衆議院

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第3号 平成14年7月12日(金曜日)

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平成十四年七月十二日(金曜日)
    午前九時三十分開議
 出席委員
  法務委員会
   委員長 園田 博之君
   理事 佐藤 剛男君 理事 塩崎 恭久君
   理事 棚橋 泰文君 理事 山本 有二君
   理事 加藤 公一君 理事 平岡 秀夫君
   理事 漆原 良夫君 理事 西村 眞悟君
      荒井 広幸君    後藤田正純君
      左藤  章君    下村 博文君
      鈴木 恒夫君    西田  司君
      平沢 勝栄君    松島みどり君
      柳本 卓治君    吉野 正芳君
      岡田 克也君    鎌田さゆり君
      佐々木秀典君    日野 市朗君
      水島 広子君    山花 郁夫君
      石井 啓一君    藤井 裕久君
      大森  猛君    木島日出夫君
      植田 至紀君    徳田 虎雄君
  厚生労働委員会
   委員長 森  英介君
   理事 鴨下 一郎君 理事 鈴木 俊一君
   理事 長勢 甚遠君 理事 野田 聖子君
   理事 釘宮  磐君 理事 山井 和則君
   理事 福島  豊君 理事 佐藤 公治君
      岡下 信子君    上川 陽子君
      木村 義雄君    北村 誠吾君
      後藤田正純君    佐藤  勉君
      自見庄三郎君    田村 憲久君
      竹本 直一君    棚橋 泰文君
      西川 京子君    堀之内久男君
      松島みどり君    三ッ林隆志君
      宮澤 洋一君    谷津 義男君
      吉野 正芳君    家西  悟君
      大島  敦君    加藤 公一君
      鍵田 節哉君    金田 誠一君
      五島 正規君    土肥 隆一君
      三井 辨雄君    水島 広子君
      江田 康幸君    桝屋 敬悟君
      樋高  剛君    小沢 和秋君
      瀬古由起子君    阿部 知子君
      中川 智子君    川田 悦子君
    …………………………………
   議員           加藤 公一君
   議員           平岡 秀夫君
   議員           水島 広子君
   法務大臣         森山 眞弓君
   厚生労働大臣       坂口  力君
   法務副大臣        横内 正明君
   法務大臣政務官      下村 博文君
   厚生労働大臣政務官    田村 憲久君
   最高裁判所事務総局刑事局
   長            大野市太郎君
   政府参考人
   (法務省刑事局長)    古田 佑紀君
   政府参考人
   (法務省矯正局長)    鶴田 六郎君
   政府参考人
   (法務省保護局長)    横田 尤孝君
   政府参考人
   (厚生労働省社会・援護局
   障害保健福祉部長)    高原 亮治君
   法務委員会専門員     横田 猛雄君
   厚生労働委員会専門員   宮武 太郎君
    ―――――――――――――
本日の会議に付した案件
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案(内閣提出第七九号)
 裁判所法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、衆法第一八号)
 検察庁法の一部を改正する法律案(平岡秀夫君外五名提出、衆法第一九号)
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(水島広子君外五名提出、衆法第二〇号)

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     ――――◇―――――
園田委員長 これより法務委員会厚生労働委員会連合審査会を開会いたします。
 内閣提出、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案、平岡秀夫君外五名提出、裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案並びに水島広子君外五名提出、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案の各案を議題といたします。
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。西川京子君。
西川(京)委員 おはようございます。自由民主党の西川でございます。本日はよろしくお願い申し上げます。
 昨日、法務委員長、厚生労働委員長うちそろいまして、私たち総勢何名でしたか、松沢病院そして成増病院の方の視察をしてまいりました。大変暑い中でしたけれども、現場の医師たちの率直な御意見もお伺いいたしまして、大変考えるところが多々ございました。そのことも踏まえまして、きょう質問させていただきたいと思います。
 昨晩遅くテレビのニュースを見ておりましたら、先日の池田小事件の宅間被告の法廷でのやりとりの報道がなされておりまして、改めて当時の事件を思い出しました。ちょうど今この委員会の審議の中で、報道のあり方、あるいはその本人の法廷における態度その他を見ながら、私も、やりきれない思い、そして今の日本の精神風土というのでしょうか、それの抱えている、ある意味では大変暗い部分を象徴するような事件だったという思いがありまして、改めて今回のこの法案提出の意味を考えさせられました。
 もう一度、私は、今回この法案が出された意味、背景、それをきちんとやはり押さえておく必要があると思います。やはり、今の措置入院制度、現行の制度の中で、精神医療現場だけに余りに過重な負担をかけていたのではないか、あるいは退院した後の地域社会の受け入れ体制、そういうものがやはり不備ではなかったのか、そういうさまざまな思い、そしてまたもう一つには犯罪被害者の家族の思い、そういう社会的な、国民の今の触法精神障害者の事件に対する素朴な疑問、そういうものに総合的にこたえて、やはりここで新しい法案提出が必要ではないかという中での今回の法案の提出だったと思うんですが、そこの点につきまして、ちょっと質問の順序が逆になるかもしれませんが、法務大臣に、今回の法案の提出をしたねらい、目的をもう一度ここで御答弁いただければありがたいと思います。よろしくお願いします。
森山国務大臣 心神喪失等の状況で重大な他害行為が行われるという事案は、被害者に深刻な被害が生ずるだけではなくて、精神障害を有する者がその病状のために加害者となるという点でも極めて不幸な事態であるというふうに思います。このような者につきましては、必要な医療を確保いたしまして、不幸な事態が繰り返されないようにすることによりその社会復帰を図るということが肝要であるというふうに考えておりまして、このような者の処遇については、精神医療界を含め国民各層から、適切な施策が必要であるとの意見がございましたところでございます。
 そこで、法務省におきましては、厚生労働省と共同で、このような者に対する適切な処遇を確保するために、その処遇を決定するための手続を定めるなど、新たな処遇制度を整備することにいたしたものでございます。
西川(京)委員 ありがとうございます。
 実は、この法案の提出に当たりまして、私たちもここ何十時間とさまざまな審議をして時間を費やしてきたわけでございます。そして、連合審査、きょうのこの場もそうでございますけれども、大勢の参考人の先生方にも来ていただいて多くの意見をちょうだいいたしました。
 その中で、この法案審議の、その入り口の前段階といたしまして、池原参考人から、この法案は、犯罪事実あるいは責任能力、再犯の可能性、いずれの認定についても憲法上の適正な手続を経ていない、ですからこの法案自体を提出することが憲法違反に当たるというような、そういう批判の御意見もいただきました。
 私は、きのう実際の病院を視察してまいりまして、現場の先生方から、この法案はぜひ通してほしい、そういう意見を両方の病院長さんからいただきました。そういう中で、ぜひ私も通すべきと思っておりますが、憲法違反ではないかというような意見も参考人からいただいたので、この批判に対して法務当局の御所見をぜひ聞かせていただきたいと思います。
古田政府参考人 まず大前提として御理解いただきたいことは、この法律案による処遇制度は、刑罰というような制裁を加える、そういうものではないという点でございます。
 先ほど大臣からも申し上げましたとおり、この法律案は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った方につきまして、不起訴処分となり、あるいは無罪などの裁判が確定した場合に、治療が必要なときに継続的かつ適切な医療を行い、またそのような医療を確保するために必要な観察等を行う、そのことによりまして社会復帰を促進するという制度でございます。
 この制度によります処遇は、その対象となる人が一定の犯罪行為に当たる行為をしたということで直ちに行われるものではございませんで、広く医療が必要な人たちの中から、この制度による医療を行うという範囲を限定するために、ある一定の行為を行ったということを前提としているものでございます。
 したがいまして、裁判所といたしましては、そういう審判の対象としてこの処遇をする、そういう範囲に含まれる人かどうかということを考えなければいけない。そこで、特に不起訴になった場合につきまして、検察官の事実認定に本人がそういう事実はないというようなことを言うなど疑問が生ずる場合に、その対象者であるということを確認するために事実の調べなどを行う、そういう性質のものでございます。
 こういうふうな制度の目的あるいは対象行為を行ったことを要件としている趣旨、こういうことから申し上げまして、対象行為を行ったかどうかという確認手続を含めまして、この制度によります処遇の要否、内容の決定の手続は、刑を言い渡すための刑事訴訟手続と同じでなければならないという理由は全くないわけでございまして、裁判所が適切な処遇を速やかに決定し、医療が必要と判断される人たちに対してはできる限り早くこの制度による医療を行うということが特に重要である、こういうことでございますので、人に非難を加えるという刑事訴訟手続よりは、柔軟で、かつさまざまな資料に基づいた適切な処遇が決定される、そういうふうな審判手続ということで構成することが一番適当であるというふうに考えたものでございます。
 少し長くなりますけれども、そのために……(西川(京)委員「済みません、時間が余りありませんので、短くお願いします」と呼ぶ)はい、済みません。
 この制度におきましては、ただいま申し上げたような観点からつくられたものでして、それが憲法三十一条以下の趣旨に反するものとは到底考えられないものでございます。
 実際にも、権利保障のために、意見の陳述権だけではなくて、資料の提出権その他さまざまな権利を実際に認めているわけでございまして、裁判所に対していろいろな事実の取り調べの申し立てもできる、こういうふうな仕組みで、現在の法律で申し上げますと、少年法の手続とかなり類似しているところがございますが、少年法の手続が憲法に違反するというふうなことは考えられておりませんで、そういう意味で、ただいま御指摘のあった批判というのは当たらないと考えております。
西川(京)委員 大変細かくお答えいただきまして、ありがとうございます。
 あくまでも、そういう司法手続に沿わない、心神喪失でそれを問うのは無理だという状況の中での判断だということ、あくまでも患者自身のためを思ってする、その本来の趣旨が違うということで、私もこの批判は当たらないと思いました。
 そしてもう一つ、ちょっと細かいことで気になったことなんですが、刑事責任能力を問う場合のまず最初の関門として簡易鑑定というものがございますけれども、この簡易鑑定の各地検における精神障害者と認定される人の数というのが、大変各地検によってばらつきがあります。そのことが大変私気になりましたけれども、これはやはり、全国的に一つの、本当にマニュアルどおりにそれと照らし合わせてというのはおかしいと思いますが、ある程度の統一の基準というのは必要ではないのかなという思いがありますが、いかがでしょうか。簡単にお願いします。
古田政府参考人 いわゆる簡易鑑定の問題につきましては、事件全体の割合で見ますと、精神障害という診断がされた方たちで不起訴になっている人の割合というのは、おおむね〇・二%台を中心といたしまして、そう大きなばらつきはないわけでございますので、検察庁全体の起訴、不起訴ということで申し上げれば、そう大きなばらつきはないものと考えられます。
 ただ、簡易鑑定の中で、診断されている中で精神障害と判断された人たちの数、あるいは起訴、不起訴の割合というのが違っている部分も実際問題としてあるわけでございますが、一つは、絶対数が必ずしも多くないので、個別の事情によって非常に影響されている面もあるのではないか。あるいは、簡単に申し上げますと、例えば診断のつけ方で、非常に重篤な場合にだけ診断をつけるというふうなお考えの先生もいらっしゃる可能性もある。そういうふうないろいろなことが影響しているものと思います。
 ただ、いずれにいたしましても、検察庁全体の処理として見た場合にはそれほど大きな差はないということでございまして、そういう意味では、検察庁の判断といたしましては、おおむね、ある基準と言うと必ずしも適当ではございませんけれども、犯罪の内容や精神科のお医者さんの意見を考慮して一定の割合に落ちついているものと考えております。
西川(京)委員 個々のお医者様のレベルによっての差もかなりあるでしょうし、ある意味で、やはり何らかのそういう一つの統一の基準の策定というのは私は必要ではないのかなという思いを持ちました。
 そして、それとともに、もうこれは質問は申し上げませんが、鑑定人のお医者様の扱う数、これが物すごく各県で差がありまして、大阪、神戸に至っては、お一人の方が年間百件以上の件数を扱うということで、二日に一度、ある一人の人に対する審理時間が三十分なんてケースもあるらしいのですが、こういうことに関してはぜひ一度御一考願いたいというお願い、要望にさせていただきますが、よろしくお願い申し上げます。
 次の質問に移りたいと思いますが、今回のこの法案の三つの大きな柱がありますが、その柱の中の大事な一つである、入院から地域に患者さんが退院されて出ていく、ノーマライゼーションの実行、これが今回のこの法案の一番の課題だと思います。その中で、保護観察所がある程度キーステーションになると思うんですが、その地域に患者さんが帰られて、その後のフォローというところで精神保健観察官、これを一つ想定するわけですが、大体、この精神保健観察官という立場がどういうもので、どの程度の人数の配置を予定していらっしゃるのか、できましたらお答えをお願いしたいと思います。
横田政府参考人 お答えいたします。
 政府案におきましては、保護観察所に新たに精神保健観察官を置いて、その者に精神保健観察等を行わせるということでございます。この精神保健観察官につきましては、精神保健福祉士などの有資格者、この制度で必要とされる精神保健あるいは精神障害者福祉等について専門的な知識や経験を有する者、そういった者を精神保健観察官として配置したいと考えております。
 御存じのように、現在の法制下におきましては、保護観察所は犯罪者処遇に携わるそういう機関でございます。したがいまして、精神保健あるいは精神障害者福祉等、この新しい制度が要求するようなそういう専門的な知識あるいは経験を有する職員というものはほとんどいないのが実情でございます。したがいまして、そういう状況でございますので、現在の行財政改革のもとで、定員を取り巻く情勢というのは大変厳しいわけでございますけれども、本制度を担う精神保健観察官の必要な人員の確保、これは不可欠と考えておりますので、それの確保にできるだけ努力したいというふうに考えております。
西川(京)委員 御説明は大変よくわかるんですが、具体的に、実は結局どの程度の数を想定していらっしゃるのか。例えば、刑事事件の方の保護司などという地域のいろいろな足がたくさんあるわけですけれども、この精神保健観察官という立場はそういうものを実際には持っていないという思いがありますが、本当に患者さんがちゃんと通院しているのか、薬を飲んでいるのか、家族と同じようにきめ細かくフォローしてあげるには、かなりのある程度の数が必要かと思いますが、そういう具体的な数はお願いできませんか。
