衆議院

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第2号 平成16年3月4日(木曜日)

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平成十六年三月四日(木曜日)

    午前九時一分開議

 出席小委員

   小委員長 近藤 基彦君

      伊藤 公介君    大村 秀章君

      河野 太郎君    渡海紀三朗君

      中谷  元君    平井 卓也君

      伊藤 忠治君    大出  彰君

      楠田 大蔵君    田中眞紀子君

      武正 公一君    斉藤 鉄夫君

      山口 富男君    土井たか子君

    …………………………………

   憲法調査会会長      中山 太郎君

   憲法調査会会長代理    仙谷 由人君

   参考人

   (駐日欧州委員会代表部大使)           ベルンハルド・ツェプター君

   通訳           西村 好美君

   通訳           森 由美子君

   衆議院憲法調査会事務局長 内田 正文君

    ―――――――――――――

三月四日

 小委員土井たか子君二月十九日委員辞任につき、その補欠として土井たか子君が会長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員福島豊君同日小委員辞任につき、その補欠として斉藤鉄夫君が会長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員斉藤鉄夫君同日小委員辞任につき、その補欠として福島豊君が会長の指名で小委員に選任された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 安全保障及び国際協力等に関する件(国家統合・国際機関への加入及びそれに伴う国家主権の移譲)


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     ――――◇―――――

近藤小委員長 これより会議を開きます。

 安全保障及び国際協力等に関する件、特に、国家統合・国際機関への加入及びそれに伴う国家主権の移譲について調査を進めます。

 本日は、参考人として駐日欧州委員会代表部大使ベルンハルド・ツェプター君に御出席をいただいております。

 この際、参考人に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人のお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。

 本日の議事の順序について申し上げます。

 まず、ツェプター参考人から国家統合・国際機関への加入及びそれに伴う国家主権の移譲、特に、EU憲法とEU加盟国の憲法、「EU軍」について御意見をお述べいただき、その後、小委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、発言する際はその都度小委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は小委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 御発言は着席のままでお願いいたします。

 本日は、通訳を西村好美君及び森由美子君にお願いしております。参考人の御意見の開陳については同時通訳にて、質疑については逐語通訳にて行います。

 それでは、ツェプター参考人、お願いいたします。

ツェプター参考人(通訳) 中山会長、近藤小委員長、このように、欧州統合プロセスと欧州憲法草案についてお話しする機会をいただき、心から感謝を申し上げます。本日、このような高名な憲法調査会並びに調査小委員会の皆様にお目にかかることができ、大変光栄に思います。

 私は、法の支配に基づく議会制民主主義が、私たちの自由と繁栄の基礎を形成していることをかたく信じております。また、欧州と日本とは、互いに学ぶべきことが多くあり、着実にグローバル化が進む世界にあって、パートナーとして協力し合うべきであると確信しております。

 二〇〇一年十二月の日本・EU首脳協議において、日本とEUの首脳は「日・EU協力のための行動計画」を採択し、世界的な平和並びに繁栄に貢献するという共通の責任の表明として、「日欧協力の十年」を開始することを決定いたしました。この調査会で行う本日の私の意見陳述も、この行動計画の精神及び意図にこたえるものとなるよう切に願っております。私の心からの願いは、統合のプロセスを形成してきた欧州の経験が、ほかの地域に住む人々がみずからの地域において同様な協力のあり方を見出す上でお役に立つこと、そして、国会による日本の憲法に関する広範にわたる調査に欧州連合が貢献できることにあります。

 この広範な調査との関連で、皆様の御関心は次のような点にあると理解しております。

 まず、欧州統合プロセスの歴史的背景。さらには、欧州統合プロセスの成果。また、そのような成果を得るために、EUは制度上どのように機能してきたのか。また、憲法上、EU加盟国はこのプロセスにどう取り組んできたのか。また、EUはどこに向かっているのか。とりわけ、欧州安全保障・防衛政策、拡大並びに欧州憲法草案の方向性について。そして最後に、日本にとっての欧州統合プロセスの意味するところと理解しております。

 本日の意見陳述は、以上のような議題項目に沿って行いたいと思います。

 二度と私たちの間で戦争を起こさない。これが、二十世紀に起きた二つの世界大戦からヨーロッパ人が学んだ主たる教訓であり、欧州統合プロジェクトの創始者たちがその大胆な構想を練り上げていく上での指針でありました。この過程での決定的な出発点が、フランス外相のロベール・シューマンが一九五〇年五月九日に行った次のような宣言でした。引用させていただきます。

  ヨーロッパは一日にして成らず、また、単一の構想によって成り立つものでもない。事実上の結束をまず生み出すという具体的な実績を積み上げることによって築かれるものだ。ヨーロッパの国々が結束するためには、フランスとドイツの積年の敵対関係が解消されなくてはならない。この目標を念頭に、フランス政府は限定的ながら極めて重要な一つの分野で直ちに行動がとられるように提案する。すなわちヨーロッパの他の国々が自由に参加できる一つの機構の枠組みにおいて、フランスとドイツの石炭及び鉄鋼の生産をすべて共通の最高機関の管理下に置くことを提案する。

 ここで注目に値すると思われるのは、欧州統合が、欧州石炭鉄鋼共同体という機構を通じて、侵略行為に必ず必要となる基本的資源及び戦略的に重要な生産を管理する計画から始まったということです。

 一九五三年の発足当時、この欧州石炭鉄鋼共同体は、欧州六カ国、すなわち、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダによって構成されていました。しかし、欧州防衛共同体の創設という六カ国による一層野心的な試みは、一九五四年にフランスの議会がこの条約の批准を否決したため、失敗に帰しました。

 欧州統合のプロセスは、動機としては政治同盟を目指してはいましたが、実際に採用された手段は、経済的であり分野限定的であったと言えるでしょう。しかしながら、法的、制度的な意味でのかぎは、欧州六カ国が国家主権の一部を超国家機関に移譲し、これが自国にかわって行動することを進んで受け入れたということでした。

 このECSC、すなわち欧州石炭鉄鋼共同体の成功に勇気づけられた加盟国六カ国は、政治同盟に関する合意に失敗したことも踏まえ、EEC、欧州経済共同体及びユーラトム、欧州原子力共同体を創設しました。これらの共同体は一九五八年に活動を開始しました。

 一九六七年に、この三つの共同体は、それぞれの法人格を保ちながらも執行機関を統合し、EC、当時はECと呼ばれていたんですが、誕生いたしました。一九六八年に、ECは加盟国間の関税同盟を完成させ、対外通商政策の責任は加盟国からECに移されました。その結果、ECの執行機関であった欧州委員会が、統合された政策、特に国際貿易について、加盟国を対外的に代表するということになりました。

 この統合プロジェクトの成功は目覚ましいものでした。欧州の中心に平和と政治的安定の領域をつくり出すとともに、経済的繁栄も促しました。ECが、政府間協力というより伝統的な形態に参加している域外の欧州諸国に比べ、はるかに効率的であるということが明らかとなりました。

 したがって、一九七三年には、EFTA、欧州自由貿易連合加盟国であった英国、アイルランド並びにデンマークの三カ国もECの加盟を決定いたしました。引き続き、一九八一年にはギリシャ、八六年にはスペインとポルトガル、そして、九五年にはオーストリア、フィンランド並びにスウェーデンが加盟しました。こうして、いわゆる共同体方式の長所や魅力が証明されたのです。

 ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦も解体した現在、EU拡大が欧州大陸の安定にとって重要な要素となっているということです。二〇〇四年五月一日には、新たに十カ国、チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリー、エストニア、ラトビア、リトアニア、マルタ、キプロス及びスロベニアがEUに加盟します。そして、加盟候補国として公式に認められている三カ国、ブルガリア、ルーマニア、トルコが加盟を心待ちにしております。

 欧州統合の深化と拡大という課題に対応するため、法律や制度面で多くの適合化と条約改正が要求されました。一九八七年の単一欧州議定書により、一九九二年までに域内市場を完成させるロードマップが設定されました。また、この議定書では、共通外交・安全保障政策の確立に向けた最初の試みがなされ、また、ECの制度的構造の強化が図られました。また、単一議定書の直後、この議定書と関連する形で、当時の欧州委員会委員長であったジャック・ドロールは、複数年に適用される財政パッケージを設けることを提案し、これを実現させました。それにより、EC、そして現在ではEUのよりどころとなる確固たる財政基盤が確立されたのです。

 一九九三年にはマーストリヒト条約が締結され、ECは欧州連合、EUとなり、単一通貨ユーロの導入のスケジュールが設定されました。一九九九年にはアムステルダム条約、二〇〇三年にはニース条約が批准されましたが、これは、拡大に向けてEUの制度的な仕組みを強化することを目的とした条約改正でありました。現在、EUは、二〇〇二年から二〇〇三年の間に欧州の将来に関するコンベンションが起草した憲法草案の採択をめぐる討議の最中にあります。

 今日、EUの活動は、合計三万三千人の職員と一千億ユーロを超える年間予算によって支えられています。これはEDF、欧州開発基金を含みます。これは日本円で約十三兆円に当たります。また、言語の障壁を乗り越えるため、四千人の通訳者と翻訳者がEUのさまざまな機関で働いております。EUの行政機関である欧州委員会だけでも二万二千五百人の職員が働いております。

 欧州連合、EUの現在及び将来の政策についてお話しする前に、ここで手短に欧州統合の五十年を振り返り、その主な成果についてまとめてみたいと思います。

 EUの発展全体のかなめとなったのは、物、人、サービス、資本の自由移動に障害のない域内市場の完成です。これにより、政治的安定と経済的繁栄がもたらされ、加盟国間の社会的結束が向上いたしました。

 単一市場と同様に、あるいはそれ以上に重要であり、また単一市場と密接に結びついているものとして、EMU、経済通貨同盟及びユーロの導入が挙げられます。

 同様に、共通通商政策もしっかりと確立されています。これにより、EUは、国際的に一つの声で発言し、第三国との間で自由貿易協定、FTAや関税同盟を締結することが可能になります。

 共通農業政策によって、食料の安全、農家の生活の安定及び均衡のとれた農村開発が保証されました。

 豊かな地域と貧しい地域の間の連帯感を強化する必要にこたえるために、財源の割り当てが行われております。そのために、地域基金や構造基金、社会基金などが創設されました。これらの基金を補完するものとして、特別な結束基金や農村地域を対象とした財政援助があります。

 共通外交・安全保障政策の分野においても、比較的高度な協力が達成されなければなりません。欧州委員会が運営する欧州開発基金を通じて、EUとその加盟国は世界最大の開発援助を提供しています。

 EUはまた、自由、安全、司法の領域において高レベルの安全をEUの市民に提供すべく、警察・司法協力を大幅に強化しました。これは、テロや人身売買、子供に対する犯罪、不法入国、麻薬の密売、兵器の売買、汚職、詐欺等の対策について、加盟国間で共同行動を展開することによって実現されます。現在、欧州連合条約に取り込まれているシェンゲン協定によって、EU域内における人の自由な移動が可能となっています。

 交通、エネルギー、環境保護、社会労働権、消費者保護、保健医療、産業政策等の域内政策及び対外政策の多くは、今日、少なくとも部分的に欧州共同体の権限下にあります。

 それでは、EUの機構的枠組みの基本的な性格とは何でしょうか。

 まず最初に理解が必要なのは、欧州の建設、欧州をつくり上げるということが、その本質からしてユニークなものであり、伝統的な意味での国民国家を模倣したものでもなく、政府間制度の枠組みを定めるだけの国際機関をもはるかに超えるものであるということです。EUは、両者のハイブリッド、混成体と言えるもので、ある分野では各国の国家主権の一部をプールし、他の分野では単純に政府間協力を行うものです。この種の統治機構の出現は、連合の概念に部分的に対応しているにすぎず、国際法上の扱いが困難なものです。それは、中央よりも地方にはるかに大きな重きを置く、特別な権力配分を伴う特殊な連邦主義の原則に基づく独特な概念なのであります。

 二番目に重要な点は、欧州を建設するということには、事前に設定された青写真は存在しないということです。先ほど引用いたしました宣言の中で、ロベール・シューマンはこのことを明確に述べております。EUの発展は、一定の政策分野における加盟国間の共通利益の上に構築されるプロセスです。それは、トップダウンではなくボトムアップのプロセスであり、加盟国は、国家の安全保障や市場経済、環境の保護等の個別の問題を取り上げ、これらの政策に共同で対応するための枠組みに合意するわけであります。

 したがって、EUの機構的枠組みは、問題に対して主権国家として取り組むことの利益と効率性や生産的な域内交渉の必要性との間で均衡をとるという合意の結果なのです。EUの柱の構造は、このような現実的及び政治的要求に機構的構造を合致させるという姿勢の結果にほかなりません。

 今日、EUは、基本的に次の三本の柱で築かれています。

 統合された政策。これは共同体政策とも呼ばれますが、国家主権が共通のEU諸機関に移譲された分野です。これが第一の柱です。

 共通外交・安全保障政策。これは政府間の制度であり、加盟国間の緊密な協力を通じて共通の基盤の確立を目指し、非常に精巧な規則を持ちます。これを第二の柱と呼んでいます。

