衆議院

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第7号 平成20年4月16日(水曜日)

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平成二十年四月十六日(水曜日)

    午前九時開議

 出席委員

   委員長 茂木 敏充君

   理事 大村 秀章君 理事 後藤 茂之君

   理事 田村 憲久君 理事 宮澤 洋一君

   理事 吉野 正芳君 理事 山田 正彦君

   理事 山井 和則君 理事 福島  豊君

      阿部 俊子君    新井 悦二君

      井澤 京子君    井上 信治君

      大塚  拓君    川条 志嘉君

      木原 誠二君    木村 義雄君

      清水鴻一郎君    杉村 太蔵君

      高鳥 修一君    谷畑  孝君

      冨岡  勉君    西本 勝子君

      萩原 誠司君    林   潤君

      福岡 資麿君    松浪 健太君

      松本  純君    松本 洋平君

      三ッ林隆志君    内山  晃君

      岡本 充功君    菊田真紀子君

      郡  和子君    園田 康博君

      長妻  昭君    細川 律夫君

      三井 辨雄君    柚木 道義君

      伊藤  渉君    古屋 範子君

      高橋千鶴子君    阿部 知子君

      糸川 正晃君

    …………………………………

   厚生労働大臣政務官    伊藤  渉君

   厚生労働大臣政務官    松浪 健太君

   参考人

   (学習院大学経済学部教授)            遠藤 久夫君

   参考人

   (NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長)

   (評論家)        樋口 恵子君

   参考人

   (日本社会事業大学教授) 村川 浩一君

   参考人

   (全国福祉保育労働組合中央本部書記次長)     清水 俊朗君

   厚生労働委員会専門員   榊原 志俊君

    ―――――――――――――

委員の異動

四月十六日

 辞任         補欠選任

  石崎  岳君     阿部 俊子君

  櫻田 義孝君     大塚  拓君

同日

 辞任         補欠選任

  阿部 俊子君     石崎  岳君

  大塚  拓君     櫻田 義孝君

    ―――――――――――――

四月十四日

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律及び検疫法の一部を改正する法律案(内閣提出第三二号)

同日

 パーキンソン病患者のQOL(生活の質)向上に関する請願(林田彪君紹介)(第一五七五号)

 同(小坂憲次君紹介)(第一七六五号)

 地域医療を守り、国立病院の存続・拡充を求めることに関する請願(木原稔君紹介)(第一五七六号)

 同(松本大輔君紹介)(第一五七七号)

 同(阿部知子君紹介)(第一八六一号)

 同(石井郁子君紹介)(第一八六二号)

 腎疾患総合対策の早期確立に関する請願(泉健太君紹介)(第一五七八号)

 同(糸川正晃君紹介)(第一五七九号)

 同(加藤紘一君紹介)(第一五八〇号)

 同(後藤茂之君紹介)(第一五八一号)

 同(河野太郎君紹介)(第一五八二号)

 同(近藤基彦君紹介)(第一五八三号)

 同(坂本哲志君紹介)(第一五八四号)

 同(仙谷由人君紹介)(第一五八五号)

 同(高木美智代君紹介)(第一五八六号)

 同(土井亨君紹介)(第一五八七号)

 同(野田聖子君紹介)(第一五八八号)

 同(広津素子君紹介)(第一五八九号)

 同(船田元君紹介)(第一五九〇号)

 同(松本大輔君紹介)(第一五九一号)

 同(山井和則君紹介)(第一五九二号)

 同(赤松広隆君紹介)(第一六八五号)

 同(大串博志君紹介)(第一六八六号)

 同(清水鴻一郎君紹介)(第一六八七号)

 同(島村宜伸君紹介)(第一六八八号)

 同(中山成彬君紹介)(第一六八九号)

 同(丹羽雄哉君紹介)(第一六九〇号)

 同(原田義昭君紹介)(第一六九一号)

 同(馬淵澄夫君紹介)(第一六九二号)

 同(山内康一君紹介)(第一六九三号)

 同(吉田泉君紹介)(第一六九四号)

 同(岡本芳郎君紹介)(第一七六六号)

 同(赤嶺政賢君紹介)(第一八六三号)

 同(石井郁子君紹介)(第一八六四号)

 同(笠井亮君紹介)(第一八六五号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一八六六号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一八六七号)

 同(志位和夫君紹介)(第一八六八号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一八六九号)

 同(塩崎恭久君紹介)(第一八七〇号)

 同(鈴木淳司君紹介)(第一八七一号)

 同(田村憲久君紹介)(第一八七二号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一八七三号)

 同(仲野博子君紹介)(第一八七四号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一八七五号)

 高齢者に負担増と差別医療を強いる後期高齢者医療制度の中止・撤回に関する請願(保坂展人君紹介)(第一六八〇号)

 同(志位和夫君紹介)(第一八七六号)

 社会保障の充実を求めることに関する請願(岩國哲人君紹介)(第一六八一号)

 同(筒井信隆君紹介)(第一六八二号)

 医師・看護師などを大幅に増員するための法改正を求めることに関する請願(細野豪志君紹介)(第一六八三号)

 国民健康保険の充実を求めることに関する請願(筒井信隆君紹介)(第一六八四号)

 後期高齢者医療制度の中止・撤回に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一八五八号)

 同(志位和夫君紹介)(第一八五九号)

 高齢者に負担増と差別医療を強いる後期高齢者医療制度の廃止を求めることに関する請願(阿部知子君紹介)(第一八六〇号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律案(内閣提出第六七号)

 介護労働者の人材確保に関する特別措置法案(三井辨雄君外四名提出、第百六十八回国会衆法第二四号)


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     ――――◇―――――

茂木委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律案及び第百六十八回国会、三井辨雄君外四名提出、介護労働者の人材確保に関する特別措置法案の両案を議題といたします。

 本日は、両案審査のため、参考人として、学習院大学経済学部教授遠藤久夫先生、NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長・評論家樋口恵子さん、日本社会事業大学教授村川浩一先生、全国福祉保育労働組合中央本部書記次長清水俊朗さん、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人の方々に一言ごあいさつ申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、審査の参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願いいたします。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 最初に、参考人の方々から御意見をそれぞれ十五分以内でお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、発言する際は委員長の許可を受けることになっております。また、参考人は委員に対して質疑することができないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 それでは、まず遠藤参考人にお願いいたします。

遠藤参考人 学習院大学経済学部の遠藤でございます。

 医療経済学を専攻しておりまして、医療や介護の問題について、経済学の視点から分析をしておるわけでございます。

 本日、このような場で意見の陳述の機会をいただきましたことを深く感謝申し上げます。ありがとうございます。

 私が座長を務めました介護事業運営の適正化に関する有識者会議は、コムスンの不正事案を契機にしまして、介護サービス事業者による不正事案の再発を防止して、介護事業を適切に運営するのに必要な措置について検討するという目的で、厚生労働省内に設けられたものであります。

 本会議は、法学者、経営学者、経済学者、弁護士、自治体の職員あるいは利用者などで構成されておりまして、昨年の七月に設置されまして、関係事業者団体からのヒアリング等も行いまして、計五回にわたって議論を重ねてきたわけでございます。

 その会議におきまして、主として三つの視点から議論を行いました。一つは、広域的な介護サービス事業者に対する規制のあり方をどうするか、二つは、指定事業者の法令遵守徹底のために必要な措置として何を考えるべきか、三つ目が、事業廃止時における利用者へのサービスを確保するために必要な措置とは何か、主にこの三点について議論をしておりました。

 御案内のことと存じますけれども、初めに、介護サービス事業者に対する現行の規制について、若干の背景をお話し申し上げたいと思います。

 介護サービス事業者に対する規制につきましては、平成十二年の介護保険制度施行当初は、事業所ごとの指定取り消ししかできずに、指定の欠格事由も限られておりました。また、指定の更新制が導入されていないといった、悪質な事業者を介護事業から排除するための規制が必ずしも十分でなかったということが指摘されまして、十七年の介護保険法改正におきまして、悪質な事業者を排除するために、一事業所の指定取り消しが他の事業所の指定更新の拒否につながるいわゆる連座制と言われる制度が導入されまして、また指定の欠格事由が追加され、さらには指定更新制も追加され、一連の事業者規制の見直しが行われたというのが現状なわけであります。

 さて、こういう現状下におきまして、今般、コムスンが複数の事業所において不正な手段による指定申請を行うなど組織的な不正行為を行ったことに対する処分は、平成十七年改正において導入された連座制の規定が適用されたものであります。有識者会議におきましても、この処分につきましては、介護事業から悪質な事業者を排除するという規制の趣旨に照らして適正なものであったというような意見でほぼ一致しております。

 しかしながら、有識者会議における議論の中で、コムスンの不正事案への対応の過程で、現行制度では十分に対応できなかった問題点が幾つか指摘されたことから、国等に対しまして所要の制度改正を行っていただくよう検討を行い、報告書を取りまとめたというものでございます。

 本委員会において審議されております介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律案は、この有識者会議の報告書を踏まえたものと受けとめておりますが、この機会に、有識者会議での議論の経過及び提言の意図するところについて、若干述べさせていただきたいと存じます。

 本法案における改正項目は、コムスンの事案への対応の中で明らかとなった現行制度等の課題として指摘された点を受けて検討したものであります。具体的に五つのテーマについて検討を行いました。

 第一は、業務管理体制の整備であります。

 コムスンが複数の事業所において不正な手段による指定申請を行うなど組織的な不正行為を行ったことにつきまして、介護サービス事業者としての法令遵守を確保するために、従来は事業所単位の規制だけであったところに、新たに事業者単位の規制として法令遵守を含めた業務管理体制の整備を義務づけることが必要であろう、こういう意見がございましたので、その旨を提言しております。その際、委員の中からは、事業者の規模に応じた義務にするべきであるということが意見として示されております。

 第二は、監査、指導体制の弾力化についてであります。

 近年は、会社法の改正等によりまして、企業統治というものが非常に重要視されている中で、現行制度では、企業統治の中心である事業者の本部等に立入調査あるいは報告徴収をするということができません。したがって、不正行為への組織的な関与がなかなか確認できないという実態がありました。今回もそういうことが明らかになったわけであります。このため、国、都道府県、市町村が事業者の本部等に立入調査を行いまして、法令遵守を含めた業務管理体制に問題があると判明した場合には、事業者に対して是正勧告であるとか命令といった一連のことができるようにする必要があるという結論に至ったわけであります。

 有識者会議におきましては、業務管理体制に関する規制について、事業者の事業を展開する地域に応じて国、都道府県、市町村がそれぞれ主体となって行うこととしまして、その際には関係自治体と密接な連携のもとに対応することが妥当であろうということを提言いたしました。また、都道府県、市町村が監査を行う際にも、必要に応じて事業者の本部等に立入調査を行うことができるようにする必要もあるという意見もありました。

 三つ目のテーマは、不正事業者による処分逃れ対策について議論をいたしました。

 コムスンが、指定取り消しの対象となった事業所について、その処分前に廃止届を提出したため、指定権者が事業所に対する取り消し処分を行うことができないという実態がございました。また、同一グループ内の他法人に事業譲渡を行ってそこで指定を受ける旨を表明したことに対して、現行の法制度ではこれに制限を加える仕組みがなかったという実態が明らかになったわけであります。このような不正行為を行った事業者のいわゆる処分逃れと受けとめられかねない行為につきまして、現行制度が不十分であるという指摘がございました。

 このため、処分逃れ対策の一環といたしまして、事業所の廃止届の提出を事前届け出としたり、あるいは、監査をしている最中に事業所の廃止届を出すことができないというような仕組みが必要であるということで、その点について提言いたしております。

 また、指定取り消しを受けた事業者が同一法人のグループ内の事業者間で業務移行しようとする際に、処分逃れのおそれがあると認められる場合につきましては一定の制限を課す必要もあり、その際には、一律に指定を拒否するのではなくて、個別の事案に応じて、事情に応じて対応するべきではないかという意見があったわけであります。

 第四のテーマにつきましては、指定更新の欠格事由の見直しについてであります。いわゆる連座制の問題であります。

 連座制につきましては、不正な事業者を介護事業から排除するという視点から、現状の仕組みは維持されるべきであるという意見は、有識者会議においても当初からほぼ一致していたところでありました。

 しかしながら、第一に、組織的な不正行為の有無にかかわらず、一事業所の不正行為をもって他のすべての事業所について一律に指定更新を認めないとすることは本当に妥当なのか、第二に、一自治体の指定取り消し処分により他の自治体において機械的に指定更新ができないということは、他の自治体の権限を過度に制約することにはならないのか、こういった御意見もありました。

 したがいまして、これらを取りまとめて、事業所の指定取り消しがあった場合に、指定更新を拒否できる仕組みは維持した上で、各自治体が、事業者の不正行為への組織的な関与の有無を確認して、みずからの権限として指定更新の可否を判断できるような仕組みに合理化する、こういう必要があるのではないかということで提言いたしております。

 第五のテーマは、事業廃止時における利用者へのサービス確保についてであります。

 コムスンの事案におきましては、関係者の努力によりまして円滑に事業譲渡がなされまして、利用者に対して継続的なサービスの提供が確保できたと考えております。しかしながら、有識者会議におきましては、現行の法制度では、事業廃止時における利用者のサービス確保対策が必ずしも十分ではないとの問題点が指摘されました。

 そのことから、事業廃止時における利用者へのサービス確保対策については、一義的には事業者の責任において事業移行の態様や規模に応じて必要な措置をとる必要があるが、当該事業者のみでは十分に対応できないというケースが多々あり得るということでありますので、その場合につきましては、行政が必要に応じて事業者の実施する措置を支援するというのが妥当なのではないか、そのような取りまとめを行ったわけであります。

 以上のような内容を検討して、報告書に取りまとめさせていただいたわけでございます。

 最後に、本委員会におきまして御審議されておられます介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律案は、有識者会議の報告書に盛り込まれた内容をおおむね取り入れていただいておるというふうに認識しておりまして、評価したいと思っております。

 コムスンの不正事案を契機といたしまして、介護保険制度に対する国民の信頼が揺らいでおりまして、一刻も早く不正事案の再発防止及び介護事業の運営の適正化が図られるように、本法案が早急に成立することを望むものであります。

 また同時に、これらの目的を達成するためには、規制だけでは必ずしも十分ではないわけでありまして、介護サービス事業者みずからによります努力、取り組みを一層促進することは言うまでもないわけでありますし、自治体における事業所の指導監督に関するばらつきを是正することなど、運用面での改善ということも不可欠だと思います。

 このような取り組みを通じまして、国民から信頼される介護保険制度の構築に努められることを期待いたしたいと思います。

 以上でございます。ありがとうございました。(拍手)

茂木委員長 遠藤参考人、ありがとうございました。

 次に、樋口参考人にお願いいたします。

樋口参考人 昨日から保険料を年金から天引きになりました後期高齢者の一人、樋口恵子でございます。

 本日は、このような席で意見を陳述できる機会を与えていただきましたこと、まことにありがたく、御礼申し上げます。

 二つの法案が審議されているようでございますが、私どもは、介護人材確保に関する法律につきまして、私ども高齢社会をよくする女性の会の活動を中心に、ぜひ、介護人材確保のための何らかの措置を皆様方にとっていただきたく、お願いする次第でございます。

 介護人材の危機ということを私どもが感じ始めたのは、むしろ昨年のコムスン事件以前でございました。

 私どもの会は「女性の会」と申しますが、もちろん男性の理事さんも、男性の会員も多くございますけれども、しかし、九割以上は中高年の女性で占められております。中高年の女性というのは、みずから介護を担い、今も家族介護者としては最も多い層であると同時に、もう自分たち自身がいつ要介護者になるかわからないという、介護最前線におります。ですから、介護に関しては、よく、炭坑の空気が悪くなって、危険を察知するのにカナリアを鳥かごに入れて持っていくという話がございますけれども、私どもは、介護に関してはさまざまな危険を察知するカナリアの役、カナリアにしてはちょっと体形もどうかと思っておりますけれども、カナリアの役を果たしているというふうに思っております。

 実は、コムスン以前から、もう既に私どものところへは聞こえてきておりました。夫が倒れて、夜頼むのはコムスンしかいない。ところが、とてもすばらしい人たちなんだけれども、すぐにくるくるかわってやめてしまう。時に訪ねてくるサービス提供責任者の男性たちがふてくされてしまっていて、来たところでどっかりと休み、そして愚痴を言っていく。これでは介護はもたないだろうなどという声が聞こえてまいりました。

 また、一人の地方の会員から、この人はヘルパーとして介護保険と同時に働き出した人でございますけれども、この人からはこういうファクスが参りました。

 「ヘルパーは働いても働いても年収百五十万前後で、典型的なワーキングプアです。時給八百九十円。深夜勤でも千百円。六年以上になりますが、いまだアルバイト扱いで、九時間働いても八時間分の給与です。厚生年金など将来の保証もありません。深夜業は一人で三十人。おむつかえ交換も無手袋。ノロウイルスをうつされ病院にかかっても、自前の国民健康保険なのでオーナーは痛みません。」とざっと羅列してございまして、これは特に地方のひどい例だとは思いますけれども、最後にまた、「百五十万の年収では生きていけません。死を宣告されているようなものです。ヘルパーは現代の奴隷です。志を持って選択した仕事なのに。」などという手紙が届くようになりました。

 これはただごとではないと思っていたやさきのコムスン事件でございまして、先ほどお話しのように、コムスン事件をきっかけにこの事業のあり方が、姿勢が正されるということは、これはごもっともなことと思っております。

 しかし、それ以上に私どもの目の前に出てきたのは、介護人材の窮迫というか確保難というか、介護保険は持続可能な介護保険ということを厚労省が二、三年前からおっしゃられまして、これは財源の面からおっしゃっているのだとは知っておりましたけれども、とんでもない。介護は機械にもできないし、制度にもできないのです。介護はもう、宅急便で送ることもできなければ、すべて地産地消、地域の労働力があって介護は初めて成り立つのでございます。

