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平成二十四年六月十九日提出
質問第三〇九号

MMRワクチン薬害事件における国の責任及び予防接種法の目的に関する質問主意書

提出者  阿部知子




MMRワクチン薬害事件における国の責任及び予防接種法の目的に関する質問主意書


 国は、MMRワクチン薬害事件について、上級審の判断をあおげなかったことを理由に、事件の検証をせず、再発防止策を明示することもなく忘れようとしている。新たな情報により、被害の発生、被害の拡大に関する国の責任についてあらためて質問する。

一 旧厚生省(以後、厚生省という)が、平成元年三月までに得られた最新の知見(後述)によらず、翌四月からMMRワクチン接種を開始したためにMMRワクチン薬害事件が発生することになったといえる。
 旧国立予防衛生研究所(以後、予研という)麻しんウイルス部ムンプス室(以後、予研ムンプス室という)の関係者が、おたふくかぜワクチン接種後に無菌性髄膜炎(以後、髄膜炎という)を発症した患者の検体から分離されたウイルスについて、ワクチン由来株か野生株かを鑑別するPCR法を完成させたことを平成元年三月に発表している(山田章雄ら「Polymerase Chain Reactionを用いたムンプスウイルス株の鑑別」平成元年三月予防接種研究班「予防接種の効果と副反応の追跡調査及び今後の予防接種方式の策定に関する研究」所収)。それにより、おたふくかぜワクチン接種後に発症した髄膜炎は、野生株由来であるとされてきた従来の見解が覆され、ワクチンによって髄膜炎が発症していたことが判明した。しかも、その発表には、MMR接種に際して髄膜炎発症の状況を監視する必要があるとの提言が含まれていた。しかし、厚生省は、保護者・接種従事者等へ接種後に髄膜炎が起こりうるという情報提供をせず、髄膜炎発生を把握する体制もなくMMR接種を開始したことは致命的な誤りであった。山田らの提言を踏まえて、厚生省がとるべきだった対処は、MMR開始を留保することであった。なぜなら、その提言によらずMMR接種を開始する、充分合理的な理由はなにひとつなかったからである。
 ところで、MMR訴訟の証人として出廷した曽我紘一氏(平成元年当時、厚生省保健医療局疾病対策課結核・感染症対策室長)の証言によれば、PCR法の完成を知ったのは、同年七月に秋田市で開催された衛生微生物技術協議会において予研ムンプス室関係者が発表した後であったとのこと。おなじく國枝卓氏(平成元年当時同省薬務局生物製剤課長補佐)は、結核・感染症対策室からの情報で同年七月に知ったとしている(曽我紘一証人調書 平成十三年五月二十四日、國枝卓証人調書 平成十三年六月二十一日および両名が証言前に大阪地裁へ提出した陳述書 乙八十四号証、乙九十一号証)。これらの証言は、次のことから真偽が問われるものである。
 ひとつには、予研ムンプス室のPCR法開発研究は、昭和六十三年度の厚生科学研究として行なわれ、いわゆる予防接種研究班のひとつのテーマであり、予防接種事業を担当する保健医療局およびワクチンの審査、安全対策などを担当する薬務局関係者が、その研究テーマや成果を知らない、無関心であるとは考えられないし、そうであってはならない。国が研究費をだしている研究班の発表を知らずに、予研と地方衛生研究所の職員らが協議を行う場(衛生微生物技術協議会)での発表により厚生省の関係部局がPCR法完成を知るなどということは極めて不自然である。
 また、山田らの上司である予研所長大谷明氏、麻しんウイルス部長杉浦昭氏らは予研ムンプス室の研究テーマやその成果を直接に把握する立場にあり、他方、両氏はMMRの承認審査や安全対策に関する中央薬事審議会の生物学的製剤調査会に委員や参考人として関与し、MMRの定期接種への導入を決めた公衆衛生審議会伝染病予防部会予防接種委員会(以後、予防接種委員会という)についても同様であるから、最新の研究動向や成果を両審議会に反映させる役割があったとみられる。
 よって、予研ムンプス室関係者の平成元年三月のPCR法完成の発表と髄膜炎監視の提言を結核・感染症対策室や生物製剤課の職員が知らないということは考えられないし、あってはならないことといえる。
 一方、平成元年五月、徳島県で単味おたふくかぜワクチン接種後に発生した髄膜炎患者の検体から分離されたウイルスが、予研ムンプス室のPCRによりワクチン由来株であると判明したことをうけ、同県保健環境センターの山本保男氏は、県内医療機関にMMR接種により同様のことが起こりうる旨、注意喚起を行なった(山本保男ほか「徳島県におけるMMRワクチン接種後ムンプス性髄膜炎の発生について」徳島県保健環境センター年報平成二年八月十九日、および地方衛生研究所全国協議会のWebサイト「健康危機管理事例集」概要版bSの事例)。これはきわめて自然な、かつまた当然の健康危機管理の好例であった。
