衆議院

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第2号 平成14年3月28日(木曜日)

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平成十四年三月二十八日(木曜日)
    午後二時一分開議
 出席小委員
   小委員長 中川 昭一君
      伊藤信太郎君    石川 要三君
      近藤 基彦君    土屋 品子君
      葉梨 信行君    平井 卓也君
      首藤 信彦君    中川 正春君
      中村 哲治君    山田 敏雅君
      赤松 正雄君    武山百合子君
      山口 富男君    金子 哲夫君
      西川太一郎君
    …………………………………
   憲法調査会会長      中山 太郎君
   憲法調査会会長代理    中野 寛成君
   参考人
   (日本貿易振興会理事長) 畠山  襄君
   衆議院憲法調査会事務局長 坂本 一洋君
    ―――――――――――――
三月二十八日
 小委員高村正彦君及び井上喜一君同日委員辞任につき、その補欠として伊藤信太郎君及び西川太一郎君が会長の指名で小委員に選任された。
同日
 小委員藤島正之君同日小委員辞任につき、その補欠として武山百合子君が会長の指名で小委員に選任された。
同日
 小委員伊藤信太郎君及び西川太一郎君同日委員辞任につき、その補欠として高村正彦君及び井上喜一君が会長の指名で小委員に選任された。
同日
 小委員武山百合子君同日小委員辞任につき、その補欠として藤島正之君が会長の指名で小委員に選任された。
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 国際社会における日本のあり方に関する件


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     ――――◇―――――
中川小委員長 これより会議を開きます。
 国際社会における日本のあり方に関する件について調査を進めます。
 本日、参考人として日本貿易振興会理事長畠山襄君に御出席をいただいております。
 この際、参考人の方に一言ごあいさつを申し上げます。
 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人のお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。
 次に、議事の順序について申し上げます。
 最初に参考人の方から御意見を四十分以内でお述べいただき、その後、小委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。
 なお、発言する際はその都度小委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は小委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。
 御発言は着席のままでお願いいたします。
 それでは、畠山参考人、お願いいたします。
畠山参考人 本日は、この小委員会にお招き賜りまして、大変光栄でございます。お役に立ちますかどうか自信もございませんけれども、務めさせていただきたいと思います。
 それで、意見の中には個人的な意見にわたる部分もあろうかと思いますが、今、小委員長からお許しをいただきましたように、忌憚のない意見ということでお許し願いたいと思います。
 それでは、座ってやらせていただきます。
 「国際社会における日本のあり方に関する件」ということで、自由貿易協定の問題を中心にというのがいただいたテーマでございまして、まず、憲法調査会の小委員会様がこの自由貿易協定問題を取り上げていただきましたその炯眼に深く敬意を表させていただきたいと思います。
 それで、自由貿易協定、先生方は先刻御存じのことではありますが、念のため、どういうものであるかということをこのレジュメに従って説明させていただきたいと思います。
 この「定義」のところでございますけれども、このレジュメをつくりました後で、事務局の方から、「自由貿易協定について」といういい資料もお配りいただいているようでございますので、簡単にさせていただきたいと思いますが、大ざっぱに申し上げまして、自由貿易協定は、バラッサという学者が定義したところによりますと、五つございます。
 第一が、自由貿易協定、フリー・トレード・アグリーメントと呼ぶものでございまして、これは、メンバー国の間の関税、それからその他の非関税障壁を全く撤廃しようというものでございます。それが典型的な自由貿易協定であります。
 それから、その次の段階に進みますと、関税同盟といいまして、この関税同盟は、そのメンバー国の対外的な関税を統一するものでございます。
 それで、(2)の方に「典型的な例」とございますけれども、自由貿易協定の典型的な例は、北米自由貿易協定、いわゆるNAFTAでございます。アメリカ、メキシコ、カナダで構成しているわけでございますけれども、その間の関税は原則ゼロにする、その間の輸入制限は原則行わないということでございますけれども、対外的なアメリカの関税、メキシコの関税、カナダの関税、こういうものはばらばらでございます。
 それに対して、関税同盟の典型的な例がEUでございます。欧州連合でございますが、この欧州連合の対外的関税は統一されております。
 自動車の例で申し上げますと、例えばアメリカの関税は二・五%ぐらいであります。それに対して、カナダの関税は六%ぐらいであります。メキシコの関税が二〇%ぐらいで、みんなばらばらであります。ところが、EUの関税は全部、ドイツであろうとイギリスであろうとフランスであろうと一〇%というふうに統一をされておるということでございます。
 それで、第三段階に進みますと、これが共同市場というものになります。共同市場の中では、生産諸要素、例えば労働でございますとか資本でございますとか、そういう貿易財などの生産諸要素の移動を自由にしようというものでございます。先ほど申し上げましたように、EUが関税同盟の典型的な例ではございますが、しかし、九二年以降のEUは共同市場に移行をいたしました。だから、この共同市場の例もEUになるわけでございます。
 それから、第四の形が、このバラッサの分類によりますると、経済統合でございます。経済統合は、マクロ経済政策を統一しようというものでございます。さすがのEUも、ここまではまだ来ておりません。だから、今、マクロ経済政策まで統一して運用している共同体はないと思いますので、典型的な例はまだない。
 それから、最後の段階が完全な統合であります。これは、政治統合もやっちゃおうというような感じであろうかと思います。
 バラッサの分類でいいますとそういうことでございまして、典型的な例は、先ほど申し上げましたように、自由貿易協定の例で申し上げますと北米自由貿易協定であり、それからアジアで、ASEANのASEAN自由貿易地域というのができておりますけれども、それなどが典型的な例でございますし、関税同盟の例は、EUのほかで申し上げますと、南米はブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイで構成しておりますメルコスールというのがありますが、このメルコスールも代表的な例でございます。
 そこで、FTA、自由貿易協定は自由化を推進する一つの手段でございます。一つの手段でございますが、それとWTOとどういう関係になるのだということについて申し上げたいと思います。
 WTO、世界貿易機関はガットの後身でありますけれども、これは多国間で自由化を推進するということでございまして、昨年十一月の九日から始まりましたドーハの閣僚会合で、この次のラウンドをスタートすることが決定したわけでございます。ただ、これは、中国、台湾の加盟がこの間実現しまして、今、百四十四カ国が加盟いたしております。非常に多数の国がやるわけでございます。そこの合意を得ながら進めていくというのがWTOでございますし、前回のウルグアイ・ラウンドの結論に基づいて詳細なルールが決まっておりまして、それに従って自由化を推進していこうというのがWTOでございます。
 それに対してFTAは、さっきも申し上げましたように、単なる二、三カ国、あるいは多いときでEUのように十五カ国とか、そういうのが加盟をして、その間でだけ関税を免除し、輸入制限を免除していく、こういうものであります。したがって、FTAの問題は、メンバー国を優遇する、逆に言えば非メンバー国を差別するということでございます。この差別的な側面というのが問題であります。
 したがいまして、WTOの基本的な精神であるところの自由、無差別のうちの、この無差別というものに少なくとも精神は抵触するわけでございます。したがって、WTOルール上は、厳格な条件を設けまして、その条件に適合すればFTAは許してあげるという建前になっております。
 その条件というのは二つ三つございまして、一つは、実質上すべての品目をカバーしなくてはいけないということでございます。だから、貿易をやっております品目の中には工業製品もあれば農産品もあればいろいろあるわけでございますけれども、そのうち工業製品だけ自由化しようとか、そういうことは許されないわけでございます。実質的にすべての品目をカバーしなくてはいけないということが一つの条件であります。
 それから第二の条件は、FTAの関係に入る前と後とで対外的な障壁を引き上げてはいけない。だから、メンバー国の間で関税をゼロにするかわりに、例えばメキシコでいえば、FTA発足後は自動車の関税を、今二〇%なのを、対外的に、日本も含めた対EUとかそういうところに対しては二五%に上げるとか、そういうことをやっちゃいけないということであります。
 それから第三の条件は、自由貿易協定の関係に入るわけでございますけれども、そうすると、原則すべての品目について、先ほど申し上げたように、輸入制限なり関税を撤廃しなくちゃいけないわけですが、それに経過期間を設けることがあるわけですが、その経過期間は十年を超えてはならないということであります。
 そういう条件のもとにWTOはFTAを容認しておるということでありますが、ただ、それが建前になっていると先ほど申し上げました理由は、実は、WTOの審査は、物の貿易の方で申し上げますと、ガット二十四条でございますけれども、この二十四条をパスしたFTAなり関税同盟はいまだないという状況であります。提出しても、審査がたなざらしになっていたり、両論併記になっていたり、未提出だったり、そういう状況でございまして、いわば判例が確立していないというのが実態でございます。
 以上が「自由貿易協定とは何か」というところでございますが、次の「FTAの拡がり」というところへ入らせていただきます。
 すなわち、FTAが最近大変広がってまいりました。後で申し上げますように、数がふえてまいったわけでございます。それは何が契機であったかということでありますけれども、私の見るところ二つありまして、一つは、一九九〇年に、当時ウルグアイ・ラウンドの最中でございましたけれども、ウルグアイ・ラウンドのブラッセルでの閣僚会合というのがございました。これは、当時外務大臣であられた中山会長も外務大臣として参加しておられたと記憶しておりますけれども、その会合が実は失敗に終わったわけでございます。そこでウルグアイ・ラウンドの決着をつけようということであったわけでございますが、そうなりませんでした。
 このガットのラウンドが失敗したので、多国間の作業は難しいじゃないか、だから、同じ自由化を推進するにしても、自由貿易協定の方でいこうやというふうに思った、そういう関係国が多かったのではないかというのが第一点であります。
 第二点は、九二年に、先ほどちょっと触れましたけれども、それまでECと言っておりました欧州共同体がEU、欧州連合に切りかわるわけで、それまで欧州は、関税同盟ではありましたけれども、共同市場にはまだなっていなかったわけでございます。それで、生産諸要素の移動などは自由になっていなかったし、例えば域内の流通規制なんかも残っておりました。ところが、この九二年から域内の流通規制を撤廃し、労働の移動も原則自由にし、共同市場にしていこうじゃないかということになったわけでございます。これが当時、九二年ですから、EC92と言われておりました。
 それに対して、日本もアメリカも、これはフォートレス・ヨーロッパをつくるものである、欧州の要塞をつくるものであって、ブロック経済化につながる、けしからぬ話だといって、私も現役で通産省でやっておりましたので、声高にそういうことを言っていたわけでございます。ところが、それにもかかわらずEUはでき上がりました。EC92は完成して、共同市場が誕生したわけでございます。
 それでアメリカが態度を変えました。自分たちも自由貿易協定の方でいこうということになりまして、当時既に折衝に入っておりましたメキシコの加盟を温かく迎えるようになり、そして、九四年一月からNAFTA、北米自由貿易協定が発足するわけでございます。
 そういうことで、アメリカもFTAになびきまして、その同じような時期に、アジアの方も、これでは自由貿易協定をやらざるを得ないということで、それまでは自由貿易協定でなかったASEANがAFTA、自由貿易協定をつくったということでございます。
 それで、現在はどういうことになっているかというと、世界じゅうで効力を発揮している自由貿易協定の数が、ダブっているのをジェトロで調整して勘定してみますと、百三十八でございます。百三十八個も自由貿易協定が世界にあるということでございます。
 そのうちどういうものがあるかということは、資料の三枚目におつけしていると思いますが、「世界主要国・地域のGDPと加盟する自由貿易協定」、これは世界の主要三十カ国を上から順に並べたものでございます。そのうち、自由貿易協定のメンバーであるという国は、右側にその自由貿易協定の名前が書いてあるわけでございます。以下、自由貿易協定と申しますときは関税同盟も含めて申し上げたいと思いますけれども、そういうことで、ドイツはEUに入っている、英国はEUに入っている、カナダはNAFTAに入っている、ブラジルはメルコスールに入っているというようなぐあいでございます。
 そして、ここで影がついているのがありますが、五つであります。日本と中国と韓国と台湾と中国香港。この国あるいは経済、台湾とか香港は国ではないというふうに考えますと、経済と呼んだ方がいいかもしれませんけれども、この五つの経済が、自由貿易協定を発効させているものにはまだ入っていない。
 日本は、御案内のとおり、この間、一月十三日に小泉首相が訪シンガポールをされまして、その折に、ゴー・チョクトン首相とサインを交わされている。この日本・シンガポール経済連携協定というものは国会に提出をされているわけでございまして、御審査をいただくことになるんだと思いますけれども、そういう意味ではまだ発効はしておりませんので、この影は落とせないでおるわけでございます。
 すぐ容易にお気づきでありますように、日本、中国、韓国、台湾、中国香港というのは、いずれも、英語で言えば極東地域にあるわけでございます。この地域にある五つの経済体が自由貿易協定に手を染めていないだけであって、世界主要三十カ国、いかに主要であるかというのは、この三十カ国のGDPを足し上げますと、下から二行目に出ておりますように、世界のGDPの九一%を占めてしまうわけでございます。その中で自由貿易協定に手を染めていないのは、この五つの経済体だけである。台湾と香港を除きますと、結局日本、中国、韓国だけである、こういう状況になってきているわけでございます。
 のみならず、既存の自由貿易協定、例えばNAFTAでございますとかあるいはEUでございますとか、そういうものが拡大を始めております。
