衆議院

メインへスキップ



質問本文情報

経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
平成十六年十一月二十二日提出
質問第四八号

国有林野事業に関する質問主意書

提出者  佐藤謙一郎




国有林野事業に関する質問主意書


 わが国の国有林野事業は、四次にわたる改善計画実施にもかかわらず、平成一〇年一〇月にはその累積債務が三兆八千億円に達した。このため林野庁は、国有林野事業の抜本的改革に着手し、国有林野の管理経営の基本方針を「木材生産機能重視」から「公益的機能重視」に転換するとし、改革を進め平成一五年度をもって集中改革期間を終了した。一方、第五五次平成一五年国有林野事業統計書(平成一四年度)によれば、「公益的機能」を極めて高度に発揮していると考えられるブナ林等天然林の伐採が依然として継続され、さらには林道建設や治山工事も延々と続けられている。
 これらの事実は、わが国に残存する貴重な森林生態系の消失を意味し、貴重な自然環境保全、生物多様性保全の観点からも極めて由々しき事態であり、看過することはできない。よって、以下の事項につき質問する。

一 林野庁は、「公益的機能」の定義について、森林・林業基本法第二条において定義されている森林の多面的機能、すなわち国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等のうち、林産物の供給等を除く機能が「公益的機能」であるとしている。しかし、依然としてブナ林等天然林を大量に伐採している現状は、「木材生産機能重視」から「公益的機能重視」に転換するとした、国有林野の管理経営の基本方針に違背していると考えるが、政府の認識は如何。
二 わが国では、現在、「新・生物多様性国家戦略」等に基づき、官民挙げて「生物多様性保全の強化」の取組みを進めている。森林国であるわが国において、その森林での生物多様性の保全は極めて公益的価値が高いといえる。林野庁は国有林野内で事業を実施する際、どのような方法で生物多様性を保全しているのか、平成一五年度に実施されたすべての伐採箇所・林道建設箇所・治山工事箇所を明確に把握した上で答弁されたい。
三 生物多様性に最も富んだ秋田県男鹿半島の国有林内、芦の倉沢において、現在、林野庁東北森林管理局が治山ダム工事を実施している。当該地域は、「国定公園第一種特別地域」であり、また「男鹿ケヤキ林木遺伝資源保存林」に指定される保護対象地域であり、法的に開発行為が厳しく制限される地域である。また、当該工事箇所周辺には、三三種類にも及ぶ環境省並びに秋田県の絶滅危惧登録種が分布、生育している。さらに当該工事箇所周辺で、新種のオガアザミが発見され、現在、専門家により学会誌等への公表中と報道されている。さらに二種類の新種アザミが発見され、同定中とされている。しかも、当該工事に関しては、治山・防災工学専門家から計画される治山ダムの防災効果自体にも疑問の声が挙げられ、道路に対する代替工事方法等の提起がなされている。
 このような状況であるにもかかわらず、林野庁東北森林管理局が当該治山ダム工事を強行していることは、林野庁の公益的機能重視の基本方針に反するのみならず、自然環境保全並びに生物多様性保全強化の観点から極めて遺憾な事態であると言わざるを得ない。
三−1 東北森林管理局は、当該地区で近い将来において大規模な山腹崩壊が発生すると予測しているが、その予測の根拠は何か、答弁されたい。
三−2 東北森林管理局が、(財)林業土木コンサルタンツに委託して行った調査報告書では、芦の倉沢の渓床堆積物(不安定土砂)の見積もりに関し、総量七八〇〇m3(うち防災対象流域では四九〇〇m3)と示されるが、この見積もりは目測だけでなく、物理探査などの科学的な方法を用いたものであるか、否か。