 この介護労働力がまさに崩壊の危機に瀕しているという自覚を持って、私どもは昨年九月、静岡で開かれました全国大会で、私ども介護を受ける当事者、介護を利用する家族として、介護人材確保に関する緊急法案を提出することを延べ四千人の集会で決定いたしまして、すぐ、昨年九月二十日、要望書をつくり、舛添厚労大臣は直接お受け取りくださいました。そして自民党、公明党、民主党、社民党、この四つの政党では、直接党首ないし党首に近い方がお受け取りいただきまして、共産党、国民新党にもお届け申し上げております。

 この要望書の中身をぜひこの機会に、今申し上げたようなところへはお届けしたのですけれども、きょうこの衆議院厚生労働委員会におきまして皆様にお目通しいただける機会を得ましたことを、私ども大変うれしく思っております。資料の中にございますので、ごらんくださいませ。

 介護人材確保のための緊急提言ということで、内容は二部に分かれております。

 一部は、介護人材確保にかかわる介護従事者の賃金を一人月額三万円を上乗せする三万円法の提案でございまして、三万円法という言葉で少し広がったかと思いますけれども、初任給からしてもう五万円の差が開いてしまっている介護人材を確保するためには、本当にちょっとやそっとの値上げでは済まない。今、特に初任給においてせめて三万円賃上げしてほしい。三万円ということは一日千円であります。若い人々にとって、十四、五万の薄給にあえぐ人たちが一日千円のゆとりがあったらどのように人間らしい生活の潤いができるか。

 そういうことから、生活の側から積み上げた発想であると同時に、私どもは、立法者でも何でもない一市民でございますから、難しい法律論議はできません。しかし、それなりに言うからには、財源のことも少し言わなければと思って、ない知恵を絞って涙ぐましい工夫をいたしております。

 それが、例えば介護保険報酬の中で、それまで税金で行われていた保健、ヘルス事業に関するようなことが、これはみんな介護保険の中に加わって介護予防などに使われております。地域支援事業費、三%を限度に使ってよいということになっているようでございますが、せめてその二%なり一%を回すことによって介護人材に直接賃上げしてほしいとか、いろいろなことを書いております。

 と同時に、お金の問題、これは一番大きい問題です。これはある調査でございますが、介護に入ってくる人たちはお金が目当てでやってくるのではない。お金ではなくて、役に立ちたい、あるいは志でもって入ってきている。にもかかわらず、やめていくときはお金が理由でやめていく。つまり、志の基盤整備には一定程度の人らしい生活ができる報酬が、幾ら何でも我慢にも限度があり、一定の報酬は必要だということで、賃上げというのは最大の問題でございますから、第一に書かせていただきました。

 第二番目に、職場における環境というのも大事でございます。

 私たちは、介護に働く人を見ておりまして、この人たちがどんなに孤立しながら働いているかということもよくわかりました。たった一人で夜勤を行うグループホームや特別施設に働く人々、あるいは、たった一人で個人の家庭に入ってさまざまな問題に、非常にまれな例かもしれませんけれども、時には要介護者のセクハラにも耐えながらそこで働かなければならないホームヘルパーの孤立。

 これは、ある研究がございまして、スーパーマーケットのパートタイマーが実は非常に定着率がよいという研究がございます。それを読みながら、私は介護のパートタイマーの人々を思い出しました。なぜスーパーのパートタイマーの定着率がいいかといいますと、一つ屋根の下で一緒に働けて、仲間とけんかをしたり討論ができたりしてみずから向上することができる。人々との出会い、人々との話し合いや相談によりながら自分が向上していく。これは、私は、賃金にもかえがたい働く人々の喜びだと思っております。

 スーパーは定着率がよいのに、そして賃金も時にスーパーより安くなっております。そこにおいてまた、一人一人の介護労働者が孤立した状況に置かれているということは、私たちは本当に見過ごすことができません。独立した人間は一定程度の孤独ということには耐えていかなければなりませんが、孤立させてはいけません。孤独は一人で耐えていくものであっても、孤立させるとしたら、それは社会の責任ではないかと思っております。

 というわけで、第二の項目につきましては、生きる手ごたえと向上の喜び、出会いに満ちた職場ということで、そうした人間関係の豊かな、向上できる職場づくりについていろいろと書いておりまして、と同時に、私たちは介護という仕事に対して社会の評価をもっと上げていく必要があると思っております。

 その意味で、せんだって舛添大臣も指摘してくださいましたけれども、介護の日の制定などということは、舛添大臣おっしゃってくださいましたけれども、それは私どもの提言に沿っておっしゃってくださったことだと思って、大変ありがたく受けとめております。

 というわけで、こんなぐあいに私どもは要望書を提出いたしまして、それから署名運動を始めました。この署名運動があっという間に広がりまして、年内で締め切ったんですけれども、ただいま十五万一千二百六十七筆の署名が集まりまして、これは厚生労働大臣室にお届けしてあるところでございます。なお、自民党、公明党の与党、民主党、共産党、社民党の野党の国会議員の方に集まっていただきまして、十二月九日にはこの署名簿を背景に大集会をいたしまして、働く人々の声を伝えたところでございます。

 このたび、このような形で民主党が法案にしていただいて、国会の場で討議できるということはまことにありがたいことであり、感謝いたしておりますが、私どもといたしましては、介護というものは党派によるものでは全くございません。同じ状況に置けば、床ずれができ、ふん尿にまみれて世を去っていかなければならないということは、これは何党であろうと同じことでございまして、私どもは、何党の支持者であろうと、人間らしい尊厳を持ちながら一生を完結できる、そんな社会をつくっていただきたいと、ここにお願いするところでございます。

 十一日に私は傍聴させていただいておりまして、いろいろな問題が山積する中で介護だけというのは、確かに難しいことだろうなと思って聞いてはおりましたけれども、しかし、介護の問題は、もし最優先順位にということができるとすれば、それはこういうことではないかと思います。

 医療も崩壊しております。保育とかいろいろなところで崩壊現象は見られます。介護も、もはや崩壊と言ってよろしいと思います。私は、介護が人材不足から崩壊の危機に瀕しているのを見過ごせないと申し上げましたけれども、きのう実は、介護人材確保に関する集会がすぐ近くで、三百人ほど集まって、働く人々を中心に開かれましたけれども、もはや完全に崩壊している、特養ができても人がいないからオープンできない、もうどんどんやめていってしまう、人がいなかったら介護はもうできないのだと。

 お医者さんがいなければ医療もできないのですけれども、医者や看護師と介護士とでもし違うとこがあるとすれば、医師や看護師はそれなりの時給なり賃金が支払われているにもかかわらず足りない、これが一つあります。しかし、介護士の方は、実はその賃金そのものが大変安いのです。そこへもってきて、どんなに医療崩壊とかなんとか言われようと、例えば、ことしも医学部の前には学生が列をなして、最難関の一つでございます。看護師もそうであり、児童福祉に学生が少なくなったという話も聞いておりません。

 ところが、介護人材を養成する介護専門学校におきましては、今や本当に人が集まらなくなっておりまして、これは四月十三日の新潟日報でございますが、ここにおきまして、例えば七十人定員の介護福祉専門学校のうち、ことしの卒業は定員が足りていた。ことしの二年生は、七十人定員のうち五十六人だそうです。ことしの入学者は、何と十四人だそうでございます。ということは、八割の定員減であって、来年半減し、再来年はもう二割しかいないという、介護人材の不足がこのように目に見えている。医学部は、定員に足りない医学部なんて聞いたことありません。という意味で、全くこの介護の危機的状況というのは他と比べることができないものであり、また、介護というものは一日も待ったがきかないということでございます。

 いろいろと述べさせていただきたいことはまだほかにございますけれども、時間の関係もございます。私どもが常に合い言葉として心に言い聞かせながら活動してまいりました三つの点を述べさせていただきます。

 一、介護する人が幸せでなかったら、介護される人も幸せになれません。二、人間を介護する人には人間らしい待遇が必要です。三、人間しかしない介護の営みをどう位置づけるかは、その社会の品格のあらわれです。ということでございまして、私は、ぜひこの介護人材確保について、この国会におきまして前進させていただきたいと心からお願い申し上げます。

 私どもは、このような状況に私どもの仲間が置かれ、そのような状況で若い人が働いていることを見過ごしできず、民主主義社会の国民の責務として立ち上がってまいりました。でございますから、今度は、立法の専門家でいらっしゃる国会議員の先生方には、ぜひこの問題を法律の世界で解決し、実現していくという責務を果たしてくださいますよう心から願いまして、私のお願いを終わります。

 ありがとうございました。(拍手)

茂木委員長 樋口参考人、ありがとうございました。

 次に、村川参考人にお願いいたします。

村川参考人 私は、日本社会事業大学の教員でございますが、高齢者福祉等を専攻いたしております。本日、このような機会を与えていただきましたことを感謝申し上げる次第でございます。

 まず、介護労働者対策につきましては、介護労働者を取り巻く環境として、賃金水準が低い、あるいは、仕事の内容の割には社会的な評価が高くない、むしろ低い評価がなされているといった問題点の指摘もございます。また、介護労働者の現状といたしまして、離職率の高さ、人材確保の困難、養成施設の定員割れ等、安定的な介護人材確保が危惧される状況も指摘されているところでございます。

 今後の高齢社会を支える介護サービス事業に関しまして、質の高いサービスを安定的に提供すること、介護労働者の処遇向上を図るといったこと、また、介護サービス事業の経営の効率化や、将来を担います中核的な介護労働者の育成、定着率の向上を図るといったことの検討の必要が迫られているところでございます。

 昨年十一月に、社会保障審議会に介護人材にかかわるワーキングチームが設置をされまして、私も参画いたしましたことから、その要点をここで御紹介申し上げたいと思うわけでございます。

 ワーキングチームにおきましては、事業所関連の団体、労働者の団体など合計九団体からヒアリングを行いまして、今後の検討課題を整理するといった方式がとられたわけでございます。

 各団体からのヒアリングで明らかとなりました介護職員や関係団体の方々の御苦労、御努力には、本当に頭が下がる思いでございました。同時に、介護労働者の処遇に関する問題というのは、単に介護報酬の引き上げといったことだけでなく、総合的な対策、対応によって根本的な解決を図る道筋というものを考えていかなければならないといった思いがした次第でございます。

 そこで、介護サービス事業者は、利用者に対する介護サービスの提供のいわば対価といたしまして、利用者からの定率一割負担及び介護報酬を受け取るということでございまして、この介護報酬の水準が介護労働者の処遇に大きな影響を与えるということも否定できないのであります。

 こうした介護報酬については、介護労働者の専門性等への評価として適正な水準であるのか、また、人件費等については一定の地域差も見られるところでございますが、介護報酬がそうした地域差を適切に反映する仕組みとなっているのか、そうした問題も含めてワーキングチームで報告をしたところでございます。また、今後、平成二十一年四月の介護報酬改定に向けまして、各種の調査結果を踏まえるなど、よく検証、検討を行う必要があるとも考えているところでございます。

 そうした上で介護報酬の引き上げといったことが図られることによりまして、私は、介護労働者の賃金水準が確実に上がるということを期待したいのであります。

 実際には、介護労働者の賃金水準は事業主と労働者の雇用契約で決まるということもございます。介護報酬の引き上げが直ちに介護労働者の賃金水準の引き上げにつながるのか、必ずしもそうした保証がないといったような側面にも留意しなければならないのでございます。

 以上のようなことを踏まえまして、介護労働者の処遇や介護事業者の経営に影響を与えますさまざまな要因は、介護報酬の水準のほかにも幾つかあるわけでございまして、ワーキングチームでは、そうした要因を、以下およそ七点ほどに整理いたしたわけでございます。

 まず一つは、介護サービス事業に係る基準や規制のあり方についてでございまして、各種サービスについては、人員、施設及び運営に関する基準が定められているわけでございますが、こうした基準によりまして、サービスの内容、質を確保するということが重要でございますけれども、こうした基準が、サービスの質を高めるといった観点から必要かつ十分なのかということもあるわけでございます。また、事業者がサービス提供をする際、不都合な規制がないのかどうかということもございます。

 二点目は、介護保険サービスのあり方とその範囲といった論点もございました。

 三点目といたしまして、介護事業をめぐる市場の動向についてでございます。

 特に訪問介護の分野におきましては、ホームヘルプサービスの利用者の数が、平成十七年十一月ごろをピークに近年横ばいの傾向にあるということでもございまして、一方、ホームヘルプサービスを提供する事業所はその後もふえているわけでございますけれども、その結果、一事業所当たりの利用者数というものは、平成十四年末から十五年初めごろに比べますと、そのころをピークといたしまして減少が見られるわけでございます。言いかえますと、一定数の顧客を事業所間でとり合う構図といいましょうか、過当競争という表現が当てはまるのかどうかということもございますが、訪問介護におきましては競争環境が激化しているということも見られるのでございます。

 四点目といたしまして、介護サービス事業のマネジメントの関係でございますが、この点につきましては、事業所、事業者の収益というものが介護労働者の賃金に適切に配分できるような事業モデルになっているのかどうかということでございます。

 事業所におきまして提供するサービスの種類、地域あるいはその開設主体、事業規模などによっても異なるわけでございますが、そうした中で、適正な事業運営のモデルが確立されているのかどうか。また、経営層におきまして、効率的で質の高いサービスを提供、管理していく資質、能力ということが備わっているのかどうかという点でございます。

 そうしたことに関連いたしまして、例えば、施設系のサービスにおきましては、将来における施設の建てかえなど、そうしたことに備えて資金を積み立てられるという場合もございますが、こうした事柄などが、人件費という必要不可欠な運営コストを過度に圧迫しているというような可能性も懸念されるところでございます。

 五点目といたしまして、人事労務管理のあり方の関係でございますが、この点については、まずもって教育、研修、キャリアアップの機会を提示していくということが極めて重要ではないかということでございます。

 介護労働者の離職率が高いということが実態調査等でも明らかでございます。平成十八年の介護労働安定センターの調査によりますと、介護職員、ホームヘルパー合わせて二〇・三%とされておりますが、厚生労働省による全産業の平均離職率に関する調査結果、一六・二%と対比いたしましても、やや高い水準にあるということは明らかでございます。

 そうしたことなどを踏まえて、各事業所における雇用管理の差、これは離職率の高いところ、必ずしもそうでないところ、いろいろな傾向も見られるわけでございまして、今後さらに分析を深める必要があると考えておるところでございます。

 六点目といたしまして、介護労働市場と他の市場との関連でございます。

 こうした介護労働者の人材確保の困難性というものが一体何に起因しているのか。近年の経済的な好況ということも背景にあるのかと思われますけれども、労働市場全体が逼迫する中で、介護労働者のなり手がいささか減少しているという事柄も推察されるわけでございまして、介護労働者の処遇改善に加えまして、介護労働を担う方々の社会的評価を高めるということは、介護労働離れを食いとめる視点から必要ではないかということを取りまとめた次第でございます。

 七点目といたしましては、介護サービス提供以外の、いわば事務負担といいましょうか、そういった関係でございます。

 本来介護サービスに割り当てるべき労力というものがその他の事柄に時間的に割かれてしまっている。また、現場からもそういった声も上がっているようでございますので、厚生労働省におかれまして、各サービスごとに、こうした介護保険関連事務というものをいま一度見直していただきまして、事業所における事務作業等の見直し、必要最低限なものに改革をしていただくというふうなことも大切ではないかと考えた次第でございます。

 以上、申し述べたわけでございますが、介護サービス事業所の経営そして介護労働者の処遇に影響を与える要因につきましては、極めて多様な要因があるということも明らかとなってきたわけでございます。

 そうした中での介護報酬改定への私の見解でございますが、平成二十年度、現時点を含めて、第三期介護保険事業計画の期間における介護保険料の全国平均は、月額四千九十円でございますけれども、今後、後期高齢の方々が増加していく中で、第四期、第五期といった流れで見てまいりますと、保険料水準が今後五千円を超えるというようなところに達することも想像されるわけでございます。

 介護報酬の改定は、現行制度では、保険料水準の改定と不可分な関係にもございまして、来年、平成二十一年の介護報酬改定におきましては、介護労働者の処遇向上のための要素ということも含めて、介護報酬改定の検討は不可避であるということでございます。しかし、限りある保険料、そして公費財源の組み合わせということの中で、介護報酬改定を進めるに当たりましては、ぜひとも介護労働者の処遇向上ということを位置づけていただく、そしてそこに焦点を当てていただくということが大切と思っているところでございます。

 介護報酬の改定というのは、事業所運営につきまして数字的に楽にするといったようなことでなく、総合的に対策を進める中で、総合的な施策を構成し実行していく、そういった関係者の努力が今日求められているということでございます。

 そうした手順を踏むことによりまして、保険料を負担する第一号被保険者の方々や税を負担なさる国民各層の御理解をいただくということが大切でございまして、こうしたことへの対応をお進めいただきたいと思うわけでございます。

 ここで、民主党の先生方から御提案の法案の関係につきまして、若干私の見解を述べさせていただきます。

 介護労働者に向けまして介護報酬を三%加算する、月額報酬をアップするということで、加算のための財源、単年度でおよそ九百億円というふうに伺っております。

 私は、民主党の先生方の現場を思いやるハートと申しますか、心情的にはわからないわけでもございません。しかし、介護労働者の人材確保や処遇の改善を図るためには、先ほども触れましたとおり、単に介護報酬の一部手直しということだけで十分なのかどうか、介護労働者をめぐる諸問題の解決には総合的な取り組みが必要なのではないかとも考えまして、僣越でございますが、数点にわたりまして、疑問ないし懸念ということで触れさせていただくわけでございます。

