衆議院

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第2号 平成18年2月23日(木曜日)

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平成十八年二月二十三日(木曜日)

    午前十時開議

 出席委員

   委員長 中山 太郎君

   理事 愛知 和男君 理事 近藤 基彦君

   理事 福田 康夫君 理事 船田  元君

   理事 保岡 興治君 理事 枝野 幸男君

   理事 古川 元久君 理事 斉藤 鉄夫君

      井上 喜一君    遠藤 武彦君

      越智 隆雄君    大村 秀章君

      加藤 勝信君    柴山 昌彦君

      高市 早苗君    棚橋 泰文君

      渡海紀三朗君    中野 正志君

      野田  毅君    葉梨 康弘君

      早川 忠孝君    林   潤君

      平田 耕一君    二田 孝治君

      松野 博一君    三ッ矢憲生君

      森山 眞弓君    安井潤一郎君

      山崎  拓君   吉田六左エ門君

      岩國 哲人君    小川 淳也君

      逢坂 誠二君    北神 圭朗君

      鈴木 克昌君    仙谷 由人君

      園田 康博君    田中眞紀子君

      筒井 信隆君    平岡 秀夫君

      石井 啓一君    太田 昭宏君

      高木 陽介君    笠井  亮君

      辻元 清美君    滝   実君

    …………………………………

   衆議院憲法調査特別委員会及び憲法調査会事務局長  内田 正文君

    ―――――――――――――

委員の異動

二月二十三日

 辞任         補欠選任

  桝屋 敬悟君     高木 陽介君

同日

 辞任         補欠選任

  高木 陽介君     桝屋 敬悟君

    ―――――――――――――

二月二日

 憲法九条改悪のための国民投票法案反対に関する請願(佐々木憲昭君紹介)(第五七号)

 同(阿部知子君紹介)(第一三二号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一三三号)

 同(志位和夫君紹介)(第一三四号)

 同(仲野博子君紹介)(第一三五号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一七二号)

 同(志位和夫君紹介)(第一七三号)

 同(仲野博子君紹介)(第一七四号)

 憲法改正国民投票法案反対に関する請願(赤嶺政賢君紹介)(第一六三号)

 同(石井郁子君紹介)(第一六四号)

 同(笠井亮君紹介)(第一六五号)

 同(穀田恵二君紹介)(第一六六号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第一六七号)

 同(志位和夫君紹介)(第一六八号)

 同(塩川鉄也君紹介)(第一六九号)

 同(高橋千鶴子君紹介)(第一七〇号)

 同(吉井英勝君紹介)(第一七一号)

同月九日

 憲法九条改悪のための国民投票法案反対に関する請願(佐々木憲昭君紹介)(第二二五号)

 同(志位和夫君紹介)(第二二六号)

 同(仲野博子君紹介)(第二二七号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第二五九号)

 同(志位和夫君紹介)(第二六〇号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第三〇四号)

 同(志位和夫君紹介)(第三〇五号)

 同(仲野博子君紹介)(第三〇六号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第三一七号)

 同(志位和夫君紹介)(第三一八号)

 同(仲野博子君紹介)(第三一九号)

 同(阿部知子君紹介)(第三五三号)

 同(佐々木憲昭君紹介)(第三五四号)

 同(志位和夫君紹介)(第三五五号)

 同(重野安正君紹介)(第三五六号)

 同(仲野博子君紹介)(第三五七号)

 憲法改正国民投票法案反対に関する請願(辻元清美君紹介)(第二六一号)

 同(保坂展人君紹介)(第二六二号)

同月二十一日

 憲法九条改悪のための国民投票法案反対に関する請願(志位和夫君紹介)(第三七七号)

 同(仲野博子君紹介)(第三七八号)

 同(阿部知子君紹介)(第四〇五号)

 同(志位和夫君紹介)(第四〇六号)

 同(重野安正君紹介)(第四〇七号)

 同(仲野博子君紹介)(第四〇八号)

 同(阿部知子君紹介)(第四一六号)

 同(重野安正君紹介)(第四一七号)

 同(仲野博子君紹介)(第四一八号)

 同(阿部知子君紹介)(第四二七号)

 同(重野安正君紹介)(第四二八号)

 同(辻元清美君紹介)(第四二九号)

 同(仲野博子君紹介)(第四三〇号)

 同(阿部知子君紹介)(第四五三号)

 同(重野安正君紹介)(第四五四号)

 同(辻元清美君紹介)(第四五五号)

 同(菅野哲雄君紹介)(第四七〇号)

 同(重野安正君紹介)(第四七一号)

 同(阿部知子君紹介)(第四八七号)

 同(菅野哲雄君紹介)(第四八八号)

 同(重野安正君紹介)(第四八九号)

 同(仲野博子君紹介)(第四九〇号)

 同(阿部知子君紹介)(第五一一号)

 同(菅野哲雄君紹介)(第五一二号)

 同(重野安正君紹介)(第五一三号)

は本委員会に付託された。

    ―――――――――――――

本日の会議に付した案件

 日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件


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     ――――◇―――――

中山委員長 これより会議を開きます。

 日本国憲法改正国民投票制度及び日本国憲法に関する件について調査を進めます。

 この際、欧州各国国民投票制度調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。

 初めに、私どもは、昨年の十一月七日から十九日まで、オーストリア、スロバキア、スイス、スペイン及びフランスの国民投票制度について調査をいたしてまいりました。

 この調査団は本特別委員会のメンバーをもって構成されたものでありますので、一昨日、議長に提出した報告書を、本日、委員各位の机上にも配付させていただくとともに、恒例によりまして、団長を務めさせていただきました私からその概要について口頭で御報告をし、委員各位の御参考に供したいと存じます。

 議員団の構成は、私を団長に、自由民主党から保岡興治君及び葉梨康弘君、また民主党から枝野幸男君及び古川元久君、公明党から高木陽介君、日本共産党から笠井亮君、社会民主党から辻元清美君がそれぞれ参加され、合計八名の議員をもって構成されました。なお、この議員団には、衆議院事務局、衆議院法制局及び国立国会図書館の職員のほか、二名の記者が同行いたしました。

 まず、第一の訪問国であるオーストリアでは、去る十一月八日、最初の訪問地であるウィーンにおいて、オーストリア国民議会のコール議長を表敬訪問の後、憲法裁判所のコリネック長官、内務省のフォーグル第三総局長らと懇談いたしました。

 以下、その概要について御報告いたしますと、まずコール議長との懇談で特に印象に残っているのは、コール議長が、ナチス・ドイツによる併合の際の不正常な政治状況のもとで行われた不正な国民投票などオーストリアにおける国民投票の歴史を振り返りながら、国民投票が民意の正確な発現方法として正常に機能するためには、まず国民投票の議題となっているテーマについて国民に対して正確な情報を提供し、これを理解してもらう努力をすることが何よりも重要であることを強調しておられた点です。

 その実践例として、一九九四年のEU加盟の是非を問うた国民投票が挙げられ、コール議長自身、このときは二年間にわたって、年金生活者、学生、医師、ロータリークラブ等に働きかけ、五百五十回もの関連行事を実施したとのことでした。他の議員たちも同様のことを実行したとのことですが、国民投票にかけられる議案の内容について、国会議員が率先して周知広報することの重要性を思い知らされた次第です。

 コリネック憲法裁判所長官からは、世界最古の憲法裁判所であるオーストリア憲法裁判所は、その権限の一つとして選挙や国民投票に係る審査権限を有していること、しかし国民投票に際してのメディアの行動に関する規制の是非などについては、言論の自由や報道の自由があるので、憲法裁判所といえどもこれをコントロールすることはできない、その意味において憲法裁判所は手続上の公正さのみを確保するものである等について説明を受けました。

 続いて、内務省のフォーグル局長ら四人の専門家との懇談におきまして、オーストリアには直接民主制の制度として国民投票のほか国民諮問、国民請願という三つの制度がありますが、国民投票は戦後になってからはわずか二回行われただけである、最近新設された国民諮問はその実施例はなく、また国民の評価が高いとされる国民請願もなかなか法律制定にまでは結びついていないのが現状であるとの説明を伺いました。

 冒頭のコール議長の懇談も踏まえた上で考えますと、国民投票を含む直接民主制の制度は、重要であるけれども、議会民主制のもとにおいては劇薬であって、その発動に当たってはかなり慎重さが必要であるという実態をかいま見た気がいたしました。

 スロバキアであります。

 翌十一月九日に訪れたスロバキアのブラチスラバにおける話し合いでは、スロバキア国会の憲法及び法務委員会のドゥルゴネツ委員長、大統領府のチーチ長官らと懇談するとともに、クカン外務大臣を表敬訪問いたしました。

 以下、その概要について御報告をいたしますと、まず、憲法及び法務委員会のドゥルゴネツ委員長らとの懇談では、欧州憲法条約を国民投票に付さずに国会の議決だけで批准したことについて憲法裁判所に異議が申し立てられたことが話題となりましたが、興味深かったのは、スロバキアでは、憲法改正それ自体については国民投票が要件とされていないばかりでなく、逆に基本的権利及び自由は国民投票の対象とすることはできないということが規定されている点でございました。

 この理由について、次に訪問しました、前の憲法裁判所長官でありスロバキアの現行憲法の起草者の一人でもあるチーチ大統領府長官が次のように述べておられたことが強く印象に残っております。