 警察並びに司法の協力。これは、域内市場の機能に関する部分はすべて部分的に統合されており、部分的には政府間で協力を行う制度であります。これは第三の柱であります。

 欧州憲法の草案は、この三つの柱という構造を廃止し、すべてのEUの活動を一つの法的枠組みに統合しています。また、それは、共通外交・安全保障政策の政府間主義的な要素を広く温存する一方、警察・司法協力全体に共同体方式を適用させています。

 三番目に理解が必要なのは、欧州を構築するということの成功と効率が、いわゆる共同体方式に基づいているということです。

 これは、明らかに複雑な法的手続ではありますが、欧州議会並びに理事会、すなわち加盟国の利益の代表者としての理事会、及び欧州委員会という三つの主要な政治機関の間に適切な権限の均衡を見出そうという、欧州統合の創始者たちの試みであると言いかえることもできます。

 共同体方式というのは、これらの機関のいずれも、EU法を策定する際、他の機関の支援なしに行動することができないということを意味します。共同体方式により共通政策を打ち出す際に、それぞれの加盟国の国益だけではなく、明確に定義されたEUの利益が担保されるということが保証されます。また、共同体方式は、共通政策が決定され、それを実施に移したり、さらに発展させたりする必要がある際も重要であります。欧州委員会が唯一発議権を持ち、基本条約の守護者としての役割を果たしていることも、この脈絡で触れなければならない点です。最後に、欧州司法裁判所の存在と権限も、共同体方式の重要な構成要素です。

 では、EUのさまざまな機関の間の作業分担はどのように行われるのでしょうか。わかりやすく申し上げるために、ここでは最も目に見える活動をしている欧州議会、理事会、そして欧州委員会及び欧州司法裁判所の四つの機関に焦点を当ててお話をいたします。これらの機関の相互の関係については、添付資料の二を御笑覧いただければと思います。

 これらの機関の間の権限の均衡は、欧州統合の深化と拡大の帰結です。EUの権限が拡大するにつれ、より直接的な民主主義的正統性、意思決定手続にEU市民をより参画させる必要性、そして欧州を建設するというさらなる進化における市民社会の役割が盛んに論議されるに至りました。これにこたえるため、時の経過とともに欧州議会の権限は大幅に拡大されてきました。欧州司法裁判所も、相互承認や加盟国法に対するEU法の優位、EU法の直接適用性、男女平等にかかわる事例に見られるような、独創的な判決を下す形で、欧州統合における重要な役割を果たしてきました。

 より具体的に、そして憲法草案が採択される可能性が高いということを考慮に入れつつ、EUの主要な四つの機関を取り巻く状況は次のように説明できるでしょう。

 まず、欧州議会でありますが、一九七九年以来、直接普通選挙によって選出されており、議員の総数は現在六百二十六名であります。活動は国単位ではなく政治グループ単位で行われます。三億七千万人の市民を代表する欧州議会の主な役割は、欧州委員会委員の任命を監督し、法的手続を通じてこれを承認することであり、また、必要な場合には、三分の二以上の多数決による不信任決議をもって欧州委員会を罷免する権限も持ちます。欧州議会は、年次予算の採択を理事会とともに議決し、その権限の程度は支出が義務的であるか非義務的であるかによって異なります、また、会計監査院が作成する年次報告をもとに、予算の消化に関して欧州委員会に承認を与えます。欧州議会は、基本条約により付与された権限の範囲内で、理事会と立法権を共有いたします。

 憲法草案では、欧州議会の議席数は二〇〇九年より七百三十六議席となることが定められております。これは、小国にとって有利な逓減比例の原則に基づいて配分されます。憲法草案では、義務的支出と非義務的支出との区別が撤廃され、理事会との共同決定手続が原則適用されることになっており、欧州議会の権限はさらに拡大します。欧州議会は欧州委員会の委員長を選出することとなり、EUの行政機関への影響力を大幅に拡大します。そして、欧州委員会の活動との間で明確な政治的共同責任とアカウンタビリティーの連鎖を確立することになります。

 次に、理事会でありますが、各加盟国を代表する閣僚によって構成されます。共同体の権限が問題となる場合、理事会は、基本条約に規定された目標が達成されることを確実にする責任があります。そのために、理事会は加盟国の一般経済政策を調整し、欧州委員会の提案について、多くの場合は欧州議会と共同でとなりますが、決定を行い、欧州委員会に法を実施、執行する権限を与えます。欧州理事会は加盟国の元首と首脳で構成される集まりで、EUを政治的に推進し、一般的な政治的方向性を設定します。

 理事会での採決における各加盟国の持ち票は、加盟一カ国が単独で拒否権を行使できる可能性が次第に減少してきたため、常に特別な注目を集めています。現時点では、理事会の主たる議決方式は、特定多数決と、手続上の問題に適用される単純多数決であります。欧州憲法の草案では、各加盟国の持ち票に関して重要な改革が行われることを想定しています。この問題は、現在進行中の憲法に関する政府間会議での交渉において大きな障害の一つとなっています。

 また、憲法の草案には、そのほかにも、理事会に関する、より微妙な意味合いを含んだ改革が盛り込まれています。欧州理事会は、特定多数決で議長を選出し、その任期は二年半、更新一回とされています。外相理事会は、EU外務大臣が議長を務めることとなっています。EU外務大臣は、その分野における理事会の代表と欧州委員会の副委員長の職を兼務することとなっています。

 欧州委員会は、EUの行政機関であります。活動には、基本条約の特定条項を実施するための政策の提案や法案の策定、EUの行動や政策のために配分された予算の管理が含まれます。欧州委員会は、基本条約の守護者の役割を果たします。欧州委員会は、中立的な組織で、条約の規定や条約に基づく決定が適切に適用されていることを確実にします。欧州委員会は、加盟国を相手に違反手続を起こすことができ、必要な場合、こういった事例を欧州司法裁判所に提訴することができます。欧州委員会は、個人や企業に対して、特にEUの競争規則に違反した場合に罰金を科すことができます。欧州委員会の委員は、その任務を遂行する上で、出身国政府の意向にいささかも左右されてはならず、EUの利益のためだけに行動することを条約によって義務づけられています。現在、欧州委員会は委員長と二名の副委員長とその他の十七名の委員によって構成されています。

 欧州委員会委員長が欧州議会の絶対多数決により選出されることにより、欧州委員会の民主主義的正統性が明らかに向上し、それにより政治的透明性も増します。憲法草案では、特に共通外交・安全保障政策や警察・司法協力の分野において、現在よりもより制限的な形でではありますが、例外を維持する一方、欧州委員会がEUの法案に関して排他的発議権を持つという原則を確認しています。また、憲法草案では、将来的に欧州委員会委員の数を制限するとしております。しかし、加盟国の多くはEU行政府機関に少なくとも一名の委員を送り出すことを強く希望しており、依然として調整が必要な問題となっています。

 第四に、欧州司法裁判所でありますが、EUの基本条約がEU法に基づいて解釈及び適用されていることを確保することにあります。欧州司法裁判所は、加盟国が基本条約上の義務を履行していないと判断することができ、当該加盟国がその判断に従わない場合には違約金や罰金を科すことができます。欧州司法裁判所は、EUの諸機関による措置の無効を求める裁判で措置の合法性を判断します。また、欧州司法裁判所は、加盟国の国内の裁判所がEU法を適用した場合について、その解釈や論点の有効性について先行判決を下します。憲法草案は、控訴権や欧州司法裁判所のさまざまな活動における規則を明確化しておりますが、現在の基本条約の内容を大きく修正するものではありません。

 では、ここで、特定の政策分野におけるEUの政治的、法的構造の主な特徴と、現在進行中の欧州建設の方向性についてお話ししたいと思います。

 そのために、まず、欧州統合プロセスに横たわる基本原則を手短に説明したいと思います。

 単一議定書の準備に当たって、ドロール委員長は、欧州統合の推進力となる三原則に言及しました。すなわち、欧州の建設と枠組みを強化する協力、二つ目として効率を促進する競争、そして加盟国間の一体性を強化する連帯です。実際にこれらは何を意味するのでしょうか。

 まず第一に、協力の主要メカニズムについて申し上げます。

 さきに触れたEUの三本柱構造の中で、EU基本条約は、協力を異なるレベルで区別しています。

 まず、通商政策や競争政策のように、完全に統合された排他的な共同体権限が一つです。

 二つ目として、個別の政策分野に関する条約の規定に従い、EUと加盟国が権限を共有する場合の権限です。混合権限と呼ばれております。

 次に、分野として政府間協力の形態をとるが、共通した行動のためにとる異なる度合いの協力であります。経済政策を調和させるための協力、共通外交・安全保障政策、それから裁量的政策調整に至るまで広範囲でありまして、これは、政治的な意味では、どちらかと言えば一般的な取り組みにすぎません。

 EUには、欧州委員会が運営し、二〇〇〇年から二〇〇五年で百七十五億ユーロの予算を持つ独自の研究開発プログラムがあります。

 完全に統合された政策の数はわずかであります。ユーロや通商政策のように、それが存在する分野においては、経済的にも政治的にも大変有力な手段となっています。非常に多くの政策が混合権限で行われており、共同体と加盟国の双方によって実施されていますが、共同ではなく、それぞれの権限の範囲内で行われています。基本条約はしばしば、特定の政策分野について言及し、それを完全に、または特定の側面において共通政策にする必要性を規定しております。また、欧州委員会が理事会と欧州議会による採択のために提案を行います。こうして採択された規則が発効すると同時に、その政策分野は共同体権限事項となります。

 EU立法は重要な法原則に基づいており、これらの原則は憲法草案において非常に明確に説明されております。ここでは、皆様の調査活動に最も関係の深いものに焦点を当ててお話ししたいと思います。また、基本的な原則については、添付資料七に載っております。

 まず最初に挙げられるのは、加盟国の国内法に対するEU法の優位であります。

 これは、加盟国憲法においても周知の原則であり、国際法は、その性格からして、国内法に優先されるものであることが認められております。憲法草案にはこの原則が明示的に示されており、それによって欧州司法裁判所の裁判権も確認されております。正規のEU法が加盟国において直接適用されなくてはならないのに対して、いわゆる枠組み法は国内法に置換されなくてはいけません。加盟国がそれを怠った場合には、欧州委員会は当該加盟国を欧州司法裁判所に提訴いたします。もし司法裁判所が欧州委員会の主張を認めた場合には、当該加盟国には司法裁判所の判断に従う法的義務が生まれます。もし従わなければ、加盟国は罰則の対象となります。このように蓄積されたEU法の集積、これは、EUに加盟する上での基準となります。

 二番目に挙げられるのは、補完性の原則及び比例性の原則です。

 これらの原則は、意思決定ができるだけ市民に近いところで行われるとともに、共同体レベルの活動が正当なものであるのか、それとも加盟国レベルもしくは地域、地方レベルで行われる方が適切なのであるか、常に検証されることを確実にするものです。比例性の原則は、EUのいかなる活動も基本条約の目標を達成するのに必要な程度を超えないことを要求します。憲法草案では、この二つの原則が確認されており、また、補完性の原則を適用する責任の所在を明らかにしております。したがって、この原則はEU内での権限分担の土台となるものであります。

 補完性及び比例性の原則は、統合によってEUの諸機関が、加盟国や加盟国の下にある地方組織を犠牲にしてみずからの役割を強化することを防止する意味があり、欧州建築の連邦的な性格を確認するものであります。憲法草案が、権限付与の原則を確立し、EU諸機関に対し、権限は加盟国に由来するもので、その逆ではないと念押しをしているのも、そのためであります。

 三番目に挙げられるのは、EUと加盟国の間の忠実な協力の原則です。

 これは、理事会であろうと加盟国であろうと、またその他の機関であろうと、欧州を舞台とするすべての当事者が誠実に共働しなくてはならないことを明らかにしている法的な基盤です。加盟国は、基本条約やそれを実施するための法律に由来する義務履行を確実にするために、すべての適切な処置を講じなくてはいけません。憲法草案では、以前は加盟国に一方的に求められていたEUに対する忠誠が双方向のものとされ、ここでもまた、EUの連邦的な構造が強調されております。

 四番目として、憲法草案がEUに法人格を付与していることは注目に値いたします。

 これは、今まで欧州共同体のみにそれが認められてきたというわかりにくい状況を解消することになります。この一見単純とも思える変化は、将来のEUの制度的構造に多大な影響を与えるでありましょう。将来のEUは単一の法人格を持つ存在となります。これは、EUの対外活動にも、また非EU諸国に所在する欧州委員会代表部の地位にも影響を及ぼすでありましょう。欧州委員会の代表部は、EUの代表部または大使館となり、現在の輪番制の議長国の活動と欧州委員会の活動の双方を担当することになります。

 五番目として、協力のレベルは、理事会における加盟国の持ち票に大きく依存しているということです。欧州を建設する歴史は、この権利にまつわる展開といった視点からとらえる必要があります。当初は、多数決による決定は、明らかに全会一致の原則に対する例外でありました。