横田政府参考人 お答えいたします。
 御質問にございましたように、犯罪者処遇の保護観察におきましては、これは保護司さんとの共同ということで現在行われているわけで、保護司さんの力があずかって大きいわけでございます。しかしながら、保護観察官同様に保護司さんもまた、この新しい制度で要求されるような精神保健あるいは精神障害者福祉等についての専門的な知識あるいは経験を有する方はいらっしゃらないのが実情で、そもそも保護司制度もまた、新しい制度のようなそういう処遇にかかわるということを予定しているものではございません。したがいまして、この新しい制度におきましては、精神保健観察官が専ら、いわゆる地域内処遇といいますか、それを担当することになるわけです。
 どのくらいの人数が必要なのかというお尋ねでございますけれども、人数につきましては、考える上ではいろいろな要因が絡んで、なかなか確定的な数というのは出しにくいことは確かに正直なところあるんですけれども、この法案が成立した場合には地域内処遇を担当する、そういう事務を担当する当局といたしましての考え方を若干申し述べたいというふうに思っています。
 まず、このような人員を考える上で一番ポイントとなりますのは、やはり事件の数といいますか、対象者の数が基本になると思われるんですね。その対象者の数がどの程度まず見込まれるかということでございますけれども、これは、これまでの統計数字などから推定いたしますと、年間三百数十人から四百人程度が新たな制度の対象者になるだろうというふうに考えております。その中には、裁判所の入院命令によりまして最初から入院する者もございましょうし、また初めから通院をすることもありましょうし、もちろん中にはそういった処遇対象にならない者もあるということでありますけれども、いずれにしましても、通院命令を受けた者は社会内処遇の対象になりますし、それから、入院した者もいずれは通院という形になって、これまた精神保健観察の対象になるということであります。これが数年間にわたって続くというふうに考えられますので、そうしますと、数年のうちにはこの対象者数は千数百人に上るのではないかというふうに考えております。
 そうしますと、このような対象者の方々の処遇ということになりますと、一つには、先ほど申し上げましたように、これにつきましては保護司さんの手はかりないで精神保健観察官が直接に担当するということになることがございます。
 それからもう一つは、犯罪者処遇の場合ですと、この対象者に保護観察所に来てもらう、あるいは保護司さんのところに出向いてもらうということがございますけれども、恐らく本制度の対象となる方たちは、むしろ精神保健観察官が本人のいる場所に赴いて、そしていろいろ、様子を見守ったりあるいは必要な指導をしたりということが必要になろうと思いますし、また、時には複数の者が行く必要があろうということも考えられます。また、地域の問題、例えば離島に住んでいる、そこに通院機関があるというようなことも、地域的な問題もあろうかと思います。いろいろな状況がありますし、それから、本人の病状とか、それから、まだ観察が始まったばかりか、もう終わりかけのころかとかといったようなこともございますし、とにかくさまざまな要因があります。
 そういうようなことを種々あれこれ考えますと、これは現時点での一つの考え方として御了解いただきたいんですが、おおむね、一人の精神保健観察官当たりの担当できる件数といいますのは五名ないし十名ぐらいの幅ではないか。この幅が大きいと言われるかもしれませんが、これはやはりケース・バイ・ケース、個々の状況によるということだということで御理解いただきたい。もう一つは、精神保健観察官は関係機関との連携ということがございますが、これもまた、連携がどの程度いくかということも大きく影響しますので、そういったことも踏まえますと、幅がございますけれども、そのくらいとお考えいただければというふうに現時点では思っています。
 そのほかに、精神保健観察官は種々仕事がございますので、そのあたりも考えてまた検討してまいります。
西川(京)委員 ありがとうございました。
 これから発足する制度でありますから、なかなか具体的な形というのが見えにくい中で、ある程度のきちんとした人数を確保して、ぜひ整備をお願いしたいと思います。
 そしてもう一つ、今回のこの法案の柱の一つであります、現場の、病院の中での整備ということですが、昨日、松沢病院に行ってまいりまして、現場のお医者様たちから聞いた御意見といたしまして、再犯のおそれがあるという判断、あるいは退院をさせるときの時期の判断、そういうものが医師だけに任されているのは大変負担が重い、そういう意味で、今回の法律をぜひ通していただいて、きちんと司法と一緒に両輪となってこの判断が協力関係で行われていくことを私たちは願っていますという御意見をいただきました。
 正直申し上げまして、施設が大変古くて、これはやはりそういう施設の整備、その他のことも大事なんですが、今回の、現実に患者さんたちを請け負う側の過重な負担、普通の精神障害者の方の治療が妨げられる、今後の治療というのは、どちらにとっても、触法精神障害者の治療自体も専門的なことができないし、大変混乱している、そういうお話がありました。この点に関して、厚生省の方の見解、いかがでしょうか。できましたら短くお願いいたします。
坂口国務大臣 今御指摘をいただきましたとおり、現在、心神喪失等の状況で重大な他害行為を行った者に対します治療に関しましては、今お話ありましたように、一般の精神障害者と同様のスタッフですとか施設のもとで処遇するということは、専門的な治療が困難になるというようなこともございまして、危惧されているところでございます。
 そうした意味で、今回、特別な施設、専門的な施設をつくることにしたわけでありますけれども、その中で、具体的には医師及び臨床心理技術者による精神療法を頻繁に行う、あるいは作業療法などを通じました社会復帰に向けた訓練を綿密に行う、そして患者の行動観察を念入りに行い、いわゆるおそれの評価を行う、こうしたことを中心に精力的に行わなければならないというふうに考えております。
西川(京)委員 ありがとうございました。
 私も、触法精神障害者の方の治療に関しても、やはりどうしても再犯を繰り返す例が多いということを現実に松沢病院の院長さんがおっしゃっておりましたけれども、そういう中で、その患者さん自身の将来のためにも、専門的な医療、触法精神障害者に対する、より濃い精神医療というのが個別に行われた方が効果的なような気がいたします。
 そういう中で、現実にこの法案が通って、では受け入れようとしたときに何が一番必要なのかということで、やはり何といっても今の設備ではまず無理だろうということ、そしてマンパワーが完璧に不足している、司法精神医学などを勉強した専門家が不足しているのではないか、そういう御意見もいただきました。正直、時間がありませんので、これはもう御答弁いただきませんけれども、ぜひこの充実を図っていただきたい、そういう思いでおります。
 実はきょう、民主党の方の案にも御質問をお願いしていたんですが、大変時間が迫ってまいりまして、もう一問にさせていただきますが、よろしくお願いいたします。
 今回の民主党さんの方の案では、問題点が、一つは、地域に帰った後のフォローというのがないように思うんですね。それと、司法判断を含めた、入退院、再犯のおそれというのを精神科医だけに、お医者様だけに任せているということで、何ら今のお医者様の過重な負担というのが変わっていないように思うんですが、そのあたりを含めての御答弁をお願いしたいと思います。
水島議員 お答え申し上げます。
 まず最初の点の、地域に戻った後の体制が何もないのではないかということでございますけれども、こちらにつきましては私たちも非常に重点を置いているところでございまして、そもそも、現行の精神保健福祉法におきましても社会復帰の支援についてさまざまな規定がされているわけでございますけれども、これを十分に機能させ、ひいては精神障害者の方の社会復帰につなげるためには、精神保健福祉に関する業務を行う各職種間のチームワークが重要であると考えております。
 そこで、民主党案におきましては、退院後の継続的な治療の確保を含めた全体的な社会復帰支援体制の強化を図るため、医師、精神保健福祉士、保健師、看護師、作業療法士その他精神障害者の保健及び福祉に関する業務を行う者の相互の連携が図られるよう、職種間の協力体制を整備すべき義務を都道府県等に努力義務として課しております。
 また、必要な退院後の治療継続、社会復帰の支援について実効性ある措置が講じられるよう、精神保健福祉改善十カ年戦略を策定し、市町村による地域生活支援体制を強化すること等を考えております。
 そもそも、退院後の治療の継続が必要なのは、何も重大な他害行為を行った人だけではございません。地域におけるサポート体制の整備というのは、私たちがかねてから訴えてきたことでございます。また、医療刑務所出所者を治療につなげていく体制も粗末なものでございます。
 これらの点は、今回の政府案には全く盛り込まれていない点でございまして、そのような問題意識をお持ちの西川委員には、ぜひ率先して民主党案実現のための御協力をいただきたいとお願い申し上げます。
 そして、もう一方の、医師のみの過重な負担というような点でございますけれども、そもそも私たちは、適正な鑑定に基づいていることを前提とした措置入院制度の改善を今回の法改正で提案しておりますので、重大な他害行為を行った者の処遇という点を切り取って論じている政府案とは立場を異にしているものでございますので、適切なお答えができるかどうかわかりませんけれども、どのような治療が適応となるかという判断は、これは医学的な判断でございまして、精神科の医師だけではなく各科の医師が日々行っている仕事でございます。その負担が重いといえば重いのかもしれませんが、やはり人の命や人生を扱う医師でございますので、責任の重い仕事をさせていただいているのだと思っております。
 ただ、現状を考えますと、例えば措置診察のときの情報の乏しさや慌ただしさ、また、精神科特例がとられてきたために人員配置が低いわけですので、患者さんに一人一人の医師が十分な時間をかけてリスクアセスメントができないという、これは病棟の人員配置の問題がございます。また、退院させても、地域に住居も仕事もないというようなのが現状でございますので、確かに、そんな状況の中で退院の決定を下すということは、かなり負担として重いものがございます。
 これらの点を改善したいということで、今回、私たちは、法改正事項、また精神保健福祉改善十カ年戦略を提案させていただいているところでございますので、こちらについてもぜひ応援していただければと思います。
西川(京)委員 ありがとうございました。賛成するのはちょっとちゅうちょいたしますけれども、御趣旨はよく参考にさせていただきたいと思います。
 今の御意見の中で私は感じるんですが、今回のこういうさまざまな事件を繰り返し起こす精神障害の方と、一般の本当の精神障害者に対するそのことが、大変いわゆる社会の人たちの偏見や誤解を招いているということもあると思うんですね。ですから、事実認定はあったとしても、罪を憎んで人を憎まずという精神から、あくまでも精神医療の世界で解決していくというのが民主党案だと思うんですが、私個人としては、やはり国の責任というのが、では、そういう中で果たして司法の判断というのが全然入らないでいいのか、そこのところはちょっと疑問に思っているところでございます。
 そういう意味を含めまして、精神障害者に対する医療の充実や社会復帰に対しての地域の受け入れ体制の整備ということは一番大事なことでございますし、国民への精神医療に対する啓蒙、皆さんの意識の向上ということ、それが一番の大事なことではありますが、それともう一つ、やはり社会の安全を守るという観点からも一つの考え方はあっていいのではないかと思います。
 そういう意味で、最後に法務大臣に一言お願いして、私の質問を終わりたいと思います。
森山国務大臣 最初に申し上げましたように、この法律の目的は、あくまでもその対象者の社会復帰ということが最終目的でございます。
 しかし、治療を継続的に続け、また観察も十分行って、健全な社会人として復帰していただくということによりまして、社会の多くの人々もまた安心して一緒に暮らしていくことができるという意味で、その目的を果たすことができるのではないかというふうに思っております。
西川(京)委員 ありがとうございました。
 犯罪被害者の方の家族の思いもあります。そういう総合的な見地から、この問題を国民みんなで考えていきたいと思います。きょうは、ありがとうございました。
園田委員長 次に、金田誠一君。
金田(誠)委員 民主党の金田誠一でございます。おはようございます。
 本題に入る前に、厚生労働大臣にお伺いをしたいと思います。昨日の参議院で指摘をされました、宮路副大臣のいわゆる口きき疑惑の件でございます。
 本委員会は法務主体の委員会でございますから今審議がこのように行われているわけでございますけれども、厚生労働ということになりますとこういう状態にはなり得ない問題だ、きちっとけじめをつけていただかなければ国民の信頼をかち得ることにはならない、こう考えております。
 この件について、厚生労働大臣の明快な御所見をまずお伺いしたいと思います。
坂口国務大臣 昨日の参議院におきます厚生労働委員会におきまして、突然の御質問でございまして、私もその場所で初めてお聞きをしたわけでございますが、宮路副大臣のそのときの答弁によりますと、後援者のお一人から医学部の入試に関連をいたしましてぜひひとつ結果を知りたいという電話があって、そして、それに対しまして秘書さんがそれに電話をされた、そして、結果をそれじゃ知ったので、結果は新聞で知った、こういうことでございました。
 それ以上のお話はなかったわけでございますが、お話を聞いておりまして、御本人が言わんとしておみえになるところは、それは、お聞きはしましたけれども、そのことはいわゆる裏口入学といったものとは全然違うことだ、別次元のことだということをおっしゃっているというふうに思いました。
 それで、そうしたことを今後どうするのかということでございますが、やはり私は宮路副大臣からもう少しその辺の事情を詳しく御説明になる必要があるのではないかというふうに昨日感じたわけでございます。そういうことが許されるのかどうかわかりませんけれども、これは委員長や委員会にもお願いをいたしまして、宮路副大臣から直接その間の事情をもう少し詳しく御説明をさせていただく時間を与えていただくことができればというふうに考えている次第でございます。
金田(誠)委員 御本人が一番よく御存じのことだと思います。大臣からも、きちんとその辺の事実関係を調査していただいて、そう時間のかかる話ではないと思いますから、それに基づいてしかるべく対処をしていただきたいと強く申し上げておきたいと思います。
 それでは、本題に入らせていただきます。
 本法案は、心神喪失状態等で重大な他害行為を行った者に対し、その医療に名をかりて隔離と監視を行うというものであろうと思います。少なくとも、そういう傾向が極めて強い法案であると理解をいたしております。
 過去においても、同様の法律が存在をいたしました。伝染病予防法、エイズ予防法あるいはらい予防法でございますが、これらは現在すべて廃止をされている法律でございます。
 とりわけ、坂口厚生労働大臣におかれましては、ハンセン病問題の最終解決、これに大変な御尽力をいただいたわけでございます。にもかかわらず、法務省、厚生労働省の共管で本法案が提出をされているということは、極めて残念でなりません。せっかくここまで我が国が到達してきたこのような法体系、すべて克服をしてきたと思うわけでございますが、その歴史を逆に回すに等しい、残念でならないわけでございます。
 とりわけ、厚生労働大臣は、大変な実績を上げていただいたにもかかわらず、なぜこのような法案を提案されるのか、明快なお考えをお聞かせいただきたいと思います。
坂口国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生ずるだけではなくて、精神障害を有する人自身にも、その病状のために加害者となる点におきまして極めて不幸な事態だというふうに思います。