 右のことから、平成元年四月厚生省が髄膜炎発生を予見しながら、接種関係者や被接種児保護者への情報提供をせず、髄膜炎発生状況を把握する体制構築なしに、また、大流行の危機に瀕していたわけでもない感染症対策としてMMR接種を見直すことなく安易に開始したことが、MMRワクチン薬害事件の発端であり、訴訟で指摘された以上に国の責任ははるかに重いといえる。このことについて政府の見解を述べよ。
二 訴訟の判決において、「国は早期に接種を中止することが望ましかった」とされたことに関して、近年新たな情報があった。日本臨床ウイルス学会の二〇一〇年一月発行「臨床とウイルス」誌に収録されている、堺春美・木村三生夫共著の論文「論説 どうなる今冬のインフルエンザワクチンWHOによるパンデミック宣言の真相解明のために欧州会議が調査を開始」中に、次の記載がある。木村氏(故人)は、MMRワクチンの開発、法定接種への導入に深く関与、MMRの実施期間において予防接種委員会委員長であった。
 (要旨)平成元年十月某日、厚生省保健医療局の担当者が、小児科の医師ら(予防接種委員会委員など)を予研会議室に集めて、MMRの中止を諮った。それに対して医師らは猛烈に反対した。長い会議の末に担当者はMMRの中止を断念。著者らはその事実を述べたうえで「MMR事件は痛恨の一事件であった」としている。(要旨終り)
 また、厚生省薬務局生物製剤課作成とみられる平成元年八月頃の内部文書(ムンプスワクチン接種後の無菌性髄膜炎の発生について)に、おたふくかぜ・MMR両ワクチンの一時中止等の考えが記載されているものがある。
 右のことから、厚生省がMMR中止の意向をもっていたことがはじめて確認された。そして、厚生省内に中止の意向があったにもかかわらず、右の会議の後、MMRは中止されることなく接種が継続されている。
 (一) 堺・木村両氏の論文の記述について著者への聞き取り、省内の記録調査、当時の関係者への聞き取り等もふまえ、右の会議がいかなる性格、位置づけのものであったか、説明されたい。
 (二) 右の会議で、小児科医らがいかなる理由をもって中止に反対したのか、厚生省がいかなる理由をもって中止を断念したのかについて説明されたい。
三 都道府県が独自に髄膜炎発症率の発表をおこなうことを厚生省が制限したことについて、平成元年十一月二十一日付静岡新聞が報道している。静岡市の市民団体、静岡予防接種を考える会が、同県内の髄膜炎発症率に関する調査結果の公表を同県に求めた際、県が公表する直前になって厚生省が圧力をかけ、公表を止めさせたというものである。
 同年十二月二十日に開催された予防接種委員会の議事メモ(現厚生労働省医薬食品局総務課副作用被害対策室所蔵)において、結核・感染症対策室長の発言として、静岡新聞の報道内容と符合する内容が確認できる。
 右について、
 (一) 厚生省が都道府県等に対して独自に髄膜炎発症率等の公表をしないよう指示をした文書が存在するか。
 (二) この制限が国民に受け入れられる十分に合理的な理由はあるのか説明されたい。
四 平成三年三月二十五日に開催された予防接種委員会において、これまでまったく公表されていない驚くべき内容の議論がおこなわれたことが判明した。近年開示された同委員会の議事メモ(現厚生労働省医薬食品局総務課副作用被害対策室所蔵)から次のことがわかる。
 (一) この日の予防接種委員会は開催事実を公表していない(結核・感染症対策室長談)。つまり秘密裏に開催したものであること。
 (二) 平成元年十月から一年間の調査結果として、髄膜炎発生率が七百人に一人であることが判明したが、それは公表しないこととする(結核・感染症対策室長談)。後に、平成元年四月から平成二年九月までを集計して千二百人に一人として公表している。公表しない理由として、結核・感染症室長は、平成元年十一月八日の衆議院決算委員会、上田哲議員の質問に対する答弁(この答弁では髄膜炎発症率を「数千から三万に一人」とし、それでも「看過しえない」としていた)があることを挙げている。
 (三) さらに驚くべきこととして、高率な髄膜炎発生率が判明したにもかかわらず、厚生省はMMR接種の継続を前提とし、それを正当化する考え方を示すよう委員に求め、議論させているのである。加えて、接種継続により重篤な脳炎など、健康被害が発生することを予見し、また訴訟をも想定のうえ、国に対する責任追及に反論するための議論まで行なわせている。それは同年三月八日の同委員会で全委員に見解を求めた「MMRワクチンに関する確認事項」なる質問事項が配布され、その回答が集約された(三月二十五日委員会資料)上での議論であった。