 理事会にかかわる各加盟国の持ち票は、EU内の権限と影響力という基本問題にかかわるものであり、人口という点から見た国の規模と、その主権国民国家としての役割との間に、極めて重要なバランスをとる必要があります。しかし、EUの主たる関心は意思決定プロセスにおける効率性であり、欧州委員会と欧州議会が常に理事会に対し多数決手続を原則として採用するよう求めてきたのもこのためです。

 憲法草案は多数決投票を強化しましたが、欧州委員会の見解では、いまだに全会一致の原則が有効な場合が数多くあり過ぎます。

 六番目の点として、憲法草案は、より強化された協力の可能性を明示的に確認しています。これによって、他の加盟国よりもさらに欧州統合を進めたいと望む加盟国は、厳格な規則や条件のもとでそれを行うことができるようになります。より強化された協力は、EUの目標を促進し、その利益を守り、統合プロセスを強化する場合のみに許容されます。

 次に、域内市場と貿易についてお話し申し上げたいと思います。

 協力の主要分野、そして実際、制度的に最も進展した分野は経済です。広義においては、これは共通農業政策を含む域内市場、単一通貨、そして共通通商政策を包含しております。このような協力の成果や機能を詳述することは本日の陳述の範疇ではありませんが、添付資料四に、通商に関する詳しい情報が示されております。とはいえ、欧州統合も、また、EUが大きく、より競争力のある経済へと発展したことも、経済格差を再均衡化するメカニズムなくしてはあり得なかったということを想起することが大切です。

 相対的に経済発展がおくれている新規加盟国には、追いつくための機会が確保されるべきであります。それらの国が、基盤の整った国や地理的に有利な国にとっての有益な市場というだけの存在であってはなりません。欧州統合の建設に連帯に関する包括的な政策が含まれるのも、この精神を反映しているからです。EUの地域開発を目的とした構造基金や社会基金がその一例です。加盟候補諸国には、過去十年間にわたり、PHAREプログラムや、その他同様の計画を通して、既にかなりの大きな資金援助が行われてまいりました。

 経済後発諸国との貿易協定においては、多くの場合、非対称的譲許が設定されており、EUから当該市場へのアクセスに比べてはるかに有利な対EU市場へのアクセスを提供しております。

 日本のような国に対しては、EU域内の経済的な調和、調整のためのあらゆる施策が、EUの世界じゅうの経済的パートナーに遠大な影響を与え、またこれまで同様、今後も及ぼし続けるということを改めて指摘させていただくことが重要だと思います。

 適正な競争規則、雇用・社会政策分野での協力、数多くの二国間協力と自由貿易協定により整備された巨大な均一市場の創設は、EUの競争力と国際的経済活動に著しい好影響をもたらしてまいりました。それと同時に、我々のパートナー諸国にも追加的な貿易と投資の機会を提供してまいりました。航空宇宙産業などに見られる技術と資金を結集した大規模プロジェクト、欧州横断ネットワークの開発やその他巨大インフラ整備施策は、欧州域内市場から生ずる機会と協力行動があってこそ可能であるわけです。

 明確な達成期限とベストプラクティス、ベンチマーキング、メーンストリーミングなどの現代的なマネジメント手法を基礎にして合意された共通目標をここまで達成できたのも、幾つかの財政パッケージやEU経済の構造改革と近代化を目指した二〇〇〇年のリスボン戦略によって支えられた政策構想の合意があったからにほかなりません。この強さがあったからこそ、EUはこれまで五回の拡大を実現させ、その都度新規加盟国を政治的に安定させ、その経済を強化させてこられたのです。

 地理的に欧州の周辺に存在している昔から経済力が相対的に弱かった国々、アイルランド、フィンランド、ポルトガルは、今ではEUのタイガーとみなされる場合さえあります。このたびEUが中東欧諸国を迎え入れるのは、これまでの統合プロセスの外にあったそれらの諸国と経済的発展と安定を共有することにほかなりません。

 三点目として、共通外交・安全保障政策と共通防衛について申し上げます。

 経済通商政策分野での成功にもかかわらず、EUには政府間レベルでの協力により機能する分野があることも隠しようもない事実であります。これは、共通外交・安全保障政策、CFSPと、それに関連する欧州安全保障・防衛政策について言えることだと思います。この分野を共同体の、今EUとなりましたが、権限領域に移行させるための努力は、欧州統合の歩みと同じくらい古くから続いております。一九七〇年代前半には、欧州政治協力、EPCが純粋な政府間調整の制度として、いかなる法的な拘束力も伴うことのない形で導入されました。

 その後も、外交政策問題に関して共同行動をとるために、加盟国の政治的なコミットメントを拡大する試みが何度も繰り返されました。しかし、極めて重要な国の利害がかかわることとなると、単独行動をとる誘惑に抵抗することが加盟国にとって難しいのが常であります。イラク戦争の際の状況が最も明白な失敗例と言えるでありましょう。

 だからといって、この分野で全く進歩がなかったというわけではありません。少なくとも手続上は、CFSPにおける協力を誘導するためにさまざまな手段が策定され、また試行されてきました。その皮切りは、一九七〇年代にEPC事務局が設置されたことであります。共通の行動と戦略の定義化、外交措置を共同体立法に準ずる形で取り扱うこと、またCFSP担当の上級代表を任命すること、人道援助や復興のための具体的な計画を作成することなど、ブリュッセルのEU諸機関は多忙をきわめたわけであります。危機的な状況が実際に発生した場合には、卓越した交渉術とプロ精神を有する献身的な特別代表が任命されました。しかし、本質的にはCFSPは政府間の協力の域を出ず、EUに確固たる外交政策の側面が育つに至りませんでした。政治的な意思の欠如を、手続、制度に関するルールによって埋めることなどできようもないと思っております。

 欧州の委員会は、明確な多数決によって法的拘束力を有する体制が必要であるとの立場を堅持しております。最も重要な変化は、外交政策における欧州委員会と理事会の権限をあわせ持つEU外務大臣の任命です。幾ら域内各国の経済を統合し、多くの分野で法制度の調和を図ったところで、外交政策となると各国が単独行動をとるのでは意味をなしません。経済的統合と政治的な多様性との溝が大きくなり、ついにはEUを不安定にする危険を生み出す可能性さえあるわけであります。

 真の共通外交政策を発展させる作業は困難に直面していますが、防衛問題に関しては、勇気づけられる前進が見受けられたことも見落としてはなりません。ほとんど気づかれていませんが、憲法草案には連帯条項が盛り込まれておりまして、テロ攻撃、自然災害、人災においてEUと加盟国各国が共同行動をとるとされております。この場合、EUはみずからの裁量で軍事資源を含むあらゆる手段を発動することができるのです。この原則は、外部からの軍事的侵略の際に、より広範な協力を行うための展望を開いております。

 憲法草案は、加盟国が民生と軍事の両面における作戦能力をEUに提供しなくてはならない場合を想定しております。国際連合の原則に沿った形でEU域外において平和維持活動を行うことも可能ですが、EUはまだ自前の手段を保持していないために、加盟国の軍事能力に依存しなくてはなりません。

 憲法草案では、共通外交政策の斬新的な形成が想定されていますが、その目的のためには理事会における全会一致の決定が必要です。NATOへのコミットメントは尊重されなくてはなりません。作戦行動のための要件を特定するために、欧州軍備軍事研究能力開発機関が設置されることになっております。詳しい資料は添付資料を御参照ください。

 四つ目として、加盟国憲法と主権移譲について申し上げます。

 欧州統合プロセスはどのように加盟国側で取り扱われてきたのでしょうか。いわゆる共同体方式による深化と拡大は、加盟国憲法の適合化という過程を要求いたしました。

 大半の欧州諸国において、EU加盟は国際機関への主権移譲を可能とさせる憲法条文に基づき行われました。すなわち、国際機関に主権を移譲するわけであります。配付資料の中に、明確にこの状況に関して各国別に説明をしておりますので、読むことは時間的にも限られておりますので割愛したいと思います。

 このように、国家主権のEUへの一部移譲を受け入れるという政治社会的文化が存在していたからこそ、欧州統合プロセスの深化と拡大も可能となったと思います。

 では、憲法草案の概観について申し上げたいと思います。

 残念ながら、この場でEU基本憲章を含む憲法草案のすべての内容を概観することは不可能です。したがいまして、EUの基本憲章について、添付資料の八をごらんください。

 欧州の法的枠組みを一つの条約におさめることで、この憲法草案は、より透明で包括的な制度と法体制を望む欧州国民の基本的要求に大いにこたえたことになると思います。

 これにより、従来の法律上の定義に基づく国民国家とは異なり、みずからが法人格を有するというEUの特殊性が確認されたことになります。同時に、立法権と行政権に関して、政治的な共同責任を明確に確立することにより、EUの民主主義的正統性が強化されます。この結果、EU市民の大多数に対する政治的なアカウンタビリティーが強化されるために、EUの性格にも変化がもたらされると思います。

 憲法草案は、その条項の多くにおいて、さらなる統合にとっての礎としてヨーロピアンアイデンティティーの必要性を強調しております。これは、欧州の制度的構図のさらなる発展のためには、このアイデンティティーがより意識される必要があるという考え方を反映しております。

 憲法草案が一たん採択されますと、既存の条約が簡素化され再編されるために、その結果、複雑な三本柱構造が撤廃され、一つの法主体が誕生することになります。これは、EU内外の人々のEUに対する認識を一変させるでありましょう。EU市民はみずからの義務だけではなくて、権利もよりよく理解することになると思います。EUの基礎にある民主主義の原則と価値に対する理解を市民が深めることは、欧州統合プロセスへの信頼を築くための必要条件なのです。

 現時点における最も重要な問題は、憲法草案の行方にほかなりません。昨年十二月の合意失敗は悪い兆候にさえ思えます。

 しかし、私自身は、悲観する理由などはないと思っております。欧州統合への道は常に紆余曲折があり、成功と失望が隣り合わせに並んでいる状態が続きました。この問題は、現議長国のアイルランドの手にゆだねられておりますが、我々は、議長国としての同国が賢明かつ入念に作業を進めると確信しております。

 それでは、結びに入らせていただきます。

 欧州のモデルをそのまま世界のほかの地域におけるモデルとすることは不可能であり、お勧めできることではないと私は思います。欧州統合のプロセスは、欧州大陸の歴史的、地理的、文化的な基盤と密接な関係があるからです。

 しかしながら、得るべき教訓があるかと思います。特に、統合の手法、また斬新的な発展、手続に関しては教訓を見出していただけるのではと思います。

 EUの手法は、一国だけでは十分な対応ができない具体的な問題や課題を特定するということ、また、地域に政治的安定を醸成し安全を確保すること、隣国との協力を進めることにより経済の基盤を広げ競争力を向上させること、さらに、インフラや通信の広範なネットワークを構築することであり、自然環境の破壊という問題に対応することでもあり、また、海洋資源の保存を図ることであります。テロや国際犯罪と戦うことでもあります。また、開発、医療、食料安全保障、社会の高齢化を初めとする多くの課題に対応するための共通の戦略を発展させるということです。

 着実にグローバル化が進展する世界の中で、一国がアクターであり続けるためには、単に外界からの力で受け身的に変わるのではなく、新しく大胆な戦略を持つことが必要です。少なくとも我々欧州人の考えでは、結束をし、また同時に我々の特殊性と文化という本質を守り続けるためには、この方法しかないと考えております。

 この意味において、我々は真の意味で互いに学び合えると感じております。

 御清聴を感謝いたします。(拍手)

近藤小委員長 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

近藤小委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。中山太郎君。

中山会長 本日は、御多忙中であるにもかかわらず、ツェプター駐日欧州委員会代表部大使に御出席をいただきましたこと、まことにありがとうございます。

 本調査会は、設置以来、人権の尊重、主権在民、再び侵略国家にならないという三つの原則を堅持しつつ、日本国憲法の制定経緯、戦後の主な違憲判決、二十一世紀の日本のあるべき姿に関する調査を経て、小委員会において、個別論点の調査、憲法の全条章についての網羅的な調査を行うとともに、全国八都市において地方公聴会を開催し、国民各層から日本国憲法に関する意見を聴取してまいりました。

 また、平成十四年十一月一日には、この間の調査の経過及びその内容を取りまとめた中間報告書を作成し、議長に提出しました。

 なお、この間、衆議院より派遣された議員団による諸外国の憲法事情に関する調査も四回行われております。

 本日御出席いただきました小委員会におきましては、九条を中心に、我が国の安全保障や国際協力のあり方について、国際化が憲法に及ぼす影響等を含め、幅広く議論をしてきております。

 今日、国際社会の中心的な担い手は依然として国家でありますが、国際化の進展により、国家間の関係が複雑化し、かつ緊密化し、国際社会に発生する諸問題に対処するため、国際機構の果たす役割が増大しております。その中において、これまで国家の主権と考えられてきた機能の国際機構への移譲といった事象も見られます。