 それで、NAFTA、北米自由貿易協定は、今度は二〇〇五年までにFTAA、米州自由貿易協定になろうということで、中南米を入れてしまおう、合計三十四カ国で自由貿易協定をつくろうということになっております。そうなりますと、ブラジルとかアルゼンチンとかそういうところまで入って統合されていくわけでございます。
 それからEUの方は、ポーランドとかハンガリーとかチェコとかブルガリアとかルーマニアとか、ああいう旧共産圏の国々とトルコを含めて、今十三カ国が加盟の申請をしてしまっているか、しようとしているわけでございます。そうしますと、今十五カ国ですから、これができ上がった暁には二十八カ国ということになってくるわけでございます。
 そういうことで、既存のものも拡大しておりますし、それから新たな自由貿易協定という動きが高まっております。
 最も特筆すべきは中国であります。中国は、昨年の十一月四日、朱鎔基首相がASEANに呼びかけまして、そして中国とASEANの自由貿易協定を今後十年以内に完結すべく交渉に入ろうという合意に達しました。それから、アメリカとシンガポールも今交渉中でございまして、妥結の日も近いと言われております。それらに限りませんけれども、そういう状況でございます。
 ここでシンガポールとアメリカがもし自由貿易協定を締結しますと、アメリカも、これは私の個人的な観測でございますけれども、ほかのASEAN諸国とも自由貿易協定を結ぼうという動きになってくると思います。中国がASEANと自由貿易協定を結び、仮にアメリカがASEANと自由貿易協定を結ぶ、その中で日本がそれにおくれをとるというようなことがあると、これは一大事だと私は個人的に考えているわけでございます。
 それで、三番目の「日本の立場」というところに入らせていただきますけれども、日本の立場は、二、三年前までは、言葉遣いは悪くて恐縮でございますが、WTO一辺倒でございました。大ざっぱに申し上げればそういうことで、WTO以外のことには関心を示さず、その理由は、先ほど申し上げたように、FTAというのは非メンバー国を差別する、したがって、ガットの一大原則である自由、無差別のうちの無差別という原則に反する、したがってよくない、やがてブロック経済につながるじゃないか、したがってWTO一辺倒でいくんだということでございました。
 しかし、そのために問題点が生じました。
 第一の問題点は、国際的な孤立であります。
 これは個人的な体験で恐縮でございますけれども、一九八九年だったと思いますが、モントリオール・コンベンションというのがございまして、これは、実は例のオゾン層保護のためのフロンの規制に関する条約でございます。名前は違う名前でございますけれども、実質はそういうものでございます。その条約の第一回正式会合が行われました。それで、私は当時通産省の基礎産業局長か何かをやっておりまして、外務省の政務次官がおいでになるまでの間、代表みたいな格好で現地に行っておりました。
 そうしますと、これは条約実施のための第一回会合でございますので、国連側でおつくりになった実施規則のようなものを提案されました。ただ、国連でございますから出席者は三百人ぐらいおるわけでございまして、国連の担当理事の方は、提案されて、さあ友邦国と相談していらっしゃい、こう言われたわけでございます。夕方また会いましょうみたいな話だったわけでございます。
 友邦国と相談と言われて、アメリカはカナダと相談する。EUはEUで集まって相談する。中国は、当時グループオブ77というのがまだ非常に盛んなころでございまして、そういう方々と一緒に相談をなさる。あぶれたのが日本と韓国とロシア、そのときちょっとロシアは中途半端な時期にありまして、この三つでございまして、そういうこともございました。
 したがいまして、申し上げたい点は、自由貿易協定で結ばれておると、その他の関係でも、これは経済問題と関係のない話ではだめだと思いますけれども、国際経済と関係のある話であれば、非常にツーカーにつながる仲になるということでございます。したがって、国際的に孤立をする傾向になってきた、これが第一であります。
 それから第二は、FTAがあれば実現ができたであろうことが、当然ですけれども実現できておらないということであります。
 その第一は、国内の構造改革であります。
 御案内のとおり、国内の構造改革を実施しますためには、国内的に相当な抵抗があるわけでございます。その抵抗を、言葉は悪いですけれども、例えばFTAによる約束があるんだから仕方がないんだと言いながら推し進めていくということがEUの知恵であったわけでございます。
 EUの主要国の一つでありますドイツの経済省の次官が、退任後でありますけれども、ジェトロの招きで日本に来まして講演をしました。その際にまさにそういうことを言っておりまして、構造改革を推進する際に、EUはどうやっているかというと、構造改革でつらい決断をしたのはEUなんだ、おれたちではないと。そういうふうにして、端的に申し上げれば、EU委員会を悪者にして、個々の国のリーダーはその構造改革を進めることができたんだということであります。
 それから、メキシコの経済大臣も言っておりましたのは、構造改革を国内的に決定して推進しようとしても、反対が強まると、国内だけの意思決定にとどまれば少し後退せざるを得ない。しかし、それがFTAという形で外国との約束になっておれば歯どめがきく、後ろへ戻れない、そういうことも言っておられました。
 それから、FTAありせば実現できたであろうことの第二は、新分野の実験であります。
 例えば、WTOの中で競争と貿易、独禁法とかそういうことでありますけれども、そういうことを決めていくのは、今、この百四十四カ国の中ではなかなか難しゅうございます。しかし、FTAの中では、場合によっては競争と貿易ということを規定ができるかもしれない。そういうことでありまして、FTAという形で新分野を実験できる。そして、あちこちのFTAで競争と貿易というのができてくれば、それをWTOの中へ高めていくことができるということであります。
 それから、FTAありせば実現できたであろうのにということのもう一つは、FTAがあれば、そんなにWTOの自由化に反対するのであればFTAのルートで行くもんねと言って、WTOの作業を逆に推進する圧力にも使えるということであります。
 時間もありませんので、これぐらいにFTAありせば実現できたであろうのにということの御説明を終わります。
 第三点目の、FTAがないために生じた問題点は、日本経済が受けている実害であります。
 この例を申し上げますと、メキシコでございますけれども、メキシコ市場へ日本企業がどこの国の企業と競合して進出しているのかといいますと、アメリカとヨーロッパの企業であります。大ざっぱに申し上げれば、ASEANや中国の企業と競合しているわけじゃないわけであります。
 ところが、そのアメリカの企業は、NAFTAのおかげで関税ゼロでアメリカの産品をメキシコへ輸出できるわけであります。それからヨーロッパは、EUとメキシコが二〇〇〇年七月から発効させました墨EU自由貿易協定のおかげで、EUの産品も関税ゼロでメキシコへ出るわけでございます。ところが、日本の産品は関税がかかるわけでございます。
 ちなみに、メキシコの平均関税率は一六・二%であります。これは、必ずしも日本からのが全部一六・二%かかるということではありませんで、平均一六・二%でありますし、それから部品その他について特例もありますので、一六・二%を個々の品目について払っているということではございませんけれども、そういう実害が生じているわけでございます。
 それで、これは貿易面の実害だけにとどまりませんで、例えば投資を行っても、その立ち上がった工場の少なくとも当初段階は部品を輸入していくわけでございますね。その部品を輸入する際に、アメリカの部品は関税ゼロ、EUの部品は関税ゼロ、ところが日本の部品には関税がかかるということですから、投資もやりにくいということになってくるわけでございます。
 そういうFTAがないための弊害が出てまいりました。そこで日本は、FTAももう一つの選択肢にする。ここに書いてあります、「FTAでWTOを補完する重層体制」というものに徐々に移行を二、三年前から始めたわけでございまして、ここにございます対シンガポールは、先ほど申し上げましたように、包括的経済連携協定というものを結びまして、国会で御審査をいただくことになっております。
 それから、メキシコでございますけれども、もう一つの資料に出ておりますように、二段目でございますが、「日本と諸外国とのFTA研究・交渉状況」というのがございます。その右側に出ておりますように、中段から下でございますけれども、「二〇〇一年六月に小泉総理とフォックス大統領との間で、産学官からなる共同研究会の設置に合意。」ということでございまして、共同研究会を六回やる予定でございますが、今その四回までを終了しておるということでございます。
 先日私は、たまたまでございますが、メキシコへ参りまして、フォックス大統領にも表敬訪問をいたしました。その際に、フォックス大統領それからカスタニェダ外務大臣、デルベス経済大臣、それぞれお目にかかりましたけれども、これらの方々が口々におっしゃっていましたのは、この十月にメキシコがAPECの首脳会議の主宰国になるわけでございます。そこで小泉首相ともまたお会いする機会があるので、それまでの間にこの研究を終えて、そして、そのときに交渉に入ることを決定したいということを言っておられました。シンガポールも、最初この研究で入って、やがて交渉に行ったわけでございますので、そういうふうにやりたいということを言っておられまして、来年秋遅くにでも交渉の決着をしたいということを言っておられました。
 それから、ASEANでありますが、ASEANは、そこにございますように、この間の小泉総理のASEAN訪問の折に、日本・ASEAN包括的経済連携構想というものを提案されまして、そして、その専門家会合が一月と、それからついこの間三月二十一日、二十二日に行われまして、今研究が進んでいるところでございます。
 それから、その次韓国でございますが、韓国とは、一月二十五日に、民間のビジネスフォーラムというものが前向きな結論を出しまして、それを受けて三月二十二日、小泉総理が訪韓されました折に、金大中大統領との間で、産学官から成る共同研究会の設置に合意をしておられるわけでございます。そんな状況に今なっておるということでございます。
 それで、最後でありますが、簡単に、今後の残された課題といいますか、これを推進していく際の課題について触れさせていただきたいと思います。
 第一の課題は、申すまでもなく農産物の取り扱いでございます。
 農産物につきましては、先ほど申し上げましたWTOの規定のFTAを認めるときの条件の、実質的にすべての品目をカバーしなくちゃいけないというところがかかわってくるわけでございます。したがって、まず農産物は全体適用除外にしましょうということはWTO上許されない、これが第一点であります。それから、実質的にすべての品目をカバーというのはどういう意味だということについては、判例が先ほどのような状況ですからございませんけれども、一応の解釈は、輸入の九〇%以上をカバーするということではないかというふうに言われております。
 したがいまして、小委員長、ちょっと農産物の関係の資料をお配りしてもよろしゅうございますか。
中川小委員長 はい、配ってください。
畠山参考人 それで、今お配りしております資料にありますように、主要な日本への農林水産物の輸入相手先をごらんいただきますと、一位が米国で、二位が中国、カナダ、オーストラリア、こういう順番になっているわけでございます。
 それで、私は個人的には、この農産物の取り扱いについてどうすべきか、そういうことを申し上げられた義理ではありませんが、長年こういう問題にタッチさせていただいておりますので、あえて個人的な意見を申し上げさせていただきますると、食糧安全保障上どうしても守ることが必要という品目については断固として守るということであろうかと思います。
 ただし、その重要な品目を守るために、その周辺の品目と言っては語弊があるかもしれませんが、その他の品目もずっと並べて、いわばカードを持っていて、最後で切りたいとかいうようなことかもしれませんが、そうやって守るということはやめる。重要な品目を除いて、そうでない品目は、どんどんFTAやWTOで自由化をしていくということが大事ではないかと思います。
 無論、しかし急激な変化はいけませんので、そういう自由化をする品目につきましても、もし必要があれば、先ほどWTO上許されていると申し上げました経過措置を十分に利用いたしまして、十年までは許されるわけでございますから、十年後に自由化するとか、場合によってはそういう品目についてそういう措置を講じて、急変緩和をしていくということが必要かと思います。
 それから、よく農産物の場合に問題になりますのは、例えばメキシコと自由貿易協定を結ぶ、そうすると、アメリカの農産物がメキシコ経由で日本へ関税ゼロで入ってくるんじゃないか、こういう御指摘をいただくわけであります。そういうことはございません。メキシコの産品でなければ、日墨自由貿易協定の関税ゼロの品目にならないわけでございます。
 どういう品目がメキシコ産品であるかというと、原産地規則というのが必ず自由貿易協定の中に決められることになっておりまして、いろいろな決め方がございますけれども、関税分類が全く違うことになっちゃうか、あるいは付加価値が五割も付加されるか、大ざっぱに申し上げれば、そういう二つの基準でやっているわけでございます。だから、アメリカの農産物が手つかずで、単にメキシコを経由しただけで関税ゼロで日本に入ってくるなんということは、日墨自由貿易協定を結んでもないわけであります。
 それから、第二の残された課題は、これは技術的な話で恐縮でございますし、やや役所間の問題にもなって恐縮でございますけれども、自由貿易協定の交渉体制、審査体制の問題であります。
 まず、周辺のことから申し上げますと、主要国は、自由貿易協定の交渉に外務省などまずほとんど出てこないわけであります。経済省、貿易担当省が出てくるわけでございます。例えば、アメリカはUSTRであります。EUは、外交総局ではなくて通商総局が出てくるわけであります。メキシコも経済省がやっているわけでありまして、外務省なんかは出てこないわけであります。
 具体的に各国とこれだけいろいろやらなくちゃいけないというときに、外務省が必ず出てこなくちゃいけないとなると、人繰りがつかないとか、そういうこともありますし、それから審査も条約局が一々やらなくちゃならないとなりますと大変ということでありまして、やや古巣の経済省を応援するような話で申しわけないのでありますが、経済省あたりにまとめさせたらよろしいんじゃないかというふうに思うわけであります。
 それから、最後でありますが、現在の自由貿易協定をどういう国とどういう順番で結んでいったらいいのかというところはあいまいであります。率直に言って、今受け身であります。なぜかというと、日本の中では、コンセンサスをとって、そして提案していくことが非常に難しいからであります。
 しかし、御存じのとおり、EUというのは、ジャン・モネという人が、この指導者の一人が構想をして、ザールという当時の西ドイツの石炭の地域を共同管理しよう、そのために炭鉄共同体をつくろうと。そしてそれを、ロベール・シューマンというフランスの外務大臣が、政治家の方が提案をして、今日あのユーロをもたらしたわけでございます。
 それから、時間が過ぎて恐縮でございます、カナダでございますが、カナダは、米加自由貿易協定を結ぶ際に国内で大変な反対がございました。カナダの外交の一大原則の一つは、アメリカからの独立であります。それを米加自由貿易協定によって失うのではないかという強い反対がありましたが、それを当時のマルルーニ首相が押し切ったわけであります。そして、米加自由貿易協定を結びまして、それは議会で否決をされました。そうしたら、議会を解散しまして、米加自由貿易協定締結否かどうかということだけをスローガンに選挙に打って出たわけでございます。その結果、大勝しまして、そして米加自由貿易協定ができたということでございます。
