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平成十九年十二月二十八日提出
質問第三七二号

「木曽川水系連絡導水路事業」の環境影響に関する質問主意書

提出者  近藤昭一




「木曽川水系連絡導水路事業」の環境影響に関する質問主意書


 一六六国会において「徳山ダムに係る木曽川連絡導水路事業の目的と効果に関する質問主意書」(六月一二日付け)を提出し、六月二二日付けでその答弁書(以下、「答弁書」という。)を受領した。
 当該質問主意書提出の際は、「徳山ダムに係る導水路検討会(第六回)(二〇〇六.八.三〇)関係資料(以下、「上流単独案」という。)」に基づいて質問をした。非公式ながらその時点では「この資料の線(上流単独案)で検討を進めている」と担当者は述べていた。
 そして答弁書では、「検討中である。(一について)」「計算していない。(二の(一)について)」「お尋ねの『…資料』は存在しない。(二の(二)について)」「『…資料』は、存在しない。/今後…具体的に検討することとしている。(二の(三)及び(四)について)」「今後更に検討してまいりたい。(三の(一)及び(二)について)」「調査等を行っているところである。(三の(四)について)」「必要があるか否かについて、判断してまいりたい。(四の(一)及び(二)のBについて)」「調査しているところである。(四の(二)のAについて)」等、ほとんどの事項について「現在資料は存在しない。今後調査し検討する」とされていた。
 八月二二日には上流単独案を大きく変更する「上流分割案」という新規のものが出された。そして一二月二四日に閣議決定された来年度予算政府案では「上流分割案」を基に、「木曽川水系連絡導水路」に概算要求通りの一五億円を「建設費」、それも内一四億円は水資源機構事業(水資源開発事業交付金)として計上されている。
 他方、水資源機構事業とするための最低限の法定手続(A=河川整備計画に位置づける B=水資源開発基本計画の一部変更を行う)については、まだ途上(入り口)ないし開始されてもいない。つまり、Aは本年一一月二八日に原案が示され、法定の河川法第一六条の二第三項及び第四項の手続が始まったばかりであり、Bは国土審議会水資源分科会木曽川部会に諮られてもいない。
 一六六国会での質問主意書に対しては答弁できなかったことが、二ヶ月後には全て「解決」した上で、さらなる計画変更となったのであろうか。強い疑念と不信を抱かざるを得ない。
 また法定手続完了前に、「見込み・予定」で予算を計上することも不可解であり、「法律による行政」「財政民主主義」を軽視するものではないかと思料する。
 以下、答弁書、六月以降の木曽川水系河川整備基本方針策定及び木曽川水系河川整備計画策定の現状(関係住民への河川管理者の説明の状況を含む)を踏まえ、質問する。

