衆議院

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第4号 平成16年4月22日(木曜日)

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平成十六年四月二十二日(木曜日)

    午前九時一分開議

 出席小委員

   小委員長 近藤 基彦君

      伊藤 公介君    大村 秀章君

      河野 太郎君    渡海紀三朗君

      中谷  元君    平井 卓也君

      大出  彰君    楠田 大蔵君

      篠原  孝君    田中眞紀子君

      福島  豊君    塩川 鉄也君

      土井たか子君

    …………………………………

   憲法調査会会長代理    仙谷 由人君

   参考人

   (青山学院大学国際政治経済学部教授)   菊池  努君

   衆議院憲法調査会事務局長 内田 正文君

    ―――――――――――――

四月二十二日

 小委員山口富男君及び土井たか子君同月十五日委員辞任につき、その補欠として塩川鉄也君及び土井たか子君が会長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員武正公一君同日委員辞任につき、その補欠として篠原孝君が会長の指名で小委員に選任された。

同日

 小委員篠原孝君及び塩川鉄也君同日委員辞任につき、その補欠として武正公一君及び山口富男君が会長の指名で小委員に選任された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 安全保障及び国際協力等に関する件(地域安全保障)


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     ――――◇―――――

近藤小委員長 これより会議を開きます。

 安全保障及び国際協力等に関する件、特に地域安全保障について調査を進めます。

 本日は、参考人として青山学院大学国際政治経済学部教授菊池努君に御出席をいただいております。

 この際、参考人に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中にもかかわらず御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。参考人のお立場から忌憚のない御意見をお述べいただき、調査の参考にいたしたいと存じます。

 本日の議事の順序について申し上げます。

 まず、菊池参考人から地域安全保障について、憲法の視点からのFTA問題も含め、四十分以内で御意見をお述べいただき、その後、小委員からの質疑にお答え願いたいと存じます。

 なお、発言する際はその都度小委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は小委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おき願いたいと存じます。

 御発言は着席のままでお願いいたします。

 それでは、菊池参考人、よろしくお願いいたします。

菊池参考人 青山学院の菊池でございます。

 私は、青山学院で主にアジア太平洋の国際関係を教え、また勉強しております。それから、財団法人日本国際問題研究所あるいは平和・安全保障研究所といったシンクタンクでも長い間仕事をしております。その一環として、主にアジア太平洋の安全保障あるいは経済協力といった分野で数多くの会合に参加をしております。きょうは、このような機会を与えられまして、大変光栄に存じます。

 きょう私がお話しします地域安全保障でございますが、特にアジア太平洋の問題についてお話を申し上げたいと思います。

 お話をする前に、我々は、アジア太平洋の安全保障というのを考えるときに、どういう点に注意をする必要があるのであろうかということについて、最初に三つほどお話し申し上げたいと思います。

 一つは、日本の安全保障、あるいは日本の繁栄を維持するために日本本土を外敵から守る、あるいは日本の経済的繁栄を維持するということは、もとより最も重要なことであります。ただ、同時に、今日、経済がますますグローバル化しております。さらに、テロリズムあるいは大量破壊兵器の拡散といった新しい問題が起こってきております。我々の安全あるいは繁栄というのは、ますます地域全体あるいは国際社会全体の平和や安定と深く結びつくようになっているということだろうと思います。

 実際、遠隔の地で起こった、我々が全くあずかり知らないような出来事が我々の生命財産に非常に大きな影響を及ぼすようになってきているということだろうと思います。つまり、我々は、安全保障を考える際に、やはり地域全体あるいは国際社会全体との協力、協調というものを考えながら進めなければいけないということだろうと思います。

 あるドイツの有名な社会学者が、現代はリスク社会である、リスクソサエティーであるということを言ったことがあります。つまり、我々は今まで経験しなかったような新しいリスクに直面している。それも、我々自身が全く責任のないような、我々が全くあずかり知らないようなところで起こったことが、我々の生命財産に深刻な影響を及ぼすような時代がやってきたんだということを言っております。そういう時代に我々は今生きているということだろうと思います。

 二番目は、軍事力というのは依然として安全保障にとって最も重要な要素であります。ただ、同時に、軍事力だけで対応できないような新しい脅威、新しい問題というのが数多く発生しております。したがって、軍事あるいは政治、経済、社会にわたる総合的な取り組みというのが今日ますます重要になってきているということだろうと思います。

 三番目は、国家と国家の戦争という非常に古典的な、平和と安全の問題というのは、今日、依然としてまだ重要な問題であります。ただ、それと同時に、テロリストグループに見られますように、国家ではない、非国家のグループによる混乱あるいは地域全体への脅威というのが我々にとって非常に大きな問題になっており、こういうものへの対応というのも今日非常に重要な課題になっているということだろうと思います。

 以上のようなことを踏まえて、我々、アジア太平洋の地域安全保障というのをどのように考えたらいいのかということを次にお話し申し上げます。

 アジア太平洋といいますと、しばしば多様性ということが指摘されます。非常に多様な国家がこの地域に存在をしております。私は、お配りしたレジュメで書きましたように、非常に乱暴ではありますが、これを三つの国家群といいますか、カテゴリーに分けてみました。

 一つは、既に近代化を達成した諸国がこの地域にはあります。つまり、国づくりを進めて、そして非常に安定した国家を既に築き上げている。国民は、政治的な自由を享受し、経済的な繁栄というのを享受している。そして、宗教上の寛容というようなものをお互い認め合って、あるいはそれを支える市民社会というのがもう十分に育っている。そういう国家がある。恐らく、アメリカ、カナダあるいは日本、オーストラリア、ニュージーランドといったような国がそういう段階に既にもう達している。今、韓国であるとか台湾であるとか、あるいはシンガポールというのがその段階に達しようとしているということではないかと思います。

 こういう、既にもう近代化を達成したような国の間では、およそ武力による紛争解決ということがほとんど考えられない。ですから、我々、日本とオーストラリアが戦争するとか、あるいはアメリカとカナダが戦争するとか、こういう事態というのはおよそ想定し得ない。そういう関係というのは既にでき上がっているんだろうというふうに思います。

 二番目は、まさに今近代化の途上にある、国をつくり、そして国民を豊かにしていく、そういう途中の段階にある国家というのがある。アジアには、例えば非常に権威主義的な、一党独裁であるとか、あるいは軍による統治であるとか、そういう非常に厳しい政治体制というのをとっている、そういう諸国もあります。市民社会というのがまだ十分に成熟をしていない。国によっては、そういった権威主義体制から、今、より民主的な政治体制へと移行をする、その移行期の産みの苦しみを経験している国がある。

 いずれにしても、まだ国が未成熟、不安定で、政治的にも経済的にもあるいは社会的にも大きな不安定を国内に抱えているという諸国があります。我々の周辺で見ますと、中国から東南アジアにかけてほとんどの国がこのカテゴリーに属するだろうというふうに思います。こういう諸国では、依然として国家の力を強めるということが非常に大きな課題でありまして、その一つのあらわれとして、武力による問題解決という可能性が必ずしも否定されない、そういう諸国だろうと思います。

 三番目として、国づくりを進めようとしているんですけれどもなかなかそれがうまくいかない、国内は非常に深刻な弱点を抱えている、そういう諸国が一方であります。政府の統治能力というのが極めて低い、国内の法と秩序が大きく動揺をする、当然、経済的にも混乱が続く。あるいは、民族、宗教上の対立というのが国内で深刻化しているという国がある。

 これは、程度はいろいろありますけれども、インドネシアであるとかミャンマーあるいはフィリピン。それから、南太平洋には、日本のマスコミではほとんど取り上げられませんけれども、十数カ国のマイクロステーツ、小さい国に至っては人口一万人ぐらいの小さな国がありますけれども、こういう南太平洋諸国のほとんどがこの三番目のカテゴリーに属する。北朝鮮であるとか東ティモールというのもこれに属するということだろうと思います。

 こういうアジア太平洋を見たとき、大きく分けますと三つぐらいの国家群があるわけでありますが、そうした諸国から成るアジア太平洋の安全保障の課題というのは、突き詰めていくと、私が今申しました第二番目の国あるいは第三番目に属する国、つまり、近代化の途上にある、あるいは近代化がうまくいかない、そういう諸国の抱える問題、あるいはそうした問題から派生する地域あるいは国際社会全体に及ぼす影響というものにいかに対処するかというのが安全保障上の最も重要な課題であろうというふうに思います。

 では、具体的にどういう問題があるのかということでございますが、一つは、先ほど言いましたように国内的な脆弱性の問題であります。先ほど申しましたように、国内の統治体制というのが依然としてまだ未成熟で国内が大きく混乱をしている、そういう諸国があります。これが、後ほどお話ししますけれども、さまざまな国際的な犯罪であるとか、あるいはテロリズムであるとか、こういったものの温床になる、これが当該国だけではなく地域全体の大きな脅威になっているということであります。

 二番目は、地域全体の安定に対する脅威への対処ということであります。

 これは二つありまして、一つは、極めて伝統的な国家対国家の対立あるいは紛争、軍事的な紛争も含めてであります。最も深刻なのは、我々の周辺の北東アジアであります。ここでは主要な大国がこの地域に大きな利害を持っております。その関係は依然として不安定であります。あるいは、朝鮮半島であるとか台湾海峡であるとか、依然として深刻な敵対関係、つまり、これは国家と国家の深刻な敵対関係というのがここに存在するわけであります。ここでは依然として軍事的な対処、抑止力の維持というのが安全保障上大きな課題になっているということであります。

 特に、アジアを見たときに、今、国力が大きく変動しております。しばしばマスコミで言われる中国の台頭であるとか、こういう国と国との力関係というのが大きく変化しておりまして、これが周辺の諸国にさまざまな疑心暗鬼、不安、不信というのを実際に生んでおります。こういうところでは、先ほど申しましたように、依然として軍事力の行使ということが考えられるわけで、したがって、紛争解決の手段としての軍事力の行使というのを可能な限り少なくする、そのための手段としての軍事的な抑止力の維持というのが極めて重要な意味を持っているわけであります。

 一方、東南アジアを見ますと、東南アジアは依然として非常に脆弱な不安定な国家群があるわけでありますけれども、他方で、東南アジアにはASEAN、東南アジア諸国連合という地域組織がございます。このASEANというのは、特に一九九七年の通貨危機以降、さまざまな問題が出現しまして、なかなかASEANとしての一体性、協力というのを維持するのが今困難になっております。

 ただ、ASEANというのは、過去四十年くらいにわたって、加盟国の間の紛争の平和的解決という非常に重要な規範をASEAN諸国の間に埋め込む上で、非常に大きな役割を果たしてきたわけであります。

 したがって、私自身は、東南アジアはこれからも非常に大きな不安定が続くでしょうけれども、北東アジアから比べますと、国と国との間で大規模な軍事紛争が起こるという可能性は極めて小さくなっているだろうというふうに思っております。

 二番目は、新しい脅威、新しい安全保障の問題であります。

 我々は、今国境を越えた新しい脅威あるいはリスクというのに直面しているわけであります。それは、最初にお話ししましたように、軍事力だけでは解決できない種類の問題であるということだろうと思います。

 具体的にはどういう問題があるのか。一つは、狭い意味での安全保障の問題として、テロリズムの問題、武器の移転、大量破壊兵器の拡散、あるいは情報ネットワークの攪乱であるとか、こういう新しい脅威というのがますます深刻になってきている。

 それから、もう少し広く安全保障を考えたときに、経済の問題というのも大きな意味を持っているわけであります。

 例えば、我々の平和、繁栄を維持するためには、世界に自由貿易というような仕組みがきちんと維持されていないと困るわけであります。あるいは、日々の国際的な通貨システムであるとか金融システムというのがきちんと維持されるということは、我々の平和と繁栄にとってますます重要になってきているわけであります。あるいは情報ネットワークもそうであります。こういう新しい、経済にかかわる諸問題というのが、新しい安全保障上の問題としてもとらえられなければならない、そういう時代になってきたわけであります。

 実際、一九九七年にアジアで通貨危機が起きました。そのときに、インドネシアは非常に大きな混乱を経験したわけです。現象としては、インドネシアの通貨が暴落をする、そして対外的な支払いができなくなるという純粋な経済現象でありますけれども、それの及ぼした社会経済あるいは政治的な影響というのは、恐らく、インドネシアが近隣諸国と軍事的な戦争、軍事紛争を引き起こしたときよりもはるかに深刻な被害というのをインドネシア国民に与えたということでありました。

