衆議院

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第12号 平成16年4月23日(金曜日)

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平成十六年四月二十三日(金曜日)

    午前九時一分開議

 出席委員

   委員長 根本  匠君

   理事 今井  宏君 理事 江渡 聡徳君

   理事 櫻田 義孝君 理事 塩谷  立君

   理事 鈴木 康友君 理事 吉田  治君

   理事 井上 義久君

      今村 雅弘君    遠藤 利明君

      小島 敏男君    小杉  隆君

      河野 太郎君    佐藤 信二君

      菅  義偉君    谷  公一君

      西銘恒三郎君    平井 卓也君

      藤井 孝男君    松島みどり君

      宮路 和明君    梶原 康弘君

      菊田まきこ君    近藤 洋介君

      高山 智司君    樽井 良和君

      辻   惠君    中津川博郷君

      中山 義活君    計屋 圭宏君

      村井 宗明君    渡辺  周君

      江田 康幸君    河上 覃雄君

      塩川 鉄也君    坂本 哲志君

    …………………………………

   経済産業大臣政務官    江田 康幸君

   経済産業大臣政務官    菅  義偉君

   参考人         

   (東京大学教授)     後藤  晃君

   参考人         

   (弁護士)        竹田  稔君

   参考人         

   (凸版印刷株式会社専務取締役広報本部長兼法務本部長)

   (社団法人日本経済団体連合会産業技術委員会知的財産部会長)        石田 正泰君

   参考人         

   (日本労働組合総連合会総合政策局部長)      大橋 太郎君

   経済産業委員会専門員   鈴木 正直君



    ―――――――――――――

四月二十日

 容器包装リサイクル法の改正に関する請願(河村たかし君紹介)(第一六三五号)

 同(岡本充功君紹介)(第一六五一号)

 同(鈴木淳司君紹介)(第一六五二号)

 同(島聡君紹介)(第一六六八号)

 同(前田雄吉君紹介)(第一六八七号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一七五一号)

 同(松崎公昭君紹介)(第一七八〇号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律案(内閣提出第三七号)


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     ――――◇―――――

根本委員長 これより会議を開きます。

 内閣提出、特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 これより質疑に入ります。

 なお、本日は、参考人として、東京大学教授後藤晃君、弁護士竹田稔君、凸版印刷株式会社専務取締役広報本部長兼法務本部長・社団法人日本経済団体連合会産業技術委員会知的財産部会長石田正泰君、日本労働組合総連合会総合政策局部長大橋太郎君、以上四名の方々に御出席をいただいております。

 この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。

 本日は、御多用のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。

 次に、議事の順序について申し上げます。

 まず、参考人各位からお一人十五分以内で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、念のため申し上げますが、御発言の際はその都度委員長の許可を得て御発言くださいますようお願いいたします。また、参考人から委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、御了承願います。

 それでは、まず後藤参考人にお願いいたします。

後藤参考人 ただいま御紹介いただきました東京大学教授の後藤晃と申します。

 私は、経済学を勉強しておりまして、その中でも産業経済とか技術経済といったような分野を勉強いたしております。また、今回の特許法の改正に向けまして検討を行ってまいりました産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の委員長を務めさせていただいております。

 これから、今回の特許審査の迅速化等のための特許法等の一部を改正する法律案に関連しまして、私の意見を申し述べさせていただきます。

 日本経済というのは、今現在、景気が回復してきた兆しが見えているわけでございますけれども、ようやく長かった経済の低迷から脱することができるのではないかという期待を持たれているわけであります。しかし、より長期的に、例えば十年とか二十年とかいうスパンで見ますと、必ずしも楽観はできない状況であります。

 御案内のように、人口の高齢化が急速に進んでおりまして、労働力は既に減少に転じているわけでございます。この傾向はさらに今後加速されていくということは、ほぼ確実なことだろうと思われています。それから、貯蓄率も既に急速に低下している状況でありまして、このように経済の生産要素として非常に重要な労働と資本というものが減るのではないか、あるいは余りふえないのではないかという状況がほぼ確実だというふうに思われている状況であります。

 そこで、今後経済の長期的な発展というものを維持していくためには、技術進歩によってこれを図っていくということが何よりも重要な、非常に重要な課題になるというふうに思っております。技術進歩を実現していくためには、何よりも民間企業の研究開発が活発に行われていく、それによって技術進歩を進めていくということが重要な課題となってくるというふうに考えております。

 また、国際的に見ましても、非常に市場での競争というものが激化しておりまして、世界市場あるいは日本国内市場においても海外の企業との激しい国際競争に勝ち抜いていくということが必要でありますが、そのためには、高い技術の水準というものを維持して発展させていくということが何よりも重要なことになるわけでございます。特にアジアの諸国が激しく追い上げているわけですので、日本としては、より高度な技術を開発して、その先を行かなければいけないということです。

 ところで、特許制度と申しますのは、技術に関する基本的なルールを定めたものでございますから、技術の役割が重要になるに従って、とりわけ高度な技術の開発が重要だということに伴いまして、特許制度の重要性というのが非常に大きなものになってきているというふうに考えております。特許制度が技術革新を促進するような形の制度になっているということが何よりも今後の日本経済の発展にとって大事なことであろうというふうに思っております。

 そこで、いろいろな環境の変化の中で特許制度のあり方を点検して、必要があれば技術革新にとって望ましいような形にこれを変えていくということを常に行っていく必要があるわけであります。そのような意味から、今回の改正法案というのは重要な意義を持つものだというふうに理解しております。

 今回の法案は、二つ大きな内容がありまして、特許審査の迅速化、それからもう一つは職務発明制度の見直し、この二つが主要な内容となっております。主に職務発明に少し時間を、ウエートを置きたいと思いますけれども、この二点について私の考えを以下で述べさせていただきたいと思います。

 まず、特許審査の迅速化でありますけれども、いつの時点でも、審査請求された技術に対して特許を与えていいかどうかという審査を迅速に行うということが必要なことに変わりはないわけでありますけれども、特に最近は技術の進歩のスピードが非常に速くなっておりますので、一年、二年という間に非常に大きな変化が起こってくる。ですから、迅速に審査をしていくということが一層重要になってきているということであります。

 そこで、我が国の状況を見てみますと、日本の企業は非常に活発に研究開発をやって出願をたくさんやっているということもありますし、また、過去の制度改正の影響などもありまして、迅速な審査を行う必要性というのが極めて今高くなっているという状況にあります。たくさん滞貨がたまっていて、早くこれを処理しなければいけないという状況が、非常に喫緊の課題になっているということなわけであります。

 そこで、迅速な審査体制を築いていくということが重要なわけですけれども、それと同時に、早くやるということで質が落ちてはどうしようもないわけで、審査の質を維持しながらかつ早くやっていくという非常に難しい課題をこなさなければいけないということになります。スピードアップした結果として審査の質が落ちて、本来特許を与えるべきでないような技術に特許を与えてしまったり、あるいは与えるべき技術に与えなかったりというようなことがありますと、これは国民経済的に見て非常にマイナスになってくる。特許制度は、新しくて有用な技術に対して独占的な権利を与えるというものですから、これを間違えた運用をしますと、国民経済的に非常に大きな影響が出るということになります。ですから、非常に的確な審査をするということもまた極めて重要な課題になるわけであります。

 ところが、今日は非常に技術が高度化しておりますので、それから進歩のスピードも速く、バイオテクノロジーとかいろいろな新しい分野が次々生まれてきている状況でありますから、的確な審査をしていくということもなかなか難しい。審査に非常に大きな苦労を伴うということになるわけであります。

 そこで、迅速でかつ的確な審査をしていく、そのための体制を整備していくということは非常に重要な課題になってきているわけで、こういう体制の整備をしていくということは、技術立国を目指す日本の基本的なインフラストラクチャーとして重要視しなければいけない。

 例えば、明治時代に近代経済成長を日本が図ったときに、明治の先達が港湾とか鉄道とかそういったインフラを整備していったわけですが、それに匹敵するようなものとして、二十一世紀の知識型の社会をつくっていくときのインフラとして、的確で迅速な審査体制を築いていくということが非常に重要な意義を持つということになりますので、制度を工夫したり、さらには一層の資源を投下したりして整備を図っていくということが非常に重要だというふうに考えております。

 それから、職務発明の見直しですけれども、先ほど申し上げましたように、日本経済にとっては、長期的な観点から考えますと、技術開発を活発にやっていくということが大事なわけで、そのために、技術に関する基本的なルールである特許制度を整備していくことが重要であるということを申し上げました。

 ところが、最近、御存じのように、職務発明に関する訴訟がたくさん起こってきておりまして、中には巨額な支払いを企業に事後的に求めるというような判決も出されています。ですから、企業にとってみますと、裁判所によって事後的に予期しない大きな支払いを命じられるというリスクに直面しているということであります。また、従業員の方にも、自分の発明に対して企業が十分に報いていないという不満を持っている、あるいはそういう不満を会社が十分に聞いてくれないという不満を持っているという人も少なくありません。ですから、こういう状況は決して望ましいものではなくて、今回提案されているような制度改正が必要だというふうに考えております。

 現在の特許法は、御存じのように、特許を受ける権利というのはまず発明した人に帰属するわけですけれども、研究者は発明するために給料を払われているわけですし、研究の設備などは会社側が負担しているわけでありますから、特許法では、会社の就業規則などによって、研究成果である特許権を発明者から企業が自動的に引き継ぐということを認めているわけであります。企業は、それを引き継ぐかわりに相当の対価を発明者に支払わなければならない、これが現行のルールなわけですけれども、こういうルールでこれまで特に問題もなくずっと過ぎてきたわけでありますが、近年、先ほど申し上げましたように、対価が少な過ぎるというようなことで、主に会社をやめた後に会社を訴える人がふえてきておるわけであります。

 今の制度の問題点というのは、具体的に次のようなところにあるというふうに考えております。

 第一は、発明者側が、先ほど申しましたように非常に不満を持っている。これまで対価を決めるルールというのは企業側が決めたものでありまして、そのもとで、研究者にとってはもらう額が少ないという不満が何よりもありますし、また、そのことについて不満を言う場がないという不満があるわけであります。

 それから、企業側の不満というのもあるわけでして、企業は、当然、成功する可能性の小さい研究開発プロジェクトにも多数巨額のお金をかけて取り組んでいるわけでありまして、実際、ほとんどの研究プロジェクトというのは失敗して、研究費さえ回収できないという状況にあるわけであります。

 また、その成功したものについても、成功したものが商業的に成功するまでには、工場で生産に携わる労働者の方や販売の第一線で営業に努力されている方々の苦労というのも必要なわけで、そういうものが相まって初めて技術革新というのが成功するわけであります。

 それにまた、企業側では、従業者に対して安定的に給料を払っているわけでありますし、そのほか、昇進とか研究環境の整備というような形で、さまざまな形で報いることができるわけですが、現行の制度ではこういうことが余り考慮されないということになっております。

 そこで、今回の検討されております改正案では、こういう点を考慮しまして、次のようなものを目指しているということであります。

 まず、何よりも、企業は研究者の意見を十分に聞いて、その意見を反映した報償規程を策定するということを求めているわけであります。さらに、企業はそういうふうにして策定したルールを社内に広く周知徹底する、あるいは新入社員や中途入社の社員にも広く開示するということをまず何よりも求めております。

 そして、さらにそういうルールを個別の具体的な発明に当てはめるときにも、公平に、公正にこれを当てはめていって、それに対して不満を持っている場合には、その不満に対応するような仕組みも社内につくるということも必要だろうというふうに考えております。こういうようなルールを適切なプロセスで決めて、それを企業が公正に運用するというふうな努力をしておりますれば、その額というものが尊重されるということになります。

 こういうことによって、勤務先の企業を訴えるというのは日本の企業ではなかなか大変なことですから、勤務先の企業を訴えるところまではしたくないけれども、会社の処遇に対して不満を持っているというような多くの声なき研究者の方々の納得感は、非常に高まるというふうに考えております。結果的に裁判も減るのではないか。研究者の納得感も高まることになりますし、企業側でも危険にさらされるということが減るのではないかというふうに思っております。こういうような両者が話し合って歩み寄る仕組みをつくるということが、まず何よりも大事だというふうに考えております。

 特許庁の方においても、この仕組みをつくるプロセスを助けるために、いろいろな事例集をつくったりセミナーなどを開いて、こういうふうな制度がよく理解されて、機能していくような努力をすることが必要だろうというふうに考えております。

 最後になりますが、企業と研究者は別に相対立する存在ではありませんで、両者の関係というのはゼロサムゲームの関係でもないわけであります。研究者も企業の一員でありまして、自分の開発した技術が社会に広く役立って、広く使われるということに何よりも喜びを感じているわけでございます。企業側もまた、競争相手との激しい市場での競争に勝つためには技術開発が何よりも大事であって、そのためには、研究者に適切な処遇をしてインセンティブを与えるということが大事だということは、当然意識しているわけであります。

 ですから、こういう新しい仕組みのもとで、研究者が納得感を得て、意欲を持って研究開発に取り組んでいく、企業はリスクから解放されて積極的に研究開発投資を行っていくということによって、双方の関係が非常にプラスサムの関係に転じて、技術革新が実現され、日本経済が活力のあるものになっていくのではないかというふうに期待しているところであります。

 以上で私の意見を終わらせていただきます。(拍手)

根本委員長 どうもありがとうございました。

 次に、竹田参考人にお願いいたします。

竹田参考人 御紹介いただきました竹田です。

 私は、四十年間裁判官を務めまして、平成十年四月に退官しましたが、後半の十五年間は東京高等裁判所判事として専ら知的財産権事件の処理に当たってきました。その後、六年間弁護士をしているわけですが、知的財産権の訴訟事件を主に担当とするとともに、裁判官時代を通じて十数年、政府の審議会その他の関係機関において知的財産制度の改革等の仕事にも関与いたしてきました。

 本日は、職務発明制度一本に絞りまして、私の見解を述べさせていただきたいと思います。あらかじめ意見要旨をお配りしてありますので、それに基づいて私の意見を述べることとさせていただきます。

 特許法三十五条は、その立法趣旨を、職務発明に係る特許を受ける権利等は、発明者である従業者等に当然帰属するものとして、従業者等の権利を確保する一方で、その発明は当該従業者が使用者等との間の雇用関係に基づいて、その業務に従事することによって得られたものであることにかんがみまして、使用者等は当然に通常実施権を取得するものとし、かつ、使用者等に従業者からの当該特許を受ける権利の事前承継を認めるのと引きかえに、従業者等にその発明の対価の支払いを受ける権利を認めるとともに、さらに対価算定の基準を定めることによって、使用者等と従業者等との間の利害の調整を図っている規定であると言えると思います。

