衆議院

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第5号 平成14年7月4日(木曜日)

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平成十四年七月四日(木曜日)
    午前九時三分開議
 出席小委員
   小委員長 島   聡君
      石破  茂君    近藤 基彦君
      土屋 品子君    葉梨 信行君
      平井 卓也君    大出  彰君
      小林 憲司君    今野  東君
      太田 昭宏君    武山百合子君
      春名 直章君    金子 哲夫君
      井上 喜一君
    …………………………………
   憲法調査会会長      中山 太郎君
   憲法調査会会長代理    中野 寛成君
   参考人
   (日本労働組合総連合会事
   務局長)         草野 忠義君
   衆議院憲法調査会事務局長 坂本 一洋君
    ―――――――――――――
七月四日
 小委員井上喜一君六月六日委員辞任につき、その補欠として井上喜一君が会長の指名で小委員に選任された。
同日
 小委員中山成彬君同日小委員辞任につき、その補欠として平井卓也君が会長の指名で小委員に選任された。
同日
 小委員平井卓也君同日小委員辞任につき、その補欠として中山成彬君が会長の指名で小委員に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 基本的人権の保障に関する件


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     ――――◇―――――
島小委員長 これより会議を開きます。
 基本的人権の保障に関する件について調査を進めます。
 本日、参考人として日本労働組合総連合会事務局長草野忠義君に御出席をいただいております。
 この際、参考人の方に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。基本的人権小委員会、今回五回目の委員会でございますが、恐らく今国会では最後の小委員会になると思います。参考人のお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきまして、調査の参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。
 次に、議事の順序につきまして申し上げます。
 最初に参考人の方から御意見を四十分以内でお述べいただき、その後、小委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
 なお、発言する際はその都度小委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は小委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
 御発言は着席のままでお願いいたします。
 それでは、草野参考人、お願いいたします。
草野参考人 御紹介いただきました連合事務局長の草野でございます。本日は、参考人としてお招きをいただきまして、まことにありがとうございます。
 では、以下、小委員長の発言に従いまして、着席で発言をさせていただきたいと思います。
 御案内のとおり、私ども連合は、ちょうど十三年前に発足をいたしました。現在、約七百五十万人の組合員を擁する組織になっております。
 まず、衆議院の憲法調査会の皆様方が真摯な討議をされておりますことに、心から敬意を表したいと思っております。
 本日は、私どもの立場から労働基本権と雇用対策についての考え方を述べるようにとのことでございますので、その件についてお話をさせていただきたいと思っております。
 労働基本権と雇用対策は、言うまでもなく、私ども労働組合にとりまして最も基本的なテーマである、このように認識をいたしております。連合のこれまでの各機関会議におきます確認事項あるいは取り組み等を踏まえながら、現時点でできる範囲のお話をさせていただきたいというふうに思っておるところであります。
 なお、本日は、憲法問題に限定せずにお話を申し上げたいと思いますが、憲法調査会での陳述ということでもございますので、憲法に関する連合の基本的な考え方をまず御報告申し上げたいと思います。
 連合は、先ほど申し上げましたように、十三年前に発足をいたしましたが、一九九九年十月の第六回定期大会で、国の基本政策に関する見解の一環といたしまして、憲法についての当面の考え方を整理いたしました。それは、まず、平和主義、主権在民、基本的人権尊重という日本国憲法の三大原則を重視し、その貫徹を期すということでございます。同時に、憲法論議を否定するものではないということにつきましても確認をしているところでございます。
 連合では、国の基本政策に関しまして三役会議で検討してまいりましたが、安全保障や憲法の問題などにつきましては、現在、三役会議のもとに国の基本政策検討作業委員会を設置して検討を進めているところでございます。そういう意味では、憲法につきましては、本年の五月から検討を開始したところでございますので、検討開始といいましてもまだ勉強会の段階でございまして、具体的な討議までには至っておりません。そのために、連合として憲法に関する総合的な見解をまとめるという段階には至っておりませんので、そういう前提でひとつきょうは意見陳述をさせていただきたいというふうに思っているところでございます。
 したがいまして、今回の陳述では、労働基本権あるいは雇用対策、労働条件に関する私ども連合の取り組みなどを紹介しながら、幾つかの点について述べさせていただきたいと存じます。
 なお、私たちは、憲法の問題につきましては、個人の尊重、法のもとの平等、強制労働の禁止、思想、良心の自由、職業選択の自由など、労働問題に関係の深い課題に関心を持っておりますけれども、本日は、労働基本権と雇用問題というテーマにつきまして、特に労働権、社会権についてお話しさせていただきたいということを申し上げておきたいと思います。
 まずは、労働基本権についてでございますけれども、言うまでもなく、最も労働組合にとって重要な権利の一つであることは御承知のとおりでございます。しかしながら、我が国の労働基本権の状況は先進国とは言いがたい深刻な問題を含んでいる、このように認識をいたしております。すなわち、憲法第二十八条で団結権、団交権、団体行動権のいわゆる労働三権を規定しているにもかかわらず、公務員関係法などが労働基本権に重大な制約を加えているという点でございます。
 公務員の労働基本権に関するこれまでの経緯は先生方も御承知のとおりでございますが、簡単に振り返ってみたいと思います。
 我が国の労働組合法は、憲法に先立ち、昭和二十年十二月に制定をされましたが、当初の規定は、警察官等を除く公務員に労働基本権を保障するというものでございました。しかしながら、昭和二十三年の国家公務員法改正に始まる公務員関係法の改正と制定によりまして、労働基本権に大きな制約が加えられることになりまして、公務員の争議行為の禁止などが決められたわけであります。その後、公務員関係法は幾つかの改正が行われましたけれども、労働基本権を制約するという枠組みは、五十年余を経た今日なお、基本的には当時のままとなっているわけでございます。
 このような憲法の趣旨に反する公務員諸法の規定につきまして、労働組合は、当然のことながら、強く抗議し、改正を求める運動を進めてまいりました。その主要な舞台の一つがILO、国際労働機関でございます。
 ILOは、我が国の労働組合の訴えなどを受けまして、労働基本権の状況に強い関心を持つこととなりました。昭和四十年の初めには調査団を日本に派遣し、我が国の労働基本権の状況等を調査し、結社の自由を規定いたしておりますILO第八十七号条約の批准に向けての勧告などを行いました。政府は、同条約の批准に向けまして公務員関係法の若干の改正を行うとともに、同年の五月にILO第八十七号条約を批准したわけであります。しかしながら、公務員の労働基本権を制約するという基本的な枠組みは変更されないままで来ているところであります。
 政府は、また、ILO条約の批准を受けまして、昭和四十年の十月に労使の代表を含みます公務員制度審議会を設置し、労働基本権の問題を含む公務員制度のあり方について検討を始めました。公務員制度審議会は昭和四十八年九月に第三次審議会の答申を行っておりますが、その内容は労働組合の主張からは大きく離れたものでございました。しかし、現業の公務員につきましては、争議権の問題を解決するための諸課題の検討を政府に求めるなど、従来と比べれば前向きの内容を含むというふうな理解をいたしております。
 しかし、その後、昭和四十九年のいわゆるスト権ストをめぐる労使の対立などを経まして、公務員制度をめぐる論議が繰り返されましたが、労働基本権の問題が大きく前進するということはなかったと認識をいたしております。
 平成九年に至りまして、公務員制度審議会は廃止され、新たに公務員制度調査会が設置されたと聞いております。公務員制度調査会は労使の代表が参加するもので、平成十一年に公務員制度改革に関して関係制度の改善などを求める答申を行いましたが、労働基本権を扱うものではございませんでした。
 政府は、平成十二年の末に至りまして、公務員制度を根本的に改革するとして行政改革大綱を閣議決定いたしましたが、これは公務員制度調査会の検討経緯を無視するものでございました。
 行政改革大綱を受けまして、行政改革推進事務局は、労働組合との協議は行わないまま、平成十三年三月には公務員制度改革の大枠を発表し、同じ平成十三年の十二月に公務員制度改革大綱をまとめたところでございます。しかしながら、その内容は、労働基本権の回復は行わないとするだけではなくて、内閣と各府省の人事管理権の強化を図るなど、労働組合としての基本的要求を無視したものだと認識をいたしております。
 連合は、そのような内容に抗議いたしますと同時に、平成十四年の二月に、ILO、国際労働機関結社の自由委員会への提訴に踏み切りました。そして、平成十四年六月、先月でございますが、ILO総会の条約勧告適用委員会におきまして、日本における公務員制度の問題を個別審査案件として審議を行いまして、日本政府の労働基本権制約を批判し、公務員との協議、交渉を促進するよう求める適用委員会議長集約を確認したところでございます。
 この条約勧告適用委員会におきます審議では、各国から日本政府に厳しい批判が加えられるなど、我が国の公務員制度の問題は改めて国際的な批判にさらされる事態となっております。
 私も、今回、六月のILO総会に出席してまいりました。日本案件に関する議長集約の資料もおつけいたしておりますので、後ほど御一覧いただければ大変幸いだというふうに思っております。
 以上がこれまでの経緯の極めて概要でございますが、我が国の公務員の労働基本権は、憲法二十八条があるにもかかわらず、大きく制約されていることは御承知のとおりだというふうに思っております。
 公務員諸法の改正から半世紀以上経た今日、社会経済情勢は大きく変化しております。労働運動も、抵抗から要求、そして参加の段階へと発展してきているというふうに自覚をいたしております。小泉総理がカナダのカナナスキス・サミットで奮闘されております姿をテレビで拝見いたしましたが、サミットの構成国である我が国において、公務員制度と労働基本権に関する限り、国際的なルールから離れようとする動きが見られることはまことに残念でならない、このように感じている次第でございます。
 政府が、民間企業では普通のことであるように、公務員の労働組合を社会的パートナーとして位置づけること、そのために国際的な視野に立って適切な政策変更を行うことが何より必要だと考えております。その中で、公務員関係法を改正して、労働基本権を速やかに回復し、民主的な公務員制度を確立するよう強く求めたいと思っている次第でございます。
 なお、民間産業の分野でも前時代的なスト規制法がいまだに存在しており、対象である電気事業や石炭鉱業の労働組合はもちろん、私たちもその撤廃を求めていることをあわせて御報告しておきたいと思います。
 衆議院の憲法調査会におかれましても、憲法第二十八条をめぐる状況について、十分検討されるよう要望させていただきたいと思っております。
 次に、雇用対策について若干述べさせていただきたいと思います。
 言うまでもなく、雇用対策は労働組合にとりまして最も重要な課題の一つであります。完全雇用の達成は、我が国のみならず世界の労働組合、世界の労働者の共通の目標でございます。ところが、我が国の雇用をめぐる情勢は未曾有の困難を抱えていると言っても過言ではないのではないでしょうか。
 つい先日、六月二十八日に発表されました本年五月の完全失業者数は三百七十五万人に上っており、完全失業率は五・四%とこれまでで最悪のレベルにございます。完全失業者の中で非自発的な失業者の数は百五十二万人となっております。このうち、勤め先の都合による倒産あるいはリストラなどの失業者は百十三万人にも達しておりますが、とりわけ四十五歳以上の中高年の労働者が五十七万人に及ぶ事態となっており、このような状況の中で自殺者が急増しております。平成十三年では三万二千人の方々がみずからの命を絶ったと報告されております。自殺者の中で四十歳、五十歳代の中高年者がほぼ四割を占める、そして経済生活苦を理由とするものが増加しております。これはまさに現在の雇用問題の深刻さを示すものであると考えている次第でございます。
 連合といたしましては、このような情勢を打ち破るために、政府に対しまして、積極的な経済政策を通じて景気を回復すること、雇用対策を抜本的に強化することなどを強く求めております。
 お手元の資料の中に、六月十四日に連合として小泉総理に要請した文書をつけてございますので、後ほどお目通しをいただければと考えております。
 さて、憲法第二十七条第一項では、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」と規定をいたしております。ここで言う勤労の権利の内容については、政府による次の三つの政策義務があるなどと解釈されております。すなわち、国民が完全就業できる体制をつくる義務、失業者への就業の機会を与える義務、失業者の生活資金を給付する義務であります。政府は、勤労権を確保するための雇用対策を行うべき憲法上の義務があるわけでございまして、今御紹介申し上げましたような政策義務に反するような法律や施策は違憲と考えるべきではないかと思う次第でございます。
 このように見てまいりますと、現在の政府の雇用政策は憲法の趣旨に沿ったものとは言いがたい面があるのではないでしょうか。
 例えば、雇用保険制度の状況であります。さきに述べましたように、憲法の勤労権は失業者の生活資金を給付する義務についても規定していると考えられておりますが、これを具体化したものが雇用保険制度であります。