 ですから、せっかくでございますので、きょうは我が国の非常に偉い指導者の方がお集まりでございますので、ぜひお願い申し上げたいのは、この自由貿易協定の策定という問題も通じながら、日本が国際的なリーダーシップをとれるよう、ぜひ政治家の方々のリーダーシップを御発揮いただきたい。
 ちょっと最後、非常に僣越なお願いになりましたけれども、そういうことで御説明を終わらせていただきます。大変御清聴ありがとうございました。(拍手)
中川小委員長 以上で参考人の御意見の御開陳は終わりました。
    ―――――――――――――
中川小委員長 これより参考人に対する質疑を行います。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。石川要三君。
石川小委員 大変お忙しい中、貴重な時間をいただきまして、有益なお話を聞くことができまして、ありがとうございました。
 私は、この方面には本当に素人で無知なものでございますので、今お話を聞いていろいろな点で大変勉強になったわけでありますが、特にきょうは憲法調査会でございますので、そこいらとの絡みといいますか、そういう点を主眼としてちょっとお尋ねしたい、こんなふうに思っています。
 まず最初に、いろいろと今お話を聞く中で、この自由貿易協定というものがどんどん、まさに二十一世紀の、これからの当然な流れではないかと思うほど非常に拡大されているわけでありますが、それにはやはり一定の、ある程度の規模というものもあるのかな。その適正規模というものがあるとすればどんなものなのだろうか、極めて素朴な質問でございますが、まずそういう点からお話を聞きたい。
 そして、そういう中で、いろいろとお話を総合しますと、これは、もちろん目的とするものは、経済のいわゆる協調といいますか、そういう一つの大きなメリットを目指しているわけですが、しかし、それは単なる経済的なことだけではない、やはり国家主権との関係とか、いろいろなものが出てくると思うんですね。文化あるいは人的交流というものも絡まるだろうし、特にその国の主権にかかわる問題、すなわち憲法とのかかわりも出てくるんではないか、こんなふうに思うんですけれども、そこいらはどんなふうに今関係があるのか、その点をちょっと具体的にお話しを。
畠山参考人 適正規模の点でございますけれども、確かに、今までNAFTAが結ばれましたけれども、メキシコの経済とアメリカの経済の一人当たりのGDPを比較いたしますと、六倍というような状況でございます。EUと違いまして、NAFTAの場合は、先進国と開発途上国の格差の割合大きい協定であると言われているわけでございますが、そういう六倍程度になっているわけでございます。
 ところが、もし日本が、先ほど申し上げましたように、仮にASEANと結ぶといたしまして、仮にそのASEANが十カ国だとしますと、その中にミャンマーも入るわけでございます。そうすると、ミャンマーは日本の一人当たりGDPの二百七十分の一でございます。だから、こういう国とまで結ぶことが適当かどうかということになりますと、私は、その部分については若干時期尚早かな、適正規模ということでいえば、やはりある程度、何十分の一ぐらいのところにとどまるのであって、ミャンマーまで入れるとどうかなと個人的には思います。
 ちなみに、アメリカが三十四カ国の米州自由貿易協定に拡大しようとしているというお話をさっき申し上げましたが、その中には、カリブ海の、キューバのわきにございますハイチも入っております。あそこの一人当たりGDPは四百六十ドルでありまして、それはアメリカの一人当たりGDPの七十六分の一であります。だから、そういうところまではやろうとしておるということでございまして、ASEANも、インドネシアぐらいですと、日本の五十二分の一でありますから、何とかなるんじゃないかというふうに思います。
 それから、第二番目の、自由貿易協定を結ぶと国家主権にかかわる分野も出てくるんではないか、したがって憲法上の問題も出てくるんじゃないか、これは一般論としては御指摘のとおりでございます。
 ただ、先ほど来申し上げております第一段階の自由貿易協定、これは単に、メンバー国の間の関税を撤廃し、輸入制限を撤廃するというだけでございますので、それにとどまっております段階では、私憲法に詳しくございませんけれども、憲法上の問題は出てこないんではないかというふうに思いますし、仮に第二段階の関税同盟に行きましても、対外的な関税を統一するというだけでございますれば、憲法上の問題は出てこない。
 ただ、先ほどの第四段階、マクロ経済政策を統一するとかいうことになってきますと、租税をどうするとかそういうことにもなってまいりますので、そこになりますと、その国の憲法の規定の仕方にもよると思いますが、現在の我が国の租税関係の条項の決め方にとどまる限りはそれでもいけるんじゃないかと私は個人的に思いますが、しかし、規定の仕方によってはやはり憲法上の問題にもなってくるんだろうというふうに考える次第でございます。
石川小委員 EUというのは、私どもにとっては一つの典型的なものだ、こんなふうに思っておりますが、それに比べて、もし仮に私どもがASEANを仲間にしてやる場合、当然これは、欧州諸国とアジア、特に我々の近辺の中国、韓国、そういったようなところのいろいろな関係を見て、ヨーロッパとは随分違うなと。
 特に、まず一つには、経済格差が非常に大きい。したがって、その経済格差からくる利害対立。それから、中国との政治体制の相違、これが一番顕著であろうかと思いますが、これに起因する政治的な課題。それからまた、さきの大戦に関する歴史的な認識だとか、あるいは文化的課題だとか、いろいろとあると思う、そこいらの問題。それからまた、国民感情が依然として消えていないわけです。そういう国民感情の解決すべき問題などが山積しているわけですね。そうなると、そう簡単にいかないんじゃないかな、こんなふうに思うんですね。
 ですから、ここいらの困難性といいますか、また、それと憲法との関係なんかも当然出てくると思うんですね。そこいらはどんなふうな御理解をされていらっしゃるのか。
 特にEUは、御承知のとおり、その前にNATOというものがあって、極端に言えば、安全保障、こういったような問題でかなり整備されておりますが、アジアはそれに比べて逆ですね。ですから、我々は、経済の後に政治がついてくる、フォローされるというふうな関係ではないかなと思うんですが、そういう点から見ても、ヨーロッパとかなり違うな。
 この困難性、ここいらについてはいかがでございましょうか。
畠山参考人 まず、国民感情の点でございますけれども、国民感情で申し上げれば、ドイツとフランスだって、先生、先刻御存じのとおり、血で血を洗うような戦争を第一次世界大戦、第二次世界大戦と重ねてきたわけでございます。それを、もう絶対に戦うまいというリーダーの決意のもとに、炭鉄共同体をつくり、そしてECをつくり、EUに昇華させていったわけでございますので、国民感情の点だけで申し上げれば、そういう形でアジアも、リーダーの方々が、国民感情に残る違和感のようなものを克服していただければなと思う次第でございます。
 それから、中国は、政治体制の違いがございますので、中国と本当に自由貿易協定を結べるかというと、先ほどお配りしました、農産物の供給国の第二番目にもランクされているわけでもございますし、御指摘の政治体制の問題もありますので、なかなかにわかには中国とは難しいんじゃないかと、私は個人的に思う次第でございます。
 ちょっと、先ほどの私のお答えが長くて時間を過ぎたようでありますので、この辺で終わらせていただきます。
石川小委員 ありがとうございました。
中川小委員長 次に、中川正春君。
中川(正)小委員 民主党の中川正春でございます。
 畠山さん、これまでのもどかしさとか、日本の戦略に対する、あるいは政治に対するかもわかりませんが、そのもどかしい気持ちというのが一気にあふれ出たようなコメントをいただきました。
 まず最初に、さっきの憲法との関係で関連してお聞きをしたいんですが、ドイツあたりでは、基本法の中に、国家の権限を一部国際機関へ移譲していこうというような決めがはっきりあるわけですね。これからの日本を見て、そういうような条項も必要なんではないか、あるいは示唆を、いわゆる国民に対して方向性を示すためにも必要なんではないかというふうなことはお考えでしょうか。
畠山参考人 それは全く御指摘のとおりでございまして、日本も、EU当局のような第三者機関をつくっていく必要があると思いますので、そこへ主権の一部を委任するというようなことが、行く行くの話としては必要なんではないかと薄々考えております。
 ただ、自由貿易協定というその前の段階に行くのにも大変なものですから、それへの抵抗が主権問題と絡んで強くなるといけませんので、今でも抵抗が強いわけでございますので、当面は、そういうことを余り強調しないで、自由貿易協定の数をふやすということに力を注いだらよろしいんじゃないかなと個人的には考えております。
中川(正)小委員 WTOにこだわり過ぎた、その理由は、無差別原則と、それからブロック経済への憂慮というか、そういうものが日本にあった、こういうふうに格好よく最初は説明していただきましたけれども、最後の方で本音が出まして、いや、それはどうも国内政治の中で利害調整ができなかったんだ、もっと通産省が前に出ていったらもっとやれたし、あるいは政治がもっとしっかりしていたらその辺の方向性は決められたんだ、この辺が本音なんだろうというふうに私は理解をさせていただいたんです。
 その場合に、特に、日本国内の利害調整をするのに、役割としては、本来なら外務大臣なんですよ。だから外務大臣の格が高くて、そのことを予見しながら役割分担というのがあったんだろうと思うんです。しかし、現実は、そのリーダーシップが発揮できなかった、あるいは、政治の中で政権交代という枠組みがないために構造改革まで踏み込むことができなかったという、いわゆるそれを予定して政治体制を変えるというメカニズムが日本の国内に働いていないということだと思うんですね。そこのところは、これからどんな形で国内の利害調整をやっていくべきか、さまざまな国がさまざまな工夫をしていると思うんですけれども、それを見られた上で、どういうふうにお考えですか。
畠山参考人 これは、先ほど申し上げましたように、構造改革について、何も日本の国内調整ができなかったのが不満だとか、そういうことを申し上げたつもりはございませんで、構造改革は、日本に限らず、世界各国、推進するのには大変な苦労が要るものでございます。したがいまして、EUの加盟国である例えばドイツにいたしましても、構造改革の痛みの方は第三者であるEU当局の責任にかぶせて、そして、ドイツのリーダーは、おれは立派ないいことをやっているんだからねというふうにおっしゃって、そこをそういう工夫で処理しておられるんですということを申し上げた次第でございます。
 そういうことでございまして、各国とも、あるいはメキシコにしても、構造改革の歯どめをつくるためには、国内だけじゃだめなんで、国際的なNAFTAというもので約束をしなくちゃだめだというようなことを言っているわけでございます。だから、日本だから構造改革の国内調整ができなかったということを申し上げたかったわけではなくて、外国もそうであって、その一つの道具としてこのFTAを十二分に、今のお言葉でいえば一つの工夫として使っておられるということでございます。
中川(正)小委員 そこの部分は日本も、外圧という言葉があって、アメリカのそれぞれの圧力によって国内的にそれを転換しようとした努力はあったと思うんですね。ところが、現実は形だけで、中身、いわゆる本来の痛みというものに対して政治がしっかりと決断ができなかったということ、そのことが私はあったんだろうと思う。まずその決断が先で、それから次のステップが始まってくる、鶏と卵が逆なんじゃないかなという見方を私自身はしております。
 それと同時に、もう一つ、ブロック経済化ということに対しての懸念というのは、これは国家戦略として整理をしなきゃいけないところだろうというふうに思うんです。ヨーロッパにしてもあるいはアメリカにしても、もう既にブロック経済化の戦略を使って自分の国益を伸ばそうという決断をしているんだというふうに私は思っているんですね。そこのことを日本として理解ができなかったというか、戦略上のマインドをそれに入れ込むことができなかったということが、これは最大の失われた十年ということであったのかなというふうに思っているんですよ。
 そういう意味で、ブロック経済化を本当に恐れなければならないのかということ、ここの懸念は払拭すべきだというふうに私は思うんですよ、今の日本の国内議論の中でも。そこの部分はどう思われますか。
畠山参考人 御指摘のとおりでございまして、結論から申し上げると、ブロック経済化という懸念は払拭するべきだと私も考えます。
 それで、ブロック経済化の懸念の実体は何かというと、例えば、EUがEUとして内向きになって、そして対外的な障壁を高めていくとか、そういうことが懸念されていたわけでございます。ところが、率直に申し上げて、この十年のEUの対外通商政策は非常に開放的でありました。アメリカと比較いたしましても、アメリカよりよほど開放的でありました。EUも一方的な制裁の規定がありますけれども、一度も発動したことがありません。そういうことで、まずEUがブロック経済化の元祖になるというおそれはないんじゃないかというふうに思います。
 ただ、中国がこの間、石広生さんという対外経済大臣がおられますけれども、自由貿易協定の担当の大臣でございますが、この対外経済大臣が私におっしゃいましたのは、必ずしも自分の意見じゃないんですけれども、他の人が次のように言っていると。それは、北米自由貿易協定があるね、EUがあるね、それでアジアでこれがある、自分がASEANとやろうとしているこれがある、したがって世界は三つの経済圏に分かれるんじゃないか、こういう意見もありますよということを言っておりましたので、中国がどういうふうに考えているかということについては、少し考えなくちゃいけないかなと思いました。
中川(正)小委員 最後に、これからの日本のこれに対する戦略を組んでいく上で、先ほどちょっと言われた、どこからやっていくのが一番メリットが高いか順番を決めていくというような作業であるとか、あるいは国内の利害調整をするという作業であるとかというようなことを考えていくと、これは総理大臣直属の通商代表機関みたいな、そういう機構をつくっていくということ。これは、先ほど通産省の話を強調されましたけれども、私は通産でもないと思うのですね。これは、通産でも利害調整はできないように思うんです、現状からいくと。だから、やはり総理大臣なんだと思うんですね。総理大臣直属の通商部をつくっていくということ、これが早急に望まれるんじゃないかなという気がしているんですけれども、その点についてはどう思われますか。
畠山参考人 これはちょっとバイアスがかかっているかもしれませんが、そういう御意見があちこちにあることは承知いたしておりますけれども、私は、屋上屋を架するものだと思います。
 通産省は、通商政策の企画立案、調整に関することというのが権限に入っております。昔は、外務省にそれがあって、外務省に通商局というのがあって、それが戦後、通産省に移ってきたためにそうなっているわけでございます。ところが、通産省自身もあるいはそうかもしれませんけれども、何となく昔の商工省みたいなニュアンスがあって、それで産業の保護もやるから、産業の保護と通商オープンというのと両立しないよなというようなことを特に外部の方が言われて、通産省は無理じゃないかということでありますが、今や工業製品で保護している品目は革を除いて全くございません。
