衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
昭和五十四年三月二十三日提出
質問第一七号

 老人福祉に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十四年三月二十三日

提出者  上田卓三

          衆議院議長 (注)尾弘吉 殿




老人福祉に関する質問主意書


 大平首相は、高齢化社会を前にし、「老人扶養は、国ではなく家庭がやる。」という日本型福祉社会の建設を構想として抱いている。それは、老人との同居率七割以上を占めていることを重視して、「同居という日本のいわば“福祉における含み資産”を生かす。」という考え方である。
 だが、問題は、国の役割の基本となる年金・医療保険など各種の公的制度を高齢化社会に向けて、いかに国民的合意を得ながら、改革していくかにある。この点を明確にしない日本型福祉論は、老人と老人を抱える家庭に負担を一方的強要するものに外ならないと考える。
 我が国の六十五歳以上の人口は約九百六十五万人(一九七七年総理府統計調査)で、全人口の八・四%を占める。諸外国では、六十五歳以上の人口割合が七%から一四%に増加するのに、フランスでは百十五年、スウエーデンでは九十年、イギリス及び西ドイツでも五十年と半世紀を要した。我が国の場合は、三十年と一世代の間で到達する。現在、高齢者世帯(男六十五歳以上女六十歳以上の世帯及び十八歳未満の加わつた世帯)は、百九十二万世帯で、全世帯数の五・六%を占め、また、六十五歳以上の一人暮らしの老人は全国で六十五万人である。このような中で、高齢化社会の到来を前にし、老人に医療・生活・生きがいを保障していくことは、政治の根本問題である。
 六十五歳以上の老人の有病率は百人当たり四十人で、青壮年層(二十五〜四十四歳)の六倍となつている。半年以上の寝たきり老人は全国で約四十万人といわれ、大阪府下でも約一万三千人である。これは、六十五歳以上の老人人口の四%に当たる。これらの老人の多くは家庭で療養していて、「特別養護老人ホーム」や病院に入院しているものは、ごく一部にしか過ぎない現状である。
 病む老人と介護に当たる家族は、国の保護のない無国籍者に似た孤立した状況にある。まさに病む一人暮らしの老人の生活は、アウシュビツの強制収容所に入れられたユダヤ人の心境と変わらず、確実にやつてくる死を、汚れたフトンの中で、声を立てずに待つという点で全く同様である。
 老人が寝たきりになる原因として最も多いのは、脳卒中の後遺症である。大阪府下の寝たきり老人の疾病理由の二五%は、脳卒中・高血圧による。脳卒中に対する適切な医療・看護によつて寝たきりはかなり予防できるものであり、機能障害・後遺症を残さないためにも、生活訓練、リハビリテーション訓練が、早期に且つ継続的になされることが重要である。
 全国で、七百数カ所、六万人を収容できる「特別養護老人ホーム」がある。政府は、「特養」を「病人ではない常時介護を必要とする病弱な老人の収容施設である。」としている。そのため、医師や看護婦よりも身の回りを世話するということで、老人五人に一人の寮母と、百人に三人の看護婦を配置し、三百人施設に一人の専任医師を定員化している。だが、「特養」の実態は、大半が病気を持つ寝たきり老人である。これは、病院では看護基準「特一」程度の準重症病棟に相当し、その場合看護婦は患者の三分の一以上と決められているが、「特養」の国基準では三十三分の一であるので、同じ病状の患者を持ちながら、「特養」は病院の十一分の一しか看護婦を置くことができないのである。医師についても、常勤医師を配置しているのは二〇%に過ぎない。
 この結果、重症患者を抱える「特養」では、大部分の時間帯を医師不在という形で過ごす。また、老人の健康状態が変化する夜間は、医療面で全く無資格な寮母の手に老人が委ねられている。「特養」の老人は、国の定員基準の中で、全く医療サービスを受けることができない現状にある。このような中で、一九七六年の統計によると「特養」在所者は五万人で、年間死亡者は一万人に上つた。そこでは、老人が死ぬことは日常のこととなつている。「特養」の老人は、協力病院に入院する際も、病床が満床のため待機中に死亡したりする。老人は、入院を考えて貯金に専念するが、一日八千円程度の付添い料金、差額ベッドのため、一カ月で貯金を使い果たす。ここでは、「老人医療費無料化」も全く「絵に画いた餅」に過ぎないのである。
 この現状を踏まえて、以下の諸点に関して政府の見解を伺いたい。

一 「特別養護老人ホーム」を病人を対象とする施設と位置付け、制度・施策を確立すべきであると考えるが、政府の見解を伺いたい。
二 「養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(厚生省令第十九号)第十九条の「看護婦又は准看護婦」のうち「一人以上の者が常時勤務するために必要な数を置かなければならない。」との規定を遵守し、夜間も常時看護職員が一人以上配置できるよう早急に改善せねばならない。そのためには、百人の最低規模施設でも、現在の三名基準を十名基準に改善する必要があると考えるが、政府の見解を伺いたい。
三 老人が安心して入院できるよう、国・公立病院は差額ベッド・付添い料金をとらない老人専用病棟を確保し、民間病院にも委託ベッド料の財政措置を行うべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
四 「特別養護老人ホーム」に老人専門病院を併設すべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。
五 我が国の老人の寝たきり率四%は、イギリスの二倍といわれている。その原因は、リハビリ療法士の不足によるものである。我が国のリハビリ療法士は、一九七八年末現在で、理学療法士二千三百三人、作業療法士七百七十八人に過ぎない。従つて、特別養護老人ホームでは専任・兼任のリハビリ療法士をあわせても三百名程度に過ぎず、半数以上の施設では療法士がいない現状である。老人の家庭復帰・生活復帰の観点に立つて、理学療法士・作業療法士のみならず言語療法士・家事訓練士を専任と定員化すべきと考える。このため、四年制大学で養成すべきであるが、政府の養成計画を含めその見解を伺いたい。
六 在宅老人に対する社会福祉サービスとして「短期保護事業」「デーサービス」が始められたが、この面の対策は緒についたばかりである。大部分の老人は家庭で寝たきりの状態であり、これら老人の日常生活の世話をしている家庭奉仕員は、一万人程度に過ぎず、家族に過重な負担がかかつている。在宅福祉の中心的な担い手である老人家庭奉仕員の派遣対象世帯は、所得税の非課税世帯に限定されている。厚生省の調査(一九七六年)によると、非課税世帯は世帯総数のうち二七%であり、七三%は派遣対象から除外されている。しかし、今やこれらのサービスを必要とする家庭は少なくなく、子供や家族が肩代りすることは不可能である。非課税世帯を要件とする家庭奉仕員の派遣を緩和すると同時に、家族が寝たきり老人を介護している家庭に介護手当を支給する制度を確立すべきと考えるが、政府の見解を伺いたい。

 右質問する。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.