 すなわち、国民投票の対象とならない事項というのは、法的な問題というよりも人間のエチケットや倫理により近いものであり、欧州や国連の中で生きていくためのスタンダードとなっているものだ、我が国の国民は何がそのようなものに当たるのか十分には理解していないので、これを国民投票により変えるなどということは考えられないということでした。

 続いて、スイスのチューリッヒに入り、まず十一月十日にノイエ・チュルヒャー新聞社のアシュバンデン編集委員、スイス国営放送局のハルディマン編集長、スイス国営放送の国際部門であるスイス・インフォに記者として勤務しておられる佐藤夕美氏と懇談いたしました。

 また、翌十一日にはベルンに移動し、司法警察省のマーダー法務部次長らと懇談した後、内閣府のフーバー・ホッツ長官を表敬訪問し、さらにベルン大学においてリンダー教授と懇談するなど、精力的な調査活動を行いました。

 以下、その概要について御報告をいたしますと、まずアシュバンデン編集委員ですが、ノイエ・チュルヒャー新聞社の日曜版の編集委員であるアシュバンデン氏との懇談において、同氏は、スイスの直接民主制の中でメディアは非常に重要な役割を担っており、報道に関しての政府による規制は何もないと述べた上で、年四回ほど行われる国民投票について、メディアは国民投票に至る過程から投票テーマの分析、評価まで逐一報道し、投票期日の一週間ほど前には社説で賛成か反対かの意見を明らかにすると説明されました。また、スイスにおいては、テレビ、ラジオにおける政治的な広告は完全に禁止されていますが、新聞においてはそのような規制はないとのことでした。

 質疑応答の中で、虚偽報道等への対処に関しては社内におけるチェックのほかにメディア代表による自主組織による救済手段があること、報道機関への圧力や買収については自分の知る限りそのようなことはないといった説明を伺いました。

 なお、そのやりとりの中で同氏が示された、新聞各紙の自由な報道こそが全体として正しい情報を国民に提供することになるというマスコミ人としての認識は印象的でした。

 スイス国営放送局のハルディマン編集長との懇談において、同氏は、スイス憲法においてテレビ局やラジオ局は政治的に中立でなければならないことが定められていることを受けて、スイス国営放送局は中立公平な放送機関としてどの政党の影響も受けない独立した組織として運営されていることを力説されました。

 質疑応答の中で、そのような放送局の公正中立性と権力をチェックするジャーナリズムの使命との関係はどう考えているかとの質問に対し、ハルディマン編集長は、憲法は放送局の中立性と同時に、その自治、自律性を強く保障している、したがって、特定の事案なり事象について多様な観点から視聴者に情報を提供することによってジャーナリズムが果たすべきチェック機能を十分果たしていると考えている旨述べられました。

 民間放送がほとんどなく、いわばガリバーのような国営放送局の影響力が図抜けているスイスの放送事情を考えるとき、このような国営放送局の中立性及び独立性に対するハルディマン編集長の強い自負心については、むべなるかなと感じた次第であります。

 スイス・インフォの記者である佐藤夕美氏とのワーキングディナーにおいては、和やかな雰囲気の中で、歴史的にも、また経済的理由からも、スイスにおいては国営放送局の存在が大きいことや、民族や言語で国民を統合することの困難なスイスにおいて国民投票制度が頻繁に、しかも生活に密着したテーマで行われていることにより国民統合の作用を果たしていると考えられることなど、現地に住む日本人ならではの観点から有益な指摘をちょうだいすることができ、これを話題に活発な意見交換が行われました。

 司法警察省のマーダー次長との懇談においては、スイスではテレビ、ラジオなどの放送メディアが新聞などの印刷メディアよりも厳しい規制に服している点が議論されました。

 マーダー次長は、その理由について、第一に、同国では歴史的に印刷メディアが国民の政治的意見の醸成の重要な担い手となってきたこと、第二に、印刷メディアの方が放送メディアに比べて格段に安い費用で大きな影響を与えることができること、第三に、印刷メディアは民間経営で多種多様であるのに対して放送メディアは最近まで国営放送局だけだったことを指摘されました。

 しかし、メディアの区別なく平等に取り扱われるべきものであるという意見もあり、放送メディアの規制を緩和する動きもあるようであります。

 なお、質疑応答の中で、次のような興味深いやりとりがありました。

 それは、郵便投票制度における不正防止措置に関する応答の中で、先方の不正防止措置の具体的な説明に対して、当方が本当にその程度の方法で不正が防止できるのかと再度質問しましたところ、マーダー次長は、確かに御指摘のとおり論理的には不正投票が発生する可能性はあるかもしれない、しかし、それでも我が国では大きな不正は存在しないと考えている、それは政府の不正防止措置がすぐれているからではなくスイスの政治的文化によるものだと述べられたことです。

 すべての制度の根底にはそれぞれの国の政治文化や社会的背景が横たわっていることを改めて認識すると同時に、そのような諸条件が異なっている場合には、それを踏まえた制度設計をする必要があることも改めて痛感した次第であります。

 フーバー・ホッツ内閣府長官との懇談では、物腰穏やかな長官が自信たっぷりに、スイスでは民主主義は我々が発見したものだという自負心がある、皆さんはこれまでの調査の中でスイスが民主主義をつくったのではなくスイスそのものが民主主義なのだということを理解されたことと思う、それは直接民主制がスイス国家の存立基盤であることの証左であり、また徴兵制のような制度もこの直接民主制に深く根差したものであると述べられたことが印象的でした。

 その後、ベルン大学のリンダー教授を訪問して、スイスの直接民主制の制度についてデータ分析の観点から説明を受けました。

 その質疑応答の中で、当方から、マスコミによる虚偽報道等から国民投票運動の公正さを保つための規制の必要性について伺いましたところ、リンダー教授は、何が真実で何が虚偽であるかを判断することの困難さを指摘した上で、結局は真実性の判定は有権者である国民一人一人の理性にゆだねるしかないのではないかと述べられました。言論の自由市場における討論こそ民主主義社会の基盤であるとの教授の主張に、改めて感銘を覚えた次第です。

 スイスにおける充実した調査を終えた後、私どもはスペインのマドリッドに入り、十一月十四日に政治憲法研究所のフンコ所長、スペイン国会下院のバレーロ第三書記、日本・スペイン財団の理事長であるガリーゲス法律事務所長らとの懇談を行いました。また、翌十五日にはスペイン国会下院憲法委員会のゲラ委員長と懇談をいたしました。

 以下、その概要について申し上げますと、まず、政治憲法研究所におけるフンコ所長らとの懇談において特に私どもの興味を引いたのは、国民投票運動における政府の中立性でした。スペインでは、政府の行う広報活動は中立的なものでなければならず、投票率を上げるための広報活動しか認められないこと、したがって、例えば与党の党首である首相が公の場所で賛成のキャンペーンをするのは、首相としてではなくあくまでも政党の党首として、かつ政党の資金で行わなければならないということでありました。

 なお、懇談の最後に、私が、これから国民投票法制を構築しようとする我々に対して何か有益な御助言がありますかと尋ねましたところ、全国民に特定の政策の是非を訴える国民投票においては、そこに至る前段階で異なる政党間の合意が不可欠である、この議会における合意形成のプロセスこそが最も大事であるとの答えが返ってきたことが強く印象に残っております。

 下院のバレーロ第三書記らとの懇談においては、レオノール王女誕生に伴う王位継承順位変更のための憲法改正が話題となりました。その中で、仮に王位継承権に関する国民投票が行われた場合に重要なことは、結果的に賛成が反対を上回ればよいということではなく、高い投票率のもとで、かつ賛成が反対を圧倒的に上回ることが必要である、そうでないと王制に対する信頼を揺るがせ、王制の権威の問題になってしまうと述べられた点は、洋の東西を超えて深い共感を覚えた次第であります。

 次に、職員千五百人を擁するヨーロッパ最大の法律事務所であるガリーゲス法律事務所を訪ね、ガリーゲス所長らと懇談をいたしました。

 日本・スペイン財団理事長でもあるガリーゲス氏とは旧知の仲でありましたので、そこでの話題は国民投票制度に限らず我が国の憲法論議の状況などにも及びましたが、その懇談の中で、民主主義の社会というのはすべての国民が一致している社会というものではなく、国民の中で意見の不一致がありながらもお互いが共存する社会であると理解しているとのガリーゲス所長の言葉には、大いにうなずかされたところであります。

 スペイン最後の訪問先となったゲラ委員長は、ゴンサレス社会労働党政権において長らく副首相を務めた政界の重鎮であり、現行の一九七八年憲法の起草者の一人でもあります。

 この懇談の中で、ゲラ委員長は、スペインでは二世紀もの間、政権をとった勢力がすぐに自分たちに都合のいいように憲法を改正してきた歴史に触れつつ、現行憲法が政権交代によっても容易に変更されない硬性憲法とすることができたのは、意見の異なる政党間の大いなる合意によるものであると指摘されました。

 その上で、政治家としての哲学として、各政党間でしっかりとした合意をしておく必要がある事項が三つある、それは第一に国家の基本法たる憲法、第二に国会議員の選出方法を決める選挙法、第三にテロリズムに対する闘いであるとの意見が開陳されたことには、その深い洞察力に感銘を受けた次第であります。