 職務発明について外国の制度を見ますと、米国では、発明は従業者に原始的に帰属しますが、契約の定めによりまして使用者等へ譲渡されるのが通常の形態であります。また、英国やフランスは、この制度とは逆に、原始的に使用者等に権利が帰属する、いわゆる法人発明の制度をとった上で、従業者等に補償を受ける権利を認めております。ドイツでは、我が国とほぼ同旨の制度が採用されているわけです。

 知的財産研究所が平成十四年四月に実施しました調査結果によりますと、我が国では、勤務規則によりまして職務発明に係る特許を受ける権利を使用者が承継する例は、大企業では約九〇%、従業者三百人以下または資本金三億円以下の中小企業では約五五%でありますが、そのほとんどが承継による相当の対価について補償規程を設けております。なお、契約による場合もあるわけですが、大企業では発明届け出時の個別契約、中小企業では雇用契約とは別個に研究者と契約を締結する例が比較的多いようです。

 特許法三十五条の三項は、「従業者等は、」「相当の対価の支払を受ける権利を有する。」とのみ規定していますし、四項は、「前項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」と規定しているにすぎませんで、定める方法を規定しているわけではありません。

 そこで、企業において補償規程を定める場合には、通常は特許出願時、それから登録時、さらにその特許発明を実施したときというふうに分けて補償額を決めておりますけれども、大きく分けますと、その基準となっているのは、発明に至るまでの事情、それと発明完成後の事情と二つあると思います。

 発明に至るまでの企業の貢献度はといいますと、発明に当たっての企業の設備、資材等の物的資源、企業に蓄積された技術情報の活用、研究スタッフの協力、発明完成のための知財部門の人的資源の利用、企業の支出した研究開発費等があると思いますし、発明完成後の実施状況といいますと、自社で実施する場合とライセンスをして他社へそれを活用させることによって収益を得る方法があります。また、発明完成後においても、企業の貢献としては、発明は特許庁に出願して権利にしなければなりませんので、その権利化と権利の維持、発明の実施に当たっての製品改良、企業のブランド力や営業、広告宣伝活動等を行って製品の売り込みを図るわけですから、これらを総合的に勘案して定められているわけです。

 また、これらのどの要素が重要性を持つかということは、それぞれの事業分野とか当該特許権の性質によって異なってくるものであります。したがって、相当の対価といっても、幅のある合理的な範囲内においてこれらの諸要素を勘案して決定されるべきものであって、なかなか一義的に定められる性質のものでないと思います。

 企業が特許発明を利用して取得する利益というのは、その発明だけから得られるものでなくて、企業がリスクをとりながら継続的に研究開発、営業活動を行うというさまざまな要素の有機的なつながりの中で得られるものでありますし、殊に企業間の包括ライセンス契約の場合、相当数の特許権が対象となる。つまり、対象特許権は、技術分野によっては数百、数千、あるいはそれをさらに超えるような大量の特許権がお互いにクロスして利用するというような状況であるのが普通ですから、このような場合に、その中の一つの特許権の相当の対価が幾らになるかということについては、結局、裁判所は限られた証拠から判断しなければならないわけで、その場合に特定の発明の相当の対価を適切に判断するのは難しい問題であるということは、否定できないところであると思います。

 私は、このような現行法の解釈と運用にかんがみれば、現行法は、企業の定める補償規程が従業者の意見を十分に聴取して策定されて、その基準が従業者に周知されているときは、相当の対価はその補償規程に従って決定されると解釈されるべきものと考えてきましたし、そうすることによって、企業が従業者に配慮した合理性のある補償規程を策定すれば企業の社会的評価も高まるし、従業者もその規程に基づいて補償が得られることで安心してすぐれた技術開発に励むことができるというふうに考えておりました。

 ただしかし、オリンパス光学事件の東京地裁、高裁の判決を契機としまして、多くの下級審判決は、相次いで、特許法三十五条の三項、四項が強行規定であることを理由として、まず相当の対価は裁判所が証拠によって認定する、そして、補償規程による既払い分はその裁判所の認定した額から控除して、残額の支払いを命ずるという判断を示しておりますし、最高裁もほぼそれと同趣旨の判断を示すに至ったわけであります。

 私は、裁判所がこのような解釈をとるということは、現行法の解釈の一つの考え方であるということはもちろん認めるわけでありますけれども、職務発明に関する規定の趣旨の明確化のために、合理性のある補償規程が設けられている場合には、対価はその規程に従って定められる方向の法改正が必要だと考えまして、産構審の特許制度小委員会でも、委員の一人としてその方向での法改正を提言したわけです。

 特許制度小委員会は、平成十五年十二月に「職務発明制度の在り方について」という報告書を公表いたしましたけれども、そこでは、権利の承継があった場合の対価は、使用者と従業者との立場の相違にかんがみて不合理でなければ、その決定された対価を尊重すべきである、決定が不合理である場合には、従業者に対価を請求する権利を認めた上で、不合理性の判断については、使用者と従業者との間の決定の自主性を尊重することの重要性にかんがみて、その手続面を重視すべきである等の見解が記載されているわけです。

 内閣は、この趣旨に従いまして、本国会に特許法三十五条の改正案を提出して、御委員会において御審議いただいているわけです。

 三十五条の四項、五項の規定につきましては、既に法律案としてここに提出されているわけで、その点は省略いたしますが、最後に、改正法には、附則の二条一項で、第一条の規定による改正後の三十五条四項、五項の規定は、この法律の施行後にした特許を受ける権利もしくは特許権の承継、専用実施権の設定に係る対価について適用し、この法律の施行前にしたこれらの権利の設定に係る対価については、なお従前の例によるとされておるわけです。この規定は法の不遡及を定めたものでありまして、従業者の既存の利益の保護との関係で設けられた規定と理解しております。

 ただ、職務発明に係る補償金の支払いは、実績補償につきましては、特許権の存続期間中、各年度ごとに発生する額を従業者に支払うというような規定を設けているのが通常でありまして、そうしますと、改正法が成立して施行された場合におきましても、改正法施行前に使用者が承継した特許を受ける権利等につきましては、その出願後二十年間、また、時効期間がありますので、時効期間をこれに加算しますと、さらにその期間を加算しただけ現行法が適用され続けていくということになります。

 つまり、本改正法の趣旨というのは、最初に述べた、現行法の基本的枠組みを維持しつつ現行制度の明確化を図ったものと考えておりますが、現在の判例解釈が持続するとすれば、現行法による補償制度と改正法による補償制度が、長期間にわたって異なった法判断基準によって二重に機能し続けていくという事態を招くことになります。

 裁判手続における法の解釈運用というのはまさに司法権の問題ではありますけれども、現行法と改正法との間に生ずるギャップを埋める解釈運用がなされるならば、制度の全体の整合性を図ることができますし、法的安定性に寄与することになると期待しているところであります。

 私の意見は以上です。ありがとうございました。(拍手)

根本委員長 どうもありがとうございました。

 次に、石田参考人にお願いいたします。

石田参考人 おはようございます。日本経済団体連合会、すなわち日本経団連の産業技術委員会知的財産部会長を務めております、凸版印刷で専務を担当しております石田でございます。本日、このような場に日本経団連としての意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、感謝申し上げます。ありがとうございます。

 本日のテーマの中心は、職務発明制度の改正というふうに承知しております。しかし、この経済産業委員会におかれては、職務発明制度を含む知的財産立国のいわば進展を図るために、特許審査の迅速化等のための法案の全体が審議の対象になっておるというふうに承知しております。私どもとしても、特許審査の迅速化等につきまして、大変重要な課題であり、また経済発展のために極めて有益だというふうに認識しております。したがいまして、今回提案されています法案がぜひこの内容で早期に成立されることを期待しているわけでございます。まずこのことにつきまして、冒頭、全体的な日本経団連としての考え方を述べさせていただいたわけでございます。

 さて、本日の主要なテーマであります職務発明制度の改正につきまして、お手元に右肩に日本経団連を四角で囲っております資料を届けさせていただいておりますけれども、この資料に従いまして意見を述べさせていただきたいと思います。

 一ページから四ページに、現行制度の問題点につきまして、日本経団連的な視点からの指摘をさせていただいております。五ページに経団連の考え方の要点を述べさせていただいております。最後の六ページに今後への期待ということで、その三項目に分けて述べさせていただきたいと思います。

 まず最初に、資料の一ページをごらんいただきたいと思います。

 ここには現行制度の問題点につきまして四ページにわたって述べさせていただいておりますけれども、私ども、現行の職務発明制度、特許法は三十五条中心でございますけれども、企業経営の立場から非常に多くの問題点を抱えているというふうに認識しております。その理由につきまして幾つか申し上げたいと思います。

 まず一ページをごらんいただきたいと思いますけれども、現行制度のもとでは職務発明の対価の算定方法が不明確で、企業経営における予見可能性が極めて悪いということが第一点でございます。

 資料に、最近の判決が出た事件につきまして、特許出願の時期とその判決の時期を比較するための簡単な表を示しておりますけれども、新しいものでも十年以上の出願から判決に至るまでの時間の経過がございますし、古いものでは二十五年以上の出願から判決までの時間差がございます。しかも、これらのケースはすべてと言って過言ではないと思うのですが、従業員が退社した後に訴訟が提起されるという形になっております。そして、利益はその期ごとに企業の中では確定、計算されるわけですけれども、にもかかわらず十年、二十年経過後に、退職された元従業員、研究者から提起された問題に対応するということで、不確定要素を大変大きな形で抱えることになります。企業経営上、通常では全く考えられない形と言えると思います。

 次に、二ページをごらんいただきたいと思います。

 企業においては、技術に基づいて製品化し、利益を上げるまでに、発明者以外の多くの人々の貢献があることが一般的でございまして、そのことが現在出ております判決では配慮されていないというふうに指摘できます。

 左下に四角で囲っておりますけれども、ソニーの創業者であられます井深さんの語録の中に示された言葉を引用させていただいております。発明にかけるウエートが一とすれば、実用化するには百倍の労力が必要であるということを端的に示したものでございます。

 さらに申し上げますれば、本当の発明者はだれかということも問題であると思います。企業においては、研究開発が継続して行われ、担当者がかわることが少なくありません、というよりもむしろ一般的でございます。発明の誕生には、いわゆるプロジェクトを組みますので、前の担当者のさまざまな失敗が大きく貢献する、これが現実でございます。発明が生まれたときの担当者だけに焦点が当てられる、これは現実的ではありませんし、適切でもありません。

 右下の図は、これは携帯電話を例にとりまして、それをつくるに至るまでのさまざまな技術が必要であるということをポンチ絵的に示したものでございます。それぞれの技術ごとに幾つかの特許が存在して、全体としては何百、何千もの特許が一製品に関与するというようなことが実情であります。どの部分が携帯電話の売り上げに多く貢献しているかを決めるには、エレクトロニクス業界においてはほとんど認定が難しいというのが実情でございます。

 三ページに参ります。

 次の問題は、研究開発において成功するのはたくさんのプロジェクトの中のごく一部であります。失敗のリスクを企業が負っていることへの配慮が、現在の出ております判決では配慮されていないという問題があると思います。

 リスクとリターンの関係を示した簡単な表を示させていただいております。研究開発が失敗した場合、その費用は企業が負担し、研究開発の結果、よい発明が生まれたとしても、その事業化には常に成功するとは限りません。多くのファクターがございまして、事業化での成功という形はそこでまた選ばれることになります。事業化に失敗した場合の費用は企業が負担することになりますし、企業は失敗した場合の負担の危険、すなわちリスクにさらされるわけでございます。

 なぜ投資を行うのでしょうか。それは成功した場合の収益を獲得できるからであります。しかし、現行の職務発明制度においては、事業の成功から得られる収益を発明者に分配しなければならないということになっております。このことについては、もちろん状況を精査しなければいけませんけれども、リスクをとる、そして成功した場合の成果だけを配分するという観点からは、アンバランスであるという指摘ができると思います。リスクをとって投資をしようという意欲が薄れてしまうようなことでは、産業経済の発達のために用意されています特許制度について問題ありかな、こういうことでございます。

 四ページを見ていただきたいと思います。

 最後の問題でございますけれども、我が国のような職務発明制度を採用している国は、国際的にも、先ほども御案内ありますドイツがニアリー・イコールではございますが、アメリカ、イギリス、イタリー等、違った制度をとっているわけでございます。

 資料に、米国の知的財産所有者協会が企業に対して行いましたアンケートの結果を簡単な形で示させていただいております。ごらんいただければと思います。

 五百一ドルから千五百ドル、一ドル百円で計算しますと、五万円から十五万円という形が、一つのアンケート結果として示されております。さらに、特許が登録された際には五万円以下の程度の報償がなされる。

 そして、米国においては、発明が生み出されることによる貢献は、対価ということよりも、給与や昇進、さらには社長がディナーに招待するなども聞くところでございます。この点、在日の米国商工会議所も、現行の日本の職務発明制度は大きな問題があるのではないかという意見を我々にも述べております。

 現行制度の問題点につきまして幾つか述べさせていただきましたけれども、次に、日本経団連の考え方を、ポイントを述べさせていただきたいと思います。

 五ページをごらんいただきたいと思います。

 アンダーラインをさせていただいておりますけれども、企業みずからが優秀な人材を集めるべく、あるいは研究者のインセンティブを高めるべく努力することが第一である。これは、昨今の企業経営においては当然のことというふうに考えております。その上で、職務発明の対価につきましては、裁判所が幾らと決めるということではなくて、下線にもありますように、企業において研究者の声を聞きながら定めた取り決め、すなわち、合理的なプロセスで定められた取り決めにつきましては、経営判断の原則、労使自治の原則的に、それが尊重されるべきだというふうに考えております。

 すなわち、研究人材は重要な経営資源でありまして、職務発明の対価について、企業として研究者との対立構造という考え方は、今の企業経営においては全くありません。経営戦略として総合的に対応していくのが現状であり、これに合った取り扱いを行うべきであるという認識で共通化されております。その意味で、特許法第三十五条の改正案は、企業と研究者の協力関係をより重視し、かつ、対価の算定につきましても、企業と研究者の間のさまざまな事情を考慮する中で、より実態に即した改正案になっていると考えております。

 五ページの2にありますように、結論として、提案されております改正案につきましては、早期にこのまま成立を願うわけでございます。

 六ページに、今後の期待を三点挙げさせていただいております。特許法三十五条が成立し、実施に移されていく際の問題として幾つか述べさせていただいております。

 第一に、企業と研究者が十分に話し合いを行い、その結果が契約や規則に結びついた場合には、その内容は、裁判所等に尊重、事件として出た場合でも、介入の余地が原則としてない、両者の取り決めにゆだねてほしいという考え方でございます。これは、経営判断の原則、労使自治の原則的になります。

