衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成三年二月二十二日提出
質問第五号

 一時払い養老保険の配当利回り決定に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  平成三年二月二十二日

提出者  竹内 猛

          衆議院議長 櫻内義雄 殿




一時払い養老保険の配当利回り決定に関する質問主意書


 一九八五年のプラザ合意に基づき、金融当局及び政府は我が国を歴史的な低金利時代へと導入したが、その結果経済はバブル化し、拝金主義の横行と地価高騰による生活破壊という大きなつけを国民に残したまま、今や破綻しようとしている。ここに至り、手段を選ばず過剰融資に狂奔した金融機関のモラルと、我が国経済をバブル化に導きながら、旧態依然の法体系、税制を是正することなく、ひたすら己の地位保全のために企業優先と国民軽視の不平等政策を護持してきた官僚機構の怠慢とが厳しく追及されなければならない。
 標記に掲げる質問の主意は、大蔵省の手厚い保護の下に契約者、とりわけ個人契約者をないがしろにした暗室的経営とカルテル的な業界体質を維持することにより、いわゆる「セイホ」として世界的に強大な金融力を持つに至った生命保険業界の在り方、その監督官庁として同業界に強い指導力を持ちながら、この実態を放置し、或いはむしろその温存を図ることで、行政指導の名の下に国家予算に替わる金融政策実施の武器としてその金融力を利用している大蔵省の監督行政の在り方、経営実態に関する情報が国民に知らされず生保業界と大蔵省の当事者間において処理されるという両者の密室的な関係、これらを質すことにより、生命保険各社の経理情報を広く国民に公開し、公正な契約関係が保証されるようなシステムの確立を要求することにある。
 周知のように、一時払いの養老保険は契約者に対し、契約期間満了時に満期保険金のほかに配当金が付加されて支払われるという保険商品である。一時は利回りが八%を超えていたこともあって一九八五年以降の低金利時代には、定期預金等の一般金融商品に比較し際だって高率利回りとなり、大変な人気を呼んでいた。当時、生命保険会社はその高率利回りを全面的に強調したパンフレットを作成し、そこに満期保険金に加え、過去の配当実績に基づく受取り予想額まで印刷して勧誘したため、保険制度への高い信頼性の裏付けもあって、一時払いの養老保険の契約率は他の金融商品に対し圧倒的優位に立つに至った。
 このため、その配当の高さに対し銀行等の金融業界からクレームがつき、一九八七年四月、大蔵省当局は生保業界に対し配当率を下げるよう行政指導を実施した。これに呼応し生保業界の各社は一斉に配当の引下げを行い、しかもその方法は新規契約分だけでなく既契約分も引下げの対象とする一方的なものであった。
 これにより、既契約者の満期受取額は激減し、その分生保業界には多額の内部留保が生じることとなった。一例を挙げれば、一九八六年に保険額一五〇万円の五年満期一時払い養老保険に加入したものは、当初パンフレットに記載された利回りから予想された満期配当金約一五万円が、実際はその五分の一の三万円しか付加されないこととなり、その理由については保険会社から何の説明もないという。つまり、一二万円の差額が生じており、仮に加入者一〇〇〇万人とすれば一兆二〇〇〇億円の金が生保業界に留まることになる。然るに、一九八四年度から一九八九年度までの決算報告書によればD生命保険会社の経営実態は良好であり、配当率を下げることの必然性は認められないのである。
 この点から、配当率引下げという大蔵省の行った行政指導の正当性について、また大蔵省監督の下にありながら、パンフレットに掲載した高率配当を一方的に反故にするという、生保業界が犯した背信的行為について、更に契約者に支払われなかった巨額配当金の行方について、大きな疑念を感じざるを得ない。以上の疑念を晴らすため以下に質問をする次第である。

