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平成十年三月二十四日受領
答弁第一〇号

  内閣衆質一四二第一〇号
    平成十年三月二十四日
内閣総理大臣 橋本(注)太郎

         衆議院議長 伊(注)宗一郎 殿

衆議院議員保坂展人君提出死刑の必要性、情報公開などに関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。





衆議院議員保坂展人君提出死刑の必要性、情報公開などに関する再質問に対する答弁書



一の(1)について

 平成六年九月実施の総理府世論調査の結果によれば、死刑制度の存廃について、「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」と答えた者の割合は、十三・六パーセント、「場合によっては死刑もやむを得ない」と答えた者の割合は七十三・八パーセント、「わからない・一概に言えない」と答えた者の割合は十二・六パーセントであった。

一の(2)について

 死刑制度に関する政府の世論調査は、これまで、昭和三十一年四月、昭和四十二年六月、昭和五十年五月、昭和五十五年六月、平成元年六月及び平成六年九月の六回にわたり、総理府により実施されてきている。昭和三十一年四月から平成元年六月までに実施された五回の世論調査においては、「今の日本で、どんな場合でも死刑を廃止しようという意見に賛成か、反対か」という質問に対して、回答結果は、次の表のとおりとなっている。なお、平成六年九月実施の世論調査の結果については、一の(1)についてで述べたとおりである。

世論調査の結果


 政府は、今後も、死刑制度の存廃を考える上での参考に資するため、必要に応じて、死刑制度に関する世論調査の実施を検討することとしている。

一の(3)について

 ドイツ連邦共和国では、千九百四十九年(昭和二十四年)に死刑が廃止されているが、その背景には、ナチスによる死刑の乱用の経験があったとみられる。また、イギリスは、千九百六十五年(昭和四十年)に通常犯罪について死刑を廃止しているが、その背景には、謀殺について死刑が絶対刑として定められていたことがあったとみられる。

一の(4)について

 死刑制度の存廃の問題は、基本的に各国において当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討されるべきものであり、それぞれの国において独自に決定すべきものと考えているが、死刑制度の存廃を考える上で、諸外国における動向や経験も参考にする必要があると考えている。

一の(5)について

 市民的及び政治的権利に関する国際規約(昭和五十四年条約第七号。以下「規約」という。)第六条1は、個人が生まれながらにして有している生存する権利について規定しているものであり、この権利は法律によって保護されるべき旨及び為政者等の個人又は団体の恣意により個人の生命を奪うことは許されず、個人の生命を奪う場合には、各国の法制に従い適正な法の手続に基づく必要がある旨を規定したものであると考える。
 また、同条6は、同条4及び5が死刑の存在を前提とした規定であるところ、この規約であたかも死刑の存在を積極的に容認しているかのごとき印象を避けるため、本条の規定は死刑の廃止を遅らせ、又は妨げるために援用されてはならない旨を確認的に規定したものであると考える。

一の(6)について

 死刑の選択は、犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であって、極刑を科することもやむを得ないと認められる場合に行われるものであるところ、そのような事案がある以上、死刑制度が必要であると考えている。
 具体的事件においては、検察官は、右に述べた各般の情状の一つとして、被害者の遺族の感情を適宜の方法により立証しているものと考える。

一の(7)について

 殺人事件等の被害者の遺族の感情は、各遺族それぞれに異なるものであり、各事案ごとに、遺族の感情も含む各般の情状を併せ考察して犯人に適切妥当な刑罰が量定されるべきものと考えている。

二の(1)について

 御指摘の決議は、死刑に関する情報の公表についても要請する千九百八十九年(平成元年)五月の国連経済社会理事会決議を支持するものであるが、公表の具体的な程度については、各国の判断に委ねられていると理解しており、我が国は、死刑に関する情報については、統計等により可能な限り公表しているものであって、現状で十分であるとの認識の下に、同決議に参加したものである。
 死刑制度の存廃の問題については、国連等において議論されているものであり、国際社会で関心を集めている事項の一つであると認識しているが、死刑存置国における情報の開示は、同決議の趣旨を踏まえつつ、各国が判断すべきものであると理解しており、諸外国における公表の程度については、必要が生じた場合には把握していく所存である。

二の(2)について

 死刑の必要性、情報公開などに関する質問主意書(平成十年一月十六日提出質問第一号)二の3で御指摘の昭和五十九年三月二十七日の参議院法務委員会における答弁並びに平成元年三月九日及び同年十月三十日の非政府間組織との質疑の場での回答は、個々具体的な死刑執行の事実が推測されるおそれがないと判断される場合において、年度途中の一定の日における死刑確定の未執行者数について答弁等しているものであって、個々具体的な死刑執行の事実が推測されるおそれがある日別の死刑確定者数について答弁等しているものではないので、死刑の必要性、情報公開などに関する質問に対する答弁書(平成十年二月十三日内閣衆質一四二第一号。以下「前回答弁書」という。)二の3及び4についてのようにお答えしたものである。

