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答弁本文情報

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昭和四十六年十二月十一日受領
答弁第四号
(質問の 四)

  内閣衆質六七第四号
    昭和四十六年十二月十一日
内閣総理大臣 佐藤榮作

         衆議院議長 (注)田 中 殿

衆議院議員中谷鉄也君提出沖繩における軍用地問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員中谷鉄也君提出沖繩における軍用地問題に関する質問に対する答弁書





 (一) 沖繩における公用地等の暫定使用に関する法律(案)(以下「暫定使用法(案)」という。)第二条第一項第一号の「アメリカ合衆国の軍隊の用に供されている土地又は工作物」には、アメリカ合衆国の軍隊以外のものの用に供されているものは、含まれない。
 (二) また、同号の「用に供されている」とは、法的根拠(権原)に基づいて用に供されているという意味である。
 (三) 現在、沖繩においてアメリカ合衆国軍隊が土地又は工作物を使用している法的根拠は、布令第二〇号、直接契約及び市町村長の許可の三者であると承知している。

2 市町村長の許可は、米国民政府からのアメリカ合衆国軍隊の演習のための土地使用の要請に対して行なわれるもので、「許可」という文字が用いられてはいるが、それは、法令による一般的な禁止を特定の場合に解除するいわゆる行政法上の許可とは異なり、地主の承認を得たうえで行なわれる使用の同意と解している。右の同意については、米国民政府から市町村長に支払われた使用料及び損失補償金が支払いを受けるべき個人に配付されているとのことであるから、市町村長と地主との間には代理関係が成立しているものと、承知している。したがつて、右許可は、十分、土地使用の法的根拠となり得るものと考える。
 なお、「演習地域」についての市町村長の代理権限は、口頭により区長、部落長を通じて地主の承諾を得ているので、口頭によるものと承知している。


 (一) 「演習地域」は、年度更新により使用されているとはいえ、その実態は、毎年継続して使用されているものである。「演習地域」は、復帰後においては地位協定に従い使用が許される施設・区域であり、関係土地の使用期間は、ある程度の安定性が必要であること及び契約又はいわゆる地位協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法により使用権を取得するまでの期間が必要であること等を勘案して、これにふさわしい期間とすることを予定している。
 (二) 暫定使用法(案)は、沖繩の施政権返還という特殊な事態に対処するための措置であり、平和条約発効時の場合とは異なるので、新たな立法を必要としたものである。
 (三) 「演習地域」についての契約は、民有地に関しては、賃貸借類似の無名契約と解される。かかる契約がアメリカ合衆国の不動産法においてどのような法的性格を有するのかは、つまびらかでない。

4・5 原則として布令第二〇号により土地等を「収用」するに際しては、事前に琉球政府が関係地主と折衝を行ない、折衝による取得ができなかつた土地等について所要の手続を経た後に適正補償を支払うとの前提で「収用」し得ることとなつており、また、「収用」された土地等の補償額について不服のある者は、琉球列島米国土地裁判所に訴願することができることとなつている。
  右のような布令第二〇号の内容、土地裁判所の性格及び権限は、本土における法制度とはかなり異なる面を有し、土地所有者の権利保護という見地からは必ずしも十分なものであるとはいえないにしても、平和条約第三条に基づきアメリカ合衆国の施政権下にある沖繩の特殊な地位を考慮すれば、必要最小限度の法的要件はみたしているものと考える。



 (一) 暫定使用法(案)第二条第二項の告示は、同条第一項の規定により使用権の設定される土地等を具体的に明らかにして、あらかじめ関係権利者に知らせる処分であるが、それは、沖繩にわが国の施政権が及ぶ前に沖繩にある土地等について公用使用権を設定するものではなく、沖繩復帰を停止条件として公用使用権を設定しようとするものである。
 (二) 暫定使用法(案)第二条第三項の通知は、使用権発生の効力要件ではない。

2 告示の性格は、1(一)において述べたとおりであつて、その条件付き処分としての効力は、当該告示に係る土地等の所有者等が沖繩に居住していると否とを問わず、当該告示の日に発生する。したがつて、復帰前においても、これらの者が当該告示に関し不服を申し立て又は抗告訴訟を提起することができることは、いうまでもない。
  かようなわけであるから、暫定使用法(案)は、憲法第一四条、第三一条及び第三二条に違反するものではない。

3 告示については、その対象となる土地の区域等を官報に掲載し、かつ、適当な場所において関係図書を縦覧に供することにより、関係者が自己に関係する土地等が暫定使用法(案)による使用権設定の対象となつているかどうかを判断することができるような方法をとる考えであるので、本件告示が、質問にあるように、告示としての要件を具備しないとは解されない。