 第二に、現在、企業の中には、一定のルールに基づいて職務発明の対価を定めた後に、対価の額に不満があるときは異議を申し立てることができ、それに基づいて再評価を行う制度を設けているところがございます。企業における取り決めが不合理であるというような場合には、こうした取り組みも前向きなものとしていることになるかと思います。

 最後に、改正後における、現行特許法三十五条及び改正後の特許法三十五条の運用解釈の問題につきましては、先ほど竹田弁護士から詳細御案内がありましたので、省略しますけれども、要は、改正された法の内容で、現行段階における問題も合理的に処理されることを期待するわけでございます。

 以上、職務発明の改正の問題を中心に意見を述べさせていただきました。

 時間になりましたので、以上でございます。ありがとうございます。(拍手)

根本委員長 どうもありがとうございました。

 次に、大橋参考人にお願いいたします。

大橋参考人 私、労働組合の連合、日本労働組合総連合会の方から参りました大橋太郎と申します。

 本日は、職務発明に関する件につきまして、労働組合の立場から御意見の方、述べさせていただきたいというふうに思っております。

 初めに、まず、結論と申しますか、連合としての基本的なスタンスについて表明をさせていただきたいと思います。

 連合といたしましては、本件について検討を行ってまいりました審議会であります、産業構造審議会知的財産政策部会の特許制度小委員会の方に委員を出させていただき、その中で議論の方に参加をさせていただいたというようなことを前提にいたしまして、労働者であります発明者の立場に立つのはもちろんのことでありますけれども、そのことのみならず、労働者の立場から見た企業の持続的発展、ひいては日本経済、産業の発展をも視野に入れた中で検討させていただいた結果、本改正案につきましては、この方向で改正されることに基本的に賛成をしているという次第でございます。

 私の前に専門家の先生方からいろいろな角度からるるお話をされてきましたので、私の方からは、ポイントを絞って数点お話をさせていただきたいというふうに思っております。

 近年、職務発明に関します訴訟というものが頻発しておりますが、このことがすべてを物語っていると言えますが、現行制度につきましては、労使双方にとって問題があるのではないかというふうに考えております。

 御理解いただいていると思いますので詳細については割愛をさせていただきますけれども、労働者にとってみてみますと、自己の発明、すなわち、一生懸命取り組んでいい結果を出した、その仕事の成果に対する評価が適切にされていないんじゃないかと納得感が得られない場合があるというようなことが問題だというふうに考えております。その評価の一つが、相当の対価ということになるわけでございますけれども、その納得感の低さが訴訟となって現実にあらわれてきているというふうに認識しております。

 しかし、それらの不満というのは、すべて訴訟という形であらわれているわけではないというふうに考えております。氷山の一角なのではないでしょうか。その裏には、企業の従業員でありながらみずからの企業を訴えることは難しい、または忍びないという一般的な感覚を持った従業員たちの不満も、氷山の水面下の部分として、現在の訴訟件数とは比較にならないほど潜在的に存在しているというふうに我々は認識しておるところでございます。

 よりまして、まず、先生方におかれましては、訴訟が頻発していること、それ以上に、この潜在的に不満を持っている研究者たちが多く存在していること、この点について御理解いただきたいというふうに考えております。

 審議会の報告書におきまして、これらの不満でございますけれども、相当の対価の決め方を経営者側が一方的に決めている、そのことに起因しているというふうな認識がされておりますけれども、この点につきましても、連合としては、正しい認識がされているというふうに評価しておるところでございます。

 このことに関連してでございますけれども、研究者は一体どんな意識で研究をし、また発明に従事しているのか。一獲千金をねらっている、これだけだとお思いでしょうか。

 特許庁の方で行われました発明者アンケートの方にも出ておりましたし、私たちも、組合員である研究者数名の方から直接ヒアリングをいたしました。研究に対するインセンティブとして一体何をとらえているのかと申しますと、まず第一には企業業績への貢献が挙げられております。次に、報酬という意味ではない、研究者としての評価を求めています。その次、三番目でございますが、やっと報酬というのが出てくるという順番になっております。

 このように、単に報酬というのではなく、純粋な気持ちで発明という業務に精励しているにもかかわらず、某社の例では、出願時一万円、登録時一万円、計二万円というような評価が現行制度のもとでは行われてしまうということなのでございます。これでは、いい発明をした後に、よし、次もやってやろうというような気持ちになれるでしょうか。また、隣で頑張っている人がいて、その人が正当に評価をされていないというようなものを目の当たりにしたときに、よし、おれもやってやろうというふうに思えるでしょうか。それらは難しいことだと思います。

 研究者の方々はそもそも研究するのが好きなのだというふうに考えております。そして、その研究を通じて会社に貢献をし、そして社会にも貢献をしたい。同時に、そのことをきちんと評価されること、それだけを望んでいるだけだというふうに考えております。そんな研究者でございますけれども、莫大な費用と時間、また労力をかけ、また好きな研究をする場さえも失うようなこと、すなわち訴訟するために簡単に退職する、そんなことをするでしょうか。そんなことはありません。できれば訴訟などは避けたいというふうに考えているのです。

 私たち労働組合が二点目として申し上げたいことといたしましては、労働者側も好きこのんで訴訟をしているわけではない、いわば、研究者としての存在を主張するために訴訟をするしか手段がないというようなことなのです。この点は、我々としては非常に重要な点だと考えておりますので、正しく御理解いただければというふうに思うところでございます。

 したがいまして、改正案が、相当の対価の決め方の過程におきまして、従業者の関与が必要であるというふうに提起をしているということとともに、その関与の状況が不合理であってはならないというふうにしていることは、現行制度と比べまして相当納得感の高い対価の決定が可能になってくるものではないかというふうに考えております。

 このことによりまして、研究者の皆さんの働きがいというものも高まっていくでしょう。また、生産性も上がると思います。同時に、経営者側の持たれている問題意識であります予見可能性の低さ、そのようなものも解消されると考えますし、当然、訴訟というものも大幅に減少するのではないかと考えています。ひいては、知的財産を創出する環境が我が国日本においても整備される、そのことによって、我が国にとっての知財の活性化、研究者の海外流出防止、そういうようなことにもつながってくるのではないかというふうに考えておるところでございます。

 一部に、このような個別企業における自主的な取り決めにゆだねるのではなくて、ガイドラインなんかを設けるのがいいんじゃないかというような御意見もあるようなのでございますけれども、この点については、職務発明の多様性ということについて申し上げさせていただきたいというふうに思います。

 一つの発明がそのまま新商品になるというようなケースもあろうかと思いますけれども、例えば、自動車のようにアセンブル商品の場合は、その一部部品の改良というような、前者と比較いたしますと比較的小さい発明というのもあると思われます。細かく言ってしまえば、発明ごとに異なってくるということになってくるんですが、大きく見れば、業界ごとの特徴というようなものもあるのではないかというふうに考えております。業界ごとの多様性でございます。

 また、発明の行われている形態でございますけれども、これも企業ごとによって異なるものがあるというふうに認識しております。発明の現場、その実態でございますが、一人で研究開発を行っているというようなことはほとんどないと思います。ほとんどのケースが、チームを組んで研究、実験を重ねているというふうに認識しています。特許庁のアンケートの方にもありましたけれども、一人で研究開発を行っている人というのは九・三%、一割にも満たないというような数字がございました。

 このように、チームプレーがベースである上に、企業ごとに異なる形態の中でやっている、研究をしている。その中で、個人の貢献というものをガイドラインの中ではかるというのは難しいのではないでしょうか。また、技術というものは日進月歩、ガイドラインでは判断し切れないような発明が生まれるということも想定されないでしょうか。

 そもそも、我々が問題点として認識している一つとして、評価の納得感が低いということがあります。従業員であるみずからが策定に関与できないガイドラインより、従業者として関与できる自主的な取り決めの方が納得感を高めるという、現状の問題点を解決するという観点からすると有効なのではないでしょうか。我々はそのように考えておる次第でございます。

 最後に、相当の対価の定め方について一点申し上げさせていただきたいと思います。

 定める過程におきまして従業者等の関与が必要である、また、その関与も形式的ではならないというように改正案ではしていただいておるわけでございますけれども、労働組合のある企業、特に過半数労働組合、過半数以上の従業員が加入している労働組合がある企業におきましては、きちんと労使協議を行い、労使自治のもと、労使双方が研究職場の意見を聴取、把握をし、最終的には労働協約など労使で合意をするというようなことによって、決定過程の合理性を担保するということが一般的であろうと考えます。改正案の方向で改正された場合、労働組合のある企業におきましては、その点について十分普及、機能していくというようなことは、我々としては想像しておるところでございます。

 しかし、我々労働組合が言うのもなんなんですが、労働組合のない企業というのもございます。また、株式公開をしていて市場から監視をされているというような企業ならまだしも、未上場の中小企業などにおいては、組合がない場合、特に留意する必要があるのではないかというふうに考えております。

 労働組合もないとなると、当然労働協約の方も存在をいたしません。その場合、使用者側のみの意思で決められる就業規則などで定めるしか手段がないわけですけれども、そのような状況だとしても、改正案においては、従業者の関与の状況は不合理であってはならないというふうにしているわけですから、そもそも、就業規則を管理している総務課の若手社員を形式的に従業員代表として、本当に形だけの意見聴取をしたことにするという通常行われていると思われる就業規則の改定作業では、今回の場合、不合理と判断されるということになってしまうと思います。

 あくまでも最低限の話として申し上げさせていただきますが、不合理と言われないようにするためには、労働組合がない場合についても労働基準法における過半数従業員代表制というものを実質的に確立し、この点が重要なのですが、労使協議と同等のプロセスを踏んで、その上で就業規則の中に盛り込む、また報償規程を制定する。このようなことをしなくてはならないということを、しっかり中小企業の経営者の皆さんにも御理解していただかなくてはならないというふうに考えておるところでございます。仮に法改正が行われた場合、この点につきましては、行政を中心にしっかりとした普及活動等々の対応を求めたいというふうに考えておるところでございます。

 以上、ちょっと短目でしたけれども、連合の特許法、職務発明に関する意見でございます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

根本委員長 どうもありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

根本委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。櫻田義孝君。

櫻田委員 自由民主党の櫻田義孝でございます。

 参考人の皆様におかれましては、大変お忙しい中当院のために来ていただきまして、ありがとうございます。心から御礼を申し上げたいと思います。

 さて、今の四方の陳述を聞いていまして、質問するのもなかなか難しいものだなというふうに思いました。ただ、対決法案というようなそういう問題ではないというだけに、労働組合も、使用者も、学術的立場の方々も、ほっとしているところであります。

 特許法三十五条の改正についてはいろいろな意見がございまして、従業員サイドに立ったもの、あるいは企業サイドに立ったもの、あるいは学術的な観点から中立的な立場に立ったもの、いろいろな意見が寄せられて、非常に難しく奥深い問題であるかなということを本当につくづく感じたわけでありますが、一つ言えることは、これにうまく対処できるかどうかということは、我が国経済のソフト化や高付加価値化が実現できるかどうかの帰趨を決定するということで、それだけ我が国経済の将来について重要な課題であるというふうに認識しているところでございます。

 こうした中、大変話題になっております先般の東京地裁におけます青色発光ダイオード訴訟の判決というものには、非常に我々も衝撃を受けているわけでありますが、裁判所は、被告である会社側に、原告請求どおり二百億円の支払いを命じたということであります。前日には、日立製作所の光ディスク技術をめぐる訴訟で、東京高裁で過去最高の一億円を超えるこれまでにない対価が認められたところであり、一日で最高額が二百倍にもなってしまい、職務発明をめぐって、今後この手の訴訟が増大していくのではないかということを懸念するわけであります。また、これは、ほとんどその勢いというものはとめられないのではないかと思います、現在の段階では、このまま野放しにしておいては。

 確かに、我が国経済にとっては、高付加価値な製品を生み出していくことは至上命題であり、そうした富の源泉となる発明者を厚く遇するということは、国家的な課題であると思います。これができないと、どんどん企業内発明家がアメリカに流出してしまう、頭脳流出ということが促進してしまうのではないかというふうな心配もあります。しかし、だからといって、今回のように、企業が絶えずこうした数百億円という巨額の請求を受けることを覚悟するというのは、決して好ましいことではないと考えているところであります。

 発明を製品化するというのは、参考人の方々のお話がありましたように、多くの補助技術者、そして設計者、営業担当、広報、多くの設備投資、こうしたものの条件が整って初めて企業収益を生んでいくものでありまして、発明者のみに巨万の富を帰させるというような考え方については、私は慎重であります。

 よく言われるところに、先ほど御説明もありましたが、企業利益につながるのは一〇%で、残りの九〇%は役に立っていないというデータも報告されるところであり、企業や株主はこうしたリスクをとっているわけであります。一方、職務発明家は、給料をもらいながら海外留学をしたり、社費を使って研究をしているわけであり、この点、純粋な自由発明とは幾分違うのではないだろうかなと思っております。

 よく野球選手のイチローや松井さんと中村教授のような発明家が比較されているところでありますが、彼らが利益をそれだけ受け取るのは、例えばイチローさんや松井さんなんかは、けがをしたりなんかすると、自分でリスクをとって、所得にならないとか商品にならないわけですけれども、やはりそれは、自分自身のコストというものを払って、多くの犠牲の上に立っているということを意味しているのでありまして、こうした下積みで終わるやり方もあるということを一つ我々は理解しなくてはいけないのではないかなというふうに思います。

 しかし、実際、職務発明に関しては、こうしたリスク、つまり成功しなかった場合のコスト、犠牲は企業が全部しょっているわけですから、私は、発明家ヒーロー論のような安易な考えについては疑問を持っているところであります。

 そこで、まず、それぞれの参考人にお伺いしたいんですが、青色発光ダイオード判決を念頭に、今後このような職務発明関連訴訟が増大して、裁判所の判断で巨額の支払い命令が出ていくこと自身が日本経済にとって好ましいかどうかということを、簡単にお話しいただければありがたいと思います。

後藤参考人 職務発明に関する訴訟が増大することは、企業にとっても、従業員にとっても、日本経済にとっても決して望ましいことではないというふうに思っております。

 企業は、今御説明にありましたように、成功した技術開発についてだけ非常に大きな金額を事後的に払うことを命ぜられるかもしれないというリスクを抱えることになりますし、また、裁判所の判決なんかでも計算方法がよくわからないところがありますので、その意味でも非常に大きな不安定要因を抱えるということになります。

 そういう状況だと、研究開発意欲がそがれて、国際競争にも不利になるということも考えられます。それから、研究所の中でも、そういう非常に巨額のお金が飛び交うという話になりますと、なかなかそれをマネジメントしていくことも難しくなるんじゃないかというふうに思っております。

