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平成二十四年八月十日提出
質問第三六七号

臓器移植医療に関する質問主意書

提出者  阿部知子




臓器移植医療に関する質問主意書


T 脳死臓器提供におけるドナー管理について
 脳死判定を受けて臓器を提供することは、ドナー候補者に対して救命治療が尽くされることを前提としている。また、臓器移植法は、法的脳死判定による死亡宣告がなされた後に、臓器摘出目的の処置を開始することを合法化している。ところが、実際の脳不全患者に対する治療を行っているはずの救急医、そしてドナー候補者の「評価」を行うメディカルコンサルタントによる論文には、救命治療が尽くされたか否かが不明の状況で、なおかつ明らかに法的脳死の宣告前から、臓器摘出目的の処置を開始したことが報告されている。
 以下、引用する。
 資料1
 田中秀治(杏林大学医学部救急医学):「脳死の病態とドナー管理の実際」(『ICUとCCU』25(3)、p155−160、2001年)
 この論文は、法的脳死判定7例目について記載している。
 (要旨)
 * 2000年4月23日患者が臨床的脳死に至り、翌日に患者家族から臓器提供の意思表示をいただいた。その時点では昇圧のため、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、ドブタミンを四剤併用し、収縮期血圧は60mmHg台であった。
 * 患者の臓器提供の意思をかなえるべく、患者家族に昇圧剤の変更や輸液の増量、血漿製剤の使用の了解を戴き、ドナーの循環動態の改善に努めた。まず、昇圧剤に微量ADH(0.4IU/hrから開始)を併用し、輸液量を増加したところ、徐々に血圧が上昇し、結局ADHは0.9IU/hr量を維持投与した。循環動態の改善と心拍出量改善の結果、尿量の増加を認め、ドーパミン、ドブタミン、ノルアドレナリンの減量中止、が可能となった。また一過性の輸液の増量は結果的には水分バランスの改善を得ることが可能となった。本症例は安定した血圧と尿流出を得、心移植に適当なカテコールアミン濃度に減量されて、法的脳死判定を遂行することができた。
 * P160に「本来ドナー管理は、法的脳死が確定してから行われる管理を示す言葉ではあるが、実際の臨床の現場では、むしろ法的脳死が確定するまでの間の管理こそ、本当の意味でのドナー管理がなされるべきであることを実感した」と記載し、法的脳死の死亡宣告前からドナー管理を行ったことを明記するだけでなく、他の医師にも推奨している。
 資料2
 福嶌教偉(大阪大学重症臓器不全治療学):「わが国における脳死臓器提供におけるドナー評価・管理 メディカルコンサルタントについて」(『移植』46〈4・5〉、p251−255、2011年)
 (要旨)
 * (p250)2002年11月以降は,メディカルコンサルタント(MC)が導入され,第一回目脳死判定以降に提供病院に派遣され,ドナーの評価を行い,第二回目脳死判定以降からドナー管理を行うようになっている。
 * (p252)2002年当初はMCの数も少なかったが、2011年1月末には心臓移植施設から各2名(計18名)、肺移植施設から各3名(計25名)、その他の臓器移植の移植医おのおの数名がJOTからMCの委託を受けている。
 * (p252)提供可能な臓器数を増加させるとともに,移植後機能を良好にするための管理を行う。基本的には,呼吸循環管理を行い,循環動態を安定させることが重要である。本来は第二回目の脳死判定以後の管理となるが,ADHの投与,中枢ラインの確保(可能な限り頸静脈から),人工呼吸器の条件の改善,体位変換(時にファーラー位),気管支鏡などによる肺リハ,感染症の管理(抗生剤の投与など)は,提供施設の了解があれば,ドナー家族の脳死判定・臓器提供の承諾の取れた以後,可能である。
