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平成十年三月十二日提出
質問第一八号

伝統的建造物の檜皮葺に欠かせない檜皮不足問題に関する質問主意書

提出者  寺前 巖




伝統的建造物の檜皮葺に欠かせない檜皮不足問題に関する質問主意書


“雪は檜皮ぶき、いとめでたし
すこし消えがたになりたるほど
また、いと多うしも降らぬが
かわらの目ごとに入りて
黒うまろに見えたると、いとおかし
しぐれあられは板屋、霜も板屋、庭”
 これは清少納言の枕草子の一節であり「雪は檜皮ぶきの屋根に降ったのが、たいそうすばらしい。少し消えそうになっている頃がよい。〔中略〕しぐれやあられは板屋根(こけらぶき)に降るのがおもしろく、霜は板屋根から庭に降ったほうがよい」と檜皮葺、こけらぶきの冬の美しい情緒を歌っている。
 檜皮葺の社寺建造物は近畿を中心に存在している。素材の性質上、おおよそ三十年ごとに葺き替えなければならないにもかかわらず、最近は葺き替えに必要な良質の檜の皮 ― 檜皮(ひわだ)の確保が困難になっている。
 檜皮葺の建造物の多くが、国宝や重要文化財で、世界遺産に登録されているものも多く、これら文化財の保存のため、良質な檜皮の確保は欠かせない。
 また、檜皮葺、板葺などの屋根工事に従事する技術者の高齢化が進んでおり、原皮採取者の育成とあわせ、その対策が求められている。
 現在、指定文化財だけで年間約三千三百八十平方メートルの檜皮が必要といわれている。しかし、檜皮の供給量は、年間約一千七百四十平方メートルという試算があり、必要量の半分にもみたない。ましてや、未指定文化財を含めた必要量約七千八百平方メートルからみれば二十%足らずである。故に銅葺屋根に変えたり、部分的修理で延命の措置がとられたりしている。また、赤皮(伐採した檜から採取するもの)によって施工されているが、油脂分が少ないため耐久性に劣り、葺き替え周期が短く、所有者にとっては維持するのに困難をもたらしている。
 よって以下、質問する。

一 文化財保護関係者の試算によれば、全国の伝統的建造物の檜皮葺に必要な檜林の採取面積は、指定・未指定文化財あわせて、約三千三百四十ヘクタールが必要といわれている。ところが、現在の檜皮採取林の面積は約六百六十八ヘクタールであり、その差約二千六百七十ニヘクタールの檜林面積が必要となっている。
 (1) 国立大学演習林の檜皮提供への共同研究が始まったが、どの程度確保できるか不明である。全国の国有林で、樹齢八十年以上の檜林の面積は、約一万二千四百ヘクタールあるといわれている。
     安定的な檜皮の確保のため、国有林の一定部分を檜皮提供林として位置づけられるよう研究すべきだと考えるがどうか。
 (2) 民有林での採取の場合、最近、皮を剥ぐときヤニツボができ、剥いだ年は日焼けして色目が悪い。また、下枝を落とすと外見上無節に見えるなどの理由で、皮剥ぎを断る山元が生まれている。建築資材として檜に与える影響を科学的に解明し、安心して採取に協力できる環境を整えるよう専門家の協力なども得て対策を講ずるべきだと考えるがどうか。
 (3) 檜皮を採取する樹齢は、直径一尺程度で、おおむね百年以上、三百年までがもっとも適しているといわれている。ところが山元は、六十年をめどに出荷するというサイクルになっているため、檜皮の提供林は極めて制限される。
     また、檜皮の採取は十年に一回の割合で採取できるといわれている。原皮師から山元に支払われる礼金はわずかであり、そのため百年以上三百年の樹齢にたいし、十年に一回という条件で檜皮確保に協力してくれる山元は少ない。
     国宝等重要文化財の保存修理補助制度などを拡大し、これら文化財保護のための材料提供に協力する山元にたいしても、補助の対象にするよう検討すべきだと考えるがどうか。
     さらに、相続税の負担が山元の山林処分の理由の一つになっている。そこで檜皮提供山元に限り、租税特別措置法第七十条の六(農地等についての相続税の納税猶予等)のように相続税の軽減のため特別措置を検討すべきだと考えるがどうか。
二 檜皮の最良のものは、丹波産の黒背皮(くろせがわ)であるといわれている。現在の立木よりの採取の中心は、京都の洛北と、京都と兵庫にまたがる丹波地方である。今、この原皮の採取者である原皮師の減少が良質な檜皮確保の障害になっている。かつて五十人いた原皮師が今では丹波に八人、全国あわせても十五〜十六人である。その原皮師も二十歳代一人、三十歳代一人、あとは熟練者で八十歳代も含め五十歳以上という状況である。
 (1) 文化庁がおこなっている「文化財の次世代への継承・発展」事業の中で、「文化財の保存修理」及び「伝統文化の後継者養成確保」において、原皮師の技術を文化財の保存すべき技術として認定し、国の責任で原皮師の育成、教育の拡充をはかる必要があると考えるがどうか。
     また、社団法人・全国社寺等屋根工事保存会が運営する研修所の教育過程で、原皮師の作業が位置づけられているが、原皮師の子息がただ一人修了し、原皮師に従事しているにすぎない。
     社団法人・全国社寺等屋根工事保存会と協議し、規模の拡大や応募数の推進など、抜本的な援助と対策が必要と考えるがどうか。
 (2) 原皮師の作業条件、労働条件の向上も原皮師の確保に欠かせない。後継者を育てるためにも身分保障、社会保険や週休など福利厚生がたいせつである。この面での支援とあわせ、我が国の文化を後世に伝える重要な役割を担っている原皮師の仕事を、周知、宣伝する事業を積極的におこなっていくことが重要だと考えるがどうか。

 右質問する。





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