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昭和三十一年二月二十一日提出
質問第五号

 漁船の遭難救助に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和三十一年二月二十一日

提出者  阿部五(注)

          衆議院議長 (注)谷秀次 殿




漁船の遭難救助に関する質問主意書


一 徳島県海部郡日和佐漁業協同組合所属のマグロ漁船第一栄光丸六十九トンは、昭和三十年十二月十六日午後六時硫黄島南西七百キロの海上において風速六十メートルの台風第二十八号に遭遇、ただちに小松島及び高知海上保安部に無電して救助を求めた後乗組員二十名は必死の努力で乗り切ろうとしたが、間もなく巨浪に打たれて船は横倒しとなり、うち八名は波にさらわれて行方不明となり、残り十二名は沈没にひんした船上に一切の食糧、飲料、通信手段を失つて漂流した。高知海上保安部は、巡視船あわじ丸を救助に差し向け、同船は同月十九日夕刻遭難海域に到着し二十四日までの六日間にわたつて捜索したが発見するに至らず、ついにこれを打切り、乗組員二十名の生命は天命にゆだねて放置することとなつた。
  一方、遭難船第一栄光丸乗組員二十名中、遭難と同時に波にのまれた八名を除き、残りの十二名はわずかに海面上に浮んだ船橋に集り、救助の手ののばされるのを待つたが、同月三十日に至り、うち二名は飢渇と過労のためついに餓死(遭難後十四日目)した。こえて本年一月三日朝に至り、フイリツピン南方海上において附近航行中の神戸市隆昌海運所属の貨物船那岐山丸に発見救助せられた。しかし、その時十名全員ひん死の状態にあり、うち一名はその日のうちに死亡、生命を全うしたのは最初の二十名中わずかに九名であつた。
  右の事実は国民に諸般の疑問を起させるものがある。過去においては、板子一枚下は地獄と称して漁業は命を的に行うものと自他ともに許した時代があつたが、科学技術の進歩した現代に許さるべきはずはない。国家は国民の生命を保護することをもつとも初歩的な任務とするかぎり、そして生命は何物にも増して敬重されなければならないことを認めるかぎり、海上漂流十八日間、ついに国家の手によつては発見してもらえず、救つてもらえず、その間三つの生命は永久に失われ、危うく救われた八つの生命もまつたく遇然の幸運によるものであつた事実は、遭難者及びその遺族のみならず、一般国民をして不安ならしめるものがある。よつて、一般に漁船の遭難救助に関し、またとくに第一栄光丸の事件に関して、左の諸点を質問する。

一 政府は、平素から漁民をして万一の場合は国が救つてくれるという安心感をもつて業務にいそしむことを可能ならしめるにたる救助態勢をととのえているか。その機関、施設とくに飛行機、ヘリコプター等をもつてする捜索、救助の用意の有無等の詳細。
一 政府は、国民の生命保護のための活動については予算の限度等にしばられることなく、予備費を支出するに、ちゆうちよしない覚悟があるかどうか。
一 漁民が業務上死亡又は負傷した場合につき、昨年労働者災害補償保険法を改正して乗組員五名以上の漁船に強制適用されることになつたが、その実施状態はどうか。乗組員五名以下の場合は船主はさらに小資本であつて支払能力もさらに乏しく、これに雇われる漁民の不安と危険は、一層深刻であるが、これに対してはいかなる処置をとる考えであるか。
一 国家は、国民の生命を保護する義務を負うているかぎり、海難救助の施設に不備があるか、あるいはその運用適切を欠いたがために、国民に損害をこうむらせることになつた場合は、義務不履行(不完全履行)の責を負い、被害者に賠償すべきではないか。それとも救助は政府の国民に対する恩恵であると思つているか。
一 第一栄光丸の場合捜索に飛行機を使わず、巡視船の捜索を六日間で打ち切つたことから、政府各機関には日本的生命軽視の思想の残存を疑わせるものがあるがどうか。
一 次に第一栄光丸事件に関して、仮りに捜索用飛行機の準備がなかつたとしても自衛隊には沢山あるのであるから、捜索に飛行機を使わなかつた理由は何か。また捜査を六日間で打ち切つた理由は何か。
一 政府は、第一栄光丸の所有者たる日和佐漁業協同組合が漁船をふたたび建造して漁業を営むにつき、資金面その他の便宜を与えることができるか。
一 第一栄光丸乗組員は、船員保険による補償を受けるものであるが、とくに漂流中に餓死したる三名は政府の捜索活動の不充分に基くものであるから、その遺族を慰めるなんらかの処置をとる考えはないか。

 右質問する。





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