 一つは、御案内のとおり、介護保険制度は社会保険方式を採用しております。ここで、介護報酬の加算全額について、現行の基本ルールをそのままに、しかし、いわば安易に税財源に頼るということにしてしまった場合、今後、財政上の問題について、例えば、保険料を据え置いて公費で対応せよといったような御意見が際限なく出てしまうというようなことも考えられるわけでございます。ともに助け合うシステムといいましょうか、利点を持っておりますこの社会保険方式、介護保険の負担と給付の関係を不明確にしてしまうのもいかがなものかという心配がございます。

 二点目は、事業所間に格差を生じないかという懸念でございます。

 拝見いたしますと、事業所の一部に事実上加算をなさる提案でございますが、仮に、ある事業所の平均賃金が基準額を下回った場合、当該事業所で働く労働者の賃金は上がらず、いわば取り残されることになります。そういたしますと、経営基盤の弱い事業所などではむしろ救われないといった結果を生じてしまうわけでございまして、事業所間の格差が広がってしまう、そういった懸念もございます。

 また、三点目といたしまして、今回の御提案と事業所等における雇用契約の関係でございます。

 御案内のとおり、介護労働者の賃金は事業主と労働者の間で個々の雇用契約で決まるという枠組みがあるわけでございますが、仮に、民主党さんの案の認定事業所におきまして、この加算措置という事柄が介護労働者の賃金二万円引き上げということに直結できるのかどうか、そういう保証がとれるのかどうか、そんな懸念もあるわけでございます。

 四点目といたしまして、九百億円という財源の確保でございます。

 単年度で九百億円という財源の確保、これは財政、予算制度上、可能なのかどうか、システム上の不安、そういった心配もございます。大切な公費の投入という事項は、真剣にまた慎重に御議論いただくということではないだろうか。高齢者介護を初め子育て支援、障害者福祉、基礎年金、その他さまざまな分野で公費投入が必要不可欠という状況も見られるわけでございます。

 先生方の問題提起としての意味を理解いたすものでございますが、制度設計上の事柄から賛同しかねるという考え方を持っている人間でございます。

 最後になりますが、昨年来のコムスン問題また悪質な事業者等への規制強化を初めといたしまして、内閣提案の法改正を含めて、介護保険制度のいわば底固めといいましょうか、そういうことを進めていただき、高齢者介護の道筋を明らかにしていただきまして、介護労働者にも希望を与える、処遇改善を含む総合的な取り組みというものを、国会の先生方の英知によりまして明らかにしていただき、高齢者介護の展望を切り開いていただければと存じております。

 つたないものでございますが、参考意見の一つとさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

茂木委員長 村川参考人、ありがとうございました。

 次に、清水参考人にお願いいたします。

清水参考人 私は、全国福祉保育労働組合という名前の労働組合で役員をしています清水といいます。

 今は労働組合の役員になっていますけれども、それまでは、介護ではありませんが、障害者福祉の現場で十六年間仕事をしてまいりました。そういうことも含めて、きょうはお話をさせていただきたいと思います。

 きょうは、貴重な時間をとっていただきまして、こういう機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。

 さて、私たちの労働組合は、民間の介護であるとか障害者福祉、それから保育所、こういった福祉関係の人で構成している、そういう労働組合です。きょうは、そういった職員の声も持ってここに来させていただきました。

 今、全国の介護の職場ではどのような事態が起きているのか、そこで働く職員の労働の実態はどうなっているのか、また、福祉や介護の労働組合として現在の介護職場をめぐる状況をどのように考えているのか、そういったことについて、簡単ではありますが、お話をさせていただきたいと思います。

 二〇〇〇年に介護保険制度が発足しまして、介護が家庭で担われていた時代から、社会がそれにかわって担う、こういう時代に変わってきていると思います。また、高齢化社会の到来とともに、介護に対するニーズも高まり、より専門的で個々のニーズに対応し得る介護、また個々の選択による介護、こういったものも求められるようになっています。今や介護というのは、これからの社会のあり方を考える上で欠くことのできない一つの要素になっていると思いますし、それを支える人材の問題、これも同じように大切な問題としてクローズアップされてきているのではないかなと思っています。

 ところが、実際の介護の職場では、人が集まらないもしくは人が離れていく、こういった人材確保の問題が極めて深刻になっていると言えます。

 皆さんのお手元に資料としてお配りしていますが、この黄色い冊子ですけれども、これは、福祉保育人材確保研究会が、私どもの労働組合それから研究者の方や現場の方も入っていただきまして行った調査なんです。それをまとめた冊子をお配りしていると思います。この調査は、大阪それから新潟の事業所、また全国の福祉労働者を対象に行った調査です。

 この調査によりますと、職員総数に占める退職者の割合は、大阪の事業所が平均一九・七%、昨年の数字ですが出ています。新潟県では一二・三%。厚生労働省の平成十七年の雇用動向調査というのがありますが、この数字を見ると、全産業で一七・五%、医療、福祉関係で一八・五%、こういう数字が出ています。ですから、今回の調査では、大阪で高い数字が出ています。つまり、都市部でこの問題が深刻になっている。これは一つあるかと思います。

 そして、その離職の理由、これも調査をしているんですが、それを見ると、第一が転職のため、第二が健康上の理由というふうになっています。ここからも、介護という仕事から労働者が流出している、こういうことがうかがえるんじゃないかなと思っています。

 また、賃金に関してということでいいますと、平均して十五から二十万円、ここの水準におよそ三五・五%ぐらいの人が集中しています。これが、例えば勤続十年未満、比較的若い層ということで見ると、五〇%から六〇%、このくらいの人が大体このくらいの水準にいるということです。それから、常勤パート労働者に限って見ますと、十万円から二十万円、このランクにほぼ全員が入っているという状況になっています。

 ただ、この調査は、介護労働者だけの数字ではないということはありますが、介護労働者も含め、福祉にかかわる労働者全体の賃金水準、その実態がおわかりになっていただけるのではないかなと思っています。

 特に、若い職員について言いますと、賃金が低いために親から経済的に自立できないとか結婚できない、いわゆるパラサイトシングルというんですか、こういう状況も生まれています。まさに官製ワーキングプアといいますか、そういう実態が生まれているんじゃないかなと思っております。

 また、職員配置について言いますと、現在、常勤換算方式というのが介護保険制度でも導入されておりますが、限られた報酬額の中で必要な職員数を確保しようとすれば、正規職員の賃金では確保できない、非正規職員として採用することにどうしてもなってしまうわけです。その結果、全国の介護職場では非正規の職員が急増しています。

 本来、福祉や介護の仕事では、例えば、長期休業者の代替の場合の採用ですとか、もしくは時間帯や時期に応じて一時的に職員を確保する必要がある場合を除いては、基本的に非正規での雇用は必要ないと思っているんですね。ところが、現在、全国の介護職場で進行している事態というのは、本来であれば正規の職員として採用したいけれども、財源がないために非正規、臨時とか嘱託とか、こういう形態で採用せざるを得ない。そのための非正規職員の増加という問題が生まれています。

 また、利用者への処遇という面でも、この人材確保の問題というのは重大になっています。

 これはある特別養護老人ホームの例なんですけれども、例えば、夕方から夜勤に入りますが、その際、四人で八十人のお年寄りを援助することになります。そのときの職員の仮眠時間は基本的に二時間半なんですけれども、実際にはほとんど寝ることはできません。また、認知症のために夜間歩き回る方もおられますので、職員一人はずっと付き添うわけです。そうなると、その職員は一睡もできないということになります。

 入居しているお年寄りには、歩行が不安定で転びやすく、骨粗鬆症等の疾病にかかっている方も多いため、転倒すると骨折したり歩けなくなってしまうわけです。非常に危険なわけですから、必ず職員がそこには付き添うということになります。また、入居者の中でだれかがぐあいが悪くなるということになれば、救急車で病院に搬送しますし、そのときも、まただれか職員が付き添わなきゃいけないということになります。

 介護職員は、夕方五時から夜勤に入って翌朝九時まで、およそ十六時間拘束されます。しかし、その後、定時の九時で終わるわけですけれども、九時にすぐに帰れるかといえば、決してそうではなく、記録や次の日勤者への引き継ぎ、また打ち合わせなど、そういった残業もあります。結果としては昼過ぎまで残って仕事をしている、こういうことも多々あることです。こういった実態は、老人ホームだけではなく、例えばグループホーム、こういった職場でも同様だと思います。

 こうした状況は、入居者にとっても極めてリスクが大きい。つまり、施設で安心、安全に暮らすことができるということではないということなんです。しかも、入居者から見れば、自分がなれて、自分のことをよく知ってくれている職員が次から次へと職場をやめていくわけですから。このように、介護職場の人材確保の問題というのは、利用者の生活や人権を守る上でも大変な状況を生んでいると言えると思います。

 介護の仕事は、高い専門性が要求される仕事だと思います。その専門性を身につけるには、学校での教育だけではなく、実際の現場に就職してから経験を積んで、研修を受けて、そういったことを通じて学んでいくことが大切なんです。ところが、実際の職場は働き続ける条件がない。介護の仕事を志す人が働き続けられる条件をつくり出すことが、今何よりも求められているというふうに思っています。

 では、なぜこのような状況が生まれるのか。若干私たちの意見を述べさせていただきたいと思います。

 結論を言えば、介護報酬単価や職員配置の低さからくる介護職員をめぐる劣悪な労働環境、これに原因があることは明らかだと思っています。

 昨年、人材確保指針と言われる基本指針の見直しが十三年ぶりにされました。この基本指針にはこう書かれています。前文のところで、「福祉・介護サービスの仕事が」「少子高齢化を支える働きがいのある、魅力ある職業として社会に認知され、」途中略しますが、「質の高い人材を安定的に確保していくことが、今や国民生活に関わる喫緊の課題である。」としています。また、人材確保の基本的な考え方として、「就職期の若年層を中心とした国民各層から選択される職業となるよう、他の分野とも比較して適切な給与水準が確保されるなど、労働環境を整備する必要がある。」と書かれています。さらに、労働環境改善のためには、第一に給与等の改善が必要だともしています。

 私たちは、ここで示された考え方に全く同感できます。これを具体的に進め、実効性あるものにしていただくことが何よりも大切だと思っています。

 ただ、そのためには、二つのことを申し上げたいと思います。

 一つは、介護報酬の大幅な引き上げという問題です。

 東京都福祉保健局が昨年五月にまとめた介護保険施設に係る介護報酬の地域差等に関する提言というのがありますが、ここでは、介護保険施設の報酬額の人件費率が四〇%と設定されていることに対して、東京都内の民間特別養護老人ホームでは平成十五年度で人件費率が七〇・六%に上るという数字が出ています。設定されている四〇%というのは三対一の職員配置を基準に算定されていますが、実際には、介護職だけでなく、施設長や事務やほかの職員も雇うわけです。そうなると、結果として、こういった七〇%を超える人件費をとらざるを得ないという実態が生まれています。

 このような福祉労働者の賃金を初めとした労働環境を改善するためには、介護報酬単価を大幅に引き上げることが早急に必要だと考えています。

 次に、引き上げる際の基準の問題、これがあると思います。

 先ほど申しました人材確保指針の中では、「適切な給与水準を確保すること。」と明記されています。そして、その給与体系の検討に当たっては、福祉職俸給表を参考にすることとしています。この福祉職俸給表というのは、橋本内閣時代につくられた公務員の福祉職に適用される給与表です。私たちは、この給与表が民間の介護職員にも適用されることが必要だと考えています。そのためには、この俸給表の水準で人件費を算出して、その額を基礎にして報酬単価を組み立てていくべきではないかと思います。

 また、さらに、報酬単価に積算するだけでなく、実際に施設で適用されなければ意味がありませんから、事業者に対しても、この給与表の水準を基礎にした賃金の基準を創設する必要があると思っています。現在は、報酬単価上も事業者に対しても明確な賃金支払いの基準がないため、職員の賃金というのは全くの現場任せになっています。そのことが、給与水準の上がらない一つの要因でもあるのではないかと思います。

 今回の民主党から提出された特別措置法案では、一定の賃金水準を定め、その水準まで、およそ二万円の賃金を引き上げるという内容です。この点で、この法案は私たちの考え方とも一致いたしますし、歓迎できる内容だと思っています。

 また、介護報酬見直しのワーキングチームでは、地域格差の解消という視点での検討もされています。その場合も、報酬単価の人件費の基準を引き上げて、都市部でも地方でも賃金改善につながる方向で議論が進むことを願っています。

 その人材確保指針が出てから現在まで何カ月かたっているわけですが、中央福祉人材センターの数字によりますと、この何カ月間の有効求人倍率がどう変わっているか。一向に改善はされていないわけですね。むしろ悪くなっている。

 例えば、昨年の八月は一・三六倍あったのが、この一月、二月では一・四倍を超えるというふうに上がってきています。また、もう少し細かく見ると、例えば分野別という数字があるんですが、介護施設では三・八倍、これを第一希望として介護施設を希望しているということに限った求人倍率で見ますと、六・三四倍という高い数字が出ています。それで、介護施設以外の高齢者関係、例えば居宅の関係のヘルパーさんとかだと思うんですけれども、こういう職種に限って見ますと七・五二倍、第一希望ではどうかということでは、実に二十八・九六倍という求人倍率になっています。そういう意味でも、早急に具体的な対応、対策をとっていくということが今求められているのではないかと思います。

 資料としてもう一つ、ピンクの冊子をお配りしていますが、これは私どもの労働組合が毎年春の時期に行っている基本的ないろいろなアンケートです。このアンケートを見ますと、例えば「今の仕事についてどう思いますか」という質問があるんですが、これに対して、「とてもやりがいがある」もしくは「やりがいがある」と答える人、これが合わせると九〇%以上、九二%ぐらいの人が今の介護や福祉の仕事にやりがいがあるというふうに答えるわけです。ところが一方で、では「仕事をやめたいと思ったことはありますか」という設問もあるんですが、これを見ますと、「いつも思っている」「時々思う」、これを二つ合わせると六三・八%あるわけですね。

 福祉の仕事というのは、とてもやりがいがあるけれども、同時に、常々やめたいとも思う、こういう非常に矛盾した仕事なんですね。

 例えば大学とか専門学校で福祉の専門の勉強をして資格を取って、この仕事に少なくともそれぞれの夢というか希望を持って働き出した若い人が、実際に働いてみると、そこで失望をしてその職場を去っていく、今もこういう事態が続いています。

 私たちは、こういった状況をもうこれ以上繰り返さない、そのためにも、先ほど申しました人材確保基本指針に書かれている中身を、財政的な裏打ちもしっかりと考えていただいて、実効性のある制度改正をぜひ先生方にお願いしたいと思いまして、私の意見とさせていただきたいと思います。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

茂木委員長 清水参考人、ありがとうございました。

 以上で参考人の方々からの御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

茂木委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。井上信治君。

井上(信)委員 おはようございます。自由民主党の井上信治です。

 まずもって、四名の参考人の皆様方には、お忙しいところ当委員会にお越しをいただきましたこと、心より御礼を申し上げたいと思います。また、先ほど来、大変貴重な御意見を賜ったというふうに思っております。

 さて、いろいろ御意見を賜りまして、今回この介護保険法関係の二つの法案の審議ということでございますけれども、まず、内閣提出の介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律案について。

 この法律案につきましては、先ほど来、遠藤参考人からは評価をしたい、早急に成立することを望むと。あるいは樋口参考人からも、コムスン事件を契機として、さまざまな事業というものがきちんと正されるということはもっともなことであると。それからまた村川参考人からは、今回の閣法も踏まえて、さらなる総合的な施策を講じてほしい、こういったような発言がございました。ですから、そういう意味では、この閣法については総じて参考人の皆様方からは高い評価をいただいているというふうに理解いたしております。

 しかし他方で、遠藤参考人からは、規制だけではなくて運用面での改善がこれからますます重要になってくるということ、それから、先ほど申し上げたように、村川参考人からはさらに総合的な施策を講じてほしいということであります。ですから、この閣法にとどまらず、さらなるさまざまな課題についてしっかり政府の方は対応していかなければいけない、私はそのように考えることができたと思っております。

 そして、もう一つの大きな課題でありますけれども、介護労働者の賃金の改善の問題、処遇の改善の問題、そして介護人材の確保の問題であります。この点につきましても、本当に、参考人の皆様そして我々与野党すべての委員にとっても、大変深刻な状況である、何とかしなければいけない、その思いというものは共通するものがあるというふうに私は信じております。

 樋口参考人の方から御紹介をいただいた昨晩の三百人ほどの集会、私も与野党の理事の先生方とともに参加をさせていただきました。本当に現場の熱気というもの、大変なものがあったというふうに思っております。また、具体的に、大変お困りの労働者の例というものも言及をいただきました。そして清水参考人からは、詳細な調査結果に基づいて、本当に状況は深刻なんだ、何とかしなければいけない、そういった御意見を伺ったこと、大変ありがたいと思っております。

 そこで、民主党から提案されている法案の問題であります。

 この法案に関しましては、十一日の本委員会の質疑の中でも、いろいろな問題点を各委員から指摘され、そしてそれに対する答弁をいただいたところであります。私が思いますに、何とかして労働者の賃金を改善していこう、その志は大変すばらしいものがあるし、共感をいたしますけれども、しかし、その手法という面において、本当に実現可能なのか、持続可能なのか、そういう意味で大きな疑問がなしとは言えない、そう言わざるを得ません。