 EUは経済的な市場統合を徐々に進め、一九九九年一月には欧州単一通貨ユーロの導入を果たし、二〇〇二年一月にユーロ貨幣の流通が開始されました。

 また、近年、外交、安全保障分野における加盟国間の協調関係を深め、昨年はEU憲法草案が起草されるなど、その試みは我が国においても注目を集めております。

 アジアにおける諸国間の経済的、政治的な関係強化を考える際、EUの経験は大変参考になるものと受けとめております。

 本日は、本国のドイツ外務省において、NATOを初め安全保障分野に深くかかわる仕事を歴任され、一九九〇年からは、ドロール元欧州委員会委員長の外交顧問として、あるいは同委員長官房副官房長として、EUの共通外交・安全保障政策に深くかかわり、現在、欧州委員会代表部大使という重職にあられますツェプター大使にお越しをいただきましたことを、憲法調査会会長として大変うれしく存じます。

 まず、質疑の冒頭に当たり、私から、EUの外交・安全保障政策についてお尋ねいたしたいと存じます。

 EUの拡大と欧州各国の価値観、EU憲法と欧州人権条約との関係について、まず第一に、欧州では、経済的な統合だけでなく、人権保障の面においても、欧州人権条約のもとで欧州人権裁判所が機能し、また、二〇〇〇年にはEU基本権憲章がつくられ、EU憲法草案にはこれを盛り込む形で人権規定が置かれるなど、共通の価値観が形成されています。しかし、EUの拡大に伴い、現在の加盟国とは異なる価値観を有する国の加盟が今後予想されるところであります。

 そこで、加盟国間における価値観の共有と今後のEU拡大との関係について見解を伺いたい。また、欧州人権条約と基本権憲章を盛り込んだEU憲法との関係についてもお伺いをいたします。

ツェプター参考人(通訳) では、非常に複雑な重要な問題に関して、簡潔にお答えしたいと思います。

 私どもは、連合基本権憲章というものを創案いたしまして、実際に作成作業のコンベンションに私自身も同席しておりました。そして、この連合基本権憲章の内容というものは憲法草案の中の一部として今や統合されております。

 ストラスブール人権条約でありますが、これも現在非常に重要なかなめとなっております。一つ明らかなように、このストラスブール人権条約の内容というものは、私どもの作成いたしました連合基本権憲章の内容と十分に整合性を持っているということであり、これを明らかにしたいと思います。

 さらに、この人権条約の方では、加盟国の国内法で付与されている以上の権利というものが付与されているということであります。

 また一つ、目新しいことではありませんが、各国の国内の憲法とストラスブール人権条約の間においては、ストラスブール人権条約というものが国内の各法よりも優位にあるという点であります。例えば、ドイツとかフランスの市民などが自国法のもとでは十分に人権が担保されないというふうに考えた場合には、EUレベルでの人権条約にその救いを求めるということが可能になっております。

 またさらに、今の関係を明記した部分というのは、憲法草案の前文の部分、また二部の部分の基本的人権のところにも言及されております。

 さらに、新規加盟国との関係でありますが、新規加盟国は今後もEUのこの種の法律を遵守しなくてはいけません。したがって、今後、加盟が許されるのはこの憲法草案の内容を受け入れたときに限られるわけです。したがって、今後の加盟候補国は、正式な意味ではまだEUの加盟国ではありませんでしたが、憲法草案の策定作業にもかかわっておりました。

中山会長 次に、ヨーロッパ連合の安全保障政策についてお尋ねをいたします。

 EUは、NATOとは別に、危機管理や国際協力の分野において独自に緊急対応部隊を編成し、国際平和維持活動を行っております。

 そこで、安全保障分野において、EU加盟国間の協調を模索してきたこれまでの経緯と今後の方向性、さらに、NATOとEUの安全保障及び防衛政策上の関係についてお尋ねを申し上げます。

ツェプター参考人(通訳) 実は、この問題については、長年議論の核心となってまいりました。すなわち、EUにおいて、CFSP、共通外交・安全保障政策をさらに進展させるという上での議論の核心をなしてきました。

 このような進展ということですけれども、原則といいましょうか、私は簡素化されたビジョンと呼びたいと思うんですけれども、その中でEUがやろうとしたのは、NATOに対抗するということではない、すなわちNATOに置きかわろうということではなかったということであります。我々が目指したのは、NATOの中において、一つのまとまった声としてさまざまな政策について議論をしたい、すなわち統合された政策を提示したいということでした。そのことによって、NATOを一層強化したいというのが目的でありました。また、そうすることによって、NATOの側も容易に対処できるといったことがあったかと思います。

 また同時に、とりわけアメリカといったような友邦国に対しまして、ヨーロッパが特に関心を持っているような問題、これから一層前に向けて進めていきたいと考えているような問題については、ヨーロッパとしても準備があるということを示したいということでありました。NATOに対しても、地域の問題についてヨーロッパが独自に対処できるということを示したかった。すなわち、常に常にNATOに頼る必要はないということを示したかったということがあります。

 この点についてさらに付言させていただきますと、これは憲法草案の中にもはっきりと盛り込まれていることでありますが、NATOの加盟国についてはNATOのコミットメントを尊重するということであります。すなわち、EUが単一の構造づくりに努力をし、そしていろいろな取り組みを行う中で、NATOに対するNATOの加盟国としての義務の履行ということは相入れるものだということがはっきり明示されております。

 また、緊急対応軍についてでありますけれども、三つの重要な問題点を考慮する必要があります。

 まず第一に、この緊急対応軍でありますが、これはヨーロッパによって構成されるものとはなっていないということであります。すなわち、加盟国の軍であるという位置づけになっております。そして、加盟国によって構成される緊急対応軍ではあるが、しかしながら、EUが具体的な行動をとる際にはそれを使うことができるという位置づけになっております。

 それから、二番目の点でありますが、これはダブルヘッディングと呼ばれるものでありまして、緊急対応軍とはなっておりますけれども、常にNATOとの相互のリンケージということも保たれているということであります。ですから、この緊急対応軍の行動については、つぶさにNATOの方も知り得る立場にあるというところであります。緊急対応軍が具体的に行動をとる際には、必ずNATOとの連携のプロセスとの関係の上でということになっております。

 既に、このような枠組みのもとで、三件の緊急対応軍の出動の例がございました。まず第一には、旧ユーゴのマケドニア共和国におけるコンコルディア・オペレーションであります。二番目が、コンゴ民主共和国におけるアルテミス・オペレーション。それから三番目が、これは警察ミッションということでありましたけれども、ボスニア・ヘルツェゴビナにおいてのミッションがございました。いずれにせよ、NATOとの連携のもとで行われました。

 お許しをいただきまして、二つだけ短くコメントさせていただきます。

 まず第一の点でありますけれども、これは憲法草案の中にも確認されていることでありますし、私どもも常に遵守しているところであります。

 第一に私が強調したいのは、どのような行動であれ、すなわち国際平和維持活動を含めたどのような行動であれ、その行動をとる際には、必ず国連の原則にのっとって行っているということであります。

 それから、二番目に強調したいことでありますけれども、いわゆる防衛分野における協力ということには、軍備面での協力ということも入ってまいります。ということで、その憲法草案の中には、欧州軍備研究軍備能力開発庁という組織が盛り込まれております。これは、考え方としては新しいものではありません。といいますのも、既に既存の構造、仕組みが存在をしております。それをさらに制度的に強化しようということであります。それによって、EUとしても、軍備面での独自の能力を持つことが可能になります。

中山会長 ありがとうございます。

 アジアにおける安全保障は、基本的に、米国とそれぞれの国との安全保障条約の積み重ねにより維持されてきています。

 しかし、国際的なテロへの対処や、北東アジアにおける最近の地域情勢を考慮すると、アジア諸国が日常的な外交、協議、信頼醸成等の措置を積み重ねることにより、安全保障を確保していくことも重要であると考えています。

 そこで、EUにおいて、安全保障面で欧州各国の協調関係が常に意識されてきたと考えますが、EUの設立経緯等を踏まえ、アジアにおける地域安全保障についての御見解を伺いたいと思います。

 また、アジア諸国とEU加盟国等が参加し、定期的な協議を行っているASEMはどのような効果を発揮していると考えておられるのか、御見解を伺いたいと思います。

ツェプター参考人(通訳) 世界は、ますますグローバル化が進んでおります。ということで、我々は、今や、ヨーロッパが直面している安全保障上の問題は、単にヨーロッパのみの問題だとは言えなくなっております。同様に、アジアにおける安全保障の問題についても、アジアのみの問題だとは言えなくなっております。

 ということで、ヨーロッパは、日本が例えばバルカン半島などにおいてエンゲージメント、関与をしていただいたときには、前向きに反応をいたしました。バルカン半島におけるその復興と安定化のために役に立っていただいたということ、それからまた、事実、準備会合などにも日本が関与をしてくださっております。

 ヨーロッパとしては、当初から東南アジア並びに東アジアにおける地域情勢に関心を抱いておりました。ということで、ASEMのプロセスが確立されたということは重要であります。といいますのも、アジアの地域情勢について、これは政治や安全保障といったような領域の地域情勢について、アジアのレベルのみで議論をするのではなく、ヨーロッパですとかアメリカといったような、他の利害を有するようないろいろな国や地域とのインターリンケージという形で討論の場を設けられたということにつきましては、アジアにおける地域の安全保障の具体的な問題についてもよかったと考えております。

 共通の関心問題というのも多々あるかと思います。とりわけ、核兵器の拡散防止ですとか大量破壊兵器の建設といったような問題、それからテロとの戦い、こういった種類の問題は、アジア並びにヨーロッパの双方の社会に影響を及ぼすものであります。ということで、このASEMにおいて定期的な会合を持つということを我々も望んでおります。近々、四月にダブリンで外相会合が行われますが、その議題をごらんになっていただいても、やはり共通の関心事ということがわかってくるかと思います。

 まず第一に上がっておりますのが、朝鮮半島情勢ということであります。御承知のように、ヨーロッパもKEDOに参画をしておりました。それから、イラクの問題も議題に取り上げられております。これはもちろん、共通の関心事であります。また、いわゆる多国間主義について、それから多国間にまたがるさまざまな問題にまつわる効率性ということで、より広く議論をしようということになっております。これらはすべて、ヨーロッパ、アジア双方の共通の関心事であります。ヨーロッパにとりましても、やはりASEMを強化するということに極めて強い関心を持っております。今後とも定期的に会合を持つということによりまして、それのみならず、意見交換をするということ、さらには、何か共同で行動ができることはないかといったようなことも議論を重ねていきたいと思います。

 最後になりますが、私どもは、ASEANとの対話の場も持っております。それから、首脳会議ということで、日本とも、中国とも、韓国とも、インドとも行っております。これらはすべて、EUとこの地域の国々とがお互いに手を結び合っていこうというための手段であります。

中山会長 ありがとうございます。

 時間の都合で、少し飛ばして、最後の質問にいきたいと思います。

 国民投票についてお尋ねしたいと思います。

 EUの新規加盟国では加盟に当たっての憲法改正手続の必要性などによって、現加盟国においては条約批准や通貨統合の是非を問うために、各国で国民投票が実施されております。

 そのような国民投票について、我が国では、国の重要政策について実施すべきとの見方がある一方、議会制民主主義との関係で、その導入には慎重であるべきであるとの見解もあります。

 そこで、国民投票の果たす役割とその功罪について、参考人の意見を伺いたいと思います。

ツェプター参考人(通訳) はっきりしていることがあるかと思います。

 EUという存在ができ上がるまでには、あらゆる段階において、各加盟国がそれぞれの国の主権を移譲してきたということが不可欠でありました。しかしながら、それを実行する上では、やはりそれぞれの加盟国の国内において合意なしに、特に憲法という枠組みに照らして、合意なしにはもちろん可能ではありませんでした。ただ、各国の憲法がこの問題についてどのような根拠を与えているかということについては、それぞれの国によって違っております。

 私どもの意見陳述の資料の中に、附属資料として各国の憲法について説明をした資料がございますので、後ほどまた御参照いただければと思います。

 ここでは、住民投票について私、要約してお答えをいたしたいと思います。

 各国の憲法の中にこの住民投票というのがどのように扱われているかということでありますが、個別の国について何か重大な権利が侵されるかもしれないといったようなEUにおけるいろいろな合意があった場合には、憲法上、国民投票にかけるということが規定されている国も一部ございます。

 それで、ほかの国々については、例えばドイツの例を挙げますと、我々は、歴史的に実は悪い経験をしてきたということもございまして、憲法上、国民投票にかけるということはちゅうちょするということがございました。一方で、成熟しつつある民主主義の中では、市民参加、そして市民社会の立法過程における参画というのがますます重視されつつあるということがございます。ということで、現在ではドイツの中でも議論が起こっております。すなわち、一定の重要な状況に照らして、国民投票にかけるかどうか、それが適切かどうかという議論であります。ただ、ドイツの場合は、まだ国民投票が義務づけられておりません。