 本法案におきましては、こうした者に対しまして継続的かつ適切な医療の実施を確保することによって、その病状の改善及びそれに伴う同様の行為の再発の防止を図ります。もって本人の社会復帰を促進するものでございます。今御指摘をいただきましたように、医療に名をかりた隔離と監視を行うことを目的とするものではございません。
 本法案におきましては、原則として六カ月ごとに裁判所が入院継続の要否を確認することにいたしておりますし、また、いわゆる指定入院医療機関の管理者は、入院患者に対しまして、その時点の病状を考慮して常に入院継続の要否を判断いたしまして、四十九条の一項にも書いてございますが、入院をさせて医療を行わなければ心神喪失または心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれがあると認めることができなくなった場合には、直ちに裁判所に対しまして退院の許可の申し立てをしなければならないこととしておりますし、あわせて、入院患者側からも裁判所に対しまして退院の許可の申し立てをすることができることとしているところでございます。
 これらのことをその法律の中にも盛り込みまして、退院をしていただいて、一刻も早く地域社会においてもとの状況に戻っていただけるような努力を社会全体でしていくということが大事だというふうに思っている次第でございます。
    〔園田委員長退席、森委員長着席〕
金田(誠)委員 大臣、この間、ハンセン病問題あるいはヤコブ病問題で大変な御尽力をいただいた。内閣の中でも、大臣、相当無理を通してきたというふうにお見受けをいたしております。そういう形で無理を通したんだから今回また無理を言うこともできないということが背景にあるのかなということも推測をいたしておりますが、この問題は、二つ無理を言ったんだから三つ目は言えないという話ではないだろう、こういうものだと思います。せっかくここまで到達してきた我が国のこうした進歩、それを逆戻りさせることがあってはならないと思うわけでございます。
 今御答弁でいろいろ説明がありました。しかし、それは結果的に言葉のあやではないんですか。結果としては言葉のあやに終わることになるんではないでしょうか。重大な犯罪を犯したというか、そういう行為を行った精神障害の方々は年間約四百名でございますよね。その中で再犯を犯すかもしれないという方を明確に特定などできるわけがない、そして絶対起こさないなんということも言えるわけがない。勢い、ほとんど、四百名近い方が何らかの措置をとられることになるんじゃないですか。
 しかし、実際、再犯率という数字にはいろいろな見方もあるようでございますが、先般の参考人招致の中では、全家連の役員の方が再犯率六・六%という数字をおっしゃっておられました。四百人の六・六%だとすれば二十七人弱でございます。この二十七人が特定できれば、しかし特定できても特別な措置はとるべきでないという議論も一方にはあります、それはそれとして議論させていただくことにして、仮に二十七人特定できたとして、これからの法律の運用で二十七人の方々が何らかの措置をとられるという運用がされますか。
 実際、四百人に近い方々が措置をとられるとすれば、三百七十人という方は必要もないのに入院をさせられた、何らかの措置をとられた、こうなるとすれば、らい予防法とどこが違うのか。らい予防法とどこが違うのか。ぜひひとつ、とりわけ厚生労働大臣にはお考えをいただきたい、こう思うわけでございます。
 そのことを申し上げて各論に入らせていただきますが、今申し上げました七月九日の参考人招致の中で、全家連の池原常務理事、この方は弁護士さんのようでございますが、この方の話によれば、重大犯罪を犯した精神障害者で重大犯罪の前科前歴のある者は六・六%にすぎませんという資料を配付しておられます。これは、資料の出どころは平成十三年版犯罪白書ということになっております。さらに、その資料の中では、精神障害者の重大犯罪の再犯率は六・六%、こう述べておられます。
 政府参考人に伺いますが、この全家連の池原常務理事の指摘、精神障害者の重大犯罪の犯罪率は六・六%、これについて確認をしていただきたいと思います。
古田政府参考人 ただいま御引用の数字は、これは平成八年から平成十二年までの五年間の殺人事件、殺人の既遂及び未遂について、検察庁で精神障害のため心神喪失または心神耗弱と認められる、あるいはその疑いがある、そういう人たち、それから、裁判所で心神喪失を理由に無罪となりあるいは心神耗弱の認定がされた人、その合計七百二名についての十年間の前科または前歴を調査したものでございまして、あくまで殺人事件に限っている数字でございますので、殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、それらを網羅しての中での数字ではないということでございます。
 ですから、あの池原参考人の御指摘は、あくまで殺人事件に関するものだけということで御理解いただきたいと思います。
金田(誠)委員 殺人に限っては重大犯罪の再犯率は六・六%である。再犯率は六・六%、殺人に限っては、じゃ、こういう理解でよろしいということですね。
古田政府参考人 厳密に申し上げますと、再犯率というのを仮に極めて正確にデータによって把握しようといたしますれば、率直に申し上げまして、治療等が行われない状態でどうなるかということを考えないとわからないわけでございますが、そういうことは不可能でありますので、そういう意味での再犯率というのは、おのずと正確には把握できないものであるということを御理解いただきたいと思います。
 ただ、いわゆる殺人その他の重大犯、他害行為、これに当たる行為をした人で心神喪失あるいは心神耗弱、その疑いがある人も含めまして、そういう方で過去十年間にやはり同様の重大な他害行為をしているという人の割合がどのくらいあるかということになりますと、私どもの把握しているデータでは約一一・七%程度というふうに考えております。
金田(誠)委員 今の一一・七%の根拠、委員長、恐らく書いたものがあるんでしょうけれども、データ、計算式、これの提出をお願いしたいと思います。
森委員長 理事会において協議いたします。
 古田刑事局長、もう一度答弁願います。
古田政府参考人 資料と申しますか、私どもの方でこれまで一応把握している数字で、対象者がトータル二千三十七名、五年間であるわけでございますが、そのうち二百四十名、そういうことで一一・七%ということでございます。
金田(誠)委員 だから、その二百何人が、どういう重大犯罪なのか、何年から何年までの数字なのか、こんなような紙にして出していただきたい。理事会で諮って、委員会として提出させてください。
森委員長 理事会で協議いたします。
金田(誠)委員 委員長、よろしくお願いをしたいと思います。
 そこで、一一・七%なる数字が最初から出りゃ質問しなくてもいいわけなんですけれども、この資料、今回の法案の資料ですね、いただいているわけでございますが、この四ページ、「重大な他害行為を行った者の前科等調べ」というのがありまして、総数二千三十七人、この数字はここに載っているのですが、前科前歴ありが五百六十八となっているんですよ。
 何で五百六十八という数字出したんですか。今の数字ですと、二百何ぼと言いませんでしたか。それで一一・七だというんですよ。二千三十七に対して五百六十八ですと、二五%ぐらいになるんじゃないですか。ここには、重大犯罪でないものまで入った数字を出している。ところが、今回の法律は、重大犯罪を犯した者について措置をとるという法律を出しているわけですから、資料として不適切じゃないですか。あたかも再犯率が高いように見せかけようという意図のもとにこの資料が出されている。極めて遺憾だ。何を考えているのか。最初からきちんとしたものを出しなさい。
 一言コメントしてくださいよ。問題ですよ、これ。
古田政府参考人 一言、御理解をいただきたいので申し上げたいのですが、この法案の目的は、重大な他害行為をするに至った方たちにつきまして再犯率が高いからとか、そういうことでお願いをしているわけではございませんで、そういう方たちについて、やはり適切な処遇を決めるシステム、そしてそれに従って処遇をする、そういうことがぜひ必要である、そういう観点から御提案申し上げているわけでございます。
 ここで前科前歴を持つ方がどれだけいらっしゃるかという資料を提出いたしましたのは、重大犯罪を実際に行った方、その中で、過去問題行動を起こしている方がどれだけいるかというような観点というのもひとつ非常に重要なことから、そういう資料を提出させていただいたというものでございます。
金田(誠)委員 この五百六十八という数字も、不必要な数字ではないかもしれませんね。参考として必要な数字かもしれません。二千三十七のうち前科前歴あり五百六十八と。しかし、もっと必要な数字は、五百六十八のうち、今回の法律の対象になる重大な前科前歴がどういう形なのか、そっちの方がより大切じゃないですか。それをネグっておいて、五百六十八だけを出す。こういう物の考え方が不純だということを指摘しておきたいと思います。
 厚生労働大臣も、ひとつ法務省のやり方についてよく御認識をいただきたいと思うところでございます。
 さて、精神障害者の重大犯罪の再犯率、今一一・七%と。後でこの内訳がどういうことなのか出していただきますけれども、とりあえずこの数字をもとにして話をさせていただけば、法案の第四十二条による入院等の決定は、検察官による申し立てがなされたうちの一一・七%程度になる、当然。四百人のうちの一一・七%程度になる。多少の前後はあったとしても、四百人の一割ちょっと、四、五十人、この程度の方がこの法律によって入院等の措置がとられる。こういう運用がされるという理解でいいかどうか確認をさせてください。
下村大臣政務官 私の方からお答えをさせていただきたいと思います。
 本法律案第四十二条の入院等の決定は、個々の処遇事件に応じて、第三十七条第一項に規定する鑑定を基礎としまして、同条第三項の意見及び対象者の生活環境を考慮して、裁判官及び精神保健審判員の意見の一致したところにより決定されるものでございますので、検察官による申し立てがなされたもののうちで入院決定等がなされる割合について、現時点におきまして確定的なことを述べるのは非常に困難なことでございます。
金田(誠)委員 私は、何も確定的なことを言ってくれと言っているわけじゃないんですよ。この法律を通す際に、どの程度の方々が法律によって措置がとられるのか、それもわからずに賛否を決めろなんてことはできるわけがない。したがって、大まかに、何も確定的なことを言えなんてことは申し上げているわけでないわけですから、物の考え方として、重大犯罪を犯した方の再犯率が一一・七だとすれば、何らかの措置をとられる方もこれに前後した数字になるんでしょうねということを確認していただきたいと言っているんですよ。こんなこと確認できませんか。
古田政府参考人 ただいま御指摘の数値は、あくまでそういう問題行動を現にするに至った方のいわば割合でございます。これはもう委員当然御案内のとおりでございますが、その間再犯を起こさない、あるいは問題行動に再び至らなかった方、こういう方は、医療管理とかそういうことがしっかりできているために幸いそういうことにならないで済んでおられるという方ももちろん含まれているわけでございますから、ただいま委員御指摘のような数値がこの対象の数を考える上でのメルクマールになるというふうなものではないと考えております。
金田(誠)委員 それじゃ、どういうことが想定されているんですか。四百だとすれば、ほとんど四百人が何らかの措置をとられるということなんですか。そうなんですか、違うんですか。
 ちょっと待ってください。約四百人の方が毎年対象になると。この法律というのは、そのうちのどの程度の方を対象にしてつくろうとしている法律なんですか。あんた方が出す法律なんだから。
 厚生労働大臣と法務大臣それぞれ、どの程度だという数字を、何%でもいいですよ、お二人からそれぞれ答えてください。――大臣に聞いているんですよ。
古田政府参考人 心神喪失または心神耗弱と認められる者あるいはその疑いがある人、この数値が四百前後ということでございます。したがいまして、その対象となり得る数というのはその範囲にとどまる。そのうちの何%ぐらいまでが実際にそうなるかということにつきましては、これは個別のいろいろな判断がございますので明確な数字を申し上げるということは大変困難でございますが、いずれにせよ、その範囲であるということでございます。
金田(誠)委員 最後の一言がちょっとやじと重なって聞き取れなかったんですが、恐らく、きちんとした数字を言ったんではないだろうなというふうに推測して質問をさせていただきますが、提出をする方として無責任じゃないですか。
 例えば、この五年間で五百六十八名、前科前歴あり。そのうちの重大犯罪の方は、さっきおっしゃった二百何人ですよ。平成十二年度に限れば百三人。恐らく、そのうちの重大犯罪の方は半分もいないんじゃないですか。
 そういう方々が実際どういう処遇をされていて、どうなっているのかという実態調査ぐらい、任意に御協力いただく中から、この法律を提出するに当たって、毎年、四百人程度の対象者の方のうちどの程度がどういう処遇をとられるのか、明確に説明できるようになってから法律なんというのは提案するべきでしょうが。その辺の提出者の統一見解を求めたいと思います。これはだれが統一見解を出すんですか。
 先ほど来、何回も質問しても、数字は一向に明らかにされない。五〇%とも言わなければ、一一・七%も言わない。四百人近いということもおっしゃらない。雲をつかむような話で、これ以上審議できませんよ。政府統一見解を求めたいと思います。
古田政府参考人 ただいまの委員の御指摘の中に、この二千三十七人の方の処分後の状況がどうなっているかというふうな点がございましたが、その点について申し上げますと、入院となった方が千六百五十一人。そのうち、措置入院が千三百五十四、その他の入院が二百九十七。入院されなかった方は二百九十、通院治療が四十五、その他五十三、どういう措置がとられたかわからないものが九十六ということになっております。
    〔森委員長退席、園田委員長着席〕
金田(誠)委員 委員長、私の質問に答えさせてください。内閣に統一見解を求めているんですよ。
坂口国務大臣 これは法務でお答えをいただくべきことかもしれませんし、そして、その人数等につきましては、これは法務省がお出しをいただいている人数でございまして、再犯のおそれが何割あるのかということの数字というのは私もつまびらかに存じておりませんが、多分、再犯を起こされた人の中には、治療を継続して受けている人もいるし、治療を行わなかった、途中で中断をした人もいるのであろうというふうに思います。
 したがいまして、治療を受けていてもなおかつ再犯を起こすおそれのある人がどれだけかということは、現在のこの数字だけでは明確でないというふうに私は思います。
 したがいまして、それらのことを考慮に入れて考えますと、一一%前後という数字が、これまで治療を受けた上での数字なのか、それとも治療を受けなかったために起こったものなのかといったことをもう少し精査しないとわからないというふうに思っております。
金田(誠)委員 毎年四百人ぐらいの方が対象になる。この法律ができたとすればそういう方々がどのような比率で処遇を受けることが想定をされているのか、これについての御答弁がないわけでございます。
 委員長に要請を申し上げますが、ぜひひとつ理事会で御協議をいただいて、政府としてどの程度、どういうことを想定した法律なのかというきちんとした統一見解を出していただきたいと強く要望して、質問を終わります。
園田委員長 ただいまの御要望に対しては、理事会で検討させていただきます。
 次に、日野市朗君。
日野委員 何か今拝見していると、法務大臣から手が挙がっていたようでございますね。私も、今金田委員が質問したことについては非常に強い関心を持っておりますので、法務大臣から今おっしゃりたいことを言っていただいた方がいいと思うんです。実はきょう、三十分しか時間がありませんので、きょうは主として法務大臣以外のところからお話を伺って、法務大臣からは、後日ゆっくりと時間をかけていろいろな重大な問題点を伺いたいと思いますが、今手を挙げておられたので、何をおっしゃりたかったのか。
森山国務大臣 御指名、ありがとうございました。
 法案の第三十三条にもございますように、従来該当するはずであった人々の中から、ここにございますように、「精神障害のために再び対象行為を行うおそれが明らかにないと認める場合を除き、」というふうにもなってございますし、新しい手続といいましょうか手順を決めるための法律でございますので、その中からこのような方々を除いた数がどのぐらいになるかということは、今のところはっきり申し上げられないというのが正直なところでございます。