 それからさらに、社会問題として、環境であるとか麻薬、疫病、人身売買あるいは海賊行為であるとか、こういう問題というのが深刻になってきている。

 実際、一例ですけれども、我々、過去十年、十五年ぐらいの間に、新しい疫病をいろいろ経験してきているわけであります。最近では鳥インフルエンザであるとか、去年ではSARSであるとか。多分、こういうのは、昔からどこかの国の小さな村の風土病としてあったのが、経済のグローバル化が進み、人間が移動し、物が移動すると、それに伴って疫病も移動するということになったんだろう。あるいは、人の移動が活発になると悪い人間も移るわけで、そうすると、国境を越えて、例えばマフィアの提携のようなことが現に起こってきて、それが大きな社会の問題になってきている。そういう時代に今いるんだろうと思います。

 我々が抱えているこういうさまざまな安全保障上の問題に対して、一体、アジア太平洋の諸国というのはどういうふうに対応しているんであろうか。

 一つは、冷戦の時代にでき上がった二国間あるいは三国間の同盟というのがアジアには数多くございます。基本的には、アメリカを軸にして、それがアジアにちょうど車輪のスポークのように広がる形で同盟のさまざまなシステムができ上がっているわけであります。

 この同盟を見ますと、かつて、自国が外敵から直接的な攻撃を受けた場合にいかに対処するかということが大きな課題であったわけですけれども、近年、より地域的な安全保障環境を整備するということに大きな関心が向けられるようになってきているわけであります。そういう点で、同盟の機能というのが、かつてのような脅威に直接的に対応するという形だけではなくて、この地域で起こるかもしれないさまざまなリスク、そういうものを管理し、あるいはそれを抑止する、不確実性に対応するというものに今大きく変わりつつあるということだろうと思います。

 ちなみに、日米の同盟というようなものについてのアジア諸国の理解というのは、近年、急速に進みつつあるというのが私自身の理解であります。日米の同盟というのが、このアジアの非常に不安定な移行期、そういう移行期に軍事的な紛争が発生するのを抑止する手段として極めて大きな公共的な役割を担っているのであるということは、この地域の多くの諸国によって今日共有されつつあるというふうに思います。

 二番目は、地域の諸国のさまざまな協力というのが、過去十数年の間に急速に拡大しております。これは、経済の分野でもそうでありますし、安全保障の分野でも、さまざまな対話というのが過去十数年の間行われてきているわけであります。

 私がレジュメに書きましたような、東南アジアを中心とするASEAN、このASEANは、戦争のない東南アジアをつくろうとさまざまな措置をこれまで講じてきたわけであります。それから、ARF、ASEAN地域フォーラムというような、これも、政府間の対話のフォーラムとして、もう既に十年近い経験というのを持っております。それから、近年では、ASEANと日本、中国、韓国を含めたASEANプラス3という、東アジアを中心にした協力の仕組みというのも生まれております。さらに、APECのような、太平洋の東と西を結びつける非常に大きな地域協力の仕組みというのも発展してきております。APECでは首脳会議というのを毎年開いておりまして、首脳レベルでさまざまなコミットメントというのが行われているわけであります。

 それから、我々が目を少し南に転じますと、南太平洋の十五カ国ですか、これから成る太平洋島嶼国フォーラム、PIFというのがございます。南太平洋の、小さい国は一万人ぐらいの国、大きい国でもパプアニューギニアの四百万ぐらいですけれども、こういう諸国が集まって、そして地域の経済協力であるとか、あるいは安全保障の協力であるとかということを話し合っているわけであります。

 主たる目的は、対話を通じて相互の信頼というのを少しでも高めようということであります。そういう中で、実際に余り大きな政治的な論争を呼ばないような、例えば、海賊対策であるとか、国防関係者の意見交換であるとか、輸出入管理の方法についてお互い学習をするとか、あるいはそのための人材の育成をするとか、そういう、非常に地味ですけれども重要な活動をこれらのフォーラムは行ってきているわけであります。

 安全保障というのは政府が大きな役割を担う領域ですけれども、政府だけでできるわけでもないということであります。実際、この地域を見ますと、これまた過去十数年の間に、官民合同のフォーラム、政府のファーストトラックに対して、通常セカンドトラックというふうに呼んでおりますが、官民一体となって、この地域の経済協力であるとか安全保障協力のあり方を検討するためのさまざまなフォーラムというのがつくられております。

 そこに二つだけ、CSCAP、アジア太平洋安全保障協力会議という、これは北朝鮮も入っておりますけれども、私自身は、これの設立以来、ここで仕事をやってきております。これも非常に大きな組織であります。それから、数年前に始まったシャングリラ・ダイアログと言われる、シンガポールを中心にした、主にアジア太平洋の国防大臣が集まりまして専門家との間でさまざまな意見交換をする。こういうふうにして、アジア太平洋が直面する安全保障問題についての相互理解の促進、あるいは政府への政策の提言というのを行ってきておるわけであります。

 三番目は、内政への地域諸国による直接的な介入あるいは共同関与という新しいタイプの取り組みというのも今日生まれております。

 一つは、ミャンマーをめぐるASEANの動きであります。

 ミャンマーは、御承知のとおり、軍政をめぐって国際社会からさまざまな批判を受けているわけであります。これに対して、ASEAN諸国、ASEANの仲間ですが、ASEANは、内政不干渉という非常に強い原理原則というのを内部に持っておりまして、従来、ミャンマーの国内問題に関してはほとんど沈黙を守るということだったわけですけれども、近年、これに対して、非常に緩やかではありますけれども、ASEAN全体として、ミャンマーの平和的な民政移管へのステップを支援するという試みというのを始めております。

 それからもう一つは、最も大きな変化は南太平洋で起こっております。

 先ほど申しましたように、南太平洋は、国内に非常に大きな脆弱性を抱えております。パプアニューギニアであるとかソロモンであるとか、あるいはバヌアツ、フィジーであるとか、こういうところでは、国内の法と秩序というのが今ほぼ破綻状態にあるというふうに言われている、そういう国もあるわけであります。

 昨年の七月ですが、ソロモン諸島で、もはや政府が国内の治安を維持できないという状態になりました。民族の対立が余りにも深刻になって、首都ホニアラが統治できない。これに対して、南太平洋の諸国は、二千名を超える軍、それから警察官、そして文民、これをソロモンに派遣しまして、そして治安の回復に当たったわけであります。

 これを側面から支えたのが、先ほどお話ししましたPIF、太平洋島嶼国フォーラムという、地域機関が地域の不安定に対して共同して関与する、そういう仕組みを過去発展させてきまして、そのいわば一つの象徴が、今回のオーストラリア軍を中心とする地域的な秩序回復の軍派遣ということであったわけであります。南太平洋はそういう非常に不安定なところで、最近、この地域のいわば盟主であるオーストラリアが、南太平洋の政治経済的な安定のために非常に強い関与を始めたわけであります。

 最後に、いただきましたテーマの中のFTAの問題について簡単にお話し申し上げます。

 広く申し上げますと、経済と安全保障の関係であります。経済と安全保障の関係についてはいろいろな見方があります。

 例えば一つの見方として、通商による平和という議論があります。つまり、国と国とが通商関係、あるいは広く経済関係を深めれば深めるほど、国家間の関係というのは平和的になるのであるというカント以来の考え方があります。ただ、歴史を見ますと、必ずしもこの命題の正しさが証明されているとは言えないようにも思われます。つまり、経済的な相互の依存関係が高まるということは、必ずしも軍事力の行使ということを制約するものではなかったというのが、歴史の示すところでもあります。

 それからもう一つは、やはり通商関係というのは、国家間関係に追随するといいますか、よく英語でトレード・フォローズ・フラッグという、つまり、物が移動したりお金が移動したり人が移動したりするためには、その背後に政治関係の改善というのがなければいけないんだという考え方があります。

 実際、例えば非常に敵対的な関係の諸国には、深い経済的な交流というのは実現することが難しいわけであります。例えば、冷戦期のアメリカとソ連、あるいは今日の日本と北朝鮮であるとか、こういうものを見ると、経済が政治を誘導するんではなくて、やはり背景として政治関係の改善というのがあり、それに伴って経済というのが進んでいくんであるという見方もある。これについては諸説あるわけであります。

 今、アジアで大きな話題になっておりますFTA、自由貿易協定ですけれども、FTAといいましても内容はさまざまでありまして、どういうFTAかによって、当然、それの持つ経済的な意味、あるいはそれの持つ安全保障上の意味というのは異なるわけであります。

 日本を例にとりますと、日本は一昨年、シンガポールとの間で経済連携協定、FTAを結んだわけであります。これは非常に深い統合といいますか、日本経済とシンガポール経済を非常に深く結びつける内容を持ったものであります。そういう点で、深い統合の一つのモデルを提供したというふうにも言われておるわけであります。

 ただ、歴史的に見ますと、過去の例あるいは他の地域の例を見ますと、途上国を含むようなFTAで、日本とシンガポールが結んだような非常に深い統合を実現するような自由貿易協定を締結した例というのはないわけであります。したがって、今アジアでいろいろFTAの議論が進んでおりますけれども、恐らく、アジアで結ばれるFTAというのは、国民経済の結びつきという点からいきますと、非常に弱い内容を持ったものになる可能性というのが強いだろうというふうに思われます。

 例えば、今、中国とASEANとの間で自由貿易協定の交渉が進んでおりますけれども、これも、恐らくことしじゅうに何らかの結論が出るんだろうと思いますけれども、果たして、その内容が期待されたほどの内容を伴ったものになるかどうか、依然として大きな疑問であります。

 ですから、アジアでのFTAというのは、国民経済を相互に結びつけるという点で、極めて限定的な意味を持つものに当面とどまるだろうというのが私自身の理解であります。

 ただ、そうはいっても、では、FTAに全く意味がないのかというと、そうではないわけでありまして、幾つかの点で、FTAというのがプラスの効果を持つだろうというふうに思っております。

 一つは、限定的ではありますけれども、FTAを通じて、日本はアジアの諸国の経済運営というのをより世界に開かれたものに変えていくことができるだろう。貿易の自由化であるとか、投資の自由化であるとか、あるいは国際的なルールに従ったような国内のルールを制定するとか、より透明で公正な国内の経済運営をアジアの諸国がこれから進めていく、そういうのをFTAが促進する。そういう役割というのは一つあるであろうというふうに思います。

 もう一つは、国内政治への影響であります。FTAというのを一つのきっかけに、国際社会と深く結びつく、国際経済と深く結びつくことが大きな利益であるという人たちがそれぞれの国にふえるということは、長い目で見ると、そういった人たちにとって、経済的な交流を維持する上で、平和的な安全保障環境を維持するということが大きな意味を持つわけで、したがって、間接的ではありますけれども、FTAを通じて、国内のそういう国際社会と強いつながりを維持しようという勢力の力を強めるということができる。それを通じて、相手の国の国内政治過程に影響を及ぼすということができるんだろうと思います。

 一つのケースは中国でありまして、中国は依然として、将来不透明な国であります。ただ、過去二十年近い中国の開放経済体制によって、やはり国際社会と結びつく、国際経済と深く結びつくことによって自分たちが大きな利益が得られるんである、あるいは、そういう仕組みを維持することによって国民はより豊かになれるんだというふうに考える人たちがふえてきておるのは事実であります。こういう人たちから見ますと、軍事的な紛争であるとか対立であるとか、そういった経済的な交流を妨げる行動を政府がとるということは好ましくないわけで、したがって、そういう人たちは、政府に対して、軍事力の行使を思いとどまるようにという強い影響力を行使する動機があるわけであります。

 実際、中国を見ますと、外国の企業との合弁であるとか外国との貿易であるとか、そういうことに非常に大きな利益を見出している人たちが確かにふえていて、それを支援する人たちが党の中にも政府の中にもふえてきている。中国の富をだれが生み出しているかというと、そういった国際社会との深い交流を行っている人たちが富を生み出している。その結果、そういった人たちの国内政治的な影響力というのが、かつてから比べればはるかに強くなってきているということだろうと思います。