 一言のみつけ加えさせていただきます。

 EUの国々の中には、例えばオーストリアですとかアイルランドでありますが、国民投票が必ず必要だということが義務づけられている場合もあります。すなわち、新しい情勢に合わせて憲法を改正する際には必ず国民投票にかけるということであります。

 また、ほかの加盟国の中には、例えばデンマークやスウェーデンなども定期的に国民投票にかけておりますが、そういった国々では、政治的な理由がゆえに国民投票にかけるということがございます。すなわち、市民の参画が重要だということであります。

 それからまた、片やドイツやイギリスといったような国々では、伝統的に、あるいは歴史的な経緯から、あるいは憲法上の理由から、国民投票にかけるということをちゅうちょするという国々もあります。しかしながら、その場合には、その国独自の手続をもって、新しい情勢に合わせて憲法を改正するということをやっております。

中山会長 本日は、どうもありがとうございました。

 これで私の質問は終わります。

近藤小委員長 次に、仙谷由人君。

仙谷会長代理 衆議院の憲法調査会で会長代理を務めております仙谷でございます。

 本日は、ツェプター大使におかれましては、大変お忙しい中を、大変膨大な資料の整理をしていただいた上で、EU憲法の制定に向けた現在の状況あるいはその歴史的な意味、プロセス等々について、包括的かつまた具体的に意義のあるお話をいただきました。感謝を申し上げて、改めて敬意を表したいと存じます。

 あらかじめ質問の要旨をメモ書きにしてお送りをさせていただいたつもりでございますが、きょうのここまでのツェプター大使のお話を伺い、かつまた中山会長の質問に対するお答えをお伺いしておりまして、時間の関係もございますので、私も、五項目、六項目、七項目、少々具体的ではありますが、そちらの方から質問をさせていただきたいと考えておりますが、よろしゅうございますでしょうか。

 このEU憲法草案、憲法条約草案を拝見いたしますと、一部のところにも、1―四十八条という

ところでございますが、欧州オンブズマンというものが規定をされております。これは、EU憲法が制定をされた、成立をしたという段階では、EU憲法上の機関として欧州オンブズマンというのがつくられる、そういうふうに理解をしてよろしいのか。

 その場合に、欧州オンブズマンというのはどういう機関としてヨーロッパ全域に、例えば旧主権国家一つとか地域に一つとか、あるいは、支所といいましょうか支店といいましょうか、地域委員会というものもつくられるというふうな構想なんでしょうか。そこをちょっとお伺いいたしたいと思います。

    〔小委員長退席、平井小委員長代理着席〕

ツェプター参考人(通訳) オンブズマンという考え方自身は決して目新しい概念ではありませんで、既存の条約の中でもこういったものは存在しておりまして、フィンランドなどが活発に活動をしております。

 オンブズマンというのは、要するにEUの市民が、ブラッセルやストラスブールで決まっているということは、余りにも内容的に抽象的であり複雑である、そういった中で市民の声を届かせるということがねらいであるわけです。ブラッセルやストラスブールというのは余りにも市民から距離があり過ぎる。しかしながら、こういったブラッセルやストラスブールの組織は、市民の将来の運命であるとか、将来の姿というものに関しての決定を下すわけです。したがって、こういった中で、市民がみずからの見解を表明できる手段としてオンブズマンの組織があるわけです。

 オンブズマンの組織そのものはストラスブールにございまして、市民は直接具体的な問題に関しての質問を提起することができ、欧州の機関との接触を得、また欧州の機関から情報を得ることができます。以前の欧州機関に対する接触からはまともな答えがもらえなかったような場合に、このオンブズマンの組織を通して情報を得ることができます。

 新しい憲法草案においては、オンブズマンの役割というものが確認されたのみならず、さらに強化されております。やはり市民の近くに存在したい、そういった機関でありたいという意識の表明がオンブズマンという存在につながっているわけでして、そういたしませんと、余りにも物事が決定されているところから市民は距離があり過ぎ、しかも抽象的な世界にいるからであります。

 よろしければ、今の回答を訂正させていただきたいと思います。

 EUにおいては、物事が急速に展開しておりまして、新しい情報として、ニキフォロス・ディアマンドゥーロスという方が、昨年、このオンブズマンの機能というものを引き継ぎ、新たなオンブズマンになられました。

 基本条約の中にもオンブズマンというものは入っておりますが、このたび、制度としてこれを設けようということで、オンブズマンの役割は、不公平、差別及び権力の乱用、情報を求めた際の拒絶であるとか、物事の処理に遅延が見られた場合であるとか、もしくは行政府の手続が正しくなかった場合、こういったケースに対処するためでありまして、とりわけ行政府、欧州委員会の行政機関の動きというものに対して、オンブズマンが対応するということになっております。

仙谷会長代理 続いてまた、少々具体的、細かいことをお聞きすることになるのかもわかりませんが、この憲法草案の1―五十条に「個人情報保護」という項目がございます。それから、2―八条の三項にも記載があるわけでありますが、この個人情報の保護に関して、独立の機関の統制、つまり、独立の機関で個人情報を保護するという旨の規定があるようでございますが、この独立の機関というのはどのようなものを想定されていらっしゃるんでしょうか。

    〔平井小委員長代理退席、小委員長着席〕

ツェプター参考人(通訳) これもEUにおいて重要な動きとなっております。

 先ほどの答えとも関連いたしますが、やはりEUにおいては透明性というものが必要であるということを申し上げました。市民がブラッセルの動きというものも透明性の中でフォローできるようにしなくてはいけないと思っております。

 したがって、行政府及びブラッセルの執行部が行っていることと市民の間に距離がないように、また、市民に、彼らのやっていることがとてもコントロールできないと感じないようにすることが必要であると思っておるわけです。

 憲法草案の中にも既存の慣行に関しての確認がなされておりますが、私自身も、この委員会のデピュティー・セクレタリー・ゼネラルとして深くこの問題に関与してまいりましたので、よく存じております。

 やはり、個々の個人が必要な基本的な文書に対してアクセスができるように、また、それを容易化するのも必要だと思いますし、欧州の機関が出す基本的なペーパーを入手することができるようにすることも必要だと思います。

 ただ、これはなかなか難しい戦いでありまして、こういった、自由に文書にアクセスができるようにしようということは、スウェーデンの同僚が強く後押しをした内容であり、スウェーデンにおいては、文書に対するアクセスの透明性ということで非常に長い伝統があります。したがって、基本的に文書に対してアクセスができるということを、私どもは憲法の草案で確認し、スウェーデンのアプローチというものを確認した次第であります。

 ただ、そうはいうものの、灰色の部分というものもありまして、果たして、そういったアクセスの要請があったときに、それを許すかどうかという部分があるわけです。

 そういったことを判断するために、EUの諸機関とは関係のない人を充てて、中立的な独立した機関を設けるべきであるというふうに我々は考えたわけです。そうすることによって、文書に対する要請が正当なものかどうかということが判断できます。

 また、EUにおいては、公的な情報に関してのアクセスを担保することはもちろん重要でありますが、そうするに当たっても、他方では、個人のデータを保護するということとのバランスにおいて考えていかなくてはいけないと思っております。

 EUにおいても、法的な伝統、原則がありまして、社会においてデータというものはあらゆる部分で流れているわけですが、そういった中で、個人が情報を必要としたときにはそのアクセスを容易化する必要はある、しかし、そういった中で、個人的データをやはり市民としては保護される権利もあるということであるわけです。

 ですから、そのデータの入手の容易化と市民の権利の保護というこの二つのバランス関係の中でお話ししているわけです。

 今までのところ、このルールに関してはEUでも随分論争の種となってまいりまして、明確な決定というものはなされておりません。具体的なケースはあったんですが、今ここでお話しするような場ではないと思っております。

 ただ、今回の憲法草案というのは一つの突破口となりまして、個人的なデータの保護も必要だということがうたわれており、これに関しては具体的な法律というものが今後詰められていかなくてはいけないわけで、その具体的な部分はまだ詳細にわたって決定されておりません。

 ただ、灰色部分というものが存在し、データを要請する場合でも、それを与えるべきかどうかがわからないような部分に関しては、中立の機関がそのデータ入手の要請が正当であるかどうかということを判断する必要があると考えております。

仙谷会長代理 先般、カナダへ行きましたら、カナダでプライバシーコミッショナーというのを新たにつくったんだということをおっしゃっていましたが、この「個人情報の保護」の八条三項に書かれている「独立機関」というのは、これからEUとしても、そういう個人情報を保護するための独立の機関をつくろうということなんでしょうか、改めてお伺いします。

ツェプター参考人(通訳) はい、私どもは確立いたします。この憲法草案においても、こういった機関を設けることは義務となっておりますし、憲法が発効次第早期にこれは確立いたします。

 一部の五十条及びパラグラフ二の最後のセンテンスとの絡みでもこういった機関はつくります。また、一つの可能性として、実際に憲法が発効する以前の段階においてもこういった機関をつくる可能性もあります。

 といいますのも、将来、違法な、不法な行動、活動などが展開することも予測されますので、そうした中で、一方では憲法は二〇〇七年もしくは二〇〇八年以前にはまだ発効しないと思います。こういった個人情報の保護というのは緊急を要する問題ですから、政治的な意思が働けばより早い段階で発足させることもあり得ます。

仙谷会長代理 それでは、ちょっと人権のカタログについてお伺いをしておきたいのであります。

 この憲法草案の、第二部EU連合の基本権憲章というふうに日本語で訳されたものを拝見しますと、我々が世界人権宣言やその他あらゆる近代国家あるいは民主主義国家の基本的人権というふうに教えられてきた基本的人権のカタログというものがございますが、そういうカタログから見ますと、このEU憲法草案に書かれていらっしゃる人権の項目では、二条で「生命に対する権利」、あるいは三条で「人の一体性の権利」、それから八条は先ほど申しました「個人情報の保護」、二十四条で「子供の権利」、三十七条で「環境保護」、四十二条で、ツェプター大使が先ほどおっしゃられたことと関係あるんだと思いますが、「文書入手権」というふうに書かれております。

 これらを拝見しますと、新しい人権といいましょうか、そういう観点からもとらえることができると思いますし、従来、もう少し抽象的、一般的に幸福追求権というふうなもので考えられておったものを、具体的に特定して、基本的人権として設定をしたというふうにも考えられると思っております。

 このような具体的な規定といいましょうか、こういう規定の仕方をするべきだというのは、どういう議論あるいは理論に基づいているんでしょうか、そのことをお伺いしたいと思います。

ツェプター参考人(通訳) 私ども、憲法において基本的な人権に力点を置いている理由でありますが、まず第一に、そういった伝統がヨーロッパに存在するということが挙げられます。

 御存じのように、フランスというのは、まさに当然のことだと思いますけれども、人権宣言の創立国とも言えます。また、私どもの、既存の各国の憲法の中にもそういった基本的な権利に関する構造というものが盛り込まれているからですし、また、基本的人権に関しての言及も各国の国内法に存在いたします。

 この憲法の文書でありますが、ただ単に制度的な枠組みというものを人権に関して示すのではなくて、また、ただ単に国民国家の機能というものを憲法は示すのではなくて、明確に市民の基本的人権は何であるかということをうたっているわけであります。そういう意味では、この憲法草案はうまく書かれているものだと私は考えております。

 この憲法草案の精神というのは、別に、細かく、どのようにこの内容を適用、運用すべきかとか、もしくは適用制限がどんなものであるかということをうたうのではなくて、逆に、市民に対してどういった権利が与えられているかということを明記するということです。実際の運用面に関しては、パートスリーの部分もしくは各国の国内法に任せ、それぞれの状況において実施してもらうというふうな考え方をとっております。

 我々としては、非常に野心的な試みで、こういった憲法草案を書くことによって、市民の側も、読みやすい、理解しやすい、自分たちのものだとわかりやすいような内容にしようと思ったわけです。そして、市民も、自分たちにはこういう権利がヨーロッパの憲法の中で与えられているのだということが把握できやすいようにしたいと思っております。ある意味では、我々の求めていることを非常に大胆に表現した部分となっております。

 市民に対しても十分な効果が出てくることを期待しておりますし、また、ヨーロッパの市民も、今やEUというのは巨大な匿名の官僚機構ではなくて、もっと自分たちに近いものだということを認識し始めているわけです。そういう意味で、市民に対してこういった権利を付与しているのだ、その権利を保障する、そういう精神からうたわれているわけです。

 当初は、この基本的人権というのは政治的な文書にすぎなかったわけですが、今や法的な拘束力を持ち、憲法の一部となっているわけであり、すべての人が、今後、この立法過程において、もしくは権利に関して議論する際に、遵守すべきベンチマークとなっております。

仙谷会長代理 ありがとうございました。

近藤小委員長 次に、斉藤鉄夫君。

斉藤(鉄)小委員 公明党の斉藤鉄夫です。

 ツェプターさん、きょうは本当にありがとうございました。

 早速質問させていただきます。

 EUの統合が、私たちが考えていたよりもはるかに速いスピードで、そしてまた、私のヨーロッパの友人の言葉をかりますと、自分たちが予想していたよりもはるかに速いスピードで進んだ、このように認識しておりますし、見えるわけですけれども、その大きな要因は何だったのかということを、まず最初にお伺いしたいと思います。

