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昭和五十一年五月二十四日提出
質問第三六号

 食品添加物、農薬及び飼料添加物による食料の汚染とその対策に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十一年五月二十四日

提出者  渡部一郎

          衆議院議長 前尾繁三郎 殿




食品添加物、農薬及び飼料添加物による食料の汚染とその対策に関する質問主意書


 私は、これまで主に予算委員会などにおいて、「安全な食料の確保こそ、国民と人類の生存の基本」という立場から、食品添加物、農薬及び飼料添加物による食料汚染と、それに係る食品衛生、農林行政の在り方について政府当局の考えと対策を質してきた。
 しかしながら、私の質問に対する政府当局の答弁は、いたずらに抽象的で具体策に欠け、私を含め食料汚染について不安と疑惑を抱いている国民を納得させるものではない。また、この問題についての政府の取り組み方も、極めて不十分であると言わざるを得ない。
 食品添加物、農薬及び飼料添加物に対して今程、国民の疑惑の眼が向けられている時はない。
 特に、食品添加物については、最も安全であるとされていた色素剤赤色二号が、米国においてその発ガン性によつて使用が禁止されたことを契機にして、すべての食品添加物の安全性が疑われるに至つている。
 また、農薬については、一定の規制基準が作られているものの、同基準が全く不十分である上、現場に対する行政指導の不徹底の結果、農薬の過剰大量使用が依然として行われ、農薬による土壤・農作物の汚染、地力の低下及び生態系の破壊ひいては人間の健康に対する重大な障害等、諸問題が一向に解決されていない。
 また、現に国民が摂取している食品(農作物、食肉など)が農薬によつてどの程度汚染されているのかについて国民は、目隠しにされている現状であると言わざるを得ない。
 さらに、飼料添加物についても、安全性そのものが検証されずに無制限に使われてきた上に、家畜を太らせるために人体用抗生物質が乱用されるなど“家畜の薬漬け”が一層進行し、不健全な飼育法と相まつて、奇形家畜、流産死の発生及び異常肉の大量発生の背景となつている。
 現在行われている食品添加物等の化学物質の安全性の再評価と取消しは、これまでの食品添加物等が安全性よりも経済上のメリットを追求することに重点が置かれて認可されてきたことを示すものであり、企業サイドに偏つた認可行政の実態を暴露するものでしかない。現在認可されている食品添加物、農薬及び飼料添加物も完全に安全性が証明されているものは何一つないといつて過言ではなく、国民は危険な物質を毎日摂取させられているというのが実情である。このまま推移するならば人間と生物と環境に対して取返しのつかない重大な悪影響を与えるであろうことを私は強く警告したい。人間、生物界における先天的異常、ガン等の諸病の急増及び生命自体の弱体化はその予兆と言うべきであろう。
 私は、三木総理大臣が、第七十七回国会の施政方針演説で述べた「生命をいたわる人間尊重主義の徹底」という題目に共鳴することにやぶさかではないが、題目と理念に終らせないためには、政府当局の確たる態度と施策の大転換が必要である。食料の汚染を防ぎ生命の安全と健康を守るために次の事項について質問をするものである。