 最後の訪問国フランスにおいては、十一月十六日、国民議会のウィヨン法務委員長らと懇談するとともに、その懇談の場所においでいただいたカンタン仏日友好議員連盟会長から友好のごあいさつをちょうだいし、次いで、元憲法院総裁で現在アラブ世界研究所長をされているゲナ氏と懇談いたしました。また、翌十七日には憲法院のギエンシュミット委員と懇談をいたしました。

 以下、その概要について申し上げますと、まず、ウィヨン国民議会法務委員長らとの懇談では、フランスにおける国民投票運動規制は公的助成を受けてキャンペーンを行う政治団体に関するものであり、それ以外の団体、個人の活動は全く自由であること、またテレビ、ラジオにおいて各政治団体や政治団体に属さない個人の意見を公平に取り扱うことについてはオーディオビジュアル高等評議会という機関が監視をしていることなど、国民投票運動の規制のあり方を中心とした話題をめぐっての質疑応答が行われました。

 次にお会いしたアラブ世界研究所のゲナ所長は、五年前に欧州各国憲法調査議員団として憲法院を訪れました際には憲法院総裁としてのお立場で応接していただいた方ですが、八十三歳となった現在もお元気で御活躍の様子でありました。ゲナ所長からは、先ほども出ましたオーディオビジュアル高等評議会の活動も最終的には憲法院が監視していること、二、フランスにおいて投票権者が十八歳以上となったのは民事上の成人年齢の引き下げに伴うものであったことなどの説明を伺いました。

 最後に、憲法院のギエンシュミット委員との懇談では、国民投票に関する異議申し立ての審査の実態が話題となりました。というのは、議員団出発前の事前の文献調査で、国民投票の効力に関する異議の申し立てについての憲法院の審査は投票日の翌日から三日間で行わなければならないとの情報に接していたわけですが、ギエンシュミット委員に本当に三日間で審査できるのかと確認いたしましたところ、それは欧州憲法条約についての国民投票のときがたまたま三日間で終了しただけであって、異議申し立てが一件もなければその日のうちに結果が確定できるし、逆に膨大な異議申し立てが行われた場合には何カ月もかかることがあるとの回答が返ってきました。

 つまり、事前に読んでいた文献は単なる事実をあたかも法規範であるかのように紹介していたわけで、海外の制度を生半可に聞きかじることの危うさを調査の最後で思い知らされることになりました。

 以上のように極めて多忙な日程でございましたが、私ども議員団は無事にこれを消化し、十一月十九日、帰国いたしました。振り返りますと本当に駆け足で回ってきた今回の調査でありましたが、私は、この議員団に多くの会派から御参加をいただきましたことに改めて感謝の念を表したいと思います。

 そして、その政治的な立場、評価は別として、欧州各国における国民投票制度の実情について派遣議員の先生方の間に共通の認識が形成されたものと確信をいたします。この共通認識をここで委員各位とともに共有しながら、今後の調査がより建設的なものとなっていくことを切望するばかりであります。

 なお、以上の私の報告の足らざるところは、後ほど各派遣議員からの御発言で補充していただければと存じます。

 最後に、今回の調査に当たり、種々御協力をいただきました各位に心からお礼を申し上げたいと思います。特に、駐日欧州委員会代表部のベルンハルド・ツェプター大使閣下には、昨年に引き続き、訪問先のアレンジを含めて大変な御尽力をいただきました。改めて厚くお礼を申し上げたいと存じます。

 以上、このたびの海外調査の概要を御報告させていただきました。ありがとうございました。(拍手)

 引き続きまして、調査に参加された委員から海外派遣報告に関連しての発言をそれぞれ十分以内でお願いいたします。

 発言時間の経過につきましては、終了時間一分前にブザーを、また終了時にもブザーを鳴らしてお知らせいたします。

 それでは、まず、保岡興治君。

保岡委員 自由民主党の保岡興治でございます。

 今回は、国民投票制度に絞って欧州五カ国を極めて精力的かつ熱心に調査してまいりましたが、大変に貴重な経験をさせていただきました。まずは、中山団長を初め同僚議員、この御視察をお支えいただいた関係の皆様方に心から敬意と感謝を申し上げたいと存じます。

 この調査の概要につきましては、ただいま的確に要約された中山団長からの御報告のとおりでございますので、私からは、現在調査を進めている我が国の憲法改正国民投票法案の立案上、議論となっている論点との関係で、若干の感想を申し述べたいと存じます。

 今回の調査において、多くの懇談相手に対して私が質問をさせていただいたのは、国民投票の投票権者の年齢要件は何歳とされているのか、そしてそれは国政選挙の投票権者と同じかどうか、また民法上の成人年齢とも同じかどうかという点でした。これに対する先方の回答は、すべて、国政選挙と同じく十八歳以上とされていること、それは国政選挙と投票年齢と同じであり、また民法上の成人年齢とも基本的には同じであるというものでした。

 例えば、報告書百九十二ページで、スイス・ベルン大学のリンダー教授は、私の質問に対して、選挙権及び投票権が一律十八歳以上であるのは、十八歳という年齢が決定的重要性を持っているからである。なぜなら、スイスでは十八歳になると、民法上結婚が許され、成年者として扱われ契約を結ぶことができ、そして兵役の義務が課せられることとなる。また、納税の義務も発生する。このような義務に対応して権利が発生するものと考えられているのである。そして、議論の複雑化を避けることからも、選挙権、投票権を一律十八歳以上としているのであると述べています。

 このようなことにかんがみますと、我が国においても国民投票の投票権は国政選挙の選挙権等と同じにすることを前提とした上で、これを、現在の二十歳のままでよいのか、それとも公選法の投票年齢も合わせて十八歳に引き下げるべきかという議論をすることが適切なのではないかというふうに思う次第でございます。

 もう一つ、訪問前から大きな関心を抱いていたのは、マスコミ規制を初めとする国民投票運動に関する規制の有無とその内容についてでありました。

 事前の文献調査でもある程度予想はついておりましたが、各国とも国民投票運動は基本的に自由とされており、特段の規制はなされていないとのことでした。この点はマスコミについても基本的に同様でありました。

 ただ、各国とも選挙運動に関する規制自体がほとんどないようであり、選挙運動についてかなり厳格な規制がなされている我が国とは法制度的な状況が違っておりますが、むしろ今後、我が国でも公選法のあり方の抜本的な見直しが必要なのではないかと思った次第であります。

 ところで、最大の関心テーマであるマスコミ規制について、おもしろいと思ったのは、幾つかの国では新聞や雑誌の活字メディアとテレビやラジオなどの放送メディアを区別しておりました。

 例えば、スイスでは、新聞、雑誌については賛成、反対のいずれかの主張を社説に掲載した報道も認められているのに対して、テレビやラジオでは中立的報道を行うことが要請されているとのことでした。そのため、スイス国営放送のハルディマン編集長のお話でも、同放送局で毎週金曜日に放送しているアレーナという討論番組では、必ず賛成、反対の両派を出席させて議論をするようにしているとのことでした。

 このように扱いを異にしている理由は、放送メディアは一般的に扇情的な誇大広告となりがちで影響が大きいのに対して、活字メディアは、各メディアの思想的傾向がもともとはっきりしているし、大小取りまぜて多様なメディアが競合して存在していることによって全体としてのバランスがとられやすいことなどが挙げられておりました。

 また、フランスでも、テレビ、ラジオについては、民間放送、国営放送ともに公正な放送をするように努めることが求められており、国民投票運動期間中には、賛成、反対両派の発言時間をCSA、オーディオビジュアル高等評議会という機関がチェックをしているとのことでした。また、投票期日一定期間前からのテレビ、ラジオによる商業宣伝、賛成、反対の陣営のスポットCM、これは禁止されるなどの規制もあるようです。

 いずれにしても、このような各国の工夫を念頭に置きつつ、我が国でもマスコミの国民投票に関する報道は原則自由とし、その自主的な規制にゆだねる方向で検討すべきではないかと考えております。

 国民投票運動の規制に関してもう一つおもしろいと思ったのは、政府及び各政党の国民投票運動に関する規制及び助成のあり方でした。

 例えば、スペインでは、政府は国民投票において広報を通じて有権者の投票態度を誘導することが禁じられており、政府広報はあくまでも投票率を上げるための事務的なものに限定されているとのことでした。そして、政党が賛成、反対のキャンペーンを行う主体となるとのことであり、議会に議席のある政党に対しては、国営放送機関はその議席数に応じて国民投票運動のための無料の宣伝枠を提供しなければならないものとされているとのことでした。

 このような政府の中立性と、各政党主体の国民投票運動のシステムは、我が国でも大いに参考になるものと感じました。この意味では、昨年十月に発表された民主党の大綱素案の中で提案されています、国会に設置された国民投票委員会が賛否両方の意見を掲載した国民投票パンフレットを作成し、国民に対する周知、広報を行うというアイデアは、まさに真摯な検討に値する御提案ではないかと思っております。

 投票方法、投票用紙の様式について興味深く思ったのは、スペインでは賛成、反対のほかに白票という投票の仕方が認められているということでした。つまり、スペインでは、報告書二百七十八ページに記載されているような三種類の用紙のいずれか一枚を封筒に入れて投票するというのです。

 そこで私は、白票という投票を認める理由は何かという質問をしました。それに対する回答は、報告書二百二十八ページにあるのですが、政治憲法研究所のクロサ次長は投票率と関係があると。つまり、投票に行って白票を投じることにより投票率が上がるということは、白票を投じる者が投票に行かずに棄権する者と全く違い、ポジティブな一面を持つからであると述べられました。