 ですから、FTAというのは、直接的ではないんですけれども、間接的にそういった人たちの国内政治的な影響力というのを強める、そういう効果というのを持ち得るであろうというふうに思います。その点で、安全保障への効果というのも多少は期待できるということだろうと思います。

 それから、今のFTAというのは、単に貿易だけではなくて、投資であるとか資金の移動であるとか、従来から見るとはるかに多くの領域の問題を扱っているわけですけれども、この結果、例えば日本とアジアの間に国境を越えたさまざまな経済的な提携というのが生まれている。日本と中国の間にもさまざまな、単に物のやりとりではない、企業間の提携であるとか合併であるとかということも行われてきている。

 したがって、徐々に双方、お互い国境を越えて利害を共有するようなグループというのが出てきている。そういう国境を越えた経済関係を維持するということが、それぞれの国民の繁栄にとっても大きな意味を持っている。したがって、そういう中で、政治的な対立というのはこれからも数多く起こるでしょうけれども、対立というのをある一定の制御可能な範囲内にとどめる、そういう効果というのも期待できるであろうというふうに思います。

 ただ、FTAというのはいい面ばかりがあるわけではないわけでありまして、FTAを結ぶと、どちらがより大きな利益を得るのかという議論が必ず起こります。国内には、FTAによって利益を得る勢力もあれば不利益を得る勢力もあります。したがって、それが国内政治上の大きな対立を引き起こす可能性というのも否定できないわけであります。

 これは、例えば日本と韓国とのFTAを見るとよくわかるわけですけれども、日本と韓国のFTAというのは、日本にとっても韓国にとってもいいというのは、マクロとして見れば確かであります。しかし、例えば、ほとんどの予測を見ても、短期的には韓国の対日貿易赤字が拡大するであろうというふうに言われているわけです。別に、貿易の赤字黒字というのは、競争に勝った負けたという話とは全く別の話ですけれども、少なくとも韓国の政治的な文脈では、日本との貿易赤字が拡大するというのは日本との競争に負けたというふうにとられがちであります。それが国内政治上の問題を引き起こすということは、十分考えられるわけであります。

 それから、日本にとって見ますと、やはり日本はグローバルな国家でありまして、そのグローバルな国家として国際的な自由貿易体制を維持するということは、日本にとって最優先の課題であります。もちろん、地域的な自由貿易協定のようなものが意味がないわけではありませんけれども、しかし、FTAへの動きというのが、グローバルなWTO交渉のようなものへの熱意の低下を引き起こすということが仮に起こるとすると、日本はより大きな利益を失うということにもなりかねないというふうに私自身は思っております。

 ということで、広く一般的には経済と安全保障、具体的にはFTAを見ますと、ある安全保障上の意味というのは持つんであろうというふうに思います。ただ、それに余り大きな期待をかけるというのも正しい評価ではないだろうというふうに思います。

 特に、アジアのような依然として政治的な対立が残るところでは、必ず自由貿易協定のもたらす利益の不均衡というのが国家間の大きな問題になり、あるいはそれぞれの国の国内で大きな問題になる可能性があるわけであります。したがって、下手をすると、FTAを結んだはいいが、逆に政治的な対立が深まるということすらあり得るだろうというふうに私自身は思っております。

 大体四十分近くになりましたので、まだお話ししたいことはありますけれども、以上で私のお話を終わらせていただきます。

 どうもありがとうございました。(拍手)

近藤小委員長 以上で参考人の御意見の開陳は終わりました。

    ―――――――――――――

近藤小委員長 これより参考人に対する質疑を行います。

 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。伊藤公介君。

伊藤(公)小委員 自由民主党の伊藤公介でございます。

 きょうは、菊池参考人、いろんな角度からお話をいただきまして、大変参考になりました。ありがとうございました。

 アジアの地域安全保障についてでありますが、私たちが所属しているアジアの地域安全保障を考えるときに、ヨーロッパのEUの歴史的な経過というものはいろんな意味で参考になると思います。参考にはなりますが、先生からいろいろお話をいただきましたように、アジアはさまざまなカテゴリーの国家があるわけでございまして、EUができたからアジアもということに、そう一度にはいかないことも十分わかるわけであります。

 しかし、EUもことしの五月一日にはいよいよ二十五カ国になるわけでして、たまたまその二十五カ国の人口を見ましたら四億五千三百万人、そのGDPは一千二百二十九兆円になるようであります。このヨーロッパ、EU二十五カ国に匹敵する経済圏はNAFTAですね、アメリカ、カナダ、メキシコ。ここも人口がほとんど同じでございまして四億一千四百万人、そのGDPもほとんど同じなんですね、一千二百二十七兆円。

 そういうEU、NAFTAの経済圏とアジアを比較しますと、アジアは二十二カ国、これは、国はいろいろカウントによって少し違うんですけれども、GDPが九百兆円。EU、NAFTAにはちょっと届かないけれども、もう少しで一千兆円。人口が圧倒的に違うんですね、三十四億になるわけですから。だから、これから二十一世紀はアジアが舞台になるであろうと。また、その中で、圧倒的な人口を抱えている、十三億とも言われる中国が二十一世紀の主役になるのではないかなどと言う人もおります。

 そこで、今のそれぞれの国の経済成長が続いていくということを前提にしての話でありますが、二〇五〇年の世界のGDPを、民間と、経済産業省などで、本当にこの数字はかなり確かなものになるのかという問い合わせを私もちょっとしたんです。今の数字で計算をすればという前提でありますが、中国が二〇五〇年には何と四千六百五十七兆円、そしてアメリカがそのとき三千八百二十一兆円、インドが二千八百兆円、そのときの日本のGDPは八百兆円というわけであります。

 昨今の中国の台頭というものは大変目覚ましいものがあるわけでございます。私も例年のように中国を訪問していますし、ことしのゴールデンウイークも中国を歩くことを計画しておりますけれども、中国の存在というものはアジアの中において非常に大きくなっていくであろう。そういう中で、これから日本の外交、あるいはアジアにおける日本の役割というものをどう考えるか。

 先生もいろいろな角度からお話をいただきましたけれども、私は、どうも日本の外交が、今までは日米基軸、それから国連を舞台にしてきたわけですが、今度の、特にイラク戦争などをめぐりまして、国連の機能というものが十分果たしていないという中で、現状では日米関係、あるいは日米安全保障というものが現実に我々にとって欠かせないものであることは十分承知しているわけでありますが、私は今、イラク戦争の状況、展開を見ておりましても、これからはやはり国連を舞台にしていかざるを得ないのではないか、むしろ国連というものに対して日本がもっと積極的な働きかけをしていくべきではないか。

 これは、単に今度のイラクの問題だけではなくて、日本はもう御存じのとおりアメリカに次いで、国連の負担金はアメリカが二二%ですが、日本は一九・四%、もう断トツであります。ドイツやフランスやイギリスが六%、八%というわけでありますし、ODAもまた、日本はアメリカに次いで、群を抜いて開発途上国に援助している。しかし、どうも日本の国連とか外交というものがはっきり見えないと言われてきたのは、私は、国連における日本の働きかけやあるいはODAのやり方も、例えばの話ですけれども、日本がこれから二十一世紀、環境というものをテーマにしていくなら、環境に限ってなら国連を通じて開発途上国に援助するとか、やはり日本がもう少しめり張りのついた国連、外交というものを展開していくべきではないかというふうに思います。

 二〇五〇年に向けて世界が大きく動いていくときに、日本はどのような安全保障、あるいはアジアにおきます地域の安全保障というものを考えていくのか、もう少し参考人、先生から踏み込んでお話を伺えればと思います。

菊池参考人 先ほど伊藤先生のおっしゃいました二〇五〇年の予測というのは大変興味深いですが、通貨危機の前に、これからアジアで、インドネシアが世界三番目か四番目の経済大国になるという世界銀行の予測がありまして、見事に裏切られたことがあるんですけれども。今の状況をこのまま延長して予測して果たしていいのかという話は別途あるかと存じます。

 アジアというのは日本にとって、御承知のとおり非常に微妙な地域でございまして、世界、アジアの国の中で、我々はアジアの国だというふうに総理大臣が演説で言う国というのは、実は日本と恐らくオーストラリアの二国だけでありまして、中国の首相が我々はアジアの国であるなんというようなことを言ったことは聞いたことがない。つまり、日本は、一方で欧米といいますか、先進諸国の一国としての日本という、日本のみずからの位置についての認識があり、他方、地理的には、あるいは文化的にも自分たちはアジアであるという、他方でアジアである。常に我々、欧米、昔の言葉で言えば欧米列強と協調していくのか、アジアでいくのかという、ある種、日本外交の近代百数十年を貫くジレンマといいますか、それがあるんだろうと思います。

 確かに、今、東アジアに関しては、北は中国から南はインドネシアまで大変なフィーバーであります。東南アジアの人たちのところに行きましても、これからは東アジアだと言って、例えばASEANプラス3というのをこれから強化していこうということを言っている。中国も同じようなことを言っている。韓国も同じようなことを言っている。ただ、日本は、やはりアジアに全面的にみずから身を投じられないという、ある種宿命があって、つまり、一方で欧米と一緒にやっていかなきゃいけない、アメリカと一緒にやっていかなきゃいけない。

 ただ、僕自身は、過去十年くらいを見ますと、日米関係というのは非常に強靱なものになってきている。したがって、かつてマレーシアのマハティール首相がEAECというのを唱えて、東アジアでブロックをつくろう、日本はそのリーダーになれと言ったときに日本が非常に消極的な姿勢をとった時代とは随分異なりまして、アメリカとの関係が悪化するような形でアジアとの協調を日本が進めていくというような、そういうシナリオというのはほとんどないんだろう。

 ですから、今こそ東アジアとの協力に日本はもっと積極的に乗り出すべきだ。実際、今、アジアを見ますと、中国は、日本が東アジアに全面的に身を投じられないだろうというのをよく知っていまして、そうであるがゆえに、他のアジア諸国に対して、東アジアでいこうということを言っている。ですから、私自身は、東アジアにもっと力を入れるべきだというのは、先生のおっしゃるとおりだと思います。

伊藤(公)小委員 ありがとうございました。

 もう一問伺いたいと思いますが、アジアにおける安全保障の構築と集団自衛権の問題についてであります。

 今、私たちは、憲法改正のかなり具体的なスケジュールに来ているわけでありますが、日本の憲法を見直していく場合に、集団的自衛権の行使を認めるべきであるか否かという問題は非常に重要なポイントなんですが、認める場合でも、ある一定の限定をしていくべきではないか。地理的な条件だとか、自国の安全確保に密接な場合など、集団的自衛権の行使が認められる場合についてという限定をしていくべきだという考え方もありますし、しかし、集団的自衛権の行使に例えば条件を設けた場合には、我が国がほかの国と同様の活動ができなくなってしまう、支障が生じるということも当然あると思います。そのときには、むしろ、我が国は、それぞれ置かれた状況に従って、随時政策的な判断を行っていくべきではないかという考え方もありますが、参考人の御意見を伺っておきたいと思います。

近藤小委員長 参考人に申し上げますが、質疑の時間の関係がありますので、お答えは、でき得る限りで結構でございますが、簡潔におまとめをいただきたいと思います。

菊池参考人 先ほど申しましたように、私、日本の安全にかかわる問題というのは、日本、領土だけではなくて、広く地域、国際社会全体の問題もかかわっているわけでありまして、したがって、集団的自衛権の問題をあらかじめ狭く限定するというのは果たして実効性のあるものなのかどうかというのは、大いに疑問だろうというふうに思っております。より広く集団防衛というのを規定して、それで、実際にそれを適用するのは、随時、そのときの状況を勘案しながら判断していくというのが、まさにそれは政治の問題だろうというふうに思っております。

伊藤(公)小委員 ありがとうございました。

近藤小委員長 次に、篠原孝君。

篠原小委員 初めまして。民主党の篠原孝でございます。この調査会に初めて参加させていただいております。

 アジアの専門家の先生にちょっとお尋ねしたいんですけれども、よく、ミリタリープレゼンス、オーバープレゼンス、軍事的なプレゼンスが大き過ぎるので脅威を感じるというのがあるわけですけれども、しかし、こちらの脅威のほかに、きょう経済安全保障という言葉が出てまいりましたけれども、エコノミックなプレゼンスが大き過ぎるというのも脅威になることがあるんじゃないかと私は思うんです。