4 告示の内容については、小笠原の場合と同様、土地等の所在地、区域等、使用の方法及び使用期間を官報に掲載するほか、土地の区域を明示した図面を縦覧に供することにしている。この告示の内容は、暫定使用法(案)附則第二項の「この法律の内容」には含まれないが、琉球政府行政主席に通知することとしている。

5 琉球政府において質問にあるような措置をとつたとしても、その措置は、本土法に基づくものではないから、事実上の措置にとどまり、本土法上の効力を有するものではない。
  また、告示は、返還協定批准後なるべく早い時期に行ないたいと考えている。



 (一) 質問が、沖繩にある従前の沖繩県有地について、琉球政府が復帰前に訴訟を提起することができるかという意味であれば、琉球政府は、右財産について管理権を有しない現在、訴訟を提起することはできないと考える。それは、平和条約第三条によりアメリカ合衆国が施政権を有することの結果としてやむを得ないところである。
 (二) 質問の場合でも、出訴期間が進行することに変わりはないと考える。政府としては、訴訟準備のための渡航について制限されることがないよう努力したい。

2 質問の訴状添付別紙図面は、訴訟の対象たる土地が告示された区域内のいかなる部分に存在するかを識別し得るものであれば足りると考える。

3 質問の抗告訴訟については、行政事件訴訟法第一四条第一項の「処分があつたことを知つた日」とは、暫定使用法(案)第二条第二項の告示があつたことを知つた日と解されるが、沖繩に居住する関係権利者にとつては、通常、復帰後遅滞なく行なわれる同条第三項の通知が到達した日又はこれに代わる公示があつたことを知つた日がこれに該当すると思われる。


 (一) 復帰後においては、土地所有者の境界確定等の訴訟に関連して、関係人の施設・区域への立入りが必要不可欠であると認められる場合には、政府として、右立入りの要請をアメリカ合衆国軍隊の関係当局に伝達する。
 (二) 裁判所による検証が、司令官の恣意的な裁量により不許可となることはないが、アメリカ合衆国軍隊の軍事上の秘密保護の必要により、検証が制約される場合があり得る。
 (三) 立証方法は、検証に限られるわけではないから、たとえ検証を実施することができなくても、直ちに憲法上の疑義が生ずるとは考えられない。
 (四) 国の公用使用について、それが適正かつ合理的であるかどうかが訴訟上問題となる場合は、国がそのことについての立証責任を負うことになる。

5 およそ公用使用は、適正かつ合理的なものでなければならないことはいうまでもないが、暫定使用法(案)は、新たに使用を始めるというのではなく、沖繩の復帰に至るまで引き続き一定の公用又は公共の用に供されていた土地等について、従前と同一又は同種の用途のために、暫定的に一定の限られた期間内において、使用権を設定しようとするものであつて、適正かつ合理性との関係についていえば、同法(案)は、これによる個個の使用が同法(案)第二条に定める要件に該当する限り、類型として、適正かつ合理性の要件をみたしているものとしていると解すべきものと考える。したがつて、その暫定使用が同条に定める要件に該当している限り、そのうえにさらに適正かつ合理的であるかどうかが争点としてとり上げられるべき性質のものではないと考える。このことは、いわゆる地位協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法が、同法による土地等の使用等について適正かつ合理性の要件を定めているのにかかわらず、同法附則第二項による暫定使用については、その要件として特に適正かつ合理的であることを規定していないことに対比すればおのずから明らかであろう。


 (一) アメリカ合衆国軍隊の安全及び保護の確保のための立法以外の措置としては、たとえば、アメリカ合衆国の軍用機の施設・区域外における墜落又は不時着の場合の財産保護及び危険防止のために、日本の公の機関により必要な措置がとられることとなつている。
 (二) 地位協定第二三条の「措置」そのものに関する合同委員会合意は、存在しないが、刑事裁判権に関する合意(国会に提出済み)中に、関連のあるものがある。
 (三) 日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定(昭和二九年条約第六号)第三条第一項、日本国とアメリカ合衆国との間の船舶貸借協定(昭和二七年条約第二〇号)第七条及び日本国に対する合衆国艦艇の貸与に関する協定(昭和二九年条約第一三号)第六条にそれぞれ情報の秘密保護に関する規定がある。
     また、防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定(昭和三一年条約第一二号)中に秘密に保持されている特許出願等に関する規定がある。
 (四) 日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法施行令第七条の規定に基づき、防衛庁において、防衛秘密の保護に関する訓令(昭和三三年防衛庁訓令第五一号)、防衛秘密の保護に関する達(昭和三九年陸上自衛隊達第四一―三号、昭和四三年海上自衛隊達第七五号及び昭和四三年航空自衛隊達第三四号)等が制定されている。これらは、防衛秘密の保護上必要な措置として定められたものである。
 (五) いわゆる地位協定の実施に伴う刑事特別法上のアメリカ合衆国軍隊の機密保全に関し定めた訓令・通達・達等は、存在しない。
 (六) いわゆる地位協定の実施に伴う刑事特別法別表一、二及び三に掲げる事項のうち、公にするものと秘匿するものとを区分するアメリカ合衆国軍隊の基準については、承知していない。
 (七) 政府は、いわゆる地位協定の実施に伴う刑事特別法にいう部隊の編成・任務・配備・行動に関し公にされていない情報の通告を受けることもある。