 また、この法律の目的といいましょうか、対象が何人いるからとか、あるいは多いから、少ないからということでこのような法案を御提案申し上げているわけではございません。少なくてもそのような方が存在するということについて、それに着目いたしまして、手続の必要性を考えて提案させていただいたのであるということを申し上げたいと思ったのでございます。
日野委員 今の御答弁は、この次の大臣に対する質問に関連して、非常にいい入り口になるなと思いながら伺いました。
 それで、きょうはまず厚生労働大臣にお話を伺いたいと思います。
 まず、この手続を見ますと、再犯のおそれというのがやはりこれはキーワードでございますね。検察官が申し立てをする場合は、これは非常に厳密にやっています。再犯のおそれがないことが明らかであるときを除いてはこの手続をしなくちゃいかぬわけですね。非常に厳しい要件がそこにはあります。そこから後は裁判所での手続、こういうことになっていくわけでありまして、そこでもやはり再犯のおそれというのは大きなキーワードになっています。
 そこで、厚生労働大臣が前の委員会でも、一生懸命、再犯のおそれを判定することは可能だということをおっしゃっておられるんですね。もう少し突っ込んで私から聞かせていただきます。
 そこで、よくドイツでの見聞についてお話しになりました。ドイツでどのような見聞をなさったのか、どのくらいの時間、留学なさったのか、それともちょっと行って向こうの学者さんとお話しになったのか、どのような場でそのような話があったのか、そんなところに絞ってちょっとお聞かせください。非常に重大なことだと思うんですね。やはり、お医者さんである大臣がそういう結論めいたお話をなさる、この国会でなさるということは大事なことだと思うので、ちょっとテストをさせていただきます。
坂口国務大臣 今年の一月十五日からでございますが、数日間でございましたけれどもドイツにお邪魔させていただいて、そして病院等にお邪魔をさせていただいていろいろお伺いをした。また、病院だけではなくて、行政官の皆さん方、それから法律家の皆さん方、そうした皆さん方にもお話を伺うということをしてきたわけでございます。
 そうした中で、それをお聞きしましたからそれだけをうのみにしてということではないわけでございますが、その皆さん方の大体一致した意見としましては、医学というのは統計学によって成り立っているわけでありますから、再犯のおそれというものは、それは予測し得るという立場で皆さん方がその業務に携わっておみえになるということでございます。そうした御意見を拝聴してきたということでございます。
日野委員 そうすると、病院なんかは電話でお医者さんとお話しになった、こういうことのようでありますし、行政官の中にも、精神医学というのですか、これについての見識をお持ちの方もおいでになっただろうと思うし、法律家も、そういういろいろな経験を持った方とお話しになったんだろうと伺っておきましょう。そういうふうに伺っておきます。大臣はお医者さんでございますから、私も、そういう方として評価しながら、この方がおっしゃることだったらまあまあ大丈夫なんだろうな、こう考えながら今お話を伺っております。
 ただ、残念なことに、日本の専門家では、再犯のおそれということについて、それを認定できるかどうかということについて、できないとおっしゃる方もおられるわけですね。(発言する者あり)圧倒的という声もありますが、どうも、圧倒的とまで言えるかどうかは別として、再犯のおそれが認定できない、認められないという方の方が多いように私は思います。少なくとも言えることは、そのことについては自信がない、その自信のなさというのがはっきり読み取れるような感じがするわけでございます。
 それから、この間参考人質疑もありましたが、その中で、お医者さんだけに責任を負わせるのは酷ではないか、その責任を一緒に担ってくれる人がだれか欲しいんだ、そこで裁判官という声が出てくるというような話が出ていまして、私は、これはお医者さんの世界でも非常に自信がないんだなというような思いを抱かざるを得なかった。こういう私の思いについて、大臣、いかがでしょうか。
 というのは、これは司法の手続に乗って、対象者というのですか、結局触法で出てきている方々ですね、行為を犯した方々、そういう方々を拘束していくわけですね。それもかなり長い期間の拘束になるかもしれない。そういうことになりますと不利益を課することになりますから、これは非常に厳しい認定が必要になってくるんだろうなと私は思うのでございます。
 御承知のとおり、裁判の手続では灰色は白でございまして、こういう世界の中で、そういう自信のないお医者さんたちが専門家としてこの裁判にかかわっていくことはいかがなものかと私は思っているのですが、それに対して、坂口大臣、ひとつお考えを述べていただけませんか。――大臣にまず聞いてください。
坂口国務大臣 日本の国の中におきまして、この触法関係のことを研究しておみえになります方、あるいはまたこの道を専門的におやりになっている皆さん方が今まで少なかったことは、私も率直にそのとおりだと思っております。その点が欧米と申しますか、ヨーロッパ諸国と日本との違いだろうというふうに思います。日本におきましては、その方面が非常におくれていたという言い方がいいのか、その方面の研究が少なかったというふうに言った方がいいのかもしれませんけれども、そこは私も率直にそう思っております。
 それだけに、この分野の研究を重ねていただかなければなりませんし、そして、この方面における研究を重ねていただいて、重大な犯罪を再び犯すことのないような体制をつくり上げていかなければならないんだろうと思っております。
 そうした意味から、これから精神医学を研究しておみえになります先生方におきましては、十分に御研究をいただきたいと思いますが、現在でも既にそちらの方のことを専門的におやりになっている皆さん方がお見えでございますし、先日、参考人にお見えいただいた御意見も、御意見は相半ばしたというふうにお聞きをいたしておりますけれども、現実問題といたしましては、そうしたことを熱心におやりになっている方とそうでない方との間の差というのは当然のことながらあるのであろうというふうに思っております。
高原政府参考人 現行の措置入院制度におきましても、精神保健指定医が自傷他害のおそれの判定を行っているところでありまして、この自傷他害のおそれと本制度の再び対象行為を行うおそれは、その判断過程や判断方法などの基本的な部分は異ならないというふうに考えております。
 我が国におきます措置診察の経験が豊富な精神保健指定医は相当数ございます。これらの医師を対象として司法精神医学的な研修を行いまして、再び対象行為を行うおそれの予測等につきまして可能となるよう考えております。
日野委員 今、自傷他害のおそれの判断とそう違わないとおっしゃったんですが、それにさらにつけ加わるものがあるわけですね。触法行為を犯しましたよと、さらにいろいろな環境の調査までデータとしてつけ加わるわけですね。これは医学の世界、お医者さんの世界で非常にやりやすい状況がさらに整ってきたのであって、何もここに司法的な判断のようなものがつけ加わる必要はないんじゃないかなと私は思うのですね。
 私は、この手のことはあくまでも行政でおやりになるべきことですよ、厚生労働省の誇りをかけておやりなさいよ、お医者さんたちの誇りをかけておやりなさいよ、人手を借りなくたっていいではないですか、人の体、精神、それを診るのはお医者さん、あなた方ですよ、自分たちの仕事を誇りを持っておやりなさい、こう言いたいんですが、いかがでしょうか、大臣。
坂口国務大臣 誇りを持っておやりをいただかなければならないのはそのとおりというふうに思いますけれども、重大な犯罪を犯した心神喪失者といったような場合におきましては、ただ医学の世界だけの範囲では物を考えられないということもあるわけでありますから、医学の専門家がそのことを決定いたしますと同時に、やはり裁判官としての立場から全体的な、総合的な立場でまた御判断をいただくということも必要になってくるのではないかというふうに思います。
日野委員 皆さんからお話を伺うと、この法律の目的はあくまでもそういう触法行為を犯した人の治療であります、その人たちが社会に復帰できるようにやることが目的でございます、こうおっしゃっていながら、そこで裁判官が出てきちゃうので、やはりこれは違うでしょう、治安を一つの大きな目的にしているんでしょう、そうじゃありませんか、こう言いたくなっちゃうわけですね。
 そこは、この場では、私、きょうは余り時間がありませんので、ここで押し問答をやっている時間的余裕がありませんから次に移りますが、これは後で法務省とはゆっくり時間をかけて論議したいというふうに思います。
 ただ、これは、そういう目的の点、それらなんかでもいろいろ問題があるということは指摘をしておきながら、ちょっと教えてもらいたいんです。
 審判員になるお医者さん、この人材はどこから選んでくるんですか。公立病院のようなところの勤務医さんですか。それとも、一般の病院からも選ぶんですか。そういう人材はどこから確保してくるのか。それから、名簿で何人ぐらい出されるおつもりなのか。そういう人たちが裁判の場に立つとなれば研修をしなくちゃいかぬと思いますが、その研修はどこが、どのようにやるおつもりなのか。
高原政府参考人 審判員は、精神保健判定医として名簿に登載された方から選ばれるわけでございます。
 この精神保健判定医でございますが、この方はまず原則として、精神保健指定医であることが必要でございます。精神保健指定医は、五年以上診断または治療に従事した経験があること、そのうちの三年間以上は精神障害の診断または治療に従事した経験がありまして、さらに一定の種類の精神障害の診断または治療に従事した経験がある方で研修を修了した方ということにつきまして、審査を経て指定することになっております。この精神保健指定医の資格におきまして、いわゆる自傷他害の判定が現在行われておるわけでございます。
 次に、審判員が選任されます精神保健判定医でございますが、このための条件といたしましては、先ほど述べました、自傷他害のおそれの判定を行っております精神保健指定医としての臨床経験年数が一定年数以上であること、そして措置診察、つまり自傷他害のおそれの判断でございますが、この診断に一定件数以上従事したことがあること、さらに司法精神医学に関する研修を受講したこと等を資格要件とすることを検討しております。
 数についてのお尋ねがございました。本制度における審判は、全国の各地方裁判所で行われるものであるところ、一人の精神保健判定医が担当し得る事件数はさまざまであると考えられることなどを考慮いたしますと、もちろんこれは確定的なことを申し上げるわけではございませんが、例えば全体で三百名程度の精神保健判定医は必要不可欠であり、確保することが必要であると考えておりまして、このような専門家の質と量を向上させるために、厚生労働省としても取り組んでおるということでございます。
日野委員 いや、そんな常識的なことを聞いているんじゃないので、公立の病院あたりから引っ張ってくるのか民間から引っ張ってくるのかなんということを私も聞いたけれども、全然答えていないですな。それから、研修をどうするんだ、だれがやるんだなんという話も全然答えていないです。私が聞かないことばかりべらべらしゃべっているんですな。それでは困るので、本当によく質問を聞いて。私、これは質問取りでも言っていることだからね。
高原政府参考人 失礼いたしました。
 精神保健指定医が、現在、属人的な資格ということで勤務先を特に特定しておりませんことから、判定医についても同様のことを考えております。
日野委員 まだ余り検討していない、こういうことですな。この国会の論議等を考慮して徐々に決めていく、こういうことですか。
高原政府参考人 何人必要かというところにつきましては今後の動向を見据える必要があるかと思いますが、基本的な、どういうところから選任するか、つまり、これは属人的なものであるということ、それから、どういう要件を考えているかというふうなものは、ほぼ先ほどお答え申し上げた点でございます。
日野委員 では、次に、最高裁に伺います。
 最高裁としては全く新しい経験をするわけでございますね。今まで裁判所の組織の中で裁判、つまりいろいろな判定行為をやる場合は、これは裁判官がやるわけですな、原則として。そして、それ以外の、例えば調停委員の人だとか司法委員の人だとかいろいろあるけれども、それは裁判官の後ろにきちんとついていて機能してきたわけですが、さて、今度は全く別個の精神保健審判員なる方々が裁判をやりに入ってこられるわけですね。さあ、これに対して司法行政はどのように機能するんでしょう。司法行政の範囲におさまり切るんですか。
大野最高裁判所長官代理者 お答えいたします。
 この法律案によりますれば、精神保健審判員の任命それから解任は、いずれも行政部門である地方裁判所が行うというふうにされております。また、その職務に対しては手当等が支給されることとなっております。
 司法行政におきましては、裁判所の運営を行うために、今申し上げたような職員の任命、免職、監督、報酬支給、給与の支給等、それらが司法行政のうちの具体的な一部になっております。
 したがいまして、今申し上げましたように、精神保健審判員につきましても、これらの点については司法行政の監督権が及ぶというふうに考えております。
日野委員 この審判員の方々の取り扱いですが、これはやはり裁判官と同じように職務上独立した方々であるわけですね。いかがでしょうか。どのようにお考えになりますか。
大野最高裁判所長官代理者 この法律案の九条一項は、「精神保健審判員は、独立してその職権を行う。」ということとされておりますので、裁判官と同様に、裁判という判断の過程におきましての事柄につきましては独立して権限を行使するということになろうかと思います。
日野委員 今まで司法行政と裁判官の独立ということでいろいろな問題点が起きたケースが何件かございましたね、例えば特に任命だとかいろいろなことで問題が起きているんですが、どうなんでしょう、これは、新しい審判員という独立して職務を行う方が出てきて、最高裁として司法行政権がきちんと行使できる、スムーズに行使できるというふうにお考えになりますか。
大野最高裁判所長官代理者 行政権が及ぶ範囲は先ほど申し上げたようなところでありまして、ですから、任免あるいは給与、手当等に関しましてもちろん及ぶわけですし、その配置等についても行政権は及ぶわけです。したがいまして、その範囲での事柄について適切な司法行政を施すということになると思いますが、判定医として、審判員として裁判、処遇等に当たりますその判断をする過程においては行政権の行使は及ばない。ですから、その点におきましては裁判官と同じような立場に立つということになろうかと思います。
日野委員 私は、特に審判員の解任の場合、ここについてはいろいろ問題が出てくるんじゃなかろうかなと思うんですね。特に、合議体は、二人で合議体を構成するわけですな。これは、意見が合わぬ、こういう場合なんかはどうなっちゃうのかね。非常にそこは心配になりますし、特に解任の場合、おれは嫌だよ、解任に応じないよと言われてしまったらこれはどうなるか、そこらの心配をしているんですが、いかがでしょう。
大野最高裁判所長官代理者 解任の問題は司法行政上の問題ということになりますが、今議員おっしゃるように、裁判官と判断過程の中で意見が一致しないというようなところの問題として解任の問題が生ずるかといえば、それはそうではなくて、結局意見が一致しなければ、今回の要件判断のところでの意見が一致しないということになっていくんだろう。ですから、それは裁判の結果の方につながっていくかとは思いますが、そのこと自体で解任といった問題に結びつくことはないのではないだろうかというふうに思っております。
日野委員 ちょっとそこは二つの問題を並列的に出してしまって恐縮していますが、一つはやはり解任の問題とか、それから合議の問題について。
 私は、今の裁判所の合議というのは三人以上ですわな、そこでいろいろ話し合いが行われて、それで成り立っているというところがあると思う。しかし二人だと、しかも片っ方は裁判官、片っ方はお医者さん、それぞれ分野が違うわけですよね。ここで、おれはこうだ、こっちはこうだということになっちゃうと、これはなかなか収拾がつかないことになりやしないか。私は、これは司法的な機関としての合議で結論を得るということは非常に難しいんじゃないか、そういう心配をしているんです。それは結果の問題だ、こうおっしゃったんだが、その結果が出ないなんということはよくあり得るわけですね。大体、審判書に対しては一体だれが署名するんですか、どっちが先に署名するんですか。そういう問題も出てきますわな。