 また、従業員の方にとっても、こういう訴訟がふえるということになりますと、その前提となっておりますが、訴訟を起こさないと適切な報酬が得られないというような状況というのをなくしていかないといけないわけでありまして、その点から考えても、個人にとって訴訟を起こすということは非常に大変なことですから、多くの従業員が、自分の勤める会社までは訴えたくないけれども、今のあり方には不満を持っているというふうな状態で過ごしているのかというふうに考えております。

 ですから、企業と従業員というのが裁判などで対決するということではなくて、必ずしも企業と従業員の関係をゼロサム的に考える必要はないわけでありまして、企業の研究費の五割近くは研究者の人件費でありますから、企業が活発に研究費を使用して研究開発を行っていくということは、研究者のためにもなることでありますし、それを通じて企業の利益が上がるということで、その中から研究費に再投資していって、研究者も報われる、そういう仕組みをつくるということが大事でありまして、そういうことによって職務発明訴訟が増大するという問題に対応していくことが重要ではないかと思っております。

竹田参考人 我が国では、現在、知的財産戦略政策が推進されておりますけれども、産業社会の再生のためにも、技術革新を一段と各企業が進めて、技術の開発、改良に努める必要があるというふうに痛感しております。企業は、もう、すぐれた発明の実施によって価値の高い製品を生み出す、そしてより高い収益性を生み出すということが必要ですし、そのためには研究開発部門を充実していかなければならないと思います。

 そのためには、企業が従業者にやはり配慮した合理性のある補償規程を定めていくべきでありまして、ただ、せっかくそういう規程をつくりましても、それに法的拘束力がないということになってしまってはその努力が報われません。また、従業者の側から考えましても、その規程に基づく補償が得られるということになれば、先ほど申しましたように、安心してすぐれた技術開発に努めることになるのではないかと思います。

 御指摘のように、職務発明に係る補償金請求訴訟というのは頻発している状況にありますし、今後もその状況は続くのではないかと思いますけれども、そのような使用者と従業者との間で発明の評価をめぐって紛争が頻発するということは、産業界の発展のためにとりまして決して望ましいことではありません。

 その意味では、現在御審議いただいている改正法案は、国家的施策といたしまして、技術開発を促進して、すぐれた技術を生み出すためにも非常に有益な法案ではないかと考えております。

 なお、最後に一言、日亜化学の問題について触れておきますと、現在控訴中ですし、判決の当否の意見ということは控えさせていただきますが、あの事件自体は、判決の中でも言われているように、極めて特殊な、異例な事件であると裁判長自体が言っていることからも、あのような高額訴訟が今後相次ぐ状況にあるとは思いませんけれども、判決の中でその対価をどうやって計算しているかということを見てみますと、特許期間であります平成二十年までの間に青色発光ダイオードの市場の成長率、被告会社の予想市場占有率、それから予想売上高、つまり平成二十年にどうなるのということについて三つの、推計に推計に推計を重ねているわけですね。

 その意味では、そこが問題だという指摘は当然あると思うんですが、ただ、現在の判例の解釈基準からしますと、裁判所はどうしてもこういう推計手法に頼らなければならないわけでありまして、これが改正法案のように、企業が合理的な補償規程を有して、それが法的拘束力を認められるということになれば、結論として、妥当な対価の算定が可能になっていくのではないかと考えております。

 以上です。

石田参考人 ありがとうございます。

 私は、結論として、日本経済のために好ましいことかという御質問に対しては、好ましくないというふうに思います。

 企業経営においては、先ほども申しましたように、予見可能性を前提にした経営を行うべきでありますし、やっているわけでして、現在のようなアンバランスな判決が出続けますと、企業経営、ひいては日本経済の発展のために悪影響を大きく持つ、そういうふうに思います。

 なお、詳細な理由につきましては、先生御整理いただいた認識と全く同認識でございます。

 以上でございます。

大橋参考人 労働組合の立場からいたしましても、委員の御質問につきましては、当然望ましいと言えることではございません。先ほどの意見でも申し述べさせていただきましたとおり、研究者側、労働者側の方も、好きこのんで訴訟を起こしているわけではないということがあります。また、その訴訟の労働者側の負担というのはとても大きいというようなことも考えますと、今本当に求められているということは、現在ある労働者側の不満であります評価に対する納得感の低さというものを解消し、できる限り訴訟が起きにくくなるような環境整備を早急に行うことというふうに考えておる次第でございます。

櫻田委員 ありがとうございます。

 四人とも、好ましいことではない、日本経済のためにこういう訴訟が長引いたり頻繁に起こることは好ましくないということで一致を見て、また、この法案が速やかに通ってほしいという意図が感じられたということで、非常に安心感を持っているわけでありますが、今回の改正案の第四項の中身で重要なことは、勤務規則であろうが契約であろうが、会社が社員に対して説明責任をしっかりとするようにということを求めているということは、今までからすると大変前進ではないだろうかなと思っております。企業と従業員が互いに納得できるような形で処理されることが一番望ましいのではないかというふうに思います。

 中村さんの、いろいろなほかの言い分もあるんですけれども、会社をつぶすまでやらないと意味がないというようなことでは、やはり良好な労使関係というものを築けないのではないかなというふうに思っておりますし、訴訟のほとんどが会社をやめてから起こすということも、我々人間社会にとっては非常に悲しいことではないだろうかなというふうに思っております。

 それで、私も感じたのは、中村さんが発明をしたときに、本当かどうかわかりませんけれども、二万円しか渡さなかったとかよく伺っているんですけれども、発明に対する対価が余りにも少な過ぎたのではないか。会社はもう従業員へ給料を払っているんだからそれでいいんじゃないかと、余りにもけちん坊過ぎたのではないかというのが私の率直な考え方で、能力のある人にそれなりの対価、評価というものが、もうちょっと高く見るべきではなかったのかなというような、そんなふうに思います。

 それで、企業と従業員が相互の理解の中で決めていくことで、私は、裁判所が過度な干渉はすべきではないと。先ほど参考人の方からありましたように、裁判の中では多くの特許の例が、何百、何千の特許を利用しながらやっていくんだ、そういう中で一裁判官が、高等裁判所あたりになると三人ぐらいいるんでしょうけれども、地方裁判所だと裁判官は一人の場合も多いですし、果たしてそんなに高度な知識を持っている裁判官が今この日本にどれだけいるんだろうかということになると、私はちょっと疑問があるのではないかなというふうに思います。

 そこで、日本経団連の石田参考人にお伺いしたいのですけれども、このような問題意識に立った企業サイドでも、例えば、三菱化学という会社で最高二億円を超えるような報償金をつくっているというように、企業側としてもさまざまな取り組みがなされているということを聞いておるんですが、企業の問題解決のための取り組みについて、発明者に報いる積極的な取り組みをしている会社が全体としてどのくらいあるんだろうか。また二番目に、報償金額の上限についてはそれぞれどのように定められているんだろうか、こうした取り組みは実際の従業員にどれだけ評価されているんだろうかということをまずお伺いしたいなと思っております。企業の努力が改正案の中でどのように生きてくるのかということについてもお伺いしたいと思います。

石田参考人 御指摘の点は三点あろうかと思います。

 まず、各企業がこのような職務発明問題についてどのように努力をしているかということにつきましては、今、企業においては人材が大変重要な経営資源でございますし、技術開発なくしてはこれからの国際競争力には勝てませんので、非常に重要でございます。したがいまして、職務発明問題も含めて、企業においては、研究開発、そしてそれを適正に評価するシステムにつきましては、大変努力中でございます。

 そして二番目に、ではしからば、職務発明問題につきまして、相当の対価について上限を定めている会社が実はあります。しかし、いわゆる強行規定であって、相当の対価は企業が独自に定めた規程に基づく結論ではない、裁判所の判断でということで、訴訟の流れになっておりますので、幾つかの企業においては、上限を定めるということにつきまして問題ありという認識のもとに、職務発明規程を改定している会社があると聞いております。

 さりとて、これは、予見可能性等々から、今回の特許法三十五条の改正の動向を大きく期待しているということが一般だと思います。上限を外せばそれですべて済むかというようなことにつきましては、企業経営的にはまだ十分整理できておりません。

 そして三つ目は、従業員にどのように評価されているかということでよろしかったでしょうか。――これは、結論として、従来の職務発明規定に基づく相当の対価につきましては、もう企業では出願補償、登録補償、実績補償、実績の段階では今訴訟で争われているような評価基準で企業はやっているわけでございまして、そのことについては、透明性あるいは説明責任、そういう観点から、改正法案のようになることが従業員、研究者にとっても歓迎されるというふうに考えております。デュー・プロセス・オブ・ロー的に適正な手続、これは労働基準法手続も含めてであると思いますけれども、そのようなことで経営も研究者も歓迎されてくると思います。

 要領を得ませんけれども、以上でございます。

櫻田委員 今の従業員からどの程度評価されているかということについて、大変突然であれですけれども、大橋参考人に、労働組合の従業員の方はさまざまな企業の取り組みについてどのような評価をしているか、だんだんいい方向に行っているなとか、まだまだちょっとスピーディーには行っていないなとか、そういうような認識についてちょっとお伺いしたいと思います。

大橋参考人 やはり現状、改正の審議というものを受けてということもあろうかと思いますが、企業の方でも報償規程の改定というのを順次されているというのも耳には入ってきておるところでございます。

 こういうことにつきましては、やはりその企業で働く従業員の納得感を高めるというような意味では好ましい方向には進んでいるんだなとは思うんですが、それが納得感の低さを解消するレベルに至っているかというと、まだそのレベルというふうな認識は我々としてはしていないということでございます。

櫻田委員 石田参考人、まだまだ納得をしているような状況ではないというお話でありましたので、企業の方としても前向きに、今まで以上に取り組んでいただければありがたいなと思います。

 それから次に、改正法案第五項に関しましてちょっと質問したいのですけれども、これは後藤参考人と竹田参考人にちょっとお伺いしたいのです。

 発明の相当の対価についてお伺いしたいのですが、今回の改正案では、発明が生まれるまでの貢献だけではなく、製品化までのすべての過程や研究の処遇でさまざまな企業側の努力を考慮するよう求めております。発明だけでも算定が難しいのに、営業、広報活動まですべてを含めた場合、対価を算定するのはそれこそ大変困難で、果たして裁判所のような機関に可能なのかどうか。先ほどもちょっと触れさせていただきましたが、非常に不安であるという意見も一部にはあります。また、算定の範囲を広げたことがかえって裁判所を複雑にしないかという懸念も当然出てくるように思っております。

 私は、今回算定範囲を拡大すること自身は、それぞれの立場に立っても大変意義深いものがあると評価しているところでありますが、一部で聞かれるようなこの懸念について、改正の趣旨を踏まえて後藤参考人、竹田参考人の所見を伺いたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

後藤参考人 議員がおっしゃりますように、考えるべき要件がふえますと計算プロセスもそれだけ複雑になってくるということがあろうかと思いますので、それは非常に大きな問題かと思っておりますけれども、他方で、研究開発がどういうふうに行われるか、発明が起こってから新製品が市場に出ていくまでにどういうことが、その企業の中の努力が行われているかというようなことを考えますと、やはり今の考慮要件だけでは不十分で、今回の改正法案に書かれているような新たな要件というのはやはりどうしても本質的な問題ですので、考慮することが必要ではないかというふうに考えております。

 改正案が実行された後になりますと、ほとんどの案件はその企業の中で話し合いのプロセスで決まってくるというふうに期待しておりますので、外部の裁判所が計算するということではなくて、当事者であります企業と従業員が話し合って計算するということですから、いろいろな要件を考えることも外部の裁判所よりは易しいのではないかというふうに思っております。

 裁判になってしまった場合には、そういう件数が減ることを期待しておるわけですけれども、なった場合には、やはり考慮すべき要件はきちんと考慮するということが必要ではないかというふうに考えております。

竹田参考人 まず、現在の法律の三十五条の四項について申し上げますと、これは先ほど申しましたように、裁判所の考え方は、この規定が強行規定、これは強行規定であることはほぼ通説、判例だと思いますが、強行規定であるということを理由に裁判所が相当の対価を決めるということで決めていくので、その場合に、最終的には企業の貢献度がどのくらいになるかということが額の多寡を決めることになるということだと思います。

 今までずっと、長い間この制度が運用されてきた中で、裁判所の判決を集計して、ある方が調べたところによりますと、最高で六五%、最小で五%が発明者の貢献度、その逆が企業の貢献度というふうな統計が出ております。日亜事件は五〇パー、五〇パーと見たわけです。ただ、利益の額が巨額であったためにああいうふうな大きな金額になったわけです。

 その場合、じゃ、企業の貢献度でどういうことを見ていくかということが非常に大きなファクターになってきまして、そのために、使用者側としては貢献度を立証するために、特にもう特許期間が切れた発明も含まれていますから、かなり、二十年、二十数年前の研究開発の状況等を逐一調べて証拠を出さなければならないという点で大変な苦労がありますし、それに発明における使用者側の貢献度ということを考えれば、それはやはり発明後に、先ほど申しましたような企業側の営業努力の問題もあれば、また発明者個人に対する昇格、昇級等の待遇の面等もありまして、その要素というのは非常に膨大な要素が考えられると思います。

 現在の実務は、それらを総合して、これらの諸般の事情をしんしゃくすれば企業の貢献度は何%であるという形で判断しているわけですが、裁判官の資質からいってそれができるかと言われますと、四十年裁判官をやっていた私としては内心じくじたるものがありますけれども、ただ、裁判官はやはり精いっぱい自分の知識経験に基づいて判断していきます。ただ、裁判には時的限界と物的限界とございまして、時間的に限られた時間で、かつ、当事者主義ですから、当事者が出した証拠で判断しなければならないという限界がありますので、その中で判断していくのには、精いっぱい自分の良心に従って証拠を客観的に評価して判断していると思いますので、その点はぜひとも御理解いただきたいと思います。

 その上で、現行法ではすべてがそこに集約されたんですけれども、今度の改正法案になりますと、原則的には四項で、契約あるいは補償規程が合理性があるものであればもうそれでいくことになりますので、五項が機能してその判断が必要になってくるのは契約がない場合とその規程が不合理であると認められる場合になりますので、適用の範囲はかなり狭くなってくるから、現行法のような大きな意味は五項自体が持たなくなってくる。その点でもこの改正法案の方がすぐれていると私は思いますけれども、それはやはり範囲はできるだけ広く見る必要はあろうかと思います。そうしませんと、企業活動というのが、やはりトータルで見てその中の発明というのを位置づけなければなりませんので、そういう意味では、現在の五項のような案の方があり方としてはすぐれているのではないかと私は思っております。