 ですから、革だけでありますので、そこにこだわりを持つ必要は通産省にはないわけでございまして、せっかくそこに通商政策の企画立案、調整に関することという規定が入っているわけでございますから、それを一〇〇%活用するというのが私はよろしいんじゃないかというふうに思っている次第でございます。それで、もし調整に必要であれば、内閣官房なり総理大臣の御指示を仰ぐ形にしていけばいいというふうに思っております。
中川(正)小委員 ありがとうございました。
中川小委員長 次に、赤松正雄君。
赤松(正)小委員 公明党の赤松正雄でございます。
 きょうは、大変にわかりやすいお話、いろいろ聞かせていただきまして、大変に刺激を受けました。余りよくこの分野はわからない人間なんで、また初歩的なことを聞かせていただくことになるかと思いますが、よろしくお願いいたします。
 まず第一点目ですが、日本がWTO一辺倒であった、このことから生じた問題点ということで三つほど挙げられましたけれども、逆に言うと、今もブロック化の話とかあるいは無差別の精神に反するとかとありましたけれども、要するに、現状肯定の論理というか、それは、主な物の考え方というのはどういうものがあるわけですか。
畠山参考人 現状肯定の意見としましては、先ほどちょっと触れましたけれども、このWTOをかえってFTAによって推進できるんだ、FTAがあって、WTO以外にも自由化を推進する道があるんだよということを、いわば対案を示すことによって、WTOに自由化をいわば独占させないということに意味があるということが一つであります。
 それから、もう一つは、新たな領域を二国間協定の中には入れやすい。例えば、アメリカとヨルダンの自由貿易協定がこの間できましたけれども、その中には、これは私は個人的には反対なんですが、アメリカは労働と貿易という条項を入れたかったわけであります。それで、アメリカの夢はこれをWTOに入れたいわけでありますが、WTOは反対するから入らない。そこで、ヨルダンとの間で貿易と労働という規定を入れたわけでございます。そういうふうに、現状肯定派はここで実験ができる。やがて、それで判例も重ねていって、そしてWTOで議論することができるようになる、そんなようなことを言っております。
    〔小委員長退席、近藤(基)小委員長代理着席〕
赤松(正)小委員 わかりました。
 次に、この自由貿易協定の、先ほど、日本の生き方としては数をふやしていくしかないとおっしゃいましたけれども、そういう流れの中で、このアジアという、ファーイースト、極東という地域のことを考えた場合に、EUというのは余り参考にならないんじゃないのかという感じが私はいたします。
 それは、先ほどおっしゃいましたように、ヨーロッパというのは、さきの二つの大戦で、もう断じて戦うまいという強い意識が地域の隅々までに恐らくあるんだろうと思います。逆に、ではアジアに、それと反対のことがあるんだということを言うつもりはありませんが、ヨーロッパと、我々が生存しているこの極東地域の置かれた状況というのは非常に違う。
 その中で、やはり一つの大きな存在は、中国という存在だろうと思うんですね。別に中国を敵視するわけでも何でもありませんけれども、ちょっと正体がつかめない中国。まあ、日本自身が自分の自画像をつかめないという部分ともかかわってくるんだろうと思うんですけれども、その辺のことが非常に関係をしてくるんではないか。先ほどの同僚委員の質問に対して、ブロック化ということに対して、中国の物の考え方というものがあるので、ちょっと不明なところがあるというような言い方をしておりましたけれども。
 そういうことを考えていく中で、例えばこの事務局がつくっていただいた資料の中に、要するに、このASEAN、東南アジア諸国連合自由貿易地域の今の状況を考えた場合に、一九九七年の通貨危機や中国経済の台頭等の影響を受けて、構成国が域外国と個別に自由貿易協定を締結することで、AFTAの停滞、形骸化が懸念されているというところに、やはり中国の影というか影響があるというふうに読み取れるような気がするのですが、このあたり、どういうふうに中国の存在を、このアジアにおけるところの、現在着々と進んでいるAFTAの将来におけるものを楽観視しておられるか、あるいはいろいろな風波があるというふうに思っておられるのか、その辺をお聞かせ願いたいと思います。
    〔近藤(基)小委員長代理退席、小委員長着席〕
畠山参考人 委員御指摘のとおり、中国とASEANの関係については、日本として十二分に慎重な分析その他を継続していかなくちゃいかぬと思います。
 無論、中国が経済を繁栄させるということは、立派な隣国があるということでございますので、日本にとってメリットでありまして、決してデメリットではないわけでございますけれども、ただ今回、中国がASEANに呼びかけたにつきましては、中国としては、一つは、国内が過剰生産にあります。それで、あの人たちのカウントでやると、六百品目の重要品目があるそうでありますが、そのうち五百品目は生産過剰だそうであります。そこで輸出マーケットをASEANに求めた。
 自由貿易協定ができれば関税ゼロで入れるので、それがいいという側面があったわけでありますけれども、同時に、中国にだけ外国の投資が偏っちゃって、そしてASEANから若干恨まれておるのを慰撫しようじゃないかという意図もあったようでございます。
 そこで、何をやったかというと、例えばWTOで、これから熱帯産品の関税をこういう予定でしか引き下げませんよと言っているのを、このASEANの国に対しては前倒しで引き下げますよということも言ったようでありますし、それからメコン川開発でいろいろサービスをいたしますよということも言って、非常に意識的に、余り積極的でなかったASEANを誘い込んだわけであります。
 だから、それをそうやるなと言うわけにもいきませんけれども、中国がそういう行動をしているという事実は冷徹に眺めて、それを参考にしながら、日本としても対応を考えるべきではないかというふうに考えております。
赤松(正)小委員 次の質問ですけれども、先ほど提示していただいた資料を見ながらふと思ったんですけれども、この「世界主要国・地域のGDPと加盟する自由貿易協定」という三十カ国についての資料ですが、日本、中国、韓国、台湾、中国香港、これを除くほかの国々がさまざまな自由貿易協定に入っております。
 これは私、過去の二十世紀の世界がいわば東西の軍事力冷戦というかそういうものであるなら、もちろんその同じ時期に南北の問題があったわけです。二十一世紀、自由貿易協定の推進が、結局、本当の意味の南北問題の解決にならなくて、新たなる格差の拡大というか、要するに、恵まれた力のある国々を、言ってみれば、例えばエリアの中心にそういう国があるところはある意味でその恩恵を得るにしても、例えばアフリカであるとか、あるいは中近東、ここで言いますと、サウジアラビアが湾岸協力会議という自由貿易協定に入っている、あるいは、最後の南アフリカが南部アフリカ開発共同体に入っている。辛うじてこの二カ国が今私の言った地域の代表選手なんでしょうけれども、そういった地域のいわば将来というものについて、自由貿易協定はどういうふうな役割を果たすんでしょうか。
畠山参考人 これは二つありまして、一つは、それらの国と先進国との自由貿易協定であります。これは余り今ありませんで、メキシコは昔は開発途上国だったわけでありますけれども、それとアメリカが同じ自由貿易協定に入って、自来、メキシコは、経済は非常に順調に発展したという例はございますけれども、今御指摘のようなアフリカの国とかそういうのが入っている例は余りございません。
 北部アフリカ、あそこはマグレブといって、チュニジアとかモロッコとか、ああいう国々でありますが、それはEUと自由貿易協定を結んでおります。ただ、あれはアフリカの中で典型的なアフリカではありませんで、進歩したアフリカであります。だから、先進国との間のはなかなかまだ発展途上にある。
 それから、彼ら自身の、南部アフリカ開発共同体のような、UEMOAというのも別途ありますけれども、そういう自由貿易協定は幾つかありまして、やっておりますが、率直に言って、私どもの勉強不足もありますが、それほど発展しているわけではないということでございまして、委員御指摘のように、自由貿易協定があるがゆえに南北問題が解決に向かっているかと言われると、そこはどうもそうなっていないんじゃないかというふうに考えております。
中川小委員長 次に、武山百合子君。
武山小委員 自由党の武山百合子です。
 きょうは、前向きな斬新な二十一世紀の日本の土台づくりということで、憲法調査会での議論にふさわしいお話をありがとうございました。
 まず、WTO一辺倒だった日本が、軸足を、重層体制ということで、FTA、WTO補完というお話の部分でちょっとお聞きしたいと思います。
 FTAによって新分野の競争が実験できるというお話ですけれども、大変よい機会だと思うんです。
 それで、日本とシンガポールが自由貿易協定を結ぶことによって、十二兆円ぐらいの経済効果が国益としてもたらされるということを実は聞いたことがあるわけなんです。
 それから、今まで日本国民はほとんど、日本の貿易立国としての中身は物品の移動という視点だったと思うんですね。それが、このたびの協定を結ぶことによって、情報通信技術、それから科学技術、人材養成というふうに、今までなかった分野、それから観光、放送、あらゆる投資、それがオープンになる。ましてや実験できるということは、ニュービジネスも大いに深まりますし、それから、国境がないということをだんだん実感すると思うんです。
 それから、何といっても、日本はアジアの国とこういう関係を深めないと、最も重要な関係であろうと思うんです。そういう意味で、本当に一歩踏み出したという感じがいたします。
 この中で、畠山参考人が、先ほどいろいろ問題点ということで、審査体制とか、まだまだ受け身の体制だということで、今の日本の審査体制ですと、各省庁がすなわちかかわりたいという体制ですね。これを脱皮するにはどうしたらいいと思いますでしょうか。
畠山参考人 それぞれ御所管がありますので、その御所管は尊重せざるを得ませんし、したがって、各省がそれにかかわっていくのは大変結構なことだと思います。
 しかし、最終的な調整はやはり調整官庁がおって、そしてそれは、先ほどの中川先生の御質問に対してお答えしたのと同様で恐縮でありますけれども、経済産業省が調整をするということになるのが、事は経済問題がほとんどでありますので、それが適当ではないかと、私は、バイアスがかかっているかもしれませんが、そういうふうに考えている次第でございます。
武山小委員 それで、そういうことは恐らく、みんなお話を聞けばわかっていると思うんです。わかっていて、なぜ日本の体制はそういう方向にいかないと思いますか。
畠山参考人 それは、いろいろな要素があると思いますけれども、やはり、過去からの慣行といいますか、惰性と申しますか、そういうものがありまして、ちょっと言いにくいですけれども、日本だけは外務省が出てくるということがあるものですから。
 念のため申し上げますと、外務省と経済省みたいなのが一体になっているところもあるんですね。そういうところは、外務省が出ると言うべきか、経済省が出ると言うべきか知りませんけれども、そういうところは出ていますが、それ以外のところはみんな貿易省が出ているわけです。それが日本では、慣行もあるものですから、経済省が取りまとめるといっても、よほど官邸の指示がない限り、物事がそういうふうに運ばないということが実態であろうと思います。
武山小委員 そうしますと、官邸の指示が一番大事だということでしょうか。そうなりますと、総理大臣のリーダーシップということになりますでしょうか。
畠山参考人 直接お答えせずに、一つだけ例を申し上げますと、経済産業省は、新たな設置法で、経済構造改革に関することというのが入っております。そうなります前に、橋本龍太郎総理のときでありますけれども、当時の通産省に経済構造改革をまとめろという指示がありまして、それで、各省は、どうして通産省なんだよということを、御不満を言われたようでありますけれども、私が現役を去ってからでありますが、通産省が構造改革をまとめたことがございます。だから、総理からそういう御指示があれば、ある程度やれるんじゃないかなというふうに思います。
武山小委員 それから、日本は本当にコンセンサス社会で、提案が難しいということで、今まさに構造改革を早急に、まず国民の意識の改革からスタートしまして、あらゆる構造改革を進めていかなければいけないんですけれども、なぜ遅々として進まないと思いますか。
畠山参考人 構造改革は、私の個人的な見方ですけれども、その主要部分は規制改革であるべきだと思います。
 ところが、規制改革といっても、規制は一万件もあるわけですから、それを一個一個ヒアリングしてどれをやろうかなんて言っているんじゃ、なかなか進まないわけであります。規制改革のうちで何が一番重要かというと、私の個人的な考えですが、その規制を撤廃すれば差し引き仕事がふえる、ジョブがふえる、そういう規制を撤廃することでございます。
 例で申し上げれば、例えば、九四年のことでございましたけれども、それまで携帯電話の買い切り制というのは許されていなかったわけです。規制があって、レンタル制しか許されなかったわけです。そのときは、携帯電話の普及が遅々として進まなかったのが、あそこで買い切り制を導入したことによって、あれだけの携帯電話ブームになったわけでございます。それでどれだけ雇用が生まれたか、はかり知れないわけでございます。
 それから、これもたまたま九四年でございますが、地ビールです。地ビールの生産がそれまでは禁止されておりました。それを解禁いたしました。そして、全国津々浦々に地ビールの醸造工場ができ、そして、それを使うレストランの花が咲いたわけでございます。
 だから、そういうふうに、規制改革をやる人材もエネルギーも限られておりますので、規制改革のうち、コンセントレートして、特定のところに集中して、そしてその規制を撤廃すれば仕事が生まれる、そういう規制に集中して規制改革を推進していただけば、もう少し進むんじゃないかなと思います。
武山小委員 国内の方の構造改革ということでは規制緩和ということですけれども、FTAによって新分野の競争をする意味でも、それは結局、例えば今シンガポールと日本の間ですぐわっといってスタートできない状態だと思うんです。それは、国内の規制があって、まずその規制を緩和しないことにはいけないと思うんですね。ですから、国内の規制と同時に、外国に対しての規制も取り外していかなきゃいけないんじゃないかと思うんですけれども、そこはどうでしょうか。
畠山参考人 おっしゃるとおりでございまして、シンガポールの場合、例えば人の移動の問題がございますけれども、今度のシンガポールとの協定で人の移動について進展が見られました。今までは、同じ会社の中の人は向こうからこっちへ来るのは比較的自由にビザを出してあげるよということでしたけれども、同じ会社じゃなくて、契約関係でこっちへ来る人は厳重なビザ審査がございました。それを厳重なビザ審査なしに入れるということになりました。それは法務省当局と話をつけてそういうことになったようでございまして、そういうことによって、今おっしゃった対外的な規制も緩和していくということが進んでいると思います。
武山小委員 もう一つ、最後になりますけれども、先ほど、農産物の品目の問題でしたけれども、あるものをきちっと守って、あとは小出しにカードを出さないで、そこの部分をきちっとした方がいいということで、私もそう思っておりますけれども、そのある部分というのを差し支えありませんでしたらお答えいただきたいと思います。
畠山参考人 我が国の食糧安全保障上不可欠な品目であろうと思いますので、例えて申し上げれば、お米のようなものであろうと思います。