二の(3)について

 個々具体的な死刑執行に関する事項を開示することについては、「個人の生活の平穏等の私的な権利利益を害し、又は公務の適正な遂行等の公共の利益を損なうおそれ」が常にあり、慎重な対応が必要であると考えている。統一的対応としたのは、議員側の御要望があったからではなく、死刑の執行などに関する質問に対する答弁書(平成十年一月十三日内閣衆質一四一第二一号)一の6についてでお答えした理由に基づくものである。

二の(4)について

 平成二年以前においては、死刑執行数は、他の統計項目と同様、関係部局の業務において、月報によりこれを把握することが必要であろうとの判断の下に登載していたものである。
 ところで、月報における「業務上の要請」とは、統計項目の月ごとの傾向を速報するというものであるが、平成二年末の法務統計月報の見直しに当たっては、統計担当部局において、改めて「業務上の要請」を具体的に検討し、その際、死刑執行数については、関係部局においてこれを登載しなくとも業務上の支障はないものとされたことから、登載を取りやめたものである。

二の(5)について

 前回答弁書二の2についてでお答えしたとおり、情報公開の程度については、それぞれの国の刑事法制等の違いを反映し、おのずからその程度に差があるものと考える。

二の(6)について

 情報公開の程度と国内世論の関係については、判断が困難な問題であると考える。

三の(1)について

 死刑確定者により、面会、信書の発受及び物品の授受の取扱いに関して精神的損害を被ったとして、その慰謝料を求める訴訟が提起されたことはある。

三の(2)について

 前回答弁書三の1についてでお答えしたとおり、死刑確定者は、極限的な状況に置かれており、ささいなことでも大きい精神的動揺と苦悩に陥りやすいことが十分推測される。このような合理的推測に基づいて、死刑執行の都度、その事実を公表することは、他の死刑確定者の心情の安定を損なうことになるものと判断している。

三の(3)について

 面会及び信書の発受について、昭和三十八年三月十五日、法務省矯正局長依命通達「死刑確定者の接見及び信書の発受について」が発出されている。同通達は、死刑確定者の面会及び信書の発受の許否に関し、心情の安定に配慮しつつその身柄を確保するという収容の目的等にかんがみ、監獄法(明治四十一年法律第二十八号)の趣旨にのっとった遺憾なき運用がなされることを目的としたものであり、その内容は、死刑確定者の面会及び信書の発受については、本人の身柄の確保を阻害し又は社会一般に不安の念を抱かせるおそれのある場合、本人の心情の安定を害するおそれのある場合、その他施設の管理運営上支障を生ずる場合は、おおむね許可を与えないことが相当であるとしているものである。
 各施設長は、死刑確定者の面会、信書の発受及び物の授受について、関係法令の規定に基づき、右通達を踏まえ適正にこれを処理している。

四の(1)について

 恩赦法施行規則(昭和二十二年司法省令第七十八号)第十条第一項及び第二項の規定により、恩赦の申出をする理由がない旨の結果のみが出願者に通知されている。これらの規定は、理由を通知しなければならない旨を定めていない。

四の(2)について

 代理人に通知しないのは、恩赦が行われるか否かについて直接の利害関係を有する本人自身に対し通知がなされれば足りると考えられるためである。

四の(3)について

 まず、上申をする監獄の長は、本人から恩赦願書を受理したときは、恩赦法施行規則第二条第一項及び第二項の規定により、恩赦上申書には、判決の謄本又は抄本及び犯罪の情状、本人の性行、行状、将来の生計その他参考となるべき事項に関する調査書類並びに恩赦願書を添付して、中央更生保護審査会に上申を行う。次に、同審査会は、恩赦上申書を受理したときは、犯罪者予防更生法(昭和二十四年法律第百四十二号)第五十四条第一項及び第二項の規定により、本人の性格、行状、違法の行為をするおそれがあるかどうか、本人に対する社会の感情その他関係のある事項について調査し、さらに、その者が社会の安寧福祉を脅かすことなく釈放されるに適するかどうかを考慮して審議を行うこととなっている。
 なお、監獄の長は、恩赦上申事務規程(昭和五十八年法務省保恩訓第二百四十五号大臣訓令)第十二条第二項に基づき、恩赦の出願に当たっては、出願者又はその代理人に、情状に関する参考資料を提出させることができる。

四の(4)について

 出願者が恩赦を不相当とする議決に対してこれを不服として争う手段はないが、恩赦法施行規則第八条の規定により、前回の恩赦出願の日から一年を経過している場合は、再出願することができる。

四の(5)について

 恩赦法施行規則第一条の二第二項の規定により、恩赦の出願が認められているのは本人のみであるが、前回答弁書四についてでお答えしたとおり、本人の代理人による出願は認められている。