 以上です。

櫻田委員 次に、ここで私は、職務発明をめぐっての専門的な紛争処理調停機関の是非についてちょっとお伺いしたいなと思っておるのです。

 今、竹田参考人のお話がありましたように、裁判所のことは大変はっきり言うと言いにくいような立場かもしれませんけれども、私は、やはりこういう専門的なものは、対価の算定で、判例でもあいまいさが残っておりますし、どうも関係者を納得させていないということが指摘をされているやに私自身も聞いておるのです。

 特許の利益への貢献度、発明者の貢献度、営業、広報、それらの貢献度についてやはり一定のガイドラインを、聞くところによると、訴訟を未然に防ぐという意味からドイツなんかには算定方法を定めたガイドラインがあるということを聞いておるのですけれども、その辺がうまくいっているのかどうか私は詳しくは存じませんが、特許庁の下にそういう紛争を未然に防ぐような調停機関を設置することについてはいかがだろうかというふうに私は思うんです。

 発明する人が裁判にエネルギーを使うようなことではなくて、未然に防いで研究に没頭してもらうというようなところで、私はそういった方法もあるのではないかなというふうに思うんですけれども、これはどういう所見を持っていられるか、ちょっと後藤参考人にお伺いしたいんです。

後藤参考人 まず最初に申し上げたいのは、今回の改正案でねらっていますのは、企業と従業員がよく話し合って、透明で公正なルールをつくって、そういうプロセスを必ず経てくださいということで、その結果として両者の、従業員の納得感が増すということを期待していまして、それによって裁判や調停を必要とするケースというのは減ってくるのではないかというふうに期待しておるわけでございます。企業の中にも不満を述べたり対応するという仕組みができますし、また、特許庁が事例集を作成するということで、このプロセスがうまくいくように手だてを講じるということも考えられているようであります。

 どうしても内部で解決できない場合には、議員おっしゃるように、企業機密にかかわることも多いですし、また公的なリソースにも限りがあることでありますので、特許庁や裁判所ではなくて調停というものが利用されることもあり得るのではないかというふうに思っています。

 既存の仲裁機関というものがありますし、既に仲裁センターというところで職務発明の対価について調停や仲裁を行っていると聞いておりますので、そういうところの利用ということもあり得ると考えております。

櫻田委員 終わります。どうもありがとうございました。

根本委員長 次に、計屋圭宏君。

計屋委員 私は、民主党の計屋圭宏でございます。

 きょうは、参考人の皆様方におかれましては、早朝から本当に御苦労さまでございます。そしてまた、特許法の改正におきまして尽力されておることに心から敬意を表します。

 それでは、私の質問に入らせていただきます。

 先ほど、参考人の方から、技術の進歩そしてまた知的財産権の重要さがこの日本の将来に大変大切だ、そういったふうなお話があったわけでございますけれども、科学は日々進歩し、そして知的財産権をめぐる世界各国の競争はますます厳しくなっているわけでございます。日本が世界に冠たる知的立国となることができるのか、そこに日本の国の命運がかかっていると言っても過言じゃないと思います。

 民主党としては、知的財産立国推進、技術力の強化、競争力強化を図る視点から、日本の企業慣習、発明を取り巻く環境に合った現実的な制度とすべきであり、発明者と企業とがともに納得する仕組みを確立する必要があると考えております。

 そこで、今回の改正案というのは、発明者と企業が十分に話し合って納得する、そしてなおかつ、社内的にはもちろんのこと、新入社員あるいは中途入社の従業員にも徹底を図るということ。そしてもう一点は、裁判所の対価決定の際に、発明者の処遇や生産、販売力も考慮することを規定しているわけでございまして、自主的な取り決めが合理的ならこれを尊重し、不合理なら相当な対価を求めるという枠組みが盛り込まれているわけでございます。

 そこで、報酬額に発明者が不満を持った場合、社内にそれに対応する仕組みを設ける必要があるわけでございまして、それに対応する仕組みというものが、これは先ほども質問が一部あったわけでございますけれども、そういったことを未然に防ぐという意味からも、ガイドラインだとかあるいはまた事例集というのをつくろう、こういうふうに計画をしていると聞いているわけでございますが、そういったふうな未然に防ぐための方法としてどういうものが考えられるか、それぞれの参考人から所見をお願いしたいと思います。

後藤参考人 何よりも企業の中で企業側と従業員が話し合うということで、その土俵、プロセスの枠組みを今回の新しい改正案では提供しようとしているわけですけれども、その中で、話し合いのときのプロセスというのは三つあると思いますけれども、一つは協議をするということをきちんとやるということで、その協議の段階で従業員の意見をきちんと聞くようなことをやるべきであるということが第一番目だと思います。

 それから第二番目は、その内容を広くきちんと伝える。今委員がおっしゃっていましたように、社員だけではなくて新入社員にも、あるいは中途社員なんかにも含めて、その人たちがきちんとその情報を伝える。ただつくっているだけ、つくってありますよと言うだけでなくて、きちんと理解できるようにそれを伝えるということが大事だと思います。

 三番目は、従業員の意見を聞くような機会を実質的にちゃんと保障してあげるということで、そういうふうな手続のところで、形式だけやって実際には従業員の意見が言えないようなことは非常に不合理なことだろうというふうに考えておりますので、そういう協議のプロセス、それからその内容をきちんと伝えるということ、それから意見を十分に聞くということ、そういうこと三点を念頭に置いて、企業内でそれぞれ工夫して仕組みをつくっていただければというふうに考えております。

 以上です。

竹田参考人 四項で、勤務規則その他の定めによって不合理なものであってはならないという要件を満たすためには、どのような手続、内容が必要なのかということは、これからも検討されていくところだろうと思います。基本的には、私も後藤参考人の考え方とは近いんですけれども、内容が、つまり対価の額が相当なものでなければならないことは当然ですけれども、その額を決めるに当たって、やはり従業員の意見を聴取することと、それによって決まったものを従業員に周知徹底するということは必要最小限なことだと思いますが、もう一つやはり、その規則中に、一度企業が決めたらばすべてそれで決まりということでなくて、従業者の側から再審査の申し立てをして、再審査の申し立てに基づいてもう一度見直すという機関を設けることも必要なのではないかと思っております。

 さらにそれ以上にどういうことをすべきかということは、これから検討していくべきことだと思っておりますし、私もそれにはできるだけ協力していくつもりですが、ただ、従業員の意見を聞くといってもどう聞いたらいいのかとか、いろいろな問題はあろうかと思います。基本的には、私は、労働基準法の就業規則の定め方についての従業員の意見の聴取の規定がありますし、そういうものに準拠して決めたらいいと思いますが、ただ、それと違うのは、一つ、これが職務発明であること、つまり研究者の意見を聴取することが大事だ。だから、それにプラスして、やはり研究者の意見を十分くみ上げるようなシステムをどうやって考えていくかということが大事なことではなかろうかというふうに考えております。

 以上でございます。

石田参考人 ありがとうございます。

 箇条書き的にお答えさせていただきます。

 まず、現在も企業においては職務発明等規程を多くの企業が策定しておりまして、それは従業員に公表しております。この問題は、今後は、策定段階で、労働基準法八十九、九十条の手続等を考慮しながら、適正手続という形に変わっていくというふうに思っております。

 二つ目は、従来はそのようなことが現状でございますけれども、今後は、企業は恐らく、社員の入社時点で、特に研究開発職を想定しています場合には、職務発明等規程がどのようになっているかにつきまして、希望に従って説明するのではなくて、もう事前にそれを入社時点あるいは入社応募段階で説明していく時代が来るかなというふうに思っております。

 三つ目は、そのようなことで、従来、企業では、いろいろの事例集、ガイドライン的なものは企業ごとには用意しているわけですけれども、国家的なレベルで、行政的にも、願わくば、ガイドライン、指針だと思うんですけれども、これはある解釈指針になることも考慮すれば、少なくとも事例集、あるいは好ましいような例を中心にした事例集、あるいはリスクを回避するような事例も含めてですけれども、そのようなものは企業としては非常に必要だというふうに考えておりますので、そのようになろうかと思います。

 最後に、四点目に、昨今、経産省でも知的財産関係の情報の開示につきまして非常に注力していただいておりまして、企業の価値評価についてはそのようなことが好まれる傾向になっております。その一環として、国を挙げて、研究開発が重要ですから、それを、インセンティブ論または経営における戦略論も含めて、適正にその中に織り込まれていくことになるのではないかと思っております。

 以上四点、箇条書き的でございます。ありがとうございます。

大橋参考人 各参考人の方からそれぞれ御意見があられたとおりだなというふうに思います。しっかり労使で話し合うことがまず第一なのではないかな。また、竹田参考人の方から言われましたように、再審査の仕組みなども十分有効だと思いますし、事例集なども必要だというふうに考えております。

 まず、やはり労使でしっかり話し合うということは非常に大切なんですけれども、そもそも、労使でしっかり話し合うような環境というのが、一部企業においてはなかなか整っていない状況も現実にはあろうかなというふうに私としては考えております。先ほど意見でも言いましたけれども、やはり就業規則の改定についても、本当に従業員を代表した人間に意見を聞いているのかというと、実は総務課の若手社員に聞いて、それでそのまま届けていた。また、届けていればまだよしで、届け出すら労基署の方にも行っていないというような事例もありますので、その辺にいかに実効性を高めていくかというようなことをしっかり手を打っていかなくてはいけないのかなというような問題意識を持っております。

計屋委員 ありがとうございました。

 それでは次に、先ほどから青色発光ダイオードを発明した中村さんの件について話が出ていたわけでございますけれども、中村さんは、日本の研究風土というものを見限ってアメリカに新天地を求めた。こういったふうな職務発明の見直しがこういったふうな頭脳の流出というものを食いとめることができるのかどうか、これを後藤参考人にお聞きしたいと思うんです。

後藤参考人 研究者が外国に職を求めて移るというのは、私も研究者の一員でございますので、心情的にはよく理解できるところがありまして、研究者にとっては、研究環境が一番望ましいところを求めてあちこちへ移るというのは、ある意味で当然のことでありますし、それによって日本国内に存在する研究者の数が減ってしまう、優秀な人が外国へ逃げてしまうということが心配なのは、もちろん一方ではそうなんですけれども、他方では、日本からそういう優秀な研究者を海外へ送り出しているということは、日本にとっては非常に誇りなことでありまして、流出というマイナスの面だけをとらえて余り心配することはない。プラスの面もいろいろと、日本から世界に対して科学技術の大使を送り出しているというような見方もできますので、少し広い目、長い目で見ると、日本にとってもプラスになるのではないかというふうにも思っております。

 そういう企業の研究者が研究の場所を選ぶとき、あるいは企業も含めて、大学も含めてですけれども、研究者が研究の場所を選ぶときに、いろいろな要件があろうかと思いますけれども、その中で、自分の発明に対して報酬がどのぐらいもらえるかということは大きな要件の一つではもちろんあるというふうに思っております。

 そのときに、日本の場合には、先ほどの発光ダイオードのケースなんかでもそうですが、一つの特許権につきまして価値を算定して報酬をするというやり方が日本の現在のやり方ですけれども、欧米の場合でありますと、先ほどの石田参考人の資料にもあったかと思いますけれども、個別の特許に対しては余り払わないわけですが、他方で、非常に優秀な研究者に対しては、ボーナスを出すとか、いろいろな全体的な優遇措置を図ってあげるというふうなことをしておりますから、研究者の人としては、それぞれの立場でどういうふうな、どちらの処遇のやり方が望ましいかということを判断されて、研究の場所を選ばれるのではないかというふうに思っております。

計屋委員 私は、日本の優秀な頭脳が外国に出ていくということはマイナスだと考えていたわけですけれども、長期的に考えればそうでもないというようなお話を承って、それもそうかなということも一方では考えられるんですけれども、いずれにしても、日本の優秀な頭脳というものをやはり国内で、発明をしあるいは特許権を得ていくということは、これは大切かなというふうに考えているわけです。

 そこで、また他方、外資系の関係者から、この中途半端な改正によって、そしてまた訴訟に巻き込まれるんじゃないか、ですから、もう日本から外資系企業を引き揚げていこう、そういったふうな話すら出ているわけでございまして、これについてどうお考えでしょうか、後藤参考人にもう一点お聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

後藤参考人 一般論として申し上げますと、企業が事業を行う場所を選ぶときにはいろいろなことを考えて選ぶわけでございまして、市場に近いかとか、そこで得られる人的な資源が豊富かとか、さまざまな要件を考慮して立地を選ぶわけでございます。ですから、職務発明に伴う訴訟リスクということも、そういうさまざまな考慮要件の一つになろうかというふうに考えております。

 そういう意味で、今後、今回提案されております改正案が実現されますと、企業と従業員がよく話し合って報償のプロセスをつくれば、それを相当の対価というふうに認めるということでありますから、訴訟のリスクは大幅に軽減するものというふうに考えております。

 その意味で、日本がビジネスをする場所としてより魅力的なものになるのではないかというふうに考えております。

計屋委員 ありがとうございました。

 では、次は竹田参考人にお伺いしたいと思うんですが、現行制度の基本的な枠組みを維持しつつ、現行規定の明確化を図ったというのが今回の改正の特徴だと思うんですよね。

 そこで、現在の判例解釈が維持されるならば、現行法による報償制度とそれから新しい制度の報償制度というのが二重の機能をする、そういったふうなことが続いていくと思うんですよ。現行法と改正法との間に生じるギャップを埋める解釈運用がやはりこれは必要であって、新しく特許申請が行われた件は新法の対象となりますが、問題が表面化してくるのは通常十年くらい時間がかかる、こう言われております。

 一日も早く新しい職務発明規定を生かすために、当事者の合意があれば新法の枠組みも対応できるような方策というものを検討はしていくべきだと思うんですけれども、竹田参考人のお考えをお聞きしたいと思うんですが、よろしくお願いします。

竹田参考人 先ほど申しましたように、附則二条一項との関係で、どうしても職務発明に係る補償金の支払いが長期間に及ぶという点で、判例が現在のような考え方をとっている限りは、二重の判断基準が機能していかざるを得ない。その点はできるだけ避けられる方が法的安定性のためにも寄与すると私が結びで申し上げたとおりですが、それでは、そのためにどういう方策があるかということになりますと、附則の二条一項というのは、これは法の不遡及の原則に立っていますし、それから、従来の制度によって得られている利益がある場合に、その利益を奪うことは法の改正としてはできないということになるので、基本的にはあのような規定にならざるを得ないと思うんです。

 では、その上でどういう解決方法があるかということは、なかなか難しい問題なんですが、可能な一つの方法として考えられるのは、当事者間の契約で、使用者と従業者との間の契約で、新法の施行前の特許を受ける権利の承継がなされたものについても、なお新たに新法の要件を備えた補償規程に基づいて相当の対価の支払いをすることに異議がないというような合意をするということが仮にあるとすれば、その合意の効力はどうかというような問題が出てくるだろうかなとは思います。