 その典型的な例がFTAです。日本がちょっとおくれて来て、先生のおっしゃったとおり、FTAフィーバーという感じで、理由もなくやみくもにシンガポールとやったり、アジアと言いつつ突然メキシコとやったりというでたらめなことをしているんだろうと思いますけれども、アジアの国から見た場合に、日本が自由貿易に名をかりて、地域全体が活性化するからというので、FTA、FTAと言ってくるのはどうもおかしいんじゃないか、うさん臭いんじゃないかというふうに見て当然だと僕は思うんですけれども、そういったものがあるのかどうか。

 これは、過去の歴史と比べてみればわかるわけでして、古い話になりますけれども、日本がアジアに出て行くといったときは、大義名分、例えば、昔は五族協和という名のもとに満州国とかつくったりしてというのは、それは強烈なしっぺ返しを受けたわけです。今、自由貿易に名をかりて日本がしこたまもうけるというような、これは拒否反応があって当然のような気がするんですが、そういったものはアジアの国においてないのでしょうか。

菊池参考人 それについては、少なくとも、私が日ごろ接している東南アジアの人たちからそういった話を聞いたことはほとんどございません。

 日本の経済的なプレゼンスが高まるというのは、確かにそれは日本は利益のためにやっているわけで、しかし、その利益というのは日本だけが独占しているものではないわけでありまして、東南アジアの諸国もそれによって大きな経済的利益を得ているわけです。

 ですから、日本の企業が東南アジアに進出するというのは、日本の企業も利益ですし、東南アジアの企業にとっても利益、東南アジアの国民にとっても利益が上がっているという判断が現地の政府にもあるし、国民の間にもあるということです。ですから、今東南アジアに行きますと、なぜ日本はもっと我々のところに進出して工場をつくってくれないのかというのが、東南アジアの多くの人たちの願望であります。

篠原小委員 そうですかね。

 それで、先生のお話の中に非常に気になるのがあって、もっともだなと思ったんですが、余りにも相互依存関係が強くなり過ぎるということが、かえって、いざというときに混乱を招くと。例えば通貨危機なんかがそうだったんじゃないかと思います。余りにもグローバルな中に巻き込まれ過ぎた、まだ体制が整っていないにもかかわらず、そこのところに巻き込まれて、そしてがちゃんと、うまくいかなくなって大損害を受けた。

 経済的にも、地域でFTAとか言ったりしていますけれども、結局、やはり国家が厳然と存在する。理想主義的に走る人たちが、やれ国連だ、やれ地域だと。例えば安全保障なんて一番浮世離れしたので言えば、平和外交だけでやればいいんで、一国としてなんかが軍隊を持たなくたっていいんだというようなのにすぐ走りがちなわけですが、それは、やはり現実の世界としては難しいんじゃないかと思うんですけれどもね。大事なところは、一国としてある程度の維持をしながら、その中で依存をしていくというような関係が必要なんじゃないか。

 これは何を言っているかちょっとおわかりいただけないと思うので、例を申し上げますと、日米の開戦がいろいろな理由で起きたんだろうと思いますけれども、日本に必要なもので足りないものがあった、石油。石油が手に入らなくなったりして、ごちゃごちゃ崩れた。

 ですから、これはお気づきになっていないことかもしれませんけれども、日米通商摩擦を解決する非常に簡単な方法として、アラスカの石油を買って、アラスカの石油を日本が輸入すれば一挙に解決するというのがあったわけです。アラスカの州知事は、けちなアメリカの石油会社よりも日本の石油会社に売りたかったわけです。しかし、アメリカはどういう判断をしたかというと、いざというときのためもありますけれども、そうじゃなくて、余りにも日本に依存されてはたまったものじゃない、余りにも依存をされ過ぎると、いざというときにまた決定的な対立になってしまう、そういったことも考えて、石油については日本とアメリカはノータッチでいこうというような考えがあったんです。

 そういったことは、東南アジアの国々のことを考えた場合も、日本の立場から見てもあってもいいような気がするんですけれども、いかがでしょうか。

菊池参考人 最初の相互依存の話ですけれども、確かに、歴史を見れば、みんなどこの国家も可能な限り自分たちの自立性を守ろうというふうにやってきたわけですね。できれば他国に依存しないで、自分たちの持っている資源、技術、資本、人、そういうもので経済を発展させたい。それが一番いいことかもしれない。

 ただ、悲しいかな、それではうまくいかない。一番典型的なのは戦後の中国ですね。つまり、自主自立、自立更生というのは確かに美しいスローガンであるんですけれども、技術もない、資本もない、人もいない、そういうところで国民に安定した経済生活を結局政府は提供できなかったわけですね。

 そこで、じゃ、国民に豊かな生活を提供するにはどうしたらいいかというふうに考えたときに、やはり、自分たちのところに資本がなければそれは外から持ってくるしかないじゃないか、技術がなければ外に依存するしかないじゃないか、そういうふうにして、外国から企業を誘致し、あるいは自分たちのつくったものを世界に輸出して、そして国民が少しずつ豊かになっていった。

 それは、確かに、先生おっしゃいますように、いろいろなリスクが新たに生まれたわけです。つまり、政府からいえば、自分たちがコントロールできないようなところで問題が起こって、それが自分たちの生命財産に影響するようなことになってきているわけですから。

 ただ、問題は、それを減らすという話ではなくて、そういうリスクをうまく管理するような仕組みを地域でも世界でもつくっていくということが大事なんだろうというふうに私自身は思っております。

篠原小委員 どうもありがとうございました。

近藤小委員長 次に、福島豊君。

福島小委員 本日は、大変貴重な御意見を聞かせていただきまして、ありがとうございます。

 先ほども伊藤先生の方から御指摘がありましたが、集団的自衛権の問題であります。

 経済依存、相互依存が深化している、そしてまた、さまざまな形で地域の安全保障対話も進んで、予防的な取り組みが進んでいるということも事実でありますけれども、一方で常に考えておかなければいけないことは、朝鮮半島で有事が起こった場合にどうするのか、そしてまた、台湾海峡で有事が起こった場合にどうするのか。

 これは起こさないようにするということが一番大事なわけでありますけれども、万一そういった場合に日本がどういう行動をとり得るのかというようなことは、当然政治の場では議論されるべきであるというふうに私は思っているわけであります。こうした場合に、日本が、過去の歴史ということも踏まえて、一体どのような役割を担うべきなんだろうか。当然、こうした問題の場合には米国が中心になって対応するという話になると思いますけれども、先生の率直な御意見をお聞かせいただければと思います。

菊池参考人 私自身は非常に結論ははっきりしておりまして、朝鮮半島の有事あるいは台湾海峡の有事というのは、日本にとっても深刻な問題ですし、アジア太平洋全体にとっても深刻な問題でありますし、それから、世界全体にとっても非常に深刻な問題であります。したがって、それに対して日本がしかるべき役割を軍事的にも政治的にも経済的にも果たしていくというのは、それは日本の狭い意味での国益の発露ではなくて、より大きな公益を守る一環であるということでありますから、仮にそれができないような状況があるとすれば、それは直ちに改善しなければいけないというふうに思っております。

福島小委員 先ほど先生が、アジアの諸国との関係、それは米国との関係もありますけれども、大切にすべきであると。私もそのとおりだと思っておりまして、とりわけ、アジアの地域において大国となり行く中国を考えた場合に、中国以外のアジアの諸国との関係というものをどう図っていくのかということが非常に大切だというふうに、地域の安定ということにおいても大切だと思っているんです。

 ただ、一方で、米国一国主義に、まあ、なってしまったと言った方がいいのかもしれませんけれども、こうした国際政治の状況の中で、アメリカとの関係を、とりわけアジア地域ということであれば、緊密な連携ということであると思うんですけれども、世界的な視野の中でどこまでどう日本はつき合っていくのか、これは平たく言えばそういう話になりますけれども、対応すべきなのか、この点についての先生のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

菊池参考人 アメリカという国は時々おかしなこともする国ですけれども、社会の復元力が非常に高い国でありまして、社会が非常に開かれていますし、多様な意見が出ますし、間違いに対してはそれを是正する力もありますし、そういう点で、我々がこれからパートナーとしていくには、世界でいろいろ国がありますけれども、それは最もいい国であるのは間違いない話だろうというふうに思います。

 ただ、先ほど言いましたように、アメリカは時に大きなミスもすることもあります。ですから、それに対して日本がしかるべくアドバイスをするということも時に必要であろうというふうにも思っております。

福島小委員 もっと日本がしっかりしなきゃいかぬということかもしれませんが。

 一方で、ですから、そうした場合のアメリカの行動に対して一定の影響力を行使するということを考えた場合にもう一つ大切なのは、国連の機能といいますか、存在といいますか、そういうものをどう強化していくのかということだろうと思うんですね。

 その場合に、日本一国がどうこうということでは恐らくなくて、例えばEUならEUとどう連携をしていくか、アジアの諸国とどう連携をしていくのか、そういうことを背景として国連の機能強化というようなことを考えていかなければいけないんだろう、私はそんなふうに思うわけでありますけれども、国連をこれからどうしていくのかということについて、先生のお考えをお聞きしたいと思います。

菊池参考人 国連の機能を強化するというのは極めて大事なことで、世界は、先ほど申しましたようにさまざまな新しい問題を抱えていて、それは国際的な協調なしにはなかなか解決できない問題であろうかというふうに思います。

 そのときに、やはり世界で数少ない正統性を持った組織として国連というのがあるのは事実ですし、ただ同時に、国連がなし得ることにも非常に大きな限界があるということもやはり知っておかなければいけないことだろう。これは、日本が安保理のメンバーになるならないという話ではなくて、国連が本来的に持っている限界というのはやはりあるわけでありまして、そのことを踏まえた上で国連への期待というのを持つべきだろう。

 僕自身は、先ほど言いましたように、例えばアジアの平和、安全保障というようなことを考えたときに、国連が機能する余地がどのくらいあるのかということについては相当疑問視しております。我々、アジアの紛争というのを見たときに、あるいは紛争が起こり得るであろう地域を見たときに、大なり小なりほとんど中国がかかわっているわけですね、北は朝鮮半島からずっと南のインド、中央アジアも含めて。そうなると、アジアで紛争が起こったときに、国連の安保理がうまく機能する可能性というのはどこまであるのか。そうすると、相当疑問である。

 しかし、何らかの対応をしなければならないとすれば、それを有志連合と呼ぶのか、同憂の士を数多く集めるというふうに呼ぶのか、その呼び方はわかりませんけれども、より多くの諸国の支持を得られるような形で日本が対外的な政策を進めていくということは非常に重要なことだろうと思うんですね。世界のすべての国が支持するということはあり得ない話で、しかし、より多くの国が支持するような政策を展開するということは当然重要なことである。その点で、日々、我々の周辺の諸国との間で、そういった日本の行動についてより深い理解を得ていくということは当然重要なことだろうというふうに思っております。

福島小委員 最後にFTAのことをお聞きしたいわけでありますが、アジアにおけるFTAの展開というのは、中国もこれは積極的に取り組もうとしている、そしてまた日本もそれにカウンターをしていく必要があるという二つの流れがあるんだろうというふうに思うんですね。

 そういう意味では、どちらがアジアにおけるFTAの、要するに経済の相互依存関係の構築に当たってヘゲモニーをとるのか、そんなような構図に私はなっているのではないかと思うんですけれども、結果としてできればどっちでも一緒じゃないかという考え方もあるわけでありますけれども、この点について、いろんな議論がありますから、先生のお考えをお聞きしたいと思います。

菊池参考人 先ほど言いましたように、今のFTAは相当政治的な思惑を秘めたFTAでありまして、ですから、FTAの中身がどうであるかということよりも、ある種、相手の国に対して、自分たちの外交的な大きな意味合いを込めてFTAの提案が行われているというのが実態だろうと思います。

 実際、ASEANの国の人たちに聞きますと、どうも最初に期待していたほどの話ではないなという、中国とのFTAの交渉ですけれども。東南アジアの国からいきますと、中国から言われたことに対して拒否はできない。拒否はできないのでやるんですけれども、中国とだけやるのはやっぱり困るというのが東南アジアの国の本音でありまして、そういう点で、日本が東南アジアとのFTAを含む経済関係強化にもっと積極的に乗り出してもらいたい、アメリカも乗り出してもらいたいというのが彼らの本音で、中国とだけつき合うのはちょっと御免こうむるといいますか、いささか問題であると。ですから、そういう点で日本に期待をしているのは事実だろうと思います。