 ドナー臓器の機能を温存するための管理は,第二回目の脳死判定が行われ,かつ家族の臓器提供への同意が得られてから開始する。心臓の場合には,脳死完成時およびそれに引き続くショックのために心筋が障害されているので,循環動態をうまく維持してやれば,必ずしも早急に摘出術を開始する必要はない。むしろstunningが改善されてから摘出した方がよい。
 * (p254)臓器提供率を増加させた結果、ドナー1人当たりの提供臓器数、移植患者数は米国に比して高かった。MC導入以前の1〜10例目の平均はおのおの3.8臓器、3.7人であったのに対し、71〜80例目はおのおの6.8臓器、5.7人であった。
 * (p255)現在、心臓・肺移植施設の協力を得て、緊急の連絡にもかかわらず、MCが提供病院に赴き、ドナー評価・管理を行なっているが、今後脳死臓器提供数がさらに増加するととても対応できない可能性もある。実際、同日に3〜4件のドナー情報があることもでてきており、MCが到着するまでに、ある程度のドナー評価・管理ができるようにすることも重要である。
 福嶌は「本来は第二回目の脳死判定以後の管理となるが,ADHの投与,中枢ラインの確保(可能な限り頸静脈から),人工呼吸器の条件の改善,体位変換(時にファーラー位),気管支鏡などによる肺リハ,感染症の管理(抗生剤の投与など)」と、法的脳死の宣告前からのドナー管理の実施を明記している。
 しかしこうした行為は、厳格な法令遵守の下に実施されるべき法的脳死判定・臓器提供の手続きに疑念と不信を生じさせる問題と考える。
 右を踏まえ以下質問する。
 1 脳死、三徴候死ともに、死亡宣告の前から臓器摘出目的のドナー管理を行うことは、臓器移植法の基本理念を揺るがす重大な違反と考えるが、認識はどうか。
 2 検証会議報告書では、メディカルコンサルタントによる違法なドナー管理が習慣化されていることについて、まったく記載がない。
  検証が行われた症例で、メディカルコンサルタントが自ら行った、あるいはメディカルコンサルタントが指示した死亡宣告前のドナー管理の内容を再調査すべきと考えるが、どうか。
 3 違法行為の再発防止のために、ドナー管理の詳細も検証し公表すべきと考えるが、どうか。
 4 違法なドナー管理を行った医療関係者(救急医、メディカルコンサルタント、その指示を受け実行した者)は、再び同様の行為を行わないよう、何らかの処分及び再教育が必要と考えるがどうか。
U 日本臓器移植ネットワークの「ドナー候補者家族に対する説明文書」について
 死体からの移植用臓器提供に際して、日本臓器移植ネットワークは、臓器提供を検討するドナー候補者家族に正確な説明を行って承諾を得ることが求められる。しかし、同ネットワークのドナー候補者家族に対する説明文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」(以下説明文書という)は、「6.心臓が停止した死後の腎臓提供について」において、抗血液凝固剤ヘパリンの投与が、血液凝固を阻止する目的であることは説明しているが、ドナー候補者に不利益となることは一切記載していない。以下、当該箇所を引用する。
 6.心臓が停止した死後の腎臓提供について
  (1) 術前処置(カテーテルの挿入とヘパリンの注入)について
  @ カテーテルの挿入
  心臓が停止した死後、腎臓に血液が流れない状態が続くと腎臓の機能は急激に悪化し、ご提供いただいても、移植ができなくなる場合があります。そこで、脳死状態と診断された後、心臓が停止する前に大腿動脈および静脈(足のつけねの動脈と静脈)にカテーテルを留置しておき、心臓が停止した死後すぐに、このカテーテルから薬液を注入し、腎臓を内部から冷やすことにより、その機能を保護することが可能となります。ご家族の承諾がいただければ、この処置をさせていただきます。なお、この処置は、心臓が停止する時期が近いと思われる時点で、主治医、摘出を行う医師、コーディネーター間で判断し、ご家族にお伝えした後に行います。処置に要する時間は通常1時間半程度です。
  A ヘパリンの注入