 その点については、特に村川参考人から詳細な指摘があったわけであります。若干重なる部分もありますけれども、私の方から参考人の方に幾つかお伺いをしたいと思います。

 まず、介護労働者の賃金に本当に結びつくのかどうかというような問題点であります。

 これは、村川参考人の方から、介護労働者の賃金は事業主と労働者の間での個々の雇用契約で決められるため、認定事業所であっても、加算があるからといって労働者の賃金が二万円上がる保証はないといったような御指摘がございました。

 そして私は、さらに申し上げると、平均賃金が基準となる介護労働者の平均賃金を既に上回っている事業者、この事業者についても加算があるわけでありますけれども、既に上回っているということでありますからそれなりの報酬が出ているという理解の中では、やはりその事業所としても、それが直接労働者の賃金に結びつく、そういう可能性はなかなか難しいのではないか、他の用途に回ってしまう危険性もあると言わざるを得ない、そんなふうに思いますけれども、その点について、改めて村川参考人にお答えをいただきたいと思います。

    〔委員長退席、大村委員長代理着席〕

村川参考人 お答え申し上げます。

 まず一つは、介護報酬の引き上げということが賃金上昇につながるのかどうか。

 これは、楽観的に、好意的に解釈すればそういう流れも全く無視はできないのでございますが、しかし、雇用契約が現実にどういう水準で取り結ばれているか、この現実を無視するというわけにもいかないわけでございます。

 そういう点では、現行の介護報酬のシステムに関連しまして、いわば人件費比率と申しましょうか、そうした事柄について一定の、参照価格という表現は当たらないのでありますが、参照水準のような事柄が制度的にできるのかどうかでございますけれども、何かそういった工夫がございませんと、介護報酬の引き上げと賃金上昇、そこのところのつながりということをやはり今後、よりよい設定にしていただく工夫という課題があるのかなというふうに思っているところでございます。

 二点目の、平均賃金が比較的高いところに加算をしていただく。

 確かに、経営者として、事業所としての御努力という姿もございますので、評価される面もございます。ただ、また別の角度から見ますと、介護サービスの内容、質という点で申せば、例えば、当該施設、事業所における介護福祉士の方の採用の比率であるとか、そういった質的な側面の指標といったようなことも考慮に入れませんと、ただ数字だけが比較的経営安定の事業所につながってしまいかねない、そういうことで、むしろ現場が混乱するというような懸念もございまして、そこのところはやはり慎重に丁寧に検討し、制度を設計していただくということがポイントではないかというのが私の意見でございます。

井上(信)委員 ありがとうございました。私も全く同じような懸念をいたしております。

 この点についてつけ加えれば、先ほど樋口参考人の方から提出をいただきました緊急提言の中にも、「介護報酬の一定比率を介護従事者の賃金として確保するよう基準を定め遵守し、公表することを望みます。」といったようなことが書かれております。これは逆に言えば、やはり何らかのこういった措置をとらなければ直接的には賃金がアップすることにはならないということで、そういう意味では、この樋口参考人の要望書を見ても、やはり民主党の法案では不十分と言わざるを得ないと私は思っております。

 それから、十一日の委員会でも、残念ながら提出者の菊田委員の方からは、「ただ単に介護報酬を上乗せしただけでは労働者の賃金に直接結びつかないおそれがある」、提出者の方もこのようにお答えいただいているということ、これをあわせて申し上げておきたい。そして大変な懸念を感じております。

 続きまして、次の問題点でございます。今回の民主党の法案によって、むしろ介護労働者の格差が拡大をしてしまうのではないか。こんなことになってしまっては、かえってやぶ蛇になってしまうということを大変懸念いたしております。

 この法案の中では、事業所の平均賃金がいわゆる認定基準額を大きく下回る事業所で働いている介護労働者の賃金は上がらないということでありまして、これは私には全く理解ができないんですけれども、最も賃金が低くて困っている、そういった労働者に対しては、この加算の上乗せがされないということであります。

 そして、十一日の委員会の提出者の方々の答弁を伺っておりますと、むしろ、そういった事業所に対しては、頑張ればこの加算を受けることができるということでインセンティブを与えることによって、そもそもその事業所自体の報酬の配分を是正してもらう、そういったようなお答えがありました。

 しかし、これは私は、実際の介護施設、事業者の現場というものを余りよくわかっていないのではないかな、そんな気がいたしております。コムスンのような一部の例外はあるかもしれませんけれども、介護事業者の方々も、別に、事業者がもうけて、そして労働者を安い賃金でこき使っている、こういう事業者というのは例外的でありまして、むしろ、中小、地域に根差した事業者の方々を中心にして、本当に事業者の方々も大変な苦労をしながら、少しでも労働者の方々の賃金を上げたいけれども、なかなか立ち行かない、そういった大変な苦労をしている、そういう方々が特にこの平均賃金に満たないような中小の事業所だと思います。

 ですから、そういう意味では、この民主党の法案がもし実施をされてしまえば、むしろ、そういった中小の体力のない事業所とそうではない一定規模以上の事業所で働く労働者との間の賃金の格差というものが拡大をしてしまうのではないか、そういったような懸念を持っております。

 村川先生からもその点について御指摘がありましたけれども、いま一度、私が追加で申し上げた点も含めて、村川先生の方からこの点について御答弁いただきたいと思います。

村川参考人 申し上げます。

 私は、やはり介護労働者の現場で大変であるところは今先生お尋ねの、むしろ中小零細と申しましょうか、そういう事業所で頑張っておられる方々をどう応援できるかという事柄が一つでございます。またもう一方、都市部で、他の産業の賃金水準がよいという周囲の環境の中で、これでいいのだろうかというふうに悩まれる方々がいる。

 そうした複合的な環境の中で、どういう改善をしていただけるのかということがございますわけで、そういう点で、都道府県単位の平均賃金、それも確かに計算的には出るわけでございますが、しかし、そういう数量的な指標だけで加算を振り分けるということが現場にとってどうなのかという点は、大変疑問な点もございます。現場を著しく分裂ということもありませんが、混乱させてしまってはいけないのでございまして、むしろ、地域で定着できる事業所、また地域で仕事を一生懸命なさる介護労働者の確保ということも広く視野に入れて、制度づくりということはやはりお願いしたいという気がしております。

 以上でございます。

    〔大村委員長代理退席、委員長着席〕

井上(信)委員 ありがとうございます。

 それともう一点、大変懸念しておりますのはやはり財源の問題でありまして、財源の担保というものがなければこれは本当に絵にかいたもちになってしまうわけでありますから、しっかり財源を確保しなければいけないということで、これは村川参考人の方も、民主党法案を実施するために必要な財源規模九百億円、具体的な財源のめどが立っていないのではないか、そういったような御指摘がございました。

 これは、十一日の委員会におきましては私も質問をさせていただきまして、民主党の提案者の答弁によりますと、平成十九年度補正予算で政府の介護給付費に関する国庫負担額が八百九十一億円余ったから、ちょうど九百億円充てることができる、そういったような回答がございました。

 介護給付費の余剰分が出るということは、関係者のさまざまな努力によって余剰分も出たんだと思います。しかし他方で、これが毎年余剰分が出るとは限らない。そして、その余剰分を当てにして予算組みを進めるというのも、これはおかしな話でございます。

 本当に財源をしっかり確保できるのか、大変懸念をいたしておりますけれども、この民主党側の回答について、村川参考人の方から御意見をお願いしたいと思います。

村川参考人 財源の確保というのは、いずれにしましても非常に重要な課題でございます。

 今回の加算という御提案もございますが、あわせて、中長期的にとらえましても、今後の保険料水準をいかなる水準として考えていくべきなのか、また、公費の投入をどういう組み合わせで進めていくのかということがございます。

 平成二十年度の予算、財政という点につきましてはむしろ先生方が御専門でございますので、そうした中での税財源ということ、公費の財源をどういうふうに探されるのかという御苦労も含めて、いかがなものかということも推察されるわけでございますし、中長期的にとらえますと、介護保険制度というのは、地域の市町村が保険者ということでございまして、保険料の財源と公費の組み合わせの中で、三カ年ごとの介護保険事業計画というしっかりした基盤の上に、安定的に着実に進めていかなければならない。

 介護保険を破綻させてはいけないのでございますから、できれば思いつき的なやり方ではなく中長期の腰の据わった財源確保を、ぜひとも、与党の先生と野党の先生、合意をなさっていただいて、よい方向を目指していただくというのが私の気持ちでございます。

 以上でございます。

井上(信)委員 ありがとうございます。

 参考人のおっしゃるとおり、具体的な財源、しかも持続可能な財源というものをしっかり確保しないと、やはりこういった政策を打ち出すというのは無責任のそしりを免れないのではないかと私は思っております。

 そういった意味では、樋口参考人の緊急提言でございますけれども、その中にも、「財源については、本来税金で行なわれてきた地域支援事業費を回すほか、事業経営の効率化などの工夫をし、」というふうに書かれておられます。こういった具体的な提言をされるということは、私は大変すばらしいと思っております。ですから、単に余剰分を回せばいい、そういった大ざっぱな財源確保案ではなくて、この要望書にあるような、そういった具体的な財源の確保というものをしっかり考えなければいけないと思います。

 あわせて申し上げれば、この要望書にも、介護労働者の確保ということに関してもいろいろな施策を幾つか提示していただいて、やはりこれを総合的にやらなければいけない、そういった御趣旨であると思います。ですから、その中の一部分をとらまえて、公費負担で、そして財源のめどもなく、九百億円を投入すれば平均二万円ぐらいアップするだろう、それでは余りにも場当たり的ではないかな、私はそのように思っております。

 他方で、やはり政府あるいは我々与党といたしましても、この問題についてしっかり対応をしていかなければいけないというふうに思っております。その中の基本は、やはり来年度の介護報酬の改定ということでありますけれども、それと同時に、ワーキングチームの報告書もいただきましたので、そこに言及されているさまざまな方策というものを総合的な一つの政策パッケージとしてしっかり打ち出す、そして、それも早急に実施して労働者の賃金を改善していく。処遇改善、そして労働力の確保ということ、これをやっていくのが政府・与党の責任だというふうに私は思っております。

 いずれにいたしましても、樋口参考人がおっしゃるとおり、この問題というものは、とにかく党派は関係ないんだ、もう党派は関係なく、やはり全国民がしっかり注視をして、そして対応しなければいけない問題だ、まさに私もそのとおりだと思いますので、そういう意味では、野党の方々ともよく協議をし、そして協力をし合ってこの問題に立ち向かっていくということが私は大切だというふうに思っております。

 時間に限りがございまして、ほかの参考人の皆様にもいろいろ伺いたい点はあったんですけれども、伺うことができなかった点をおわびいたしまして、私の質問を終了させていただきます。

 ありがとうございました。

茂木委員長 次に、福島豊君。

福島委員 参考人の先生方には、大変貴重な御意見をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。改めて御礼を申し上げたいと思います。

 さまざまな課題がございます。その中で、井上委員の質問に余り重ならないように私は質問させていただきたいと思っております。

 まず初めに、介護保険法の改正案、これは閣法の方でありますけれども、それについての関連で、遠藤参考人にぜひお尋ねをしたいことが一点ございます。

 これは、コムスンの問題、そもそもこういう問題が起こってくるのは、介護福祉の世界に営利企業を参入させた、そうした介護保険制度の考え方そのものにやはり間違いがあったんじゃないか、従来のように、社会福祉法人そしてまた公的な事業体、こうしたことを中心にやっていれば、介護保険市場の中からひたすら利潤を搾り取るようなことは起こらなかったんじゃないか、こういう指摘があるわけでありますけれども、この点についての参考人の御意見をお聞きしたいと思います。

遠藤参考人 お答えいたします。

 確かに、介護事業に営利企業が参入するということに関しましては、基本的に二つの考え方があったと思います。

 一つは、先ほどお話がございましたように、配当であるとか、上場していれば株価を維持したいということで、利益、利潤の追求に走るがためにサービスの質を低下させる、場合によっては不正を行う、そういう誘因になり得るのではないかという考え方。これは、特に病院の方などでも随分議論になった事柄であります。

 と同時に、むしろその反対で、特に、資本を集めることができるような営利法人の場合には、大規模であるがゆえに、それなりにマネジメントの仕組みがよくできている、あるいは法令遵守の仕組みもよくできているということであって、効率的な運営ができるので、むしろポジティブにとらえるべきである、こういう考え方と二つあったわけであります。

 今回、コムスンという、この分野では大企業がこういう事案を起こしたということでありますので、確かに、営利事業がこういうことを起こすのだなというような、私が言った前者の方の理屈が正しいのかな、そういう印象を持たれたということだと思います。

 確かにそういう面もあるわけですけれども、翻って考えてみますと、営利事業者がかなり介護保険の中にはもう参入しているわけであります。居宅介護などを見れば、むしろ営利事業者の比率がかなり高いというようなことでありますので、そう考えてみたときに、実際にそういうところが明らかに不正を統計的に有意なだけ行っているのかどうかというと、必ずしもそうではないというふうに考えられますので、この一つの事案をもって、営利事業者は介護保険事業に参入するのは不適格であるというふうに結論づけるのはやや早計ではないか。

 むしろ今回は、こういうことが起きましたので、まさにある意味、もろもろの法令遵守の仕組みをつくるわけでありますから、そういうところできっちりとチェックをしていくということが必要であるということで今回の改定につながっているわけであります。

 と同時に、もう既に営利事業体はかなり参入しているわけですし、これから介護需要というのがますますふえてくることは間違いないわけでございます。これは高齢化が進むということもありましょうし、あるいは療養病床の再編というような医療の問題とも絡みまして、医療ニーズの高いような患者さん、利用者が、介護の方へ大分来ます。そういう人たちの受け皿をつくらなければいけないというときに、多様な経営形態の介護サービス事業者が参入して、それぞれの持ち味を使いながら、協力あるいは競争していくということが健全な介護市場を形成していくことだと思いますので、この段階で営利事業体が不正を起こすというふうには私は考えておりません。

 以上でございます。

福島委員 どうもありがとうございました。

 またもう一つの非常に重要な論点でありますところの、介護の現場で働く人の処遇をどう改善するのか。これは非常に喫緊の課題である、これは、参考人の先生方の御指摘のとおりだと私どもも思っております。

 ただ、どのようなやり方でやるのかということについて、民主党から一つの御提案をいただいておりますけれども、それについては、さまざまな懸念といいますか課題といいますか、指摘されている、これも事実だと思います。

 私は、来年の介護報酬を引き上げるということが一つの大きな本筋の話だろうというふうに思っておりますけれども、その中で、それぞれ与野党を超えてということでありますから、引き続き与野党で協議をする場をつくっていく、そしてまた、この委員会として、介護労働者の処遇の改善を図るんだということについて明確な意思を表示する、こういったことはしなければいけないんじゃないかというふうに私は思っています。

 ただ、その中で、これからどうするのかということなんですね。トータルとして介護報酬を拡大していくということはやはり必要です。ただ、舛添大臣が発言しておりますように、一方で、それは保険料の引き上げということになるんじゃないかという話があるわけであります。

 私も地元で、毎週毎週懇談会をいたしておりますけれども、こういうことを言う人が多いですね。私は保険料を払っているけれども、何も使っていない、使っていないんだから何か返してちょうだいよという話があります。それもわからぬでもないんですけれども、使っていないということで何かお返しをする、保険料をまけるというふうなことにもなるかもしれませんが、ますます保険料が高くなっちゃいますよ、それでいいんでしょうか。こういうふうに言って説明をするんですけれども、なかなかこれも、そうはいっても十分得心はしていただけないのかなと思ったりもいたしております。

 そしてまた、長寿医療制度の保険料、樋口先生もお支払いが始まったということでありますけれども、この保険料もあるじゃないか、あれもこれもあって、一体この年金の中でどうするんだ、こういう話があるわけでありまして、率直に言って、これは一つの大きな、今後、介護報酬を引き上げる、そしてまた全体としての介護給付費を拡大していくということについてはハードルになる。その点について樋口先生はどうお考えか、お聞かせいただきたいと思います。

樋口参考人 介護報酬を引き上げるか、そうすると保険料が上がるというような問題に関しまして、私どもの要望書の中でもまず書きましたことは、早急に報酬引き上げを、イコール介護保険料の値上げにならない形でやっていただきたいという要望をいたしまして、それを民主党さんの案でまとめていただいたんだと思っております。

 私どもは、この問題については、短期決戦のものと長期戦のものと二つあると思っております。先生方がいろいろおっしゃいますように、介護のこれからのあり方については、要介護者の増大ということも見込まれ、人口構成も大きく変化するのは、古今未曾有の超高齢社会がやってくるのはむしろこれからでございます。ですから、介護だけでなく、さまざまな社会保障が大きな構造的な変更を遂げなければならない、まさにそういう時代にいると思いますけれども、それを長期的に構築していくのと短期決戦ですることとがあって、私どもはこれに両方を込めて言っておりますけれども、少なくとも、事介護に関しては国会名物の牛歩戦術ではだめだということです。ぜひ、すぐにやっていただきたい。

 介護は待ったなしです。持続可能という言葉ができておりますけれども、介護保険制度は持続可能かもしれませんけれども、人の命というものには限りがあって、持続可能ではないのでございます。その長い命の、しかも人に頼らなければならない最後の時期に、どのように尊厳を持って生涯を終わることができるかということに関して、ぜひ今、緊急措置を講じていただきたい。これが一つでございます。

 でございますから、民主党さんの案を、私どもも法律の専門家ではございませんので、これでうまくいくだろうかどうだろうかということについて、一〇〇%これでいいとは申し上げられません。だからこそ国会でもんでいただくのだと思っております。ただし、牛歩戦術じゃなくて今すぐ、待ったなしに対応するという形でこたえてくださったのは民主党案でありますので、その点、高く評価いたしております。しかし、運用上の問題点はいろいろございますと思いますから、これは別の党の先生方の御意見などにも耳を傾けていただきまして、ぜひ実現していただきたいと私は思っております。