ツェプター参考人(通訳) 大変おもしろい質問をしていただいてありがとうございます。ただ、今の御質問は、短いお答えはなかなかしにくい御質問だと思います。

 なぜこのスピードが加速していったかということでありますが、私が思いますに、これは、歴史そのものの進展が非常にスピード速く進んだということが背景にありました。とりわけ欧州大陸という視点から見ますと、ベルリンの壁が崩壊したということ、そしてその後、ヨーロッパの政治経済の情勢も膨大な形で変化を見ました。

 当初から明らかだったことは、ソ連邦の支配下に長年置かれていた国々も、熱心に経済発展を加速化したいというふうに考えているということのみならず、ヨーロッパの戦略あるいはヨーロッパの枠組みの中に統合されたいと熱心に関心を抱いているということでありました。すなわち、そのことによって政治的な安定化を図ろう、そして、長期的な視野から政治経済の安定化を図りたいという熱望があったかと思います。それがやはりスピード速く統合が進んだ一つの理由かもしれません。

 こういった新しい国々が統合をされようという中で議論になったのは、EUの今現在の仕組み、構造、あるいは制度的な枠組みで、これから数多くなる加盟国に対応できるのかどうかという疑問でありました。明らかにその疑問に対する答えはノーでありました。すなわち、新しい課題に対して、今現在のEUの制度的枠組みだけでは対応し切れない、ですから、制度的枠組みを変えなければならないということが明らかになってきました。

 それから、二つ目の点でありますが、経済統合を実行するということを選択した後、幾つかの問題が明らかになってきた。すなわち、幾つもの問題に対処しなければならないということがわかってきたわけであります。一つは、通貨統合あるいは単一通貨の問題であります。それから、もちろん政治的な問題ということも提起されてきました。

 私の先ほどの意見陳述の中で述べましたように、統一市場ないしは共通通貨ということをつくってから、外交・安全保障政策は全く別個のものだ、これは重要ではないということは言えないということであります。ですから、論理の筋道をもとにたどって、そして経済統合を進めるならば、やはりそれに呼応する形で政治的にも対処していかなければならないということになりました。

 ちょっと例を挙げてみましょう。御記憶かと思いますけれども、安定化協定並びにその適用というのは実は政治的な問題でありました。というのも、さまざまな経済政策を統合し融合させていくというのは、共同体の権限ではないということがあったわけであります。ユーロの進展が進む中で、やはり経済政策の調整をいかに図るかということが問題になってきました。とりわけ経済、ないしはマクロ経済政策と政治面での、政策の間のインターリンケージ、相互の関連性ということが重要になってきたわけです。

斉藤(鉄)小委員 ありがとうございました。

 次に、ツェプターさんがきょうのお話の中で、「憲法草案は、その条項の多くにおいて、さらなる統合にとっての礎としてヨーロピアンアイデンティティーの必要性を強調しております。」と、ヨーロピアンアイデンティティーということをおっしゃっております。

 我々も、日本の憲法を考えるときに、普遍性と、固有性というんでしょうか土着性というんでしょうか、二つのベクトルがありまして、普遍性を追い求めるべきか、いや、土着性を追い求めるべきかということで論争がございます。

 ここでヨーロピアンアイデンティティーとおっしゃっておりますが、そもそもヨーロピアンアイデンティティーというのは何かということと、それは、我々が今お話ししたところの、固有の土着性というものに着目しないと憲法というのは余り意味をなさないんだ、こういう考え方に基づくものなのでしょうか、その点をお伺いします。

ツェプター参考人(通訳) まず初めに申し上げたいのは、EUを形成していくということを、より長期的な視点で考えるべきであるということであります。

 すなわち、目先の経済的な利害のみを追い求めるのではなく、長期的な視点からEUを構築していこうという場合には、やはりこれは疑問の余地なく、必ずヨーロピアンアイデンティティーということを形成していかなければならないということがあるかと思います。人は、そのようなアイデンティティーがあってこそ、このヨーロッパの構築あるいはEUをつくり上げていこうという試みと自分を一体化させていく、同一視させていくということになるかと思います。

 ですからこそ、私は、先ほどの陳述の中でも大いに強調をさせていただきました。すなわち、ボトムアップのプロセスが必要である、トップダウンであってはならない。すなわち、青写真ではなく、人々の意思によってどの方向に向かっていくのかということを決める必要があるのだということでした。

 だからといって、ヨーロピアンアイデンティティーというのが、各国のそれぞれの国民のアイデンティティーに置きかわるものではないということであります。あくまでもヨーロピアンアイデンティティーというのは付加的な価値ということになります。ですから、両方を合わせて一体となるという考え方であります。

 欧州大陸においては共通の歴史が見られるということは否定できないと思います。ですから、多くの面で共通性がある、あるいは、人々が結束する、団結するといったようなことが見られるかと思います、さまざまな政治的、経済的な進展の中で。それを明確にするということで、憲法の中でも大いに努力が行われて盛り込まれたということがあります。憲法の中でも、欧州の社会に共通に見られる具体的な価値観ということが重点的に盛り込まれております。

 また、そのような視点から見ますと、ヨーロッパの形成のプロセスを確固としたものにするためには、やはり市民社会、シビルソサエティーというのが、いかにヨーロッパの進展の中に直接に参画するかということと、切っても切り離せない関係があるということであります。

 ですから、意思決定のプロセスの中に市民社会を取り込んでいくということが、ヨーロッパの場合には深刻な問題として受けとめられておりますし、ですからこそ、欧州委員会が出しましたヨーロッパにおけるガバナンスについての白書の中でも、この点についてかなり苦労して記述されているということがあります。

 我々は、やはり努力をして、市民社会が将来の意思決定プロセスの中に参画できるような仕組みをつくり上げていくということのみならず、市民社会の方も、ヨーロッパの社会に対してさまざまなアイデアを出してもらう触媒役を果たしていただきたいと思っております。

 最後に申し上げたい点でありますが、ヨーロッパを構築していく中で、我々は、一方では共同作業として進めなければならないということがあると同時に、他方では、固有性、特異性ということも守っていかなければならない。ですから、欧州統合法の試みというのは、そういう意味でよい試金石になるのではないかと思っております。

 ますますグローバル化が進む世界の中で、どのように、ドイツ人あるいはフランス人あるいはイタリア人としてのアイデンティティーを保ちつつ、同時にヨーロッパ人として自分が感じることができるのかという課題であります。私自身はこれを難しくは感じておりません。私はドイツ人でありますが、ババリア地方の出身でありますし、同時にドイツ人だと思っておりますし、ヨーロッパ人だとも認識しております。ですから、多層にわたるさまざまな層を、いかに重ね合わせていき、そしてそれを強化するかということが重要かと思います。

斉藤(鉄)小委員 ありがとうございました。

近藤小委員長 次に、山口富男君。

山口(富)小委員 日本共産党の山口富男です。

 現代の国際社会は、多数の主権国家とさまざまな社会的制度、個性豊かな文明によって構成されていると思います。その中にあって、EUの現状と今後の歩みは、二十一世紀の世界の平和と共存にとって大きな挑戦だし課題だと思っています。

 先ほど大使は、欧州建設にとって、事前に設定された青写真、ブループリントは存在しないと指摘されました。私はこれは名言だと思いますが、皆さん方の事業が美しい写真となって実るように、まず初めに希望したいと思います。

 さて、私は、時間の許す範囲で三つの点について質問したいと思います。

 第一は、大使が、欧州統合の歴史的背景として、二度と私たちの間で戦争を起こさない、ネバー・ウオー・ビトウィーン・アスという教訓を強調されたことです。

 そこで、お聞きしたいのは、ナチスの戦争犯罪に対して、また被害者補償などでヨーロッパはどう臨んできたのか。そして、今度のEU憲法草案に、その立場はどのように反映されているのか、お尋ねしたいと思います。

ツェプター参考人(通訳) 二度と我々の間で戦争を繰り返さないということは、やはり欧州共同体の創設の父たちにとっては重要なかぎを握る宣言でありました。といいますのも、過去の残虐な経験を乗り越えて、何か共通のものをつくり出そうということを目指していたからであります。

 ですから、一方では、我々が歴史を認識しなければならないということが求められております。歴史の中で何が間違ったのかを認識するということであります。同時に、将来にも目を向けなければならないということであります。ですから、今後進展していく中で、決して繰り返されることのないように、これはヨーロッパの土地の上でも、そして、できれば世界のどの地域においても、あのような残虐な事態が繰り返されることのないようにということです。

 私が思いますに、そのようなヨーロッパの歴史が背景にあった、そして各国の歴史が背景にあったということが、いわゆるヨーロッパの建設ということだろうと思います。すなわち、そういうことが存在していたということを決して忘れてはならない。しかしながら、同時に、そのような歴史経験があったからこそ、それを土壌として、今後はよりよくしていく、決して間違いは繰り返さない根拠としていくということであります。

 その意味で、私は比較をしたいと思います。欧州連合の建設ということと、ヨーロッパにおける何か重要な構築物の建設となぞらえてみたいと思います。ここでの例は、大教会堂ということで挙げたいと思います。

 日本の皆様の脈絡で見れば余り適切な例ではないかもしれませんが、教会堂をつくり上げるためには、結果として、最後に美しい建物ができるということを一番に考えているわけではないということであります。建設途中そのもののプロセスが大事だということであります。それが人々の精神にとって重要な意味を持っているということです。大教会堂などの中には、何世紀もかかってようやく完成するといったようなものがあります。そのプロセスの中で、一緒に何かをつくるということ、そして究極的に、美しい確固たる創造物を生み出していこうということがあるわけであります。こういったことこそが、今EUで行われていることのよい説明になるのではないかと思います。

 ですから、もちろんヨーロッパの安定化に貢献をしたいということもありますけれども、我々は世界に手本を示したいということもあるわけです。すなわち、他の国々や人々に対し寛容であること、そして連帯ということの必要性、そのお手本になりたいということです。

 それで、ちょっと興味深い比較をもう一つ挙げてみたいと思います。これはドイツの哲学者のスローターダイクの言ったことでありますけれども、EUは決して一九世紀の国民国家のようになってはならない、あのような間違いをすべて繰り返すといったようなことであってはならないということです。EUはそれ以上のものにならなければならない、すなわち、大学のようなものになるべきだということです。一緒に住んだり、働いたり、同じ場所でやるというだけではなく、恐怖心なく暮らすことができるようにということであります。

 この考え方はちょっと理念的に過ぎるかもしれませんが、そういうことを念頭に置いて見ていただければと思います。

山口(富)小委員 ありがとうございました。

 二つ目にお尋ねしたいのは、イラク戦争についてです。

 先ほど大使は、外交政策問題に関して、共同行動をとる際の失敗例としてイラク戦争の状況を挙げました。ヨーロッパでも、アメリカ、イギリスのイラクへの武力行使を、国連憲章が認めないものだという見解と、これを是認する見解に分かれました。こうした不一致から、皆さんはどういう教訓を導かれたのか。

 特に、昨年十二月に、EUとして初めての安全保障戦略を決定されています。そこでは、ユニラテラリズムに対して、国連を中心とした多国間主義が強調されていますが、ここにもイラク戦争にかかわる何らかの教訓が含まれているのですか。

ツェプター参考人(通訳) まさにプレゼンテーションの中でも明確に申し上げましたように、欧州委員会の考え方というのは、EUにおいてまだ共通の立場というものが確立されていない、そういう能力は欠落しているという見方であり、また同時に、共通の外交・安全保障政策の弱体性というものも示すことになりましたし、また今後は、こういったメカニズムを強化することを真剣に考慮しなくてはいけないというふうなことも示しております。そして、こういった決定的な問題に関して共通の立場をつくる能力をつくっていかなくてはいけないと考えております。ただ、まだそういったことは達成できておりません。

 共通の外交・安全保障政策に関しては、政府間のアプローチが現在とられております。共通の立場というものを共有できるようなメカニズムはまだできておりません。もちろん、共通の立場をつくるための手続上のルールを作成しようという試みはなされておりますが、しかしながら、単に手続上のルールをつくって、その背後に政治的な意思がなければ、単純にそういうものを共通の立場に置きかえていくことはできないと思います。

 また、私どもは、こういった出来事から教訓も引き出しております。私のフィーリングでありますけれども、今後はこの共通の外交・安全保障政策を強化していかなくてはいけない、そして、共通の立場というものをつくる意思というものを強化しなくてはいけないという気持ちがこれらの出来事から生まれたと思います。また、もう一つの教訓として、いかに国際的な法的な枠組みが重要かということも認識されました。さらに、国連の枠組みのもとでの多国間主義の強化ということも認識されたわけであります。

 EUにおいては、当初より、私ども、こういった政策を宣言してまいりました。この点は日本とも共通だと思っております。いろいろな日本との接触からもそれがわかっております。日本とEUの共通の理解として、やはり国連のもとでの多国間の枠組みを強化しなくてはいけない、世界にルールをつくり、それを遵守しなくてはいけないというところがあると思います。