 現在、与野党間では、投票の方法及び過半数の考え方の問題として、賛成がマル、反対がバツ、それ以外は無効票とした上で、有効投票総数の過半数がマルであるときに憲法改正は成立するとすべきか、それとも、積極的な賛成者のみをカウントするため、賛成がマルとのみ定めた上で、投票総数の過半数がマルであるときのみ憲法改正は成立とすべきかという議論がありますが、この白票に国民の意思をより明確に反映させるという趣旨と、スペインのように投票率を上げるという趣旨とを持たせることによって、両者の妥協を図るヒントにならないか、検討の余地があるように思った次第であります。

 以上、ポイントを絞って簡単に感想を述べてみましたが、最後に一言。

 中山団長の御報告にもありましたように、憲法改正国民投票を成功裏に導くためにとても大事なことは、まず国民に正確な情報をきちんと提供すること、すなわち憲法改正案の内容やその賛成、反対の趣旨を正確に国民に理解していただき、これに対して適切な判断をすることを可能にするシステムがぜひとも必要であること、その前提として議会内における各政党間のしっかりしたコンセンサスの形成が極めて重要であること、この二点が大事であると思います。

 現在、私どもが調査、立案中の憲法改正国民投票は、まさしくそのためのルールづくりの作業なのであります。したがって、憲法改正案本体の議論と同様に、与野党を超えた超党派による真摯な協議、合意に基づく各会派共同提案の議員立法として早急にこれを成立させることが必要であると考えております。

 委員各位の御協力をお願い申し上げまして、私の発言といたします。

中山委員長 次に、葉梨康弘君。

葉梨委員 自民党の葉梨康弘でございます。

 私も、十一月七日から十一月の十八日までこの議員団に参加させていただきました。中山団長以下の御指導、そして今も御報告がありましたけれども、本当に一生懸命やらせていただいた、その議員団に参加させていただいたことに大変感謝を申し上げます。

 私からは、大きく二つ申し上げたいと思います。一つは総論的なもの、それから次に、制度設計について幾つか参考になったという点でございます。

 その総論的なものは、直接民主制か間接民主制かということの問題でございます。スイスのように、スイスは民主主義であるということで、直接民主制を胸を張って言う国もございました。また、スロバキアのように、間接民主制の方が実態としてはすぐれていると言われるような国もこの五カ国の中にはございました。

 そして、その中で私どもが感じ取ったことは、国民投票という手段の怖さでございます。私どもがスロバキア、ドゥルゴネツ委員長のもとを訪れたとき、国民投票とは何か。先方の答えは、政治的なツール、道具であるということでございます。

 国民投票というものの怖さということを三点ほど申し上げたいと思います。

 一つは、ベルン大学のリンダー教授も指摘されていましたように、例えば、フランスのナポレオン三世が多用したような形での、独裁者がその信任投票として国民投票を利用するという怖さでございます。

 それから、オーストリアのコール議長がおっしゃられていたように、ある政治問題とリンクした場合、そのイシューそれ自体について冷静な判断が可能かという問題があります。オーストリアにおいては、原子力発電の停止を求める国民投票について、開発を主張いたします政権がこれに政治生命をかけると言った途端に、その政権の人気が余りなかったものですから、政権をおろしたいというような勢力が働きまして、原子力の開発が停止された、そういう経緯がございます。

 そして、三点目は、やはり国民投票というのはどうしても理性よりも感情が先に立ってしまうんじゃないかということです。この点については、スイスのホッツ長官のところを訪れたときに、いみじくも彼女が言われておりましたのは、スイスは国民投票の国である、しかしながら、そのスイスにおいても、議員の歳費を上げることを国民投票にかけることは、絶対、多分負けてしまうだろう、そのことだけは皆さんも頭の中に入れてください。あのスイスにおいてすら、必ずしも客観的な判断がどこまでできるかという問題もございます。

 そこで、このような問題を払拭するために、ベルン大学のリンダー教授に質問したところ、以下のような示唆がございました。

 まず一つは、国民投票については下からのイニシアチブが大事である。政府のイニシアチブがあるにしても、政府の恣意的な諮問は不可である。そして、平時でなくて騒乱時の諮問というのは、極めて判断が客観的でなくなるので不可であるということでございました。

 また、さらにはスペインのフンコ所長、さらにはゲラ委員長の示唆ですけれども、これは先ほど中山委員長からも御指摘のあったとおり、与野党のしっかりした協議が大切であるということです。

 問題は、日本の政治文化がどこまで成熟しているかという問題です。

 直接民主制のスイスというのは、これは実は政権交代がございません。閣僚の配分も、この何十年間、大連立の中で与野党が固定的に配分をしております。そして、間接民主制のスロバキアというのは、これは若い国であって、必ずしも民主主義が定着しているということは言えないかなというような感じがいたします。ただ、それ以外の国、いずれの国も、政権交代があっても、憲法の大枠、これは両方の党が大切にするということについては一定のコンセンサスがあったのかなと。

 ですから、日本の場合、国民投票ということを考えるとき、私個人的には、直接民主制あるいは住民投票、こういったものに対する誘惑というのはございます。しかしながら、まず憲法について、これは一つの政党のためのものではない、どのような政党が政権をとるにしても、どのような政権交代があったにしても、憲法というものは大切にしていくんだというような政治文化を確立する中で、憲法改正の国民投票ということを先行させていくべきではないかというような印象を持ちました。

 次に、制度設計について何点か申し上げます。

 保岡先生と論点がダブらないように申し上げたいと思いますが、一つは問いかけのあり方でございます。

 これはどこの国におきましても、国民投票が政治的に恣意的なものにならないようにするためには、その国民投票の結果が感情的なものにならないようにする、そして国民によく理解をしてもらうというような意味から、一義的にわかりやすい問いかけでなければならないということ、そして必要な情報が適切に国民に提供をされていなければならないということが国民投票の有効か無効かの要件になっていたという印象があります。これは、オーストリアのコリネック憲法裁判所長官、あるいはフランスのゲナ前憲法院総裁がおっしゃられていたことでございます。このような仕組みによって、政治的ツールとして利用されることを防止する仕組みを彼らは持っております。

 そこで、我が国として参考になるのは、この委員会でも一括か個別かというようなことが問題ともなりましたけれども、例えば、あらかじめ特別の審議会的なものを設けておいて、そこに、問いかけの仕方について、このような問いかけで大丈夫ですかということをあらかじめ諮問していくというようなことも一つの方法としては考えられるかなという感じを持ちました。

 有権者の年齢でございます。

 今もお話のあったとおりでございますが、私が印象に残りましたのは、フランスにおいての通訳の方に中山委員長が尋ねられて、日本では十八歳にしてはどうだという話を申し上げたところ、その通訳の方がおっしゃるには、私は個人的には日本の十八歳はちょっと幼児性が過ぎるので二十歳のままがいいんじゃないかという痛烈な皮肉を言われたのを覚えております。

 しかしながら、やはりこれからの社会を考えるときに、若者がもっともっと社会に参加する、そして国づくりに参加するということは、私は大切だというふうに考えております。

 ですから、今回、国民投票ということで、個人的には今のところ二十歳ぐらいでいたし方ない部分もあるかなというような感じもしておりますけれども、これからもっともっと議論を深める中で、十八歳以上の方々が、その幼児性を払拭して、権利を伴う義務、そして社会について考える、そういうような議論をどんどん広めていくことが必要ではないかというようなことを考えました。

 次に、メディア規制でございます。

 このメディア規制ということについては、多くの国において論評のメディア規制それから情報提供についての規制と二種類に分かれているという印象を持ちました。論評については、ほとんどの国が、これは放送と紙のメディアとの違いはありますけれども、相当自由である。しかしながら、情報提供のあり方についてはいろいろと考えているなと。

 例えば、スイスでありますと、政府が一つ資料という形でも各戸別に郵送をする。さらには、スペインの場合は、議席の数に応じてそのキャンペーン、つまりテレビなんかのキャンペーンの割り当てを行う。これは、アメリカがキャンペーンについても自由であるために、そこら辺のところはある程度自制をしていかなければアメリカ型の民主主義になってしまうというようなことをスペインのガリーゲス所長なども言われておりました。

 最後、四点目でございますが、有効無効の判定でございます。

 有効無効の判定については、フランスは、三日というのはちょっと間尺に合わないということだったんですけれども、憲法院において選挙の後にこの投票が有効であったか無効であったかということを判定いたします。そして、オーストリアの憲法裁判所においても、違法な行為が認定された時点でその選挙自体を無効、投票自体を無効ということに確定するわけですけれども、いずれも、これは刑の確定ではなくて、選挙に影響を及ぼすかどうか、そういうような重大な事案があったときに無効と判定する。したがいまして、非常にその判定の期間が短いということがございます。これは明らかに我が国の司法文化と異なってまいります。

 すなわち、我が国の司法文化において、選挙の無効を判定するには、一つの方法としては、個人の刑の確定があってから当選無効の訴訟が行われる。そしてもう一つは一票の重み。候補者の一票の重みは、国民投票の場合、問題となりません。そうなりますと、個人の刑の確定そして当選無効というような司法文化と、国民投票の有効無効を判定する場合の司法文化とは、やはり多少異なってくるんじゃないか。