一 異常渇水時の河川環境保全という目的について
 八月二二日の木曽川水系連絡導水路・上流分割案発表の際、「治水=六五%、新規利水=三五%」が示された。他の水系の水準を上回る「超過渇水対策」を治水予算でこの水系に導入するということである(「木曽川水系が他の水系・河川に先んじて超過渇水対策の施策をおこなっていく」という表現は、木曽川水系流域委員会委員長でもあり木曽川水系河川整備基本方針検討小委員会委員でもある辻本哲郎氏が繰り返し使ったものである)。
(1)木曽川水系連絡導水路計画が対象とする異常渇水は、「平六渇水(一九九四年渇水)」であり、答弁書では「『その規模の渇水の発生確率』については、計算していない」と述べている。しかし「木曽川水系流域委員会」や「ふれあい懇談会」での河川管理者の説明では、頻繁に一九九四年渇水を「1/20規模の渇水」と表現していた。確かに一九九四年渇水は最近二〇年内に起こっているが、「1/20規模の渇水に対応」という表現は誤解を招くのではないか。答弁書との整合性も含め、明確にされたい。
(2)他の水系の水準を大きく上回る既往最大渇水に対応するという「超過渇水対策」をこの水系に導入する(他の水系から見れば不公平ともいえる)積極的理由は何か。答弁書での「木曽川においては、平成六年に、瀬切れを起こす等他の同規模の河川には見られない渇水が生じた」ということは、河川整備基本方針検討小委員会での議論及び木曽川水系流域委員会での説明と審議では主軸にはなっていなかったことを踏まえて質問する。
 答弁書及び河川整備基本方針検討小委員会での議論及び木曽川水系流域委員会での説明の整合性を明らかにし、説明されたい。
(3)「治水=六五%」の部分は、「木曽川へ補給される緊急水を水道用水又は工業用水として特定の水利使用者の利用に供することは目的としておらず」(=答弁書)、あくまでも異常渇水時の河川環境保全とされている。
  @ 答弁書では「国土交通省においては、徳山ダムから、異常渇水時に導水路により一級河川木曽川水系木曽川に緊急水を補給することにより、木曽川の河川環境の改善にどのような効果があるかについて定量的に把握するため、平成十八年度及び平成十九年度の予算において措置された木曽川水系連絡導水路事業に係る調査費により、調査等を行っているところである。」となっている。八月二二日に「長良川を利用することによって一〇億円のコスト縮減を図る」上流分割案を「導水路検討会」で合意し、現在「木曽川水系連絡導水路・上流分割案」を法定手続(河川整備計画)の俎上に乗せ、建設費を予算案とまでしている以上、「河川環境の改善にどのような効果があるかについて定量的に把握する」ことは、すでになされているはずである。
  毎秒二〇m3(うち毎秒四m3を長良川に放流)を緊急水とすることの数値の意味を分かりやすく整理した根拠を明らかにした上で、十分に説明されたい。
  A @と重複する部分もあるやに考えるが、答弁書の「『一九九四年渇水時の木曽川(特に犬山頭首工より下流)の環境被害軽減対策の検討に係る資料』は、存在しない。…国土交通省においては、当該調査費により、測量、水文・水質観測、環境調査、施設設計等を行っており、これらの調査等の結果を踏まえ、今後、お尋ねの『河川環境被害の軽減効果の具体的な予測及び当該事業の必要性・妥当性』についても、具体的に検討することとしている。」につき、その後の調査結果の概要を明らかにした上で、十分な説明をされたい。
(4)木曽川水系河川整備基本方針における木曽川(基準地点・今渡)の正常流量は、木曽成戸地点の維持流量から遡って決めた、と国土交通省担当者は述べている。この木曽成戸地点の維持流量毎秒五〇m3に関して、河川整備基本方針策定の際の「説明資料(木曽川水系河川整備基本方針(案) 流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する説明資料(案)【木曽川編】)」では、木曽成戸地点の動植物(これが最大流量となって全体を規定することになっている)としてヤマトシジミを挙げている。
  @
  (ア)この説明資料一四ページのグラフの意味するところは何か。
  このグラフに科学性がない(何ものも意味しない)ことは、特に専門家でなくとも一見して感じるところである。また第一〇回木曽川水系流域委員会で、ヤマトシジミ研究に詳しい関口秀夫委員は「このグラフには全く科学的意味はない。これが木曽成戸地点での維持流量に関する何らかの科学的根拠であるかのように使われることはヤマトシジミを研究してきた者として到底承服出来ない」と繰り返し述べられたことからしても、甚だ不可解なものである。
  (イ)説明資料一四ページでは「毎秒五七m3必要と思われる」となっているのが、第七二回河川整備基本方針検討小委員会への資料六(木曽川水系河川整備基本方針 流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する資料(案))の四〇ページでは「毎秒五〇m3」となった理由は何か。
  木曽川水系連絡導水路・上流分割案で長良川を通って木曽成戸地点に毎秒四m3を緊急水として補給する等の計画があることからしても毎秒七m3の差は「誤差の範囲」では済まされない。丁寧かつ科学的な説明を求める。
