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令和七年十二月一日提出質問第九八号
トランプ大統領の最恵国薬価政策にかかる日本政府の対応に関する質問主意書
提出者 福田 玄
トランプ大統領の最恵国薬価政策にかかる日本政府の対応に関する質問主意書
二〇二五年五月十二日、米国のトランプ大統領は、国内における処方薬の価格を他の先進諸国と同水準に引き下げることを目的とした最恵国薬価政策を発令し、世界の製薬企業に値引きを迫ったことは周知の事実であるが、我が国では久しくこの最恵国薬価政策への対策を求めるような発言はなかったと承知している。しかしながら、今秋に入り俄かに騒がしくなり、日本製薬工業協会の新専務理事に着任された吉田易範氏も日刊薬業紙の取材に応え、最恵国薬価政策に対する危機感を表明したとのことである。吉田氏といえば、薬剤管理官を務めた薬価政策のプロであり、そのプロにして最恵国薬価政策への対応を誤るとドラッグラグ・ロスを助長するかのような発言をしていることを鑑みれば、そこに何らかの危機があるかのような不安を感じるので以下に政府の見解を尋ねるものである。
一 トランプ大統領の最恵国薬価政策の契機となった高すぎる米国の医薬品の価格であるが、自由薬価制度が基本であり様々な割引きが導入されている米国においてどの薬価を参照にしたのか定かではない。したがってそもそも論としてトランプ大統領の言うところの医薬品の価格比較の妥当性そのものが疑わしいといえるのではと懐疑的にみている。そこで政府に問うが、トランプ大統領が比較対象とした米国の医薬品の価格は、平均卸売価格、平均販売価格など色々ある価格帯のどれを用いているのか承知しているのか明らかにされたい。その上でトランプ大統領の指摘するように我が国の医薬品の価格は世界中でもっとも低価格であると認識しているのかも併せて明らかにされたい。
二 先の吉田氏のインタビューでは、我が国の薬価制度に欠陥があり、とくに特許期間中の薬価維持なくして日本市場の魅力は失われるかのような発言を吉田氏がしていると承知しているが、日本の薬価制度を作ってきた当人が厚生労働省を退職するや否や自らが推進してきた薬価政策を批判し、政策変更をしなければドラッグロスが起こるなどと言ってメディアを扇動し、国を恫喝するなどは看過し得ない。とはいえ、吉田氏のインタビュー記事を拝読するに、それは真に日本の製薬業界のことを思い発言していると理解するので、この転向については耳を傾けるべきと得心するものとする。もちろん退官した官僚であっても当然に言論の自由は担保するべきものであると了知はするものである。しかし、退官した官僚の発言については良識の範囲内であってほしいと願うものである。そこで厚生労働省に問うが、昨今、厚生労働省を退官し、民間コンサルなどに転職し、自らが推進してきた政策とは真逆のことを高らかに発言したり、公務員時代の倫理規範は忘れたかのような行動をするような元指定職の官僚がいることに鑑み、退職する官僚に対してマナー講座など退職後の身の振り方について教育するようなことはしているかどうかについて明らかにされたい。
三 右で吉田氏も危機感を表明しているドラッグラグ・ロスについて確認したい。十一月十八日、米国研究製薬工業協会のアルバート・ブーラ会長は、最恵国薬価政策によって日本の安い薬価が世界的な懸案事項になっていると指摘し、価格を下げ続ける政策により日本が投資対象として魅力を失っているという発言をしたという。ブーラ氏は、「世界で承認された新薬の半分が、この十年間、日本で利用できていない」とも指摘して、日本市場の魅力が低下している根拠としているようである。もちろん日本で未承認の医薬品の中には、一刻も早く日本での上市を望まれる製品があることは否定し得ない事実であろう。しかし、世界で承認された新薬のすべてが日本の保健医療の状況に必要であったのかどうか不明確であり、また、承認された医薬品のすべてが必要な医薬品であったかどうかは判断し得ない。このような数字を根拠にして、ドラッグラグ・ロスを扇動するグローバル企業の勝手な都合を勝手な根拠で塗り固めた「魅力なき日本市場」という趣旨の発言には違和感をおぼえるものである。そこで政府の見解を問うが、我が国の医薬品市場は魅力を失っているというのは事実として甘受するべきなのであろうか。というのも、我が国の医薬品市場は医薬品販売承認後速やかに国内流通が確保され、国民皆保険と医療機関へのフリーアクセス保障によって医薬品アクセスは他国に比して恵まれすぎているくらいである。このような日本市場の現状を鑑みれば、日本市場ほど投資回収の予見性が高い国はないと考えるものであるが、政府の見解を明らかにされたい。
四 日本の薬価制度が完璧であるとは考えてはいない。日本市場をさらに魅力あるものにするために、薬価制度を改編していくことは必要なことであると考えるものであるが、外国資本の企業が自社の利益を上げるために日本国民が支払うべき医薬品の価格に対し不当に値上げを求めることには、政府も毅然と対応するべきであると考える。とくに、外国の製薬団体などから我が国の医薬品市場に魅力がないなどと声高に叫ばれるのは、我が国を不当に貶められていることにつながるのではないかと強く危惧するものである。政府としてもこうした誹りをただ甘受するのではなく、しっかりと日本市場の魅力を語り抗弁すべきものであると考えるが、強い日本を取り戻すと力説される高市総理のご見解を明らかにされたい。
右質問する。

