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昭和六十年十二月九日提出
質問第一七号

 捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約第六十七条の誤訳に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  昭和六十年十二月九日

提出者  渡部行雄

          衆議院議長 坂田道太 殿




捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約第六十七条の誤訳に関する質問主意書


 昭和二十八年十月二十一日条約第二十五号として公布された「捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約」第六十七条の、「その俸給の前払並びに第六十三条第三項及び第六十八条に基いて抑留国が行つたすべての支払は、敵対行為の終了の際、関係国の間の取極の対象としなければならない」の規定にある「抑留国」は、「捕虜が属する国」と訳すべきものである。しかるに、「外務省仮訳」及び法制局長官が決裁した上外務大臣が内閣総理大臣に提出する「閣議請議書の邦語正文」並びに内閣が国会の承認をうけ、天皇が昭和二十八年十月二十一日公布した「条約の邦語正文」は、いずれも「捕虜が属する国」とすべき処を「抑留国」と誤つて訳したままなされている疑いがある。
 よつて、次の点について質問する。

一 右「外務省仮訳」及び「閣議請議書の邦語正文」並びに公布した「条約の邦語正文」の「抑留国」とある部分は、誤りでないか。
 1 本条約の正文とされている英語及び仏語によれば、邦語正文において「抑留国」と訳された部分は、
   英文「……all payments made by the said Power……」
   仏文「……tous les paiements executes par ladite Puissance……」
  とあり、これを訳すれば「当該国が行つたすべての支払」と訳すべきことは当然であつて、第六十七条の文理解釈上、右の「当該国」とは、直前に出ている「捕虜が属する国」を指すと解すべきである。
   第六十七条には「抑留国」という語は出てこないのであるから、仮に「抑留国」のことを表現しようとするならば、右英文及び仏文においても、「当該国」という表現を使わず直截に「抑留国」と表現したはずである。
 2 第六十七条は「第六十三条第三項及び第六十八条に基いて当該国が行つたすべての支払」と規定するが、第六十三条第三項は、捕虜の自国に向けての支払いに関する規定で、その支払行為は捕虜の所属国が行う(抑留国は通告書を送付するのみである。)ものであり、第六十八条は、捕虜の補償請求は所属国に対してなすべしとする規定で、この支払いもまた捕虜の所属国が行う(抑留国は証明書を交付するのみである。)ものであつて、この点からも、第六十七条の「当該国」が「捕虜が属する国」を意味することは明白である。なお、第六十八条中には、捕虜期間中使用が必要な個人用品について抑留国による「現物支給」を定める部分があるが、これはあくまでも代替品の支給(shall be replaced remplacera)のとであり、「支払」のことではない。
 3 かくして、第六十七条の趣旨は、国家間の関係では本来は、捕虜が属する国が負担すべきであるが、捕虜との関係では抑留国が支払つた俸給の前払いや、その反対に、国家間の関係では本来は抑留国が負担すべきであるが、捕虜との関係では捕虜が属する国が支払つた労働災害に対する補償金等について、最終的に取り決めるべしと定めるものに他ならず、こう解してこそ、本条約全体を整合的に理解できるのである。
二 右部分の訳文が誤りであるとするならば、この誤りは如何なる事由からなされたのか明らかにされたい。
  右訳文の誤りは、単なる英文及び仏文の本条約の誤りにしては単純すぎるものであり、何らかの根拠、理由を想定した上で意訳したものではないか。
 1 本条約を訳するに際しては、捕虜が抑留国並びにその属する本国によつて人道的に手厚く保護される必要のある存在であることについて、また、本六十七条が成文化されるに至るまでの歴史と国際慣習法についての正しい理解が要請されるところである。よつて、右意訳をほどこした者及び右意訳の誤りを看過した関係各位におかれても、右の点に関する理解が不足している疑いがある。そうであるとすれば、捕虜の地位についての認識の誤りは早急に是正されなければならない。
 2 特に本項は、捕虜の属する本国の支払責任に関連する部分であつて、右誤訳に基づいて、捕虜が抑留中受けとれなかつた労働賃銀や労働災害の補償等は、すべての抑留国の責任であつて本国に支払責任は一切ないとする根拠に使用されることは許されないところである。
三 また、この誤りは、今後如何なる方法で是正されるか明らかにされたい。

 右質問する。





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