 現在、雇用保険制度は主として労使が負担するものでありますが、長期の不況と失業者の増加の中で、財政的に厳しい状況に立ち至っておるのは御案内のとおりであります。連合は、雇用保険制度につきまして、一般会計による負担増を考えるべきということを主張しておりますが、政府は一貫して国庫負担を減らしてきており、それを当然とするかのような説明が繰り返されていると聞いております。このような姿勢は憲法の趣旨と相入れないものがあるのではないか、このように考える次第でございます。
 雇用対策と憲法とのかかわりの問題としては、このほかにも、国民が完全就業できる体制をつくる義務、失業者への就業の機会を与える義務について多くの検討すべき課題があるものと思われます。衆議院の憲法調査会におかれましても、雇用対策をめぐる状況についても、十分御検討、御審議をされるよう要望させていただきたいと思います。
 続きまして、労働条件、労働基準の問題について触れさせていただきたいと思います。
 憲法第二十七条二項は、「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」としております。これは労働条件に関する根本的な規定でございまして、労働基準法を初めとする労働保護法の根拠となっております。したがいまして、この規定に反するような法律や施策は憲法に反するものとされていると伺っております。
 労働条件と憲法の趣旨とのかかわりで申し上げれば、例えば男女の不平等の問題がございます。憲法は、我が国社会における男女平等の実現をその主要な課題としておりますが、職場や社会の状況は、それが達成されたと言うにはほど遠いものがあると思っております。
 我が国の多くの職場は、憲法が制定されて半世紀以上がたっても、なおいわゆる男社会であり続けております。賃金格差も著しく、女性の賃金は、パートタイマーを除く一般労働者で比較しても、所定内給与額で見ると、平均では男性の六五%程度であります。さらに、パートタイマーの賃金水準は一般労働者を大きく下回っております。平成十二年では、時給換算で見てみましても、女性パートタイマーは女性一般労働者の六七%程度となっております。
 このような賃金格差は近年拡大を続けておりますが、そのような状況をもたらしている原因の一つに、女性をパートで雇用し、コストを引き下げようとする傾向が強まっていることがあると理解をいたしております。ワークシェアリングの先進国と言われておりますオランダ初め欧州諸国などでは、均等待遇原則が法制化され、正社員とパートタイマーの格差は労働時間の短い分だけの違いとなっている、このようにお伺いをいたしております。
 雇用の場における男女の平等は、憲法上の直接の規定はありませんが、法のもとの平等の規定を見るまでもなく、憲法全体の趣旨に沿わないものと言わざるを得ないのではないでしょうか。
 また、職場での過労死やいじめ、セクシュアルハラスメントの問題などについても、労働条件とのかかわりで考えなければならない課題であると考えております。
 年間四千時間に近いような超長時間労働、一年間ほとんど休みがとれない、このような労働の果てに、病で命を落としたり、みずから命を絶つ労働者の例が後を絶ちません。また、職場での上司や同僚のいじめから退職に追い込まれる、あるいは自殺をしたというケースを聞いております。また、セクシュアルハラスメントにつきまして、行政や労働組合の各種調査などによりましても、引き続き問題がある状況でございまして、蔓延していると言っても過言ではないところもあると考えております。
 これらは労働基準の問題であるにとどまらず、労働者の人間としての尊厳が失われている問題であると思います。憲法では、勤労の基準を法律で定めるとされておりますことから、これらの問題を防止し、禁止するための法律などの強化が必要であると思っております。
 また、憲法は最低基準の法定を求めておりますが、職場の中の使用者や同僚によるものなど、私人間の行為のよるべき理念には触れておりません。しかしながら、過労死やいじめ、セクシュアルハラスメントなどの問題は、人権尊重を基本理念とする憲法の趣旨に反するものであることは言うまでもないと思っております。
 また、これらの問題は、生存権を規定いたしました憲法第二十五条、すなわち、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」との規定ともかかわる問題であると思います。
 憲法第二十五条は社会権の根本規定と言われており、労働基本権や労働条件の規定はその上に形づくられております。産業、企業の競争が激化する中で、労働の負荷が増加しており、さまざまな問題が生じておりますが、現在の職場の状況と憲法の趣旨とのかかわりを改めて見詰める必要があるのではないかと思っておるところでございまして、ここにつきましても十分な検討をお願い申し上げたいと思っております。
 さて、憲法の規定いたします労働基本権、労働権、社会権等は、言うまでもなく、基本的人権の重要な柱として高い意義を持つものであります。連合は、既に述べましたとおり、基本的人権尊重を初めとする憲法の原則を貫徹することを求めておりますが、労働基本権や雇用対策などにつきまして、憲法の趣旨に沿った立法や施策が強力に推進されることを求めるものでございます。
 その上で、憲法制定以降の社会経済情勢の変化を踏まえて、現在の労働権、社会権などの規定で十分であるのか、新しい労働権等の必要性についてどのように考えるのかという問題がございます。
 この問題については、私どもは、さきに述べましたとおり、現在検討を進めている段階でございます。専門家の方々からは、連合は憲法と労働の問題についての十分な見識を持つべきである、新しい労働権について積極的に検討してほしいなどの声が寄せられておりますが、連合といたしましては、繰り返し申し上げますが、これから具体的な検討を進めてまいりたい、このように考えている状況でございます。
 ただし、雇用労働者が五千万人を超える我が国社会の現状などを踏まえて、衆議院憲法調査会として、国民生活に深くかかわる労働権、社会権について大いに議論していただくよう御要請を申し上げたいと存じております。
 このことにつきまして、幾つかの検討課題について触れさせていただければと思います。
 まず、雇用対策についてであります。
 さきに述べましたとおり、憲法第二十七条一項は勤労の権利を規定しており、これは国の政策義務を規定したものと解釈されております。これについて、解釈にゆだねることなく、国が雇用対策を適切に推進することもあわせて明らかにしてはという意見があると聞いております。国民生活の根本である雇用対策について、どのような根拠規定が本来は望ましいのかという問題であると考えます。
 これに関連する最近の課題としては、労働者の能力開発の問題がございます。労働者が労働条件と生活の向上を図るためにも、みずからの職業能力を高める機会を得ることを権利としてとらえるべき時期ではないか。国や使用者が労働者の職業能力を尊重し、その開発に協力する義務などとする考え方であります。これは、勤労の権利の内容をもう少し内実あるものにするという議論だと考えております。
 次に、労働条件についてでございます。
 憲法第二十七条二項は勤労条件の基準を法律で定めることを規定しており、労働基準法などを通じて国が労働条件の最低基準を定める根拠規定となっており、意義の高いものと考えております。ただ、この規定には、現在の最重要課題の一つである男女平等や機会均等などが明示されておりません。このことをどう考えるのかという問題があると考えております。
 さらに、労働条件の規定を含め、憲法の人権保障の規定については、一部を除いて、職場の労使関係など私人間の関係には及ばないという基本的な課題があることが指摘されております。人権保障の規定は、国家などからの自由を保障する自由権が主体であるからであると考えております。例えば、憲法十四条は法のもとに平等であって性別で差別されないと定めておりますが、この規定は使用者と労働者などの私人間の関係には直接の効力がないとされております。
 この問題につきましては、二月十四日に開催されました基本的人権小委員会で、棟居参考人が私人間の問題全般についてお話しになっておられますが、私は雇用の場における私人間の問題について触れてみたいと思います。
 職場での労使関係など、雇用の場での私人間の関係には、通常の市民個人の間の関係とは異なり、特別な重みがございます。雇用の場においては、使用者に比べて労働者の力は極めて弱いことが通常であります。また、多くの労働者にとって、職場は人生の多くの部分を過ごす場であり、決定的な影響力を持っております。その中で、労働条件をめぐるトラブル、あるいは雇用の不平等、過労死、いじめ、セクシュアルハラスメントの今日的な問題を初めさまざまなトラブルが発生いたします。
 このように考えますと、私人間の職場での関係のよりどころとなる規定が憲法にあった方がよいとの議論があることは、理解ができるところであります。
 以上の課題については、現行法の改正で対応することを含め、さまざまな論点があると思いますが、ぜひとも御検討いただければと思っております。
 なお、憲法第二十七条三項の「児童は、これを酷使してはならない。」との規定は当然のことと考えます。ただし、この規定につきましては、国際的な子どもの権利条約などが進展している今日、我が国の将来を担う子供たちのための憲法の規定は、本来はさらに充実させるべきであると識者の指摘が以前からございますことは、御存じのとおりでございます。
 また、憲法第二十五条の生存権、社会権は、最低限度の生活保障と社会福祉の増進を規定いたしております。この規定は、生存権を明らかにするとともに、社会国家の理念を示す意義深いものと考えます。しかし、我が国では、近年、経済のグローバル化と国際競争の激化が進む中で、アメリカであらわれているような社会的格差の拡大が進むのではないか、弱肉強食型社会になるのではないかとの懸念が強まっております。
 この中で、憲法第二十五条において、社会国家、福祉国家の理念にとどまらず、社会的な連帯や弱者への配慮を重視する社会を目指すことをより明確にしてはどうかという考え方もございます。これにつきましても御検討を願えればと考える次第でございます。
 私どもが二十一世紀の望ましい社会のあり方と労働運動の新しい戦略をまとめました連合二十一世紀ビジョンの中で、その基本理念を、労働を中心とする福祉型社会の構築、すなわち、働くということに最も重要な価値を置き、すべての人に働く機会と公正な労働条件を保障し、安心して自己実現に挑戦できるセーフティーネットがはめ込まれた社会を目指すとしていることも、御参考までに申し添えておきたいと思います。
 ところで、憲法の労働権、社会権のあり方について、かつて憲法制定時に衆議院で検討された内容に改めて目を通させていただきました。資料として六番でつけておりますけれども、これは昭和二十一年に衆議院の委員会で行われた憲法草案の検討に際しての各党の意見であります。ここでは労働権、社会権に関するもののみをお示ししておりますが、当時、労働権、社会権については日本社会党と協同民主党の二党から草案への修正意見が出されたということであります。
 日本社会党の意見は、労働権について、当時の憲法草案について、正当なる報酬、機会均等と失業防止、休息の権利、最長八時間労働制などを追加すべきというものでありました。このうち、休息の権利につきましては、草案が修正され、現在の憲法第二十七条に記されることとなったということであります。
 社会権につきましては、日本社会党が、草案に加えて、健康で文化的な最低限度の生活の保障を規定するよう求め、これが受け入れられて現在の規定になっているということでございます。
 協同民主党の修正意見は、草案にある勤労の権利に義務を加えるべきというもので、これについては日本社会党も同様な意見であり、原案が修正されております。
 憲法制定時の論議につきましては、今日的にも示唆に富むものがあると思います。これらを含めて御検討いただければと思っておるところであります。
 本日は、陳述の機会をいただき、労働基本権と雇用対策を中心に述べさせていただきました。陳述の結びに申し上げたいことは、我が国がますます雇用労働者を中心とする社会になってきているということであります。失業者を含む雇用労働者の数は、憲法制定のころには千三百万人弱、労働人口の三七%、十五歳以上の労働人口の二四%でございましたが、今日では五千六百万人強、労働力人口の八三%、十五歳以上人口の五二%に達しております。労働に関する権利の問題は、多くの国民にとって日常的かつ切実な問題となっております。
 また、委員の皆様方に申し上げるまでもなく、労働権と社会権の規定は、ドイツのワイマール憲法などに始まるもので、国際的にも先進的な憲法の特徴とされているものであり、その規定のあり方は国の形として見られるものであると理解をいたしております。
 衆議院憲法調査会は、五年間の検討期間の半ばに差しかかっていると伺っております。調査会が多くの国民、勤労者の負託にこたえ、労働に関する諸問題について十分な御検討をいただくように重ねてお願いを申し上げまして、私の陳述とさせていただきます。
 ありがとうございました。
島小委員長 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
島小委員長 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がございますので、順次これを許します。石破茂君。
石破小委員 事務局長、きょうはお忙しいところありがとうございました。大変感銘深くお話を聞かせていただきました。きょうのお話と直接関係しない部分もありますが、お許しをいただきまして、御意見を賜りたいと存じます。
 私、最近、自分が関係しております仕事と憲法、そして労働組合というのか勤労者というのか、その三つのかかわり合いで思うことが幾つかございます。
 一つは、外国人労働者の問題であります。すなわち、先般の瀋陽の総領事館の事件を一つのきっかけといたしまして、難民問題をどのように取り扱うのかというような議論が起こっております。現在、外国人労働者は単純労働は認めないということに相なっておるわけでございますが、これから先、どの国とは申しませんが、四囲の情勢が不安定になりまして、難民が日本の国にやってくるということは容易に予想されることである。
 インドシナ難民につきましては、これは条約難民とは別の取り扱いをいたしておりまして、今一万人ぐらい受け入れております。インドシナ難民に対しては、つまりベトナム、カンボジア、ラオス、その方面から来られた方々に対しましては、日本語の教育でありますとか就労のあっせんでありますとか、そういうような支援を我が国として行っておる。
 ただ、憲法の規定の中には、「何人も」という規定と「すべて国民は」という二通りの書き方をしておるわけですね。勤労の場合には「すべて国民は」、こういう書き方をしておって、「何人も」という書き方をしていないわけであります。
 私どもは、確かに、その国の状況が不安定になって、国へ帰れば迫害を受けるおそれがある人たちに対して、人道的にという言葉を仮に使うとすれば、支援をしていかねばならないということはヒューマニスティックには思うわけでありますが、我が国においては、移民の受け入れという歴史もないわけですね。文化も全く異なるわけです。