福島小委員 以上で質問を終わります。どうもありがとうございました。

近藤小委員長 次に、塩川鉄也君。

塩川小委員 日本共産党の塩川鉄也でございます。

 きょうは、貴重な御意見を本当にありがとうございました。

 きょうのお話の中で、地域安全保障対話の拡大ということで、政府間フォーラムではASEANの話がございました。地域の協力対話として、ASEANの役割にかかわってですが、戦争のない東南アジアの共同体づくり、紛争の平和的解決という規範を埋め込む上で大きな役割を果たしたとお話の中にもございました。

 その点にかかわって、東南アジア友好協力条約の機能について少しお尋ねしたいんですが、この東南アジア友好協力条約は、国連憲章の尊重や紛争の平和的解決、独立、主権の尊重など、戦後の世界の平和秩序を形成する上での原点が盛り込まれているものだと思います。この東南アジア友好協力条約がASEAN、東南アジアの安定にどのような役割や機能を果たしてきたのか、その点についてお尋ねいたします。

菊池参考人 東南アジア友好協力条約ですけれども、この中身を見ますと、実は国連憲章そのものでありまして、ただ、ではなぜ国連憲章ではだめで、東南アジア独自の条約が必要だったのかということですけれども、要するに、東南アジアの国からいったら、国連憲章というのは彼らが全くかかわりのないところでできたものであるわけですね、東南アジアが独立する前にでき上がっていたものですから。

 なぜバリ条約、一九七六年の友好協力条約が全く国連憲章と同じものであるにもかかわらず必要だったのかというと、東南アジアの国の間で、国連憲章に盛られているような内容について一度合意をするということが大事だったわけですね。つまり、国連憲章に書かれていることは他人の話ではなくて、我々の仲間でもあれが有効なことなんだということが確認されたという意味で、非常に大きな意味を持っていたわけですね。

 ただ、そこに盛られている内容の中で何が大事だったかといったら、紛争の平和的解決という話であります。ですから、ASEANはこれまでいろんなことをやってきまして、今でもASEANの会合というのは年間三百ぐらいあるんですけれども、上は首脳会議から、役人の会議まで。実は、しかし、本当に一番成果を上げたのは、紛争が起こってもそれを解決する手段として武力を行使しないということを事実上相互に確認し合ったということがASEANの機能の最も重要なところで、それを支えたものとしての一九七六年のASEAN友好協力条約というのがあったということだろうと思います。

 もちろん、他方、ASEANはその基本原則として内政不干渉というのを非常に強くお互い強調したわけで、それが今、ミャンマー問題とかいろんな問題でASEANの大きな問題にもなっているということだろうと思います。

塩川小委員 紛争の平和的解決、自分たちの問題として国連憲章を地域安全保障に生かしていく、そういう姿勢のあらわれだというふうにお聞きしました。

 この間、この東南アジア友好協力条約について、域外協力国の参加を求めるということで、昨年でいえば、インドですとか中国が加わる。日本も加わったわけですが、その際に若干のちゅうちょがあったようなことを感じるんですけれども、日本政府のアプローチ、姿勢についてはどのようにお考えでしょうか。

菊池参考人 私自身は、この話は最初から、まじめに考える部分とそうではない部分とあって、どうでもいい部分というのは、あそこに盛られているさまざまな条項についてまじめに議論するというのはこれは愚かな話で、要するに、先ほど言いましたように、ASEAN友好協力条約の一番のポイントというのは、あれに署名することによって、紛争を平和的に解決していくんだということを約束する、コミットするということであって、ですから、日本の一部にあった、例えばASEAN友好協力条約の中に、主権の尊重であるとか内政不干渉原則を守るとか、これはもう古臭い、今のグローバル化の時代に。しかし、それはいささか的外れの話だろう。ですから、私は当初から日本は署名すべきだと。日本の政府の中にも、それを積極的に進めている人たちも一部にはおられた、いろんな事情で当初できなかったわけですけれども。

塩川小委員 あと、日本がアジア諸国との対話、協力を進める上で、やはり日本の過去の侵略戦争の清算の問題というのが大きな障害になっているというふうに思います。この点で、参考人はどのようにお考えでしょうか。

菊池参考人 私は、過去の戦争が日本とアジアとの関係に影響を及ぼしていないとは思いません。思いませんけれども、ただ、日本がいささか十分これまで考えてこなかったのは、日本と東南アジア諸国との関係が、何か起こるとそれを常に過去の戦争に還元して、そして日本が過去を反省しなかったからという話になっている。ただ、僕はどうもそれだけの話ではないんじゃないかと思っております。

 というのは、日本とアジア諸国とのこれだけの力の格差、経済力の格差を考えると、かつ、アジアの多くの国が日本に経済的繁栄を相当程度依存しているわけですね、貿易においても投資においても資金においても。そういうアジアの国から見ると、これだけ大きな力の格差があり、かつ、日本に大きく依存している。そうすると、日本がちょっと方向を変えるだけでも彼らの運命が大きく変わらざるを得ないわけですね。

 そういう力関係の変化があると、小さな国が大国に対していろいろ不安を持つ、懸念を持つ、いろいろな心配をするというのはもうごく当たり前の話でありまして、例えば、仮に過去の戦争が全くなかったというふうに考えても、アジアの諸国が、今みたいな日本とアジア諸国との力関係の格差があれば、日本に対していろいろ心配をし、不安を漏らしというのはごく当たり前の話だというふうに思っております。

 ですから、日本はいささかそういう力の格差がもたらす相手国の不安ということに対して少し鈍感だったのかな、それをすべて過去の戦争に還元して何となく満足しちゃっている、満足というのは変な表現ですけれども、というふうに思います。

塩川小委員 アジア太平洋地域の安全保障を考える上で、アメリカのプレゼンスというのは大変重要な問題だと思います。

 この間、イラクでの占領行政の中で、アメリカのやり方に対しての大きな批判もありますし、ファルージャでのああいう無差別攻撃についても、米軍に任命されたイラクの統治評議会からも、罪のない人々に対する集団的な懲罰行為というような厳しい批判の声明もありましたし、統治評議会のメンバーが次々と抗議の辞任をするというのもあります。

 そういう点で、国際人道法にも反するようなやり方も辞さないと見られるようなこのアメリカのやり方について、先ほどの話でも、アメリカは間違いを是正する力もあるというお話もありましたけれども、このアメリカの現状というのを参考人はどのようにごらんになっているでしょうか。

菊池参考人 申しわけありません、アジアの国じゃなくて、私がどう思っているかということでありますか。なかなか難しい……

塩川小委員 では、あわせてアジアの国々がどう思っているかということで。

菊池参考人 では、自分のことよりも最初に人の話を。

 アジア諸国は、英語で言うとアンビバレント、両義的といいますか、一方で、アメリカがアジアに引き続き軍事的にも経済的にも存在し続けるということはアジアにとって極めて重要であるというのは間違いのない話でありまして、ただ、立場として非常に微妙で、以前インドネシアのある外務大臣が非常におもしろいことを言いまして、我々は原則としてアメリカの基地は東南アジアから撤去してもらいたい、我々は中立でいきたいんだ、ただし、余り遠くに行ってもらいたくないと。つまり、日本あたりにいてもらわないと困ると。

 だから、彼らはよく知っていて、彼らはアメリカの提供する安全保障あるいは日米同盟が提供する安全保障にただ乗りしているというのはよく知っているわけです。それはやはり小国に許されるただ乗りであるというふうに彼らもよくわかっているわけです。

 他方、アメリカの最近のテロのような、ある種ユニラテラルな行動に対しては、彼らも相当警戒感を持っております。その警戒感があるがゆえに、東南アジアの諸国も、自分たちで少しはテロ対策をまじめにやらないといけない、ちゃんとやらないとアメリカがまた何か言ってくるというので、ある意味ではテロ対策を東南アジアの国が進める一つの契機でもあるだろうというふうに思います。

 それから、あと簡単にイラクの話ですけれども、僕自身は、今世界が直面している、きょうテロの話もしましたけれども、破綻国家、統治が不能になった国家、あるいはテロリストと結びつく、あるいはテロリストと結びついて大量破壊兵器を海外に流出させるかもしれない、そういう脅威というのは、これから国家対国家の脅威よりもはるかに大きな脅威になってきているんだろうと思うんです。そういう破綻国家に対してどうやって秩序を与えるか、つまり国家の安定をどういうふうに保つかというのは、国際社会の非常に大きな課題になってくるんだろうと思います。

 それは、我々は当然、内政不干渉の原則であるとか、外国を武力によって攻撃してはいけないとか、一方でそういう規範がある中で、こういう非常に弱い、破綻国家に近い国家、あるいはそういうテロリストと結びつくかもしれない国家に対して国際社会がどう対応するかというのが大きい問題になってきて、それを人によっては帝国主義というふうにも呼ぶわけですけれども、かつての帝国主義と違って、どこかの領土を自分たちが占領しちゃおうという話ではなくて、あくまでも秩序を回復する。

 そういう点で、アフガンの問題であるとかイラクの問題というのは、我々が直面している問題に対して一つのやり方で、それがうまくいったのかどうかはよくわかりません。ただ、私自身は、アメリカのやり方がすべてよかったとは思わないですけれども、しかし、そういう問題を抱えているというのは事実で、それに対して今アメリカが一つの試みをやっているということは言えるんだろうと思います。

近藤小委員長 次に、土井たか子君。

土井小委員 きょうは先生、どうもありがとうございました。

 冷戦構造が崩壊しまして、二国間の同盟関係から、今度は地域における多国間のお互いの協調的安全保障ということが非常に重視されるようになってきているわけですが、この中身というのは、むしろ軍事力ということではなくて、お互いの間の信頼醸成をいかにして具体化するかということが大事な問題であるという認識が世界的規模で進んでいっていると思いますけれども、先生はどのようにそれに対してお考えになりますか。

菊池参考人 おっしゃるとおりでありまして、冷戦が終わった後に、敵対関係ではないんだけれども、ひょっとすると将来敵対するかもしれない、そういう国の間になるべく戦争にならないようにあらかじめいろいろ対話、信頼醸成を進めて、そして平和的な環境を維持しようと。

 実際、そういう試みというのは、アジアでも、本日お話ししましたように、ASEAN地域フォーラムであるとか、あるいは東南アジアではASEANをベースに行われてきているわけですね。それはとても大事なことでありまして、日本でも、外務省であるとか防衛庁であるとか海上保安庁であるとか、あるいは運輸省、今は違う役所になりましたけれども、こういったところが入っていろいろ協力をしているわけです。それはもちろん大事なことで、これからも海賊対策であるとかいろいろなことを進めていく必要があるだろう。

 ただ、同時に、私きょう申しましたように、アジアには依然として、武力の行使というのが国家の意思の発露として必ずしも否定されていない、そういう国家群というのが一方であるわけでありまして、それに対する備えというのも同時に大事であるというふうに私は思っております。

土井小委員 今先生がおっしゃった御意見とも重なる部分がある設問を二つ聞かせていただきたいと思います。

 一つは、憲法の中身からいたしますと、我が国の平和とともに全世界の恒久平和ということを希求しているわけですね。したがって、我が国自身が参加をする地域の安全保障というのは、アジアの中の、特にきょう先生もお話の中でお述べになっておりましたけれども、北東アジアというこの地域というのが、具体的には私たちがここにいるわけですから、国がよそに移転するわけにはいきません。したがって、ここでの地域の安全保障ということを考える場合に、全世界的な安全保障の達成に資するものであるべきだというふうに考えなければならぬと思うんですね。

 この私たちの地域のみの安全保障というのを確保するブロック的なものでなり終われば、それは全世界の安全保障ということ、ひいては平和の確保ということに対して、考え方からすると、やはり限られたものになってしまうという意見も片やございます。安全保障を確保することには、まず外交的手段とそれからやはり軍事的手段と、今先生おっしゃったとおりなんですが、あるわけですけれども、憲法が考えているのは、まず、地域のみの問題に限って終始してはならないということと同時に、二つ目には、軍事的手段による安全保障というのを否定する立場に立って、むしろ安全保障というのは徹底して人間の安全保障ということを終始希求しているということが言えると思うんですが、この二つの問題についてどのようにお考えになりますか。