  (二)は、平成元年九月以前の、髄膜炎が起こりうるという情報がない時期のデータを加えることにより、真実に近い髄膜炎発生率を隠すことを狙った隠ぺい工作であるといえる。
  (ア) 右、(一)、(二)、(三)は、現存する議事メモの内容に相違ないか。
  (イ) ところで、当職が平成十四年以降において、MMRの関連で予防接種委員会の資料を要求した際に、右、平成三年三月八日委員会資料の一部と三月二十五日委員会資料のすべてが提供されていなかったことが判明した。厚生省が国会議員の資料要求に応えず隠蔽し、訴訟が終結した後、近年の開示請求に際し、かつて隠蔽したものを公表したということは、(三)の内容とあいまって、明らかに、当時、厚生省が髄膜炎発症率が七百人に一人に達したにも関わらずMMR接種を継続した責任を問われかねないことを自覚していたと解される。これに相違ないか。
五 平成三年二月から四月の間に、札幌市において姉妹間の家族内(二次)感染が発生した。それは、MMR統一株ワクチンが疾病予防の効果どころか、病原体と化したことを意味していた。その症例が、平成五年四月十六日日本感染症学会(東京)にて発表され、それも理由のひとつとして同年四月二十六日から二十七日にかけて予防接種委員会、その親部会である公衆衛生審議会伝染病予防部会でMMRの「当面接種見合せ」が決まった。しかし、事実の公表までに最大二年間の空白があり、PCRによりワクチン由来株が確認され、二次感染が疑われた段階、それは同年四月ないしは五月のことと推測されるが、その時点でMMRが中止されれば相当数の被害が回避できたといえる。しかし、厚生省からは当時何の情報提供もなされなかった。PCRによる鑑定を行い、学会発表を行なった研究者の所属する北海道立衛生研究所からも何ら情報提供はなかった。同研究所は、少なくとも一で述べた徳島県の注意喚起と同様に対処するべきだったといえる。また、PCR法を指導した予研においても別途鑑定が行われたとされている(学会発表抄録に記載されているし、一九九三年四月の公衆衛生審議会資料にも同様)のだから、その結果が出た時点で厚生省がMMR中止を決めるべきであった。後の調査では、三重県、京都府、愛媛県において確定的な診断ではないものの同様の事例があったことが判明している。この家族内(二次)感染の問題は学界においてまったく議論された形跡がない。
 (一) 右に関して、政府の見解はいかがか。
 (二) 現在の予防接種行政、薬事行政において、この種の危険性情報が迅速に安全対策に活かされる体制が確立されているのか説明されたい。
六 平成二十一年十二月より始まった厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会で進められた予防接種制度の見直しにおいて、議論のための基礎資料に誤りがあったという指摘がある。
 国立感染症研究所が作成した「おたふくかぜワクチンに関するファクトシート」(平成二十二年七月七日)について、次の二点は誤りであると指摘されている。
 (一) おたふくかぜワクチンの副作用としての髄膜炎は、MMRの導入により問題化するまで問題にされた形跡はない。
 (二) 平成三年十月に自社株MMRが導入された際、統一株MMRの使用は中止された。
  これらの指摘にどう答えたのか、または答えるのか説明されたい。また、このような誤りを含む基礎資料が国立感染症研究所により作成され、厚生労働省が容認し、それにより予防接種制度の見直しが議論されるということは、日本の予防接種史上最大の被害者を生み、薬害事件として国の責任が指摘されたMMRワクチン薬害事件について、まともな検証を行なわなかったことに起因すると考えられるが政府の見解はいかがか。
七 平成六年の改正により予防接種法第一条(目的)の後段に、「健康被害の迅速な救済」が明記されたことについて、平成二十二年六月の当職の質問(質問第五六六号)、その答弁から、改正前後において、救済がどれほど迅速になされているかの問いに対し、データを持ち合わせないから検証できないこと、審査体制に違いがないことが判明した。これはすなわち「健康被害の迅速な救済」という予防接種法の目的に関して、厚生労働省が無為無策であることを示したといえるが政府の見解はいかがか。

 右質問する。



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