 では、この際、難民をどうするかという議論はさておいて、外国人の労働というものと日本の勤労者の利益というのは、正直申し上げれば相反する場面が全くないとは私は思っていない。それと人道とがぶつかり合うような話は、できれば避けたいんだけれども、その議論をしなければ実は本質的な解決には何もならない。
 外国人の就労というものにつきまして、連合の考え方でも事務局長個人の考え方でも結構ですが、御教示いただけませんでしょうか。
草野参考人 大変難しい御質問をちょうだいいたしましたが、過去におきまして、日本が、バブルの頂点の時期を含めまして、ほとんどの産業で労働力が極めて逼迫するという時代がございまして、そのときに労働界の中で、外国人労働者問題についてどうするかという議論を大分したことが実はございます。
 その中で、労働力需給が逼迫している中ではありますけれども、中長期的に考える場合、今石破先生御指摘のように、国内労働者と利害が相反する部分が出てくるであろうということで、私、その当時の、十年ちょっと前になりますでしょうか、したがいまして全部を把握したわけではございませんけれども、かなりの組合においては、外国人労働者問題は極めて慎重に考えるべきという意見が大半であった、こういうふうに理解をいたしております。
 では、現在これをどう考えるかということでございますが、基本的には、先ほど申し上げましたように、雇用状況が逆の意味で極めて厳しくなってきているという状況を考えますと、我々として、失業ということを視点に考えるならば、やはり外国人労働者問題については極めて慎重に考えざるを得ないのではないだろうか、こういうふうに思っているところがまず一点です。
 それから、人道的な面との関係でいいますと、これは我々としても、労働組合でございますのでそこは考えなきゃいけないので、正直申し上げて、非常に呻吟しているというのが率直なところではないかというふうに思っています。
 それと、最後になりますが、もう一つは、今後の日本の経済、産業あるいは雇用の状況がどうなるか、この認識が一番大事な点ではないかというふうに思っております。もし今後今のような状況が常態化していくんだという認識に立てば、大変申しわけないんですが、外国人労働者問題についてはかなり慎重に考えないと、日本の雇用状況はますますひどいものになっていく危険性をはらんでいる、私はこういうふうに思っております。
 一方で、日本経済は今後産業構造の転換等が進んでさらに発展していくという理解に立てば、少子高齢化という今の労働力人口の状況を考えますと、これは逆に人手不足という状況も起こり得るわけでありますから、そういう意味では外国人労働者あるいは移民という問題を本当に真剣に考えていかなければならない状況になってくる。
 したがって、今後の我が国の経済、産業がどうなっていくかという判断によって、この問題についての対応はかなり変わってくるのではないか、私はこういうふうに思っております。
石破小委員 ありがとうございました。
 もう一点お教えをいただきたいと思います。有事法制に関連してでございます。
 つまり、憲法の第十八条には、御案内のとおり、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」こういうふうに規定がございます。
 今回、自衛隊法の第百三条にもともとあります業務従事命令、このことをめぐりまして、労働組合からいろいろな意見が出されております。つまり、有事法制によって業務従事命令をかけられることは、極端に言えば憲法十八条違反だとまで言い切る人もおられます。それは、私、ある意味ためにする議論ではないかという気もいたしますが。
 他方、我が国は、国際人権規約というものを承認いたしておるわけですね。その中で市民的及び政治的権利に関する国際規約というものがございます。その中で、強制労働には含まれないというものの中に、「社会の存立又は福祉を脅かす緊急事態又は災害の場合に要求される役務」、これは強制労働とは言いませんというふうに国際人権規約でうたってある。そのことの関連をどうするかということでございます。
 私は、災害対策基本法においては業務従事命令というのは認められておって、それでは今回の有事法制、自衛隊法百三条、これにおいてはこれは認められないということは、この人権規約の趣旨からすれば相矛盾するものであって、災害であれあるいは有事であれ、これは強制労働には当たらないと考えるのが理の当然ではないかというふうに考えておりますが、労働組合の幾つか、港湾、航空、あとは陸、海でもそうです、そういう方々の労働組合、連合全部とは言いません、一部から、これは憲法に抵触するので反対であるという意見が出ております。
 そのことにつきまして、連合として、あるいは事務局長個人の御見解でも結構ですが、お教えをいただければ幸いです。
草野参考人 有事法制の問題につきましては、二つ申し上げたいと思います。
 一つは、連合といたしまして、先般、先ほど意見陳述の中でも申し上げました、国の基本政策検討作業委員会で一定の整理をいたしまして、これは文書として公表いたしております。基本的には、大きな自然災害等を含めて考えますと、こういう緊急避難時に対応する備えをすることは必要である、まずこの一点は確認いたしております。
 しかしながら、今回の有事法制の提案の中身はいろいろ問題があるのではないかということで、今回の提案については反対だ、こういう態度でいるということ。これは、もし必要であれば、文書をまた届けさせていただきたいというふうに思います。
 今、石破先生御指摘の後段の問題は非常に悩ましい問題で、連合の中では詰めた議論を正直言ってしておりません。ただ、今御指摘のように、例えば私どもの傘下ですと、海員組合さんから非常に強い要望書を私どもはいただいております。
 これは、正確に今記憶しておりませんが、湾岸戦争のときに、海員組合の組合員が、非戦闘員であったにもかかわらず砲撃を受けて、数名の方が命を落とした、こういうことは、組合員を守るという立場から見ればとても耐えられないことだ、したがって、そういう我々の趣旨を理解してほしいという我々の傘下組合の海員組合の主張については、私は十分理解ができるというふうに思っておりますが、申しわけございませんが、今の業務従事命令の問題については、連合加盟組合の中でも意見が実は分かれております。
 今御指摘のように、これについては憲法違反であるという大変強い主張をしているところと、これはある意味では当然のことではないかという理解をしている組合もございまして、私の立場から、今どちらがいいということを申し上げることはちょっと控えさせていただきたいというふうに思っております。
石破小委員 終わります。
島小委員長 次に、小林憲司君。
小林(憲)小委員 本日は、大変お忙しい中、貴重な御意見をたくさん、ありがとうございました。
 私、民主党の小林憲司でございます。本日は、労働基本権について御質問させていただきます。
 労働基本権とされる憲法二十八条による労働三権、団結権、団体交渉権、そして団体行動、いわゆるスト権が公務員の場合何らかの形で制限されており、その回復が悲願であるという点は、これまでの経緯にも照らしまして十分理解できるところであります。しかし、今どき、民間にしても、紛争を解決するに当たりまして、ストという手法をほとんど用いられておりません。そして、各単組、いわゆる産業別単一組合では、スト資金の積み立てを中止しようという声さえ出ているのが現状であると思うんです。今さらスト権によって自分たちの経済的地位を確立しようという意識は、民間の間にはほとんど日本の国では見受けられないのではないでしょうか。
 公務員の世界にしても、日教組にしろ自治労にしろ、組織率が二〇%と言われておるわけです。多くの公務員は、非組合員ということで組合員にはなっていないわけですから、スト権を解放したところで、旗を振りかざす人は少ないというふうに私は思うのであります。そういう時代の中にあって、公務員が労働基本権の回復を叫んでも、世間一般の共感を呼ぶとは私は思わないのですが、草野事務局長はいかがお思いでしょうか。お願いします。
草野参考人 民間でもストライキはほとんどないじゃないかという今の先生の御指摘、統計上からもそれは明確にあらわれているわけでありまして、私自身が自動車の出身でございますが、自動車もここのところ、十八年ぐらいでしょうか、ストライキは基本的には行っておりません。ただ、おととし、一部販売会社でストライキをやりましたけれども、私自身も実際にみずからがストライキをやったという経験はございません。
 しかしながら、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、労働者といわゆる使用者側という立場でいいますと、圧倒的な力の差があることは事実でありますから、そういう意味で、我々としては、最後の手段というふうに平たく言えば言えると思いますが、争議行為というものをきちっと持って交渉に当たるというのは国際的にも認められた権利でありますので、ここは何としても確保したいというのが正直なところでございます。
 それから二つ目には、したがいまして、世間の理解を得られなければ、ストライキが成功しないんではないかというふうに私自身も思っております。私自身は、先ほど申し上げましたように、実際にストライキを打った経験はございませんが、ストライキを打とうとして準備をしたことは何回かございます。先輩の話を聞いたり、過去の事例を書き物で読んだりした場合、ストライキというのは、そこの組合員の理解だけでなく、世間あるいは周囲の皆様方が、ああ、それはしようがないんだな、そこまで追い込まれているんだなという理解がないと成功しないだろう、こういうふうにまず私は思っております。
 それから最後になりますが、したがいまして、私どもも、労働三権を返せということだけではなしに、どうやったら国民から信頼される公務員の制度ができるかという視点に立って今運動を進めておりますし、考え方も提示させていただいておりますので、そこも御理解をいただくようにぜひお願いしたいというふうに思っております。
小林(憲)小委員 今私は、草野事務局長のお話をお伺いしまして、最近、連合の鷲尾会長から笹森会長にかわられまして、そしてまた草野事務局長にかわられまして、笹森会長の大変柔軟な姿勢と、そしてまた草野事務局長の、今までの労働界では考えられないような非常に前向きな明るい話が出る。ストをまだ御自身で経験していない世代の方が今トップに来ているという現状の中で、非常に労働界も変わっていくんだろうなというふうに認識いたしました。
 そして今、私も連合の組織の人員の推移をずっと追ってみました。組織数の減少は、必ずしも倒産ということではないわけで、統合再編もあるのでございますが、とにかくピークの一九九七年以降余り数字が変わっていない状態で進んでいる。そしてまた、明らかにリストラの影響とか定年退職者の無補充もあるわけでございますけれども、数字的には大体伸びがない。決してシュリンクしているわけではないんですが、伸びがないというような感じだと思います。
 そしてまた、連合に加盟していないといいますか、そういうところでもっともっと倒産の件数が多くて、ここで一つ一つ挙げませんが、悲惨な状況が出ているということも認識しておりまして、連合の皆さんの御努力が雇用というものに対しての役割を今果たしていると思うのであります。
 次に、雇用対策について、それに関連いたしまして質問させていただきたいんですが、最近の経済情勢の中で、企業の組織再編にかかわる法整備が急速に進められてきているわけでございます。九九年に制定された民事再生法、そしてまた産業活力再生法、そして二〇〇〇年の会社分割制度などがそういう大きなものであると言えるんですが、それは裏を返せば、リストラ型解雇促進法とも言えるものでありまして、これに対し、大量解雇に対する立法措置が大きく立ちおくれているのではないでしょうか。
 企業の組織再編の法整備とその際の労働者保護の法整備は、いわゆる車の両輪というふうに考えられると私は思うんです。現状は、一方の車輪が今大変小さい状態じゃないでしょうか。どう見ても労働法の分野が極めて弱い状態で、雇用されている方々の権利が守られていない。これでは、極めて弱い片肺飛行状態で、この面での法整備も連合として強力に取り組んでアナライズしていく必要性があると思うんですが、いかがお考えでしょうか。
草野参考人 さっきの先生の御指摘は、褒められたのかどうかよくわからないんですが、変わっていこうという強い思いだけは持っているということだけ表明をさせていただきたいというふうに思っております。
 今御指摘のように、民事再生法というのは、確かに倒産法等から見れば、会社を生き返らせるのに非常に有効であるということは私ども理解をいたしておりますけれども、実際に民事再生法が使われたケースを見てまいりますと、ちょっと極端な言い方になるかもしれませんが、会社は生き残ったけれども従業員はいなくなってしまったというケースが非常に多く見受けられるわけでありまして、今私どもも、民事再生法の改正問題についても取り組ませていただいております。
 それと、会社分割法あるいはこれから議論になります営業譲渡の問題等を含めまして、EUでは、EU指令という極めて厳しい指令が出されておりまして、いわゆる労働契約の継続、継承というものが明確に示されているわけであります。分割法のところは、一部それを法制化していただきましたことは感謝申し上げたいと思いますが、全体として言えば、今の中で、雇用を維持するという点が非常に難しくなってきているということは御指摘のとおりでございまして、私ども、労働者保護法を制定するように今お願いをしているところでございますので、ぜひ御理解をいただきたいというふうに思っております。
 それから、最後にもう一点でございますが、私の出身企業も大分リストラが行われましたけれども、一言で言うと、合成の誤謬というんでしょうか、企業として生き延びなければならないためにリストラをやる、これが、ミクロのところでは一見正しいようですが、マクロになりますと、国としての大きな損失につながっている。
 今データを持ってきておりませんが、三百万から四百万の方が失業いたしますと、トータルでたしか百七、八十万、国としてのコストがかかるという計算がございますし、六百万、七百万ぐらいの方ですと、たしか二百五十万ぐらいのコストがかかる。こういうこと全体を合わせますと、国としては、トータルとしては物すごい負担増になっているのではないか。そういう意味では、やはり雇用を維持しながらやっていく。
 そのために、私どもが今提起しておりますのは、ワークシェアリングという行き方が日本の中でできないのかどうか。政労使で検討委員会を設けさせていただきまして、三月末には一定の結論を出しましたけれども、これはあくまでも緊急避難型の問題でございます。来週からまた議論を始めていきたいと思っておりますが、中長期的なワークシェアリングを定着させていくということが雇用を維持することになりますし、全体としての国のコスト負担の削減にもつながる、こういうふうに思っているところでございますので、ぜひともよろしくお願いをしたいというふうに思います。
小林(憲)小委員 ありがとうございました。終わります。
島小委員長 次に、太田昭宏君。