武山小委員 一つだけでしょうか。幾つかありましたら、ぜひお答えいただきたいと思います。
畠山参考人 ちょっと、私も、農産物、余り詳しくありませんけれども、関税率の高さその他から考えますと、ある程度の酪農品でありますとか、ある程度の肉類でございますとか、そういうものもやはり守る必要があるのかなというふうに思いますが、余りはっきりこれと申し上げる自信がございませんので、差し控えさせていただきたいと思います。
武山小委員 どうもありがとうございます。
 そうしますと、FTAそしてWTOと重層体制でこれからスタートしていきましたら、日本は規制緩和を徹底してやることによって非常にまた明るい見通しが立つというお話のようですけれども、しかし、韓国、中国、香港、台湾と、一番重要な近くて遠い国、私自身は近くて近い国にぜひなっていただきたいと思いますけれども、新分野で人の交流というのを非常に私たちは期待しておりますけれども、近いうちになりますでしょうか。
畠山参考人 韓国の場合は、この間、投資協定に調印が行われました。ですから、投資に必要な人材を行き来させるということはできるんじゃないかと思います。
 中国については、ちょっと古いタイプの投資協定でございますけれども、投資協定が結ばれております。だから、いきなり中国と自由貿易協定自身を結ぶのは難しいと思いますけれども、そういった周辺から攻めていって、近くて近い国にできればよろしいのじゃないかと思います。
中川小委員長 武山君、時間が過ぎております。
武山小委員 どうもありがとうございました。
中川小委員長 次に、山口富男君。
山口(富)小委員 日本共産党の山口富男です。
 世界経済の問題で、貿易の発展ですとか自由協定の広がりという問題を考えるときに、それは日本の現状と進路に対する考え方と非常にかかわりを持つと思うのです。私たちは、経済主権の明確な自覚と平等互恵の精神で、お互いの経済の実態に即してさまざまな協定についても考えていくことが大事だというふうに思うのですね。
 それで、今、世界政治の場では、グローバル化と言われる問題が広がっているもとで、それは資本主義の当然の発展の方向ですけれども、各国経済の基盤をどうやって守るのかという問題ですとか、それから多国籍企業や一部の国際的な金融資本のかなり身勝手な活動についての規制の問題というのが、国連の諸機関含めて一つの問題になってきているというふうに思うのです。
 それで、私、ちょっと実態論的な話をお聞きしたいんですけれども、自由貿易協定の広がりなどの中で、各国の経済主権ですとか、その協定自体が互いの国の経済的な基盤を壊さないというような問題は、どういうふうに支えとしてなっているのか、ちょっと実態的な話なんですが、お尋ねしたいと思います。
畠山参考人 お答え申し上げます。
 今の直接のお答えになるかどうかあれですが、自由貿易協定を結びますとお互いの間の関税それから非関税障壁がなくなります。そうしますと、今おっしゃったところの、経済基盤が壊れるんじゃないかという懸念が生ずるわけでございます。
 そうすると、どういうふうにしているかというと、大体の場合はセーフガード規定をその中に置くわけであります。そして、輸入が急増したときは、自由貿易協定なかりせばこういう関税率であったろうにという率までは戻せるよ、関税をゼロにしたばかりに輸入が急増した、あるいは輸入障壁を撤廃したために輸入が急増した、したがって、輸入障壁を撤廃しなければ、従来の関税であればそんなに急増しなかったはずなんだから、そこへ戻そうという加盟国間でのセーフガードの規定というのが大体置かれることになっておりまして、NAFTAなんかでもそういう対処をいたしております。
山口(富)小委員 きょうのお話の中で随分メキシコが登場したんですけれども、二月に世界社会フォーラムという例のダボス会議に対抗する形でのNGOの集まりがありました。あのホームページを見ますと、メキシコの代表が、確かに協定によってメキシコ自身の経済成長率というのはそれなりに上がったようなんですけれども、一方で、中小業者が六割方、アメリカの産品の輸入によって破綻していくという局面があらわれているという報告書をどうも出しているようなんですけれども、実態としてメキシコなどでもやはりそういう問題が生まれているんですか。
畠山参考人 確かに、一部の中小企業が苦しいことになっておるということは時々聞く話でございます。ただ、これは本当にNAFTAのためにそうなっておるのか、あるいはWTOに基づく自由化のためにそうなっておるのか、あるいはWTOまではいかないまでも、普通の経済政策の結果そうなっておるのか、そこの程度といいますか、それを、どれが、どれだけ、どうなっているということを確定するのはなかなか難しいのではないかというふうに思っております。
山口(富)小委員 そうなりますと、いわゆる構造調整という問題も、各国ごとに具体的に見ていかないと、一般的に、これによって構造改革が進むとか規制改革の方向でいいということにはならないと思うのですよ。日本の場合ですと、米の輸入自由化の問題ですとか大型店舗の進出の問題ですとか、いろいろな問題が現に生まれておりますからね。
 さて、もう一つお尋ねしたいんですけれども、小泉首相が東南アジア五カ国を訪ねて、シンガポールと自由協定を調印いたしました。そのとき、タイのネーションという新聞が論評した中で、こういう論評があったんです。今度の日本とシンガポールの協定というのはかなり包括的なんですね。先ほど、五つの定義づけをなさいましたけれども、その一番目と二番目がかなり合体したようなものなんですけれども、そういう包括的なものだけに、タイの政府高官の話ということで、マレーシアは発展の格差を心配しているので、日本との自由貿易協定という考えに強く反対しているという論評が出ていたんです。
 先ほど、ミャンマーの話があって、確かに経済的な差が大きいんだというお話がありました。ASEANという国は、社会体制の点でも経済の発展の点でも、それから宗教上の問題を含めて非常に多様な地域なんですけれども、WTOがAFTAを認めたときに、発展途上国の協定として認めたという授権条項というものの適用をやっているようですね。こういうASEAN諸国の中で、日本の政府が提案しているような方向に対して、実態としてはどうなんですか、さまざまな意見がやはり出ているんですか。
畠山参考人 さまざまな意見が出ております。特に、この間の研究会で赤裸々に出ましたのは、日本の農林水産省の方が、農水産物をこの対象に置くのは非常に難しい、それで、せめてシンガポールとやったぐらいの程度しかできないということをおっしゃったわけです。
 ちなみに、シンガポールとどういうぐあいであったかというと、シンガポールの農水産物の対象品目は、既にWTOで関税を完全にゼロにしちゃっている農水産物の品目は入れましょう、それから、WTOではゼロにすると約束はしていないが、しかし事実上ゼロの品目、これをシンガポールとの間ではゼロにすると約束しましょう、これは新たな進歩ですけれども、その二種類の農産物を入れましょう、それ以外は入れませんという話で決着したわけでございます。
 それをベースになら考えられるけれども、それ以上はやれないと言いましたところ、ミャンマー、マレーシア、タイ、そういうところから非常な反発がありまして、農産物を対象にしない自由貿易協定は意味がないということを口々に言われたということが一つございました。
 それから、マレーシアの場合でございますが、マレーシアは自由貿易協定一般に非常に否定的な態度でございます。AFTAの中でも辛うじて入っているような感じでございまして、なぜ否定的かといいますと、一つ、マレーシアにはこういう問題があるわけでございます。ブミプトラ政策でございます。
 ブミプトラ政策というのは、本来のマレー人は本来でないマレー人よりも地位を高く置くという政策でございます。だから、例えば自由貿易協定を包括的なものを結びますと、さっきの投資協定のようなものも含まれまして、投資協定の中核は内国民待遇でございますから、外国の企業に内国企業と同じ待遇を与えなくちゃいけないわけでございますけれども、その際に、内国企業と同じ待遇というのはどっちの企業の待遇なんだよ、ブミプトラの待遇なのか、そうでないマレーシア企業の待遇なのか、そういう問題に逢着するわけでございます。
 私は、個人的には、このブミプトラ政策なる、自分の国の国民の一部を待遇上他の国民の上に置く、それがおかしいんだと思っております。
山口(富)小委員 EUの場合は四十数年かけてここまで来ておりますから、今参考人がおっしゃったような、各国の実情に応じた協議というのは本当に大事になると思うんですね。
 それで、先ほどレジュメの中では、自由貿易協定のFTAとWTOの関係が、補完と重層体制ということが書かれていて、お話では余り具体的な話はなかったように思うんですが、WTOそのものは、シアトルの会議に見られますように、かなり各国ごとの協調というのが一つの壁に突き当たっていますね。今度ドーハの会合を経て新しい協議が始まるようですけれども、それにしても、なかなか難しさを抱えたまま動くと思うんです。そうしますと、このFTAの広がりが果たしてWTOと補完の体制、重層体制として見ていいものかどうか、それは私はなかなか吟味が必要な問題じゃないかと思うんですが、最後にこの点、簡単にお願いいたします。
畠山参考人 WTOはおかげさまで、ドーハの会議の大成功によりまして、これは平沼経済大臣の大変な努力もあったように承っておりますけれども、その努力のおかげで大成功でございました。
 それで、世評、いろいろなものの継ぎ合わせじゃないかとか言われていますけれども、あの中で、香港のハービンソンという方の書いたペーパーが出色のできでございまして、それに基づいてその後の議論が行われておりますから、WTOはどっこい生きているという感じでございまして、FTAだけがこれからプリベールしていくということには必ずしもならないと思いますので、あくまでもFTAで補完という体制でいくんじゃないかと思っております。
山口(富)小委員 ありがとうございました。
中川小委員長 金子哲夫君。
金子(哲)小委員 社会民主党・市民連合の金子でございます。
 きょうのお話は、私にとっては新しい話なものですから、幾つか疑問な点についてお伺いをしたいと思います。
 最初に、シンガポールの問題、きょう事務局からいただいた資料の中にも、シンガポールとの新しい協定の中で、意義として、関税の問題で貿易の自由化ということもありますけれども、こういうことが進んでいけば、人の移動とか人の交流とかがふえてくるというふうに思うんです。日本の場合に、日本に居住する人たち、外国人もふえてくるということに向かっていくんじゃないかというふうに思うんですけれども、その辺で、全然角度が違うんですけれども、いわば日本の国内における外国人の人権とかの問題に対して、今そういう自由貿易協定などの進みぐあいと日本における外国人に対する人権保護といいますか、そういった問題についてまだ改善すべき点とかがあれば、または今問題意識をお持ちの点があれば示唆いただきたいと思います。
畠山参考人 せっかくの憲法調査会でございますので、若干憲法に触れることを申し上げますと、憲法の規定の中で「何人も」と書いてある規定、これは国民とか国民じゃない人とか外国人とかいうことに限らず、何人もというふうに解されるし、それから、別途「国民は」という規定もある。「何人も」と書いてあるのは基本的な人権のところが多うございますが、必ずしも基本的な人権すべてについて「何人も」と書いてあるわけではなくて、「国民は」と書いてある例もあるということで、今委員御指摘のように、事基本的人権、あるいは日本にある程度居住する人に対しては、そういう一定の要件に該当する人は、外国人であってもしかるべき待遇を与えるという観点から憲法が十分に配慮して書かれているかどうかということについては、個人的には若干疑問を持っております。
 だから、そういうことについて、社会保障の制度、教育、それから医療、そういったところで外国人に対する十分の保護が行われているかどうかよくチェックをするべきだなと思っております。
金子(哲)小委員 次に、ちょうどシンガポールの協定が国会でも俎上に上るということがあるのでちょっとお伺いしたいんですけれども、参考人のお話では、自由貿易協定から関税協定、共同市場とかずっとあるということですけれども、今回の中身でいえば、資本の移動とかそういったこともある程度含まれているように思うんです。自由貿易協定が進んでいくことによって、例えばシンガポールの場合でも、いわば今産業の空洞化ということが言われて、外国への資本進出ということが言われておりますけれども、さらに促進するというような懸念は一体、生産品ではいいんだけれども、そういう資本の進出ということによる空洞化というようなことの心配といいますか、そういったことはどのようにお考えでしょうか。
畠山参考人 これは、自由貿易協定をつくろうとつくるまいと、遅かれ早かれ、ある程度日本の中でやっていけない産業は出ていくし、日本でやっていけない産業は外国から入ってこないしということになると思います。
 ですから、それはいわばギブンとして、要するに日本で効率の悪い産業は外へ行くんだ、それで効率のいい産業を日本で育てるんだということでやっていかないと、何か経済原則に反して、非効率的な企業を温存しようというむだな努力をすることになるんじゃないかというふうに思います。
金子(哲)小委員 全体として確かにおっしゃるとおりで、資本はより効率性を求めて進出していくということになりますけれども、しかし、現実には、そのことによって、国内における今の雇用の問題とか深刻な問題もあるわけでして、そうしますと、そういった保護というか、そういう雇用の場から見ると、それに対してどのような政策をつくっていくかというのは極めて重要になるんじゃないかなというふうに実は思いますので、そのことをかなり重視しなければいけないのではないかというふうに私は考えております。
 それで、実は私も、こんな不勉強だったものですから、例えば今のシンガポールの中に、サービスの貿易の自由化ということで、その対象の中に、シンガポール側が新規に自由化を約束した分野ということで産業廃棄物処理というのが出ていて、今ちょっとびっくりしているんです。こういうことはシンガポールの側が受け入れるということの約束だと思いますけれども、産業廃棄物とかが処理が自由化になったからといって、どんどん行くということに対しては、ちょっとどうだろうか。日本として、本来、やはり自国で処理すべきではないかというふうに思うんですけれども、その辺はちょっと違和感を持つ中身になるんですけれども、その点について何かお考えがあれば。
畠山参考人 そこは、産業廃棄物処理のサービスの貿易を自由化するわけでございまして、産業廃棄物を輸出するわけではないわけでございます。
 産業廃棄物の輸出は、バーゼル条約がございまして、禁じられております。したがいまして、産業廃棄物は輸出しませんが、向こうに存在する産業廃棄物を、こちらから企業が行きまして、適正に処理をするというサービスを自由化するということでございます。
金子(哲)小委員 どうもありがとうございました。
 それと私は、例えば、国家の安全保障の問題とかそういったことが今いろいろ論じられておりますけれども、自由貿易協定や地域経済統合といいますか、EUもそうなんですけれども、そのことは安全保障上から考えると非常に重要な柱ではないか。軍事的な側面での安全保障よりも、そういう経済間の交流をより強めていくことは、両国間の信頼と、実質上、経済的に交流することによって安全保障上も有利になるのではないかと思うんです。