 果たしてその合意が有効かどうかというのは最終的に裁判所が決めることになりますし、難しい問題だとは思うんですけれども、例外的な事情、つまり、民法九十条に定めるそのような合意が公序良俗に反するというような特別の事情がない限りは、そのような合意の有効性を認めてもいいのではないかと私自身は思っております。ただ、これは最終的には裁判所が決めることになりますので、当然にそうなるということは言えないところだろうというふうに考えております。

計屋委員 ありがとうございました。

 では、次は石田参考人に質問させていただきたいと思うんですが、この三十五条の四項で、企業の合理的な取り決めにゆだねるべきだということを主張されているようでございますけれども、この四項の場合ですと「対価を支払うことが不合理と認められるものであつてはならない。」、こうあるわけですよね。ですから、企業側から見て、企業の合理的な取り決めにゆだねるべきだ、こういったふうなことについてお聞きしたいと思うんですが、よろしくお願いします。

石田参考人 ありがとうございます。

 結論を申しますと、今回改正提案されています内容で改正法が成立することを私は期待しております。

 理由としては、不合理であるかどうかということにつきまして、従来多発しております職務発明に関する訴訟と同じような形にならないことを強く期待しております。そのためには、適正な手続、これは、本気で適正な手続というものを企業経営においては考えるべきでありますし、また、インセンティブその他いろいろあるわけですけれども、職務発明の相当の対価ということにつきましては、今後、恐らく相当納得度が高まっていくと思います。

 そういう意味で、適正な手続で定められたルールや契約については一〇〇%、すべてそれが尊重されるべきだと。もちろん、法治国家ですから、特殊な、デュー・プロセス・オブ・ローといっても、手続を超えるような内容的な不合理があれば、それは検討されるべきですけれども、いわんや合理的であるべきだ的な規定ですと、改正法案の提起されている趣旨からむしろ遠くなるというふうに思っております。

 少し抽象論ですけれども、以上でございます。

計屋委員 はい、わかりました。どうもありがとうございます。

 それでは、今度は大橋参考人に質問させていただきたいと思うんですが、三十五条の四項に「契約、勤務規則その他の定めにおいて」、こういったような文言があるわけでございますけれども、対価の取り決めについては依然としてあいまいな点が残ると指摘があるわけでございます、皆さんもおっしゃっているとおりでございますけれども。

 この「契約、勤務規則その他の定め」というところを「労働協約」という語句を入れて法文を明確にしたらどうかと思いますけれども、どういうふうにお考えですか。

大橋参考人 労働協約でございますけれども、就業規則のように、使用者側が、労働者の意見は聞くものの反映する義務はない、いわば一方的に定めることのできるというものとは全く異なりまして、文字どおり、労使自治のもと、労使が対等な立場で協議して締結するというものでございます。そういうことからいたしますと、労働組合としては、相当の対価に関する規定、手続ということでは、労働協約というものを非常に有効な手段というふうに考えております。

 そういう観点からいたしますと、委員御指摘のとおり、労働協約ということ、これを法律に明記していただけるというのであれば、していただきたいというふうに考えておりますけれども、現行の特許法においても同様の表現があり、我々の解釈といたしましては、その中にも当然、現状でも労働協約が含まれているというふうな認識はしております。

 また、労働協約のみにそれを記載するというと、なかなか現実的じゃないというか、労働法上の労働者と特許法で言われるところの従業者、若干範囲が異なるケースもあるかと思います。現実的な手続等々を考えますと、会社と協議して、報償規程など、規程として定めていただいたものを労働協約の中で確認するというような手続になることが想定されます。

計屋委員 時間がそろそろ参っておりますので、最後の質問になりますけれども、では、今回の特許法改正の意義をどういうふうに考えておられるか、大橋参考人にお聞きしたいと思います。

大橋参考人 お答えさせていただきます。

 るるお話しさせていただいているところでございますけれども、現行制度におきましては、従業者である研究者、評価に対する納得感が低いという問題点を我々は強く認識しております。これは、対価の決め方が使用者側によって一方的に定められていることに起因しているわけですけれども、改正案におきましては、この部分について、従業員の関与の必要性というものを提起していただいたわけでございます。

 本来、特許報酬につきましても、職務上の処遇の話でございますので、使用者側と労働者側で合意するというようなことが一番望ましいと考えております。改正案において、そのことを企業内労使に求めていただいている、また、そこで決まったことに不合理性がなければ、司法の場におきましても原則優先をしていただけるというようなものでございますので、労働組合、連合といたしましては、本来あるべき姿に近づくという意味で、非常に意義のある改正の方向に向かっているというふうに認識しておるところでございます。

計屋委員 時間が参りましたので、これにて質問を終わります。ありがとうございました。

根本委員長 次に、井上義久君。

井上(義)委員 公明党の井上義久でございます。

 参考人の皆様には、御多忙の中、本委員会に出席を賜り、また貴重な意見を賜りましたことを、まず冒頭に心から御礼申し上げる次第でございます。

 では、順次御質問させていただきますけれども、まず後藤先生に質問をさせていただきます。

 先生御指摘のように、労働、資本が右肩下がりの中で日本が長期的な、継続的な発展を遂げていくためには、やはり技術進歩が最も重要なメルクマールであると、私も全くそのとおりでございますし、そのためには研究開発を活発化しなきゃいかぬ、またそれにふさわしい特許制度のあり方が重要である、全くそのとおりでございます。私は、プレーヤーは二つあると。一つは、大学や公的研究機関の研究開発と技術移転、それからもう一つは、やはり民間の研究開発の活発化ということだろうというふうに思っております。

 先生は東大の先端科学技術研究センターの教授をされておりますけれども、私も実は、母校でございます東北大学の未来科学技術共同研究センターの協議委員とか外部評価委員等をさせていただいておりまして、長年技術移転の問題に一生懸命取り組んでおるんです。そういうことを踏まえて、今回の法改正は、いわゆる企業側から見ますと予測可能性が非常に低い、それから、研究者側から見ますと納得感が低い、その折り合いの中で三十五条の四項、五項が今回提案されているわけでございますけれども、私は、それでもやはり、どちらかといいますと研究者のインセンティブに軸足を置くべきである。やはりここが本当に頑張ってくれなきゃ、どんなに体制が整っても技術進歩というのはないわけでございますので、やはり研究者にインセンティブがあるような、そこに軸足を置かなければいけない、こんなふうに思っているわけでございまして、今回の法改正が、そういう観点でどういう影響なりまた効果をもたらすのか、先生はその評価をどのように考えているのかということが一つ。

 それともう一つ、最近、共同研究が非常に盛んになってきておるわけでございまして、先ほど言いましたように、大学あるいは国立の研究機関、それから民間、共同研究とかあるいは研究開発のコンソーシアムができて、かなりの大がかりな予算、それから組織をつくって研究開発をやるというようなケースがふえてきておるわけでございますけれども、民間の参加者、そこで職務発明がなされた場合に、今回の法の適用を受けて相当の対価を受ける。

 一方、大学あるいは国立の研究機関の研究者、例えば同じ発明を共同発明者として出すという場合に、当然特許権は、その後のことを考えて企業側に移転をするということになると思いますし、あるいは、大学の場合はTLO等を通じて特許を取得して、使用権という形でTLOがそれを取得する、それを大学に還元をするという形になるかと思いますけれども、そういう大学とか公的な研究機関の研究者の職務発明に対する今回の法改正の影響というのが、実際どういう形であるのかないのか。

 その二点について、まずお伺いしたいと思います。

後藤参考人 まず第一点ですが、研究者のインセンティブを重視することが重要であるというような御指摘かと思いますが、私もそれは非常に重要なポイントであると思いまして、そもそも今回の改正の話が起こってきた発端というのは、やはり研究者の中で、十分に報いられていないという不満が多くて訴訟が出てきたということがありますので、研究者のインセンティブをどうやって確保していくかということが非常に大事だということを私も認識しております。

 先ほどからお話に出ていますように、日本経済の長期的な発展のために技術革新が大事だということなんですが、実際に技術革新を担っているのは個々の研究者でありますから、その人たちが意欲を持って研究できるような環境や制度、仕組みをつくっていくということが何よりも大事であるというふうに考えております。

 その意味で、今回の改正案におきましては、研究者のインセンティブを高める、あるいは納得感を高めるということを非常に重視しておるわけでございまして、具体的には、今の状況では不満を持った研究者が裁判に訴えるしかない。個々の研究者にとっては、裁判というのは非常に手間もお金もかかることですから、なかなか難しい。また、自分の会社を訴えるのは難しいということで、多くの研究者の方は不満があってもそのままで、不満を抱えたままという状況になっているわけですが、今度の改正案では、そういう不満を解消して、企業側と話し合う、また不満を聞いてもらう、そういう場をつくるということを想定しておりますので、研究者のインセンティブは十分に確保される、上がってくるというふうに期待しておるところであります。

 それから二番目の御質問は、大学における職務発明の問題かと思いますが、御指摘のように、日本に住んでいる日本人の研究者の四〇%近くは大学に所属しておるわけでございますから、日本の技術革新を推進していくということを考えた場合には、大学の研究資源をどうやって利用していくかということは非常に重要な課題になるわけでございます。もちろん、大学の本来の使命というのは、研究とか教育とか、そういうところにあるわけですけれども、その過程で生み出された技術的な知見を積極的に産業へ移転して経済の活性化を図っていくということも、大学の三番目の重要な使命であろうというふうに思っております。

 今お話しされました、私の現在勤務しております東京大学の先端科学技術研究センターというところは、日本で一番最初に技術移転機関をつくりまして、四月から教官ではなくて教員になりましたけれども、教員が発明したその技術を積極的に産業界へ移転していくということをやっておるところでありまして、そういう意味で、大学の特許というのは、大学から産業界へ知識を移転する重要なチャンネルとなっているということであります。

 職務発明につきましては、教員の発明は基本的には職務発明になるというふうに考えられていると思います。多くの大学で既に職務発明規程をつくっておりまして、どういうような形で対価を支払うかというルールなども、もうほとんどの大学が決めているというふうに思っております。

 それから、学生も大学にはたくさんいて、勉強しているわけですが、学生につきましては仕事しているわけじゃなくて勉強するのが本分でございますから、学生が出した発明については職務発明にはならないということが今の考え方ではなかろうかというふうに思っております。

 以上です。

井上(義)委員 後藤先生、二つ目の質問で、今大学が職務発明の規程をそれぞれつくっていますけれども、今回こういう形で、第三十五条四項、五項という形で改正されるわけですけれども、そういう企業の側の研究者に対して一定のインセンティブを持つような法改正が行われた。これがそういう大学とか国立の研究機関等の研究者にどういう影響があるのかないのか、そういうことをちょっと、再度お伺いできればと思うんです。

後藤参考人 正直申しまして、私も、三十五条の今回の改正が大学の研究者にどう影響するかということは、まだよくわからないところであります。

 この四月から、国立大学も、我々も公務員ではなくなりまして、国立大学法人というふうに形が変わりましたので、そのことの影響がまず一番大きいわけでして、我々も、今後は公務員でなくなって、研究の面での自由度がふえる、産業界との協力もやりやすくなるということでありますけれども、そういうふうな過程の中で、職務発明の問題の改正がさらにどういうインパクトを与えるのかということについては、私は、今まだよくわかりませんが、大学が国立大学法人化するに当たって、産業との協力をより活発にしていかなければいけない。

 その際に、これまでは大学の先生と産業界の方のインフォーマルなつながりのもとで技術を移転したりしていたわけですけれども、もう少し透明な形で、技術移転機関を通じて、透明な形でいろいろな企業にも技術をできるだけ広く伝えていこうというような努力をしている中でありまして、その中で、活発に産業界と交流をしていけばいくほど、基本的なルールはきちんと定めておかなければいけないということで、先ほど申し上げましたように、多くの大学が職務発明規程を初めて整備して、今ルールを決めているという状況であります。

 今後、これが具体的にどういうふうに大学の研究とかあるいは技術移転とかに影響を与えていくかということについては、まだ私は完全にはよく予見がつかないというところが正直なところでございます。

井上(義)委員 では次に、竹田参考人にお伺いいたしますけれども、三十五条の四項がいわゆる不合理性の排除ということを規定しているわけですけれども、例えば就業規則とかあるいは労働協約とか一般的な契約とかという形で、いわゆる職務発明に対する対価の支払いというのが規定される。そうすると、企業によって、研究開発部門というのはいろいろな研究開発部門もありますし、それから最近は、特にいわゆる任期つきの雇用とかあるいは研究テーマでコンソーシアムをつくりますから、そのテーマにあわせて雇用関係を結ぶというようなことが多々あります。

 そういう場合に、いわゆる不合理性の排除という観点で、例えばそういう規則なり契約なりがダブルスタンダードになる可能性が多々あるんだろうと思うんですよね。これは、不合理性の排除という観点からいうと、例えば一つの企業に幾つもそういうスタンダードがあるということは、法的な解釈としてはどうなんでしょうか。

竹田参考人 改正法案の三十五条四項が要求しているのは、勤務規則その他の定めによる場合について言えば、それが不合理なものと認められるものであってはならないということで、委員御指摘のように、企業の雇用形態にもさまざまなものがあります。出向の場合もありますれば、いわゆるパート採用の場合もありますし、そういうものも含めて全体的にどう整合性のある規則をつくっていくかという問題はあろうかと思うんですが、それはそれぞれの企業の雇用形態とか研究開発部門の持つ特殊性に応じて適用基準が数種類になるということがあっても、それはむしろやむを得ないというか、そういうことも必要なことじゃないかと。

 ただ、それが不合理性の要件と関連するとすれば、先ほど言ったような、全体として従業員の意見を聴取するとか周知徹底するとかの要件をきちっと踏まえた上で行われるのであれば、そういう形態の補償規程も合理性の要件は持つということは言えるのではないかと思っています。

井上(義)委員 竹田参考人に再度お伺いしますけれども、一般的な就業規則なり労働協約でこの四項に従って対価を決める、不合理性は十分に排除されていると。

 ただ、先ほど言いましたように、任期つきで例えばある著名な研究者を企業が雇用するとか、あるいは、そういうテーマに従って、そのことのために例えば企業がその人と個人的な契約をするという場合に、そうすると、では、ほかの人たちとかなり条件が違っていたというケースが結構出てくるんだろうと思うんですね。そういう場合に、トータルに、例えば訴訟が起きたりした場合に、不合理性の排除として認められるのかどうかということはいかがなんでしょうか。

竹田参考人 企業、特に大企業などで契約制がとられる場合は委員御指摘のようなケースの場合が多いと思うので、そういう場合は、就業規則あるいは補償規程でどう一般的な従業員との関係が定められているかに関係なしに、別個に契約に基づいて、その研究者との間で個別的に他の従業員と違う基準に基づいて定めるということも、それは、研究内容やその研究者の社会的ステータスや、いろいろなものを加味して決めることでありますから、そのことからその契約が不合理なものとなるというようなことはないのではないかと思いますけれども。