 ただし、一方で総合的に考え直さなければならないのは福島先生おっしゃったとおりでございまして、そもそも、介護報酬の中から払っていくという形で昇給というのはできるんだろうかどうなんだろうか。言ってみれば、一つは、今十五万円とか、今十七万円ということでみんな失望しています。しかし介護で働く人たちが絶望してやめていくのは、今の十五万円は我慢できても、十年たっても二十五万円になる見込みがないということで絶望して去っていきます。この失望から絶望への変化というのは、結局、今の介護報酬の枠の中で支払われるということであると、なかなか昇給の見込みができない。ある経営者が、四十歳になったら、できれば三十五万円ぐらい払ってやりたいけれども、今の介護報酬の枠組みではとてもできないと言っておられました。

 ですから、これは、介護報酬を上げればいいのか。それで済む面もあるかと思いますけれども、ぜひとも、この介護報酬の枠の中で人件費に一定比率を回す、このようなことを決めて、経営に関する、人件費に関する情報公表を進めるというような施策も御一緒に進めていただきたいし、もしかして、これは素人のばかばかしい考えと、現実性がないとおっしゃっていただいて結構ですけれども、これは税制調査会にお願いすることかもしれませんけれども、どこからかの財源、どこかから一つの税を取って、道路特定財源をこれだけ長くやってきたんですから、介護特定財源というのはぜひともどこかでつくっていただきたい。そのぐらいに今、緊急の状況だと私は思っております。

 それから、福島先生のお言葉でございますけれども、先生のおっしゃることはほとんど私は賛成なんですけれども、一般民衆というか一市民の考え方として見ると、介護財源が九百億円ですか、八百億円ですか、去年……(福島委員「余ったという話」と呼ぶ)余ったというのは、これは腰を抜かすような大変な出来事でございます。

 それで足りない、足りないと言われていますから、私どもも介護保険料をちゃんと払い続けてというか、年金から取られちゃっているんですからしようがないんです、それでも仕方がないと思っておりました。しかも、それで持続可能、持続可能と財源面からばかり厚生官僚はおっしゃっていますけれども、もう人材が枯渇している。その持続可能というのは、枯渇している人材の方に回す方が道理のことだと一市民としては考えておりまして、ぜひ、どうぞ、そこを介護特定財源にしていただきたいと私は思っております。

 それと、ついでですから申し上げさせていただきますけれども、今、ほかの参考人からも意見が出てまいりましたけれども、ぜひとも超党派で取り組んでいただきたい、それも牛歩戦術でなく、即効のある形でやっていただきたいということで出ておりました。

 昨年つくられました介護人材確保指針、これは私は本当によくできていると思っております。若干私どもの立場からいえば、この要望書の中に書きましたようなことでもう少しつけ加えていただきたいこともございますけれども、ぜひ、これを単なる指針ではなくて、立法化の面で国会の先生方で御討議いただければうれしいことだなと思っております。

 それから、もう一つつけ加えますと、こういうことをいきなり言っちゃいけないんだと本当は思うんですけれども、やはり国会というのは数ですから、それで衆議院で先議でしたから、これが参議院先議だったら、もうちょっとこの法案もおもしろくなったと思うんですけれども。そういうわけでございますから、数からいけば民主党は負けますわよ、それは。でもこれだけ与野党の先生方が、介護というのは人間の尊厳のぎりぎりの確保の、この社会の人間としての品格の証明であるということに皆さん賛成してくださった。

 だったら、介護人材確保特定財源を含めて、言ってみれば、少なくともこの介護保険法改正にあわせて緊急に介護人材に回るように、きょう、タクシーに乗ってきましたが、タクシーの運転手さんが、七百十円に値上げしたっておれたちの賃金はちっとも上がらないと言ったから、介護もそうだと言ったら、何だかわからないような顔をしていましたけれども、タクシーの運転手さんの賃金とタクシーの値上げとの関係よりも、我々が見ても、介護報酬の値上げと介護人材に行く給料との距離は実に遠くて、実に見えにくいのでございます。

 その分を何とか、介護人材に対して財源的な措置をとるとか、とにかく人材確保のための緊急措置をとるというような緊急動議だか決議だか、私はこういうことの手続、よくわかりませんけれども、ぜひ、この厚生労働委員会の御発議で、そのような動議を加えていただきたいということをお願いいたしたいと思います。

 ありがとうございました。

福島委員 先生の熱い思いが伝わってまいりました。

 介護報酬の引き上げがなかなか人件費に回らないんじゃないか。これはいろいろな方が、特にマネジメントの問題というのはやはりある、先ほども村川先生の方から御指摘がありましたけれども、施設整備費をどのように留保するかとか、そういったことも影響しているんじゃないか、こういう指摘があると思います。

 先般の委員会でも、そういったことをやはりトータルに考える必要がある、そこのところがしっかりしてきませんと、そしてまた、情報としてさまざまな形でオープンになっていかないと、なかなか変わっていかないんじゃないか。そういうことができれば、逆に言うと、働きやすい職場に皆さん集まるということに自然となっていくんだろうと私は思うんですけれども、このあたりのメカニズムについて、村川先生のお考えをお聞かせいただければと思います。

村川参考人 この介護サービスの分野というのは、言うまでもなく人による人のサービスということでございますから、やはり何よりも人材の確保、また、介護報酬のその後の使途という事柄についても、人材の要素を大きく位置づけていただくということが大事ではないかと思っております。

 ただ私も、従前の、もう十年近く前の措置費の制度がよいと申し上げるつもりはありませんが、昔の段階においては、例えば人件費相当の部分あるいは管理経費、事務経費相当の部分というのが国、行政サイドから一定程度示されていた時代がありました。今日は各事業所の裁量ということも大切な時代でございますから、そこを考えましたときに、各地域で成り立ち得る介護サービス事業の経営モデルをどう考えていくのか。

 大都市、地方都市あるいは過疎地域、あるいは企業規模、いろいろあるかと思いますけれども、当面この分野で確立すべきは、少なくとも一つには、やはり最低賃金ということは遵守していただかなければまずいのではないか。そうしたことにもし違反があるようであれば、これはもう徹底して摘発をしていただくぐらいの処置がまずあってよかろうと思っております。ただ、最低賃金に張りつくということでも私は疑問に思っておりまして、より望ましい水準というものをできるだけ確保することによりまして、多くの若者がこの分野で頑張っていこう、そういうことが形づくられていくということが望ましいわけでございます。

 私も、大学の教員として介護、福祉の分野に卒業生を送り出す立場でもございますので、そういう点では、この介護サービス、福祉サービスの分野における報酬のいわば一定の内訳、参照価格といいましょうか、そういったことが示せないのかということもございまして、その辺を研究課題、検討課題として、今後の段階において明らかにしていく。

 また、特に事業経営者におきましても、当座の賃金の問題もございますけれども、やはりこの仕事に希望を持って活躍していただくためには技術、技能面での研さんということも重要でございますので、もう一方で、研修の経費であるとか福利厚生の経費であるとか、そういったことも総合的に含めた人材確保対策という事柄をぜひ織り込んだ介護報酬体系ということにアプローチしていくことが大事ではないかというふうに思ってございます。

福島委員 終わります。どうもありがとうございました。

茂木委員長 次に、菊田真紀子さん。

菊田委員 おはようございます。民主党の菊田真紀子でございます。

 きょうは、参考人の皆様、大変お忙しい中を御出席いただき、大変貴重な御意見を賜りました。まことにありがとうございます。

 二〇〇〇年に、日本は、世界の中でドイツに次いで二番目にこの介護保険制度を発足させました。以来、ことしで九年目を迎えます。

 私たち民主党は、今、医療崩壊に続いて介護崩壊が起きているのではないかとの強い危機感を持っております。果たして来年の制度見直しまで待てるのかという思いでございます。最近は、テレビや新聞報道などでも介護崩壊が特集されるようになり、高齢者の皆さんだけでなく、すべての国民生活に深くかかわる社会問題になってまいりました。

 特別養護老人ホームなどへの入所を希望しながら、あきがなくて待機をされている方は、平成十八年三月時点で、全国で三十八万人を超えております。私も地元でさまざまな陳情や相談を受けますけれども、特にこうした施設に入りたい、もう待てない、何とかしてもらいたいという陳情が最も多く、大変悩み深いところでございます。また、二〇〇五年の介護保険制度改正によって、同居者がいることを理由に、家事援助など訪問介護サービスが打ち切られるケースも深刻になってまいりました。

 介護保険制度導入によって介護の社会化を目指すと言ってきたはずなのに、現実には、保険あって給付なし。特に女性に介護の負担が重くのしかかっております。多くの女性たちが介護をするために仕事をやめ、必死に頑張っておられます。先ほど参考人の意見陳述にもありましたが、家族介護者の四分の三が女性であります。また、ホームヘルパーなど介護従事者の八割は女性であります。しかも、その仕事は重労働で賃金は低く、社会的評価が得られないということであります。

 高齢社会をよくする女性の会の会報を拝見させていただきました。三ページ目のところに、デンマークのケアワーカーの条件について書かれております。

 デンマークのケアワーカー、月収は四十八万円で医師の六割。日本では医師の一割弱の十数万円。誇りを持って輝くには、それなりの報酬も必要だと思いますとの感想が書かれておりますけれども、先ほどお話がありましたとおり、日本のホームヘルパーさん、どんなに頑張っても月額で十五万、十七万円しか賃金がもらえない、本当に涙が出る思いでございます。

 この国の介護は、多くの人たちの献身的な努力と、そして大きな自己犠牲によって支えられてきたわけであります。そのような状況の中で、今回、事業者への規制強化を強める政府案と民主党の介護人材確保法案が議論されているわけでありますが、私は、現在の給付抑制政策を改め介護報酬を引き上げない限り、介護職員が継続して働き、質を上げていく環境はつくれないし、規制の強化だけでは根本の解決にはならないと考えています。

 そこで、今民主党は、介護保険制度の抜本改革を目指して、党内でさまざまな議論を積み重ねております。特に介護分野での人手不足や介護労働者の待遇の低さ、低賃金、高離職率などの危機的状況を一刻も早く打開しなければならないと考えております。全国十五万人の介護関係者の皆様から御署名をいただき、これを重く受けとめさせていただき、直ちに法案をつくらせていただきました。民主党の介護人材確保法案を提出させていただいております。

 この民主党の介護人材確保法案についてどう評価をされるか。先ほど樋口参考人からも、志を支えるには、安定した賃金といった基盤整備が必要だ、全く私たちの考えと同じ御意見をいただきましたが、改めて御意見を賜りたいと思います。

樋口参考人 ありがとうございます。

 私どもは、抜本的にというよりも即効薬として、とにかく一定のまとまった賃金を上げなければということで、通称三万円法と言わせていただきました。計算の仕組みが違いますけれども、民主党さんの法案は通称二万円法でございます。ここでなぜ一万円値切られたか、これは大変残念なところでございますけれども、しかし、まとまった金額であることは確かでございまして、このような具体的な法案が提案されましたことを私どもは心から喜び、かつ感謝している次第でございます。

 ただ、十一日の会議におきましてもいろいろな先生方から御意見が出てまいりましたけれども、一生懸命努力しても零細な企業が報われないというような点が出てくるのではないかなどという点については、そういうこともあるかなと思ったり、あるいは、平均以上の事業所が報われるとなったら、一生懸命努力して平均以上の企業になろうと努力する、そのインセンティブの方が確かに効果があるのかな、どっちが効果があるのだろうかなどと、私たち、まだ事業者についての十分なヒアリングなどしておりませんので、その辺は迷うところでございます。

 しかし、何しろ具体的にやっていただくということが大変大事なことでございまして、どんなにめっためたに批判されようと構いませんから、私は、こういう法律をとにかく世の中に送り出していただきたい。送り出したら、これを送り出したんだけれども、こういう経緯でだめになったんだと、数からいえばだめになるのかもしれないんですよね。そうしたら、そうなったんだということを、これこそ情報公表でございます。

 幸いにして、この問題は、高齢社会をよくする女性の会ばかりではなく、さまざまな市民団体から大変注目を集めまして、きのうも三百人集会がございましたし、このところ連日、珍しいほど傍聴席が満席になっております。そうした人々の目と耳を通して、今、国会で何が問題になっているかということが広がるだけでも、民主党さんが法案を出していただいたことは大変ありがたいことであったと、私どもは感謝いたしております。そして他の先生方も、細部はともかく趣旨に、志には賛同していただいているということも、ここへ来て大変よくわかりました。

 ただいま菊田先生から御指摘がございましたように、介護は、もはやこれは女の問題だけではなくて、男の問題になってきております。確かに出発点は、介護は自宅の嫁が無料で、無償で、しかも無視されてやっておりまして、嫁一極集中の、無償の、無視された、しかも人間にとって大事な営みをきちんと社会に位置づけなければという私たちの願いが、実は男性たちの願いとも一致いたしまして、介護保険法は国民立法と言ってもいいぐらいに国民的な注視を集め、国民的な賛同を得てここに来ていると私は思います。

 しかし、それが今、本当に人材の面から崩壊しかかっている。やはり女性にしわ寄せができていて、この賃金の低さは、ここから先は、樋口恵子は女だものだからひがんでいるとおっしゃっていただいても結構ですけれども、でも、事実ですから仕方がございません。

 日本の女性の賃金、これはOECDでも時々指摘されておりますけれども、日本の女性の賃金は男性を一〇〇とすると六七でございまして、これは、他の国々、スウェーデンあたりですと、この間スウェーデンの大臣が来て、残念ながらスウェーデンにも男女格差があります、男性の賃金を一〇〇とすると女性は九二ですと言ったので、こっちはひっくり返っちゃったんですけれども、他の国々で七五から八〇、それが日本だけは六七でとどまっておりまして、OECDから時々指摘を受けております。

 その安い女性の賃金がやはり基礎になったからではあるまいかと思っています、現実に若い男性がたくさん入ってきてくれますけれども、嫁が無償労働だった、女性の労働者が多い、そこへ男性が入ってきて、多勢に無勢で、男性の方も女性の安い方へ引っ張られて、今や、男性労働者を含めて介護労働者は、自宅の嫁から社会の嫁へ転化しているような気がいたします。私たちは、嫁の無償労働を見ていられなかったと同様に、男性を含めて、社会の嫁化しているこの介護労働者の賃金をぜひ上げていきたい。

 その中でも、これも雇用管理調査を見ていただくとわかりますが、年に七万から八万ぐらい、家族の介護、看護のために離転職する五十代以下の労働者がおります。その九割は実は女性でございます、一割男性がいらっしゃるのも大変なことなんですが。この方たちが、介護によって職を失って自宅の介護者となり、みずからの社会保障の権利を失い、そして二〇五〇年ぐらいになりますと、無年金者としての貧困層を新たに形成していく。こういうことも、ぜひ、日本の未来の豊かさへの投資という意味も含めて、介護労働者にきちんとした地位を与えていただきたいと思っております。

 菊田先生、ありがとうございました。

菊田委員 エールをいただきまして、大変ありがとうございました。

 私たち民主党も、本来、三万円を二万円に値切りたくなかったんです。できれば御要望に百点満点でおこたえしたいというふうに思っておりました。税金の無駄遣いを改めて、予算の使い方を根本から変えていけば、すなわち、私たち民主党が政権をとらせていただいたら、今は二万円ですけれども、またこれを三万円にアップして、御期待におこたえしていきたいと思っております。

 先週の委員会審議、そして今ほどの与党の議員の発言にもありましたけれども、私たち民主党の法案をめぐりましてさまざまな議論がありました。与党の議員からは、介護労働者だけを特別扱いすることは不公平ではないか、あるいは、直接人件費の引き上げにつながらないのではないか、また、認定事業者とそうでない事業者との間に不公平や格差が生じるのではないかなどの御批判をいただいております。

 御批判があるのならば、ぜひ責任与党として対案を出していただき、対案も出されていないのに、一方的に民主党案はだめだ、だめだと批判されるのは大変残念に思っているところでありますけれども、私たち民主党の法案は、いろいろ問題があったとしても、介護労働者全体の賃金を引き上げるインセンティブになるというふうに信じておりますし、また、不公平を生むということを理由にして何もしないというのは、これはまさに政治の怠慢であると考えております。できることから一つ一つ取り組んでいきたいと思っております。

 この点について、清水参考人、そしてまた樋口参考人からもエールをいただきたいと思いますが、よろしくお願いいたします。

清水参考人 民主党の特別措置法案に関してですけれども、先ほども若干触れましたけれども、私どもは、やはり介護報酬の引き上げとともに、人件費、いわゆる賃金支払いに対する一定の基準をつくっていくということが今非常に大事なことだと思っているんです。

 そういう意味では、今回の民主党の法案に関しては、確かにおっしゃるようにいろいろ不十分なところもあるんだろうとは思うんですが、それにしても、一定平均賃金を示す、基準としてそれが適当かどうか、こういう議論は当然あると思いますけれども、そういったことの第一歩を踏み出したという点においては、私たちがかねがね主張していた点とも合致する意見だと思っております。

 私たちも、この間、人材確保の基本指針の審議が昨年行われましたが、当初から、先ほども言いました福祉職俸給表、この基準をやはり福祉労働者の賃金の基準として明確に位置づけるべきではないかという意見を続けて言ってきました。署名等もあわせて提出する中で、一定そういう意見も、その指針の審議会の中で反映していただいたというふうに思っております。

 先ほど樋口参考人等も、長期的な視点、短期的な視点というお話をされましたが、私たちもそう思うんです。制度の抜本的な改善は当然必要だと思いますけれども、今全国で生じている、とにかく介護労働者が仕事が続かない、集まらないだけじゃなくて続かないし、当然、続かなければ質も上がっていかないわけです。そのことが介護を受ける高齢者の方または国民全体にとって、今、そのことによって生じる問題の深刻さ、大きさ、こういったことを考えると、とりあえず第一歩を踏み出すべきだというふうに思います。