太田(昭)小委員 草野事務局長には、日ごろから大変お世話をいただきましてありがとうございます。
 きょうは、新しい権利ということについて、男女の平等等々についてお話がありましたが、端的に言いますと、二十七条、二十八条を変えた方がいいとお考えなのか、現状でいいけれども、そういうことについての内容をいろいろ論議していただいて深めて、法律的なことでそれをつくっていくという方向でいいとお考えなのか。私は、二十七条、二十八条はこれでいいという立場なんですが、いかがでしょうか。
草野参考人 先ほど申し上げましたように、条文を逐一変えた方がいいかどうかという議論はこれからでございますので、直接的には今太田先生の御質問にお答えできる立場にはございませんが、憲法であらゆることを網羅しようとするのは難しいというふうに理解をいたしております。要するに、基本的な理念を憲法に記し、それに基づいて法制化、立法化するというのが基本的な考え方ではないかというふうに思っておりますので、この二十七条、二十八条の内容については、基本的に私は評価をさせていただきたいというふうに思っておりますが、文章的に何かをつけ加えた方がいいか、表現を変えた方がいいかという点については、もう少し勉強させていただきたいというふうに思っております。
太田(昭)小委員 ILOへの提訴ということの中で二つほどお聞きしたいと思いますが、議長の集約の訳文がなかなか難しい訳文になっておりましてあれなんですが、要するに、ILOの議長集約は、論議をされたことは、国の制約は日本の場合は広過ぎるよ、国の行政に従事していない公務員という、その辺をきめ細かく見て、必要最小限にすべきだよという意味合いのような気が私はするんですね。
 これは、連合としてというか草野事務局長というのか、どちらでもいいんですが、国のこの部分についてもう少し緩めなさいというお考えなのか、私は、ILOはそういうことを言っているんじゃないかというふうに思うんですが、この辺はいかがなんでしょうか。
草野参考人 二つぐらいあると思うんですが、一つは、この議長集約が、原文が実はドイツ語でありまして、たまたまこのときの議長がドイツ人だったんです。私は、その当時はもう日本に帰ってきて、いなかったんですが、後から状況を聞きましたら、事務局の方が英語でメモしたのを議長がみずからそれをドイツ語でやって、日本の場合は英語から日本語の通訳だったものですから、ドイツ語から英語への通訳が若干意味不明なところがありました。したがって、日本代表団が、英語そのもの、ドイツ語から英語がよくわからないものですから、結果として何を言っているかよくわからなかったというのが実はございまして、これは政府代表も行っておりますから、最終的に議長発言をもう一回整理をして出されたのがこの仮訳でございまして、実は政府が訳した内容と我々が訳した内容はまたちょっと意味が違うところがあります。
 それはちょっとおきまして、私どもとしては、二つあると申し上げましたのは、一つは、ILO結社の自由委員会に提訴をいたしておりますので、結社の自由委員会の結論が出るのはことしの十一月でございます。したがって、そこでどういうレポートが出るかということを私どもは極めて重視をしているというふうにお酌み取りいただきたい、こういうふうに思っております。
 それから、このときに、条約勧告適用委員会で七カ国が連合の主張に対して応援演説をしていただいた。その場の雰囲気等から見ますと、基本的には連合の主張がかなりの部分議長には受け入れられたんではないか、私どもはこういうふうに理解をしております。
 ただ、今、太田先生御指摘のように、この文章だけを読むと一体どうなのかというところはあるんですが、そこで言えることは、一つは、公務員の労働者が給与決定に参加する機会が大きく制約されているという、いわゆる労働協約締結権、ここの部分はやはり制約されているということは明確に指摘をしているんではないかと思っております。それから、争議行為につきましては、各国、特に先進諸国でもすべての公務員に認められているわけではないというふうに理解をしておりますので、私どもも、公務員全体に適用しなければならないというふうには考えておりません。
 具体例を挙げるとちょっとそごがあるかもしれませんので申し上げませんけれども、例えばイギリスの場合には、警察及び軍隊は除く、こういうふうになっておりますし、フランスでも、軍人及び警察官を除くところは争議権はある、こういうふうになっています。ドイツは、何か全部争議権はあるようでございます。
 そういうふうなことですから、我々も、すべての公務員の方に労働三権全部をというふうには考えていないということは申し上げてよろしいかと思います。
太田(昭)小委員 昭和四十八年の全農林最高裁判決の最後のところで、労働基本権制約の代償措置としての人事院勧告制度というのが出ているわけですが、今回の公務員制度改革の中で、人事院のあり方について、これがある意味では縮小されるといいますか、そういう方向性の中での論議が、そういう表現は当然されておりませんけれども、そうしたニュアンスというものがあろうというふうに思います。
 今回の公務員制度の人事院勧告制度あるいは人事院のあり方ということと、このスト権という問題についてどうお考えになっているか、お聞きしたいと思います。
草野参考人 今回の公務員改革大綱の中身の我々の理解は、かなり人事院の権限が縮小されるというふうに理解をいたしておりまして、その中で、一方での制約は全く変化がない。これは一方に偏った方向性が示されているんではないか、実はこういう理解をいたしております。
 ただ、この問題と争議行為の問題とは直接絡んでいるというふうには私は理解をしておりません。もともと労働組合としては、冒頭申し上げましたように、基本的には、労働三権は当然公務員であっても持つべきであるという主張の一貫性の流れの中にあるということは御理解いただきたいと思います。そういう中で、今回出されてきたものは、人事院の権限をかなり縮小して、当局のいわゆる人事権を強化している、一方で制約は全く変わらない、こういうふうな公務員制度改革の方向を目指しているのではないか、こういうふうに理解をいたしております。
太田(昭)小委員 最後に、職につかない若者、職につけない中高年、働きがいを一体どう考えるのかということの中で、僕は、特に若年雇用について、将来の日本のことを考えると非常に心配をしているわけです。このあたり、東大の玄田さんなどは、根性をたたき直すだけでは若者はだめだよ、働き場所ということ、またその中身で、つまらない仕事ばかりさせておいたらますます仕事から離れていくよということで、機会の平等よりも過程の平等という表現を、説明責任という、なぜそういう仕事をさせるかというようなことも含めて、意味のある仕事をできるだけ若者に会社としてもさせることが非常に大事だというような指摘もされているんです。
 若年雇用について、時間がありませんので短い時間で結構です。
草野参考人 私どもも、とかく中高年のリストラされた失業者に対しまして目が向きがちでございますが、今太田先生御指摘のように、一方で、就職できない、フリーターがいいか悪いかという問題はまた別の議論があろうかと思いますが、そういう若い人たちがふえているというのは、社会問題として非常に大きな問題だろうというふうに思っております。
 即解決策がないと思いますが、私は、基本的にはやはり教育のあり方に問題があるんではないか、こういうふうに思っておりまして、学校教育の中でも、勤労観とか職業意識といったものの教育をもっと取り入れていただく必要があるんではないかと思います。一方で、兵庫県などはかなり先進的にやられておりますが、インターンシップ等をどんどん取り入れていくことによって、いわゆる働くことの重要性とか働くことの楽しさというものを、もっと若い年代から教育していくということが今一番求められているんではないかな、こういうふうに思っております。
太田(昭)小委員 ありがとうございました。
島小委員長 次に、武山百合子君。
武山小委員 草野さん、きょうは忌憚のない御意見を開陳していただきまして、ありがとうございます。
 早速ですけれども、きのう、ILO議連総会が東京の方でありまして、これは国会議員の中の議連の方なんですね。そこで、質問が集中した点について一つ見解等をお聞きしたいと思いますけれども、日本はなぜ百十一号条約をいまだに批准していないのかということで、大変意見が集中いたしました。
 それで、この雇用及び職業の条約ですけれども、機会及び待遇の均等を促進する国内政策が必要じゃないかということが言われておりますけれども、草野さんのところでは、この辺の見解は、どう思っておりますでしょうか。
草野参考人 連合といたしましては、ILOの未批准の条約の中でも、八条約を最優先で批准すべきという取り組みをずっと続けてきておりまして、ことし、たしか百四十四号が批准されたというふうにお伺いしております。今、武山先生御指摘の百十一号条約につきましても、私どもとしては優先して批准すべきだという主張をさせていただいておりますが、お伺いしますと、何か一年に一条約というようなことがあるようでございまして、残念ながらなかなか進展していないというのが率直な気持ちでございます。
武山小委員 まず、採用、募集における採用の自由という憲法上の問題があるという議論もされたわけです。それから、その百十一号条約自体が大変古い条約だということで、抽象的な言葉で書かれて、どう解釈すればよいのかという問題もあるということですね。
 それで、お聞きしたいのは、公務員の政治活動の制限は差別に当たらないかということですけれども、この件に関しては連合の方はどうお考えでしょうか。
草野参考人 労働組合として、組合員として政治活動をやるということについては、私どもはやはり自由は保障されているというふうに理解をいたしております。
武山小委員 ありがとうございます。
 それから、人権擁護法が成立すればということなんですけれども、この人権擁護法に対しては、御見解はいかがでしょうか。
草野参考人 済みません、ちょっと人権擁護法は……。
武山小委員 これは私も通告していなかったものですから、また個別にお話ししたいと思います。
 それでは、もう少し一般的なお話で、パートタイムのことについて、女性の視点からいろいろお話を聞きたいと思います。
 今、パートタイム労働が、機会も、すなわちチャンスも本当にたくさんあり、女性があらゆる職場で働いておるわけですけれども、税とのかかわりの中で、いわゆるパート減税がありまして、扶養に入っているということで、一定以上は働けないという女性がまだまだおるんです。私は、女性の一人として、国の方の政策のその減税という枠ももちろん国が取り払って、そして、女性が自立して、一定の金額以上働いたら納税の義務を果たすということが非常に大切であろうと思っておるんですけれども、その辺の議論は連合ではどうされておりますでしょうか。
草野参考人 全く今武山先生御指摘のとおりの考え方で私どももいるというふうに申し上げてよろしいかと思っております。
 理念的になりますが、お父さんが働いて家族四人分の生活費を稼ぐという時代から、夫婦が働いて、例えば従来の一・五の収入を得ることによってさらに家庭のゆとりが出てくる、こういうような時代に変わっていかざるを得ない、こういう認識に立っております。
 そうしますと、パートタイムというものが、従来の、何かコストが安い、補助的な仕事だということではなしに、まさにその人のメーンの仕事としてパートタイムの仕事を位置づけていくべきではないか、こういうふうに考えておりまして、百三万の問題あるいは六十五万の問題等々については、今パートタイムプロジェクトを立ち上げて、できるだけ早く今御指摘のような具体的な内容についても整理をしていきたいというふうに思っておりますが、方向として、今御指摘のような方向で我々は議論を進めているということは申し上げられるんではないかと思います。
武山小委員 ありがとうございます。
 それから、パートタイマーの人がどんどん今ふえていっている状態ですね。ところが、雇用の方が追いつかないという状態です。そうしますと、自然とワークシェアリングというものを現実的に考えていかざるを得ないと思うんです。オランダに一つ例があって、そういうものをマスコミ等で見聞きしておりますけれども、日本のワークシェアリングということを考えて、独自のものをつくっていった方がいいと思いますけれども、その辺の青写真を示していただけたらと思います。
草野参考人 青写真というところまではまいりませんけれども、先ほど申し上げましたように、労使、今度日経連は組織が変わりまして、日本経団連というふうにマスコミでは言われておりますが、そこと連合の間でワークシェアの会議を設けております。さらに、先ほど申し上げましたように、政労使のワークシェアリング検討会も改めて再スタートをすることに今要請をしているところでありますが、その中で、やはり中長期的な日本型ワークシェアリングというものを探していかなければいけないだろうと。
 オランダ・モデルは、御案内のとおり極めて成功したと言われておりますが、一方で、人口も違う、産業構造も違う中で、オランダ型モデルをそのまま日本に導入できるかというと、これは相当難しい、むしろ不可能に近いと言うとちょっと言い過ぎかもしれませんが、そういう思いを持っております。
 言葉で言うのは簡単なんですが、日本型ワークシェアリングというものが、どこまで具体図が今回の政労使あるいは労使のワークシェアリング検討会の中で描けるか。そうしませんと、どうも今の状況ですと、ワークシェアリングなんかどっちみち導入できないだろうとか、ワークシェアリングをやって効率が落ちるんではないか、生産性が落ちるんではないかという、どちらかというと否定的な面が強調され過ぎているように私どもは思っておりますので、何とか皆さんが、それならいけるかというものを、ぜひ政労使あるいは労使で出していきたいなというふうに思っております。
武山小委員 今経済状態が悪いと言いつつも、現実には過去の養ってきたものがあって、その中で男女を問わず、年齢を問わず、ある時間だけ働きたいという人がふえていることは事実なんですね。そこに職がないということで、自分にマッチする仕事が、例えば二十四時間体制を三交代とか、四交代とか、ある時間を区切ってやった場合、この時間だけ働きたいという方はこれから大いにふえていくであろうと思うのですね。それで、ぜひ私自身は、こういうものは進めていっていいかなという考えの一人でございます。もう時間が来てしまいましたので、ありがとうございます。
島小委員長 次に、春名直章君。
春名小委員 参考人には、本当にきょうは貴重なお話をありがとうございました。日本共産党の春名直章でございます。
 最初に、働く者の権利が憲法上の権利として明記されたことの意義について伺いたいと思います。
 今お話がありましたように、第二十七条で勤労の権利と義務、労働基準の法定、それから児童酷使の禁止、二十八条で労働三権、これが規定されたわけですけれども、これは戦前の女工哀史に見られるような、人たるに足りないような過酷な労働条件のもとで命まで落とすような、そういう深刻な実態の日本の歴史の中から生み出された、私は大事な権利だというように認識をしています。
