質問本文情報
平成十年六月十二日提出質問第五四号
小学校の漢字教育に関する質問主意書
提出者 石井郁子
小学校の漢字教育に関する質問主意書
いま、日本の小学校では一年生の教室でも授業がまともに成立しない学級がある。このことは学年が進むにしたがってなお顕著になっている。授業がまともに成立しない理由のひとつとして、子どもたちは授業が「わからない・できない」から「おもしろくない」というのがある。それは、子どもたちが「わかるまで・できるまで」、教えることができるようになっていないからである。その原因は教育内容の過多と必要とする指導時間の少なさにある。教科書は、ずっと以前に私たちの世代が使用したものとはるかに異なった詰め込みの内容に変容しているのである。
なかでも国語科の漢字の多さは子どもにとってたいへんな重荷になっているし、小学校の国語教育のひずみの元凶のひとつになっている。
国語は、すべての教科の土台であり、知的活動の基礎である。日本人が自分の考え・意思を伝え、自分の思考をゆたかにして認識を深めていくうえで、漢字・漢字語は特別に重要な位置を占めている。そういう重要性をもった漢字・漢字語の教育において、理解・定着がしっかりはかられないまま、詰め込み教育になってしまっているのはゆゆしき事態である。
そこで、以下、小学校国語科の漢字教育について質問する。
また、第五学年国語B調査表は、あてはまる漢字を選択する問題である。五問中二問の通過率が五〇パーセント台、一問が六〇パーセント台である。
これらの問題の難易度と通過率から見て、児童の学習状況が「おおむね良好」とはいいがたい。
また、書きの前回調査(一九八一年〜一九八二年実施)との比較では、通過率に低下傾向が見られるし、選択問題はあきらかに低下している。選択問題では、五問すべてにおいて低下しており、通過率は、平均マイナス四・四パーセントである。問題によっては通過率マイナス九・ニパーセントというものもある。
文部省は、これらの結果をどのように評価しているか。いまの児童の学習状況に問題はないと判断するのか。
二 小学校第一学年の配当漢字は、現行の学習指導要領では、八〇字である。ひらがな、カタカナ指導のうえにこの漢字八〇字が加わるのである。
一年生のひらがな指導は、たんに「あいうえお……」の文字を指導すればよいわけではない。その文字の指導はもちろん、鉛筆の持ち方、線や形をかく(指導に必要な時間は6時間、以下同)、音と文字との照応(2〜3)、清音(30〜35)、濁音(4〜5)、助詞(3〜4)、促音(2〜3)、拗音(3〜4)、長音(8〜10)、拗長音・拗促音・長促音(3〜5)、特別な使い方「ぢ」、「づ」(2〜3)、まとめ(3〜5)で、70〜90時間必要であると、現場の教師あるいは研究者からの報告がある。ところが、ある有力な出版社の教科用図書の教師用書による配当時間数は、18〜19時間である。
そのうえに、カタカナ指導がはいってくるが、いつその指導をするか、時間をうみだすのも困難な現状である。カタカナは、漢字の構成要素となり、書き順も漢字に似ているので、時間を十分とってしっかり教えるようにすべきである。カタカナは、第二学年および第三学年でも指導されることになっているが、それらの学年で指導時間をうみだすことはいっそう困難になっている。
このように、小学校第一学年の文字指導の内容は、ひらがなで一二〇の学習事項があり、カタカナで一一〇、そのうえ八〇字の漢字指導がある。合計で三〇〇をこえる。
これだけの量の学習事項を習得させることが、すべての子どもにとって可能であると、文部省は考えているのか。
三 小学校第三学年の配当漢字数は二〇〇である。この数は、毎日漢字約一字ずつ学習していくことになる。
そのうえ、一・二年生時の漢字が、「山」、「川」、「学校」など、日常接する具体物をあらわすのに対して、三年生で出てくるものは、「意」、「発」、「安」など、抽象度の高い概念で使用される漢字が多くなってくる。そのため子どもたちは、新しい知識・概念を身につける漢字学習が本来は楽しくなってくるはずなのであるが、時間を十分にかけないと、理解がむずかしくなる。
ところが、毎日一字はたいへんな負担で、読み、意味、成り立ち、筆順、使われ方などを理解するには十分な時間がとれない。「たくさんの漢字に教師も子どもたちもあえいでいます」との、現場の教師の声もある。
国語嫌いの子どもが多いという調査があるが、それは漢字の詰め込みにも原因がある。機械的な書きの過密な練習が子どもを国語嫌いにさせている。
小学校三年生で二〇〇字の漢字は過多ではないか。それが国語嫌いの子どもをつくっている原因のひとつではないか。
四 文部省はいま、「厳選」という観点で学習指導要領の改定作業に入っているとおもわれる。
現行学習指導要領に基づく教育漢字の総数は一〇〇六である。このなかには、第六学年に配当されている「仁」や「操」などのように、現代日本の子どもの発達段階からみて理解が困難とおもわれる難漢字がふくまれている。また、第四学年配当の「梅」、「松」あるいは第六学年配当の「絹」などのように、抽象的概念を獲得して発達していくうえで必要性が高いとはおもわれない、その漢字一字だけでしか使用されない種類の漢字(雑漢字)がふくまれている。
子どもたちが漢字を理解しながら楽しく学習していくためには、漢字指導を、日常生活における読み書き能力の形成と概念獲得のための、ことばの指導として位置づける必要がある。そのような点から、現行の教育漢字を、のちの学習に必要な基本的漢字と、雑漢字・難漢字とにわけ、精選し、全体として教育漢字数を減らすことが必要とおもわれるが、いかがか。
五 教育課程審議会の作業は近々答申をまとめるという段階にはいっていると報道されている。
教育課程審議会は、これまでに現場の教師の研究団体あるいは教職員組合などから漢字教育の実態およびありかたなどについてヒアリングをしているのか。漢字教育の現状に批判、あるいは疑問をもっている団体から意見を聴取したことはあるのか。もしあるなら、どんな意見・疑問が出されたのか知らされたい。もしないなら、今後そういうとりくみを計画すべきであると考えるが、いかがか。
右質問する。