菊池参考人 最初の外交ということでありますけれども、日本を見ましても、決して軍事力一本で安全を確保しようとしているとは私は思っておりませんし、外交的な、例えば今の北朝鮮の六者協議などを見ますと、いかにして平和的に北朝鮮の核開発を放棄させるかといって相当忍耐強い外交をやっているわけでありまして、ということで、外交面でも非常に大きな努力を払っているというふうに私自身は理解しています。

 それから、人間の安全保障という考え方でも、とりわけアジアに対して、一九九七年の通貨危機以降、やはり一人一人の国民が平和で豊かに暮らせるように、もう少しきめ細かい援助をやる必要があるんだと。そのときの日本の一つのキーになる言葉が、人間の安全保障という言葉でありまして、実際、インドネシアに対する日本の援助なんというのを見ますと、かつてから見るとはるかにきめ細かい、村のコミュニティー復興のためのプロジェクトであるとか、社会保障制度の拡充のための支援であるとか、相当きめ細かな援助へと変わりつつあるというふうに私自身は理解しております。

 それから、地域の安全保障と世界という話ですけれども、それはおっしゃるとおりでありまして、我々の北東アジアの問題というのはまさしく世界の平和と安定に深く結びついているわけでありまして、逆に、そうであるがゆえに、何とかこの問題というのを平和的に解決しようといって、関係諸国が頑迷固陋な北朝鮮を相手にいろいろ努力をしているというのが実態、実情だろうというふうに思います。

土井小委員 そうすると、総合して考えれば、先生のお考えを実現するための努力というのは、現在の日本国憲法を実施すればできるのであって、わざわざ憲法を変える必要はないというふうに理解をいたしましてよろしゅうございますね。

菊池参考人 私は、憲法を改正した方がいいかどうかということはちょっとわきに置いて、今日本がどういう問題に直面しているのか、その直面した問題に対して日本がどういう対応策をとったら一番いいのか、その対応策をとる際に何か障害になるものがあるのかどうか。仮に憲法が障害になるのであれば、それは粛々と憲法を変えればいいだけの話であって、憲法を不磨の大典のごとく守るというのも愚かな立場でしょうし、それから、憲法を変えなければいけないというふうに最初から言うのも、これも愚かな話。

 ですから、僕自身は、最初にもお話ししましたように、日本が集団的自衛権というのを持っていないということが、日本がこれから国際社会で大きな役割を果たしていくときにどうも障害になるんだというふうに判断するのであれば、それは変えるべきであろう。

 僕自身は、先ほど言いましたように、日本の安全というのは相当今グローバルになってきている。世界の遠隔の地で日本が軍事力を行使するということも時に必要になってくるかもしれない。それに対して日本の憲法がうまく対応できないということであれば、それは粛々と変えればいいという話で、最初に私が申しましたように、日本が軍事力を行使するというのは、何も、日本の私的利益といいますか、日本の狭い国益のためだけではないわけでありまして、世界全体のシステムを、秩序を維持する、安定を維持するというまさに公益、世界全体の利益に深く結びついたものであって、そのための軍事力の行使に何ら日本は恥じることはないというふうに思っております。

土井小委員 あと一つ、私は、ミャンマーの状況に対して、アウン・サン・スー・チーさんとの間に電話で交信をしたりいたしておりまして、非常に関心を持ち続けてまいりましたが、きょう先生のお話の中に、今のASEANの民政移管への、平和裏に道筋をつくっていくということについて、内政不干渉原則ということをいかに乗り越えるかということもレジュメの中に出していらっしゃいますが、これはどのような方策が考えられるんでしょう。

菊池参考人 実は、ASEANも長い間、ミャンマー問題というのは目をつぶっていたわけです。それは内政不干渉原則。

 ASEANは、あくまでも大事なのは、国家と国家の間の関係できちんとルールを守るかどうかということで、国内で人権弾圧していようと何しようと、それは別な話である、極端に言いますと。ところが、国際社会からもいろいろ批判を受けて、ASEAN全体のイメージがますます悪くなってきて、ですから、ASEANとしても何かやらなければいけないと。

 そこで、いろいろASEANも考えて、いろいろな、従来にない、例えば、ASEANの議長国の外務大臣がミャンマーを訪問して、そしてミャンマーに対して国際社会のいろいろな意向というのを間接的に伝える。あるいは、ASEANの議長国及びその前後の議長国三人で、トロイカと言っていますけれども、それがミャンマーを訪問して、これもASEANの、いわば仲間のアドバイスとして、より開かれた体制へとミャンマーも徐々に移行すべきだという意思表示というのを行っている。ですから、それは、アメリカやヨーロッパがやっているようなミャンマーを断罪するという形ではなくて、仲間として穏やかな形でミャンマーにアドバイスをしていくという形で行われております。

土井小委員 ありがとうございました。

近藤小委員長 次に、平井卓也君。

平井小委員 きょうは先生、大変勉強になるお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。自由民主党の平井でございます。

 先生は発言の中で、日本を取り巻く現実の社会という国際社会に目を向けて、これからいろいろ考えていかなきゃいけないということをおっしゃっていますが、これは憲法調査会ですから、憲法と今の状況ということで、少し私なりに考え方をお話ししますと、今の憲法の前文は、戦争に対する一種の日本なりのわび状というようなものだと思います。制定時の国際社会の状況というのは、つまり、国連に対する期待も大きくなっていますし、日本さえ悪さしなきゃ世界は平和になれるというような雰囲気があったと思います。一方、九条の方ですが、これはあくまでも、日米安保体制を暗黙の了解というか前提とした条文になっていると私は思っています。

 これが憲法の私自身の感覚的なとらえ方なんですが、きょうの先生のお話を聞いていて非常に強く感じたのは、やはりグローバルガバナンスとパワーポリティックス、この日本の国際政治の二重構造だと思っています。

 グローバルガバナンス、これは先ほど先生がお話しになっていた人間の安全保障の問題とか、これは環境問題から発生したというふうにも聞いているわけですが、軍縮とか不拡散、貧困、エネルギー、食糧、水資源、感染症等々、この分野に関して言えば、対米追随外交をやればやるほど問題は悪化すると私は思っています。日本の外交の信頼性もそこで喪失していくのではないかと思うんです。

 ですから、このグローバルガバナンスに関して言えば、米国の一国主義が問題であって、日本は独自外交をやっていかなければならない。そして、日本がその問題解決に協力することによって、日本外交の信頼性を向上させていかなきゃいけないというふうに思っています。

 また一方、現実としてあるパワーポリティックスということを考えれば、アジアではやはり、台頭する中国に対する対処の問題、これが日本にとって一番大きいと思います。このパワーポリティックスということを考えると、一言で簡単に言うと、けんかの強い者とけんかしないというのが日米同盟路線だと私自身は思っています。つまり、日米路線を選択するというのは、パワーポリティックスに関する問題からいえば、これは日本のとる現実的な選択ではないかなというふうに思っています。

 この分野を例えば独自外交というふうにしてしまった場合、本当に、日本に対する変な警戒感というものが逆に生まれるかもわかりませんし、中国の脅威に対してそこで対処する方法すらないというふうに思います。しかし、そういう状況の中で、日米同盟はやはり手段であって目的ではないのかなという言葉をきょうは改めて考えました。

 そういう意味で、先生が、日本を取り巻く国際社会、そして国際政治の二重構造についてどのようにお考えか、お聞かせ願いたいと思います。

菊池参考人 私は、今先生がおっしゃったことに基本的に同意いたします。私が日ごろ考えていることとほとんど同じであります。

 実際、グローバルガバナンスといいますか、世界のいろいろな秩序維持に関して日本がアメリカとは異なる路線をとってきたというのも、さまざまな事例がこれを示しているわけであります。他方、同盟というのが、あるいはパワーポリティックスというのが依然としてこのアジアの中にあって、それに対する備えというのを日本がしていかなきゃいけない、そのための一つの手段として同盟があるというのもおっしゃるとおりであります。それが相互に今大きく矛盾しているとは私自身は思っておりません。ですから、日本のグローバルガバナンスといいますか、国際的な公共秩序を維持するための試みが、アメリカと大きく対立して、それが日米の同盟関係に大きな障害になっているという状況にはないんだろうというふうに思っています。

 同盟については、私自身は、もう一歩進んで、やはり同盟というのが日本国内でも支持されていかなければいけない、それはこれからも大事なことだろうと思うんです。多分、これから中国がより安定した開かれた社会に変わっていくまで、日米同盟というのは必要だろうと思います。その間、やはり同盟に対して国内の支持というのをきちんと確保しておかなきゃいけない、あるいは地域諸国の支持というのもできれば得ておくことが望ましい。

 そのときに、やはり日米同盟というのが、狭い意味での日本とアメリカの利益を超えた、より公共的な利益のために機能しているんだということをより地域の諸国に理解してもらう努力というのがこれから大事になるんだろう。

 ですから、例えばアメリカの軍事的な行動というのを、アメリカの狭い利益だけではないということを、例えばアフガニスタンにアメリカは軍事侵攻しましたけれども、あれはアメリカの自衛ということになっているわけですけれども、しかし、テロとの戦いというのはアメリカだけの利益であるわけではないわけで、ですから、そういうものをより公共的な利益を促進する一環としての行動というふうに国際社会に説得していく努力というのはやはり必要なんだろうというふうに思っております。

平井小委員 先生の御発言で、私も本当に賛成であります、意を強くしました。

 先ほどから六カ国協議のお話が出ていましたけれども、これはある意味では画期的なことをやっているという先生の評価だと思うんですが、これもどなたか、ほかの委員も御発言なさっていたような気がいたしますが、これを発展させて安全保障の枠組みにしていくという可能性というのは、もしかしたらあるのかなというふうに思ったりしているんです。しかし、これは必ずしも利害が一致していない。しかし、そういうところで本当に枠組みとして機能するのかな、そう思うんですが、先生はいかがお考えですか。

菊池参考人 私は、六者協議に関しては、アジアで恐らく初めて多角的な安全保障の対話が始まったという意味で、これがうまく大きく育ってくれることを強く願っております。

 ですから、北朝鮮の核問題だけをとれば、これはひょっとすると、六者協議をバイパスしてもう一度アメリカと北朝鮮が二国間で話し合いをする、それの方が解決にいくには早いかもしれない。ただ、せっかくの六者協議というのが始まったのを何とかうまく育てるということに僕自身は大きな関心を持っております。

 北朝鮮の核問題の行方は依然として不透明ですけれども、仮に北朝鮮が核を放棄する、もちろん核の放棄というのは何かというのがまだはっきりしないわけですけれども、仮に核兵器を放棄するというときに、恐らく、北朝鮮の核放棄を査察しモニターをする非常に強い仕組みをつくらないといけないと思うんですね。それはIAEAを超えるような、北朝鮮だけを対象としたような非常に強い査察のメカニズムというのを多分つくるんだろうと思うんです。それのいわば見返りとして、例えばエネルギーの供給の問題であるとか食糧の問題と関連したことというのが、いろいろ多国間の仕組みというのができていかざるを得ないと思うんですね。

 僕は、それは核という問題がまずは対象ですけれども、徐々にそれが、核だけではない、それも北朝鮮だけではない、北東アジア全体をにらんだような仕組みへと発展していく一つの大きいきっかけになるのではないかという期待は持っておりますし、その可能性は必ずしも低くないんだろうというふうに考えております。

平井小委員 時間となりました。どうもありがとうございました。

近藤小委員長 次に、楠田大蔵君。

楠田小委員 民主党の楠田大蔵でございます。本日は貴重なお話ありがとうございます。

 大変雑駁な質問になってしまうかもしれませんが、まず私、若い世代としましても、将来的に、アジアと日本との関係で、アジア相互間で共通の目標というか理想を持ちながら、お互いに、相互的に発展していくという理想を強く抱いておるわけでございますけれども、先生の事前に配られたペーパーを読ませていただいていまして、東アジアの概念という中で、地理的な概念ももちろんさることながら、機能的な概念というものが別にあり得るんではないかとおっしゃっておりまして、その機能的な概念に沿って枠組みというものも変わり得るものではないか、そのように書いておられたと思います。