  A 市民団体のメンバーに対し、中部地整の担当者は養殖研報(一九八四年)田中論文を示したそうだが、これは水槽実験で一定濃度の塩分中での生息日数を調べた論文であって、汽水域でのヤマトシジミの生息環境についての根拠となる論文ではない。他に「木曽川のヤマトシジミには木曽成戸地点の維持流量毎秒五〇m3が必要」という科学的な知見や研究者の論文などは示されていないようである。多額の事業費を要する事業の根拠としては甚だ心許ない。
  木曽成戸地点の維持流量毎秒五〇m3の根拠及び既往最大異常渇水時のヤマトシジミ生息保障と緊急水の量(数値)の関係に関し、明確な説明をされたい。
  B 「平六渇水(一九九四年渇水)」において、瀬切れが発生したこと、ヤマトシジミの斃死があったことは認められるが、数ヶ月後の調査では、ヤマトシジミを含む多くの生物は復元されており、壊滅的被害は生じていない。「ヤマトシジミを斃死させないための緊急水」というのは、その巨大な投資への説明としては非常に分かりにくい。これに関して「ふれあい懇談会」などでの市民の質問に対しては、河川管理者からは「ヤマトシジミのため、だけではない」等の回答があったと聴くが、他の何があるのかは、関係住民に説明されていない。具体的かつ明確な説明を求める。
(5)長良川河口堰建設時の長良川河口部のヤマトシジミへの待遇と、今般の木曽川河口部のヤマトシジミへの待遇は余りにも異なりすぎるのではないか、という市民からの疑問に対して、「長良川河口堰では適正な補償を行った」という回答があったので、当該市民は「『適正な補償』時点での河川局及び事業者の把握していた影響予測と漁業者への説明」について質問したが、三ヶ月を経ても回答がない。
 国土交通省河川局のホームページ「オピニオン」欄の「長良川河口堰」ページで、新聞社に対して長大に反論している根拠でもあるはずの「当時の予測と漁業者への説明」に関する説明責任を河川管理者が果たさねば、「超過渇水対策/木曽川河口部のヤマトシジミの生息を保持するために八九〇億円×六五%の税金を投入する意味」を国民が理解することは難しい。十分な説明を求める。
二 木曽川水系連絡導水路・上流分割案で長良川に放流することへの環境影響について
 長良川は、河口部の一部を除き「岐阜の川」である。特に県庁所在地である岐阜市の真ん中を貫通し、鵜飼などで観光資源ともなっている長良川への岐阜市民の愛着は大きい。上流分割案では、徳山ダムの水(西平ダムで取水)が、鵜飼が行われ、水浴場にもなっている場所の直上流に放流されるということで、このことを知った岐阜市民からは不安の声が上がっている。
(1)名古屋市工業用水分の毎秒〇.七m3の水について
  @ 渇水時でなく、平常時にも名古屋市工業用水分の毎秒〇.七m3の水は長良川に放流されると理解して良いか。
  A 「ふれあい懇談会」では水質及び水の温度差による影響への質問については「徳山ダムで選択取水をする」ことをもって回答とされたようだが、河川の水質や生態系の研究者からは、「選択取水」の有効性には疑問が寄せられている。
  選択取水を実施しているダムと河川につき、その有効性の有無を示す明確な根拠と分かりやすい説明を求める。
(2)異常渇水時の毎秒四m3放流について
 河川整備計画原案では、「平成六年規模の大渇水で、忠節地点で毎秒一一m3の河川流量を確保する」としている。つまり、長良川が水質的に一番厳しいとき、その三分の一以上が徳山ダムの水となることになる。またそのような異常渇水時には徳山ダムの水も悠々と選択できる(選択取水によって影響を回避できる)状況にはないと考えられる。
 「河川環境保全のため」に治水予算(血税)から六五%分を投資するこの導水によって、長良川の河川環境が悪化することになるとすれば、看過出来ない。
 「平成六年規模の大渇水で、忠節地点で毎秒一一m3の河川流量を確保する」状況のときに長良川の河川生態系への影響について、十全かつ具体的な根拠を明らかにした上で説明されたい。
(3)長良川への影響と漁業補償について
 長良川に徳山ダムの水を流すことは、徳山ダム建設時には全く無かった「案」である。長良川の河川環境に負荷を与えるとすれば、漁業者への補償の問題も浮上してくる。一般的には上流にダムが建設される場合には、下流の漁業者とも話しあいの上、一定の補償をしている。今般、徳山ダムの水が長良川に入るとすれば、「上流にダムが建設される」場合と同様な事態(ダムの水が混ざる量や規模の違いはあるが)である。
 事業費には漁業補償は見積もられているか。見積もられていないとすれば「漁業に影響なし」と断定した根拠を明らかにした上での説明を求める。
三 河川をまたがって水を流すことの生態系への影響について
 第一〇回木曽川水系流域委員会では、委員から「木曽三川の水はそれぞれ異なる。混ぜることには不安・懸念がある」という趣旨の発言があった。
(1)生態系に与える影響について、どのような調査を行い、どのような結論を出したか。調査結果の概要を示した上での説明を求める。
(2)特に特定外来生物が「河川環境保全のため」の導水路建設で拡散することになってしまっては取り返しがつかない。
  @ 特定外来生物につき、揖斐川・長良川・木曽川でどのような種がどう侵入(生息)しているのか。根拠を示した上での詳しい説明を求める。
  A 木曽川水系連絡導水路(上流分割案)の建設・導水によって、特定外来生物が拡散・侵入することはないということはどのように担保されているのか。根拠を示した上での詳しい説明を求める。

 右質問する。



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