質問本文情報
平成三十年七月十七日提出質問第四五五号
国連PKOにおける我が国の指揮権に関する質問主意書
提出者 篠原 豪
国連PKOにおける我が国の指揮権に関する質問主意書
国連の平和維持軍は、武力行使を伴うとは限らないが、たとえ武力行使を予定しない平和維持軍であっても、戦闘に巻き込まれる危険性は絶えず存在する。
そうした平和維持軍であっても、国際紛争における武力の行使を禁じた憲法第九条を守るために、参加した自衛隊は、みずから武力行使をしない、かつ当該平和維持軍の行う武力行使と一体化しないことが求められている。
そのため、PKO参加五原則は、特に、紛争当事者間での停戦合意が崩れ平和維持軍が武力行使をする場合、我が国部隊は当該平和維持軍から撤収すること、また、武器の使用は、我が国部隊の要員の生命等の防護に必要最小限のものに限られることを定めているが、これを可能にするためには、自衛隊の派遣部隊に対する我が国の指揮権が確保されていることが大前提となる。
このため、日本政府は、PKO法案の審議以来、自衛隊は国連(PKO司令官)の「指図」は受けるが、「指揮」下には入らない、国連には各国部隊に対する作戦統制権はあるが、強制力を担保する命令不服従に対する懲戒権などがないので「指揮」ではない、指揮権はあくまで東京(日本政府)にあるとした政府見解がまとめられ、それに基づいた答弁がなされてきたが、改めて、この我が国の指揮権について政府の見解を確認するため、以下質問する。
PKO法案の審議に際し、国連のモデル協定案等に、「@すべてのPKOは、国連安保理に対して責任を負う国連事務総長の指揮下に入る。A作戦にかかわる事項は、事務総長の権限にゆだねられる。軍事要員は、事務総長の命を受けた現地司令官の指揮下に入り、出身国の指揮を受けないことが、PKOの基本原則である。これが守られなければ、作戦上あるいは政治的に重大な困難を引き起こしかねない。出身国が権限を行使できるのは『給与』と『規律問題』である」との内容が記されていることが明らかとなって、我が国の自衛隊は、基本的に国連事務総長とその命を受けた現地PKO司令官の指揮権下に置かれるのではないかとの指摘がなされた。
そのために国連のコマンドは「指図」であって、指揮権はあくまで我が国にあるとの先述の政府統一見解がまとめられた経緯がある。
しかし、問題は、我が国にあるとされた指揮権の実態である。それをカンボジアPKOについて、見てみると、我が国は、一九九二年九月、UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)に対し自衛隊施設大隊六百人(二回、延べ千二百人)、停戦監視要員としての自衛官八人(二回、延べ十六人)を派遣して、UNTACの任務が終了する一九九三年九月まで国際平和協力業務に当たった。また、文民では、一九九二年十月から警察官七十五人、一九九三年五月から選挙監視要員四十一人を派遣した。
自衛隊の派遣に当たっては、紛争当事者の一つであるポル・ポト派の停戦合意違反が大きな問題となっていたので、UNTACに対し、当初要請があった施設部隊の担当場所をポル・ポト派支配地域につながる国道十、十二号線ではなく二、三号線に切り替え、また、停戦監視要員の派遣地域も、ポル・ポト派のいるタイ・カンボジア国境付近を避けるよう交渉して、ようやく派遣にこぎつけた。
自衛隊が派遣された後も、ポル・ポト派は、益々大規模かつ同時多発的な襲撃、戦闘を展開していた。このように極めて危険な状況下で我が国のPKO活動が続けられる中、一九九三年四月八日に国連ボランティアの中田厚仁氏が、また、五月四日には文民警察要員の高田晴行警部補が任務の最中に殉職するという事件が発生した。
政府は五月八日、村田自治相兼国家公安委員長をカンボジアに派遣し、UNTACに対し、@危険地域に配置されている日本人文民警察官を安全地域に再配置すること、A五月十六日カンボジア入りする日本人選挙監視要員を自衛隊の施設部隊が展開するタケオ州に配置することを申し入れた。その結果、Aについては、選挙要員を自国の派遣部隊の展開地域に配置するという原則を確認する形で同意を獲得したが、@の再配置については、日本だけを特別扱いできないとして拒否された。
また、プノンペン入りした村田自治相と日本人文民警察官十三人の懇談が行われた際、殉職した高田警視と任地を同じくしていた警官四人がバンコク経由でプノンペン入りした行為は、UNTACの文民警察部門責任者のクラス・ルース准将などから「勝手な任地離れだ」と批判された。
このように、派遣要員あるいは部隊に対する指揮権は、国連の「指図」と競合し、決して完全なものとは言えない。こうした「不完全な指揮権」の実態は、決してカンボジアPKOだけのものでなく、他のPKOでも生じている。
とすれば、確かに我が国が自衛隊部隊に対する指揮権は持っていても、それが「不完全な指揮権」であれば、必ずしも自衛隊部隊の活動を憲法の枠内に収めることが保証されなくなる可能性があると考えるが、この点に関する政府の見解を伺いたい。
二 駆け付け警護
改正PKO法に盛り込まれた駆け付け警護、離れた場所で国連やNGO職員らが武装集団などに襲われた際、自衛隊の施設部隊が武器を持って助けに行く任務は、施設部隊としての本来任務を果たしている状況下に、緊急に、歩兵部隊としての任務を本来の任務地を離れて遂行することを求めるもので、その危険性もさることながら、カンボジアPKOのように、国連の指揮権に抵触する可能性が極めて大きく、我が国の判断だけで任務を遂行することは非現実的と思われるが、政府の見解を伺いたい。
右質問する。