 その点でいきますと、先ほどの資料を見ても、まさに北東アジアに所属する国々が実はそのことが進んでいないということが、きょうお示しいただいた資料でも、韓国、日本、中国ということだ思うんですけれども、その意味では、先ほど参考人のお話では、中国もなかなか難しいというお話がありましたけれども、まさに安全保障的な考え方からいっても、韓国とか中国とかそういうところとの、一気にはいかないにしても、自由貿易協定の関係、経済交流の関係を強めていくというのは、安全保障の政策的な面からも非常に重要だというふうに考えるんですけれども、その点について、参考人の御意見を伺いたいと思います。
畠山参考人 御指摘のとおり、安全保障上も自由貿易協定を結んでいくと有益な副次効果が生まれるということは事実だと思います。ただ、安全保障上の利益が生まれるから、経済実体上はなかなか合意ができないんだけれども、無理して自由貿易協定をつくろうというわけには無論いかないわけでございまして、うまくできれば、副次的効果として安全保障上もうまくいくということであろうかと思います。
 韓国のお話が出ましたけれども、韓国とは、先ほど御説明申し上げましたように、ようやく小泉・金大中両首脳の合意がございまして、共同研究会が始まるわけでございますので、そう遠くない将来に自由貿易協定の関係に入れるのではないか、そうすると副次効果として安全保障上もいい効果も生まれるんじゃないかと期待いたしております。
金子(哲)小委員 もう時間がないようですので、先ほどもお話が出ましたように、日本の場合は、農産物との関係が非常に重要な問題になってくると思うんです。食料の側からの安全保障ということも考えてみても、先ほどの質問でも、幾つかの品目をということで、なかなか難しいお答えということだったと思いますけれども、私も、しかしそのことを抜きにして、例えばシンガポールの場合は、割合、日本と同じような工業生産国的な同質なものをある種持っているところが、農産物商品よりも貿易面においてはそっちが高かったと思うんですけれども、これからアジアの国の中で結ぼうとすれば農産物問題が非常に重要になってくると思うので、やはり避けて通れないのではないかというふうに思っているという意見だけ申し上げて、終わりにしたいと思います。
 ありがとうございました。
中川小委員長 西川太一郎君。
西川(太)小委員 さきに発言をされました皆様とダブる部分があって、まことに恐縮でございますけれども、お答えの方で割愛していただいても結構でございます。
 私も、きょう畠山さんから伺った話の中で、中国が十年以内にASEANと自由協定を結ぶという新聞報道にちょっと大げさに言えば衝撃を受けたのであります。EUがECからスタートしてユーロを発行するまでになった。また、南北アメリカでも強大な経済圏をつくる動きがある。ヨーロッパ、アメリカ、アジアの三大経済圏ができ上がると、これは昔で言うブロック経済の再来のようなことを感じるのでありますけれども、それはちょっとわきへ置いておいて、日本が孤立するという感じを率直に言って持つんですね。
 特に、景気が悪い昨今でありますから、余計そういう気持ちが強くなるんですけれども、もう既にその点についても皆さんお触れになっていますけれども、もう少し何か追加されることがあれば伺いたいと思います。
畠山参考人 西川委員御指摘のとおり、このまま下手をしますと、日本が国際的に孤立をすることになると思います。特に、中国がASEANと、十年以内でありますから、何も十年後にということじゃありませんので、この協定がすっと結ばれるというようなことが仮にあるとして、そしてアメリカが、シンガポールの後、ASEANと結ぼうというような動きに出ると、これは私の個人的な観測ですが、そういうことがあるとすると、日本だけが農産物問題のゆえにASEANと結べないことになるわけでございます。
 それで、ASEANは、先ほど申し上げたように、この間の研究会でも、農産物を対象としない自由貿易協定なんか何のメリットもないと言っているわけでございまして、これは、立場を変えて言えば、日本に自由貿易協定を結ぼうと言ってくる国が、日本に対して、工業製品を対象としないでくれということを言うのと同じような話でございまして、だから、農産物がゆえに日本が孤立することがないようにということは、ちょっと大げさな言葉で恐縮でございますけれども、ひしひしと感じるわけでございます。
西川(太)小委員 またこれは同じような話ですけれども、先ほどロベール・シューマンのお話もありました。農業国フランスと工業国西ドイツの結婚というふうに、当時、EUの始まりのECについてはそんな表現がございましたよね。日本が経済圏を仮につくるとして、農業を含めたそういうちょっと元気のない産業の、これを産業調整という言葉を使っていいんでしょうか、そういう痛みを伴う作業というものをやらないと、なかなか自由貿易協定、孤立化から抜け出すということも難しいのかな、そんなふうに先ほど来お話を伺っていて思っているわけでありますけれども、ずばり、きょうはお立場があってなかなかおっしゃりにくいかもしれませんけれども、農業問題については、やはりそういう覚悟をしなきゃいけないんでしょうか。
畠山参考人 委員の御指摘のとおりだと私は個人的に考えます。
 それで、各委員御案内のとおり、農業問題が弱いということで苦しんでいるのは、何もひとり日本だけではございません。各国も、多かれ少なかれ、そういうことで苦しんではおられるわけでございます。
 その中にあって、例えばカナダでございますけれども、北米自由貿易協定を結びますときに、最後までこれに反対したカナダの一つの産業がございました。それはカナダのワイン産業でございます。カナダのワインというのは、ああいう寒冷地でございますから、ろくなブドウも育たなくて、競争力がない、品質の悪い、ジュースみたいなワインができていたわけでございます。それで最後まで反対をいたしました。しかし、その反対の声を聞かずに、指導者は北米自由貿易協定、NAFTAを強行したわけでございます。
 そうしましたら、このカナダのワイン産業の方々はヨーロッパに専門家を派遣いたしまして、そしてヨーロッパの良好なブドウのうち、ああいう寒冷地で育つものを発見いたしまして、それを育てることに成功いたしました。そして、今日は隆々たるカナダのワイン産業となって、そしてあそこのアイスワインなどというのは非常に優秀な食後酒として人気を博しているわけでございます。
 ですから、私、農業問題、専門家じゃ全くございませんので恐縮でございますけれども、日本の農業だけがカナダの農業のまねもできないということではないのではないかというふうに個人的には思っております。
西川(太)小委員 最後にお尋ねしますが、先ほど、これもずっと出ておりますシンガポールとの経済連携協定でございます。これは、自由貿易のほかに、細かいことを言うと、私もちょっとこの間パレードに参加したんですけれども、銀座通りとオーチャード通りの姉妹関係とか、それ以外にIT協力それから投資促進、人材交流、こういう幅広い内容を持っている。先ほど安全保障にまで、また文化の一体化にまで触れるようなお話もございましたけれども、日本も、これからそういう経済連携協定というようなものを、候補に挙がっておりますメキシコとかいろいろなところと結ぶ際には、単なる自由貿易の問題だけじゃなくて、幅広い連携が必要だと私は思いますが、この点についての参考人の御意見を承って、質問を終わりたいと思います。
畠山参考人 最後の点につきましては、全く委員御指摘のとおりだと私は思います。
西川(太)小委員 終わります。
中川小委員長 平井卓也君。
平井小委員 自由民主党の平井です。
 ずっと委員の方々と先生のお話を聞いていて、先ほど、FTAの問題を進めれば、副次的に安全保障の問題につながるということをおっしゃっておりましたけれども、国際社会における日本の位置づけ論的に言えば、これは明らかに、FTAは国家の安全保障の枠組み、つまり経済安全保障というもので重要な一つの課題であるというふうに位置づけられると思うんですが、いかがでしょうか。
畠山参考人 確かにそういう側面はあると思うんでございますし、経済の関係がよくなればお互いに戦いもなくなってくるということがあると思うんでございますけれども、ただ、余り安全保障の論理と経済の論理とが一緒くたになりますと、経済の分野での経済原則が透徹しにくくなるという側面がありますので、余り両者を一体化して考えるのはいかがなものかなと思っております。
平井小委員 そこで私思うんですけれども、今のお話、やはり畠山さんは経済産業省出身ということで、今の日本の外交というのは、外務省とそれ以外の省庁の役割分担というものが明確じゃないと思います。というのは、これは私のふだんから思っていることですが、日本国憲法はどうしても日米安全保障条約とセットになっている、そう思わない方もいらっしゃるかもわかりませんが、なっている。
 本音と建前をいろいろ使い分けている中で、国際政治の二重構造といいますか、グローバルガバナンスとパワーポリティックス、そういうふうに分けて考えて、例えば外務省が本来やるべき外交というのは、日米同盟路線の延長線上で考える。どうも最近のアメリカを見ていると、議定書から離脱であったり、今、軍事力の方が明らかに環境よりも優先させるというようなパワーポリティックスでやっている。そこに対峙するのが日本の場合は外務省で、もう一つのグローバルガバナンスというのは、つまり、憲法の前文に書かれているもしくは国際社会における日本の位置づけ論的に考える外交というのを、経済産業省を中心とするそれ以外の省庁が担当するというふうに分けると、実はわかりやすいのかなと思うんですが、いかがですか。
畠山参考人 平井委員がそのグローバルガバナンスというお言葉の中でどういうことをイメージしておられるのか、必ずしも私としてはよく理解できたかどうかわかりませんけれども、そういうお分けになり方も一つの分け方かなというふうに考えます。
平井小委員 私が今グローバルガバナンスというふうに思ったのは、地球の環境問題であったり、貧困であったり、エネルギーとか食料であったり、感染症だったり、水資源の問題だったり、そういう観点でお話をさせていただいたんですが。
畠山参考人 わかりました。そういうことであれば全くそのとおりだと思いますが、他方、先ほど、日本は外務省が出てきて困ると率直に申し上げましたけれども、しかし全体の方向については、外務省としては本件はこう考えるんだとかいう立場は、経済問題であっても大いに表明してもらったらいいんじゃないかと思います。
 個々の交渉に出てきてくれという話じゃありませんけれども、これは推進してほしいとか推進してほしくないとか、そういうところは大いに意見を明らかにしてもらった方がありがたいというふうに思います。
平井小委員 本当に私自身は、明らかにFTAは軍事力のコストを下げる、結果ですよ、そういうふうに思っていますので、ある意味では、非常にこれから日本が取り組む上で大切な一つのプロジェクトではないかなというふうに思うんです。
 そこで、先ほどFTAの優先順位、国として独自外交を考えた場合に、優先順位というのは普通はあるはずなんです。ところが、今はそれがないというか、受け身で進めるというようなお話をされましたけれども、実はそれは日本としては非常に情けないことで、私自身はやはり韓国を最優先にすべきだと思います。
 ことしはワールドカップも共同で開催するわけですし、対中国のこと、対アメリカのこと、このパワーポリティックスを視野に入れつつ考えた場合に、韓国には農業等いろいろ問題があるにしても、これを最優先順位にすればいいと私自身は思っているんですが、いかがですか。
畠山参考人 一般論として、受け身であるのは望ましくない、普通は優先順位があるべきであるという御指摘は、委員御指摘のとおりだと思います。
 他方、韓国が優先するからほかのことを待てということが言えるほど日本が置かれている環境は、言葉が悪くて恐縮でございますが、余裕がないのではないかと思います。それで、言ってきてくれるところ、熱心なところ、そことまず先にやって、そうすればやがて韓国側にも焦りも出てきて乗ってくれるということもあろうかと思いますので、韓国を優先するという点にかけては賛成でございますけれども、ただ、それがゆえにほかのは待てということになるとすると、ちょっといかがでしょうかというふうに思います。
平井小委員 よくわかりました。残念ながら、アメリカとかヨーロッパと比べて、日本に対する、要するに好きか嫌いかということでいいますと、韓国と中国、特に若い人を含めて日本は嫌いという人が圧倒的に高い数字なわけです。ですから、そういう状況の中で進めていくというのは、世論を背景に条約を結ぶということを考えると非常に障害が大きいと思うので、ことしは特にワールドカップもあるし、私はぜひ、これで進まなければ本当に進むチャンスがないなというふうに個人的に思っています。
 それと、ちょっと話はかわりますが、これはよく知らないんですが、知財、知的所有権というもの、特許だけに限らず、例えば著作権の問題等、これは各国の状況は違うとは思うんですが、知的所有権というものはFTAの中においてどのくらいの位置づけにあるんでしょうか。一般論で結構です。
畠山参考人 FTAの中で知財がどういうことかということでございますが、非常に重要でございます。
 それで、今度もシンガポールとの協定の中で知財に触れまして、日本へ申請したらシンガポールへも申請したこととみなす、全面的にそうではありませんけれども、一部そういう規定が入っております。
 今、特に中国の問題なんかも考えますと、知財を守るということが非常に日本の国益に重要なことでございますので、今後とも、日本の結びます自由貿易協定の中には、知財を守るという観点を十二分に入れていくということが必要であろうと思います。WTOの知財の守り方では十分でないので、FTAで、WTOプラスアルファというものを知財の規定の中に入れていくということが望ましいと思います。
平井小委員 その知財のことなんですが、アメリカは、特に著作権であるとかそういうものに関して国のソフトパワーとして今まで戦略的な位置づけで取り組んでいた国。また、全く無防備な国というか、そこに考えが及ばない国もあると思うのです。
 そういう中で、今、日本がどのように、これははっきり言って、これからいろいろな産業育成の面においても、例えば著作権の問題なんかは、裁量によってある分野を伸ばしたり淘汰したり、そんなふうになると思うんですが、非常にデリケートな問題だと思うんですけれども、二国間とか多国間のケースにおいて、それは事情の違う中で、どのようなテーマを取り上げられるか、具体的に一番問題になる点は何かということをお聞きしたいのです。
畠山参考人 幾つか問題があると思いますけれども、例えばアメリカで申し上げますと、先願主義ではなくて先発明主義ということをアメリカだけがとっておりまして、フィリピンもそうでしたけれども、フィリピンは改めたのに、アメリカだけ制度が統一されておりません。
 それから、御存じのとおりサブマリン特許というものがございまして、ある日突然地上に浮上してきて特許権を主張するというようなケースもあります。ああいったことを力強く交渉で解決していかなければいけませんし、WTOの中でとか、WIPOの中でとか、そういうことでやっていかなくちゃいけないと思います。
 それから、著作権と特許権の境界の問題も、今までは著作権でコンピューターのソフトとかそういうものを守ってきましたけれども、アメリカは特許で守ったりもするものですから、そこでおくれをとることがないように、しかるべき措置をしたらいいのじゃないかと思います。
 いずれにしましても、総理のところに知財の特別委員会のようなものが置かれて鋭意検討が進みつつあるようでございますので、その前向きな結論を期待したいと思っております。
平井小委員 どうもありがとうございました。
中川小委員長 山田敏雅君。
山田(敏)小委員 民主党の山田敏雅でございます。きょうはどうもありがとうございます。
 質問をさせていただく前に、私も通産省でございまして、経験したことをちょっと御披露させていただきます。