一 食品添加物、農薬及び飼料添加物の安全性と規制の強化について
 1 食品添加物、農薬及び飼料添加物の安全性について
  (1) 食品添加物、農薬及び飼料添加物は、食品や食肉を通して直接的に人体に摂取されるが故に、人体に対する安全性が徹底的に確認されなければ認可されるべきではないことはもち論のこと、安全性が疑わしい場合においても認可されるべきでないことは言うまでもない。
      政府は現在認可されている、これら食品添加物、農薬及び飼料添加物について完全に安全性を確認したと言えるかどうか見解を示されたい。また、「疑わしきは認可せず」との厳しい態度で臨むべきだと思うが基本的な行政方針を明らかにされたい。
  (2) 食品添加物、農薬及び飼料添加物の安全性の確認のために、毒性(急性・慢性)、次世代間影響、催奇形性、発ガン性、染色体異常、突然変異性、代謝物質毒性、残留性及び相乗毒性等の考えられるあらゆる面からのチェックをすべきと考えるがどうか。
  (3) 現在認可されている食品添加物、農薬及び飼料添加物は、前(2)のチェック事項のうちどの事項において安全性が確認されているのか。また、確認されていないのか、その根拠も併せて示されたい。
  (4) 現在認可されている食品添加物、農薬及び飼料添加物のすべてについて数年おきに、最高の科学的水準に照らして安全性の再チェックをすべきと考えるが、政府の見解を示されたい。
  (5) 政府は、現在認可されている食品添加物、農薬及び飼料添加物の中で、どの物質が安全性が疑わしいと考えているのか。それらの物質についての再評価の具体的方針を明らかにされたい。
  (6) 食品添加物、農薬及び飼料添加物、医薬品について三年ないし五年ごとの安全性の再評価を行うことを制度化すべきと考えるが政府の見解を示されたい。
  (7) 現在、食品添加物の幾つかが再評価されているが、その当該食品添加物は評価が終るまで一時、使用を見合せるべきと考えるがどうか。
  (8) 食品添加物、農薬及び飼料添加物の使用量については、一部の食品添加物に使用量の上限や対象食品の限定が設けられているのみで、無制限な使用が許されているが、食品添加物、農薬及び飼料添加物のすべてについて使用量の上限を設ける“総量規制”を行うべきではないか。
 2 研究体制の抜本的強化について
  (1) 食品添加物三百三十三種類、農薬約四百数十種類、飼料添加物百六種類のすべてについて早急に安全性を再チェックすべきと考えるが、一年間で三〜四の食品添加物しか再評価が行えないような現在の貧弱な調査研究体制では、到底不可能である。政府は五十一年度において食品添加物の再評価については「新規十品目、継続十品目、延べ三十二試験の検査を実施する」(昭和五十一年二月二日の予算委員会における私の質問に対して厚相の答弁)と言つているが、極めて少ないと言わざるを得ないが、食品添加物に限らず食品添加物、農薬及び飼料添加物等についての毒性調査を約三年〜五年間で完了するだけの研究調査予算と対策を抜本的に拡充すべきである。政府の見解を示されたい。
  (2) 現在の研究体制では、食品添加物、農薬及び飼料添加物等の安全性再評価及び新規物質の安全性の確認の早期作業は不可能である。このことを可能にするためには、@大規模な食品安全のための研究所、例えばマウス十万ケージ程度を維持できるような研究所A人間の発生状況も調査できる基礎研究所が必要であると考えるが、政府の見解を示されたい。

二 食品添加物問題及び食品衛生行政について
 1 食品添加物について
  (1) 現在認可されている食品添加物の安全性について、WHO及びFAOはどのような評価を下しているか。
  (2) 色素剤赤色二号は、最近米国において禁止されたが、我が国においても早急に禁止すべきではないか。また、食品衛生調査会において米国のデータを取り寄せ検討していると聞くが、米国のデータに対する評価とその他赤色二号の取り扱いに対する結論について明らかにされたい。
  (3) 現在行われている食品添加物の再評価試験の見通しとその予算措置について明らかにされたい。
  (4) タール系色素は、これまでも赤色一、四、五号を始め十三種類の色素剤が発ガン性や安全性が確認されていないという理由で、すでに禁止されているが、赤色二号の安全性に対する疑惑が提起された以上、その他のすべてのタール系色素についても早急に安全性の再評価をすべきであると思うがその予定について明らかにされたい。
  (5) 食品衛生法において禁止されている赤色百三号、二百三号、二百十三号は、化粧品の色素、特に口紅として使われているが、口紅は体内に容易に入り危険であり、何らかの規制が必要であると考えるが、これに対する政府当局の見解を示されたい。
 2 食品衛生調査会の在り方について
  (1) これまで食品衛生調査会(以下調査会)によつて安全とされた食品添加物の中で五十一種類に及ぶ食品添加物が毒性や発ガン性などのために指定を削除されてきた。これは、調査会における結論の誤りと、安全審査の未徹底を示すものである。調査会は誤りなき結論を出すために最大限の努力をなすべきであることは言うまでもないが、そこにおのずと限界がある。従つて、その誤りを最小限にするために、広く国民(専門家、非専門家を問わず)の意見を聞くことが大事であると考える。そのために、次のことを早急に政府が制度化すべきである。すなわち、調査会において得られた結論と、その理由を公表し、それに対する反論や意見を国民に求め、それに対して政府が回答するというようなことを食品衛生法の中にはつきりと規定すべきであると考えるが、これに対する政府当局の見解を示されたい。
 3 合成殺菌料AF2による被害の実態調査と救済対策について
   昨年十二月十五日、「AF2被害者の会」が結成され厚生省に対して信頼できる医師団による豆腐業者の集団健康診断を行うよう要求しているが、これに対する政府の見解を示されたい。また、AF2と健康障害の因果関係について政府当局の見解を示されたい。