 これは通告していなかったので、後でこの点についても伺わせていただきますが、そういう細かい非常に面倒なことを裁判所としては今度は抱え込むので、私は、この問題は司法には本当はなじまない、こんなことは行政でやってくれよというのが裁判所の本音じゃないのか、こう思うんですが、イエスかノーかと聞いたらちょっと酷かもしれませんが、どうお考えになっていますか。
大野最高裁判所長官代理者 議員御質問の点、これは立法政策の問題にかかわってくることでございますので、私どもとしては意見は差し控えさせていただきたいというふうに思います。
日野委員 私、この間の参考人質疑でも、実に大事な問題についての大事な発言を聞きました。お医者さんの世界ではどうやら、やばいという言葉はここ国会で使っちゃいかぬかな、こういう大変なことは全部裁判官に任せてしまえというようなことが言われているらしいですわな。裁判官にしてはこれはたまったものじゃない。自分たちがさっぱりわからない精神医学の問題、それについて責任を負わされるんじゃこれはたまったものじゃないという意向が恐らく強いのではないかというふうに思います。
 今、最高裁の方からは、それは立法政策の問題だとおっしゃった。確かにそのとおりです。しかし、立法政策として、私はこの問題を司法の問題として扱うんじゃなくて、やはりあくまで厚生労働省の誇りをかけて、お医者さんたちの誇りをかけて、この問題は我々が引き受けるよということを言うべきじゃないか、こう思うんですが、再度、厚生労働大臣、どうですか。
坂口国務大臣 先ほどもお答えを申し上げたところでございます。
 ドイツに参りましたときに、そのことも実は質問をいたしました。これはドイツの話でございます。医師の意見と裁判官の意見とが合わなかったらそこはどうするんですかということを聞きました。ドイツの場合には、そのときに最終決断は裁判官がするということになっているんだそうでございます。
 しかし、日本の場合にはそうではなくて、先日もこの議論をしていたわけでございますが、意見が合わなければ軽い方の意見を採用するということになっている。例えば、入院をもっとさせるべきだという意見と、地域に返して地域での監視をするという、どちらを選ぶかといったことになったときには監視をする、こういうことにする、こういうことだそうでございます。
日野委員 いずれにしても私は、この法案は撤回して、民主党が言うように、やはり、行政の手で触法の方々、こういう人たちのこれからの医療的ケア、それをきちんとやるべきだと思います。その方が、国家の治安を守る、国の治安を守るという点でも大いに裨益するところがあるだろう、こう思います。
 私の意見を述べて、終わります。
園田委員長 次に、西村眞悟君。
西村委員 自由党の西村でございます。
 御質問いたしますが、まず第一に、我々が今審議しているこの法案の実効性は、一にかかって精神医療の充実というものが我が社会基盤としてあるのかどうかということにかかっております。したがって、先ほども少々この点に触れた質疑がございましたけれども、この観点から厚生労働の方に御答弁をいただきたいと存じます。
 まず、この法案を提出された以上、今全国で予定している指定入院医療機関は何カ所であり全国総ベッド数はいかほどであるか、また指定通院医療機関は何カ所を予定しておられるのかということについて御答弁をいただきたいと思います。
高原政府参考人 本制度におきまして必要となります指定入院医療機関の箇所数や総ベッド数につきましては、現時点で確定的なことを述べるのは困難でございますが、必要な入院による医療が確実に実施されるよう、本法施行後の状況も注視しつつ、地域的なバランスをも考慮の上、指定入院医療機関を計画的に整備していくことを考えております。
 また、本法案におきます通院医療につきましては、それぞれの対象者にとって社会復帰を図るにふさわしい居住地、環境において医療が行われることが適当であると考えられることから、指定通院医療機関につきましては、こうした居住地から通院が可能となりますよう、民間の診療所等も含めて幅広く確保することを考えております。
西村委員 下を向いて言われるので、大分聞き取りにくかった。
 次に行きますが、現在の犯罪傾向にかんがみ、先ほどもちょっとあったけれども、これは患者さん受け入れの体制ですから、法案を提出する以上は一応の見込み数はあるんだろうというふうに思っていますけれども、毎年何人が入院治療もしくは通院治療の決定があるものと見込んでおるのかということについてはどうですか。
高原政府参考人 本制度におきまして裁判所から入院あるいは通院の決定を受ける者の数につきましては、殺人、放火等の重大な他害行為を行い検察庁で不起訴処分に付された被疑者のうち、精神障害のため心神喪失もしくは心神耗弱を認められた者、第一審裁判所で心神喪失を理由として無罪となった者、心神耗弱を理由として刑を軽減された者の総数でございますが、平成八年から十二年までの五年間で約二千人でございました。通院医療機関の再入院も想定されることなどから、一年で三百人から四百人程度ではないかと考えております。
 また、本制度において必要となる指定医療機関につきましても、確定的なことを述べますことは困難でございますが、必要な医療が確実に実施されるよう、状況を注視しつつ計画的な整備を図ってまいりたいと考えております。
西村委員 法案を提出されている説明としては真摯さに欠ける。統計を持っておられるのは国家である、あなた方である。したがって、我々立法の側としては、行政に聞かざるを得ないということであります。先ほども、かなりこの点に関しては質疑がありましたから、再び申しません。今のことだけを申しておきます。
 次に、各地方裁判所において、精神保健審判員が運命を決するわけですね。また、精神保健参与員、この方はどういう専門的知識、技術を有する者で、何人確保できるのか。まず、各地方裁判所において精神保健審判員は確保できるのか、それから、精神保健参与員とはどういう専門知識、技術を有する者で、何人確保できるのかということについての御答弁をお願いします。
高原政府参考人 精神保健審判員は、精神保健判定医の中からあらかじめ地方裁判所が選任した者のうちから、処遇事件ごとに地方裁判所が任命することとなっております。
 これらの名簿に登載されるための条件としては、保健指定医であり、一定の臨床年数があること、司法精神医学に関する研修を受講したことなどでございますが、本制度におきます審判は、全国の各地方裁判所で行われるものであり、一人の精神保健判定医が担当し得る事件数はさまざまであると考えられることなどを考慮すると、確定的なことは申し上げにくいわけでございますが、例えば全体で三百名程度の精神保健判定医を確保することが必要であり、これらの確保というふうなものは十分に可能であるというふうに考えております。
 参与員につきましての専門性等でございますが、精神保健参与員は、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的な知識及び技術を有する者の名簿に記載された者のうち、あらかじめ地方裁判所が選任された者の中から、処遇事件ごとに裁判所が指定することとなっております。
 この名簿は厚生労働大臣が作成することとなりますが、この名簿に記載されるための要件でございますが、精神病院、精神保健福祉センター、保健所等で、精神障害者の社会復帰に関する相談、援助につきまして相当の実務経験がある有識者、例えば精神保健福祉士や保健師、看護師等を想定しております。また、それらの者であって、司法精神医学に関する研修を受講した者とすることを現在検討中でございます。そして、名簿の作成に当たりましては、人材の確保に向けまして、各方面の理解と協力を求めてまいりたいというふうに考えております。
 なお、精神保健参与員の中心となります精神保健福祉士は、精神保健福祉士法第二条におきまして、「精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、精神病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者の社会復帰に関する相談に応じ、助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを業とする者」とされておりまして、現在の登録者数は約一万二千人であり、確保は十分可能であると考えております。
西村委員 本法はどの領域に乗っておるかといえば、精神医療の領域に乗っております。したがって、本法が絵にかいたもちになるかならないかは、精神医療一般の充実が期されるような体制に我が政治があるのかということにかかってくるわけでございます。民主党の案も実はこの点に切り込んでおるわけでございまして、この両者が一体となって、立体的な充実したこの法の機能が果たされるものと思います。
 したがって、厚生労働大臣に、精神科医療一般の充実、底上げ、見学したところでは、やはりマンパワーが足りない等々のいろいろな御意見が現場にはあるわけでございますが、どういうふうな御所見を持って精神医療一般の充実を図らんとするかについての御説明をお願いいたします。
坂口国務大臣 御指摘をいただきましたように、精神病一般につきましてのレベルアップが大事なことはもう御指摘のとおりでありまして、今回の提案いたしております法律の内容の部分、そして一般におきます精神医療全体のレベルアップ、これは車の両輪であり、むしろ、一般精神病の治療レベルのアップがあるいは基礎として大事であるというふうに私も思っている次第でございます。
 そうした意味から、今までの入院中心の治療のあり方から、地域生活を支援するようなあり方へと転換をしていかなければなりません。そこで、ことしの秋を目途にいたしまして、精神保健、医療、福祉の総合計画を策定することになっておりまして、現在、社会保障審議会の障害者部会におきまして、鋭意検討を進めていただいているところでございます。
 具体的には、病床の機能分化を図ること等による適切な精神医療の確保、それから在宅福祉サービスの充実、それから精神科救急システムの確立等の精神障害者の地域生活の支援、それからもう一つ挙げますと、医師、看護職員、精神保健福祉士等のいわゆる保健、医療、福祉関係職種の確保と資質の向上、そして精神障害に対する理解の促進及び心の健康対策の充実、こうしたことが現在議論をされております内容でございまして、ことしの秋にはその結論を出していただいて、それに従いまして内容を充実したいというふうに思っております。
 七万人と言われます社会的入院があるわけでございますが、この人たちを少なくしていくということも大事なことでございまして、この七万人の社会的入院を、大体どのぐらいの年限でその人たちに地域で生活をしていただけるようにするかというスケジュールもつくらなければいけないというふうに思っております。それに何年を要するかということにつきまして、今ここで明確に言うことはでき得ませんが、少なくとも五年なり十年以内には、その七万人の皆さん方が地域にお帰りになれるような体制をつくらないといけないというふうに考えているところでございます。
 こうした問題につきまして、さらに今鋭意検討を進めているところでございますが、御指摘をいただきましたことを十分に踏まえて、ひとつ整理をしたいと思っております。
西村委員 今、大臣が締めくくられたのも、社会復帰の段階における御答弁で締めくくられておりますが、本法においても当然ながら、社会復帰のための重要な段階の地域社会での処遇、この成否が本法の目的を達するか否かを決めるわけでございます。したがって、ここで概略の御説明をいただきたいのは、地域社会における処遇でございます。
 これは、保護観察所が各地域にございまして、そこを中心に処遇の計画等をめぐらすわけでございますが、この地域社会における処遇を担うものは何か、そしてどのような処遇が行われるのかということについての概略の御説明をお願いいたします。
横田政府参考人 お答え申し上げます。
 まず、いわゆる社会内といいますか地域内の処遇の枠組み全般について申し上げますと、本制度におきましては、保護観察所は、通院患者に対しまして精神保健観察を実施いたします。そして、必要に応じまして、裁判所に対し処遇の終了あるいは再入院等の申し立てをいたします。それとともに、いわば地域社会における処遇のコーディネーターという役割がございまして、それによりまして、関係機関相互間の連携を確保する役割を担うことにしております。これによりまして、通院患者に継続的な医療を確保し、その社会復帰を促進するということにしております。
 若干これらの項目についてさらに御説明申し上げます。
 まず、精神保健観察でございますけれども、これは、具体的には、精神保健観察官が、医療機関、通院医療機関はもとより、地域社会で精神障害者に対する援助業務を行っている、保健所、精神保健福祉センターあるいは福祉事務所等種々の関係機関がございますが、そういった関係機関と十分に連絡をとり合いながら、通院患者の通院状況あるいは生活状況などを見守り、そして患者やその家族からの相談に応じるなどして、通院や服薬がきちんと行われるように働きかけていく、そしてまた、それに必要な援助等があれば、これまた関係機関と連携をしながらそれを行っていくということでございます。
 また、保護観察所の長は、継続的な医療を確保する上で必要と認める場合には、地方裁判所に対して、入院によらない医療を行う期間の延長や、それから再入院を申し立てる、また、他方におきまして、本制度による処遇の必要がなくなったというふうな判断をされた場合にありましては、裁判所に対しましてその処遇の終了を申し立てるということを行います。
 それから、もう一つは、これまたいわゆる社会内というか地域内処遇の大きな柱、精神保健観察と並んで大きな柱となりますのが、関係機関との連携の確保でございます。
 本制度におきましては、保護観察所による精神保健観察のほかに、通院患者に対しまして、指定通院医療機関による医療及び援助、それから、都道府県及び市町村による援助が行われます。具体的には、都道府県、市町村といいますのは、保健所とか精神保健福祉センターとか、そのような現在ある機関ということになろうと思います。そのような機関におきまして通院患者に対しまして継続的な医療を確保するために、このような機関ときちんと連絡をとり合って、そして情報を交換し、処遇計画もそのような意見を総合して決めて、円滑な医療の継続が行われるようにしていくということにいたします。
 いずれにしましても、この関係機関との連携といいますのは、関係機関と申しますのが、今申し上げましたように、都道府県あるいは市町村といった地方公共団体が主でございます。保護観察所は国の機関でございます。そういった関係で、国と地方公共団体が一つの目的を目指して連携し合っていくという形態、これはまた新しい形態でございますけれども、これを何とか連携を密にして、この制度が円滑にいくように努力をして、実効あるものにしていきたいというふうに考えております。
 以上でございます。
    〔園田委員長退席、森委員長着席〕
西村委員 それで、この地域における処遇について自分たちがまた主体的に取り組むという中に入れられるのかどうかについては、非常に関心を持っておられるのが保護司の方々でありますが、本法において、保護司さんを患者の地域社会における処遇の担い手として位置づけていくのか、それともそうではないのかということについて明確にひとつ答弁をいただけますか。
横田政府参考人 お答え申し上げます。
 保護司についてのお尋ねでございますが、ただいま申し上げましたように、保護観察所における精神保健観察は精神保健観察官が行うということにしております。これは、このような本件が対象とする方々に対する処遇といいますのは、精神保健や精神障害者福祉等に関する専門的な知識経験が必要である、まずもってそれが不可欠でございますので、そのような知識経験を持つ者を精神保健観察官として配置するということでございます。
 現在の保護観察所といいますのは、現行法制のもとにおきましては、犯罪を犯した者あるいは非行に陥った者の社会復帰を助けるといいますか、指導し、援助して社会復帰を促進するという業務をしているわけで、この新しい制度とはその対象者、目的も違うわけであります。保護司さんは全国に五万人近くいらっしゃるわけですけれども、このような方々も現行の法制下における保護観察を担ってくださっているわけで、これらの方々は、新しい制度が対象とするようなそういう処遇についての専門的な知識経験はほとんどございません。したがいまして、そのような方々に対してこの新しい制度を担っていただく、直接関与してもらうということは予定してございません。法律もまた、そのような条文は法案においては立てておりません。