 したがいまして、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、問いかけの仕方に判定を行うような第三者的な委員会あるいは審議会、そういったものをもしも一つの方法として考えていくのであれば、そのような機関にまずこの国民投票が有効か無効か、一定の期間内に判断をさせる。そのような形で多少我が国の現在の司法文化との調整を図っていかないと、なかなかこれは制度として動かすことは大変困難が伴ってくるんじゃないかという印象を持ちました。

 最後の結論でございますけれども、いずれにしても、このような直接民主制、間接民主制というような分け方の問題、さらには技術的な問題、このいずれにおきましても、国民投票制度というのをあらかじめ一つの制度としてしっかり検討をして、先につくっておくことが我々にとって必要ではないかという印象をこの派遣団の視察の中から受けた次第でございます。

 以上でございます。

    〔委員長退席、保岡委員長代理着席〕

保岡委員長代理 次に、枝野幸男君。

枝野委員 民主党・無所属クラブの枝野でございます。

 まず冒頭、中山団長を初めとして、ともに参加された団員の皆さん、そしてサポートしていただいた皆さんに、大変充実した調査ができましたことの御礼を申し上げます。

 まず、総括的に全体としての主な印象について申し上げたいと思います。

 三点ほど、日本で従来考えていたことが裏づけられたかなと。そして、二点ほど、いろいろ調査をさせていただいて、新たな問題点といいますか、検討をしなきゃならないことについて感じてまいりました。

 最初の三つは、国民投票運動、あるいはメディアの行動について、基本的には規制を加えるべきではないという考え方、これは各国とも共通をしていたと思っております。それから二つ目に、各国とも成人年齢が十八歳、そして国民投票等の投票権年齢も十八歳、これが、国内での文献等でも把握ができておりましたが、世界の常識であるということ。三つ目には、賛否を問うためにその内容を国民にわかりやすく周知する必要がある、このことが重要であるということ。この三点は日本で考えていたことが今回の調査で裏づけられたと思っております。

 二点。一つにはテレビのコマーシャル、あるいはテレビ報道の中立性。ここについては、基本的にはメディアに対しては規制を加えるべきではないと思いますけれども、各国ともテレビという観点についてはさまざまな努力と工夫をされておられます。この点については、一定の検討、考慮が必要ではないかというふうに感じてまいりました。そして二つ目には、国民投票を公権力が濫用する危険性というもの、これもまた各国で指摘を受けてまいりました。この点についての考慮、検討がさらに必要であるということを感じてまいりました。

 以下、各国で感じたこと、先ほど来のお三方の報告とできるだけ重ならないように、ポイントを絞ってお話をしたいというふうに思っています。

 オーストリアで、投票権年齢について私は大変おもしろいお話を把握してまいりました。

 投票権者の年齢は十八歳となっていますが、誕生日を基準としているのではなくて、その年に十八歳になる人すべてに投票権が与えられる。つまり、例えば、ことし二〇〇六年に投票が行われるとすれば、二〇〇六年のいつ投票が行われたとしても、ことしの一月一日から十二月三十一日までのどこかの誕生日で十八歳になる人には投票権が与えられる、こういう仕組みになっていると伺ってまいりました。

 私は、前にもこの場で申し上げたかと思いますけれども、個人的には、こうした考え方は我が国の投票権年齢を考える上で考慮に値するのではないだろうか。日本の場合は、一月一日で切るのではなくて、むしろ、いわゆる学齢に応じて四月一日、正確には二日になるんでしょうかのところで線を引いて、そこで、いわゆる普通にいくと高校を卒業する年齢のところで線を引く。

 同じ高校三年生の中に投票権を持つ者と持たない者が出るというのは一種、もちろん法律的にとことん詰めれば不公平ではないと言えるかもしれませんけれども、社会通念上少し理解しがたいところがあるのではないか。こうしたことでこのオーストリアの例というのは参考になるのではないかと思っております。

 スロバキアでは、この国の特徴として、国民投票の有効要件として投票率が五割以上という要件を、今回訪ねた国の中では唯一持っておりました。もっともこのスロバキアにおいても選挙も含めて投票率の低下の傾向があり、今後は引き下げの議論が生じるかもしれないとはおっしゃっておりましたが、ただ、決して投票率五割以上というのは厳しい要件だとは認識をしていないようでありました。

 低い投票率でもよいようなテーマであるならば、そもそも国民投票などにかけずに政治家だけで決めればよいという話を伺いまして、それはそれでもっともだなと思いましたけれども、このあたりのところは、法的に我が国の制度をどう組むかということは別としても、投票率が低くてもいいような状況をつくらない、投票をやはり五割以上確保するというのは、少なくとも政治的には責任があるのではないかと思って戻ってまいりました。

 それから、先ほど委員長の御報告にもございましたけれども、この国の国民投票は、基本的人権等について国民投票に付してはいけないということになっております。委員長の御発言にもございましたけれども、基本的人権に関わる問題はいわゆる普遍的な価値にかかわるものであって国民投票をもってしても変更することはできないという近代立憲主義の基本をしっかりと認識、把握をしておりました。

 この国は旧ソ連圏にありまして、我々の考える民主主義の歴史は短いはずでありますけれども、この少数者の基本的人権、民主主義というのは多数決をもってしても少数者の人権を侵害することはできないんだという近代立憲主義、近代民主主義の基本については、我が国でも誤解をされている方が少なからずいらっしゃるように私は認識をしております。我々よりも民主主義の歴史は少ないと我々が一般的には思っているスロバキアがしっかりとこうした認識を持って政治を動かしているということに、一種の感銘と恥ずかしさを感じて帰ってまいりました。

 スイスについて申し上げます。

 スイスについては、先ほど来いろいろなお話が出てきておりますが、私がおもしろいなと思いましたのは、メディアの皆さんがその影響力の大きさについて自負を持っている一方で、主な新聞メディアが一致して、ここは社説で賛否を示しますから、社説等で賛成の意思を示しながら、しかし国民投票の結果はノー、否決をされる、そういう結果が出たこともあるということを御説明いただきました。

 それから、スイスの国民投票では約三分の二が事前に郵便で投票をする、この郵便投票の多用ということ。それは先ほど委員長の御報告にもありましたけれども、文化的な背景の違いということはあるかもしれませんけれども、我々は何とかこうして簡易に投票できるということを取り入れなければいけないのではないかとも感じました。

 と同時に、投票日が近くなってからメディアが我が新聞は賛成だとか反対だとか言っても、実は既にその時点では多くの人が郵便で投票を済ませているというようなお話がありまして、メディアの影響力について、ある意味では御本人たちも試行錯誤といいますか、迷いながら行動しているのかなというふうに受けとめてまいりました。

 なお、これは先ほど来御指摘もいただいておりますが、賛否の中立公正といった場合にどういうふうに、例えば時間の配分とかあるいは広報紙面などの紙面の配分などをどう考えるのか。

 スイスにおけるヒアリングの中では、憲法で求められている中立性ということで、例えば九割が賛成、一割が反対だとしても、報道する時間は賛成と反対が五対五になるようにしなければならない。オール・オア・ナッシングで国民投票の場合は聞くわけでありますから、これがオーソドックスな物の考え方かなというふうに受けとめております。

 スイスのリンダー教授からのお話は、皆さんいろいろな側面から興味深く御報告がございますが、私が興味深く思いましたのは、先ほどのスロバキアの話の一種裏返しでございますが、投票率の話であります。低い投票率で国民の意思が反映されたと言えるのかということについて、スイスでも四五%程度までいっとき投票率が下がり、若干回復傾向にはあるとしつつも、いろいろな議論があると御紹介をいただきましたが、では、かつての東側独裁国家における九九%の投票率が理想的なものであるのかという指摘を受けました。

 まさに、これが決して理想的なものではないというのは、ある意味でこの場にいらっしゃる皆さんの共通認識かというふうに思っておりますが、投票率をどう考えるのかということについての示唆をいただいたというふうに思っております。

 最後の訪問国スペインにおきましては、先ほど来、これまで出ておりますが、下院の憲法委員長ゲラ氏からの発言は大変示唆に富んで、私からも、繰り返しになりますが、ここは重要な点ということで指摘をさせていただきたいと思います。

 スペインは私どもの国以上の硬性憲法でございます。議会での議決も、間に選挙を挟んで二回しなければならないというふうになって、日本以上の硬性憲法であります。そして、その背景には、フランコ独裁以前のスペインが政権交代のたびに憲法がころころ変わるということを繰り返してきた、そのことの反省を踏まえている。

 私どもの国の憲法が硬性憲法であることについてはいろいろな御指摘がありますけれども、先ほど葉梨先生からも御指摘がありましたとおり、憲法が政党間で政策を競い合う共通の土俵という側面を考えれば、決して硬性憲法ということがおかしなことではないということを、改めてゲラ氏の発言で私は確信を持って帰ってまいりました。

 済みません、最後に一点だけ、フランスのことを触れさせてください。

 フランスではベルサイユを訪ねました。ベルサイユに行ったと言うと観光に行ったんじゃないかと誤解を受けるかもしれませんが、ベルサイユ宮殿の中には両院合同会議、コングレと呼ばれているそうですが、その議場があります。この議場は十八世紀につくられたものがそのまま使われておりますが、第四共和制までは両院議員による大統領選挙に使われておりました。現在の第五共和制下では、憲法改正のための両院合同会議に限って、わざわざパリからやってきてこの議場を使っているということであります。