井上(義)委員 それから、竹田先生、もう一点、附則の二条第一項でいわゆる法の不遡及ということを定めているわけですけれども、先生御指摘のように、特許というのは二十年間その権利が継続するわけでございますし、それから、当然その後の時効期間とかあります、かなり長期にわたる。特に対価は、発明時、出願時、特許時、それから使用という、当然そういう形で決められていくんだろうと思うんですね。そうすると、先生おっしゃるように、ダブルスタンダードになるというのが一番、これは企業にとっても、それから研究者にとっても非常に問題だろうと思うんですね。

 先生、ここにおっしゃっているように、裁判手続による法の解釈運用は、司法権の問題であるけれども、そういう制度の整合性を図るべきであるというふうにおっしゃっていますし、それから石田参考人も同じ趣旨の話をされているわけでございまして、先生は長い間裁判官をやられていたわけでございますけれども、司法として、これの見通しと言ったらおかしいんですけれども、余り予見でおっしゃることは難しいかと思いますけれども、これの実現の可能性といいますか、どういうふうに先生はごらんになっていますか。

竹田参考人 大変難しいことでありまして、私が司法がどう対応していくであろうかという予測をここで述べるということは非常に困難なことなので、その点は残念ながら控えさせていただきたいと思うんです。ただ、この委員会で御審議いただいている改正案が、現在の産業社会、大きく日本の将来の発展のためにも重要な改正であるということが国民に広く認識されることになれば、そのことはダブルスタンダードに法律上はなっても、私の言うようにこの改正が現行法の明確化ということであるとすれば、解釈運用の可能性としては、改正法の趣旨に従ったような解釈運用も可能であろうということは言えると思います。

 それから先は司法、裁判所が具体的な事案についてどのように判断するかということでありますけれども、私としては、できる限りそういうダブルスタンダードが解消されるような、法的安定性に寄与するような解釈運用がされることを期待したいということを申し上げたいと思います。

井上(義)委員 再度お伺いしますけれども、立法府におけるそういう立法の趣旨ということがいろいろ議論を通じて明らかになると思いますけれども、そういう立法府における立法の趣旨という議論の中でそういう方向が明示的に出てくれば、司法当局も当然そういう方向で判断をするというふうに考えてよろしいんでしょうか、一般論として。

竹田参考人 司法権は独立でありますので、当然にそうなるだろうと私からは申し上げられないんですけれども、ただそれは、改正法の趣旨を踏まえるということは裁判所としても当然考えることではないかなとは思います。

井上(義)委員 ありがとうございました。

 では次に、石田参考人にお伺いいたしますけれども、訴訟が多発している、職務発明における相当の対価ということをめぐって。ある意味で、訴訟というのは氷山の一角なんだろうと思うんですよ。私は、やはり研究者の、特に民間の企業に勤めている研究者のそういう不満というのは一般的にかなりあるんだろうと思います。それはアメリカとかフランスとかドイツとか、先ほどからの議論の中でも制度についていろいろお話がございましたけれども、不満が一般的にあるだろうというふうに思います。私も理系の出身でございますから、個人的に言えば、日本の研究者は極めて恵まれていないと。

 卑近な例ですけれども、例えば研究者の処遇ということについて言いますと、理系出身者の生涯賃金、これは大企業だけで比較しても、文系に比べて大体五千万ぐらい安いと言われているんですよ。そういう中で必死になって頑張って、職務発明があったと。多くはもうほとんどそれが訴訟になるような職務発明じゃありません、大半は。もう夜夜中まで働いて一生懸命研究をして、たまたまそういう職務発明があったというときにそういう訴訟が起きているということであって、私は、そういう意味で、研究者の不満というものが那辺にあるかということを企業の皆さんがどういうふうに理解をされているかということをまずお聞きしたい。

石田参考人 ありがとうございます。

 結論を先に申しますと、企業におきます研究開発陣への対応につきましては、雇用の流動化が大変進んでおりますし、そして、技術系の社員の生涯賃金の件は、私もいろいろなデータで承知していますけれども、必ずしもそれは私の実感に合わないので、結論的には、今、企業の実感としては、多少、先生の御指摘に対して違う感触を持っています。

 ちょっと敷衍して申しますと、企業は、労務政策におきましては、公平性または公正さを非常に重視しておりますし、したがって、職務発明の問題につきましても、中村修二さんの場合に、判決でも言っていますように、非常に特異なケースだというふうに前提を置いていると思いますけれども、企業の経営実態から見ますと、労務政策としては、どうしても公平さあるいは全体的な、総合政策的な施策でやるわけですね。

 そうしますと、特異なケースを想定して職務発明規程を本当にいじるべきかというようなことがございますし、理系の社員の生涯賃金が低いという指標は確かにいっぱいありますけれども、少なくとも、当社では理系の人の入社時の賃金は文系よりも高いですね。それは、どうして高いかは、研究職手当とかいろいろあるわけですけれども、生涯賃金の件は、もしかしたら技術系の人よりも事務系の人の方が役職に広くつきやすかったとか、ほかのファクターが、相当シミュレーションする必要があるかな、これが私の経営の一端を担う者としての実感でございます。

 結論、繰り返しになりますけれども、企業においては、総合政策的に労務政策等をしていきますので、竹田弁護士も御指摘のように、ルールというのは総合的に、統一的につくるべきだと思うんですね。そうでなければ予見可能性は全く担保できません。

 しかし、優秀な研究者を日本にキープするために特別な契約、これは特別研究職というようなことで別途するということが企業の経営からは必要だと私は思います。

 以上でございます。

井上(義)委員 優秀な研究者というのはある意味で氷山の一角で、そういうすそ野があって初めて、研究者というか技術者を目指そう、そういう底辺があって初めてそういう優秀な人が出てくる。

 おっしゃったように、生涯賃金でいうと低いことは間違いないんですね。というのは、やはりおっしゃったように、役職に非常につきがたいということなんですよ。逆に言うと、それだけ一生懸命仕事をしてきても社内的に評価されない、そういう意味が非常に大きいんだろうというふうに私は思っていますので、その辺は認識が多少違うかもしれません。

 それから、非常に気になったのは、先ほどお示しいただいた日本経団連のいわゆる「現行職務発明制度におけるリスクとリターンの関係」ということで、研究開発の失敗の費用は企業ですね、特許の事業化失敗の費用は企業ですね、特許の事業化が成功した収益は発明者も獲得しますね。ですから、発明者はいいところ取りですねということを暗におっしゃっているというふうに私には聞こえたんですね。

 要するに、研究開発、どういう分野でどういう開発を研究するかというのは、これは企業の研究開発戦略であり、どういう特許を取得するかというのはやはり特許戦略だと思うんですよ。しかも、その中で、では、発明されたものについて事業化するかしないかというのは、ある意味で目きき、事業化戦略だと思うんですよ。それは、まさに企業がそのリスクを負う話なんであって、発明家が負うようなリスクじゃないわけですよ。

 発明家というか研究者というのは、たくさん研究した中で、その中でたまたま一つ生きた、ヒットした、そのときにそれなりのインセンティブがあれば、膨大な発明をそれこそ夜夜中でもやろう、そういうインセンティブを働かせるということが大事なんであって、何か、企業の研究開発戦略、特許戦略、ここが実は今一番日本の企業に求められているところだと私は思うんですよ。だから、これが何か今の制度の問題点というふうに指摘していること自体が、私は、ちょっとそこの認識がおかしいんじゃないかと。たまたまこの文書だからそういうふうになったんだと思いますけれども、そこをちょっと、感想だけで結構です。

石田参考人 ありがとうございます。

 結論を申しますと、先生に今御指摘いただいた認識につきましては、私及び企業経営においては異論はございません。しかし、一つ加えますと、職務発明規程における相当の対価につきまして、現在、訴訟において論じられ、結論化している、その視点の対極にこういうことも挙げて総合的に判断していくべきだ、そういうことでございまして、御理解いただければありがたいと思います。

 以上でございます。

井上(義)委員 私も、訴訟の問題の対極としておっしゃっているということはよくわかっています。

 ただ、今の、日本のこれからの科学技術戦略、特に特許戦略ですね。やたらめったら特許をとればいいというものじゃなくて、やはり明確な戦略性を持ってやらないといけないということが、どうも、これが出てきている背景にそういうことがきちっと認識されているのかなという疑問をちょっと持ったものですから、御指摘させていただいた次第です。

 それから、最後になりますが、大橋参考人にちょっと一点お伺いしたいと思います。

 今回、不合理性の排除ということで、手続の合理性が、手続が不合理なものであっちゃいけないよというのが今回の第四項の一番のポイントだと思うんですね。

 ただ、やはり我が国のこういう環境を見ますと、経営者と従業員ということで、どうしても従業員、研究者といえども従業員ですから、立場でいうと弱者ということになるんだろう、こういうふうに思うんですね。そういう中で、今回、不合理性の排除ということですから、私は、プレーヤーとしての労働組合の役割は非常に大きいというふうに思うわけでございます。

 また、逆に言うと、今度は労働組合がないところもありますから、だから、そういうところに、本当にそういう関係の中で、不合理性でない、不合理性の排除をどうしていくかということは、これも非常にまた大きな問題だと思いますけれども、そのことについて御意見があればお伺いしたいと思います。

大橋参考人 労働組合があるところにつきましては、労働基準法、労働組合法でも明記されているように、労使は対等というような原則で、しっかりとした対等な立場で交渉し、労使自治の原則に基づいて対応していくというようなことは、現実的に可能かなというふうに考えております。問題は、労働組合のない、ある企業においてもできないところもございますし、一部ない企業においては、委員御指摘のとおり、そういうような問題があるのではないかなと思います。

 この点につきましては、先ほど来申し上げさせていただいておりますように、やはりきちんとした形で、過半数の従業員代表制というものを労働基準法に基づいて確立していくことがまず大事だなと。その上で労使協議同等の手続を行っていかなくてはいけないということでございます。

 特許報酬規程にかかわらず、就業規則の改定、いいかげんな手続を行っている企業というのがちまたにもたくさんあるのが現実だと思います。本来、就業規則は地域の労働基準監督署の方にも提出をしなくてはならないというようなものなのですが、そのことすらしっかり行われていないというような現状もございます。

 こういう観点からいたしますと、行政に期待するというか、特許庁におかれましては、このことをしっかり担保できるようなさまざまな努力をしていただきたいというふうに思いますし、特許庁単独の取り組みだけでなく、厚生労働省また労働基準局、地域の労働基準監督署、自治体の労働局などとも連携をして、しっかりとした手続が行われるような指導監督というものを行っていただきたいというふうに考えておるところでございます。

井上(義)委員 では、終わります。どうもありがとうございました。

根本委員長 次に、塩川鉄也君。

塩川委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。

 きょうは、参考人の皆様、貴重な御意見、本当にありがとうございました。

 最初に、後藤参考人に何点かお伺いいたします。

 特許をめぐる裁判が近年多発をしているということが言われておりますけれども、概数で結構なんですが、何件ぐらいこの間、起こっているものなのか、その辺、数年間でお示しいただければと思うんです。

後藤参考人 済みません。今手元に正確な数字を持っていませんけれども、大体十件前後じゃなかったかと思います、ちょっと不正確な数字ですが。

塩川委員 ありがとうございます。

 こういう、概数として十件ぐらいというお話の、裁判に訴えざるを得なかった発明者の方の訴える動機というんですかね、こういうものについて、政府ですとか審議会としてどんな調査が行われたのか。

 広く研究者、発明者の方についてのアンケートというのはこちらでも拝見をしたんですけれども、裁判にかかわっている方々の自分の思いというんですかね、そういうのはどういうふうに把握をされているのか、お聞かせいただきたいんですけれども。

後藤参考人 特許制度小委員会では、そのメンバーの中に研究者の方も加わっておられまして、研究者側の御意見というのも十分反映させたつもりでございます。

 それから、今御指摘があった研究者の一般の調査とか、あるいは、委員の中にそういう問題、つまり研究者の処遇について、日本の研究者がどのぐらい給料をもらっているとか、アメリカの人と比べてどうとか、ヨーロッパの人と比べてどう、そういうふうなことを研究されている方もおられますので、そういうふうな資料も検討したわけでございます。

 それから、個々の裁判の判例についてはもちろんいろいろ詳しく検討しておりますが、個別にその裁判の当事者に例えばそこへ来てもらって話をするというようなことはもちろんやっておりません。でも、十分にそういう事情は考慮したつもりでございます。

塩川委員 竹田参考人、石田参考人、大橋参考人につきましても、こういった裁判の当事者の方、裁判に訴えた発明者の方のお話を直接お聞きする機会があった方はぜひそういうお話を紹介していただきたいと思います。その辺、それぞれの方からお答えいただければと思うんですけれども。

竹田参考人 発明者個人からヒアリングして事情を聞くとか、そういうことでございましょうか。――私自身としては経験がございません。

石田参考人 お答え申します。

 私も、現在、後藤先生御案内の十数件の訴訟につきましては、新聞等でおよそ承知しておりますけれども、原告、すなわち研究者側からの直接の話を聞いたことはございません。

大橋参考人 申しわけありません。私の方も同様でございまして、訴訟に訴えられた発明者の方々の動機というものを確認したことはございません。

塩川委員 後藤参考人にお伺いいたしますが、発明が実施された場合に支払われるべき実績補償についてですけれども、企業における実施状況がどうなっているのか。例えば発明協会研究所で平成七年では二五%程度とか、そういう数字というのは以前の数字ではお聞きしているんですけれども、近年の実績補償の実施状況というのはどのぐらいのものか、御説明いただけますか。

後藤参考人 小委員会で検討したときに、特許庁の方で細かな資料を集めて検討いたしましたけれども、今ちょっと細かな数字は手元にありませんで、よく覚えておりません。申しわけありません。

塩川委員 実績補償額、金額なんですけれども、私も、余りこういうのは直接携わったことがないので、よくわからないんですが、幾らぐらいのものなのか。その場合、いろいろな段階ごとに額が決まっているという話も聞くんですけれども、特許の出願時ですとか登録時ですとか実施時とか、そういう際に、およそ今の企業、大企業と中小企業、分けてもいいかもしれませんけれども、どのぐらいの相場になっているのか、そういう調査というのはあるものなんでしょうか。

後藤参考人 それは調査しておりまして、これも細かな数字は今手元にないんですけれども、大体、出願時に例えば五千円ぐらいとかで、それから登録時に二万円とかいうようなケースも多いようでございます。実績については非常にケースによって幅があって、数百万のオーダーのものもあると思いますし、それから二十万ぐらいとかいうのもあるし、非常にまちまちじゃないかというふうに思っております、今ちょっと手元に資料がありませんので、ちょっと記憶からのお答えになりますけれども。