  心臓が停止し、血液の流れが止まってしまうと腎臓の中で血液が固まってしまい、移植ができなくなる場合があります。そのため、脳死状態と診断された後、心臓が停止する直前にヘパリンという薬剤を注入して血液が固まることを防ぎます。(引用終わり)
  ドナー候補者には、外傷患者や脳血管障害の患者がいる。そのような患者に、受傷後間もない時期に抗血液凝固剤ヘパリンを投与したら、再出血させて致死的状態に陥らせる可能性が高いので、外傷患者や脳血管障害の患者へのヘパリン投与は、数週間行わない方針の施設が多く、原則禁忌の薬剤である。
  薬物全般に共通することだが、抗血液凝固剤ヘパリンも血液循環のある状態で投与しないと効果がない。「心停止後の臓器提供」と称する行為においては、抗血液凝固剤ヘパリンの投与は、ドナー候補者の心臓が拍動している状態=死亡宣告前に行うか、または心停止による死亡宣告後に投与する場合でも、ヘパリンを全身にいきわたらせるために心臓マッサージを行い、2万単位あるいは5万単位と大量に投与されている。心停止後にヘパリンを投与するケースでは、ドナーに一般の脳死判定もできないケースがあり、そのようなドナーは心停止後のヘパリン投与と同時に行われる心臓マッサージで、痛み・恐怖を感じ得る生体状態に戻る恐れがある。
  仮に心停止があっても、数分以内であれば自然に心臓の拍動が再開し後遺症なく社会復帰した人もおり、心臓マッサージにより蘇生する可能性がある。仮に蘇生しなくとも、血液循環のある状態で投与された薬物の作用で、ドナー候補者に意識や痛みを感じさせる可能性も考えられる。
  一方で、移植用の臓器を獲得する目的では、この説明文書が書いているように「心臓が停止し、血液の流れが止まってしまうと腎臓の中で血液が固まってしまい、移植ができなくなる場合があ」る。
  以上を踏まえ、以下質問する。
 1 説明文書は、ドナー候補者家族に対して、抗血液凝固剤ヘパリンの副作用に言及していないが、この文書は、いつから使用され、何人のドナー候補者家族に提示されたのか。
 2 ヘパリン投与は、ドナー候補者を傷害し、苦痛を与え、心停止を引き起こしかねない行為である。しかし、説明文書は、抗血液凝固剤ヘパリンが外傷患者、脳血管障害の患者に原則禁忌の薬剤であることを説明していない。これまで行われたすべての心停止後の死後の臓器提供例において、ご家族から提供の承諾を得るにあたり、医師から口頭で説明が行われたとは考えにくいが、ドナー候補者の救命目的ではなく、移植用臓器獲得目的での薬物投与は、傷害行為になり違法性は阻却されない。死亡宣告前に行うべきではないと考えるがどうか。
 3 「血液循環下でヘパリンを投与することが移植用臓器を獲得する目的では不可欠」、しかし「血液循環下の薬物投与は傷害であり、死亡宣告を行なった根拠となる心停止を覆しかねない蘇生や苦痛を感じさせる行為になる」のならば、これらの移植用臓器獲得目的の薬物投与は「心臓が停止した死後の臓器提供」の枠組みで行ってはならないことになる。法的脳死判定手続き下でしか許されない行為と考えるが、見解を示されたい。
 4 心停止後と称する臓器提供では、「一般の脳死判定」として、法的脳死判定手続きを簡略化した脳死判定方法で、臓器摘出目的の行為がスタートしている施設がみられる。ドナーに一般の脳死判定もできないケースもある。このような簡易化した脳死判定、または明らかに脳死判定もできない患者を臓器ドナーとすることは、生体解剖になる恐れが大きい。そのようなドナーは心停止後のヘパリン投与と同時に行われる心臓マッサージで、痛み・恐怖を感じ得る生体状態に戻る恐れが指摘されている。
  温阻血時間(人体から摘出する臓器が冷却するまでの時間)が0分など、三徴候死を確認しないで臓器摘出をしている施設もある。「一般的脳死判定」そして「心臓が停止した死後の臓器提供、心停止後の臓器提供」は速やかに廃止し、法的脳死判定手続きに一本化すべきではないか。政府の見解を示されたい。

 右質問する。



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