山口(富)小委員 ありがとうございました。

近藤小委員長 次に、土井たか子君。

土井小委員 きょうは、ツェプター大使、本当にありがとうございました。

 私は、時間のかげんからいうと、もう余りありませんから、非常に簡単なこと、そしてプリミティブな問題でございますけれども、お伺いしたいと思います。

 今回のEU憲法をめぐる問題というのは、世界の歴史がこのことによって動くというくらい画期的なことじゃないでしょうか。EU統合というのは国家主権の移譲を伴うものであるということも承りましたが、これまで国家であるがゆえに有している主権ということに対しての動きが、このEU統合によって今までにない動きが出るわけですから、この辺が違ってくると思うんですね。つまり、国家というものについてのありようについて、国家観が、このことによって以前にない考え方を持つということになる。

 そしてまた、きょうも大使がはっきりおっしゃったわけですが、国際法は、その性格からして国内法に優先するという問題です。加盟国各国にそれぞれある憲法に比べて、EU憲法の方が優先するということになるわけですね。

 そうすると、これまた憲法の概念が大きくこれにかかわってきて、この概念自身が変える事象をここに提起しているということになるんじゃないのでしょうか。今までの国家に対しての物の考え方、憲法に対しての考え方、こういう問題について、EUの加盟国はどのようなとらまえ方をされているかということを、ひとつ大使、何か御経験でおわかりになっていらっしゃることをお聞かせいただければと、その点を思います。

 それから、その次に、二つ目も申し上げましょう。

 大使は先ほど、戦争が再び繰り返されることがないようにということに情熱を傾けて、強い決意を申し述べられました。私も同じ気持ちでございますから、共感と同時に、非常に感動を覚えたわけです。

 EU加盟国のそれぞれの憲法の中には、再び戦争しないという規定を具体的に持っている憲法も現在ございます。例を挙げればほかにもあると思いますけれども、イタリア憲法の十一条などもまさしくそうだと思います。そして、イタリアだけではありません、各国の憲法には、それぞれ、歴史的な経緯をしっかり踏まえて、この条文というのが現行憲法の中に生きているわけですから、恐らくは、EU憲法の草案のときに、それぞれの憲法の中身についてしっかり生かすということも考えられての草案であろうと私は思いますが、その辺をお考えになっておられるかどうか。そして、そうであるなら、EU憲法の中には、再び戦争は繰り返されることがあってはならないという決意とそれから意思表示を具体的な条文として記載される御用意がおありになるかどうか、その辺も承りたいと思います。

ツェプター参考人(通訳) 今の御質問というのは、初歩的どころか、非常に核心部分に触れる御質問であったと思います。

 EU法と国内法との関係というものを手短にお答えすることはできないと思います。ただ、明らかなことは、また決して目新しくない点として、我々の憲法においては、国際法が優位に立つということは明記しております。

 すべての人々が、世界における平和を望み、また国際関係の安定化というものを求めております。それはあくまでも法律のもとでの制度でそれを求めるわけであり、ルールを遵守しなくてはいけないわけであります。もちろん、こういった法律及びルールというものは、執行されなくてはいけないわけであり、そのために、国連においては、法を遵守するために細かいメカニズムというものを予測し、設けているわけであります。

 我々がいろんな努力をしているにもかかわらず、しかしながら、一部の国は、単独主義、一方的な行動をとる国もあるわけです。我々EUは、何か動く際には、あくまでも国際法のもとで国際関係の秩序に基づいて動きたいと思っておりますし、また、こういった国際法を強化するための取り組みを行っていきたいと思います。

 我々が住んでいる世界というのは完璧なものではありません。ある時点においては、予測不可能なような出来事に即時対応しなくてはいけないことも出てくるかもしれません。ただ、一つ明らかなことは、今我々がつくっているものは歴史的に新しいものであるということであります。新しいモンテスキューのようなものであり、我々は国際関係というものを新たに形成しようとしております。今言っている国際関係というのは、国民国家間の国際関係ではなくて、さまざまな国が主権の一部を移譲した、そういったものから成る集合体であるとか組織とか機関、そういったものの間の国際関係、新しい国家ともいいましょうか、そういった関係であり、今予測できないような形のものに関する関係であるわけです。

 また、平和に関しては、まさに私どもの憲法草案の二条と三条のところに主に明記されております。

 ここでも明らかに述べられておりますように、我々は、以下のような価値観というものを掲げます。すなわち、人間の尊厳性というものを重視し、自由、民主主義、平等、法の支配、人権というものを重視するということであります。また、三条のところでは、EUとしては、その目的として、平和を促進するということ、そして福利厚生のための価値というものを推進するということが書かれております。

土井小委員 ありがとうございました。

近藤小委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 ツェプター参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、ありがとうございました。小委員会を代表して、心から御礼を申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

近藤小委員長 これより、本日の参考人質疑を踏まえて、小委員間の自由討議を行います。

 一回の御発言は、五分以内におまとめいただくこととし、小委員長の指名に基づいて、自席から着席のまま、所属会派及び氏名をあらかじめお述べいただいてからお願いいたします。

 御発言を希望される方は、お手元にあるネームプレートをお立てください。御発言が終わりましたら、戻していただくようお願いいたします。

 発言時間の経過については、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、ただいまから御発言を願いたいと存じます。御発言を希望される方は、ネームプレートをお立てください。

中谷小委員 本日のEUのお話を聞きまして、事安全保障に関しては、非常に長い歴史的な経験を酌んで、真剣に各国が協調して模索しているなと感じました。特に、NATOまたWEU、OSCE、また最近はEU軍ということで、もう二重、三重、四重に各国の安全保障機構というものをつくっております。

 イラク問題では、イギリスやアメリカとフランス、ドイツが意見が分かれて、NATOとかEUとしては機能をしていませんけれども、それにもかかわらずEU軍を充実させていこうというお話でございまして、やはり、我が国周辺の安全保障機構を考えてみますと、アメリカを中心とした二国間の条約しか存在していない、実に寂しい今アジアの状況であるということを認識いたしました。

 そこで、私が主張したいのは、安全保障を確立する上においては、もう集団的安全保障とか集団的自衛権に伴う各国の協力というものが世界の趨勢であって、今後、予防外交にしても平和維持活動にしても、各国がそれぞれ目に見える形でお互いにルールをつくってそれを遂行していこうということでございますので、このアジアにおいても、しかるべき安全保障機構の創設が必要ではないかと思っております。

 そういう意味で、今北京で開かれている六者協議、ロシア、北朝鮮、韓国、中国、日本、アメリカといった東アジアの主要国が集まって北朝鮮問題に対して協議をしているということは、かつてない出来事でありまして、ぜひ、こういうものを発展させて、この東アジアにおける安全保障機構というものを創設すべきである。現在も、APECやASEANにおいてそのような枠組みができつつありますけれども、ぜひ、日本が中心になって、東アジアの安全保障機構を進めていく提案をすべきではないか。

 そのためには、集団的自衛権とか集団的安全保障に関する国の考え方をきちんと整理して、憲法によって、やはり集団的自衛権や集団的安全保障概念は、この地域の安定のために、独立国としてなすべきことをきちんとした上でないと、ただ単に言葉だけの組織になってしまうわけでありますので、ぜひ、憲法の中で、集団的安全保障や集団的自衛権のあり方の位置づけをしていただきたいと感じました。

 以上です。

伊藤(公)小委員 きょう、大使のいろいろお話を伺いまして、いわゆるNATOとは違って、EUにおきます緊急対応部隊というものが既にそれなりの役割を果たしているというのは、我々アジアにおける地域的な安全保障の枠組みを考える上で非常に参考になったなというふうに思います。

 しかし、大使がいみじくも意見陳述の中で最後にまとめられたように、EUというものがほかの地域にそのまま当てはまるものではないというお話をされましたけれども、まさにそのとおりだと思います。

 今、我々が足場にしているアジアは、ASEANあるいはASEAN地域フォーラム、それからASEANプラス3、日本とか中国、韓国を加えた地域、あるいはAPEC、それからきょうお話の中にもありましたが、ASEM、いろいろなグループがいろいろな協議をしてきた歴史があるわけですけれども、総じて言うと、経済を中心にしてやってきていると思います。

 そういう中で、最近の国際的なテロの対応だとか、あるいは北東アジアにおける最近の地域の情勢を考えたときに、いわゆるEUが果たしている緊急対応部隊、そういうような安全保障に対する共通の基盤というものも大変大事な時期に来ているのではないかというふうに思います。

 ただ、きょうはドイツの方でございましたけれども、戦争はしたけれども、ヨーロッパにおいて、ドイツはロシアとの関係を非常にうまくリードしてきたという場面があると私は思います。

 これから我々は、憲法を含めて、日本がどういう国際的な役割、どういう選択をしていくかということが大変大事だと思います。EUにおけるイギリス、つまり、アメリカとしっかりと提携しながら、一方ではEUに発言権を持っていくという、そういう選択もあると思いますし、ドイツやあるいはフランスのような役割というものもあると思いますが、これから、中国というものが、これは安全保障の点でも、あるいは経済的にも非常に大きなウエートを持ってくる。アジアにおけるいわゆる緊急対応部隊にしても、中国を無視できない、そういう時代を私たちは迎えているというふうに思うわけでありまして、この点も、EUが今日まで歴史を積み重ねてきたところと、またアジアは違った意味で難しさを持っているなというふうに私も実感をしているわけであります。

 それだけに、中国に対していろいろな議論があります。しかし、我々が三時間とか三時間半足らずで、中国の十二億、十三億という世界最大のマーケットというのは、経済的にも、またこれからの安全保障という点でも緊密な関係を持っていく必要があるんじゃないかというふうに私は思います。

 EUの経済、GDPが約一千二百兆円、アメリカが一千四百兆円、日本、韓国を含めたASEAN、あるいはアジア全体でいえば八百兆円ぐらいになるんでしょうか、経済の規模は、この三つの経済圏というのはそういう関係ですけれども、圧倒的に違うのは人口だと思います。

 アメリカにしても、NAFTAとしても、メキシコ、カナダを加えても四億ちょっと、それからEUは三億弱、このアジアは三十五億というわけですから、圧倒的に市場でもアジアというものの役割はこれからますます大きくなると思いますので、そういう意味では、経済をベースにしながらも、安全保障、緊急対応部隊みたいなものも、アジアでこれから積極的に我々は模索をしていく必要があるんじゃないかというのが私の基本的な考え方であります。

武正小委員 民主党の武正公一でございます。

 きょう大使から、EUとNATOとの政策の整合性をいかに確保するか、こういった御苦労も、あるいは前向きな取り組みも御説明をいただいたわけなんですけれども、これは、ドイツ出身ということもあるわけなんですが、過去、ドイツの連邦軍のNATO域外への派兵について、ドイツでは、連邦憲法裁判所に提訴がされ、それについて判決が出された。

 その中で、派兵に際しては、事前に連邦議会の個別の同意が必要であるという判示がされているわけでございまして、これはやはり大変参考になるところでありまして、いわゆる我が国においての国会の事前承認か事後承認かといったことにおいても、EU各国、これは、EUとNATOは参加国は必ずしも一致はしておりませんが、こうした議会の承認という意味での丁寧な関与といったものは大変参考になるなということを感じたわけでございます。

 以上です。

楠田小委員 民主党の楠田大蔵でございます。

 本日、ツェプター大使からお話を聞かせていただきまして、やはり率直に感じましたのは、先ほど委員からのお話もありましたけれども、私は、アジアの安全保障というもの、確かに重要であることは間違いないけれども、ドイツ出身のツェプター大使の話を聞くにつけ、やはり、長い歴史の中であれだけ対立の歴史がありながらも、寛容と連帯でその枠を超えてきた。

 共通の理想、先ほどは、二度と戦争を起こさないという理想をおっしゃっていましたけれども、何かアジアの中でも共通の理想というものを構築することがまず先決ではないか。その先に、ボトムアップという話がありましたけれども、FTAを初めとする経済的な連携、また環境政策におけるそうした連携といった、実際の今の生活における、特に経済、また環境といった、そうした面での提携というのがまず先に来るべきではないか。そうした信頼関係の中で、初めてそうした安全保障の問題も同時に出てくる問題ではないか。この順番を間違えると、まとまるものもまとまらないのではないか、そのような実感がいたしたところでございます。

山口(富)小委員 日本共産党の山口富男です。

 私は、きょうの大使のお話で、やはり世界の見方や国際秩序のとらえ方にかかわる問題が非常に多く含まれていたというふうに感じました。特に、単独行動主義に対して国連中心の多国間システムを提唱して、ルールが必要だということを強調された点は、私もそうだと思います。

 ヨーロッパの場合は、やはり二つの世界大戦とファシズム、それから東西分断という経験がありますから、そこから、二度とヨーロッパを戦場にしない、それから人権を大事にする、そういう意味での歴史的な基調といいますか、そういうものが非常につくられてきた経過があるんだなということを感じました。

 そういうものを背景にして、国際人権規約に先立って、ヨーロッパが独自に人権規約、人権条約とも言われますけれども、こういうものをつくった、そういう土台あっての今日の統合というステージに上がっているということを感じました。

