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平成三十年四月十三日提出
質問第二二八号

海賊版サイトへのアクセス遮断に関する質問主意書

提出者  逢坂誠二




海賊版サイトへのアクセス遮断に関する質問主意書


 平成三十年四月十三日、政府の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で、漫画やアニメなどを無料で見ることができるインターネットの海賊版サイトについて、著作権保護のための緊急対策を決定した。この緊急対策では、悪質なサイトを対象にしたインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)による閲覧防止措置を推奨し、来年の通常国会への法案提出を目指し、具体的な検討を進めることが確認された。
 安倍総理は、海賊版サイトについて、「我が国のコンテンツ産業の明日を閉ざす事態となりかね」ないと指摘し、このための対応を関係閣僚に指示した。緊急対策では、著作権者などの利益を明らかに侵害するコンテンツをインターネット上に相当数掲載し、削除などの対応では実質的に権利の保護が難しい等という条件を満たすサイトについて、閲覧防止措置が適当であると示している。
 表現の自由などの観点からこれらの措置に懸念の声が出ていることに関して、菅官房長官は記者会見で「あくまで法整備までの臨時的、緊急的な措置」と強調し、乱用防止と速やかな法整備を閣僚間で確認したことを明らかにした。当該緊急対策では、悪質な海賊版サイトの例として、「漫画村」「Anitube」「Miomio」を明示したと承知している。
 平成三十年四月十一日、政府が検討している「海賊版サイトへのアクセス遮断」について、研究機関「情報法制研究所」が反対する緊急声明(「本声明」という。)を発表した。
 本声明では、緊急性があるからといって、根拠となる立法を行わず、インターネット事業者(プロバイダ)にアクセス遮断を要請すれば、「法治国家原理からの深刻な逸脱」に該当するとして厳しく批判し、アクセス遮断の要請を行わないよう政府に求めている。本声明は、政府が特定サイトへの接続遮断をするためには、予めインターネットの利用者がどのサイトを利用しているのかを調べることが前提となり、電気通信事業法や日本国憲法第二十一条第二項でいう「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」の侵害にあたり、憲法違反の疑いがある。政府は刑法第三十七条でいう「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」を援用すると仄聞するものの、日本国憲法第二十一条第二項の規定のほうが重いことは論をまたない。
 著作権保護の重要性を否定するものではないものの、立法を経ない海賊版サイトの遮断要請については疑義があるので、以下質問する。