 以上でございます。
西村委員 次に、私が前回も指摘させていただいた審判の公開について再度御質問いたします。
 言うまでもなく、近代司法が普遍的に公開の原則をとっておりますのは、これは、密室における人権侵害を未然に防止するとともに、ひとしくこの社会の実相を国民が知る権利があるという前提に立っておると思うんですね。
 また、第七回の法務省、厚生労働省の合同検討会における、前回も指摘した患者さんの声は、「裁判を行わない限り事実関係が一切合財やみの中に葬られてきてしまいます。それが今までの日本における精神障害者の起こした事件の大半です。そういうことがあるがゆえに、逆に精神障害者に対する誤解や偏見というものが増長されてきたと私は考えております。」「精神障害者を一般国民と区別するという考え方は基本的には私は間違いだと思います。万が一、私が犯罪を犯した場合にはきちんと裁判を受けたいと思います。」この「裁判を受けたい」の「裁判」は、言うまでもなく、近代司法が普遍的に原則としている公開の場での裁判であると私は思うわけでございます。
 精神障害のゆえをもって殺人を犯した、まことに無惨なことでございますが、我々はそこから目をそらしてはいけないのであります。あらゆる病気に対する偏見が薄れてきた歴史を振り返ってみますと、もちろん患者のプライバシーは重要でございますが、その病気とその病気がもたらすものから目をそらさなかったということでありまして、それがあったからこそ初めて偏見が薄らぐのであって、精神障害も例外ではないと私は考えておるわけでございます。
 その意味で、四十一条一項の問題に絞りますが、対象行為を行ったと認められるか認められないかを争う審判、これにおいても非公開が原則というのは、私には少々納得できないわけでございます。申すまでもなく、プライバシーは保護されねばなりません。しかし、公開の原則を持つことによって、密室の中で誤った判断がなされるのかなされないのか、これがある程度は防ぐことができる。精神障害のゆえをもって密室で公開せず事実の認定をするということは、近代司法の原則に反する重大な例外である。この重大な例外をあえてしなければならないほどの根拠が精神障害者に限ってあるのかどうか、これが私の最大の疑問であります。
 したがって、この点については法務当局はどう考えておるのか、この答弁をいただきたい。
古田政府参考人 いわゆる審判の公開につきましては、これは、委員御案内のとおり、訴訟手続に関して憲法で保障が定められているわけでございます。いわゆる非訟事件については及ばないものと理解されているわけでございます。
 ところで、この審判手続でございますが、まず一点御理解いただきたいのは、この対象行為を行ったかどうかということについては、これは、検察官が不起訴にした場合に、検察官の判断には確定力がないということから裁判所において確認をするということにしているものでございまして、その際に、仮に対象行為の存否について争いが生じ、疑問があればその場合に必要な事実の取り調べを行うということで、この審判が事実認定自体を目的とするものではないということでございます。
 さらに、実際の問題といたしまして、ただいま委員も御指摘があったところでございますけれども、この対象行為を行ったか否かに関する審判におきましても、やはり、行為当時の対象者の状況その他精神状態等に係る事実、こういうことも明らかにされるということは十分あり得るところでございまして、率直に申し上げまして、プライバシーに深くかかわらざるを得ない、あるいはまた、これが一般的に明らかになるとそもそもの対象者の治療や円滑な社会復帰にも支障を来す、そういうおそれが、これはもう現実問題として考えなければならないわけでございます。
 そこで、この審判につきましては、被害者等の方には傍聴をしていただくということは考えておりますけれども、広く一般に公開するということは適当でないと考えたものでございます。
 これは精神に障害のある方だけに限るのかというようなお尋ねですけれども、現行法で申し上げれば、少年審判も同様の考えに立っているところでございます。
西村委員 御説明はいただいておるんですが、結局、我々の法の体系は、心神喪失の状態で犯罪を犯したら無罪だということなんです。したがって、被告人としては無罪をかち取る権利はある、その無罪をかち取る権利においての審判は公開でされる。それと整合性が合わない。事実の認定において、その事実はないんだ、いかに心神喪失状態でそこに立っておったとしても、その犯行現場の近くに立っておって彼が捕まえられたとしても、その犯行時間帯に彼がほかのところにおったという目撃証言をもって彼がその事実を犯していないということの事実の認定においては、彼の有利に展開することであり、彼の有利に展開すること、彼の権利である。したがって、その権利を獲得するための行為は、無罪の確定判決を得るために彼が公開裁判においての最後の判決を求めるように、彼の権利である、したがって、公開しても何ら差し支えない、私はそう思っておるわけでございます。
 そして、今の御答弁においても、近代司法が持っている公開の原則、密室では人間は誤るんだ、密室では権力が暴走するんだ、だから公開だという原則を翻すに足る根拠とは思えないわけでございます。このことは申しておきます。
 さて、逐条的なことにまた戻るんですが、先ほども出ました十四条、決定は精神保健審判員と裁判官の意見の一致による。意見が一致しなければどうなるのかということでございます。
 入院治療を要する、通院治療を要する、これで意見が分かれているけれども、治療を要するという点では一致しているから入院治療になるんだという理屈はわかる。入院治療を要する、治療を要しない、この二つの見解に分かれたときにいかなる決定がなされるのであろうか。これについての御答弁をお願いします。
    〔森委員長退席、園田委員長着席〕
古田政府参考人 この意見の一致したところによると法文でしている趣旨は、あくまで意見の合致がなければ不利益となるような処分は言い渡さない、そういうルールを定めたものでございますので、ただいまの御指摘のようなケースの場合には、治療の必要がない、したがってこの処遇制度の対象にはならない、こういう決定をするということになるものでございます。
西村委員 それはわかりました。
 その決定に関しては、検察官に抗告権を与えております。しかし、同じことは治療途上における医療終了等の決定に対しても起こるわけでございます。これに対して検察官に抗告権を与えていない。これは本法の非常な欠点であると存じます。この私の考えを指摘して、質問を終えます。ありがとうございました。
園田委員長 次に、木島日出夫君。
木島委員 日本共産党の木島日出夫です。
 六月二十八日に続きまして、政府提出法案に関して質問をいたします。
 最初に、通院治療についてお聞きをいたします。法案でいきますと、第四章「地域社会における処遇」の問題であります。
 地域社会にありまして、通院を確保して適切な治療を中断なく継続する、そして社会復帰を促進することは、今日の精神医療の大きな方向でもありますし、現行精神保健福祉法にはない大変大事な新しい試みが法案の中には盛り込まれていると思います。問題は、その中身であり、とりわけ、その中心的な役割を担う主体をどうするかという問題であると私は思います。
 既に、現行法として我が国に定着しております精神保健福祉法には、地域精神医療の任務を担う中心的組織として、各都道府県に精神保健福祉センターが設置をされております。この精神保健福祉センターの指導、援助を受けるものとして保健所が位置づけられ、地域における大変大事な中心的な行政機関としてたくさん全国に配置されているわけであります。
 なぜ、今度の政府法案においてこの精神保健福祉センター、保健所を、通院治療確保、いわゆる地域社会における処遇ですが、これを担う中心的主体と位置づけないで、そして、精神医療、保健、福祉には全く経験と知識のない法務省の保護観察所にこの中心的仕事を担わせようとするのか、私は本当に理解できないんです。この制度の根幹部分でありますから、その理由を、前回も法務大臣にはちょっとお聞きしましたが、重ねて、法務大臣と厚生労働大臣からきちんと答弁を願います。
森山国務大臣 この制度におきまして、対象者の地域社会における処遇に保護観察所が関与することにいたしましたのは、第一に、この制度による処遇につきましては国の機関が中心になって統一的に行うことが適当であると考えられたことでございます。第二に、その対象となるもの、目的、職務を遂行する上で必要となる専門知識などは異なるものの、裁判所への申し立て手続など、保護観察所の従来の業務と類似する点もあると思われること、第三に、保護観察所は各都道府県に少なくとも一カ所は置かれておりまして、その全国的なネットワークによって、対象者の退院や転居による遠隔地への移動などにも的確に対応いたし、精神保健観察等の事務を円滑に実施できることなどを総合的に考えたものでございます。
 なお、精神保健福祉センターにつきましては、精神障害者全般について相談、指導等を行う施設でございますので、保護観察所との連携のもと、この制度の対象者の処遇にも相応の役割を担っていただくことになると考えております。
坂口国務大臣 今法務大臣からお述べになりましたとおりでございますが、この保護観察所がいわばコーディネーターというふうになるということになるわけでございますが、しかし、先ほど委員がお挙げになりましたような精神保健福祉センターなどは、やはり十分な協力を申し上げなければならないというふうに思います。そして、その他、保健所等もその中に当然のことながら入ってまいりますし、福祉事務所などの関係機関も入ってくるというふうに思います。
 コーディネーターは保護観察所でございますけれども、そこに総合的にその地域の保健あるいはまた福祉の関係のところが協力をして、そしてこの人たちの地域における監督と言うと言葉は悪いですが、この人たちの動向というものにやはり協力をしなければならないというふうに考えている次第でございます。
木島委員 坂口厚生労働大臣は、まさにコーディネーターの役割を担うんだとおっしゃいました。まさにそうだと思うのですね。そうしますと、現行精神保健福祉法第二章「精神保健福祉センター」第六条によりますと、その二項で、「精神保健福祉センターは、精神保健及び精神障害者の福祉に関し、知識の普及を図り、調査研究を行い、並びに相談及び指導のうち複雑又は困難なものを行う施設とする。」明確に位置づいているわけですね。いろいろ問題があるんでしょうが、現行精神保健福祉法のいわゆる措置入院、全体の措置入院の中から、いわゆる触法精神障害者、心神喪失等によって重大な他害行為を行い、そして厳格な審判手続を経て入通院措置が必要だと認定された者は、この現行精神保健福祉法のまさにこの六条二項の複雑、困難なものを行うそのものじゃないか。そうすると、日本の地域精神医療福祉の中心を担うものとして国は精神保健福祉センターを位置づけて、これを充実強化しようというのが国策の大きな方向じゃないのですか。
 そうしますと、なぜ今回、ここに政府が提出した法律の対象者の地域の処遇の責任を持たせなかったのか、坂口厚労大臣の答弁を聞いてみると不思議でならないのです。
 森山法務大臣が三つの点を理由に挙げました。全然理由になっていないと思うのです。国の機関がやるんだとおっしゃいました。しかし、今回、入院治療については国立病院だけじゃないでしょう。大事な入院治療を担うものの中心的なものの一つとして都道府県立病院に入院を任せているじゃないですか。それは理由にならないですね。
 専門知識が必要で、連携が必要だ。まさにその連携をやっているのが、今日、日本では精神保健福祉センターじゃないですか。
 そして、三番目の理由として、裁判所への手続などもやる。そんなことも、まさにこの精神保健福祉センターの担当者の能力を高めることを通じて裁判所に書類提出なんかできるようになるんじゃないのでしょうか。
 そしてもう一つ。現在、各都道府県に一つ保護観察所はあるとおっしゃいました。それなら、精神保健福祉センターも各都道府県に一つあるじゃないですか。そして、直接に指導、援助をすべき保健所が、まさに精神保健福祉センターの下に、ずっと網の目のように張りめぐらされているじゃないですか。法務大臣の理由は全面的に崩れている、成り立ってないと思うのです。ほかに理由はあるのですか。
高原政府参考人 委員御指摘のとおり、精神保健福祉センターは、都道府県もしくは政令市の設置によるものでございまして、精神保健福祉法におきます精神保健福祉の業務全般におきましてリーダー的な役割を果たしている、また、そうなければならないということは委員御指摘のとおりでございまして、この充実に関しましては今まで以上に努力を払う、そういう所存でございまして、この問題につきましても精神保健福祉センターが技術的な面で全面的に協力をするということは、そのとおりでございます。
 しかしながら、個別のケースのマネジメントに関しましては、これが司法との関係ないしは裁判所との関係等を取り扱うというふうな点から見まして、都道府県もしくは政令市がやっております精神保健福祉センターにお願いするよりも、国の機関でございます保護観察所でやり、精神保健福祉センターがそれに対して全面的に協力を行う、また、保健所、市町村もそれに対して全面的に協力を行うというふうな形の方が効率的ではなかろうかというふうに考えたわけでございます。
木島委員 全く説得力ないんですよね。
 もう既にこれまでの審議でも明々白々ですが、現在、法務省所管の保護観察所は、全体で約一千名ちょっとの体制であります。そのうち、現実に、犯罪を犯して執行猶予等で出てきている者、仮釈放で出てきている者、少年事件で出てきている者、そういう者に対する保護観察を行う実動部隊は六百名であります。しかし、その者には、今回の法案での精神障害者に対する地域での処遇を行う能力は全くない。答弁、もう既に出ていますね。きょうも答弁出ましたが、保護観察所が委託をしている全国六万を超える保護司の皆さんは、この法の対象ではない。使えない、使わない、明確な答弁が出ました。
 今の保護観察所は、この法案で担うと想定されております種々の業務、百四条では、大変大事な処遇の実施計画をつくることになっております。百四条第二項によりますと、これは政令で定めるんでしょうが、医療管理者との連携、それから市町村との連携、その他福祉に関するいろいろな形の取りまとめ、コーディネート。全く能力はないんですよ、経験もないんですよ、今の保護観察所の皆さんには。ですから、この法律で、全く保護観察所でやったことのない仕事を新たにやらせるということで、精神保健観察官というのをわざわざつくり出そうとしているんでしょう。それなら、精神保健観察官を全国にある精神保健福祉センターに配置すれば非常に素直じゃないですか。
 そこで、聞きます。
 では、この法案で配置しようとしている精神保健観察官というものは、どんな能力と資格を持った人たちを配置しようとしているんでしょうか。先ほど、同僚議員の質問に対しては一つだけ職種を挙げました。精神保健福祉士という職種を挙げました。資格を挙げました。それだけじゃないんでしょう。全部列挙してください。簡単でいいですよ。列挙してくれれば。
横田政府参考人 お答え申し上げます。
 精神保健観察官にどのような方を考えているかということでございますが、先ほども申し上げましたように、典型的といいますか、一番考えておるのは精神保健福祉士、いわゆるPSWでございます。いずれにいたしましても、要は実質の問題であると考えておりますので、精神保健福祉士を初めとする、本制度の施行に必要な知識経験を有する者を精神保健観察官にするということでございます。(木島委員「言ってください。看護師とか、全部列挙してください」と呼ぶ)
 具体的には、現在官民においてこのような精神保健あるいは精神医療、精神障害者福祉に携わっている方が現に大勢いらっしゃるわけでして、それから、現に携わっていなくてもそういった資格をお持ちの方もいらっしゃるわけですから、そういった中から……(木島委員「それを名前を列挙してくださいというのが質問ですよ。理屈は要らない。看護師とか、要するにそれを全部列挙してください」と呼ぶ)看護師とか保健師とか、そのようなことを前提としております。
