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   福島第一原子力発電所事故の早期収束と原子力発電の安全確保に関する決議

 

 三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震及び津波に伴い発生した福島第一原子力発電所事故は、未だ収束が見られず、地域の生活再建、経済復興の障害となっている。本委員会は、四月二十七日に福島第一原子力発電所事故問題について集中審議を行い、経済産業省原子力安全・保安院、原子力安全委員会及び電力会社から説明を聴取し、民間の専門家を有識者参考人として招いて意見の開陳を受けるとともに、委員とこれら出席者が活発かつ濃密な議論を行ったところである。その結果、政府はあらゆる知見を活用して一刻も早い収束に向け全力で立ち向かうとともに、同様な原子力災害を引き起こすことがないよう安全対策を含めた我が国原子力政策のあり方を改めて検証すべきであるとの結論を得るに至った。本委員会は政府に対し次の事項について必要な措置をとるよう提言する。なお、行政監視機能を達成するため、その成果について各事項ごとに本委員会に報告を求める。

 

一 初動の対応

  原子力災害発生時に瞬時に全体像を把握できる技術レベルの高い専門家の知見を政府の本部が活用できるよう、その即応・常駐態勢を確保するとともに、意思決定のプロセスを明確にすること。また、迅速かつ的確に初動を行うため、所定の安全機能が不全に陥ったときにも備えられるような手順と体制を確立し、訓練を重ねること。

 

二 原子炉への対応

 1 原子炉内に残された燃料、使用済み燃料プールに貯蔵されている燃料については、発熱が続いているので冷却が第一の課題であるが、汚染水処理が確立されていない注水を長期に続けることは、排水の問題からも望ましくない。政府は、東京電力が設置者の責任として原子炉を冷温停止に持っていくよう、計測機器の回復にも努め、原子炉内部の状況を分析しつつ、より安全かつ効率的に冷却し冷温停止に導く方策を検討・導入するよう求めること。また、汚染水の処理コスト、余震や台風に襲われたときの耐性、燃料棒取り出しに伴う困難など、東京電力が講じる対策についての技術的問題点を精査し、破綻しない対策が選択されるようにすること。

 

 2 四月初めに海洋に放出された汚染水は、放射性物質の拡散に関する国際社会の懸念も発生させている。汚染水問題を解決するため、汚染水を処理して原子炉の冷却などに再利用する仕組みについても検討すること。また、漏洩が生じそうな箇所については点検し、適切な処理を執ること。汚染水に関する政府の担当部局の責任を明確にし、海洋汚染のモニタリングを行うとともに、近隣国及び国際社会に対して、正確、迅速に適切な情報提供を行い、我が国への信頼回復を図ること。

 

 3 事故の収束を図るためには、多量の放射性物質が存在する現場における作業が不可避であり、特に気温が高い時季には極めて過酷になる。これまでの事業者による被曝管理には万全でない面があったことから、ハード、ソフト両面で適切な管理が行われるような対応を行うこと。専門医師を派遣することなどにより、放射線被曝管理を徹底するとともに、作業員の就業環境を改善すること。熱中症対策など現場作業者の健康に配慮した作業管理を確保すること。

 

三 市民の安全

1 放射性物質の大量放出時に安全な地域への避難が確保されるよう、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)が有効に活用できるようにすること。

   また、放射性物質の拡散予測の提供や各地域の詳細な汚染状況を把握することは、今後の避難区域の見直しなどにおいて極めて重要であることを念頭に置き、汚染状況を実測で把握するため、定点観測点を増やし、大学の協力を得るなどして必要な人員と測定器を確保し、SPEEDIによる計算結果等を有効活用して精度の高い「汚染マップ」を作成するプロジェクトを専門家の参画のもとに政府が統合的、統一的に推進すること。

   放射性物質に関する専門的知識がない国民も放射線による健康影響を理解できるよう、単位などにも留意してわかりやすく説明すること。

 

 2 周辺住民等の健康と安全を守るため、放射線防護に関し、被曝を合理的に達成可能な限り低く抑えるというALARAの考え方を徹底するとともに、警戒区域、計画的避難区域等の設定及び解除、飲食物の摂取、学校活動等に関する基準について、一時的な基準と恒久的な許容基準の相違、避難に伴う負担、成人と年少者等の相違に留意しながら合理的なものとすること。

 

四 損害賠償

  原子力発電所事故の損害賠償について迅速な支払いが可能となり、かつ支払い能力が担保される制度を整備すること。

 

五 知識・技術・人材の結集

  事故の早期の収束のため、最終決定の責任者を明確にして、広く国内の関連した研究者、技術者、研究開発機関、学会等に協力を求めるとともに、世界のあらゆる英知を結集できる体制を整えること。

 

六 情報公開のあり方

  今回の事故を踏まえ、放射性物質の環境、生活への影響に関する重要な情報が国民に届くよう、情報公開を徹底すること。

 

七 事故調査と対応評価

  今回の事故については、徹底的な分析と評価を行うことが求められる。事故の事態推移と対応経緯の詳細については、記録を精査するなどして、速やかに事故調査報告書を作成し、国民、特に事故現場周辺住民の厳しい目に耐えるよう、その公正性について更に検証すること。

 

八 原子力発電所の安全対策

今回の事故について、徹底的な検証を行い、その結果を踏まえて安全規制の見直しを行うこと。見直しに当たっては、原子力の安全神話を捨て、所定の安全機能が機能しない場合にも備えることができるようなアクシデントマネジメント策を求めるものとすること。また、リスク情報の活用など、海外の規制手法も参考にした検討を行うこと。

例えば、長期間電源喪失時における冷却継続対策、過酷事故時における放射性物質の大量放出回避対策、地震・津波対策に留意して、安全審査の指針類を抜本的に見直すとともに、自然災害対策と原子力防災対策の連携を強化すること。

  また、原子力発電所を設置、運転する事業者に対し、常に最新の知見を取り入れて不断の安全設計の見直しを行うよう指導すること。

 

九 原子力安全行政

  原子力安全行政は人の安全、環境を守ることを使命とした重い任務を負っていることから、推進と規制の分離の観点からの規制機関の再編を検討すべきである。その際、研究組織による実体的なサポート体制を充実するとともに、推進と規制の分離と、安全性に係るダブルチェックを併せて確保するよう留意すること。

 

 右決議する。

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