一 生命保険会社の経理内容については不明朗で、外部の人間が決算報告書等により保険料収入の使途等その経営実態について把握することは困難であることが従来より指摘されているが、国民に代わってその監督に当たっている大蔵省はどのような形で実態を把握し、指導されているのか伺いたい。特に、個々の保険会社についてその経営内容が健全であるかないかの判断は如何なる指標に基づいて下されるのか御説明願いたい。
  また、生命保険会社が相互会社の形態をとる以上、保険料収入及び企業活動により生じた利益は総て契約者に帰属する訳であるから、その会計報告及び配当割合決定の根拠については監督官庁のみに止めず契約者全てに、理解できる形で説明すべきだと考えるが、見解を伺いたい。
二 大蔵省が保険業界に行った行政指導等について伺いたい。一九八五年以降、我が国は猛烈な円高局面に入り、当時のドル資産は大幅に下落した。米国経済を支える意味から、日本の生命保険会社は大量の米国国債を購入しており、それにより巨額の損失を蒙ったが、それにも拘らず購入を継続した裏には、大蔵省の圧力があったのではないか。一九八七年二月八日の朝日新聞に「大蔵省の業界へのささやき戦術」として囲み記事が載っていたが真偽のほどを伺いたい。仮に事実とすれば、私的契約により保険会社に納められた保険料があたかも国家財政のごとく扱われ、損失を蒙ると判っている米国国債の購入を強制されたことになり、財産権の侵害と考えられるが御説明を願いたい。
  また、一九八七年四月二日の同新聞に「生保積み立て利率引き下げ、他の金融商品より割高、大蔵省が指導」なる記事が掲載されており、同じ主旨の記事はその他の大手新聞社によっても報道されている。
  このような報道が事実とすれば、生保と契約者との間における契約関係を損なうものであり、不当な指導と考えるが御意見を伺いたい。また、仮にそのような事実を否定されるならば、主要各紙が報じたこの記事による社会的影響が大であることに鑑み、直ちに報道の訂正を求めるべきであったと考えるが、それをしなかったのはなぜであるか、御説明願いたい。
三 配当金の利率の決定根拠について伺いたい。二でも質したが、一九八七年四月の行政指導に基づき実施された配当金の利率引下げのその根拠を尋ねたい。一九八四年度から一九八九年度のD社の決算報告書並びに損益計算書によれば、経常利益の総資産に対する割合は一見低下しているようになっているが、これは責任準備金としての計上額を急激に増加させているためではないか。もし保険料収入に対する責任準備金の割合を一九八四年度の水準に固定したとすれば経常利益の総資産に対する割合は逆にかなり増加する計算となり、経営状態はより強化されていたと判断される。更に、この期間において保険料収入の伸びに比べ剰余金の伸びは低く、一方総資産の伸びと負債の伸びは異常に高い。以上のことから判断すると、D保険会社の運用収益は悪化したのではなく、会計上の操作により責任準備金を増額させて悪化したかの様に装われているにすぎない。また、配当金の率が各社の経営実績を反映したものとすれば、その率に差が生じるはずであるにも拘らず実際は各社横並びであるのは不可解であり、作為に基づくものとしか受け取れない。よって大蔵省指導の下に行われた配当金の率決定は何ら正当性を有しないばかりか、独占禁止法に言うカルテルに該当するのではないか。各社における配当率決定の根拠について、当局による納得のいく説明と見解を伺いたい。
四 いわゆる責任準備金について伺いたい。再び一九八四年度から一九八九年度のD社の決算報告を基にして伺うが、この間急激に増加した資産の内、株式、外国証券、不動産の伸びが際だっており、一九八九年度のそれらの資産額は一九八四年のそれらの実に三倍から四倍になっている。また、同様に責任準備金の伸びを見ると二・六倍である。一方、その間の保険料収入の伸びは二倍弱であり、剰余金に至っては一・五倍に過ぎない。これらの伸びの差は一九八六年度決算から急増しており、いわゆるバブル経済の始まりと一致する。このことから、責任準備金と称するものの実態が、いわゆるバブル経済に象徴される株式、不動産への投資であり、大蔵省のささやき戦術で購入させられた外国証券であると判断されるが、当局の見解を伺いたい。
  このように本来契約者に支払うべき配当金を内部留保し、株式、不動産購入の資金に充てた生命保険業界の行為は、横領に近いものであり、また自らバブル経済を煽る反社会的なものであったという点で二重の悪事を重ねたといえる。これに関し、国家の財政を預かり、保険業界を監督指導する立場にある大蔵省の見解を伺いたい。
五 生命保険会社の社長、役員、社員の給与水準は他業界に比較して高レベルにあると言われる。また、正当性もなく配当を引き下げ、契約者に犠牲を強いておきながら、自らの給与を引き下げるどころか逆に、高率の昇給、多額のボーナス支給を実施していると聞く。これが事実とすれば、社会通念上、到底容認されるものではない。生命保険会社は、その給与実態を企業秘密として公開しようとしないが、もともと給与は契約者の保険料から支払われるものであり、その水準は債権者でもある契約者の承認を得る必要があると思われる。生命保険会社における給与実態について大蔵省はどの程度把握しているか、またその水準について契約者の容認できる範囲であると考えているのか、御説明願いたい。
六 最後に、生命保険会社の勧誘方法とその効果について伺いたい。一九八五年当時、生命保険会社が配付した一時払いの養老保険のパンフレットには、満期時の受取予想額が印刷され、高率配当が大きな活字で印刷されていた。確かに、パンフレットの片隅に「配当は過去の実績に基づくもので約束するものではない」と小さく但し書が記載されてはいた。しかしその構成から判断して、これは明らかにその有利性のみをアピールする目的で作成されたものであり、満期時の受取額が予想額と著しく異なる場合は誇大広告に該当するのではないか。
  そもそも保険制度は契約期間が長期にわたり生活設計に与える影響も深刻であるため、万全の信頼関係がなければ存続し得ない制度であり、だからこそ大蔵省の厳しい監督の下にその確立が図られてきた訳である。こうした背景や、一九七四年以降一三年間も積み立て利率の改訂がなかったこと、しかもパンフレットは大蔵省の監督の下に作成されていることなどから考えて、契約者と保険会社との間には契約の前提として、保険制度への国民的信頼の確立が成立している。保険会社及び契約者が先の但し書によって、平常時において受取配当が予想額の五分の一になることを合意していたとは考えがたい。生命保険会社は、自社の配当能力に自信があったからこそ自ら配当予定額を記載し、これに多少の誤差を見込んで契約条件としたと考えるのが妥当である。よってこのパンフレットを用いて勧誘した場合、正当な事由もなく配当率を引き下げるのは契約者に対する契約不履行であると考えられ、でなければこのパンフレットは契約者に過大な期待を抱かせるように作成されていた訳であり、不当景品類及び不当表示防止法に言う不当表示に当たるものと考えられるが、当局の見解を伺いたい。

 右質問する。





経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.