 フランスの憲法改正の場合、既に各院で過半数の賛成が得られていて、その投票結果が出ておりますから、両院合同会議で五分の三が必要ですけれども、それをクリアできるのかどうかということはある意味政治的にはわかっている話でありますから、わざわざパリから出かけていってというのはちょっと形式的ではないかというふうに受けとめました。

 しかし、同時に、このベルサイユの合同会議場の議会博物館でフランス革命以来の民主主義と議会の歴史についての説明を聞きながらこの議場に身を置いてみますと、少しぐらい形式的過ぎると思っても丁寧かつ厳格な手続を踏むこと、そのこと自体が民主主義の本質である、民主主義の必要不可欠な要素であるということを体感させられました。私どもの今後の議論に、こうした謙虚な姿勢といいますか、民主主義に対する姿勢というものが求められているということを感じて帰ってまいりました。

 ありがとうございました。

    〔保岡委員長代理退席、委員長着席〕

中山委員長 次に、古川元久君。

古川(元)委員 民主党の古川元久でございます。

 まず最初に、今回の調査団に私も加えていただきましていろいろと勉強させていただきましたこと、中山団長を初め、同行させていただいた皆様方、そして御協力いただいた皆様方に心から感謝を申し上げたいと思います。

 私からは、三点ほど調査団に参加をさせていただいた感想を述べさせていただきたいと思います。

 まず最初に、今回は憲法改正のための国民投票法制をつくるための調査を目的とした出張でありましたが、訪問した各国において、国民投票制度というものが間接民主主義を補完する制度として、憲法改正に限らず重要な問題については国民投票を行うことができるようになっているという形で、国民投票制度というものが制度的に確立しているということを改めて確認させていただきました。この点が、そもそも国民投票という制度自体が存在していない日本と大きく異なっているなということを感じました。

 この委員会の議論の中でも、憲法改正の国民投票法制をめぐりましては、私どものように憲法改正にとどまらず別の課題でも国民投票ができるような一般的な国民投票制度を創設して、その一類型として憲法改正のための国民投票を規定しようという考え方と、それではなくて、憲法改正のみの国民投票制度をつくろうという考え方の議論がなされているというふうに承知をしておりますけれども、今回訪問した国においては国民投票という制度がまずあって、その中のどういう項目を国民投票にかけるか、また、国民投票の結果について諮問的なものとするのか、あるいは法的な拘束力を持つのか、その効力についてはそれぞれ違いはありますけれども、その中で憲法改正というものも位置づけていくという仕組みになっていたということが、これからのこの委員会の議論の中で、まず大きな出発点としてテークノートしていかなければいけないことではないのかなというふうに私は思っております。

 次に、だからといいまして、国民投票制度が間接民主主義を補完する制度として確立しているからといって、今回感じましたのは、国民投票制度を濫用してはならないということを今回改めて認識いたしました。

 どこの国も国民投票に付すためには、付すかどうかを決めるに際しては議会がコミットしていくことの重要性というものが説かれたわけであります。国民投票には、場合によっては国民の意思を、国民投票に付した事柄についての国民の賛否を問うというよりも、時の権力者が自分の統治を正当化するためのいわば人気投票、信任投票のような形で国民投票という制度が使われることがある。それは、フランスなどでは通常の国民投票、レファレンダムと区別して、そうした人気投票、信任投票をプレビシットと呼んでいるようでありますけれども、そういうような形で国民投票制度が使われる危険というのもある。その意味では、時の権力者の恣意を許さないためにも、議会が国民投票に付す事項について、どういう事項について付すのか、どういう場合に付すのかということについてはきちんと関与していくことが重要であるということが改めて再確認をされたのではないかと思っております。

 三番目に私が感じましたのは、どの国におきましても、国民投票を行うに当たりましての投票活動については極めて自由であって、制約、規制は必要最小限にとどまっているということであります。

 これは、私は今回の調査団の中で改めて感じたのでありますけれども、単に国民投票だけではなくて、一般的にもう少し、普通の選挙、議員を選ぶ選挙などにおける選挙活動もかなり自由に広範に行えるようになっているのではないか。我が国の公職選挙法は極めて厳しい規制で、選挙期間中というのは、逆に言いますと、事実上選挙活動というものができないような、逆説的でありますけれども、それくらい厳しい規制があるわけでありますけれども、今回訪問した国では、いずれの国においても、そもそも普通の公職の選挙においても、その選挙活動の受ける制約というものは必要最小限で、かなり自由な活動ができる。その延長線の中で国民投票も位置づけられているために、国民投票においても非常に自由な活動が認められていて、規制は必要最小限にとどまっているという感を持ちました。

 そういう意味では、国民投票制度を我が国において議論するに当たりましては、先ほど来からお話が出ております成人年齢の話、これは民法上の問題になってまいりますし、また、投票行動、選挙活動のあり方を議論するに当たっては、我々が今選挙のときに依拠している公職選挙法のあり方そのものも含めた議論といいますか、見直しというものが行われる必要があるのではないか。そういう意味で、国民投票法制の議論というのは、単に国民投票というものにとどまるだけでなく、我が国のほかの法制、民法やあるいは公職選挙法、そういうものにまで及んでいく議論になるのではないか、そのような感を持ちました。

 最後に、今回訪問した国の中で、EU憲法の批准をめぐりまして国民投票が行われた国としてフランス、スペインがあったわけでありますけれども、スペインの方ではこの批准が賛成され、そしてフランスの方では否決をされたということがあるわけでありますが、今回お話を聞いてみますと、どうも国民が、このEU憲法を批准するかしないかという中で、EU憲法の中身について十分理解をして、その上で賛否を表明したというよりも、EUに加盟することによって経済状況がよくなったとか、あるいは今の経済状況が悪いとか、いろいろほかの、EU憲法そのものではない、今のフランスやスペインの国内の状況、経済状況や政治状況、そういうものがこのEU憲法の批准のための国民投票の結果を大きく左右したのではないか、そのような話も聞きました。その意味では、国民投票にかける場合にいかにその内容を国民が正しく十分に理解しているような環境をつくっていくか、そのことが国民投票法制を考えるに当たっても極めて重大な大きな問題になるというふうに思っております。

 フランスで今回のEU憲法の批准が否決をされたということについて、もう一度批准していいかどうかということを、再び同じことを国民投票にかけることができるのかという話を聞きましたら、考えて、普通一度否決されたものを、また同じようなことをかけることはないんじゃないかという回答がありました。そういう意味では、国民投票に付すということは、それがもし否決をされたという場合には、それは同じようなことをかけることは当面あり得ないということを意味することになるかと思いますので、その意味でも国民投票に付すという場合には十分にその内容について国民への周知徹底が行われるような、そのための手法について相当の工夫というものをしていく必要があるんじゃないか、そのことを感じたということを最後に申し上げて、私の発表を終わらせていただきたいと思います。

 どうもありがとうございました。

中山委員長 次に、高木陽介君。

高木(陽)委員 公明党の高木陽介でございます。

 冒頭、今回の憲法調査特別委員会の国民投票制度の欧州調査団に参加し、また、充実した調査ができましたこと、中山委員長を初め各委員、また関係者の方々に心より感謝を申し上げたいと思います。

 先ほどからの、中山委員長初め同僚議員からの報告と重複する部分もあると思いますけれども、お許しをいただきたいと思います。

 私の場合、中盤からの参加で、スイス、スペイン、フランスの三カ国での調査に加わりました。これまで当委員会でも論点となってまいりました投票の期日、投票権者、投票の方式、投票運動の規制、運動期間など、多岐にわたった調査をしてまいりましたが、私は、特に当委員会でも議論の焦点となりましたメディア規制と運動の方法、投票年齢などに注目をしてまいりました。

 細かい概要については調査団の報告書をごらんいただきたいと思いますけれども、各国の関係者の話を総合いたしますと、まずメディアの規制につきまして、各国ともメディアの規制につきましては極力最小限にとどめている、こういう状況でございました。特に、新聞、雑誌の活字媒体については基本的に規制はない、それぞれの社説などで自由に主張しており、一方、テレビやラジオといった放送媒体はある程度の規制がなされておりました。

 スイスにおいて意見を伺った司法警察省のマーダー法務局次長は、活字と放送の規制の違いについて次のような理由を述べておられました。

 まず第一は、歴史的背景や伝統である。スイス連邦の成立以来、活字メディアは国民の政治的意見の醸成の担い手となってきた。成立当初の活字メディアというものは、政党や利益団体の機関紙的役割のみ担っていたからである。

 第二に、放送、活字両メディアに対する費用の拠出の問題である。なぜなら、投票に関係する団体が宣伝活動のために費用を拠出する際、放送メディアよりも活字メディアに対する費用の方が格段に安く、大きな影響を与えることができるからである。

 第三に、活字メディアは、連邦成立以来、多種多様であり、ほとんどが民間経営である一方、放送メディアは最近まで国営放送だけだったからである。

 このような三点を述べておられました。

 特にスイスにおいては、長い間テレビもラジオも国営放送しかなかったという点は複数の人が強調しておりました。ただ、放送メディアにおいても、これは先ほど保岡先生もおっしゃっておられましたけれども、毎週一回、スイスの国営放送でアレーナという番組において政治的議論の場が提供されている、こういうことでございました。例えば国民投票のテーマについて、賛成と反対の立場の人々に集まってもらい議論をしてもらう。賛成、反対のそれぞれの立場の人々、これは同数出席してもらって議論を行うように配慮しているということでありました。その一方で、電波媒体については政治的なコマーシャル、いわゆるCMが完全に禁止されており、今後の我が国の国民投票法案の議論にも大いに参考になると思われます。

