質問本文情報
令和七年五月二十三日提出質問第二〇二号
著作権法第三十条の四等のベルヌ条約との適合性に関する質問主意書
提出者 杉村慎治
著作権法第三十条の四等のベルヌ条約との適合性に関する質問主意書
我が国は、文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下、「ベルヌ条約」という。)の締約国であり、ベルヌ条約に定められた原則、特に第九条第二項に規定されるいわゆるスリーステップ・テストを遵守する立場にある。同条項の英語原文は次のとおりである。
It shall be a matter for legislation in the countries of the Union to permit the reproduction of such works in certain special cases, provided that such reproduction does not conflict with a normal exploitation of the work and does not unreasonably prejudice the legitimate interests of the author.
すなわち、著作物の複製権に関する例外規定は、(1)特別な場合であること(certain special cases)、(2)通常の利用と抵触しないこと(does not conflict with a normal exploitation of the work)、(3)著作者の正当な利益を不当に害しないこと(does not unreasonably prejudice the legitimate interests of the author)という三つの要件をすべて満たす必要がある。
著作権法第三十条の四は著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について、同法第四十七条の四は電子計算機における著作物の利用に付随する利用等について、同法第四十七条の五は電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微な利用等について、それぞれ権利者の許諾なく著作物を利用可能とする規定である。これらの規定は、AI学習、いわゆるTDM(テキスト・データ・マイニング)、検索エンジンのキャッシュ保存、サムネイル生成など、技術的処理による複製等に広く適用されていると承知している。著作権法に基づくこの制度が前記のスリーステップ・テストに適合しているか否かについては、我が国の制度運用が補償制度やいわゆるオプトアウト措置を伴っていない点も含め、国際的に慎重な評価が求められると考える。
とりわけ、いわゆるEU指令二〇一九/七九〇第三条及び第四条では、非営利目的と営利目的を分けたTDM例外を導入し、営利目的について著作権者が明示的にオプトアウトできる制度が導入されている。また、いわゆるドイツ著作権法(第六十d条)及びいわゆるフランス知的財産法(第百二十二の五の三条)では、補償制度の整備を前提とした例外規定が設けられており、我が国のように広範かつ無補償で例外を認める制度は比較的珍しいとされている。
このような国際的動向及び制度設計との比較を踏まえたとき、我が国の制度がベルヌ条約に適合しているか否かについて、改めて政府の見解を明らかにする必要があると考える。
よって、以下質問する。
一 著作権法第三十条の四の規定は、スリーステップ・テストの要件をすべて満たしていると政府は認識しているか。条文解釈及び立法事実を踏まえ、明確に示されたい。
二 著作権法第四十七条の四及び同法第四十七条の五により認められる複製のうち、商業的プラットフォームにおける広告収益を伴うキャッシュ保存やサムネイル生成等が、ベルヌ条約にいう通常の利用と抵触しないとする法的な根拠を示されたい。
三 AI学習その他の技術的処理により、著作者の意図に反して著作物が機械的に複製・表示されることが、ベルヌ条約第六条の二に定める著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)との関係において、どのように適合するものと考えるか。政府の見解を明示されたい。
四 著作権法第三十条の四等において、補償制度が設けられていないまま、AI事業者やプラットフォーム事業者による大規模な複製行為が認められている現状は、ベルヌ条約にいう著作者の正当な利益を不当に害していないか。政府の見解を明確に示した上で、その根拠を明らかにされたい。
五 ドイツ著作権法、フランス知的財産法、EU指令二〇一九/七九〇等、少なくないベルヌ条約加盟国においては、補償制度や非営利限定、オプトアウト等による制度的調整がなされていると承知するが、我が国の制度がベルヌ条約の求める国際的な適合性に照らして適切であるとする政府の判断根拠を明確にされたい。
右質問する。