三 農薬問題について
 1 農薬の生産、使用実態に関する次の事項を明らかにされたい。
  (1) 過去十年間の農薬生産額、生産量、製造認可数(化学物質数、銘柄数)の推移
  (2) 過去十年間の種類別農薬使用量の推移
  (3) 過去五年間の単位面積当たりの農薬使用量とその国際比較について
  (4) 過去十年間の農薬の延べ利用面積の推移
  (5) 過去十年間の病害虫発生状況(被害量、被害面積、被害額)と病害虫防除費用の推移
 2 農薬の残留対策等について
  (1) 農作物中の農薬残留基準は、現在、二十四農薬、五十二農作物について設けられているが、これは全農薬の約六%、全農作物の約〇・五%に過ぎない。今後の設定方針を明らかにされたい。
  (2) 環境庁長官が定めている農薬の登録保留基準を食品衛生法へ移管すべきと思うが如何。
  (3) 家畜等の食肉の農薬残留基準は、現在一つも設けられていないが、早急に設けるべきである。その方針を明らかにせよ。
  (4) 農作物の農薬残留のチェックについて現在、どのように行つているか。過去五年間の実績と調査結果について明らかにされたい。
  (5) 農薬のチェックは、生産地及び消費地において常時監視できるような体制を作るべきであると考えるが如何。
  (6) 食肉中の農薬の残留状況について最近の状況を示されたい。
  (7) DDT、BHC、パラチオン、テップなどすでに禁止されている農薬の残留基準はNDであるべきであり、年々現在の規準を見直し強化をすべきであると考えるが如何。また、その他の物質についても残留基準の見直しを行うべきであると思うが如何。
  (8) ひ酸鉛、エンドリン、アルドリン及びディルドリンなどは、非常に毒性や残留性の強い危険な農薬である。これらの農薬に代る毒性の弱い農薬もすでに開発されていることからして前述の農薬は使用を禁止すべきではないか。
 3 農薬中毒事故とその対策について
  (1) 厚生省がまとめた農薬事故の統計によると散布中の中毒及び死亡事故は、昭和四十年から昭和四十九年の九年間で、それぞれ二千五百二十八人、百十七人、誤用による中毒及び死亡事故は、同じ十年間でそれぞれ、二百二十七人、二百三十五人となつているが、この数は、農薬散布従事者の四二・三%が、何らかの中毒症状を訴えているという日本農村医学会の調査あるいは現実の被害の状況から推定すると非常に少ないように思えるが、厚生省の統計はどのような方法、基準で行うのか。また、「農薬による中毒事故」の定義について明らかにされたい。また、農林省が行つた調査があれば、それを明らかにされたい。
  (2) 日本農村医学会あるいは農村在住の医師等の調査、研究によれば、かなり多くの農薬散布者が農薬による健康被害を受けていることが明らかにされている。しかしながら、これらの健康被害者に対して何ら救済の手が差し伸べられていない現状である。政府は、これらの被害者を救済するためにどのような具体策を持つているか。また、農薬による急性・慢性の健康被害者の救済について、国、地方公共団体及び農薬製造業者がそれぞれ応分の責任を持つべきと考えるがどうか。
 4 農薬の安全使用徹底について
  (1) 農林省は、今後、農薬の使用基準を守らせていくためにどのような具体策を持つているか。また、現状において農家等に農薬の使用基準を守らせ、それを個別に確認することは、非常に困難であり、かつ、病害虫の防除は公共性が強いので、農薬の販売、使用については、一定の資格を備えた「農薬防除士制度」を作るよう関係法令(農薬取締法等)を改正すべきであると考えるが如何。
  (2) 農産物の検査を行う行政機構、設備、人員が非常に手薄であるが、政府はこれをどう充実させていくのか方針を示されたい。また、農産物の安全性確保の観点から農業生産資材全般にわたる国の分析調査機関を農業事情に合わせて全国数ブロックに設置すべきであると考えるが如何。
  (3) これらの安全性の研究に当たつては、膨大な費用を要するが、国の研究機関はバラバラでしかも弱体であり、法人研究所に依存しているのが現状である。しかし、これも限界がきているので、今後の毒性研究の促進のためには国の総合的な研究所を設置すべきであると考えるが如何。
 5 有吉佐和子著「複合汚染」に関する件
  (1) 新聞報道によれば、農林省は有吉佐和子著「複合汚染」に対する反論、見解を「部外秘」としてまとめたとされているが、事実か。
  (2) 有吉氏は「複合汚染」の中で、農林行政や農薬等に対する農林省の態度などについて厳しく批判している。有吉氏の告発、批判については国民も多くの不安と共感を持つている。従つて、農林省は「複合汚染」で述べられた有吉氏の主張、批判に対して真しに耳を傾けるべきではないか。
 6 農薬と化学肥料に過度に依存した現在の農法を改め、自然の循環、生態系を重視した農法へ転換するため、政府は技術的、経済的観点からの研究を積極的に推進すべきだと考えるが如何。