 (一) 復帰後の沖繩県又は同県下市町村は、告示された区域に属する土地の所有者として、当該区域について、原告適格を有するものと考える。
 (二) 質問については、裁判所において判断されるべき事項と考えるが、政府としては、沖繩県及び同県下市町村は原告適格を有しないと考える。


1 治安出動は、自衛隊法(第七八条、第八一条)に定められた自衛隊の任務であつて、復帰後の沖繩に配備される予定の陸上自衛隊においても、一般基礎訓練のうちの教練、徒手、格技、野外衛生、救急法等が、治安出動のための訓練に活用されることとなる。

2 提供された施設・区域についてかりに地位協定に違反する使用があつたとした場合、合同委員会等において措置することができることはもちろんだが、当該施設・区域に係る土地等の所有者等がその違反について直接訴訟を提起することはできないと考える。


 (一) 自衛隊は、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当る」(自衛隊法第三条第一項)べき任務を有し、具体的には、自衛隊法に定める防衛出動(第七六条)、治安出動(第七八条、第八一条)等の行動をとることとされているのであるから、このような自衛隊が公共性を有することはいうまでもない。
 (二) 昭和二六年五月、現行土地収用法の国会審議の際、政府委員は、「国防、その他軍事に関する事業………(は)、新憲法の下におきまして、当然不適当であると考えられますので、これは廃止することにいたしております。」と答弁しているが、これは、その言葉から明らかなように、旧憲法の下におけるような国防ないしは軍事に関する事業が新憲法の下では考えられないという趣旨の答弁と解される。防衛庁設置法第五条第三号の規定によつて防衛庁が所掌事務の遂行に直接必要な施設として設置する自衛隊の施設が、現行土地収用法第三条第三一号の施設に含まれることは、同号の文理解釈上明らかである。
     また、昭和三九年五月土地収用法等の一部を改正する法律の国会審議の際、当時の建設大臣は、「軍施設を「公共の」の範囲に入れるということは適当でない」と答弁しているが、
     これは、特定公共事業の政令委任について定める公共用地の取得に関する特別措置法第二条第八号についての発言であり、自衛隊の施設に関する土地収用法の適用関係についてふれたものではない。

4 現在、自衛隊法第一〇三条(防衛出動時における物資の収用等)に基づく政令が制定されていないのは、さしあたつてこれを定めておく必要がないからである。ところで、沖繩の復帰により、わが国が沖繩における局地防衛、災害派遣、民生協力等を引き受けることは当然であり、このためには、自衛隊の配置に必要な施設に係る土地等の確保を要することもいうまでもないから、暫定使用法(案)は、その確保に必要、かつ、不可欠なものである。したがつて、自衛隊法第一〇三条に基づく政令が制定されていないからといつて、暫定使用法(案)制定の緊急性がないということにはならない。

五 暫定使用法(案)は、沖繩県民の生活に一日も欠くことのできない水道事業、電気事業、道路、飛行場、灯台等の用に供される土地をもその対象としており、アメリカ合衆国軍隊及び自衛隊の基地確保を唯一の目的としたものではない。なお、現に一般交通の用に供されている道路については、単なる道路の予定地としてではなく、復帰の日から道路法上の道路として供用する必要があるので、暫定使用法(案)がなくても支障がないということにはならない。
  また、暫定使用法(案)は、沖繩の施政権がわが国に返還されるという特殊な事態に対処するため立案されたものであり、関係土地等を一定期間に限り暫定的に使用できるよう措置しようとするものであるが、これらの措置は、公共のためのやむを得ないものであり、小笠原についての先例もあり、なんら不法不当なものではないと考える。
  以上述べたとおり、暫定使用法(案)は、沖繩の復帰と同時にこの区域の施政の権能と責任を引き受けることとなるわが国が、沖繩の復帰と同時になすべき措置の一について定めようとするものであるので、本法(案)を撤回するつもりはない。

 右答弁する。




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