木島委員 簡単に答弁すればいいじゃないですか。精神保健福祉士、看護師、保健師、ほかにあったら言ってくださいよ、これらの資格、職種は、すべて現行法体制では厚生労働大臣が資格試験の責任者であり、直接都道府県に委任しているかもしれませんが、全部厚生労働大臣、厚生労働省の所管の筋の資格じゃないんでしょうか。イエスかノーで答弁してください。
横田政府参考人 お答えいたします。
 そのようなものの資格付与は厚生労働省の所管でございます。
木島委員 そうなんですよね。厚生労働大臣の所管のもとに試験が行われ、資格が付与される。まさにそういうものの中から精神保健観察官が任命され、地域精神保健の大事な中核を担う、本当に大事な中核だと思うんです。
 それなら、何でそういうものを、その能力と資格、経験がない法務大臣の所管の保護観察所の配下に置くんでしょうか。不思議でならない。理由になっていないんです。
 何人ぐらい置くのかということをお聞きしたいと思う。先ほど同僚委員からの質問に答えて、一人の精神保健観察官は大体五人から十名の対象者を持つことになるだろう、そこまでの答弁がありましたが、もっと具体的に答えてください。
横田政府参考人 お答え申し上げます。
 具体的にということでございましたが、これまで御説明申し上げておりますように、この精神保健観察官の仕事といいますのは全く新規でございまして、つまり、これから新しく始まる業務ですので、いろいろな場面を想定して、そしてその中で考えていくことになります。
 したがって、あらゆる要素、要因というものを踏まえながらですけれども、実際には実施した上での具体的な事件の事件数、対象者の数とかあるいはその内容であるとか、そういったものに左右されてまいりますし、そういった状況に対応して人員の確保、体制の整備をしていかなければいけない、そういう性質のものだというふうに考えております。
 そこで、先ほど西川委員のお尋ねにお答えいたしましたのは、そのような浮動要因といいますか、不確定要因があることを踏まえまして、現在考えているところによれば、これは制度がある程度進行して、動いて、いわば安定的に動いている状態を前提にいたしますと、精神保健観察官一名当たりの担当件数は五件ないし十件であろう、そして、それについてもまたいろいろな、先ほど申し上げたような各種の要因が入ってくるので、そこのあたりは、現実に動いていって、そしてその推移を見ていく上で具体的な確定をしていくことにならざるを得ない、事の性質上そういうものであるというふうに御説明申し上げまして、これ以上具体的なことは現時点ではなかなかお答えするのが困難であるというふうに思います。
木島委員 大事な部分は答えようとしませんが、先ほどの答弁を聞いておりますと、全体の対象者が数年後には千数百人になるとおっしゃいました。一人の精神保健観察官が五人ないし十人持つということになりますと、百数十名から数百名の精神保健観察官を配置しなければならない、配置することが必要だ、そう想定している、そう聞いていいですか。
横田政府参考人 お答えいたします。
 本制度を実効あるものとして十全を期するためには、必要な数の精神保健観察官が必要である、そして、それの必要な数といいますのは、先ほど申し上げたとおりでございます。
木島委員 まともに答えられませんが、逆算しますとそういうことになります。法務省の想定ですと、百数十名から数百名、本当に幅があって、こんな法案を審議しているときにそれすら答えられないというのは無責任だと私は思うんですね。
 そこで、聞きたい。
 調べによりますと、この皆さん方は、全部法務省の所管に入り、保護観察所の所管に入ります。我が国では今、政府は、定員法によって人員削減をどんどんとやっております。法務省からいただいた資料によりますと、保護観察所の総定員は平成九年度千百五名、そして九年、十年、十一年、十二年、十三年、十四年と毎年十四人から十三人が削り込まれてきまして、平成十四年度の保護観察職の職員は千八十一人にまで減ってしまいました。そのうち、実動観察官は、先ほど私言ったように、約六百名という数字が出ています。
 さて、そこで、全く今の仕事にない、新しい職掌が入ってくる、職務が入ってくる。精神保健観察官を百名から数百名配置できる人員確保、予算確保に関して、きょうお呼びしておりませんが、総務省、財務省の了解は取りつけてあるんでしょうか。
横田政府参考人 お答えいたします。
 この制度は、法案ができまして、それから施行の問題になりますので、必要な人員確保も含めまして、予算の確保につきましても、この厳しい財政状況でございますけれども、財政当局の御理解を得ることに全力で努めてまいりたい、こういうふうに考えております。
木島委員 まだ取りつけていないようです。
 法務大臣、そんなので大丈夫ですか。私は、前回、現在の保護観察官がどんな大変な仕事になっているか、数字を挙げましたよ。保護観察事件、一人平均百十六件、環境調整事件といいまして、仮釈放、仮出獄をしてきた人たち、犯罪を犯した者ですよ、精神障害者ではありません、そういう人を一人当たり八十九件しょっているというんですよ、現行保護観察官の実動部隊が。二百五件ですよ。そこで毎年十三人ぐらい人が減らされているんですよ、皆さんがおやりになっている行革の名において、総定員法の名において。どうなるんですか、法務大臣。
森山国務大臣 確かに行財政改革のもとで大変厳しいということはよく承知しております。全国の保護観察所にも必要な人員を確保するように努めていきたい、ずっと今日までやってまいりましたが、なかなかこちらの希望するとおりにはいっていないのが現実でございますが、このたび、この法律をもし成立させていただけることになれば、新たな具体的な仕事がふえるということがはっきりいたしてまいりますので、そのことも十分見てもらって、ぜひ理解を得て、最大の努力をして実現していきたいというふうに思います。
木島委員 私は、根本的に、精神保健観察官を現行法務省所管の保護観察所の中に置くというのは大反対なので、厚生労働省がしょうべき部分だと確信しているわけですが、人数すら今の法務大臣の答弁では確保することがままならない状況になっているんじゃないかということだけきょうは指摘しておきまして、次に、もう一つの大事な柱である入院治療についてお聞きをいたします。
 前回もちょっと聞いて、高原部長が答弁されているのですが、もっと端的に、現行の精神保健福祉法による措置入院のもとで行われている治療に比較して、本法の入院治療によって行われる治療は、どの部分がどのようにプラスされてくるのか、法務大臣の言う、手厚くなるのか。具体的な、どこがプラスされてくるのか、基準を示していただきたい、内容を示していただきたい。
高原政府参考人 現在の措置入院におきます治療に加えまして、今行われているものは当然行うといたしまして、個人的な精神療法では、怒りのマネジメントなどの暴力の自制能力向上のための治療、それから、重大な他害行為について内省をはぐくみ、また被害者への共感をはぐくむというふうな、患者に対し療養に取り組むインセンティブを与える個人・集団精神療法、それから、適切な人間関係を築く技能を習得させます社会生活の技能訓練、それから、一方、家族へのカウンセリングにおきまして重大な他害行為の再発防止への助言、それから、患者の行動観察を入念に行いまして、おそれの評価を行うというふうなことにつきまして、加えて行うということでございます。
木島委員 そうしますと、そのような治療を行うために必要な人的、物的体制をどのように厚生労働省は考えているのでしょうか。専門病棟をつくらせようとしているのでしょうか。一つの専門病棟には何床ぐらいを考えているのでしょうか。そして、相対的に、今のような治療をやるためには、現在の我が国の配置基準に比べて、医師、看護師その他のスタッフの数の配置基準などをどのように変えようとしているのでしょうか。具体的な数字で答弁願います。
高原政府参考人 病院につきましては、新病棟をつくってそこを指定するのかということにつきましては、そのとおりでございます。病棟単位で考えております。
 それから、その病棟におきます病床のサイズでございますが、これも諸外国等の例を見ますと、やはり三十から四十、二十五から三十、四十というところが多うございますので、ここら辺のところを十分勘案してまいりたいと考えております。
 人員配置につきましても、例えばイギリスの類似施設につきましては、医師一名につきまして患者が八名から十七名というふうな統計もございます。こういうふうなものも勘案してまいりたい。
 それから、看護職員一名に対しまして、これは必ずしも看護職員全員がいわゆる資格者ではないというふうに聞いておりますが、看護職員一名に対して患者〇・六名から〇・七名というふうな数字も聞いております。
 それから、精神保健福祉士、臨床心理技術者、作業療法士につきましては、それぞれ複数名必要なのではないかというふうに考えております。
木島委員 では、ついでに、現行日本の法制度ではどんな数字か、簡単に答弁してください、比較のために。
高原政府参考人 医師につきましては、いわゆる医療法の総合病院等におきましては、医師一名に対して患者が十八名、それ以外の精神病床につきましては四十八名ということになっております。
 看護職員一名に対しましては、特例により、六名までの緩和が認められております。
木島委員 今、高原部長はイギリスの例を引きまして、そこを一つの参考にしたいと。大変結構なことだ。しかし、それを本気になってやろうと思ったら、これもやはり人員体制、基準づくりから変えなきゃいかぬ。物すごい大変な仕事。それをやる覚悟あるいは計画、坂口厚生労働大臣ありますか。はっきり答弁してください。なければ、これは絵にかいたもちにならざるを得ないから、私はそこを詰めたいんです。
園田委員長 その前に、何か訂正か追加があるそうですから、ちょっとだけ。
 簡単に言ってください。
高原政府参考人 総合病院等におきましては、医師一名に対しては患者十六名、それから、看護職員一名に対しては四対一ということで現行制度はなっております。失礼いたしました。
坂口国務大臣 日本には日本のやり方があるというふうに思いますけれども、しかし、先進諸外国の例というのは大変大事でございますから、十分に参考にさせていただきながら確立をしたいと思っております。
木島委員 もう時間ですから終わりますが、参考にしたいぐらいの答弁じゃだめですよ。この法律を成立させて二年後に動き出すというんだったら、もうそれをやるということを厚労省が決めて、そして財務省、そして総務省ですね、定員の問題ありますから、これは了解をとってここへ提案すべきじゃないかということを私は求めて、質問を終わります。
園田委員長 次に、阿部知子君。
阿部委員 社会民主党・市民連合の阿部知子です。
 前回に引き続きまして、本日が第二回目の厚生労働省と法務省の合同審査という形で持たれておりますが、先立って、昨日、この両委員会で松沢病院並びに成増厚生病院の視察を入れていただきました。議員各位も御承知と思いますが、松沢病院は日本の精神医療の中で一番、人的な、スタッフ面でも敷地面でも恵まれた病院でございます。そして成増厚生病院も、いわゆる民間病院の中では充実したスタッフと、それからいろいろな地域医療への試みがなされている、ある意味では点数の高い病院でございます。
 この二つを視察して、でも、なおかつ、私は思いますが、一般の入院の病棟と、そして松沢病院並びに成増病院の、まずアメニティー、広さ、古さ、そしてやはり隔絶された感覚、これは果たして何であろうか、我が国がまだまだ、一般医療と精神医療ということにおいて、まあ六割、精神医療はまだ一般医療の六割にも及ばないところでの実践をしておられるなと、私は改めて昨日の視察で思った次第であります。
 実は、私は、学生時代、精神科医になりたいと思いまして、松沢病院には約三年以上ボランティアとして通ったことがございます。そして、昨日、松沢病院の院長がおっしゃいました、早くにこの法案を成立させてほしいと。しかし、その背後にある真意は、やはり正直申しまして、医療者として、人手がかかる、やはり綿密な治療を必要とする方を何とか区分けして、今ほかの患者さんに手の回らない分回したいというお考えでした。これを医療者側から見れば、ある種納得する考えもありましょうが、私は、本委員会の審議も含めて、これまでの審議に大きく欠けているものがあると思います。
 これまでの参考人の中でも、なぜ精神病を病む御当人、当事者、御本人たちがこの場に呼ばれなかったのでしょうか。私は、精神医療にかかわる医師すら患者を差別する、これは人間がある種本当に業として持つような、やはり何か自分とは違うんじゃないか、危険なんじゃないか、そういう感覚を持ちやすい、私すら持っているであろうという現実を踏まえたときに、この法案の対象となります精神障害の方、そのまた一部が触法、法を犯されるようなところに追い込まれるわけですが、この方たちを呼ばずしてこの審議がこれ以上進んでいっても、先ほど言いました処遇やいろいろなことに手のかかる、医師たちから追い出される形で、犯罪を犯した患者さんたちという形で区分けされていくことになりはしまいか、極めて不安でございます。
 そこで、委員長にお願いがございます。この合同審査の委員会において、ぜひとも患者さんの声並びに患者さんの人権に深くかかわってこられた方の声を委員会として聴取していただく場を御検討いただきたい。まず一問目、お願いいたします。
園田委員長 これからの審議をこれからいずれにしろ検討することにしておりますので、そういう御意見も参考にさせていただきたいと思います。
阿部委員 この点はぜひとも、例えばハンセン病問題でも、その施設に隔離されて長い年月を過ごされた方の声、これは当事者の声を聞かずしてやはり私ども、そうでない者はわからないというこの大前提から出発しますので、重ねてお願い申し上げます。
 そこで、森山法務大臣に通告外のことで御質問がございます。
 森山法務大臣は、この法案の御提出に当たって、精神を病む方たちの当事者の方たちにお目にかかられたことがありましょうか。まず一点お願いします。
森山国務大臣 この法案提案に関してということはございませんでした。それ以外のことでは何度かあるものでございます。
阿部委員 では二点目、お願いいたします。
 特に、法務大臣御管轄の刑務所内の精神障害をお持ちの方、そして医療刑務所内で精神障害ゆえに療養している方、この方たちにはお会いになったことがございますでしょうか。
森山国務大臣 残念ながら、医療刑務所を訪問することが今までできませんでしたので、そういうことはございませんでした。
阿部委員 私は、かかる法案を提案するに際して、このテーマは触法精神障害者でございます、片や医療刑務所で、あるいは刑務所の中にも約千人精神障害ということをあわせ持った方が受刑しておられます。そして、医療刑務所には五百数十人だと思います。こうした方たちの治療の実態、処遇の実態、受けておられるいろいろな心の問題、ぜひとも大臣の責任においてお訪ねいただきたいと思います。
 なぜ私がこうしたことを申し上げるかといいますと、実は、私はきょう、これもぜひとも森山大臣にお願いしたいのですが、私の古い友人で、もう昭和四十八年に亡くなられた小林美代子さんという作家がおられます。この方は、三十八歳から精神病院に五年間入院歴をお持ちで、五十四歳、ちょうど今の私の年ですが、そのときに群像の新人賞を受けられ、その受賞理由は、精神病院の御自身の入院経験を書かれた「髪の花」という御本が受賞の対象でございました。精神を病みながら、自分の顔も忘れてしまったお母さんに対してつづられたこの本は、以降、長く精神病院で入院しておられる他の患者さんたちに読み継がれて、今も隠れたベストセラーでございます。
 その彼女の言葉から、私は、あえてきょう、ここで本来は精神を病む方たちの御本人が御発言いただければいいのですが、私が代読する形で彼女の言葉の幾つかを引かせていただきます。「看護者は正常な人間の代弁者として、私達に人間に価しない屑、動物にも劣る自分を認識せよと、ことあるごとに明らかにその証を指摘する」。「正常な人間が書けば、何事も、それが真実の重みを持って、誰からも信じられる。」しかし、この裏は、患者であれば、精神障害であれば、例えば文学作品を書いたとて、それは一つの本当の作品としての評価を得ることがない。