 スペインにおいては、マスコミに関して、公的なマスメディアについては無料の宣伝枠を設けており、議会の議席を有する政党に対して公平にスペースを配分しなければならないとしておりました。さらにつけ加えれば、国民投票運動について、政党に対して、公的なメディアのスペースを無料で提供を受けて、それ以外の国民投票運動はポスターの貼付やビラの配布を含めてあらゆる団体がしてよいこととなっておりました。

 また、国民投票運動に対する財政的な助成につきまして、議会における政党の議席数に応じて配分することとなっている、こういう意見がありました。特にテレビの場合は、午前と午後、夜の三つの区分で議会の議席数に応じて時間配分をする。具体的な総合的な時間は時と場合によって異なるということでございましたけれども、やり方は、それぞれ自作のビデオを持ち込んで、一回につき二、三分のスポットを割り当てて放送するやり方だそうであります。

 私的なマスメディアでは、テレビ、ラジオがディベートの時間を設けて、政党以外のあらゆるグループの代表を招いて、均等な時間数を割り当てているという。また、私的なマスメディアでは、一定の規制のもとで新聞、ラジオの広報スペースを買うことはできるけれども、テレビの広報スペースは買うことはできないとされている。つまり、テレビでのCMはだめということでございました。

 フランスにおいては、テレビ、ラジオを通じた運動をすることができるのは、許可を受けた政党だけということも興味深いものでございました。放送媒体については、民間放送であろうと国営放送であろうと、公平な放送をするように努めることになっており、それを独立した機関であるオーディオビジュアル高等評議会、CSAが監視するとしております。

 一方、新聞を初め出版物には規制はなく、それぞれの新聞が自社の意見を表明することは全くの自由である。新聞は社説でも記事でも全く自由に書いてよいけれども、一つだけ禁止されていること、それは国民投票の前日及び当日に世論調査の結果を発表することでありました。

 調査を通じて改めて感じたことは、メディア規制については、テレビ以外は原則自由が潮流だと感じました。では、テレビなどの放送メディアの規制はどこまで行うか、これは今後議論の余地はあると思います。

 次に選挙権の年齢でございますけれども、五カ国とも十八歳以上ということでありましたが、ただ、各国とも国民投票だけではなく国政選挙全般で十八歳以上と規定されている上、成人年齢が十八歳以上ということでありました。我が国の国民投票法案の選挙権の年齢についても、成人年齢もしくは一般の国政選挙での年齢と同じくすることがふさわしいのではと感じました。

 さらに一言つけ加えるなら、我が党はマニフェストにおきまして、一般の選挙権の年齢を十八歳にするべきであると主張しており、公選法との兼ね合いの中で議論を深めていくべきであると考えております。

 また、印象に残ったものといたしまして、スペインにおける現行の一九七八年の憲法制定の際、政党間の大きな合意でつくり上げられたという話を伺いました。

 スペイン下院のゲラ憲法委員長の話でありますが、彼は当時野党の交渉担当者として与党と毎日毎晩、何カ月にもわたって交渉を続けて、最終的には議会において三百五十対六の圧倒的多数で可決することができた、次の憲法改正においても同じくらいの合意に向けた各政党間の努力が必要であろうと述べておられました。

 また、スペイン・日本財団理事長でもあるガリーゲス法律事務所所長との会談の際は、コンセンサスに向けた努力の方法を尋ねたところ、彼は、まず政党間の直接の協議によってコンセンサスをつくり上げていく、また、市民社会が非常に重要な役割を果たしているということも重要な事実である、私はこれまで幾つかの組織、財団等の責任者を務めてきたが、そうした団体において何回も憲法改正についてディベートを開催してきた、そこには政治家だけではなく大学生や有識者も参加している、そういう地道な努力が必要なのではないかと述べておられました。

 やはり、国の基本法である憲法を改正する場合は、粘り強い議論の末に大いなる合意というものが必要であると実感をしてまいりました。

 今後、国民投票法案の議論を進めていく上で、各党各会派が、これは立場は違うと思いますけれども、まずイエス、ノーということで決めるのではなく、互いの違いを認め合いながらも建設的に議論を進めていく、これが最も重要であるということを感じ、またそのことを期待いたしまして、報告とさせていただきます。

 ありがとうございました。

中山委員長 笠井亮君。

笠井委員 日本共産党の笠井亮です。

 委員長初め調査団、同行の皆さんには大変お世話になりました。ありがとうございました。

 今回のこの調査に参加しまして、各国の制度、考え方、問題点をつぶさに聞くことができました。感想を三点述べたいと思います。

 第一は、各国の憲法とともに、国民投票に対する考え方、またその制度のあり方や運用の実際も、それぞれの国の歴史や文化、政治的経験を踏まえてさまざまであるということ、各国がそれぞれ歴史の苦い教訓を忘れておらず、国民投票制度を慎重に扱っているということでありました。

 オーストリアでは、私自身も、コール国民議会議長が、同国の国民投票をめぐっては一九三八年のナチス・ドイツによるオーストリア併合に当たっての不正な国民投票という体験があることを述べられたのが印象に残っております。ヒトラーのデマ宣伝と強引な手法の結果、九九%の賛成で併合が決まった、この痛苦の経験を受けとめました。

 スペインでは、第二次大戦に先立つ一九三六年から三九年までの内戦の中で、不幸にも国が二分された。先ほど来ゲラ委員長の話が紹介されておりますけれども、とりわけフランコ政権時代の経験も踏まえて、私は、クロサ政治憲法研究所次長が国民投票の実施に当たっては国民の合意と異なる政党間の合意があるかどうかを非常に大切にしていると繰り返し強調されていたことが印象に残りました。

 フランスでは、ナポレオンがみずからとその統治を正当化するための人気投票、信任投票として国民投票を利用してきた。ウィヨン法務委員長は、国民投票がこのような利用の仕方をされたために、フランスにおいてはその後国民投票というものの信頼性が大きく失われてしまうこととなったと述べていました。戦後も、ドゴールがみずからの政治基盤を強化するために人気投票的な国民投票を乱発してきたということを直接聞くことができました。

 訪問した国はそれぞれの経験を踏まえて、国民投票についてはさまざまな教訓を引き出しながら模索や試行錯誤を重ねているということをつかむことができました。そういう意味では、あちらの制度、どの国でどういう制度や経験がある、あるいはその部分だけを切り取ってきて、単純に日本に持ってきてまねをするようなことは厳に戒めなければいけないということだと思っております。

 第二に確認できましたのは、訪問した国々では、憲法の基本原則を変更するような改正は行っていない。各国は国の基本的価値を非常に大事にしていて、人権、自由、民主主義など基本的な価値を変えてしまうような憲法改正はそもそも想定していないということでありました。日本国憲法でいえば、最大の基本的価値の一つである九条や前文の平和主義をひっくり返すような改正はあり得ないということを強く感じました。

 スロバキアでは大統領の直接選挙制やEU加盟に関する憲法改正、オーストリアでは政策課題の国民投票のみで憲法改正は行われていない。スペインは一九七八年の現憲法制定後は一度も憲法改正は行われていない。フランスは大統領の任期を七年から五年に短縮するなどであります。スイスは、日本では法律に該当するものも憲法に規定されていることから、毎年のように憲法改正がなされておりますが、改憲の項目はまさに法律事項に該当するようなものばかりで、基本原則、基本的価値を変更するような改正は行っていないということもありました。

 翻って、日本で行われている改憲論議は、前文から平和のうちに生存する権利、いわゆる平和的生存権を取り去り、恒久平和の原則を定めた九条を変えて、自衛軍を保持し、海外で武力行使を可能にする改憲案を自由民主党が党大会で決定するなど、まさに日本国憲法の最も重要な基本原則、哲学そのもの、国の基本的価値を変えようとするものだと思います。ある憲法学者は、憲法九十六条は現憲法を否定するような憲法の変更を改正として予定はしていないと指摘しておりますが、私は向こうに行ってみて改めてこうした批判は当然であるというふうに受けとめました。

 訪問した国々が自国の憲法の基本原則を大切にしていること、また、今日、憲法九条が国際的にも大きな注目を集めるという時代状況の中で、日本でなされている改憲論議は、随分世界の流れ、常識から見ても外れているといいますか、逆らっているなという印象を持ちました、確信を持ちました。そして、九条改憲のための国民投票法案は必要ないということを改めて確認した次第であります。

 第三に申し上げたいのは、日本で行われている国民投票運動やメディア報道に対する規制の論議が、訪問国からはある意味奇異な印象といいますか、違和感を持って受けとめられているのではないかということでありました。

 さきの特別国会では公選法程度の規制は必要との御意見もあり、また、これまでに公表されている憲法調査推進議員連盟や与党の国民投票法案を拝見しましても、公選法の枠組みを基本としております。しかし、日本の公職選挙法は選挙運動についてさまざまな制約があり、がんじがらめで自由な活動ができないものとなっている。訪問した国々では、どの国で質問しても、メディアや運動規制ということについては基本的にあり得ないという答えが返ってきました。戸別訪問を初めとして、選挙運動、政治活動などは基本的に自由であり、国民投票における投票運動なども自由に行われている。それらの活動と国民投票運動との関係でも規制などは問題とならないということで、日本とはその基本的な哲学を異にしているようでありました。