 そういう意味では、民主党さんの法案が、ぜひ前向きに審議をされて成立することを望んでいます。

樋口参考人 不公平とか、何で介護だけ特別扱いするかということについては、これは前提として、介護が世の中から不公平に、大変低い水準に置かれていることであり、介護というものが特別な位置に置かれているからそれを是正するので、当たり前のことと思います。

 先ほども申し上げましたけれども、医療や看護やその他の分野においては、志望者は後を絶ちません。ところが介護に関しては、もはや入学者が少なくなって、介護人材の枯渇ということがはっきりいたしております。

 私は、介護の人材というのは、若い志のある人が専門職として入ってくることも一つあれば、親の介護のためにやむを得ず仕事をやめたというような中年の主婦たち、あるいは、子育てで一生懸命であったけれどもようやく子供の手が離れた女性たちが、家庭経験などを生かしながら、一定の資格を取って入ってくることもとても大事なことだと思っております。

 その意味で、介護というのは国民的な、しかも非常に大勢の人数を要することでございますから、参入ルートはできるだけ広く、そしてその後の研修制度などを充実させて、やりたいという人を除外しないような、門前払いしないような制度をつくっていただきたいと思いますし、中高年女性の職場としても、こちらの方にも目を向けて、再チャレンジの場としても目を向けていただきたいと思うのですけれども、今度はこちらの方の方々が、実はスーパーへ流れてしまっているという状況でございます。ですから、介護に関しては特別でよろしいと思います。それこそ政治の役割だと思います。

 世の中にはたくさんの重要なことがございます。何が最重要課題であるかということにはいろいろな御見解があると思いますけれども、昔、まだあのブレアさんが輝いていたころ、輝いている人はいいせりふを言うなと思って私が聞いたせりふがございます。政治家の役目として、デシジョン・ウイズ・コンパッション。コンパッションというのは同情でございましょうね。同情を伴ったデシジョン、政策決定。つまり、世の中にはいろいろある、今これをやれない、だけれどもこれが最重要である、決定しなくちゃならない、今最重要に持ち上げられなかったかもしれないけれども、そこへも目配りをして、同情を持ちつつ、しかし最優先順位を決めていくという意味の演説があって、その言葉が大変印象に残っております。

 ぜひ、国会の先生方、輝いていたときのブレアのごとく、デシジョン・ウイズ・コンパッション。ほかのことも大事でございますけれども、やはり、待ったなしの介護というものが最優先順位だということを御決定いただく権利がある立場にあるのは、国会の先生方だけでございます。

菊田委員 ありがとうございました。

 清水参考人からは、とりあえず一歩前に踏み出すべきだと御意見を賜りましたし、また、樋口参考人からは、これだけ介護で働く人たちの待遇があらゆる面で低いのだから、これを是正していく、優先順位を設けて取り組んでいくというのは当然だとの御意見をいただきました。大変ありがとうございました。

 残り時間が短くなってまいりましたけれども、村川参考人は、先ほど民主党の介護人材確保法への御懸念をおっしゃいましたけれども、では、介護従事者の賃金引き上げなど待遇改善について、具体的にどうすべきだ、喫緊にどうすべきだとお考えか、お伺いしたいと思います。

村川参考人 介護労働の担い手の方々の賃金の事柄、また、言ってみればこの分野に構造的な問題と申しましょうか、そういうことがございます。

 そういう中で私は、先ほども申したわけでございますが、大きな区切りは、介護保険の制度の保険者が市町村であるということからかんがみまして、やはり平成二十一年の介護報酬改定というところに照準を当てて進んでいただく。その中で正々堂々と、介護報酬の水準をお決めいただくときに、ぜひ、その中での人件費比率なりそうしたことも織り込みながら、介護労働者の方々の賃金水準、研修経費、でき得れば福利厚生、そういったことを盛り込んで進めていく、そういうような組み立て、また、それ以外の、事業者側におかれまして経営的な安定が確保できる条件整備というようなことを視野に入れていく必要があるのではないかという気がいたしております。

 これは構造的な問題というのが背景にございますから、先ほど樋口先生のお話にあったような、いわば介護特定財源という表現がとられたわけでございますが、一方、財政学者の中にも福祉目的税とおっしゃる方々もいらっしゃるわけでございますけれども、保険料の水準と税の組み合わせというものをやはりしっかり踏まえた、そういう揺るぎのない構造設計ということは、ぜひ、民主党の先生方にも追求していっていただきたいという気持ちでいっぱいでございます。

 よろしくお願いいたします。

菊田委員 本当であれば遠藤参考人にも御意見を賜りたく思っておりましたが、時間が参りましたので、また次回にしたいと思います。

 ぜひ、党派を超えて、私たち民主党の介護人材確保法案成立を目指して、皆様から御賛同いただきますようにお願いを申し上げまして、私の質問を終わらせていただきます。

 ありがとうございました。

茂木委員長 次に、高橋千鶴子さん。

高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 きょうは、四人の参考人の皆さん、お忙しい中、本委員会に御出席いただき、貴重な御意見を伺うことができました。ありがとうございました。

 限られた時間ですので、早速質問をさせていただきます。

 初めに、遠藤参考人に伺いたいと思います。

 先生は、介護事業運営の適正化に関する有識者会議の座長として昨年の報告をまとめられました。報告書の内容と今法案は、コムスンが監査中に廃止届を出すなど巧妙に処分逃れをしようとしたこと、あるいは〇五年改正時に連座制として規制を強めたことを逆に見直すという、コムスン対応法と言えるような中身になっていると思います。

 先生は、個別企業の問題ととらえるべきだという考えをお持ちのようですが、そのこと自体はやはり、個別の企業が四百以上も指定取り消し処分を受けている現在の背景に何があるのか、これは単に、営利か非営利かというだけではなく、措置制度から契約へという流れの中でさまざま構造的な問題があったのではないか、これは私は深める必要があるというふうに考えております。きょうはちょっと時間がないので、そこは意見を述べるだけにさせていただきます。

 そこで、心配されているのは、全国展開をしているような大手ではなく、零細な事業所に過度の負担にならないかということであります。今でさえ、膨大な報告書の整理、チェックに追われ、利用者と向き合うよりパソコンと向き合っている時間の方が長い。ヘルパーや指導も事務も、一人で何役もこなさなければならない管理者など、悲鳴が上がっております。業務管理体制の具体的中身や、対象となる事業所の規模についてどのように想定されているのか、伺いたいと思います。

遠藤参考人 お答えいたします。

 御指摘のとおり、介護事業におきまして、直接的な介護サービスの提供ではなくて、間接部門といいましょうか、ペーパーワークと申しましょうか、それがふえている。これは、介護だけではなくて病院などでもふえておるわけでありまして、診療報酬の方ではそういうメディカルクラークということに報酬をつけようということが診療報酬二十年改定で行われたということもあるように、実際にそのような仕事がふえてきて、これが本業に影響を及ぼすのではないかという御懸念、全くそのとおりだというふうに思います。

 今回、改定の中でいろいろとやったわけでありますけれども、小規模の事業者に対して直接関係するというものは、基本的には、先ほど御指摘ありましたように、業務管理の体制整備というところが該当するだろうということであります。これにつきましては、確かに法令遵守ということが言われているのであるし、普通の企業にもそれがあるわけですから、そういうことは徹底しなければいけないということが有識者会議の中で出たわけです。

 しかし、小規模と大規模ではやはり対応の仕方が違って当然であろうということが出てまいりました。特に小規模の場合にはなかなか人手がない、お金がないという状況があるわけですし、しかも人数が少ないわけですから、そんなに大規模な組織をつくる必要もないということもあるので、そこは規模に応じた形の対応をするべきだというような提言がありました。そのように報告書はまとめてあります。

 法案につきましても、ちょっと内容を見た限りでは、小規模、中規模、大規模で体制の違いがある、例えば小規模であれば担当者を選任するというレベルにとどめておるというような形で、言ってみれば、管理制度の規模の経済性がありますから、小規模のところにはできるだけ負担が少ないようにというような配慮はされているというふうに私は理解しておるわけであります。

 以上でございます。

高橋委員 ありがとうございました。

 頑張っている小規模の事業所が規制につぶされるということがないように、ぜひ政府にも求めていきたいと思います。

 樋口参考人に伺いたいと思うんですが、高齢社会をよくする女性の会の提言、私たち日本共産党としても三万円の賃上げを求める提言を出しておりますし、中身はそれだけではないんですけれども、一致するものがあり、大いに賛同したいと思っております。

 また、昨晩の集会にも私、参加させていただきまして、本当に熱気あふれる内容だったと思っております。その席上、先生は何度も、宝の介護保険、そういうお話をされました。私は、樋口先生が、家族だけの介護から社会の介護という形で発展してきたことに対して歓迎をされておった、だけれども、この八年間、その理想と現実のギャップが余りにも大きくて、そこに心を痛め、さまざまな角度から発言をされてきたのだと思っております。

 私は、今や介護を必要とする人がどんどんふえているけれども受け皿がないとか、希望に燃えて介護の仕事につく青年たちの五人に一人がやめていくとか、利用者も介護事業所も、そして労働者も悲鳴を上げているこの今日の状況を生み出した要因について、先生のお考えを一言伺いたいと思います。

樋口参考人 先ほど申し上げましたように、介護保険は本当に国民の希望を乗せて出発いたしましたし、当初うまくいっていたと思います。やはり介護保険があったからこそ地域の風景もこれだけ変わりました。かつて幼稚園バスはあったけれども、デイサービスのバスなんて地域で見かけることはありませんでした。利用する人はこそこそと利用しておりました。今は堂々と利用いたしております。

 本当に人口構成が、それだけ高齢者が多くなったのですから当たり前のことと思っておりますし、何よりも、外部サービスをすると、当時の嫁は、あそこのうちはヘルパーなんぞ入れているといって、隣近所の非難を受けたものでございます。このごろは、そういうことがなくなりました。介護保険、私は五つ星ぐらい効果があったと思っておりますが、一つは、何よりも、外部サービスを利用するのに利用家族の心のバリアフリーが行われた、そして、介護サービスが身近になったことだと思っております。

 しかし、二度にわたる介護報酬の引き下げの中で、私はやはり本当に、せっかく国民の方を向いて出発してくれた厚生労働行政の中の介護保険行政というものが、やはり財政難とか、何とかかんとか改革、改革と言われるとみんなその気になって、痛みがこんな形で来るとはまた国民みんなも思わずにいたというところもあるかもしれませんけれども、二度にわたる介護報酬引き下げの中で、やはり民の方より金の方を向いちゃった。民よりマネー、それから民より紙ですね。本当に紙が多くなった。だからお上と言うんだという説もありますけれども。

 本当に方法は煩雑になり、そして、だから私たちは自立して生きていかれる。家族がどうとかこうとかというよりは、一人一人の要介護度の状況によってサービスが給付されるというのは何というすっきりしたいい制度だろうと思いましたけれども、たび重なる改定、特に〇六年改定におきましては、家族がいる人には生活援助のサービスは出さないなどということになって、本当にこれからの日本の家族構成で、私自身決して望むところではございませんけれども、今一番大きく変わっていくのはひとり暮らしの激増でございます。しかも、高齢ひとり暮らしの激増の中でどのようにこの介護サービスをしていくかということをぜひ視野に入れてしなければならないのに、家族がいることが前提、家族がいれば削りますということに来てしまって、やはり何よりも、高齢者の実態よりもお金の削減のことが前に来たのが裏目に出たんだと思っております。

 以上です。

高橋委員 ありがとうございました。非常に同感できるお答えだったと思います。

 先般の委員会でも、二度にわたる介護報酬の引き下げが要因だったのではないかという私の質問に対して、舛添大臣も、影響があるということをお認めになりました。それと同時に、今改革が次々とやられておって、民より金だと。生活援助の話などもまさにその象徴的な問題で、福祉も自己責任におとしめられてきて、介護の社会化と言いながら、その社会が果たす役割の部分がどんどん小さくされてきたということに大きな要因があるのではないかというふうに私自身も思っております。

 そこで次に、清水参考人に伺いたいと思います。

 介護の現場のリアルな告発と改革のための具体的な提言もいただきました。そこで、私も十一日の委員会で取り上げたことでありますけれども、やはり直行直帰の登録型ヘルパーが圧倒的に多く、無権利の状態であるということが非常に大きな問題だということが指摘をされております。こうしたホームヘルパーさんの実態について、詳しく伺いたいと思います。

清水参考人 ホームヘルパーの問題ですけれども、全体的な調査はいろいろなところで出ているかもしれません。私の方は、直接私どもが把握している、具体的にどういうことなのかという例をちょっと御紹介したいと思っております。

 ヘルパーといいましても、ほとんどはいわゆる登録型のヘルパー、これの割合が非常に高いというのが実態だと思います。

 例えば、ここに資料があるわけですけれども、男性の五十代のAさんというヘルパーさん、月収でいえば四万四千二百二十円ということなんですね。時給単価で千百八十円をもらっているわけです。ところが、登録ヘルパーというのは、御存じのように、一日決まった時間に、朝八時から夕方五時までとか、そういうことで仕事があるわけではないわけです。必要な時間に、ケアプランに基づいて、そこの家庭を訪問して、さまざま援助をする。その時間に関しては、報酬単価で見られていますので、当然時給の対象にはなりますが、基本的にそれ以外の時間というのは、いわゆる給料をもらえる時間にはならないわけですね。自宅で待機するなり、いろいろ方法はある。要は、仕事をしていないわけですから給料には換算されないということになります。

 例えば、同じ男性の方で、月収十五万から十八万ぐらいはありますよという方もおられるわけですが、それでも安い水準ですけれども、では、そういう方がどういう仕事をしてそのくらいを維持しているのかといえば、例えば、曜日でいえば月曜から土曜までホームヘルプの仕事があるわけです。これは主には、例えば二時から二時半とか、六時から六時半、大体お昼、夕方、これが非常に多いわけですけれども、この時間はヘルプをする。それ以外に、同じ法人がしているデイサービスの送迎の仕事、もしくは同じ法人が持っている老人ホームの夜勤、これに月何回も入る。デイサービスの送迎もほぼ毎日のように入る。幾つもの仕事をしながら、それでもやっと十五万から十八万ぐらいの賃金を得られるというような実態です。つまり、ホームヘルプだけでは到底自立した職業として成り立っていないという状況があります。

 最初に紹介した方に関して言えば、社会保険にも当然入っていません。次に紹介された方は保険にも入っていますから、当然、手取りでいえば十二万から十五万ぐらいの水準になってしまうということがあります。恐らく、こういった形での仕事をしている、そういう実態の方が非常に多いのではないかと思います。

 以上です。

高橋委員 ありがとうございました。

 あわせて清水参考人に、配置基準の問題ですけれども、夜勤が月十回とか一人で四十人も見ているとか、長時間労働等、精神的にも物理的にも過重負担であるということが指摘をされております。

 福祉人材確保指針では検討するとされた配置基準をやはり抜本的に見直すべきと考えておりますけれども、その点での御意見を伺います。

清水参考人 基本的に、おっしゃるとおりだと思っております。

 最初の話の中でも若干老人ホームの例を出してお話ししましたけれども、とにかく配置基準の問題でいえば、全く実態には合っていないという状況があると思います。

 例えば、先ほどの老人ホームでも、夜間は八十人に対して四人であると。当然、個々の対応もあるわけですね。そうなると、例えば一人、二人が個々の対応をすれば、施設の中で残っている職員というのは二人ぐらいなわけですね。それで八十人の全体、いつどういうふうに状況が変わるかもしれぬお年寄りを見なきゃいけない。これは夜間の時間帯じゃなくて、日常的にも基本的にそうなわけです。

 例えば、三対一という配置基準がありますが、これは介護職員が三対一なわけですけれども、これは何も日常的に、常に入居者三人に対して一人の職員がいるという数字じゃないわけです。当然、夜勤もありますし、休む職員もいます。そういうことも含めて、全体では三対一だけれども、実態としては二十対一であるとか三十対一であるとか、そういう配置で見ざるを得ないことです。

 それに加えて、今、さまざまな事務の仕事もふえていますし、家庭との連絡、さまざまな公的機関との連絡調整、こういったことも仕事としては増加しています。

 基本指針の中で、実態に合わせて見直しをする必要があるということが明記されたことは大変大事なことだと思っています。一番最初の人材確保指針、十三年前にできた指針には、このことは触れられていなかったわけですね。この十三年間の実態の変化と推移というものが当然あるかと思いますが、今回の指針の中でこのことが触れられたことの意味は大変あると思います。

 ただ、これがやはり絵にかいたもちに終わってほしくないというのが現場の労働者の率直な意見だと思います。いわゆる議論の俎上にこの問題がのっかったということは、私たちも本当にうれしく思っています。ぜひ実態の正確な把握もしていただいて、実態に合うような改善をよろしくお願いしたいと思います。

高橋委員 そこで、介護報酬を上げようというお話になるわけですけれども、先ほど来、介護報酬を上げれば保険料を上げなければならないという議論がされていると思います。

 私たちは、民主党案でもそうでありますけれども、やはり介護の公共的な役割からいっても、これは別枠で国の責任で出すべきではないかというふうに考えております。

 清水参考人に、この介護報酬と国民負担との関係で一言だけお願いしたいと思います。

清水参考人 私どもの基本的な考え方としては、これ以上利用者の方もしくは特に家族の方に負担がふえるということに関しては反対です。

 例えば、保険料を負担していますね。それで、サービスを利用すれば利用料の負担がかかるわけです。介護報酬が上がれば当然ここに反映してくるというのが今の仕組みです。

 ところが、施設を利用している方は、これだけで負担は済まないわけですね。例えば、食費の問題、それから水光熱費やさまざま施設でかかる実費も今利用者の負担ということに基本的にはなっていますし、そればかりか、例えば医療費の問題、後期高齢者医療制度というのができましたけれども、あれも負担がふえる方もおられるという話も聞いています。さまざまなことで、特にやはり高齢者の方の負担というのはじわりじわりとふえているというのが率直なところじゃないかなと思うわけです。