塩川委員 後で結構ですので、そのデータについてお教えください。

 それから、ことしに入ってから特許法案をめぐって特に職務発明が注目を集めたのが、やはり青色発光ダイオードの裁判のことだと思います。今後こういう裁判が増加するんじゃないかという声が随分、企業側も含めてかなり出されましたけれども、私は率直に、日亜化学のケースというのは特異な例なのかなというのを感じておりまして、先ほど竹田参考人からも、日亜化学裁判というのは特殊な事例という話が御紹介ありました。確かに、裁判長自身が、特殊な事例だ、ほかに波及するには議論があるだろうと、判決言い渡しに当たって注釈を加えたということでもあります。

 ですから、そもそも多数の特許のうち裁判で争うこと自身が極めて少数だと思いますし、この日亜化学裁判というのも、金額を含めて極めて例外的なケースじゃないかなというふうに率直に思うんですが、その点の御感想といいますか、感じておられることをお聞かせください。

後藤参考人 おっしゃるように、金額も含めて、極めて例外的なケースだというふうに思っております。

塩川委員 竹田参考人にお伺いいたします。

 竹田参考人は、日弁連の方でも、知的財産推進本部の方でも役員につかれておられるということで、日弁連がこの特許法案をめぐって意見書を出されております。その中身について何点かお聞かせいただきたいと思っているんですけれども、対価の決定の手続についてのことなんですが、「対価の決定の手続を、使用者等に対し従業者等が一般的に弱い立場にあるにもかかわらず形式的には対等な当事者間での契約や勤務規則等として処理されるのであるから、公平の観点から定められるべき主張・立証責任の分配としては、使用者側にその「合理性」についての主張・立証責任を負担させるのが妥当である。」という指摘があるんですが、この点、今回の法改正ではどうなっていくんでしょうか。

竹田参考人 ただいま御指摘の証明責任の分配の問題ですけれども、法律、改正案がどのような表現ぶりになるかは、もちろん、産業構造審議会の議論の段階でわからないわけですが、その分担の問題までかなり突き詰めた議論というのはなされていませんでした。

 最終的には裁判所が判断すべきことになると思うんですけれども、改正法案に基づいてこの証明責任を検討した場合に問題となるのは、契約または勤務規則によって対価の額を定めたときに、裁判上、当該契約または規則が不合理なものでないことを使用者が証明する責任を負うのか、それとも、当該契約または規則が不合理なものであることを従業者側が証明する責任を負うか、そこのところが証明責任論としては一番問題のところではあると思います。

 多分、委員の御指摘もそこのところに係っていると思いますが、これは、現在の改正法案が最終的に可決成立した段階で、施行された段階で、今の点の挙証責任の分配をどのように考えるかというのは、結論的には裁判所が決めることになるとは思うのですけれども、そこで議論しているところも、結局のところ証明責任というのは真偽いずれか決しがたいときにどちらが不利益を負担するかという問題なので、もともとは公平の原理に従っているわけですね。

 今の日弁連の見解というのも、そういう意味で、公平の原理から見れば使用者側が負担すべきものと考えるということだろうと思いますが、今度は具体的な規定になって、こういう規定ででき上がりましたというときには、その規定の仕方によって挙証責任というのは考え方が違ってきますので、現段階で、現在の規定というのは「不合理と認められるものであつてはならない。」という書き方ですが、この場合の証明責任が使用者側にあるのか従業者側にあるのかということについては多分考え方も分かれるところではないかなというふうに、現在の規定との関係でいえばそうではないか。

 ただ、日弁連の意見でそのように出ているのは、証明責任の公平の原理ということから考えれば、使用者側に負担させるのが妥当でないかという考えであったと思いますけれども、この規定ができた場合にその解釈がどうなるかということは、またそのとおりだということになるかどうかということは、今の段階ではなかなか決められないことではないかというふうに思います。

塩川委員 竹田参考人に重ねてお伺いしますが、竹田参考人御自身はどのようにお考えかということで、これは日弁連の意見書でも、「使用者と従業者の力関係の中で従業者が弱者の立場にある」「対価決定の手続については、使用者と発明従業者の交渉における力関係の絶対的格差を重視しなければならない。」と指摘している。そういうことが現状認識としてあると思うんですけれども、その点、竹田参考人御自身はいかがでしょうか。

竹田参考人 この証明責任の問題では、この法律の改正案をめぐっていろいろな弁護士の人たちとも議論していますが、議論は分かれています。

 ただ、私自身の意見を述べてほしいということであれば、この規定が合理性のあるものでなければならないということまで規定しているのであると、そこまで企業側に挙証、証明責任を負わせるのは問題であるように思いますが、現在のような不合理なものであってはならないというような規定ぶりであれば、いわば合理的であるかないかのグレーゾーンになるものは不合理とは言えないということになると思いますから、その程度の挙証、証明責任は企業側が負うと解することもできるだろうと私は思っていますが、なお、最終的には検討を要する問題だという留保だけはつけさせていただきたいと思います。

塩川委員 同じ点、後藤参考人はいかがでしょうか。

後藤参考人 私も竹田参考人と同じ意見でありまして、このプロセスが合理的か不合理かということを、プロセスの判断ですので、クリアカットにぱっと二つに分けるというのはなかなか難しい問題があって、どうしてもグレーゾーンが残るということになると思います。その場合には、企業とかそれぞれの発明のケースに応じて自由な決め方を認めた方が技術進歩にとって望ましいのではないかということでありますので、不合理ではいけないというような書き方にするということが望ましいのではないかと思います。

 そうしますと、挙証責任というのは一〇〇%企業にあるということではなくて、どちらが負担するかということは、私としてはよくわかりませんけれども、従業員側がそれは不合理であるというふうにして裁判を起こす場合には、その従業員の側でそれを証明するということが求められることになるのではないかと思います。

塩川委員 法律関係の雑誌を見ておりましたら、日亜化学の裁判を担当された升永弁護士が書かれた文章を拝見しまして、この特許法改正案についても意見を出されておられたんです。

 それで、後藤参考人と竹田参考人にそれにかかわってお聞きしたいと思うんですが、相当対価の決定に当たって、今回、使用者側の事情を列挙するというのが五項で今まで以上に詳しく書かれるようになりました。これに関して、使用者側の事情を列挙するのであれば、発明者側の事情もあわせて列挙すべきじゃないかという指摘があるんですが、その点、後藤参考人、竹田参考人、いかがでしょうか。

後藤参考人 私は、升永先生の意見を読んでおりませんので、どういう背景でそれをおっしゃったかということはよくわからないのですけれども、そこで従業者側の考慮というのを、どういうことを考慮すべきかというふうにおっしゃっているのか、もう一つよくわからないのですが、今の計算のプロセスは、まず企業側の方の利益を計算して、それから企業側の貢献を引いていってというふうなプロセスをとっておりますので、企業側の考慮要件を明確にするということがまず求められるということでありまして、その際に、現在の考慮要件では、技術革新のプロセスあるいは技術革新が実現するまでの過程というものを考えたときに考慮すべき要件が抜けているということが明らかでありますので、それをつけ加えるということは必要であったというふうに思っております。

竹田参考人 私も升永弁護士の書かれたもの自体は読んでおりませんけれども、三十五条の五項の改正案が現在のような案として出されているのは、もともと現行法の三十五条の四項に書いてあるのは、使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない、使用者等が貢献した程度というのは、じゃ、どういうことを判断のファクターに入れるのかということがこの規定ぶりでは明らかでないので、もっとそこははっきりとどういうものかということが裁判所が判断しやすいように具体的に記載しようという趣旨で、現在の五項ができているんだと思います。

 したがって、当然使用者側の貢献度として考えるべきファクターとして具体的に記載した規定になっている、そういうふうに理解しております。

塩川委員 もう一点あるんですが、発明者が対価をめぐる訴訟を起こす場合に、いわば第一段階として、まず対価決定の手続が不合理であるかどうかが争点となることにより、発明者にとって訴訟遂行上の負担が増大することになるという指摘をされておられるんですが、この指摘というのはどうなんでしょうか。後藤参考人、竹田参考人、それぞれお答えいただけますか。

後藤参考人 どのようなことを考えてそういうことをおっしゃっているのかよくわかりませんけれども、先ほどから議論になっていますように、まず最初に両者で話し合って納得感を高めることによって訴訟そのものをなるたけ減らそうということが一つの大きなねらいですので、その訴訟まで至らないプロセスで決着するということはねらっているわけでありますけれども、どうしてもそのプロセスで不合理が残るということが万が一あった場合には、当然裁判を起こす権利というのはあるわけですから、従業員の方で訴訟を起こすということだろうと思います。

 負担がふえるかどうかということについて、ちょっとよく私はお答えできないんですが。

竹田参考人 一つは、先ほど申し上げた証明責任の分担とも関連すると思うんですが、ただ、従業者側が不合理であることの証明責任があるとなった場合でも、また使用者側が不合理でないということの証明責任を負う場合になった場合でも、いずれにしても争点になることは、先ほど言ったようなその要件をクリアするのはどういうことかといえば、従業員の意見聴取とか周知徹底とか再審査機関とか、そういうように争点の方はそんなにたくさん拡散するわけではないので、その点で裁判上の争点が明確化して、その点について裁判所の判断を求めるのが非常に現在よりも困難な訴訟になるとは考えられないように私は思っています。

塩川委員 竹田参考人にお伺いします。

 相当の対価の算定根拠のことで、ことしに入ってからの一連の特許関連の判決ではかなりいろいろな面で考慮がされてきているというのは感じているんですけれども、法案にもあるような「発明により使用者等が受けるべき利益の額、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。」と、いわば今回の法改正に向けてのいろいろな審議ですとか実際の法案の案文も出されている中で、裁判所の方もかなりこの点を考慮して相当の対価の算定根拠にしているんじゃないかなと思うんですが、具体的に判決なりにそういうのがどのように反映されているものかどうなのか、少しその点をお聞かせいただけますか。

竹田参考人 ここのところ、著名な判決も数件出ていまして、その判決それぞれに使用者側の貢献度についての認定する基礎となる事実を分析してみて、全く同じというわけではないんですが、確かに委員の御指摘のように、従業者の待遇の面をかなり取り上げて、その点を使用者側の貢献度に評価した判決が出てきています。

 だから、そういう意味では、私は、従来の判決の流れから見ると、使用者側の貢献度の中で、先ほど言った発明前の貢献度ということについては従来からかなり詳しく裁判所も認定してきていますけれども、発明完成後のそういう従業者に対する待遇の面を考慮している判決も出てきているということは、事実だと思います。

塩川委員 ありがとうございます。

 石田参考人にお伺いいたします。

 先ほどの冒頭の意見陳述の中でも、我が国の職務発明規定では、外国企業が我が国に研究開発拠点を設けることに悪影響を及ぼすことも懸念されるというお話がございました。

 一方で、日本弁理士会がこの特許法改正案に当たって見解を出されておりまして、そこを少し紹介しますと、日本の職務発明対価は、現行特許法三十五条の存在により世界のトップレベルになりつつある、やがて世界の研究者が日本の企業を目指す流れができるであろう、今、日本がアメリカと同様の研究者処遇制度に転換すれば、せっかくできつつある日本企業を目指す研究者の流れはしぼみ、消失するだろう、そういうふうに述べてあるわけですが、経済界の一部に、三十五条を廃止してアメリカスタイルの契約にすべてを任せようという考え方があるときに、こういう弁理士会の指摘など、どのようにお感じか、その点をお聞かせください。

石田参考人 ありがとうございます。

 結論として、私は特許法三十五条の廃止には賛成できません。理由は、現行法でもそうですし、また改正法案でもそうですけれども、一項、二項で法定通常実施権と予約承継権が規定されているわけでございまして、これによって日本の特許制度の、いわば経済産業の発達のためにというその原点であります企業における法的安定性や予見可能性につきましてこの一項、二項が担保しているという意味で、法改正の形ですべきだというふうに思っております。

 そして、日本の優秀な研究開発陣が空洞化して日本から外国に流れるのではないか、そういう指摘、またはこれだけ高額の相当の対価によって外国の優秀な研究開発者が日本に来るのではないか、これにつきましては、一面的には私も企業経営の者として理解しています。しかし、雇用の流動性、または今世界的ないろいろの研究開発に対する処遇が非常に流動的、多様化しております。企業もいろいろ特許制度等については国を選ぶ、当然であります。研究開発陣が国を選ぶ、これも当然ですけれども、この改正によってそれが阻害または後退するということは、私は全く考えておりません。要は、総合的にいろいろの政策の中で企業も国を選びますし、研究開発陣も国を選ぶ。したがって、国、行政挙げて総合的な配慮で対策をとっていくべきだと思います。この改正によってそれが阻害されることは全くないと信じております。

 以上です。

塩川委員 ありがとうございます。

 もう一問、石田参考人にお伺いいたします。

 先ほど、冒頭の陳述の際に、今後の期待ということで述べられた一項目めですけれども、改正法案三十五条四項の不合理か否かの判断に当たっては、企業と研究者の間で契約が結ばれ、その契約が双方の意思を反映しているものであるならば、その契約はすべて合理的とされ、その内容が裁判において尊重されることと。お話の中で、その契約が双方の意思を反映しているものであれば、その契約がすべて合理的とされ、いわば裁判所の介入の余地がないようなものになるという趣旨のことをおっしゃっておられました。その辺、もう少し御説明いただけますか。

石田参考人 ありがとうございます。

 結論を申しますと、今回の法改正は、現在、職務発明の相当の対価につきまして訴訟が多発しており、その原因が退職者が原告になっていることなどが引き金になっているという認識のもとに改正提案が、合理的な方向に半歩、一歩、二歩踏み出せる、そういうことで提案いただいていると思います。

 したがいまして、この合理性の問題につきましては、基本は自助努力、そして企業においては、業態によって多様化しておりますけれども、そういう中で、この改正によって、今出ている、指摘されている問題を払拭する、これが法改正の目的であり、そうであるべきだというふうに私は思います。

 そういう意味でいえば、せっかくそれに沿って、デュープロセス、適正な手続、労基法八十九、九十条も踏まえて、そして、説明責任、透明性をこれから踏んでいこうというときに、そのことについて依然として疑念を残すということについては、理解の仕方として適切でないということで、歯切れよく明快にそのように意見陳述をさせていただいたわけでございます。

 以上でございます。御理解いただければ幸いでございます。

塩川委員 時間が参りましたので、終わります。本当にありがとうございました。

根本委員長 これにて参考人に対する質疑は終わりました。

 この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。

 参考人の皆様には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)

 次回は、来る二十八日水曜日午前八時五十分理事会、午前九時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時一分散会


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