 それに比べて、アジアを見ますと、アジアの場合は、例えば二十世紀前半の日本軍国主義の侵略戦争にかかわる戦争責任の問題、そして今日では、北朝鮮の拉致問題を初めとした国際的な数々の無法行為の清算の問題、こういうものが求められているわけで、やはりヨーロッパの大きな探求の今の到達段階からアジアの現状を吟味するということも、一つ見方として大事な視点だなというふうに感じたんです。

 最後になりますが、先ほど中谷委員から発言がありましたけれども、私はまず、当然のことですが、集団的安全保障と集団的自衛権というのは全く違う考え方であるということ、それから、集団的自衛権について言いますと、これは私は、ここに世界の流れがあるということはとても言えないと思うんです。

 以前の憲法調査会でも発言いたしましたが、国連百九十一の加盟国のうち三分の二の国々が軍事同盟に属さない、そういう意味では、集団的自衛権については、そういう攻撃権を持たない国になっているわけですから、そこの世界の流れをやはり重視すべきだというふうに思います。

 そして、北東アジアでの安全保障対話の問題でいいますと、私どもも六カ国協議の今日の達成というものを評価しておりますが、日本の場合は、やはり憲法の原則がありますから、地域的な安全保障対話を考えていく場合も、そこに根差して考えていくことが基本であるということを申し述べたいと思います。

仙谷会長代理 改めて、大使の話を聞きまして、さらに憲法草案等々を拝見しまして、ある意味では、江戸時代の末期といいましょうか、人々とお金がどうしても藩の境を越えたい、ほっておいてもあふれざるを得ないという状況がある意味でヨーロッパにあったのかなと。つまり、この憲法草案がもし確定されるとしますと、国境がもう全くといっていいほどなくなることは間違いがないわけでありまして、現代の関所であります入管もほとんどないわけであります。

 この憲法草案の「連合市民権」というところで、ここの中でもやはり一番に、「構成国の領土内において自由に移動し居住する権利」というのが出てまいります。つまり、ある意味で、国境を挟んで、ここにいわゆる境界があるんだということで、各民族やあるいはネーションステートの国民と言われた人民が対峙をしない。つまり、軍備を構えて国境線を挟んで対峙するということがヨーロッパの二十五カ国の中ではなくなる、なくなったという現実があるということであります。

 しかし、にもかかわらず、先ほどから問題になっている山口議員のお話も、それはそれでその限りにおいては正しいわけでありますが、ただ、平和をつくって維持し、あるいは法の支配というものを貫徹させようとすれば、どうしてもヨーロッパも共通の安全保障・防衛政策というものが必要なんだと。共通の安全保障・防衛政策を行うためには、構成国が各国の憲法の要件に従って当該決定を採択するということが必要であります。

 あるいは、こういうくだりもあります。「構成国は、閣僚理事会が定める目的に貢献するために、共通安全保障防衛政策の実施のために非軍事的および軍事的能力を連合が利用できるようにするものとする。多国籍軍を共同で編成する構成諸国については、当該多国籍軍も共通安全保障防衛政策において利用できるようにするものとする。 構成国は、自国の軍事能力を漸進的に向上させることを確約するものとする。」云々というくだりがございます。

 そうしますと、先ほど山口先生がおっしゃった、日本国憲法があるから日本はこういうことはできないんだということを出発点にしては、この種の地域的な安全保障というのは成り立たないということになるわけでありまして、ヨーロッパ各国は、そのために、EU憲法を構想するに当たって、各国憲法をむしろみずからが変えていった、こういうことがあるわけであります。

 日本のように、ある種の猜疑心、これは重要なことでありますけれども、共通の安全保障あるいは共通の価値観をつくりながら進めていく、平和とか軍縮とか、あるいは現代においてはテロ対策というふうなことも入ってくるのかもわかりませんが、そういうことなくして、何かみずからの価値だけを固定させて一歩も前へ出ようとしないということでは、これからの安全保障あるいは平和というものも構築できないんじゃないか、むしろそういうふうに考えるところであります。

山口(富)小委員 日本共産党の山口富男です。

 私は、日本国憲法が九条で平和主義をきちんと掲げていますから、北東アジア、もう少しアジアを広くとってもいいですけれども、そこの安全保障をめぐる対話についても日本はその立場で考えるべきだということを述べているのであって、そのことを出発にすると安全保障対話が成り立たないという議論は成り立たないと私は思います。

中谷小委員 同じく、山口委員の先ほどの発言ですけれども、やはり現憲法を固守した考え方というのは今後どこまで通用できるかどうか、私は、心配な面もあろうかと思います。

 というのは、NATOにおいては、集団的自衛権による体制でソ連とか社会主義からみんなが力を合わせて守ってきたということで、冷戦が終わったらもう要らないということではなくて、さらにEUという共同体をつくって、EU各国がみんなで守っていこうということで、これは、国家の固有の権利である集団的自衛権、これをもとにみんなが共存していこうという発想でありますので、そういう考え方を日本も持たないと、いつになったらアメリカの影響力から解き放たれるときがくるのかと。

 日本は安全保障の面でアメリカの影響を受け過ぎているので、今回のイラクの問題にしても北朝鮮の問題にしても、非常に選択肢がないんですね。もうアメリカと話し合いをするしか選択がない。

 国家としての独自性とか柔軟性とか戦略性、いわゆるオプションを広げるという観点を考えますと、やはり日米安保にかわる多国間の安全保障システムというのが必要でありまして、そのためには、日本においても、集団的自衛権や集団的安全保障をきちんと果たして、加盟国との約束とか責任とか役割、こういうことを果たすことによって、国家としてもっともっと柔軟に、また国の主体性を持った主張もできるんじゃないかということでございますので、そういう観点で、集団的安全保障については、この憲法調査会等でよく議論をしてみる必要があるんじゃないかと思います。

仙谷会長代理 一言だけ中谷先生のお話に、反論というほどではありませんが、異論をちょっと差し挟んでおかなければいけないと思っておりますのは、結論部分はそれほど中谷議員のお話と私も変わるところがないわけでありますが。

 今ヨーロッパで行われているような、ある意味では伝統的なパワーポリティックスを脱して、ある種の多国間による協調、ソフトパワーの構築とでもいいましょうか、そういうEUというものを通じて平和秩序を実現する、当然のことながら、安全保障・防衛政策が全く必要ないという立場ではないわけでありますが、そこは多国間のシステムをつくる、こういうことだと思うんですね。

 ところが、今、日本で集団的自衛権の行使という方を強調される人は、どうも対話と圧力、圧力が軍事的な圧力をかけない限り平和は構築できないんだ、ここに傾斜をしている。とりわけ、アメリカとの集団的な自衛権の行使を世界じゅうに広げるという意図までお持ちなんではないか。そのことを自由にさせるために日本の憲法改正をしようとまでおっしゃっておるんではないかというふうに、私は最近聞いておりまして、これはまた雄大な、昔の満州国侵略にも似た大変勇猛果敢な構想でありますけれども、それは現代においては、国際環境としても、あるいは国民的な感覚からしても許されないだろう、こういうふうに思っております。

土井小委員 先ほど来お話の中の基本にあるのは、やはりきょう大使御自身がはっきりおっしゃったとおり、国際法が国内法に優位するという立場を、EUという経済圏といいますかEUという機構の中での問題として、認識はきょうは出されたと私は思っていますが、これが当たり前のように日本でも条約優位だと考えたら違うと私は思っているんです。

 今の日本で、条約優位か国内法優位かという問題のときに常に問題になるのは、日米安保条約と日本国憲法というのはいずれが優位であるかというふうなことが問題になっているんですけれども、歴代外務省は国内法、つまり憲法優位の立場なんですね、理屈は。しかし、国会での質問に対する答弁は常に、国内法優位という立場でございます、変わりませんという答弁をされながら、実態はそうじゃない。そこが大問題だと私、実は思っているんです。

 条約優位か憲法優位かということについて、私は別途、それは優位であるか優位でないかという問題ではない、法源が違うんですから。国際法は国際法であって、国内法は国内法であって、別の法源だ。

 したがって、私たちが考えるべきは、まず日本という国の最高法規は日本国憲法であるということを忘れちゃいかぬという立場でございます。それも別に、国内法優位だからそういう立場だということを私は言っているわけではありません。

 さっき中谷委員がおっしゃっていたNATOの問題について、釈迦に説法ですけれども、NATOの問題について集団的自衛権をおっしゃるなら、どういうわけで集団的自衛権ということを是認した上でそれを前提に組んだNATOという機構ができたかというのは、考えれば一目瞭然じゃないでしょうか。冷戦時代にワルシャワ体制、ワルシャワ条約を向こうに回して、ヨーロッパでは、NATO体制ということを強化することのために、まずは集団的自衛権ありきから始まった。これは明々白々なんですね。同じように日本とアメリカとのただいまの関係を考えるわけには私はいかないというふうに思っております。

 ありがとうございました。

近藤小委員長 予定の時間を過ぎましたので、御発言は、現在ネームプレートを立てておられる委員までといたしますが、よろしいでしょうか。

山口(富)小委員 日本共産党の山口富男です。

 短くお話しいたしますが、先ほど中谷委員から、日本とアメリカの関係の問題で、いわばアメリカの影響下にあって外交・安全保障政策上の制約になっているというお話がありました。どういう意味での制約かというのは短い御発言でしたからはっきりいたしませんが、しかし、そういう認識をお持ちでしたら、私は、土井委員からも話がありましたけれども、日米安保条約のくびきから離れるという選択肢を今真剣に考えるべきだというふうに思うんです。やはりこれが、日本のもともと憲法の体系のもとで出された平和主義、そして安全にかかわる世界への働きかけの仕方、これを定めているわけですから、今そこに戻るということが非常に大事であるということだと思います。

中山会長 私は、安全保障の問題の中で、一つの形である地域の安全保障をどう構築するかということが、これからの日本の将来の運命に影響を与えてくるだろうと思うんです。

 一つは、この地域の国々が全部エネルギー源を持っていないというのが一つの大きな特徴だと思います。ヨーロッパは、あの冷戦中でもパイプラインでガスをシベリアからずっと送りましたし、日本は、やはり九割近い原油を中東地域に依存していると思うんです。

 北朝鮮の問題で今国民の関心が高いですけれども、きのうもテレビのニュースでやっておりましたが、今の六者協議以外に、シベリアからガスを引っ張ってくる、そしてパイプラインで北朝鮮を通って韓国へつなぐという構想もあると。これは、かねて北東アジア経済フォーラムというフォーラムで議論をしてきたことが、現実問題として北朝鮮のエネルギー処理をやるときに考えなければならない一つのテーマに上がってきたと思うんですが、パイプラインを各国で引くということになってくると、パイプラインの安全保障が地域の安全保障に密着してくると私は思います。

 現に、サハリンの原油とガスが間宮海峡を越えてシベリアへパイプでつながれてウラジオストクまで持ってくるという構想が進んでおります。こういう形で、もう既に韓国国内のガスパイプラインは全部完成しています。日本は、残念ながらパイプラインというものが、昔、新潟から太平洋岸の仙台までパイプラインがあるだけでして、ほかは全然パイプラインらしきものはないわけです。こういう一つのネットワークという形から見ると、日本は孤立している可能性がある。ここらのところを考えて、地域のエネルギーをどう安定させるか。

 恐らく、このガスパイプラインのほかに問題になってくるのは、原子力発電の使用済み核燃料の処理を、アジア地域の原子力発電所の出してくる廃棄物の燃料をどう処理するかということも、地域全体で考えていかなければならない大きな問題だろうと思うんです。これと安全保障というものは表裏一体になっている。

 こういうことを踏まえながら、各国で、この六者協議がうまく終わった後、アジア地域の、北東アジアの地域の安全保障体制をどうするかということを冷静に議論するべき時代が近づいている、私はこういうふうに認識をしていることを申し上げておきたいと思います。

近藤小委員長 これにて自由討議を終了いたします。

     ――――◇―――――

近藤小委員長 この際、申し上げます。

 去る二月二十六日の憲法調査会において、安全保障及び国際協力等に関する調査小委員長として、「これまでの議論の積み重ねにより、九条をめぐる問題については、次第に論点が明確になってきていると考えます。今後も、我が国の安全保障及び国際協力等のあり方について、さらに議論を深め、この争点に関する憲法上の問題について、早急に合意形成を図る必要があると考えて」いると述べた点について、土井委員から、何か目標、目的があるのではないかとの指摘がありました。

 この指摘を踏まえ、私の発言の趣旨を改めて整理をして申し述べると、これは、「争点に関する憲法上の問題について、これを明らかにする必要があると考えて」いるとの趣旨であります。

 これを、敷衍するならば、集団的自衛権を認めるか否か、集団的安全保障への参加を認めるか否か等の九条をめぐる争点に関する憲法上の問題の所在を、議論を通じて明らかにする必要があるという趣旨であります。

 どうか御理解をいただきたいと思います。

 以上であります。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午後零時四十分散会


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