 当然、それを払える方もおられますし、制度上、低所得者に対する配慮というのはされておる、このことはよくわかるんですが、これに加えてさらに負担がふえていくということは耐えられない、そういう実態も出てくるんじゃないかなと思っています。

 ただ一方で、先ほど来言っていますように、労働者の労働条件等を改善する、これも喫緊の課題だということになります。目の前の課題をどうするかということに関して言えば、別財源というのも一つの方法だと思いますし、こういったことも含めて御検討願いたいと思います。

 ただ、長期的には、私どもが思うのは、例えば、今の介護保険制度に対する公費投入の割合の問題でありますとか、もしくは介護保険制度そのものの仕組みの問題ですね。財源をふやそうと思えば、どうしてもやはり、そこに利用者の負担に直接結びついていくような仕組み、このことに対する見直しもぜひ先生方の専門的な見識等を生かしていただいて、議論していただけたらと思います。

 現場の労働者の中には、本当に利用者の負担がふえてしまうということをすごく気にして、そのことで、自分たち、もう少し労働条件を上げてほしいし給料を上げてほしいけれども、利用者に負担がかかってしまうなら、やはりそれは我慢しなきゃいけないというような気持ちのある人もいるわけです。本来、こういう気持ちを抱かなければいけない仕組みというのは、私どもとしては、やはり見直す必要があるのじゃないかというような問題意識も持っています。

 ぜひそういったことも含めて御議論をよろしくお願いしたいと思います。

高橋委員 ありがとうございました。

 そこで、もう一度遠藤参考人に伺いたいと思います。

 先生は、社会保障審議会後期高齢者医療の在り方に関する特別部会の委員も務めていらっしゃいました。世界一の高齢化率という日本で、いかに高齢者の医療費増加を抑えるか、その決め手が後期高齢者医療制度だったとおっしゃっております。後期高齢者医療制度の診療報酬体系は、脱病院化を推進するための仕組みであると、先生が「世界の労働」一月号「高齢化時代の医療と介護」という論文の中で述べられておりますが、同時に、この間、話し合われてきたような介護の現状のもとで、受け皿がないということを指摘されていらっしゃるし、公的な医療費支出も、世界的に見ても非常に低いので、これをふやすべきではないかという御指摘をされていると思います。

 病院から在宅へ、医療から介護へという流れで一路進んでよいのか、この点について意見を伺いたいと思います。

茂木委員長 遠藤参考人、既に持ち時間が経過しておりますので、手短にお願いいたします。

遠藤参考人 では、手短に。

 私の論文をお読みいただきまして、ありがとうございます。

 基本的にはそこに書いたとおりなわけでありますけれども、日本は、病院の病床数が人口当たりかなり多いということもありますし、確かに長期療養する人たちにとって必ずしも病院が適切な環境かどうかという問題もありますので、そこを、療養環境を変えると同時に医療費を削減していく、コミュニティーケアに移行していこうという流れは、基本的に私は間違っているとは思いません。

 ただ、それぞれがうまくシンクロしないとまずいということはやはりあるわけです。例えば、病床を削減するのであるならば、受け皿はそれに応じて整えていくということが必要であろうし、それともう一つは、書きましたように、やはり財源はふやすべきであるということを私は思っております。

 簡潔ですが、以上であります。

高橋委員 どうもありがとうございました。

 時間の関係で村川参考人に伺うことができませんでした。御了承ください。

 ありがとうございました。

茂木委員長 次に、阿部知子さん。

阿部(知)委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。

 本日は、四人の参考人の皆さんから貴重な御意見をありがとうございます。

 御発言の順に沿って私から質問をさせていただきます。

 まず、遠藤先生ですが、介護事業運営の適正化に関する有識者会議のおまとめを行われたということで、この会議が、とりわけコムスン問題に始まりコムスン問題に終わるのか、さらに深刻な介護現場の状況を一歩でもよくするものとして今回の先生方のおまとめのことが成るのかは、実はこの審議にもかかっておりますし、何よりも、介護現場そのものがもう瓦解、崩壊、いわゆる人から崩壊、中から崩壊しているときですので、この処分関連のことをおまとめいただいたとしても、焼け野原になっているところでは、どんな屋上屋を重ねても物が建つまいとすら思うくらい、私はこの介護問題を危機感を持って受けとめております。

 そして、そういう中で、先ほど先生と他の委員との御質疑を承りながら、例えば介護問題、営利企業の参入を可とするという仕組みで介護保険は始まっておりますが、そのことを一概に否定するものではないと。私もそうだと思うんです。しかし、さはさりながら、では、他の分野では、例えば医療ではほとんどが非営利でございますし、それにのっとって公定価格の診療報酬で行われるわけですが、介護の分野はそうではなくしたわけです。

 例えば二〇〇〇年から二〇〇六年の介護事業者の取り消し処分を見ますと、四百八十二件中三百二十九件が営利の皆さん、約六割でございます。それから、二〇〇六年だけに限れば七十三件の取り消し事業者の中で六十九件が営利の事業者であるということで、やはり、極端に悪い言葉を使えば営利を食い物にするというか、水増し請求したり不正請求したりということは、あり得べきことなんだと思います。

 それに対して、逆に言うと、では、どんなことでどうやってこれを、住民監視のもとに、国民監視のもとに本当によいものに育てていくかというところで、先生にぜひ御尽力いただきたい点がございます。

 私は、このたび県を越える事業所の本部立ち入りを厚生労働省が行う等々、これについても、コムスン問題もそうですが、なぜサービス提供責任者が置けなかったのかというのは、もちろんコムスンを買収したグッドウィルの営利性はありますが、もっと深刻な問題があるとは思っておりますが、そうしたこと以前に、そもそも監査そのものも、例えば訪問介護事業所だと、実地指導というものは二〇%にも満たない数です。すなわち、回り切れない、見切れない、どうしようもないところにあります。

 それに対して、では人員も、もちろん充実も必要です。これをまず第一にやらなきゃいけない。あるいは、第三者機関による評価を高めようというのもございます。もう一つ一番大事なのは、実は情報公開、見える化ということでございまして、この点に関して他の委員からも御質疑がありましたが、例えばその介護事業者が、福利厚生でどのように職員を遇しておるのか、人件費比率はどうであるのか、そういうことをやはりもっと積極的に情報公開していただくための仕組み、あるいは資金援助でもいいと思うんです。今事業者は自分でお金を出して情報公開もしておるんですが、私は、いいものを育てていくためにはその支援が必要だと思いますし、特に、この間問題になります、もし介護報酬を上げてもそれが事業者にばかり行ってしまって人件費比率もよくならない、福利厚生もよくならないのでは、樋口さんがおっしゃったように、いいサービスは出てこないのです。

 ぜひ、先生たちのお考えの延長上に情報公開のあり方、特に事業者の人件費比率や福利厚生を明らかにさせること、私は、その中であれば良貨が悪貨を駆逐していくことも十分あると思うのですが、お考えはいかがでしょうか。

遠藤参考人 私自身も神奈川県下で福祉サービスに関する第三者評価の委員の委員長をずっとやってまいりました。ということで、いろいろと調査票などをつくったりとかとやってまいりましたので、御指摘のことはよくわかります。

 したがいまして、情報公開というのは大変重要になってきております。その中で、利用者だけではなくて、あるいはそこで働こうと考えている人たちにとっても非常に重要な指標を公表の対象にするというような御指摘は、私もそのとおりだなというふうに思いますので、私は、そのような御指摘を受けまして、今後、ぜひそういう方向で私自身考えていきたいと思いますし、また、関係者とそういう話をすることがあれば、そのようなことをお話ししたいと思います。

 ありがとうございます。

阿部(知)委員 ぜひ実現していただきたいと思います。これは見える化ということを抜きに全部を取り締まっていくなんということはできないと私は思います。

 本当はここで、順番にと言ったんですけれども、今の先生のお答えに従って恐縮ですが、三番目の村川先生にちょっと先に振らせていただきます。ごめんなさい。

 今、神奈川県下のことをお取り上げいただいたんですが、実は私も選出は神奈川も含めた南関東という部分です。今、その神奈川県下でも特に神奈川県では福祉人材が、もう本当に求人が応募を大幅に上回る、せんだっての樋口さんたちの集会でも御紹介させていただいたんですが、老人介護分野では有効求人倍率六倍、他の障害者分野でも三倍、そして児童、子供の分野では〇・九九倍。これら福祉分野みんなを平均すると、有効求人倍率が三倍以上となっております。これは果たして喜んでいいのか、先生のように長くこういう福祉人材の育成にかかわってきた方から見れば。しかし私は、この国の若い人が福祉分野に向かうことに大変ためらいと、そして、いや、やめた方がいいなというところまで来てしまっているような気がします。

 先ほどの先生のお話を伺いながら、例えば今回のコムスンの問題でも、サービス提供責任者という十人の中の一人としてサービス提供の質を管理していく方は、この役職をとったとて、その役職が役として認められておりません。すなわち、その役ゆえの固定的な介護報酬評価はありません。医療の世界でもソーシャルワーカーがそのようになっています。そうした固定的な評価がなされない職種というのは、逆に言うと、せっかく頑張っても非常に不安定であるし、また、評価が定まらないということになってきますが、個別伺いたいと思います。

 サービス提供責任者は、やはりきちんと、他の方の上がりから給与をもらうんじゃなくて、介護報酬上位置づけていく、資格を持ってきちんとやっていただく、評価もしていくということは介護人材の面からも極めて重要と思いますが、いかがでしょうか。

村川参考人 今お尋ねのありましたサービス提供責任者は、訪問介護サービスの中核的な役割を果たすスタッフでございますので、お話のとおり、やはりそれなりの社会的評価、介護報酬的な側面での検討ということも大事な課題ではないかというふうに思っております。

 その際、先ほど私も申し上げましたが、現行の訪問介護の報酬単価の中で、身体介護のサービス、生活援助のサービス等ございますけれども、その中に織り込んでいって人件費比率として示して、担当者レベルと責任者レベルということになっていくのか、あるいは独自の加算的な制度を考えるべきか、そういったあたりの技術的な事柄は今後の一つの検討課題であるかと思いますが、私は、介護サービスの質向上ということをかねがね考えている立場の人間の一人としましては、やはりこのサービス提供責任者については、確かに、配慮ある方式ということは工夫が加えられてよいのかな、そんなふうに思ってございます。

阿部(知)委員 先ほど来のお話で、では、そういう介護報酬を上げたら、保険料を上げなきゃいけないかどうかというお話ですが、既にお気づきのように、介護保険の保険料というのは非常に逆進性が高いです。すなわち、累進度がないものですから、少ない収入の方に高い介護保険料になっております。

 私は、これからの高齢社会、もちろん御高齢な中に負担能力のある高齢者もそれはおられますでしょう。そうした格差ですね、本当に格差を是正していくような、年齢内格差そして若い世代との格差を是正していくような保険料の組み方というのはあり得ると思いますので、さっき先生がおっしゃったように、四千円が五千円にすぐなっちゃうとかと言われますと、国民は、そんな、びっくり、これで医療保険の保険料も取られ介護保険が五千円なんてと思ってしまいますから、そこはやはり有識者の知恵で、本当にみんなが安心できる保険料設定あるいは税の投入ということを改めてぜひまたお考えいただきたいと思います。

 さて、お待たせいたしました、樋口先生にお伺いいたします。

 樋口先生や昨日の沖藤さん等々のパワーある女性先輩を見ておりますと、本当にこういう方々によって介護保険がこの社会に生まれたんだと思い、感動もいたします。しかし、これがちょっと迷走をして、二度の介護報酬改定等々で十分育っていけなくなっておる、つまずいておるというところがあると思います。

 私はもう一つつまずいた点があると思うんですが、実は、それまでは各地で有償ボランティアという形でも介護にかかわってくださる方もいらしたけれども、これもまた少し立ち行かない。そして、本来は、若い人たちにきちんとした職として、仕事として、キャリアとして認めてあげる方も成り立たない。どっち立たずになっているような気もするんです。

 ここは大変複雑な質問で恐縮ですが、しかし、介護がエリアで、面で維持されねばならないさまざまな問題を抱えているので、このあたりはどう考えてこの先を打開していったらいいか、私はぜひ樋口先生のいいアイデアを伺いたいんです。お願いします。

樋口参考人 これは、いいアイデアとおっしゃられましても、国会議員もお困りになるんですから、私どももやはりそううまい考えはございません。

 いろいろな考え方がございますから、例えば、私が今ここで申し上げることも、今の世ですからやみ討ちにも遭いませんけれども、ある派の方からは、とんでもないことを樋口が参考人に呼ばれて口走って帰ってきたといって非難の的になるのではないかと思っております。

 でございますから、私どものこの要望書をごらんいただけばわかるわけですけれども、私どもは、あくまでも三万円法でございましたけれども、これはやはり緊急的な措置として、むしろ五年の時限でいい。五年と書いてなかったですか。なかったとすれば、もう本当に五年ぐらいの時限のつもりで、その間に、五年かければ、みんなの知恵を集めれば、まだ介護というものの専門性の、ある意味で標準化もされておりません。そして、その介護というものが、では、他の職種、医師、特に看護師たちとどういう違いがあり、どういう別な専門性を持つか、こういうこともさんざん言われていながら、まだ経験の蓄積が、やっと九年でございますから、まだ十分されていない。

 そういう経験をきちんと蓄積した上で分析し、介護という専門職に対する評価をきちんとした上で、例えば看護師さんの時給の、私は一〇〇%とはいかないと思うんですけれども、これはまた一〇〇%であるべしという御意見もございます。私は、看護職に比べて何十%でよろしいと思っておりますけれども。そして、教育年限をどうするかこうするか。介護福祉士のあり方検討委員会とかそういうところもございますけれども、五年の間に介護福祉士の専門性をきちんと固めて、そこに評価した給与を支払っていく、これが第一段階です。

    〔委員長退席、吉野委員長代理着席〕

 その第二段階では、介護に携わる人は全部、介護福祉士ないしそれに準ずる資格を持った人でなければならないか。

 ここで意見は二つに大きく分かれます。養成校の方や介護福祉士を育てていらっしゃる学校の学者、研究者の方々などは、むしろそれだけでいいのだ、厚労省も、割にそれだけでいいのだというお考えだったというふうに私は見ております。ただ、それでは介護に携わる人は足りない、これは私の実感でございます。

 介護というのは、もっともっと国民が広く参加して、一時、有償ボランティアという言葉が使われましたけれども、これが、先ほど私が申し上げました、日本はまことに情けない国で、これはもうぜひ変えていこうと今、別な方面でも努力いたしておりますけれども、妊娠した女性の何と七割が出産までに職場をやめざるを得ない国でございます。こんな国は先進国の中で一カ国もございません。大体、妊娠、出産と仕事とが両立しております。

 ただ、日本は、少なくとも現状までは妊娠、出産と仕事の両立ができないで、それが少子化の原因にもなっているわけでございますけれども、とにかくそこでやめていく女性の人材がごまんといる。このごまんといる優秀な人材が介護の世界に入ってくる、あるいは保育のサポートに入ってくる、これは私はすばらしいことだと思っております。やめるのはすばらしくないことだけれども、せめて次善の策として再チャレンジで介護の世界に入ってきてほしい。

 ただ、家庭の主婦となった方に二年間の二千時間近い教育を一気に受けろと言う。ですから、ぜひ先生方にお願いいたします。こうした中高年の主婦を中心とする人の再チャレンジのために、ぜひ奨学金制度をつくっていただきたい。国立の医科大学はあります。国立看護学校はございます。国費で介護福祉士を養成する学校が、村川先生のところがそうかといえばそうかもしれませんけれども、もうちょっと高度の仕事をなさる方の養成のようでございます。本当にぜひ国費で介護職を養成してほしい。

 そのときに、この二千時間近い養成時間を経なくてはいけないかどうかというと、今、現場経験とそれから国家試験によって資格を得ることができます。それから、今までは、三級は廃止されましたけれども、現に訪問系で働いている人のかなりの方は二級ヘルパーでございまして、一級ヘルパーもおられます。

 こういう方々は、資格はそう高くないかもしれないけれども、実にいい仕事もしておりますし、看護や医療とちょっと違うと思うのは、介護というのは非常に日常性というのがやはり高いということ。その日常性のベテランとしてこういう方々を大いに活用していただきたいし、そうなった場合に、全く同じ賃金を払えと言うべきかどうかということ、私は若干の疑問を持っております。にもかかわらず、そういう方々もスーパーのレジ打ちよりは若干高い時給を払っていただきたいし。

 ですから、私自身は、こんなことを言うと、樋口はいつから軍国主義になったかと言われそうですけれども、私は軍国主義では絶対ありません。軍国おじさんというのは別な方で、私は平和おばさんでございます。でも、軍隊組織が、言ってみれば、幹部の隊員がいる、一方で、何かあったときに、志願兵というのかボランティア、ボランティアのもとの意味は志願兵でございますから、そこにたくさんいて、しかし一定の訓練を受けて、そして国の守りを行っていく。