 例えば、以前の通貨危機の際に、オーストラリアもタイに援助したであるとか、従来の地理的概念にかかわらない部分で相互的に依存というものも深まっていくと考えられると思うんですが、その具体的な協力方法というか、機能的な概念と、それによるどのような国同士の枠組みが考え得るのか、それを全体的にお聞かせいただければと思います。

    〔小委員長退席、平井小委員長代理着席〕

菊池参考人 もちろん、対象によっていろいろな国の組み合わせがあるだろうと思います。実際、例えば、我々がもう既に持っているAPECなどを見ますと、これは台湾も入っていますし、香港も入っているわけですね。ですから、アジアで経済あるいは経済協力なんというのを考えたときに、やはり台湾というのは非常に重要な一つのメンバーであるということなんだろうと思います。他方、ASEAN地域フォーラムのようなところでは、中国が、これは主権国家だけが加盟すべきであるというので、主権国家以外のものは排除するというような取り決めが既になされている。

 僕自身は、なぜ機能的なところが重要かと言いますと、例えば、実際、アジアの通貨の問題なんというのを議論したときに、ミャンマーであるとか、カンボジアであるとか、ベトナムであるとか、ほとんど、関係ないというとちょっと語弊がありますけれども、余り当事者じゃないわけですね。それにかわって、例えば、アメリカであるとか、あるいはオーストラリアであるとか、これはアジアの通貨の安定にも深くかかわっている。そういうところが入ってこないと、そもそも目的そのものが実現できない。

 ですから、私自身は、いわゆる東アジアというのを地理的に範囲を決めて、それ以外の国は入れない、その中だけで何かやるというのは愚劣な話であろう、もう少し問題領域、争点ごとにそれにかかわる国のメンバーの組みかえというのが当然あっていいんだろうというふうに思っているということであります。

楠田小委員 ありがとうございます。

 そうした際に、一つ、これも書いてあったと思うんですけれども、アジア通貨基金構想の中で榊原さんなんかは、その枠組みの中でアメリカとの距離感、日本が相対的に自立していく外交手段としても、ツールとしてもこれを考えていこう、そういう意図があられたというふうにも私も感じておるわけでございますが、結果としては、結局、IMFの枠組みを残したまま、こうした最終的には協力という体制に落ちついているとは思っております。

 こうしたところで、アメリカとの距離感というものを、通貨基金構想に限らず、政治的な安全保障の上においても、どのようにとっていくべきか、そもそもとるべきではないのか、そういう概念自体を。その点に関して教えていただければと思います。

菊池参考人 アメリカというのは、よくも悪くもあれだけの大きな力を持っていますと、アジアの国がつき合いたくないと言ってもつき合わざるを得ない、ある意味で宿命であるわけです。ですから、アメリカとつき合わないという選択はおよそあり得ない。

 他方、アメリカは余りにも力が強いものですから、それに対して小さな国というのは常に両義的でありまして、一方でアメリカと深く結びつくことによって利益を得たいという思いは確かにあるわけですね。それは、例えばマレーシアのような、マレーシアはマハティール首相のもとで大変反米的な国のように見られてきたわけですけれども、しかし、実際見てみると、マレーシアとアメリカとの経済関係というのは非常に深まっていますし、それから、米軍とマレーシアの軍との提携というのも近年急速に深まっています。ですから、一方で、レトリックの部分での反米というのと実態というのは随分違うわけです。

 他方、しかし、余りにも強いがゆえに、それを懸念したり不安を持ったりする、そういう心情があるというのも事実であって、ですから、極めて通俗的な言い方ですけれども、アメリカとつき合いつつ、しかし、可能な限り自分たちの自立性を維持するために地域諸国との間の協力関係を深める。東南アジアからいえば、ASEANであるとか他の東アジア諸国との関係を強めることによって、アメリカとの関係において、自分たちの自立性、自主性というのを担保しようというふうに試みているというのが今の状況ではないでしょうか。

楠田小委員 ありがとうございます。

 あと、レジュメに書いておられたと思うんですが、「日本の国益はアジア全体の平和と繁栄という「公益」を増進させることと直結している。」というところで、「日本の「国内事情」を理由として日本が地域的・国際的な共同行動に消極的な姿勢をとること」、これは許されないというふうに書いておられたと思うんですが、先生が思うところの括弧つきの国内事情というもの、これは例えばどのように先生はお考えになって、これをどのように超えていくべきとお考えになっているのか、その点も深くもう少し聞かせていただければと思います。

菊池参考人 日本が軍事的な役割を果たす、あるいは他国の国内の法と治安の回復に、例えば警察力であるとかあるいは軍事力を活用するということに対して、日本の中に非常にまだ強い抵抗感がある。

 僕自身が強調したかったのは、こういった地域の平和であるとか安定を維持するというのは、狭い意味での日本の国益ではないわけですね。より広い地域の地域全体の利益、あるいは国際社会全体の利益の一環としての日本のさまざまな努力であって、ですから、そういったものに対して日本がちゅうちょするというのは、日本にとっても好ましくないですし、地域の諸国、地域全体にとってもそれは好ましくないことなんだろうと。

 ですから、問題は、日本が日本の対外的な行動、それは軍事力の行使も含めて、それがより広い公益の一環として行われているんであるということを世界に理解させられるかどうか、そういう状況のもとで日本が力を行使できるかということが問題で、軍事力の行使そのものが問題であるということではないんだろうというふうに僕自身は思っています。

楠田小委員 ありがとうございます。

 ちょっとまた雑駁になるんですけれども、より広い公益ということで、例えばで結構なんですけれども、最後に、アジアの中でかなり協力を強めていく上で、より広い公益というか、共通の目標、例えば環境の協力であるとか人権的に民主主義を広めていくとか、アメリカもそのような意図でやっているかもしれませんが、アジアの中でそういう共通の公益というものはどういうものを具体的にお考えですか。二、三、教えていただきたいと思います。

菊池参考人 それはもうたくさんあります。環境でもエネルギーでも、それから、先ほど言いましたように、この地域には下手をすると破綻国家になるかもしれないという国があるわけですね。そういう国の国内の法と秩序をきちんと維持できるように支援をする。場合によっては、例えばオーストラリアなんというのは、今、大量の警察官をパプアニューギニアとかソロモンに送って現地の警察官を訓練したり、こういうことをやっているわけですね。そういうことも広い意味での公益であります。

 例えば、ソロモンが不安定になってソロモンが犯罪の巣窟になるような状況になると、それは地域全体にとっても好ましくないわけであります。あるいは、通貨システムを安定的に維持するとか、海上交通路の安全を確保するとか、そのために地域諸国との間で海賊対策であるとか海難救助について協力をするとか。我々、公益というのは、もう数えれば数限りなくある、そういったものに日本が取り組むというのは、決して狭い意味での日本の国益のためではないんだろうというふうに思います。

楠田小委員 どうもありがとうございました。

平井小委員長代理 次に、中谷元君。

中谷小委員 菊池参考人にお伺いしますが、東アジアの近代史を見てみますと、開国と自由化によって、また関税の撤廃によって、我が国も明治維新とか、中国、朝鮮の争乱とか、国が滅んだ場合もありますが、非常に内外の紛争に発展する経過があります。

 そこで、経済の自由化と安全保障の維持というのは不可分であって、そのために安全保障機構と国内対策というものが必要だと思います。

 まず、安全保障機構について伺いますが、私も、東アジアの地域安全保障というのは大切だと思います。現実的に考えてみますと、まず北朝鮮の自由化をどう進めるかということで、金正日体制については、いかに体制を保証してあげるのか。そのためには北朝鮮の核開発を放棄するための安全保障機構と経済協力機構の創設が必要ですけれども、現在の六カ国協議を今後東アジアの安全保障機構に発展させていくということは私も賛成でありますが、ASEANとこれを切り離してやるのか、それとも単独に東アジアとしての機構にするのかという考え方を伺いたい。

 と同時に、台湾の問題ですね。これは、独立論がありますが、友好国である日本もアメリカも、今回の陳さんの選挙に自制を促しました。

 そこで、台湾の存在、経済力をどう考えるのか。国家としてアジアの国際協調グループに参加させるのか。どういう手法で仲間に入れることができるのか。

 そして、中国の経済成長、中国脅威論もありますが、今、中国への投資参入で、非常に我が国としてもこれをよしとする部分がありますが、中国に、今後、この自由化、通貨の統合についてどのようにアプローチをかけてこの話を推進していけばいいのか、その辺のところのお考えを伺いたいと思います。

    〔平井小委員長代理退席、小委員長着席〕

菊池参考人 六者協議ですけれども、これはASEANと結びつけるというのは事実上不可能だろうと思います。ASEANの方もそれは望んでおりません。

 僕自身は、北東アジアに、仮に六者協議をベースに、あるもう少しきちんとした、先ほど申しましたように、核問題の解決のためには相当精密な地域制度をここにつくらないと、北朝鮮の核の査察であるとか、現在ある核施設の破棄であるとか、エネルギーの提供であるとかという、相当強い組織をつくらないといけないだろう。

 それは、ひょっとすると、例えばASEANにもいい影響を及ぼすかもしれない。あるいは、ASEANリージョナルフォーラムのような、今は何となく対話でとどまっていてその先になかなか進めない、そういうところに対して、ある一つの刺激を与える意味でもいい効果を持つかもしれないというふうに思っております。

 それから、台湾の問題ですけれども、これからのアジアのある意味で最大の課題というのは、いかに台湾の統一というのは不可能かということを中国に、何といいますか、説得するというのは変な話ですけれども、中国の中でそれを、中国がより安定した社会になり、過去の歴史の屈辱を晴らすということが中国の国家統一の重要な柱に今なっているわけですね、ナショナリズムが。中国がそういうところに国家統一の重要な柱を見出さなくても、中国が一つのまとまりを持った安定した国家になる。そうなったときに台湾問題というのは恐らく解決するんだと思うんですね。それに至るまで、中国の中に、台湾というのがもはや統一が不可能であるということをいかに静かに理解させるかというのが台湾問題の一番大きな問題だろうというふうに思っております。

 台湾を仲間に入れるというのは、アジアでは中国がこれだけ大きな発言権を持っているところで、なかなか難しいだろうと思います。

 一つの方法は、既に台湾が入っている例えばAPEC、従来中国は、台湾がいるところで安全保障というのを議論するのは一切まかりならぬと。要するに、安全保障というのは主権国家がやるものなんだということをずっと言ってきている。

 しかし、APECは、御承知のとおり、最近はティモール問題であるとかテロの問題とか、実は、今までの中国であれば反対したであろうような問題をいろいろ取り上げるようになってきている。多分、それは米中関係に対する配慮のあらわれだろうと思うんです。したがって、APECというのは首脳レベルでの会合でもありますし、こういうところをもう少し利用しながら、少し台湾の活動の空間を広げるというのは一つの方法かというふうに思います。

 それから、中国との経済の問題ですけれども、本音を言えば、中国は自由貿易協定を他国と結ぼうなんという状況ではなくて、まずはガットに入ったときのさまざまな約束事をきちんと国内で履行するということが、実は国際社会にとって一番大事なことであるわけですね。

 中国にとって問題は、中国政府が仮に国際的なルールを守ろうとしたとしても、実は悲しいかな、中国政府が中国全土に対してコントロールがきかなくなってきている。これこそが実は問題で、ガットもWTOも、御承知のとおり、一つの経済単位として入っている。それは、中央政府がそこに関して一貫した統治の能力を持っているということが前提でやっているわけですけれども、悲しいかな、中国の場合に、中央政府がガットルールを守ろうといろいろなことをやっても、逃げる者がいっぱいいて、なかなか国際的なルールが中国国内に浸透していかない。

 ですから、むしろ我々にとって重要なのは、中国がそういうガットの国際的な貿易ルールをきちんと守るように国内の制度をつくり、その制度を運用する人材を育成しということの方がはるかに、どうせ、先ほど言いましたように、自由貿易協定なんて大した中身のものができるわけではないので、我々にとって大事なのは、中国がそれをやってくれる、あるいは国際的ないろいろな知的所有権の問題であるとか、そういうものを、既に中国が本来守らなきゃいけない国際的なルールというのはたくさんあるわけで、それが守られていないという状況を改善することの方が、当面は自由貿易協定よりもはるかに重要だろうというふうに思っています。