 例えばオーストリアのフォーグル内務省第三総局長は、我が国においてはそもそも選挙運動に対する規制がない、唯一あるとすれば、刑法でナチズムに関する広告を選挙期間中にすることが禁止されていることぐらいだと述べておりました。訪問した国々の方々は、こうしたことを、この規制ということについてですね、問題にしていることに戸惑いを見せる場面も少なくなかったというのが私の印象であります。

 なお、先ほどからもありますが、どこでもテレビやラジオについては、片方の一方的なキャンペーンの場にならないように公正中立を貫くということが重視されていて、フランスなどでは賛成派と反対派の発言時間が対等になるように、そういう仕組みが保障されているということで、そういう仕組みがあるということも聞いてきました。ただ、この点は放送法上の問題だなというふうに私は受けとめております。

 さきの特別国会では国民投票制度を整備することが国民主権の具体化などという主張もなされておりましたけれども、公職選挙法を初めとして、既にある法律が国民の主権行使を制限するものになっていないかどうか、このことの点検と改善こそ必要だと私は考えております。しかも、この間、日本の立川市や葛飾区でのビラ配布事件のように、国民の表現の自由、政治活動の自由を抑圧する事件が相次ぐなど、一層国民が主権を行使しにくい社会、物を言えない社会にされようとしております。こうした日本の人権状況をこそ変えるべきときだと、海外調査に参加しながら改めて感じた次第であります。

 以上であります。ありがとうございました。

中山委員長 次に、辻元清美君。

辻元委員 社会民主党・市民連合の辻元清美です。

 昨年十一月の欧州調査団の報告を行います。

 まず冒頭に、調査団派遣のために御尽力をいただきました皆様に心から感謝を申し上げたいと思います。スタッフの皆様、そして各国で迎え入れてくださった皆様も、本当に微に入り細に入りいろんな手配をしていただきましたこと、本当にありがとうございました。

 さて、今回は、オーストリア、スロバキア、スイス、スペイン、フランスの五カ国を訪ねました。各国では、投票年齢、投票方式、メディアや運動への規制、投票率の規定、有効投票の計算の仕方、そして在外投票のあり方など、個別課題についての調査も行いました。これらは有意義な調査になりましたが、私は、一般的に国民投票はどのような場合に行うのか、そして、憲法という国の基本法に関する国民投票はどのように実施されているのか、さらに、国民投票という直接民主主義の意義と問題点はどこにあるのかなどの根本的な課題について特に関心がありました。

 国民投票の取り扱いについて、訪問した五カ国の中でスイスとそれ以外の国々では大きな違いがあるように思いました。

 スイスではさまざまな課題について年四回定期的に国民投票を行い、多いときは一回で九つのテーマについての投票が行われるときもあると聞きました。私たちが訪問しましたときも、ちょうど遺伝子組み換え作物に関するテーマなどの国民投票のキャンペーンの最中でした。スイスでは憲法にも税率など細かい点まで書き込んでおりますので、税率などが変わるたびに憲法を変えているというような実情がありました。

 これに対し、ほかの四カ国では、一般的な政策課題についての国民投票はそれほど頻繁には行われていませんでした。

 オーストリアでは、戦後の国民投票は二回だけでした。原子力発電所の運転開始の是非、これは否決。そして、EU加盟の是非、これは承認。この二回だけでした。スロバキアでは、EU加盟とか民営化に伴う収支報告書の公開など五回実施されておりました。EU加盟は承認でしたが、それ以外は二件が否決、残り二件は投票が有権者の過半数を超えなかったために無効になっておりました。スペインでは、一九七八年に制定された現憲法下ではNATOへの残留とEU憲法の承認の二回のみでした。フランスでは、一九五八年に制定された現憲法下で六回。二年前に行われたEU憲法条約批准が有名ですけれども、これが否決されたということが非常に大きな衝撃であったというような印象を受けました。

 次に、憲法改正のための国民投票についてです。

 現行憲法が制定されてから、オーストリア、スロバキア、スペインでは一回も行われていません。フランスでは三回行われ、二回が可決、一回は否決されております。

 さまざまな立場の方々からお話を聞き、国民投票によって重要な政治課題に直接意思表明できることは主権者にとって意義があるというように認められる反面、国民投票に関しては、さまざまな立場の、きょうも委員の方が報告されているとおり、苦い経験もあり、その実施に当たっては慎重な判断がなされているという強い印象を持ちました。

 例えばオーストリアでは、先ほどからも御指摘があるとおり、国民投票によって一九三八年のナチス・ドイツによるオーストリア併合が決まったという不幸な歴史への言及がありました。これは非常に重く受けとめました。

 スロバキアでは、基本的権利や自由などについては国民投票の対象とすることができないという除外規定が設けられている。また、国連憲章の内容を憲法に取り入れておりますけれども、これを国民投票によって変えるというのは非常に困難なことであるというような御発言がありました。

 また、スイスでは大学教授から次のような指摘がありました。フランスの一九六〇年代にドゴール大統領はみずからの政治基盤を強化するために国民投票を行ったが、これは決してよい例とは言えないとか、ポピュリズムへの凋落の危険を防止するためには政府が国民投票を主導するか否かが大きな要素となるだろうという御発言や、スイスでは政府が恣意的に関与することを極力排除している、この御発言によって、このように国民投票を多用しているスイスでも、この国民投票のあり方の功罪を深く認識した上で直接民主制を実施しているという印象を受けました。

 スペインではこんな指摘もありました。欧州では、スイスやフランスなどを除き、ほとんどの国では国民投票を頻繁に行うことはない。国民投票を行う難しさ、危険性をしっかり認識する必要がある。複雑な政治問題をイエス、ノーで問うのは、簡単にそのこと自体が操作されてしまう可能性がある。このような御指摘もありました。

 スペインでは現憲法下ではまだ一回も憲法改正は実施されていませんけれども、基本的人権など重要な憲法改正を行う場合、複雑で慎重なプロセスが踏まれていることの御紹介もありました。具体的には、国会で上下院の三分の二の賛成をまず得て、その時点で議会を解散し、総選挙を実施し、さらに新しい議会によってもう一度上下院の三分の二の賛成を得なければ憲法を変えることができない、基本的項目を変えることはできないということでした。これは、フランコ時代、九〇%以上の国民が独裁体制と言われた政権に賛成をしていったという、苦い歴史経験による厳しい、厳格な要件ではないかと思いました。

 フランスでも、国民投票の結果が過大に評価されると政治的なリスクが大きくなるので、国民投票という手段を頻繁に使うことに慎重な意見がございました。

 もう一つ、憲法を変える場合、部分改正か全面改正かという点について日本側からオーストリアの憲法裁判所長官に意見が求められた、その答えを紹介したいと思います。

 非常にユニークな答えだったのですが、与党のコール議長、その方にも御面会していたのですが、にお聞きになれば即座に全く新しい憲法を制定するべきだと答えるであろう、しかし、野党代表に聞けば部分的に変えるだけでいいだろうと答えるだろうというようなお答えや、隣国のスイスでは二十年間にわたり憲法全般の改正についてさんざん議論を繰り広げた上で新憲法が制定されたようだが、結果的には部分的に改正しただけだったというようなエピソードが紹介されました。

 オーストリアでもスペインでも長い間憲法の根本的な改正についての議論はなされているのですけれども、実際に改正するかどうか、どのような形にするかの議論が一つにまとまるのはどこも大変難しいんだなというような印象を受けました。憲法改正の国民投票が行われたフランスでも、大統領の任期の短縮など、一部の、部分の改正であったということも知りました。オーストリアで憲法の全面改正が行われる場合はどんな場合かの言及がありましたが、現在の共和制を廃止して君主制にするとか、連邦制における州を廃止するとか、民主主義を廃止するなどといった、国のあり方の根本を変える場合であるというような例示がなされて、非常に驚きました。どこの訪問国でも、憲法を全面的に変えるということは想定していないという強い印象を受けました。

 最後に、日本側から、憲法改正のための国民投票制度を構築し、これを実施するに当たって考慮すべき事項は何かという問いがスペインで出されましたが、これに対する答えを報告したいと思います。

 強調したいのは民意である。憲法改正のために国民投票を行う場合、政府内や議会内での大きなコンセンサスを得るだけでなく、国民一般の民意として大多数の賛成がなければ国民投票の実施は難しい。スペインでも憲法はここ二十七年間続いており、そこに定められている規定はかなり強固なものとなっている。したがって、民主主義の原則に照らしても、そのような憲法を改正するためには非常に強い民意がなければならないという御指摘があり、これは非常に重要だと思いました。

 このたびの訪問は、私は大変有意義な訪問であったと思います。それぞれの国で、議会制民主主義の長い歴史の中で、憲法に非常に厳格に皆さんが向き合っていらっしゃるという姿勢も学びました。私たちが国民投票制度を考える場合に、その姿勢をしっかりと受けとめながら、まず直接民主主義というもののあり方そのものについての根本的な議論を深める上で、一般的な国民投票制度や憲法についての国民投票制度が論じられるべきであるという認識を深めて帰ってまいりました。

 以上です。

中山委員長 これにて調査に参加された委員からの発言は終了いたしました。

 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。

    午前十一時三十六分散会


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