート、臨時労働者をめぐるさまざまな労働条件改善の問題、均等待遇の問題、最低賃金の引き上げの問題、そういった問題が、一転、社会の中で公然とそういう問題が議論されるようになってきた。今回のパート法の改正の議論も、そういう意味では意味があるというふうに思っております。

 そういう情勢の変化というものを確かに労働組合もきちっと受けとめて、その取り組みをやり出しているんではないかと思います。しかし、まだまだ、これが十分かと言われれば、私たちパートの運動に携わっている者としては、もっと頑張っていただきたい、正規労働組合には頑張っていただきたいと思うところもありますけれども、しかしそれが変わりつつある、動きつつあるということが今の実感であります。

 以上でございます。

糸川委員 ありがとうございます。

 もう時間もありませんので、最後に一問、三人の方に聞いて終わりたいと思うんですが、これは松井参考人、中野参考人、中原参考人にお尋ねしたいと思います。

 今、短時間労働者の中には、税、社会保険料負担、そして家族手当などの関係から、所得金額によって就業時間ですとか期間に制約を受けて、四割の方が就業調整を行わなければならないという状況にあるわけでございますが、そういう方の中には、待遇の改善は歓迎するものの、みずから就業調整を行わなければならないことから、同僚や会社に気遣いしながら働かざるを得ない、こういうような実態も聞かれるところでございます。

 こうした就業調整を行わないで働くための、あるべき税そして社会保険料負担などについて、御見解をお伺いしたいなというふうに思います。

松井参考人 結論から申し上げますと、これは非常に難しい問題だと理解をしております。

 まず、税の問題について手をつけるとするならば、これはいわゆるサラリーマン全体にかかってくるさまざまな控除をどのように取り扱っていくかということになろうかと思います。

 もう一つありますのは、社会保険料の問題については、特に現行の厚生年金の三号被保険者の取り扱いをどのように変えていくかによってまた結論が変わってくると思います。いわゆる、働くか働かないかに中立に変えていくという場合には、今の点をどれだけドラスチックに変えていかれるか、そしてそれが日本の社会にうまく受け入れられるかという点が十分議論された上でないと、簡単に変えていくことは難しいと私は考えております。

 以上です。

中野参考人 ありがとうございます。

 まずは、働いて報われる仕事、雇用をこの社会がどれだけ提供できるかということが先決であって、現状のような自立して生きていけないという非常に深刻な低賃金の中で、課税最低限を引き下げ、そして社会保険の加入の要件を引き下げて保険料負担を増額していくというのは、逆な社会政策だというふうに思います。それらをトータルで追求していくということが不可欠だと思います。

中原参考人 私の職場では、正社員もパートも半減しております。そういう中で、就業調整をしているから低賃金なんだと団体交渉で答えていた会社側でしたが、そういう対象となるパートは既にいなくなっております。就業調整をしながら働けるパート労働者は、まだその家庭が、夫がある程度収入があったりとか、余裕があると私たちからは見えるほどの実態だと思います。

 その実態は、就業調整をすることを考えるよりも、一日でも多く、一時間でも多く働きたい、実際に短時間として四時間の職場で三つもかけ持ちして働いている人たちも、私がかけ持ちで働いていたとき以上に当たり前のようにふえております。

 私自身、住民税は数百円払っていますが、所得税は私の賃金ではゼロです。所得税を払える賃金をいただきたい、そういうふうにいつも考えております。

糸川委員 大変参考になりました。短時間でございましたので、まだまだ質問したかったんですけれども、これで質問を終わります。今後の参考にさせていただきます。

 ありがとうございました。終わります。

櫻田委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。

 参考人の方々には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。

 次回は、明十一日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時三十三分散会


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