質問本文情報
令和七年三月五日提出質問第七七号
在外公館におけるDV被害者等邦人保護の対応改善に関する質問主意書
提出者 青山大人
在外公館におけるDV被害者等邦人保護の対応改善に関する質問主意書
ハンガリーの首都ブダペストで、本年一月二十九日、火災があったアパートから日本人女性(以下「被害女性」という。)の遺体が見つかり、その後の警察の捜査で、殺人容疑でアイルランド人の元夫が逮捕・訴追された。
報道によれば、被害女性は二人の子どもを連れて帰国することを希望したが、共同親権者の元夫はこれを拒否し子どものパスポートも取り上げていた。また、被害女性は元夫からドメスティック・バイオレンス(以下「DV」という。)を繰り返し受けていたとされる。
被害女性は、在ハンガリー日本国大使館(以下「大使館」という。)に対して、家庭環境等につき相談し、子どものパスポート発行手続等を照会した。これに対して、大使館は現地警察への相談をアドバイスしたとされる。
そして昨年八月、被害女性は大使館に対し、子どものパスポート発行等の帰国支援を求めたが、大使館は子どものパスポート発行には他方の共同親権者の同意が必要と説明し、その後、被害女性から子どものパスポート申請はなされなかったとされる。
なお、被害女性のDV被害の訴えを現地警察が取り合わず、事件として捜査していなかったことが事後明らかになっている。
外務省ウェブサイトのハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)で「在外公館における情報提供・支援」には、「在外公館による支援」、「家族問題に関する相談対応」の一つとして「安全が懸念される場合には、現地警察、司法当局又はシェルターに通報し、保護を求めます。」とある。
本年二月十四日の衆議院予算委員会において、井坂信彦委員による大使館が現地警察へ通報しなかった理由についての質問に対し、岩屋外務大臣は「切迫度にもよる」と答弁した。また、子どものパスポート発行について共同親権者の同意が必要不可欠であるのかについて、政府参考人は「差し迫った状況があれば、当然、それは総合的に判断」と答弁した。
しかし、いわゆる「切迫度」や「差し迫った状況」について、在外公館においてどのような基準で判断するのか、どのような要素を考慮に入れて「総合的に判断」するのか、明らかではないと考えるが、在外公館における邦人保護の成否すなわち命に関わるかもしれない重大な判断が適切に行われているのか疑問である。仮に担当者のDVに対する理解度が判断に影響しては、国民の生命を守る上で著しく不安定であり、改善が喫緊の課題であると言わざるを得ない。
特にDVに関しては、国内の配偶者暴力相談支援センター等で相談員となるには臨床心理士等の専門資格や相談業務や福祉事業への従事経験が求められるなど、専門的知見を持ち適切な訓練を受けた者が相談員となっていることから、専門的知見がなければ適切な判断が難しいところと思われる。
邦人保護という、邦人の生命を左右する重大な判断が適切に行われるよう、また、在外邦人にとって大使館は最後の拠り所であることからも、今回の事件を受け、DVによる被害を受けた邦人が大使館へ助けを求めた場合の対応の改善を求めたいと考える。
そこで以下、質問する。
一 外務省では、在外公館で邦人保護を担当する職員に対し、DV及びDV被害者への理解と対応について、どのような研修・啓発を行っているのか。行っているのであれば、今回の事件を受け、これらの研修・啓発を改善する予定があるのか、伺う。
二 邦人から在外公館に対しDVによる被害の訴えがあった場合、どのような判断基準に基づいて現地警察への通報等の対応を行っているのか。判断基準があるのであれば、今回の事件を受け、基準の見直しは行われる予定があるのか、伺う。
三 DV被害を受けた邦人の保護に関し、「切迫度」等について「総合的に判断」して、在外公館が現地警察への通報を行った事例は、過去にあったのか。実際にあったのであれば、通報が行われた場合とは、どのような場合であったのか。公表できる範囲で明らかにされたい。
四 前記の井坂委員の質問に対して政府参考人が答弁した「総合的に判断」について、その具体的に意味するところが必ずしも明確ではないと考える。子どものパスポート発行について、どのような観点から「総合的」な「判断」を行っているのか、在外公館ではどのような要素を考慮に入れているのか、それぞれ明らかにされたい。
五 前記の井坂委員の質問に対して、岩屋外務大臣は、邦人保護について更に在外公館でしっかりと対応できるよう指示をする旨答弁している。在外公館におけるDV被害者等邦人保護の取組強化に資する対策として、在外公館間での対応事例を共有し、職員への研修・啓発、DV被害者への対応要領の作成、その他法人保護に関する基準の明確化や対応要領の整備などが行われるのかも含めて、在外公館においていつまでに具体的にどのように邦人保護の取組が強化されるのか、伺う。
右質問する。