 同時に、この労働三権を見てみたら、アメリカやイギリスでは法律レベルの保障にとどまっていて基盤が非常に弱いと思うんですね。それから、フランス、ドイツ、イタリアだったら、憲法では三権すべてを保障しているわけではない。そういう意味でも、非常に私は先駆的だと考えております。
 草野さんは、この労働者の権利が憲法上の権利として明記されたことの意味合いを、改めてどうお考えになっているか、お聞かせください。
草野参考人 先ほども一番最後のところで申し上げたように、憲法制定当時の日本社会党さんと協同民主党さんの修正意見が、全部ではありませんけれども、一部取り入れられて、勤労の権利と義務あるいは労働三権の問題等がきちっと憲法に明示されたということについては、私は、大変これは立派な憲法の条文だというふうには思っております。
春名小委員 ありがとうございました。
 ところが、憲法制定直後から、これへの、率直に言って攻撃といいますか、ということが歴史だったと思うんですね。
 一九四七年一月三十一日には、有名な二・一ゼネストへのマッカーサーによる中止命令が出されました。争議権の侵害です。一九四八年七月三十一日には、今お話が出ました政令二〇一号での全官公労働者からの団体交渉権とストライキ権の剥奪が強行されました。その後、レッドパージが吹き荒れました。四九年の七月には、国鉄が定員法に基づいて首切り三万七百人通告をする。これを皮切りに非常に激しい首切りが強行されて、謀略事件も起きて、公務員や民間労働者を問わないレッドパージが吹き荒れる。労働組合も激しい弾圧にさらされるという歴史をたどっていくわけだと思うのです。
 私は、この歴史を見たときに、アメリカ自身が、率直に言って、この憲法そのものの内容を戦後直後からないがしろにしていく、そういう方向の中で、労働者のせめぎ合いといいますか、労働者の頑張りの中で今日に至っているという面が非常にあるんじゃないかと思うんですね。そういう戦後直後の労働三権にかかわる歴史をどうごらんになっているのか、御見解があればお聞かせください。
草野参考人 大変難しい御指摘でございますが、第二次世界大戦直後の問題については、歴史の問題としていろいろな御意見があろうかと思いますので、今連合という立場からこれに対しての判断をするのはちょっと差し控えさせていただきたいというふうに思っております。
 これもまた司法の問題に絡んでまいりますけれども、今御指摘のように、特に公務員の労働基本権に対する最高裁の判例も少し時代を追って変わってきているのではないかというふうに思っておりまして、私どもとしては、この流れは非常に好ましくない流れではないかな、こういうふうに思っておりますが、これはまた司法の問題でございますので、ここでまたいろいろ言うと問題があろうかと思いますので、そのくらいにさせていただきたいと思っております。
春名小委員 続いて、最近の労働法制の変遷について御見解をお聞かせいただきたいんですが、例えば職安法では労働者派遣業というのは原則禁止なんですね。ところが、今、現時点、はっきり言いまして、特に九九年ですけれども、労働者派遣業は原則自由化になっちゃったんですね。それから、裁量労働制が拡大する、有期労働契約など、率直に言って、規制緩和という流れが労働法制の中にもかなり入ってきて、戦後の労働者を守る法制そのものが骨抜きにされるといいますか、なし崩しにされる、財界の要求に沿って崩されていくという歴史をたどっているように思えてなりません。
 そのことが、今お話があった失業率五・四%などの非常に重大な状況を生み出していたり、一万人に及ぶような過労死で亡くなられる方が生まれるとか、そういう問題とやはり直結しているように思えてならないんですね。参考人は、こうした最近の労働法制の変遷についてどういうふうに見られているのかをお聞かせください。
草野参考人 二つ申し上げたいと思いますが、一つは、我が国の経済社会をどうしていくかという基本的な問題が、私、まだクリアできてないだろうというふうに思っております。グローバルスタンダードという言葉がよく使われますけれども、どこにあるのかよくわからないんですけれども、我々の立場からいえば、あれはアメリカンスタンダードであってグローバルスタンダードではない、こういう認識を持っております。
 今先生も御指摘になった、規制緩和、自由競争、市場任せが日本経済をよくしていくんだという流れが非常に今大きな流れとなっていることに対しては、極めて私どもは危機感を持っております。そういう意味では、新しい日本の産業、経済、社会のあり方というものをもう一度きっちりと国民の皆さんと議論するなり、国民の皆さんに政治の場から提示をしていくということが一番大事ではないか、こういうふうに思っております。
 そういう流れの中で、あらゆる面で規制緩和が行われておるわけでありますが、私は、規制を全く守る方がいいという立場にはございませんけれども、やはり程度問題、少し行き過ぎではないか、こういうふうに思っております。今御指摘の派遣法の問題、それから有期契約の問題等々、我々としては文書を別途まとめておりますので、必要であればお届けさせていただきたいと思いますが、私は、今の流れは余りにも急速に、しかも大幅に行き過ぎだというふうに認識をいたしております。
春名小委員 ありがとうございました。
 それでなくても日本は、ヨーロッパなんかと比べますと、労働者を守る法制は非常に弱いわけですね、憲法上はそういう明記がされているんですが。ですから私は、これからの日本を考えたときに、例えば労働基準法の中で残業の上限が規定されてないというような問題だとか、あるいはこれだけの解雇、リストラが強行されている状況の中で、解雇を規制する法律が、判例の四要件はありますけれども法令上ないとか、それからサービス残業という犯罪が横行しているとか、これをきちっと法律上ただすとか、労働者を守って、そのことを通じて雇用を拡大して景気もよくしていくという、そういう意味での規制強化ということは、これからの二十一世紀の日本を考えると、どうしても憲法上の要請でもあると私は思うんですけれども、そのあたりについてどうお考えでしょうか。
草野参考人 みずから天につばする感じもなきにしもあらずなんですが、労働組合の力量をまずしっかりとしていくということが、私はまず第一に重要であるというふうに思っております。特に、今先生御指摘のサービス残業、実は私ども、サービス残業という言葉を使うと怒られまして、サービスはただだと思っているのが日本人の悪い癖だというので、今、不払い残業という言葉を使っているわけでありますが、これも本来絶対許すことはできない話でございますので、まずは労働組合がそこはしっかりするということが基本的に一番大事だろうというふうに思っております。
 今の法律でもこれは違反でございますから、今の法の中でもきちっと監督すればできるわけですから、そういうものをまず一つ一つきちっとやっていくことの方が今大事なんじゃないかな、こういうふうに私は思っております。
春名小委員 ちょうど時間になりましたので、どうもありがとうございました。
島小委員長 次に、金子哲夫君。
金子(哲)小委員 社会民主党・市民連合の金子でございます。
 きょうは、草野事務局長にはさまざまな立場からのお話をいただきまして、ありがとうございました。
 先ほど昭和四十九年のスト権ストのお話が出まして、また、先ほど来論議を聞いておりますと、どうもストライキを体験したのはこの中で私だけかもわからないという思いを、当時私は電電公社におりまして、全電通の組合員としてスト権ストにも参加をしましたし、その前、さまざまなストライキと処分の繰り返し、また、処分の回復闘争をやるというような状況の中で、三十年たっておりますけれども、公務員における争議権とかそういった問題がある意味では全く前進をしていない。今公務員制度の見直しという論議も行われておりますけれども、残念ながら、そうした点については余り触れられていないように思えて残念に思います。
 最初に、連合としてILOの重要条約と考えておられる一つに百五十一号条約があると思いますけれども、公務における団結権の保護及び雇用条件の決定のための手続に関する条約なんですけれども、非常に重要な法案だと思います。
 先ほどお話がありましたように、ここには明確に、例えば、高級の公務員に対しては国内法で適用しろとか、警察とか軍隊に対しては国内法をつくれ、その他については、この条約に応じて、公務員といえども一定の団結権などが保護されるべきだということになっております。日本の場合は、御承知のように、例えば消防職員の皆さんだって団結権がないということになっております。この百五十一号条約について、草野参考人のお考えをまずお聞かせいただければと思います。
草野参考人 今金子先生御指摘のように、私ども連合といたしましても、このILO百五十一号条約は極めて重要な条約だというふうに理解をいたしておりまして、先ほど申し上げました優先的に批准すべき条約の一つとして掲げさせていただいておりまして、そういう取り組みを今進めている。ただ、残念ながら、先ほどのような状況にありますので、なかなか一挙に進まないという、ちょっと隔靴掻痒的な気持ちもあることは率直に申し上げたいというふうに思っております。
金子(哲)小委員 公務員制度にかかわって、既に日本が批准しているILOの八十七号条約、九十八号条約などを見ますと、本来は労働者の団結権、団体交渉権、争議権というのはその中で保障されておるべきものであって、また、そういうことをめぐっても、これまで裁判も含めて労働側が争っていきましたけれども、全農林の警職法裁判の判決以降、裁判闘争ということについては、労働側の方も、そのまま進んでも難しいんではないかということもあって、その点について行われておりません。
 私自身は、本来なら裁判所そのものも、憲法九十八条二項との関係からいっても、国際条約を批准すれば国内法と同等の役割を持つということであれば、それも裁判規範性を持つというふうに考えておれば、これまでの労働争議の判例は憲法上からもいささか外れているというふうに思っております。
 その上で、現状の裁判状況なども考えられてとは思いますけれども、先ほどお話がありましたように、二月に、ILOでは争うということで、ILOの条約違反ということで提訴をされておりますけれども、日本の裁判所に提訴をされない。先ほど言いました憲法九十八条二項との関係からいえば、批准された国際条約も一定の憲法上の役割を持つということになると思いますが、その点について、なかなかいい判決が出ないということもあるかもわかりませんが、もし国内の裁判所における提訴の問題について何かお考えがあれば、お聞かせいただきたいと思います。
草野参考人 結論から申し上げますと、私ども、連合として、実はILO提訴というのは今回初めてでございまして、私どもとしては、せっかくと言ったら語弊がありますが、ILOという国際機関があるので、まずその場できっちりとした連合としての主張、日本の官公部門としての主張をし、それを国際的に広く理解を得ていきたい、そのことをまず基本に進めていきたいということです。
 昨年のILO総会でも、実は八十七号条約の適用勧告についての委員会での議論がありましたが、今回は、私どもとしてはそれをもう一歩踏み越えて、結社の自由委員会に提訴をさせていただいた。これが、委員会が三回行われまして、先ほど申し上げましたように、ことしの十一月に多分結論が出るかと思いますので、それを踏まえた上で、国内運動と絡めて、公務員制度改革の我々の主張する方向での解決を期待していきたいというふうに思っているのがまず一点であります。
 提訴の問題につきましては、今先生も御指摘のとおり、私も素人でありますけれども、なかなか裁判所が国際条約の裁判規範性を認めない傾向があるということもございますし、四十八年の最高裁判所の判断の基準も少し変化してきたというふうに私どもは理解をいたしております。したがって、裁判所に提訴しないというふうには私どもは考えておりませんで、まずはILOの場できっちりとした一定の方向性を見出していきたいというふうに考えて今取り組んでいるということで御理解いただきたいと思います。
金子(哲)小委員 そもそもILOには、政府、使用者側、そして労働者側、三者が委員を出しておりますから、国内のすべての代表者が出ておりますから、ILOのさまざまな条約に対して、我々国内も責任を持つ、政府の側も、また司法の側も、そしてまた国会というところも責任を持つべきだというふうに思っております。
 最後にもう一つお伺いしたいと思います。
 公務員制度改革で、今申し上げましたように、スト権やさまざまな制約を受けているということ自身問題を持っておりますけれども、日本の場合には、その代償として人勧制度をつくったということで、公務員の皆さんが、大体十二月ごろになりますと人勧の完全実施ということで、我々公労協もまた仲裁裁定の完全実施とかいうことで当時言ってきたわけですけれども、そもそも代償として出されたものだから、またその上に完全実施を求めてさまざまな運動をしなければならないというのもおかしい話ではあったわけです。
 今度の公務員制度改革の中で人勧制度についても触れられているように感じますけれども、どうも、一方で公務員の労働関係諸法は手をつけずに、人勧問題だけは何か俎上に上っているということを聞いております。その点については、労働のさまざまな権利について回復をされていく、少なくとも先ほど来話がある八十七号条約、九十八号条約に基づくような形にいけば、人勧制度を変えていくということはそれなりに意味があると思いますけれども、一方の側は全く手をつけずに、もし人勧制度だけが変更されていくというようなことになると、さらに公務員に対する労働権が制約を受けていくということになると私は思いますけれども、その点についての草野参考人の御意見をお伺いしたいと思います。
草野参考人 今金子先生御指摘のとおりだというふうに私ども理解しております。立場によっていろいろ意見は違うやには聞いておりますが、その他の問題はそのままにして、人勧制度だけ権限を縮小する。その他の制度はそのままといいながら、ここを縮小することによって、当局の人事権が、管理権を含めて非常に強化されるという偏った改革に向かっているのではないかという強い危機感を持っているという意味では、今先生御指摘のとおりだというふうに思っております。
金子(哲)小委員 時間が参りましたので、終わります。ありがとうございました。
島小委員長 次に、井上喜一君。
井上(喜)小委員 保守党の井上喜一でございます。
 草野参考人、きょうは本当に御苦労さまでございます。
 私は、二つ大きな問題ですが、一つは、公務員の労働三法の適用問題といいますか、三権の問題です。まず、公務員の場合には、団結権があるということははっきりしておりますし、労働条件についての交渉権も実質的にあるというふうに私は理解するのでありまして、ないのは争議権ですね。今、労働条件の中でも一番基本をなすのは私は賃金だと思うのでありますが、この賃金につきましては、人事院という制度がありまして、これが勧告をする、こういうことになっているわけですね。
 確かに、おっしゃいますように、今ILOに提訴をされまして争っておられるわけでありますけれども、考えてみますと、この日本の現状、これはそれなりの日本的な特徴のあります制度ではないかと私は思うんです。一概に、これは争議権を認めていないからだめだと言えるのかどうか。