四 飼料添加物問題について
 (1) 飼料及び飼料添加物の安全性をチェックしていく肥飼料検査所は、全国的にもその数が少ないが、今後どのようにチェック体制を整備充実していくのか。また、肥飼料検査所等における飼料及び飼料添加物の審査基準及び認可基準とはどのようなものか。
 (2) 飼料及び飼料添加物の安全性を確保するためには食品添加物と同一水準の審査基準などが必要と考えるが如何。また、新飼料の品質改善法に規定する特定飼料等についての検査基準、安全基準を明確にされたい。
 (3) 特定飼料等としてどのような飼料等を考えているのか。
 (4) 第七十五回国会において政府は「飼料添加物、特に抗生物質等につきましては、もう一回総洗いをいたしまして数を整理していきたい」(昭和五十年五月七日農林水産委員会沢辺政府委員答弁)と発言しているが、その後、どのように検討し、どのような結果を得ているのか、明確にされたい。
 (5) 家畜等に対して安易に抗生物質、ホルモン剤等が乱用されていることは由々しき問題であるが、現在、家畜における耐性菌の発生状況について政府はどのようには握しているか。また、食肉等における抗生物質の残留状況のチェックは、どのように行われているか、調査結果と併せて明確にされたい。
 (6) 抗生物質は、人体用と動物用をはつきり分離して使わせるべきであると考えるが如何。
 (7) 現在使われている飼料添加物は、人体に対してどのような影響を与えるかについて、どのような研究が行われているのか。
 (8) ニトロフラン系化合物であるフラゾリドン、パナゾール等はAF2と同様な危険性を持つと考えるが、政府は、何故早急に禁止しないのか。
 (9) 飼料の品質改善法第二条の二に規定する有害畜産物とは、人の健康を損なう恐れのある食肉等食用に供される生産物とされているが「人の健康を損なう恐れのある」生産物とは具体的にどのようなものを指すのか。また、どのレベルにおいて人の健康を損うと判断するのか。
 (10) (9)と関連して、現在、各地において家畜の胃潰瘍、肝膿瘍、ガン等の疾病の発生、あるいは、「むれ肉」「ふけ肉」とか呼ばれる肉質異常の家畜の大発生が問題にされているが、これは「人の健康を損なう恐れのある」有害畜産物とされるのかどうか。
 (11) (10)で述べた家畜の疾病状況、病畜状況について種類別、疾病別に過去五年間の実態を明らかにされたい。また、政府は、これらの原因についてどう考えるのか。対策と併せて見解を示されたい。
 (12) 新聞報道によれば、フランスでは家畜の成長促進剤として使うホルモン剤を禁止する法律が可決されたとされているが、政府はこの問題についてどう考え、どのような措置を講じているか。

 右質問する。





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