 私は、現在、日本における国の安全と防衛というのは、いわゆる安全保障の意味もさることながら、人生百年に拡大したこの人生の中で、人間が老いて尊厳を持って生涯を終わっていく、これも立派な人間の安全保障だと思っております。そして、この人間の安全保障の部分が大変拡大していくのがこれからの約三十年でございます。この時期におきましては、私はやはり、志願兵的と言ったらちょっと言葉が悪いのですけれども、中途からいろいろな人を訓練して、しかし、そのとき職務分担をどうするか。そういう人たちも健康管理とかあるいは年金につながるとか、そういうことはきちんとした上で、介護の中をもう少し二段階ぐらいに分けてもいいのではないかと思っております。

 これで帰りは袋だたきです。確実です。

    〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕

阿部(知)委員 済みません、苦しいことを言わせて。

 私も、中核を担う人材は日本はもっと遇するべきで、それは給与もそうですし、身分もそうです。実は、清水さんにその点を伺おうといたしましたが、先ほどのお話の中で、福祉職の俸給表の話を出されました。これは、国家公務員の俸給表に準じてというのが指針にも出ておりますので、国会議員としては、ぜひ立法化に、何とか与野党の合意でしていきたいと思います。そして、それらがあってもなお、やはり介護というのは日常だから、足りない部分を広くもっとみんなで担えるアイデアをぜひこれからも求めていきたいと思います。

 ありがとうございます。

茂木委員長 次に、糸川正晃君。

糸川委員 国民新党の糸川正晃でございます。

 本日は、四人の参考人の皆様方、大変貴重な御意見をありがとうございました。私は最後の質疑者でございますので、皆様方にお聞きをしていきたいというふうに考えております。

 まずは樋口参考人にお尋ねをさせていただきたいんですが、今回のコムスン事件、起きてしまったわけでございますけれども、介護保険制度自体について、創設以来今まで、制度全体として普及状況、実施状況についてどういう評価をされていらっしゃるのかということと、もし、その評価が創設をされた時点と今と変わっているということであるならば、どの辺から変わってきたのかということをお尋ねしたいんですが、お答えいただけますでしょうか。

樋口参考人 介護保険は、国民の要望を受けて、何度世論調査を繰り返しても、新聞社系も政府系の世論調査機関も、これははっきりと、負担がふえるということはみんな国民は理解していながら、常に八割以上の賛成をもって介護保険制度創設にゴーサインを送りました。

 これは、昨日から天引きの始まった高齢者医療が、私は、いまだに幾ら引かれているかわからない。やはり、おまえの保険料は幾らになるぞぐらいは、せめて知らせていただきたかったなと思っているんですけれども、このときの厚生省の態度というのは、非常に丁寧に国民に説明され、とてもよかったと思うんです。全国あちこちで御意見を聞く会を開き、説明責任を十分に果たして出発したと思います。

 結果として、介護保険制度の創設というのは、基本的に大成功であり、世の中の風景を変えました。第一に、さっき申し上げましたように、介護のバリアフリーができました。そして、第二番目に、今まで、言ってみれば、だろう話でやっていた介護のあり方などが、三百万、四百万というエビデンスができまして、そのエビデンスに基づいた政策を立てることが可能になりました。

 サーチライト効果というのもございます。介護に光が当たり、今まで家の中に入っていけなかったのが制度上ちゃんと入っていけるようになり、光が当たると周辺部も見えてまいります。そのような形で見えてきて立ち上がったのが高齢者虐待防止法であろうと思っております。

 そして、何よりも、マーケット効果といいましょうか、あのときは不況のどん底だったのです。今、人手不足にあえいでいるということの大きな理由の一つも、これは先生のお答えの一つにもなると思いますけれども、あのころ、十三年前の介護人材確保の指針も、これまた、あの時代としてはとてもよくできた指針としてできておりました。しかし、介護保険創設に当たって、介護従事者に対して、あの指針はほとんど発動されなかったし、あえて言えば、一顧だにされなかったという感じが私はいたしております。

 それはなぜか。二〇〇〇年、スタートの時期、日本は大不況の中にあえいでおりました。そして、失業率は増加し、賃金は上がらない。日本の賃金は高過ぎるという名目の中で、どんどんと賃金の切り下げ、それから総賃金の切り下げのための雇用の非正規化がどんどん進みました。

 私は、実は介護保険創設に審議会のメンバーとして携わらせていただいて、幾つもの心残りがございましたけれども、最大の心残りが、家族の嫁に特化されていた介護を社会全体で担うということはとてもすばらしいことなのですけれども、介護労働者に対して、賃金ということと雇用の身分の安定ということをきちんと図れないということがいまだに胸の痛みになって残っております。

 しかし、あのとき、どんどん雇用の規制緩和が進み、非正規雇用がまるで善なるかのごとく進んでいき、今の格差拡大の遠因をなしておりますが、その時期に、介護だけ正規雇用化せよとか、介護だけ賃金を高くせよということは絶対に言えない雰囲気でございました。そのことが今に尾を引いていると思います。

 何よりも、あのとき、介護という仕事とIT分野だけが雇用を創出しているといって、ほとんど胸を張っていた。そこで油断している間に、ほかの景気がよくなっちゃったもので競争が成り立たなくなったというのが現状であろうかと私は思っております。

 長くなるので、この辺でやめさせていただきます。

糸川委員 ありがとうございます。

 次に、四人の方にそれぞれお伺いをしたいというふうに思っておりますが、民主党案に対してお伺いしたいと思います。

 民主党案の仕組みでは、地域の平均賃金より高い賃金にすると。今、樋口先生も、賃金の問題も先ほどから多くの議員がこのことについて質問をしておりますけれども、地域の平均賃金より高い賃金にするんだということで認定されると、加算介護報酬が算定されることになるわけでございます。

 この仕組みでは、企業としての体力のあるところばかりが認定されて、ぎりぎりのところで精いっぱい努力している零細の事業主は認定を受けられない、事業所間の格差が広がってしまって、職員の移動が起こるかもしれない、結果として、小規模事業者が淘汰されてしまうんじゃないかというような指摘があったわけでございますが、実際、そういうことがあるのかどうか、御意見をお伺いできればというふうに思います。

遠藤参考人 適切なお答えになるかどうかわかりませんし、実際あるかどうかということで、あくまでも予測ということになりますので確たるあれはありませんけれども。

 同じ内容ではありませんけれども、類似のケースとして、十八年度の診療報酬改定で、入院基本料の中で新たに一対七という看護基準をつくりました。これは、非常に看護密度の高い医療機関に入院すると報酬が高くなるという制度だったわけですけれども、そういうインセンティブをつくったために、非常に多くの看護師さんが大病院で雇用されるという形になりまして、その結果、訪問看護ステーションであるとか小規模の病院であるとか、あるいは診療所などは、新たな看護師さんの雇用が少し大変だというようなことがあって、そんなこともありましたので、二十年の診療報酬改定では、どこもかしこも一対七基準はとれませんよ、一対七基準をとるためには条件が必要ですよという条件をかけた。と同時に、もう少し看護密度の低い十対一をやっているところも少し上げましょうという形で、一対七のインセンティブを少し減らしたというようないきさつがありました。

 ということで、診療報酬の価格づけというのは、やり方によっては相当な労働移動を生じさせるという点は否定できないわけであります。ただし、それは、今度、介護でこのケースがそのまま適用できるかというと、若干違います。インセンティブの与え方は今回は価格を高くするという話ですけれども、診療報酬の場合はたくさん雇ったらば価格を高くする、こういうインセンティブのつけ方をしておりますし、看護師さんは、潜在看護師さんを入れても、ある程度上限があるでしょうけれども、介護士さんの方は、どちらかというと参入障壁が低いので、ほかからも入ってくるということもありますので、さあ、そこのところは同じアナロジーで議論できるかどうかはわかりませんけれども、かなり移動はあり得るかなというふうに、そのような経験から私は想像いたします。確たる保証はありません。

 以上です。

樋口参考人 直接のお答えになるかどうかわかりませんけれども、私どもの要望書で、そういういろいろな事業所、大規模の全国展開のような企業と、地域密着型の事業所との格差はいろいろあると思いますし、それが、今度、民主党案で、また格差が拡大するという可能性が本当にあるかどうか、私はちょっとよく見えないのでございますけれども。

 私どもの要望書にございますように、むしろ、国は、地域密着型事業所等の小規模の事業所の事務費の削減と、それから可視化、見える化というのでございますか、今、阿部先生のお話で、見える化、簡素化を目指して地域全体の事業所事務のネットワーク整備、ここをむしろ厚生労働省の責任で支援して、そして、地域の零細事業所が小さいからといって決して平均以下になるということのないような手だても同時にとっていただきたいな、そんなふうに思っております。

村川参考人 最初の私からの意見の部分で十分な御説明ができなくて申しわけなく思っております。

 私が所属しておりました介護サービス事業の実態把握のワーキングチームにおきまして検討されました資料の一つでございますけれども、介護労働者の離職率を詳しく見た場合に、これは訪問介護の事業所関係でございますけれども、中には離職率がゼロ%というような事業所もございます。正社員について六四・四%というような数字があったり、あるいはまた、これはパートを除く非正社員について六五%から七〇%程度、そういったようなしっかりとした、定着率の比較的よい事業所がある一方、逆に離職率が三〇%を超えてしまっているところがあるということで、やはり現実に、事業所は、離職率という点でも、いろいろな実態としての格差、また地域性等も反映されているかと思いますけれども賃金格差、これは法人の姿勢による場合、あるいはまた、規模が小規模であるがゆえに結果的に管理経費が大きくなってしまう。

 いろいろな要因が仮説としても考えられるところでございますから、そういう点では、この介護保険制度は、あくまでも運営の主体は保険者、市町村でございます。都道府県という単位で、確かに平均賃金は計算できるわけでありますが、平均賃金を割ってしまったところが、やや意図的に人件費を圧迫している事業所なのか、それとも、やむを得ずそうした状況に落ち込んでいるのか。いろいろな錯綜した状況もございますから、そこのところについて、単純に白黒をつけるという加算方式というものがよろしいのかという点について疑問を生じておりますので、やはりここのところはデータ的にもよく精査をしていただくということが大事かなというふうに思っている次第でございます。

清水参考人 民主党の法案に関しては、基本的には先ほどお話ししたとおりであるわけですが、ただ、確かにまだ始まっていない制度の中で、実際にそういう差が出るかどうか、それに関しては確かに何とも言えないというところもありますし、逆に、一定底上げということに対して効果が生まれる可能性もあるのではないかと思っております。

 ただ、これまでの介護保険制度の中で、それぞれ事業所の賃金の決め方というんですか、決まり方というか、そういう傾向を見てみますと、報酬単価という、ある程度経営の将来的な展望がなかなか見えにくい制度の中で、また、この間、介護保険制度の報酬単価見直しの中で単価が下がっていますよね。そういう事情を考えて、多くの事業所というのは、賃金をできるだけ抑制する、人件費を抑えるという方向で進んできたんじゃないかなと思うんですね。

 それを考えると、確かに基準として、私たちがかねがね言っている基準とは違う基準ですけれども、それがある程度提示されることによって、全体として、事業所単位でそれに向けて賃金改善の一定の努力というんですか、そういう作用が働くことはあり得るだろうというふうにも思っています。

 以上です。

糸川委員 ありがとうございます。ちょっと難しい質問だったかもしれませんが。

 時間がだんだんなくなってまいりましたので、これは遠藤参考人と樋口参考人にお伺いしたいんですけれども、若干法案の内容からずれてしまうんですけれども、せっかくきょうは専門家ということで参考人でいらっしゃっておりますので、どうしてもお伺いしたいなと思っております介護保険制度のあり方にかかわる問題ということで質問をさせていただきたいんです。

 今、高齢化の進展に伴って、これからはひとり暮らしの高齢者の方々がだんだんふえてくるんじゃないかなというふうに傾向としてはとらえております。ひとり暮らしの要介護の高齢者が自宅で自立して暮らしを続けるということのためには、さまざまなサービスが必要になるというふうに思います。これは要介護度にもよりますけれども、例えば、昼間は何とか一人で過ごしていらっしゃる、ただ、夜間数回、見回りですとか排尿の介助を必要とする、こういう方に対して、現在の介護保険制度でしっかりと対応できているのかということ。それから、制度の上では夜間介護訪問というのもあるわけですけれども、現実として、それは全国どこでもこういうサービスがしっかりと受けられる状態になっているのかどうか。

 介護保険制度は、利用者の自立と尊厳を支えるものとされているわけでございますが、厚生労働省の方針というのは在宅重視というふうにもなっております。今申し上げたような例の方をしっかりと支援することができないのであるならば、この制度の理念に反するのかなというふうに考えます。

 そこでお聞きしたいんですけれども、今のような方の夜間の介護を現在の介護保険が十分にカバーできないのではないかなというふうにお考えなのかどうか。もちろん、これは財源の問題もございますけれども、実際カバーすべきだというふうにお考えなのかどうか。対応できていないとしたら、どういう仕組みにすればできるというふうにお考えなのか。二名の方からお伺いしたいというふうに思います。

樋口参考人 今、お一人様ブームでございまして、上野千鶴子さんの「おひとりさまの老後」は、一年足らずで七十万部売れております。私は、世代間交流の大切さということを思っている人間なものですから、少し前に「祖母力」というのを書きました。これは、二年たって、たった二万部しか売れておりません。

 いかに世の中がひとり暮らしの方に、若い人はもちろんでございますけれども、高齢者もひとり暮らしが、今、三百六十万が間もなく五百万ということでございまして、そのひとり暮らしも、実はついこの間まで七五%、今は女性が四分の三でございますけれども、やがて十年後には男性が三分の一を占めるそうでございまして、男性のお一人様も決して人ごとではございません。

 ですから、私は、厚労省の介護保険の政策に大変矛盾を感じておりますのは、恐らく、それこそ民より金だからだと思うんですけれども、在宅へ、在宅へ、在宅へというのが介護保険制度始まって以来の厚労省の呼び声であり、もしかしたら政治の世界がおっしゃるから厚労省がそうなのかなと思っております。

 在宅というものは、私は、とかなんとか言いながら、介護保険制度創設以来の動きの中で在宅の概念定義が変わったと思っております。在宅は、昔は自宅であり、もっと端的に言えば、在宅は、高齢者にとっては子供の家、特に息子の家でございました。子と同居していれば、その高齢者はほとんどノーマークになりました。しかし、このところ、やはり在宅の概念が変わってまいりまして、高齢者は、自分が選び取った、長年そこで生き続けてきた、自分の生きてきたあかし、継続性のある、言ってみれば自分が主人公であり得る物理的、精神的空間を在宅と呼ぶようになったのではないかと思っております。

 ですから、介護保険改正、報酬の面では、お金の面では私は今度の改正は全然評価していないんですけれども、でも、やはり評価すべき面もございまして、介護保険制度の今度の改正の中で幾つかのキーワードがあり、尊厳、地域、そして住宅、このあたりにシフトしてきたことは、私は結構なことだと思っております。

 地域密着型サービスとか小規模多機能施設とか、そういう形で地域型になってきているという点は評価してよくて、しかし、在宅へ、在宅へと言われたって、先生おっしゃいますように、要介護度の重い、特に医療的な支えを必要とする人が、これだけ、ひとり暮らし、それから老夫婦、こちらは要介護四、こちらは要介護一なんという方の方が多いんですよ。

 だから、PPKは、ぴんぴんと健やかに老いてころりと死ぬというのは理想ですけれども、現実を見ているとYYIというのが多いんです、よろよろ生きる。それで、そばにいる人はYYK、よろよろしながら介護している。これは、地域の支え、介護保険がなかったら、どうやっていけますか。

 私は、難民という言葉を軽々に使いたくないと思ってかなり控えておりました。それこそ国際難民条約などを見たら、日本のいろいろな人を難民と言ったら申しわけなくて本当は使えないと思っておりましたけれども、今の介護労働力の不足により、これからますます放置され、質の悪い介護のもとに置かれる高齢者がふえる政策の中にあると思いますと、私はあえてこれから介護難民がふえるという言葉を声を大にしていきたいと思っております。

 最後の発言ですので、高齢社会をよくする女性の会はこれからもいろいろな発言を続けていきたいと思いますけれども、昨日集まりました三百人の人々は、実は志を同じゅうするさまざまな市民団体がいっぱい一緒に連合しておりますので、これから私たち市民と国会の先生方と協力し合いながら、緊張関係ある協働関係を持ちつつ、介護難民を出さない政策を進めていただきたいとお願いいたします。

 ありがとうございました。

遠藤参考人 ただいま樋口先生からすべてお話しいただきましたので、それでは私は若干特化したお話をさせていただこうかと思います。

 御案内のとおり、今、在宅へシフトというのは、必ずしも介護の世界だけではなくて、むしろ医療の方から在宅にという流れもあるわけですね、医療から介護へと言ったらいいのかもしれませんけれども。これは、人口当たりの病床数が非常に日本は多いとか、そういう流れの中で、この政策そのものは私は方向は間違っていないと思っております。

 問題は、先ほども申し上げましたことの繰り返しになりますが、受け皿の問題でありまして、一人でお住まいになっているか、あるいは居住系の施設の中におられるか、それはともかくといたしまして、ある程度医療ニーズが今よりも高い人たちが介護の中に入ってくるという形になります。それをバックアップするためのそれなりの医療的なサポートシステム、在宅医療、訪問看護が必要になるわけですね。そこら辺の受け皿をきちんとつくるということが非常に重要だろうというふうに思っております。

 訪問看護などは特に非常に重要だと思いますけれども、果たしてそれが全国均等に提供されているのかどうかというと、甚だ私は心もとないような気もいたしますし、そういうところが今後非常に重要になるのではないかな、そんなふうに考えております。

 以上です。

糸川委員 どうもありがとうございました。終わります。

茂木委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。

 参考人各位には、本日は長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただき、まことにありがとうございました。介護を取り巻くさまざまな論点について議論が深まったと考えております。委員会を代表して厚く御礼申し上げます。

 次回は、来る十八日金曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時十三分散会


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