中谷小委員 どうもありがとうございました。

 それでは、もう一問、今度は自由化による国内対策についてお伺いします。

 戦後の日本は、自由貿易主義で経済発展をさせてきましたけれども、地域社会がその犠牲になっているわけですね。地方の農業、林業、水産業、これは地域経済社会を維持してきましたけれども、今壊滅的な状況になっております。

 例えば中国の農産物を開放すると、ショウガやニンニク、ネギなど、もう価格が暴落してますます地域を直撃します。水産業も、日本は資源保護を守って条約に入っていますが、条約に入っていない中国、台湾などはマグロやカツオをどんどん輸入して、もう漁業界も価格が低迷して経営が維持できない。これ以上規制を外すのかという意見があります。そして、林業も、これはアメリカや東南アジアから木材輸入で価格が下がって、もう林業経営の意欲がなくなって山村の荒廃も進んでおります。これをまたさらに自由化となりますと、地方が経営できない状態になってまいります。

 この国内対策というもの、規制を設けるのかどうか、この点について、参考人の御意見を伺いたいと思います。

菊池参考人 私は、生まれは群馬県というところでありまして、最近では日本でも有数のシイタケの産地でありまして、ここ数年、深刻な打撃を受けている。ですから、今、中谷先生がおっしゃったようなことはよく存じ上げております。

 ただ、国際経済の中で、すべての分野で勝とうというのもこれまたむちゃな話で、要するに、日本がこれからどういう国家として世界の中で生きていくのか。確かに、戦後五十年、六十年近く、日本は通商国家としてこれだけ大きく発展してきて、今、日本国内の富を創出している大きな原動力になっているのが製造業であり、その製造業がよって立つのが国際市場である。そうであるとすると、そこで我々が大勝ちをしていて、他方、ほかの国が勝てるような分野に関しては、日本はそれは負けると嫌だから開放しないよというのは、これは世界の中で理屈が通らないんだろうというふうに思います。

 ですから、農業保護に関して言えば、それは私自身は、田舎で生まれましたし、今の田舎の深刻な問題というのはよく存じ上げています。しかし、やはりそれは日本は選択しないといけないわけで、どちらもうまくやろうとするんであれば、やはりそれなりのことは必要だ。

 それから、農業対策というのは確かに重要だろうと思うんですけれども、この私の発言が正しいのかどうかわかりませんけれども、過去何十年にわたって、日本は国内農業を強化するといってどれだけの資金を今まで投入してきたのか。それをやはりきちんと評価すべきだろう。それは、生半可な金を農業の基盤強化という名のもとに投入したわけではないわけであって、その評価を抜きにして新たに農業対策をするというのは、財政がこれだけの状況にある中で、それはやはり問題ではないかというふうに僕自身は思っております。

中谷小委員 どうもありがとうございました。

近藤小委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。

 この際、一言ごあいさつを申し上げます。

 菊池参考人におかれましては、貴重な御意見をお述べいただき、ありがとうございました。小委員会を代表して、心から御礼を申し上げます。(拍手)

    ―――――――――――――

近藤小委員長 これより、本日の参考人質疑を踏まえて、小委員間の自由討議を行います。

 一回の御発言は、五分以内におまとめいただくこととし、小委員長の指名に基づいて、所属会派及び氏名をあらかじめお述べいただいてからお願いいたします。

 御発言を希望される方は、お手元にあるネームプレートをお立てください。御発言が終わりましたら、戻していただくようお願いいたします。

 発言時間の経過については、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、ただいまから御発言を願いたいと存じます。御発言を希望される方は、ネームプレートをお立てください。

大村小委員 自由民主党の大村秀章でございます。

 きょうの菊池参考人の御意見、大変参考になったと思います。特に、アジアの関係を日本として積極的に取り組んでいくべきだということだと思います。

 それと、私は、自民党の中でFTAを進めていく取りまとめ役を実はやっておりまして、そういう意味では、日本が経済的に発展をしていくためには、そしてまた日本の経済産業の発展のためには、この開放経済体制、そしてFTAを進めていくことがどうしてもこれは不可欠だというふうに思って進めております。

 その中で、メキシコが済みましたので、いよいよこれから東アジアということでございまして、最終的には、中国を含めた東アジアの自由経済圏、そしてまた、共通通貨も含めて、にらんで進めていかなきゃいけないというふうに思っております。そういう意味で、そうしたことでのきょうは御意見でございました。

 ただ、その中でも、どうしても、すぐにお互いすべてを取っ払って開放していくというのは難しいわけでありますから、やはりそこをステップ・バイ・ステップで進めていくということになろうかと思いますが、そういうこととあわせて、先ほどの菊池参考人の意見の中で、そういったFTAもさることながら、特に中国が本来守らなければならないいろいろなルールを、貿易のルールも、そしてまた投資のルールも、そして知的財産権の保護の問題も含めて、そういったことをむしろ守らせることの方が大事だということも、これはまさに的を得たといいますか、そのとおりだと思いますので、そのことも引き続き日本として粘り強くやっていく必要があるのかなという気がいたしております。

 いずれにいたしましても、これは安全保障の関係の委員会でありますから、基本的には、東アジアの、そしてまた北東アジアの安全保障を進めていく上においても、私は、やはり経済的な結びつきをさらに進めていくということもこれは一つの大きな柱立てになると思います。そういう意味で、まずは韓国、そしてまた東南アジア、それからその上で中国といった自由貿易圏をつくっていくということを引き続き日本として国益をかけてやはり進めていく必要がある、こういうふうに思っております。

 意見としては以上です。

土井小委員 きょうの参考人の御意見を承っておりまして、私は、きょうのテーマになっております安全保障及び国際協力に関する問題については、やはり世界的規模で、冷戦下でどういう状況であったかということと、冷戦構造が崩壊してからとでは随分趣が違ってきていると思うんですね。

 冷戦時代は、東西対立の中で、同盟関係を二国間で結んで、そしてその冷戦状況に対処するということに対して、やはりこれを是認する向きが強かったということは、それは確かです。ただ、しかし、冷戦構造が崩壊したときに、実はほっとした人というのが多いんじゃないですかね。やっとこれで何とか希望をつないで、お互いの努力をしていく目安ということを早く確立させなきゃならないと。

 それはどういうことかというと、やはりどんなことがあっても戦争という状況にしてはならないということだと思うんですね。戦争を認めるということであってはならない。いかに戦争をしないという状況をつくっていくことができるかという問題だったと思うんです。

 そのために、きょうの地域安全保障ということはいかにあるべきかとか、二国間の同盟関係ではなくて、多国間が寄って、お互いが協調的な安全保障機構ということをいかにしたら具体化して動かしていくことができるかという問題というのが実はそこにあると私は思うわけで、やはり外交的手段によってその中身を充実させていくということが大変にこれは大事になっているということをつくづく思うわけです。

 したがって、憲法からすると、この軍事的手段による安全保障というのを日本国憲法は否定いたしておりますし、外交的手段によっていかに戦争をしてはならないということを具体化していくことができるか。いわゆる予防外交という表現もありますけれども、未然に紛争を防止する、戦争を防止する、そのために外交はあるというふうに考えてもいいと私は思っているわけで、やはり日本国憲法の真価というのは、それを具体化することのための努力に対して問われているというふうに私は思います。

 したがって、国際関係においては、武力による威嚇や武力の行使を禁止しているということははっきりしておるわけで、国連の中では国連憲章もこれを禁止しているものの、国際社会の共通の利益のためならば武力の行使はその限りで認められるというところが大変気になるわけでして、国連でも、その措置の中には、憲法が容認していない措置があるということを認識いたしますと、たとえ国連の旗のもとであっても我が国は武力行使をするわけにはいかない、戦争に対して協力することはできないということをやはり明確に認識するということが大切な、きょうの安全保障及び国際協力についての基本問題ではないかというふうにいよいよ強く思う次第です。

 ありがとうございました。

篠原小委員 日本の安全保障に対する考え方というのはドラスチックに変わってきたんじゃないかと思います。きょう同盟の話がありましたけれども、日米同盟を軍事同盟だと言って、鈴木内閣のときには伊東外務大臣が外務大臣をやめなくちゃならない事態になったわけです。それから二十年、そういうことを余り問題にする人はいなくなったような気がいたします。

 いろいろなことを考えた場合、我が国の安全保障のことを考えた場合、パラレルに考えなければいけないんじゃないかと思っております。

 その一つのヒントになるのが、ちょっと言葉に出てきましたけれども、総合安全保障というので、土井さんも主張されたのは、何も軍事だけじゃない、平和外交があれば国際協力があるというようなことだろうと思います。私は、これは片方だけを、平和外交だけに頼る、軍事だけに頼る、みんなパラレルにやらなくちゃいけないんじゃないかと思います。

 そういう点では、何かちょっと参考人の意見も、今や経済安全保障、経済の方だけ突出しているような気がします。どういうことかというと、環境とかいうのがあったり、人の安全とかいうのもありました、それからエネルギーとかもあります、食糧なんかもあります。しかし、それを考えていくと、やはり経済重視でほかのことが何か忘れ去られているような気がいたします。

 つまり、どういうことかというと、バランスのとれた体が必要なのと同じようにバランスのとれた国が必要だ。ところが、経済だけが突出している。今度は軍事の方はそこそこになってきた。しかし、食糧の安全保障とかいうのも、今の議論を聞いていても、中谷さんの質問に対して、もうあっちはいいんだというようなことを言っておられる。やはりこれは危険であって、いざというときにどういう国がきちんと存立していけるかというと、私はバランスのとれた国じゃないかと思っております。

 そういう点で、ちょっと食糧の方でいいますと、軍事的なタカ派はすべて食糧も自給派です。これは逆に超平和主義者。これも、食糧だけは自分たちで守ろうと言うんです。ところが、日本の皆さん、ここで議論しておられる方は、私は初めてですけれども、何かそのパラレルに考えるという感覚が非常にないような気がいたしますので、その点はきちんと議論していただいた方がいいんじゃないかという気がします。

 以上でございます。

大出小委員 民主党の大出彰でございます。

 途中、事態特で一時間質問しておりましたので、抜けまして申しわけございません。ですが、参考人のお話も聞きましたので。

 実は、参考人のお話を聞きながら、軍事も一つの解決法だというのですが、それは肯定するわけですが、でも、ニュアンスとしては軍事じゃない方がいいですねというのがまず私にはありまして、やはり外交を重視した解決の仕方が今ほど重要なんだなとつくづく思っているんですね。

 それで、参考人の中で、どうもアメリカ問題といいますか、アジアについても、アメリカの政治経済の手法というものがやはりどうも単独主義で、ちょっと逆にほかの国からすると違和感を感じるようなことをおやりになっている。国際ルールの中でアメリカもやってもらうということに引き戻さないと、やはりうまくいかないだろうと一つ思っております。

 それと同時に、いわゆる一九九七年の通貨危機もそうですが、東南アジアやアジアが打撃を受けたようなのも、あれもいわゆるマネーにおける危機でございまして、ヘッジファンド等アメリカを中心とした多国籍企業の方々がいろいろなことをなさったことで、一国までつぶれてしまうような状況が起こっていたわけですから、その部分も全くアメリカは無縁なわけじゃありませんので、そういう経済の部分についてももう少し、アメリカ自体が少し方針を変えないとついていくのが大変なのではないかというふうに思っております。

 それと、やはりアジアは、EUの統合などを見ていますと、東アジアの共同体的なもの、共同の家と言う方もおられますが、そういう方向の努力が日本はちょっと足りないのではないかと思っていまして、今はちょっと軍事の方に加担をし過ぎているのかなという気がして、もっと平和的な解決の努力の方に一歩も二歩も歩みを進めなければ、本当の意味のアジアのまとまった平和というのはなかなか来ないのではないかなと思っております。

 そして、最後に言いたいのは、国内の正義だとかあるいは国際的な正義を貫いていないとなかなか他人の面倒は見られないのではないか、そんな思いを強くしているところでございます。

 以上です。

近藤小委員長 他に御発言がございますでしょうか。

 それでは、討議も尽きたようですので、これにて自由討議を終了いたします。

 本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時二十四分散会


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