一 海賊版サイトのサイトブロッキングの前提となる法律もなく、関係省庁での当該事案の検討会の議事録が一部公開されていない。このような現状で、海賊版サイトによる「被害が深刻化している。サイトブロッキングを含め、あらゆる方策の可能性を検討」し、その結果、プロバイダに対する著作権侵害サイトのブロッキング要請(「本件要請」という。)を行うことは、本声明でいう「緊急性を理由に法律という形式を潜脱することは、法治国家原理からの深刻な逸脱と理解せざるを得ない」のではないか。政府の見解如何。
二 本件要請には、法的問題点が多く、憲法学者から違憲の疑いがあると指摘されている。政府は、本件要請を行うことを差し控え、立法前の要請の可否、ブロッキングという措置自体の是非も含めて改めて冷静な議論を行うべきではないか。政府の見解如何。
三 日本国憲法第二十一条第二項では、「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定めている。これを踏まえ、電気通信事業法は、電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は侵してはならないと定めた上で(電気通信事業法第四条)、通信の秘密の侵害に対して罰則を科している(電気通信事業法第百七十九条)。サイトブロッキングは、ユーザーのアクセス先のサイトをプロバイダが逐一確認し、それがブロッキング対象のサイトである場合にユーザーのアクセスを遮断するものであるため、日本国憲法第二十一条第二項で保障される通信の秘密の「知得」「窃用」の構成要件に該当すると思料する。サイトブロッキングは、海賊版サイトへアクセスしようとした利用者だけでなく、利用者一般の通信の秘密を「知得」するものであり、本件要請は違憲ではないか。政府の見解如何。
四 現在自主的な取組として行われているマルウェア感染サイトへのアクセス遮断も、サイトブロッキング同様、機械的にアクセス先を確認するものであり、利用者本人の明確かつ事後的に撤回可能な同意の下ではじめて、その適法性が許容されてきた。このような厳格な要件が課されているのは、かかる措置が通信の秘密の侵害に該当するからにほかならない。政府は、本件要請では、刑法第三十七条でいう緊急避難として違法性が阻却されるとして、法的整理を行っていると承知しているが、緊急避難が認められるためには現在の危難、補充性、法益権衡といった要件が必要であるものの、本件要請の想定するサイトブロッキングがこれらを充足するとは考えることはできない。政府は、どのような根拠に基づいて、現在の危難、補充性、法益権衡といった要件がクリアされ、本件要請を行うことができると考えているのか。政府の見解如何。
五 四に関連して、補充性要件について、警察による摘発や被害者による法的措置の努力が十分に行われているのかどうかが不明確であるが、政府はどのような理由で本件要請をなし得ると考えているのか。政府の見解如何。
六 四に関連して、法益権衡要件については、どのような理由から著作権という財産権が利用者一般の通信の秘密に優位するといえるのか。政府の見解如何。
七 本件要請に関して、ブロッキングによる通信の秘密の侵害は、通信の遮断すなわち通信の自由そのものの侵害をもともなう重大なものではないのか。政府の見解如何。
八 現在、児童ポルノに関して、通信事業者の自主的な取組として、刑法第三十七条を援用した法的構成でブロッキングが行われているが、児童ポルノの流通自体が児童の人格に対する重大かつ回復不可能な侵害であるとともに、通信事業者が自主的に設立した独立の民間団体(ICSA)がブロッキング基準を定めて一定以上の悪質な児童ポルノサイトのみ対象とするなど、緊急避難の要件の充足に疑義のないよう慎重な考慮がなされている。すなわち、実際のブロッキングの対象とされる個々のサイトを客観的、公正かつ慎重に判断が行われている。これに対して、本件要請ではこのような配慮がなされず、政府が海賊版サイトを特定し、サイトブロッキングを要請するものと承知しているが、かかる手続はあまりにも粗雑であり、憲法違反ではないか。政府の見解如何。
九 個人の権利を制限し、あるいは義務を課すためには法律に基づかなければならない。法の支配の原理は、日本国憲法第四十一条などで規定される重要な原理である。法律という形式によることによって、国民代表である国会議員による公開の場での審議が行われ、その内容に問題があれば裁判所による違憲審査等を通じて国民の権利、自由が保障されるからである。しかしながら、本件要請は政府内の関係閣僚会議などでの検討に基づくものの、プロバイダに対しては事実上の義務付けとして機能すると思料されるにもかかわらず、国会の関与を経ていない。さらには裁判所による事後的なチェックも十分にはなされないとの懸念も生じている。十分な検討期間がありながら、緊急性を理由に立法化を潜脱することは、法の支配からの深刻な逸脱であろう。国会の関与を持たない本件要請は、法の支配に反し、日本国憲法に反するのではないか。政府の見解如何。
十 サイトブロッキングは通信の秘密や通信の自由を侵害し、さらには検閲にも該当しうる重大な措置であり、政府がそれを要請するためには、そのための要件や手続が明確にされ、立法化が必要であろう。これらの問題点は、本件要請を法律制定までの緊急措置だと位置づけたとしても、日本国憲法第二十一条第二項に反することは免れないのではないか。政府の見解如何。
十一 サイトブロッキングの実効性については懐疑的な声が多い。現在の児童ポルノブロッキングで主流となっているDNSブロッキング方式は、これまでもユーザーに技術的な知識があれば回避可能であると見られてきた。最近では、ブロッキング回避のための新たな技術が開発され、仮にサイトブロッキングを実施したとしても十分な効果は期待できない。本件要請に関して、技術的に回避可能なサイトブロッキングをあえて行う理由は何か。政府の見解如何。
十二 URLブロッキング方式は、現在、回避困難とされているが、同方式の導入、維持には多大なコストが必要であり、本件要請によって求めうるものではないと考えるが、政府の見解如何。
十三 立法を行うことなく、政府の関係閣僚会議等の決定で、本件要請が容認されるということになれば、今後、様々な違法サイトに対するブロッキング要請に広がることは否定できない。緊急避難が認められるためには現在の危難、補充性、法益権衡といった要件が必要であるものの、本件要請の想定するサイトブロッキングがこれらを充足するとは考えることはできないし、日本国憲法の保障する通信の秘密、自由や検閲からの自由、法の支配が危機にさらされる重大な懸念を持たざるを得ないが、政府の見解如何。

 右質問する。



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