 実は、私は彼女が自殺する二日前に井の頭公園で彼女と散歩をした後、吉祥寺駅で別れました。八月のお盆のことでした。昭和四十八年でございます。その十日後、彼女が自殺されて腐乱死体でお部屋で発見されたという記事が載りました。彼女は井の頭公園を歩きながら何度も私に、私が精神病院で経験したことを幾ら書いても、それは精神障害のことを書いて、精神障害者の声としてしか受け入れられない。私は文学者、文学をきわめたい、そう思いながら、決して、この一たび張られた精神障害というレッテルゆえに、私自身の作品は本当の意味では認めてもらえないということを繰り返し言っておられました。私はその言葉を聞きながら、そして彼女の自殺の報に接しながら、なぜ私がそのとき彼女が発していたそのメッセージを、恐らく私が彼女に会った最後の人間だと思うのです、そう思ったときに、自殺も予測できなかった自分、自傷他害の自傷です、私はそのことをもって実は精神科医になることをあきらめましたが、今でも忘れられない。そして、私は三十年ぶりの松沢病院で、私がまだ学生のころ診た患者さんが今もってそこにおられるのもお目にかかりました、向こうが認識してくださっていたかどうかわからないので、お目にかかったとは言えませんが。
 せめてこの法案の審議に先立って、森山大臣には、彼女が群像の新人賞を受けた「髪の花」という本です、今の精神医療の現状をただ声高に指弾するだけでなく、彼女は、どのようにその精神障害の方たちの心が入り組み、悲しみにとらわれ、縛られているかということを綿密に述べておられますので、お読みくださいますようにお願いします。
 そして、その彼女が言っていたことです。「一人の異常者の為に、私達全員の精神病患者が裁かれる。患者以外の人間が千人に一人罪を犯しても、九百九十九人は罪に問われないが、私達は全員直ちに裁かれる」。しかしながら、彼女は同時に言っていました。そのことをもって、自分だけが例えば受賞したからといって、精神病という集団を抜け出して違う評価を受けたいのではない、精神病という病を病む人たち全体のことを理解してほしいと。
 私は、今つくられている法案が、本当にこの一部の手のかかる人を取り分けることによって、逆にさらにこの世に存在する精神障害への差別を助長する、危険な病棟に入り、殺人まで犯したあの病棟に入った人よと社会は見ます。そのことの方が恐ろしくて、多少の改善面はこの法案にもあると思いますが、大きく見れば患者さんのこの社会に受け入れられる枠を否定することになると思って反対の立場をとっています。
 そして、きょうの審議の中で、森山法務大臣が、たとえ数は少なくてもこの法律は必要なんだとおっしゃったときに、きょう金田委員はなぜこの質問をされたか。二千三十七名の他害のうち約一一%再犯があると。であれば、坂口厚生労働大臣が言われる三百人から四百人のこの病棟の患者さんのうち、本当に他害、簡単に率で算出しませば三十人から四十人の方の再犯行為に対して、残る三百数十名は強制的にその治療を受けさせられていくわけです。
 もしもこの比率をきちんとせずしてこの法案を進めた場合、私はしても問題はあると思いますが、ここに生じてくる大きな人権侵害、強制治療による人権侵害に、法務省として認識が余りにもない御発言ではないか。
 もう一度伺います。この法案の提案者お二人に、果たしてこの法律によって対象となる方の数、これはどの委員もきょう聞かれました。どなたも聞かれたのに、お二人とも明確ではございません。まず森山大臣から、もう一度御答弁をお願いいたします。
森山国務大臣 今までたびたび申し上げましたように、今ここで大体何人ぐらいであろうということを申し上げることは正直難しいわけでございまして、しかも、大変数が多いからというのではなく、現にそのような状況に置かれた方がいらっしゃるということがこの法案の立案の理由でございますので、そのために必要な手続を決めておくというのがこの目的でございますから、数の問題ではないと私は思います。
阿部委員 やはり法律を提出するときには、それの立法根拠となる大まかな指標は必要と思います。それは大まかなものでも構わないと思います。でも、私は、この法律の切り口が誤っていると一つ申し上げなければなりません。
 昨日、やはり夜、テレビで池田小学校事件の公判の様子が報道されておりました。森山大臣に伺いますが、この池田小学校事件、司法当局として今お考えになって、何か努力すべきことがあるでしょうか。お願いします。
森山国務大臣 池田小学校事件そのものにつきましては、今公判中でございますので、私からコメントをすることは差し控えたいと存じます。
阿部委員 そういう御答弁と思いました。
 しかしながら、それでは、想定されるこの対象の方たちの数もまだわからない、国民が一番案じている池田小学校事件についても公判任せ。では、一体、この触法精神障害者問題を法務省として考えていく場合の切り口はどこにあるのか。そのことが一向明確でないままに法案だけの形ができ、想定でアバウトに人が囲い込まれて、強制治療による人権侵害が行われていきます。
 こうした法体系は、先ほど西村委員もおっしゃいましたが、普通の司法の場ではすべてオープンで本来行われるべきです。この指定入院に至る過程は全く密室の中で行われる。そのこと一つとっても、いかに人権感覚に逆行するシステムかということが明らかかと思いますが、法務大臣がきちんとおっしゃらない点、いわゆる池田小学校事件は、本委員会でも再三再四問題になっておりました。また、きょうの朝日新聞にも出ておりました簡易鑑定のあり方の問題が明確にここに指摘されていると思います。
 そして、この委員会で、先回の私の質問で資料提供をお願いいたしまして、そのことにより明らかになったことは、やはり簡易鑑定による地域差、起訴率の地域差も著しい。そして、このことを、なぜという踏み込みをせずして法務省として前に進むのであれば、やはり私は同じような事件は同じように起こるであろうと思います。
 この地域差、それから今後の取り組みについて、担当部局からお考えを伺います。
横内副大臣 私から御答弁を申し上げます。
 委員、簡易精神診断に付した割合とか、あるいは精神障害を認定した者の不起訴率といいましょうか、それが非常に地方検察庁によってばらつきがあるという御指摘、その理由は何かということだと思います。
 確かに地検によって差異があるわけでございますけれども、簡易診断に付した数、それから不起訴となった人の数というのは、各地検が受理した人員全体からすれば大変数が少ない、絶対数として少ないものでございまして、したがいまして、その調査対象年度、委員にお示ししましたのは十二年度でございますが、どのような事件が発生をしたのか、また、個々の犯人の状況がどうであったかというような個別具体的な事情が相当程度影響して、こういったばらつきが生じているというふうに考えております。
 いずれにしましても、検察当局におきましては、精神障害の疑いのある被疑者の事件の処理に当たっては、犯行に至る経緯とか犯行態様、犯行後の状況等について十分に捜査をした上で適切な処分をしているというふうに考えております。
阿部委員 もしも一年間の統計で個別のばらつきが消えないのであれば、統計学的には年数をふやせばよいわけです。五年見ていただきたく思います。
 それからまた、私どものいろいろな分析においては、やはり鑑定医の数が限られているところはその鑑定医の認識によりやすい、偏りやすい。そこで、先回の委員会でも申し上げましたが、鑑定医を千葉県のようにプール制にする、そうしたことも具体的にできる対処の指導だと思います。
 こういう法案をお出しになるに当たって、現在、本当に、この立法根拠となった国民の持っている不安は何であるのか。これはいたずらな差別感の助長による場合もありますが、例えば、宅間容疑者は、人格障害と言われ、公判中ですが、彼が何回かの刑務所の刑に服し、あるときは分裂病と呼ばれ、また今では人格障害と診断名が変わっていく。このことの中に非常に問題が浮き彫りにされていると私は思います。
 事実にきちんと目を向けて、余分な国民の差別感をあおることなく法をつくるのが国の役割と思います。今の御答弁であれば、ぜひ五年間と、鑑定にかかわる医師の数をきちんと把握されて、次の御答弁をお願いしたいと思います。
 森山法務大臣にお願いいたします。
 前回の山上参考人の御発言の中で、受刑中に発病して、刑務所や医療刑務所では十分な治療が受けられておらずに、引き続いて重大犯罪を起こすような方が八割なのだという指摘がございました。こういう認識は大臣はお持ちでしょうか。
森山国務大臣 山上参考人の調査結果によりますと、昭和五十五年の一年間に、重大犯罪を犯しながら心神喪失者または心神耗弱者と認められた精神分裂病者のうち、四回以上の前歴を有する者が三十六人おりまして、このうち約八割の者が犯罪を繰り返した後に精神分裂病に罹患し、さらに犯罪を重ねているとの報告がなされたということを承知しております。
 受刑中に一度精神病と診断されますと、次の事件から罪を問われることなく、司法の手を離れ、一般の患者として医療の側に送られてくるとの点につきましては、不十分な鑑定に基づいて安易に不起訴処分が行われているとするものではなくて、不起訴になった者が一般の患者として精神医療を受けており、専門の処遇制度等のもとで適切な治療を受ける体制にないことを指摘したものであるというふうに思います。
 なお、検察当局は、あらかじめ、犯行に至る経緯、犯行態様や犯行後の状況などについて必要な捜査をいたしまして、事件の真相を解明した上で、犯罪の軽重や被疑者の責任能力に関する専門家の意見等の諸事情を総合的に勘案するなどして、適切な処分を行うよう努めているものと承知しております。
阿部委員 ただいまの森山大臣のお読みになっった部分は、山上参考人のおっしゃったことのごく一部を恣意的に解釈されたと私は思います。
 あのとき参考人は、むしろ、刑を犯しながら、繰り返しあるところで精神鑑定を受け、それ以降は精神病院に行って、こういうケースが多いんだとおっしゃいました。ということは、彼のおっしゃる前段、刑を犯した場合に、先ほど私も申しました、全体の、五万人余の受刑者のうち、千人は精神障害がおありであると。もしもその時点できちんとした医療やサポートがあれば、あるいは発病がない場合もありましょう、しても決定的に至らない場合もありましょう。
 私は、本当の予防とは、やはりそこに目を向けて、現在極めて劣悪な医療状況である普通の刑務所の中の精神障害をお持ちの方、そして医療刑務所の中の精神障害をお持ちの方、この方たちにぜひともまず普通の精神保健福祉法並みの待遇をしていただきたい。施錠され、そして、通常であれば受けられる作業療法等々もほとんど施行されておりません。それゆえに森山大臣にはぜひともその部分の視察をしていただきたいと私は申し上げましたが、そのことが実は本当の意味の予防に大きく貢献するであろうと私は思っています。
 今の医療刑務所の精神障害者の方たちの治療実態を皆さんにお知らせしたくて、数値でお示しできるものですが、きょう皆さんのお手元に参考資料を配付させていただきました。「行刑施設における医師の配置状況」というものでございます。このうち、例えば北九州医療刑務所では、患者さんの数は、下を見ていただきますとわかりますが、百十七名。このうち、今度上に参りまして、精神科医の数は二名でございます。百十七名の患者さんに二名の医師。岡崎医療刑務所では、百六十九名の患者さんに三名の医師でございます。
 この方たちに、果たして本当に手厚い、カウンセリングも含めた、あるいは家族関係の調整も含めた、あるいは退院後のフォローアップ体制も含めた手厚い医療を行うには、一人の医師が五十数名も六十数名も抱えたのでは現実的に不可能です。そして、そうしたことを実際医療刑務所で働くお医者様たちは多々指摘しておると思います。私は、このほかにも看護者の数その他、本来は得たかったですが、わかります資料が、明確なものはこのようなものでしたので、本日これをお示しさせていただきました。
 この件も含めて、森山大臣に再度、御意見、御決意のほど伺いたく存じます。
森山国務大臣 刑務所は、刑の執行機関であります。そのため、いろいろと制約もございますけれども、そのような制度的な枠組みの中で、精神科医による専門的治療を必要とする受刑者につきましては、精神科医を重点配置した医療刑務所等に収容いたしまして、カウンセリングなどの精神療法や、焼き物、園芸とか紙細工といったような作業療法、薬物療法等の治療を行いまして、病状の改善が認められた場合には一般の刑務所に送り返すということにしておりますほか、その釈放に当たっては医療の継続がなされるように配慮しておりますが、医療刑務所によりましては医療関係職員に欠員を生じている施設もありますので、これを速やかに補充するなどして、一層適切な医療が行えるように努力いたしたいと存じます。
阿部委員 今いただきましたお話は、ごくまれに、刑務所の看守の皆さんが自発的に、この受刑者に対して、かぎを持っておりますから、彼らしかかぎをあけられませんから、そのかぎをあけて、ほんの少しだけ、例えば作業療法的なものをやっているところがごくまれにあることを、あたかも全般がそのようになっているかにおっしゃられるのであれば、それはもともと、この法案の触法精神障害者という方の置かれた実態を余りにも御存じない。先ほどどなたかが官僚答弁とやじがありましたが、私は、官僚というものがそんなにも一面的なものとは思っていません。現実をきちんと把握してこそ、立法根拠も、そして現状の改善もできるのですから、通り一遍をなでるのではない対応をお願いいたします。
 引き続いて坂口厚生労働大臣にお願いいたします。
 きょう、各委員からるる御質問があり、特にハンセン病で頑張ってくださった坂口厚生労働大臣に、こうした精神障害の方たちを一部隔離していくような向きの法案をつくっていただきたくはないと、皆さん必死におっしゃっていたわけです。私も思いは同じですが、坂口厚生労働大臣に一つ世間的なことを伺います。「砂の器」という松本清張の映画をごらんになったことがありますでしょうか。
坂口国務大臣 遠い過去の話でございますが、見た記憶がございます。
阿部委員 私も遠い過去に見て、そして、最近というか、このハンセン病問題で改めて見てみました。
 あの「砂の器」とは、治療という名において、善意で、とても優しいお巡りさんがハンセン病にかかったお父さんを隔離、収容していく、そして、その子供さんが何十年を経てこのお巡りさんを殺してしまう話でした。隔離され、その間際まで子供はお父さんを追いかけて、ずっと放浪の旅を続けます。私は、ハンセン病問題も、いたずらに差別しようと思った結果ではなくて、治療で、離して、専念してもらうのがよかれかしと思った結果であると思っています。
 坂口厚生労働大臣に、この今回の法案に関して考えられている施設の数、十カ所と御答弁いただきました。果たして、これが地域に帰れるような場所になるのか。センター病院から自分の暮らす場所に帰ることは、通常の医療でも大変です。私は、小児の専門の日本で初めてできた国立小児病院に勤めて、例えば障害児の就学とか、長く抱えなければいけない御病気の方たちが、そこの病院にわずか三カ月、六カ月入院しただけで生活基盤から引きはがされる。本当につらい思いを医者としてしてきました。
 ですから、最後に一言お伺いいたします。全国十カ所のセンターが地域精神医療というものと本当に連携していけるとお考えか。あるいは、まかり間違えば隔離になって、その方の一生を地域から引きはがしてしまうのではないか、このことについての御答弁をお願いします。
坂口国務大臣 それは、指定病院と地域病院、あるいはまた、その人たちが地域に帰りましたときのその人たちを支える態度をどうつくり上げていくかということが一番大事でありまして、そこができれば可能になるというふうに私は思っております。
 ただ、御指摘のように、精神障害者に対します差別、偏見というのがあることも事実でございますし、こうしたことをなくしていくという幅広い努力がやはり必要だというふうに思っておりますが、いろいろのお話を聞いて、なるほどというふうに思うところもございますけれども、ただ一つ阿部先生と私と違いますのは、罪を犯した人たちに再びそこを犯させるようなことがあってはならない、それがまた再び多くの皆さん方に、精神障害者の皆さん方に差別、偏見を生むことになってしまう、そこを確保していくと申しますか、そこをどうこの悪循環を断ち切っていくかということから考えれば、この法律というのは大事になってくるというふうに私は思っている次第でございます。
阿部委員 私は、実は大臣と思いは同じでございます。でも、そのための手段は、例えば宅間容疑者の事件であれば思春期の精神医療だと私は思います。
 十七歳の発病。この間、非常に社会を騒がすさまざまな人格障害や精神病との境界領域が多く思春期に発症しております。日本の中で全く手をつけられておらないこの分野に、大臣としてぜひとも御見識を振るっていただきたいとお願いして、質問を終わります。
園田委員長 本日は、これにて散会いたします。
    午後零時四十一分散会

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