 そういうことで、まず、現行の制度、つまり、団結権を認め、交渉権を認めるけれども、争議権を認めない、しかし人事院勧告の制度なんかはある、これについてどのような評価をしておられるのか、お伺いしたいと思うんです。
草野参考人 基本的には、労働三権がまず最初にありきというのが私どもの考え方でございまして、その過程において人事院制度が出てきた、こういう状況でございますので、これを、今井上先生御指摘のように、評価しろと言われてもなかなか難しいところがあるのでございますが、私どもは、労働者である以上、そして労働組合である以上、まずはこの労働三権が保障されてからのスタートという姿をやはり描くべきではないかな、こういうふうに思っております。
 それからもう一つ、今先生御指摘の中で極めて重要なポイントは、労働協約締結権がないというところ、これが一番私どもとしては大きな問題ではないかな、こういうふうに思っているところであります。
井上(喜)小委員 しかし、現実の労使の関係を見ますと、締結権はないにしても、交渉権というのは現実にありまして、私は、随分これは定着した制度になってきているのではないかと思うのであります。そういうことで、確かに形式的にはそういうことにはなっていると思うのでありますが、実質的には大部分問題が解決されているのではないかという感じがいたします。
 そこで、現行のこの制度、お立場はお立場としてよくわかりますが、労働三権が認められないことで何か不都合なことが現実に起こっているのかどうか、あればお聞かせいただきたいんです。
草野参考人 御指摘のように、人事院勧告、あるいは現業部門でいきますと、交渉をやって、交渉が成立しない場合には中労委の裁定を受ける、こういうような仕組みで今まで出されてきておりますので、表で見ると、確かに今井上先生のように、何か問題があるのかという御指摘にもなろうかと思いますが、結果としては、先ほども議論が出ましたように、人事院勧告の不完全実施であるとか、そういうような問題が現実には出てきております。
 それもそのとおりでございますけれども、私どもは、先ほどからの繰り返しになりますけれども、まずは、基本的に、労働組合に対する三権は憲法で保障された権利であり、それを認めるというところからスタートをすべきではないか、こういうふうに思っているということが一つ。それから、今回の公務員制度改革は、一言で言いますと、さらにそこの制約を強めようという改革大綱ではないかな、これはこのまま放置するとさらに大変なことになってくるのではないかな、こういう危機感を持っているということをひとつ御理解をいただきたい、こういうふうに思っております。
井上(喜)小委員 今の労働界といいますか、日本の経済の中で、大きな問題点はやはり雇用の問題だと思うんですね。特に解雇の問題です。憲法の中には解雇について強行適用する規定はないのでありますが、雇用に関して憲法に規定することについての御意見、お持ちだったらお聞かせいただきたいんです。
草野参考人 先ほど申し上げましたように、逐一条文としての確認をまだいたしておりませんので、憲法上どうするかという問題はこの場ではちょっと避けさせていただきたいと思いますが、労働契約法等をきちっと法律で制定するというのが当面の一番大事なことではないかなというふうに思っております。
 特に、整理解雇四原則、これは四要件といいましょうか、四原則といいましょうか、いろいろ言い方があるようでございますが、これは判例としてかなり長い間積み重ねてきたものでありますので、このことをベースに例えば法制化をするということはぜひ必要ではないか、こういうふうに私は思っているところでございます。
井上(喜)小委員 その解雇につきましての判例、四条件ですか、それを仮に法律なら法律で明記する場合に、大体それで十分な、十分という表現はどうかよくわかりませんが、おおむねそれで目的を達成するような条件とお考えですか、あるいはつけ加えることがあるとすればどんなものがあるのか、お聞かせいただきたいんです。
草野参考人 私どもとしては、現実をきちっと見詰めていく必要がある。そうしますと、この整理解雇四要件につきましては、かなり多くの積み上げの中で出されてきた一つの考え方だというふうに理解をしておりますし、特に経営者の皆さん方が言うことによりますと、物すごくこれで解雇がしにくいというふうによく言われるんですが、私どもから見るとごく常識的なことしか書いてないじゃないかなというふうに理解をしておりまして、このことをまずは第一義的に法制化をするということが現実的な対応策としては最もよろしいのではないか、こういうふうに思っております。
井上(喜)小委員 ワークシェアリングの話が出ましたが、これの導入について何か法律事項はあるんですか。あるいは、法律事項がないので、事実上労使の話し合いでやればいいようなものなのか、この点についてお聞かせいただきたいと思います。
草野参考人 ワークシェアリングにつきましては、先ほど申し上げましたように、とりあえず、今の危機的な雇用状況を少しでも和らげるために何かできないかということで一つの対策を出しまして、我々からいいますと極めて不十分ではありますが、若干の手当てもしていただいた。できればさらにもう少し手当てをふやしていただくと、このワークシェアによって、なかなか創出まではいかないと思うんですが、雇用維持という面では一定の効果があるのかな、こういうふうに思っておりますので、そこは法律事項としてはさほど大きな問題はない、あとは予算措置の問題だろうというふうに思っております。
 ただ、中長期的なワークシェアリングということになりますと、これは、先ほども御指摘がありました、特に女性を中心としたパートタイマーとの均等待遇という問題が出てまいりますので、これはかなり大きな課題だろう。これは相当法律面できちっと縛っていかないと、中長期的なワークシェアリングが日本の中に定着するということにはなかなかなっていかないのではないかな、そこが一番大きな法律事項ではないかな、こういうふうに思っております。
井上(喜)小委員 終わります。
島小委員長 次に、近藤基彦君。
近藤(基)小委員 自民党の近藤でございますが、草野局長には大変御苦労さまでございます。
 最初に、基本的なことからちょっとお伺いをしたいんですが、連合の六回定期大会で、憲法論議を否定するものではないと一九九九年に見解を出されて、その後、憲法に対して検討あるいは勉強会を行っておるというお話でありましたが、憲法には第九章、九十六条で改正の規定をしておりますが、国会の不作為と言われるように、それに伴う法律ができておりません。今その法律をつくろうと努力をしているところでありますが、一部の人の意見では、それを法律にすると即改正論議に、あるいはすぐ改正されるんではないかと。私は別に、改正するしないというよりも、いい憲法ができればそれでいいなと思っておるだけであります。
 検討、勉強なさっているということでありますが、いわゆる国民投票法と言われるそういう事務的な手続を進めていくことについて、どういう御見解をお持ちでしょうか。
草野参考人 今近藤先生御指摘のように、具体的な改憲といいますか改正の手続が何も規定がないというところで議論になっているということは私ども承知しておりますし、改正手続をつくること自体が改憲に結びつくのではないか、こういう強い懸念を持っておられる方がいるということも私ども承知しておりますし、私どもの組合の中にも両論がございます、率直に申し上げて。
 したがって、私の立場で、ここでどちらがいいかというのは極めて言いづらい部分がございますが、私個人的には、やはり不備があるところはきちっと決めていくというのは、この問題に限らず大事なことではないかな、これはあくまでも個人的な意見でございますけれども、そういうふうに思っております。
近藤(基)小委員 憲法二十八条では、労使関係に焦点を当てて、団体交渉権だとか三権を認めているわけでありますけれども、今の社会情勢の中で、労使だけでは判断できないような、例えば大企業と下請の関係とか、あるいは非営利団体であるNPOの関係が非常にクローズアップされているというか進んでいる部分であるんですけれども、そういったものが、団結権とか団体交渉権だけではちょっとはかれない部分、労働と規定できるのかどうかもはっきりわかりませんが、連合として、例えば大企業の中での労働組合ももちろんあるでしょう、それから中小企業の組合もお持ちでしょう。そこの取り扱い、あるいは非営利団体との兼ね合いというのは、どういうふうな形で今ごらんになっていらっしゃいますか。
草野参考人 労働組合の運動として、今近藤先生御指摘のところが非常に実は頭の痛い問題でございます。
 大企業の場合には割と組織化も、いわゆる組合員になっている比率も高いんですが、中小零細企業にいきますと、組合員になっている比率が大分少ないという問題もございます。ことしの春季生活闘争の中でも、ことしはベースアップというのはほとんどなかったわけでありますけれども、親企業と、俗に言う下請企業といいますか、そういうところの賃金引き上げ等々もなかなかうまくいかない背景に、いわゆる単価の問題だとか、取引条件の問題が大きく絡んでいるというのは私どもも強く認識をしているところであります。
 一方では、法律的に、下請代金遅延防止法であるとか、いろいろな法整備をしていただいて、そこで守る部分と、今度は、労働組合としてそれができないのかということで、例えば取引先を全部含めた大きな組合としてのくくり、こういうものも今大分進んできておりまして、そこの中で、親企業は親企業の労働組合との交渉、それから下請は下請の交渉ということだけではなしに、このグループを包み込んだ労使の協議というものも進めていかなければならないんではないか。そういう中で、うまい解が、あるいは改善策が見つかっていくのではないかな。これは一つの労働組合としての組織論と労使関係の組織論になってまいりますが、そういうような改革をしていかなければいけないのかなというふうに思っております。
 それからNPOとの関係につきましては、私ども自身がNPO、NGOの一つではないかというふうに思っておりますけれども、これは交渉とかなんかではなくて、NPOサポート事業というのを連合としてやっております。NPO、NGOの一番大きな課題は、一つは、組織を経営するというところが、日本の場合は非常に弱いんではないかなという思いを持っておりまして、連合としていろいろなノウハウを、あるいはお手伝いをするような、そういう事業もあわせてやらせていただいております。
近藤(基)小委員 公務員法が大分議論されておりますが、人事院勧告制度との整合性、争議権を認めた場合の、変な話ですが、一般の企業と同様に、では、勝手にやったらどうだという話にも多分なるのかもしれません。公務員というのは、もともとが奉仕者ということで規定をされている。公務員ですから、国民の税金で、我々もそうでありますが、財政民主主義的な部分で、国民の奉仕者という立場からいけば、争議権を認める認めない以前に、果たして争議を起こしてもいいのかどうかという部分も実はありなんと思ってはおるんです。
 現実的に、労働条件がいわゆる民間の労働者に比べて、現行制度でも劣っているとはちょっと考えにくいし、むしろ現在の不況の中で、はっきり言えば親方日の丸みたいなところがあって、リストラとか、そういう厳しい労働環境の中よりは少し緩いのかなと思っておるんです。権利として主張なされることは、もちろん労働者でありますから、やぶさかではないと実は思ってはいるんですが、果たして、ではその権利を行使するときに、国民生活に普通の民間企業以上に直接影響を与えるものが非常に大きい部分があり、財政民主主義からの関係もあり、人事院勧告制度をきちんと整備するというところを強調した方がいいのかなという気が私としてはするんですが、その辺の整合性を、かなり議論されているんですが、もう一度お話しいただきたいと思います。
草野参考人 今回の公務員制度改革の基本的な部分に、従来型の号俸給という、一言で申し上げますと年功序列ですね、こういうような仕組みから、今はやりの、実力をベースにした能力給あるいは業績給、いろいろな言い方があると思いますが、そういう部分に管理の基本的な姿勢を変えていきたい、しかも処遇についてもそういうふうにしたい、こういうことが明確に出されているわけでございますが、このことは、私も民間の出身ですが、民間でもいろいろ試行錯誤してやってきているんですね。ですから、これだったら絶対というのは逆に絶対ないわけでありまして、いかに改善をしていくか。
 このときに最も大事なのは、労使が相談をしながら、これはこっちへ振り過ぎたからもうちょっと戻すかとか、もう一段別のルールに変えるかというのを、労使が率直な意見交換をやって、協議、交渉をしながらつくり上げて、よりよいものにしていくというのが私の経験からいったらあるわけでございます。
 今回も、そういうことにしようとするならば、労働組合との協議というものをきっちりやらないと、一方的なシステムの変更と管理だけでは絶対失敗しますよということは、実は私は自民党の行革本部の方にも行って、そういう実例も挙げながら説明をさせていただいたんですが、そういう意味で言うからこそ、労使の協議、交渉権というものをやはりきっちり置いておかなきゃいけないな、私なんかは特に強くそういう思いを持っております。
 それから、スト権の問題につきましては、先ほども申し上げましたけれども、世間の支持を受けないストライキというのは、なかなか今できる状況にはありませんし、そのストが成功するという保証もないと思いますので、そこはしっかりとした、あるいは成熟した労使関係を築いていくという双方の誠意があれば、私は、いい方向で解決ができるんではないかな、こういうふうに思っております。
近藤(基)小委員 どうもありがとうございました。
島小委員長 次に、大出彰君。
大出小委員 民主党の大出彰でございます。事務局長、御苦労さまでございます。
 私は最初に、公務員制度の問題で、実は十一月六日の総務委員会で、大綱の前に質問をしたんです。そのときに、相手方は行政改革推進事務局長の西村正紀さんです。実は、職員団体とも話してほしいと思ったものですから、まず最初にその点についての質問をしたところ、十一月の六日の段階で、西村さんは「また職員団体とも誠実に話し合いを行ってきておるところでございます。」こうおっしゃったんですね、当時。それで、「これからも各省庁また職員団体を初め幅広く関係者と意見交換を行いまして、十二月の大綱策定に向けて努力をしていきたいと考えております。」こう答えられたんですよ。十一月の六日なんです、これが。
 ところが、そのころに、労働団体の方にお伺いをすると、どうも我々職員はそんな話は聞いてもらっていないということだったんですね。それで、この段階では、職員団体と話しているとおっしゃるけれども話しておられないんではないかということで、十二月の大綱に向けて職員団体とも意見交換をしていただきたいという要請をしたんです。
 ところが、どうも、きょうのお話のところでは、余りそれがなかったようにお伺いしたので、その点の経過についてお伺いをしたいと思います。
草野参考人 細かいデータはきょう持ってきておりませんが、行革推進本部と、それから幾つかの政党の方々と何回か話し合いはさせていただきました。情報もかなりいただいてきた経過もあります。
