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昭和五十八年一月七日提出
質問第一号

 政府がすすめつつある農産物輸入の自由化・枠拡大等に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和五十八年一月七日

提出者  寺前 巖 野間友一

          衆議院議長 福田 一 殿




政府がすすめつつある農産物輸入の自由化・枠拡大等に関する質問主意書


 政府は、昨年暮、トマトジュースを始め農産物六品目の輸入枠の拡大や最低輸入量の保証、農産物四十四品目とたばこ、ビスケットなどの関税引き下げを決定した。更に、牛肉、オレンジ類の自由化・枠拡大や非関税障壁の撤廃など新たな市場開放措置の検討も伝えられており、それらをあわせて、今月中旬の首相訪米に際しての“みやげ”にしようとしている。
 これは、「日米関係維持」を理由に、激しさを増すアメリカの市場開放要求を受け入れ、多くの農民の強い反対の声を押しつぶそうとするものであり、不当極まるものである。
 この問題は、農産物個々の輸入枠や関税をどうするかということにとどまらず、日本農業の位置付けや経済、貿易政策から外交姿勢全般にかかわる重要な内容が含まれており、真に国民の利益を守る立場からの対処が求められると考えるので、以下、政府に質問する。

一 アメリカの主張の不当性について
 1 アメリカは、農産物が日本の市場閉鎖性の象徴であるかのごとく主張している。しかし、我が国は、農産物の純輸入額で既に世界最高となつており、関税率、輸入制限のいずれをとつてもアメリカ、ECと比べ“閉鎖的”とは言えない。
   しかも、日本を“閉鎖的”と非難するアメリカ自身、農産物の輸入制限や保護政策を様々な形でとつている。昨年に入つて、砂糖の輸入枠を削減し、日本に自由化を迫つている牛肉についても、国内牛肉生産保護のためオーストラリアに対米輸出の自主規制を求めている。更に、ガット発足以来、アメリカは絶大な影響力を行使して自由化義務免除(ウェーバー)を取得し、乳製品、落花生など十三品目についていまなお輸入制限をしている。しかも、それについてECなどから「三十年前の暫定措置として認められたものをいつまで続けるのか」との批判を受けたのに対して、農業の社会的経済的特殊性を理由の一つとして挙げているのである。
   自国の競争力のない農産物には保護措置をとりながら、他国には市場開放を求めるというアメリカの態度は全く身勝手であり道理がないことは明らかである。
  ア 政府は、日本の農産物市場が国際的にみて“閉鎖的”との認識に立つているのか。
  イ アメリカの態度を身勝手とはみないのか。
  ウ アメリカの主張を堂々と批判すべきだと考えるが、どうか。
 2 アメリカは、農産物市場開放要求の論拠の一つとして、国内経済の停滞による保護主義の台頭を挙げている。しかし、米経済停滞の最大原因が軍拡最優先による民間投資と技術開発の立ち遅れ、財政赤字の拡大、異常な高金利政策にあることは米国内でも常識となつている。
   昨年九月のIMF総会で渡辺蔵相(当時)は、「世界的なインフレと景気停滞の原因」として
   「軍事費増大」を挙げているが、政府は、軍拡と経済危機の悪循環を断ち切るようアメリカに要求すべきであると思うが、どうか。
二 日本農業の保護について
 1 加工トマト、雑豆、落花生などは、水田転作の重要作物として、あるいは、畑作農業の輪作作物の一つとして、それぞれの産地において積極的な振興策がとられ、地域農業の発展に重要な役割を果たしてきた。今回の農産物六品目の拡大は、その努力に水をさし、特産物の生産に大きな打撃を与えるものである。例えば、トマトジュース輸入枠の六倍強への拡大は、消費減退と在庫の増加でこの二年間に四割もの作付削減を強いられている加工トマト生産農家に、一層の生産縮小を余儀なくするものである。
   政府は、六品目の枠拡大が国内生産に重大な影響を与えるとは考えないのか。それとも、これら作物の生産衰退も止むを得ないと考えているのか。
 2 農産物の関税引き下げについても、日本農業に新たな打撃となるものであり認められない。とりわけ、たばこ関税については、既に昭和五十六年度に九〇パーセントから三五パーセントへ一挙に引き下げられ、たばこ輸入量の増加と国産葉たばこの生産縮小がもたらされている。これを更に二〇パーセントまで低下させることによる国内葉たばこ農家への影響を、政府は一体どのように試算しているのか。
 3 アメリカが当面最も関心を注いでいる牛肉、かんきつ類は、政府自身が農基法農政以来、選択的に拡大をすすめてきた部門であり、我が国農業の基幹作物である。その牛肉生産は、現在、価格低迷や生産コストの上昇、負債の増加などによつて経営不安を強めており、また、温州みかんも生産過剰で二割の作付転換を行つているところである。それだけに、牛肉、オレンジの自由化はもちろん、枠拡大も国内生産に重大な打撃を与えることは明らかである。
   中曽根総理は、昨年十二月十九日、富山での記者会見で、農産物の「段階的な輸入枠拡大」の考えを表明したが、
  ア 牛肉、オレンジについても「段階的輸入枠拡大」で対処する考えなのか。
  イ この「段階的」というのは、将来、牛肉、オレンジの「完全自由化」を含むものか否か。
  ウ 牛肉、オレンジの新たな市場開放を一切しないと約束できるのか。
 4 財界は、アメリカの要求にこたえることが自動車など工業製品の対米輸出を確保する道だ、と主張し、「オレンジと日本経済をさしちがえるようなばかなまねはすべきでない」(稲山経団連会長)とまで言つている。政府はこの驚くべき財界の論理を是認するのか、それとも、「農民を殺して何の経済か」の立場から厳しく批判するのか。
   しかも、このような財界の主張は、輸出偏重型の日本経済を依然として続けることによつて対外経済摩擦を一層激化させ、他方で、農業の衰退による国土の荒廃を招くなど国民全体の利益に反するものとならざるを得ない。政府の見解を問う。
 5 この二十年来、我が国は、アメリカなどの要求に屈し、次々と農産物市場を外国に明け渡してきた。輸入農産物のはんらんは、今日、国内農産物の「過剰」と市場不安を広げ、農業と農家経営に重大な困難をもたらす最大の要因となつている。更に、国民食糧の半分以上を外国に依存せざるを得ないという国の存亡にもかかわる極めて不安定な状態を生み出している。
   しかも、農水産物の残存輸入制限二十二品目をすべて自由化したとしても、アメリカの貿易収支の改善は十億ドルにも達しないと言われ、対日貿易赤字百三十四億ドル(一九八一年)のほんの一部に過ぎない。日米間の貿易摩擦は、農産物市場を少々開放した程度では全く解消されず、アメリカの要求に農産物でこたえるというパターンが続く限り、最後には、国民の主食であり日本農業の大黒柱であるコメまでも外国に明け渡すという事態にゆきつかざるを得ない。
   いまこそ歯止めをかけなければならない時期である。「日本政府は圧力をかければ譲歩する。圧力をかけつづけなければならない」(米下院外交委員会報告書、一九八二年三月)というアメリカ政府の対日外交政策に屈従する態度をとり続けるのか、それとも、日本農業と国民全体の利益を守る自主的外交姿勢をとるのか、政府の基本見解を最後に問う。

 右質問する。





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