三−3 東北森林管理局が計画する谷止工は、当面は渓床堆積物の再動を緩和はするが、その貯砂容量を超えて堆積された場合、より大規模な土石流を発生させる可能性を増大させる要因となる。さらに当該工事計画のように、崩落源からの新たな堆積物の供給を止める山腹工との同時施工でなければそのリスクはより高いものとなる、との指摘に対する政府のご認識をお伺いしたい。また、当該工事計画は、秋田県や東北森林管理局自身の想定する大規模な山腹崩壊による土砂災害に対して万全の効果があるか、政府のご認識をお伺いしたい。
三−4 芦の倉沢と道路の交差する箇所には、排水・排砂用の四本の暗渠が埋設されている。しかし、土砂による目詰まりを生じて排水・排砂としての用をなしてはいなかった。目詰まりは一〇年位前に生じ、ほぼ同時期に道路上への小規模な土砂流出も始まったという。
 道路管理責任者による、暗渠の保守点検・管理状況を把握した上で、暗渠の目詰まりの原因は明らかにその口径が不足していたことと、保守点検が万全でなかったことによるもの、との指摘に対する政府のご認識をお伺いしたい。
三−5 当該箇所における道路への土砂流出災害は、道路の構造や敷設の場所、暗渠の大きさ等、道路工事自体の設計・施工自体の不適切さが一因であり、道路自身が沢の流れを砂防ダムのように分断し、自ら災害を招いている。当該箇所における道路への土砂災害に対する抜本的な解決策は、沢の元の流れを道路が妨げない形での排水路の設計にあり、カルバート工、ロックシェッド工あるいは橋梁工によって、道路開設以前の旧地形に復元し土砂を自然流出させることであると指摘されている。当該工事計画においては、防災・治山ダム工事と道路自体の橋梁工等との間で、費用対効果分析、環境負荷分析など比較した結果、当該防災・治山ダム工事計画となったのかお答えいただきたい。また、いかなる判断根拠に基づき道路の橋梁工等が選択されなかったのかにつき明らかにされたい。
三−6 「国定公園第一種特別地域」さらには「男鹿ケヤキ林木遺伝資源保存林」であるにもかかわらず、当該工事が許可された判断理由について、当該開発行為による影響評価を明確に把握した上でお示しいただきたい。また、それらの妥当性に対する政府のご認識を問う。
三−7 三三種類にも及ぶ環境省並びに秋田県の絶滅危惧登録種が分布、生育しているにもかかわらず、当該工事が許可された判断理由について、当該開発行為によるこれら三三種類の絶滅危惧登録種個々に対する影響評価を明確に把握した上でお示しいただきたい。また、それらの妥当性に対する政府のご認識を問う。
三−8 植物学専門家による予備調査の結果、当該工事予定地周囲の極めて限定された場所に生育する希少種には、とりわけ未だ人類の知的財産として記録すらなされていない“植物の新種”(複数)も含まれる可能性が指摘されている。その新種植物の原生育地(Typelocality基準植物標本生育地)における完全な記録が得られていない、科学的調査の完全実施前段階での工事再開による破壊は、「自然公園法」違反であるばかりか、「種の保存法」違反であると考えるが、政府のご見解を明らかにされたい。また、「国際生物多様性保護条約」加盟国としても、国際的な指弾を免れない行為であると考えざるを得ないが、併せて政府のご認識を問う。
三−9 国有林の維持管理に責任を有する林野庁、並びに国定公園の管理・運営と地方自治体を指導すべき責任のある環境省は、本件に関し秋田県に対して指導を行ってきたか、否か。
三−10  芦の倉沢一帯は、特異的で多様性に富んだ植物相の存在に加え、極めて複雑で、種多様性に富んだ森林植生、植物群落が成立している。今後、早急に「特別保護地域」への格上げを計り、我が国の貴重な生態系、自然財産として保護していかねばならないと考えるが、政府のご見解を問う。

 右質問する。



経過へ | 質問本文(PDF)へ | 答弁本文(HTML)へ | 答弁本文(PDF)へ
衆議院
〒100-0014 東京都千代田区永田町1-7-1
電話(代表)03-3581-5111
案内図

Copyright © Shugiin All Rights Reserved.