 私自身も何回か、政府あるいは与党の皆さん方のところに行って話し合いをさせていただきましたが、一番大事な最後のところはすぽっと抜けてしまったというのが正直なところなんですね。それまでは結構意見交換をしてきたんですが、いざ、これは政府あるいは与党の内部の話なので私どもはわかりません、推測以外の何物でもないので申し上げませんけれども、最後の詰めの段階でこの間の話し合いが全く抜けてしまって、十二月二十五日、いきなりぱっと出てきてしまった。それまでは確かに何回か意見交換会はさせていただいていますので、最後のところがすぽっと抜けたので、余計我々としてはショックが大きかったということではないかというふうに思っております。
大出小委員 わかりました。全く話し合いがないんだとすると、これは私も質問しているのに何も成果がなかったことになりますので、非常に残念になってしまいますが。
 ただ、結論的なもの、確かに十二月二十五日の閣議決定というものについては、私も大変不満に思いました。というのは、長年の懸案であります労働基本権の問題についても質問をしたんですが、それがどうも認められないような状況であるということだったものですから、その点については大変不満なんです。
 そして、巷間、この改革案の流れの中で、例えば、野中さんが労働基本権を認めてもいいんではないかと言って自民党側のアドバルーンのようなことになって、期待をちょっと抱いたりした時期もあったわけですね。ところが、結果的にそうではないという方向で収拾をするとなると、どうも憲法に規定してあるのにおかしいではないかと思うわけです。
 日本は立憲主義の国ですから、本当は憲法に基づいて考えなきゃいけないわけなんですが、どうもその辺のやり方がちょっとおかしいなと思うところがありまして、それはなぜかというと、先ほど事務局長も、原則、三権があるということからスタートするんだとおっしゃっていましたが、まさに私はそれだと思うんです。憲法で三権を規定している、だから、原則は自由に認めるんだというところから始まらないと、自由を憲法で認めた意味がないわけです。
 そういう意味では、先ほどおっしゃられたスタートから三権があるということが重要なんだということ、それは憲法にのっとっている考え方だと思うんですが、その点お答えいただけますか。
草野参考人 今大出先生御指摘のとおりだというふうに思っておりまして、野中代議士の発言も出ておりますが、別に私どもは、期待感はないわけじゃなかったんですけれども、そんなに甘いものではないという認識のもとで、いろいろ話し合いをさせてきていただきました。
 これ以上は差しさわりがありますので申し上げませんけれども、中でいろいろな大きなうねりがあったやに聞いておりまして、それが最後の段階で、私どもの方との協議といいますか話し合いといいますか、それが抜けてしまった一番大きな背景ではないかなというふうに、これは推測をいたしております。
 基本的には、やはり憲法で決められた権利というのがまず先にありきで、それをいろいろな事情でどこまであるいは制限をするか、制約をするかという議論の進め方でなければいけないんじゃないかと思いますが、今のこの問題については、全く入り口と出口が逆転しているのではないか、こういうふうに思っております。
大出小委員 私もそのように思います。
 そして、認めるべきだという理屈の中にいろいろなことがあると思うんですね。その中で、一つは、諸外国と比べたときに、先ほどもイギリス、フランスとか出ておりますが、イギリス、フランスでは公務員に三権を認めているわけですね。そして、フランスの場合には協約締結権がないということになっていますが、原則認めていて、さすがに警察だとか軍隊はだめかもしれませんが、それで出発して、ずっと来ているわけですね。そういう意味で、比べっこをしますと、何で日本だけなかったのかということがやはり疑問に思うんですね。憲法にあるのにというのが疑問なんです。
 それともう一つは、公の機関だったものが、例えば国鉄が民営化されたり専売公社が民営化されると、即ストライキ権を上げるんですね。その間にそんなに変わりはないわけなのに、そういう種類のものなんですね。
 公務員ももともと勤労者なわけですから、あるのが前提なのに、その辺のことの理解が日本の中で深まっていないというのがおかしいなということを思うんですが、その点どのようにお考えでしょうか。
草野参考人 よくテレビ、新聞等で、最近は少ないようでありますが、外国において公務員の方々がストライキをやるときに、結構市民の方は不便を感じつつもその目的に対して理解を示す、こういう傾向があるやに聞いております。
 そういう意味では、繰り返しになりますが、世間から理解をされる行動でなければならない、こういうふうに思っておりますし、私どものまとめた資料にもございますけれども、今大出先生御指摘のとおり、まず三権を認めて、そこから議論をスタートすべきだ、そこで何が問題があるのかという議論をしていくべきではないかな、こういうふうに思っております。
大出小委員 ありがとうございます。
 その議論とともに、乱用のことをお考えの方もおられるようですが、それについては、憲法十二条にも乱用を戒めておりますから、私は問題ないだろうと思っております。
 それと、もう一つ重要なのが、公務員の皆さん、国家公務員法、地方公務員法の適用の方が、ユニオンショップができないですよね。そういう規制になっていると思うんですね。その部分が多少組合の組織率にも影響してくるので、この部分の基本権についてもやはりしっかり直すべきではないかと私は考えておるんですが、その点いかがでしょうか。
草野参考人 ちょっとユニオンショップ、そこのところ勉強不足で、申しわけございません。
大出小委員 質疑時間が終わりましたのでやめますが、いろいろな公務員の問題があるということで、なるべく憲法に基づいた政治をするためにも、懸案でありました労働権については何とか認めてもらいたいということでお話をしまして、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。
島小委員長 次に、平井卓也君。
平井小委員 平井です。あと一人でございますので、どうかしばらくおつき合いをいただきたいと思います。
 公務員の労働三権という話が今までずっと来ていますが、一方で、身分保障されているので、それをもって、行革をしても行政コストが下がらない、これは私の意見でありますが。なぜそのことを申し上げるかというと、最近、電子政府関係で各役所の仕事の内容を僕は分析し始めました。それは、国民との接点のところ、政策立案にかかわる真ん中のところ、あとは官房基幹業務を支えるバックオフィスと言われる部門、この三つに分けて、それぞれの効率性等を今調査しております。ある程度のものはわかってきておりますが、今度は予算をつけていただいて一歩踏み込んで中を調べたいと思っているんですが、行政コストを下げていかなきゃいけない、国民の税金をむだに使ってはいけないという観点から考えると、今はどうしてもお役所仕事はむだが多い。
 それは何となくむだが多いというふうに言われていますが、ではどこにどうむだがあるのか。私、いろいろ調べてみますと、例えば出張の精算をするときに判こを十四回押さなきゃいけないとか、例えば海外出張するときには毎回旅券を申請しなきゃいけないとか、それにかかわってそれだけの人がその役所の中にもいるわけです。
 こういうものを考えてみたら、労働三権の問題もいいんですが、それは当然認めるとしても、労働条件の引き下げとかリストラとか、できる仕組みがあっていいんではないかな。これは国民の立場から見るとそうだと思うんです、いろいろ立場の違いはあるとは思いますが。お役所仕事のむだをなくす。確かに公務員数だけを言えば、日本は多いわけではありません。しかし、仕事の内容のむだという意味では、私の目からは物すごくあるなと思っているんです。
 今の問題と労働三権の問題を一緒にするとちょっと議論しづらいかもわかりませんが、御意見をお聞かせ願いたいと思います。
草野参考人 今平井先生からの御指摘のいわゆる行政コストを下げるという問題については、一般論で申し上げれば私もそれは必要だろうと思いますし、特に、我々の連合の中でも、民間部門の人から見ると、やはり行政にはむだが多いんではないかという、これはある意味では観念的な部分もあると思いますが、今平井先生のように事細かに全部調べているわけではないので若干感覚的なものがあろうかと思いますが、そういう声がかなり多いということは事実であります。
 したがって、民間部門でも、こういう情勢でございますので、労使で協議しながら、どうやったら生産性の向上が達成できるのか、どうやったらコストが下げられるのかというのは、そういう意味では血のにじむような努力をしているわけですから、それはパブリックの部門においてもそういう努力をしていただくのは、私は当然だろうと思います。
 ただ、そのときに、我々労働組合からいえば、一方的な理事者側の命令ではなくて、きちっと労使が話し合った上で、どうやるか、これがありませんと、少なくとも私の経験では、一方的命令だけでは物事はうまくいかないだろうと思うんですね。いかに働いている人たちがその目的を理解して、納得して、よし一緒にやろうというのがエネルギーとなって出てくるというふうに思っていますので、平井先生言わんとするところは私も全くそのとおりだと思いますが、そこで大事なことは、そういう労使の協議という場が必要なんではないだろうか、こういうふうに思っております。
平井小委員 労使の協議というのも当然大事だと思いますけれども、やはり国民に情報を開示して、国民との協議がまず必要だと思います、雇い主は国民ではないかというふうに私自身思っていますので。その意味では、これから数字でいろいろなものを示せるようなデータを私どももつくっていこうと思っておりますので、またぜひ働く立場からアドバイスを今後ともいただければと思います。
 もう一つ、最近、政府が、小泉政権の売りとして、規制改革の中で特区構想というのが出てきています。スペシャルパーパスエリアといいますか、特別目的地域、その中に雇用特区という考え方も出てきています。これは一国二制度になるというか、ちょっと実験的な要素もあるのでどうかという意見もあるんですが。
 確かに、地理的な不利な地域であったり、今失業率が高いようなところに、例えば沖縄みたいな問題もそうですが、職業紹介事業に関する規制の適用を除外したりとか、多様な雇用形態を可能にするような雇用ルールをそこだけでやってみたり、そういうことは、私はこれからの時代は必要ではないかなというふうに思っています。これは自民党内でもいろいろ意見が分かれるところかと思いますが、そういう実験的な雇用特区というのを今後とも検討していくという考え方に対して、どのようなお考えをお持ちでしょうか。
草野参考人 実は細かくまだ勉強しておりませんが、連合の中でも、地方連合のあるところからは、特区を早くやってくれ、実はこういう声も出てきているのは事実でございます。ただ、中身がまだ細部含めて明確になっておりませんので、私自身、今ここで判断をするのは非常に難しいわけであります。ただ、トライアルといいますか、テストケースでやるといいましても、かなり大きな範囲でやらないとほとんど意味がないのではないかというふうに思います。かなり大きなエリアでやるとすると、逆に具体的な影響が出てくる。そのことを、私どもはちょっと心配な部分が少なからずあるということだけ申し上げさせていただきたいと思います。
平井小委員 先ほど各委員の先生から解雇権の乱用法理の問題がありましたけれども、一方で、若い人たちの就業機会を奪ってしまっているという考え方もないわけではないわけですね。例えば、企業がより自由に、まあ自由に解雇という言い方もおかしいですけれども、解雇することができるのであれば、不況になっても若い人の雇用機会、就職はより容易になるという考え方もあると思うんです。これは定年制の問題とも絡んできて、特に若い人たちが今不況で非常に就職に困っている。これに対してはどのように、これは極端な話、解雇権を企業にもっと使わせろという意味で言っているわけではありませんが、雇用というものの根本的な考え方を改善する余地があるのかなと思っているんですが、いかがでしょうか。
草野参考人 我々のところでいいますと、経営者の皆さん方から時々そういう話を聞くんですが、本当にそうなんでしょうか。今、現実のこの失業状態、三百七十五万人、しかも非自発的失業が百五十七万人でしたでしょうか、これだけの失業者が出ているときに、解雇とかいわゆる雇用契約を切るということが本当に難しくてできないというのは、どうしても私、信じられないんですね。そうでなければこんな失業者が出るはずがないというふうに思っていますので、ちょっとそこのところは、平井先生がおっしゃったという意味じゃないんですが、経営者の皆さん方が言っているところは、本当にそうですかと、ちょっと不信感を持って見ているというふうに申し上げたいと存じます。
平井小委員 若い人たちが、つまり、高齢の労働者と、若い、これから可能性のある労働者の入れかえみたいなものに関して、定年制とか、今言った解雇の問題とか、私は絡んでくるんではないかなと思うんですが、この低迷する経済の中で、若い人たちがより可能性にチャレンジできる社会をつくるにはどのようにすればよろしいとお思いでしょうか。
草野参考人 非常に難しいんですが、基本的には、雇用のパイを広げていくしかないんだろうというふうに私思うんですね。そういう意味でいいますと、新しい産業をどう起こしていくかということが一つ。それから、そういう中でも制約が出てくるとすれば、ワークシェアリングというものをどうしても定着させていく必要がある。
 そして、具体的な入れかえということになりますと、実は労働界も、六十歳の定年がもちろん一般的でありますが、年金の問題、社会保障の問題も含めて、六十歳代の雇用を継続する、あるいはそこの雇用をふやすということを今ねらっていますし、ある意味では政府の政策としてもその部分があるわけですね。そうすると、ますます若い人の働く場所がなくなっていくというまさにジレンマに陥ってしまいます。
 ドイツでは、定年退職の年齢を引き下げて、若い人に置きかえるということをやりましたけれども、そのかわり、これはまた年金と連動しています。
 年金は六十五歳からですよ、仕事は六十歳でやめなさい、若い人に入れかえなさいと言って、まさに世代間の闘争みたいになってまいりますが、もう一つそこを乗り越えて、年金と接続をする、そのことによって早期引退ができるようなシステムをつくるというのは、私は一つの案としてはあり得るのかなというふうに思っていますが、現実的には、政治の場で解決するのは非常に難しい問題ではないかな、こういうふうに思っております。
平井小委員 ありがとうございました。
島小委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、一言ごあいさつを申し上げます。
 草野参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、ありがとうございました。