四の(6)について

 請願法(昭和二十二年法律第十三号)第三条第一項に規定する請願の事項が恩赦に関するものであるときは、所管官公署は法務省である。
 当該請願書が恩赦法施行規則第九条第一項の要件を備えた本人の願書と認められるときは、上申の権限を有する監獄の長に回付し、当該監獄の長は、中央更生保護審査会に恩赦の上申をし、同審査会は、犯罪者予防更生法第三条第二項第一号の規定により、法務大臣に対し恩赦の実施について申出をするかどうかについて議決することとなる。
 その余の請願書は、請願法第五条に基づき処理されることとなる。

四の(7)について

 我が国においては、恩赦法施行規則第一条の二第二項の規定により、死刑確定者にも恩赦の出願を認めており、その出願があったときは、監獄の長は、中央更生保護審査会に恩赦の上申をしなければならないこととなっているので、我が国の恩赦制度は、規約第六条4にかなうものである。

四の(8)について

 死刑確定者からの恩赦の出願が減少している原因については、承知していない。
 昭和五十一年以降恩赦が認められていないのは、中央更生保護審査会において、その間に議決した案件については、個別に審議した結果、いずれも法務大臣に対し恩赦の申出をする理由がないと判断されたためである。

五の(1)について

 前回答弁書一の2についてで「国際的には、様々な考え方があり」とお答えしたのは、我が国政府としては、死刑制度の存廃の問題は、基本的に各国において当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討されるべきものであり、それぞれの国において独自に決定すべきものと考えているが、この点については、種々の国際会議等における各国の対応等から国際的には様々な考え方があると認識しているという趣旨である。

五の(2)について

 千九百九十四年(平成六年)の第四十九回国連総会における死刑決議案に対する日本政府の立場について国会に報告していないのは、その際の投票態度が従来からの政府の立場を踏襲したものであったこともあり、特に国会に報告する必要はないと判断したためである。
 また、特に日本政府の立場に対して、各国から意見が出されたという事実はない。

五の(3)について

 逃亡犯罪人引渡しの制限事由については、各国がそれぞれ固有の事情に基づいて定めるものであるが、死刑制度の存廃の問題は、基本的に各国において当該国の国民感情、犯罪情勢、刑事政策の在り方等を踏まえて慎重に検討されるべきものであって、逃亡犯罪人引渡しに関する法制の問題から検討すべきものではないと考えている。
 なお、我が国としては、逃亡犯罪人の引渡しに関して、引渡犯罪に法定刑として死刑が含まれていること等を理由に逃亡犯罪人の引渡しを拒否する国に対しては、その国において当該犯罪人を訴追し適正に処罰するように求め、社会正義の実現に努めているところである。

五の(4)について

 死刑制度をめぐる問題は、人権の問題にかかわるものと考えている。

五の(5)について

 ロビンソン国連人権高等弁務官からは、我が国が未締結である「拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の禁止に関する条約(仮称)」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の二つの選択議定書及び「すべての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約(仮称)」について締結の検討を進めていただきたいとの要望がなされた。

六の(1)について

 死刑は、その言渡しを受けた者の生命を断つ極刑であり、一度執行されれば回復し難いこととなるものであるから、刑の執行停止、再審又は非常上告の事由の有無、恩赦を相当とする情状の有無等について慎重に検討するために、判決及び確定記録の内容を十分精査せしめている。仮にこれらの事由等が存在することが確認された場合には、所要の措置を採ることになる。

六の(2)について

 我が国においては、令状主義及び厳格な証拠法則が採用され、三審制が保障されるなど、捜査公判を通じて慎重な手続により有罪が確定されている上、再審制度が保障されており、有罪を認定することについては、適正な判断がなされているものと考えている。加えて、死刑事件に関して言えば、その執行についても、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第四百七十五条により、他の自由刑や財産刑の執行と異なり、法務大臣の命令によることとされ、その執行命令を発するに際しては裁判所の判断を尊重しつつ、関係記録を十分精査検討しているところであって、既に死刑を執行した者の中には誤判による無実の者が含まれていることはないものと確信している。

六の(3)について

 戦後死刑確定者が再審で無罪となった事件として、いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件及び島田事件があるところ、御質問は、これらの具体的事件の捜査手続又は刑事裁判手続における検察官及び裁判所の判断にかかわる事柄であるので、答弁は差し控えさせていただきたい。
 なお、これらの事件に係る再審の判決においては、捜査又は公判にかかわる問題点が指摘されているが、検察当局においては、これを深刻に受け止め、適切に対処しているものと考える。

六の(4)について

 検察官が法律の要件に従って再審請求をするほか、刑事補償法(昭和二十五年法律第一号)により補償することができるが、御指摘のような事態が起きないように、六の(2)についてでお答えしたような慎重な手続により有罪を認定し、執行についても特段の配慮がなされている。

六の(5)について

 基本的な事項において変わるところはない。

七について

 個々具体的な死刑執行に関する事項については、答弁は差し控えさせていただきたい。





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