 ジュネーブの国連代表部の大使館に出向して国際条約を結びに行ったことがございます。国際商品の取引に関する条約です。外務省が常に一緒に行くということでやったのですけれども、外務省は、業界がどうだとか商品の知識がどうだとか、それでどういう判断をすればいいというものはないわけですけれども、必ず外務省を通して何かをする。会議の報告を必ず大使なり公使を通して東京に打電をする。こういうことを毎日やっていたのですけれども、では何のために外務省があるのか。唯一私の体験で、英語がよくできるから私のそばにいるのかなと。では、通訳を雇った方がよっぽど簡単に仕事が運ぶということもございました。詳しいことは、時間がございませんので。
 先ほどおっしゃった、こういう問題については、外務省を外してやった方がはるかに仕事の効率も、そして正しい判断もできると思いました。そのとき、私が一つ気になったのは、例えば、毎晩、公使、大使に、この打電をします、こういう内容ですということを許可をもらうわけですけれども、そのときおっしゃることは、アメリカはどう言っているのだ、アメリカの意見はどうなんだとか、例えばそれをもっと慎重にやったらどうかということをよく言われたのですけれども、非常にそれは正しい判断を、外務省の意見によってバイアスをされるということを私は感じました。
 さて、きょうのFTAなんですけれども、私はずっと大変否定的でございまして、きょうのお話を聞いても大変否定的になりました。
 一つは、今回のシンガポールを見たらよくわかるんですけれども、日本は農業政策をずっと失政を行って、国際競争力が全くないというか、米に関しては、日本人が一万円で買っているお米は国際的には千円のお米である、十倍のものを今やっているわけです。その中で、こういうFTAをどんどん進めていくということは非常に構造的に無理がある。例えばシンガポールの今回のケースは、メリットもデメリットも余りないというか、ほとんどないからできたという面があるのではないかと思います。
 詳しいことはこの十八ページに載っていますけれども、日本が新たに関税を撤廃したということで、例えば繊維製品というのがあるんですけれども、実態上はシンガポールと日本の繊維製品の輸入はほとんどない。要するに、こういうことをやっても日本にとっても余りメリットもデメリットもないことはやっとできた。では次にメキシコ、韓国はどうなのか、あるいはASEANについてはどうなのかというと、非常に難しい。難しいというか、ほとんどできないんではないかと思います。これが第一点でございます。
 もう一点は、私ども、経済産業委員会で、国内の産業政策、今、非常に日本の産業は苦しい状況に置かれています。その中でも特に苦しいのが、国内の空洞化によって、中国からの非常に破壊的な輸入によって、日本の製造業で離職される方が非常に多い。例えば、今タオルになっておりますけれども、今治のタオル産業ですが、四割の方が既に離職をされた。要するに、日本人が製造業で働く場所がなくなってきた。無制限、無秩序にやってきたこと、これが日本の今の状況をあらわしていると思うのですね。
 ちょっと話が長くなりますので、まずシンガポールの、私の今の見方はそういう見方でございますけれども、参考人の御意見はいかがでございましょうか。
畠山参考人 シンガポールは余りメリットがないとおっしゃいましたけれども、ある程度のメリットはあると思います。例えば石油化学製品でございます。
 御存じのとおり、シンガポールは石油化学製品に強いわけでございます。日本は、石油化学製品はやや関税で保護をしてまいりました。これが若干もめましたけれども、最後は踏み切って、関税ゼロにいたしました。だから、これによって、シンガポール側は石油化学製品の輸出というメリットを受けますし、それから、日本側もそれによって刺激を受けて少し強くなっていくんじゃないかというメリットがあると思います。
山田(敏)小委員 ありがとうございます。
 第二の点なんですが、今、日本が喫緊の課題というか、非常に重要な転換期を迎えていると思うんですが、御存じのように、今まで日本は輸出超過でずっと来ているわけですけれども、ここ最近、それが全く逆になって、輸入超過になっている。国の構造そのものが根本的に百八十度違ってきた。
 このときに、私も通産省におったときにやった交渉事なんですけれども、アメリカは、繊維にしても自動車にしても鉄鋼にしても、自国の労働者なり産業を守る最低限のルールと合理的な根拠を持ってやった。今の日本は、今言いましたように、百八十度、日本の構造自体が変わっているにもかかわらず、今までと同じようにどんどん輸入をしましょうという政策を転換できないでいる。
 ここで、FTAを進めていくというよりは、むしろ、今お話しありましたように、日本はもう既に孤立しているわけですね。これから孤立がなくなるという方向も、私は余り見えてこないんですけれども、そうであれば、かえって世界の経済のブロック化に日本が反対して、ブロック化のいろいろ弊害を日本が取り除いていくという立場をとった方がいいのではないか思いますが、参考人はいかがでしょうか。
畠山参考人 ブロック化という懸念は、例えばさっきも申し上げましたように、EUなんかについては当たらないという状況になってきていると思います。
 それから、やや悲観的で恐縮でございますけれども、EUはユーロまで行きました、NAFTAもああいう状況になっております、その中で、ひとり日本だけが、それは反対だ、差別だからよくないというかぎ括弧つきの「正論」を言いましても、しょせん勝ち目がございません。これは御存じのように、WTOの地域貿易協定委員会でやるわけでございますので、そこで勝ち目がございません。勝ち目がないところでそういう闘いをやるよりは、やはり世界の大勢がそう流れているんであれば、その方向に従って日本も身を処するということでやらざるを得ないのではないかと思います。
 他方、今おっしゃったように、鉄鋼とか自動車とか繊維について、アメリカが保護主義的なことをやったことは事実でございます。今回の鉄鋼の措置はWTOのルールに違反していると思います。セーフガードは認められておりますが、その認められているセーフガードの条項に今回の鉄鋼は適合していないと思います。輸入が急増しているのではなくて、急減しているわけでございますので。日本の経済産業省も、もっと迅速にセーフガードを発動したり、アンチダンピングの措置を発動したりする必要があることは、委員御指摘のとおり必要なんじゃないかと思います。
山田(敏)小委員 きょうのお話の全体の中でおっしゃる、こうすべきだというのはわかるんですけれども、では、日本が、例えば韓国の新聞記事とかいろいろな報道を見ても、韓国と本当にFTAがうまく進んでいくかということについても、私もちょっと悲観的な見方なんですけれども、まして、これから先さらに進んでいくということについては、私は非常に悲観的である。
 それよりも、今、個々の産業、製造業を見ていくと、本当に機械部品とかいろいろな産業で、一年間で八割の生産がなくなったというようなところもたくさんございまして、そこに日本の今までと違う政策を集中するということが私は喫緊の課題だと思いますが、最後にちょっと御意見を。
畠山参考人 確かに空洞化が進んでいることは事実でございますが、それは、自由貿易協定も含めまして、もっとそれらを通じて外国の資本を招いてくる、それによって職場を確保するということが大事だと思います。
 それで、日本は、外国の資本がもたらしている雇用が全体の雇用の〇・七%しかございません。ところが、アメリカはその比率が五・四%ございますし、ドイツも四・八%ございます。ちょっと統計の比較によって、厳密な比較ではございませんが、大ざっぱなオーダーで申し上げるとそういうことでございます。
 ですから、もっと外資を強力に誘致して雇用を招く、そして、新たな外資がもたらす雇用によって日本の雇用構造も近代化していくというようなことが一つ必要ですし、それからもう一つ、外資が来ない理由の一つは、高コスト構造であります。
 だから、この高コスト構造を自由貿易協定も通じながらもっと是正をしていく。高コスト構造だから日本でやれないというので外資は来ない、高コスト構造だから肝心の内資も出ていっちゃう、そういうことになっているわけでございますので、私は、個人的にはインフレターゲット政策なんてとんでもないというふうに思っております。余計な話で恐縮でございますが。
山田(敏)小委員 どうもありがとうございました。
中川小委員長 伊藤信太郎君。
伊藤(信)小委員 自由民主党の伊藤信太郎でございます。
 これは憲法調査会ですので、まず憲法との関係でお伺いしたいと思うんですけれども、過去において、日本以外の国ですけれども、FTAを進める過程の中で、憲法を改正あるいは修正したというような例がございますでしょうか。あればお聞かせください。
畠山参考人 ちょっと浅学非才でございますが、そういう例はないと思います。確証はございませんけれども、ないと思います。
伊藤(信)小委員 さてそこで、日本国憲法の前文には、国民に対する福利というものが享受されなければならないと書いてあるわけですけれども、その国民の福利をどうとらえるかということは、これはやはり価値観の問題だろうと思うんですね。
 お話をお伺いしておりますと、経済効率なり経済合理性の中でGDPがふえる、あるいは一人当たりのGDPがふえるということが国民の福利だというような、ある意味では一元的な価値観の中でFTAの議論がされているように思いますけれども、二十一世紀社会においては、多様な価値観、経済的な価値以外の価値観も含めて、国民の福利とは何ぞやということを考えていくことが私は必要だと思うんです。
 その中において、今産業の話が中心に出ておりますけれども、例えば農業というのは、一方においては産業でありますけれども、一方においては環境の問題でもあるし、それから、もっと言えば文化の問題でもあろうかと思うんですね。
 ですから、経済合理性のみに着目してFTAを進めた結果、日本から農業がなくなってしまう、その結果、日本が固有に持っている文化であるとか、あるいはコミュニティーの精神的な基盤が失われていく、あるいは教育において非常に悪い影響があるということになると、これは憲法が言っているところの国民の福利というものが必ずしも享受できないということにもなるだろうと思うんですね。その点について参考人はどう考えるか、お聞かせください。
畠山参考人 先ほど申し上げましたように、日本の安全保障上どうしても必要な品目、そういったものは断固として守るということが必要だと思います。他方、それを守るために十重二十重にほかの品目で囲んで、そしてだんだんカードを切っていくというようなことは、ぜひおやりにならない方がよろしいんじゃないかと思います。
 今御指摘の文化というところまで進むかどうかあれですけれども、WTOでも、日本政府としては、非貿易的関心事項といいますか、そういうものがアジェンダの中に入ることが大事だというポジションを堅持しておられまして、一応そういう態度で来ておるということでありまして、そこが一応確保されますれば、個々の品目についての自由化についてはもっと弾力的に、ドミノ効果を恐れないでおやりいただいた方がよろしいんじゃないかと思っております。
伊藤(信)小委員 もう一つの切り口である環境の問題からお伺いしたいと思うんです。
 二酸化炭素の排出権なんという問題が今議論にあるわけですけれども、自由貿易協定と排出権、これは、僕は非常に関係があると思うんですけれども、FTA論議をする中にそういうアジェンダが入る可能性、あるいは既に入ったということはございますでしょうか。
畠山参考人 貿易と環境という問題は、WTOでも、それからFTAでも大問題でございます。
 それで、まずWTOの方では、今度のドーハの会合で、平沼経済大臣がヨーロッパを支援しまして、ヨーロッパがぜひこれを入れてほしいということでそれを助けまして、一部ですけれども、貿易と環境という名のもとに、環境条約とWTOの関係はどうあるべきなのかということを中心に検討しようということで、今度WTOのアジェンダの中に入りました。
 FTAの中では、NAFTAに、貿易と環境について委員会をつくって検討しようという条項が、後からですけれども入りました。それで、アメリカは、先ほど申し上げた貿易と労働それから貿易と環境、これを常にFTAの中に入れようという方向でやっておりまして、ヨルダンとの自由貿易協定の中では環境の問題について入りました。しかし、委員御指摘の具体的な排出権の問題については、FTAに入っているのは例がないと思います。
伊藤(信)小委員 また少し農業といいますか、水産業の問題に戻りますけれども、排他的経済水域あるいは漁業権の問題とFTAの絡みでどのような議論が行われましたでしょうか。
畠山参考人 これは、私の承知している限りでは、排他的経済水域の問題の議論はFTAの中では行われていないと思います。WTOの方では若干の議論が行われましたけれども。
伊藤(信)小委員 水産の話はやはり環境の問題と経済合理性の問題が非常にぶつかったところだと思うんですね。ですから、FTAの議論を発展的に進めるためには、世界資源を枯渇しない、かつその環境を守る、その中でFTAがどのような役割を果たすか、そういう建設的な議論を私はすべきだと思います。
 それから次に、通貨の問題ですが、ユーロという通貨がEUでは使われているわけですけれども、アジアの経済圏において、名前がアジロになるかどうかは別として、共通通貨をつくろうというような、そういう議論はなされましたでしょうか。
畠山参考人 このFTAの関係では、まだ研究会が始まったばかりでございますので、そういう議論は起きておりませんけれども、この枠組みの外で、アジアの共通通貨、少なくとも共通の単位をつくったらどうかというような議論は、学者の方々とか、一部セミナーに政府の方も入ったりして、時々そういう議論が行われていると承知しております。
伊藤(信)小委員 それでは最後に、憲法との絡みをもう一度したいと思うわけですけれども、憲法は国民主権をうたっておりまして、その権力の正統性というものは、民主的な手続で選ばれた議員によってなされているわけですね。この主権の制限というものがFTAの進行の中で行われるとすれば、第三者機関が持つ権力の正統性というのはどのように法的に担保されるか。その点についての参考人のお考えをお聞かせください。
畠山参考人 FTAがFTA第一段階にとどまる限りにおきましては、その権力の第三者への移譲というのはないわけでございまして、その限りでは憲法と直に関係しないと思いますが、第二段階以降になってくると、第三者へある程度移譲をしていくということになると思います。
 しかし、それも国民が主体的に選択した一つの選択でございますので、譲ったからといって憲法違反であるとか、そういうことにはならないのではないかというふうに考えております。
伊藤(信)小委員 ありがとうございました。
中川小委員長 それでは、最後に私から二点、参考人にお伺いをいたしたいと思います。
 一点目は、各委員からもいろいろ出ております農林水産関係の物資なんでございますけれども、どうもこの議論だけを聞いていると、日本はこれからFTAを進めようとするときに、この部門だけがネックであるというような印象を国民に持たれてしまうというのは、私は、不本意なことだろうと実は思っております。
 というのは、世界のFTAの成立の過程において、どの部門でも、有利な部門は攻めに使い、不利な部門は守ろうというのは、これは国益を守るという観点から当然のことだろうと思いますけれども、その中で、各国ともやはり農林水産分野というのは、大きなメリット、デメリットをそれぞれはっきりと持っておる分野だろうと思います。
 したがいまして、今、参考人もおっしゃられたように、現在のNAFTAにおいても、アメリカとカナダの間で農産物、林産物の問題がいまだに大きな問題になって残っておりますし、EUの各国において、それぞれの国で農業に関していろいろとメリット、デメリット、ハンディのある国、有利な国の、内部の問題もあります。一方、韓国も今いろいろやろうとしておりますけれども、やはり農業セクターが非常に不利である、日本との関係を除いたFTAの交渉について。