 憲法二十七条、二十八条はもとより、外国人労働者の問題、国民投票、NPO、特区構想という非常に多岐にわたる御質問にもお答えいただきましたことを、まことにありがたいと思っております。小委員会を代表いたしまして、心から御礼を申し上げます。本日はどうもありがとうございました。(拍手)
    ―――――――――――――
島小委員長 これより、本日の参考人質疑を踏まえ、基本的人権の保障について、小委員間の自由討議を行いたいと存じます。
 一回の御発言は、五分以内におまとめいただくこととし、小委員長の指名に基づいて、所属会派及び氏名をあらかじめお述べいただいてからお願いをいたしたいと存じます。
 小委員の発言時間の経過につきましてのお知らせでございますが、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせしたいと存じます。
 御発言を希望される方は、お手元にあるネームプレートをこのようにお立てください。御発言が終わりましたら、戻していただくようお願いいたします。
 きょうは労働権についてのお話でございましたが、五回、小委員会をやってまいりまして、実は七月二十五日には小委員長から中間報告をさせていただくという形になっております。それを踏まえまして、今までの五回の議論を踏まえた上で何か御意見がありましたら、それも述べていただければ幸いかと存じます。もちろん労働権に関してでも結構でございますが、全体を通しての御意見でも結構でございますので、よろしくお願いを申し上げます。
 それでは、各委員から御発言をお願い申し上げます。
土屋小委員 自由民主党の土屋品子です。
 W杯が終わりまして、振り返ってまとめたものがありますので、申しわけありませんが、読ませていただきます。
 W杯に沸いた一カ月を振り返って、国家とは何か、人権とは何かを考えるよい機会になったと感じています。
 憲法論議でも、よく個の権利や個の尊重といった言葉を耳にします。今国会でも問題となっていた夫婦別姓の問題などは、まさに顕著な例と言えるのではないでしょうか。相手の姓を名乗るかどうか、戸籍を入れるかどうか、さまざまな価値観があり、その考え方も多様化しています。だからこそ、憲法でも、個人の尊厳や、そこから導き出される人権という考え方をどこまでどう受け入れるかが問題になるのではないでしょうか。憲法学者の中には、個の人権のあり方が護憲か改憲かの尺度になると言う方もいらっしゃるぐらいですから、価値観の多様化した中、人権の考え方は大変複雑だと思います。
 人権を考えたとき、究極的には、独立した個人がもとになっていることは明確です。確かに、個人はあらゆる組織や集団から束縛を受けず、自由であることが大切かもしれません。しかしながら、人間の生活は、好むと好まざるとにかかわらず、組織や集団の一員としてしか生活が営めないのではないでしょうか。個人は、所属している組織の中で利害を共有し合い、結果として、ほかのメンバーと感情を共有できるのではないでしょうか。その感情を共有できる最も重要な集合体が国家であることを意識したのが、まさに今回のワールドカップでした。
 少し抽象的な表現を使ってしまいましたが、ふだんは、国旗を上げてください、国歌を斉唱しますと言っても、そっぽを向くか、決して歌おうとしない若者たち、もっと言えば子供からお年寄りまでが、なぜ顔に日の丸のペインティングをし、日本、日本と連呼したのでしょうか。ここ数年、国際化が叫ばれる中、ボーダーレス社会やグローバル化が叫ばれ、地球市民という言葉や、地球温暖化防止といった世界規模の話をよく耳にしますが、今回のW杯は、まさにそういった現象と逆行する光景でした。これをどうとらえたらいいのか。国家を意識せざるを得ないワールドカップの争奪に、国民であることを再認識したのは私だけではないと思います。
 第二次世界大戦後、日本人は、無意識のうちにアイデンティティーを失っていたのではないかと感じています。日本は過去悪いことをした、日の丸や君が代は戦争の代名詞であると言う人もいます。しかし、本当にそうなのでしょうか。私自身、今回のワールドカップを通して肌で感じたのは、自分とは何か、いかなる集団に属するのか、それは紛れもなく日本という国家に帰属しているのだという感情であったように思います。
 国旗や国歌は必要ですし、個や人権といっても、結局は、所属している国家がそれを保障しているかいないかが重要な要素になってくると思うわけです。そういった意味からも、日本人に国家という意識がサッカーを通じて芽生えてきたことは大変よかったと感じています。悪い意味でのナショナリズムではなく、アイデンティティーの確立という面で、多少保守的になってもよいのかもしれません。
 ヨーロッパでも、フランスの大統領選挙で極右政党が最終決選にまで残りましたが、それでも国民は正しい選択をしました。行き過ぎはよくありませんが、結局は、自分の立場をどこに置くかという意味で、一番重要なのは国家だということです。EU諸国では、欧州共同体をつくって以降、幾つかの国の政権が保守系の政党にかわってきています。通貨や法律が一つになって、国境が消えても、国民であるという意識は消しがたいものだということではないでしょうか。
 人権問題に関しては、日本人は、与えられた憲法や与えられた民主主義から脱皮し、自分たちで、どこまで個の尊厳に基づく人権を認めるのかをしっかりと議論して、新しい人権の追加を含めて、時代に合った憲法の条文に変えていくべきであると考えます。憲法をつくるときには、短期間とはいえ、人権をどう認めていくかという議論があり、多くの修正案も出されたわけですから、今の憲法が完璧でないことは明白ではないでしょうか。
 これからも、自立した個人が相互に支え合っていく社会を目指すために、個に立脚した権利である人権を真剣に考えていきたいと思います。
 どうもありがとうございました。
春名小委員 日本共産党の春名直章です。
 憲法に定める労働権それから労働基本権が、先進諸国の憲法と比べても先駆的なものであること、そして、今後の労働者の生活と権利を守る上で指針たり得ることが、きょうの参考人の質疑を通じても明らかになったと思います。
 戦後、憲法の諸原則を出発点にして、弱点は持っていたんですけれども、労働基準法それから職業安定法などの労働者保護立法ができました。それから、労働者が使用者と対等の立場に立って生活と権利を守っていくということで、労働基本権を具体化した労働組合法などが制定されました。
 ところが、歴代の政治の側が行ってきたことは、こうした憲法が命じた労働法制をさらに豊かにしていくということではありませんでした。逆に、労働法制の重要な諸原則を空洞化に近い方向でなし崩しにしていくということであったと考えます。
 第一に、労働基本権についてです。
 一九四七年一月三十一日に、二・一ゼネストが行われようとしましたが、マッカーサーによる中止命令が出ました。一九四八年七月三十一日、マッカーサーの書簡に基づく政令二百一号で、全官公労働者からの団体交渉権とストライキ権が剥奪をされました。そして、代償措置としての人勧機能は縮小しながら、労働基本権回復は置き去りにするという今日の公務員制度改革、これらが示していると思います。
 それから、労働者の権利、労働条件をめぐる問題という点ではどうでしょうか。特に、一九九〇年代に入って行ってきた労働法制の改変というのは、参考人もお話がありましたように、市場原理万能主義、規制緩和の名のもとに財界の意向をストレートに反映したものとなっていて、その内容や手法ともに、戦後の労働をめぐる大切な諸原則を骨抜きにしていく、異質なものに改変していくということになっていると思います。
 年間一万人近い過労死が出ています。横行するサービス残業、不当な配転、転籍などによって、家庭生活の危機がもたらされています。女性の採用差別、無権利状態に置かれるパートタイマー、派遣労働者などの深刻な実態は、こうした労働法制の改変によってもたらされてきているものだと考えます。
 したがって、今大切なことは、従来の基本原則をしっかり守りつつ、今日の労働をめぐる新たな状況に対応する創造的な探求だと考えます。その場合にも、指針となるのは日本国憲法であります。この憲法に沿って解雇規制法などの労働者保護法制を一層整備すること、残業の上限を制限すること、サービス残業の根絶などの諸法制を整備すること、当然、公務員労働者に対する労働三権の回復、こういうことが今日の課題になっていると思います。
 こうした点での突っ込んだ調査をぜひ憲法調査会としてやっていくことを呼びかけまして、私の発言といたします。
 以上です。
金子(哲)小委員 社会民主党・市民連合の金子です。
 私は、きょう論議となりました労働基本権、公務員制度の問題について、重ねて意見を述べさせていただきたいと思います。
 私は、まずその大前提に、公務員といえども労働者だということを申し上げたいと思います。
 確かに、雇用の形態、また雇用者の関係においては民間企業とは違う側面はありますけれども、労働者という側面には全く変わりがないわけでありまして、その点でいえば、基本的に憲法で保障された労働基本権を初めとするさまざまな権利をまず保障していくということが大前提にならなければならないと思いますけれども、今日の状況は、公務員の制度にあって、そのような労働基本権が完全に保障されていない点については憲法に近づける努力をしなければならないというふうに考えております。
 例えば、私は大変疑問に思っておりますけれども、消防署の職員にも団結権すらないという現実についてどのように考えるかという問題、ここを見てみますと、非常に大きな矛盾をたくさん抱えていることについて、もっと真剣にこの問題を考える必要があるのではないかというふうに考えております。
 もちろん、国際社会にあって、ILOのさまざまな勧告や条約などに抵触する問題もありますけれども、本来、日本国憲法の中に明確に労働基本権がうたわれている限り、そのことは当然のこととして許容されて当たり前ではないかというふうに私は思います。また、そのことを前提としながら、今日の公務員制度改革の中においてこの点が全く論議をされず、またこの点に対する提言がなされていないことについても極めて問題があるように考えております。
 さらに、労働の権利の問題について提起をしたいと思います。先ほど来ありますように、今日の雇用状況を考えてみますと、この労働の権利の問題について、政策的にもっと提起をすべき点が多いのではないかということを改めて申し上げたいと思います。
 特に、私は、今日の失業状況の中にあって、雇用保険制度のありようがこのままでいいのかということを考えております。政策の義務としての失業者への生活保障ということが言われながら、実質上は労使の負担によって雇用保険制度が維持されているという現状を考えてみますと、しかも、今日の状況の中で雇用保険の基金も枯渇の状況を迎え、それだけ雇用状況が悪いということでありますけれども、そうした状況の中にあって、さらに労使負担だけを増加させるという解決方法だけでいいのか、これにもっと政治としてのかかわりの義務があるのではないか。
 自殺者が三万二千人も急増する状況の中にあって、しかも四十代、五十代の働き盛りの人たちがみずからの命を絶つというこの現状は、労働基本権のみならず、まさに生存権そのものを否定するということにつながることでありまして、その面から考えても、この勤労の権利を積極的に保障していくということが今政治に課せられている課題であるように思います。
 現状の労働者をめぐる状況は、そういう意味からいいますと、残念ながら、憲法に規定された労働基本権、勤労の権利の現状から見て極めて厳しい状況にあるということを指摘し、さらに憲法の状況に近づけていく努力をすべきだということを申し上げて、私の発言とさせていただきます。
中山会長 自由民主党の中山でございます。
 私は、委員の先生方にもこれから御議論をいただくことだと思いますが、インドシナ難民を別にして、難民条約で入ってくる新しい外国人、この人たちの人権というものをこれからどう考えていくのか。これは非常に大事な課題でございまして、日本という国にとっては、過去経験がなかった、インドシナ難民以外の新しい難民の人たちを難民条約のもとで受け入れる、どのようにこのような人たちの人権を保障していくのか、こういった問題については、我々にはそのオリジナルなシナリオがない。
 ここで、最近言われる中国における瀋陽の日本総領事館への駆け込み事件とか、いろいろな点で韓国に亡命を求める人たちが何十人かおったわけですけれども、私どもの調査では、北の方々は、中国における各国の在外公館に逃げ込んで保護されて、その行き先の希望を聞いたら韓国ということになると、韓国政府は、朝鮮半島全体に住む人たちは同胞であるという基本原則に基づいて、難民条約とかそういうものには全く関係なく受け入れているという実態がございます。
 そういったことで、私どもの国において、かつて北朝鮮へ戻られたときの日本人妻の方々、この方々は、現実の問題として、国籍法に基づくと、日本の国籍を放棄しておられない。国籍を持ったまま北朝鮮の方と結婚されて、そして北朝鮮人民共和国に住んでおられた。こういう方々がもし脱北者という形で出てきた場合には、日本は日本人としてこれを迎え入れなければならない一つの仕組みを我々は持っている。
 こういう考え方以外に、日本のバブル時代に入ってきた、イラン等からの多くの外国の人たち、まだ相当残っておりますけれども、いろいろな形で、この在留外国人の人権問題をこれからどのように考えていくかということが非常に大きな日本の一つの宿題になってきたと私は感じております。
 どうぞ各党でも、これらの点については十分お考えおき願いたいとお願い申し上げておく次第でございます。
今野小委員 今、我が国にアフガニスタンの難民の方々がおいでになっています。この間、その方々が強制収容されようとしました。一たん強制収容されたんですけれども、ほどなく仮放免されたということで、ちょっとほっとしているんですけれども、あの方々は、そういう状態ですから、もちろん難民認定されておりません。したがって、働くこともできません。こういう方々の声を私たちはどのように法律やあるいは憲法の解釈に生かしていくかということが大変大事なのではないかと思います。
 また、難民の方々ではなくても、同じ労働者でも、組織されていない人たちの声は大変反映されにくい。また、先ほどの有事法制についての海員組合の方々の強い要望があったというお話がありましたけれども、組織されていても、その連合体の中ではなかなかその声があらわれにくいという点があります。
 私たちは、そういう表に出てきにくい声にどのように耳を傾けるかということが大変大事なのではないかと思います。
 また、この小委員会で基本的人権についてさまざまに話し合いをしてきたわけでありますが、それを通して私は考えますのは、憲法は理念であります。その理念に基づいて諸制度を定めていき、この国は動いているのであります。したがって、法律で定めればいい諸点を挙げ、だから憲法が完璧ではないと言うのは当たらないと考えております。
 以上です。
島小委員長 ほかに御発言ございますでしょうか。
 それでは、討議も尽きたようでございますので、これにて自由討議を終了いたします。
 本日は、これにて散会いたします。
    午前十一時四十三分散会


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