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昭和五十六年五月二十一日提出
質問第三九号

 核積載艦船の我が国領海内通過に対するライシャワー発言に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十六年五月二十一日

提出者  (注)崎弥之助

          衆議院議長 福田 一 殿




核積載艦船の我が国領海内通過に対するライシャワー発言に関する質問主意書


 核搭載艦船の一時寄港又は領海通過問題は、安保条約第六条の事前協議「米軍隊の装備の重要な変更」「核の持込み」と重要な関係があるのみならず、地位協定第五条(1)及び領海条約第十四条(4)とも直接かかわりをもつ微妙な要素を含んでいる。地位協定は安保条約第六条に関する協定であり、領海条約は国際条約である。
 核の「持込み」=「イントロダクション」の解釈には一時寄港や領海通過までも含むのかどうか。さらにそれらを含むかどうかについて解釈上、米側と相互了解があるのかどうかに関する国会論議の歴史は古い。
 本問題の解明については国会論議の過去の経緯が重要な鍵となる。
一 過去の経緯
 1 日米安保条約第六条の事前協議事項中、「米軍装備の重要な変更」とは「核弾頭及び中長距離ミサイルの持込み並びにそれらの基地の建設」であるという日米了解は、いわゆる藤山、マッカーサー口頭了解(ゼントルメンズアグリーメント)であり、口頭なるが故に正式文書は存在しないとされてきた。実はそこに問題の根源がある。
   米側の公式文書で「核持込み」が出てくるのは、一九七〇年(昭和四十五年)一月二十六日 ― 二十九日の米第九十一議会第二会期における上院外交委員会安全保障取極及び対外約束小委員会(サイミントン委員会)聴聞会「日本及び沖繩」議事録である。その聴聞会で当時のジョンソン国務次官はサイミントン委員長との質疑の中で、「核持込み」を「イントロダクション・オブ・ニュークリヤ・ウェポンズ」introduction of nuclear weapons into Japan, すなわち「核持込み」を「イントロダクション」と英語では表現している。
   この「イントロダクション」には、寄港、領海通過までも含んでいると米側が果たして了解しているかどうか疑問に思われたので、昭和四十六年五月十四日の衆議院内閣委員会において私は以下のような質疑を行つている。
   (注)崎 「日米了解になつているこの『持込み』というのは英語でどうなつているか」
   吉野アメリカ局長 「おそらく『イントロダクション』ということばを使つているだろうと思います」
   (注)崎 「イントロダクションという英語の中には、貯蔵、配備、一時通過、それが含まれますか」
   吉野アメリカ局長「そのとおりでございます」
   (注)崎 「それはどのように立証されますか、アメリカとの間にそこまで(その解釈を)詰めてやつておりますか、詰めてやつておればそれを証明するものがありますか」
   しかし、「イントロダクション」に領海通過も含まれているとする日本側の解釈について米側が果たして了解しているかどうかの肝心の点については、日本政府はついにそれを明らかにせず、曖昧な態度で今日まで終始してきたと思われるがこの点はどうか。
 2 昭和四十三年三月十一日(衆議院予算委員会)十二日(同第二分科会)両日、私は核の取外しのきかないポラリス原潜を例にとり、以下のような質疑を行つている。
   (注)崎 「アメリカの第七艦隊が核装備していれば、事前協議の対象になり、寄港を拒否するというが、領海の無害航行は核搭載艦でも事前協議の対象にならず、これは認めるという見解か」
   三木外相 「領海内の無害航行に対しては事前協議の条項にかからないという従来の政府解釈に従う」
   (注)崎 「それはジェントルメンズ・アグリーメントで決められているのか」
   三木外相 「一般的にそのように『日本が解釈をしておる』ということだ」
   (注)崎 「これは重大だ、無害航行として核をもつた艦船が領海内にはいつてくる。それなら非核三原則と矛盾する」
   佐藤首相 「領海内の無害航行は国際法上認められている、それはわが国としても認めざるをえない」(43・3・11衆・予)
   (注)崎 「ポラリス原潜が核抑止力として日本の領海を航行するのも無害航行というのか」
   三木外相 「三十五年の安保国会の速記録では『スーッ』と通るときは無害航行で事前協議にはかからないと答弁している。『スーッ』と通り抜けるだけでは、核を『持ち回つてはいる』が『持ち込み』ではないから『事前協議の条項にはかからない』ということだ」
   (注)崎 「領海条約では軍艦は沿岸国の規則を守らねばならぬことになつている。安保条約で事前協議条項を設けている日本がなぜ適用しないのか」
   三木外相 「領海をかすめて通り抜けるようなことは、日本に限らず、世界にもありうるが、それだけで無害航行を束縛するわけにいかない。またこの場合は『安保条約でいう装備の重要な変更には当らない』と解釈している」(43・3・12衆・予・第二分科会)
   以上のとおり、核搭載艦の単なる領海通過は「安保条約でいう装備の重要な変更」には当らず、したがつて事前協議の対象にはならないというのが当時の佐藤内閣の明確な国会答弁であり、ライシャワー発言と完全に一致している。しかもそれは三木答弁で明らかなとおり「日本がそう解釈している」と日本側独自の解釈として打ち出している。