 そういう意味で、このFTAをこれから進めていこうという前提に立ったときに、あるいは今まで世界じゅうにできたFTAの中で、やはり各国とも大きな問題があり、そしてその問題の多くの部分がどうしても農林水産分野、いわゆる持続可能な有限天然資源というものの扱いだろうというふうに思うということを、事実関係として御認識をされているかどうかというのが一点でございます。
 それから二点目が、これは憲法調査会とも関係いたしますが、憲法前文で、世界の国民の窮乏というものを何としても我々としても救っていかなければならないというような前文の趣旨がございます。
 今の参考人のお話は、世界三十カ国、世界のGDPの九割を占める国の中で、日本を含めたアジアの数カ国だけが入っていない。これは確かに世界の中で孤立化という大きな問題になっていくと思いますが、一方では、参考人も大変よく御存じのとおり、WTOでは、今、先進国対途上国という大きな闘いといいましょうか、いわゆるスペシャル・アンド・ディファレント・トリートメント、あの問題があるわけでございまして、じゃ先進国同士だけで、あるいは地域だけで、仲間同士だけでやっていったらいいのだろうか。
 WTOには、百四十数カ国の中で、百カ国以上がいわゆる途上国という大きな問題があるわけでございますから、本当に世界全体の経済の発展あるいは豊かさの追求という観点から、FTAと世界の途上国、貧困、こういう問題をどのようにお考えになっておりますでしょうか。
 以上二点、お願いいたします。
畠山参考人 ありがとうございます。
 第一点の、実態を認識しているかという点でございますが、例えばEUとメキシコの自由貿易協定が結ばれましたけれども、この中で、メキシコが、農産物でございますけれども、三百何品目適用除外にしております。千百品目ぐらいのうちの三百何品目でございますので、かなりのウエートを適用除外というか、今後交渉しましょうと棚上げにしているという実態がございます。
 それから、韓国のお話がございましたけれども、韓国は、チリと第一番に自由貿易協定の交渉を始めたわけでございますが、実は、三百品目例外にしてくれということをチリに言ったようであります。それに対してチリは、それでは韓国の工業製品の輸入を四百品目例外にしてくれということを言いまして、まだ解決していないということでございます。
 そういう実態でございますので、小委員長正しく御指摘のとおり、各国とも、農産物全部がではありませんけれども、多くの国が農産物について問題があって、FTAの折衝が難航したり、あるいは宙ぶらりんになったりしているという実態かと存じます。
 それから第二に、開発途上国との関係でございますけれども、まず、FTAを結びます際には、開発途上国との間では、相互主義ではなくて、少し開発途上国に有利なような条件を提示するということが一応の慣行的なルールになっているかと思います。例えば、AFTAの中でも、CLMV、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムというところに対しては、同じ自由化の時期を少しおくらすとかいう処理をしているようでございます。
 そういうことではありますが、ただ、私が思いますに、開発途上国との関係を処理するには、必ずしもFTAではなくて、別の枠組みなのかなという感じもいたします。特恵関税でありますとか、開発途上国に対してだけはゼロ関税を提供するとか。例えば、アメリカは今、アフリカに対して、特定の産品ですけれども、農産物が主体でございますが、全部関税をゼロにするという措置を講じております。
 そういうことをやっていくのが開発途上国への対策であって、FTAを通じて開発途上国対策をすぐれてやっていくということは、必ずしも、余り有効な手段ではないのかもしれないというふうに考えさせていただいております。
中川小委員長 私が申し上げたかったのは、FTAを推進すると逆の方向に行くんじゃないかということを申し上げたかったわけでございます。ありがとうございました。
 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。
 この際、一言ごあいさつを申し上げます。
 畠山参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、ありがとうございました。小委員会を代表して、心から御礼を申し上げます。(拍手)
    ―――――――――――――
中川小委員長 これより、本日の参考人質疑を踏まえ、国際社会における日本のあり方について、小委員間の自由討議を行いたいと存じます。
 一回の御発言は、五分以内におまとめいただくこととし、小委員長の指名に基づいて、所属会派及び氏名をあらかじめお述べいただいてからお願いをいたしたいと存じます。
 小委員の発言時間の経過につきましてのお知らせでございますが、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたしたいと思います。
 御発言を希望される方は、お手元にあるネームプレートをこのようにお立てください。御発言が終わりましたら、戻していただくようお願いいたします。
 それでは、ただいまから御発言を願いたいと存じます。
伊藤(信)小委員 自由民主党の伊藤信太郎です。
 何か続いて発言するので恐縮ですけれども、私が提起した憲法との問題について、本日、参考人よりは、必ずしも私にとっては満足のある回答が得られなかったわけですけれども、私が言わんとしたところは、要するに福利という概念は価値観に基づいて評価されるべきだ、そしてその価値観は多様な価値観であるべきだし、憲法のこの条文には思想の自由ということも述べられているわけですね。
 したがって、経済的自由というものあるいは経済的な利益というもののみに着目してFTAを進めることは、ある意味では憲法違反になるんじゃないか、少し言葉がきついですけれども、そういうニュアンスのことを私は申し上げたわけです。
 それから、一番最後の質問は、権力の正統性、レジティマシーの問題ですけれども、憲法を書きかえないまま、本来主権で守られている部分を正当な手続を経ない形で第三者機関へあるいは国際機関等に移管すること、これもやはり憲法違反になるんじゃないか。
 私は、FTAを本格的に進めるには、やはり大幅な憲法改正が必要だというふうに思っているわけで、そういう意味もあって質問させていただいたんですけれども、ほかの小委員から御意見があれば、お聞きしたいと思います。
首藤小委員 このFTAですけれども、名前はフリーという言葉がついているわけですけれども、決して自由で平和な社会を求めようとしてつくられてきたものではないということは、歴史的な発展から見れば明らかだと思うんですね。ブレトンウッズ体制、特にガットの体制というものが限界にぶつかってくる、そして、その中で非常に大きな力を持っていたアメリカが、ヨーロッパがだんだんEUという形でブロック化していくというものを見て、そこから出てきたやり方であるということは、歴史的な発展から見れば大体理解できると思うんですね。
 何が憲法と問題かというと、一つは、フリートレードという概念があると同時に、それは同時に、世界の中で大国が最も自国の産業を優位に展開できるシステムであるということが一つ。それからもう一つ、いわゆるグローバリズムと言われるものとの関係があるということだと思うんですね。
 国は、確かにフリートレードで進めば豊かになっていくという場面もあるんですが、現在、世界じゅうで、特にヨーロッパなんかを中心にして、例えば農産品の貿易はもうやめようじゃないか、なぜ世界の片隅でつくられたバターを、自分たちの目の前でつくっているバターをやめてまで買わなければいけないのか、そういう議論がヨーロッパなどで非常に盛んになっているわけです。こうした反グローバリズム的な考え方は、一つは無視できない。
 なぜこれが無視できないかといいますと、日本国憲法が今のままでそのままあれば、それは直接影響があるとは必ずしも言えるわけではありませんけれども、将来、例えば憲法というものが社会のあり方をいろいろ変えていく、例えば地方分権を徹底していくとか、そういう傾向ができたとき、国はフリートレードを要求しても地域はそれを要求しないということが、これからは問題となってくると思うんですね。
 ですから、その意味では、どういう世界であるのと同時に、どういう地域であるかということを考えると、その間の関係をきっちりしなければいけないということで、このFTAの問題も含め、やはりこれからの世界観と同時にこれからの地域観というものを確立していかないと、この問題はなかなか回答がつくりにくいのではないか、そういうふうに思っています。
 以上です。
山口(富)小委員 日本共産党の山口富男です。
 私は、国家間や地域間の貿易にかかわる諸条約というのは、当然、各国の経済主権や国の経済の盛衰にかかわる問題になってくると思うんです。その場合に、戦後の国際社会は、各国の自決権や経済主権というものを認めて、主権平等の原則でやってきたわけですね。
 ですから、WTOも、先ほども話がありましたけれども、前文で非貿易的関心事項という項目をわざわざ設けて、そして、かつては祖父条項まであって、各国が積み重ねてきたものをきちんと重視するという立場をとったのも、そういう戦後の流れからいって当然だったと思うのです。
 それからもう一点は、日本の憲法の問題なんですけれども、これもきょう各小委員から話がありましたが、前文では、一つは平和的生存権の問題、改めて読み上げるまでもないと思うんですが、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」という精神と、それからもう一つは、「自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務」、これが政治道徳の原則だという国際協調主義を述べているんですけれども、この観点に立つというのも、やはり我が国としては非常に大事じゃないかと思うんです。
 それで、この国際法的な基盤と日本国憲法の基盤、この両方に立って問題に当たることが、日本にとっても関係諸国にとっても、両方から大事だと思うんですね。
 日本についていいますと、実際問題、私たちは、WTO体制のもとで、農業の自由化をめぐる問題で、本当に議論し抜かなきゃいけない重大な問題を幾つか抱えているわけですね。それは先ほど、随分各委員からも問題は出ました。
 それから、諸外国との関係でいいますと、先ほどASEANの問題が出たんですけれども、参考人からも、随分この地域では自由貿易協定について批判的意見も強いんだという話がありました。
 それは根拠があることで、先ほどもちょっと申し上げたんですけれども、社会制度の違いですとか、経済発展も国同士の違いが非常に大きな地域ですし、それから、やはり第二次世界大戦の、前の戦争の問題もあるし、植民地化されたという歴史的経験も持っているわけですね。その上、文化や宗教上の差異も相当なものだ。そんな問題があるだけに、やはりASEANの地域が、それぞれ自国の平等というものを大事にしながら自主的な経済圏をつくろうという、しかも、そこに日本が絡んでくることに慎重になるという、その歴史的根拠というのはなかなか大きなものがあると思うんです。
 こういう、日本側から見ても、相手の側から見ても、私は、経済主権の問題と平等互恵といいますか、そういう精神できちんとこの問題に対応していくということがやはりかぎになっていくなということを、きょう痛感いたしました。
 以上です。
金子(哲)小委員 金子ですけれども、私は、きょうの話を聞いて、やはりアジアとの関係ということが、非常に経済問題も含めて重要になってきている。今まで、今もまだそうなんですけれども、日米間というものが非常に重視されてきた時代から、アジアとの関係をどうつくり上げていくかということがもっと重視をされていく時代に来ているのではないかということを、実は一つ大事なことではないかというふうに思いました。
 それから、農業の問題で、私は、やはり農業、食料というのは、実は日本の文化とも非常に密接な関係を持っているし、また、日本の場合は特に、米づくりを含めて、環境の問題も非常にかかわりを持っている。そういう側面からも、この自由貿易協定の中で考えないといけないんではないか。
 ちょっときょう、参考人の御意見は余りにも、確かに、主要な部分の食糧の安全保障の中でお米は上がりましたけれども、それ以外になると声はなかなか上がりませんでした。ナショナリズムだけを強調するという意味ではなくて、日本のこれまでの歴史の中で、米作を中心としてきた文化というものは私はあると思うし、そういう伝統を守っていくという視点からも、ただ貿易の観点だけでこの問題を見ていいのかということをぜひ論議しなければならないんではないかということを、少し検討課題としてあるような思いを持っております。
 以上です。
中村(哲)小委員 きょうの問題は非常に難しい問題だなと思いました。
 やはり、私たちの国がこれからどういうふうな方向に向かうかということを思うときに、環境の問題が一番大事だと思います。農作物というのは水に非常に大きなウエートを置くものでありますから、この日本が今まで持ってきた水を大切にする文化、そういうことが、今後途上国が経済的に成長していく中で非常に必要になってくる。そういう視点を、前文の観点からもう一度、この二十一世紀、とらえ直していかなくてはならないのではないか、そのようなことを感じました。
 以上です。
平井小委員 きょうも、私いろいろな話を聞いていて、個人的な考えですが、九条、これはやはりもう少し国際社会における日本の位置づけというものを明確にしなければならないなというふうに思いました。
 ですから、前文と九条で言われていること、これから日本が国際社会の中で位置づけを明確に打ち出せるような憲法ではないと、例えばFTAの議論というのは、その延長線上に本来あるべきものだと思いますので、個人的な意見ですが、そのことをこれからやはりもっと前向きに検討していかなきゃいけないだろうというふうに思いました。
 それと、同時に、このFTAの問題を突き詰めて考えていくと、今度は十条、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」となっておりますが、ここのところの議論というものもこの延長線上に当然出てくるなというふうに思います。そこを避けて通ると、今後、日本人として持つ共通の価値観というものも、ちょっとこれは醸成できないのかなというふうに思いました。
 また異論がある方もいらっしゃるとは思いますが、個人的な意見として、憲法の前文ではなくて、九条の中で日本の国際的位置づけを明確にすべきだと思いました。
 以上です。
山田(敏)小委員 民主党の山田敏雅でございます。
 きょうのお話で、日本が非常に孤立化していると。私は、今後とも孤立化すると思うんですけれども。これは、過去五十年間の憲法の枠組みの中、日米安保条約の枠組みの中で、当然、日本は孤立化すべき道をたどって孤立化したんであるなというふうに思います。やはり、憲法の中に、世界をリードして日本が何かをするということに対する重要な足かせがあるんだなというふうに思いました。
 以上です。
中川小委員長 よろしいですか。
 それでは、討議も尽きたようでございますので、これにて自由討議を終了いたします。
 次回は、来る五月九日木曜日午前九時から小委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。
    午後四時四十四分散会


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