質問本文情報
令和七年五月二十二日提出質問第二〇〇号
音訳事業の制度的整備および視覚障害者等の情報アクセス保障、ICT活用の整備に関する質問主意書
提出者 八幡 愛
音訳事業の制度的整備および視覚障害者等の情報アクセス保障、ICT活用の整備に関する質問主意書
視覚障害者、読字障害者、高齢者など、印刷文字情報へのアクセスが困難な人々にとって、「音訳」は、行政情報や学習資料、文化コンテンツに接するための極めて重要な手段であると承知している。
音訳とは、印刷された文書・書籍等を、訓練を受けた人間が、正確かつ中立的に音声化する作業を指す。これは、娯楽を目的とした商業的なオーディオブックとは異なり、感情表現を排した正確な読み上げが求められるもので、法律文書、教育資料、行政文書、福祉・医療関係資料等の情報を利用者が正確に理解するために不可欠な手段であると考える。
二〇二四年四月施行のいわゆる改正障害者差別解消法において、合理的配慮の提供が民間事業者にも義務付けられたことを受け、教育・労働・文化の各分野でアクセシブルな情報提供の必要性が一層高まっている。特に、音訳や音声教材等の人間による読み上げと、教育現場で普及が進むデジタル教科書や自動読み上げ技術との連携・すみ分けを適切に設計し、公共インフラとして整備することが求められていると考える。
また、すべての人が障害の有無にかかわらず情報にアクセスできる社会の構築には、「ユニバーサル映画館」や「ユニバーサル放送」といった文化コンテンツの音声ガイド化、邦画作品の字幕上映等の全国的展開も必要であると考える。
これらの論点を踏まえ、以下、政府に対して質問する。
一 政府は、音訳と商業的なオーディオブックおよび自動音声読み上げ技術による読み上げとの違いについてどのように認識しているか。それぞれの手法が果たすべき社会的役割の違いを明確にされたい。
二 音訳は、視覚障害者のみならず、読字障害者、発達障害者、高齢者等、より広範な「読字困難層」にとって不可欠な手段であると承知している。こうした立場から、音訳を「情報保障インフラ」として再定義する考えはあるか。
三 音訳活動がボランティアに依存し、人材の高齢化が進んでいる現状について、政府はどのように認識しているか。また、こうした現状が全国での音訳サービスの維持・発展を阻害する要因となっていないか、見解を明らかにされたい。
四 全国の自治体における音訳サービスの提供体制、人材確保状況、コンテンツ整備状況について、政府は調査・把握しているか。しているのであれば、地域間での格差是正に向けた施策を講じる考えはあるか。
五 音訳サービスの質の向上と持続的提供のため、以下の施策を政府として検討・実施しているか。しているのであれば、個別に対応状況を明らかにされたい。
1 音訳者の人材育成に関する研修制度の創設
2 音訳の報酬化または中間的就労との連携
3 音訳ボランティアへの支援強化(機材提供、交通費助成等)
4 音訳録音物の標準化・共有化に向けたICT基盤整備
六 現在、いわゆる障害者総合支援法に規定する地域生活支援事業等において音訳支援は明確に位置づけられていない。今後、音訳を制度的に明確化し、補助金対象事業とする考えはあるか。
七 音声教材や自動音声読み上げ技術の進展を踏まえ、教育・公共機関・地域図書館等におけるハイブリッドな情報提供体制(人による音訳とデジタル支援の併用)の実現に向けた支援方針を示されたい。
八 いわゆる教科書バリアフリー法、いわゆる読書バリアフリー法、いわゆる障害者差別解消法等の制度と連携し、AccessReading等のデジタル教材ライブラリ、音声教材配信、タブレット端末利用等を組み合わせたいわゆるインクルーシブ教育の情報保障政策を強化する考えはあるか。
九 視覚障害者や読字障害者等が、映画や演劇、展示、放送にひとしくアクセスできるユニバーサル映画館、ユニバーサル上映などの文化政策について、政府の具体的な推進方針と支援施策をそれぞれ示されたい。
十 OECD諸国において、音訳・録音図書サービスや学校教育における合理的配慮が制度化・支援されている事例を政府は把握しているか。しているのであれば、日本における支援制度との違いと、政府が参考にすべきと考える先進事例についての見解をそれぞれ明らかにされたい。
十一 今後、国として音訳事業およびアクセシブル教材・文化コンテンツの高度化・持続化を目指して、実証モデル事業(ICT併用、地方実装、補助金交付、人材育成等)を実施する考えはあるか。ある場合はその内容、時期、評価方法をそれぞれ明らかにされたい。
右質問する。