   宮澤官房長官が五月二十日の記者会見で、「佐藤内閣の前後を通じて日本政府の解釈は一貫している」という発言をしているが、少なくとも領海通過に関する限りこれは事実に反すると思うがどうか。
 3 その後本問題に関する日本政府の見解(国会答弁)は左右に揺れ動き、結局、昭和四十九年十二月二十五日、参議院内閣委員会における宮澤外務大臣の統一見解「米国軍艦の領海通航と事前協議について」の発言となつたのである。すなわち「宮澤国務大臣去る十月三十一日、当委員会で御論議のございました核武装と領海通過の関係に関しまして、政府の見解を申し上げます。一般国際法上の外国軍艦の無害通航の問題に関して政府が昭和四十三年領海条約加入の際明らかにした立場、すなわちポラリス潜水艦その他類似の常時核装備を有する外国軍艦によるわが領海の通航は、領海条約第十四条4にいう無害通航とは認めず、したがつて、原則としてこれを許可しない権利を留保するとの立場には変更はない。日米安保条約のもとにおいて、米国軍艦は、一般的には同条約及び関係取りきめの規定※に従つて自由にわが領海通航を行なうことを認められているところ、『核の持ち込み』が行なわれる場合はすべて事前協議が行なわれることとなる。」以上が本問題に対する最終的な統一見解である。しかし、この統一見解にも焦点は依然として曖昧にすり替えが行われている。すなわち最後のところで、「核搭載艦が領海を通過する」場合はすべて事前協議が行われることになるとすべきところを、また元にもどして「核の持込み」が行われる場合はと逃避している。
   一歩譲つて考えてみても、その統一見解が出された昭和四十九年十二月二十五日までは、日本側の解釈は、少なくとも核搭載艦の「領海通過」に関しては事前協議の対象となる「核持込み」とは解釈していなかつたことになり、「日本側の意に反して行動しない」という米側も「日本側の意」が以上のとおりであつたのであるから、米側の解釈も当然、核搭載艦の単なる「領海通過」は事前協議の対象にならないと了解していたであろうし、領海通過に関する限りライシャワー発言のとおりということになるではないか。内閣の明確な見解を問いたい。
    ※安保条約関係取極めの規定とは地位協定第五条(1)(「二」参照)
 4 昭和四十九年十二月二十五日の政府統一見解を受けて直ちに私は二日後の四十九年十二月二十七日、「核兵器積載艦船の我が国領海内通過をめ倶る政府統一見解に関する質問主意書」を議長宛に提出した。同質問主意書に対する昭和五十年一月二十一日付三木首相答弁書によれば、「核持込みは常時核装備艦船の領海内一時通過や一時寄港までも含むのか」との質問に対し「核の持込みに該当すると考える」と答え、「(その)統一見解は米国政府と相互に確認合意されているか」、また、「事前協議の解釈について米国政府と(この際)再調整する考えはないか」との質問に対しては「その必要はない」と答弁している。
   しかも、「かかる軍艦が我が領海を通航するに当つては無害通航を認められず、したがつて我が国の通過許可を求めるべきものと考える」と答え、安保条約の「事前協議条項」ではなく、領海条約との関係で単なる「事前通告」に問題点をすり替えている。
   なぜ安保条約の事前協議事項として拒否するといえないのか。
二 安保条約第六条に基づく地位協定第五条と本問題の関係
  地位協定第五条では、米艦船及び航空機は日本の港又は飛行場に自由に出入する権利が認められている。この地位協定第五条と核搭載艦船の寄港及び領海通過との関係を明らかにされたい。
  矛盾するのではないか。
三 前述のサイミントン委員会聴聞会議事録に添付されている米国防総省資料P一四五二には、横須賀の米海軍兵站部の役務を具体的に列挙しているが、その(2)の中に「Tranship and provide intransit storage〔deleted〕」(艦船からの移し替え、一時貯蔵=削除=)という箇所がある。この〔deleted〕(=削除=)の部分について米軍事問題権威筋は昭和四十九年十一月一日、この削除部分は「For Nuclear Weapons」であると言明している。すなわち横須賀の米海軍兵站部の役務と機能の中には、「核兵器の艦船からの移し替え、一時貯蔵」の機能を有していることを言明しているのである。
  過去から現在に至るまで、何度か横須賀の米海軍「核」貯蔵庫の存在が具体的に明示あるいは証言されてきた。
  政府はこの際、その〔deleted〕(=削除=)の部分が何であるかを米側に再度照会して疑惑を解明すべきであると思うがどうか。
四 園田外相は、五月二十日マンスフィールド駐日大使との会談でマ大使が、四十九年秋のラロック証言の際当時のインガソル国務長官代理が示した「米政府は安保条約にともなう取極め、とくに事前協議制によつて、日本の非核政策についての約束を順守することを再確認する」という主旨の見解に言及して、「米政府のこの見解は現在も変つていない」との大使言明でライシャワー発言問題は解明されたようなことを記者会見で報告しているが、マ大使発言は従来の米政府見解を単に追認したに過ぎず、今回ライシャワー氏が明らかにした「核軍艦の寄港及び領海通過は日本政府も了解ずみ」との発言を否定も肯定もしてはいない。
  これでは、問題の焦点である「イントロダクション」に関する日米双方の解釈の相違を何ら解明したことにはならない。
  政府はこの点の解明を米側に徹底して迫り、国民の疑惑を晴らすべきだと思うがどうか。

 右質問する。





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